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闇文庫

主に寝取られ物を集めた、個人文庫です。

花  濫 第1章帰国

 まだ二月の終りだというのに、今日の陽気は四月下旬の絢爛とした春の息吹を含んでいると、冴子は長い自分の髪をなぶる生暖かい春風を吸い込みながらに思った。 いつもは誰もいない家に帰り着いた時のうら寂しいような情緒が今日はなかった。春の匂に誘われた乙女心のときめきにも似た心のたかぶりを冴子は押え切れないでいた。                   
 それは突然の春の訪れだけではなく、今日やって来る浩二のせいであることは十分冴子自身わかっていたが、陽気がそれに拍車をかけているのも事実だであった。 玄関の鍵を開ける時、すぐ横の椿の林を抜けてきた冷気を含んだ風が、汗ばんだ肌に気持ちよくあたって冴子は思わずほっと安堵の息をした。帰りの京王線の車中も、こんな暖かい陽気なのどうして暖房を入れるのかと腹立たしくなるほどの暖かさだったし、行きがけに目を止めた満開の梅畑を見て帰ろうと、いつも乗るタクシーをやめて歩いたので、コーデュロイのツーピースに毛のコートを着て出たことを後悔するほど躰は汗ばんでいた。                      
 家に入ると、屋内に澱んだ熱気が、家中のさまざまな種類の匂いを濃く沸きあがらせていた。けっして不愉快な臭いではないが、自分の生活を露わにさらけ出しているような気がして冴子はいつも帰宅すると急いで窓を開け放つ。今日はこの暖かさで一段と臭いが強い。                          
 買い物の袋を台所の調理台に置くと、汗ばんだ肌に下着がべっとりとくっついているのが気持悪く、ともかく着替えなくてはと廊下を奥の自分の部屋にしている和室に向かった。夫の親の時代からの古い家の昏い廊下を急ぎ足に歩く自分のスリッパの音が、一人の時は意外に大きく聞こえる。ここに嫁いで来た時には、その音になんとも言えないさみしさを感じたものだが、今ではすっかりそれにも慣れてしまった。        
 冴子の部屋は廊下の突き当たりにある。襖を開けるとまず南側の障子模様の擦硝子を開け放った。濡縁にあたる午後の陽の反射が冴子の汗ばんだ顔にあたって散った。濡縁の前は小さく開かれた芝生がある。日本芝なのでまだ飴色のままうららかな陽を吸い取っているが、椿林の縁にのあたりは散り果てた椿の花が緋色の布切れをちりばめたように華やかに見えている。まだ大部分咲き残った椿の林がクリスマスツリーを並べたように、緑の間に色とりどりの花を咲かせて隣家との視界を遮っている。
隣は農家で椿林の向こうの塀に接して大きな古い土蔵があり、崩れかかった土壁には山蔦が絡んで亀裂のような模様を見せている。東側には背丈ほどの竹垣があり西のコンクリートの塀の外はまだ雑木林が残っていて、ここの濡縁はどこからも覗かれる心配はなかった。東京の住宅地なのに、岡山の実家の田舎のように鄙びたこの景色が好きで冴子は気候さえよければいつも戸を開けたままにしている。 
腰を屈めて書机にハンドバックを置くと、コートを脱ぎながら歩いて洋服タンスの前に立ち扉を開けて香水の匂いを撒きあげるコートを掛けた。扉の裏の鏡に映った自分の顔をちらと見てから、翡翠のネックレスを気使かいながらツーピースの上着を頭から脱いだ。そのままの姿勢で腰のホックか外してスカートを脚元におとす。中国製のシルクのハイグレースリップの裾を捲って肌色よりやや濃いめのパンティーストッキングを腰をかがめながら引き下ろした。真っ白い剥き卵のような艶やかな汗ばんだ素足が現われる。庭から吹きあげるそよ風がそっと心地よく素足の 脚首から太腿の奥深くまで撫でさすっていく。特に汗の多かった内腿のあたりは、ひゃっとする感触で風が抜けていった。                 着衣をタンスに仕舞うと、下着と一緒に洗濯するパンティー・ストッキングを部屋の隅に置き、片手で乱れた髪を掻き上げながら鏡台の前まで行き、鏡の前にしゃがんだ。揃えた艶やかな膝小僧に陽光が照りはえて、剥きたての葱のように新鮮に輝く。中腰になったまま翡翠のネックレス、腕時計、イヤリングの順に外して鏡の前に置いた。                  
 そのまま座蒲団の上に横座りになって化粧を落そうと脚を座蒲団に載せたとき、ふと鏡台の横の大きな姿見に自分の下着姿の全身が映っているのに気が付いた。いつもはレースの覆いを必ずして出かけるのだが、今朝は急いでいたためかうっかり後始末をせずに出かけたらしい。                      
 冴子は滅多に硬質のブラジャーは付けない。子供を生んでいない二八歳の冴子の乳房は人一倍豊かで、その上をブラジャーで締め付けると息苦しくなるし、胸がよけいに盛り上がって不恰好になる。外人の女のように上向きの紡垂型ではなく、ふっくらと丸く盛り上がった乳房で、その上乳首が小さいから夏の薄着の時期を除いては薄いソフトブラジャーだけでにしている。
小走りしたり階段の昇り降りの時に、豊かな乳房のゆらめきが男達の注視を集めていることに本人は気ずいていない。今日は毛のコートに厚めのコーデュロイの洋服だから、思い切って、胸が締め付けられる不愉快なブラジャーは付けなかった。庭の畳色に枯れた芝に散った陽光が、薄いスリップを透かして冴子の裸身を淡く浮き出させていた。身に纏っているのは股下をやっと覆っているミニの薄いスリップと、やはり中国製の薄いショーツだけだから、胸の膨らみから小さく淡桃色の乳首までほのかに透けて見えている。ショーツからむっとする量感で伸びている色白の太腿や、膝から急にすんなりと伸びた下肢が春の陽を吸って生き生きと艶やかに照り輝いている。           
 ことりとも音のしない森閑とした家のなかで、冴子は鏡の中の自分の姿を見ながら、腕を前で十字に組んで、静かに肩からスリップの肩紐を左右一緒にずらせた。丸い撫肩を紐はつるりと滑って腕の肘のあたりまで一気に下がり、スリップは突き出た乳房の乳首の上の辺りで下がって止まった。両腕を交差させたままで、乳房の上に不安定な形で止まっている絹地の端を少し引き下げると、薄い絹地はにわかに力を失ったように崩れてぼろ切れになって冴子の足元に落下した。起伏に富んだ女らしい美しい真っ白な餅肌の裸身が、陽光の反射を受けて仄暗い室内に塑像のように浮き上り、ほのかな温か味を含んだ甘酸っぱい女体の匂いに包まれて息づいていた。自分の掌では掴み切れない乳房を裾野のあたりから揉みあげるように握ってみると、乳房の真っ白い肌が緊張して艶を増して輝き、薄い乳房の皮膚に血管がかすかに青く透け、頂きの乳首が硬く尖りはじめて震えている。冴子の貌がひとりでに羞恥を含んだ血の色を増す。この乳房を愛撫し揉みしだき、顔を埋め乳首を含んで悶えた夫の惣太郎を含めて三人の男のそれぞれの感触が甦ってきたからだ。  
 冴子は上体を少し前に折り、思い切ってショーツに掌をかけた。長い髪が顔に亂れかかってくるのを顔を横に曲げて視界を確保しながら、真正面に映っている自分の姿を盗み見るようにしながら腰を屈め膝を折って足許までずりさげる。そのまま上体をゆっくりと伸ばし顔を振って髪を肩に流してから鏡の中の自分を見る。姿見に一、二歩近づき、全身を鏡いっぱいに入れて腰に手をあててポーズをとってみた。 腰の丸みが最近少し豊かになってきたような気がする。夫の惣太郎が、冴子の躯で一番美しいのは顔で、一番肉感的なのは太腿だ、と最近よく言うのを思い出した。 その太腿を前後に重ねるように脚を交互によじり、両手で髪を持ち上げるようなしぐさで両腕を頭のうえにあげて掌を組み、腰を少しひねったポーズにかえて見る。やや太り気味だと思っていたが躯を動かしてみると、意外に柔らかく自由に四肢が曲がり、腹部のくびれが娘のようにしなやかである。奥さんの躰は骨細に豊かな肉が柔らかく、特に内腿の皮膚が雪のように白くていつも湿り気を帯びていて魅力的だと言ったのは浩二だったかしら。全身の肌が絹豆腐の切口のような柔らかい光沢に照っていて男の欲情を誘う、と最近言ったのは田宮という夫の助手だった。夫以外には冴子はこのふたりの男しか知らないが、こうして自分の裸身を映し出す度に、三人の男達との、それぞれの睦み合の時の感触や熱い言葉が、あれほど強烈で悽愴だったにもかかわらず、肌を今さすっていく薫風のように、たよりなく思い出すことしか出来ない。男と女の肉の交わりほど、後になって不確かなものはないと最近冴子は思う。特にもう三年も前になった浩二との情交は、すでに遠い昔のことのようで、弟のような浩二との三日間の激しかった交わりを、情緒としては正確に記憶しているものの、冴子の肉体は、もう正確に浩二の肉の感触を反蒭することは出来ない。肉の交わりとは、こんなにもはかなく脆いものなのだろうか、と冴子はうら寂しく感じていたが、今夜浩二が帰国して会えることがはっきりとした今日は、浩二とふたりだけの秘密を刻んだこの部屋の情景が、微細な接触感まで誘って鮮明にはっきりと、肌や躯の内部にまでよみがえってくる。それは浩二と別れた三年前から片時も忘れることなくこうして思い返していたような順序のよさで、それらは次々と冴子の眼底や躰の隅々を飾っていた。もう諦めていた浩二と三年振りの再開が今夜に迫っているとはいえ、今夜浩二と前の関係が復活することはあるまい。夫と三人の夜なのだから絶対にそんなことはない。冴子は安堵ともの足りなさの狭間で、大きく息を付いた。                     
 鏡に映った太腿を少し開き加減にして眺めてみる。たしかに女らしく豊かで張りのある太腿だが、自分ではすこし太過ぎて逞しすぎるような気がする。だが冴子が今までに知った三人の男達が異口同音に同じ賛辞を言うのだから、男にとっては案外魅力があるのかも知れない、と思ったり、どうせお世辞なのだから、と考えたりもする。鏡の中の冴子は、ここ二、三年で頸筋や頬に女らしい色気がほのぼのと匂うようになってきたと自分でも思うし、白磁のように真っ白な肌は生まれ付きのものだが、最近乳房にも肩にも腹にも白くぬめるような脂肪が滲んで甘酸っぱい芳香を放ちだした、と夫が冴子の成熟ぶりを誉めるのも、こうしてまじまと自分の裸身を映して見るとうなずける気がする。だがそれが誉められることなのかどうかは冴子には分からない。ただ自分の躯が変わってきたことだけにはうなずける。瓜実顔の奇麗な頬にうっすらと紅を刷いたような照りがあり、二重瞼の大きな瞳には潤みが加わり、やや厚い唇もいつも湿っているような艶が浮いて来た。浩二と知りあった頃は、娘らしさが抜け切れないと周囲からよく言われていた自分が成熟した人妻らしく変ってきたのは、年令のせいだけではないように思う。やはり男性との交わりが成熟を促し磨きかけているということを認めないわけには行かない。    
 あなたは野の百合のような人だ。それも白百合だ、と言った浩二を思い出しながら、鏡に映った自分の顔に見入った。今日はいつもより瞳が潤んでいるし肌に張りがある。閨房の後に似た色気が顔全体に滲んでいる。浩二がやって来ることがこんなにも自分の内部に異常な刺激を与えているのだろうか、と考えるとさらに顔に血がのぼりわれながら艶っぽく照りはえてくる自分の顔にひとりで羞恥を感じた。 
 この部屋は和室で椅子がないので、一人だけの大胆さから和机に腰を下ろして、横座りに揃えていた脚を思い切って静かに広げて見る。両腕を後ろに伸ばして和机に突き、腰を鏡に突き出すように上体を斜めに支える。なだらかな弓のような曲線で盛り上がった下腹部から、実際は淡い茂みなのだが肌の白さが真っ黒い多毛な茂みに錯覚させる股間が鏡の中に羞恥を含んで露わになる。多毛でない証拠に真直ぐ立っていても一筋の割れ目がはっきりのぞいてい見える。両脚を開くとかわいい膨らみの茂のみのなかから、一筋の裂け目がかすかに割れ、貝身を合せたような外陰唇がちろりとのぞいている。右腕を前に回して貝の合せ目に指を添え、腰を鏡に突き出すようにして陽の明るみに露らわにし、二本の指で割れ目を開くようにすると、ピチッと小さな音がして思い切りよく外陰唇が割れてピンクの内陰唇の、薄桃色の複雑な襞を現わす。子供を生んだことのない膣口は埋まっていて、薄いピンク色の透明感のある粘膜が恥ずかしそうに顔を出す。指の先に汗ばかりではないぬめりが感じられ、さらに膣の奥からわずかではあるが暖かい粘液が湧き上がってくるような気がする。指の先が触れている陰唇の粘膜の辺りから、ピリリと弱い電流に感電したような快感が股間にはしるり、思わず目が細くなり唇が緩んだ。快感に霞む瞼の内に今日帰って来る浩二の若々しい肢体が浮かんできた。      
 もう会うこともないと思っていた他人ではない浩二の突然の帰国は、冴子の情緒を靉靆とした霞に包ませていた。忘れかけていた浩二の力に満ちた躯動きを冴子の肉がにわかに反芻して、子宮の奥からあの時の官能が痛いほど鮮明に湧き立ってくる。誘われるようにさらに膣の奥深くに指先を進めようとしたとき、突然雷鳴が轟いたと冴子が勘違いしたほどの大きさで電話が静寂を破って鳴り出した。冴子は誰かが闖入してきたように驚き、あわてて今脱いだばかりの下着を付けて電話のあるリビングに走った。      
 間違い電話に驚かされた腹立しさは、シャワーを浴び普段着ワンピースに着替えたときには忘れていた。滅多にしたことのない白昼の衝動的な淫猥な行為に高ぶった感情を静めようとキッチンの調理台の椅子に腰を下ろしていたら、今夜来る浩二のためにわざわざ半日をかけて新宿の中村屋まで出かけて買い求めて来たダージリン葉の紅茶の強いにおいを嗅ぎたくなった。先ほどのような狂態を冴子は生れて初めて体験した。今までそんなみだらな行為をしてみようと考えたこともないのに、どうしてあんな感情になったのだろう、と冴子は羞恥のうちで考えた。やはり浩二の来訪が凡庸な冴子の生活を完全に狂わしていることは紛れもない事実だと思った。紅茶は夫の和夫が昨年香港から買い求めて来た白磁のポットで淹れることにした。         
 冴子は少女の頃から国文学者の父の影響で茶を習った。紅茶を淹れるときも日本茶をたてる繊細さで淹れると、誰もが旨いと誉めてくれた。ダージリン葉はやや埃臭いきらいはあるが、鄙びた見知らぬ印度の田園を思い巡るような素朴な香りが冴子は好きだった。ポットからロイヤルコペンハーゲンの紅茶カップに淹れた紅茶をもって冴子は自分の
 庭の椿がどれも鮮やに咲乱れていた。夫が趣味で植えたものだが、全部で百本以上もあった。全部改良園芸種で、紅に白の斑入や大輪の牡丹のような花や、緋色の派手な目の醒めるようなものが多く、名前もフレグラント・ピンクとかタイニー・プリンセスといったモダーンさだが、冴子はその派手な椿は都会の女達のような化粧臭さが感じられて好きではなかった。冴子にとって椿は、実家の庭に生れたときから咲き続けている薮椿しか愛せない。  紅茶の香りに包まれて冴子は椿の林を見ていた。冴子の視線はあでやかな椿の花ではなく陽光に艶やかに輝く緑の葉のそよぎに向けられていた。脳裏に岡山の片田舎にある実家の庭の老木の薮椿の深紅が浮かんで来る。この時期冴子は毎年花を見ずに葉を見ながら故郷の薮椿を想いいながら暮しているのだった。最近夫に対しても、このあでやかな洋種の椿を見ながら、いつのまにか素朴な実家の老薮椿を想い出しているように、現実の夫を冴子の好尚する男性に置換して眺めているような想いがしてならない。         
  1. 2014/12/02(火) 15:02:43|
  2. 花濫・夢想原人
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花 濫 第2章はじめての不貞1

漆黒の闇の中に、ぐりぐり坊主頭で日灼したにきび顔に澄んだ瞳を輝かせて、洗いあげた黒の学生服姿に身を包んだ大学に入学したころの浩二のりりしい姿が、遠い記憶のようにぼんやりと泛んだ。あの頃あたしは浩二を異性として眺めたことさえなかった。夫の友人の感じのいい田舎少年を東京に馴れるまで、しばらく預かるという義務感だけで浩二を意識していた。浩二自身まだ日向くさい子供だったような気がする。萌出た若葉のように、ふと気が付くと、いつの間にか濃い緑の成葉になっていたというような感じが強い。  冴子が浩二を異性としてはじめて意識したのは、浩二が三年生の夏のあのときではなかったかと冴子はいま思う。                     
 浩二が三年生の夏休みだった。浩二は帰郷せず、東京でアルバイトをしながら、テニスの合宿練習に励んでいた。二十日近い合宿が終って家に帰ってくる日の午後だった。とかく淡白な食事を好む夫と油ぎった濃厚な食事が好きな浩二の二人のメニューづくりは冴子の悩みの種だったが、今夜は久し振りに帰ってくる浩二のために、夫にコールドビーフを付き合ってもらおうと、買い物に出かけようとしたら俄に夕立がやって来た。風が荒れ豪雨が叩き付けるように降り、雷鳴が轟いて冴子は自分の部屋で小さくなっていたとき、玄関が勢いよく開いた。
 驚いて出て見ると、そこに浩二がびしょぬれで立ち、そのすぐ後ろに若い娘がこれも長い髪から雨の滴を垂らしながら立っていた。女子学生であることは一目でわかった。薄い袖無しの白いブラウスが雨に濡れて肌にぴったりとくっつき、ブラジャーだけの裸体のように肌を浮かび上がらせていた。匂いたつような若い健康な肢体のもち主で、丸顔の素姓のよさそうな愛くるしい娘だった。    
 その娘と玄関の三和土に滴をしたたらせながら並んで立った浩二は、スポーツシャツを脱いで娘にかぶらせたので、ランニングシャツ一枚の姿であった。
 躯に張り付いたランニングシャツを通して、筋肉質の体が塑像のように逞しく息づいていた。冴子は浩二の肉体にその時はじめて男性の匂いをかいだような気がした。浩二に寄り添うようにして立っている娘の柔らかそうな弾んだ身体との対比が一層浩二の男らしさを強調したのかも知れない。その時、冴子はその娘に対して言いようのない嫉妬が込みあげてきた。生れてはじめての悪寒に襲われたような激しい嫉妬心の噴出だった。     「風邪をひいたらどうするのよ! 」                   
 思わず上げた声が尖っていた。                     
 あれは異性に感じた嫉妬ではなかったと、そのとき冴子は思っていた。まるで発光体のように燃えている若い息吹を発散させている二人の若さに対する嫉妬だったと思った。だか後になって考えると、やはりその時浩二をはじめて男性として意識し、冴子の中の女の本性が嫉妬の炎を燃え立たせたに違いなかった。        
 その後に起こった浩二との情交は、決して偶発的ではなく、既にその時冴子の裡に、浩二に対する情念が燃えはじめていたのだった。考えて見れば冴子は浩二と七才しか違わない。夫との年令差よりずっと近いし、浩二とは同じ二十代の若さを共有出来る若者同志であった。夫は既に中年から初老に向かいつつあり、浩二や冴子とは世代の異なる存在だったのだが、夫婦として長く暮しているうちに、冴子は何時の間にか夫の世代に自分を合せるようになっていたのだった。それが若い浩二の出現により、本能的な冴子の中に眠っていた若さが触発されて目覚めたのだろう。
 浩二との間は、その後どちらからともなく接近し仲のいい姉弟のように推移して行ったが、浩二が卒業して就職し、会社の寮に移り住むまで冴子との間にはこれというトラブルも起こらなかった。                      
 寮に移ってからも、浩二は月に何度かは実家に帰って来るような気安さでやって来ては夕餉を共にしたり泊まって行ったりしていた。              
 「ママ、今夜は すき焼きが食べたいと思ってさ。デパートに寄って一番旨い肉をくれと行ったら、百グラム千円もする近江牛をくれたよ」           
 少し多めに買ってきておいたと、一キロもある肉の包みを冴子に突き付けて、冴子の準備したものなど無視して夕食をすき焼きに決めてしまう。強引で一方的で身勝手な浩二の性格は、一見はた目には迷惑とも映るが、そういう日は木枯しの吹く寒い日だったり、意外と相手のことを思いやった行為が多く、ぞんざいな言葉のの裡に、きらりと光るような思い遣りが秘められており、押し付けが愛らしく感じられるほどにお互いが理解していたので、時には腹を立てながらも、しばらく来ないと夫か冴子が安否を気遣って電話することもしばしばだった。 二年前の二月二十日だった。夫が北海道にアイヌ語の調査に出張中の朝だった。冴子が一人の朝食を終えて部屋から庭に咲き満ちた椿を眺めていた時、突然浩二から電話があった。 「ああママ? ぼくね、急にロンドンへ転勤することになったんだ。昨日一応の荷物は送り出したんだけど、今日で寮は明け渡すことになっているんだ。今夜から出発まで泊まらせてくれる?」                    「えっ、何ですって………。ロンドンって、あのロンドン?」        
 「ママ何言ってるんだ。英国のロンドンに決まってるじゃないか。寝惚けてるんじゃないの 」                              
 「何時決まったの。そんな鳥が飛び立つような出発ってある? 」       
 「一月前に決まっていたのだけど、別に大した準備もないし、仕事の片を付けたら挨拶に行こうと思っている内に、壮行会やら何だかで今いなってしまったんだ」 
「それで何時出発なのよ。田舎のご両親には会わずに行くの? 」       
出発は五日後の日曜日の夜。田舎には明後日ぐらい一泊で帰って来るつもりです」 
「なぜもっと早く言わないのよ。パパは北海道に出張中なのよ。まあ土曜日の晩には帰ってこないわ、出発までには会えると思うけど…………」        
 相変わらずの一方的な電話に冴子が腹を立ててみてもはじまらなかった。田舎に二日帰ると言っていたから、ここには今夜と出発の前の二日だけ泊まる予定らしい。それならば夫がいない今夜思いきり日本の濃い味を食べさせてやりたいと考えた。
「今夜は何時頃来られるの? 。夕食は食べられるの?」          
 「パパが居ないのに行っちゃあ悪いかな」                  
「今更何言ってんの。それより夕食の準備がありますから、時間だけは教えて。特に食べたいもの何かある?」                        
「八時までには行けると思う。食べ物は何でもいいよ。ただし酒は日本酒がいいな」 
 会社のデスクからの電話らしく、用件が済むとあわただしく浩二は電話を切った。
 冴子は急いで身支度すると、新宿のデパートに買い物に出かけた。酒は会津の吟醸酒にし、地鰻の蒲焼、茶碗蒸、若いから沢山食べられるように、旬の魚を豊富に入れ、浩二の好きな金糸卵を沢山並べた散らし寿司に、田舎料理として里芋と油揚げと白菜の煮付けも用意した。デパートの食品売り場を半日歩き回り買い物を済ますと、最後に男物の売り場で餞別代りにと結城紡の合せの着物を一揃い買い求め、昼食も摂らずに帰宅すると、夜来る筈の浩二がジーパンにアノラック姿で玄関前の歌舞伎門の石段に腰を下ろして待っていた。    
 「あら、今夜遅く来るはずだったでしょう? 」               
 「そのつもりだったんだけど、会社に居てももう仕事はないし、荷物は送ってしまったし、することもないから来てしまったんだ」             
 紬を友禅染めにし、山椿色の地に銀糸で飛鳥を浮出して散りばめた訪問着を着た冴子をまぶしそうに仰ぎ見ながら言った。                   
 「パパは何時帰って来るの? 」                      
 「土曜日よ。早く教えないから帰って来てびっくりするわよ」         
 「そうだな。三年ほどのロンドンだし、必要があれば何時でも帰れるんだから大袈裟にしない方がいいと思って………………」                 
 歌舞伎門から玄関に向かう千鳥に配した飛石を石蹴の格好で片足で跳びながら冴子の後に付いて来る。                            
「何言ってんのよ。国内のそこに行くのじゃないのよ。田舎のご両親も驚かれたでしょう」  
 「うん。まだ転勤のことは言ってないんだ。帰ってから言えばいいと思って……」 「それ本当なの? 冗談じゃないわよ。ご両親は…………」         
 相変わらず石蹴りをしながら後を付いてくる浩二の無神経さに腹が立ち、睨み付けてやろうと振り返ったそのとき、思いきり跳んできた浩二が、あっ、と声をあげながら向き直った冴子の正面に飛び込んで来た。
 冴子に浩二が抱付くような格好で二人は転倒した。さすがに若い浩二は敏捷で、冴子の上になって倒れながら下敷きになった冴子の後頭部に自分の腕を回して飛石に冴子の頭が激突するのを防いだ。
 それでも転倒の衝撃に一瞬朦朧となった冴子が、はっ、と気が付いたとき、倒れた姿勢のままで浩二に組敷かれていた。目の前に浩二の汗ばんだ日焼けした顔があり、鋼のような硬い浩二の両腕がしっかりと冴子の顔を包んでいた。声を出そうとした瞬間、唇に浩二の熱い唇が押し付けられた。しゃにむに唇をこじ開けて舌を侵入させてくる強引さは、浩二の未経験と一直さのせいだと冴子はとった。若い野獣のような浩二の体臭が、むっ、とする強さで冴子の鼻孔を刺激していた。    
 怒りも憎悪も感じなかった。冴子は後でその時のことを思い出して、男と女の交わりの機縁は、思うほどの愛情とか勇断とか時間とかを必要とするものではなく、ふとした機会に平素の理性や教養が消え、それぞれの本性が剥き出しになれば、いとも簡単に情交することが出来ることを実感として悟った。          
 あの日、玄関の前に散らばった買い物を二人は無言のまま慌てて拾い集め、近所の視線を気にしながら家の中に飛び込んだ。                 
 居間に落ち着いてからも二人は無言のままだった。袋の破れた買い物を調理台に並べてから、食卓に向かい合って座ったまま二人は視線を交え合っていたが、想いが交錯して満ち溢れた時、浩二が立ち上がって冴子の座っている椅子の前に立ち、静かに冴子を抱き締めた。冴子は呪詛に魅入られたように立ち上がり自ら浩二の厚い胸の中に埋れるように顔を沈めていった。                 
 自分でも理解出来ない行動だった。峻絶な絶壁に立って、身が引き込まれるような幻覚に襲われるように、浩二の強烈な男の精に冴子の女が吸引された状態だった。立ったまま長い抱擁と接吻の繰り返した後、浩二は軽々と冴子を抱きあげ、椅子に腰をおろして冴子を膝に斜めに載せた。浩二に支えられた背が不安定で、少しでも浩二の腕の力が衰えると、後ろへ倒れそうになって、脚をばたつかせるので、着物の前がしだいにはだけて、長襦袢の緋が割れ艶やかな膝があらわになる。何度か直そうとするがうまく起き上がれない。浩二の膝の上でほとんどあおむけに反りかえった格好で冴子は浩二の唇を受けていたからだ。    
 不安定な姿勢を支えようと浩二の首に両手をまわしてしがみ付けたのを、浩二がどう受け取ったのか、着物の上から乳房に手を這わしてきた。ぎゅっと乳房を握られたとき、冴子は一瞬理性を失って声を出したような気がする。浩二の膝の上で裾がさらに割れて太腿が露わになり、そこへすかさず浩二の掌が伸びて来たときに、はっと冴子は我に帰った。 「いやよ。もうやめにしましょ」             
 滑り落ちるように滑り浩二の膝から降り、着物の乱れを直しながら逃げるようにキッチンを出た。      
 小走りに廊下を走り自分の和室に逃げ込み、鏡台の前に座った。口紅がはがれてまだらになり、瞳が濡れそぼって顔が上気していた。乱れた髪を直しながら胸の動悸の静まるのを待った。ともかく着替えなければと、帯を外し着物を脱ぎ長襦袢の細紐をときかかったとき、硝子障子が静かに開いて浩二が入って来た。     
 正面から冴子の顔に目を据え、酒にでも酔ったように紅潮した面持でためらわずに真直にやってくると、薄紫の長襦袢の袖から腕を抜いたまま、あわてて前を内側からつまみ合せている冴子を、当然のように抱き締めた。            
 長襦袢の中に両腕を入れたまま強烈な力で抱き締められ、全身が絞り上げられるような、奈落へ落ち込んでいくような圧迫感に、冴子は一瞬気が遠くなっていた。思考が中断し朦朧と男臭い暖かい霧に包まれたような感覚がしびれるような陶酔をもたらした。逃げることも、抵抗することも出来なかった。男の肉に包まれて身体が自然に溶けていくような感じだった。締上げられる苦しさには甘美な痛みがあった。        
 冴子の閉じた唇を強引に舌で押し開いて侵入してきた浩二に、どうしてあのように容易に迎合の証のように閉じた歯を開いて、煙草の臭う浩二の舌を口腔の奥深く招き入れたのか、自分でも分からない。接吻したまま浩二の手が、長襦袢の合せ目を内からきつく閉じているのに、その隙から安々と侵入してきた。浩二の大きな掌が豊かな乳房を丸ごと掴むように包んだとき、羞恥と興奮にその手を振払らおうと夢中で長襦袢の合せ目をしっかりと掴んでいた手を離した瞬間、あっと思う間もなく絹の長襦袢は、反り身になっていた冴子の身体を滑って前を露わにしてしまった。
 裸にされた胸の谷間にアノラックを脱いでワイシャツだけになった浩二の硬い肉体の体温がじかに伝わり、下腹から脚にかけてざらついたジーパンの生地がふれていた。片方の乳房を愛撫していた浩二の掌が何時の間にか下腹部を滑って、陰毛を分けてながら複雑な粘膜の襞をまさぐり陰核を捕らえようした。         
「いや! 」                               
 と声をあげて、両手を前に回して防ごうとしたとき、身体がバランスを失い、浩二がのしかかる格好で後ろに倒れた。畳みに後頭部をしたたか打ち、目の中に火花が散って瞬間ぼーっと意識が薄れかかり、はっと気が付いた時には、浩二が冴子の露わになった下腹部を抱き抱えていた。                   
 あわてて両足を閉じようとするのを、浩二は隙を与えず強引に股間に自分の顔を割り込まして、丁度冴子自身が浩二の顔を挟み込んだような格好にしてしまった。花芯に浩二の鼻が冷たく触れていた。                      
「はじめて見るんだ。もっとよく見せて…………」             
 冴子は股間に浩二の呻くような声を聞いた。                    息苦しくなったのか、潜水から夢中で水面に顔を上げるように、大きな呼吸をしながら上半身を上げた浩二は、起き上がろうとする冴子を、敏捷な動作で身体の向きを変え冴子の胸を膝で押えつけた。                    
 浩二の身体は冴子と反対の位置になって、両膝で冴子の胸を起きられないように挟み、両掌で冴子の膝を掴み万力のような力で冴子の脚を開いた。冴子も必死の思いで脚を閉じようともがいたが、若い男の力にはあがらえない。じわじわと股間が白日の明るさの中で押し広げられていくのが、たとえようもない羞恥になって、花芯に冷たい空気を感じたときには、思わず両手で貌を覆ってしまった。それと同時にどうしたことか全身の力が呪詛にでもかかったように抜けて、これでは駄目だと気を取り戻して両足に力を入れようとした瞬間に、あっ、という早さで思いきりよくこれ以上広がらないほどに押し広げれていた。
 きれいだね、かすれたような声を冴子はまた股間に聞いた。
 浩二の指で陰唇が思い切りよく割られるのが感じられた。気持は防衛しているのだが、何時の間にか躯が自然に迎合して膣から流れ出る多量の蜜が臀を濡らし始めているのがわかった。               
 その密壷をいじる男の指が隠微な音をたてた。冴子は溢れ続ける自分の体液を浩二に見られる羞かしさ息を嚥んだ。浩二の指が溢れる中に侵入し膣襞に触れた途端、激しい官能の刺激が全身に拡散して思わず声を上げた。            
 冴子の貌のうえの浩二のジーパンから男の憤怒したものが突き出て顔に当たっていた。チャックを外して握り締める余裕があったわけではない。浩二がそうしたのか偶然チャックがはずれたのかわからないが、開いたズボンからそれが躍り出たのだ。巨大で弾力に満ちた亀頭が冴子の頬を突いてくる。貌に当たるのを防ごうと掌を添えて冴子は仰天した。それは冴子の想像を絶するほど巨大で鋼鉄のように硬く熱鉄のように熱かったからである。
 夫のものしか知らない冴子にとって、それは信じられないほど壮烈さだった。これが若い男のものなのか、と思わずそれに触れていた。柔らかな冴子の掌が触れるとそれはさらに大きく硬くなって冴子の掌のなかで脈動しはじめた。浩二がズボンを脱ぎながら身体をずらせて、浩二を見上げる冴子と視線を絡ませながら、無言のまま冴子に覆いかぶさり、毛の多い硬い脚で冴子の両腿を割って、怒り狂った男根を冴子の局部にあててきたとき、冴子は目をつぶった。男根は冴子の陰唇の周りを何度も突くが、焦点が定まらず、いたずらにあせりを繰り返している。              
 しだいに浩二のあせりの呼吸が大きくなり、ついには呻くような声を出しながらじれるが、浩二は自分の怒り狂ったものを冴子の中へ埋没させることが出来ない。何度目かに冴子はたまりかねてそれに掌を添えた。浩二がこわごわと目標を捕らえて陥没を開始しはじめたとき、冴子は今まで経験したことのない埋没感に思わず息を呑んだ。   
 冴子の膣を押し開きながら入ってくる感じが、夫とは全く違う。膣壁を拡張し切らせて侵入してくる感じが荒々しく制圧的で有無を言わせぬ強引がある。
 これ以上は無理よ、と冴子が極限状態の痛みを感じて拒否の叫びを上げようとすると、冴子の奥から信じられないほど多量の粘液が溢れ出て、その潤滑作用によって膣壁はさらに伸び切って貪欲に浩二を呑み込んでいく。押し込まれる度に痛みが奔るが、次の瞬間痛みはその数倍の快感へと変化していく。その感じはいままで冴子が味わったことのないしびれるような悦楽となって躯中へ爆風のように拡散していく。  
 亀頭を埋没し終えると、浩二は一気に腰を力強く押した。冴子はまるで躯の芯を貫かれたような恐怖を感じて思わず息を呑み込んだ瞬間に、子宮を中心にして体内に快感の爆発が起った。冴子は、ひえー、と思わず無我の嬌声を放っていた。  
 子宮を圧して冴子の性器を完全に充填した浩二は、しばらくそのままに静止して、ゆっくりと冴子に躰を重ねて乳房に唇を当てていた。             
 夫のものが奥深く埋没たときに子宮に触れる快感は幾度か経験したことがある。だから浩二の陰茎が子宮に到達したときこれで埋没は終ったと思ったのに、浩二はしばらくの静止のあと上体を持ち上げてさらに子宮を圧しながら侵入してくる。まだ完全に埋没し切っていないらしい。冴子は浩二の途轍もない長さには思わず息を吸い込んで恐怖の声を上げていた。
 深淵部に達して、ふたりの鼠蹊部がぴったりと密着しおわると、浩二は冴子に唇を求めながら静かに律動をはじめた。夫の複雑な動きと違って一途に律動する単純な動きではあるが、埋没時には下半身全部に浩二が入り込んでくるような拡充の衝撃があり、抜き出るときは内蔵がさらわれるような恐怖があった。
 なによりも冴子を驚かせたのは浩二の熾烈なエネルギーと情熱だった。夫は優しく冴子をまるで高価な美術品のように丁寧に扱うが、浩二は冴子の躯にいどみかかるような激しさで冴子をいたぶる。ふたりの下腹がぶつかり合って肌が鳴り股間に溢れた体液が散って音を立てるすざまじさである。このままでは壊れてしまう、と冴子は思った。
 しかししばらくしてふと気が付いてみると、こんな激情的な猛攻に冴子は合ったことがないのに、驚いたことには、いつのまにか自分がひとりでに浩二の激情に敢然と立ち向かって、腰を振り脚を絡め膣を収縮して呼応ているではないか。女性は本性として防御本能が備わっており、無意識に抵抗するというのが冴子の常識だった筈だが、今は経験したこともない激しい性交に、自分の躰はとまどいながらも、その激情に自然に迎合しているのは、一体どういうことなのだろうか。
 何時のまにか自分が最初余裕をもって導いた筈の浩二に翻弄されて狂い、最後に浅ましい狂態に身を揉み嬌声を張り上げて浩二にしがみ付いていた。意識はすでに朦朧とし、目の前に無数の花火が散っていた。快楽は絶頂をきわめ、冴子が今まで経験したことのない高みに突き上げられ、さらに無限のかなたに揚がっていく。歓喜の震えが全身を貫き快感が躯の芯で爆発を繰り返す。生れて初めての経験である。これ以上の快感は死に至るような恐怖に襲われるが、躯はさらに無限の快楽に上昇していく。
 浩二が最期を迎え、呼吸を荒ませ全身を痙攣させながら冴子の奥深くに若い男の印を噴出したとき、冴子はまた驚いた。夫では信じられない熱さと量の体液が、ポンプ仕掛のような強烈な力を含んで、子宮を圧するように幾度も放射されたからだ。さらに恐愕したのは浩二は幾度も多量の放出を繰り返したのに、冴子の中で、ほんのわずか小さく萎えただけで、はっと、冴子が気付いたときには、もう彼女の中で屹立し動き始めていた。
結局、昼食も摂らずにふたりは狂っていた。                
 午後のうららかな陽がさす和室は、青い畳に冴子の山椿色の着物や薄紺の長襦袢、
白い足袋にピンクのスキャンティー、浩二の赤いアノラックやジーパンが華やかに
乱れ散り、その中に冴子の真っ白い裸体と浩二の琥珀色の硬い身体体が絡み合って、
さまざまな淫猥な体位でもつれながら蠱めいていた。
 明るい障子は閉じ切られほのくらい室内は、ふたりの躯からほとばしり出る体液
と汗のにおいに冴子の化粧の香りを隠微に混じらせて、二月の暮方とは思えない熱
気に満ちたあでやかさであった。静かな家の中にときたま冴子の嬌声が静寂を切り
裂くように響いた。      冴子が気が付いたのは、もう暮方だった。
 ほの昏い室内に障子だけが僅かな暮色を残して白く浮いて見えた。浩二の太い硬
い腕を枕にして彼の胸の中に顔を埋めるようにして眠っていた。浩二の掌腕が冴子
の汗ばんだ乳房に置かれ、ふたりの脚は複雑に絡んでいた。浩二と同時に果てたま
まの格好で眠り込んでしまったらしい。
 浩二を起こすまいと気を使いながら冴子は、そっと浩二の身体を解いて起きあが
ると、ふらつく脚を床柱にすがって支えながら、押し入れから毛布を出して浩二に
掛けた。毛布の端を浩二の子供のような優しい寝顔にかけながら、ふと、いとしさ
が込みあげてきてその唇に軽く接吻した。腰に力が入るたびに股間から浩二の残し
たものが、どっと溢れ流れる。下穿は付けずに、急いで散らばった衣類を片付け、
浩二の横に夫の浴衣を置いてから、音を立てないように気を使いながら部屋を出て
シャワーを浴びに浴室に向かった。        
 素肌にスリップを着て毛編みの白いニットのセーターにギャザの多い紺色のスカ
ートを付け、冴子は風呂場の鏡の前に立った。化粧は落したのに顔の肌は薄化粧を
したように艶やかである。頬も軽く紅をはたいたように血色がいい。瞳は妖艶に潤
み眦が少したるんで疲労の後がうかがえるが、それは明らかに媾合のあとの淫蕩な
妖気を含んでいる。たしかに自分の躯が強烈な媚薬を嚥んだように、妙に潤ってい
るにがはっきりとわかる。渇き切っていた躯に清烈な水を思いきり呑んだような充
実感がある。新しい下穿はもう濡れそぼっている。浩二は一体どれほどの量の体液
を注ぎ込んだのだろう。   
 それにしても若さとはこういうものなのだろうか。冴子はキッチンの椅子に腰を
下ろし、気倦るい陶酔の抜け切らぬ躯を机に伏せて考えていた。本当の男というも
のを自分は今日まで知らなかったのだ、という思いが強い。今のいままで夫のあの
優しさが男というものだ、と信じていた。男と女とはこうも激しく生死を超越した
ような激情の中で、思いもよらぬ歓喜の官能を奪い合い、肉体の全能力と力をぶつ
け合いながら汗みどろになって一体化し溶け合うことが出来るとは…………。冴子
にとってこの体験は夢の中の出来事のように思えて、つい先程体験したばかりのこ
とで、相手もまだ自分の部屋で眠っているというのに、現実感がなかった。   
 今夜のために買ってきた食品の半分も時間がなくて料理出来なかったが、やっと
散らし寿司と鰻を料理し食卓に並べたとき浩二が起きてきた。夫のウールの浴衣を
着て、不恰好に腰紐を結んで照れたような顔でドアを少し開けて冴子の瞳を覗き込
んだ。  
  1. 2014/12/02(火) 15:05:57|
  2. 花濫・夢想原人
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花 濫 第2章はじめての不貞2

 浩二は食器の触れ合う音で目が醒めた。薄暮に包まれた和室に素っ裸のまま寝てい
た。身体を動かすと、陰茎にかすかな痛みが奔った。触れて見ると亀頭のすぐ下の包
皮が擦切れた痛みであることがわかった。遠くでサイレンが鳴っていた。身体に掛け
られた毛布から冴子の髪の匂が漂ってた。身体の芯に気だるさが残っているが、特に
変わったことはない。遂に女を知ってしまった、という思いが強い。それにしても何
と甘美な陶酔だったことだろう。最初の違和感がしだいに快感に変わって、最後には
全身が痺びれるような陶酔に我を忘れて叫んだような気がするが定かではない。思い
出すともう陰茎が勃起しはじめている。冴子が置いてくれている浴衣があるというこ
とは、彼女の怒りがないということになる。それを考えた途端に、浩二は安らかな愛
のような安堵と緊張を甘く感じていた。下穿が浴衣の下にあるほか自分の着衣はどこ
に仕舞われたのか見付からなかったので、下穿をはいたうえに浴衣を着て、暗い廊下
を冴子が音を立てているキッチンに向かった。       
 キッチンのドアは開いたままで廊下に光りがこぼれていた。明るいシャンデリア風
の照明に照らされた室内では流しに向かって冴子が調理の最中だった。冴子の調理中
の後ろ姿は見慣れていた筈なのに、今日に限って、賞味したことのある美味な果実が
鼻先で匂い立っているように、生唾が口腔に湧き上がるような耐えられない魅力を発
散させているように見える。柔らかそうな毛編みの白いセーターの袖を肘まで捲りあ
げて食器を洗っている水滴の付いたむっちりとした肉つきのいい腕が肉感的で、浩二
の男心をそそる。膝のやや上までの短めの紺のギャザの多いスカートから覗いた素足
がそこだけ明りを集めたように浮き出て、スカートが揺れるたびにその奥から甘酸っ
ぱい女の体臭がわき立っているようだ。照明に一番近い頭髪は、繊細な柔らかさで新
しい瓦のように燻銀色の鈍い光沢を放って、揺れるたびに芳香を撒き散らしている。
 そんな後姿を見ているだけで今の浩二は身震いするほどの官能のたかぶりを覚えて
しまう。いままではこの家の主婦として、手の届かぬ存在だった冴子が、一たび肌を
交わらせてからというものは、まるでいま知り合ったばかりの女のようにいとしく思
え、彼女の躯がたとえようもない甘さを放って自分を誘っているように蠱惑的で、見
ているだけで気が狂うほど激情に襲われて、どうしようもなく欲しくなる。              
 衝動を押え切れずに後ろ後ろから抱付こうとしたとき、長い髪をゆらして彼女は振
り返った。上気した顔に羞恥がはしって、浩二の視線と絡ませた眼を慌ててそらした。                                   
「お料理いろいろこしらえようと思って買って来たのに、時間がないわ。これで我慢
してね。お酒燗するんでしょう?」     
 わざと忙しそうに食器棚の扉を開けながら言う声がうわずっているのが、浩二には
どうしようもなくいとしい。                       
 「なにもいらないよ。いちばん欲しかったママをいただいたんだからら………」 
 「まあ、浩二さんたら………」                      
 冴子は両手を顔に当てて思わずその場にしゃがみ込んでしまった。かくれんぼの鬼
のように顔に両手を当てたまましゃがみ込んでいる冴子の肩を浩二が優しく抱いた。                                   
 浩二は酒はあまり強い方ではない。冴子も平素あまり口にしないが、その夜はふた
りで飲んだ。テーブルを挟んで向かい合って食事していたのが、何時の間にか並んで
酌をし合い、それが抱擁と愛撫に変り、やがて浩二の浴衣が脱げ、冴子の白いセータ
ーを肩の上にたくし上げられ、スカートが捲り上げられていた。     
 外は完全に闇に包まれていた。この家の辺りは夜になると車も通らない。かすかに
近所で子供が練習しているピアノの音が聞こえるだけである。明るい照明に照らされ
て、卓上に食べかけの食器が忘れられたように雑然と並んでいる。その真ん中に置か
れたクリスタルの花瓶の紅白のカーネーションと霞草だけが、風もないのに生き物の
ように不規則に揺れていた。                    
 浩二の膝の上で冴子はスカートを脱がされ下穿が膝にかかっていた。唇を合せたまま
浩二の手がスリップからはみ出した豊満な乳房を揉み、もう一方の掌は股間で忙しく動
いていた。せつなそうな冴子の喘ぎが浩二の耳元に熱い息を吹き掛けていとき、突然部
屋の隅のスタンドに置いてある電話がけたたましく鳴り出した。  
 驚いて口を離した浩二と顔を合せた冴子は、あわてて浩二の膝から降り、捲れ上がっ
たセーターを引き下げながら電話機に近付くと、浩二を振り返って、    
 「きっと、うちの人よ」                         
 髪を一振りしてから、今までの恍惚とした表情を、仮面を剥いだように引き締めて受
話器を取った。                            
 夫は出張の際に必ず几帳面に電話してくる習慣だったから、今夜もいつ電話して来る
かと、冴子は先程から気になっていた。もっと今夜は飲もうよ、という浩二に、電話が
掛かって来てからよ、と言ってあったので浩二も緊張した面持で冴子の表情を伺ってい
る。浩二の愛撫に淘然となりながらも、頭の隅に夫の電話のことが冷たい氷のように胸
の隅に澱んでいたのだった。                 
 「変ったことはないかい?こちらは元気でやっている」           
 いつもと変わらぬ静かな夫の声が、そこから掛けているように鮮明だったので、冴子
は一瞬に酔いが飛んだ。罪悪感の前に恐怖が胸の中を切り裂くようにはしった。若い男
と情交の最中に夫の電話を受けている。
 捲れ揚がった白いセーターは直したが、スカートは付ける閑はなかった。丈の短いス
リップの下から豊かな素足が男の視線にさらされている。下穿のない裸の下肢は、薄い
スリップを透かして黒い茂みが見えているに違いない。そればかりか、夫以外の男との
交わりの余韻がまだ流れ出ている上に、さらに今男に触れられて、また新しい溢れが生
暖かく股間を濡らしている。受話器から伝わってくる夫の鮮明な声に、冴子は放縦な格
好で受話器を持っている自分と、漲ぎりの脈動を隠そうともせず、しなやかな肢体を輝
かせて自分を待ち受けている浩二のいる、みだらな空気の澱んだこの部屋の様子を夫に
発見されたような恐怖を覚えていた 
「今、浩二さんが来ているの。ロンドンに転勤ですって。今度の日曜日出発なので、土
曜日の夜は泊めてくださいって言ってます。いいでしょう、あなた………」 
「それは急なっことだな。今夜は帰るのか?」                
「今夜はこれから壮行会があるのですって。それで明日広島に帰って土曜日に出て来る
そうです」                             
「そうか、何か餞別でもやらなきゃならないな。土曜日の晩はゆっくりやろうと伝えて
くれ」                               
 受話器を通した夫の声が、数百キロ離れた北海道からではなく、すぐ傍に居るように
妙に生々しく伝わってくるのは、自分のやましさに怯えた気持ちに起因しているのだろ
うかと、冴子は前を屹立させたままテーブルに片肘を突いて煙草に火を付けている浩二
を見ながら思っていた。                    
 浩二の裸の肩に天井から吊したキャビン風の照明の白熱球の強い光線があたって、腕
の付け根のあたりから肩のやや後ろにかけて琥珀色の鞣し革のように艶やかな皮膚がハ
レーションをおこしたように輝いている。背中から細い腹部に向かって赤いひっかき傷
が三筋ばかりはしっているのが見える。先程、歓喜の夢幻のさなかに堪え切れなくなっ
た自分が付けたものに違いない。夫の痩身にこれまで男らしい堅さと強さを感じていた
のは、自分の無知のせいで、いまこうして浩二と比較して見ると、同じ男性とは判じ難
いほど、夫の体は頼りなく弱々しい。皮膚にも浩二のような照りはなく、筋肉にいたっ
てはないに等しい。夫がこまかく北海道の印象を語っているのが、いつの間にか途切れ
途切れにしか聞こえなくなっていた。     
 「雪は思ったより少ないよ。・・・今夜は・・・・お前も知っている・・・に誘われ
て・・・・を食べに行くことになっているんだ。・・・・・・」      
 煙草を吸いながら浩二が冴子を見た。眩しそうに冴子の顔を眺めてから、視線を下げ
て短いスリップの裾からこぼれている冴子の太腿に目を据えた。      
 上半身に毛編みのセーターを着ているだけに、剥き身の白葱のような白く艶やかな下
半身の露な姿を見据えている浩二の熱気を帯びた一途な視線が、直接愛撫されているよ
うに感じられて一層羞恥を誘う。狭い室内に若い一対の男女が向かい合い、交わりの前
の発情の極わみに達していた直後だけに、部屋には緊張した一種独特の精気が張りつめ
ていた。それは向かい合うふたりの男女が熾烈なエネルギーを爆発しようとする直前の、
発光体のような強烈な生命の燃焼の焦げるような匂の充満でもあった。その極度に緊張
した様子が、電話の向こうにいる夫に伝わるのではないかと、冴子は自分から声を発す
るのを極力控えていた。冴子にはその場を繕うほどの演技力は全くない。                           
 「それで・・・・明日は・・・・・・・どうおもう?・・・どうしたお前聞いている
のか?・]
 [はあっ?・・・ええ、聞いているわ・・・いまお鍋のお湯がこぼれそうになってい
るので・・・・・それがつい気になって・・・」              
「なんだ。どうもそわそわしているような気がしてたんだ」          
「あなた……………浩二さんとかわる? 」                
 浩二が慌てて掌を振って拒否のサインを送る。               
 「いや、いいだろう。土曜日にゆっくり話せばいいだろう。それよりだな…………を
買って帰るから、と伝えてくれ…………」                 
「わかったわあなた……………」                     
 「それから……………………」                      
 浩二が何か行動を起こす気配が感じられて、冴子は思わず浩二に注意を集中していた。
 煙草を喫い終えた浩二が、最後の一服を大きく吸い込み吐き出すと、紫煙が白熱燈に
照らされて濃霧のように巻く中で、その霧にまぎれるように白熱燈を背にして椅子から
立ち上がると、仁王のような逞しいシルエットを見せて、電話台の前に立った冴子に向
かって歩いて来た。照明の影になって表情は定かに見えないが、下穿からはみ出し身震
いしながら屹立している陰茎が、そこだけスポットライトを照らされたように生き生き
と脈動していた。冴子は視線が釘付けになったように羞恥も忘れてそれを眺めた。そこ
だけが別の生きもののように反り返り、方向の定まらぬ宙を何かを求めるように頚を揺
らめかしている様子が、冴子にはどうしようもなくいとおしかった。極限まで膨張した
その中は、あきらかに自分を求めて焦れ切った浩二の切ない思いが充満しているのだろ
う。
 もう夫の声が遠くに霞みはじめていた。                                  
 立ったまま首を少しかしいで受話器を持ち、もう一方の手で前を隠し長い髪をふっく
らとした白いセータに散らせて、腰から下は剥出しの豊かな太腿をひねるように合わせ
た悩ましい姿で夫と話している冴子の白い顔が当惑と羞恥に上気していた。
 慣れ合い切った夫婦の会話を必死に続けようと、無理に平素の清楚で落ち着いた表情
浮かべて、主人と対話している冴子の下半身は、真っ白いふっくらとした太腿から細く
すきりした膨ら脛が明かりを吸い込んでぬめぬめと照り映え、ときおり、もじもじと脚
を動かす格好が、淫蕩な別の女のように艶かしい。一つの女体が貞節と淫蕩の二重の情
緒をそれぞれ顔と肉体に現して戸惑いながら堪えている姿に、浩二はわずかに残ってい
る貞節な部分を思い切り破壊し去って、彼女自身を淫蕩の奈落の淵へ落とし入れたいと
いう加虐的な思いを堪えることが出来なくなっていた。いまは彼女を愛欲の極限に追い
やり陶酔と歓喜にのたうたすことが、唯一自分に残された彼女を完全に独占する方法だ、
とも思った。  恩義のある人の妻を寝盗る、という罪悪感はなかった。自分とこうな
ったことによって彼女等夫婦の間に亀裂が起こり、決別を迎えるなどという危険はない。
 それほど彼女の夫は妻を信じ愛していたし、彼女の方も自分と一緒になるなどという
非常識で愚かなことを考える女ではない。それだからうまく利用しようという魂胆は自
分にもない。田舎から出てきて世話になって依頼、憧れ続けてきた彼女とやっと結ばれ
た、という感慨しかなかった。この家に来てから五年の間に、いつかこうなることを予
感していたし、待ち望んでもいたから、遂にそうなったという喜びの感慨が強い。                                
 この家の主人は、あの地味で人格的にも才能も優れていて尊敬しているけれども、冴
子の夫として見ると、いつも冴子が可
愛そうになることが多々あった。それは冴子と主人との年令差よりずっと自分との方が
近いという、若者同志のような連帯感があったせいかも知れない。この家での長い生活
の間に、主人はよく冴子と浩二を、若い君等は、という言葉で自分と差別していた。                
 ・・・・君等は若いから、今夜は肉の方がのだろう?・・・、・・君等は若いんだか
ら走っていけよ・・、君等は若いんだからもっと飲めよと、今まで主人から発せられた、
この言葉が、しだいに二人に一種の連帯意識をあたえ、浩二にとってはやがて、若い者
同志なのだから冴子の若い心と肉体を求めても背信ではない、というような呪咀に変わ
ってきたのだった。たしかに冴子にとっても夫はもともと父のような存在で、特に浩二
が来てからは、ふたりして父に甘える兄弟のような連帯感はあったが、性的知識に疎い
冴子は、浩二に異性としての興味を抱いたことはなかった。                                 
 浩二に異性を感じなかった、と言えば嘘になるが、それは冴子の躯に眠っていた性的
本能が無意識にうごめいたに過ぎない。しかし、あの豪雨の日にガールフレンドを連れ
て帰った浩二を叱って以来、冴子は浩二の発散する男臭い動作や言葉、さらにふとした
時に見る浩二の若々しい肉体に、目眩に似た衝動を感じたことは幾度かあった。夫の不
在に夜など、浩二とふたりで囲む夕食の時に、まるで新婚のようなときめきに妙に生き
生きした気分を味わったりすることも、しょせんは父のいない夜の子供同志の自由な楽
しみというような思いがふたりにあって、罪悪意識をどこかに陰遁させていた。                          
 冴子の目前まで来た浩二は、受話器を小首にかかえている冴子の足元にしゃがみこみ、
冴子のむき出しの太腿を抱き締めた。毛深い顔を閉
じた冴子の太腿の内側に押し付け、両手で冴子の腰を抱き豊かな臀部を愛撫しはじめた。
 あわてて冴子が片脚を組むようにして花芯を防衛しようとしたが、浩二はそれにかま
わず冴子の翳りに唇の愛撫を加えてきた。身をよじり脚を動かして逃げようとすると、
隙の出来た後ろから掌で急所を攻撃してくる。受話器を持った手が萎えはじめ声が震え
て来るのを懸命に我慢しているが、浩二の舌が花芯の敏感な部分に触れると、強い電流
が股間で放電したような強烈な刺激が脊髄を通って全身に拡散し、思わず声を出しそう
になる。まるで夫の目前で浩二に犯されているような被虐の陶酔が麻酔注射を打たれた
ように全身をしびらせてる。                     
 受話器の送話口を押さえて夫に聞こえなくして、片手をのばし腰を屈めてて浩二の頭
に手をやり、                              
「やめて! 。声が出ちゃうわ。すぐ終わるから・・・・」         
 強く叱りつけるつもりが、甘い声になっていた。浩二がくるりと頭をあげて冴子の顔
を見ていたずらっ子のように笑い、後ろから回していた掌をいきなり濡れそぼっている
陰唇に差し込んできた。                      
 「いや! 」                              
 思わず声を出して冴子はその場に座り込んでしまった。自分では絨毯の上に横座りし
たつもりだったが、現実には浩二の膝の上にしゃがみ込む格好になった。その隙に浩二
は体の位置をずらして、座った浩二の顔の正面に冴子の股間がくるような位置にして、
敏捷な動作で二本の指を膣の奥深く挿入してしまった。その上に冴子が全体重をかけて
落ちてきたから、浩二の指は元まで埋没し、指先に子宮のこりこりとした感触が伝わり、
指全体が熱く蠕動する襞に覆われた。         
 「ええっ? 。・・・よく・・・聞こえないわ・・・」           
 股間におびただしい体液がとめどもなく流れ、止めようにもとまらない荒い呼吸を悟
られまいと、冴子は咳をしたり喉をならしたりして必死に堪えた。      
「今日のお前はどうかしているね。はやく瓦斯を止めなさい。……じゃまたね」
 夫の電話が終わった瞬間、冴子は受話器を握ったまま蝋人形が高熱に溶けるようにふ
わりと浩二の肩に倒れかかった。軟体動物のように浩二の肩に胸を載せ、顔を浩二の首
元に押し付け荒い呼吸をしている冴子の裸の下半身は、男の膝に馬乗りの格好になたま
まで、艶やかな膝が男の腰を挟んでいる。男の手が白い女のうなだれたうじなにかかり、
乱れた長い髪を掻きあげ、蒸れるように発散している女の甘酸っぽい匂いを臭ぎながら、
片手で自分の肩に張り付いている女の顔を持ちあげそれに唇を寄せていった。女は感嘆
とも悲嘆ともとれる溜息をついてから男の求めに応じて唇を差し出した。              
 接吻しながら浩二はセーターの下に手を滑り込ませて乳房を愛撫した。舌を絡ませた
ままの冴子から低い呻き声が流れた。浩二はしだいに自分の上体を前に倒しながら、ふ
たりの間にはさまていた受話器をとりフックにかけてから、浩二の膝を跨いで向かい合
っている冴子を背中から倒して仰臥させると、その上に覆いかぶさっていった。冴子の
脚の間に入っていた自分の脚で冴子を大きく開くと、先程とは違ってなんのためらいも
なく、熱湯をたぎらせている冴子の中へ一気に怒り狂っている自分の陰茎を充填させた。
冴子の悲鳴が森閑としたキッチンルームの澱んだ空気を切り裂いた。                              
 三、四度腰を動かせてふたりの粘膜が融合するのを確認してから、奥深くに沈潜させ
たまま動きを止め、冴子のセーターをスリップごと頚まで捲くりあげ、乳房を露にして
揉みはじめた。                          
 「パパにわかちゃたかも知れないよ。そしたらどうする?」
 目を暝っている冴子の耳元に口を寄せて囁くように云って、深く挿入したまま静止し
ていたものを、ちょっと小衝いて、躰で冴子の返事をうながした。
 「あたし知らないから……………。浩二さんの責任よ! 」         
 冴子も膣をきゅっと締めて躰で答えた。言葉で伝え合わなくても、これで今夜のあら
ゆる障害が排除されて、ふたりだけの世界が開かれたという安堵と歓びが今までの緊張
をほぐらせて、やっと落ち着きを取り戻し解放感と期待感に雄叫びをあげるように二人
はひしと抱き合った。                      
「お酒をもっと飲もうよ。俺準備するから」                 
「いいのよ、あたしが準備するわ。あたしの部屋で待ってて…………その前にシャワー
を浴びてらっしゃい」                        
 「いま離れるのが惜しいな」                        
「こんなところでは厭よ」                        
 光りの影になった昏い床の絨毯の上で重なっているふたりからは、食卓や椅子の脚を
通して、ふたりが脱いだ着衣やスリッパなどが思わぬ角度で眺められた。子供が悪戯に
秘密のかくれんぼをしているようなスリルがあった。離れると思った浩二が、そんなス
リルに刺激されたのか、再び腰を遣いはじめた。浩二がしだいに激しく腰を波打たせ、
冴子がそのたびに腰を浮かせた。どちらかの脚が椅子を蹴って音を立てた。陰茎が粘液
の音を立てて抜き差しし、その度に濡れた陰嚢が踊って冴子の菊門を叩いた。冴子が昇
り詰めて悲鳴を発し膣を痙攣させはじめたとき、浩二は、さっと、腰を引いて陰茎を抜
き去った。                  
「あっ、いや待って…………」                      
 冴子があわてて浩二を抱き抱えようとしたときには、もう彼は立ち上がっていた。 
「さあ、一風呂浴びてくるかな」                      
 冴子の体液に濡れそぼったままにそそり立った一物を揺らしながら浩二が出ていった。                                  
冴子は緩慢な動作で立ち上がった。椅子の下にぼろのようになっていたスカートを拾っ
て着ると、シャワーの音を聞きながら廊下を夫の書斎に急いだ。     
 ドアを開けると慣れた夫の体臭がその部屋にはこもっていた。同じ男の体臭でも夫の
は干し草のような枯れた匂がしたした。
 浩二のように獣のような強烈な生臭い湿った匂はなかった。今まで夫の匂が男の体臭
とばかり思い込んでいた冴子は、夫の部屋に充満している匂が、急に不潔で老人臭いす
えた匂に思えて来た。夫の匂は父の匂だ、とはじめて気が付いた。夫の書机の前に座っ
て、スタンドを捻った。机の上の夫の備品がにわかにいきいきと色彩を取り戻した。ペ
ン立てに置かれた木製のペン軸が、使い込まれて夫の掌の脂をにじませている。二、三
冊積まれている漢和事典が、夫の手垢で黒く染まっている。いずれも冴子が来る前から
夫が愛用していたものである。それを眺めているうちに、冴子は夫との今日までの生活
を反蒭していた。ままでの自分の生活がこれで破壊されるとは思わないが、自分の心と
肉体は新しい世界を知ってしまった事実はどうしようもない。浩二はわたしにこんな甘
美で衝撃的なことを教えておきながら、来週は遠い国に去ってしまう。残されたわたし
は一体どうしたらいいにだろう。浩二を行かせたくない、と思った。だが、夫との平和
な生活を放棄する勇気もなかった。              
 あなたの体臭の充満したこの部屋に一体自分は何を求めて来たのだろう。あなたに対
する背信の恐ろしさから来たのだろうか、それとも今まで自分にこれほどの歓びを与え
てくれなかったあなたを恨みに来たのだろうか。夫に呼び掛けてみたが結論はなかった。
いま若い浩二の肉体に溺れ切っている自分が、これから再び狂うことを切に求めている
ことだけは確かだった。暗黒の中で冴子は当時の心境を反趨してみた。            
 今あの時を想い返しても、重大な罪を犯したとか、夫を裏切ったとかいう反省がない。
幼い頃両親に隠れてオルガンの陰で、隣の男の子とお医者さんごっこをして、互いの性
器を見せ合ったり触れ合ったりした、ほのかな懐かしさと同じ位の、ときめきと後ろめ
たさを感じるだけである。     
  1. 2014/12/02(火) 15:10:58|
  2. 花濫・夢想原人
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花 濫 第3章女の業火

 もし浩二と別れたあと、田宮を知らなかったら、自分は果たして、夫とふたりの静謐な生活に戻れただろうか。浩二が自分に残していったのは、決して性の悦楽だけではなかった筈だ
 確かに自分は夫に肉以外の不満はないけども、あの強烈な悦楽を知った以上、まだ若く健康な肉は、そのまま夫と一緒に静かに老いていけただろうかと思うと自信はない。

自分はまだ若い。万一、相応の男性が現われて、浩二と同じ行為にはしったら、自分は夫を捨てたかも知れない。それほど当時 自分の肉は男の肉を需めていた。      
 冴子は眼を閉じたまま、当時の悶々とした日々を反蒭していた。
浩二が去った直後は、無性に浩二に会いたかった。ロンドンにツアーにでも混じって夫を欺いて出かける計画を真剣に練ったのも事実である。結婚以来したこともない夫に自分から需めるというはしたない行為をしたこともある。自慰を覚えたのもあの頃である。
 夫以外の男を需めるということは、理性では厳に慎むべき行為であると思っていたし、現実にそのようなことが出来るとも考えてはいなかった。   
 浩二とのことさえ思い返せば、何と重大な夫への背信行為だろうと、身の毛のよだつような罪悪感に駆られて幾度身を苛なんだことだろう。自分の肉が、浩二以来、官能の疼きに狂うのは、裏切りへの罪科だとさえ考えて耐えていた。   
 浩二が帰って来るのなら、耐えて待っていたであろうが、浩二は自分に、永久に現われない、と宣言して去って行ったのだ。
 それも自分に自分に消すことの出来ない劫火の烙印を押して、知らぬ振りをして去ってしまったのだ。考えて見れば、浩二が一番罪深い。
 自分が田宮と出来たのは、よく考えて見れば浩二の責任なのだ。                                
 冴子は、そこまで考えて、少し安堵した。                 
「お前は最近とても色っぽくなった。躯全体が匂うように柔らかくふっくらとして瑞々しいし、眼にいいようのないあだっぽさが漂っている。見るだけで男心をそそるようだ」                            
 夫が宴会から珍しく酒気を帯びて帰った晩、そんなことを言ったのは、たしか浩二がロンドンに去って二月くらい経ってからのことだった。        
 「あなたらしくない冗談だわ」                     
 冴子が顔を赤らめながら言うと、                    
 「俺じゃないよ。田宮が今夜酔ってそんなことを言っていた」       
 「田宮さんって、あの講師の? ………あの人まだ独身でしょう? お増せさんだこと……」                      
「あいつだって、お前と同じ歳だ。普通ならもう幼稚園くらいの子供が居てもおかしくない年令なんだが、純情というのか依怙地というか、婚約していた女性が別の男と駆け落ちして以来、学内のいろんな人が、いろいろないい縁談を持って行っても、一向に反応を示さないんで、結局、彼は変り者という烙印を押されてしまったんだなあ」                          
 この家にも何回も来ている田宮は、国文学専攻の文学青年には見えない行動的な新聞記者のような、痩身の背高い雄豹のような肢体と、長い髪を掻きあげながら細い澄んだ瞳で、見据えるように相手の目を覗き込むようにして話す純朴な表情を冴子は思い浮かべた。
夫の研究の方便言葉の収集の手伝いや、夫が出張する際の講義の代役の打ち合わせなどで、この家に来る機会も多いのだが、来れば夫に酒をねだり、したたか酔って独身らしい軽快なジョークを飛ばしながら冴子を笑わせ、静謐なこの家に花が咲いたような若やいだ雰囲気を残して帰るのが常で、冴子は田宮が来るのを愉しみにしているし、決して田宮を変り者とも考えたこともない。                

            
「あの人、学校では変人という烙印を押されるような人に見られているんですか? うちにいらっしゃる時には、愉しい愉快なひととしか思えないけど…………」                                  
「あいつは全く妙な奴で、学校では、必要なこと以外滅多にしゃべらないし、ほとんど笑顔も見せないんだ。頭もいいし研究成果も学会でも若手の中では秀逸なんだが………。
 それがうちに来ると、あんなに人が変わったように愉快になるんだ。お前に惚れているのかもしれないなあ」                
「あら、厭だわ」                           
 冴子が体を揺さぶって照れたようにしなをつくった。その時に冴子の全身から、灯がともったような照りが匂い立ったのを夫の和夫は見逃さなかった。
 もうとうの昔に自分達夫婦から消えてしまったと思っていた、生臭い性の匂いがはからずも妻からわきたつように漂ったのを、惣太郎は添い慣れた妻ではなくて、初めて会った女と向かい合っているような感情で茫然と冴子の女の匂を沸き立たせているような姿態い眺めていた。       

 「来週から冬休みなんだが、田宮と群馬の方便言葉を集めに伊香保温泉に行くんだ。偶然なんだが、伊香保温泉に九十五才の老婆が居て、その親戚の子がうちの学部にいたんだ。その老婆が言葉だけでなく、古い民話や民謡を沢山覚えているというので、行ってみよう、ということになったんだ。どうだお前も行ってみないか。久し振りに温泉もいいぞ 」                     
 「それは温泉には行ってみたいけど、お仕事のお邪魔じゃなくって? 」  
 「遊び半分の調査だし、田宮が車で連れていってくれるというので行くことにしたんだが、帰りに榛名の山に登って、釣りをして行ってくれと生徒の親からも誘われているんだ。その生徒の親の実家がまた伊香保で古い旅館だそうで、そこへ泊まることにな
ったんだ。最近は伊香保も沢山温泉旅館が出来て、温泉が足りなくなって普通の湯を沸かせている宿が多いそうだが、そこは源泉を確保している数少ない旅館らしい。ただし相当古い旅館らしがね」            
 「清潔なら古い温泉旅館ってあたしは好きだわ 」            
 いつになく饒舌な夫をいぶかりながら冴子は、もう一緒に行くことに決めていた。温泉よりも田宮と一緒に旅することの方が興味があった。
 田宮に好意を寄せているとかいうことではないが、冴子は無性に若い男性と接してみたかった。相手は誰でもいい。自分の中で目覚めた若さを受け止めてくれる話し相手が欲かった。若者同志しか通じ合わぬ木霊のような会話が欲しかった。こんな心境はか
ってないことだったが、浩二とのあと、冴子は砂漠で水を需めるように、同じ世代の男性との会話や接触を渇望してきた。
 それはやはり自分の肉が浩二以来にわかに性に目覚めて、本能的に異性を求めていることは隠しようもない事実であることは冴子自身が痛いほど知っている。
 しかし、いつの間にか男と女の生臭さが消えて、清烈な水の流れのような精神的な穏やかさを需める夫との生活では知り得なかった、狂おしいまでの情熱や湧き立つような情感を互いに秘めながら話し合うという、若い男女特有のあふれるような不思議な精神の昂揚と甘さのあることを経験したことが、冴子の心に大きな変化をもたらしたのだった。      

 若い男女の間には、相互の間に牽引する力が作用するような気がすると冴子は最近考えはじめている。互いに情緒を引き合いたぐり合うから、そこには力が生じ熱がうまれ光りが飛ぶ。
 それが情熱というものなのだ。夫との場合、冴子の吸引しようとする情熱は、夫の寛大でおおらかで世慣ている初老の情緒は、冴子がどんなに牽いても汲みくせず、押してみても手答えがない。満々と水をたたえた湖水を飲み干そうとでもするような味気なさを冴子が夫に感じるには、こういうことなのかも知れない。                        
 今夜田宮が夫に話したしたという自分のことにしても、今までの冴子なら、たとえほめ言葉であっても、他人の妻の肉体に関する微細な評価を、こともあろうにその夫に話す男など、どう考えても下劣で低俗な存在として嫌悪した筈である。
 だが、今の冴子には、たとえ酒席の下品な会話であれ、自分を女性としてほめたたえてくれた田宮に、実際に裸体を視られたような羞恥と妖しく燃え上がるような肉のきしめきを覚えるのは、やはり自分と同世代の田宮に、互いに性を牽引し合う男女の情緒の漲ぎりを感じるからなのだろう。             
 「伊香保はもう寒いでしょう?お二人がお仕事に出かけられたら、あたしはどうしたらいいの?一日旅館でじっと過ごすなら、
編物でも持って行かなければならないわ………」                            
 「伊香保には徳富蘆花の記念館や竹久夢二記念館もあるから一日退屈することもあるまい。それに俺達の仕事も、ただ老婆の喋りや歌うのを録音してくるだけだから、半日もあれば十分なんだ。あとは言ったように遊びなんだ」     
 出無精で誘っても滅多に付いて来なかった妻が、今回に限って待っていたように、頬を上気させ目を輝かせかているのは、自分
が今まで思っていた通り妻は田宮に相当な思いを寄せている証拠に違いないと、自分のもくろみの確かさに、一種の怯れと突き上
げるような妖しいときめきを感じた。           

 田宮が以前から妻に思いを寄せていることは、無口な癖に普通なら心の襞に隠しおくようなことでも平気で表現する彼だから、
縁談を勧めても、先生の奥さんのような女性なら一も二もなく承諾するのですけど、とか、今夜の打ち合わせは先生の家でしたい
な、奥さんの貌をもう二月も見ていないので会いたくて………………、と平気で言う。
 それも冗談やお世辞でなく真底そう思っているのが、ながい付き合いの惣太郎にははっきりわかる。
 田宮は自分の感情や意見を偽らない性格だから、学内でも田宮の率直な意見を曲解して敵対する者も多いが、その反面、田宮の
言うことなら………と、その発言には誰もが信頼を寄せる。特に学生にはそういう田宮の率直さが受けて人気がある。剣道は六段
の腕前で国体に出場したこともあるほどで、今も大学の剣道部のコーチを引き受けている。無口な
上に一たび言葉を発すれば辛辣だし、痩せて背高の身体体には野武士のよな隙のない強靭さが滲み出ていて、はじめて会う者には、
近寄り難い印象を与えるが、惣太郎のように長らく付き合ってみると、剛健さの中に素直で一図な愛すべき性格の持ち主であるこ
とがよくわかる。                    
 田宮がはじめてこの家にやって来たのは、彼がまだ助手をしていた頃で、浩二が大学の二年生だった。冴子もはじめて田宮に会
った頃は、          
 「やくざか昔のお侍みたいで怖い人……」                 
 と評してあまり近寄らなかったが、いつの間にかすっかり田宮の性格を理解して、馴染んでいた。                           
 途中二年アメリカの大学に留学し、丁度、浩二がロンドンに行くのと入れ違いのように帰って来たのだが、どうもその頃から妻
の田宮に対する感情に変化が現われ始めたような気がする。                       

 惣太郎がはっきりと妻の田宮への愛慕の情を感じとったのは、田宮と二人で受け持った地方の大学の集中講義が、惣太郎が俄な
腰痛で行けなくなり、急遽田宮が一人で講義することになって、二晩ほどこの家に田宮が泊まり込んで準備した時である。                  

             
 腰の痛みに起き上がれない惣太郎に田宮は、カイロ・プラクチクスという、こういう場合いちばん効果的なマッサージ治療法を
アメリカで修練してきているから治療してあげます、と申し出た。なんでもカイロ・プラクチクスとは、ギリシャ語で掌の手術、
という意味だそうで、剣道や柔道の高段者は、人間の骨や筋肉については医者並みに研究していて、大抵鍼、マッサージ、整骨な
どの資格を取得しているが、自分は前からこのカイロ・プラクチクスに興味を感じて、日本国内の関係者について習っていたが、
今回向こうで徹底的に学び、アメリカでの治療士の資格も取って来たっという。
 残念ながら我が国ではまだ厚生省の認可が下りていないので、治療することは出来ないが、自分が取得しているマッサージと整
骨士の資格で治療して上げて、大勢の人から喜ばれている、ということだった。
 下穿だけで俯伏せにされ、田宮の剣道で鍛えた大きな掌が、惣太郎の脊髄骨の両側を撫でさすっていった。羽毛で撫でられてい
るような擽ったさと、じんわりと押え付けられるようなかゆさに似た痛みとが入混った妙に性感を刺激するような、焦燥感の残る
治療で、惣太郎は小馬鹿にしたが、実際治療が終って見ると、つい先ほどまでちょっと身動きしても激痛がはしり呻き声が出てい
たのが嘘のように、身を動かせても鈍痛しか感じない。                  
 「田宮さんがこんな特技をお持ちだとは知らなかったわ。どうして隠していらっしゃったの? 」                           
 「隠してなんかいませんよ。学校の運動部の選手たちのこの種の治療はほとんど奉仕でやっているし、せんだっても、どこで聞
いたのか副学長の奥さんが、長いこと貧血症で肩凝りに悩まされているから、ぜひともと頼まれて、忙しいのに六回ばかり世田谷
の自宅に通いました」                  
 「それで治ったのかね」                        
 やっと身動き出来出し躯をゆっくりと横臥させながら惣太郎が口を挟んだ。 
 「ええ、血圧も随分ら下がって、肩凝りは完全に治ったらしいですね。こんな爽やかな躯になったのは何年ぶりだろう…………
って、感謝されました。まあお齢ですから、そのうちまた懲り始めるでしょうがね」             
 「これも年中肩懲りで悩んでいるんだが、一つ治してやってくれんかね」   
 「あら、あたしのは運動不足ですよ」                   
 にわかに矛先が自分に向けられて冴子が慌てて弁明した。         
 「ええ奥さんのも多分貧血からくる肩懲りだと思います。ただし副学長の奥さんと違うのは、まだ若いから治療で増血作用を促
せば、完全に肩凝は治るということです」                               
 「副学長の奥さんって幾つになるんだね」                
 「六十五才です」                           
 「それじゃあ冴子はまだ見込があるな」                  
 「あら! 二人ともあたしを馬鹿にしたのね。ねえ貴方、本当にそうならあたしもやってもらいたいわ。肩凝って意外苦痛なん
ですよ」           
 「奥さんなら絶対自信がありますね。二週間置きくらいに、そうですね五回治療すればいいでしょう」                         

 
 「そりゃあいい、ぜひやってやってくれよ」               
 惣太郎の寝ている布団の横に敷き布団を一枚だけ敷いて冴子が横になった。  
 「奥さんそれじゃあ駄目です。本当なら裸になって頂くのですけれども、スリップ一枚か薄いネグリジェかまたは浴衣になって
下さい。この治療は神経を刺激して血行をよくしたりするのですから、厚い衣服があると効果がないんです」 
 「えっ、田宮さんの前でそんな格好出来ないわ」             
 冴子が羞恥に顔を染めながら言うのを、惣太郎が強引に説き伏せると、隣室に出ていった冴子は、薄い夏物の木綿地に椿の藍色
模様の浴衣を着て入って来た。
 顔の化粧も落として、素顔に薄く口紅だけはたいていた。          
 ネクタイをとったワイシャツ姿の田宮が長い脚を持て余すように折り曲げて、横臥した冴子の肩に掌を伸ばした。
 冴子は惣太郎に背を向けて横臥している。髪をたくし上げてピンで留めているが、襟脚にほつれた細い髪が女らしい色気をほの
ぼのと匂わせ、細い腰からこんもりと悩ましげな曲線で盛り上がる臀の丸みが、田宮の篠竹のような腕の動きにかすかにゆらめい
ている。
 田宮の掌が肩からしだいに下がり脇腹や腰の辺りを撫ではじめると、今まで無言だった冴子が、しきりに空咳や咽喉にからんだ
痰を除去するような声を出しはじめた。
 鼻が詰まったようなその声は、冴子が発情している状態であることを惣太郎は敏感に察した。
 田宮の顔は後ろ向きで見えないが、なんとなく昂ぶりが感じられる。      
 やがて田宮の指示で、冴子が惣太郎の方に横臥の向きを変えた時、惣太郎はあっと、思った。
 惣太郎の想像通り、冴子の変化が目に付いた。冴子の全身から妖気が立ち上っているような一瞬の感じがあった。閉じていた瞳を、
ちらと、あけて惣太郎を見た瞳が黒々と濡れて、化粧のない白い頬が紅をさしたようにつやつや輝いていた。          
 「眠くなるくらい気持がいいわ」                    
 惣太郎を見る目が朦朧と霞んでいた。俯伏せに変った時、冴子は顔を夫の反対側の向きに変えた。                          

 
 惣太郎は田宮が、アメリカに同棲している二世の女を残して帰国しており、帰国後、女は田宮の子を出産し、今一才に成長してい
る。名前は英美夫といい、女の父親である一世の医者の父が名付けた。あちらの両親が離したがらないので置いて来たが、あと二年、
日本の大学で教えると、アメリカの大学の日本語教授が約束されているので、向こうに帰って永住することにしている。そういう約
束で、女と子供は、女の両親に預けて来ていた。もちろん仕送りは続けている。
 このことは田宮の母親が、二年前から重い病に伏している関係で、本人と惣太郎以外は誰も知らない。もちろん冴子は知らない。             

    
 冴子は田宮を未経験な独身青年くらいにしか思っていないだろうが、実は女の扱い方は熟知しているのだ。内縁の妻の他にもアメ
リカでは相当女遊びを経験していると、惣太郎に告白している。
 このカイロプラクチクスというマッサージも、実は学校に通っている頃に、学資に窮していた田宮が、ある機会に医者の友人に勧
められて習い覚え、冷感症の女の治療専門にアルバイトとして開業したものらしい。
 ある期間は繁盛し、金持ちの婦人達が押しかけたらしいが、今の女と恋愛関係に入ってから止めてしまったらしい。だから田宮の
性の遍歴や習い覚えた技術と経験からすれば、冴子のような純真な女を発情させることぐらい、いとも簡単なことに違いない。
 そう考えると、惣太郎は、目の前の田宮と妻が、まるで媾合でもはじめかねないような怖れを感じて、思わず身を乗り出していた。   

 一体田宮の掌にはどんな魔法が隠されているのだろうか、と冴子は朦朧としていく頭で考えていた。薄い浴衣を通して、じかに肌
に触られているように田宮の掌のぬくもりが、あたかも田宮の精を注入されているように感じられ、その後に冴子の躯の内部から快
感がわきおこり、触られる度にその場所が痙攣してくるのを押えることが出来なかった。
 悪寒のような戦慄と官能の疼きが、しだいに冴子の体内を満たしていく。ともすると出そうになる嗚咽を冴子は必死で堪えた。
最後に田宮は、背筋から腰と、臀の割れ目のあたりから太腿、脛、爪先までを、羽毛で撫でるようにして、マッサージした。
自分の躯の性感帯が、すべて田宮の掌先に集まっていくような恍惚感に、冴子はとろけるような官能に朦朧となっていた。それは浩
二との烈しさとは違った、じっとりと弱火で、とろとろと灼きあげられるような、切ない情緒であった。                   
 治療を終えて、淡いピンクの柔らかそうなセーターに襞の多い紺のスカート姿で現われた冴子を惣太郎が寝たまま見上げた時
、そこにしっとりと潤いの出た顔に、いきいきとした瞳と、躯の奥から染め上げられたような肌の艶がまぶしく匂い立っている、妻
の冴子ではなく、見知らぬ女が艶然と俯向きかげんに自分を見下ろして微笑んでいるような錯覚を覚えた。                 
 「ほんと!まるで自分の体重がなくなったみたいに躯が軽くなって翔んでいきそう よ。有り難うございました」                   
 田宮に熱燗を注ぎながら、照れた上目使いで挨拶をしている妻は、まだあえぎの治まらぬように小さく開いた唇から、美しい小粒
の歯をこぼれさせながら、耳まで染めあげている。
 惣太郎は冴子の内部にいま、消えていた若さの灯がいっせいにともされたような耀きを見ると同時に、酒を受けながら、冴子に優
しさをたたえた目を注ぎかけている田宮にも、獲物を捕らえた猟
師のような満足感のあふれた表情を読み取っていた。
 二人の一瞬の視線の溶け合いに、惣太郎は健康な性を共有する男と女が互いに心を開き合った暗黙の了解が成立した証を視た。   
 「今度は温泉に行った時に治療しましょう。よく利きますよ。先生もそうしましょう」                                 
 「ああそれはいいね、ぜひ、そうしてもらおう」             
 「でも、田宮さんに悪いわ。温泉にまで行って、あたし達夫婦の治療をしているんじゃ、疲れに行くようなものでしょう」                
 「先生の治療は、早く直って貰わなければ自分が困るから、奥さんの方は、触れることが愉しいから、お二人とも自分のためにする
ようなものです。どうか気になさらないで下さい」                          
 「まあ、田宮さんたら………」                     
 冴子が羞恥とも照れともとれる表情で、両手を上気した頬にあてて、子供のいやいやをするようなしぐさで身体を揺すった。その姿
に惣太郎は自分の妻に今まで見たことのない妖しい輝きを見た。                    
 その時、惣太郎に激しい嫉妬の感情の替りに、田宮の鋼線のような鋭い身体に容赦なく犯されながら、歓喜に身を打ち震わせている
自分の妻の、見たこともない嬌態のあられもない姿が、天女のもだえのように美しく想い描かれて来るのだった。                     

    
  1. 2014/12/02(火) 15:13:00|
  2. 花濫・夢想原人
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花 濫 第3章女の業火2

 伊香保温泉に向かう日は、寒くはあったが、東京は快晴だった。       
「お前がこんないい車に乗っていようとは思いもしなかったよ」      
 昼過ぎに迎えに来た田宮の車を見た夫が驚きの声を上げた。大学の講師あたりは大抵車を持っていても、国産の大衆車が多かったが、
田宮の車は大型の外車だった。しかも買ったばかりの新車で普通ならその車は黒く塗られて貴賓の送迎か大会社の重役の自家用に使わ
われるようなものだった。
 「なにしろ独り身ですし、背が高いでしょう、国産車だといつも頭をぶつけてばかりいるので、少しきざな感じはしますが、思い切
って買い替えました」  
 ぶっきらぼうに言ってハンドルを握った。車に弱い冴子は助手席に乗り、夫は後部座席だった。

 調布から所沢の関越自動車道のあがるまでが大変な渋滞で、予定より一時間以上かかった。空いた高速道路にやっと入り、伊香保温泉
のある榛名山が見えた頃には、夫は後部座席で穏やかな寝息を立てていた。       
 どういう理由で東京と新潟を結ぶ高速道路を造ったのか知らないが、前に走ったことのある東名高速とは比較にならないほどすいてい
る。いまもこの車の前には一台の車も見えない。
 茜色に染まった空がしだいに力を失って褪せ、濃い紫の靄がたなびきはじめた空 に、くっきりと巨大な奇岩のような凹凸の榛名山が
前方に墨絵のように見えはじめていた。
 昼が死に夜はまだ生れてない。その一瞬の静けさが周りを包んで、冴子は田宮と二人きりで、見知らぬ世界の夕暮れを、その夕日を求
めて無限に伸びる道を走っているような錯覚に陥っていた。
 この道は地上でもなく宙でもない不思議な次元を孤独に伸びていた。渋川伊香保のインターチェンジに近付き、速度を落しながら煙草
に火をつけている田宮の横顔を眺めた。
 精悍な彫りの深い横顔を煙草の煙が目にしみたのか少ししかめている。人一倍広い額に残照があたって赤く艶やかに輝いているのが、
まるで何かに興奮している男の毅然とした表情のように見えて頼もしい気がする。         
 高速道路から渋川の街に入ると、古い軒を寄せあったような民家が並んだん細い道に入る。
 東京では最近では見られなくなった柱時計をいくつも掛けた時計屋や、軒崎にビニールに包まれて埃にまみれたままの衣類を売ってい
るような店が目に付く。                               
 「こんなことで商売になるのかしら」                  
 冴子が指差した店に、ちらりと視線を動かせて、             
 「僕もいつも不思議に思っているのです。僕の想像ですが、多分、田舎は今でも家系というか、親類一族の結束が強いから、何とかや
っていけるのじゃないかな。義理ででも買う人がいなければ、とうに潰れている筈だもの」       
 「そうよね。この細い道に入り込む前にも、大きなスーパーがあったわよね」
 「あっ!……」                           
 田宮が小さく声を上げて、車のハンドルをにわかに左に大きく切った。冴子の躯がその弾みで浮あり、思わず田宮の膝に手を突いた。 
 細いがあまりに硬い膝に冴子は驚いた。夫のはこんな硬さはない。浩二の膝の感触を思い返そうとしたが、どうしたことかはっきりと
は思い出せない。               
 すみません。うっかり曲がるのを忘れていました。昏い中で伊香保方向という標識がちらと見えたので、慌てました。………先生大丈
夫でしたか」    
 冴子が振り返って後部座席の夫を見ると、急回転も気が付かなかったように、今眠りから醒めたような細い目をしばだたせながら、狭
い車内で窮屈そうに腕を伸ばして伸びをしれいた。                        
 「もう伊香保かい。昔にはこのあたりはちんちん電車が走っていたな。もう三十年くらい前のことだが、父親に連れられて来たことが
あるよ」       
 のんびりとしたあくびを含んだ口調で答えた。              

 すっかり日が暮れてさだかではないが、道は登りになり、杉林や際立った崖を削った 白っぽい法面が視界を過ぎて行き、やがて道の
上から温泉街の建物やネオンが見えて来た。
 店先に据えた蒸籠から温泉万頭屋をふかす湯気がもうもうとあがっていたり、旅館やホテルの並んだ細い道の街灯の陰に、芸者らしい
二人連れの女が、着物姿なのに脚には長靴を履いているのが見えたりしだすと、温泉は久し振りの冴子は、妙に心の高ぶるような色っぽ
さと暖かさの入り交じった、人肌の温かさに触れるような度興奮を感じてくる。             
 車はその温泉街を通り過ぎるように一向にスピードを緩めない。       
 「あたし達の泊まる所はまだですか?」                  
 「今夜の宿は伊香保の温泉街の一番高い所なんです。ここらのような近代的なビルではなくって、古い旅館らしいですよ。でもいいこ
とにこの伊香保も温泉を汲み上げ過ぎて、殆どの新しいホテルは地下水を汲み上げたのを沸かしているらしいですが、そこは源泉があっ
て、お湯は豊富と聞いています」       
 田宮の案内を聞いているうちに、車は明るい街をぬけて、山道のような暗い急な登り坂を登って行く。                         
 「あら! これ雪じゃない? 」                    
 ヘッドライトの照明に映し出された道路が白く輝いている。硝子のようにきらきらと硬質に輝いているのは、だいぶ前に降った雪が凍
結しているのだろう。田宮がスリップを警戒してスピードを極端に押えた。暖房で暖められた車内の窓硝子を通して、冷気が忍込んで来
るような気がするほど外は冷えているらしい。 

 暗闇の中から突然、山荘のような建物が見えて来た。            
 「ああ、これです……」                        
 相当緊張して運転していたらしい田宮の安堵の声が大きく車内に響いた。  
 昭和の初めに伊香保温泉で洋風建築としてはじめて建てられたという木造の古い旅館だが、中は最近改造したらしく、しっとりとした
落ち着きのある旅館だった。冴子と惣太郎が大きな暖炉で薪が燃えるのを眺めながら、アールヌボー調の椅子に腰を下ろして、田宮がチ
ェックインの手続きをしながら、番頭らしい太った中年の男と、やや興奮した口調で長々と話しているのを不安な気持で待っていたら、
やがて番頭が頭を掻きながら、田宮の後からやって来た。        
 「実はお部屋が一つしかお取り出来ていないんです。主人から大事なお客様だからと、一番いいお部屋をご用意させていただいたんで
すが、ご夫婦さまがご一緒とは聞いていませんでしたので……。生憎本日は予約がいっぱいでして、ほかにお取り出来ないのです。お取
りしましたお部屋は、十二畳の和室とツインベットの洋室がありますので、それでなんとかご容赦いただけませんでしょうか」 
 「ああ、いいとも。ともかく寝られればいいんだ」            
 惣太郎が人のいい性格を顔面で証明しながらおおらかに言った。      
 案内された部屋は、天井に経木細工を張った古風な部屋で、襖の向こうに、元は和室の続きの間だったのを、最近の客筋を考えて急造
したらしい洋室があった。
 この部屋はこの旅館の最上階の筈だったが、窓からは小さな谷の向こうに迫った山の斜面が見える。きっと山の斜面に建ててあるのだろ
うと惣太郎が言った。 
 早速男達が温泉場に行ったすきに冴子は手早く旅館の着物に着替えて、自分も風呂に行った。温泉は地下だったが、実際には谷川に面し
ていた。男湯と女湯が並んでいて、男湯からは大勢の男達の声が聞こえたが、女湯には先客はなかった。石を並べた浴槽に、鉄分を含んだ
泥水のような赤茶色の湯が溢れていた。
 入るとややぬるめの湯だが、しっとりと身体に馴染む肌触りの湯だった。    
 硝子張りの大きな窓から、急峻な斜面にはえた杉木立が黒々とみえ、林床が残雪に白く浮き出ている。林の奥の暗がりには、なにか恐ろ
しい魔物でもこちらを窺っているような気分になって、冴子は怖いもの見たさの子供のように浴槽の中を湯を掻き分けるようにして窓際ま
で行って外を見た。           
 窓際まで行くとかすかに流れの音が聞こえてきた。暗闇に反射して明るい浴室にいる自分の顔しか映していない窓に、顔を擦り付けるよ
うにして覗き込むんで、 
 「あらっ!」                             
 冴子は思わず一人で声を出した。                    
 視界は全部山の斜面だと思っていたのに、向かいの山の暗がりの上には丸い小さな峰が暗黒の山肌と濃紺空を分けて影絵のように見えて
いる。杉の尖った樹陰の見える峰の上の宙空には半月が冴えわたっていた。凍り付いたように硬くしまった感じのする空気を切るような鋭
さで差し込んでくる月光は、まるで洞穴の底から天空を見るようなに清々しさだった。浴槽から立ち上がって谷底を見下ろすと、小さく細
いが急な落差を勢いよく流れる谷水が、白銀に輝く大蛇の長い尾のように見えた。                               
 天井から落ちる水滴さえ、はっとする大きさに聞こえる静寂の中なかで、冴子はなぜか妙に心の落ち着きを失っている自分を見詰めてい
た。
 この胸の中でむずかるような昂ぶりは一体何だろう。そう考えながら湯の中に持ち込んだタオルを胸に当てた時、ちくっと乳首に響いた
感触で、冴子は急に肩を押されたような衝撃でその原因に思い当たった。それは今夜田宮と同じ部屋で寝ることだった。たしか二度目の治
療は、今度温泉にでも行ってすればよく利きますよ、と言った田宮の言葉を躯が覚えていたのだろうかと、冴子は少なからず動揺していた。  
 ただマサージを治療をしてもらうだけだし、夫と一緒だからまさかのことはないし、何も自分は田宮に好意や情感を持っているわけでも
ない。自分の主人の部下というただそれだけの存在でしかない。この自分の落ち着きのなさというのは、ただ他人の男と同じ部屋で雑魚寝
しなければならないという、迷惑さだけの筈だ。そうだとうなずくには生憎に、田宮の掌で触れられた肉感の疼きが今も冴子の中で妖しく
蠢いている。それはあれから燃焼しきれないまま、生木が燻るような白い乾いた煙ばかりを上げている冴子の身もだえがひとりでに肯定し
ている。
 自分の乾いたふすぶりは、田宮から治療を受けてからだけではない。

 二年前、浩二を知ったことによって、冴子は今浴槽で身を動かせて暗黒だとばかり思っていた視界に偶然冴え渡った夜空を発見したよう
に、人生の新しい眺望を見出していた。それは一瞬垣間みいた世界であったが、冴子の心と躯の奥深くに烙印のように灼き付けられてしま
った。                          
 男と女の関係が、心と肉の両方で成立するように創られていることを知ってしまってからも、平和で静謐な今の生活は自分にとってかけ
がえのないものだと言い聞かせ、浩二への痛みに似た烈しい愛慕に狂いかける自分に制動を与え続けて来たのに、田宮の掌が触れただけで
自分の中に湧きたつこの肉の炎の狂おしさは、なんというはしたなさなのだろ う。冴子はふと、実家の藁屋根の下で今夜も独り炬燵のな
かで古い書物を紐といている父の厳しい生き方を想い出して、涙ぐむような気持で自分を諌めていた。                      
 「群馬の山の中だから、猪の肉に河魚、山菜にこんにゃくとばかり思っていたのに、こんな新鮮な日本海の魚や蟹や海老が出るとは以外
だったねえ」    
 「関越高速道路の開通のおかげですよ。この伊香保も東京から一時間圏になって、熱海より近くなり、すっかり東京の奥座敷になりまし
たし、新潟からも近くなりましたので、こうして日本海の珍味が食べられるようになったのですねえ」
 男達は並べられた松葉蟹や甘海老の魚に大喜びで箸をつけていたが、谷の澄んだ流れと先程見た冴えた奥山の月光の中では、やはり近く
なったとはいえ、遠い日本海の料理はそぐわないと冴子は思っていた。              
 「このお酒をぜひ飲んで下さいと、主人から仰せつかっております。利根川を挟んだ向こうの赤城山麓の地酒で、小さな酒屋が造ってお
ります。赤城山はこの榛名山が大昔噴火した火山灰を大量にかぶり、その後今度は赤城山が爆発してとても深い火山灰に覆われていまして
、降った雨が百メートルも二百メートルも地下に潜って麓へ出て参ります。地元では湧玉と申しておりますが、その水を使って醸造したお
酒です」                          
 中年の女中頭らしい、落ち着いた小肥の仲居の置いていったその酒をひとくち飲んで田宮が先ず声を上げた。                      
 「これは旨い。先生飲んで見て下さい」                 
 「まるほど。とても芳醇な酒だね、東京で呑み屋が出し惜しみする例の銘酒とかいう梅の月や竹菱より、よっぽど旨いにねえ。冴子も
飲んでみろよ」    
 「さあ、どうぞどうぞ」                        
 田宮が机の向かいから手を伸ばして酌をする。大きなぐい呑にまんまんと注がれた酒をこぼさないようにしよと、つい酒の呑みの男たち
のよくする手付きで、口を近付けて呑んでみると、酒の匂がしない。まるで清烈な谷川の水のように透明な澄んだ味で、たしかに夫が言う
ように寒梅のほのかな匂のような芳醇な香りが漂う。あまり呑めない冴子でも、思わず含んだまま口の中でころがしてみたくなるような馥
郁としたうまさである。                    
 「これはたまらまいですね」                      
 田宮は顔をほころばせて、杯を重ねる。惣太郎も黙々と満足気に呑んでいる。田宮と夫に交互に勧められて杯を重ねた冴子が、ふと谷川
のせせらぎが遠くなったと気が付いた時には、顔が火のように火照り目の男達の動作が急に高速映画の画面のように気だるいほどゆるゆる
動いているのを見
るように思った。自分が酔ったためだと気が付くにはしばらく時間がかかった。             
 冴子が背にしている襖を開けて、先ほどの女中頭に案内されて、この旅館の主人が入って来たのにも、男達が急に態度を改めるまで冴子
は気が付かなかった  
 よく太って恵比寿様のような福相で頭の剥げあがった六十近いこの旅館の主人は、濃紺で旅館の名前を染め抜いた法被のしたに、きちん
とした背広を着ていた。男の生徒である甥の礼から、今夜自分が町会議員の寄り合いで今まで抜けられなかったことなどを、丁重に謝して
から、               
 「昔は湯治温泉ですから、これという伝統も残っておりませんが、私の趣味でまるで深山の中にいるような雰囲気で楽しめるバーを一部
屋造ってあります。今夜は団体客が多いのですが、その部屋だけは空けてありますから………」    
「 いや有難いですが、この通りこの旨い酒を頂きまして、すっかり酩酊いたしておりますから、またの機会にでも……」                 
 熟した柿のように紅潮したるんだ顔で惣太郎が慇懃に断わると、      
 「それは残念です。しかし………どうでしょうか、この伊香保で娘二人と、母親の三人で出ております面白い芸者がおりまして、それを
今夜は揃えましてご夫婦円満の踊りをお見せしようと待たせてありまあすので、こちらの若いご夫婦様だけでも、ご鑑賞して頂くわけには
いかないものでしょうか。大学の先生のような高尚なお仕事をなさっているお方様では滅多にこんな踊りを御覧になる機会もありませんで 
しょうと思い、ご用意させていただきました」         
 田宮が慌てて自分は一人だと弁明しようとするのを押えるように惣太郎が、 
 「そうしなさい。折角のご好意だから」                 
 きめつけるように言った。

 私も酔ってますから止めます、と言うつもりが、酔いのためか億劫になり冴子はだまてうつむいていたが、これで立てるのかしら、とい
う不安の方が先に頭を霞めた。                    
 女中頭に案内されて、エレベーターで地下まで降り、曲がりの多い昏い廊下を行くと、ドアが一つあって、それを開けると、急に辺りが
仄明るくなって冷気が頬を撫でる。そこは渡り廊下で、大きな日本庭園の池を渡るようになっており、いつのまに降り出したのか庭は一面
雪に覆われていた。
 いまも深い静寂の中で細かい雪がさみだれのような早さで降り急いでいる。薄い浴衣に丹前だけだが、今までのぬくもりでそれほど寒く
は感じない。                
 「いつの間に降り出したのかしら。さっきはお月様が出ていたのに……」                   
 立ち止まり廊下の欄干に身を寄せて庭を見ている冴子に田宮が寄り添った。背中に田宮の着衣の温かさが伝わり、冴子のうじなに男くさ
い息がかかった。冴子は冷気の中で、男の肌に包まれたような温かさと甘さを感じて、思いもなく田宮の身体に体重をかけて寄り添った。
 田宮の掌が後ろから冴子の肩に置かれた。  
 森閑とした白一色に覆われた庭を横切る流れは、温泉の湯が流れているのか、そこだけが生きているようにもうもうと湯気がわき上がっ
ている。白い簾のように降り続く雪の向こうに漆の闇が溶けていた。
 ふたりで東京から逃避でもして来たような孤独感に身を包まれて、冴子は後ろに寄り添っている田宮にすがりつきたいような親密感を感
じて、かすかに後ろにもたせかかっていた体重を、思い切って田宮の胸に包まれるほど入れ込んだ。
 冴子の後髪に田宮の顎が触れ、同じ情緒が通じ合っているという意志表示のように、田宮の身体が反応して、後ろから冴子の躯を抱え込
むようにぴったりと密着してきた。肩に置かれていた田宮の掌が前に回された。                              

 案内されたのはバーという感じではなく、大きな温室の中に庭と小さな東屋を建てたよな感じだった。入り口から小さな渡り廊下で東屋
に入れる。なかは主人が自慢するだけあって、一見能の舞台のように簡素な部屋だが、檜の巨木をふんだんに使った柱や、桜の皮を張りめ
ぐらした壁面、一枚板の濡縁の向こうには白砂を敷きつめた小さな庭があり、その向こうは高い硝子張りの天井に届くような杉の林が造っ
てある。杉林の奥は闇に消えて見えないので奥深い山の中に来たような錯覚に陥る。暖房で暖められた空気が澱んでいるところをみると、
その奥に外との仕切りがあるのだろう。
 スポーツ施設のように高い硝子の天井からは、いつの間にか雪は止み、先程風呂から冴子が眺めた時よりさらに冴えを増した月が雲間か
ら顔を出していた。昼間はどうか知らないが、この暗さでは酔っているせいばかりではなく、本当に夜の林に紛れ込んだような恐怖に襲わ
れて、冴子は田宮の腕にすがりついて寄り添った。                       
 板張りの部屋の中央に赤土を練って造った囲炉裏がしつらえられ赤々と炭火がおこり、それを囲むように厚い板だけの椅子が作られてい
る。昏い照明が杉の樹に向けられてい て、杉の葉の緑が浮き出ており、その間接の明りでしか手元を見ることが出来ない。囲炉裏の枠と
一緒に作られたテーブルには、酒や肴が置かれているのが、目をすかせて見るとわかる。
 いつの間にか主人も女中も居なかった。昏く深い森の中に田宮とふたり投げ出されたような不安が冴子を襲ってくる。辺りはしんと静ま
りかえって物音一つしない。                
 「怖いわ」                     
 思わず冴子は隣に座っている田宮にしがみ付いた腕に力を入れた。車の中で触れた膝と同じ硬さの腕が、ゆっくりと冴子の背中に回され
た。        
 「どういうことかな。まあ、酒でも呑みましょう」           
 組んだ脚を解きながら田宮は銚子をとって冴子の前の杯を充たした。    
 「あたしもう頂けないわ。今でも目の前が回っているみたいよ」      
 冴子は自分に注いでくれた杯を田宮の口許へ近づけた。田宮は冴子の背に回した掌も、銚子を持ったもう一方の掌もそのままにして、冴子
の掌で支えられた杯に口を寄せた。
 冴子は驚いて右掌の杯に慌てて左掌を添えた。こぼすまいと注意深く腕に力を入れると、田宮の顎に掌の甲が触れて、ひりりと、濃い髭が
柔らかな冴子の掌の甲を刺した 。
 田宮の右掌が冴子の掌ごと杯を掴んで一気に呑み干すと、そのまま冴子の掌の甲に唇を当ててきた。田宮の暖かい唇の感触に、思わず掌を
引っ込めようとした時、突然、正面の杉林が昼間のように明るくなった。                        
 突然の強烈な照明の明るさに眩む目を見据えると、杉の木立の濃い緑の中に、燦々と降る春の陽光に照らし出されたような照明を浴びて、
あでやかな色彩の着物の裾を引いた芸者が三人、それぞれにしなをつくって日本人形のように立っている姿が浮き出ていた。左の端の女が一
番若いらしく緋色の地に金紗の模様の派手な着物に丸髷に刺した藤の簪は貝ででも出来ているのだろうか、わずかに体を揺らす度に紫のルビ
ーのように燦然と光っていた。
 真ん中の黒地に銀紗模様の芸者は相当な年増だったが、斜め下に半開きの朱色の番傘を両手で構えている立ち姿は、いかにも年期の入った
芸者の艶の濃さが匂い立っている。右の黄色地に朱の花模様の女は三十歳前後だろうか、しもぶくれの丸い顔があだっつぽく、成熟した女の
甘酸っぱい匂いが周囲に拡散しているように色っぽい。       
 歌舞伎や新劇の舞台と違って、杉林が本物だけに現実味があり、森の妖精が突然舞降りたような驚きがあった。目が慣れてくると、杉林の
右手に囃方の台が置かれ三味線の女が二人と、未だ少女のようにあどけない娘が緋色の着物の裾をからめて頭に八巻姿で大太鼓の前に立って
いた。
 大太鼓の少女の白くかぼそい腕が揃えて上がり、思い切り振り降ろされると、少女の腕の力とは信じられないような腹にずしんと応えるよ
うな太鼓の重量感のある響きが周りの澱んだ空気を津波のように震わせて轟いた。冴子はその響きに圧倒されて思わずにすがり付いた田宮の
腕に力を入れた。                          
 三人の芸者が、太鼓の音にスイッチを入れられたからくり人形のように、緩慢な動作で動き出し、やがて三味線が掻き鳴らされだすと、そ
のリズムに操られて、しだいに動きに緩急をそえながら踊り出す。                
 「これはまいったなあ。奥さんに見せていいのかな」           
 田宮がすがりついた冴子の腕をとらえて二の腕を強く掴んで興奮気味に言った。 
 「それどう言う意味?」                        
 「これは深い川浅い川という踊りなんだけど、普通の踊りじゃなくって、男が楽しむとても猥褻なものなんだ…………」                 
 田宮が説明するまでもなく、三味線の音がしだいに大きく強く早く鳴り出したのに連れて、若いふたりの女が裾をゆっくりと捲りはじめた。
あでやかな着物の裾が乱れ、目を射るような緋色の腰巻きに包まれた脚がしだいに露わになってくる。強い照明のためか、もともとそうなの
か分からないが、女たちの脚の白さが目に痛いほどの強烈さで飛び込んでくる。膝のあたりまで捲り下られ、しばらくそのままの状態で踊り
が続く。知らない冴子にも、川を渡る動作であることが理解出来た。
急流に向かって力を入れて歩き、川床の石にでも脚を滑らせたのか、よろめく動作も真実味がある。                      
 冴子の常識を打ち破る強烈な衝撃で、女達は膝からさらに着物の裾を捲り上げて、ふくよかな太腿を露出し、やがて黒々とした陰毛まで露
わにして、女の命を秘めたような円やかで軟らかそうな下腹部までが、強烈な照明に照らし出された。流れが強くなったらしくふたりの女が
互いに肩を抱
き合い、急流から身を支え合っているような格好で踊りは続 く。石につまづいて倒れそうになり、大きく片足を宙に挙げた一番若い女の脚
を、もう一人の女が掴み、さらに大きく開く。後ろへ倒れそうになる女の背後へ、籠担の雲助のような格好で踊り出た年増が、後ろから女の
上体を支える。
 そうしたまま三人の女は何度も同じ場所で回り始めた。田宮と冴子の方から見ると、大きく開かれた女の股間の翳りの中心に、メスで切り
開かれたような生々しい鮮やかな肉色の潤んだ花芯の奥の微細な襞までが鮮明に見える。                               
 もっと川が深くなった想定なのだろう、脚を広げられた女を他の二人の女達が抱え上げて川を渡る。略奪される花嫁のように、抱え上げら
れ運ばれる女の着物がしだいにはだけ、帯が解け着物がずり落ち、最後には全裸になってしまった。
 舞台の右端でやっと川を渡り切ったらしく、裸の女を叢の上に横たえ、残りの女達は去って行った。ひとり残った女は、渡川の衝撃が醒め
やらぬ様子で、大きく息をしながら身悶えている。

 冴子ほどではないが、それでも人並みより豊かな乳房が悶えのたびに大きく揺れ、鮮やかな薄桃色の小さな乳首が痛々しいほどに震えてい
る。 幼さを残したような薄い肩と締まっ胴の割に、意外と発達した腰と太腿の豊かな肉付きが淫蕩な感じをあたえるその女は、やがて股間
に掌を差し込み自慰をはじめた。豊かな腿を閉じたり広げたりしながら、憑かれたようにせわしなく自慰行為に耽る女の掌の動きによってし
だいに昂められていく様子は、女の冴子には、まるで自分が田宮の目の前で淫らな行為を強いられているような自虐めいた興奮を感じる。           

              
 田宮の掌がいつのまにか冴子の膝に置かれて、ふと気が付いた時その掌は膝のあたりから腿の付け根にかけて、ゆっくりと羽で刷くような
愛撫が繰り返されていた。ふたりが居る炉の辺りの照明は今は消されて、舞台の反射光が弱く届いているだけだから、舞台の女からも、どこ
からか見ているであろう照明係の裏方からも気付かれる心配はない。                       
 舞台では白い豊満な肢体をくねらせながら女がしだいに昇り詰めている。滑らかな肌が艶やかに輝きはじめたのは、汗のせいらしい。苦痛
のように眉根に皺を寄せ、小さい奇麗に並んだ皓歯の奥から、蛇のようにちらちらと血色のいい舌を出して喘ぎ始めている女 は、やがて切
なさそうに声をあげはじめた。女の太腿の筋肉が細かく痙攣し、脚の指が反り返っている。大きく広げられた股
間にあてられて激しく動く女の細い指先が体液で濡れて光り、陰部からは乳色の粘液が臀に向かって一筋流れているのが見える。              

    

 冴子は自分の躯の奥からも、あの女がいま感じている官能の疼きと同じ衝撃が奔るのを感じて我に返ってみると、いつの間にか田宮の掌が
丹前と浴衣の合せ目から侵入しじかに冴子の脚を愛撫しているではないか。それも既に男の掌は、冴子の太腿の奥深くにあって叢を、感知出
来るか出来ない程の微妙な撫で方で愛撫していた。                                
「 いや! 止めて………」                       
 思わずあげそうになった声を殺して、冴子は男の掌をきつく押えた。冴子の手が男の手を抜き出そうとすると、鋼のような男の手にもう一
本鋼線が差し込まれたように、男の手の硬さが一層強まり、そこに固定されたような力が加わって、冴子の力ではびくとも動かない。椅子に
座ったままの腰を引いて男の手を避けようと身を引きかけて、冴子は思わず息を呑んだ。自分の花芯からは、とろけるような暖かさで、いつ
のまにかじっとりとあふれ出したものが、下穿を濡らしており、男の手が、大分以前からそれに気付いて、もう合意を得たような気安さで愛
撫していたからである。                 
 うつむいて見ると、冴子があがいたせいで、丹前や浴衣の前が開き、昏い中に仄明るさを滲ませて、強く合せた二つの太腿が露わになって
おり、田宮の浅黒い腕が、丁度冴子が無理に挟んで締め付けてでもいるように、冴子の太腿の付け根のあたりに埋没している。
 薄いナイロンの下穿は濡れたために一層存在感を失って、田宮の指の微妙な触覚をじかに触れられているように伝える。男の指先が冴子の敏感な部分に触れる

度に、電流でも通されたように冴子の躯が緊張した。 
 舞台の女が最後の絶叫を残して達した時に、照明が一斉に消され、あたりは一瞬暗黒に閉ざされた。田宮の息が冴子の頬にかかったかと思
った瞬間、唇に煙草の匂の唇が重ねられた。顔を振って逃げる間もなくその唇は去っていった。それを待っていたように、杉林の間に点々と
提燈のような昏い灯がともされ、女中が二人酒や肴を持って入って来た。二人とも年老いた女中だった。        
 「どうぞごゆっくりして下さいとの主人の伝言で御座居ます。もしよろしければ、ここにお泊りになってもかまいません。ここの設備をご
案内させていただきます。どうぞこちらへ…………」                     
 田宮だけが立って付いていった。この部屋に来てどのくらい時間が経過したのだろうかと、冴子は目をこらして左腕をたくしあげてから
、腕時計は風呂に入った時に部屋の鏡台に置いてきたことに気が付いた。夫は今あの部屋でどうしているのだろう。冴子の感では間違いなく
寝込んでいるにはずだ。夫の酒に酔ったしゃべり方や顔の赤さ潤んだ目の様子から判断出来る。万一起きていたとしても、夫がここへ田宮と
来ることを勧めたのだからどうということはない。冴子はそう思うとにわかに華やいだ気分になった。新しく来た銚子を取り上げて、独り杯
に酒を満たしてあけた。

 咽喉から食道を過ぎる酒の刺激に、いい知れぬ退廃と甘さを感じた。                               
 それにしても間違いなくこの宿の人達は自分と田宮を夫婦と信じ込んでいる。十八歳も違う夫と自分の年令差を見れば、常識的には田宮と
自分の夫と判断されてもしかたのないことだが、ここへ案内された時、夫も田宮も間違いをたださなかったのはなぜだろう。夫は、自分とい
う妻を絶対的に信じているのだろうか。それとも田宮にそれほどの信頼があるのだろうか。それにしてはいままでの田宮の冴子への態度は夫
への背信そのものと言わざるをえない。こんな刺激的で猥褻なショーと二人だけの密室のような場所へ行くとは知らなくて、そこらにある旅
館のバーだと思っている夫としては、別にそれほどの配慮をする必要を感じなかったのかも知れない。
 先程女中が、今夜ここへ泊まってもいいと言っていたが、どこにそんな施設があるのだろう。そんなことが出来る訳はないが、もし面白く
快適な施設があるのなら、夫を起こしてつれて来てもいい。一般的なあの旅館らしい部屋よりいいかも知れない。そんなまとまりもないこと
を冴子が考えていた時、目の前の杉林の中から突然田宮の丹前姿が現われた。            
 「奥さん、これは面白い所ですよ。来て見ませんか」           
 白砂の庭に照明を浴びて広い額に垂れた長い髪を振り上げ白い額の艶やかな肌を輝かせながら、濡縁に立つ冴子を見上げてにこやかに言う
田宮の全身から、若い男の精悍な息吹が匂い立っていた。 
  1. 2014/12/02(火) 15:17:32|
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花 濫 第4章異常な契約

 あの時すでに夫と田宮の間では、ある契約がすでに成立していたに違いない、と冴子は考えていた。
自分の妻をほかの男に抱かすという異常な夫の心理も、今では理解出来るが、あの頃は、もし夫が田宮を唆したのだと
すれば、夫が発狂したとしか思えなかった。だからまさか夫が承知の上で田宮に自分を与えたとは思いもよらなかったから、
田宮と自分のあのときの行為は、単に二人の中に沈潜していた、圧せられた欲望が、あの異常な場所と踊りに触発されて、
噴出し、抗し難い状況のなかで起きた出来事だったと、冴子はその後もそう信じて、夫に対して背信のおののきがしばらく
消えなかった。                
 横で夫のすこやかな寝息が規則正しく続いている。眠れぬ苦しさは、躯をじっとの横にしているだけで、関節にしだいに
痛みがあらわれ、躯全体が運動を要求してくる。その悶々とした思苦しさをやわらげようと、冴子は俯伏せに寝返りをうって、
枕に顔を埋めた。目を閉じているだけのことが苦痛なほど頭が冴え、躯が火照ってくる。口も枕にくっつけているので、自分
の熱い呼吸が頬にねばっこくあたる。その生暖かさの中で、田宮に初めて犯された、あの夜のことが鮮明に思い出されてく
る。
 田宮に連れられて、杉林の奥にわけ入ったと思うと、林は奥がなくて、その向こうには自然石造りの大きな池のような温泉
の浴槽があり、まわりいは樹木が植えられていて、庭園のようになっている。
その奥にはまた杉の林があって、林の下に白い麻の天蓋を持った大きなベットが備え付けられている。
まるで森の中のキャンプ場に来たような気分にさせる。池の縁にある簀の子の板の上に上がった田宮が、         
 「僕、ひと風呂浴びますよ」                       
 冴子の視線にも動じることなく、田宮が丹前と浴衣を思いきりよく脱ぎ、さすがに下穿だけは冴子に背を向けて脱ぐと、水
泳の格好で勢いよく池に飛び込んだ。かなりの深さがあるのか、湯のなかにしばらく潜って、冴子から随分と離れた八手の
茂みの下にぽっかりと浮上り、子供のような笑顔をほころばせながら、   
 「一緒に入りませんか? あのベットの中で脱いでくるといい。バスタオルもあの天蓋の中に用意してありますよ」                   
 「いやよ! どこから見られているかわからないもの」           
 「この広い温室に居るのは奥さんと僕だけですよ。先程の女中も、あと何かあったら電話で読んで下さいと言って帰ってい
ったから、もう誰も居ません。さあ、入りましょうよ。誰にも遠慮することはない」                
 「だって、貴方がいるじゃないの。あたし恥ずかしいわ」         
 「僕は眼鏡を外したから、ほとんど見えません。安心して下さい」     
 冴子の気持が揺れた。酔いのせいかも知れないが、この広い温室の中に、若い男とふたりだけ閉じ込められている現実が、
妙に心の昂揚を促し、高い崖縁に立って、真下の大海に飛び込めと、どこかで呪詛されているような誘惑を押え切れないよう
な心境になっていた。それは若さの押え切れない冒険心の誘惑であり、冴子の熟した肉の潜在的な需めのようでもあった。              
 「あたしに触らないことと、お湯に入るまで向こうを見ていて下さると、約束する?」                                
 「ええ約束します」                          
 「本当よ…………」                          
 冴子は心を決めて天蓋のベットに入り着衣を脱ぎ、大きなバスタオルで躯を包んでから池に向かった。
田宮は隠れん坊をしているいたずら子のように、八手の大きな葉の下で、向こうを向いて立っていた。
 痩せて貧弱な肉体を想像していたが、痩身には、思いもかけず、隆々とした筋肉の膨らみが、帯を巻きつけたように、腕
から肩や胸、大腿部にあって、躯の動きに、それが別の生き物のように躍動している。                              
 池の縁でバスタオルを外して、肩足を湯入れた瞬間、田宮がふいにこちらを帰り見た。八手の向こうの昏がりに温室の硝子
があり、さきほどから冴子のバスタオルに包まれ躯が映っていた。池の縁で冴子が、そのタオルを開いて裸身を露わした。
 鏡の中でも、真っ白に映っているその裸身は、小柄ながら起伏の多い女の躯の特長を豊かに現わしている。股間の翳りと
両の乳房は手で隠しているが、
 豊かな乳房の裾は隠しようもなく溢れ出し、蜂のような胴のくびれや、張り切った腰の線など、全体に一つの崩れもなく熟
しきって匂い立っていた。
 前にマッサージをした時想像した通りの柔和な中に弾力を持った肉置きの豊かさが泛かび上がっていて、羞恥を全身にた
たえているその姿態は、田宮には甘美な美食がそこにあるような誘惑に、思わず生唾を嚥み込むような激しい誘惑をおぼえ
ていた。
 田宮はゆっくりと湯の中に身を沈めると、水中を潜り泳ぎしながら冴子に近付いた。濁りのない湯の中に、冴子の下肢が
白く揺れていた。折った片方の足の上に豊満な臀を載せ、もう一方の足は閉じるように膝でまげて立て上にタオルを乗せて
陰部を隠している。わりあい深い池で、しゃがんむと冴子の顎まで湯がくる。潜った田宮の目に、水面を警戒して片腕で乳
房を覆っている冴子の大きな乳房と幅厚の脇腹、ぬめった柔らかそうな下腹のあたりが、大きな深海魚の白い腹のように輝
いて見える。                           
 冴子は夢中で湯に入り、ふと田宮の姿が消えているのに気が付いて、どこに隠れたのかと湯気の靄の奥を探していると、
突然、目の前の湯が盛り上がり、黒い髪に次いで褐色の田宮の裸身が目と鼻の先に浮かび上がった。思わず悲鳴を上げ
てタオルで胸を覆った冴子の前で、垂れて水滴を流している髪を振り上げた田宮の顔がいたずら小僧のように笑っていた。                 
 「びっくりするじゃないの。ああ、驚いた…………」            
上気して薄桃色に目許が染まった顔に掛かった湯を掌で拭いながら、怒った表情で田宮を見上げる冴子に、                       
 「ごめんごめん。奥さんの美しい裸は湯の中からでもないと、ゆっくり拝ませていただけないと思って、思い切って潜って
みたんです。いやあ奇麗でした。まるで人魚のようでした」                         
 「いやーん。そんなこと言って。本当は見ちゃいないんでしょう。お湯の中なんかで見える筈ないじゃないの」                      「普通伊香保の湯は、ここの夕食の前に入った湯のように鉄分を含んだ茶色い湯なんだけど、これは地下四百ネートルま
でボーリングして汲み出している鉱泉を沸かしたので、濁りの全くない透明な湯なんです」            
 「もう言わないで………恥ずかしい。田宮さんて、そんな不良先生でしたの?」 
「美しい女性の躯をめでるためには、どんな危険でも冒すのが男というものです。私も男のはしくれですから、奥さんの美
しさには以前から惹かれていましたから、この際つぶさに拝見させて貰おうと決心したわけです。本当は触れたいし奥さんが
欲しいけど、それをすると奥さんの言われる不良になりますから我慢して止めました」                             
 悪びれる様子もなく言う田宮に、冴子は今更慌てて全身を湯の中で縮じめて、羞恥の顔をタオルで隠した。長い髪をたくし
上げた青白いうじなにほつれ毛が数本絡んでいるのが、田宮の男心をそそった。                 
 「湯に暖まった直後に、例のマッサージをすると効果がとてもいいんです。僕は上がっていっぱいやってますから、ゆっく
り暖まって、あの天蓋のベットで待っていて下さい」                            
 冴子の目の前で、漲ぎった男の象徴を隠そうともせず揺らめかせて、平然とした態度で大股に、身体中の筋肉をきしませ
ながら、岸の縁に足をかけて上がって行った。
 少し背を前に屈めて小さな臀を見せ、肩にタオルを巻いて遠ざかる男の無防備な後ろ姿に、冴子は田宮の抑制に耐える苦
しさを秘めた男の憔悴を感じて、ふとあわれさを感じた。                         

 天蓋のベットで着衣した田宮が杉林の中に消えて行くのを確認してから、冴子は急いで湯から上り、天蓋のベットに走り込
むように潜った。また田宮が悪戯心を起こして、杉の幹の向こうに隠れて覗いているような気がしたからである。 
 冴子が着終るのを待っていたように田宮が現われ、天蓋の片方を巻き上げ、外からでも内部がよく見えるようにした。この
温室にはふたり以外誰も居ないが、天蓋を上げたのは冴子の警戒心を和らげるためであろうか。ベットの縁に腰を下ろしてい
る冴子に近付き、                         
 「その丹前は脱いで横になって下さい」                 
 先程の子供っぽい表情とは違った真剣な顔で命じるように言うと、自分も丹前を脱ぎ両腕の袂を巻き上げて、マッサージ
の準備にかかったと思って、仰向けに寝て、両手を腹のあたりで組んで、田宮の手がマサージを始めるのを、やや緊張し躯
を硬直させて待っていたいた冴子に近づいた田宮は、やにわに冴子の浴衣の胸に両手を添えたかと思うと、強い力で胸をは
だけにかかった。       
 「あっ! 止めて! 」                        
 驚いて飛び起きようとした冴子の肩を、片手の強い力で押え付けたまま、田宮は冴子の浴衣の前を大
きく広げ乳房を露わにすると、押え付けている手と広げた浴衣の端を掴んだ手を器用に使って冴子を俯
きに転がせた。
その際に浴衣は冴子の肩から皮を剥ぐように、くるりと脱げて、上半身が露わになった。冴子は俯い
たまま両手で乳房をかばっていた。                    
 田宮がどうして突然狂ったような凶暴さで、浴衣を脱がせにかかったのかと気が動転しているうちに、いつの間に浴衣の細
帯を解いていたのか、田宮の手が猛烈な力で腰までずり下がっていた浴衣を上に引いた。一瞬、冴子の腰が宙に浮いたと思
った瞬間、浴衣は冴子から抜け出て、田宮の手に残った。
 小さな下穿だけにされた冴子が、再び起き上がろうともがいたが、田宮が上から肩に掛けた手をに力を込めて俯いた冴子
をそのまま押え付けたので、冴子は枕に顔を押し付け、腰を持ち上げた奇妙な格好になった。その盛り上がった臀部をわず
かに隠していた下穿を、臀に手を当てた田宮が、果物の皮を剥くように、するりと膝までずり下げた。                                 
 「御免なさい。この前言ったと思いますが、裸にならないと壷がよくわからないんですよ。奥さんに言っても脱いでくだっさ
らないと思って強硬手段に出ました。心配しないで下さい」                        
 冷静に言う田宮の声を上で聞きながら、冴子はどうしたらいいのか迷っていた。ともかく顔を枕に押し付けて羞恥を隠し、両
足をきつく合せて、全身を硬直させていた。                                
 「さあ、力を抜いて下さい。こうすると、骨の位置と筋肉の状態がよくわかります」                                 
 田宮の掌が、後頸の肩の付け根の左右に置かれ、背骨に沿って何かを探るような微妙な指の動きをさせながら、しだいに
下がっていく。腰骨のあたりから指は左右に別れ、腰の側面を撫でさすりながらさらに下がっていった。冴子の四肢が次第に
硬直の度を増し、躯が小さく痙攣しはじめていた。腰から太腿の外側を下がっていた田宮の掌が、突然尾底骨付近にかかり、
菊門を撫でた。      
 「止めて! どうしてそんなことをするの………」            
 返辞がなく、腰を振って田宮の掌をかわそうとする冴子の臀を、両手で上から布団に押し付けた。その力の入れ方にこつ
があるのか、急に腰のあたりの筋肉が溶けたように力を失い、代りに躯の奥から痺びれるような快感が腰部に奔る。ああ、
と枕に押えた口から声が出た。白く滑らかに盛り上がった臀のふくらみを突くように田宮の指が押していくと、それが壷とでも
言うのか、押された部分から電撃のような快感が冴子の躯を貫き、思わず嗚咽が出そうになる。指は微妙な強弱を含んで、
臀の膨らみから太腿へ移り、内腿へと進んで来る。早く止めさせなければと冴子は思いながら、起き上がろうと身をよじよと
する瞬間、次の指が思わぬ躯の場所を突いて、全身の力が抜ける。                
 何時の間に俯向きから仰向けにされたかわからなかったが、乳房からも股間からも、我慢出来ない快感の放射が躯の内部
に向かって無数に突き刺さっていた。閉じた目の中に、閃光がはしり火花が散っていた。

  ただの愛撫ではない。電流が通じているか強烈な媚薬でも塗布しているとしか考えられないような田宮の指が、冴子の躯
のどこかに触れるたびに、そこから耐えられない快感が爆発する。十本の指先が冴子の躯を縦横無尽に動き回り、その箇所
から次々と絶え間なく湧き起こる快感に冴子は完全に忘我になっていた。もう抵抗する気力も失われ、朦朧とした意識の中で、
ただ無数の官能の稲妻だけが鋭く鮮明な矢光となって眼底を交錯していた。                              
 その魔法の指が冴子の敏感な陰核に触れ、もう一つの指が体液のあふれ続けている冴子の膣に挿入された。膣の奥の方
にどんな感受性を備えた場所があるのか、田宮の指が奥深く侵入し探り当てた場所を
ゆっくりと撫でると、そこで激しい官能の放電が音を立ててが起こり、冴子の躯が痙攣を起こして弓なりに引きつった。
 「あっ、いい………。もう、どうなっているのかわからない。………わからない」                                  
 うわごとのように言う冴子に、                     
 「いいから、心配しないで任せていればいいんですよ。なにも考えなくて、もっと気持よくしようと、そればかり考えなさい」              
 田宮の低い力強い言葉が遠くから余韻を含んで呪詛のように、かすんでいく冴子の耳に聴えていた。
杉林の陰から夫が、自分達の様子を充血した目で、盗視していようとは識るよしもなかった。     
  1. 2014/12/02(火) 15:19:44|
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花 濫 第4章異常な契約2

 惣太郎は田宮が急ぎ帰って来て告げた通りの時間と場所に、杉林にはいったい。 杉林の端からは、天蓋のベットの薄青
の麻のカーテンの編目の一つ一つがはっきりと見えるほどの近さだっから、田宮にいたぶられている妻の白い躯は、毛穴から
吹き出た汗の粒まで見えた。斜め向こうに向いて仰向けに寝ている妻の裸体は、上体をやや横に曲げて妻の横で片肘を付い
いる田宮の頸を上げた両腕でしっかりと抱いている。
上げた腕の付け根から汗ばんだ脇腹が乳房の側面の厚みと重さを含んで、激しく喘いでいる。その脇腹につくほど大きく曲
げて開いた白鳥の羽ばたきのように見える白く輝く脚の中心の翳りでは、田宮の指がせわしなく動き続けている。妻の右足の
踝に田宮が脱がせかけた下穿が白いリボンのように引っ掛かって田宮の掌の動きを誘うように揺れていた。           
 田宮の浴衣が剥れかかって、筋肉質の下半身が剥き出しになっている。男らしい締まった堅い肉質の田宮の右脚が、冴子
のしなやかな左脚に絡んで冴子が腿を閉じるのを防いでいる。一体田宮の指は妻の体内でどんな動きをしているのだろう。
妻の躯が時々、強烈な電流を流されたように突然痙攣してのたうち、それと同時に耐えられない嬌声が、嗚咽のように聞こ
える。            
 田宮の掌が頸に掛かっている冴子の片手を取った。あまり懸命にしがみつく冴子に苦しくなったのかなと惣太郎が思ったが、
それは間違いであることがすぐにわかった。田宮はその掌を自分の股間に導いたからだ。よく目を据えて見ると、陰になった
昏い田宮の股間に何か太い木根の切株でも挟んだと見間違うほどの太さと長さの陰茎が隆々と聳えていた。
惣太郎は今まで見たこともない巨大な陰茎に思わず息を呑んだ。冴子の白い掌がおびえたようにそれにおずおずと巻き付い
ていったが、わずかに亀頭とその下部を覆っただけで、大部分は冴子の小さな掌からはみ出している。それでもけなげに冴
子の掌はその巨大な黒々と聳え立つ陰茎をゆっくりとさすりはじめた。青筋を浮かべて濃茶色の硬さに漲ぎる陰茎に廻し切れ
ない冴子の真っ白い指が絡んで、亀頭溝部の襞のあたりを人さし指の腹で撫でている。新婚の頃、惣太郎が教えた愛撫の
方法を忠実に守っている。
惣太郎は自分が今冴子にそうされているような錯覚を感じていた。冴子の白い五本の指が隠微な動きで陰茎をゆっくりと上
下させる。その手が陰茎から離れると、こんどは陰茎の腹側を二本の指の腹で、上からゆっくりとなどるように陰嚢に向かっ
て撫で降ろしていく。慣れた動作である。
 だが惣太郎は妻のそんな動きを今まで見たことがないし、教えたこともない。一体いつ妻はそんなテクニックを誰に教わっ
たのだろうか。                           
 思いがけぬ妻の動作に、突然水中に墨のどす黒い汁が垂れ落ち広がっていくような疑念が、惣太郎の胸の奥からわきあ
がってきた。田宮と妻との間を今まで疑ったこともないが、実は今日のことも、自分が田宮をそそのかして企んだことと思っ
ていたが、本当はふたりの間には前から関係があって、自分の方がふたりの共謀にうまく載せられたのだろうか。                  
 しかし先月末、田宮の夫婦でマッサージをしてもらった時に、恍惚とした冴子の表情となまめいた冴子の肢体に衝撃をう
けているうちに、ふと呪詛のように田宮に冴子を犯させることを思い付き、学校の帰りに田宮を居酒屋に誘って、この計画を
打ち明けた時の田宮の驚愕の表情と拒否を表明したあの態度は、どう考えてみても自分を騙すための虚偽とは思えない。
 またあのマッサージをしている時の、田宮の紅潮した表情や冴子の困惑した態度にも、既に情を通じ合った男と女の慣れ
合いは微塵も感じられなかった。
 第一大学の学生時代から知り抜いている田宮の一本気で清廉潔白な性格が、自分という恩師の妻を寝取るようなことが出
来る筈がない。
 万一、なにかの弾みでふたりがそうなり、妻が必死に隠すことを求めたとしても、田宮は今の社会的地位を捨てて妻を連れ
て自分の前を去るか、独り消え去るかしなければおさまらない性格である。            
 酒場で酔わせて田宮をくどいた時も、自分が酔っていると思い、全く相手にしなかったのを、もう自分は老いて妻を楽しませ
てやることが出来なくなった。冴子があの若さで、どんなにか辛い想いで孤閨に耐えているかと思うと不憫でならない。しかし
これだけは代理の男を与えるというわけにもいかない。
 最近では妻が自分に内緒でもいいから、格好の相手を見つけてくれればいいと思うことさえある。だがそれは妄想であって、
もし実現したとしたら、妻を本気で真実愛している自分は、妻が自分を捨ててその男と出奔するのではないかという恐怖に発
狂するかも知れない。                           
 まだまだ若い冴子を、これから一生孤閨の悶々で生涯を終らせることへの苦しみと、冴子を離したくない苦悩との狭はざまに、
ここしばらく自分は苦しんできた。そして自分は、あの君が冴子にマッサージをしてくれた時の、君と冴子の表情を見て、はっ
と黎明のように絶好の解決方法を思い付いたのだ。
 
 それは君が冴子を慰めてくれることだ。これは前から気が付いていたのだが、君も冴子に悪い感情は持っていないし、冴子
もそうだ。その上、君はいつか話してくれたように、君はアメリカに内縁の妻を残して帰国した。別れるためではなく、あちらで
日本文学の教授となるために、日本で三年間の教授生活
を送る必要があったからだ。あと二年すれば君はアメリカの大学に復帰することが約束されており、父親の看病のために来日出
来なかったあちらの奥さんと、君が帰国直後に生れた二世との生活が待っている。                           
 もし君が、アメリカにいる奥さんに背信行為だからと、拒否するのならはっきりそう言ってくれ。だが、この間君が言っていた
ように、孤閨の辛さに女を買っている、というのが本当なら、同じ孤閨に苦しんでいる冴子と結ばれれば、一挙同得ということ
になる。自分も、冴子の相手が君ならば、自分の分身のようなものだからうれしいことだ。                        
 懸命にくどいても、なかなか承知してはくれなかったが、最後にやっと本心を申し上げます、と告白した内容は、前から冴子
さんが好きだったということだった。先生が真実そう思い、許して下さるなら、自分にとって夢のような話しである。そうなっても、
奥さんを奪うとか先生ご夫婦に反抗するとかいうことは決してしませんし、二年後には、どんなことがあってもアメリカに帰り、親
子三人の生活を築き上なければなりません。背徳のうらめたさは残りますが、自分にとって、このお申し出を拒否することは、
きっと将来消えることにない遺恨になると思います。                                 
 あの時の田宮は、何度思い出しても虚偽の態度ではない。そうすると妻はほかに男が居たのだろうか。
  いや、冴子に限って決してそんなことはない。第一そんな男に近付くチャンスさえ冴子にはない。後はロンドンに行った浩二だ
けだ。浩二を冴子は最初弟のようにかわいがっていた。浩二が大学を卒業した頃からふたりの間に、男と女の感情が生れかけ
ていたことは感じていたが、浩二はロンドンに去ってしまい、お互いに成就する機会はなかった筈だ。          
 惣太郎は目前で、自分以外の男にいたぶられている妻を、まるで初めて見る女のような感慨で眺めていた。たしかに妻の躯を
こんな角度で眺めたこともなければ、もちろんほかの男と絡んだ妻の裸身を見たこともない。若い男の手練手管に翻弄されなが
らも敢然と応じ、それどころかさらに需めるように腰を揺すって訴えかけている妻の裸身に、惣太郎は飼犬に手を噛まれたような
激情を覚えていた。

知らなかった妻の一面を見たような気もしていた。男の対として創られた女は、男と肌を接し愛媾状態になってくると、知性とか
教養とか理性とかは生理的にすべて消え失せて、本能のおもむくままに、丁度磁石の南北が永劫に互いに引き合うように男の肉
を需めるようになるのかも知れない。
  強姦の時でさえ女は最後には感じて男にすがりつくというではないか。それが女の宿命的な悲しい性だ、ということは惣太郎
も知っているが、自分の妻が、夫である自分のことも忘れ果てて別の男にすがり付き、こともあろうに欲望にみなぎった陰茎を自
ら愛撫する現実を目のあたりにすると、いいようのない衝撃が躯を貫く。         
 今先の憤怒した田宮の陰茎を慣れた様子で指でなぞっていたように疑って見えた妻も、今はただ真空の脳裏に性の本能だけが
充満していて、夫の自分も他人の男も区別がつかなくなり、無我夢中のうちに男の陰茎を需めていたのではないだろうか。                                 
 きっとそうに違いない。落ち着いた慣れた動作で陰茎を指の腹でなぞったのは、妻がどこかで教えられた淫猥なテクニックなど
というものではなく、単なる偶然のしぐさであったのだろう。きっとそうに違いない。惣太郎はそう思うことで、やっと納得し、自分
自身安堵し、高ぶってはいけない、と自分の気持を制した。
 今は互いに唇をむさぼり合い、互いの陰部を愛撫し合いながら、しだいに昇っていくふたりの蠢く姿態が現実のものとも思えな
い妖々しさで惣太郎には見えていた。                                
 接吻していた田宮が、ついと頸を上げて惣太郎の方をちらりと視た。合図である。惣太郎は丹前に忍ばせたライターを思わず
握り閉めた。その手が汗に濡れていた。もう一度田宮がこちらを振り向いた。
 今ライターの灯を付けなければ、もう取り返しがつかない。そう思いながらも丹前に懐に入れた手はどうしても依然として動か
ない。そればかりか惣太郎の胸中に思いもかけぬ嗜虐の快感がめらめらと蛇の舌のゆらめきのように燃えはじめてきた。今度は
しばらく、じっとこちらを視ていた田宮が、決心したような表情で喘いでいる冴子に向きなおり、上から唇を押し付けるように接吻
しながら、片手で自分の腰紐を解いて浴衣を脱ぐと、何か冴子の耳元で囁いてから冴子の上に覆い被さっていった。      
 惣太郎の視ている側からは、重なったふたりの表情は見えないが、広げられた冴子の股間に、巨大な陰茎に手を添えた田宮が
侵入口を探しているのがはっきりと見える。
冴子の溢れた体液を、亀頭にたっぷり塗り付けてから、冴子の体液にてらてらと光る裂けんばかりに張り切った陰茎を真直ぐ膣口
にあて腰に力を入れた。信じられない力で冴子の淡い桃色の粘膜が押し広げられ、張り切った亀頭が呑み込まれていく。                   
  1. 2014/12/02(火) 15:20:19|
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花 濫 第4章異常な契約3

 「あっ、あっ、ああ…………」                     
 冴子が澱んだ空気を切るような叫びをあげた。あんな巨大な陰茎が、自分しか知らず、まして子供を生んだこともない冴子の膣
に納まり切る筈はないと、凝視している惣太郎の目の前で、彼の巨根は蛇が大きな獲物を呑むように、苦しそうに煽動運動を繰り
返し内腿を痙攣させている冴子の胎内に深々と埋め込まれていく。いっぱいに押し広げられた膣が、さらに深く呑み込もうと微妙な
うごめきを繰り返している。

 惣太郎は自分が犯されているような衝動に襲われて、鼓動が連打し、もう断念していた自分の股間が、痛いほど漲ぎっているの
を感じ、思わずそれを自分でしごいていた。                       
 巨根は田宮が腰に力を入れるにつれて少しづつ埋没し、その度に冴子はあられもない悲鳴を上げた。
 白い腕が下から差し上げられて、田宮の盛り上がった筋肉の見える背中を抱き、きりきりと爪を立てている。田宮の下で白く見え
る冴子の躯が、田宮の身体の筋肉が盛り上がるたびにはげしく痙攣し、横にあふれていた長い髪が漣立って震えている。                      
 目の前に、妻が下になって、ぴったりと身体を合せて折り重なって抱き合い、股間は巨根が妻の秘所を極限まで拡張させて埋没
している。繋ったままのふたりは、腹部だけ荒い呼吸に波立たせてじっと動かない。時々、妻が「うん……」とか「はっ…」という、
短い声を上げ、わずかに身をくねらせている。
 冴子の胎内の粘膜と陰茎が微妙な動きと刺激に、互いしか分からない会話を交わしているのだろう。
 時々結合部分がひくひくと微妙に蠢き合っている。視ている惣太郎は、今まで自分も田宮と一緒に冴子を犯しているような錯覚を
覚えていたのが、その微妙な感触がわからない焦燥感に身を揉む一方で、生れて初めて若く逞しい男の巨根を捩込まれて、妻は
一体いまどんな快感を感じ、どんな感情で陶酔しているのだろうか、と妻が今の瞬間味わっている官能の響きを自分も一緒に感じて
いるような錯覚にも襲われる。                        

 広い額に髪を垂らし、眉根に皺を寄せ、苦痛の表情で妻に接吻している田宮が、いま妻の奥深くに埋没して感じている妻の躯の
あふれ方や柔らかさや熱さや包み込む力の強さ、そして微妙な収縮の痙攣が彼の亀頭に与える快感の具合も、また自分の分身の
ような妻が味わっている、田宮の巨根の埋没による膣の拡張感、子宮の圧迫感、陰核の快感、そして男の脈動の刺激が粘膜に伝
わる感触も、妻の躯のすべてを知り抜いている惣太郎には、手に取るようにわかる。惣太郎はいま妻を媒体として、性交時の男と
女双方の官能の業火に同時に身を灼かれるという異常な体験に我を忘れていた。                       

 しばらく深々と埋まったまま、肉の会話を楽しんでいた田宮の陰茎がゆっくりと抽送を始めた。                             
 「あぅっ、ああ………」                        
 田宮が動き始めると、妻が突然激痛でも受けたような叫び声を上げて喘ぎ始めた。自分との場合に妻がこんなに最初から声を出
すことはない。やはり田宮の壮大で硬度を維持した男根は、とてつもなく激しい刺激を妻にあたえながら妻のすべてを席巻していくの
だろう。注意して視ると、冴子の陰部からは田宮の巨根が抜き出されると、愕くほど多量の体液が流れ出て股間を筋になって流れ、
肉柱の侵入時には陰嚢にそれがべったりと付いて、猫が水を呑むような音を立てている。

 冴子は鮮烈な快感に我を失っていた。最初田宮の巨根を掴まされた時には、それが入ったら壊れてしまうような恐怖に駆られたが、
実際に埋没してくると、ずんと重い衝撃が秘所に奔った。その衝撃が痛みに変わって、引き裂かれる恐怖に悲鳴を上げた。それに
気付いた田宮が奥深く入ったまましばらく静止して休んでくれている間に、冴子の胎内に思いがけない快感が滲み込むように広がっ
ていくのを覚えた。

 強い圧迫感を感じる田宮の陰茎に深々と貫かれ、じっとしていても男らしい力強さで脈動を伝えながら、さらに圧倒的な勢いと硬
度で膨張感を増してくる。子宮が灼けつくように熱くなり、膣がさらに強い刺激を欲して陰茎の動きを需め、いつの間にか自然に腰を
揺すっていた。田宮が動きはじめると、躯を貫くような強い快感が脊椎を奔り、目の中には深紅の霧が涌いて視覚が麻痺し、冴子
は自分が何を言っているのかわからなくなった。            

 田宮の動きがしだいに早くなった。妻がしっかりと田宮の陰茎を咥えたまま腰で円を描いている。喜悦にのたうつ妻の白い躯が光
沢をおび、腹や腰の柔肉が、硬い男の筋肉に打ち据えられて音を立てている。田宮が激しく腰を波打たせた。小さな田宮の臀が抽
送のたびに強く締まり、そのたびに妻の躯が浮きあがるように橈った。濡れて光る巨根が妻の股間でちらついた。            



 田宮が妻の脚を肩に担ぎあげて攻め出した。交合の部分が惣太郎の目にはっきりと見え出した。妻の柳眉を歪めた喜悦の顔も揺
れ動かされる妻の担がれた脚の間から見える。見覚えのある妻の秘所から体液がほとばしり出て、激しく出入りする憤怒の様相の陰
茎が、妻の体液に、ぬめった光りを放っている。
  薄い桃色の粘膜が節くれた陰茎の出入りのたびに歪んで捲れている。妻が身も世も無い風情で腰を波打たせた。思い切り突きま
くっていた田宮の陰茎が、暴れ過ぎて目標を外して抜け出て歪んだ。開いた妻の秘所からどっと体液が流れ出た。     
 田宮は妻の担いだ脚を離して正常位に戻ると、再び挿入した。妻のぬれぬれと練れた陰門が、今度は一気に根元までの挿入を許
した。妻の臀のあたりのシーツに体液が垂れ落ちている。田宮が、妻に無者ぶりついた。妻が田宮の頭を掻き抱いて田宮の唇を吸っ
た。田宮が狂ったように腰を打ち振りながら、田宮の腰の動きに合せて揺れている妻の大きな乳房を田宮の手が揉みしだく。        
 「いく! いく!」                          
 妻の絶叫が静寂を破って空気を震わせた。                
 しっかりと抱き合い、一つのリズムに同調して、ふたりの身体がひとつになって激しく躍動している。
 妻の両足は、田宮の黒く細い腰を締め付けて背中で組まれ、合さった脚首が、男の激しい腰の動きに一緒に揺れている。
 田宮が呼吸を荒げ、冴子が連続的に嬌声を発し、天蓋の中は、二人の汗と体液の隠微な湿った匂に満たされた。                             
 田宮が最後の激動の後、腰をひねって冴子の白い腹に放った。冴子の躯が、快楽の余韻を残してひくひくと痙攣している。
惣太郎は、ふたりの最期を見届けた時に、自分の躯が妙に弛緩したのを覚えて、思わず股間に手を入れた。ふたりと同時に自分も果
てていたのだった。                    

 二人が愛撫を交わす前に、惣太郎がその時の冴子の様子を見て、それ以上の行為に進ませるかどうか判断し、承諾ならばそのま
ま帰り、拒否ならばライターの灯をそっと点すことに田宮と約束が出来ていた。

 だから惣太郎が承諾をあたえた後すぐ還らずにこの場にとどまり、秘事であるべき二人の交接のなまなましい一部始終をつ
ぶさに視ていたことが田宮に知れたとしても、たいしたことはないが、男二人の企みも知らず田宮にそそのかされて、女の業
に無理遣り火を付けられて、無我夢中で悦楽に狂奔した妻には、それだけで生まれて初めての激しい衝撃を受けているのに、
まして夫がその一切を盗視していたという事を知ったら、本当に発狂するか卒倒しかねない状態に陥ることはたしかである。
 
そのために惣太郎は終焉を迎えた二人を残して消える必要があった。ふたりで一つの業火に飛び込み、
一体に溶け合って、歓喜の苦闘と狂乱のエクスタシーに身を焼き焦がした二人は、いま終局を迎えて、その余韻を互いの身
体で愛惜しながら、弛緩して折り重なっている。田宮の浅黒い身体が、弛緩して両腕をシーツの上に投げ出した妻の白い躯に
覆い被さっていたのが、死体が投げ出されたように、ごろんと妻の横にもんどりうって転がった。                

 その田宮の股間には、萎えはじめてはいるが、まだ力を消失し切っていない陰茎が、曲がり胡瓜のように頭をもたげている。
その巨根をいっぱいに含んでいた妻の陰唇は、まだ閉じ切らず、喘ぐ金魚の口のように、ひくひくと開閉しつつ、体内に残留し
た体液を滲み出させている。ようやくあえぎの治まりかけたぬめぬめと白い滑らかな下腹には、田宮が放出した色濃い粘質の
体液がしみのようにあちこちに付着して光っている。                      

 しばらくして冴子は、脚も大きく開いたまま、田宮が抜け出したままの格好で、放心状態でいたのを、やっと正気を取り戻し
はじめたのか、けだるい動作で脚を閉じ、ゆっくりと田宮の方に横臥した。
 問題はこれからだ、と惣太郎は田宮の萎え切らぬ陰茎を見ながら思った。自分と違って、若い二人のことだから、このまま
終わるとは限らない。さらに熱く燃え上がる場面が再会される可能性は充分ある。そうだとすると、この場を離れ難い。しかし
終りなら一足先に部屋に帰っていなければならない。
 
 惣太郎がそう逡巡していた時、田宮がごろりとやはり緩慢な動作で妻の方に横向きになり、上側の右腕をけだるそうに挙げて
妻の背中に回した。すると妻もそれに応じて、するりと田宮の躰にすがり付くように身を寄せた。惣太郎は戻りかけた体の向きを、
もう一度なおして杉の幹からふたりを凝視した。

 「うちの人どうしているかしら。心配だわ」
 田宮の胸の中から妻のくぐもった声が聞こえた。小さいが意外にはっきりした声だった。                               
 「先程部屋に還った時、大きな鼾をかいて寝ていたよ。咳払いを何度かしてみたけど、全く気付かない
ほど、よく寝ていた」
 田宮は真実そうに嘘を付いた。                      
 「それなら安心よ。お酒に酔って寝てしまうと簡単には起きない人なの。………………それにしても、
あたし達一体どうしてこんなことになったのか知ら…」

 悲嘆にくれたような妻の声だった。その声が終らないうちに妻が、あっ、と一瞬息を呑んで、小さく言った。田宮の妻の背中
に回した手が、いつの間にかさがって、くの字に曲げている妻の後ろから股間に伸びている。惣太郎からは見えないが、後ろか
ら妻に触れているのだろう。囁くような会話が途切れて、二人は横向きに寝たまま口を合せた。妻の手が田宮の肩にそっと掛か
った。浅黒い陽灼した肩の妻の真っ白な手は、最初、静かに置かれたままだった。田宮の接吻と愛撫に、拒否を示さないしる
しのような触れ方だと惣太郎は思った。       

 官能の火が消えかかると同時に正気にかえり、後悔を示す冴子に驚いた田宮が、慌てて冴子に触れたのは、まだ官能の余韻
が冴子に残っている内に、再度冴子を歓喜の業火で狂わすことで、彼女の理性を奪おうと思ったからに違いないと惣太郎は考え
た。惣太郎も田宮も、行為の後の冴子の反応までは計算していなかった。
 その後、ふたりはひしと抱き合ったままで、互いの唇を求め合っているだけである。冴子の中心に触れていた田宮の手も、今
はややまるくして横になている冴子の背中を静かに愛撫しているだけで、互いに声もない。いつまでも続く長い抱擁である。                               
 惣太郎はしだいに自分の脚に疲労が滲み出すのを感じていた。そっと、時計はして来なかったが、もう二時間近くは立ち続け
ていると思った。田宮の肩に置かれていた妻の手に力が入りはじめている。必ずもう一度ふたりが狂うのは時間の問題だと思った。                            
 貞淑な妻がまたあられもない姿態で狂う。今まで妻の躯の奥で眠り続けていた女の業が田宮によって目覚めたのだ。本来は、
これが健全な齢相応の冴子の性の姿だったのだ。一度の交歓さえままならぬ、自分のような初老の男しか知らなかった冴子が、
相応の男性の強烈な性を体験して脱皮した。妻はイブのように悪魔の林檎を食べてしまった。妻はもう自分など男とは思わなく
なってしまうだろうか。惣太郎は強い悔恨に襲われた。目前で、若い男に抱かれている妻が、もう自分を捨てて遠くに去った他
人のようにも思えた。馴れ果てた妻の裸身がまばゆく、悩ましく、輝いて見える。                        

 妻の少し曲げて揃えた脚に、田宮の鋼棒のよな脚が被さっている。妻の上半身だけが仰向になり、こんもりと盛り上がった乳
房を田宮の掌が揉みしだいている。一度満たされた後の愛撫は念入りで落ち着いている。浅黒く硬そうな身体と白く軟らかい躯
が複雑に密着して、ブルーの天蓋の中でうごめいているのが、突然、黒と白が絵具を混ぜたように滲んで溶け合って揺れた。
 それが自分の目眩いだと気付くには少し時間がかかった。                     

 脚が萎えるような感じで、その場にしゃがみ込みたかったが、杉の幹にしがみ付いて耐えた。幸い目眩は一度で消えたが、
惣太郎は自分の体力が、これ以上不自然な格好で立っておれないと判断した。異常な刺激と強烈な興奮が身体の調子を狂わ
せたのだろう。                          

 後髪を引かれる思いで惣太郎は杉林を出た。              
 雪の降りしきる庭に面した渡り廊下で、しばらく冷たい風に身を曝していたら、身体がしゃんとしてきたし、安酒に酔ったよう
に頭に溜っていた悪い血も下がって、悪夢から目覚めたような気分になった。                

 部屋に帰るともう十二時を過ぎていた。呑み残した冷酒を湯呑みに注いで独酌で飲んだ。薄暗い部屋の昏い翳に、今また激
しい交歓に、汗と体液の飛沫を散らしながら、抱悶している妻と田宮の狂態の姿が妖々しく揺らめいた。岡山の山奥で、隠遁
暮らしの父と二人で、静謐の中で孤高の白百合のように育った妻は、自分と結婚してからも、挙措のうつくしい無口なたおやか
な人妻だった。その妻が見せたあの妖婦のような狂態と嬌声は、一体どういうことなのだろうか、と惣太郎は冷静さを取り戻し
考えていた。                

 いままで妻が自分に見せていた優しさ、純情さ、素朴さなどというものは、実は妻の身慣れた天性の演であって、真実は淫
蕩で放縦で没義道な性格の女だったのだろうか。どう考えても、結婚してからのこの長い歳月を隠しおおせることは出来まい。
すると妻は田宮の圧倒的な性に触発されて、突然豹変したとうのだろうか。そうとしか考えられない。性愛は肉の歓楽である。
特に女は肉愛に抗し切れない生理的な本能を備えている。                  
先程妻が田宮に囁いた言葉が脳裏に甦ってきた。性宴の狂乱から目覚めた妻は、開口一番に夫である自分のことが気にな
った。次に、どうして自分がこんなことをしたのかと後悔と悲嘆の気持を田宮の語った。

 いつもの妻に還った証拠だ。泥酔から醒めて、一体自分がなにをしたのか、どこにいるのか解らないのと似通っている。
 やはり妻は女の宿命である、性への服従という生理的欲求から狂ったに違いない、惣太郎はそう結論付けた。               
 惣太郎は改めて、冴子ほどの貞淑な妻も豹変さす女の性への陶酔の深さと、生理的貪欲さに驚嘆していた。
醒めた妻に冷静さが還るのを恐れて、田宮が妻の肉体に再度火を付けたのは、田宮の立場からすれば当然だと思った。

 我に還った妻が、事態の重大さに気づき、悲嘆と驚愕に愁嘆場を演じられたら、田宮は自分と共謀だとも言えず、収拾の方
法がない。やむなく一時しのぎであっても、妻をもう一度官能の夢の中に閉じ以外に術はな い。勿論、田宮自身も、新しい
欲望の火がおごり出したのもいなめない事実でる。                

 今夜は酒の酔いも手伝い、田宮も強靭な肉体にものをいわせて、妻を官能の檻に閉じ込めて目覚めさせないことが可能だろ
うけれども、一体明朝妻は、どんな反応を示し、自分や田宮はどう妻を扱へばいいのか。
 自分は一切知らぬ事になっているのだから、平静を装っておればよいが、田宮自身はそうはゆかぬ。冴子が夫である自分
に告白して謝罪するということも、考えられないではないが、それではこれからの夫婦生活に大きな破綻を招くことにならない
とも限らない。

 だからといって妻が田宮に傾注し切って、自分から離れても困る。惣太郎は小さな蝋燭に火を付けた筈が、突然周りに引
火し燃え広がったような不測の事態に頭を抱えた。冷酒を注ぐ手が震えた。                                                      
  1. 2014/12/02(火) 15:23:32|
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花 濫 第4章異常な契約4

 田宮と酒場で共謀をした時、田宮は別れ際に、じゃあ奥さんに、そんなことが出来るかどうか伊香保で試してみます、
と気楽に言っものだった。
自分も、それで冴子が若く美しくなれば俺も満足なんだから、と気安く答えた。
今それが悔やまれる。       

 しかし、こうなった以上なんとか事態を収拾しなければならない。一体自分は何を望んで、こんな取り返しのつかない
ことをしてしまったのだろうか。酔いが回ってくる頭で、惣太郎は前方の襖に描かれた、野菊の墨絵を見ながら考えてい
た。          
 妻に男を与えて性の深淵を教え、より女らしく美しく変貌させ、さらに妻が若い男と官能に狂う姿に刺激を受けて自分も
再起したい、というのが、そもそもの願いだった。そして事実、田宮に組敷かれて恍惚に悶える妻の姿態に、いままで妻
に見たことのない、女の美しさを見出したし、妻を犯す田宮と自分が何時の間にか融合していて、はじめて妻を抱く田宮
の心の高ぶりや、いつまでも強靭な体力にものをいわせて、さまざまな体位で縦横無尽に妻を攻める快感に陶酔し、つい
には自分も達してしまうほどであった。

多分この刺激は、どんなに美しいほかの女を抱くよりも刺激的だろうし、事実惣太郎自身、これ以上の快感を覚えたことは
ない。                           

 妻が、あんなに安々とほかの男に身体を開いたことには驚いたが、それとて自分と田宮がそうし仕向けたことで妻に罪は
ないのだから、妻が背信行為をしたと怒る気もない。それどころか、いままで味わったこともない、田宮の強壮で巨大で持
続力のある攻めを、けなげにも受容して歓喜に悶える妻の姿がなんと美しく華麗に見えたことだろう。頑張れよ、と声援しれ
やりたい衝動に駆られたくらいである。

結局は、自分という性の敗者が、健康な若い田宮という男の肉体を使って、自分の疑似行為として妻を満足させ、かつ自
分も、女が男から与えられる快感の情緒を、男でありながら心も躯も知り抜いた妻を通して受けるという、男と女の両方の官
能の歓びを同時に味わい、さらに自分の最愛の妻が男に犯される嗜虐と犯す男の加虐の双方の悦楽を甘受出来るという、

常識では考えられない悪魔の行為を思い付き実行した。
そしてめくるめくような満足すべき結果を得た、ということだ。                               
先程の発狂しそうな程の官能の刺激と興奮は、惣太郎にとって、今となっては、もう手離せない麻薬のように思われる。

今後も、妻と田宮の交歓を続けさせながら、それを盗視することによって、自分は若返りたいし、妻も満足させていけばいいの
だ。

田宮の人格など考える必要はない。
我々夫婦にとって、田宮は最良の性具であればいいのだ。彼とて滅多に味わうことの出来ない、冴子のような若く美しい人
妻との交わりが、堂々と憚ることなく出来るのだから、言うことはあるまい。妻に心粋し、愛する妻子があって性戯に卓越し、
かつ後を引かないように、一定の時期に我々夫婦のもとから必ず去る男。そして若くて、清潔で、健康で、性格のいい男。
さらには惣太郎に柔順で絶対反抗出来ない男。悪魔のたくらみを実行するには、このような非現実的ないろんな条件が満
たされた男が必要だった。

 しかし、現実にそんな条件に合った男が居る筈はない。惣太郎は、妻をほかの男に抱かせるということは、非現実な空想
の世界の出来事として、思いの中でだけ楽んできた。そうした頃、惣太郎は互いの妻を取り替えて媾交するという夫婦交換の
雑誌を書店で見つけた。雑誌には、夫婦交換を希望する大勢の夫婦の妻達の、様々な姿態を露わにした写真が掲載され、

また実際の性の交換体験が微細な表現で生々しく書かれていた。
現実に、自分の想いを実行している者がこんなにも居る。
自分の想いは夢ではない。夫婦交換誌との出会いは惣太郎のとって衝撃的な事件だった。大学の教授である惣太郎がまさか、
そんな雑誌に投稿することも冴子の裸体写真を掲載するわけにもいかないが、冴子に若い男を与えるという考えが、そのとき
以来夢ではなく、現実に可能な計画として惣太郎の脳裏にこびり付いて離れなくなっていた。                       

時計が一時をさしても田宮と冴子は帰ってこなかった。酒は大きな銚子に五本も残っていたのに、もう最後の一本だけになっ
ていた。こんなに呑んだのは久し振りだが、まだ酩酊はしていないぞ、と惣太郎は自分につぶやいた。一人で部屋の布団の
上で呑む酒は、動くこともしゃべることもないので酔いの程度を判定する基準がなかった.

………それで、やっとその条件に適合した男として田宮を選んだのだ。………いや違う。田宮が妻のマッサージをしたあの
時に、妻と田宮の間に渦巻いた、男と女の熱い情緒を、ふと垣間見た時に、田宮の存在に気が付いたのだった。
その後、田宮に冴子を与える空想は、しだいに惣太郎の中で幾度も繰り返され、その度にしだいに現実味を帯びて来た。空
想が現実になるにつれて、惣太郎は幾度も慎重に考え抜いて見ると、それまで考え続けた男の条件を、田宮は偶然にもすべ
て兼備えていたのだ。さらに幸運だったのは、冴子も田宮に好意を抱いているということだった。

自分と妻と、そして男が、互いに好感を抱いている、という事実は惣太郎に勇気を与えた。                 
妻と田宮が、こんなに遅いということは、あれから一体、何度交わりを繰り返しているのだろう。酔いと疲れで、惣太郎の身体
は反応を示さないが、脳裏には、狂乱状態で官能にもだえている妻の白い躯と嬌声が浮かんでは消えた。

そして、三人が互いに好感を抱いていることを想い付いたことと、自分が眠っていると信じているとはいへ、この時間になっても
帰って来ない妻はもうすっかり田宮の肉に溺れ切っているに違いない。妻が、田宮に溺れれば一番いいのだ。そうなれば妻は
田宮の言うことを神の言葉にように素直に聞く。そうなれば田宮と自分で共謀すれば、妻は想うように操縦出来るのだ。       
 律儀で物事をいい加減に処置出来ない性格の惣太郎にしては、悪魔の囁きとはいえ、あまりにも放埒な気構えになってい。
冷酒の酔いが回ってる証拠だった。

 正気に返った冴子に、いきなり自省の言葉を聞かされて田宮は慌てた。前にアメリカでマッサージのアルバイトをしていた頃、
田宮好みの素敵な人妻が治療に来たのを、マッサージの技術で誘惑し犯したことがあったが、その時に理性を取り戻したその
人妻が、狂乱状態になって田宮を罵り、そればかりか自宅に帰ってその人妻の主人に告白してしまい大騒動になった苦い経験
があ
る。      

 今度の場合は、主人の惣太郎と共謀であるから、その心配はないが、今、冴子に泣かれては面倒であるし、今日はじめて
知った冴子の躯の魅力は、当分失いたくない。人妻の主人の公認で浮気出来るというようなことも、そうざらにあることではない。
このチャンスは失いたくなかった。          

 田宮は冴子をもう一度抱いた。三時近くに部屋に帰り、三つ並べて川の字に敷かれた布団の端に寝ている惣太郎に気を使いな
がら、田宮はその反対側に寝た。冴子は丹前を脱ぎ浴衣姿で、鏡台の前に座っていた。深夜の室内には惣太郎の鼾が、規則
正しく獣の咆哮のように響いていた。

 髪を梳く冴子の白い二の腕が、肩の付け根まで捲くれた浴衣から抜きん出て、弱い明かりにむちりと白く浮き出ていた。まだ
血の色が消えない鏡のなかの顔は、ほんのりと目許に朱がさし、上気した頬が余韻の火照りを残している。布団に入った田宮
が、横臥して、鏡の中の冴子と目だけで話し合っていた時、突然、轟くような地鳴りの音が静寂を破った。鏡が少し揺れ、そ
中の驚いて櫛を取り落とした冴子の顔が恐怖に引きつって一緒に揺れていた。
 冴子が小さく悲鳴を上げた。                       
「屋根から雪が落ちた音だよ」
 囁くように言ったつもりだったが、惣太郎の鼾が、つっと止んだ。

 冴子が慌てて立ち上がり電気を消して、真ん中の布団に潜り込んだ。暗闇のなかで、冴子の寝化粧の匂いが、微風に混じっ
て甘く漂った。惣太郎の鼾は止んだままだったが、規則正しい寝息が続いていた。起きている気配はなかった。

 暗黒の中で田宮はなかなか寝付けなかった。疲れ切ったような気もするが、体内にはまだ消化し切れない欲望が渦捲いてい
る。すぐ隣に寝て、息を潜めているように身動きもせずにいるらしい冴子に、食べはじめを中断された馳走を目前にした食欲の
ような焦燥をを感じていた。

 田宮が冴子をはじめて見たのは、まだ学生の頃で、調布の古刹のような屋敷を訪れた時だった。
 屋敷のまわりに幾本かある欅の大木が、緑の霞のような新芽を萌え出しはじめた季節だったと思う。早春の麗らかな陽の中か
ら入った昏い玄関に、大島紬にき黄八丈の帯をしめた、うら若い女が出迎えた。磨かれた一枚板の鈍い反射の上に、背後の庭か
らの光を背負って正座して掌を付いた挙措の美しい女が、学校で話題になっている惣太郎の新妻であった。

 抜けるように色の白い女で、瓜実顔の伏せがちの目に、長い睫が美しく震えているが、どこか尼僧のような冷やかさが漂ってい
た。その冷たさは処女の青さのようでもあり、また湿り気のない冷淡な女のようにも見えた。
少なくとも、当時の二〇才の快活な田宮達には似合わない陰湿な女だった。その後も何度か田宮は冴子に会っているが、彼女
の印象は、初対面の時と変わることはなかった。

 冴子の変貌振りに驚かされたのは、アメリカから帰国した二年前の夏だった。帰国の挨拶に訪問した時、別人のようにぬれぬ
れとした黒い瞳が、男心を誘うように輝き、表情も明るく豊かになっていた。ピンクのノースリーブから抜きんでた腕がむっちり
と艶かしく、大きく開いた胸からこぼれそうな乳房の膨みが、思わず生唾を呑み込むほど妖艶である。ミニスカートの裾を圧倒
してのぞいている豊かな肉付きの太腿や引き締まった脛も吸い込まれるような白い光沢に輝いている。古いくすんだ部屋に、そこ
だけ明かりが灯ったような冴子の輝きに、田宮は驚愕の目を離せなかった。

 それ以後、田宮はアメリカに残してきた妻子への恋情を忘れがちになっていた。惣太郎の家にいき、冴子に会うことですべて
が慰められた。        
 惣太郎から今回の共謀の申し出を受けた時、躊躇した理由は、冴子は欲しかったが、なぜか冴子に憐憫の情を抱いたからだ。
狡猾な惣太郎の性の餌食にするには、冴子はあまりにも清純過ぎるように思えた。たしかに成熟した女のしたたるような瑞々しさを
たたえた冴子の躯は、田宮を魅了してやまないが、野菊のように素朴で清純な冴子の心を思うと、そんな冴子を蹂躙しようとする
惣太郎の汚さに怒りを感じたし、躊躇しながらも押え難い誘惑に駆られる自分にも嫌悪を感じ
たからだった。                  
 
 しかし、あの酒場で惣太郎が熱心に口説く言葉に、田宮は妻を愛する夫の真実の姿を垣間見た気がしたし、肉体の衰えに憂悶
する男の救いの声も聞いた。
 よく考えて見れば、冴子の美しい心だけ何とか解決すれば、三人三様に悪いことではない。

 そう考え始めていた矢先に、田宮は惣太郎の家で冴子にマッサージを施した。その時の冴子の恍惚の表情に、冴子が素朴で清
純なだけに、惣太郎とうまく共謀すれば、冴子の心を瑕付けることなく、実行できる自信を感じた。
 まだもの心もつかぬ少女を籠落するのに似た痛みは残ったが、それも彼ら夫婦が倖になる手段とすれば、さして問題はない。
勿論、帰国以来羨望の的であった冴子を味わえる自分に異存がある訳ではない。                     

 冴子が電灯を消したあと、暗黒の闇だと思っていたのが、目が馴れて見ると、庭側の丸窓から、暮色のように雪明りが差し込
んでいて、隣に掛布団で顔を隠して寝ている冴子の長い髪の散っているのさえ見える。惣太郎の寝ている部屋の奥までは見えない。    
 枕から垂れてシーツを流れ畳の上まで散っている艶やかな冴子の髪を、横目で見ながら田宮は困惑に溜息をついた。惣太郎の
申しでに承諾をしたのも、一度だけ羨望の冴子の躯を味わわせて貰うつもりで、案外気楽な気持だったのに、躯を合せてからは、
まるではじめて女体を知った少年のように夢中になってしまった自分を我乍らどう御することも出来なかった。

 冴子の躯が素晴らしかったのは言うまでもないが、同時に、彼女の清純な性格から来るいとしさは、自分の心が自然に冴子の
中に溶け込んでいくような陶酔を誘った。
 強引な田宮の性戯に、何の技巧も演技もなく、純粋に昇華していく冴子のすなおさに、田宮は圧倒的な征服感を満足させられた。
 それはとりもなおさず自分への柔順さえのいとしさでもあった。

 与えられる強烈な快楽に逡巡ながらも、躊躇も偽態も拒否もなく、率直に反応してくるいじらしさは、田宮に押え難い欲望の炎を
幾度も燃え上がらせて止まなかった。共謀どころか、完全に冴子という女に溺れ切っている自分を発見して、田宮は慌てていたの

である。              
 冴子の髪が昏い闇に溶けながら、白いシーツの上だけ鮮明に見える。その髪がかすかに揺れた。
 布団を被ったまま寝返りを右に打って、こちらを向いたらしい。掛け布団の襟から、白い額が半ばのぞき、富士額の生え際が見
えている。田宮はゆっくりと冴子の布団に手を伸ばした。
 やがて、ごわごわとした木綿の奥に、柔らかい暖かさに包まれた女の肉の弾みが伝わってきた。
 田宮は惣太郎のまたはじまった鼾を確認すると、はじかれたように冴子の布団の中に身を移した。   

 部屋の空気の異常なざわめきに、惣太郎が目を覚ました時、もう闇は裂けはじまっていた。ふと隣の布団を見た惣太郎は、そこ
に横向きにしゃがんで、乗馬の騎士のような奇怪な動作を激しく繰り返している影絵のような黒々とした男の裸体が浮かび上がって
いるのに仰天した。
 よく見ると、その黒い男は薄昏い中にもはっきりと白さをにじませている女の足を、肩に担いでいる。 田宮と妻の媾交であること
はすぐわかったが、肌の匂いが届くほどの至近距離で展開されているあられもないふたりの狂態に、惣太郎の方があわてたのだっ
た。

 もう終期に近いのか、男の動きと妻の呼吸が興奮の極みに達している。片方の耳元で聞こえる打ち合うふたりの肌の音や水を叩
くような体液の飛び散る音が、昇り詰めたふたりの熱気を散らしている。

 突然、惣太郎の掛布団がぐいと引かれたような感じがした。
 間を置かず掛け布団は規則正しい隠微な響きを伝えてきた。ラストスパートの深い陶酔にふたりは気が付かないらしいが、田宮
の膝が惣太郎の掛布団の端を踏んだらしい。まるで肌を合せて懸命に律動を続ける田宮と妻の熱気に巻き込まれているような感じ
った。田宮の圧倒的な力に妻と一緒に席巻されたような嗜虐の陶酔が惣太郎の脊椎に奔った。布団がもう一度大きく動いて、振動
が止んだ。

 体位が変わっていた。田宮が担いでいた妻の足を肩からはずし、今度は両手で踝を掴んで妻の股間を両側に押し広げた。オー
で船を漕ぐように妻の足をあやつりながら、その中心で激しく腰を使いはじめた。            

 ひゅうひゅうと熱病患者のような荒い呼吸を、掛け布団で口を覆って押し殺して吐いている妻が、耐えられなくなったのか、小さ
く声を放った。田宮があわてて広げていた妻の脚を離して妻に蔽い被さり接吻していった。声を上げさせないためだろう。妻の脚が
開いたまま布団に落ちた。片方の妻の足が惣太郎の掛布団に重く鈍い衝撃を与えて落下した。それでもふたりは気が付かない。

 「いく……! 
 と噛み殺したような妻の声をたしかに惣太郎は聞いたと思った。それと同時に田宮の腰が狂ったように激しく動き出した。ふたりの
大胆さが惣太郎をも大胆にした。
 惣太郎は思い切ってゆっくりと横になり、布団で顔を半ば隠し、目だけを出して、片手を掛け布団のなかから、静かに絡んだふた
りの方に伸ばしていった。
 指先に伝わるふたりの律動が、伸ばすにつれてしだいに激しく伝わり出したと思った瞬間、指先に暖かい妻の肉が触れた。広げた
太腿のあたりらしい。妻は全く気付かず、恍惚の絶え入るような荒い息を弾ませながら、田宮の動きにあわせて腰を振っているのが、
触っている太腿の筋肉の緊張振りでよくわかる。

 惣太郎は思い切って掌をさらに奥に進めながら、太腿の内側に回して見た。掌の腹で感じていた妻のたぎるような熱い内腿の感触
に、掌の甲に固い田宮の腿の感触が重なった。どうなったのか分からないが、終局を迎えて、夢中で躍動するふたりの肉に、惣太郎
は挟まれていた。汗ばんだ二つの肌が熱く燃えて、互いに牽制し合うように、惣太郎の掌を挟んで揉み合いぶつかり合っている。
 惣太郎は自分がふたりと今一体になっているのを感じていた。手のひらにじかに感じるふたりの動きと熱気が、惣太郎にも官能のた
かぶりとなて乗り移って来る。惣太郎もふたりの歓喜に合わせて、眩むような快感を感じていた。                     
 いよいよふたりの果てる時が来たらしい。狂ったような激しい動きの後、ふたりはぐったりと弛緩した。最後の激動の瞬間、惣太郎
は掌を抜いて、ふたりに背を向け目むった格好になった。
 二人に背を向けたまま惣太郎も自分が果てたように荒い呼吸をしていた。  

「風呂に入って来る」                         
 田宮の囁くような声がして、立ち上がっ気配がした。            
「もう何時かしら。あたしも行こうかしら。もう起きてもおかしくない時間?」
 机の腕時計でも見に行ったのか、しばらく間を置いてから、        
 「そうだね。六時半だから、起きてもおかしくないね」          
 田宮のやはり押し殺した声がした。妻の起き上がる布擦れの音に、今なら起きたのが見付かっても不自然ではないと思って、惣太郎
は寝返りを打って、ふたりの方を見て、思わず布団に顔を隠した。

 田宮は窓を向いて浴衣の帯びを締めていたが、冴子はまだ全裸のま腹這いの格好で浴衣を探しているらしい。斜め向こうにむき、さ
しはじめた朝焼けの茜色に肌が染め上げられている。満ち足りた肢体が艶々と輝いている。惣太郎のすぐ横にある豊かな臀部の割れ目
から太腿も内側に、筋になって流れている体液が、血のように赤く見えた。        
  1. 2014/12/02(火) 15:26:06|
  2. 花濫・夢想原人
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花 濫 第4章異常な契約5

 夫が田宮とのことに気付いたと知ったのは、その日の帰宅した夜だった。  
 疲れたから帰るという田宮を、これから帰って夕食の準備をするのも大変だろうからと、なかば強引に引き止めたあげく、自分は急に
三鷹の古本屋に頼んでいた用事を思い出して、十時には帰るからと、そそくさと出て行った。惣太郎の家から三鷹まではバスで三十分
の距離だったのに、その時はまだ五時にもなっていなかった。

 疑訝の表情で見送る冴子に、
「先生は、古本屋が市で仕入れて来た本の中に、思いがけない書物を発見する名人なんです。今日は土曜日で、市の開かれた日だ
から、きっと掘り出し物でもないかと、急に思い立たれたのでしょう」                 
 こともなげに言った。                         

「だって、こんなに疲れて帰ってすぐに行かなければならないほど、重要なことなのかしら」                             
「疲れたのは、僕達だけです。先生は昨夜も早くから寝ていらっしゃるし、往復の車中もあの通り
お休みだったから…………」              

 ふたりだけになった調布の家の居間で、机を挟んで冴子は田宮の言葉に、思わず頬を染めて俯向いた。しばらくして、ちら、と田宮
の顔を見上げ、じっと自分を見詰めていた田宮を見ると、                      
 「いや! そんなに見詰めないでください。恥かしくって顔が上げられないじゃありませんか」                            
 とまた俯いて顔を染めた。                       

 それから二時間後、冴子は入浴を済ませた躯に、袷の着物を着てリビングの椅子に一人座っていた。夫の命じた通り寿司を取り寄せ
ていたが、自分と夫のはまだラップをかけたまま残っていた。

 田宮が寿司を食べて帰ったのが四十分くらい前だった。       

 夫が出て行ってすぐ田宮が求めて来た。冴子の部屋の畳みの上で、冴子はスカートを捲り上げられたままだった。いつ夫が帰って来
るかわかわないのが気になって、冴子は最初拒んだが、田宮の怒張したものが当てられた頃から、しだいに冷静さを失っていた。                             
「これで最後にしましょうね」                     

 冴子は何度も最中に田宮に言った。実際そうする気だった。こんなことが続くとは思えなかったし、続けるべきではないと、今日帰る
車のなかでそう決心していた。これが最後、という思いが、逆に冴子を興奮させた。さすがに昨夜からの連続のせいか、田宮はなかな
か果てなかった。それも結果的には冴子を狂わす結果になってしまった。それまで、外でしか果てなかった田宮に、本当は今は大丈夫
な時期だから、中でいって、とねだったのも冴子の興奮の度合いを語っている。
 
 「先生には、やはり今夜は運転が疲れたので帰ったと言って置いて下さい。怒りなんかされませんよ」                         
 田宮が、実はこれ以上いると、また奥さんが欲しくなるから、と言い残して、そそくさと寿司を片付けて帰ってから、冴子は慌てて風
呂を涌かして入った。中で果てた田宮のものが、溢れ出て困ったからである。            

 玄関に音がして夫が帰って来た。夫は酒を飲んでいた。熟し柿のように赤らめた顔で、数冊の本を
小脇に抱えていた。慌てて迎えに出た冴子に、       
「なんだ。田宮は帰ったのか。彼のためにいい本を見付けて来てやったのに……」           

 口ではさも残念そうに言っていたが、それでは電話なさいますか、と言う冴子に返辞もせず、そそくさと風呂に入った。                 
 疲れたから早く寝よう、と寝室に入った夫が、珍しく冴子を需めて来た。入浴を済ませたとはいえ、冴子の躯のなかには、まだ先程田
宮が射出したものが粘く澱っており、子宮の奥から時折溢流して陰唇を濡らしていた。冴子は慌てた。疲れているからと拒否する冴子を
夫は、酒の酔いに紛らわせて強引に抱いた。いつになく力強い夫だった。何かに挑發されているような焦りを冴子は夫に感じた。

 夫の手が股間に伸び、その指が陰唇を割って潜り込んでくる。冴子自身の体液とは異質な、もっと粘質を帯びた重い感じの粘液が陰
唇から膣の襞に、べとりと付着して、その粘液に溶かされかかったように、膣内の粘膜が高熱患者のように熱く、練られたように柔らかく
なっていた。             

 夫が冴子の浴衣の裾をまくり上げ、下穿を下げて陰部を露わにして、顔を寄せてきた。広げた陰唇の奥から、濃い精液の匂が温めら
れて立ち昇っている。夫にはない若い男性の臭いである。夫には一目瞭然に田宮との性交の痕跡を発見されたと冴子は驚愕した。  

 しかし、夫は知ってか知らずにか、特別な反応を示さない。もしかすると、暗さと、最近鈍ってきた夫の臭覚では、発見出来なかった
のではないかという安堵が、半信半疑ながら、冴子に希望をつながせた。冴子はいつになく張り切った夫のものを探し当てると、 
 「早く欲しいの………」                        
 
はしたなさを考える前に、露見の恐怖が先にきた。夫のものを自分に導くと、意外と素直に夫は、身体の体勢を整えて埋没して来た。
潤滑な膣は迎合して、いきなり子宮口まで入り込んだ陰茎を、膣襞が蠕動しながら包んだ。先程の慌ただしい田宮との交わりに、取り
残された感じだった冴子の肉は、すぐ反応を示して燃え上がった。              
 今日のお前は、とてもいいよ。いつもと違って、柔らかいしとても練れていていい感じだ。やはり、田宮のような若い男と一緒だった
のが、何かお前の躯に刺激になったのだろうか」                        

 浅く深くさすが田宮にはない甲羅を経た夫の老獪な技巧に、冴子は先程の切迫した感情がしだいに消えて、夫の律動に触発された官
能の靄に包まれていった。
 「昨夜、田宮はお前になにかしなかったかい?」             
 律動を小刻みに変えて夫が言った。                   
 「何かって………どういうこと?」                   
 冴子の昇りかけた官能の火が、冷水を掛けられたように一瞬にして消え、胸の鼓動が異質な早まりを見せた。                      
 「お前の躯に悪戯をしかけるとか…………しなかったかい?」        

 「だって、あんなにお酒いただいたので、朝までなにも知らずに寝てましたわ」
 「そうか…………それじゃあ田宮の奴……こっそりお前に触っていたんだ」  
 「まさか、そんなこと…………」                    
 「いや、おれは見たんだ。もう明るくなった頃だ。咽喉が乾いて、ふと、目が覚めて見たら、隣のお前が、浴衣の胸を開いて寝てる
んだ。両方の乳房も露わにしてだ………」                             
 「まさか、そんなこと…………、嘘でしょう?そんな…………」      

 冴子の中の夫が、一段と拡充し律動を強めながら、            
 「直して蒲団を掛けてやろうと、起き上がりかけて、はっと、気が付いたんだ。なんと田宮の黒い頭がお前の股間で揺れているでは
ないか。気付かれないように見ると、お前の浴衣の腰紐が解かれ、ほとんど全裸の状態にされたお前の脚を、田宮が大きく広げて、
お前のアソコを嘗めていた。お前も夢の中で、何か感じているらしく小さく呻いていた」 
 「それ貴方の夢でしょう?」                      

 「夢なもんか。おれはすっかり目覚めて、掛蒲団から、わずかに顔を出して、奴に気付かれないように見ていたんだ。少し上体を斜
めに起こして視るということが、あんなに力が必要だとは考えても見なかった。指を挿入してもいた。彼がそうすると、お前はまるで起き
ているように嬌声を上げるんだ。彼が乳房にむしゃぶり付いた時なんか、お前は、はっきり、いい………いい………って言ったぞ。だが
寝むっている証拠に、彼がお前の躯から離れると、すぐお前は、心地よい寝息をかいていた」               

 嘘とは思えない夫の言葉である。たしかに、暁方の交わりの後、風呂から帰ってから、田宮が蒲団の中でまた愛撫をはじめたのに応
じる閑もなく睡魔に襲われて、眠ってしまったのは事実である。奈落の底へ落ちるような眠りを、乳房や陰部から鋭く沸き起る官能の疼
きに呼び戻されて、何度か声を上げたような気がする。それを夫が見たとしても、自分は眠っていたのだから共犯ではない。

 むしろ被害者の立場だ。夫と一緒に不埒な田宮を攻撃すればいい。冴子の中で、安堵の安らぎが生れた。                 
しかし、夫は 田宮の不届き極まる行為を、どうして夫は黙って見逃したのだろう。自分の妻が目前でいたぶられているという侮辱で非道
な行為を、それも叱責出来る自分の部下がしたというのに、黙認したのはなぜだろう。夫は温厚だが侮辱には厳しい男だ。
 
冴子が東京に来た頃庭掃除をしていて、近くにある競輪場の酔った客に抱き付かれ、唇を奪われたことがある。縁側でそれを目撃した
夫は、木刀でその男を滅多打ちして、腕の骨を打ち砕いた。その酔っ払いは近くの公共施設に勤める中年の公務員で、必死に陳謝し、
表沙汰になれば首になってしまうから許してくれと泣きながら訴えても、夫は巌として聞き入れず警察に婦女暴行罪で突き出した。そん
な夫がなぜ田宮を見逃したのはなぜだろう。    
 
「それで貴方は、どうして黙っていたの?」               
 すっかり覚めた目で、冴子が真上で揺れている、視野に余る夫の顔を見て聞いた。   
 「それが不思議なんだ。まだ仄暗い室内に、お前の裸体が白く浮き出て輝き、田宮も浅黒い艶々した裸でお前に絡んでいる。それが
不潔でないんだ。とても奇麗に見えたんだ。お前の白い肌が、田宮の若い滑し革のような肌に触れられて、水を得た植物のように、瑞々
しく潤っていくんだなあ」           
 「そんなにはっきり見たの?」                     

 「ああ、田宮が切なさそうに溜息を吐きながら、宝物でもあづかうような丁寧さで、お前を愛撫する。するとお前は耐え難くなるのか、
時々それを逃げるように腰を引く。田宮のここがかんかんに勃起していた………」         
 夫は挿入したままの自分の物を、思い切り深く突き立てて、田宮の陰茎を表現した。 
 「あぁ……そこまで見たのね……」                   

 冴子は奇怪な衝撃を受けていた。それは自分と田宮の交わりを、夫が見ていたという衝撃ではだけではなく、奇怪な心理だが、夫へ
の貞淑を破って他の男に狂ったあの時の状況が、夫によって克明に語れれるという異常な状態に、性夢にかき乱されているような
昂ぶりを感じていた。田宮と夫の二人の男に同時に犯されたような披虐な官能に火を付けられたような感じだった。消えていた官能が甦り、
いつの間にか夫の煽りに乗って腰を動かせていた。  

 「田宮がお前の乳房を唇に含み、もう一方の掌でここを愛撫し出したら、お前は顔を顰めて、いい……いい……と、はっきり言って腰
を振るんだ。例え夢心地でも、官能に酔う自分の妻の表情をはじめて客観的に見て、まるではじめてお前を見るような新鮮さで、美しく
見えたんだ。田宮という若い男の肉体とお前の若い女の躯が触れて発散する、若さの命のたぎりの美とでもいうのだろうか、それを離れ
た場所で見て、まずお前が若い男から歓喜を与えられて恍惚とした表情と躯の線が、妖しいまでに美しくなるいのを知った。つぎに、田
宮の若い男の肉体が、お前に触れることによって、一層逞しく稟々しく輝いて、男の俺から見ても魅力的だった。お前がもし起きていて
そうなったら、あの田宮の肉体には抗し切れないだろうと思った。お前が深い眠りにあるだけに、お前のその表情には不自然な感情がな
く、自然でのびやかだったし、それだけに田宮がどんなにお前に興奮しているかと思うと、男の俺には自分が田宮になったようで、とても
興奮したよ」      

 今朝を思い返して興奮したらしく夫の動きが大きく強く深くなって、冴子にもその情感が伝染して、しだいに席巻されていく。              
 「田宮は何度か、お前の脚を肩に載せて入れようとしたんだ」        
 「まさか、そこまでくれば、あたしだって目が醒めるわ」         
 「一度か二度は入ったと思うよ。お前だって声を出していたもの。しかしお前が夢の中だから、躯を横にしたりするから続けるわけにい
かないんだ。不思議に嫉妬も怒りも感じないんだ。田宮に頑張れと声援を送りたい気持だった。田宮はしばらくお前を抱いていた」。

 「俺の方からはお前の裸の右側が、白く光って見えていた。しばらくして、お前の胸に掌を置いたままの田宮が俯向いたまま寝息をたて
ていた。俺の方は完全に目が醒めてしまたので、起きて風呂に行った。その時に、お前のここを見たら、濡れて流れていた。女は夢の中
でも出るのかと、あらためて女の性の深さを知った」             
 夫が青年のような熱情を込めて突き立てて来た。              
 「もしあたしがその時目醒めて、もし………もしよ……田宮さんに応じたら貴方どうする?」 
 「多分黙って見ていたろうな。あの時は、田宮にやられて、もだえるお前をぜひ眺めたいと真剣に考えた」                       
「 それ本気?」

冴子の言葉には期待感があったのを、惣太郎は見逃さなかった。      
「ああ、やってくれるかい?」                     
 夫が一体どこまで見ていたかわからなかった。本来なら決然と拒否すべきであるが、それを考えると、ここは夫に服従しておいた方が安全
だと判断した。それに夫の誘惑は、冴子に呪詛に捕らえられたような興奮を呼び起こす。     
 「ほんとうに、そんなことしてもいいの。あたしが淫らな女になっても知らないわよ」                                
 「いいんだ。お前だってまだ若い。これからまだまだ性の奥を知っていくんだ。俺の代わりを田宮がするんだ。田宮と俺は一身同体と思
えばいい」      

 「あなたまさか、もう田宮さんに、こんなこと話てるんじゃないでしょうね」
 「そんなことはしてないが、田宮を口説くことは簡単だ。あいつは身体も剛健だし性格もいい。それに第一、前にも言ったようにお前が好
きだ。男同志にも相性があって、田宮なら俺の身代りをさせてもいいと思っている。若いだけにきっと徹底してお前を歓ばせてくれると思う」                  

 夫が最後の律動を開始した。                      
 「あなた……いい……」                        
 冴子は眩むような陶酔の中で、夫と田宮の二人の男を受け入れているような感情に包まれて昇り詰めていった。
 にわかに捕縄から解かれたような気持が、さらに官能を強めていく。先ほどまで田宮の帰った後、一人で悩んでいた背徳の罪の悲嘆は、単
なる憂慮だったが、これでいいのだろうか。これからどうなっていくのか不安は残ったが、ともかく一つの大きな疵後が、これで完全に払拭さ
れたのは事実である。解放感を冴子は純粋に感じていた。もう絶対繰り返すまい、と心に誓ったばかりの田宮が、急に身近に擦り寄ってきた
ように感じられ、冴子は田宮の肉の甘さを思い返しながら、夫の胸にすがり付いた。  

 冴子が惣太郎と田宮も意図に、はっきりと気付きいたのは、惣太郎が冴子に、暗に田宮との情交を勧めるような話をしてから、数日後だっ
た。
 惣太郎が出版社から依頼されていた 
 「日本方言辞典」の締め切りが近付き、田宮が校正を受け持って、毎晩学校が終ると冴子の家に来て惣太郎と徹夜の状態で仕事をし、二
人共疲れ切って倒れるように、書斎で寝ていた。実はその間にも、一、二度田宮と冴子は惣太郎の目を盗んで交わりを持ったのだ が、そ
れははかないものだった。                         

 やっと全てが脱稿した夜、三人は祝宴を開いた。酒が入り、すきやきの鍋を片付け、三人共風呂から出て、男達は浴衣に、冴子は絹の淡
いオレンジ色の胸の広く開いたネグリジェに着替え、リビングに落ち着いて、さらにブランデーを飲み出した時だった。    
 「田宮君はセックスの日本語を幾つ言えるかね」             
 惣太郎が急に話題を変えた。                       
 「そうですねえ。交わり、交接、交媾、性交、肉交、交悦、媾合、房事、淫事、閨事、陰事、秘戯………それから………」              交わり、濡れこと、そんなところかな。古語ではつままぎ、くながひ、みとのはまぐはひ、方言では無数といっていいほどあるが、おまんこ、
おめこなんかが一般的だね。おめこは御女子で実は非常に上品な言葉だったんだ」     

 「知らなかったわ。あたしの育った岡山の田舎では、大変下品な言葉で、女の子なんか絶対に口に出来なかったのよ」                 
 冴子が酔いに染まった顔を、ブランデーグラスを頬に当てて冷やしながら口を挟んだ。                                
 「でも、つままぎ、とか、くながひとはどういうことかしら」       
 「そう、それが問題なんだ。つままぎは妻間技とも妻魔戯ともいわれるが、前は妻との間の技だし、次は妻と魔羅の戯だろう。つまりど
ちらも妻とのセックスのことで、夫と妻とのセックスではないの。昔は一夫多妻だった。その前は母性中心社会だった。だからセックスは女中
心だったのじゃないのかと最近思い出したんだ。妻イコール女と考えると女との技、戯なんだな。技とか戯、特に戯は戯れであり遊びという
ことだ。一人の妻と一生遊ぶというのはおかしい。これは不特定多数の女でなければならない。その女を妻と言っているのが面白い。

 昔は結婚しても結構他の男と遊んでいたのではないかと想像させられる」     
 「なんだかこじつけの理屈みたい」                   
 冴子が少し酔った舌足らずの言葉で言った。                
「いや一概にそうとも言えませんよ。昔は旅人の接待に、自分の妻を貸す地方だってあったんだから」                        

 田宮が顔をしかめて真剣な顔で言った。                 
 「話はそれるが、その妻を貸すって話だけど、それは本当に旅人を慰めるためったのだろうかねえ。何だかそうではないような気もするん
だが」       
 「例えば昔は大家族制度で労働力に子供を沢山生む必要があったし、地域が限定されていたから、血族結婚の劣勢遺伝などもあって、他
の男の種を貰う必要もあったと、考えていいのではないでしょうか」                

 「そうだね、いずれにしても性もおおらかだったのだろう。この雑誌最近見付けて来たのだけど、君達知っているかい?」                
 惣太郎が取り出した雑誌を田宮が受け取って、ぱらぱらとページをめくっていたが、                                  
 「これは驚きですね。皆家庭の主婦ですねえ」              
 「なんのこと?」                           
 冴子が田宮に身を寄せてその雑誌を覗き込んだが、            
 「まあ、これ本当なの?」                       

 顔を上気させて羞恥を浮かべた表情で言った。そこには、各ページに三枚くらいづつ、全裸の女の写真があった。上品にすましてポーズ
をとった写真もあったが、殆どが脚を開いたり、自慰の格好だったり、ひどいのは性交のクライマックスを撮ったものまである。そしてその写真
には、必ず……妻が貴方との夜を待っていますとか、若い男性との三人のプレーがしたい………などと書かれている。
いわゆる夫婦交換雑誌である。      

 「現代でもこういうことが行なわれているんだ。現代には、血族の劣勢遺伝も子供の問題もない。ただ性のエンジョイなんだ。娯楽の少な
い昔にもきっと、こんな遊びはあったと思うなあ。旅人を泊めるのも、地域の中の男では後が煩わしいが旅人なら、一夜限りだし、そんなとこ
ろだったのじゃないかな」     

 田宮が熱心にページをめくていたが、                  
 「それにしても皆写真が下手だなあ。かえって美しい女体が汚く写っている。興味ががた落ちですね。
これなんかまだいい写真ですが、これくらいのモデルなら、もっと美しく魅力的に撮れるんだがなあ」               
 ブランデーを干しながら、残念そうに田宮が言った。           
  1. 2014/12/02(火) 15:28:31|
  2. 花濫・夢想原人
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花 濫 第4章異常な契約6

 「そうか、君は写真がうまいんだったねえ」               
 惣太郎が言った。                            
 「冴子、田宮君はねえ、写真は玄人なんだ。日本写真クラブの会員でもあるし、日展入賞のカメラマンなんだ。そうだ、冴子も一度撮っ
てもらうといい」    
「あら、ぜひお願いしたいわ。若いうちに………」            

 今から思えば、夫と田宮がたくらんだ芝居だったと冴子は思っているが、その時は全く疑わずのせられてしまった。丁度田宮はカメラも照
明も持って来ているから、即実行しようということになり、冴子はうまく二人の甘言ににせられて、ネグリジェ姿のまま化粧だけほどこして、カ
メラの前に立たされた。     

 大きなライトが三つもセットされ、狭いリビングがスタジオに変わった。強いライトを浴びて、食に家中の花を集めた花瓶を置き、その前
に民芸風の椅子に凭れて冴子は立たされていた。三脚の後ろから田宮が何度もシャッターを切っていた。ライトの熱が冴子の肌を汗ばませて
いる。               
 「冴子さん、片脚を椅子に上げて、その膝に顎を載せて下さい。………そうそう……いいですよ………とても魅力的です。いきますよ……
…」       

 田宮の巧みな言葉に酔わされていたと、後で冴子は思ったが、その時は、本当に自分がポーズを変え、ライトが変わる度に、しだいに美
しく変化しているようなナルシズムに酔わされていた。                      
 「やはりネグリジェの下のスリップが邪魔だなあ。折角の胸の線が台無しになっているんだ。先生、冴子さんの魅力は何といっても、豊
満で真っ白い躯の線にあります。ほら、見て下さい。折角の胸の膨らみが、スリップのレースに邪魔されているでしょう。あれがなければ、
きれいな線が出ると思いませんか?」  

 惣太郎はうなずいて冴子にスリップを脱ぐことを命じた。薄い絹のネグリジェだけにされて、透ける乳房と股間を気にしながらポーズをと
っていたが、その内に、ネグリジェの胸のホックを一つ外し、二つ外して大きく胸を広げた撮影が続き、はっと気が付いた時には、乳房が
露出していた。              

 乳首が尖っていないといい写真にはならないと、田宮に乳房を愛撫され、表情をもっと妖艶にしたいと、惣太郎がカメラの見えない後ろか
ら、しゃがんだ格好で冴子のネグリジェの裾を巻くって、花芯に愛撫を加えた頃から妙なことになっていた。三人とも何時の間にか淫蕩な感
情に憑かれていたのである。     

 低い民芸調の漆塗りの角椅子に腰を降ろした冴子が、片脚は伸ばし、もう一方を引き付けて踵を椅子に載せ、その膝を抱くようなポーズ
をとっていた。ネグリジェの前ホックは全部外されていて、身体の両側にはおったようになっている。形のいい乳房が片方覗き、L字型になっ
た脚の付け根には、淡い翳りの下に縦筋になった割れ目がはっきりと見えていた。強い照明に上気した冴子の眼が潤んでいるのがよくわか
る。紅赤の鮮明な口紅を引いた唇と、桃色の乳首、片膝を抱いて前で組んだ指の珊瑚色のマニキュアの色彩を白い肌が引き立ていた。三
月末の夜にはライトの熱が強すぎた。冴子の肌が滲んだ汗で光り、撮影途中で何度も化粧を直したりバスタオルで肌を拭わなければならな
かった。

 二人の男もいつの間にか浴衣の上半身を腰紐まで肌脱ぎにしていた。顔も脂汗と異常な刺激に酔ったように赤らんでいる。深夜の静寂の
中で、冴子の躯が発散する女の甘酸っぱい体臭と、煙草の臭いが混じり合って、ライトに熱せられたい澱ん部屋の空気を隠微な情緒にして
いた。

 惣太郎が田宮の後ろから、冴子に向かって放たれているライトを遮って冴子の後ろへ回った。                     
 「そうだ。どうせここまで撮ったんだから冴子、いっそのこと全裸のヌードを撮ってもらおううね。若い時は一度しかないんだ………。さあ
………脱ごうね………」      
 惣太郎が冴子の背後からネグリジェを剥ぎにかかった。           
 「いやよ………いやよ………。辱しいわ。こんな明るいところで………」  
 胸を両手で抱くようにして、いやいやをする冴子に構わず、惣太郎は無理矢理ネグリジェを、裾から剥くようにたくし上げた。

下半身が露わになって、冴子は飛び上がるようにして椅子から立ち上がり、前から見ている田宮の視線から下腹部を隠すように腰をひねった。
強烈なライトに照らし出されて、乳房と下腹部を手で覆った冴子は、腰を屈めるようにして立っていた。            
 「さあ、その椅子に足を組んで座って下さい」              

 田宮はカメラから離れて、立ったままの冴子の腕を取って、椅子に導いた。観念したのか、冴子はおとなしく椅子に腰を下ろし足を組んだ。
カメラは見ず、俯向き、脚を組んだために陰部が隠れたためか、両腕で乳房を抱くようにして隠していた。        
 「右手を椅子に突いて、もう一方を頭の後ろに回して下さい」      

  素直に冴子は田宮の言う通りにポーズをとった。照明に浮かび上がった、真っ白い豊かな肉体を、照明のあたらない昏い陰から二人の
男の目が凝視していた。丸い肩がハレーションをおこしているように輝き、豊かな乳房が灯を吸いあつめて、薄い肌ににじんだ凝脂が鈍色
に照り返している。
 薄桃色の乳首がつんと上を向き、まろやかに張り詰めた皮膚が照り輝き息ずいている。

田宮が二、三歩進み出て、その乳房を軽く撫でた。         
 「いや!」                              
 冴子が慌てて片手で乳房を押えて前屈みになった。             
 「すみません。きれいに撮るために、乳首を固くしたいんです。先生いいですか?」  
 田宮は、窺うように部屋の隅の昏がりに椅子を持って行って座り、ブランデーグラスを片手でいじ
っている惣太郎に訊いた。                
 
「生涯に一度しかない、成熟の極まりの美しさを残すんだから、思い切って美しく撮ってくれ。冴子も折角の機会だから、田宮君の言う通
りにして、最高にきれいに撮ってもらおう」 
 「じゃあ、失礼しますよ。プロのモデルでも、これだけは必ずやりますね 」
 腰掛けて脚を組んでいる冴子の前に跪くように、脚を折ってしゃがんだ田宮が、両手を伸ばして、貴重な品物でもあづかうように、冴子の
乳房の両方を、広い裾野の方から掌で愛撫しはじめた。田宮の掌にあまる乳房が弾力をみなぎらせて弾みながら形を変える。 

 しばらく沈黙が続いた。ライトの熱気に煽られるように、室内に隠微張り詰めた緊張感の中で、しだいに冴子の呼吸が乱れていくのが、か
すかに聞こえた。惣太郎は二杯目のブランデーを飲みながら、昏い陰から二人の様子を眺めていた。

 惣太郎は酒のせいだけではなく、ライトに照らし出された妻の裸身の美しさにも酔っていた。惣太郎からは、椅子に腰掛けた妻が、斜め横
に眺められた。すでに発情をはじめているらしく、躯の内部から滲み出た、紅を刷いたように頬が紅潮し、目がすでに潤みはじめている。硬
い田宮の陽灼けした上半身が、組んで伸ばした白い冴子の脚の向こうから、ひざまずいたまま、冴子の乳房を愛撫してい
る。今は片手を、冴子の組んだ脚の、太腿辺りに置いて、静かに腿の内側を愛撫している。片手は相変わらず乳房を愛撫し、顔を冴子の剥
き出しのもう一方の乳房に寄せて、唇で乳首を愛撫しはじめた。         

 真っ白く柔弱な冴子の躯と、茶褐色で剛健な田宮の肉体の対比が、一層妻を女らしくうつくしく見せていた。妻はポーズしていた手を、今は
田宮の肩にかけ、やや上向けて目を閉じ、貌をかすかに揺らしている。羞恥がしだいに官能に侵されて、観念したようにも、没我に浸っている
ようにも見える恍惚とした表情で、口を少し開けて、小さく喘いでいるようすである。              

 「あっ……」                              
 短い冴子の叫びに目をこらすと、田宮が、思い切ったように、太腿を愛撫していた掌を冴子の股間く差し入れて、微妙な揺らし方をしていた。
指先が冴子の敏感な部分に触れているに違いないと、惣太郎は思わず身を乗り出していた。乳房を愛撫していた掌も、強く乳房を掴んでゆす
り、もう一方の乳房に吸い付いていた唇が、完全に乳首を含んでいた。冴子の上体が揺らいで、田宮の肩に凭れかかり、艶やかな両腕が田
宮の頸を抱いている。耐え難い官能に襲われているらしく、冴子は眉根に苦痛のような縦皺を刻ませ、白い歯をのぞかせた唇からは、押し殺
した溜息が、熱さを含んでひゅうひゅうと鳴っていた。田宮は写真撮影を放棄して、このまま冴子の肉体にめり込んでしまうのかと、惣太郎が
思った瞬間、田宮が敏捷な動作で立ち上がると、急いでカメラを覗き込みながら、     

 「さあ、ポーズとって! 」                      
 凛とした声で、冴子を制した。つられたように冴子が、はっとした表情でポーズをとった。長い髪がすこしほつれて額にはりつき、上気した
桜色の頬が羞恥を刻んでいる。濡れ濡れとうるおって輝きをたたえた瞳をカメラに向け、まだ先程の愛撫の余韻を充分に残している息づかい
で、小さく口をあけたままポーズをとっている妻の姿は、自分の妻とは信じられないほど魅惑的だった。艶やかに息づいている躯全体にも、
美しい牝の発情が、内部に燃え上がった官能の炎を照り輝かせ、成熟した女体のぬめぬめと吸い付くような肌が上気して桜色に染まっている。

 田宮がシャッターを切りながら、冴子にさまざまなポーズを指示している。最初照れたり、羞恥にもじもじしたりしていたが、田宮の巧みな
言葉に呪詛にでもかかったように、身体の位置を変え、ポーズを変えて行く。       
 「そうそう…………とってもチャーミングだよ。右脚をもう少し開いて………ああ、大丈夫、毛は後で消すし、割れ目ちゃんは、見えないよ
うに撮るからね………。はい! そこで、仰向けになり、腰を両手で支えて………そうそう………。両脚を上に伸ばして、そうそう………きれ
いだよ。大きな白鳥になったんだ君は………脚が翅………大空に舞い上がる………もっともっと、大きく翅を羽ばたいて………」              

 大きな食卓の上に冴子が今夜のために敷いた、ブルーのテーブルクロスを巧みに使って波を造り、その上に冴子を仰向けに寝させ、両手
で腰を支えさせて、両足を宙で、大きく開閉させている。照明の強い光りが、煌々と冴子の股間を照らし出し、淡い陰毛の一本一本から、大
きく開く度に、赤貝のように口を開ける秘肉の複雑な襞の微細な陰影や、体液の滴りまで克明に浮き出しているのを、田宮はロングやアップ
で漁るように何枚も写し撮っていく。時々、撮影を中止して、田宮は冴子の肌に流れる汗を拭いてやったりしている。ガーゼ地のタオルで、愛
撫するように全身を拭きながら、股間にまで掌を伸ばす。その度に冴子が耐え難い吐息をつくのを惣太郎は見逃さなかった。            

 「こんなものを着ていたら、自由に動けない……………」         
 田宮が惣太郎とも冴子ともつかずに言って、腰紐まで剥いでいた浴衣を脱ぎ捨てて、下穿だけになったのがチャンスだった。                  
 「田宮君が冴子に触れる度に、冴子が上気してとても女らしく美しくなるような気がする」                              
 惣太郎が冗談とも嫉妬ともとれる固い口調で言った。           

 「アメリカで見たスタジオでは、ポルノグラフィーを撮る時には、恍惚の表情や、緊迫した筋肉の動きを出すために、実際に性交させたり
刺激を与えながら撮るのが普通なんです。そのほうが美しく撮れるんです」          
 「よし。滅多にないチャンスだ。俺がシャッターを押すから、田宮君少し冴子を刺激してやってくれんかねえ」                     
 惣太郎と田宮の視線が微妙に絡んだが、すぐに互いが了解した。      
 下穿のまま、田宮が冴子の腰を抱え、その中心に顔を埋め、溢れはじめた花芯に唇をあてた。冴子が遂に声を出した。暗黙の了解が三
人にあった。カメラを三脚から外して手持ちに変えた惣太郎が演出者になって、次々と指示を与えた。  
 「君の下穿が邪魔で仕方ないんだ。取ってくれ給え」           

 冴子の恍惚とした表情や姿態を撮影するために、出来るだけ陰になって、冴子を刺激していた田宮
に、惣太郎が声を掛けた。田宮も冴子も、惣太郎の意図を理解したが、さすがに田宮ははにかんで、                  
 「いよいよ本物のポルノ撮影になりますね」               
 と照れながら、下穿をはずした。すでに怒張した陰茎が、跳ねるように飛び出した。  
 「冴子の横に寝て、斜め横から抱いて………」              
 惣太郎の指示が、しだいに露骨になり、                  
 「それじゃあ冴子が可哀想だし、最高の表情を撮るためには、君が言ったように、思い切って挿入
してくれ………」                   

 惣太郎が怒ったように興奮した声で
 
言うまでに時間はかからなかった。               
 食卓の上で、強烈なライトを浴びて、正常位で挿入し、互いに身を揉んでいるふたりを、惣太郎はカメラのレンズの中で、美しい映画でも
見るような恍惚とした感情でみとれていた。
 冴子の柔らかい太腿が、生ゴムのように弾力をみせて、田宮の大きな手が掴んだ部分をめり込ませている。田宮の腰の動きにつれて、乳
房が揺れ、テーブルクロスに散った髪がくねっていた。           
 ふたりの後ろに回って見ると、冴子が巨大な田宮の陰茎を咥えて、腰で円を描いている。田宮がそれに答えるように腰を激しく波打たせた。
そのたびに、冴子の臀が田宮を一気に呑み込む勢いで収縮する。濡れた田宮のものが、冴子の白い臀の間でちらついている。田宮が冴子
の脚を肩にかついだ。

 繋った部分が、上から惣太郎にはっきりと視えた。見慣れた冴子の局所が、無慚に歪み攻め立てられてながら、体液をほとぼらせている。   
 蒼いテーブルクロスが揺れて、田宮の律動につれてしだいにずりあがり、頭がテーブルから落ちかかった。のぞけった冴子の白い頸筋に
血管が蒼く浮き上がって見えた。惣太郎にはそれが冴子の極まりのように思えた。

 テーブルの上で、汗光りする浅黒い鋼鉄のような固い男の体に押え付けられ揺り動かされて、喜悦にのたうっている冴子は、点灯したまま
の強烈なライトに射られた白い肌が、ハレーションをおこして薄い皮膜のように光沢を輝かき、眉間に寄せた縦皺が、肉欲をむさぼっている。
成熟した女の官能のたぎりを見せている。         

 惣太郎はふと、カーテンも閉めてなかった硝子戸に、ふたりの肉欲の争奪を没我になって見ている自分の姿が、終局を目前にして狂喜の
極みにもだえているふたりの姿の奥に映っているのに気が付いて、鞭で叩かれたような気持で我にかえり、煙草に火を付けた。

 外ではいつの間にか霰混じりの小雨が寒々と降っていた。濡れた葉のない雑木の幹が、汗に濡れて輝いている冴子の肌のように艶を帯び
て夜目にも輝いて見えた。        

 成熟した男女の媾合が発散する熱気と気迫の満ちたこの部屋は、真冬の深夜とも思えぬ暖かさになまめいているのを、惣太郎は窓外の無
数の銀の糸のように降りしきる雨と対象させながら、うつろな気持で眺めていた。         

 冴子は霰混じりの冷たい雨の降る早春の夜に、嵐のようなふたりの男に紊亂されて、狂気の一夜を送って以来、自分が逃れられない性の
深淵に落ち込んだことも、ふたりの男が共謀した企みにうまうまと載せたれたことも自覚してはいなかった。         
 それは冴子が軽薄だということではなく、浩二との半年前の出来事以来、今まで体験したこともない蠱惑的な未知の世界が、冴子の前に
俄に次々と開かれて、冴子にとっては未曾有の体験の連続が冴子の神経を麻痺させてしまったということだろう。丁度、未知の国を旅して
車窓に次々現われる風景に驚嘆しているうちに、やがてそれが普通のことのように思えてくるのと似通っている。    

 その夜以来、田宮との情交が、いつの間にか、当然の慣習のようになって続いている。当初は夫に隠れるようにして需めて来ていた田宮
が、肉に関してだけは夫のように、いや夫以上に熱心に執拗に冴子を需めるようになったのは、そう時間を必要としなかった。 

 浩二の時のような衝撃的な緊張や愉悦はないが、冴子と同じ歳上の田宮との情交には、世間並みの夫婦のような落ち着きとゆとりがあ
る反面、田宮の熟達した技巧と強靭な体力は、外国女性を扱い慣れた優しさを加えて、性の歓びの深淵に目覚めかけたばかりの冴子の心
と肉を限りなく堪能させていた。田宮のどちらかというと学者らしくない世間ずれしたエリートサラリーマンのような小利口さや、大袈裟な身
振りの話し方や、歯の浮くようなお世辞を平気で使う性格は、平素の冴子は不潔そうで好きにはなれないが、こと性を共有すると、それが
呪詛にだもあったように冴子を魅了してしまう。
      
 だから、田宮が昨年の正月アメリカに一月ばかり出張していた時や、しばらく仕事で、冴子の前に現われなかった時など、かって経験し
たことのない悶々の情に躯が火照り、身をさいなむような鬱屈した心境になる。裂かれるような想いをしたこともある。    

 夫と田宮の間で、冴子の知らないどんな会話がなされているのかは知らないが、夫の出張の夜には田宮は間違いなくやって来たし、そ
れを夫も承知しているらしいことは、出張先から必ず電話してくる夫に、田宮が用件があって代わって出ることもあって、冴子にも推察出来
た。                   

 冴子が男二人の共謀にはっきりと気付いたのは、半年ほど前のことだった。夫が在宅中に田宮が訪ねて来た時のことだった。夫は田宮
が来たことを知らせても、調べ物が途中だから、あと二時間くらい待っているように言って書斎から出て来なかった。冴子が書斎に入った時
も、アイヌ語のぷテープを聞きながら一心にメモをとっていた。次の日にたまたまあるパーティーに出席する冴子は、丁度自分の部屋で着
て行く衣装選びをしていたのだが、どうしても最後の選択が出来ず迷うばかりで困っていた時だっので、田宮に相談して見ようと自室に招い
た。田宮の忠告にしたがって、つぎつぎ衣類を出して着替えている間に、突然、田宮に抱き締められた。                        

 藤色の着物を決め、それに似合うかどうか、海棠を刺繍した帯びをあてがっている時だった。口付けしながら合せただけの着物の前か
ら冴子の素肌に手を差し込んでくる田宮に、                            
 「うちの人が気付きます。止めてください………」            
 その時冴子は、とっさに夫の書斎に向いた襖が閉まっているのを確認した。  

 「大丈夫だよ。心配ない。」                      
 押し倒され、着物の裾を腹のあたりまで捲り上げられて挿入された。すぐ傍の夫に隠れて微かに睦むスリルと異常さに、思いがけない興
奮のるつぼに陥れられて、冴子は声をこらえるだけで必死だった。

 かすむ意識の底で、一刻も早く田宮が終ることを念じ続けた。 やっと田宮が終って部屋から出る時、閉ていた襖が細く開いているのを
冴子は発見して思わず声を出しそうになった。しかしその時は、冴子が襖を見たのと、田宮が襖を開けて出て行ったのとが同時くらいだっ
たから、もしかすると自分の錯覚だったのだろうと思い直した。                    

 冴子がまだ弛緩した躯を横たえたまま、恍惚の霧に包まれている時に、突然、入れ替わって書斎に
篭っていた筈の夫が入って来たにである。         
 「あなた!………………」                       
 絶句して飛び起きようとした冴子に夫がかぶさってきた。
 冴子の躯には田宮の残していったものが、まだ溢流しているのに、夫はそれを無視して冴子の中に入ってくる。そして満足そうに交わりを
続ける。練れているお前が一番いい、と最近ではよく言うし、弱くなった自分には、弾みが付いているお前が最高だ、とも言う。言葉を返せば、
冴子の躯が田宮との情交によって、高められ燃えている余韻に巧みに
便乗して、夫は冴子を征服した錯覚を覚えることで満足しているのだろう。          

 初めてそれに気付いた時は、そんな夫の行為に嫌悪を感じたものだが、いまではそうしてまで自分を愛したい夫に、同情とも感謝とも愛
着ともつかぬ、夫のおおらかさとでもいうようなものを感じて
いる。何にも増して言えることは、冴子がすっかり、こんな奇怪な生活を異常とも感じないように慣らされた事実である。
  1. 2014/12/02(火) 15:32:50|
  2. 花濫・夢想原人
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花 濫 第5章三人の男の前で

 低空飛行の軽飛行機が轟音を頭上を雷鳴のよに轟かせて通り過ぎて、冴子は目覚めた。ダージリンの紅茶を嗅ぎながら、
庭の椿に視線を預けて、今日帰って来る浩二を想っているうちに、少しまどろんだらしい。

うらうらとした初春の陽光が、いつしか西に傾いてて、畳色の枯れ芝に、ひょろりとした葉のない雑木の陰が、縞模様を描
いていた。冴子が想いを断ち切るように、勢いよく立ち上がろうとした時、玄関でチャイムが鳴った。二、三度続けて鳴らす
訪問者が田宮であることは、冴子には手にとるようにわかる。                 
 
夫が今朝早く、千葉の私立大学に集中講義に行ったので、もしかしたら、田宮が来るのではないかという想いはあったけ
れど、田宮も仙台の大学に三週間ばかりの予定で出張していたので、冴子は浩二の帰国のことですっかり忘れていたのだっ
た。浩二のことがなければ、心をときめかして迎えに行くのだが、今日は複雑な心境だった。

 田宮とは、ここ一月以上会っていない。この前田宮が来た時には、丁度冴子が生理の最中で、夫と三人でマージャンをして
帰って行ったし、仙台に行く前日に来た時には、学生の親が来ていた。そんなことで、ここしばらく冴子は孤閨に疼く躯を押え
るのに悶々としていた矢先に浩二の帰国が知らされて、そんな衝動は朝靄のようにいつの間にか消え去っていた。          

 しかし、今日買い物から帰って、あられもなく自分の身体を開いて見たりした行為も、無意識のうちに欲求不満がそうさせた
のも事実である。

 割烹着のまま玄関に向かいながら、今日は駄目と思う一方で、田宮の来たことだけで、躯が甘く溶けていくような情緒にひ
とりでに浸りはじめる自分の肉に驚いていた。期待と拒否の綯混ぜの感情のまま、冴子は精悍なそうな背中を見せて玄関の
敷居に腰を降ろして靴を脱いでいる田宮の後ろに立っていた。               
 
「いらっしゃいませ」                        
 つつましやかだが歯切れのいい張りのある冴子の声を背後で聴くと、田宮は薄絹でふわりと包まれたようなやさしい気分に
なる。振り向くと、昏い玄関の古色然とした欅の床ににっこりと微笑えんでいる白い顔が、灯をともしたように浮き出ていた。

  床に片手をつき、上体をすっくと伸ばした冴子の挙措は、名匠に活けられた花のように稟として隙がないが、反面、今にも
熟れ落ちそうな盛りの花の脆さを含んだ艶がただよっている。
 
 田宮がこれまでに識った女達は、最初彼を魅了した手中の小鳥のような可憐さといとしさが時間と共に失せて、やがて狎れ
と退廃をただよわせながら、飼主に怠惰な表情で抱かれるふてぶてしい老猫のように変貌してくるのが常だが、冴子のよさは
狎れに染まぬ清楚な可憐さだと田宮は思っている。                              

 伊香保温泉の夜から八ヵ月が流れ、普通の貞淑な人妻では想像もつかない淫靡な性宴に翻弄されながらも、彼女が退廃や
卑猥、淫蕩の片鱗さえ見えないのは、彼女が男二人を相手に性交することや、職業女性さえ顔をそむけたくなるような性戯を、
不純な行為とは思わず、これが大人の世界に通常おこなわれている性戯だと一途に信じて疑わなかったからである。
 実際惣太郎も田宮も、冴子を従順にさせるため、そのように教え込んで来た。これが都会育ちの女性ならこうはいかなかった
だろう。

 無垢で一途であるということは、傍眼には大胆ともとれる。自分が快楽を享受する度合いが大きければ大きいほど男性は歓び
奮起し、相手の女性をいとしく思うものだと、教え込まれたし、また実際にそれを体得してみると、そうしろと命じられなくても、から
だがひとりでに官能の深淵を需めて昂ぶり反応していく。 

 そして自分が貪欲に需めれば需める程、男達も歓喜に狂うということも事実であることを知ってからは、冴子は平凡な人生にも、
こんな快楽に満ちた世界があったのだと、春の花園に踊り出たような気分になっていた。だから次第に露骨に卑猥になっていく二
人の男が需める性戯も、それが当然のことと受けとるから、冴子の態度も羞恥に妨げられながらも大胆になる。
 その羞恥の表情でうち顫えながらも大胆に、需められるまま惜し気もなく躯を広げ動き、やがて自ら官能の業火に煽られて、亡我
の喜悦にのたうち まわる姿に、男たちは耐えられない興奮の渦に引き込まれるのだった。                       

 玄関の鴨居にとどきそうな躯体を折るようにして立ち上がった田宮が、冴子を自然な動作で抱いた。                          
 「いやよ。こんなところで……」                    
 背高い田宮の背広に顔を埋め、煙草と体臭が混じった懐かしい匂いを吸い込みながら、くぐもった声で冴子が言ったが、田宮は
それにはとりあわず冴子の顎を掬って仰向かせた。冴子は勢い顔をのけぞらせながら、田宮の視線を眼にとらえ、
 「誰かが入って来たら…………」                    

 最後まで言わないうちに田宮の顔が落ちてきて、口をふさがれた。     
 いつもの田宮の接吻は、日本の男には少ない技巧を備えていて、いつも冴子を悩殺するのだが、今日のは思いがけず荒々しい
ものだった。冴子が予想していた甘美さとはおよそ違う田宮のやり方に、飢えた男の焦りを感じて、冴子はにわかに田宮に対するい
としさが込みあげてきて、思わず両腕を硬い男の頸に回していた。                                  

  「もうすぐ、いつか話したロンドンに行っている浩二さんが帰って来るの」 
  田宮が口を離した一瞬をつかんで、冴子はやっと言った。         
  「ああ、先生の学友の息子さんで、この家に下宿していて、家族同然にしていた坊やだろう……覚えているよ。何時にくるんだ
い?」           

  「今夜ロンドンから着くとしかわからないんですけど…………たしかブリティシュ航空で帰って来ると言ってましたから、今空港に聞
いて見ようと思ってましたの」                                 
  「ああ、その便なら知ってるよ。夜八時半着だよ。この間友人がそれで帰って来たから…… 。だから十分時間はある……………
だから………………」   
  田宮の掌が懇願するように、そっと割烹着の上から冴子の乳房をつかんだ。接吻とは違って、割れ物にでも触るような優しさだっ
た。           

  「仕方の無ない人ね」                         
 冴子は目許をぼうっと染め上げて、あどけない表情で軽く田宮を睨んだ。触れられたことで、反応をはじめた冴子の躯の奥から
染め上げられた自然な紅が映えて、どきっとするほどなまめかしさをそそる。そのくせ、触れられた後の冴子の表情は、何もかも田
宮に任せ切ったという自己放棄のやすらかさをたたえて体重を男に預け切って、それを受止めている田宮は、泪がこぼれそうなほど、
いとしさが込みあげて来る。                          

 立ち眩みかと一瞬錯覚したほどのすばやさで冴子は田宮に抱きあげられていた。
 昏い廊下を運ばれながら、冴子はもう躯の芯からめらめらと紅蓮の炎が立ち昇りはじめているのを振り払う気力も失せて、しだい
に官能の靄にかすんでいく意識の底で、浩二の来る時間にはまだ間があると最後に考えた。

 浩二のことは夫もこの田宮も知らない。生涯心に仕舞い込んでおくつもれいでいる。これだけは年下の浩二のためにも、また自分
の浩二に対するいとしさのためにも大事に心の奥深く仕舞って置くことに決めている。だから今日は奇麗な躯で浩二を迎えるつもりだ
ったが、こうして田宮に抱かれると、生理的に躯が潤んでしまう。やはりこの八ヶ月の間に冴子の躯が覚え込んだ田宮の肉の感触がそう
させるのだろう。
 浩二のために奇麗な躯でおりたいという感情と、しだいに潤んでくる躯の欲求の綯混ぜった感情のまま、冴子は自分の部屋に布団
を敷いていた。 

 ブラウスの釦をはずして乳房を露わにしたのは田宮だったが、スカートと下穿は自分でとった。裸になった田宮の前は、怒張し切っ
ていた。いつも田宮の希望で、どこからも見えないからと、庭の硝子障子のカーテンを開けたまま冴子は田宮を受け入れる習慣だった。
 
 その硝子に全裸で絡んだ自分たちの姿が、薄く映っている。浩二の時もたしか、こんな風に映っていたような気がしていた。
 庭の椿が赤く飾り電球のように見えていたのも、あの時と同じだった。そう夫との新婚時代にもこの椿を見ながらした。                  

 力強く入って来た田宮に、冴子の躯が思わず弓なりにしない、冴子の視野が、官能の火に揺れて霞みはじめていた。                  
  「ああ、いいわ…………」                        
 思わず漏らした冴子の言葉にあおられるように田宮が律動を強めた。冴子はしだいに朦朧として来る意識の中で、今、自分の中に入
っている男が、浩二のような錯覚を感じたが、それは田宮だと、自分に言い聞かせた。
 しかし、何時の間にかまた浩二とのように錯覚してりうのはなぜだろう。冴子の閉じた目に火花が散りはじめ、官能のたかまりに、思わず
声を発する頃には、冴子は薄れる意識の中で、今夜浩二に抱かれようと決心していた。
 そして夫にも身を許そうと思もった。一日に三人の男に抱かれよう。自分も含めて、四人の内の誰一人として、そのために傷つく者はい
ないのだから。

 そう決心すると、冴子は激しく律動をはじめた田宮の腰にしっかりと脚を巻き付け、両腕は田宮の頸をしっかりと抱いて、自ら腰を振り
ながら、官能の業火の中へ踊り込んで行った。               

 気がついた時は、部屋の中にいつの間にか黄昏が忍び込んで、硝子戸を透かして見える椿林の白い花だけが、仄白く浮で見えた。
 横で煙草のくゆる臭いがして、田宮が俯伏になって汗ばんだ脚を絡ませていた。田宮に煽られて、噴出して無数の火玉となって飛び
散る業火に身を灼かれながら絶叫したような気がする。終焉を迎えようとする田宮に牽制の声でねだりながら自分も昇り詰めて、同時に果
てたまではおぼろげながら憶えている。

 その時に絶叫したと思ったが、実は田宮が果てたと思ったのは冴子の錯覚で、技巧に富んだ彼は、
冴子一人を昇り切らせて、自分は力を温存し、小休止の後再び最後の力をふり絞って挑んできた。
 ふいを突かれた冴子は、高まりまりのおさまる間もなく、頂上からさらに中空に投げ揚げられたような感じに煽られて、最後には気を失っ
ていた。          
 残り火がまだ燻りつづけている胎内で、時々痙攣のような収縮がおこり、その度にどっと溢れたものが流れ出して濡らしている股間を、

 田宮の指が軽く冴子の背中を叩いた。 
  「なにか塗り薬あるかなあ…」                     
 指を動かせ続けながら田宮がぼそりと言た。                
  「肩の血が止まらないんだ…」                     
 冴子の顔の上に寄せた堅いか肩の肉に、鮮やかな歯型がくっきりとついていて、その一部の皮膚が切れて血が細い雫になって流れて
いる。         

  「誰がこんなお悪戯したんでしょうね?」                
 口元に肩を引き寄せ、ちろりと出した舌で、傷口を嘗めながら甘い声で冴子が言った。遠くで豆腐売りのラッパが聞こえていた。硝子戸
の外がもうすっかり暮れ果てて、昏く沈み込んだ室内に、二人の裸身だけが、仄白く浮かび出ていた。

  リビングで鳴る電話のベルが暗い廊下を伝って聞こえてきたのはその時である。 
  「あら、どうしましょう…」                      
 あわてふためいて身を起こした冴子は、弛緩して萎えた脚でよろめきながら、手探りで見付けた割烹着を素肌に纏って、電話に走った。           

  「ああ、ママ?… 僕です…」                     
  いきなり浩二の変わらぬ声が、そこに居るような近さで受話器に飛び込んできた。                                  
  「お帰りなさい。で…今どこに居るの?」                
 懐かしさに込み上げてくる感情を抑えながら冴子は訊いた。        
  「今、箱崎の東京エアーシティーターミナルです。これからタクシーでそちらに向かいますから、あと一時間もあれば着きます。お腹す
かせてますからよろしく」                                   
  「相変わらずね。それで貴方一人なの?」                
  「青い眼の嫁さんでも連れて帰ったとでも思っているんですか? 生憎ひとりです。今日パパはいるの?」                       
  「千葉の学校に行ってるけど、夜は帰って来るわ。お客さんが一人いるけど、心配ない人だから、早くいらしゃい…」                  
  電話を切って振り返るとそこに田宮が、服装を整えて立っていた。     

  「貴方の時間と違うじゃないの。嘘ばっかり言って……。もう箱崎まで帰ってきてるのよ」
  「おかしいなあ……。いつ時間が変更になったのだとう」         
  「あとどのくらいしたら来るかしら」  
  「箱崎からなら全部高速道路だから、四十分もすると着いちゃうね。早く支度しないと拙いな」                            
  「どうしましょう。一体何から手をつけたらいいのかわからないわ…」   
 うろたえる冴子に近寄って、田宮が優しく抱いた。            

  「まず米を出すこと。僕が炊飯器はセットしてあげるから、そのうちにきみの部屋を片付けて……ああ…それも僕がしてあげるから、
君はともかっくシャワーを浴びること…」                            
 「あたしの顔変じゃない?」                      
 田宮の顔を見上げて、羞恥を浮かべながら訊いた。            
  「とてもきれいだよ。眼が潤んでいるところがいい。まだ余韻が残っていて、君が一番美しく見えている時だよ」                    

 田宮は割烹着一枚で、背中から臀にかけては露なままの冴子の身体を愛撫しながら言った。それが困るのよ…浩二さんも、この表
情を知ってるんですもの…とも言えず、冴子は田宮の腕からすりぬけて、米櫃を田宮に教えて、風呂場へ走った。

 
  「そんなに厚化粧したら、せっかくの女らしい美しさが隠れてしまうじゃないか」                                  
 冴子が買い忘れて来たワインを買いに出掛ける時、そう言い残した田宮の言葉を思い出しながら冴子が料理の準備をしている時、
玄関が勢いよく開いて、  
  「ただいま!」                            
 と元気のいい浩二の声がキチンまで響いた。               

 冴子は料理に濡れた手を割烹着で拭いながら玄関に走り出ると、三和土に突っ立て、大きな旅行用のスーツケースを両脇に抱えた
浩二が、白い大きな歯を見せて笑顔で立っていた。二人の目があった瞬間、白い割烹着の冴子の肩が波うつように大きく息づいていた。
 冴子は感動に声をつまらせた。          
  「お帰りなさい…」                          
 やっと言った冴子に、にこりとしてから、                 

  「お客さんは?」                          
 と訊いた。                              
  「お客さんと言っても、パパの後輩で、同じ先生なのよ。今お買物に行ってもらってるの」                              
 スーツケースの一つを取ろうとして三和土に腕をのばした冴子を、浩二が横から抱き取った。はっと、浩二を見上げた冴子の顔に、
いきなり浩二の顔がかぶさてきて、唇を奪われた。短い接吻だった。                 

  「会いたかった!」                          
 そういう浩二の言葉に感激しながらも、会った時にはどんなに感動するだろうと予測していたほど、もう一つ感動がないのは、先ほ
どの田宮の名残がまだ股間に流れているせいだろうかと冴え子は思った。               
  「お風呂湧いてるわ。旅の汗を早く流しなさい。それともお茶にする?」  
  「風呂が先だな………」                        
 浩二は二階に荷物を置くと、勝手知った家の廊下を、大股で歩いて風呂場に消えた。                           

  「浩二さん着替え持ってって…………」
あわてて浴衣を抱えて風呂場に浩二を追い、勢いよくドアを開けると、目の前に浩二が裸身を輝かせて立っていた。
田宮の毛深い大人の躯を見慣れた冴子の目に、艶やかな革のような茶褐色の肌を鈍色に輝かせ、若鹿のように精悍な幼さがまだ残
っている健康で清潔そうな浩二の裸体は、男の精にでも出会ったようにまぶしく映った。

その男の精は、冴子を認めると、一瞬信じられないような顔をしたが、すぐ顔面いっぱいに朱を滲ませて、いきなり冴子を掬いとるよ
うにして抱き締めた。
言葉はなかった。冴子の唇を奪いながら、片手で冴え子の乳房の盛り上がりを割烹着の上から揉んだ。先ほど慌てて着衣した時に、割
烹着を脱ぐときに、ちゃんと服装を整えればいいと考えて、下穿だけつけてスリップもブラジャーも省略し、その上に綿の普段着の紺の
タイトスカートと、薄いカシミヤのブラウスセーターを着ただけだったから、浩二の大きな掌の温たたか味が、直接触れられたように伝わ
ってくる。

 浩二の掌の中で乳首がしだいに硬くなってくるのが、よくわかる。浩二がその掌で、うっ、と思わず声が出そうになる痛さで乳房を強く
握りしめた。その粗野な愛撫が、清冽な清水を浴びせられたたように、冴子の躯に思いがけない刺激を与えて、冴子は朦朧となった。
足が萎えたように力を失い、ずるずると崩れ落ちようとして、冴子は慌てて浩二の裸体にしがみついた。細く硬い浩二の腰に両手をまわ
して体を支えようとしたとき、偶然のように浩二の硬直した男根が頬を突いた。羞恥が全身をはしり、思わず浩二の股の付け根に顔を埋
めた。

 ざらざらとした浩二の陰毛が頬に当たり若い男性の強い体臭が臭い立っていた。
片膝を突いた冴子の不自然な格好を、いきなり崩すように、浩二が冴子の上にのしかかって、ふたりは互いに、足の付け根当りに顔を
付けるようにして折り重なった。浩二の掌がすばやく冴子のスカートをまくり、薄いスキャンティーの上から、口を付けてきた。田宮の溜
ったものが溢れ出ている上に、今の刺激ですっかり濡れそぼり、スキャンティーだけでなく、股間から太腿を伝って流れはじめている体
液が浩二に見られてしまうと、慌てて起き上がろうとしたが、浩二の屈強な力で押さえつけられているため、びくとも動かない。
  「浩二さん、やめて! お願い 」
冴子は思わず、大きな声を上げた。

田宮は、玄関から上がり、キッチンに入りかけたところで、思いがけない冴子の悲鳴を聴いた。
 買ってきたワインの包を置くと、足音を忍ばせて声のした風呂場に向かった。
若々しい青年の裸の背中がまず目に飛び込んで来た。体は大きいが、まだ肩と腰と臀に幼さの弱々しい線を残したような青年の裸体
だった。

 やや浅黒い肌が、若者特有の光沢を滲ませて、脱衣場のほのくらい電灯に照らされて鈍色に輝いている。その青年の乱れた黒い髪から
はえたように、女の白い足が白鳥が羽を広げているようにくの字に開かれているのが見えた。青年の貌が羽の中心に埋まっていた。青年は、
冴子を逆さに組敷いているようである。注意してみると、青年の長い足の膝が、冴子の両肩を押さえつけ、その股間から冴子の白い貌が覗
き見えた。                                  

 互いにクリニングスをしているのかと思ったが、そうではなく冴子は、青年の太い腿を下から手で突き上げて、起き上がろうとしてもが
いているらしい。屹立した男根が、冴子の貌に当たっている。割烹着が腹の辺りまでたくし上げられている。青年の手が、股間で細い紐のよ
うになったスキャンティーを横に引っぱって陰部を丸出しに、そこに青年の貌がかぶさっている。暴力沙汰ではないことが、冴子の抵抗の弱さ
で解る。

  「浩二さん、今はいや! お客さんがもう帰って来るから………」
  「こうしたかった! イギリスにいる間、こうすることばかり考えていたんだ」 「あたしだって、あなたのこと忘れたことないわ」
青年の股間で、くぐもった冴子の酔ったような甘い声がして、冴子の白い掌が青年の太股の下から現れ、隠れていた怒張した陰茎を取り出す
ように持ち上げた。太く大きな陰茎だったが、亀頭はまだ粘膜の薄い紅で、茎も味経験者らしく清潔な肌色をしている。冴子がそれを口付けをし
た。短い口ずけだった。

  青年もふただび冴子の陰部に貌を埋めた。
  「ああ、浩二さん………」
冴子の声が震えた。馴れた男女のしぐさだった。
  「さあ、浩二さん、本当にお客様が帰ってくるわ」
冴子が浩二の太股を押し上げた。
田宮は、するりと廊下を出ると、もう一度玄関から入りなおした。
  1. 2014/12/02(火) 15:36:07|
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花 濫 第5章三人の男の前で2

すき焼きの鉄鍋が、残り少なくなった具を載せて、ぐつぐつと煮返っていた。締め切ったキッチンルームは、肉と酒の匂いが満ちて、あ
たりには飽食の気分が漂っていたが、男三人は杯を持つ手を下げようとはしなかった。

正面に腰掛けた夫は、大島の着物の前を大きく広げ、胸の肌まで朱に染めて、胡麻白の長い髪を酔ったときの癖で掻きむしるようにし
ている。その隣の田宮は、浴衣の襟をきちんと締めて、まだ酔い足りないらしく、すっくと背を伸ばして端正な姿勢で、ひとりブランディ
ーグラスを気取った格好で嘗めている。
自分と並んで腰掛けている浩二は、浴衣の着方に慣れないらしく、だらしなく前を広げ、並んだ冴子からしか見えないが、膝の辺りは浴
衣が割れて脚がむき出しになっている。袖も肩の辺りまでめくり上げているが、それが若者らしく嫌味なく見えるのは、贔屓目だろうか。

楽しそうに談笑する三人の男達の、ふと、冴子を見るどの視線にも、冴子とその男だけに通じる暗黙の了解がある。それぞれの男の
視線には、肌を合わせ身体を溶け合わせた体験が生む狎れ合の情緒が溢れている。
特に浩二は、若いだけにその態度が露骨で、冴子をひやひやさせる。

「ママ少し肥ったんじゃないの。このあたりなんか肉付きがよくなって、とても女らしくなきれいになったね」
薄いブラウス姿の冴子のむき出しの腕を、二人の男の前もはばからずさすったりする。
「腕だけじゃない、胸も膨らむし、腰周りも大きくなったと思わないか? 」
そんな浩二をけしかけるように夫が言うと、白いブラウスの襟に紺のリボンを垂らした冴子の胸に、つと手を伸ばして触り、悲鳴を上げ
て胸を押さえる冴子より大きな声を出して椅子から飛び上がり、
「うわぁ、セクシー! 」
おどけて騒ぎまわる。

久し振りの日本酒にすっかり酔っての行動だが、若いだけに嫌味がない。夫も田宮も、そうした浩二の悪ふざけに嫌な貌も見せずに
笑っているのが冴子には救いだった。
「浩二さん。長旅で疲れたんでしょう。もうそのくらいにして寝たら……」
冴子が注意すると、
「なーに、へっちゃらですよ。一三時間のうち四時間は飲んでいたし、残りはほとんど寝てましたから……。そうだ、飛行機からかっぱ
らってきたシャンペンがあるんです」
浴衣の前が、ガウンでも着ているように開いて、トランクスだけの裸の前が見えているのも平気で椅子から降りると、ふらつく脚で、二
階に上がろうとする。

「おい浩二、今夜は田宮君が二階に寝るから、お前は下の八畳だ。冴子の部屋の隣だ……お前大丈夫か? 」
「二年ぶりに帰って来きたんです。今夜は楽しくやりますよ」
幾分あやしくなった呂律で、わめきながら部屋を出て行った。
「浩二君はここの二人を本当に肉親のように思っていて、まるで自分の家に帰ったような気分になっているのですね。特に奥さんには、目
がないようですね。憧れの女性といった感じですね」

田宮が煙草を挟んだ手にワイングラスを持って、冴子の貌を横睨しながら意味ありげに言った。紫煙のくすぶりで明瞭ではないが、田宮の
細い瞼の奥で、黒い瞳がきらりと光ったのを冴子は見逃さなかった。しかし利怜な冴子も、まさか先ほどの浩二との濡れ場を視られたとは気
付かず、田宮のするどい直感と思って、胸を突かれたような衝撃を感じていた。

「あら、こんなお婆あさんに、独身の若い子が憧れてくれるなんて光栄ね。でもそんなことってあり得ませんわ」
冴子は冗談めかして笑いながら言って田宮の目をのぞき込んだが、その目は微笑みの中に、冴子の言葉を否定する鈍い光を宿していた。
冴子は発作的に夫の表情を読み取ろうとして視線を夫の移したが、夫は昼間の出張疲れか、椅子の背に斜めに頭を載せて、うとうとと居
眠りをはじめていた。

「さあ、このシャンペンで再会を祝いましょう」
冴子の憂慮も気付かず、浩二が威勢よく、乱れた浴衣の前もそのままに、シャンペンを抱いて帰ってきた。
kou二の勢いに眠っていた夫も目を覚まし、ひとしきりの談笑が続いた後、応接間に部屋を換えた。冴子も、夫の勧めで台所の片付けはそ
のままにして、簡単なオードブルと洋酒を用意して仲間に加わった。               

夫が自慢のステレオ装置のスイッチを入れムード音楽を流した。田宮は相変わらず微笑の絶えない貌で冴子と浩二を交互に眺めながら、
静かにブランデーを嘗めていた。
「そうだ、久しぶりにママと踊ろうかな。ねえ、いいでしょうパパ」
浩二が立ち上がって冴子の前にきて言った。冴子が狼狽しながら前に立った浩二を見上げると、もう両腕を冴子の方に伸ばしている。冴
子はちらりと田宮の目を視てから夫の貌を見た。
「ああ、踊りたまえ。昔は飲むと二人はよく踊ったものだ。こんな老人と二人暮らしだろう。冴子も時には浩二のような若い男性の匂いも嗅ぎ
たいらしく、俺を無視して一晩中踊っていたんだ」
「一晩中はひどいわ」
浩二に引っ張られるようにされて、立ち上がりながら冴子がわざと陽気な声を出した。

八畳ほどの部屋に、応接セットとサイドボードを置いた残りの狭い空間に二人は立って身体を合わせた。
浩二はいつもの癖で最初からチークダンスをするつもりである。冴子の身体をしっかりと抱いて隙間なく身体を密着させた。誰かがスイッチの
スライダーを絞って部屋を暗くした。 余り絞りすぎて一時はすぐ前の浩二の貌も定かに見えなかったが、やがて程よい暗さに調節された。

喘ぐようなアルトサックスの調べが官能を揺するように流れていた。
浴衣の下はブリーフだけの浩二が、ゆっくりと腰をまわすようにして身体を擦り付るようにしてくると、スリップに薄いブラウスだけの着衣を通し
て、浩二の暖かい体温が直に触れているような感じで伝わって来る。
浩二は冴子の頬にぴったりと自分の頬を付けて、熱い息を冴子の耳に吹きかけてくる。この部屋の暗さと、襞の多いフレアスカートなので夫
や田宮に気付かれることはないと思うが、冴子の股間に押し込むようにいれた浩二の脚の付け根の勃起が痛いほどの強さで冴子の下腹を突
き上げている。

冴子は椅子に座っている二人の男の視線の強さを肌で感じて、大きくターンをして自分の背で浩二をかばった。
「今日はいやにおとなしいな。いつものようにチュをしてもいいし、どこに触ってもいいんだよ。田宮君がいるとそうもいかんかね」
夫が浩二をけしかけるように言った。
「僕はいっこうにかまいませんよ。むしろお二人の熱いところを見て、若返りたいくらいです」
 田宮が冴子の狼狽を見越しているように陽気に言った。

冴子には田宮の言葉が、背後から仕掛けられた矢のように突き刺さったが、何も知らない浩二は、鼻で小さく笑うと、声援を得たようににわ
かに大胆になって、冴子の背に回していた片手を離して、二人の密着した身体の間に折り曲げるように差入れて、冴子の乳房を押さえた。ブラ
ジャーのない薄い布を通して浩二は手に直接乳房を掬いとったような触感に、興奮を隠しきれず、思わず大きなため息をついた。      
浩二の大きな掌が、直接触れたように、彼の内部に渦巻く激情の熱のほとばしりを乳房に感じとると、自分の乳首がひとりでに、水を得
た花蕾のように自然に硬く膨らんで行くのを感じて、冴子も思わず身をよじっていた。

浩二の呼吸が荒く喘ぎ始め、初めはそっと置かれていた乳房を包んだ掌が、何時の間にか、ゆっくりと指に力を入れて揉みはじめている。
硬直し敏感になった乳首を浩二の二本の指が捕らえたとき、突き射るような快感が冴子の全身に奔って、思わず声が出そうになり冴子は大きく
息を呑んだ。浩二の唇が、長い冴子の髪をかき分けて耳朶を軽く噛み、冴子の敏感な耳の後ろを嘗めはじめた。
「いやよ浩二さん! 」
耐えられなくなって冴子が声を出した。

「なんだ、まだ未熟だなあ、それでは大人のダンスの見本を示すか」
冴子は背中に田宮の低い声を聴いて、思わず冴子は身を硬直させた。浩二は田宮の声を聴くと、にわかに冴子を解き放ち、何を考えたか陽
気に掌を叩いて、
「さあどうぞ。ゆっくり見せてもらいます」
はだけた裾のまま、どたりと椅子に座り、ブランデーグラスを掌に取ると、まるで水を呑むように干した。
  
「浩二そんな呑み方をして大丈夫かい? お前、酒は強くなかったんじゃないか。それともロンドンで修行してきたのかな? 」
夫がからかうように言うと、
「ええ、パーティーの多い仕事ばかりでして、いつの間にかスコッチの二本ぐらい平気で呑めるようになりました。酒とダンスは上達しまし
たが、何しろ誇り高い英国ではチークダンスなどしようものなら、ほっぺたを引ったたかれるのが落ちでして、チークはこの二年間一度もし
ませんでした。やはりダンスはチークがいいですね………」

浩二の言葉が最後の方で、突然消えた。酔いのためか眠さに勝てず、うとうととまどろみはじめていた惣太郎は、浩二の言葉が消える
と同時に妻の短い鳴咽をきいたような気がして目を開けた。
ほの暗い部屋にかすかにムードミュージックが流れ、すぐ前で、田宮が冴子を抱いて踊っている。いや、それは踊っているのではなく、
立ったまま抱き合っていると言った方がいいだろう。背の高い田宮が背中をまるめるようにして冴子に覆いかぶさるようにして接吻している。


直接愛撫している様子が、薄いスリップの半透明な布地を透して、淫らな指の動きまで見えていた。                      
冴子のブラウスの襟下の釦が、田宮の掌の強さに負けて、小さな音を立てて飛び散った。ほの暗さの中に、冴子の首から胸の肌が白く
浮きだしたように見ていた。田宮の掌が、ゆっくりと乳房を揉みしだいているさまが、豊かな乳房の裾野が、はだけたブラウスの間から、
盛り上がったり引き付けられたりする様子でよく見えた。                               

冴子が、痛みでも感じているように眉根に皺を寄せ、しっかりと眼を閉じて、白い喉を後ろに反らせて、貌を真上に傾けて、田宮の舌を
吸っている。
暗い部屋に真っ白く浮かび上がっている冴子の乳房が、田宮の掌の動きにつれて、別な生き物のようにさまざまに型ちを変えて揺らいで
いる。冴子の両腕は、まるで殉教者のように無抵抗の姿勢で、だらりと両側に垂らしたままだった。
田宮が、さらに背をまるめながら、合わせていた唇を、しだいに耳や頚に移していった。                               
田宮の顔が、肌けられたブラウスの間に埋まって、はっきりとは見えないが、ついに乳首を含んだらしいのが、腰を落とした田宮の姿
勢や、冴子がくぐもった呻き声をあげた様子で、じっと見つめている男二人には判った。       

惣太郎は、冴子の呻き声を聞くと、反射的に頚を曲げて、自分の斜め後ろにいる浩二を視た。
田宮と冴子の婬らな絡みを凝視していた浩二の視線が動いて、惣太郎の視線と絡んだ時、
「こりゃあ凄い! 」
おどけたように浩二が叫んだ。
その声に、冴子は、にわかに我にかえったように、だらしなく垂らしていた両手に力を込めて田宮の肩を強く押しながら、
「もうやめて! 」
哀願するように言って身を引いた。瞬間、肌けたブラウスから、豊満な乳房がこぼれ出たのが、浩二の眼にフラッシュライトに照射され
たように、しばらく残像となって灼き付いた。

「冴子は、突然の田宮君の猛襲に、唖然となったらしいな。それにしても、今のはパンチがあったなあ」
惣太郎が、囃すように言ったが、誰も応じて来ないので、ふと、三人の方に視線を向けた。冴子は、男達の視線から逃れるように背を
向けてしゃがみこんで、空になった食器を盆に載せると、音も立てずに静かに消えるようにドアを開けて部屋を出て行った。
  1. 2014/12/02(火) 15:38:51|
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花 濫 第5章三人の男の前で3

惣太郎は、残った田宮と浩二の顔を見た。二人は黙したまま、申し合わせたように下を向いてブランディーを呑んでいた。
瞬間、惣太郎はただならぬ気配を感じ取った。田宮が憤っているのでもなければ、浩二が笑っているわけでもないが、惣太郎は二人の
男の間に、強い電流が流れ合って火花を散らしているような異常な高ぶりを感じた。抗争を秘めた男同士の昂揚した感情だけではない。
むしろ欲情に取り憑かれた雄の発情の炎のたぎりのような、陰湿な激情が混じっていた。

瞬間、惣太郎はいけないと思ったが、次の瞬間に、この逞しい男二人に蹂躙される冴子のみだらな肢体を想像していた。
浩二さえ納得すれば、冴子をこの二人の男達に与えることが出来るかもしれない。浩二の方が若いから、我慢出来なくて先に冴子を貫
くだろう。その間、田宮は、貫かれて激しくもだえるさえこの裸身の上半身を受け持って、乳房を愛撫しているかも知れないし、もしかしたら、
大きく口を開けて喘いでいる冴子に、屹立した自分の男根を含ませるかも知れない。

生まれて初めて、二人の男を相手にする冴子は、とてつもない官能に身を灼かれて、無我の境地でどんな姿態でのたうちまわるだろうか
という、途轍もない妄想が、泥水のねばっこい渦に巻き込まれるように沸き上がってきた。。
う考えると、浩二に両脚を担がれ、激しく貫かれて肌が打ちあたる音や、浩二に揺らされながら、胡座を組んだ田宮の膝に頭を載せて、
勃起した田宮を咥えて、長い髪を田宮の膝いっぱいに散らしている様子までが、現実のことのように思われて、一人激しい鼓動の 高なり
を感じていた。

浩二が椅子から立ち上がった。
[
トイレに行ってきます。水も飲みたいな……………」
独言のように言って部屋を出て行ったが、惣太郎にも田宮にも、そわそわと落ち着きなく出て行った浩二の様子が、冴子の身を案じて出
て行ったということがはっきりと感じられていた。

惣太郎の現実と非現実の入り交じった想念は、浩二が出て行ったことで現実に立ち返った。
浩二は現に冴子と特別な関係があるわけでもなく、どうこうするといってもいまロンドンからはるばる帰ってきたばかりであるし、先ほど見
た田宮と浩二の激しい対抗意識では、二人で一人の女と同衾するなどという、仲のいい友人同志でも、滅多に出来ることのないことが、実
現できるわけはない。

例えこれから幾日か時間をかけても、出来そうには思えなかった。第一冴子が承知するはずがない。
今夜は浩二が寝た後、田宮に冴子を任せれば、いつものとおりに惣太郎が一寝入りしている間だに、二人は激しい性宴を繰り広げるだろ
う。
それを覗き見て自分の性感を高めておけば、官能の炎をまだかき立てたままの冴子が惣太郎の部屋に帰って来る。惣太郎は無駄な精力
を消費しなくても、冴子をいとも容易に狂わせることが出来るし、田宮との交わりで、すっかり練れ溶けた冴子の熱い躯に満足できるのだ。

田宮に今夜の予定を告げようとした時、田宮の眼鏡の奥の眼が、一瞬きらりと光ったのを惣太郎はみた。
田宮が指を自分の唇に当てて、聞き耳を立てるよう無言のままで惣太郎に指示しながら、中腰になって部屋のドアに向い、音を立てない
ように慎重に少し開けると、窺うように首をそっと突き出した。

森閑とした廊下の暗闇に、ガラス戸に人の躯が当たる鈍い音が聞こえた。なにか争っているような気配である。耳に掌を当てて神経を集
中させて聞き入ると、言葉は判らないが、浩二の低い声が冴子に何か訴えているように聴こえ、その合間に冴子の短い声が聴こえた。
二人は風呂場の脱衣場にいる様子である。

しばらく静寂が闇を包んだが、やがて、壁に当たる鈍い音がしたかと思うと、ママ、ママと浩二が何か冴子にせがんでいるような甘えた声が
聴こえ、冷たい空気が淀んだ廊下の向こうで、何かただならぬ事が行われている気配が伝わって来る。
あの二人は好き合っていますね。……実際にどうかは知りませんが、少なくとも感情の上では、互いに憎からず思っていますね。……
先程、僕が余り露骨な態度をとったので、浩二君が逆上したのではないでしょうか」
「妻を責めているのかね」
「わかりませんが、浩二君が奥さんに、何か訴えているのは確かですね」


「君はもし、浩二と妻がそうだったら嫉妬するかね」
「全く嫉妬しないといえば嘘になりますが、先生は怒られるかも知れませんが、もしそうだったら僕は安心しますね」
「安心する? どういう意味かね」
「前に先生ご自身がおっしゃったことですが、奥さんは若いんです。これは私と先生の罪ですが、何も知らなかった奥さんに、性の深淵を
見せてしまいました。
奥さんがふしだらとかいうのではなく、若い躯が異性を需のは人間の本能ですから、いま奥さんは初めて知った官能の業火に魅せられて
しまっています。本来なら、それが夫婦生活で解消するのですが、ここはそうはいきません。

そこで先生は私を代理の夫に選ばれたわけです。そのこと自体は、私も夢のように喜んでいますが、問題は、私がアメリカへ帰った後です。
こうして寝床を共にしていますと、しだいに奥さんの純情さが判ってきたんです。愛情を感じだしたといってもいいでしょう。生涯味わうこと
がなかった筈の歓びを知ってしまった奥さんが、僕が帰ったらいったいどうして、若い躯を処置するかと心配だったんです。
もし浩二君とそうなれば、彼の人柄からしても、妙な方向へ走る心配はないし、いいなあと思ったんです」

「なるほど。俺も、実は、先程、君と同じ事を考えていたんだ」
惣太郎は、この三人の男の中で一番悪魔に魅いらられているのは自分だと思った。
いま風呂場で妻に何かを迫っている浩二にしても、ここにいる田宮にしても、冴子という美しい人妻を、亭主の軟弱さにつけこんで頂いて
やろうというような邪念に満ちた醜行を図っているものは誰もいない。
たしかに冴子という若く美しい人妻の躯に惹かれているのは事実だが、彼らには有り余る精力が備蓄されていて、冴子一人と交わることぐら
い、さして肉体的には問題ではないのだ。

それに引き換え、自分はどうだ。
自分が好きで娶った若い女房すら満足さしてやることが出来ないで、他の男に頼らなければならない。
だが、一方、冴子の方はどうだろう。惣太郎は女にとって愛とはなんだろうかと、いままで冴子の変貌を見ながら考えてきた。
あの清純な心と躯を備えていた冴子が、田宮といとも簡単に関係をもってしまったのである。田宮がどういう過去を持つ人間か、どういう立
場にいる人間か、よく知らないで、田宮に愛情を感じたのであろうか。果してこれは愛といいえるのだろうか。
どう考えても冴子が田宮を愛したとは思えない。食べず嫌いの料理を、ふとした機会に食べて魅了されることがあるのと同じではないか。
ふと魅了されるように、冴子はふと田宮という若い男性の肉を知って、それが若い女である自分にふさわしいと悟り、それにすっかり魅了され
てしまたのであろうか。                

いまではもう夫が自分に田宮という若い男を与えて、性の歓びの本質を知らせてくれたことはわかっているだろう。
彼女にとって、それは目の鱗がとれたような驚嘆だったに違いない。
この世に普通に存在し、たいていの女なら、必ず体験する性の歓びを自分は知らなかったことにたいして、夫が与えた男によって、はじめ
て知らされたことに、いま冴子は夢中になっている。
それが不倫であり、不貞であり、常識を逸脱した異常な行為であることを冴子は充分承知しているが、与えられたものの麻薬のような魅
力には勝てなかったのだ。
夫が与えてくれたという大義名分は、冴子から女特有の責任回避行為として、自己暗示的な正当性理論が成立して、不倫という背徳の
暗い翳を消し去り、素直に夫の従う従順な人妻としての安穏を得ているのだ。

しかし、田宮との交わりは、若い一対の男女としてありうべき行為であるけれども、さらに、もう一人の、それも、まだ二十そこそこの童貞の
青年の情熱にたぎり切った、獣のような向こう見ずの若い男を与えるということは、冴子を性のいきにえにして狂わしてしまうということになり
はしないだろうか。

これから女を識る浩二は、自分が若かった時そうであったように、冴子を識れば、当分の間冴子を需め続けるだろう。それも常軌を逸脱
した執拗さで需め続けるに違いない。
田宮のように節度があって、週に一回とか、月に二回とかいう節度で、冴子を満足さしてくれればいいが、浩二の若さでは、当分連日でも
しなければおさまらない状態が続くのではないか。そして、男と違って需られれば、生理的に応じ、それが、どんなに凄強であっても、強烈
であればあるほど、敢然とそれに呼応していくように創られているのが、健康な若い女の業である。

もし、冴子に浩二を与えた場合、二人は、互いの若さをぶつけ合い、激しい官能の陶酔に、自分も、家庭も、浩二の仕事も忘れ果てて、
とんでもない行動にはしることはないだろうか。浩二の若い熱情に冴子が冒されて、自分から離れていくようなことはないだろうか。惣太郎は、
考えている内に、そら恐ろしくなってきた。

自分は、冴子を可愛そうだと思って、男を与えただけではない。    
田宮とのことで、垣間見た、若い男に貫かれて歓喜にのたうつ妻の白い躯に、初めて知った妻の女らしさ、新しい美しさ、妖艶さ、被虐
と苛虐の甘美さに、自分の妻の体内に眠っていた女の真随の美しさ、可憐さのようなものを識って、まるで識りはじめたばかりの女のように妻
に惚れなおしている。

だから、田宮を与えた後、二人の情交が重なる度に、しだいに官能の甘さに酔って乱れていく妻の姿態が、日毎に女らしさと妖艶さと、
意外なことに、妻の純粋さというような、精神的美しさのようなものまで発見して、自分は、他の男と狂う妻を盗み視ることによって、いやがうえ
に妻に没頭しているのである。
その妻を奪われてはならない。飼犬に掌を噛まれることもある。

「先生が、その気になられたのなら、実行するのは今夜です」
田宮がぼそりといった。
「何を実行するというのだ」
「あの二人を結びつかることです」
惣太郎は思わず息を呑んだ。もともと田宮にはいったい何を考えているか判断に苦しむような所があったが、今の田宮の一言は、惣太郎
の下腹にずしんと響いた。自分が考えていた殺人を見透かされて、手伝いましょうと切り出されたような衝撃でもあり、悪魔のささやきのよう
に痺びれるような蠱惑を秘めてもいた。

「何も急いで今夜しなくてもいいだろう」
惣太郎の声が、厭でもない男に迫られた女のように、拒否とも承諾ともとれる弱さで響いた。
「いや、チャンスというものがあります。そうお望みなら今夜です。任せて下い」
宮が共犯者のつもりが、いつの間にか、自分が共犯を迫られているような心境だった。おびえの底に胸の高鳴りがあった。
 
「任せるって、一体どうしようというんだ………」
惣太郎は、高台から海に飛び込むような気持ちで安全を確かめた。
「酒を呑ませることです」
「酒を?」
田宮は煙草に火を点けて、大きく吸い込みながら、はじめて惣太郎の眼をのぞき込んだ。その眼には、秘めた光が強く感じられた。  
「ただ、酒を呑ませるのです。奥さんも浩二君も酔わせてしまえばいいんです。理性さえなくなれば、二人は好き合っていますから自然と
そうなります。僕も昔、企まれたわけではありませんが、人妻と酔ってそうなったことがあります。朝起きて、一緒に寝ているので驚きましたが、
どうも一晩中交わり合っていたようでした。

浩二君の若さなら、どんなに酔って、意識が朦朧としても、そのことだけは可能です。けしかけもしませんし、誘導もしません。二人とも酔い
さえすれば自然とそうなります」
惣太郎は言葉を失っていた。ただ、胸の鼓動が早打ちして、逃れられない悪魔の言葉を聞いたように、愕然としながらも、既に心では、田宮の
誘いに乗っている自分を見つめていた。
  1. 2014/12/02(火) 15:40:36|
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花 濫 第6章悪魔の宴1

田宮と惣太郎の、悪魔の打ち合せがおわりかけた頃、浩二が新しいブランデーの瓶と、燗をした銚子を持って入ってきた。乱れたま
ま出て行った浴衣が、着付けでもしたようにきれいに整えられている。誰がみても冴子が着せ直したことが判る。                                  

「ママは、つまみを造ってから着替えてきますって……。この日本酒はパパが今日千葉でもらってきた吟醸酒だそうです」
「ああ、これはねえ、館山の造酒屋がくれたもので、大きな樽で醸造したものを、そのまま上澄をすくってくれたんだ。だから正式には
濁り酒だ。しかし、生地の酒はうまいよ。重かったけど、三本もらってきたから、思いきり呑んでくれ」
惣太郎は、田宮と浩二のどちらにともつかずにいうと、まず田宮に銚子を向けて、促すように銚子をしゃくると、田宮は小さく頭を下げて
猪口を差し出した。

「おまえはコップの方がいいだろう」                   
惣太郎は、浩二の前のコップに、田宮に注いだ残りを全部空けながら、いよいよこれからはじまる悪魔の宴に、自ら飛び込んでいく決
心を、もう一度確認した。                                  

男三人が、最初の酒を毒味でもするように、黙したまま口に含んで 吟味していた時、冴子が、淡い茶色のハウスコート姿で入ってきた。
先ほどの事は忘れたようにに華やかな微笑をたたえてる。手には大きなガラス容器を持っていた。  
「さあ、今日は浩二さんの帰朝のお祝いですから、お刺身をいっぱい造りましたの。そしたらパパが、また気をきかせて、千葉か伊
勢海老をこんなに買ってきたのよ。パパのは全部生きていたの。さあ、浩二さん海老は好物だったでしょう、召し上がれ。ほら、こちら
にあわびもあるわよ。頂く?」

取り箸で、浩二の前の小皿に取り分けてやりながら陽気に冴子が言った。襟もなく、首の周りを丸く裁断しただけのハウスコートは、
薄茶色に濃い茶で木の葉をあしらった模様の木綿地の薄いものだった。
一枚の布を前でちょっと合わせただけのように、上から腰の辺りまでがスナップで止めてあるたよりなさである。手を触れただけで、は
らりと開いてしまいそうな、その頼りなさがなんとも艶っぽい。裾は踝近くまであるが、横は割れていなくて、前合わせのスナップが腰の
上までしかないので、椅子に座ると前が割れて、艶やかな膝小僧から太股の奥までが覗いてしまう。

冴子自身それが気になるのか、前が割れる度に慌てて合わせているのがかえって扇情的で、男心をそそる。普通では他人の前で着
られるものではなく、個室でのナイトガウンである。冴子は夫以外の男の前で自分から、こんなはしたない着衣を冴子が自発的に着るよ
なことは絶対にない。       
実 は今夜は惣太郎が冴子の厭がるのを無理に着るように命じていたのである。下にブラジャーもスリップを着けることも禁じてあった。
下穿も最初は穿かないように要求したが、さすがに、冴子は応じなかった。それでは腰に線の出るものはやめて、小さなスキャンティ
ーを穿くようにいってあったから、きっとそうしているに違いない。

この服は、先週、学園で開かれたバザーで惣太郎が買い求めて来たものである。生活学科の女子生徒が創ったもので、同じスタイル
の色違いを自ら着て賣っていたのをが、惣太郎の目に留まった。
前のスナップの合わせを臍のあたりから下は外して裾を風になびかせていたので、小麦色に日焼けした弾むよう女子学生の太股が妙
に色っぽく惣太郎の目を刺激した。

惣太郎は、ふと、その女子学生を妻に置き換えて眺めてみた。むちむちと熟しきった柔らかそうな躯の、色の白さが、首筋から胸へかけ
ていっそう透き通るよな妻は、肩も腰も腿も、躯のどこをとっても、まるくなめらかで色白だ。その妻がこれを着ればどんなに艶っぽいだろうと、
思った時、惣太郎は、これを着た妻に魅了されて言葉もなく夢中で妻を抱き締めようとしている田宮の姿が忽然とうかんできた。

寵愛する妻は、他の男に対しても限りなく魅力的な存在でなければならない。妻を与えた男が、妻にひれ伏し、魅了され、盲従するか
らこそ夫である自分は優位であるのだ。もし男が不能の男の妻を慰めてやっているのだという立場になると、自分はどんなに惨めだろうか。

幸い田宮は妻に完全に魅了されている。しかし、慣れとは恐ろしいもので、田宮が妻の心と躯になれてしまえば、後者の態度に出ないと
も限らない。そのためには、手を変え品を変えて、妻は田宮の前で、いつも新鮮でなければならない。
惣太郎は買ってくれとせがむ女子学生に、親戚の娘にでもやるか、と照れを隠して買ったのだった。

田宮と浩二の視線は、妻が、ともすれば割れる膝を合わせる度にそこに釘付けにされている。
惣太郎は、恥ずかしい思いをしてまでそれを買ってきたことに満足していた。
「うまいですねこの酒は……。燗もいいけど、原酒は冷やがいいかも知れませんね。奥さんすみませんが、氷と瓶を持ってきてくれませ
んか」
惣太郎は田宮を凝視した。よく冷やした酒は、水を呑むようにすいすいと呑めて、後でどっと酔いがくる。冷静に悪魔の宴を開くべく、着
々と大胆に準備を進めていく田宮に、犯罪馴した凶悪犯にでも押し込まれて、脅されているような恐怖を惣太郎は覚えていた。

田宮は勧め上手だった。一時間もたつと、浩二は英国の歌を、まるで学生の応援団のように高吟しはじめた。酔いの回ってきた証拠であ
る。
やがて、大胆にも惣太郎や田宮の視線も気にせず、冴子がはだけた膝にじかに掌を置いたりするようになった。酩酊してきたのだ。
冴子も田宮が酒を勧めても三度に二度は、酔ってしまうからと受け付けなかったのが、やがて三度に一度しか拒否しなくなり、冴子が酔った
特徴である鼻声になりはじめた頃には、頬も紅をはいたように艶やかで、目がしっとりと潤んで、田宮が差す度に呷るようにして杯を空けるよ
うになった。
冴子は動作も緩慢になり、裾のスナップが外れて、艶やかな膝小僧や太腿が露わになっているのも気付かぬほどに注意力も散漫になっ
ていた。

浩二が大きな声で話ながら、机の下で隠しているつもりで、冴子の露わになった太股に置かれているのが、実は惣太郎からも田宮からも
よく見えたいるのだが、それに冴子も浩二も気付かぬほど酔いが回っている。
ほの昏いフロアスタンドの明りが、そこだけ光を集めているように、艶やかに白く輝く冴子のむっちりとした膝に置かれた浩二の大きな掌は、
膝小僧のあたりにじっと置かれていて、笑いや言葉のはずみに、あたかも、偶然掌が滑ったというようなあどけなさで、膝から太腿の上を、す
っと愛撫している。浩二の女ずれしていない純情さが、その掌の動きにもよくあらわれている。

杯を片手に持って、じっとその掌の動きを眺めていた田宮が、じれたように言った。
「さあ、浩二君、奥さんと踊るかい。もし踊らないなら僕が踊れたいんだが……」
けしかけるような田宮の言い方だった。
「田宮さんは駄目ですよ。ママに悪い事するから。僕が踊りますとも……。僕が帰ったからは奥さんにあんなことさせませんからね。……
ママ……もうだいじょうぶですよ……僕が守って上げますからね……さあ、踊りましょう……」

冴子を抱くようにして、浩二が無理槍立ち上がらせた。冴子の脚が机の下で無理に開いて、前合わせのスナップが飛んで、白い絹のスキャ
ンティーが、股間に食い込んでいるのが見えたが、冴子も酔っているので気付かない。      
冴子の脚がふらついていた。                     
浩二にすがるようにして立ったが踊ることもできない。
「浩二さん、駄目。酔ってしまって踊れないわ……」
冴子は甘えた口調でいいながら、浩二の躯にしがみつくようにして、やっと立っているという状態だった。
「大丈夫だよママ。こうして踊ればいいんだ………」

浩二が冴子の背中に両腕を回して自分に強く引き付けて、足は動かさずに腰だけをゆっくりと左右に動かせた。それを眺めている惣太郎と
田宮からは、冴子の着た薄いコートが、浩二の力で前に手繰り寄せられてしまい、太っても痩せてもいない頃合の冴子の女らしい背中が、正
中線のまっすぐな凹みまではっきり見えていた。腰から臀の隆起も、薄い布地が、まるで冴子の皮膚のように張り付いていて、盛り上がった肉が、
浩二の動きに合わせて、くりくりと動く様子が、直接裸体を見るより扇情的だった。                      

浩二の肩に額を押し付けるようにして顔を埋めているので冴子の表情は見えないが、浩二は冴子の左耳のあたりに顔を擦り付けて、髪の乱
れた首の辺りに唇を押し当てて目を閉じて陶酔の表情で踊っていた。
腰だけ小さく左右に揺らしていた浩二の動きがしだいに大きくなり、左右の運動だけではなく躯全体を、冴子に強く擦り付けるようにして、前
後左右に円でも描くように強く大きく動かせはじめた。ささやくようなCDディスクの音楽の流れの合間に、ぷつんと、聞き取れないほどの小さな
鈍い音で、冴子の着衣のスナップが飛ぶ音が、惣太郎の耳に、心臓に突き刺さるような強さで響いていた。

スナップが外れる度に、冴子の前ははだけられて、浩二はそこに自分を密着しているに違いなかった。            
何度目かにその鈍い音を聴いた時、平静を装えなくなって、身を椅子から乗り出すようにして二人を凝視した。きりりと着直した浩二の浴衣の
胸は、だらしなく肌けられていて、そこに冴子が顔を埋めている。先ほどまでまるで冴子自身の肌のように密着して、臀の丸味から背中の正中
線まではっきりと見せていた冴子の着衣も、くびれた細い腹の辺りが、前で引っ張られているように肌に密着している以外は、余裕たっぷりの着
衣のように躯の線を隠しているということは、前が肌けられて腹のところでわずかに残りのスナップが留まっているだけではないだうか。                               

いま、ふたりの肌は汗ばんで直接密着しているに違いない。冴子は股間に薄いスキャンティーを透して浩二の怒張したものを突き当てられて
を感じているのだろうか。また裸の乳房は浩二の熱い胸に直接触れて押しつぶされているのだろうか。浩二も又、冴子の柔らかい肌を熱い体温
と湿ったような感触を味わいながら陶然となっているのだろうか。惣太郎の狂うような昂ぶりも知らぬ気で、二人はしっかりと密着したまま、声も出
さずに搖れていた。            

「浩二さん……… それ……いやよ……」                 
あとは含み笑いした冴子のささやくような声がして、抱き合った二人が大きく搖れた。
視ると冴子の胴抱き締めていた浩二の腕が、いつのにか解けて、片方が冴子の股間に当てられたらしい。
冴子が腰を浩二から大きく引いたと思うと、急に大きな笑い声をたてながら浩二からはなれて、その場にしゃがみ込んでしまった。                                 

 
「駄目だよママ………」                        

浩二がしゃがんだまま着衣の前を合わせている冴子の斜め後ろから、冴子の両脇に腕を差し込んで抱え上げた。
力が抜けて人形のようにぐったりなった冴子が、足先を残して斜めに引き上げられる時、着衣の前の臍から下がはらりと開いて、スキャンティー
けの、むっちりした下腹やすんなりした脚があらわになって、灯を集めて白く浮かび上がった。
浩二が慌ててはだけた冴子の前を合わせようとしたが、薄い着衣は生き物のように冴子の裸身を包むことを拒否して滑り落ちた。 
浩二が引き擦るようにして冴子を惣太郎が腰を下ろしているソファに坐らせると、冴子は緩慢な動作で自分で前を合わせながら、              
  
「あなた………お水飲みたいわ」                    
しなだれかかりように惣太郎の肩に汗ばんだ顔をもたせかけた。多すぎる髪が惣太郎の顔に触れて、そこから甘酸っぱい女の発情の体臭が
惣太郎の鼻腔に強く匂っていた。      
「浩二君、さあ、この水を飲ませて上げなさい」
落ち着いた抑揚のない田宮の低い言葉に、惣太郎が田宮に視線を移すと、田宮は、大きなコップによく冷えた酒をなみなみと注いで浩二に差
し出すところだった。田宮とは一体どういう男なのだろうと、惣太郎は付き合い慣れた田宮をはじめて視る男のように疑念の眼差しで凝視していた。

たしかに、自分と二人で企んだ悪魔の宴を、彼は忠実に実行しているのだ。
二人が完全に酔えば愛し合うという条件を二人で確認し、そうすることにしたのだ。しかし、二人はまだ完全に酔って理性を失うまでに至ってい
ない。とすればもっと酔わさなければならないのだから、田宮が酒を勧めるのは、しごく当然の約束の履行である。だが、いま、妻は、喉の渇きに
水を欲しているのではないか。
それを酒に換えて騙してまで飲まさなければならないのだろうか。

田宮の先ほどからの冷静すぎる行動は、妻に魅了されつくしている男のとる行動だろうか。
田宮は不能の先輩の妻を、主人の了承の上で味わい、それに飽きた矢先に、馬鹿な主人は、またと見られない若い男と人妻の性交場面を見
たがっている。
この滅多にないチャンスを逃がす手はない。この際、何がなんでもこの人妻と青年を酔わせて、たっぷりとその濡れ場を鑑賞しなければ損だ。
まさかとは思うが、田宮はそんな凶暴な心境で事を進めているのではあるまいかと、惣太郎は疑ったのだ。         
もしそうだとすれば、この宴は中止しなければならない。         

そんなことを考えている間に、何も知らぬ浩二は、気安く田宮からコップを受け取ると、                                
「はい、ママ………」                         
冴子の顔にそのコップを突きつけた。                  
両手でコップを受け取った冴子は、そんな疑惑など全く感じてはいず、酒の冷たさにごまかされて、一気にうまそうに喉を鳴らしながらそれを飲
み干して、  
「ああ、おいしいわ、浩二さん」
と吐息をついた。
 
「そろそろ休みませんか」                       
田宮の声で惣太郎は目を覚ました。目の前の椅子で、田宮がまだ一人で杯を空けていた。その横の椅子では浩二が背もたれに埋まるような
格好で口を開けて鼾をかきながら眠っている。横では冴子が、惣太郎の方に、縮めた脚を向け、頭を向こうの肘掛けに横向きに載せて眠っている。                
「もう何時になった?」                        
惣太郎が聴くと、        
「一時過ぎました」                          
田宮が昏い奥から答えた。

あれから雑談をしながら、田宮が妻と浩二に酒を勧めていた。真っ先に浩二が眠った。田宮が冴子に、自分と妻の出会いの頃の話をさせてい
たのを覚えている。
話は新婚旅行の話から初夜の様子に移り、それが本当にはじめてか、とひつっこく田宮が冴子に聴いていた。何度も、本当にはじめてかと田
宮が聴き、鸚鵡返しで、そうよ、と妻が答えていた。
 
呪文のように、田宮が抑揚のない声で聴き、妻が呪詛にかかったように力なく答えて、その合間に、田宮が巧みに妻に酒を勧めていた。その単
純な催眠術師のような問答は、醒めた田宮が冷静に妻の酔い加減を測定しているのだろうと思いながら惣太郎は聴いていたが、そのうち眠ってし
まったらしい。                      

今一時だとすれば、一時間以上眠ったことになる。その間、田宮は一体何をしていたのだろう。そこまで考えた時、惣太郎の胸に、ある疑念がに
わかに浮かび上がってきた。                              
「君は今の間に冴子と……………」       
惣太郎は田宮に思わず聴いた。聴きながら自分が意志とは無関係に、田宮に随従するように、思わずにんまりと好色らしく笑いかけたのを、
内心苦々しく思った。                                  
「ええ、奥さんの寝乱れ姿が、あまり色っぽくて我慢できなくて…… すみません」                                 
「何も謝ることはない」                        
「ちょっとですけれど……」                     

何がちょっとだと、内心の腹立たしさを押さえて、反射的に冴子の顔を見た。
長い睫毛をしとやかそうに伏せて、妻は眠っていた。顔はやや汗ばんで、ほつれ毛が額に張り付いており、眉と眉の間にわずかに苦悶か快楽
を味わってでもいるような縦皺が刻まれている。
終わった直後でないことはわかるが、妻の表情には、まだ充分に余韻が残っていると惣太郎は思った。               

「ここでしたのかい? それにしては俺も、よく眠っていたものだな」   
惣太郎は平静を装って聞いた。                      
「いえ、そこの絨毯の上です。………途中で、私ではなく浩二さんだと勘違いしたようで……さかんに浩二さんの名を呼んでました」  
「浩二と思っても、別に拒否しなかったというんだな」
「ええ、拒否どころか、かえって興奮して………、応じ方といい、声の出し方といい、それは大変でした……。私との時との較ではありませ
ん」       
「そんなに浩二としていると思って興奮したかね。こいつは、そんなに浩二が好きなんだろうかね」                          

惣太郎は嫉妬ではなく、ある安堵感を抱いて田宮に訊いた。それは、今夜、はっきりと田宮に感じていた恐怖と嫌悪感がそう思わせたのだっ
た。いまの田宮の立場で彼が自分を裏切ることはあり得ない。
自分が田宮を学会で誹謗すれば、彼の言語学者としての社会的地位を喪失差せることも可能である。しかし逆にこんな自分の個人的秘密
を握られたことによって、田宮の無言の圧力と要求に応じなければならなくなることだってあり得る。
現実に田宮は、いまは助教授だが、国内のどこかの大学の教授になって箔をつけてからアメリカへ帰りたいと考えている。自分が推薦すれ
ば、地方の私立大学なら、いますぐにでも教授になれないこともない。要するに田宮は自分達夫婦の性の愛玩物にするには、あまりにも世慣
れすぎていた。                             

それに比較して、浩二は世間も知らない若竹のような素直さで、人を疑うことも知らない。もし、いまの田宮の言葉が本当だとすれば、冴子も
浩二が嫌ではない。浩二が妻にぞっこん惚れていることは、今までに充分証明されている。  
こういう危険な遊戯には、一抹の嫌疑でも感じる人物を交えてはいけない。
惣太郎は、本能的に田宮に危険なものを感じていた。             
そうなると、今夜の機会を逃して、妻と浩二を結び付ける機会がないとはいわないが、それには、また大変な時間と気苦労とエネルギーを費
やさなければならない。そうだ、やはりこの機会に妻と浩二を結び付けて、田宮を遠ざけるのが賢命だと惣太郎は思った。そう心に決めると、気
が楽になった。         

「ほんとうに、こいつは浩二が好きなのかねえ」             
惣太郎は、自分のすぐ傍に、揃えて投げ出されている妻の、薄いマニキュアに貝細工のように美しい爪の輝く足先を愛撫しながら言った。す
んなりとした形のよいふくらはぎを重ねて、膝で折り曲げ、その奥にむっちりとした太股が着衣の奥に蠱惑を秘めて盛り上がっている。
この美しい妻の躯が、いま田宮に犯され、やがて若い浩二の餌食にされるのかと思うと、毒を呷っているような被虐の悦楽感と、臓腑が空にな
るような加虐の昂ぶりと、一夜に二人もの若い男から妻自身が味わう享楽の激しさとの入り交じった倒錯の喜悦に、惣太郎は目舞がするような興
奮を覚えて、思わず、妻の薄い着衣の裾を開いて、その奥まで手を差入れて愛撫した。

「そのままにしてあります………」
田宮が羞恥を含んだ言葉使いで言った。惣太郎は男の体液を受け入れたばかりの妻の熱湯を溜めたような膣を好んだ。
自分より強壮な男を受け入れて、歓喜の絶頂を迎えたばかりの灼熱の余韻がまだふつふつとたぎっている妻の躯は、挿入した瞬間に、再び
燃え狂い、先ほどの若い男との狂乱が、一時中断の後、再び続行されているようで、まるで最初から自分が妻を徹底的に狂わせているような優
越感に浸れたし、また、まだ妻の体内で、体温まで温存して襞の隅々にまでたっぷりと溜っている前の男の精液が、自分の陰茎に纏つくことで、
その妻を犯した男と一体になったような錯覚が生じて、その男を嫉妬したり恨んだりする感情が消え去っていくのだった。                        
 
妻が穿いていたスキャンティーは取り去られていて、なにも着けていなかった。
股間に掌を進めると、太股の内側から臀の割れ目にかけて、二人の体液と汗がべっとりと濡れ付いていて、田宮との情交の後を歴然と示して
いる。
さらに掌を進めると、そこは粘膜が溶けてしまったかと錯覚するほど柔らかくなって、粘質の熱い液が底無し沼のようにたぎっていた。
惣太郎がその沼の奥に指を突き入れようとしたとき、冴子が広げた脚をよじったて、呻き声を上げた。                        
「浩二さん………。浩二さん………」
自分の胸を掻き抱くようにして、冴子が小さく言ったのを惣太郎は確実に聞いて、慌てて掌を引っ込めて、反射的に田宮の顔を見た。

「どうします?……もし実行するなら今がチャンスですが……。これ以上間をおきなすと、二人とも本気で眠ってしまって、朝まで起きません。
酔いが深くなりますから…………」
惣太郎は妻の顔を見てから、椅子にもたれて眠っている浩二を視た。先ほどまで青かった妻の顔に朱がさしていた。前をはだけて、琥珀色の
すべすべした艶のある贅肉のない締まった浩二の躯は、幼さを残した若さに輝いている。     
「どうしますか」
田宮がまた惣太郎に尋ねた。田宮の声が自分の殺生与奪の権利を握っている権者のように惣太郎には聴こえて、畏怖の念を感じた。
惣太郎は声が詰まって、思わず田宮の目をのぞき込むようにしてうなずいた。 

「さあ、もう寝ましょう。…………奥さん寝ましょう」
田宮は 椅子から立ち上がって、それでも起きようとしない冴子を揺り動かした。冴子が目を覚ますらしく、躰を動かしはじめると、田宮は妻の
躰の向きを浩二の方に向けて、ぽんと肩を叩いて、
「さあ、もう寝ようよ」
と言った。冴子が、何に刺激されたのか、慌てて起き上がると、
「あら、もうそんな時間? 困ったわ……あたし……。田宮さんの布団はお二階に用意してますけど、浩二さんのはまだ用意してないわ。すぐ
しますから浩二さん暫く待ってください………。ねえ、あなた……、隣の和室でいいわね、浩二さんが休むのは………」
酔いの回ったたどたどしい言葉で言ったが、立ち上がる気配はなく、裾を乱したままソファに腰を下ろし目を閉じたまま、まだ夢の中のように呆
然としていた。 

「俺が布団敷いてやろう……」
立ち上がりかけた惣太郎を田宮が制しながら、まだ眠り呆けている浩二の肩を強く揺すった。
「おい! 浩二さん、みんなもう寝るんだが、君はどうするんだい……このままここへ寝るのかい? 」
「いいえ、疲れて帰っているんだからちゃんと寝なきゃいけませんわ。すぐ支度しますから………」
冴子がふらふらと立ち上がりかけたが、すぐふらついて部屋の壁に手を突いて支えた。
 
「奥さんが支度してくださるそうだよ。君も早く起きて手伝わなくてはいけないよ。ささ……隣の部屋に行きなさい」
田宮が引き起こすようにして浩二の腕を取って引っ張ると、驚いたように浩二が目を開けて、じばらく周りの様子を窺っていたが、
「僕が自分で布団を敷きますから、ママ布団のあるところだけ教えてくださいよ………さあ、行きましょう……」
冴子に寄り添うと、冴子の肩を抱くようにして部屋を出て行った。それを追いかけるように田宮が追っての悪魔のように後につづいた。                            
  1. 2014/12/02(火) 15:44:49|
  2. 花濫・夢想原人
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花 濫 第6章悪魔の宴2

惣太郎が廊下に出てみると、二人は恋人同志のように互い抱き合って、隣の和室の襖を開けるところだった。浩二が片手を冴子の腰に回した
まま、もう一方の手で乱暴に襖を引き開けると、暗い中に冴子を片手に抱いたまま突っ込むように倒れ入った。
真っ暗な部屋の中で暫く身をもみ合うような気配がしていたが、やがてどちらかの脚が襖を蹴ったり、躯が壁に当たる重く鈍い音が断続的に二、
三度したと思うと、その後はしんと静まり返ってしまった。
廊下の弱い照明に照らされてやや黄味を帯びて見える襖の開かれた奥の暗闇が、近づいてはならない淫魔の巣窟のように惣太郎には感じら
れた。

廊下に立ったまま、部屋の様子を窺っていた二人の耳に、冴子の呻くような息使いと、何か訴えるようにささやいている浩二の低い声が聴こえて
きたのは、十分もたってからであろうか。
冴子の荒い息使いに混じって聴こえる鼻声は、明らかに性的興奮状態にのみ彼女が漏らす声である。
それも乳房の愛撫くらいで出す声ではない。浩二は既に冴子の局部を愛撫しているのだろうか。もしかすると若い浩二の事である、既に冴子の
中に挿入を終えてしまったのだろうか。惣太郎は、身の置き場のない焦燥感に襲われながら、暗い部屋の奥を凝視していた。

突然、静寂を破って、
「浩二君、もう僕たちも寝ますよ! 先生は先にもう休まれたし、僕も眠くなったから、二階に上がりますよ! 」
「田宮は大きな声でそれだけ言うと、足音を忍ばせて、開いた襖の所まで行き、どういうわけか、思いきり荒々しく大きな音をたてて襖を締めた。      
「あのくらい大きな音を立てないと、酔っている二人には気が付きませんからね」
惣太郎の方に帰ってきながら田宮は言った。未練がましくまだ聴き耳をたてている惣太郎の背に掌をかけて、応接に帰るように促した。
 
応接の入口で、何を考えているのか、田宮は後ろを振り返って、
「浩二さん、本当に寝ますよ……。いいですね………先生はもう寝ましたからね……いいですね?………おやすみなさい」
何度も執拗に襖の向こうの浩二に呼びかけた。
しばらくすると、部屋に電気が点いたのが、襖の隙間から見えて、
「判りました………おやすみなさい……」
浩二のわざとらしい大きな声がした。その声に、
「ああ、おやすみ」

大きな声で言ってから、田宮は惣太郎の背を押して応接間に入ると、ドアの横にあるスイッチを押して、応接間の灯を消した。主灯を消して、豆
電球だけのフロアスタンドの淡い照明だけになって、元のソファに腰を下ろした惣太郎からは、向いの椅子に腰掛けた田宮の顔も定かに見えなか
った。
一旦腰を下ろした田宮が、暫くうつむいて何か考えているようであったが、椅子から立ち上がると、
「廊下の電気を消しましょう。それから私はちょっと二階に行ってきます」
と言い残して部屋を出て行った。部屋を出る時、田宮が作意的にドアを大きく開けたままにしたのを、惣太郎は敏感に感じていた。
 
仄昏い室内に一人残されて、惣太郎は所在なささに、残っていたブランディーグラスを取り上げた。
その時、廊下の向こうでスイッチを切る音がして、廊下の灯が消えた。いったい田宮は何を企んでいるのだろうかという疑念を抱きながら、惣太郎
はドアの外の真っ暗な廊下に眼を据えて考えた。

森閑とした物音一つしない家の中に、田宮がトイレを使ったらしい水道の水の流れる音が一時聴こえたきり、隣の部屋からも物音は聴こえない。こ
の静寂に包まれた家の中は、陰湿な重さの中に、なにか激情の熱気と淫靡な霧が渦巻いているような澱んだ空気が漂っているように思えた。                           

口を付けたブランディーが苦いと思った時、突然隣の部屋から、どすんと、畳に身体が落ちたような鈍い音がしたと思うと、
「あっ……浩二さん!……いやぁ……」
妻の絶え入るような声が聴こえてきた。惣太郎は飲みかけたブランディーグラスを慌ててテーブルに戻して、聞き耳を立てた。
最初はささやくような小さな声だったが、次第に声が大きくなり、ママ……ママ……という浩二のせっぱ詰まったような大きな声がして、それに答応
するような妻の短い悲鳴のような声が響いた。浩二が挿入した瞬間に違いないと惣太郎は思わず掌を握りしめた。

その後は、断続的に冴子の苦しげな短い嬌声と浩二の荒い呼吸音だけが断続的に聴こえてきた。声が途切れ、静寂だけが残された時間が、惣
太郎にはとてつもなく恐ろしい時に思えた。突然肌を打ち合う派手な音がびっくりするように大きく聴こえてきたり、切なげな妻の吐息が聞き取れるの
は、すでに妻が達しつつあることを如実に証明している。

ついに妻は浩二と交わったという、感嘆の底に、暗い奈落の底に落ちて行くような恐怖を惣太郎は味わっていた。二階に上がった田宮はまだ降
りてこない。惣太郎は、しだいに妻の短い叫ぶ声の間隔が短くなり、ときどき浩二に何か訴えるような泣き声が混じりはじめている。
惣太郎は思い切って廊下に出た。暗い廊下の磨かれた板に、隣室の襖の隙間から漏れる明りが斜めに筋を引いている。襖の隙間からは、声だけ
でなく、二人が交わり合っている肌の擦れ合う音や、一定のリズムに合わせて呼吸している二人も荒い呼吸から、激しいもみ合いにきしむ床の音まで
が、掌に取るように聴こえていた。

惣太郎は襖の前に立つと、思い切ってすこし襖を開けて中を覗いた。
燦々と灯の点いた室内の畳の上で、まず浩二の激しく律動する汗に光った背中が眼に飛び込んできた。つぎに二つに折り曲げられて組敷かれ、
ふくらはぎを浩二の胸のあたりから左右に突き出した妻の脚が、天井に脚の裏を見せて浩二の動きに激しく揺さぶられているのが眼に入った。
妻の顔も躯も浩二の身体に覆われていて見えない。
浩二の腰に圧せられて折り曲がった妻の太腿が白いむっちりとした内側を上にみせて搖れているのが、生きのよい魚が屈服して白い腹を見せてい
るように思えた。

眼を凝らせて、浩二のくりくり動く臀の下の、結合部分を覗いて、惣太郎は思わず眼を剥いた。壮大としかいいようのない程の太さと長さの浩二の男
根が、信じられない勢いで妻の中に突き入っている。
田宮の陰茎も相当の大きさだと思って驚嘆したものだが、いま妻を貫いている浩二のはそれより更に巨大である。色はきれいな肉色でういういしい
が、惣太郎にいま見せている陰茎の裏側は、筋肉が捻ったような硬さを見せ、その筋肉と表面の皮膚の間に青い血管が憤怒の様相で浮き上がってい
る。
 
その巨根を、経験のすくない妻が苦もなく呑込んでいる。
浩二の陰茎にいっぱいに押し広げられて醜く歪んだ妻の陰唇は、周囲から粘液をほとばしらせながら、せいっぱい開き切ってはいるが、果敢に浩
二をさらに奥深くまで呑込もうとして、ときどき激しい収縮運動までしているではないか。妻がその痙攣のような収縮運動をすると、隙間がなさそうに見
える挿入された陰茎と陰唇の隙間から、滲み出るように濃い愛液が溢れ出て、てらてらと光っている陰唇と菊門の間の狭い肉溝をゆっくりと流れ落ち
ている。

妻の身体を二つ折りにして妻の左右の膝の内側を両手で押え握って、オールで船を漕ぐ調子で揺すりながら、妻の耳の辺りに顔を落としていた浩
二が、頭を上げ、今度は妻の片方の脚を逆さに抱いて腰を振りはじめた。         
妻の苦痛に耐えているような、眉根に深い縦皺を刻んだ顔が室内灯に照らし出された。布団もない畳にホームコートの前を広げたあられもない格好
で仰向きにされて、顎を上に突き出していたのが、浩二に片足を抱えられると、少し身体全体を右斜めに傾げた。化粧は落としていたはずなのに、唇
が妙に赤く見えた。
その小さく開けた口の顎の辺りには、接吻の時に溢れたらしいの唾液が流れて光っている。畳に這った長い髪が、別の生き物のように複雑に搖れて
いた。

浩二が抱えていた妻の脚を離して、羽ばたくときの鳥の羽の格好に大きく脚を広げ、それがすぼまないように妻の脚の曲がった両膝の内側に腕を杭
のように立て、自らは蛙の飛び跳ねる直前のような格好で腰を懸命に揺すり始めた。
この格好では結合部は見えなくなったが、そのかわり妻のうねる姿態が充分に見える。
妻はときどき感に耐えられなくなるのか顔をいやいやするように左右に激しく振って乱れ続けている。はりつめた頚筋に静脈が蒼く透けて見え、それ
が妻の身体のきわまりを思わせた。

浩二の透明な脂を塗ったような若い琥珀色の艶やかな肌と、妻の真っ白い肌の若々しい対比や、浩二の大人にはない敏捷な動き方や、それに応じ
て身悶える妻のいつにない大仰な身振りや、ふたりが没我になって放つ嬌声の艶のある若さが、田宮や自分との媾交にはない華やかで健康な情緒
を部屋いっぱいに散らしていると惣太郎は思った。
 
「ママもう駄目だ………」
浩二が気がくるったように腰を動かしながら、妻の上に覆い被さった。待っていたように妻が浩二の背中を抱き止め、両足を浩二の腰に強く巻き付け
た。より深く妻の体内に突き入るかのように、浩二が陰茎を強く押し入れたので、妻の尻がせりあがり、後ろからみているそう太郎の前に結合部があらわ
になった。激しくせめぎ合うように逞しい浩二の男根が、妻の身体が壊れるのではないかと思うほどの圧倒的な硬度と膨張感をみなぎらせて、妻の躯
を席巻していた。
浩二が全身の力を込めて妻の中に押し入り、汗に濡れ輝きながら身をふりしぼって妻の躯のすべてを感じ取ろうとしている必死の様相と、その浩二
の激しい抽送を体中でむさぼり捕ろうと、髪を漣立って震わせ、全身を痙攣させながら、官能の極に悶えている妻とが、いま歓喜の極致に達して、官能
の限りない陶酔にしっかりと互いの?にむしゃぶりついたまま、叫び、泣き、呻き合ながら狂気の中で、互いに奪い合っている。
「ひぇー」
冴子が辺りはばからぬ叫びをあげた。激しい抽送を繰り返していた浩二の陰茎が、冴子の中へ潜り込むような勢いで差し込まれたまま幾度も
悶えた後、突然命を失ったように二人はぐったりとなった。崩れるように妻の上に全身をかぶせたまま浩二は荒い呼吸をしていた。
妻がしばらく余震におびえるように躯を間欠的に痙攣させていたが、やがて浩二の腰の上で組んでいた両足が力なく解け、浩二の背に爪を立
てていた腕も、するりと浩二の肩を滑って畳の上に落ちた。

浩二がよろけるように躯を転わして妻の横に落ちた。妻の股間から、待ちかねていたように、白い体液がどっと溢れ出て臀に流れた。
「やっぱり若いものにはかないませんね。」
放心したように呆然と二人を見おろしている惣太郎の後ろで田宮の声が突然した。いつから来ていたのであろうか。夢中で二人の壮絶な性交
に見入っていた惣太郎は少しも気付かなかった。

「視ていて涙が出るほどきれいでしたね。やはり若さというか、純粋さというか、今ほど性というものが、自然な行為で、神聖で、美しいと思
ったことは有りません」
田宮が感動を込めて惣太郎に訴えるよういに言う声が、余りに大きいので、惣太郎は思わず口に指を当ててそれを制した。
「大丈夫ですよ。二人は完全に酔ってます。私たちでしたら、もう正体もなく眠りこけているでしょうが、二人は若いから夢の中でもああして交
わることが可能なんですね」

「本気で君は、この二人が意識の外であれだけの交わりをもったというのかね?」
惣太郎は田宮の虚言に抗議する口調で言った。
「これだけしゃべっていても、二人とも気付かないでしょう。これがなによりの証拠です。お疑いでしたら、中に入ってみましょうか?」
田宮は惣太郎の返辞も待たずに、襖を入れるだけ開けた。部屋にこもっていた浩二と妻の躯中からしぼり出された汗と体液と妻の香水の濃密な
匂いが、惣太郎の鼻腔を刺激した。

田宮が惣太郎の横をすり抜けるようにして先に部屋の中に入り、眠っている二人の横に胡座をかいた。
「こりゃひどい汗だ。先生このままでは風邪を引いてしまいます。早く拭ってやりましょう。すみませんがタオルを持ってきて下さいませんか」
先ほどまでの冷淡さとは打って変わった優しそうな声をかけた。
惣太郎が風呂場からタオルを持って引き返してみると、田宮が冴子の上半身を自分の膝の上に抱え挙げて着衣を脱がせていた。田宮の膝の上で、
前を全部開いた妻の裸身が、ぐったりとなっていた。

上に向いた形のいい乳房だけが起きているように灯を集めて搖れていた。
「汗で濡れてなかなか脱がせられないんです。すみませんが私がこうして躯を支えていますから、その間に片方ずつ袖を抜いてくれませんか」
田宮が妻の背で皺になったぼろ屑のような着衣と肌の間に掌を差入れて、斜めに起こした。惣太郎は妻を抱き起こしている田宮の向こう側に回り、
中腰になって妻の着衣の袖を引っ張ったが、汗にぴったりと肌に纏付いた薄い布は容易には抜けなかった。
「先生、脇のところからめくるようにして脱がして下さい」

妻の肘を無理槍曲げて袖を抜き取りにかかったそう太郎は、突然妻の腕に力が入ったのを感じて、作業を止めた。
「浩二さんいいの……。あたし自分で脱ぐから……」
妻が眼を閉じたままうわごとのように言ったと思うと、急に腕が柔らかくなり、 惣太郎の脱がすのに従順に協力をした。
「私は浩二さんを拭いてやりますから、奥さんはお願いします」

二人の身体をそれぞれ拭っている間にも、浩二も冴子も、惣太郎と田宮の存在には気が付かなかった。気が付かなかったというより、混濁した意
識の中で、判断力が欠如しているというのが正確かも知れない。
押入から布団を出して敷き、二人を転がすようにしてその上に寝させた。

二人の体が接触すると、もう浩二の陰茎は勃起しはじめ、手探りで冴子の躯を需めていた。
やっと冴子の躯に掌が触れると、とたんにしがみついて挿入もしていないのに腰を揺する。
冴子の方も浩二の躯が触れただけで、もう奇声を発していた。惣太郎が冴子の乳房を軽く揉むと、冴子は耐えられないといった表情で吐息をつく。
田宮が冴子の股間で方向を見失っている浩二の陰茎をつまんで、まだ濡れて光っている冴子の陰唇に当てがってやると、浩二は自分で見つけたよ
うに、巧みに腰をひねって冴子の中に深々と挿入した。

冴子が静寂を裂いて咆哮した。
惣太郎と田宮は無言のまま二人の狂った性宴を見守っていた。
意識も朦朧とするほど酔いしれているのに、どうして浩二の陰茎はこうも猛々しく屹立しているのだろう。先ほどほど激しい抽送運動ではないが、
完全に勃起した巨根が、確実に冴子の中に出入りしている。冴子も浩二の動きに呼応して、腰を突き上げ身をよじって感じている。
ただ冴子の咆哮が遠慮のない大きさになって、深夜のしじまをつんざくようになって、これでは近所に漏れ聴こえはしまいかと、惣太郎をはらはらさ
せる。

「性の刺激と言うのは脊椎神経が中心だそうです。全身麻酔に患者が、うわごとを言ったりするのもそうらしいですね。だからいまこの二人は、純
粋に官能の悦楽のみを感じているのでしょう。もう我々では、ここまで深酔いしますと、脊椎神経まで麻痺してしまってこうはいきません。羨ましいで
すね、若さというものは………」

浩二が二度目の射精を終えたのは、それから一時間くらいたってからだった。
さすがに前の時のような激しいものではなかったが、冴子の方は、前の時よりも更に乱れた。官能に煽られて、もう身の置き場もないように悶え叫ん
でいた。  
「これで明日目が醒めたら、二人とも何も覚えてはいませんよ。きっと………」
田宮が、さすがに今度は意識不明のように、鼾をかいて寝ている浩二を見ながら言った。浩二が離れても、開いた脚を閉じようともしない冴子の股
間からは、今度も大量の精液が溢流していた。
  1. 2014/12/03(水) 08:04:45|
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花 濫 第6章悪魔の宴3

「田宮君、君はどうかね。こんな修羅場を見て我慢できるのかね」
惣太郎が聞いた。                            
「そりゃあもう、かんかんになってます。我慢も限界と言うところです。なにしろ私は奥さんに惚れていましたから、今夜のことも、出来ることな
ら奥さんは、先生は別として、私だけのものにして置きたかった。けれども、先生のためにも奥さんのためにも、やがてアメリカに帰る私より、こ
の浩二さんの方がどれだけいいか知れないし、また、この浩二さんなら、奥さんの後を任せても安心出来るいい青年でと思ったのです。  

そう思って冷静に事を運んだつもりだったのですけど、いざとなると、奥さんが彼に抱かれる現場はどうしても見られない心境で、つい二階に上
がってしまったのですが、やはり気になって………。
でも、見てよかったです。安心しました」

惣太郎の心に、ある満足感がゆっくりとたぎってくるのを感じた。やはり妻は、この男をも魅了していた。この男の、先ほどまでの冷淡な様子は、
冴子を他の男に捕られる苦しみだったのか。
そう思うと、惣太郎はにわかに自分の優勢と自負が体内に満ちてきて、じっと妻の裸身を凝視している田宮の痩身に、なんともいえぬいたわりの
ような情感が湧いて来るのを押さえられなかった。

惣太郎と田宮は、しばらく無言のまま、冴子の白い裸身を食い入るように眺めていた。惣太郎は田宮のすぐにでも妻を抱かせる決心は出来ていた
が、それを言葉にするには、不遜なような情緒が、惣太郎と田宮の間に漂っていた。重苦しい気配が部屋に満ちていた。
冴子は、開いていた脚を閉じて、やや横に重ねていた。上半身は仰向いたままなので、腰のところで躰をひねっていので、腰がとても大きく盛り
上がって見える。
枕に載せた顔は、まだ眉根の縦皺は消えておらず、口も半ば開いていて、時折唇が乾くのか、刺身のように新鮮に見える舌で嘗めている。冴子か
らやや離れて浩二が俯伏せになって、眠っていた。
「冴子が望むなら、やってもいいよ」
言った惣太郎の声がわなないた。

田宮の掌が、妻の乳房にかかったのを見て、惣太郎の血が音を立てて流れはじめた。妻は逆らうどころか、身をよじって、           
「ああ……」                              
と悦楽の声を上げた。目は閉じたままだったが、眉根の皺がにわかに濃くなり、吐息に口を大きく開けた。
田宮が惣太郎に承諾を求める目を向けた。惣太郎の目が凍てついたまま微かに首を立てに振った。
田宮が浴衣をはらりと捨てて、妻により添って横になった。
田宮は妻の乳房を掴んで吸いはじめた。妻が官能の高まりの反応を示して、かすかにもだえはじめる。               

田宮がそっと妻の重ねた脚の上の方を後ろに押しながら、股間に掌を差入れた。
「ああ……いい……」                         
妻が大きな声を出して、自ら両足を大きく開いた。田宮がすかさず顔を押し入れて、妻の性器を吸いはじめると、白い脚が苦しそうに痙攣しはじめ
た。   
「ああっ、浩二さん………」                      
妻の呻きが、まだ浩二の名を呼んだ。                  
「冴子! いまは浩二じゃないよ……田宮君だよ」            
惣太郎は妻の耳元に口を寄せて言った。                 

「いい……いいの……田宮さん」                    
妻は明瞭に反応して、今度は田宮の名を言った。妻は夢の中で性交しているのかも知れないと惣太郎は思った。                     
田宮は妻の股間を責め続けている。妻の呼吸が嵐のように激しくなり、 全身が痙攣をはじめだした。羞恥も、思惑も、虚偽も、虚栄もなく、与
えられている性の快感に純粋に昇華しようとしている妻の汗ばんで魚の白い腹のように銀鱗のぬめりを見せてあがいている姿態が、惣太郎には馴れ
た自分の妻とも思えぬほど美しく見えた。
汗に濡れたほつれ毛を、額から頬にべったりと張りつけて、閉じた長い睫毛を震わせながら官能の恍惚に歪んだ妻の表情が、惣太郎には血が逆流
するほどいとしく思えた。

感情の激流が堰を切ったように昂ぶって、惣太郎は思わず手をのばして妻の乳房を鷲掴みにした。
田宮は妻の股間に顔を埋めたまま、手探りで、片手と脚を上手に使って自分のブリーフを脱いでいる。       
惣太郎は握りつぶす勢いで妻の乳房を掴んだ。淫蕩な幻想の世界を無我になって翔んでいる妻を、乳房の痛みで現実に引き戻したい欲望と、更に
淫楽の愉悦の深淵に突き落としたい感情とが綯混ぜになっていた。             
「冴子、いいのかい?」                        
力を込めて乳房を掴んだのに、脂汗にぬめる乳房は、生ゴムのよな弾力で、惣太郎の指の間から、軟体動物のように滑り逃げる。

官能の極限を浮遊する妻には、乳房に与えられる痛みも、すべて快感に変化するらしく、一層顔をしかめて、恍惚の咆哮をあげるだけだった。
万歳の格好で、顔の両側からあげて、シートを握りしめていた妻の両腕が、惣太郎の浴衣の膝に触れると、麻薬を発見した禁断症状の患者のよう
にいきなり惣太郎の浴衣の下に片手を伸ばして、惣太郎の股間で怒り狂っている男根を探り当てた。                                

「あっつ、冴子……。いましてるのは俺じゃないよ……」
惣太郎が慌てて膝を引っ込めようとしたが、冴子の指がすばやく惣太郎のものを掴んでいた。
「あなたなの……あなたなの………」                  
眼を閉じたまま呟いて、妻は惣太郎の男根を掌に包んだ。         
「いいっ……あなた………」                      
妻は熱病に苦しみ悶える患者のように、全身を流れる汗にまみれて、全身を痙攣させた。                               
 
「どうぞ、お先に、先生」                       
田宮が、妻の股間から顔を上げ、指を妻の奥深くに挿入したまま惣太郎を促した。惣太郎は悪魔の囁きのような田宮のかすれ声に憑かれたように、
浴衣の裾を乱して立ち上がると、下穿を下ろしながら、妻に重なっていった。       
太腿の内側までべったりと濡れた冴子に重なっただけで、ぬめり込むように惣太郎は付け根まで埋没できた。締狭感はなかったが、熱い蜜壷に吸
い込まれたような粘質の快感が脊椎に奔った。

妻が泣き声のような叫びを放って膣を収縮させた。惣太郎は脳髄に突き上げるような快感を味わいながら、ゆっくりと抽送をはじめた。                                
妻の顔の上に田宮がいた。噴怒の様相を呈した自分の屹立したものを妻の口に当てがっていた。妻が吸い込むように大きく口を開けると、何の躊躇
もなくそれを含んだ。                               
惣太郎と田宮の視線が合った。
「天使としているような気分です」                   
田宮が照れた微笑で言った。
「ああ」                               
祖太郎は妻と同じように自分も悦楽の酔いの底に、抵抗できない力でぐいぐいと沈潜していくのを、金縛りにあったような感情の中で感じていた。
どうにでもなれと思った。惣太郎の脳に炎が一度に沸き起こり音を立てて燃え盛った。  

妻の中に突き入った惣太郎は、熱く煮えたぎった沼に包まれたよう頼りなさを感じた。底無し沼のようにどこまでも、ずぼずぼと奥深く進入していくと思
った瞬間、抵抗の全くない沼の泥がにわかに軟体動物のように蠕めいて陰茎に巻き付いた。
最初柔らかく触れるように巻き付いたのが、やがて惣太郎が思わず呻ほどの強さで締め付けはじめた。締め付けながら、奥から多量の灼熱した粘液
を噴き出させて、それが膣の無数の襞の隙間を流れ埋めて潤滑効果となり、やんわりと陰茎にくすぐるような快感を噴き起こしながら締め付けてくる。
 
若い男二人分の精液を何度も注ぎ込まれながら練られ掻き回された膣粘膜が、異常に興奮しているのだった。                              
妻が全身を痙攣させたように弓なりに幾度も反らせて、口に咥えた田宮の男根を吐き出して、尾を尾引くような高い嬌声をあげては、またそうしなけれ
ばいけないと命じられてでもしているように、懸命に咥え直している。       
惣太郎はその締め付ける快感に耐えかねていた。妻が全身に痙攣を起こす度に、微細な無数の快感の矢で亀頭全体を刺されるているような今まで
に感じたことのないしびれを味わって、あっという間に果ててしまった。          

田宮が替わって、妻に重なった。                   
既に二度も放出しているのに、隆々と勃起した田宮の男根は、自分のものとは比較にならないほどの大きさと硬度を保っていた。
青い血管を浮き上がらせたその男根を両手で握って、妻の股間に腰を入れた田宮が、全身の筋肉をしなわせて、妻の中に押し入った。全身に汗をに
じませ、身をふりしぼって、妻の躰のすべてを味わおうとするように、懸命に奥深く挿入しょうと腰を捻った。       

田宮の抽送の仕方は、自分や浩二より繊細で念入りだった。一突き一突きに浅深や円形運動や強弱などの微妙な変化を折り込んでいる。田宮が激し
く突き入れると妻の躰が弓なりに反り、柔らかく優しく入れると妻は誘うように腰を浮かせて需めた。
濡れた田宮の男根が、妻の股間にちらついていた。田宮が妻の片足を抱えるようにして抽送を始めた。交接の部分が惣太郎にはっきりと見えだした。
見慣れた妻の少女のように淡い薄紅の陰唇が、田宮の強壮な男根の抽送に、捻れながら体液をほとばしらせている。                     

「いいっ……いくっ……」                       
田宮が二つに折り曲げて開いた妻の脚を支えていた腕をほどいて、妻に重なり、武者ぶりつくように抱き締めて、腰の律動を早めた。
妻が田宮の頭をかき抱いて嬌声を放った。溶け合って一つになって蠢くふたりの横で、全裸のまま眠っていた浩二が、あまりに大きな妻の声に意識を取
り戻して、ぐらりと妻の方に横向きになると、盲人のように手探りで妻の躰を探していたが、手が妻の胸にかかると、上半身を妻の方に寄せて、田宮に揺
り動かされている乳房にしがみつくように唇をあてた。横に重ねた浩二の脚の間から、勃起した男根が見えた。      

浩二が割り込んできたため、上半身を腕で支えて上体を浮かせる姿勢に変えた田宮が、一気に腰を振る。
熱を孕んだ妻の陰唇が、押し広げられて捻れながら、体液を飛沫のように散らして田宮の股間を濡らしていた。妻が浩二の唇で塞がれた口を振り離して、
半狂乱になって吠えながら、狂ったように腰を振り躰を硬直させた。                                

肉付きのよい白い曲線に満ちた柔らかそうな妻の仰向きの躰に、琥珀色に輝く浩二の身体と、毛深い田宮の痩身が絡み付いて一つの肉塊となって婬な動
きをしていた。
燦々とした灯の下で、健康にはちきれそうな若い男の逞しい身体がふたつ、両側から妻の軟弱な躯を押し包むような格好でに組み敷いていた。
それは、精悍な二頭の若獅子が、いきにえの仔羊むさぼりついているようにも見えた。   

田宮が妻とL字型に結合して律動していた。L字に向かい合っている妻の背面から、浩二が身を乗り出して妻の乳房を両手で揉みながら接吻していた。
妻は激しい絶頂感を繰り返し味わっているらしく、苦しそうな息をつき、下半身を田宮と絡ませ、上半身は反り身の無理な姿勢に曲げて、浩二に預けている。
時々、浩二の執拗な接吻から、必死にもがいて口をはずし、顔を左右に激しく揺すって、乱れた髪を畳みにまき散らし、顎を突き上げるようにして顔を顰め
ては、赤く焼け燗れた口から熱い息をついていた。                   

彼女の顔に眩しそうに射している灯の下に渦巻いた髪の陰で、白い顔に微細に汗の粒が無数に光っていた。高い呻き声が出るのを、必死と堪えてい
る様子だった。クライマックスの発作が、繰り返し起き、それがだんだんと激しい衝撃の連続のようになって、なにか凄愴な感じのものになって来ているの
に、田宮の身体の煽りはますます激しくなるばかりであった。               

三人は何か焦って制御をなくして、ただ暴風雨のような揉み合になっていたが、やがて田宮に限界がきたらしく鋭い獣のような咆哮と一緒に、斜めに結合し
たまま、全身を硬直させ腰を絞るように振って射精した。            
田宮の低い咆哮の声に 妻の笛のような長く尾を引いた嬌声が重なって、深夜の部屋の空気を引き裂いたあとは、乳房の愛撫を続けている浩二に唆された
妻の余韻のような呻声が時々発作を起こしたように断続的に聞こえていた。     
 
浩二が、酔いに麻痺した体を懸命に動かして、冴子にかさなろうとあがいていた。
惣太郎と田宮が、押入から一組の布団を出して敷き、そこへ冴子と浩二を裸のまま寝させた。                            
惣太郎と田宮は隣の応接に戻り、ビールで乾いた喉を潤しながら休息していた。 
「朝になって、冴子はどうするだろうか………」             
惣太郎は妻が朝になって酔いが醒め、一夜に三人の男と交わったことを知って、発狂するのではないかと恐れを感じて田宮に言った。             
「あれだけ酒を飲んでいれば、きっと朝目覚めたときにはなにも覚えてはいませんよ」                                 
 
「あんなに感じたり、声を上げていてもか?」               
「なにか、無茶苦茶性交したということは、意識の奥に残りますし、躱にも痕跡があるでしょうから気付かれると思いますが、ああして浩二君と一つ布団に
寝させて置けば、朝になっても、きっと浩二君との激しい交わりだったと思うに違いありません」                             
田宮を先に風呂に入れてから、惣太郎も風呂で身を清めて応接に戻ったが、全身が溶けて行くような疲労感に襲われ、田宮を残して自分の寝室に行くと、倒
れ込むようにベットに打ち伏したまま深い眠りに落ち込んでいった。
暗い奈落の底に落下していくような睡魔の誘いのなかで、惣太郎は妻が薄い絹をまとっただけの裸身をくねらせ、天女のように宙を舞っている夢を見ていた。 
  1. 2014/12/03(水) 08:07:36|
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花 濫 第7章公認の情事

夜中に何度夢を見ただろう。すべて妻の夢だった。
広い座敷に田宮と浩二の他にも何人かの男が裸で向こうを向いて座っている。その前には妻が全裸で一段高いところに両足を開いて後ろ手を突
きにこやかに笑っている。
男達の視線が妻の性器に集中している。田宮と浩二以外の男は五人ぐらいで、いずれもボディービルダーのように逞しい筋肉隆々とした躰だ。
妻の性器からは、陰液が流れ出している。一人の青年が、たまりりかねたように妻に近寄り、太い腕で妻の足を掴むと、思いきり押し広げて、惣太郎
の腕ほどもある巨大な陰茎を妻の性器に押し付けた。ああ、妻の性器が破れてしまう、と惣太郎が思わず止めさせようと大声を出そうとしたが、どうした
こと声も出ないし動くこともできない。

どうしようと思った瞬間、その青年が腰を絞って、巨大な陰茎を妻に押し付けた。すると妻の性器は、いともたやすくその巨大な陰茎を呑込んでいる
ではないか。別の青年が妻に走りより、顎を上げて矯声を放っている妻の口にいきり立った巨大な陰茎を押し込んだ。
残った男達が二人の男に貫かれて悶えている妻の真っ白い裸身に詰寄り 、乳房や腹や肩など妻の躰のあらゆる部分に唇や陰茎を押し付けた。
いきにえに群がる野獣のような男達の逞しい裸身に覆われた妻が放つ叫び声に、惣太郎が何か叫ぼうとして眼が醒めた。              

六時前だった。隣の妻のベットは昨夜のまま冷たくベットカバーが掛けられたままだった。ついに昨夜妻は寝室には帰ってこなかったのだ。白々し
い朝の光の中で、皺一つなくかけられたベットカバーのままの妻のベットを眺めながら、惣太郎は、心の中まで何か冷え冷えしてくるのを覚えていた。

妻はまだ浩二と隣の和室に寝ているのだろうか。いつもなら妻はもう起きている筈である。普通なら朝飯の準備をしていて台所から、包丁のまな板
を叩く音や、食器の触れる音が聞こえて来る時間であるが、今朝はことりとも音がしない。惣
太郎はゆっくりと起き上がると、ドアを音を立てないように開いた。
隣の和室の襖はぴたりと閉ざされている。二人はまだ昨夜の悪魔の性宴に疲れはてて眠っているのだろうか。

そう思った時、部屋の中で人の蠢くような気配を感じて惣太郎は思わず息を詰めた。明瞭ではないが、爽快な朝の静寂とは無縁の陰湿なねばっこい
ざわめきのようなものが、かすかに肌に直接伝わって来る。部屋に近づくにしたがって、襖の向こうでは、すでに二人は起きていて、無言のままなにか
激しく争っているようすが、直接耳に聴こえて来る。              

惣太郎は、思い切って二枚襖の閉じたれた合わせ目に耳を付けてみた。映画館の扉を押して入り込むと、暗い室内に突如、いま自分がを置いてい
た現実とは全く違う世界が熱っぽく進行しているように、実態は判らないが、激しくもつれ合う熱気が伝わってきた。
それはあきらかに男と女の睦み合の息づかいや肉のきしみであった。                             

昨夜といっても今朝の二時過ぎまで、あれほど酔いあれほど激しい性交を繰り返していたのに、もう若い二人は再び交わりをはじめているのだ。
浩二はともかくとして、妻は昨夜三人の男に翻弄され、合計すれば十回におよぶ性交をしているというのに。
惣太郎は若さというものの恐ろしいまでの強健さに改めて、いいようのない嫉妬を感じていた。

妻の猫の首をしめたような声がくぐもって聴え、それにつづいて浩二の呻きとも言葉とも判じにくい声が、きれぎれに聴こえてきた。
何か判らなかった妻の発する単語が繰り返し叫ばれている内に、惣太郎にもその言葉は媾合の最後にささやかれる睦言の男への訴えかける種類
のものであることがわかってきた。その妻の声は次第に高くなり、やがてそれはうわ言のようになった。                               

浩二の低い喘ぎ声と妻の嬌声との絡み合いが、激しい息遣いと一緒に高くなったり低くなったり、途切れたり、時には長く続いたりして、いつまでもと
めどなく続くのを襖の外で聴きながら、惣太郎は、まるで自分が限りない力で妻を攻めているような心の高揚をしだいに覚えていた。
襖を注意して見ると、家が旧いためか、柱と襖の間がわずかに開いている。上の方はぴたりと締まっているが、柱の傾きで下の方は二センチばかり
開いていて、もし惣太郎がその気になれば、伏せてそこに眼を押し当てれば、部屋の中が見えるに違いない。

そんな衝動に駆られるを押さえて、惣太郎は廊下に立ったまま襖にじっと耳を寄せていた。思い切って襖を開けたら中の二人は一体どうするだろうか。
妻の冴子は、昨夜の事を少しでも覚えていれば、それほどの動揺はないかも知れないが、浩二にとっては大変な衝撃であるに違いない。何も今浩二を
驚かせることはない。そのうち自然に自分が黙認していることを知らせ、やがて田宮と同じように、何かの機会に、妻を共有するように仕向ければいいの
だ。      

妻の声がしだいに辺りはばからぬ大きさになって、ついには叫びに変わってきた。どうやら二人は最後の断末魔に行き着こうとしているらしい。
浩二の低い呻き声も聴こえた。妻が最後を迎えて発する普段聴き慣れた嬌声とは違って、尋常ではないいまにも狂ってしまうのではないかと思えるよう
な、腹の底から絞り出す息たえだえの叫び声に、惣太郎は襖の外でおろおろするばかりだった。   
一体妻は今どんな格好にされ、どんな表情で浩二を受け入れているのだろうか。

襖の外の惣太郎がいたたまれない焦燥に駆られていると、断末魔を迎えたとばかり思っていたの、つぎの瞬間には又しんと部屋の中は静まって、心な
しか 険しい息ずかいの絡み合いと、襖や障子や畳の軋めきだけになる。やがて、最後の断末魔が終わったらしく、例の凄愴な情景を思わせる一際高い
呻き声や喘ぎのあと、だんだんと気配が静まって、その後、ひっそりした時間が過ぎていった。

その間、頬擦りや接吻や抱擁の執拗な愛撫や、いたわり合が長々と続いているらしい。 
中の二人が立ち上がる気配に惣太郎は慌てて自分の寝室に逃げ込んだ。いたずらっ子のかくれんぼうのように、寝室に逃げ込むと惣太郎はドアを細く
開けて外の様子を覗き見ていた。
かなりしばらくして、襖が開いて妻だけが出て来た。長い髪が顔にかかって乱れたまま、ちらと惣太郎のいる寝室の方を見てから洗面所へ入って行った。
瞬間だが妻の顔は、いつもより青ざめていて眼だけが泣いたように潤んでいのを見た。

惣太郎はもう一度ベットに入って靜かに眼を閉じた。自分が性交を終えたような疲労感があった。
一体妻はこの時間までこの寝室に帰ってこないような思い切ったことをどうして実行してしまったのだろうか。自分がもう起きていることは充分承知してい
るはずである。                      

昨夜の妻は、自分と田宮の強引な術策の罠に落ち入り、意識不明の酔いの中で、赤裸々な本能のおもむくままに、三人の男と交わったわけで、それ
は妻の所業というわけにはいかない。もし誰かに昨夜のただれた性宴を責められるとすれば、それは自分であって、妻はあわれな犠牲者ということに
なる。裁判でも、酒に酔ったり意識不明で犯した犯罪は、本人の意志ではないので裁くことは出来ない。
昨夜の妻は、酒の酔いに羞恥と理性のベールを取り去られて、本能のおもむくままに、悦楽の深淵を味わったわけだが、たとえそれが妻が潜在的に
望んでいた行為だったとしても、責めることはできない。               

浩二にしても、あれほど酔いしれながら、必死に最後の理性に耐えていたのを、馬の鼻先に人参をぶら下げるように、妻を与えたのも自分であるから、
浩二を責めることはできない。
むしろ健康な若い男としては当然の行為と言わざるを得ない。自分に荷担した田宮はどうだろう。たしかに惣太郎一人では、昨夜の悪魔じみた謀略
を実行することは出来なかっただろう。田宮が惣太郎を唆したことは事実であるから、田宮は共犯者ということになる。              

しかし、どんなに田宮が自分を教唆したとしても、自分がそれを拒否すればこんな事態に陥ることはなかったはずだ。
第一、田宮が悪魔の狂宴に荷担したのは、あきらかに自分の願望を実現するために、協力したに過ぎない。田宮の心中は、案外昨夜の行為に嫌悪の
情を抱いていたかも知れない。先輩の美しい妻と、たとえ承諾の中とうあいえ、情交の関係にあるという負目が、やむなく自分の願望に荷担せざるを得な
かったというのが真実だったとも考えられる。        

やはり終局的には、昨夜の悪魔は自分自身であったことを惣太郎は、肯定せざるを得ないと思った。                          
それにしても今朝の妻の行為はどう解釈したらいいのだろう。       
昨夜から一睡もすることなく浩二との情交が続いていて、朝になっていることに気付かなかったということが一番に考えられる。だが、それにしては、さ
さきほど垣間見た妻の凄艶な顔には、おびえや恐れの表情はみじんもなく、朝日を受けて洗面所に向かって歩いている妻の表情には、新婚の初夜の翌
朝のように、男によって与えられた肉体の変調に、かすかに羞恥と悦びの入り交じった微笑さえ浮かんでいた。               
惣太郎は、いつもの物静かなつつましい妻を、遠い過去の女を思い返すような気持ちで思い浮かべていた。
妻は夫のいる家で、夫を無視して朝から若い男と狂うような放埓な女ではなかった筈だ。
  1. 2014/12/03(水) 08:09:12|
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花 濫 第7章公認の情事2

浩二の若い身体にどんなに魅了されたとしても、それで狂ってしまい、家庭も自分の立場も放棄してしまうほどの思慮分別のない女でもない。        
自分がいつか田宮との事がはじまった時、悩んでいる妻に、お前が若い男と交わることで、より一層女らしく美しくなることが、自分にとっても限りない悦
びなのだ、と教えた通り、今度も浩二と交わることが、自分を愛している証拠のように信じ切っているのであろうか。
田舎育ちの純真無垢の妻は、自分の示唆したことを素直に信じて、その後は、田宮との情事も、あたかも、それがあたりまえのように、わびれることなく
続けてけている。                  

「今日の田宮さん、とてもいやなのよ………。真昼間だというのに、窓のカーテンを明け放って、お日様の照っているところへ私を連れてって思い切
り開い見るの………。あたしもうはずかしくって身の置き場もなかったわ」    
田宮との情事の後は、どんな微細なことでも漏らさずに報告するように仕向けるまでには、羞恥に顔を染めるだけの妻に、根堀り歯堀り質問攻めを、
ひつっこく繰り返さなければならなかったが、最近では、妻の告白を訊くことで異常に興奮し、今までとは違って、まるで青年のような猛々しさで、その場
に妻を押し倒してしまう自分の行動を期待して、自ら詳細な報告をするようになった。

それでも言葉であらわせないような、淫らなことを告白しかけて、言葉につまり、全身に羞恥を浮かべながら、自分の胸に顔を埋める妻が、なんともいじ
らしく、夢中で抱き締めている内に、そのまま媾交に移るのが最近の夫婦の習慣になっている。 

田宮とのことは、それでいいのだが、浩二とのことについては、たしかに内心、浩二のあの若々しい獣のような肉体を妻に与えたら、どんなに妻が悶
え狂うだろうかと、あられもない想像をこらえきれずに、昨夜の行動を実行したわけだが、妻には、まだ、一言も浩二との情交の許可を与えてはいない。        
妻が、浩二と交わることを夫が喜ぶと信じて、自発的に実行したとしても、自分の許可もなく、妻が平気で他の男と情を交わすということは、実に重大な
事態だと、惣太郎はベットの上で、天井から下がっている堤燈を模した照明器具を睨みながら考えていた。                   

むかし、遊廓に賣られてきた娘を、一人前の娼婦に育てる第一歩は、まず、男に対する羞恥を取り除くことだと、本で読んだ事がある。
そのためには、毎日毎日違う男と情交させて貞操観念を払拭し、男と交わることが、日常の生活行動として当り前のようにしつけることらしい。
それでも馴染まない女は、娼館の中では、真昼間も着衣一つ着せず全裸のまま過ごさせ、同じ娼婦の先輩に卑猥な言動を浴びさせ、時には、大勢の
面前で不特定の男に犯させる。こんな生活をしばらく続けさせると、たいていの女は、性に対する羞恥とか貞操観念を失ってしまうという。
もともと性に無知で無垢の妻が、もし、他の男と寝ることで、自分の夫が悦ぶということを、どこの家庭でも、秘密裏に実行していると信じてしまっている
としたら、今後がそら恐ろしくなってくる。              

惣太郎は、自分の妻の冴子が、そこまで初心で無垢だとは思わない。そうだとすれば、妻は、自分の異常な性癖を、巧みに利用し、普通の人妻で
は思いもよらない悦楽を、堂々と臆面もなく実行している悪女の典型ということになる。  
しかし、鄙びた田舎で、父と二人だけの静謐な生活を送り、結婚して東京に来てからも、自分と二人だけの家に閉じ篭り気味で、滅多に外出もせず、
ましてや他の男との密会など考えもできない自分の妻が、それほどの悪女に変身することは、どんなことがあっても考えられない。

この疑念を、惣太郎はすぐに打ち消したつもりだったが、心の隅に何か小さな引っかかりが残った。         
それは妻の冴子が、潜在的に好色な性癖を持っていたのではないかということだった。娘時代の彼女の生活は、あまりにも静謐で清潔であったため、
彼女の胎内にあった好色の種は休眠状態にあった。

結婚してからもそれは変わらなかった。しかし、昨年の冬、田宮というまだ若い精力的な男との交わりによって触発された眠っていた淫逸な種は、時
期到来とばかりに芽生えはじめた。
二八歳という女として熟爛期の肉体は、ひとたび萌えはじめると、とどまるところを知らない。
幸いなことに、夫の理解というまたとない恵まれた土壌も、淫逸の芽の発芽や成長を促進された。今の妻は、昨年までの彼女とは異なった淫逸な女
に変身してしまったのではなかろうか。                         
 
病苦に苦しむ患者に内緒で医師が麻薬を注射して、いつのまにか患者は恐ろしい麻薬中毒に陥っているのに、それを知らぬ患者は、麻薬を注射さ
れる度に健康が快復していると信じて悦びに震えているのと同じよいに、妻もまた自分が淫蕩の泥沼に落ち込んだとも知らずに、この世こにんな悦楽
の花園があったのを発見して、歓喜に打ち震えているのではあるまいか。
もしそうだとすると、一体どうしたらいいのだろうか。

一旦知った悦楽の果実はイブのようにもう生涯忘れることは出来ない。田宮も浩二も、この家に出入り禁止にしたとしても、昔通りの静謐で清潔な生
活を妻と一緒に送ることが可能だとは思えない。
自分はもはやこの歳になって、清冽な流れを友として生きることは簡単であるけれども、やっと女としての成熟期を迎えた妻がはじめて知った官能の
逸楽の甘味は、そう簡単に忘れ去ることは出来まい。                         

また、自分としても、この異常とも思える行為に踏み切ってみて、他の男に犯される妻が、まるで初めて知った女のように新鮮に見えてきた。
田宮に突き通されて悶える妻は、さらに惣太郎の見たことのない妖艶な魅力を秘めていて、これが自分の見慣れた妻かと疑うほどだった。
また、妻を責め続ける田宮の鋼鉄のような筋肉のたわみや、妻を貫く憤怒の形相で屹立した逞しい男根の躍動に、田宮は自分の身代りのような錯覚
を覚えて、あたかも自分に再び壮絶な力が与えらえられ、思いきり妻をさいなんでいるような悦楽を感じるのだった。

さらに、妻が他の男との媾交に喜悦の悦びを上げのたうつ姿を見て、青年のような欲情に身を灼き、その直後、まだ情交の余韻を充分に残した妻の
汗と体液に濡れた熱い肢体を抱き、男の残留物がまだふつふつと溢れ出ている妻の体内をまさぐって、思わぬ嫉妬と被虐の激情に駆られながら交わ
る快感は、禁断の木ノ実をむさぼり食うような、この世のものとも思えない悦楽である。              

惣太郎自身、妻と同じに重症の中毒患者になっていることも否めない。自分自身が、もうこのはじめて知った悦楽を手離す気がないのを惣太郎は知っ
た。そうである以上は、いかにして、このタイトロープを渡るような危険な遊戯を、怪我や障害もなく遂行するかが問題なのだ。
どんな危険なサーカスも、細心の注意と決断と勇敢な実行力さえあればどうということはない。
すでに手綱は放たれたのだ。後は、どううまく怪我なく進めて行くかである。            

ここまで考えて、惣太郎は、全身に満ち溢れるような力のみなぎって来るのを感じた。この世に、これほど刺激的で悦楽に満ちた遊戯はあるまい。
ふとした偶然からそれを知ったからには、徹底的に地獄の底まで見てやろう。
こんな異常な生活を体験する夫婦もそうざらにはあるまい。こんな背徳の果てに一体どんな結果が待ちかまえているかは知らないが、毒くわば皿まで
である。決して自暴自棄になったわけではないが、これほどの悦楽を味わった後には、それに相応の因果が待っているような気もする。
  
しかし、いま、それを案じてもはじまらない。案外、人並以上の体験をしただけに、もっと卓越した人生が広がるかも知れないではないか。                               
そうすると、先ず、浩二と妻を、どのようにして公認のかたちにもっていくかである。
田宮の場合と違って、まだ純真な浩二に、いきなり真相を打ち明けるのは危険である。彼には田宮のような如才はない。
浩二がロンドンに行く前に、何かの話から不倫の事が話題になり、自分は妻の冴子を他の男に与えてもいいようなことを話したことがある。
その時、浩二がみせた不愉快な表情を惣太郎は今も忘れない。

当分の間、浩二と妻の不倫を許しておいていいのか判断出来ないでいる。
自分が参加しなければただ妻の浮気を容認するのと変わりないことになる。            
浩二に気付かれずにそれを実行するには、妻にすべてを報告させるか盗み見しかない。
要するに妻の心と躰を媒介として惣太郎が参加することになるのだ。

このためには妻を充分説得しておかなければならない。妻が田宮と同じ考えで浩二と接しているならそれも問題ないが、年齢も近いことだし、
万一、浩二の純粋さに妻が同調するような事があれば、問題は複雑になって来る。一度、妻とゆっくり話し合う機会をつくらなければ…………。
そう思いながら惣太郎はいつの間にかまどろんでいた。

「あなた遅くなってすみません。ご飯の用意が出来ました」        
いつもより若々しい妻の機嫌のよい声と顔が、目覚めた惣太郎のすぐ上で微笑むえんでいた。                           
妻の白い顔は寝不足と疲労のせいだろう、顔の肌を青白く透きとおらせ、目の下にややたるんだ袋が出来ているが、丸い目がぬれぬれと
輝いて、快楽の余韻が隠しようもなく滲みでている。
髪は急いで整えたのだろうが、どこかいつもはない崩れが凄艶に感じられるし、気のせいか、前髪の額にかかったあたりに、性愛の名残のよう
な体液の生臭い匂いが溜っているようだ。
見おろす妻の瞳が、今、水から掬いあげられた黒曜石のように、濡れ濡れと輝いていた。       
  1. 2014/12/03(水) 08:11:24|
  2. 花濫・夢想原人
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花 濫 第7章公認の情事3

若やいだ鮮やかな山吹色の七分袖のワンピース姿の妻は、夫からはじめての女に出会ったように下からまじまじと見られて、妻は思わず顔を上気させて
いった。酒に酔ったように白い肌の底から、一度に血の色が広がり、夫に見つめられて、羞恥と困惑と恐れの表情を交互に現していた。

「今朝まで何処にいたんだ? この悪い女房は……」 惣太郎が妻に冗談とも本気ともとれように言ってから妻の手を捕って自分の上に引いた。
妻は軟体動物のような柔らかさと重さで、彼の胸の上に崩れ落ちてきた。崩れながら妻は、そうするのが当然のように、顔を夫の顔に寄せてきて、いきな
り唇を合わせた。
それは夫婦だけに通じる、容赦の願いであり、報告だった。

上から唇を押し付けている妻を抱き止めながら、惣太郎は妻の躯が、いつもより柔らかくなっているような気がした。片手をワンピースの裾に這わせて、
スカートの奥に手を入れた。つるつるとした化繊の下着の奥に隠された、小さなスキャンティーの上から豊満な妻の尻を愛撫した。

田宮や浩二が食卓に向かって待っているのだから、当然拒否すると思ったが、妻は小さく、あっ、と言ったまま、待っていたように一層躱を柔かくして惣
太郎の上に崩れ落ちた。思い切ってスキャンティーの端を掴むと、尻の方から一気に剥ぎとりはじめた。
太腿の中程まで剥いでから、掌を股間に進めた。臀の割れ目の辺りから、もうじっとりとした溢流が感じられ、さらに掌を差し込むと、そこはなま暖かい体
液が満ち溢れている。陰唇は、もう溶けてでもいるように柔らかくなっていて、惣太郎の指奥に誘い込むようにうごめいている。膣の内部は、ぬるりとした
体液が溜っていて、惣太郎の指を伝って流れ出た。

「すんだら、ちゃんときれいにしなければ駄目だよ。浩二君のは、さすがに若いね………、量も多いしねばっこいよ………。………浩二とどうだたんだ?…
…ちゃんと報告するはずだろう」
膣に挿入した指を、すこしいたずらっぽく動かして、惣太郎は妻の耳元でささやいた。

「あっ……。とても敏感になっているの………、もう感じちゃう………」
妻は惣太郎の上で身を揉みながら、もう目尻に皺をよせて、あえいだ。
「貴方と田宮さんに挟まれていたのは覚えているの…………」
「それは昨夜のことだろう?」
「ええ、それから一体どうなったのかしら。目が醒めて驚いたわ。だって、真裸で和室に寝ているでしょう………、それに………浩二さんがわたしの中にい
たのよ………」

惣太郎がワンピースを下から捲りあげようとするのを、自分で胸の釦を外し腕から脱ぎながら言った。
ワンピースの下から、いきなり豊かな胸が露わになってとびだした。下着を着ていると思ったのは、股の付け根くらいまでしかない短い、スカートのような下
着だった。
冴子は惣太郎の浴衣の胸を押し広げて、自分の乳房を押し付けながら甘えるような声を出した。

「あなたの策略だとすぐ判ったわ………。だからあたし…………」
冴子が惣太郎の股間に掌を伸ばして、まさぐりはじめた。
「どうして、俺が仕組んだと思ったんだ?」
「枕元の、あの水差しは、茶タンスの上の段から出したでしょう? あそこに水差しが入っているのを知っているのは貴方だけだし、それに、貴方以外の人が、
浩二さんの寝ているところに私を寝さす筈がありませんもの……」
「それでお前は、安心して浩二を頂いたわけか」
「違うわ! 前に言ったように、私が気が付いたらもう浩二さんが………」
「入っていたというのか」
「そうよ、びっくりして抵抗したのだけれど、浩二さんがすごい力で押さえつけて来るし、それに…………」

「……それに、どうしたというんだ」
「浩二さんがねえ………、あたしが自分で浩二さんの所にきたと思い込んでいるらしく、ママありがとう、ありがとうって、何度も言うのよ。まさか、主人が
こうしたのよともいえないでしょう?」
妻はまさぐっていたものが勃起したのを知って、上から自分の中に当然のように挿入して吐息をついた。惣太郎は妻の内部は、まだ浩二の放出した物が溢れて
いて滑らかだが、惣太郎を包んだ膣壁が、いつもより強く圧して来るのを感じていた。乱淫のために膣壁が腫れているに違いなかった。

「………それで、やったのか………。浩二はどうだった?………」
惣太郎は耐えきれなくなって腰を突き上げた。妻がうめき声を発した。
「なんといっても若いでしょう。ものすごいの……」
妻はそこまで言って、何を思い出したのか、
「いや!」
と叫ぶようにいうと、夫の胸に顔を埋めた。膣がきゅんと痙攣しているのは、よほどの刺激を受けたに違いないと惣太郎は思った。

「そんなによかたのか!」
惣太郎は、むらむらと沸き起こる嫉妬と被虐の陶酔に身を灼かれるような思いで、胸に打ち伏した妻の顔を両手に挟んで強引に上げると惣太は夢中で妻の唇を
むさぼっていた。
「うっ」
咽喉の奥で呻きながら接吻をうけると、やがてぐったりとまた胸に顔を埋めた。

惣太郎は上になった妻を、挿入したままゆっくりと横たえた。
松葉を二つ合わせたようなその体位は、惣太郎が疲れた時によく使う格好である。横になり片腕で頭を支えられるその体位は、男にとってとても楽である上、
仰向きになった女の全部を見ることが出来る。
妻の、いつもより濃い化粧の顔が朝の光を浴びて白く輝いていたが、化粧では隠しきれない荒淫の跡が痛ましくかがえる。
目の縁が黒ずんで下瞼にはっきりと隈をつくっていたし、頬にも形のいい額にも疲労の跡が見える。まだ二十代の若さで、これほどの疲労が浮かぶということは、
昨夜からの酒の暴飲と荒淫が、相当なものであったことを物語っていると惣太郎は思った。
惣太郎を見上げる目も、いつものきらきらした光が消えて、とろんと潤んでいて、白目にまだうっすらと充血の跡が残っている。先ほどまで透き通るように白か
った頬が、媾合にはいってからは真っ赤に上気し、とろんとした目が異常に潤んでいるのは、さきほどの浩二との情交の火照りが、再び蘇ってきているのだろう
か。

そう思うと、惣太郎の身内に嫉妬の混じった凶暴な血のたぎりと、健気にも、生まれて初めて三人の男に犯されながら、懸命にそれを受容してきた妻へのいいよ
うのないいとしさとで、惣太郎はいきなり妻の躯から一旦離れると、そのぼってりとした骨を抜かれたような女体に覆いかぶさった。

「何回したんだ?」
「わからないわ………」
「そんなにしたのか………。お前が目が醒めたのは何時頃だ?」
「三時くらいかしら」
「それから寝てないんだな?」
「浩二さんって若いでしょう、何度しても満足することってないみたい」
「その度にいったのか?」
「だってすごいんですもの………。何度も何度もいったわ……。最後は死ぬかと思うくらいいき続けたのよ」
「いま先もしていたじゃないか」
「あれは、一時間ばかり寝てからだったの……寝たというより、あたしが失神したのかも知れない。起きる前にちょとだけしたの………」
「あれがちょっとなら、相当すごかったんだな」
「見てたの?」
「いや、襖の外までおまえの声が響いていた」
「まさか!」

「本当だ。昨日の夜は、田宮と二回、俺ともしたし、一時前に浩二の部屋に行ってからも、田宮と浩二が変わる変わるしていたのは覚えていないのか?」
「そんなの嘘でしょ? 田宮さんと浩二さんの二人に同時にされたなんて……」
「嘘なもんか、嘘だと思うなら田宮に訊いて見ろ」
「あたし……浩二さんとしているところを田宮さんが見ていたというわけ?…………あたし………どうしましょう……もう田宮さんの前に顔を出せないわ」
 
「今朝はまだ田宮に会っていないのか?」
いいえ、いまも茶の間で一緒にお茶を飲んでいたの。……あたしが、昨日は酔ってしまって覚えていないけれども、あれからどうなったのって聞いたら、自分は
すぐ二階に上がってしまたから知らないって言ってたわ」
「せっかく彼がそう言うなら、そっとしといた方がいいよ。お前の事を考えて言ってくれているのだから」

惣太郎の腰の動きが激しくなるにつれて、妻の奥の方から強い男の体液の匂いが漂ってきた。
「ここに、まだ、浩二や田宮のものが入ったままなんだな?」
「………田宮さんのは知らないけど…………浩二さんのはそのままよ……だって、貴方との約束を守らなければ怒るでしょう?」
羞恥に顔を覆った掌の中で妻が言った。                 

性交の跡をそのままにして、一刻も速く惣太郎の所に来ると言うのは、惣太郎が妻に与えた義務だった。
「よし、見てやる」
「一度は拭ったんだけど………今日はいつもと違うの………きっと驚くから」

惣太郎は妻から抜き去ると、思い切り脚を開かせた。妻は拒否しなかった。しだいに現れた陰唇の周囲が赤く腫れていて、性交のすごさを物語っている。
「あのね、浩二さんは、そのままにされちゃうから、もうわたしもむちゃくちゃになってしまうの」
「そのままて、何がそのままなんだ?」
「だから入ったままで………ひとつ躰のままで、何回も何回もいくの。若い男の人ってそうなの?」
「誰でもってことはないけど、そういうのを抜か六っていって、精力の強い男のことを言うんだ。浩二はよょっぽどお前の躰がよかったんだな。あいつ、経験
があったみたいか?」

「わからないわ、夢中だったから」
やはり顔を隠したまま妻が答えた。
「よっからろう、若い男は強くて………」
「それどころではなかったわ。このまま死んでしまうのじゃないかと思うほど感じるんだもの……」
「でも何度もいったんだろう?」
「そんなつもりはないから、最初は拒否していたんだけど、そのうちいきなり痙攣がきて……それが続けざまなの、あたし狂ったかと思ったわ………浩二さん
って、いつまでも続くし、終わってもすぐまたしてくるんですもの」

「満足したか」
「浩二さん?」
「浩二もお前もだ」
「浩二さんとても満足したようよ。ああ、そうだ……こんな経験はじめてです。一生忘れません……って言ってたから……」
「田宮と浩二とどちらがいい」
妻はしばらく答えなかったが、いきなり顔を振って夫の目をのぞき込むようにすると、
「浩二さんよ! だって若くって清潔でしょう」
「浩二は後悔していないんだな」
「やっぱり浩二さんは若い今頃の人よ。一夜あたしと一緒に、なにかスポーツをしたみたいに、さばさばした感じで、パパのお許しが出れば、またお願いし
ますだって…………」
「………で、お前はなんていったんだ………」
「主人は、たぶん何もいわないと思うわ。だけど、秘密にすると叱られるっていっておいたの」
「そこまで言ってしまったのか」
  1. 2014/12/03(水) 08:13:07|
  2. 花濫・夢想原人
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花 濫 第7章公認の情事4

惣太郎は、あまりにもあっけなく事が運んだのと、妻の素直というか無知というか、その素直さに、今は感謝したくなった。田宮も浩二も、結局は、冴子の
この素直さに好意を抱き、安心して妻を抱いたのだろう。
そうするとふたりは自分の立場を一体どう思っているのだろうかと、惣太郎はにわかな疑念に思わず息を止め、顔の血の気が失せていくのがわかるような衝撃
をうけた。
不能の男への憐憫と軽蔑とから、自分を無視した行為だったとしたら、それは惣太郎自身のプライドを著しく傷つけたこととなるばかりでなく、社会的地位まで
もおびやかす大きな問題である。

これは、二人を許せないとか、今後、二人との交際を断絶するという以前に、自分とりかえしのつかない大きな過ちを犯した事になる。
少なくとも田宮は、一般の妻たちが、潜在的に抱いている、夫以外の男に愛されたいという欲望を、背信の情事という歪んだかたちで処理することなく、夫の
諾と理解によって体験させているのだということは理解しているはずである。 

女はひとりでも多くの男に愛されることを望み、その男達から与えられる官能によって新しい女の命が与えられより美しくなる。
夫にとっても、ともすれば自分と同化して、言葉も生活も食べ物も自分と同じ癖がついた妻には、もう別の人格を認めるのも忘れてしまうか、自己嫌悪と同種の
嫌らしさを妻に感じてしまうのが通例である。夫婦は思い思いの魂胆を胸に畳んだまま、むなしく暮らして老いていく……。
自分がめざした怠惰な夫婦生活の打破の方策は、田宮の協力により、今のところ成功したと惣太郎は信じている。

妻の冴子は、田宮に愛されることによって、女としての熟爛を与えられ、素々とした可憐ないつまでも固い少女のようだったのが、羽化した蝶のように、身も心
も華麗変身した。それは、ただ妻を美しくしたばかりでなく、そうした妻に対する自分の気持ちまで変えてしまった。
今では、妻が田宮と交わる度に、妻が自分の知らない何かを田宮から吸い取って変わって行くさまや、自分と田宮の間の、恋仇のような心の葛藤など、一つ一
つが、今までの妻と違った、新しい女のような新鮮さで惣太郎には見える。

「自分も、アメリカに帰ったら、ぜひ先生と同じように、妻を外の男に与えて、いつまでも妻を新鮮な愛の対象としたいと思います」
田宮は、何度も惣太郎に、そう言い続けているのだから、まず心配はあるまい。問題は浩二の方だが、なんといっても浩二はまだ若い。
女の躱も、人生体験も少ない彼に、今の自分の気持ちを説明しても判るはずはない。
しかし、浩二には自分や田宮にはもう失われてしまった純粋さが残っている。

そうだ、その純粋さは、結局は、妻の冴子が持ち続けていた純粋さと同じものではないか。
これが若さというものに違いない。浩二と冴子は、年齢的にいっても同じ次元にある。
そうだとすれば、たとえ、自分を性的弱者と思っていても、彼の若さから見れば、五十代の自分は、もう老人であり、不能であっても少しも不思議ではない。
不能の夫を持った人妻との情事は、純情な彼にとって、冴子への同情とも、いたわりとも、また不能の夫の申し出よる協力とも、こちらの出方しだいで、どうに
でも理由を正当化させることが可能である。若さは、すべてに筋じ道だった理由の明確さを要求し、それが理解さえすれば満足する。
「さあ………二人がお腹をすかせて待ってるわ」
萎えたまま考えこんでいた惣太郎の態度を、やさしくいたわるように冴子が言って起き上がった。

冴子に続いてキッチンに入って行くと、大きな食卓に田宮と浩二が向かい合って腰掛けコーヒーを飲みながら話していたが、まず田宮が、
「おはようございます」
もうスーツに着替えた格好で、挨拶をした。一瞬合った瞳には、なにごとも異常のないという合図が隠されていたが、それは惣太郎以外にはわからない。田宮
の挨拶に惣太郎が入ってきたことを知って振り向いた浩二は、白のニットの薄いセーターに細いズボンという軽装で、ややおびえた表情で惣太郎の顔を見たが、
惣太郎が、
「よく眠れたかい」
にこやかに声を掛けると、緊張した表情が一度に安堵に緩み、微笑を返した。田宮の横の椅子に惣太郎は腰を降ろしてから、改めて二人の顔を見た。

田宮は、いつもとかわらない櫛目の通った髪を撫でつけた頭に後ろから朝日を浴びているので、その表情はよく見えないが、疲労の色は浮かんでいない。
正面の浩二は、田宮と対象的にまだ髪もといていない、乱れた髪のままで、不精髭がのびている。正面から朝日を浴びた顔は、張りのある艶ややかな肌に、薄
い脂を浮かべて、丸い大きな瞳が、熟睡から醒めたように、健康な光沢に輝いている。
先ほどまで、夜を徹して乱媾をほしいままにしてきた疲労や憔悴の後はみじんもない。惣太郎は、改めて浩二の若さに驚嘆した。

「先生は、今朝は講義ですか。私は、講義はないのですが、例の国際会議の主催社である日本新聞の最終スケジュール決定会議がありますので、このまま会場
の国際ホテルに参ります」
「ああ、君は実行委員だったね。日本ではじめての言語国際学会だから大変だろうが、君にとっても、世界の学者に接するいい機会だし、なにしろ君は英語が
堪能だから、主催国の中心人物になってもらわなければならない。
ぼくは今日も、千葉の大学の集中講義だ」
「たしかN大の農学部でしたね」
「ああ、最近農学部も拓殖学科なんかが出来て、海外に農場を持つ企業が多くなって生徒が賣れているらしいいのだが、なにしろ未開国が多くてね。
それで言語学なんかが必修科目になったのは、君も知っての通りだが、ぼくは、未開国に農地を開墾に行く青年に言語学など必要ないと思うんだが……
…」

「あら、むずかしいお話になってしまって……。浩二さん、あたしたちには興味ありませんから、ほかのお話をしましょう」
いつの間にか、パンやタサダを並べ終わった冴子が、浩二の横の自分の椅子に座りながら、華やかな声を立てた。
「浩二は、二、三日ゆっくりすりんだろう?」
惣太郎がパンにバターを塗りながら顔を見ずに言った。

「新しい会社には、来月から出社ですから、まだ二十日くらいありますが、それまでに下宿を決めたり、国にも一度帰ってこようと思いますが、送り返した荷物が、
明後日くらいに着きますので、それを受け取ってからにしたいと思ってます」
「下宿なんか探さなくていいじゃないか。ここから通えばいい。二階の六畳を君の部屋にしよう。冴子とよく相談して決めなさい。もっとも君が、どうしてもこの家
から通うのは厭だというのなら別だが………」
 
「あら、浩二さん、そうしなさいよ。それがいいわよ」
冴子が叫ぶように華やかな声を上げたのを聞いて、惣太郎は思わずバーターナイフを動かす手を止めた。
自分はどうして、いとも簡単に浩二の同居を許可してしまったのだろう。ほんとうにそれでいいのか。これでは浩二と冴子の情事を永久に公認したと同じではないか。
それほどの決心が自分にあったわけではないのに。

「浩二君、そうさせてもらったら……。一番それがいいと思うな僕も……」
田宮の言葉が、重大な判決を下す判事の言葉のように惣太郎には聞こえた。
  1. 2014/12/03(水) 08:15:23|
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花 濫 第8章陰陽二つの情事

寝室のカーテンの隙間からさしこんだ真夏の強烈な日光が、漆喰塗りの壁に黄金の光る一本の線のようになって輝いていた。
クーラーがきいているので寝室の中は快適な温度に保たれているが、さしこむその光の強さに、外はもうきびしい暑さであることが推察される。
窓の外の庭から、冴子の陽気で華やかな笑い声と、浩二のなにかどなっているような大きな声が聞こえて来る。散水の水音が二人の声の合間
に聞こえている。庭に水でも撒いているのだろう。まるで子供が遊んでいるような騒がしさである。

もう十時近かった。昨夜、明日が締めきりの原稿を一時頃までかかって書き上げた時には、浩二はまだ帰っていなかった。十時過ぎに浩二か
ら電話があり、パリ支社と緊急の連絡があって、時差の関係から深夜になるので、場合によっては会社に泊まって、朝帰るという連絡が冴子に
入っているのを、書斎で聞いていた。

「会社って休む部屋があるの? ……えっ………椅子を並べて寝るって……風邪ひくわよ……あすは日曜日だし、終わったら帰ってきて………」
冴子の声には媚びがあると、惣太郎は翻訳作業を中断して煙草に火を付けながら思った。毎週、土曜の夜冴子は浩二の部屋で寝る。
いつの間にか三人の間で成立した暗黙の了解である。

田宮は、以前と変わりなくこの家にはよくやってきたが、冴子と接触をもつということは滅多にない。冴子と田宮の間に亀裂が生じたわけでもなけ
れば、惣太郎との間が気まずくなったわけでもない。
浩二が帰国した夜の乱媾の翌日、浩二と冴子が、ただならぬ仲になり、それを惣太郎が黙認したということを田宮が伝えた。田宮は浩二に惣太
郎の意図を伝えた。田宮が冴子と関係を持ったことは田宮は浩二に伝えてはいない。

田宮にはやはり教師としてのプライドのようなものがあって、純粋な浩二に、自分も冴子と関係していたとは言えなかったに違いない。もちろん、
冴子も田宮との関係は内緒にしているし、惣太郎にはっきりと、浩二の方がいいと言い切ったように、浩二の不在に田宮が誘っても冴子は応なく
なったと惣太郎は思っていた。田宮はそれを恨んだりもせず、自分と同じ立場にあるように立ち振舞って、一向に気にしていないように惣太郎に
は見えた。

冴子の態度も、田宮には全く気がないかというとそうでもなく、適当に田宮と接している。躯の関係だけがなくなって、親しい知人同志のような
関係だけになったと、一時は惣太郎も思った。そんな田宮と冴子の関係に疑念が生じたのは、浩二が大阪に出張した、つい最近の事である。

惣太郎もその日は一晩泊まりで札幌に出張するはずであったが、学校に急用が生じて、その出張を取りやめた。ある教室の教授がなくなって、そ
の補充に新しい教授を決める教授会が尾を引いたためだった。その教室の教授候補が二人いて、それぞれ学内の有力な教授の推薦があって、
夜になっても意見は二つに割れて難行した。結局、深夜におよんで決選投票が行われてやっと結論を得たわけである。

その後、恒例の新任教授を囲む宴会が開かれ、惣太郎が帰宅したのは一一時過ぎだった。タクシーを降りて自分の家の玄関に立った時、惣太郎は
いつもと違う家の様子に思わず立ち止まった。門灯はついているが、家の窓は、どの部屋からも灯が漏れていない。
自分も浩二も出張で、冴子一人だから、早く休んでしまったのかもしれないと、呼び鈴を押そうとした時、後ろで車の停る音がした。振り向くと、
止まったタクシーから、真っ白のタンクトップ姿の冴子が降り立った。
あら! あなた………」
驚いて惣太郎を見上げた冴子の瞳が、いつになくきらきらと空の星のように潤んで輝いていた。

その時は、上京してきた女学校の同窓生とホテルで食事をして話し込んでいたら、遅くなってしまったと冴子はいっていたが、惣太郎の求めに応じ
て茶ずけの支度をしてくれる妻が、惣太郎にはなぜかまぶしくてしかたなかった。
実家から送ってきた鯛の浜焼きがあります。あけましょうか」

冴子が情事の後、かならずそうなる鼻にかかった甘い声でいった。やや上目で惣太郎を見る瞳も潤んでいる。惣太郎は妻の目を見て思わず茶づけ
の箸を止めた。妻の瞼の周囲がかすかに充血しており、頬の血の氣にほんのりと染まった色艶といい、妻が立ち上がったとき、匂い立つ甘酸っぱ
い体臭などは、妻が性交の後の特徴的な生理現象がすべて現れている。冴子が情事をもってきたことは疑う余地もなかった。                              

冴子に新しい男が出来たとは思えない。思い当たるのは田宮である。田宮は今日は学校がない。助教授であるから、深夜までの会議にも出る必要
がない。直感的に惣太郎が、冴子は何処かのホテルで田宮と情事を持ってきたに違いないと結論づけた時、田宮から電話があった。
隣室の電話に出た冴子が、パパ出張に行かなかったの……あっ、そうね知ってたの、といってから急に声を潜めて、………大丈夫よ……心配
ないってば……嘘のつけない冴子との会話に、きっと受話器を握った田宮は肝を冷やしているだろうと、惣太郎は苦笑した。

田宮がなぜ拒否することのない惣太郎に隠れて冴子を誘い出したのだろうか。夫の視線や策略からのがれて、自由に冴子を抱きたいという田宮の気
持ちも判らないことはない。二人で共通の秘密を持つことも情事の刺激を高める一つの技巧である。情事に馴れた田宮が、酒でも飲んでいて、急に
自分も浩二も不在で、冴子が一人留守をしているのを思い出し、にわかに冴子が欲しくなって呼び出したと惣太郎は結論づけた。
田宮は、酒を飲むとよく衝動的なことをする性格である。
「田宮君も誘ったのか」
ああ、あたしが外出しようと思ったとき、田宮さんが見えたからお誘いしたの」
冴子の顔に動揺がおこり、無理に作った硬い笑顔を伏せていった。

それで、友達と別れてから、そのホテルで田宮と寝たというわけか、惣太郎はいいかけてその大人げなさに口をつぐんだ。
いまさら田宮に嫉妬してもはじまらないし、田宮が酒を飲んで衝動的に冴子が欲しくなるように仕向けてきたのも自分である。きっと、彼は情交が終
わってから、自分の了解もなしに冴子を連れ出したことに気付いて、どう冴子を口説いたかは判らないが、あわてて口止めをしたのだろう。

自分が今夜家にいるのを知って、今は仰天しているだろう。誰にも干渉されないホテルの一室で、あのテクニシャンの田宮が、一体どんなテクニック
を使って妻を翻弄したのだろうか。また、世間ではホテルの情事は常識であるが、生まれて初めて体験する冴子は、どんなに興奮し乱れたことだろう。

浩二との性交が、日常茶飯事になって、田宮と初めていった伊香保の夜や、浩二の帰国の夜のような刺激の少なくなった最近では、思いがけない刺
激だったにちがいない。疲れていなければ、その場に冴子を押し倒して抱き締めたやりたい衝動を、惣太郎は辛うじて押さえた。
あわてることはない。自分の知らない場所で、妻が男に抱かれる。そこには自分の保護も力も及ばない。世間も体験もすくない世慣れていない妻は、
そこで一体どんな衝撃をおぼえ、どんな新しい快楽を得たのだろうか。そんな体験を通して、妻はきっとまた、自分の知らない新しい女に生まれ変わる
に違いない。

あの夜の冴子の相手が田宮であることははっきりしているが、もし、これが、自分の知らない全く別の男だったらどうだろう。
最近、惣太郎は、ふとした時に、そう思うことがある。現実的ではないが、冴子が、ある日、買物にでた町で、見知らぬ若い男に誘惑されたと仮定し
ょう。その青年は、有名大学の学生で、清潔で、貴公子のような容貌で、スポーツで鍛えた躰の持ち主で、若い男として一点の否もない青年だったと
したら、自分は、それを迎合するだろうか。答えは否だった。

彼が望むのは、必ず自分が主役となって妻と、妻と交渉を持つ男を支配しなければならない。妻を愛するあまりに、より妻を美しく新鮮にするために、
他の男と交媾させるのだから、その愛する妻が、万が一にも自分以外の男に奪われる危険や、妻自身が自分からはなれて行くような危険は冒せない。
たとえ妻が自分より若く逞しい男と交わることによって、果てしない官能に溺れ込もうとも、妻を狂わす男は自分の分身でなければならない。
結果的には、自分が様々な手段により妻を、より深い快楽に導きく主役でなければならない。
本来なら人に見せたくない愛玩する秘宝をあえて人前に展覧して、その秘宝を見て驚嘆する他人から、尚一層の価値を見い出したりするのに似た心理
である。

田宮なら、自分の支配下にある。その安心感が、今度の事件にも惣太郎を鷹揚にさせる原因となったのだろう。
浩二と冴子の日常には、当初ほどの刺激はなくなったとしても、まだまだ汲み尽くせぬ、さまざまな悦びと刺激が残されていると、惣太郎は思ってい
る。

昨夜は、たまたま浩二の帰りが遅かったので、惣太郎は寝てしまったが、夢の中で、風呂場のタイルに反響する冴子の嬌声を聞いたような気がする。
遅く帰った浩二が入った風呂場へ、寝巻でも届けた冴子が捕まって、風呂の中で痴態を演じていたのか、それとも、浩二の部屋での交わりの後の入浴
で、またまたもよおしての媾合だったのか、いまでは詮索しなくても、起き出て二人に訊けば、二人は素直に答えるまでに教育が出来ている。                

今聞こえる二人の華やいだ声だけでからも、惣太郎には、昨夜二人が堪能するまで交わり合ったことが察しられる。                  
先週の土曜日の深夜など、浩二の部屋に居るとばかり思っていた冴子の声が、庭から聞こえるのに仰天した惣太郎が、雨戸をめくってみると、庭の椿
園の中の小さな四阿のなかで、腰掛けた浩二が膝に冴子を横座りに載せていた。

浩二は上半身は裸で、下はバーミューダーパンツを穿いただけでだった。木綿の茄紺の模様の浴衣姿の冴子は、前も裾もはだけられたしどけない格好
で、浩二にしがみ付き、やや顔を上向きにして浩二の接吻を受けていた。黒々と繁った椿の梢の上の一三夜の月の光が四阿にさし込んでふたりを照して
いた。
暗い四阿の奥に、抱擁した男女の等身大の塑像のように、月光を受けて白く浮かび出した二人の姿は、体温を持った生身とは思えないほど、夏の夜の
庭園の中で、幻想的な雰囲気をかもし出していた。                

惣太郎が近づいても、その塑像は、ぴたりとよりそったまま動こうともしない。もっと近づいて見ると、横向きに見える冴子は、浴衣の胸がはだけられ豊
かな乳房がこぼれ出ており、腰紐で一旦締めらた下も、裾が大きく割れて、ほとんど腰の辺りまで露わになり、格好のよい二本の脚が、浩二の膝の上で
膝を折り曲げた格好で開かれていた。
浩二の掌がその中心に埋もれて、せわしそうに微動するたびに、月光を浴びて白磁のように輝く脚が、微妙な動きをしている。

二人の向いに腰掛けた惣太郎が、
「涼しいかね」
ばつの悪そうな声をかけると、接吻を止めて、にんまりと笑いながら顔をあげた浩二の額が汗で光っていた。
「なんだ、汗をかいているじゃないか。ここは蚊もこないし、一層のこと裸になったらどうだい。冴子も汗をかくと、この夜風では風邪をひくよ……」
さあ……と、浩二を顔で促すと、浩二は決心したのか、怒ったような表情になって、冴子のはだけた胸から手を入れて一気に冴子の上半身から浴衣を剥
ぎ下ろした。腰紐が、どうほどけたのかわからなかったが、茄紺模様の浴衣は、除幕式のようなすばやさで冴子の躯を滑って闇に溶けた。その瞬間、冴
子の裸身が、自ら発光したかと見まがうように、月光を浴びて白磁に輝いた。

冴子は着やせがするというのか、着物を脱いだ時の方がふくよかに見える。肩にも背にも腕にも、白いぬめぬめと光るような脂肪がついていて、月光を
はじき返している。冴子は片膝をゆるくたてて浩二の膝の上に座り、心持ち小首をかしげ、顎をひいて下をむいている。ふくよかな豊頬も、首や肩のまる
みも、丸く盛り上がった豊かな乳房も、豊かなヴィーナス形の腰のみのりも、いまは青白い月光に照らされて、処女のかたさのように見える。              

冴子の青白さにひきかえ、陽灼けした浩二の硬い線の裸体は、月光を吸収してしまうのか、シルエットの顔も、筋肉が盛り上がった肩も胸も、一層黒々
と照り輝いている。なよなよした冴子の裸体と、その背と腰に太い腕を巻き付けた浩二の姿は、まるで夜叉が女を襲っている浮世絵のように、この世の
すがたとも思えない奇怪な雰囲気をかもし出している。

惣太郎は、すぐにでも立ち去るような雰囲気で言った。
「ぼくも脱ごおっと……」
夜叉が、ぬっと立ち上がり、声だけは若く張りのある響きで言うと、パンツを足元に蹴落とした。

全裸で仁王立ちになった夜叉は、こちらを向いて腰を下ろしている冴子の膝を跨ぐと、いきなり冴子に向かって立ちはだかった。夜叉の腰が女の顔の位
置にあった。隆々と月に向って吠えるように屹立して脈動する男根が、うつむいた冴子の頬を叩いた。膝に置かれていた冴子の白い両腕が、ゆっくりと
浩二の脚を両側から抱くようにして、しだいに足元から腰に向かって上がって行った。

硬く締まった浩二の尻の肉に食い入るように両側から抱きついた冴子は、当然のように浩二の陰茎を含んだ。浩二が、快感に首をうしろにそらせ、眉根
の深い皺を刻ませながら、月に吠える若狼のように呻いた。
四阿の細長い腰掛けに横になった冴子は、片脚を杉皮を張った背もたれに上げ掛け、もう一方を椅子から地面に投げ落としていた。その股間に、中腰に
なった浩二が入り込み挿入を試みている。冴子の脚を広げようとすると臀が椅子から落ちかけて、あわてて冴子があしをすぼめる。

「だめだよママ……動いちゃ……」
「だって……落ちるちゃうじゃないの」
自分が椅子に正面を向いて座り、その膝に冴子を向かい合う格好ですくい上げて、浩二はやっと挿入した。浩二の膝の上に馬乗りの格好で座った冴子の
両足が、狭い椅子の奥行きで、浩二の腰を挟んだまま膝を立てた格好で大きく両側に広げられて搖れている。浩二の太い両腕が、冴子の大きな臀を、両
側から抱えるように抱いて、激しく自分の方に押し付ける動作を繰り返し、その度に、冴子も微妙な円形運動を続けながら上りつめていった。

四阿の暗がりで、身体の所々に月光を浴びて律動するふたりの交わりの姿を、もっと美しく見たいと思った惣太郎が、池の縁に置いていた一畳敷ほどの
木製の涼み台に、毛布をかけてやり、その上でするように二人に命じた。

四阿から池までの、低いつつじと椿が両側に植え込まれた細い庭道を、背の高い逞しいからだつきの夜叉が、股間に隆々とそびえたものもそのままに、
ぐったりとした真っ白い冴子を横だきにして歩いて行く姿や、涼み台の上で、絡み合い激しく動きのたうつふたりに姿が、池の反対側の岸辺にいる惣太郎
からは、黒い硝子を張ったような水面に、くっきりと月光に輝くふたりの若々しい絡んだ肢体が浮かび出ていた。

時折、池の中の鯉がはねる音がすると、二人の姿が乱れ、さざなみだった池の面に、時には荒い油絵のように、時には点画のように、また時には印象
画のように、絡まり合った男女の動きがアブストラクトに躍動する。         
月の光を吸い集めてまばゆくさらされた仰向いた冴子の裸体が、筋骨隆々としたした夜叉に押さえつけられ、思い切りひろげさせられた股間を、夜叉の
巨大な男根が突き通していた。

夜叉の動きがしだいに激しさを増すにつれて、暗い夜庭に、そこだけが冴えた青白さに輝く冴子の脚が、先ほどまで押し広げられたまま台の上に投げ出
されていたのに、いまは夜叉の律動する逞しい腰にしっかりと巻き付けられ、激しく一緒に搖れている。
月光を真上から浴びた夜目にも艶やかな冴子の顔が、閉じた目尻に歓喜の泪を溜め、月光に濡れて、いまにもこぼれそうに見える。息苦しそうに開いた
口を、月の面にむけて、訴えるように、耐えられぬように、せつない絹を引き裂くような喜悦の叫び声を間断なく放っている。  
源氏物語の源氏君と美しい女たちの、夢の世界の交わりのような、この世のものとも思えないあやしい幻想の世界の出来事のように美しくあやしく見えたのは、惣太郎の脳裏に
こびりついて、いまでも消えない。
  1. 2014/12/03(水) 08:17:56|
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花 濫 第8章陰陽二つの情事2

ベットを出た惣太郎が、リビングの廊下から庭を見ると、思わず目の奥に痛みがはしるほどの強烈な陽光を反射している芝生のうえで、半ズボンに上半身
裸体の浩二が水道のホースを持って水を撒いている。浩二から数メートル離れて向かい合った冴子は、深紅のミニスカートに紺の横縞の入ったタンクトッ
プのTシャツ姿で、片手に園芸用の小さな如雨露を持って立っていた。
ふたりとも脚は裸足である。

ホースの先を指で押さえて、遠くまで水が飛ぶようにした浩二が、筒先を左右に振って散水している。勢いよく飛ぶ水が、激しい陽の光の中で、白銀の
噴出のような透明感のある銀色に輝いて見えた。

突然、ホースの筒先を浩二がひねって、冴子の脚に水を掛けた。冴子が大げさな悲鳴をあげげながら、掛けられた水の白さとは違った、なまなましいま
ぶしさの二本の脚を飛び跳ねると、水に濡れた白い脚は、若鮎が跳ね上がったような美しいきらめきをみせて輝いた。冴子も負けじと手に持った如雨露を、
浩二に向けて振った。白く細い幾つもの線が弧を描きながら浩二に降り掛かる。浩二が反射的に身構えの姿勢をとると、ホースの筒先が思わぬ方向に向
いて、浩二にだけでなく冴子にも無差別に、水は複雑な曲線を描きながら飛び散った。

「いやんーん。浩二さん!」
頭から水を被った冴子が、両手で顔を拭いながら叫んだ。長い髪も濡れたらしく、先ほどまで敏捷な冴子の動きに軽く踊っていブラウスが、身体や腰にぴ
たりと纏いついて、女の曲線を露わにしていた。浩二も頭からびしょ濡れになったらしく、仔犬のように頭を振ると、白い飛沫が周囲に飛んだ。
「ようし! やったな! どうせ濡れたんだ」
浩二が冴子の足元に向かってホースをかまえた。
「止めて!」

冴子がミニスカートの裾を両手で持ち上げ、夢中で足を跳ねると、股間を隠しただけの小さなスキャンティーがちらりとのぞく。浩二はそれがおもしろいらし
く、次第に筒先を冴子の膝から太股に向ける。冴子が大きな悲鳴を挙げて芝生の上を逃げ回る。
大きく芝生の縁を回るように走っていた冴子が、リビングから見ている惣太郎に気づいたらしく、

「パパ、助けて……」
「燃えてかげろうのたつ芝生を、こちらに向かって冴子が駆けてくる。両腕を曲げて腰の辺りに構え、懸命に走って来る冴子は、濡れた髪を後ろになびか
せ、濡れて身体に張り付き、透明になったタンクトップのTシャツの胸が、くっきりと乳房の丸みが浮き出して搖れている。
締まった腰の下の大きな臀と付け根まであらわな太腿の柔肉が、乳房と違った複雑な動きで搖れ、辺りに若い女の精気を撒き散らしているように匂い立つ。
惣太郎の前まで来ると、廊下の前のガーデンセットの陶器製の椅子に身を投げるようにして座り、息を切らしながら惣太郎を仰ぎ見て、いたずらを見つけられ
た子供のように、てれた表情で、肩をちょっとすぼめながら舌を出した。それは義理に示した媚びだったのか、すぐに、くるりと顔を庭の浩二に向けて、

「浩二さん! パパが起きていらっしゃったからご飯にしましょう」
はしゃいだしぐさで手を振って呼んだ。
「ママ! 水道の栓を締めて……」
浩二がうなずいてホースを捨てると、ホースは狂った蛇のように、あたりかまわず水をはね上げながらのたうち、こちらに向かいかけた浩二の背にも、思いき
り水しぶきを浴びせかけた。驚いた浩二が飛び上がったり、走ったりするのを、声を挙げて囃してから冴子が元栓を締めた。

ガーデンセットの椅子に腰掛けた二人は、照りつける陽射しも気にならないらしく、惣太郎に取ってこさせたジュースを飲みながら談笑している。日焼けした
浩二の琥珀色の肌も、凝脂の浮いた真っ白い艶やかな冴子の肌も、いま濡れたばかりなのに、肌に点々とダイヤモンドの小粒のような水滴をつけただけで、
肌は水をはね返して、若さに匂い立っている。

特に冴子の手や脚が、象牙のように白くなめらかに輝いているのが目立つが、その白い肌は、情事に堪能した後にだけ現れる、皮膚の内から萌え立つ生命
力の自然に開花したような生き生きした生彩が輝いている。           
男の肌には、情事の前後に現れる変化はないと惣太郎は思っているが、それでも、浩二の肌をよく注意してみると、直後の浩二の逞しい肌は、冴子の凝脂
が染みこんだように艶やかに輝いている。                   

「さあ、シャワーを浴びてきなさい、食事にしよう。コーヒーのうまいやつを炒れておくから」                                  
二人がならんで、椿のしげみから、浴室の方に消えるのを見送ってから、惣太郎はキッチンに入ってコーヒーポットを取り出すとのコンセントをつないだ。
コーヒー豆を曵くため、電気のスイッチを入れ、賑やかな音を立てていた時、浴室から、浩二の怒ったような声が聞こえたような気がしてスイッチを切った。 
廊下を隔てた浴室ののれんの奥に、惣太郎は聴き耳を立てた。シャワーの水音に混じって、浩二と冴子のはしゃぐ声が聞こえていたのが、いつのまにか、
シャワーが止められ、浴室の中は森閑としている。耳を澄ますと、なかで人の争うような気配がある。                             

「………だめよ、パパが待ってるじゃないの………」           
「誰がこんなにしたんだ……。ほら、責任とってくれよな」        
「誰が触わらせたの…………」                      
冴子の声が溶けるように生めいている。                 
「あつっ!」                             
冴子の押し殺した叫びが聞こえたあと、しばらく静寂があってから、しだいにあたりはばからない動きの気配が伝わってきた。

やがて、息づかいや、肉のしきみまでが、惣太郎の耳に明瞭に聞こえ出した。              
昨夜自分が寝たのが一時過ぎだから、その後に浩二が帰ってきて、ふたりが交わりを持ったのは確実だと思う。朝までに三回くらいはしたにちがいない
もしかしたら、朝も惣太郎が起きるまでに、一度くらいしたのかもしれない。
それとも、浩二が朝帰りで、出来なかったのだろうか。

いずれにしても、ふたりで躯を洗い合っているうちに、耐えられなくなってきたのだろう。先ほどの冴子の短い悲鳴の時に挿入があったに違いないと惣太
郎は思った。。          
しだいに激しさを増す息づかいと一緒に、ぱんぱんと濡れた肌が打ち合う音が、派手に響いてきたりする。浩二の喘ぎ声と冴子の呻き声と絡み合うようし
て聞こえて来る。ふたりの交わりは、狭い浴室の中で、どんな体位でおこなわれているのだろうか。そう考えると、惣太郎は何かわくわくするような思い
に駆られてきた。

惣太郎は新聞を膝に載せたまま、立ち上がるのをじっと我慢していた。
嫉妬焼きの亭主らしい振舞いをして、どうやら最後の断末魔に行き着こうとしているらしいのに、せっかくの二人の感興を殺いでしまうのも大人げない。
呻き声が一際高まって、叫びとも泣き声ともとれる響きにとなって、暖簾の向こうから伝わってくると、ちょっとおろおろした気持ちになって、思わず新聞
を膝から落として、立ち上がりかけるのだったが、その次は又しんと静まって、心なしか険しい息ずかいの絡み合いになる。

やがて、最後の断末魔が終わったらしく、例の凄愴な情景を思わせる一際高い呻き声や喘ぎのあと、だんだんと気配が静まって、その後、ひっそりした時
間が過ぎていった。その間、例の頬擦りや接吻や抱擁の執拗な愛撫し合や、いたわり合が長々と続いているらしい。       
そのあと、かなりしばらくして、二人は互いにタオルを素肌に巻いただけの格好で、のれんをわけて廊下まで出て来ると、左右に別れて、それぞれの部屋
に着替えにいく気配を示した。。

「まあ、そのままでいいじゃないか。せっかくのコーヒーがさめてしまう」
惣太郎は、沸き上がったポットを持って、二人がついて来ることが当然というようにリビングに入っていった。
リビングも、クーラーが入れていなかったので、庭の芝生を直撃している陽光の反射を受けてむっとする暑さである。
「クーラーよりも扇風機の方が自然でいいだろう」
ふたりのタオルだけ巻き付けた上気した顔を見ながら惣太郎が言った。   

「お顔だけなおしてこなければいけないわ」                
サイドボードから、エッジウッドのコーヒーカップを取り出している惣太郎の背に冴子が羞恥を含んだ声で言った。                    
「その日照った顔がいちばんきれいたよ。なあ、浩二……。昨夜は何時頃帰ったんだい……浩二は……」                       
「三時過ぎです。仕事は一時前に終ったのですが、係長が、どうしても飲もうというので仕方なく、京橋の赤提燈で飲んだんです」 

「そうよ、パパ聞いてちょうだい。浩二さんたら、すっかり酔っちゃって、もう玄関で、げろげろなの………。やっとお風呂場まで連れてって、脱がせた
んだけど、それからがまた大変だったの……」
「ママ頼む……それから後は内緒だよ。もし、言ったら、ただではすまさないよ」
浩二がむきになって言った。                      
「いっちゃおうっと。あのねえ………すっかり酔って……どうにもならないのに……」
冴子のおおげさな悲鳴が突然わきあがり、惣太郎が驚いて振り返ると、並んでソファに腰掛けていた浩二が、冴子のタオルを裾の方からはぎ取ろうとして
いた。
  1. 2014/12/03(水) 08:19:31|
  2. 花濫・夢想原人
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花 濫 第8章陰陽二つの情事3

懸命に股間を両手で押さえつけている冴子の躯から、タオルが引っ張られて、むっちりとした艶やややかな太腿やふくらはぎが露わになってい
る。       
あのねえ……どうしても大きくしてくれって………」          
浩二が顔を紅潮してむきになって、今度は冴子の肩の辺りのタオルを力いっぱい引いた。冴子がまたけたたましい悲鳴を揚げた。はらりと、皮が剥げた
ように冴子の滑らかな肩を滑ってタオルが落ち、梨の花のような、白さの中に、うす青みをおびた翳をつくっている上半身が露わになった。乳房だけが、
ほのかな紅をこめてもりあがり、乳首は海棠の花びらのをおしあてたようにみえる。    

「それで結局どうなったんだ?」                    
コーヒーをそれぞれのカップに注ぎ分けながら惣太郎が聴いて、ふと、目を挙げて二人を見ると、浩二が自分はタオルに包まれたままで、冴子の裸身を
き締めて、その肩の接吻していた。

冴子が、萌黄のノースリーブノワンピースに、浩二がジーンズの半ズボンにランイングに着替えて朝食を終え、互いにくつろいで姿勢でソァに落ち着いて
ら惣太郎は昨夜の話を繰り返しはじめた。
「結局、果たせなくって、君達はまだ欲求不満というわけか」         
「あら、あたしは違うわ」                        

冴子が、持っていたジュースのコップを置くと、嬌恥の媚態で、躯をくねらせながら言った。いやいやをする幼女のように、肩と腰を揺すりながら、両手
で顔をかすしぐさでも、昔仕込まれた日本舞踊の型がきまるのか、いかにも女らしい色っぽい優雅さで、惣太郎は、あらためて妻の女らしい姿態をまぶ
しそうに見た。

「浩二、本当かどうか試してごらん」                   
惣太郎がけしかえるように言うと、にやりと、ふてぶてしい表情を作ってから、浩二が怒りを覚えたように顔面を紅潮させながら、やにわに、並んで座った
冴子をうしろから羽交い締めにした。浩二の両腕が冴子の脇の下から躯の前に回り、乳房の裾野の膨らみが見えるほど大きくえぐられた衿から、ぐいと差
入まれた。

浩二の掌が乳房をむんずと掴んだらしい。その瞬間、萌黄色のワンピース一枚の冴子の肩が、波うつように大きく息づいた。浩二の掌が布の中で、乳房
を包むようにくるんで、ゆっくりと揉みしだき、乳首を両掌の中指でころがすようにしている様子がうかがえる。
冴子がいつの間にか酔ったように瞼の周りを朱に染めあげて、もう肩で大きく呼吸しながら喘ぎを隠している。

「おい、おい……君らは、いま済ましたばかりなのだろう? 催していているのは冴子だけかい? 」
「もちろん! いつもそうですよ」                   
浩二が、我が意を得たりと言うように、声をあらげて言った。うつむいた顔を羞恥に染めて、両手で隠した冴子が、片手を顔から離し、おずおずと浩二の
股間に伸ばした。自分だけと言われた抗議のつもりらしい。そこもいつの間にか盛り上がっている。その盛り上がりを冴子の掌がやさしく愛撫した。        

「冴子、浩二が苦しそうだから、解放してやったら?……」         
惣太郎が、浩二にとも冴子にともつかづに言った。乳房を愛撫していた浩二の片手が抜かれて、自分でベルトを外すと、冴子の白い指が物慣れた様子で
チャックを下げた。半ズボンの下には、なにもつけていなかったらしく極度に膨張した浩二の陰茎が、待ちきれないような勢いで飛び出してきた。         

しばらく見ないうちに、浩二の陰茎はまた一回り大きくなったように惣太郎には思えた。亀頭の粘膜も、桃色を帯びた薄い粘膜に覆われていたのが、いま
は日焼けした浩二の頬のように、やや黒味を帯びて健康そうに艶やかに張り切っている。亀頭のくびれもえらが逞しくなって彫りが深くなってきた。
陰茎の皮膚は、前は、薄いピンクの粘膜が張り付いたようになっていて、そこに赤い糸の絡んだような毛細血管が浮き出て見えていたのが、いまでは、ふ
てぶてしい黒さと厚さの皮膚に変わっていて、そこに青黒い血管が怒ったように浮き出ている。


女の体液には、男のものを変色させる成分が含まれているのだろうか。それとも、冴子の粘膜との摩擦が、こうも逞しくしたのだろうか。
中空に向かって吠えるように脈動している浩二の壮健な陰茎を、桑の枝にまつわりつく蚕のような白さと柔らかさで愛撫している冴子のしなやかな五本の指
を見ながら惣太郎は考えていた。 

「君のものと同じように冴子の胸も苦しいがってるし、下の方はもう溢れているんじゃないか? 」                          
惣太郎の言葉に扇動されて、浩二がワンピースの前釦を上から一つづつぎこちない手付きで外していった。最後の釦がとれると、ワンピースが命を失ったよ
うに、はらりと冴子の足元に屑のようになって落ちた。ブラジャーのない冴子の裸身が、庭から射るような強さで差し込む真夏の陽射しを吸い集めて白く輝
いていた。 

冴子の躯も、以前より丸みを帯びてきたような気がする。豊かな乳房が艶をまして張り切り、そこから下腹へ流れる肌や、むっちりした腿の皮膚が、前に
は象牙のように冴えた白い艶に輝いていたのが、今は、ねっとりと湿り気を帯びて、つきたての餅のように色っぽい。             
「浩二、遠慮はいらんよ。さあ、したいならするがいい……」       

これから始めようとする白日夢の性宴に、互いを愛撫し合いながら、しだいに高まって、いまや身内にたぎる情熱の爆発を目前にして、狂いはじめた二人
を見ながら、自分もまるでその情熱に巻き込まれたように、胸の高鳴りを覚えながら惣太郎は二人を凝視していた。                      
浩二が、ズボンを脱ぎ捨て、冴子を自分の膝に、惣太郎の方を向かせて抱き上げた。浅黒い浩二の膝に載った冴子の白い躯が、ゆっくりと開かれ、半透
明の小さなスキャンティーだけの股間が不自然に大きくむき出しになる。

すでにスキャンティーのその部分は、ぐっしょりと濡れて透明になり、黒い翳りの中で蠢く浩二の指までがはっきりと見える。そのスキャンティーを、浩二の
残った掌が、冴子の臀のほうから、ゆっくりと下ろしはじめた。妻が腰をあげてそれを手伝う。太腿の中程まで下がった時、浩二の長い脚がくるしそうに
曲げられたかと思うと、スキャンティーに脚の指がかかり、一気に押し下げられた。         

浩二と冴子は、二人ともこちらに向かって腰掛けの上で重なっていた。冴子の股間の下からのぞいた浩二の陰茎が、ゆっくりと、冴子の割れ目に出し入れ
されている。
惣太郎は、テーブルの上に片肘を突いて、二人の結合部をのぞき込む。
濡れて光った、太い肉柱が出入りしている。
こちらを向いた妻の弓形の部分は左右に押され、皺ばんでそれを呑込んでいる。               

今、浩二の太い部分は、ゆっくりと妻の浅黒い左右のふくらみをめくり上げながら、引き抜かれてくる。太く、浮き上がったあの静脈が、妻の内部の褶曲
を、摩擦して引き出されてくるのだ。尿道のそこだけは柔らかそうに膨らんでいる。妻の鮮烈に赤い肉片様の左右の舌は、右は挟まれ押し付けられひしが
れて妙な形に曲がっている。もう一方は、浩二の若々しく節くれ立った幹に張り付き、今、引きのばされている最中だ。ますます抜き出されていく。妻の色
鮮やかな左の唇は、一杯に引きのばされて、反動で縮んだ。

若者は、先端ぎりぎりまで抜いて待っている。突き入れるタイミングを計っているのだ。             
妻が焦って尻を振る。きしみながら若者が入れていく。ついに全部が没入した。毛の生えた睾丸が妻の陰部全体を覆う。根元まで押し入ってから浩二はとど
めを刺すように膝をぐっとせり上げてさらに突き上げた。            

「あぁ………」     
妻が耐えられないような声を揚げた。
思わず結合部分から視線をあげると、妻はもう、浩二の膝の上で姿勢を立てることも出来ないほどに、官能の極致に追い込まれているらしく、ぐったりと躯
を浩二の胸に預けたまま斜めに倒して、片手をソファに突いて辛うじて支えている。

妻はもうためらわず声をあげた。その声を聞くとふくふくとした可憐な小鳥を締殺しているようなあの残忍な快感と、浩二に今ではゆだねきった姿勢の可憐
な生き物に対する無限のいとしさと、猛烈な嫉妬心がこみあげて、惣太郎は、このままほんとうに、妻を殺してしまいそうな危険さを、ひやっと背のあたりに
感じた。                                  

妻は目もとをぼうっと染め上げたあどけない表情で、目尻に泪を流している。そんな自然な紅の色が映えて、どきっとするほどなまめかしさをそそる。そのく
せ、浩二に貫かれている妻の表情には、何もかもまかせきったという自己放棄の安らかさをたたえ、線という線がゆるみきって、見ている方で泪のこぼれそ
うなほど無邪気にかえっているのでもあった。                 

浩二に腰を抱えられて、上下左右に強く揺り動かされながら、妻がしっかりと浩二をくわえて、円を描いている。肩や腰の肉づきが、汗にまみれて光っている。
浩二が激しく腰を波打たせた。そのたびに、妻の体が浮き上がった。濡れた巨根が、妻の腰の下でチラついた。
浩二と妻の位置が、入れ替わった。二人はソフアに折り重なって倒れ込み、浩二が、妻の脚を肩にかつぐようにして、攻めた。交合の部分が、惣太郎の目に
、はっきりと見えた。見覚えのある妻の局所がはっきり見える。

妻の局所から、体液がほとばしっていた。粘膜が、キュッ、キュッと泣いていた。快楽の嗚咽であった。浩二の腰が猛烈な精悍さで律動を繰り返して、妻の
粘膜をかきまわしていた。                      
「あっ……もう……駄目……」
妻が、溺れでもしたように、浩二の頚に下からしがみつき、声を放ちながら、自ら腰を激しく振る。粘液の音が水っぽさを増し、やがて、漏水のような短い
水音がしたと思うまもなく、妻が、ひぇー、と刺されでもしたような声をあげた。
妻の顔が、苦痛に歪み、額の横に動脈の太い筋が浮かび出る。大きく開かれた唇から、よだれ流れ出ていた。浩二の背中に回された掌の指が、怨念でもあ
るかのように全部曲げられて、爪が浩二の皮膚に食い込んでいる。

傷つけられても怯まず、理性も抑止もなくなく狂人のように、ただ全身を波立たせながら、浩二の腰は蠢動を続ける。腰全体で、妻の股間をたたきつけるよう
に、激しく打ちすえる浩二の逞しい肉体の攻撃に、なよなよとしたきゃしゃな妻の躯は、いまにも壊れるように、激しく揺り動かされ、たえだえの呼吸を荒めな
がらも、なお浩二を奥深く誘い込もうとするように、迎え入れる姿勢を崩さない。

クーラーのない室内で、重なったふたりの上から水でも浴びせかけられたように、全身汗にまみれながら、壮絶な性交が続いていた。浩二が妻の躯に、強烈
な力を込めて自分の身体を叩きつける度に、濡れタオルをたたくような音が、静かな昼前のリビングに木霊し、下腹の股間のあたりからしぶきが散った。
惣太郎は、何時の間にか、ふたりと同じように、自分も、激しい性交をしているような興奮の坩堝に巻き込まれていた。

「少し休んで、汗を拭った方がいいな」
惣太郎が声を掛けた。
「いや………やめないで……」
吐息を吐くような、切実な実感を伴った声で妻が哀願した。その声に羞恥はない。昇り詰めようとしている快感を中断されたくない必死の叫びだった。
惣太郎の言葉に、律動を止めかけた浩二に、惣太郎は、あわててまた声をかけた。
「いいんだ。そのまま続けても……。汗は、俺が拭ってやるとしよう」

祖太郎が、バスタオルをもって立ち上がりかけた時、
「ここ狭いから、汗で身体が滑っておっこちそうだよ」
一旦律動を中止していた浩二が、誰にともなく言うと、ぐいと腰をぬいて、妻から離れた。陰茎が抜ける時、ずぼっ、と音がして、
「いや!」
妻が声をあげた。
浩二が敏捷な動作で立ち上がると、ぐったりと全身の力を抜いて弛緩した妻の裸体を、脇と尻の下に掌を入れて抱き上げようとした浩二が、
「滑って駄目だよ」
嬌笑を上げながら言った。
「ママ立ってよ」
浩二が言ったが、妻は返事もなく、弛緩した躰を横たえたまま荒い呼吸をしている。

浩二が、もう一度妻を抱き上げにかかった。
やっと抱き上げると、ソフアから、広い絨毯の上に移るつもりらしく、ゆっくりと妻を横抱きにしたまま歩いていった。ふたりが去ったソフアの上には、水を
流したような痕跡がついていた。

「あっ……いやー……」
妻の悲鳴に惣太郎が顔を上げると、丁度、部屋のまん中辺りまでやってきた浩二が、掌が滑ったらしく、妻の裸身の上半身が絨毯に落ち、片足だけが浩二
の手で持ち上げられていた。妻の股間が窓側に向かって大きく広げられていて、強烈な真夏の光に照らし出されていた。
妻の股間は、太股の付け根の辺りから、体液とも汗とも判別出来ないが、ぐっしょりと濡れそぼり、大陰唇が開いて、奥の摺曲した薄紅の粘膜がのぞきいて
いた。その妻の女陰は、ひどく淫猥で好色で貪欲な落魄した中年女のもののように惣太郎に映った。

こんな感じに妻の性器が見えたのははじめてである。こっそりと、叢の隅に羞恥を含んで咲いた野の花のように可憐だった妻が、何時の間に、そうなったの
だろうか。いま、強い光に隈なく照らし出された妻の性器は、たっぷりと露を含んで咲き切った薔薇野ように、淫蕩な妖気を漂わせている。執拗に虫を誘い
込もうとする虫食植物の奇怪な花にも似ていると思った。
そう思うと、濡れて全身をてらてらと光らせている妻の躰の線にも、かっての初々しい可憐な曲線が消えて、丸くふっくらとした肉感的な曲線が艶っぽい。 
  1. 2014/12/03(水) 08:21:14|
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花 濫 第8章陰陽二つの情事4

浩二が、支えていた妻の片足を放した。妻の性器が見えていたところに、浩二のきりりと締まった臀があった。
上向きに寝た妻の白い裸体がその向こうに横たわっている。精悍な幼獣のような浩二の琥珀色の裸体と対比して見る妻の真っ白い躯は、
その腰の線が、いかにも二九歳という、爛熟の頂点にある女のからだのボリュームをものがたり、肉感をかげろわせている。剥き出しの胸
から腹にかけての、皮下脂肪を透かせた白い皮膚が、満ちた光りの中で女らしい柔らかさと優しさに匂い立っていた。                         

先ほどの広げられた妻の性器を見て思った淫靡さは、嘘のようにみじんもない。あれは欲望の受容を中断された、女の業の姿だったのだ
ろうか。中断から、いま、再び男を受け入れようとしている妻の全身は、期待に胸を大きく膨れさせながら、軟弱な情緒を身体全体から滲み
だしている。この柔媚な女のどこに、荒れ狂う野獣の猛々しさが潜んでいるのかと、惣太郎は今更ながら妻の変幻極まりない生態に眼を見
るのだった。

浩二が妻の躯に重なって、再び律動を開始した。惣太郎は、浩二のなめし皮のようなしなやかな幼さの残った脊中線の真直通った背中の
動きと、その浩二の動きを、やさしく包むように下から抱き支えている妻のぽってりした躯の対比を眺めている内に、惣太郎は、先ほど見た、
ふてぶてしいまでに爛熟と貪欲さを露わにしたように妻の性器が見えた理由がわかったきがしてきた。
それは浩二の幼さを残した背中の動きを眺めていた時にひらめいたものだった。まだ堅さの残った浩二の身体に比較して、妻の躯は、女の
生涯で一番美しく咲き開いた時を迎え、背にも腹にも、白いぬめぬめと光るような脂肪がついていて、熟した果実のように、そこにあるだけで
芳香を放ち、自分から崩れそうに匂い立っている。                                

終末に近づいたのか、ふたりは正常位になって激しく揉み合っていた。全身に緊張しきった筋肉のみなぎりをみせて、全身で妻の躯を叩き
つけるように打ちふるわせている浩二を、下から抱き止めるようにしながら、愉悦にのたうっている妻は、全身で浩二をいとおしそうに包み込
んでいる。しかし、よく見ると自らも巧みに尻を動かせて、一図に突き込んでくる陰茎を自分の一番感じる位置に挿入するように調節している
のがわかる。尻の動かせ方だけではない。浩二の唇の受け方も、耳の辺りを愛撫していたのを、自然の動作のように見せかけながら、自分
の敏感な部分である耳から頚にかけての辺りに巧みに導いている。無意識の自己快感受容調節とでもいうのだろうか。                  

あくまで受動的に見える妻の女らしいやさしさに満ちた態度も、注意深く観察すると、実は、自分がより強烈な快感を貪欲に求めるために、
自ら男の動きを励まし、調節し、抑制しているのである。                  

惣太郎の腰掛けている側に、絡んだふたりの脚があった。いまは妻の両脚が二つに折り曲げられて、臀が大きく持ち上げられ、局部が上
を向き、そこに上から男根が突き刺さっているから、惣太郎からもふたりの結合部分がはっきりと見える。だらだらと体液をほとぼらせて、男
根を啣え込んでいる冴子の性器は、いまや深紅に充血し、満開の紅薔薇のようである。その薔薇は、大きく開いて男根を吸い込み切ると、
思わぬ敏捷さで、きゅと強烈な強さでその男根を締め付けている。その度に浩二に快感がはしるらしく、思わず呻き声をあげさせている。  

ああ、これだ。先ほどから妻の性器に淫蕩と貪婪さを視た原因はこれだった。惣太郎はそう思った。かっての妻が男を受容する時は、す
べて受身だった。妻には男を弄する技巧も、快楽をコントロールする沈着さも全くなかった。ただ男によって堀り起こされる刺激に、自分の
躯が思わぬ反応を示し、自分でもどうにもならない快感に驚嘆しながら溺れていくという、無垢な躯だったのだ。

それが今は、自らが貪欲に快楽を需めて能動的にうごめいている。妻は変わった。一人前の女になったとでもいうのだろうか。性交に慣れ
たというのだろうか。 しかし、惣太郎にとって、これはかならずしもよい結果とはいい難い。彼にとって妻は常に新鮮で清純でなければなら
なった。自分の愛玩する宝は、他人の手垢に染まってはならない。掌中の秘というものは、自分の手垢しか染まってはならないのだ。自分
だけのものでなければならないのだ。他人に触れさせるのは、その宝が、いかに貴重なものであるがの確認のために他人に曝して、価値を
確認したいからなのだ。他人がその宝に触れて魅了されれば、すぐ引っ込めて、また、そっとしまい込む。それが掌中の秘というものだ。             

自分の妻も掌中の秘として、他の男に触れさせ、その男が妻に魅了されることによって、妻の女としての魅力を再確認し、さらに自分の性
的能力を越える力を持った男と妻が接することによって、さらに妻に磨きがかかる。これが目的で自分は妻を他の男に与えたのだ。                      
その妻が、自分という存在を無視して、みずから他の男の手垢を需め、かつその男に奉仕しようなどということは、宝が光を喪失し、そこ
らあたりにあるがらくた同然になるということに他ならない。                 

浩二は妻の躯に未知の魅力を失ってしまったのではだろうか。妻の躯の隅々まで知りつくし、いまでは若夫婦の交わりのように、ただ生理
的な欲求だけで交わっているとすれば、惣太郎にとって、自分の宝物をただの道具にされたのと同じである。また妻も、浩二に若い男の身
体という未知の驚異による感動と刺激を失って、いまや男の愛を失うまいと男に奉仕するようになってしまったとすれば、これもまた妻という
宝が、ただの浮気妻に落魄してしまったことになる。   

たしかに浩二は、男として成熟してもいないし、性的技巧に長けているというわけでもない。あるのは若いエネルギッシュな肉体というこ
とだけである。田宮には、まだ中年男の慣れた女のあづかい方と、特殊な技巧の持ち主としての価値があった。もし妻が、田宮との情交の
あった頃、もっと女として成熟しておれば、どんなに浩二が若く強靭な身体の持ち主であったとしても、田宮から離れられなかった筈だ。                              
そこまで考えて、惣太郎はある疑念に思わず息を呑んだ。

目の前で、浩二の巨根を呑んでいる妻の性器が、一途に上下運動を繰り返し
ている浩二の陰茎を、臀を巧みに動かせて突き入れる方向を調節したり、思わぬ動作で締め付けたりしているのは、もしかすると浩二との
性交で覚えた技ではなく、田宮から教え込まれたものではないのだろうかということだった。。              

妻が声放ちはじめた。浩二の激しい抽送運動に突き上げられながら、全身が淫らに上下に動かされれている。それにつれて絨毯に流れ
た長い髪も揺れていた。時々、耐えられなくなるのか、いやいやをするように顔を左右に激しく振ると、惣太郎のところまで、妻の髪の湿っ
た淫靡な匂いが漂ってくる。もう妻は完全に無我の境地にあるのだろう。正常位で男に組み敷かれ、男の下肢が入った股間が大きく左右
に開かれ、男の動きに合わせて揺れていたが、やがて、自らその足を挙げて男の腰にしっかりと巻き付けた。両の踵を男の腰で組んで離
れないようにして、自分も下から腰をゆすりはじめた。激しく突き入れる浩二の動きに、どこかで神経が連動しているような巧みさで、妻の
腰がな妻の腰が持ち上がり、微妙な動作で左右に振られる。それは次第の早さを増す浩二の動きに、一瞬の狂いもなく追従していた。

惣太郎が驚いたのは、終焉を迎えた浩二が、
「ママ……いく………」
呻くようにいって、狂気のように腰を打ち震わせたときだった。
「いやよ……もっとよ………。ね……。少し休んで……」
妻が諭すように浩二の耳元で囁きながら、それまで浩二の腰の動きに応じていた自分の腰の動きを止め、すいと臀を持ち上げて、浩二
が上下運動を出来ないようにしてしまったと思うと、次の瞬間、すっと腰を引いて浩二の陰茎を抜き放った。そればかりではない、浩二の
肩を抱きしめていた両腕も解いて、一方の掌があっという早さで浩二の股間に延び、放出寸前の浩二の怒張し切った陰茎の根元を指先で
きゅっと絞めた。

「あっ……またやられた」
浩二が苦笑いをしながら言った。静かに横たわった妻の股間に、根元を絞められた自分の陰茎に掌を添えて、ゆっくりとまた挿入した。
爆発の一瞬が牽制されて、浩二はまた幾分の平静さを取り戻して、ゆっくりと抽送をはじめた。今度は妻の方が早く昇りはじめた。浩二の
抽送の快感を一瞬も逃さない貪欲さで、巧みに腰を振り自分の最適の場所に突きいるように調整しながら、懸命に昇り詰めていく。再び
腰を浩二の腰に巻き付けて、下から激しく腰を振っている。真っ赤な口が大きくあけられ、眉根の皺が一段と深くなり、あらんかぎりの力
で浩二にしがみついて嬌声を放っている。一度、中断された浩二は、まだ昇り詰めるところまで達していないらしく、夢中でそうなろうと躍
動させている。壮絶な男と女の絡みが目前に展開していた。

先ほど妻が見せた昇り詰める男の一瞬をとらえて牽制をかけるという、あのテクニックを妻は一体どこで覚えたのだろうか。昔、娼婦が
このテクニックを使って男の気のいくのを延ばし、より長い快感を男に持続させて人気を得たという話を聴いたことがあるが、経験したこ
ともないし見たこともなかった。まさかそれを自分の妻が識っているなど考えも及ばない。先ほどの妻の掌の動きは、まるで熟練された者
のみが持つ自然な動きだった。あれほどまでに落ちついて、男のインサートの一瞬前を巧みに牽制できということは、今までに何度もこの
手法を使っていたということになる。現に浩二も、また……と言ったではないか。

惣太郎の胸の中に、どろどろとした疑惑が渦巻はじめた。いま、もう目前で、男のすべてを呑みとりながら、喜悦の快感に身を焦がし
ている自分の妻が、もう自分から遠く離れてしまった他人のように思われた。
  1. 2014/12/03(水) 08:22:55|
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花 濫 第9章凌辱の期待

惣太郎が妻に抱いた疑念は、それからしばらく彼の脳裏に重く渦巻き続けていた。
静謐で純朴だった妻が、娼婦のテクニックを覚えていたという衝撃は、惣太郎にとって衝撃だった。一体誰が妻にそれを教えたのか。
浩二がそんなテクニックを識っているはずはない。偶然二人が性愛の最中に覚えたということも最初は考えた。そう思えばこの問題は自
分の考え過ぎだと一笑に付せることができるし、案外そんな単純なことかも知れなかった。

しかし、惣太郎の心に巣食ったこの疑念をより大きくしたのは、妻自身の口からだった。
この静かな住宅街に、最近土地の高騰からアパートが増え、なかでも惣太郎の家の、すぐ近所に出来たアパートが、外人留学生のために
国がつくるアパートが完成するまでの半年の間、仮の外人留学生専用アパートとして二軒が国から貸し切られた。二軒とも男子留学生専用
だった。そのことが夫婦の話題になった。夜道でアジア系の留学生らしい青年から声をかけられた近所の娘の話などを妻がした。

「一丁目のある奥さんなんか、バンコクからきている青年と出来ちゃって、毎日ご主人の留守に自分の家に引き入れて大変だっていうし、
向こうの角の……ほら、よくピアノが聞こえてくる家の短大に行っている娘さんは、オランダの留学生とできて、自分の部屋で寝ているところを
お父さんに見つかって、大騒動になっているんですって。ねえ……どうして、外人の男と寝た日本の女の人は、二度と日本の男の人とは駄目
になるの?」寝物語だった。

「誰がそんなことを言ったんだ? 浩二かい?」
「あら、浩二さんがそんなことを言う訳ないじゃないの……」
「じゃ……誰だ」
「向かいの奥さんが、バンコックの青年と出来た一丁目の奥さんはもうご主人とは駄目だっていうの。どうしてですかって聴いたら、そういった
の」

妻の返事は妙に惣太郎の心に引っかかった。ぎこちなく慌てた言い方が気になった。さらに続いてでた妻の言葉が完全に惣太郎を慌てさせた。
「それは西洋人の男の人のことでしょう? アジアの人はそんなことはないわね。だって日本人と少しも変わらないんですものね」
妻の顔に何か屈託がうかがわれた。妻自身が、心の中にこの問題に対する恐れがひそんでいるように思えた。世慣れていない妻は、よく自分を
騙す気で言ったことが、かえって妻の心の襞を露にしているということがあるが、今回もそんな予感がした。

「お前も、誰かアジアの若者と寝たのか?」
「ばかね。あたしがそんなことになったら、あなたに黙っているはずないじゃない」
「だって、お前がいつか下宿させないか、といってきたフィリッピンの青年にお茶を飲ませてやったら、とってもいい青年だったって言ってたじ
ゃないか。買い物の帰りに中国の青年に声をかけられたとも言っていたな? ほら、いつか、あたしって、アジア系の男の人にしか魅力ないの
かしらって、お前自身が言ってたじゃないか。だからお前がその気になれば、相手は何人もいるだろう」

「あら、それは向こうが勝手にそう思い込んでいるだけよ。あたしは今で大万足なの」
「そんなにお前に気のある男がいるのか?」
「あたしが買い物から荷物を抱えて帰ってくると、あそこの坂道のあたりでアパートの窓からそれを見つけてきっと荷物を持ちましょうと走ってく
るフィリッピンの学生がいるの。洗濯を干していても話にくるの。とっても日本語が上手なのよ。フィリッピンの大学を出た航空エンジニアで、
帰国すると軍隊の航空研究所に入るんですって。日本人よりスマートで清潔よ。それからタイの男の子もよく声をかけてくるわ」

「させたいと思ったことはないの?」
「そうね、正直にいうとあんまり欲しそうにされると、ふらっと思うことはあるのよ。でも、いざとなると、とうていそんなことは出来ないわ」
「さあどうかな。本当にせっぱ詰まると躰を開いてしまうのじゃないかな。所詮は女なんだから」
「大丈夫よ、布団を干しているとき来て抱き締められかけたことがあるけど、ちゃんと躱したわ。あなたに隠れてなんか絶対ないし、いまのと
ころ浩二さんだけで充分です。いまはいないけど……」

浩二はその頃半年の予定でロンドンに出張していた。田宮も偶然だがアメリカに一時帰国していて、冴子は孤閨をかこっていた。ここのところ性
に対してにわかに開眼した冴子にとって、突然の男日照りは相当な苦痛であることは惣太郎にもわかっていたが、それをおぎなうほどの力は彼
には残されていなかった。

「浩二もいいが、あんまり片意地張って損をしても知らないぜ。お前がいい青年だと思ったら遠慮なくやってもいいんだぜ。そのかわり後で俺
に正直に話すのは前にも言ったとおり条件だよ」
重ねて言うと妻は率直に頷いてから、惣太郎をじっと見つめて笑った。

惣太郎の悪魔が囁いた。
そうだ、あの連中は日本に滞在する時間は限られていて、やがて遠い母国に帰っていく。それに我が家の近くに入るのは三ヶ月だけだ。考えて
みれば、世間的にも全く絆もない。
その上、選ばれて留学して来ただけに、躯も健全だし頭も良い。

そして異国での生活で女性との接触もほとんどない。きっと性的な欲求不満は健全なだけに限界に違いない。
妻に与えるには、これ以上最適な男はいないだろう。
しかし、その時は惣太郎も自分の妻だけは、若い浩二とのことあり、まあ空想の世界だろうとたかを括っていた。

惣太郎夫婦の推測がいかに甘いものであったかを、それから後になっていやというほど知らされたのであった。
妻の言う‘大丈夫’は、そのあと十日も過ぎないうちに脆くも崩れるときがやってきた。そして結局は、近所の女の誰よりも、激しい爛れるよ
うな愛欲の淵に、妻はその女盛りの躰を沈めることになったのだった。

惣太郎の妻がはじめて女の受難を迎えたのは、以外な時に意外な男によってその幕が開かれたのであった。
十一月半ばの肌寒い夕方だった。惣太郎が千葉の大学に二日間集中講義に行って帰宅すると、冴子が主人の帰宅を待っていたように声をひ
そめて惣太郎に話しかけてきた。惣太郎は何か妻の尋常ではない気配につい引き込まれて、その囁くような声に聴き耳を建てたのだった。
「ねえ、昨夜部屋に入ってきたのよ、留学生が」

「部屋って、お前のところへかい」
「ええ、それも十二時過ぎ。あたしがひと寝入りして夜中に目を醒ましたの。やっぱり何か気配がしていたのね。そしたら真っ暗い中でなかに黒
い男の陰が、あたしの布団と一メートルつ離れていないところであぐらをかいてじっと見ているじゃないですか。あたしびっくりして………」
「それで、どうした?」

惣太郎は思わず妻の肩をつかんで訊いた。
「あたし恐いから寝たふりをして震えていたの、そしたらしばらくしてむっくり立って出て行ったわよく判らなかったけどラサールさんらしいかった
わ。……たしかにラサールさんだったわ」

ラサール!。惣太郎はシンガポール出身の、妻に早くから劣情を抱いていたあの野生的と言うのか、視線のきつい精悍な若い男を思い出した。
それは先日、惣太郎の研究室に出入りしている中国からの留学生が、このアパアートにいるのが判って、彼は台湾の裕福な家庭の長男だったが、
なかには貧困生活を送っている留学生もいると聞き、腹いっぱい飯を食わせてやろうと、この中国からの劉という学生に仲のいい友達を誘ってこ
させたとき一緒に来た一人だった。
その翌日、ラサールが一人で遊びに来た。炬燵の上に酒肴を載せ、その時はどうした訳か惣太郎と冴子が差し向かいになり、ラサールが二人の
間に座ったのだった。

ラサールはたしか二五歳になったばかりの青年で、シンガポールの大きなホテルの社長の息子だといっていた。父親がイギリス人で母親が中国人
というとおり、彫りの深い容貌と屈強な躰付きは父親ゆずりで、黒髪とアジア人特有の黄色い肌は母親ゆずりらしい。日本にきて何がつらいと言っ
ても、女友達がないのが一番辛いと言っていた。シンガポールでは結構大勢の女と交渉があったらしいが、日本の女の人は特に魅力的だが、一
人も恋人になってくれる人がいないと、酔いが回るに連れてそれを繰り返していた。

かなり酒が進んでから、惣太郎は妙なことに気付いた彼が炬燵の中で冴子の掌を握っているらしいのである。
それは妻の照れ臭そうな表情と、ラサールの興奮しきった表情からも容易に判ることだった。惣太郎はわざと酔った振りをして彼等を安心させ、
その成りゆきを娯しんだ。隣り合った彼等の片方ずつの掌は絶対に炬燵の上には上がってこない。そして残った片方の掌不自由そうに酒を飲ん
だり、給仕をしたりしている。惣太郎に命じられて冴子が台所に立つまで、かなりの長い時間それは続いた。

ラサールが帰ってから
「おい、掌を握っていたね」
 惣太郎が妻に訊くと、
「判ったでしょう。判ると思っていたのよ。ラサールって若い割に割合図々しいことやるのね。それともあちらでは、平気なのかしら」
「掌だけかい」
「ううん。最初はあたしの膝を撫でていたの。いい加減にしなさいというようにその掌を払いのけようとしたらその掌をつかまれてしまったの。外国
の人はレディーファーストだなんて言っているけど、それはヨーロッパやアメリカ人だけの話しなのね」

それはお前が魅力的だからだ、と惣太郎は言いたかった。そして妻の魅力は、東洋的なぽっちゃりとした美貌と躰全体から発散する爛熟した女
の美しさである。その上に、妻はいくらつんと澄まして見せても、男からみると容易に近づき安い独特のある暖かさを持っているのだった。
「お前まさか、その掌を握り返さなかっただろうね」

祖太郎が言うと、冴子はけろりとした表情で
「あら、握り返したわよ。いつまでも放してくれないから、こちらから握り締めて放してもらったのよ」
「おいおい、女が握り返すってことは、あなたの思うままになりますと言う、承諾のサインなんだぞ」
「あら、そうなの。困ったわね、ほんとうにそうとっていたら」
「本当だよ。奴は本気でお前に求愛したんだよ。今ごろ有頂天になってお前の躰をものにすることを考えているよ」
「そういえば変なことをしていたわ。あたしの掌を掻くようなことをしたり、小指の尖りをなぶってみたり、おかしなことをする人だわと思ったのよ」
「それが求愛のサインなんだよ。どうする。躰をいただきにくるよ彼はきっと……」
「知らない。知らないわあたし」
「でも、奴は本気だぜ。いつかはお前は襲われるよ」
「明日からは、絶対に彼を近づけないから………。それに浩二さんが帰ってえるし」

「浩二の帰ってくるのは三月後だし、そのころになれば彼等だって、新しいアパートが出来てここからいなくなる。問題は今のことなんだ」
ラサールは明日にでもここにくるだろうと思った。彼だけではない、故国から一人やってきて愛に飢え性に飢えているあの若い獣のような彼等に妻
を晒して置くには妻は美しすぎると惣太郎は思った。そうだこの女盛りの熟れ切った躰がいけないのだ。田宮や浩二に開発されて、いま爛熟の女の
が燃え盛っているこの肉体が、自然に他の男をも吸引するのだ。妻のふくよか過ぎる乳房も、豊かな腰もどんなに彼等のやり場のない欲情を煽り立
てていることか。

「ねえお前」惣太郎は、そのむっちりとした妻の乳房を揉みながら言った。
「………なあに」
冴子の声が甘く潤んでいた。
「ラサール一だけじゃ済みそうもないね。チェンもお前の躰をねらっているし、タイのなんっていったっけ……」
「ヴエンシー?」

冴子のぱっちりとした瞳が、くるっとした感じでいたずらそうに問いかけてくる。
ラサールよりもチェンの方が、むしろお前に執心が強かったのじゃないか」
「ええ、でも昼間だと何とか防げるのよ」
「これも時間の問題だね」
「いやだわ。時間の問題だなんて、まるであたしがそうされるのを待っているみたい」
妻が真剣な表情で問いかけてきた。
「いいじゃないか。アジアの青年達は、きっと性的にも魅力あるし、選ばれてきているだけに、病気や後のわずらわしい問題もない。ラサールやチェ
ンなんか、ヨガのベテランだというから、一体どんな性的エネルギーを秘めているか、またテクニックだってに日本の男では味わえないすごいものを
持っていると思うよ」

冴子は一瞬、はっ、としたように夫の顔を見て息を呑んだ。
「そんな、あなたはそんな……あたしはいやよ。そんなに大勢の男の人とだなんて。………あたしはいやよ。ねえいや」
いや、いやと言いながら、手と足を夫に絡めて激しく抱き縋っていった。それは異様なと思えるほどの、興奮ぶりだった。
しばらくして興奮が醒めてから、冴子は夫にしみじみと言った。
「田宮さんも浩二さんも、今度のことも、あたしがみんないけなかったんだわ。あたしがみんなにあんまり親切にし過ぎたから」
「いいんだよ。お前にそれがいいところなんだ」

「本当にそう思って許してくださる?」
「もうとっくに許しているじゃないか。こちらからも頼んでもいるし」
「あなたっていい人………でもチェンやタイの劉さんのことは少し考えさせて。今はあたしラサールにされる不安で一杯なんだから」
「ラサールにやらせる期待もあるんだろう。あんなに若く頑強な男にされるんだから」
「あら、期待なんて………不安だけ。どうされるかという不安だけよ」
妻は心配そうな表情で寂しそうに笑った。しかし、その目の底に惣太郎は、成熟した女の逞しい淫蕩の光を見たと思った。
 
次の週、千葉の集中講義が済むと、惣太郎は急いで電車に乗った。
妻に内緒で、ラサールを言語を調べたいからと、大学の近所の喫茶店に呼び出し、ついでにバーに誘った。
「君はシンガポールで、相当女あそびをしたらしいね」
「いいえ。ぼくは女遊びはしていません」
「しかし、この間君は、女がいなくて寂しいと言っていたではないか」

「ええ、せっかくの訓練が駄目になると思ったのです。シンガポールの一部の華僑の家では、男の子が青年になる前に、ヨガを習わせま
す。それは躰と心の訓練と、もうひとつ……これは公然の秘密ですが……性教育としてのヨガの訓練があるのです。華僑の金持ちの家の
男は妻の他に数人の女を秘密に持ちます。この女達を性的に満足させるには、特殊な訓練を積んで置かなければ出来ません」
「それが日本では出来ないというんだね」
「やはり習慣と継続しして鍛えなければ、駄目になりますが、日本では相手がおりません。売春組織もありますが、病気を恐れてそれは厳に
禁止されております。だから相手がおりません。それに、やはり女の人はかわいいし、そういう愛する人がいないというのは寂しいですね」

「君は私の妻をどう思うね」
「日本にきてはじめて、すばらしい女に出会ったと思います。美しいし魅力的です」
「もし私が妻と君が関係を持っていいといったらどうする……」
「本当なら、喜んで奥さんをいただきます。………だけどお金は払えません」
「そんな意味で言ったのではない。わたしはもし妻がいいと言うのなら、君ならば貸してあげてもいいといったまでだ」 
「本当ですか?」
「もし君が約束を守れるなら」
「どんな約束ですか」
「一つは、君と今夜話したことは妻にも誰にもいっさい内緒であること。つぎに妻を暴力で犯さず、納得の上でする事。最後に、妻との関
係は、あのアパートが存在する三月以内であって、その後は絶対に近づかない。……これが守れるかい?」
「絶対に守りますから、やらせてください。奥さんは自信を持って納得させます」

千葉にいる間中、もしかするとラサールは昨夜来なかったかも知れないと思ったりもした。自分で妻を唆し、ラサールを唆して、そのお膳
立てをしておきながら、是非そうであれと祈るような気持ちになったりもした。

しかし、あれほど目を輝かせて妻との情交を望んでいたらラサールが、来ない筈がなかった。そうすれば昨夜妻はまちがいなくラサールに
襲われている。襲われれてしまえば、自分も納得の上だし、それにラサールのヨガで鍛えたテクニックがどれほどのものか知らないが、いず
れにしても冴子にとっては、生まれてはじめてのテクニシャンとの交わりであるから、完全に溺れきるに違いない。

もしかするとラサールは昼間の内にやって来たかも知れない。ラサールにも、自分の家を出る時間も帰宅時間も知らせてある。そうなれば
二人の情事は誰はばかることなく遂行されてしまったに違いない。そしてラサールは、日本人の女として、今が女の甘味の絶頂といってもい
い妻の熟れ切った躰を心行くまで味わったのだろうか。妻もラサールの英国と中国の血の混ざった屈強な体を、そして日本人にはない巨大な
陰茎を無事呑み込んだのだろうか。


二人の情事を正確に識るため、惣太郎はリビングと妻の部屋にマイクを仕掛けてきた。普通のテープレコーダーでは時間が短いので、学校
にある二十四時間の長期録音の出来る機械を借りてセットしてある。昨日の夕方五時からテープが回るようにセットしてきたが、もしラサールが
朝から来ておれば、最初は採れていないことになるし、最後も危ない。

妻の白い裸身がラサールの汚辱にまみれて、のたうちまわる有り様を何度も想像しては、ホテルで酒ばかり呑んでいた。電話に何度も手が延び
かけたが、あえてそれを止めた。
こうして想像し期待することに意義があるような気がしたからだ。

いままで妻が犯されることを渇望していた惣太郎だが、いざそれが現実のものになると惣太郎の心はにわかに狼狽え慌てるのだった。いままで
味わったことのない巨根を入れられ、それに神秘のヨガで鍛えたテクニックで責められた妻は無事だろうか。妻がいつか言っていたように、そんな
高度の性技を味わった妻はもう日本の男に興味を失うのだろうか。そう思うと妻のふくよかな肉置きや、小気味よく伸びた胴が、逞しい腰の広が
りがまたと得難い至高の宝のように思われてくるのだった。

しかし、その胸を締め付けるような悲痛な思いとは裏腹に、またしても尾てい骨から腰椎にかけて、ぞくぞくするような、この妖しい悦びは一体
なんなのだろうか。自分はこの異様な悦びのために、あの傍若無人な東洋の混血の若者に妻を与えたのだろうか。惣太郎は千葉から東京への電
車の中で、灼けるような嫉妬と期待と不安でどうすることもできなかった。
  1. 2014/12/03(水) 08:25:01|
  2. 花濫・夢想原人
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花 濫 第9章凌辱の期待2

家に着き、玄関の扉をあけた。
物音を聴いて迎えに出た妻の様子を一瞥して、惣太郎は息を呑む思いをした。
女とは一夜のうちにこんなに変わるのかと思った。茄子紺の結城紬に白地に桔梗の模様の入った真綿紬の帯を締めているが、着物の衿が乱
れているし、帯もゆるんでいる。裾も乱れ赤い帯締めもゆがんでいる。いつもきっちりと着ないと気の済まない妻とも思えない乱れようである。
 
しかし、その乱れ姿は、落魄した印象ではなく、いかにも妖艶で発情の精臭が匂いたっているようななまめかしさである。顔を伏せたままだが、
後ろでまとめた髪が乱れて、額から頬に垂れている。表情は見えないが憔悴し切っている様子が伺えた。
「お帰りなさい」
口の中で呟くように言ったまま妻は顔をあげなかった。しかし顔は俯向いていても首筋まで真赫にしているのが判った。
 
こんなに羞恥のこもった妻の姿態を見るのは新婚の初夜以来である。これが二十七歳になって三人の男を識っている女かと思うほど、妻の羞
恥は新鮮で初々しかった。惣太郎はすべてを了解した。
「おい、ラサールが来たんだね」
というと、冴子はなおも夫の顔を見ないよういにして、こくりと頷いた。そして、
「いや!」
と叫ぶようにいうと、夫に背を向けて部屋の中に走り込んだ。しかしちゃんと心得ていて、玄関からいちばん遠い自分の部屋に飛び込んで行っ
た。惣太郎が追いかけて入っていくと、部屋の隅に妻は背を向けてうなだれて坐っている。俯向いた細い襟足や肩の辺りにげっそりと窶れが見
えるようだった。

「顔をみちゃいや、お願い顔を見ないで」
そう言って必死に顔をそけようとする妻の頬を、惣太郎は両手ではさんで強引に仰向かせると、激しく噛み付くような接吻をした。咽喉の奥で
呻きながら力なく夫の接吻を受けた冴子は、やがてぐったりと夫の腕の中で顔をう仰向けてしまった。
それは惣太郎がはじめて見る妻の顔だった。惣太郎は驚きを隠すことが出来なかった。化粧を施していたが、化粧では隠しきれない荒淫の
後が痛ましかった。

眼の縁が黒ずんで下瞼にはっきりと隈をつくっていたし、頬にも型のいい額にも疲労の後が哀れだった。
いつもきらきらしている黒い瞳がとろんと潤んでいて、白眼にはまだうっすらとピンクの色が残っていた。それは激しい疲労と睡眠不足の証なの
だろうが、、どうしたことか頬を真っ赤に上気させ、とろんと眼を潤ませているのは何を物語っているのだろうか。惣太郎は尋常ではない妻の様子にあっけにとられ
ていた。
 
まるで妖術にでもかけられて、その憑きものが今なお落ちていないような妻の呆然とも朦朧ともとれる様子を見ていると、一体妻はどんな凶暴
な性の餌食にされたのだろうか。しかし、妻の尋常でない表情には、恐怖とか驚愕を体験した後の緊張感はない。眼の潤みや上気した頬の様子は、明らかに徹底し
た快楽に翻弄され続けた跡の、余韻のくすぶりの中にいるということを証明している。

突然惣太郎の身内を駆け回る凶暴な血と、けねげにもそれをやりとげた妻へのいいようのないいとしさとで、彼はいきなり妻の体を畳の上に
押し倒すと、その弛緩してぽってりと骨を抜かれたような女体に覆いかぶさって抱き締めた。

「ラサールとしたんだね。してくれたんだね」
「したわ………あたしもう滅茶苦茶よ」
「何度もしたのかい」
 
冴子はじっと夫の見詰めたまま二、三度頷いて、
「一度がとてもとても長いの、それに何度も何度もよ…………あたしもう駄目、ラサールの悪魔のようなテクニックにすっかり溺れてしまったわ。
何度も失神しては目覚めてまたしたわ。あたし汚れてしまったの」

冴子の充血した眼にみる見る涙があふれて、それは幾筋も眼尻に流れていった。唇も悲しげに震えて、
「中が破れるかと思うほど大きくて、体の奥深くまで達するほど長いの。それに、一体どうなっているのか、する度にものすごい快感が押し寄
せてきて、あたしもう殺されると思ったわ。それがあんなに何度も何度もされて、最後には気絶してしまったわ。それで終わりかと思ったら、気が
つくとまたしてくるの。もう勘弁してと言いながら、不思議にまたあたしも感じてくるのよ。きっと色情狂になってしまったと思ったわ」
「そんなに奴は凄かったのかい」

「激しいとか凄いとか言うのじゃないの………入れられただけで思わず泣き叫んでしまうくらい感じるの……あんな人が本当にいるのね」
「どれ、今の内に見せてご覧、お前がそんなに感じたところを」

着物の裾を割って太腿の間に手を入れると、冴子は腰を振って必死に拒むようにするのだった。
「おい、どうした」
一昨夜までは、浩二との後でも拒まなかったのに、
「………駄目、今駄目、ね、お願い、今はやめて」
「いいんだよ………おれは見てやりたいんだ」
妻の諦めたようなほっと息を抜くような囁きが耳をくすぐった。
 「なんだか、いつもと違うような気がするの。とても大きなのが、昨夜から今先までずっと入っていたでしょう………まだ開いているような
気がするので恥ずかしくて………」

「えっ、彼は今先までいたのか……じゃラサールのがまだ残ってそのままだって言うのかい?」
妻はゆっくり頷くと、
「お風呂にもまだ入っていないんですもの……あとで、あとどんなにでもされましから、いまはそっとしておいて、お願い」
「お前、ラサールが、そんなによかったのかい?」
「そんなじゃないの。そんなんじゃなくって……あ、あ」

惣太郎は無理矢理に妻の躰を押さえつけると裾を捲りあげた。二本の象牙のように白く輝く白い太腿は、やや湿り気を帯びてはいたが別に変わ
ったところはない。捲るにつれて奥の方からかって嗅いだことのないほどの濃い性臭が漂ってきた。
「ここにまだラサールのが入っているんだな」
「………入ってるわ………いっぱい入ってるわ、あたしどうしよう……」
「なにをそんなに興奮しているんだ。浩二のだって田宮のだって………ラサールだけは違うとでも言うのか」
「ちがうわよ……ものすごく多いの……無茶苦茶多いのよ」
「よし、見てやる、さあ、見せるんだ」
「昨日から、ぜんぜん洗ってないのよ……ねえ、驚くから、きっと驚くから」

冴子は諦めたように全身の硬直を解いた。もう拒まないという放棄の姿勢だった。
深紅の腰巻きを更に捲りあげるとぴっちりと肌を包んだ真っ白い絹のスキャンティーが現れたが、一瞬惣太郎は我が眼を疑った。白いなかに
点々と小さなバラの花を散りばめたような紅い染みがあった。急いで股を開かせると、スキャンティーの丁度谷間をつくっている箇所にべっとり
と五、六センチほどの長さに血の滲んでいる跡があった。

「生理じゃないだろう? 冴子、お前こんなにされて………」
「だから驚くといったでしょう……でももう大丈夫よ、もう痛みもないし、癒っているから……ほとんど子宮から出たらしいの」
「もういいでしょう、あたしお風呂に入ってきれいにしたいの。……ねえ、今夜抱いて、お願い」
そういって部屋を出て行きざま、冴子は夫を振り返って淋しげに笑った。

その夜、惣太郎と冴子の閨の営みは、いままでにない激しいものとなった。何よりも惣太郎は自分の妻が、現実にラサールという異人の男
を体験したという実感が、興奮を掻きたて、妻の冴子は、まだほとぼりの覚めないラサールの実感が夫の愛撫によって再び燃え上がり、ふた
りはそれぞれの思惑が興奮の坩堝を溶かし込んでしまたようだった。
それはいつものような差し回した前戯や手管などはもう必要としなかった。ふたりは唸り、呻きながらまるで憎しみ合うように凶暴に奪い合い
求め合って、悶絶するまで貫き貫かれ続けていた。

冴子が惣太郎にラサールとの情事をぽつりぽつりと語りはじめたのは、次の晩からだった。
翌日の授業を風邪を引いたからと休講にし、妻の冴子には急ぎの原稿があるからといって書斎に閉じ込もり、惣太郎はセットしておいたテー
プにイヤホンをつけて朝から聴き入った。
学校から借りてきたテープレコーダーは、何しろ二四時間も録音できる装置だから、カッセットではなくオープンリールの大きな機械である。
これを自分の書斎の押入に置き、マイクのコードを書斎の外の廊下から、妻の部屋に延ばしていた。コードを隠すのに苦労したが、高性能の
 
マイクは妻の部屋の中ならば、どんな微細な音も逃しはしないし、近くのリビングの音もうまくすれば拾うはずだった。
期待に胸を膨らませて惣太郎はレコーダーのスイッチを入れた。すると、いきなり冴子のすすり泣くような声が耳に飛び込んできた。惣太郎
の胸の動悸が思わず高くなった。しかし、その声はさまざまな雑音に混じって余り明瞭な音声ではない。冴子の部屋の小さな置時計が秒を刻
む音が、大きな時計のように大きく明瞭には入っているところを見ると、妻がすすり泣いているのは彼女の和室ではなくリビングらしい。テー
プは自動的にあの日の夕方五時から作動しているのだから、ラサールの訪問は五時より前だったに違いない。

なんといってもラサールと冴子は初交である。やってきてすぐそんなことが出来るわけではない。お茶でも出し話をしている内にそうなったか、
あるいは食事の後かも知れない。しかい、食事にしては時間が早すぎる。五時といえば、まだ夕暮れの薄闇が漂いはじめたばかりである。
惣太郎には、その時間になると見えるリビングの窓の外の茜の空をバックにした梢の様子や、もう暗くなった部屋の隅の電気ポットの使用中を
知らせる赤い小さな光や、テーブルに置かれたシクラメンの赤い花のかげろいまでが正確に思い浮かべられる。そんな光景の中でふたりは一体
何をしていたのだろうか。

「ラサールは何時頃来たんだい?」
「三時頃だったかしら、あたしがそこのストアにお買い物に行って帰ってすぐだったわ」
「それからすぐはじまったのかい?」
「まさか、犬じゃありませんわ。お茶を飲んでお話をしていたの、彼のお国のことや彼のお国での家族のこと、いろいろ話してくれたわ。彼の
家ってとても大きいんですって、お部屋だけでも一五もあるそうよ。とても恵まれた家庭の長男らしいわよ」
「どんなきっかけからはじまったんだ?」
 
「ヨガのお話からよ。ヨガのマッサージがたいへん楽になるからって、肩を揉んでくれたの」
「肩の次が躰になってとうとうっていう訳か、それは何時頃だったんだ」
「四時頃かしら…………ねえ、どうして刑事みたいに、そんなに細かく聴くの?」
「お前と一緒になって、お前の体験を識りたいからさ。できるだけ話してご覧」
「あたしそんなに正確には覚えていないわ。せっかく用意した食事もつくらず、結局も昨日朝までしなかったんですもの」
「飲まず食わずでやたというのか」
「ううん、お酒とつまみはあったわ」
妻の話に偽りはない様子である。一日かかって聴いたテープの内容に合わせて聴いて行けば、惣太郎自身がその場に居合わせたように正
確に微細に妻とラサールの情事が判るのである。
  1. 2014/12/03(水) 08:27:13|
  2. 花濫・夢想原人
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花 濫 第9章凌辱の期待3

「そのマッサージが大変だったの。はじめ肩を揉んでくれていたのだけど、思わず声が出そうなほどとても気持ちがいいの。そのうちに、脊椎
が少し曲がっているから矯正してあげると言って………」

「裸にされたんだな……、一昨日も着物だったのか」
「ええ、裸にはならなかったけど、長襦袢だけにされたの」
「それはリビングでかい?」
「横にならなければならないからって、あたしの部屋に行ったの……」   
 
テープの最初に聴こえた妻のすすり泣きはリビングからであった。話を信じると、妻はラサールがまだ着衣のままマッサージをしていたリビングです
でに発情を開始していたことになる。

廊下を躙む大きな足音がして、次に襖が開き二人が妻の部屋にはいてきたのはマイクが鮮明にとらえている。足音は一つだけだったから、きっと妻
はラサールに抱かれてきたのだろう。

「………布団を敷いてください。畳では膝が擦れて痛いですから……」
ラサールの意外に流暢な日本語が大きく,入っていた。妻の言葉は聴こえなかった。

「着物を脱いでください」
とラサールが言ったときだけ、
「そうしますから、あちらの部屋で待っててね」
いやに柔らで優しい妻の声が聴こえたが、それは既に発情のきざしを思わせる鼻にかかった声だった。

「敷き布団だけ敷いて………。最初はうつ伏せにされて、全身の力を抜けっていうからそうすると、胸と両足に太腿の下に手を入れて思いきり反らさ
れたの。信じられないくらい躰が後ろに反り返って背中の骨が、ぼりぼりと音を立てて鳴ったの、あたし思わず悲鳴をあげちゃったわ。………そした
ら今度は股関節を矯正するって、いきなり両足頸を掴んで思い切り開かせられたの……」
 

惣太郎はテープと妻の話から、ラサールと妻の情事は大体次のように進行したと確信した。

全身の力を抜かなければ骨が折れるかも知れないと、何度もラサールに言われながら、一瞬ではあるが、激しい力で、全身が左右上下に曲げられ折られて、
そのたびに信じられないほどの大きさで骨が鳴った。痛みはなく、終わってしばらくすると、冴子の全身が生き返ったように壮快になってきたのは事実である。
そういう意味でラサールのヨガは、相当修練を積んだ本物であると信じてよかった。 激しい矯正の後、矯正の効果をいっそう高めるためめだと、横たえた妻に
ラサールは優しいマッサージを施した。

冴子はかって田宮から、この種のマッサージを受けたことがあったが、ラサールのは、田宮とは比較も出来ないほどの腕前だった。ゆっくりと全身をラサール
の女と紛うほどの細く長い指が匍いまわっているうちに、冴子は媚薬でも嚥まされたようにいつしか恍惚状態になってしまった。気が付いた時には、すでに長
襦袢は脱がされ一糸まとわぬ素裸にされて、股間にラサールの愛撫を受けていた。

「それが違うのよ……」
「ラサールの触りかたかい? どう違ったんだ」
「いえない………いえないわ」

冴子は夫の肩に必死につかまりながらその顔をこすりつけて夫の胸の中に隠そうとするのだった。惣太郎は妻の顔を両手で挟むと自分の顔の下に引き据え
るようにして、
「冴子、いうんだ、そのためにラサールとさせたんじゃないか、みんな言ってご覧」
冴子は真赧に上気した頬と、うるんだ瞳が童女のようにかわいいと惣太郎には思えた。
「ええ、いうわ……みんな、いうわ」
冴子がごくっと唾を嚥み込むようにして、

「男の人の舌って、大体大きいでしょう、ラサールは一体どんな訓練を受けたのか、その舌を細い筆先のように丸めてしまうことが出来るらしいのよ。それで
ひだひだの隙間から、あそこまで丹念に舐め回すの。なにしろ接点が小さいでしょ、思わない襞の奥や………ほら………あそこなんてたいがい、一度に触ら
れるのに、彼のは下の方から先っちょまで順々に舐あげてくるの、もうかっとなってなにがなんだ判らなくなってしまったわ」

「それで達したのか」
「何度も何度も………余り流れ出るので、もうお布団までびっしょり………。舌だけであんなになるなんて信じられないわ」
たしかにテープに刻まれた妻の声は、もうその頃から嗚咽ではなく完全な嬌声に変わっていた。

「それから入れられたんだな」
「そうじゃないの。ラサールが最初ぜんぶ脱いで裸になって、またあそこを舐なめながら、躰を回して自分のものを、あたしの顔にもってきたの。驚いたわ…
……絶対に入らないと思ったの、それほど彼のって大きいのよ。お口に入らないくらいだもの。あたしのここくらいあったわ………」

冴子は自分の手首を夫に示して言った。冴子が識っている日本の男性のものとは違っていた。あらわな静脈が浮き出し、古褐色のものを見慣れた冴子には、
ラサールのそれが、逞しさの象徴のような焦げ茶色と、途方もない太さと、静脈を表面に浮かさない硬質の皮で、特に亀頭のえらの張りと盛り上がりが、野
生の若雄の動物のような壮絶さに見えたという。

「だから出血したんだな。堅さはどうだった」
「かちかち………、もう人間のじゃないみたい。特にあれの後ろ側には中心から左右に太く筋肉のようなものが盛り上がってるの」

冴子はラサールの巨根を見て狼狽えた。反り返って屹立したそれは、毛の多いラサールの臍まで達している。ラサールに手を添えられてそれを掴まされた時
も、ラサールの下腹にくっつくほどの漲りで勃起している巨根は、押し下げるの冴子の細腕では容易ではない。このたけりくるったものが自分に入ったらきっ
と破れてしまうに違いないと冴子はまず恐怖に襲われた。

ラサールが、自分の掌を濡らしている冴子の淫水で、おのれの男根をしごき立てた。中腰になって冴子にあてがて、ゆっくりと押し進めてきた時、冴子は恐
怖にひきつった声で、
「やめて! こわれてしまう」
と叫んでいる。

「楽にして下さい奥さん……。心配入りません」
ラサールの興奮を抑えた猫撫で声が聴こえた直後、ひいっ、いう冴子の悲鳴が聴こえた。
「まるで、すりこぎでえぐられたような痛さだったわ。裂けてしまうと思ったわ、ラサールも無茶をしているわけではなかったの。ゆっくりと時間を掛けて、じ
わじわと入れてくるんだけど、その痛さったらないの」

「それでも彼奴は止めなかったんだね」
「ええ、思わず、裂けるって、何度も何度も叫んだのに……。でも彼は止めてくれなかったわ………、元まで入った時は、子宮がつぶれると思ったし、子宮
からあそこの全部が張り裂けるような痛みに襲われて、力いっぱいラサールの躰を突き除けようとしたわ。でもあの大きな躰でしょ、あたしの力ではびくとも
動かないのよ」

「ひどい奴だ。許せない」
「ラサールが悪いんじゃないわ」
「なんだお前は、ラサールの肩を持つのか」
「そんなんじゃないの、よく聴いて………、躰中いっぱいに押し込められたような彼のが奥まで入ってからは、じっと動かないの。最初は張り裂けるような痛
が全身にあったのが、不思議なことにしだいに変わっていくのよ……いい気持ちに………、そのうち中の彼のが、じっとしたままぴくんぴくんと脈動ていうのか
しら動き始めたの。それが日本の男の人と違って、とても力強いの。腰が上に持ち上げあげられるように感じる程の強さなのよ……あたし、もうそれだけです
っかり感じてしまって、いってしまったわ」

テープに不思議な時があったのは、その時だっったのかと惣太郎は思った。妻の、痛い! 破れる! と喚く声がしだいにおさまってしばらくすると、今度は、
いつのまにか妻は妖しい声をあげはじめた。その声は次第に高くなっていったが、肉と肉がもつれる動きがかもしだす気配もなければ、抽送の音もしない。
ただ妻の声が上がる度に、さっと布団の上をどちらかの肉が滑るかすかな音がするだけで、緊迫した性交の気配は一切感じられないのだった。惣太郎はその
テープを聞きながら、なんとも言えないもどかしさを感じたものだったが、実はそのときが、今妻が告白する状態だったのだろう。


奥深く巨根を沈潜させたまま、それを脈動させるだけで妻は激しく達したというのだから、ラサールの男根が並みのものでないことがよく察しられる。そんな状
態で冴子が何回か達して朦朧としてきたとき、ラサールが抽送を開始した。最初はゆっくりとはじめたらしいが、何しろ膣の中の襞を無理矢理押し広げて挿入
された巨大な陰茎が動くのだから、冴子にとっては強烈な刺激であったに違いない。ラサールに腰を引かれると、女陰ごともがれてしまうような恐怖に駆られ、
を沈められると、胸の方まで突き抜けていくような衝撃が襲った。

痛みは遠の昔に去って、今度はあの痛みに倍する快感が躰中を奔りはじめていた。その快感は浩二や田宮や夫が与えてくれた、甘い陶酔に導かれた快感では
なく、鋭い錐を躰の奥に捻じ込まれでもしているような、大脳の奥まで達するような強烈な刺激の快感だった。テープに録音された冴子の嬌声を聞いて惣太郎
も驚いたのだが、いつも冴子がクライマックスに出す、あ、あっ、あーっ、というような声ではない。

「きゃーっ………あっ……いやっ……あぁーん」
どんな拷問に合わされているのかと紛うほどの絶叫が、息絶え絶えの中で繰り返されて聴こえていた。

「それで、一回目が終わったときに、また驚いちゃたわ。量がものすごいの。子宮が、彼のが出る度に膨れていくのが痛いように判ったもの」
「何回したんだ」
「二度目までは、あたしも意識が割合しっかりしていたの、でもね………」
「三回目の時、失神してしまって、やっと気がついたら、彼のそのまま入ってるの。その後も何回か失神して戻る度にいるのよ。結局朝までそのままにされちゃ
ったの………ずっとそのまま」

「そのままって、なにをそのままに?」
「だから入ったままで………ひとつ躰になったままで、朝を迎えてしまったの」
「なんだ、抜か六をされたんじゃないか、よくよくお前の躰がたまらなかったんだね。それで出血までさせられてしまったんだね」

「出血したのは昨日のお昼なの。だって、彼も何度も何度もいったでしょう。昨日のお昼になったら、いくらしてもいかないから、あたしを上にしたり、立った
まましたり、もう無茶苦茶。二時間以上もし続けたのよ。……そのとき子宮が少し瑕ついたみたい。……だっていくら頼んでも抜いてくれないの、そうしているう
ちに、女って受け身だからいくらでも感じてくるでしょう。もうあたし切なくって悲しくって」

「でもよかったんだろう、堪能したかい」
「今思うとそうかも知れないけど、最中は、このまま悶絶してしまうのではないかと思って恐かったわ」
「でも気は何度も遣ったんだろう」

「………堪忍して、あたしどんなにされても気は遣らない積もりだったのだけど、もう最初から遣り続けよ、いきなり痙攣がきたり失神したりで、昨日の昼間で
き続けって感じにさせられてしまったわ。あたし情けなくって………ラサールが滅法巧い上に長い時間でしょう、どうしようもなかったのよ」
「満足したんだね」
「ラサール?」
「ラサールもお前もさ」

「ラサールはとても満足したようよ、あたしのからだ」
「お前もだね」
「あんなのに馴らされたら、あたし恐いわ。麻薬中毒患者のようにならないかしらと、ちょっぴり心配だけど」
「またラサールとしたいんだろう」

「………ねえ、もう許して、あたしあなたのいうようにしたんだから、もういじめないで」
そいいいながら冴子は、くるっとした眼で、すくい上げるように夫を見ると、
「………あたしね、あなたと一緒になってつくづく幸せだと思ったわ。こんなこと普通の夫婦では絶対に出来ないでしょう。………でも、心配なさらないで、し
てる瞬間は、ラサールの技巧に翻弄させられるけど、やっぱりあなたが最高よ」
とくすりと夫に笑ってみせた。

それから十日ばかりの間に惣太郎は一日置きに外泊した。千葉の大学や東京の学校で深夜になり研究室にある仮眠室に泊まったのだった。勿論そんなに多忙なわ
けではない。冴子は夫が外泊する意図を識ると
「ね、どうして? どうしてそんなに外泊をなさるの………そんなにしてくれなくったっていいのに」
羞らって詰まるようなことをいったが、決して最後まで引き留めることをしなかった。勿論、ラサールはその都度抜け目なく確実に冴子を襲った。
最初の時、あれほどの憔悴をみせた冴子は、二度、三度目からは疲労どころかいかにも自信あり気げな余裕を見せて、明るい笑顔で夫の帰りを迎えるようになっ
た。

外泊しない夜には惣太郎はラサール以外に妻に行為を寄せているラサールと同じシンガポール出身のチェンやタイから来ているヴェンシーを中国の留学生で惣太郎
の学校にでいいりしている劉を招待するついでという名目で夕餉に呼んでいた。妻の冴子がラサールとそういう関係に入っても、冴子はこの他の留学生の面倒もよ
くみた。
意外なことに冴子は中国の劉に好意があるのか、彼に面倒を一番良くみているようであったが、惣太郎のいない夜にラサールが来れなくて、残った三人がやって
きて、風呂に入って帰った時、冴子がチェンの背中を流してやったのだとなにか妖しく上気して報告するようなこともあった。

いずれにしても、このことは後三カ月で仮の寮が閉鎖になり終止符が打たれるという限りがあったから、惣太郎は安心できてことを運んだともいえる。
三月後にも彼らが近くにいるならば、そう易々と妻を与えたりはしなかっただろう。今の妻に短期日の遊びと割り切るだけの余裕はないに違いないが、これもい
ずれ浩二や田宮が帰国
すれば自然に解消するだろうと思っていた。

冴子は夫の外泊が度重なると、
「ね、また外泊なさるの、この前の外泊から二日しか経っていないわ」

「仕事が忙しいんだよ、どうしても今夜中に調べて外国に送らなければならない書類があるんだ」
惣太郎がそのころある研究テーマに取り組んでいるのは事実だったが、それは決して一日を争うほど急を要する仕事ではなかった。
「嘘、あたしに気を遣っていらっしゃるのよ。ラサールにあたしを抱かせようと思って………」

「いいじゃないか。乗りかかった船だよ。今のお前達には一日だってしないでいるのが辛いんじゃないのか」
「……まさか……向こうはそうかも知れないけど、あたしはそれより心配なことがあるの」
妻は顔を染めた。

「ね、初めの話では、一度か二度あたしの躰をラサールに任せたら終わりにする積もりだったのに、あなたにこんなにされるとだんだん深みに入ってしまうわ」
「深みに嵌るのがいやかい」

冴子は夫に羞かしそうに寄り添ってくると、
「ねえ、あたしの躰変わちゃわないかしら、あんな大きいのといつもしていて」
妻の言葉に惣太郎はにじり寄って、妻のスカートを捲り挙げてパンティーをずり下げた。そこには、最近一段と艶を増したぬけるように白い肌に、叢が頼りなげに揺
れていた。

「見て………」
冴子は乱れた夜具に背をあずけ、ゆらゆらと下肢を広げた。惣太郎は指をのばし冴子の柔肉を広げてみる。ここのところの荒淫にも荒れた様子がないのは若さの
せいかと惣太郎は驚く。その珊瑚色は変わりないし、指を差し込んだ膣の狭さにも異常はない。ふるいつきたいほどの内側の粘膜が薄い桜色に湿っている。惣太
郎はゆっくりとそこに唇をつけた。冴子の白い腿が惣太郎の顔を挟みつけてきた。そっと、そしてまたじんわりと締め付けてくる。花芯の核を惣太郎は舌で弄びな
がら指を膣にあてがう。もう濡れはじめている……。妻がはしたなさを捨て手足を大きく開いてきた。

「大丈夫だよ。ちっとも変わってはいないよ。きれいだよ………」
「よかった……だって無茶苦茶にされちゃったって感じでされるのよ……一度入れちゃうと揉むみくちゃにしないと気が済まないんだから………いつもそうなんだ
ら」
「お前の方でも、そうされるのがよくてたまらないんだろう」
「………うん、今は少し馴れたけど、でもやっぱり羞かしくて厭、それにあなたに済まなくて」

「俺のことを考えるのかい」
「考えるわ、いつの時だって………だから切なくってもう止めにしたいと思うの……あんまり深みに嵌らないうちに………でも、二月にはいなくなるのだからって
割り切ることにしたの、それ
までですものね………あなた、それでいいのよね」

四回目のラサールとの一夜を冴子が過ごした翌日の夜だった。いつものように留学生を呼んだ晩餐が終わって、二人がベットに入ったときだった。
いつものように惣太郎が挿入して動きはじめたとき、
「何! これ何?」
喚くような声を上げると冴子は狂ったような悶えぶりを示して、果ては失禁して失神するほどの乱れようだった。性感の受け方が強くなっていたのだ。快感に泣き
喚きのたうち廻る女体を抱き締め押さえつけて惣太郎も巨大な渦の中に吸い込まれていくおうな快感の中に嵌っていた。
 二人はかってない快感の激しさの中に埋没して行った。やっと醒めたのはもう暁方近かった。汗と体液にまみれた躰を寄せ合って、妻は夫の足に自分脚を預け
たままでぽつりと言った。

「ねえ、今までだってあたしたちするとよかったけど、でも、今度のはよさがちがうわ……ね、……どうしてこんなにいいの………ラサールとしたから、あたしがラ
サールとしたからなの?」
「そうだよ、冴子、すばらしい儲け物をしたじゃないかお前がラサールに本当の性を教えてもらったからなんだよ、これは」
「やっぱりそうなのね、……ラサールと寝たのは三晩か四晩だけだったのに……ああ、それがこんなによくなるなんて……思っても見なかったわ」
「三晩か四晩といったって、ひと晩にどれだけするんだい、回数にすれば大変じゃないか」
「ええ、それはそうね、……それにあたし、やっぱりはじめての外国人という感激もあったのね……そこへあの人ものすごいでしょ」
「お前の躰をもっともっとよくしたいな」
妻は含羞んで夫に抱きつきながら言った。

「でも、あたし白人は厭だし、言葉の通じない人も厭よ」
「おれもそうだ。ともかく今の三人で一応外人は卒業だ」
「なによそれ、あの留学生を全部あたしとさせる積もり?」
「そうなってもいいという話だ」
「そんなこと絶対に不可能よ、それに後二月くらいしかないじゃないの」

冴子の白い顔が次第に興奮して朱色に色付くのを惣太郎は見逃さなかった。
女性の性器というものは、これだけの経験をしただけでもその構造まで変化するものなのだろうかと惣太郎は思う。確かに田宮や浩二を識って以来妻の機能は徐
々に増してきたことは疑いもなかったが、妻がラサールと夜を共にするようになってたしか三度目あたりの時だった。素太郎は妻の膣が途中で絶妙な締め方をする
のに気付いた。膣のくびれ方も進入を阻止するかのように急に強力になったのもこの辺りからだった。田宮や浩二が帰国したら必ず気付く筈だ。
  1. 2014/12/03(水) 08:29:48|
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花 濫 第10章妻が惚れた

一日おきに続いた冴子とラサールの交媾も、さすがに一月を過ぎると間が開くようになった。それに引き替えて他の留学生の来宅が増え
ていった。毎夜のように誰かが来ていた

惣太郎が相手しなくても彼らは少しの気後れもせず、冴子を相手に酒を飲んだり喋ったりして帰っていく。そうした中でも劉の来訪がことに
多かった。台湾の中国人で、父も台湾大学で日本語を教える教授である。
 
彼の言葉は、田舎から上京した日本の学生より確かである。台湾では数少ないインテリの一家に育った劉は、他の留学生と一線を画す
程に品があり紳士だった。彼自身台湾大学の助教授で、この留学生アパートの寮長を政府から任される信頼ぶりは、三十歳という年齢か
らもきている。
 
他の留学生も彼には一目をおいて、酒を飲んでつい冴子の前で淫らな話になって冴子が困り果てたときなど、彼の一喝があ
ると一同はどんなに酔っていても慌てて口を噤むほどだった。

みんなでやって来ても、大抵劉が最後に一人残った。冴子の劉を見送りに出る時間がしだいに長くなっているのに惣太郎が気付いたのは、
つい最近である。

ある夜、劉と妻がリビングから消えて十五分以上かかっているのを惣太郎は発見した。
 玄関のドアの音がしないから彼らはまだ家の中にいる筈だった。リビングから廊下を玄関に向かうと、右側がトイレや風呂があり左側に和室
の四畳半、応接室となっている。

二人がいるのは玄関にいちばん近い応接のようだった。惣太郎はその時間にはいつも二階の一番奥の自分の書斎に閉じ込もっているのだが、
その夜に限って、喉の乾きを覚えて階下に降りようとしたのだった。二階からの階段は玄関のロビーに続いていたので、奥から出てきた二人が
すっと応接に消えたのが見えた。

惣太郎は仕事を止めて、二階の階段に近い寝室に入って灯を消した。階下はしんと静まって物音一つ聴こえては来なかったが、丁度十五分経っ
た頃ドアの音がして劉が帰って行った。

寝室に入ってきた冴子は妙に息を弾ませている。どうしたのかい、と訊くと、
「今ね、初めて劉さんに抱き締められたの」
と上気して言った。劉を見送り玄関のロビーで別れようとした折り、劉は 「さようなら」 といってからいきなり振り向いて抱きついてきた。
冴子は突然なのでびっくりしたが劉が非常に熱情的だったので、かえって嬉しくなり、そっと応接室のドアをあけて中へ導いたと言う。抱擁され
たまま当然接吻されるものと期待押していた冴子は、劉の唇がいきなり冴子の首筋に押し付けられて驚いた。噛み付くように激しく吸い付いたま
ま数分を過ごしてから、劉はやっと冴子の躯を放して、
先生に済まない、先生に申し訳ない」と何度も言って帰って行ったという。
冴子は話し終えてから
「これ、みて」と寝巻きの襟を肌けて見せた。
 
スタンドの光にこの頃めっきり脂の乗った白い咽喉首の付け根に今付けたばかりの真っ赤なキスマークが歯形まで付いて血を滲ませていた。
次の夜もやってきた劉が十二時近くまで冴子を相手に酒を飲んで、帰りに当然のように昨夜と同じ場所で冴子を抱擁した。冴子の報告では、昨
夜と同じ首筋を吸おうとするので、
「そこはういや、見つかるから」
と眼をつぶって唇を差し出すようにすると、劉は「奥さん」といって激しく唇を重ねてきた。初めて唇を許した喜びで冴子はうっとりとしてしま
い、ただ相手の吸うに任したと言う。

寝床に入ってからの冴子は、興奮から醒めきらず、
「ねえ、とうとうキスしてくれたのよ……ああ、やっとキスですものね」
うっとりとした表情で言った跡、夫の身体に燃え狂うような情熱でいどんでいった。
それから三日後にやってきた劉が、帰りぎわに冴子と玄関のロビーから消えるのを惣太郎はそっと二階の階段の上から覗いていた。その日は応
接室に入らず隣の四畳半に二人は入って行った。

後からの冴子の報告では、接吻の時間が日を追って長くなり舌を吸い続けられるので苦しくなり呻き声が出るまでになったので、次第に立って
いることも困難になり和室に変えたということだった。
「最後の一線はまだ越えていないのよ」

畳の上でお互いに横臥の姿勢で抱擁や接吻を繰り返すのだから、当然乳房や陰部へのペッテングぐくらいまで行っていると思って訊ねると、
「興奮するとお尻を強く抑えたり、太腿を手で押し揉んだりすることはあっても、まだ直接肌に触れられたことはないわ」
と冴子は当然のように言うが、その様相には明らかに期待が裏切られて焦りが滲み出ていた。
「そうしようと思えばいくらでも出来るのに、パンティーの中にはどうしても手を入れてこないの、そしてお洋服の上からあたしのそこに彼のもの
をぐっと押し付けてくるだけなの……あの人童貞かしらね」

「馬鹿、男が三十にもなって童貞ということがあるかい……思い切ってお前の方から誘ってみればいいんだよ」
「女のあたしから? ……こんなにラサールなんかと遊んでいる躯なのにね……やっぱりあなたに遠慮しているんだわ」
「そんなに劉にさせたいのか?」
冴子は夫の胸に顔を埋めて、
「だって、彼紳士だし……一途にあたしのことをおもっているんだもの…… 」 といって頷いた。

新しい政府がつくった町田市の留学生のアパートの説明会や劉の父親の訪日があったりして、劉が二日顔を見せず冴子をさんざん寂しがらせた。
三日目、きっちり八時にやってきた劉を見た冴子が急に生き生きとした様子に惣太郎は思わずほっとすると同時に微かな嫉妬まで覚えた。
すき焼きや中国の老酒で夕餉をとっていると、冴子のなんとも楽しげな様子が、惣太郎の酔眼にも映ってくる。

冴子が劉の持ってきた中国の饅頭のセロハンを剥そうとしているのを、
「違うよ、そこじゃない。ほら……」
睦まじそうにより添った劉が、いつもの礼儀正しさを忘れて不用意に洩らした無遠慮な言葉遣いに、
「あら、どこ?ねえ、わからない……」

惣太郎がびっくりするような甘ったるい声音で妻が答えていた。すき焼きなので八畳の和室を使って炬燵の上でしていたが、その時劉が炬燵の中
でぐいと冴子の膝を押したのが惣太郎にははっきり判った。すると妻が「えっ」となつかしさを篭めた眼差しで優しく頷いた。惣太郎が深酔いを装
っているのをいいことに、ふたりは惣太郎の眼の前で幾度か何か絡み合うような大胆さで眼と眼を絡み合わせては頬笑み合っていた。

十二時になると劉はいつものように帰る様子で立ち上がった。
「送るわ」
と冴子も一緒に立ったが、部屋を出る時、
「あなた寝ていらして」
と見返った顔が何 ───許して───といっているように惣太郎には思えた。

寝床に入って耳を澄ますと、時折、階下の部屋から啜り泣くような妻の声が聴こえたように惣太郎には思えたが空耳かも知れなかった。冴子が室に
戻ったのは四十分ぐらい後だった。

入ってきた妻の様子を見て惣太郎は驚いた。妻のパーマの髪がセットの後も判らないほど崩れ、頭の後などは毛の束がぶらりとぶら下がっている。
胸も肌け太腿が覗けるほど裾を乱し、そこから強い肌の匂いと女の体液の匂いが部屋の中に熱い体温を含んで流れてきた下着一枚になって布団に潜
り込んできた冴子に、
「おい、とうとう劉にさせたのか」
惣太郎が興奮した口調で言うと、妻は物憂げにいやいやをしながら、
「ううん、まだ、それはまだなの……でも、みて」

そういって冴子は、自分で胸を開くと、乳房をぶるんと出して見せた。スタンドの灯にもどきっとするような真っ白い豊かな乳房の丘に鮮やかなキスマ
ークが二つ血を滲ませていた。そして小さ目の乳暈と乳首がいかにもいま吸われたというように紅く大きく突起しているのだった。
「お前おっぱいを吸わせたのかい」
冴子は夫を見て、べそをかくような笑みを浮かべてこくりと頷いた。

「おい、お前がそれで我慢できる筈がないじゃないか」
乳首を吸われると阿呆のように抵抗力を失ってしまう彼女の躯は、冴子自身がいちばんよく識っている筈だった。冴子はとろんとした眼を開いて夫を
見ると、
「だから、だから今日はパンティーの中に手が入ってきて……」
「触らせたんだな」
「……そうよ、やっぱりお部屋にお布団いれといたのがあの人をその気にさせたのね。いきなり押し倒してあたしの胸を開いて、はっつと思ったとき
にはおっぱい吸われていたの」

「パンティーを脱がされたのかい」
「脱がなくったって手は入るわ、でも、脱いでしまえばよかった……あたしが思わず、いや! っていったらあわてて手を引っ込めるんですもの、今度
はあたしがその手を掴んで『いいのよ、好きにして』っていったら指を入れたりしてまた弄って来たけど、どうしてもそれ以上はして来ないの……なん
だか必死で最後の線を堪えているみたいなの……好きにしてってあたし何度もいったんだけれど」
「今日の冴子はどうしても劉にやらせたかったんだね」
「……うん、そう思わないこともなかった。別れるとき堪らなそうにあたしの乳房に噛み付いてきたんだけど、跡が付いたのを見て先生に隠してくれっ
て泣きそうになっているんですもの……」
「ね、……」

冴子は切なそうに腰をもじらせて夫の胸にすがりつくと、
「あたしいやよ、このままじゃいや、女ってそんなものよ。あたしの恥ずかしいところまで触って、あたしを恋い焦がれていながらしないなんて……あた
しの躯をあの人のものにして、あの人の身体もあたしのものにするの」

必死に想いを込めてかき口説く冴子の濡れた柔らかな躯を、惣太郎はいじらいくなって強く抱きしめた。
しかし冴子が劉と完全に結ばれるにはそれほど日数はかからなかった。

それは惣太郎が学期末に突然の予定外に出張があった日だった。翌日夕刻帰宅した惣太郎は、玄関に迎えに出ら妻の様子が妙に華やいで生
き生きしているのにすぐ気がついた思いなしか頬の血色もよく爽やかな微笑が絶えずその頬上がるようすだった。

着替えの手伝いに部屋に付いてきた妻に惣太郎が、
「おい、ずいぶん嬉しそうにしているけど、何かあったのかい」
というと、冴子はぼっと赧くなって、
「あら、やっぱり判る?……後でおはなしするわ」
「今は言えないのか」
「ううん、言えないことはないけど」
と冴子は小首を傾げて夫の着替えを持って後ろに廻り、着物と一緒にそのまま夫の肩に捕まるとその背中にぴったり頬を押し付けて、

「あたしね……あたし昨夜とうとう……あの人と出来ちゃったの」
「あの人って劉のこと?」
「ええ、劉さんととうとう」
「劉としたというのか」
惣太郎は着替えも忘れて妻を正面から肩を掴んで引き寄せると、
「冴子、劉と完全にしたというんだね」
と念を押して訊いた。妻は照れもせずじっと夫の顔を見返すと、

「したわよ、できちゃったのよ……あたしとうとうあの人のものになっちゃったわ」
「でも劉は俺の留守には絶対にこなかったじゃないか」
「それが昨夜はあなたの出張を識らないできたの。そしてねえ、あなたが居ないのを知って帰ろうとしたのをあたしが引き留めて……そしてお酒を
出して、昨夜はあたしも呑んだわ……一二時になって帰るというから、しばらくお炬燵で抱き合っていたんだけど、どうしても我慢ならなくなって、
どちらからともなく、今夜一緒に過ごそうって言い合っていたの……そしてあたしが六畳にお布団敷いて……」

「お前の方から誘ったんだね」
「結果的にはそうだけど、でもあの人ももう我慢の限界まできていたみたい。あたしがお布団敷いていたらすぐに上着を脱いでおズボンに手を掛けて
いたわ。あたしも急いで帯を解いて、あの人の前でパンティーを脱いでしまったの。恥ずかしかったわ……だってそうでもしなければあの人とても思
い切ってしてくれないと思ったの……でも、そうしてよかった。素敵な一夜だったわ」
「そんなによかったかい」

冴子は夫を見つめると、うっとりと眼を潤ませていった。
「好きな人にしてもらうって、あんなにいいものなのね……あたし昨夜は嬉しくって泣いたみたい」
「じゃ、何度もさせたんだね」
「ええ、昨夜は三回だったし、今日は五回したわ。二人で寝たのが一時頃で、今朝十時頃一度起きて食事をしたりお風呂に入ったりしてまた寝たの。
十五時間近くも一つ寝してたわけね」

「射精は受けたんだね」
「ええ、受けたわ。だってそれが欲しかったんですもの……」
妻は当然のような顔で答えた。
  1. 2014/12/03(水) 08:31:42|
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花 濫 第10章妻が惚れた2

劉が惣太郎の前に現れたのは、その夜の九時頃だった。入ってきた劉の様子を惣太郎は一見していつもの彼とは違っているなと思った。顔面蒼白と
いった感じで表情も緊張で引き吊っているようだった。
冴子が酒肴の用意に台所に行くと、劉はいきなり惣太郎の前に正座し、畳に両手を突いて「先生」と悲痛な声で叫ぶと深々と頭を下げた。
「先生、申し訳ないことをしました。僕は、僕は奥さんを犯しました」
「犯したって冴子を無理に犯したの? 強姦の犯人のようにかね」
「そういわれても仕方ありません。いいえ、その通りです」

妻の冴子が、あれほどまでに劉に熱を上げた理由がやっと惣太郎にも判ってきた。劉は最近では珍しく純情で正義派の青年と認めざるを得なかった。
こんなに純真で素朴な男を妻との情事に利用しようとした自分に惣太郎は嫌悪をもよおしていた。妻は悪くない。妻も自分の悪企に載せられた犠牲者
なのだ。

そして田宮も浩二もそうだ。惣太郎はそう思うそばから、しかし、彼らは何一つ損害を被った訳ではない。美しい人妻を抱くことが出来ただけ幸いと言う
べきではないか。妻の冴子にしてもそうっだ。人の妻の身でありながら、これほど自由に他の男を体験できるなどというのは果報に尽きる。

惣太郎が黙しているのを怒り心頭に達していると劉は読んだのか、深々と畳に擦り突けた顔を上げようともせず、微かに泣き声まで聴こえている。
部屋に入ってきた冴子が、二人の様子に唖然として用意してきた物をそこに置くと、劉の後ろに小さく坐った。惣太郎が眼配せしたのである。感の良い冴
子は演技しなければならないことを悟って、殊更神妙そうにうなだれていた。

「劉君、確かめておきたいんだけど、君は冴子をどう思っているの」
「奥さんが好きです。僕はこんなに女性を好きになったことはありません。奥さんを慕っています」
「冴子、お前は?」
「あたし? あたし劉さん大好きよ」
「それじゃあ、劉君に手篭にされたことは恨んではいないね」
「手篭だなんて……あたしもその気持ちで劉さんを誘たんですもの」

祖太郎は演技をしながらおかしくなってきた。これではまるで芝居ではないか。しかし、劉は外国人である。うっかりすると大変なことになる。この際
大学教授としての威光を光らせておかなければならない。
しかし、既に性の深淵を覗いてしまった者として熾烈な愛情と、特異な性の悦びに没頭しはじめた自分ら夫婦の生きざまを、この若い純情な青年に理解
さすことは無理な相談である。

この際飽くまで教授としての寛容さと惣太郎なりの常識で言い含めるしか方法はないと惣太郎は腹を決めた。
そこで言いたくもない自分と妻の年齢差から起こる冴子の欲求不満の問題を、真実そのままに話し、結果的にこんな問題が起こってもそれは詰めれば惣
太郎自身のふがいなさに帰るものだと説いた。

君のようないい青年なら自分に替わって妻を慰めてもらうことは、自分にとっても有り難いことだから、決して怒りはしないし、かえって今後もこちらから
お願いしたいくらいだと惣太郎は頭を下げた。
そして二人がどんなに情痴に耽ったとしても、十五、六年に亘る自分と冴子の夫婦生活の彩りにこそなれ、こんなことで傷付く自分達夫婦ではないこと
を強調して話してやらなければならなかった。

「それでいいね」
惣太郎が肩の重荷を降ろしたように劉にいうと、
「先生……どんなに先生から激怒されるかと覚悟していましたのに……」
劉は涙を流して歓喜していた。

それから酒になって座がいくらか和らいでくると、それは今までになかった雰囲気になっていった。当然、惣太郎の呑む酒の量は彼等の倍以上になって、
意識的にも惣太郎は泥酔に近い状態になっていった。


公然と許されて二人はもう惣太郎を意識していなかった。冴子が劉の手を取って自分の両手で挟むと、さも愛しそうにそれを頬に当てて音を立てて接吻した
のがはじまりだった。劉は荒い息遣いを抑えようともしないでそうした妻の顔を目指しで見惚れている。冴子も例のくるっとした瞳ですくい上げるように劉の
顔を見返す。自分の前でそうしたはばかりのない二人を見ていると惣太郎の酒の量はつい多くなる。

やがて演技ではなしに本当に酔いが深く廻ってきて惣太郎はふらふらと立ち上がった。
「あら、おトイレ、大丈夫?」
冴子が立って夫を支える。
「寝る。……劉君ゆっくりしていき給え」

劉が訪問するようになって、初めてのことだった。しかし、二人を残して惣太郎が先に座を立つことはこの夜を初めとして、それからは劉の来た日の例になっ
てしまった。
冴子は、惣太郎を二階の寝室まで送ってきて、
「それじゃ、先に休んでいらして、あたしあちらに行くわ」
「今夜もやらせるんだろう」

「ええ、その積もりよ……もう下の六畳にお布団敷いて置いたの」
「手回しがいいんだね、お前はやさしいから」
「だって彼とても欲しがるんだもの、さっきだってお炬燵の中で手を延ばしてきて、もうあたし声が出そうだったわ……判ってた?」
「ああ、お前も劉も眼が血走っていたからね、早く行ってやれ、俺は寝ている」
「あとで来るわ、待っててね」

そういってから冴子はいきなり夫の上に覆いかぶさって短い接吻をすると、きびすを返して急ぎ足に降りて行った。あとには甘い体臭と濡れた女の体液の匂
いが濃く漂っていた。

それから間もなく茶の間続きの六畳から男女のひしめく気配が横になった惣太郎の耳に伝わってきた。妻のあられもない声やどちらかの脚が襖を蹴った鈍い
音から二人が今交わりの最中であることは判ったが、泥酔していた惣太郎は不覚だと思いながらも泥のような眠りに落ちて行った。
なにかとんでもない粗相をしてしまったような焦燥感が、眠りの奥にあった。妻が同じ家の中で他の男に抱かれているという異常の中で、不覚にも眠ってしま
ったことの焦燥が、惣太郎の安眠を妨げていたのだろう。
 
「………あなた」
細い柔らかな妻の声がして、燃えるように温かな裸体を布団の中に入れてきた妻の気配に眼を醒ました。
「劉は帰ったのかい」
「ええ、いま先帰ったところよ。寮は規則がきびしいから寮長でも事前に届けしなくって朝居ない訳にはいかないらしいわ」
「今夜は何回したんだい」
「いま? 今は三回よ……激しかったわ、あたし今夜はお布団の中でさよならしたの、だって起きあがれなくなって」
「遣き過ぎて腰が抜けたというわけか」
妻は含み笑いをしてから、
「ね、する? そうならお風呂に入ってくるわ……だって、そんな元気なかったんですもの」

他の男と性交した直後の妻の躯を惣太郎が抱いたのはこのときが最初ではないが、今夜の妻の秘肉は、馴染み尽くした惣太郎に取って初めて感じた違和感
を持っていた。挿入すると思わず、熱い!と、惣太郎が呟くほど膣は異様に火照っていて膣壁が熱く腫れ上がった感触で尋常でない蠢きを繰り返していた。

なによりも突き入れる度にむず痒く溢れ絡まる膣奥に溜まった寒天状のものが、あきらかにいつもの妻の愛液とははっきり異なったものだった。
 
男の精液も人種や食べ物によって違ってくるのだろうか、劉の放出したものは量が格段に多く匂いも濃いし、最大の違いが粘度の濃いことだった。それが妻の
膣壁と惣太郎の陰茎の間に粘質の膜をつくってさらに違和感を与えているのだった。その違和感は惣太郎に妻の秘肉が他の男に蹂み荒らされて自分だけのも
のではなくなったという憤りのようなものが込み上げてきて、次第にたかぶりが増して凶暴性を帯びてきた。

それが冴子の方にも、夫ではない見知らぬ男に続けて犯されるような錯覚の刺激になったらしく、惣太郎より更に強烈な快感となって燃え盛ったらしい。挿入
した途端に瘧のようになって全身を戦なかせて、
「あっ、どうして?……いや、どうなったの、あ、あっ」
叫ぶのさえ慚くで、直に愛液とも小水とも区別し難い生暖かい淫液を、呆れるほど噴出させて悶絶していった。

後で惣太郎が訊くと、やはり劉との激しい性交の余韻も消えない内に、主人とはいえ別の男が入ってくるという被虐的な悦びが心理的にも異様に冴子を狂わせ
たのだという。そしてその因は、膣や子宮に溜まっていた劉の精液が、惣太郎の抽送する度にまるで媚薬のように物凄い快感を呼ぶ刺激になったのだという。
暁方、惣太郎と冴子は疲れきった躯を互いにいとしみ、いたわり合うようにより添って抱き合っていた。

「冴子、また楽しみ方が一つ増えたみたいだね、冴子を夢中にさせるやり方が……」
「ほんとう、あんなの初めてよ……なんだかあたし病みつきになりそう、いい?」
冴子はそう言って夫の胸に顔を寄せて羞かしそうに笑った。明らかに荒淫の疲労の跡が眼の縁にはっきりと隈をつくっていたが、それはいかにも幸せそうな爽や
かな笑い顔だった。

その夜から茶の間続きの六畳が公然と妻と劉との愛の密室になった。
劉の来訪する時刻になると冴子はまずパンティーを脱いだ。そしていそいそと六畳に布団を敷き延べて待つようになった。パンティーを着けないのはどうやら炬
燵の中での彼の指先のいたずらに応じるためと、人目がないどこででも手を出してくる男への思いやりかららしかった。そして、惣太郎が茶の間から去るのを待
ちかねるようにして冴子を抱くのだった。

抱けば必ず熟れた女体の旨味を心行くまで味あわせてくれる冴子の躯は、若い劉に汲めども尽きない香り高い女体の神秘を惜しみなく探らせているらしく、惣太
郎の眼から見ても夜ごとに爛れるような情痴の限りを尽くしてのめり込んで行く劉の様子が、容易に感じとれるのであった。
「あの人、ほんとうの女の人というものが、あたしで判ってきたのね、夢中になっていくみたい」ツシのあの 冴子は劉を送り出してからの寝物語にそんなことを
満足気に夫に話しかけるようになっていた。三十にもなったいい若者が、女の子の一人や二人知らない筈はないと惣太郎は思うが、若い娘の躯などでは到底想
像もつかない、豊醇な悦びを妻の身体に劉は覚えてしまったのだと思った。
  1. 2014/12/03(水) 08:33:21|
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花 濫 第11章淫雨止まず

冴子がタイ出身のヴエンに犯されたのは劉とのことがあって三週間目であった。
毎夜劉との愛欲の営みに没頭していたさ中だけに冴子にとってはかなり衝撃的な事件だったが、それは心のどこかで半ば予期していたこ
とだったので、夕方帰宅した惣太郎に話すときは、かすかな微笑さえその頬に浮かんでいた。

その日の昼前の一一時頃だった。突然玄関のドアの開く音に冴子が出てみると、鴨居まで届きそうな長身のヴエンが立っていた。痩身だ
が鋼鉄の針金のように筋肉質の躯体のヴエンは、肌の色が日本人より少し色が黒い。今年十九歳ということだった。ラサールや劉のように
名家の出身ではなく、実家もタイのチェンマイから百キロ以上離れたラオス、ベトナムの国境に近い山間地帯の農村の出身であった。


今は口髭をのばした丸顔が、さながら国から選抜された秀才の留学生タイプになっているが、本人の話しによると、中学生までは上着さえ
着れない貧農で、毎日百姓の手伝いばかりしていたと言う。
未開の山間地帯で、近くには麻薬の密栽培地帯もあり、村の風紀も乱れていて、ヴエンが女を知ったのは十五歳だったというから、他の
留学生とは異質な大人びた様子がいつもうかがえた。他の留学生が酒に酔って卑猥な性的な広言をしてもヴェンはいつも黙って微笑してい
るだけで、その仲間には入ろうとはしなかった。

惣太郎がいつかヴエンに、
「君は何人ぐらい女を識っているのかい」
と訊いたことがあるが、

「数はおぼえていませんね……十二歳の頃勃起しはじめたのですが、それを見付けた父親が、村の未亡人のところへ僕を連れて行きまし
た。なにしろ労働力の極度に不足している農村ですから、特に男の子の外部への流出防止は村を挙げて防衛するのです。麻薬の吸引もそ
のひとつです。中毒になるともう村を離れませんからね。……ですから手淫なんてものがあるということはチェンマイの高校に行って初めて
識りました。村では娘には絶対手出し出来ませんが、人妻はそこの主人の了解さえあればいいのです。

村の男は農業以外に山奥に伐採の仕事に行きますから、留守中の妻を逃がさないようにするためにも、独身の男の子を与える習慣が出来
たのでしょう。僕は幸いみんなに好かれたので、毎日のように出来ました」
「主人の見ている前でするのかね」
「僕たち若い者が出来るのは主人のいない昼間に限られていましたから、主人はいませんが、その家の老人子供はいました。特に老人が
うるさくて、いろいろな体位やテクニックを強引に教えに来るのです。おかげで随分上達はしましたがね」

十二月だというのに、オーバーの下には、半袖のスポーツシャツにジーパンという軽快な服装の彼は、玄関の三和土に立っていたが、出
てきた冴子を見付けると、
「夜は寮長がくるから……」
髭の奥から白い歯を見せてにやりと笑って上がってきた。いつもの通り茶の間に入るだろうと思って、先に廊下を茶の間の向かった冴子は、
いきなり後ろからヴエンに抱きつかれて驚いた。冴子よりはるかに背の高いヴエンは、後ろから冴子を羽交い締めにして冴子の首の後ろに接
吻すると、ひょいといった感じで冴子を抱き上げてしまった。

「前にも部屋に上がってくることは何度かあったのよ、でも抱かれてもキスだけで我慢してもらっていたの……」
冬の間はほとんど和服で通している冴子だったが、その日は年末も近いので家の片付けをしていたので前開きのワンピースを着ていた。

前夜劉との情事の後、主人とも交わって、朝一番に入浴する積もりだったが、どうせ片付けで汚れるから後にしようとその日は入浴をしていなか
った。そのせいで男達の残留物がふと腰に力を居れる度に流れ出たのでパンティーを脱いでいたのを、ヴエンが横抱きした時捲れたスカート
の奥に見付けてしまたのが運のつきだった。

細いが腕力のあるヴエンは、冴子を横抱きにしたまま、捲れたスカートからこぼれた女陰に顔を埋めた。
「ヴエンさん止めて、お願い」
泣き声を上げる冴子を茶の間に運んだヴエンは、冴子を炬燵の横に押し倒してしまった。

冴子は着替えをしている夫を手伝いながら「あたしね」としんみりした口調で言ってから、ためらうように、
「劉さんのことはしかたいにしても、できたらしばらく劉さん一人の女でいたかったのに」
と淋しそうにいうのだった。

「お前、ヴエンとこうなることは前から覚悟していたんじゃないか」
覚悟というか、あなたの暗示にかかっていたのは確かよ。でもそうなると三人を相手にすることになるでしょう……今はいないけど田宮さんや
浩二さんを入れるとあなた以外に五人もの男を相手にするってことになるのと……あたしそんな器用なこと、とても出来ないと思って……」
「女はいざとなると器用にも大胆にもなれるものだよ。劉だけの女でいたい気持ちも判るけどヴエンだってお前に惚れている気持ちは同じなん
だし、お前だってヴエンにその気持ちが全くなかった訳ではないんだから、こうなってしまったら時々抱かれてやるんだね」

惣太郎には計算があった。劉に夢中の妻をこのまま放置して置く危険を薄々と感じ初めていた折りだったから、妻がまた新しい男を識ることによ
って、劉とだけの仲に変化が現れるのを期待した訳である。
「そうね、もうそうするより仕方ないわね…劉さんは結構嫉妬深いから識られないようにしてね、お願い……そうなってしまったんですもの、あ
たし我慢するわ」

「でもヴエンはよかったろう。相当な経験があってあの若さだし、あの男は見るからに精力絶倫って身体つきをしているから」
「ヴエンさん? あの人経験が豊かなだけに恐ろしいくらい女の躯の扱い方を識ってるみたい……あたし今日は何度も失神しそうになって、途中
で泣き出しちゃった」
「それご覧、何のかのとは言っても、お前の方も随分よかったようじゃないか」
「あなた女の躯のこと識らないからそんなことが言えるのよ、女の躯って、どんなに厭で拒否していても、上手に扱われると意志とは無関係にそう
なっちゃうものよ、だから強姦されても感じちゃうって言うじゃない。ましてあたしヴエンさんに敵意を抱いているわけじゃないから……あんなにされる
とやっぱり燃えてしまうの……、それにあの時間茶の間にはお日様がかんかん入ってとても明るいのよ……そんなところで恥ずかしいところを見られ
たら誰だって興奮しちゃうわよ……ヴアンさんとても満足して帰ったみたい……女って強欲ね、好きでない人でも自分の躯に満足されなかったら厭
なのね」
「それにね」妻は夫に声をひそめるようにして、
「あの人あたしと劉さんのこと薄々気がついているみたいなの……だから今日だって最後まで拒めなかったのよ」

冴子は女独特の弁解を忘れなかった。惣太郎は妻の言葉をそうとって、彼女のいう危惧には耳を貸さなかった。その次の日もやはり同じ時間に
部屋に上がってきたヴエンに需られて冴子は躯を開いた。自分の躯を識ったばかりの男が当分の間は狂ったように自分に夢中になることを経験か
ら識っていっる冴子は、好き嫌いの問題以前に彼女の女心を満足させるものがあるらしいことに惣太郎は気付いていた。

「こんなことになるのだったら、あのとき必死に拒否すべきだったんだわ」
嘆息混じりに帰宅した夫に冴子は訴えた。
「ヴエンとするのが、そんなに辛いのかい」
「辛いだけならいくらだって我慢するわ……だって躯はやっぱりされると反応するでしょう……それが夜まで残って、劉さんとの時に爆発するの
……あたしのほうから、もっともっとと劉さんに需るようになってしまうのよ……ヴエンさんにこのままずっと許していたら、あたし取り返しのつかな
い凄く淫乱な女にされてしまいそうなの」

「そんなに奴の愛戯は濃厚なのかい」
「濃厚なんてものじゃないわ、まるで動物みたいなの。それが猛烈に繊細でそれでいて力強いの、そのうえいつまでも続くときているでしょう、
あの人どれだけ助平なのか判らない」
「だからお前の快感も凄いのだろう」
「……だから困るのよ、あたしまで感染ってしまいそうな気がするのよ」
  1. 2014/12/03(水) 08:35:28|
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花 濫 第11章淫雨止まず2

その獣のように猛烈で助平なヴアンのやりざまを惣太郎は翌日目のあたりに見せつけられたのだった。
自宅の見える小川の橋を渡ったとき、惣太郎は自宅の玄関からそそくさと出ていく男の姿を目撃した。冬の六時過ぎであるからもう辺りは闇に
包まれていて、街灯の暗い光に中に背の高い痩せた男がオーバーの襟を立てて足早に遠ざかって行く後ろ姿が見えただけであるが、ヴエンに
見間違いはなかった。

家に着いて茶の間に入っていくと妻の姿はなく、何気なく続きの六畳の襖を開けると部屋の真ん中に敷布団が一枚敷かれて、その上に薄い腰
巻き一枚纏っただけの妻が向こう向きに俯伏せになってしゃがみ込んでいた。形のいい丸い尻をこちらに向けていて、その尻がぴくぴくと小さく
震えているのが先ず眼には入った。部屋の中はむっとなま暖かい熱気が立ち篭めて、はっきりそれと判る男と女の体液と性交時特有の湿っぽ
く甘酸っぱい生臭さの匂いが強く鼻を衝いた。

「よくみると敷布団の上皺だらけののシーツの中心の辺りに、ぐっしょりと濡れた部分が広がっている。部屋の隅には紅い長襦袢や濃紺の絣の着
物、絹の黄色い帯や白いパンティーまでが脱いだままの形で投げ出されている。
「おい、どうした? 冴子」と傍へ寄ると、
「あっ、あなた」
振り向いた妻の顔は振り乱した髪が顔の半分にかかり、その陰から白眼をはっきりとピンク色に染めてとろんと潤んだ瞳が物憂げそうに見上げ
ていた。

「いまヴエンが出ていったけど、ヴエンに抱かれたんだね」
「そうよ、もうじき主人も帰ってくるからっていったんだけど、丁度家の前を通りかかったからって」
「布団を敷いてあるところを見ると、お前も承知の上でさせたんだね」
「布団は日光に当てたのを今夜の劉さんのためにこの部屋に持ってきてあったので、そのために敷いたんじゃないわ。……でも早く済ますとい
うから、劉さんとかち合ってはまずいと思ってさせたんだけど……来たのは三時よ、早く済ますどころじゃなかったわ……あっ」

冴子は小さな悲鳴を上げると下腹を押さえてうずくまってしまった。
「おい、どうした」
惣太郎は同じ言葉を繰り返した。
「ヴアンさんにされるといつもこうなの、あの人の長いから子宮に突っかけてくるのね、今日はなんだか子宮には入ったみたいなの、痛いった
らないの」
「大丈夫かい?」
「大丈夫よ、もう」
冴子は夫に笑ってみせると、ゆっくりと大儀そうに座り直した。腰巻きが割れて丸い膝小僧の奥に、失禁でもしたように濡れている太腿の内側
が見え、更にその奥の陰毛が、嵐になぎ倒された叢のように粘液の鈍い光を見せていた。その辺りから蒸れるような性臭が立ち昇っていた。

「痛いのか」
「子宮が突き上げられるから元に戻るまで痛みが返してくるのね……最中はこの痛みが物凄い快感に代わるんだから不思議よね……でも平気
よ、いつものことだから」
「こんやは劉君はお休みだね」
「いやよ、このままなんて厭よ……劉さんのためにしたんだから……」

惣太郎は女の躯というものが判らなくなっていた。強靭というか淫蕩というか性愛に対してこれほど貪欲な生きものが他にいるだろうか、
「お前も何度も気を遣ったんだろう……それでも今夜また出来るのかい」
「うん、早く済まそうとしたから、それでよけい気がいってしまたのね……今日は気絶したみたい……今夜の劉さんとの時に、これでは狂うと
思ったらよけいに感じちゃって」
冴子はそう言って照れくさそうに笑った。乱暴に吸われたらしく唇の回りが厚っぽたく腫れたようになっていた。

「あ、立てない」
膝を立てて立ち上がろうとした冴子は、両手で腰を押さえたままへたてたとうずくまってしまった。そして悲しげに夫を見上げると、
「恥ずかしいわあたし」
「いいんだよ立たなくても……でもお前のその姿を見たら俺もしたくなってしまったよ」
「いいわよ、して頂戴……どうせ腰が立たないんだから思いきりやって……」
「でもお前、こんな躯で大丈夫かい」
「こんな躯だからいいのよ、ね、いまならきっといいわ……ねえ、して……」

惣太郎は妻の後ろに廻ると、薄物の腰巻きに包まれた尻を思いきり引き捲った。
燦るい電灯の下に晒された妻の尻の美しさに惣太郎は息を呑んだ。つい最近まで白磁のように冷たく輝いていた尻が、幾分大きくなって柔
らかい皮膚が脂を滲ませてぬめぬめと妖しい光沢を湛えているのだった。
惣太郎はその尻を割って抱き込むと、先ほどからの興奮で我ながら勇ましくいきり立ったものを一気に差し込んだ。
「いい、やっぱりいいわ、凄い」
惣太郎の妻は悦びに声を喘がせていたが、すぐ、喉の奥で「ぐううっ」というような妙な呻きとともに大きく襲ってきた痙攣に身を任せて悶絶
していた。

仕事に疲れた惣太郎の性交は、時間も短く、ヴエンの鉄槌を打ち込むような強烈さに較べると、柔らかな刷毛でくすぐられるような感じだっ
たが、メインディッシュのあとのデザートを味わうような、落ち着いた情緒に冴子は満足していた。


惣太郎が入浴して出てきたとき、やっと起きあがって夕餉の支度をはじめた妻の身を案じながら書斎で調べ物をしていた惣太郎は、九時過
ぎに劉がやって来たのも知らなかった。
「あなた夕飯のお支度が出来ましたわよ」
いつもの透き通った柔らかい妻の声に階下に降りていくと、すでに劉に酒を注いで冗談を交わしながら上機嫌で、足腰もしゃんとした妻が忙
しそうに台所で立ち働いている姿があった。

その夜もいつものように劉と愛の褥で睦み合っていたが、この夜ばかりは冴子の異常な興奮状態から、制する劉の言葉も耳には入らないらし
く、冴子は絶叫し続けていた。二時過ぎに劉が帰って行く音を惣太郎は耳にしたが、いつものように冴子がやってこないので六畳に降りて行っ
て見ると、全裸のまま性交の後の生々しい股間を広げた恰好で、まだ弛緩しきった躯をかすかに痙攣させ続けていた。

「あなた、もう駄目だわ、いき続けなの……とっくに終わったのに、躯が感じたまま、いつまでも続くの……劉さん驚いてりたわ。……けど
門限でしょう、仕方なく心配しながら帰って行ったわ……あなたもう一度抱いて」

いかに女盛りとはいえ、どちらかといえば小柄な女体に秘められた妻の驚異的に靭なスタミナと、そして新鮮な性への願望に目覚めた女として
の自分の妻の底知れない淫欲の深さに惣太郎は舌を巻く想いだった。

冴子の相手の三人の留学生が、かち合う時があるのではないかという冴子の懸念は、幸いにして実現されずに済んだのではあるが、一日の
中に続けざまに三人の相手と躯を交えるということは何度もあるようだった。
殊に惣太郎の千葉に行った日などは、前夜劉との愛媾に身を灼き、午前中にラサールとそして午後訪れたヴエンとにも躯を許し、夜は夜で劉
とまた烈しい愛戯に耽るという有り様だった。

そんな深夜、夫の寝床に入ってきた冴子が、
「ほっと」溜息をつき、
「まるで娼婦ね……あなたで四人目……回数でいくと九回目」

しかし、冴子の肢体のどこにも惣太郎には娼婦のもつ陰湿さは微塵も見られなかった。それどころか明るい瑞々した美しさが日に日に増して
きているようだった。
「こんなに一日中何度も続けざまにおもちゃにされて、あたしどうなってしまうのかしら」
「何人もの男に躰を開いて悲しいかい」
惣太郎が言うと、冴子はくるりとした眼で夫を見ると、
「………これが悲しんでいる顔?」
と、くすっと笑ってみせるのだった。

この淫蕩で爛れるような快楽に満ちた、二四時間中、淫液の臭気が躯中に漂っているような日々であったが、その生活もぷっつりと断ち切ら
れる寮の移転の日を迎えたのは三月の初旬だった。
  1. 2014/12/03(水) 08:37:35|
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花 濫 第11章淫雨止まず3

いよいよトラックが何台もきて荷物を積んで彼ら留学生が去る時、冴子は自宅の玄関で立っていられないほど慟哭し続けた。
妻からもそれぞれの留学生からも、移転後も現在の関係を続けさせて欲しいと惣太郎に何度も申し入れてきたが、惣太郎は頑固に人が変わっ
たきびしさでそれを拒否した。これ以上この淫蕩狂気の生活を妻に続けさせると、やがて妻は精神に異常をきたすと判断したからだった。
「こうなることは判っていたのに……あたし愛してしまったのね、あの三人を」
二日ばかり過ぎて、悲嘆が納まったとき冴子がぽつんと独り言のように言った。

柔和で鄙の素朴な竹人形のように慎ましかった冴子が、この二年足らずの内にみせた変貌ぶりには惣太郎も眼を剥く思いがあった。
特に留学生との情痴の坩堝の中で身を焦がし続けたこの三月の間に、凄愴なまで妖艶さをにじませ出した冴子は、回りの男が思わず吸い寄せ
られるような女の完熟して甘い匂いを撒き散らしていた。
触れればれすぐ落ちる果実のような、淫蕩さが彼女の躯から甘く立ち昇っていた。

昔、遊の女達のほとんどが、荒淫にしだいに容貌も衰え、最後には枯れ木のようになって衰えていく中に、男達の精気を栄養のように吸収して、美
しく輝く女が希にいたというが、冴子も男の精を吸収して光り輝くたぐい希な資質を備えているのではなかろうかと惣太郎は考えはじめていた。

あれほど毎日男と交わっていたのに、いざ男日照りになったら発狂しかねないと惣太郎の危惧は見事にはずれた。いつのまにか昔の、ひっ
そりとした静謐な家庭にふさわしく、これが四人の男と淫蕩の性宴に浸りきって喜悦の嬌声を上げ続けた女とは信じられない冴子の慎ましい
生活ぶりに、惣太郎は女の不思議さを、また改めて知らされる思いだった。

爛れた愛欲の臭気の漂っていた六畳は、いつの間にか元の浩二の部屋にかえっていた。
四月中旬に帰国予定の浩二が、予定の業務が早く済んだので帰国すると電話してきたのは昨日の深夜だった。夢の中で電話の音を訊いてい
た惣太郎は妻の電話の応対の声がいつになく華やいで柔らかいのに驚いて眼を醒ました。

相手は留学生の誰かではないかと危惧したからである。
電話が終わると、惣太郎が眼を醒ましているのを見つけた冴子が、するりと惣太郎の布団に入ってきた。
「浩二さんが明日帰国するんですって」
うきうきと弾んだ声だった。
 
「いまロンドンのヒースロー空港からよ、明日五時成田着ですって……あたしお迎えに行ってもいいでしょう」
「勿論いいさ、冴子ここしばらく寂しかったかい?」
「うん、淋しくないといえば嘘になるけど……今になって思えば、あんな生活って狂っていたのよね………あの最中は判らなかったけど」
「浩二が帰ったらまた彼とはするのだろう」
「うん、でも……浩二さんだって、やがてお嫁さんを貰って別れなければならないのよ、その時のことを考えると……辛くって……もうこの間
のような辛い思いはいや」

「そりゃあ、浩二だってやがてそうなるけど、お前だっていつまでも若い訳じゃない。この間の留学生のことだって、あんな体験をする女はそうざらに
いるものじゃない、きっとお前は歳をとって後悔することがないから、美しく老けていけると思うんだ。そのために今を楽しめばいいと俺は思っている」
「あたしも今頃そう思ってはいたの……でも、あなたに悪くって……」
「前にも言ったように俺はお前がいつまでも、男達から魅力ある女として恋い焦がれるような美しさを保って貰いたい。そのためにはどうしても若い
男との交わりが必要だと考えているんだ」
「あなた本当に浩二さんや田宮さんと続けてもいいのね」
「なんだお前はそんなことを心配していたのか」
「だって……あなたが、あたしやっぱり一番好きなんだもの……あなたに嫌われたらどうしようって考えていたの……あなたがしていいというのなら、
あたしはうれしいわ」

冴子がここ数週間見せなかった媚態を露にして惣太郎の胸に顔を寄せた。
「明日は、俺が早く寝てやろう、浩二と心おきなくするがいい」
「あなた……触って、戻ってきたのよ」
冴子が夫の手を取って自分の股間に導いた。そこはすでにしとどに濡れそぼっていた。
 
「して……お願い……あたし明日の晩を思っただけで興奮して眠れないわ」
女は耐えることの出来る動物だ、男との一番の相違点もそこにあるといわれるが、妻はあの淫蕩で悦楽に満ちたな毎日を決して忘れたわけでも諦め
たわけでもなかったのだ。ただただ堪え忍んでいたのだ。惣太郎は自分に縋るように身を寄せている妻がにわかに愛しくなり、思わず妻を抱き締めて
から、いそいそと妻の着衣を脱がせにかかった。
  1. 2014/12/03(水) 08:39:17|
  2. 花濫・夢想原人
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花 濫 第12章欲望の果てに

惣太郎の日曜日の朝は遅い。
翌日の仕事を気にすることなく、雑誌社や出版社の依頼原稿を書ける土曜の夜は彼にとって貴重な時間である。やすむのが黎明の白む頃に
なることも珍しくはない。若い頃は、翌日のことなど全く気にせず、依頼のあった原稿を徹夜で書きまくり、翌日平気で登校したものだが、五
十歳近くなると、到底そんな芸当は出来ない。
冴子が嫁いで来た頃には、夕飯の後、夜半まで冴子を抱いて、堪能するまで愛媾の悦楽に耽けり、その後、習慣になっている深夜の珈琲
を二人で楽しんでから執筆にかかったものだが、今では嘘のように思えてくる。

一二時過ぎのティータイムだけは、今でも続いているが、昔と違うのは、夕食後は互いの存在すらしらぬげに、それぞれ別の部屋でひっそ
りと自分のしたいことに専念していて、男と女の対の住処ともおもえぬ静けさである。ほとんど惣太郎は自分の書斎で執筆を続けており、冴子は
家事を終えると、最近興味をおぼえている趣味の植物画を書くのが習慣になっていた。一二時前になると、冴子が絵を書くのを終えて、
「お茶にします? 」
書斎の襖をあけて、机に向かって背を丸くしている惣太郎に後ろから訊く。うん……といえば珈琲で、執筆を一二時で終えるときには、酒がい
い……と答える。

酒だと、冷えきった家に、ぽっと火がついたように、夫婦の会話がはじまり、冴子は安堵するが、珈琲だと、黙って書斎の机の隅に珈琲茶碗と
砂糖をおいてくるだけで、また、もとの静寂が家を包んでしまう。
そういう夜は、冴子は独り風呂に入り、先にベットに入る。こういう隠遁生活のような静謐に冴子は厭気を憶えるわけではないが、独り冷たい
ベットの中で、あたしは一体なんのために生きているのだろう、と反蒭することが最近よくある。

こういう夫の隠遁のような静謐な生き方は、いまさらはじまったことではなく、冴子の育った実家の父も夫と同じ静謐な隠遁生活だったので、ほ
かの人はともかく、冴子にとっては、それが平常の馴れた生活だった。しかしここ一年半、別世界にまぎれこんだような、男達との荒れ狂うよう
な生活が、冴子自身をつくりかえてしまったのだった。

これでは老人夫婦の生活と同じではないか。いや、年老いた夫婦の生活でさえ、生活をエンジョイする工夫があるはずだ。夫の生活には慰謝
がない。学者なのだから学研に没頭するのは当然のことだが、もうすこし夫婦の間に意志の疎通がてもいいではいか。夫にとって自分は一体ど
ういう存在なのだろう。

夫が男性を喪失してしまったのであればいざ知らず、つい半年前までは、浩二や田宮、それに劉、ラサール、ヴエンといった若い男達に互し
て自分にいどみかかってくる体力があったではないか。それが半年くらいでにわかに失われるとは考えられない。火をつけておいて平気で急に放
ったらかすほど夫は底意地悪いひとではないのだが……。もしかしたら、夫の中で何か心の葛藤でも起こったのだろうか。

もしかしたら………、冴子は深紅の絵具をたっぷりと含ませた筆の動きを止めて、ため息をついて考えた。ここ数年、まったく性に関心を示さ
なかった夫が、田宮の一件以来、人変わりがしたように好色で、精力的になってきた。それが、いまでは元の静謐な男に戻ってしまったのは、
夫は自分の妻をほかの男に抱かたせた時にのみ性的興奮を感じる性的性癖の持ち主なのではいのだろうか。もっと善意に解釈すれば、あの刺
激的な性宴に、夫は残った性的エネルギーを消耗し果たしたのかも知れない。

しかし、夫はそれでいいかもしれないが、火をつけられたままの自分を夫はどう思っているのだろう。それほど無責任な人ではなかったはず
だが……。
 気をとりなおして筆をはしらせていると、遠くでサイレンの音が聞こえていた。深紅のダリアの花を塗っていた冴子の掌がまたとまった。ときど
き、おこりのように突然躯の中の血がたぎりだすことがある。いまがそうだ。突然、禁断症状の薬物中毒患者のように、躯が男の匂いを求めて狂
いはじめる。        

それを冴子は悪病の発作のようにうけとめて必死にこらえる。しかしいったん躰の血を逆流させる発作がおこると、冴子の顔には血の色がぽっ
と滲みだし、躯が火照って落ちつきがなくなってくる。考えてはいけないと思いながらも、火照りの熱さのなかで冴子は、男達との歓楽の眩暈を
躯が自然に反蒭しはじめ、わが身をもてあましてしまう。過ぎ去った男のことを反蒭することは有夫の女としてはいけないことだ、あれは夢だっ
たのだと考えながらも、そうした観念とは別に?が自然に男を需めてとめどなく潤んでいく。
いますぐ男が欲しいといった情態ではなかったが、これからさき男なしで生きていけないと思った。夫が相手にしてくれないとすれば、いずれ
別の男で自分を昇華させる以外ないと考えた。                      

浩二はその後ロンドン出張から帰り、今度は大阪に転勤になっていた。
二月に一度ぐらいは出張で上京してくる。上京するとかならずこの家に泊まり、当然のように冴子を抱く。この前やってきたときには、夫は千葉
に出張して不在だった。一夜、浩二の肉を包み込んで冴子は飢えをいやした。あれからもう二月過ぎるが、浩二は上京する気配はない。
田宮は先週一時還っていたアメリカから戻ってきた。しかし近日中に正式にアメリカの大学に帰る事になって、その準備に多忙である。劉やグ
エン達は、思い出したように電話はくれるが、ここにいた時だけで、あとははっきりとけじめをつける、という夫との約束があり、そう簡単には近づ
けない。

しかし劉には逢いたい冴子は思った。本当は大阪の浩二に一番逢いたかったが、大阪まで行く理由を夫に告げることは不可能だった。劉なら、
いまの下宿も学校も電話番号がわかっているし、逢いたいといえば飛んでくることは確実だった。実は夫の留守中に劉は何度も電話してきていた。
奥さんに逢いたい、死ぬほど逢いたい、と電話の向こうで熱い想いをうったえ続ける声が、冴子の耳に灼ついていまもはなれない。半年前、偶然、
新宿で劉に再会して以来、劉からは何度も電話があった。電話だけでなく、夫のいない時間に、この家に訪ねて来たことさえある。

あれから半年が過ぎたが、劉はいまでも自分のことを思っているだろうか……。女は、たとえ自分にとって不要で迷惑な男でも、自分のことを
忘れられるのは恥辱だった。まして冴子にとって劉は、忘れることの出来ない存在だったから、その思いは一層深かった。いままでも何度か、今
のように躯が火照ってきた時、こちらから連絡をとってみようかと思ったことがあったが、夫を裏切る恐ろしさの方がさきにたって出来なかったので
ある。 

劉に明日連絡をとろう………。冴子は、床の間の牡丹の花につぶやいた。わたしが悪いのではなく、私の躯に火をつけた夫が悪いのだから、
夫が逢うことを禁じていても、夫とかかわりのない場所で劉と自分だけの世界で昇華させてもらったとししたら、夫は怒るだろうか。もしそうなっても、
偶然劉に会って、そうなってしまったと言ったら………。夫は、もし怒ったとしても、夫婦関係に亀裂が生じるような激しいものではない筈だ。
そもそも原因をつくったのが夫なので自分は被害者の立場なのだから……。                    
そう思いながら、冴子は自分のなかに頽廃が見えて、いつも最後には苦い思いで、劉と逢うのをとどまるのだった。

今夜は酒にしよう、と惣太郎は冴子に襖越しに告げた。来月の学会で報告する「岡山と広島の方便にみる源平合戦の影響」という百枚近い
レポートを纏めていたが、昨夜まで連日続けていた三学期の期末試験の採点で、疲労が溜っているらしく、これ以上続ける意欲を喪失したのだと
いう。
 欠伸をこらえて、卓上を整理した時、廊下に擦り足の音がした。今夜の冴子は浴衣だなと惣太郎は頭の片隅で思った。着物と洋服では足音が
違う。冴子の場合特に着物の時の足音が楚々としてきれいだった。              

襖が開いたので、椅子から立ち上がり振り向くと、果して、茄子紺の菊模様の浴衣に縮緬の芥子色の帯をしめた冴子が、片膝を折って、座り
机に料理を載せた盆を置くところだった。風呂からでたばかりらしく、妻の動きに石鹸と化粧の匂いが部屋に立ちのぼった。                        
やや俯き加減で、横の座り机に銚子や肴を並べている妻の後ろ姿を見おろしながら、惣太郎は椅子に座ったまま煙草に火をつけた。最近、心境
の変化でもあったのか、冴子は腰のあたりまで伸ばしていた長い髪を思いきりよく切って、顎のあたりまでのカールした。そのため、後ろから見ると、
いままで気付かなかった白い襟足が、妙になまめかしく見える。


男達と性宴に狂奔していた頃の、発情の淫糜な匂いを全身からただよわせているような妖しい魅力は、最近なくなったようだが、そのかわりに、
熟した果物のような芳香を放ち、もぎ取られるのを待っているような、瑞々しいしたたるような色気が全身に匂い立ち、大輪の牡丹が咲き誇ってい
るような成熟した女の魅力がでていた。

もとはほっそりとした身体つきで、清楚な容姿が魅力的だったのだが、最近では、しこしことした固肥りになって、白磁のような光沢のあった肌
が、今ではさらに白さを増し、ぬめぬめと吸いつくような凝脂を浮かせて妖しく照りはえている。それに肩にも腰にも腿にも、女らしいやわらかく
なめらかなまるみがでてきた。

「この間九州出身の学生さんからいただいたからすみです……」      
薄く切ったからすみに、赤い小粒の梅干しをあしらった九谷焼の小皿と、信楽の徳利二本を置いた。
「熱いうちにどうぞ……」
徳利を取り上げ、小首を傾げてにっこりとほほえみながら、わずかに肩をいやいやをするように揺すって、自覚のない女のコケティシュをみせる
妻のしぐさを見て惣太郎は、これでは放っておけないな……、と考えた。

男の女への感情は、最初、生理的に花の蜜に吸いよせられる虫のように、女性への思慕から始まる。惣太郎の冴子に対する感情もここからはじ
まった。続いて思慕は所有に変わった。それは美しいもの、快楽を与えてくれるものへの独占欲であった。
しかし、所有に成功し、絶えず身近に対象があり、愛でているうち、美しさも快楽も麻痺して来る。ここに人と動物の完全な差を見いだすことが
出来る。ひともここまでくると、その所有に飽きて、他の対象を求める者、別の新鮮な視点で、もい一度対象を見直し、その美や快楽を更新しよ
うとする者に別れる。

惣太郎は後者を選んだ。理由は、自分が老いて、もう他の花を捜す力が弱っていることと、対象が、たぐいまれな逸品であるため、丁度、
骨董の銘品のように、自分が見飽きても、他人に見せることで、新たな価値を再発見するように、時には、展覧会に出品して、大勢の他人が涎
垂の眼で対象を見るのを見て、新たな魅力を見いだす。惣太郎の冴子に対する感情はこれだった。

すでに、こっそりと所有して、一人での悦楽に倦怠がきそうであったから、浩二やほかの男達に、こっそりと見せて、冴子の美しさや、良さを再
発見したのであるが、だが………と今は考える。結果的には、満足すべき結果をもたらせてくれたのであるが、それは冴子を思慕していた連中
を選んだので、冴子に夢中になるのは当然のことであった。本当の魅力を引き出すには、展覧会に出して、不特定多数の男達が、冴子の美し
さにどう魅了されるかである。 

初対面の男が妻の魅力に惑乱して、狂ったように妻の身体にむしゃぶるつく。とまどいながらも、悦楽の誘惑に抗しかねて、おずおずと応じ
はじめた妻が、やがて官能の業火に溶かされて咆哮を放って悶え狂う。惣太郎はいま、そんな異常な交合を覗き見ている自分を想像する時、
不意に高まる熱さ、下全身からわきおこる細胞のふくらみ、嵐のような鼓動のたかまり………想像しただけで身悶えするようなこの官能の波浪の
うねりは、一体どういうことなのだろうか。そう考えただけで、どんなことがあっても、ぜひそれを実行してみたい欲望に駆られる。

しかし、妻は骨董ではない。骨董と違うところは、美が不変ではないということである。
他人が美を見つけるのは、個人差があり、それぞれで美の対処も変わって行く。幸い現段階では、冴子という美の対象は、他人に與える度に、
その美しさと魅力を増しているが、果して、全くの第三者に與えた場合、冴子の美しさ、たおやかさ、豊饒な肉体が、賞味されるかどうあか、
これは大きな賭である。

不特定の第三者といっても、古美術に素養のない者に骨董展を見せても、下手をすれば食器と間違えて、それでお茶を飲んだり、飯を喰った
りされてはかなわない。ひょっとすると、扱い方も知らずに割られてしまう恐れもある。
冴子の場合も、対処によっては、壊れる恐れもある。冴子の良さを理解できる素養とは、冴子の純真さを慈しみ、相手も、健康で、清潔で、
後腐れがない、さらに惣太郎も好感の持てる人物で、その上、これまで冴子に逢ったことがない人物であることが必要である。

はじめて出逢った瞬間に、互いに好感の火花が散るような衝撃があり、男は没我になって妻にのめりこんでいく。美の発見は衝撃的なほど効
果的である。出来ることなら、これぞと思う男の前に、妻の美しい裸体を、突然、つきつけて、呆然とした男が、憑かれたように抱きしめる。
そのとき、自分は、妻に魅了されて朦朧となっている男に抱擁されて悶える妻に、どれほど新鮮な魅惑を覚えるだろうか。考えるだけでも身震
いを感じる。しかし、これは無理なはなしである。

いずれにしても妻の飢えをいやさなければならない。浩二は滅多に上京してこないから、田宮に頼むことも考えたが、今の田宮は、帰国を前
にして多忙を極めていた。劉のことも考えないではなかった。妻は浩二と劉とどちらを本当に愛しているのだろうか。多分妻は、いまは劉の方に
愛着を抱いているような気がする。浩二とは、二月に一度でも情を交わすのを許してあるし、もし妻が浩二に逢いに大阪に行くと行ってもたぶん
自分が許可を与えるであろうことぐらい妻は識っているかが、劉とは逢うことも電話で話す子とも禁じてあった。

劉に嫌悪を抱いたわけではない。紳士的で、性格がよく、清潔で若く、いままで妻に与えた男の中では一番好感がもてた。若鹿のような滑ら
かな琥珀の肌と、ひきしまった肢体は男の惣太郎がみても魅了的だったし、第一、やがて学校を出ると台湾に帰るという尾を引かない交際が魅
力だった。いま一番妻の飢えを癒すには適した男であることには違いない。

しかし劉と妻は、あのまま放置しておくと狂う心配があった。肉の関係が出来で、互いが愛し合うのは当然なのだが、浩二や田宮、ラサールや、
ヴエンの場合は、その愛はまだ浮遊状況だったが、劉との場合は極限状況だった。あのままでは二人は一時的にしろ狂ってしまう恐れがあった。
精神的でも、妻が劉の所有物になってしまうのは防がなければならなかった。冴子はあくまで自分の妻であって、自分に寄り添い、自分の意志で
動き、自分のために美しくなければならない。
 肉体的にも、精神的にも自分の所有物だからこそ、その蠱惑的魅力が、自分だけでなく他の男をも魅了してやまない最高のものであることを再
発見欲望の果てに
  1. 2014/12/03(水) 08:44:00|
  2. 花濫・夢想原人
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花 濫 第12章欲望の果てに2

 惣太郎の日曜日の朝は遅い。
 翌日の仕事を気にすることなく、雑誌社や出版社の依頼原稿を書ける土曜の夜は彼にとって貴重な時間である。やすむのが黎明の白む頃に
なることも珍しくはない。若い頃は、翌日のことなど全く気にせず、依頼のあった原稿を徹夜で書きまくり、翌日平気で登校したものだが、五
十歳近くなると、到底そんな芸当は出来ない。
 冴子が嫁いで来た頃には、夕飯の後、夜半まで冴子を抱いて、堪能するまで愛媾の悦楽に耽けり、その後、習慣になっている深夜の珈琲
を二人で楽しんでから執筆にかかったものだが、今では嘘のように思えてくる。
 一二時過ぎのティータイムだけは、今でも続いているが、昔と違うのは、夕食後は互いの存在すらしらぬげに、それぞれ別の部屋でひっそ
りと自分のしたいことに専念していて、男と女の対の住処ともおもえぬ静けさである。ほとんど惣太郎は自分の書斎で執筆を続けており、冴子は
家事を終えると、最近興味をおぼえている趣味の植物画を書くのが習慣になっていた。一二時前になると、冴子が絵を書くのを終えて、
 「お茶にします? 」
 書斎の襖をあけて、机に向かって背を丸くしている惣太郎に後ろから訊く。うん……といえば珈琲で、執筆を一二時で終えるときには、酒がい
い……と答える。

酒だと、冷えきった家に、ぽっと火がついたように、夫婦の会話がはじまり、冴子は安堵するが、珈琲だと、黙って書斎の机の隅に珈琲茶碗と
砂糖をおいてくるだけで、また、もとの静寂が家を包んでしまう。
 そういう夜は、冴子は独り風呂に入り、先にベットに入る。こういう隠遁生活のような静謐に冴子は厭気を憶えるわけではないが、独り冷たい
ベットの中で、あたしは一体なんのために生きているのだろう、と反蒭することが最近よくある。
こういう夫の隠遁のような静謐な生き方は、いまさらはじまったことではなく、冴子の育った実家の父も夫と同じ静謐な隠遁生活だったので、ほ
かの人はともかく、冴子にとっては、それが平常の馴れた生活だった。しかしここ一年半、別世界にまぎれこんだような、男達との荒れ狂うよう
な生活が、冴子自身をつくりかえてしまったのだった。
 これでは老人夫婦の生活と同じではないか。いや、年老いた夫婦の生活でさえ、生活をエンジョイする工夫があるはずだ。夫の生活には慰謝
がない。学者なのだから学研に没頭するのは当然のことだが、もうすこし夫婦の間に意志の疎通がてもいいではいか。夫にとって自分は一体ど
ういう存在なのだろう。

夫が男性を喪失してしまったのであればいざ知らず、つい半年前までは、浩二や田宮、それに劉、ラサール、ヴエンといった若い男達に互し
て自分にいどみかかってくる体力があったではないか。それが半年くらいでにわかに失われるとは考えられない。火をつけておいて平気で急に放
ったらかすほど夫は底意地悪いひとではないのだが……。もしかしたら、夫の中で何か心の葛藤でも起こったのだろうか。
 もしかしたら………、冴子は深紅の絵具をたっぷりと含ませた筆の動きを止めて、ため息をついて考えた。ここ数年、まったく性に関心を示さ
なかった夫が、田宮の一件以来、人変わりがしたように好色で、精力的になってきた。それが、いまでは元の静謐な男に戻ってしまったのは、
夫は自分の妻をほかの男に抱かたせた時にのみ性的興奮を感じる性的性癖の持ち主なのではいのだろうか。もっと善意に解釈すれば、あの刺
激的な性宴に、夫は残った性的エネルギーを消耗し果たしたのかも知れない。
 しかし、夫はそれでいいかもしれないが、火をつけられたままの自分を夫はどう思っているのだろう。それほど無責任な人ではなかったはず
だが……。
 気をとりなおして筆をはしらせていると、遠くでサイレンの音が聞こえていた。深紅のダリアの花を塗っていた冴子の掌がまたとまった。ときど
き、おこりのように突然躯の中の血がたぎりだすことがある。いまがそうだ。突然、禁断症状の薬物中毒患者のように、躯が男の匂いを求めて狂
いはじめる。        
 それを冴子は悪病の発作のようにうけとめて必死にこらえる。しかしいったん躰の血を逆流させる発作がおこると、冴子の顔には血の色がぽっ
と滲みだし、躯が火照って落ちつきがなくなってくる。考えてはいけないと思いながらも、火照りの熱さのなかで冴子は、男達との歓楽の眩暈を
躯が自然に反蒭しはじめ、わが身をもてあましてしまう。過ぎ去った男のことを反蒭することは有夫の女としてはいけないことだ、あれは夢だっ
たのだと考えながらも、そうした観念とは別に?が自然に男を需めてとめどなく潤んでいく。
 いますぐ男が欲しいといった情態ではなかったが、これからさき男なしで生きていけないと思った。夫が相手にしてくれないとすれば、いずれ
別の男で自分を昇華させる以外ないと考えた。                      

 浩二はその後ロンドン出張から帰り、今度は大阪に転勤になっていた。
 二月に一度ぐらいは出張で上京してくる。上京するとかならずこの家に泊まり、当然のように冴子を抱く。この前やってきたときには、夫は千葉
に出張して不在だった。一夜、浩二の肉を包み込んで冴子は飢えをいやした。あれからもう二月過ぎるが、浩二は上京する気配はない。
 田宮は先週一時還っていたアメリカから戻ってきた。しかし近日中に正式にアメリカの大学に帰る事になって、その準備に多忙である。劉やグ
エン達は、思い出したように電話はくれるが、ここにいた時だけで、あとははっきりとけじめをつける、という夫との約束があり、そう簡単には近づ
けない。

 しかし劉には逢いたい冴子は思った。本当は大阪の浩二に一番逢いたかったが、大阪まで行く理由を夫に告げることは不可能だった。劉なら、
いまの下宿も学校も電話番号がわかっているし、逢いたいといえば飛んでくることは確実だった。実は夫の留守中に劉は何度も電話してきていた。
奥さんに逢いたい、死ぬほど逢いたい、と電話の向こうで熱い想いをうったえ続ける声が、冴子の耳に灼ついていまもはなれない。半年前、偶然、
新宿で劉に再会して以来、劉からは何度も電話があった。電話だけでなく、夫のいない時間に、この家に訪ねて来たことさえある。
 あれから半年が過ぎたが、劉はいまでも自分のことを思っているだろうか……。女は、たとえ自分にとって不要で迷惑な男でも、自分のことを
忘れられるのは恥辱だった。まして冴子にとって劉は、忘れることの出来ない存在だったから、その思いは一層深かった。いままでも何度か、今
のように躯が火照ってきた時、こちらから連絡をとってみようかと思ったことがあったが、夫を裏切る恐ろしさの方がさきにたって出来なかったので
ある。 

 劉に明日連絡をとろう………。冴子は、床の間の牡丹の花につぶやいた。わたしが悪いのではなく、私の躯に火をつけた夫が悪いのだから、
夫が逢うことを禁じていても、夫とかかわりのない場所で劉と自分だけの世界で昇華させてもらったとししたら、夫は怒るだろうか。もしそうなっても、
偶然劉に会って、そうなってしまったと言ったら………。夫は、もし怒ったとしても、夫婦関係に亀裂が生じるような激しいものではない筈だ。
 そもそも原因をつくったのが夫なので自分は被害者の立場なのだから……。                    
 そう思いながら、冴子は自分のなかに頽廃が見えて、いつも最後には苦い思いで、劉と逢うのをとどまるのだった。

 今夜は酒にしよう、と惣太郎は冴子に襖越しに告げた。来月の学会で報告する「岡山と広島の方便にみる源平合戦の影響」という百枚近い
レポートを纏めていたが、昨夜まで連日続けていた三学期の期末試験の採点で、疲労が溜っているらしく、これ以上続ける意欲を喪失したのだと
いう。
 欠伸をこらえて、卓上を整理した時、廊下に擦り足の音がした。今夜の冴子は浴衣だなと惣太郎は頭の片隅で思った。着物と洋服では足音が
違う。冴子の場合特に着物の時の足音が楚々としてきれいだった。              
 襖が開いたので、椅子から立ち上がり振り向くと、果して、茄子紺の菊模様の浴衣に縮緬の芥子色の帯をしめた冴子が、片膝を折って、座り
机に料理を載せた盆を置くところだった。風呂からでたばかりらしく、妻の動きに石鹸と化粧の匂いが部屋に立ちのぼった。                        
 やや俯き加減で、横の座り机に銚子や肴を並べている妻の後ろ姿を見おろしながら、惣太郎は椅子に座ったまま煙草に火をつけた。最近、心境
の変化でもあったのか、冴子は腰のあたりまで伸ばしていた長い髪を思いきりよく切って、顎のあたりまでのカールした。そのため、後ろから見ると、
いままで気付かなかった白い襟足が、妙になまめかしく見える。

男達と性宴に狂奔していた頃の、発情の淫糜な匂いを全身からただよわせているような妖しい魅力は、最近なくなったようだが、そのかわりに、
熟した果物のような芳香を放ち、もぎ取られるのを待っているような、瑞々しいしたたるような色気が全身に匂い立ち、大輪の牡丹が咲き誇ってい
るような成熟した女の魅力がでていた。
 もとはほっそりとした身体つきで、清楚な容姿が魅力的だったのだが、最近では、しこしことした固肥りになって、白磁のような光沢のあった肌
が、今ではさらに白さを増し、ぬめぬめと吸いつくような凝脂を浮かせて妖しく照りはえている。それに肩にも腰にも腿にも、女らしいやわらかく
なめらかなまるみがでてきた。

「この間九州出身の学生さんからいただいたからすみです……」      
薄く切ったからすみに、赤い小粒の梅干しをあしらった九谷焼の小皿と、信楽の徳利二本を置いた。
「熱いうちにどうぞ……」
徳利を取り上げ、小首を傾げてにっこりとほほえみながら、わずかに肩をいやいやをするように揺すって、自覚のない女のコケティシュをみせる
妻のしぐさを見て惣太郎は、これでは放っておけないな……、と考えた。

男の女への感情は、最初、生理的に花の蜜に吸いよせられる虫のように、女性への思慕から始まる。惣太郎の冴子に対する感情もここからはじ
まった。続いて思慕は所有に変わった。それは美しいもの、快楽を与えてくれるものへの独占欲であった。

しかし、所有に成功し、絶えず身近に対象があり、愛でているうち、美しさも快楽も麻痺して来る。ここに人と動物の完全な差を見いだすことが
出来る。ひともここまでくると、その所有に飽きて、他の対象を求める者、別の新鮮な視点で、もい一度対象を見直し、その美や快楽を更新しよ
うとする者に別れる。

惣太郎は後者を選んだ。理由は、自分が老いて、もう他の花を捜す力が弱っていることと、対象が、たぐいまれな逸品であるため、丁度、
骨董の銘品のように、自分が見飽きても、他人に見せることで、新たな価値を再発見するように、時には、展覧会に出品して、大勢の他人が涎
垂の眼で対象を見るのを見て、新たな魅力を見いだす。惣太郎の冴子に対する感情はこれだった。
すでに、こっそりと所有して、一人での悦楽に倦怠がきそうであったから、浩二やほかの男達に、こっそりと見せて、冴子の美しさや、良さを再
発見したのであるが、だが………と今は考える。結果的には、満足すべき結果をもたらせてくれたのであるが、それは冴子を思慕していた連中
を選んだので、冴子に夢中になるのは当然のことであった。本当の魅力を引き出すには、展覧会に出して、不特定多数の男達が、冴子の美し
さにどう魅了されるかである。 

初対面の男が妻の魅力に惑乱して、狂ったように妻の身体にむしゃぶるつく。とまどいながらも、悦楽の誘惑に抗しかねて、おずおずと応じ
はじめた妻が、やがて官能の業火に溶かされて咆哮を放って悶え狂う。惣太郎はいま、そんな異常な交合を覗き見ている自分を想像する時、
不意に高まる熱さ、下全身からわきおこる細胞のふくらみ、嵐のような鼓動のたかまり………想像しただけで身悶えするようなこの官能の波浪の
うねりは、一体どういうことなのだろうか。そう考えただけで、どんなことがあっても、ぜひそれを実行してみたい欲望に駆られる。

しかし、妻は骨董ではない。骨董と違うところは、美が不変ではないということである。
他人が美を見つけるのは、個人差があり、それぞれで美の対処も変わって行く。幸い現段階では、冴子という美の対象は、他人に與える度に、
その美しさと魅力を増しているが、果して、全くの第三者に與えた場合、冴子の美しさ、たおやかさ、豊饒な肉体が、賞味されるかどうあか、
これは大きな賭である。

不特定の第三者といっても、古美術に素養のない者に骨董展を見せても、下手をすれば食器と間違えて、それでお茶を飲んだり、飯を喰った
りされてはかなわない。ひょっとすると、扱い方も知らずに割られてしまう恐れもある。
冴子の場合も、対処によっては、壊れる恐れもある。冴子の良さを理解できる素養とは、冴子の純真さを慈しみ、相手も、健康で、清潔で、
後腐れがない、さらに惣太郎も好感の持てる人物で、その上、これまで冴子に逢ったことがない人物であることが必要である。

はじめて出逢った瞬間に、互いに好感の火花が散るような衝撃があり、男は没我になって妻にのめりこんでいく。美の発見は衝撃的なほど効
果的である。出来ることなら、これぞと思う男の前に、妻の美しい裸体を、突然、つきつけて、呆然とした男が、憑かれたように抱きしめる。
そのとき、自分は、妻に魅了されて朦朧となっている男に抱擁されて悶える妻に、どれほど新鮮な魅惑を覚えるだろうか。考えるだけでも身震
いを感じる。しかし、これは無理なはなしである。

いずれにしても妻の飢えをいやさなければならない。浩二は滅多に上京してこないから、田宮に頼むことも考えたが、今の田宮は、帰国を前
にして多忙を極めていた。劉のことも考えないではなかった。妻は浩二と劉とどちらを本当に愛しているのだろうか。多分妻は、いまは劉の方に
愛着を抱いているような気がする。浩二とは、二月に一度でも情を交わすのを許してあるし、もし妻が浩二に逢いに大阪に行くと行ってもたぶん
自分が許可を与えるであろうことぐらい妻は識っているかが、劉とは逢うことも電話で話す子とも禁じてあった。

劉に嫌悪を抱いたわけではない。紳士的で、性格がよく、清潔で若く、いままで妻に与えた男の中では一番好感がもてた。若鹿のような滑ら
かな琥珀の肌と、ひきしまった肢体は男の惣太郎がみても魅了的だったし、第一、やがて学校を出ると台湾に帰るという尾を引かない交際が魅
力だった。いま一番妻の飢えを癒すには適した男であることには違いない。

しかし劉と妻は、あのまま放置しておくと狂う心配があった。肉の関係が出来で、互いが愛し合うのは当然なのだが、浩二や田宮、ラサールや、
ヴエンの場合は、その愛はまだ浮遊状況だったが、劉との場合は極限状況だった。あのままでは二人は一時的にしろ狂ってしまう恐れがあった。
精神的でも、妻が劉の所有物になってしまうのは防がなければならなかった。冴子はあくまで自分の妻であって、自分に寄り添い、自分の意志で
動き、自分のために美しくなければならない。

肉体的にも、精神的にも自分の所有物だからこそ、その蠱惑的魅力が、自分だけでなく他の男をも魅了してやまない最高のものであることを再
発見するために、惣太郎は危険を犯してまで妻を他の男に抱かせたのである。妻が他の男の愛に盲従して、その男の所有物になってしまったら、
すべてが崩壊する。

しかし、と今夜の惣太郎は反蒭していた。あれほど愛し合ったふたりが、本当にあれ以来、ぷっつりと糸が切れたように思いを絶ち切れるものな
のだろうか。妻は自分に従順だから出来るとしても、あの一途な劉が、そう簡単に妻を忘れるはずがない。だが、どう思い返してみても、妻の様
子に不審な点はなかった。あの頃、妻は、充分すぎる官能に堪能していたから、もしかして、劉とのことも、一時の感情であったのかも知れない。
あれだけの数の男に毎日昇華されていれば、一人の男に夢中になる情緒など失われて当然だ。だとすると妻の方から積極的に劉を慕うことはな
いから、劉がしつこく言い寄ってきたとしても、妻が相手にしないことは充分考えられる。

それにしても、劉がその後、言い寄って来たという話は、何でも話す妻の口から洩れたことはない。あれほど夢中になっていた劉が、あれ以後
一度も妻に連絡をとらないはずはない………。
「その後、劉やラサールやヴエンから連絡はないか? 」
惣太郎は杯を差し出しながら妻に訊いた。訊きながら、妻の表情に注意した。しかし、急な話題の転換に驚いて夫の顔を見上げた妻の表情に翳
はなかった。
「ええ、ありません。若い人たちだから、きっともう新しい環境の中で、新しい世界に入って行って、あたしたちのことは忘れてしまったのね、き
っと……」

一瞬さびしそうな表情で眉根を曇らせただけだった。
「逢いたいとは思わないかね」
杯を干した夫の目が、すこし悪戯っぽく微笑して、冴子の顔をのぞき込んでいた。心臓の鼓動が、夫に聞こえはしないかと冴子は思って目を伏せ
た。夫はもともと感の鋭い人だがどうしてわたしの心の奥底を見破ったのだろう。顔が上気して色づいていくのが自分でわかって顔があげられなか
った。

「やはり、逢いたいのか、……そんなに赤くなることはない」
笑いながら夫がいった。もう隠しようがないと冴子は思った。
「だって……、あのまま……でしょう……」
言葉にならなかった。肯定したことで、それまで漠然と考えていた劉への思慕が、突如、冴子の中で現実味を帯び、切実な問題として沸騰してき
た。するために、惣太郎は危険を犯してまで妻を他の男に抱かせたのである。妻が他の男の愛に盲従して、その男の所有物になってしまったら、
すべてが崩壊する。

しかし、と今夜の惣太郎は反蒭していた。あれほど愛し合ったふたりが、本当にあれ以来、ぷっつりと糸が切れたように思いを絶ち切れるものな
のだろうか。妻は自分に従順だから出来るとしても、あの一途な劉が、そう簡単に妻を忘れるはずがない。だが、どう思い返してみても、妻の様
子に不審な点はなかった。あの頃、妻は、充分すぎる官能に堪能していたから、もしかして、劉とのことも、一時の感情であったのかも知れない。

あれだけの数の男に毎日昇華されていれば、一人の男に夢中になる情緒など失われて当然だ。だとすると妻の方から積極的に劉を慕うことはな
いから、劉がしつこく言い寄ってきたとしても、妻が相手にしないことは充分考えられる。

それにしても、劉がその後、言い寄って来たという話は、何でも話す妻の口から洩れたことはない。あれほど夢中になっていた劉が、あれ以後
一度も妻に連絡をとらないはずはない………。
「その後、劉やラサールやヴエンから連絡はないか? 」
惣太郎は杯を差し出しながら妻に訊いた。訊きながら、妻の表情に注意した。しかし、急な話題の転換に驚いて夫の顔を見上げた妻の表情に翳
はなかった。
「ええ、ありません。若い人たちだから、きっともう新しい環境の中で、新しい世界に入って行って、あたしたちのことは忘れてしまったのね、き
っと……」
一瞬さびしそうな表情で眉根を曇らせただけだった。
「逢いたいとは思わないかね」
杯を干した夫の目が、すこし悪戯っぽく微笑して、冴子の顔をのぞき込んでいた。心臓の鼓動が、夫に聞こえはしないかと冴子は思って目を伏せ
た。夫はもともと感の鋭い人だがどうしてわたしの心の奥底を見破ったのだろう。顔が上気して色づいていくのが自分でわかって顔があげられなか
った。
「やはり、逢いたいのか、……そんなに赤くなることはない」
笑いながら夫がいった。もう隠しようがないと冴子は思った。

「だって……、あのまま……でしょう……」
言葉にならなかった。肯定したことで、それまで漠然と考えていた劉への思慕が、突如、冴子の中で現実味を帯び、切実な問題として沸騰してき
た。
「一度逢ってみるかい?」
夫の言葉が、突然、耳元で鐘楼が鳴り響いたように冴子には聞こえ、思わず夫の前もかまわず冴子は涙ぐんでいた。
しかし、その後、このことに関しては期待が裏切られ、冴子は夫から劉の一言も聞くことはなかった。
  1. 2014/12/03(水) 08:48:17|
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花 濫 第12章欲望の果てに3

庭の椿が満開だった。ことしは暖冬だったせいか花付きがいい。買い物に冴子も出かけて、森閑とした土曜日の午後の書斎で、惣太郎は机に
向かったまま、ひとり椿の花の落ちる音を聴いていた。
卓上の原稿用紙の上に一通の書簡があった。先程郵便屋のバイクの音に惣太郎がとってきたものである。大学の後輩である田辺勇夫からのも
のだった。
卒業してから、東京の教職員試験に合格したにもかかわらず、自分から志願して海外青年協力隊に入り、インドを皮切りに、東南アジア各地の
日本語学校を渡り歩いていたのだ。

四〇歳になってから北京の国営の日本語学校の教師になっていた。任期が切れたが、中国政府の要請で、もう三年ばかり延長するが。節目で
もあるので、一度帰国しようと考えていたところ、実家の両親の執拗な要請で、やむなく今回はじめて見合いをする。
生涯独身で遊びたいと考えていたが、自分でもそろそろ年貢の納め時だと思っているから、いい娘なら結婚してもいいと考えている。
今中国ではコンピューター関係の図書が不足しており、その翻訳をしたいから、ぜひ先生のご協力をお願いする。些少だが中国政府からも翻
訳料も支払われる。約一か月先生のご指導をお願いしたい。


東京在住の同窓生である矢島の所に転がり込むはずだったが、胃がんで入院中で駄目だったので、これから下宿先を探すことにしている、とい
う内容だった。
英文科と違って、専攻の少ない彼の専門である言語学教室では、卒業生の名簿を繰るまでもなく、十年前までなら、ほとんどの学生を名前だけ
でなく思い出すことが出来る。言語学教室だが、彼は別の口座で中国語を専攻していた。言語学とか中国語とか、当時、他の学生に人気のない
科目を専攻した方が得だと思って惣太郎と同じところを選んだという彼の打算的な考えが印象に残っている。

背が高く、いつもジーパンをはき、よれよれのシャツを着ており、刻みの深い美しい瞼の陰に男らしさを秘めた眼が、ちょっと凄みをもって見据
える癖のある、野獣のような逞しい青年だった。
 優等生でも学研の徒でもなく、普通の現代風の学生だったから、惣太郎との付き合いも一般的な教師と学生の範疇をでることはなかった。その
上、女子学生を妊娠させて、親からの訴えで教授会で問題になったこともあり、どちらかというと学校としては敬遠したい学生だった。

惣太郎とは、むしろ学校を卒業しからの方が付き合いが深い。数年前に惣太郎が文部省に研究費補助を申請していた「ヒンズー族の語源につい
て」の研究が認可になり、大学から六名の調査隊をインドの奥地に派遣したことがある。惣太郎は団長として学問以外の庶務や現地での食料、宿
などの調達という重荷を背負った。その時、ふと青年海外協力隊員として現地にいた彼を思い出して協力を要請したところ、彼は快諾して、一ヶ月
の滞在中、親身の世話をしてくれて大助かりした。

その時会った田辺は、学生時代よりさらに逞しくなった感じで、青白い顔の多い言語学専攻学生とは思いも及ばない。もう一歩で長髪族とみまち
がえられる長い伸びほういだいの髪で、口髭をはやし、前からすごみのあった視線が雄豹を思わせるような強さを増し、全身が陽灼けした逞しさに
輝いていて、一見アラブ人かインド人のような野生味を帯びていた。反面、学生時代の不良っぽい軽率さがなくなり、律儀で沈着で知性な探検家
のような風貌に変わっていた。

約一ヶ月の間一緒に生活して、学生時代には想像もつかなかった親密な仲になった。その田辺勇夫が帰ってきて、自分に頼ることがあるというなら、
本気でやってやらなければと、またひとつ、聞こえるか聞こえないほどの微かな音を立てて落ちた赤い椿の花を眼で追いながら惣太.
郎は考えていた。

三枚の再生紙らしい粗末な中国の便箋を封筒に戻しかけて、ふと惣太郎の手が止まった。最後の便箋に書かれていた田辺の見合の件が、ふと気に
なった。相手は偶然だが同窓の六年下の英文科卒業の娘で、卒業後は、銀座にあるわが国最大手の旅行会社の本社に勤めていうrOLである、と書
かれていた点である。

あの野獣のような逞しい青年と、銀座のなよやかなOLとを想い重ねた時、なぜか、その見知らぬOLの替わりに、自分の妻冴子が重なったのである。
無意識に重なった、日焼けした田辺の勁逞な身体と妻の軟弱な肢体の幻影に、思わず惣太郎の胸がどきんと動悸を打った。
自分の秘宝を試す機会があった。                    
晴天の霹靂のように、それまで安穏としていた惣太郎の心が乱れはじめてきた。
そうだ、田辺勇夫は冴子を知らない。冴子も田辺勇夫については全く無知である。田辺は今年四〇歳。美しいものを的確に判断する審美眼は備わ
っている。
涯嫁は貰わずに女性遍歴をしたいというほど多情である。実際にその方n経験も豊富で、女を見る目は肥えている。その田辺が冴子をどう見るか。
 
これは重大な事だぞ、と惣太郎は高鳴る新造の音を自分で聴きながら煙草に火を付けた。
野獣のように逞しい田辺が、憑かれたように冴子の白い裸体に重なっていく幻影が、眼の前の出来事のように惣太郎にははっきりと見える。巨樹の
ねじれた根のような頑強で巨大な陰茎が、冴子のふっくらと盛り上がった肉丘の割れ目を強引に開いて突き入っていく。冴子の悲鳴が部屋に響き、か
細い腕が田辺の太い頚に回され、力なく開かされていた冴子の白い脚が痙攣しながら田辺の躍動する腰に、しっかりと巻き付いていく ……。

惣太郎の夢想は、しだいに現実味を帯びて無限に広がりはじめた。
その時には、冴子は最高に美しくなければならないが、二十九歳の女性遍歴も豊かな田辺を果たして惑わすに足りる美しさで対処出来るだろうか。
自分は最高に美しいと信じているが、考えてみれば冴子も、もう二十七歳である。子供も生まないので若さは衰えていない。目尻に皺もないし肌も
輝いている。人並以上に盛り上がった乳房もまだゴム鞠のような弾力を失っていない。腰のくびれやすんなりとした脚や逞しい太腿も魅力的である。
それ以上に惣太郎が自慢に思っているのは、若い男との情交で醸し出された、男に対する無意識の所作である。

無意識というのは、冴子が努力したり演技したりするのではなく、ひとりひとりの男と無垢な心で真剣に交わっている間に体得したテクニックでも
なく、男達から引き出された冴子に潜在されていた天性の淫蕩な媚態が自然のうちに露呈してきたのだった。
例えば、男達が冴子を抱こうとするとき、長い髪の間から上質の香油を溶かしたような艶を湛えた瞳を少し眠らせて凝っと見上げられると、男達
何とも言えず濃い肉感がうごめき出して来て、憑かれたように冴子に吸い込まれる。また、男に磨かれた滑らかで柔らかな肌を、羞恥の姿態でし
をつくるとき、男には冴子の優雅な姿態全体が、香ぐわしい美食を盛った器のように見えて、思わず生唾を呑み込むのを惣太郎は幾度も見ている。

かって劉、ラサールなど、毎晩淫蕩の限りを尽くしていた時に現れた、陰微に落魄した立居振る舞いも最近は消えて、昔の清楚な挙措に還って
いるが、それにしても、一瞬で田辺を収攬するには、まだまだ妻を磨く必要がある。
今更容姿を変えることは出来ない。なんといても妻冴子の女としての魅力は、技巧のない純真な性交の姿態にある。情交時の最高度に魅力ある
冴子を見たのはいつだっただろうかと惣太郎は考えてみた。

いづれも冴子がはじめての男と情交をかわす時の羞恥を含んだ、それでいて純真な大胆さで男を受け入れているときである。いままでの妻の相
手は、妻が好ましいと思っている相手ばかりだから、妻に期待感があった。やっと想いが充たされるという興奮と羞恥が解け合って、あの得も言わ
れぬ淫奔な解けるような姿態になるのだった。

しかし今度は違う。なにしろ見たことも聞いたこともない男が、いきなり目の前に現れて、それと交わるという前代未聞の事態が起こるわけだから、
冴子には期待感も事前の欲望昴揚といったものはない。下手をすれば恐怖に顔を歪め、逃げるかも知れない。
それを事前にどうして調整するかが問題だ。田辺の魅力を妻に教え込んで、妻が先に媚態をとったのでは、秘宝をどう他人が見るか試す事には
ならない。生の妻をそのまま見せなければ意味がない。

だが、どんな秘宝でも、他人に鑑定させる前には、必ず磨き抜いて秘宝の真価を出来るだけ引き出し安くするのが普通だ。しかし女という秘宝
は、どうして磨けばいいのだろう。

惣太郎は、ここまで考え及んで、煙草に火をつけた。もう論文をまとめる意欲は失われていた。立ち上がると、書庫の中から録音テープカセット
収納箱を取り出した。今まで集めた方便を記録したテープの一部である。惣太郎の収集したテープは、北海道のアイヌの各部族から沖縄まで五百本近いが、二十
本ほどカセットの入ったこのケースは、全部未整理と朱で書かれていて番号と記号だけしか打っていない。惣太郎は、その中からRUという記号のカセットを取り出し
て、テープデッキに入れた。
スピーカーからジーツと微かなノイズ音がしばらく聞こえていたが、    

「いやよ……」                           
いきなり妻の短い声が聞こえて、家具の軋るような音がした。妻が何かを拒否している様子だが、その声は決して本気で拒否をしている声ではな
く、なにか甘い響きがある。
「……着物の袂というのは、こういうことをするために開けてあるの? 」
笑いを含んだ劉の声だ。
「馬鹿ね……。ああ……」
妻が劉にどこかを触られて思わずため息を漏らした。その後は、衣類の触れる音や畳の下の板がきしる音に交じって、時々舌打ちをするような
短い唇の吸音が聞こえるところをみると、明らかに妻と劉は長い接吻をしているようである。

時計の振り子の音が聞こえているので、ふたりがそのために毎夜のように使っていた階下の玄関横の和室であることも判った。一体ふたりはどんな
姿態で接吻しているのだろうか。衣類の触れあう音ではなく、あるいは布団が、二人の動きで揺れる音かも知れない。
惣太郎は浩二や田宮の場合のように、妻と劉の媾合の現場にいたことはない。今テープで聞くのと同じように、二階の書斎や、時には和室の襖の
外の廊下で立ち聞きしただけである。

ただ一度だけ、ある冬の寒い夜、書斎にいたら、いつもとは違う、発狂でもしたような激しい妻の嬌声に驚いて、足音を忍ばせて階下に降り、襖
をそっと少し開けて、中の様子を窺い見たことがある。
その時は、胡座をかいて布団の上に坐った劉の上に妻が跨った座位で、ふたりは激しく動いていた。くの字に曲がった妻の両脚が劉の腰を挟んだ
まま激しく揺れていた。火の気もない和室の底冷えの中で二人は全身に汗を流していた。劉の肩に両手を回して長い髪を後ろに垂らしてのぞけった
妻は、かろうじて妻の背に回された劉の両手で上体を支えられていた。

激しい痛みにでも襲われているように眉間に深い立て皺を寄せ、咆哮を放ち続ける大きく開いた口からは涎が流れていた。
ちょうど妻の背が斜めに見える位置で、妻の表情も斜めからしか見えなかったが、劉の顔は斜めではあるが、惣太郎が覗いている襖の方を向いて
いたので、気付かれる恐れがあり、ほんのわずかの時間しか惣太郎は盗み見しなかった。しかし、短い時間だからなおさら、底冷えのする寒い夜
に、火の気もない和室で、全身に汗を流して狂喜の媾合をしてる二人の姿態を、いまでも鮮烈な印象となっている。

「……冬休みの間が長かった。台湾にいても奥さんに会いたくて……、今日ここにきて奥さんに会うと、もう……こうなっちゃって……食事の時なん
か、先生に見つからないかと気がきでなかった……」
「まあ……」
くすん、と笑う妻の声がした。多分、劉が勃起した自分のものへ妻の手を導いたのだろう。
「あたしも会いたくて……。あなたを見た時、思わず顔が紅潮したのが自分でもわかったのよ」
「わかってます。今日の奥さん、いままででいちばんきれいだった……」

切なそうな妻の聞き取れない鼻声がして、ふたりはまた接吻を始めたようだった。テープはしばらくノイズ音しか伝えてこない。
惣太郎は、このテープは、劉が冬休みで台湾に帰省して帰ってきた時のものであることに気付いた。
惣太郎も、あの夜のことははっきりと覚えている。冬休みに入って、浩二は広島に劉は台湾に帰省し、ヴエンもラサールも帰省しない留学生のた
めに開かれた蔵王のスキーキャンプに行って、荒れ狂っていた妻の淫奔な生活が、俄に静謐になった後だった。それまので毎日の乱交は、妻に凄
艶な美貌を与えそすれ、商売女がみせる頽廃や淫蕩な落魄したような変化はなかった。

しかし、惣太郎は約半月の禁欲生活を余儀なくさせられた妻の容貌に、明かな変化が現れているのに気付いた。それまでの昼夜を分かたぬ淫乱
の限りを尽くしているあいだの妻は、平素でも、なにか悦楽の余韻を含んだような目に潤みがあり、妻の全身からは妖し気なメスの匂いが立ちの
ぼり、その原因はどこからと指摘出来ないままに、雰囲気にむせ返りそうになる妖艶さであったが、禁欲を続けると、濡れたようの目の潤みが、
いつの間にか、きらきらと輝いくる。

姿態も、それままでの体液をしたたらせているような湿った軟らかさとは違い、甘酸っぱい若い女の匂いが内部から照りはえてくるような薄い皮膚
が艶やかになり、動作も敏捷になってきた。妖艶さよりも、こりこりとした若い女の肉の匂いに、惣太郎でさえ口内に唾のたまってくるような食欲に
通じる性欲を感じさせるような魅力が出てきた。                             

新年会から惣太郎が帰宅して、ひと風呂浴びて茶の間に戻るため廊下を歩いてきたら、玄関で劉を迎えた妻が、劉に寄り添うようにして茶の間に
入るのとかち合った。その時、昏い廊下から明るい茶の間の灯に照らされた妻の顔を見て、惣太郎は一瞬、それが先ほどまでの妻かと疑うほど輝
いているのに驚いたのを思い出した。

先ほどまで白かった妻の顔が、目元に血の赤さを染め、目がぽっと潤み、全身がどことなく華やかさに匂い立っている。女の精が劉の男に触発さ
れて一瞬にして身体中に拡散したような感じがあった。劉に座布団を出す拍子に腰をひねった姿勢までなまめかしい。そして座布団を受け取るため
に向き合ったふたりの間に、男と女の強烈な吸引力が作用しているのを惣太郎は肌で感じた。

男として忘我でぬめり込んでいきそうな女の魅力があの時の妻にはあった。それは禁欲が限界に達して、若い妻の肉体が男の肉を需めて疼き、悶
々としていた矢先に、予期せぬ恋人の出現に妻の欲望が爆発して、体内のあらゆる性の機能が一斉に活動をはじめたとでもいうような活力に満ちた
姿態だった。どう表面をつくろっても隠しえない妻の血のたぎっりが、女の命のあらん限りの美しさを放出しているといった情態だった。

そうだ、あの時のように、妻を禁欲の極限まで追い込んで置けば、自然と異性を需めて、女として輝きはじめてくる。だが、あの当時とは違って、
今の妻は毎日が禁欲情態である。だから、田辺が来た時に、二人が結ばれるにふさわしい雰囲気だけつくってやれば、妻の方は自然に輝き出すに
違いない。出来れば、前に従兄弟から貰ったままになっている催淫剤の灸を事前に打っておいけば、さらに効果があるだろう。

二本目の煙草に惣太郎は火をつけた。テープは二年前の劉と妻の情交の模様を忠実に再生していた。妻の咆哮が激しくなっている。どういう体位
でしているのかわからないが、さかんに湿った肌と肌が打ち合う音が聞こえている。
問題は、二人の出合をどう演出するかだ。惣太郎は、それを考えただけで、もう動悸がはじまり、全身がぞくぞくと欲望を催し出すのを抑えられな
かった。

もう後へは引けないと惣太郎は考えた。妻の冴子がどう反応するだろうか。あの浩二や田宮や留学生達に狂った妻だから、今度も簡単に陥落する
と考えるのは軽率な気がする。当時は、妻も初体験の歓楽に酔いしれて我を失っていたが、冷静に本来の自分を取り戻している妻が、本気で乗って
くるだろうか。また、独身とはいえ、田辺勇夫は三七歳の甲羅経た男で、あの童貞ばかりだった純情な浩二や留学生達とは違う。一歩間違えば、惣
太郎の人格までおかしく評価される。絶対失敗は許せない。

だが、田宮はどうだったか。あれほど遊び馴れた男でも冴子にめり込んで行ったではないか、と惣太郎は、怯む感情を奮い起こす。
幸い田辺勇夫は酒が好きだ。インドの奥地でも、彼は毎夜の酒だけが楽しみのような男だった。酔うと磊落になる性格の男で、女の話しも自分から
はじめるくらいだ。若い女ひとりが、一か月二千円で雇えるインドでは、自宅に四人の若い女を常時女中に使っていたが、全部に手を付けたという
話しも酔って聞いた。夜の面倒まで見させて二千五百円も払えば充分だったらしい。一晩にどれだけやれるかと、四人の女を並べてやってみたが、
ひとり二回づつでダウンしたと、砂漠の風音を聞きながらのテントの寝酒でしゃべっていたことも惣太郎は覚えている。

惣太郎と一緒にいた間も、現地の部族の若い娘を手なづけて、夜のお伽をさせたのも彼だけである。それも酒がなければ出来ないらしく、飲み過
ぎて酔った晩に限って、娘を買いに付近の部落に出て入った。

娘でも先天的な病気をもったのいるから、身体の隅々まで厳重に調べなければ危ないと、親から買った娘を、テントの外に置いた金盥に湯を入れ
た風呂に入れて、全裸にしたまま自分のテントに連れ込んで行くのを見たこともある。田辺は好色であることは間違いない。その上、あの野獣のよ
うな猛々しい身体付きといい、精悍な動作や、筋肉の盛り上がりといい、性的絶倫な様相であるし、経験の豊富さから察しても技巧的にも優れてい
ると思われる。

それにしても、浩二の場合のように、自分が同席した乱交は無理と考えなければなるまい。酒は好きだが、浩二のように我を忘れるようなこと
はないから、酔うだけ酔わせて、させるわけにもいかない。また、酔った忘我の状態では、秘宝の価値判断は出来ない。
しかし妻が酔うぶんにはいっこうに問題はない。酔ってしどけなく横たわる美しい妻とふたりだけの夜の密室において、どうなるか。これこそ秘宝の
真価が問われる、真迫の鑑定である。

テープの妻の声が断末魔の様相を帯びてきた。今聞こえている場面が自分が垣間みた時だろうか。惣太郎は目を閉じた。向き合って坐わり、しっか
りと抱き合った恰好で、互いに全身に汗を流しながら、狂ったように腰を揺すっていた妻の姿態が思い出される。
自分が同席出来ないとすれば、興味は半減する。自分の妻に惹かれていく男の情態。男によって快楽の極限に追い上げられ酔いしれていく妻。
この状態をどうしても見たい。

自分が部屋にいないとすれば、このテープのように盗聴という手がある。最近買った小型ビデオで盗撮とう方法もある。地方に行って、老人同士の
方便を取材すと時に、最近ではテレビなどの影響で、土地の人間でない物がいると、つい標準語を混じえて話す場合がある。そのためテープを仕掛
けていたのだが、最近、小型のビデオカメラを買って、これを部屋に隠しておいて取材することにした。テープでは拾えない、唇の動きまでが、は
っきりわかるので重宝している。これを使うことにすればいい。テレビカメラからは、電波で受信装置まで映像と音声を送ってくるから、自分の書斎
に受信装置を置けばいい。問題はカメラだ。どの部屋に仕掛けるかが問題だった。カメラは自分が買った物と学校にあるのと二台が使えるから、居
間と田辺を泊まらせる客間に仕掛けよう。だが、もし、酔った勢いで、田辺と妻が使っていた玄関横の和室か妻の部屋に行ったら万事休すである。

和室には、なにか荷物を入れて置いて使えないようにしておく。妻の部屋だけはどうすることも出来ないが、まあ、初対面の者を妻が自分の部屋に入
れる事もあるまいと判断した。
テープが静かになっていた。囁くようなふたりの睦言が流れている。
「愛している……」
「綺麗だ……」。弛緩した躯を並べて横になり、掛け布団を掛けて抱き合って、接吻を繰り返しながらしゃべっているに違いない。

惣太郎は、ともかく田辺勇夫に、遠慮なく自分の家に滞在するように早急に手紙を出すことにして万年筆を握った。書くことによって、夢想の中での
さまよいから、現実がしだいに戻りはじめた。                   

ふと、時計を見ると十一時過ぎだった。もう買い物に出た冴子が帰ってくる時間である。
惣太郎は、立ち上がって秘密のテープをカセットデッキから取り出して仕舞った。これがあることは冴子は知らない。自分だけの秘密である。   
だがもし自分が心臓マヒとか交通事故とかで突然死するようなことがあったら、冴子に分かってしまう。ある時期には処分しなけれならないと思った。 

今の自分にとって、このテープは、わずかに残った男としての欲望を奮い立たせるための最高の催淫剤であるから放棄することは出来ない。せめ
て六十歳になるまでは持っていたい。だが、自分が六十歳になったとき、妻の冴子は四十九歳である。女の四六歳と言えば、一番脂ののった
頃である。その頃には、自分の欲望も失せて、初老の静謐な生活を望むようになっている筈だ。
惣太郎は、若い妻を娶った男が味わう悲哀と恐れを、いま確実に感じはじめていた。
  1. 2014/12/03(水) 08:50:24|
  2. 花濫・夢想原人
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花 濫 第13章焼けぼっくり

教え子の田辺勇夫がインドから帰ってくる便りを受け取った日に、悪魔に見入られたように忽然と湧いてきた、妻という自分の秘宝をこの田辺
に鑑定させるという思い付きは、久しぶりに惣太郎の欲望を昂らせた。

しかし、現実に還って、東京での宿泊場所を、自分の家にするように手紙を書きはじめたら、しだいに現実味が薄れ、欲望もおさまってきた。
一時の妄想とはいえ、それはあまりにも非現実的だった。
まだ若く、人一倍健康な田辺のことだから、あるいは妻にぞっこん惚れ込んでしまい、こちらが機会を与えなくても、無理矢理にでも妻を抱く
かも知れない。妻にしても、一年前に知った、あのめくるめくような歓楽の限りを尽くした大勢の男との情交の余韻は、いまでも燻っているは
ずだから、田辺のような男の精を溢れさせた若い男に言い寄られれば、無我になって落ち込んでゆく可能性は充分考えられる。

悪魔の囁きを実行すれば、こちらの思う壷になる可能性は高い。
だが、会ったばかりの男女が、それも先輩の妻という立場の冴子を、いきなり犯すことは常識的にも出来ることではない。
だから、自分が、偶然そうなるような演出をしてやらなければならない。
その方法は、いろいろ考えてみたが、さまざまな演出が思い浮かんだ。どれをとっても実行可能で、確立は高い。

だが惣太郎の逡巡は、成功率よりも心の問題にあった。夫の庇護を信じ切っている妻は、今まで純粋に夫の仕掛けた罠に自らを溺れさせて
きた。決して夫の欲望の犠牲になるとか、夫の企みに便乗して狡猾に自分の欲望を満足させてきたということではない。
最愛の庇護者の夫から甘美な食べ物を与えられるように、男を与えられて満足してきた。

しかし今回妻は夫の居ない場所で、夫にそそのかせられることもなく、自分の意志で他の男を受け入れるわけだから、妻にとってもはじめ
てのケースといえる。純情でありながら男との情交に関しては、普通の人妻では想像もできない豊富な体験の持ち主だから、美味しい食べ
物に引き寄せられる子供のように、善悪や倫理などを超えた、超人間的な欲望のおもむくままに男を受け入れるに違いない。なにしろ貞節と
か貞操という観念を、夫によって喪失させられ、不倫も夫婦関係を円滑に保つための正当な手段という観念が植え付けられている。 

厳格な教育者の父に育てられ、女子短大まで出た冴子に、貞操観念や倫理観念がない筈はない。当然、不倫行為が夫への背信行為であ
ることぐらいは常識的に知っている。それなのに、夫にそそのかされたとはいえ、あれほど容易に大勢の男に溺れ込んでいったということは、
一体どう考えればいいのだろうか。

はたして今までで妻の心の中には、裏切りと欲望との葛藤とか、自分の行為から生じる心の落魄とかに関して悩んだことがあるのだろうか。
たぶんそんなことはないと惣太郎は思う。
 父と二人だけの鄙びた山奥で育った冴子には、性に関しては本質的な意識欠如のようなものがあったのではないだろうか。戦後世代に育
った者だから、昔の深窓の令嬢と違い、性に関する情報は書物や村の若い者達から当然溢れるほど得ていたに違いない。だが、それはあ
くまで観念的なもので、男と女のする情交など、彼女にとっては現実には無縁の世界の出来事だったに違いない。

自分が、夏の夕暮れに冴子の実家で初めて彼女を犯した時に一体どう思っていたのかと、結婚してから訊いたことがるが、
「現実の出来事とは思特になにも考えなかったわ。女が年頃になれば男の人と、そうなるということくらいは識ってましたが、それさえ夢の
ようなことで、とても現実とは思えませんでした。それが、晴天の霹靂のようにわが身に降り懸かってきたわけですから、夜、独りになっても、
まだ夢を見ているような気持ちでした……」
と素直に答えた様子からでも察しがつく。 

田宮からはじまった若い男との遍歴もまた、冴子にとっては青天の霹靂に違いない。冴子の生涯で夢想だにしなかった性宴の深淵につぎつ
ぎと落とし入れられて、その度に妻は激しい驚嘆とめくるめく官能の喜びを味わいながら、この世にこんな世界があったのかと、希望と恐れ
と歓びと悲嘆のうちに、今日を迎えたのだった。

たとえ今度の企みが実現したとしても、妻は、また新しい性の扉が開かれたというくらいにしか受け取らないに違いない。これは安堵でもあ
るが、反面、それを異常とは理解せずに、自分の識らなかった一般世間の裏面での常識的行為として甘受する可能性が強い。

そうなると一体妻の想念はどうなるのか。当分は自分の夫としての強い庇護の下で、そういう異常な感性もまかり通るが、これは世間に通用
するものではない。とすれば、妻は異常者であり妻を異常者に教育したのは自分である。異常者は、自分を正常と思っているから、どこで異
常な自分を平然と現すか知れない危険がある。田辺との企みがうまくいったとしても、妻の側には異常の感情はないのだから、夫の指示がな
くても、自分を需める男が現れて、もし自分も好ましければ、迷うことなくめりこんでいっても、それは夫公認で許されることと信じるだろう。
そうなると後はどうなるか推察が付く。

自分に妻の欲望を充たしてやるだけの能力がないとすれば、妻に自制心がない限り、他の男にそれを需めるに違いない。そしてそれが不道
徳だとか裏切りだとかの観念が欠如しいて、夫もそれを迎合していると信じたら末恐ろしい。
惣太郎がこんどのたくらみを逡巡する原因はそこにあったのだ。

八重洲ブックセンターの二階で書物を探していた劉を見つけて、先に声を掛けたのは惣太郎の方だった。
初夏の汗ばむほどの陽気の日で、ほとんどの客がワイシャツ姿か、スーツを脱いで肩に掛けたりした気楽な恰好で本を漁っている中で、劉
は良家の息子らしく、相変わらずきちんとしたスーツ姿で、髪も整っていた。           

劉が選んで小脇に抱えた本に眼を流すと、それは「アイヌ部族の言語から推察する南方漂流説」という惣太郎が一昨年書いたものだった。
「ほおう、そんなものを読むのかね」
再会の挨拶より先に惣太郎は、そんな言葉を吐いた自分がおかしかった。自分の書いた本など、ほとんどの書店には並んでいないし、また
言語学を専攻する学生以外読む事はないと信じていたから、まして劉のような経済学専攻の一般学生が小脇に抱えているのにまず驚いたわけ
である。

「しばらくです先生……。ああ、これは、最近北海道に旅をしまして、アイヌ部落を訪れた時に、ふと台湾の高砂族を思い出しました。彫り
の深い顔や太い眉、そして体格などにあまりにも似通ったところを発見しまして驚いたいたのですが、その時、ふと、先生からかって、そん
なお話しを伺ったのを思い出しまして、書店で調べて貰いましたら、著書があるいわれましたので頼んでいたのです」

ふたりは客で混雑する本売り場を避けて喫茶室に入った。
「……奥様もお元気でいらっしゃいますか……」
劉が妻のことを言い出したのは、アイヌに関する話題が尽きてからだった。惣太郎は劉がいつそれを話題にするかと心待ちに待っていた。あ
れほど愛し合った女の消息も訊かずに去るような冷淡な青年ではないと、話しの合間に考えていたのだった。もし劉が、妻のことを訊かなかっ
たとしたら、あの激しい愛は劉の虚構であったと思わざるを得ない。秘宝をざれごとで褒めそやされて使い棄られたのでは惣太郎の衿持が許せ
なかった。

だから、劉がいくぶん羞恥に顔を染めて妻の名を口にしたとき、惣太郎は思わず、ほっと安堵のため息が出て、思わず思っても見なかった言
葉を出していた。
「ああ元気だよ。冴子も君がどうしているか心配しているようだ。一度元気な顔を見せにやってこないか」
言ってしまってから、これは大変なことになったと後悔した。

しかし、日焼けした顔をほころばせて白い健康そうな歯を見せて、こちらも安堵の笑顔を見せている劉を眺めていると、一年前の、あの頃の夜が
忽然と甦って、あれからずっと味わっていない、妻と劉の激しい媾合を覗き見した時の、激しい興奮がたまらなく味わいたくなっていた。

テープに残った妻とこの青年の激しい愛媾の場面が思い出される。そうだ、今度はビデオがある。惣太郎は、田辺とのたくらみは逡巡の最中であ
ったが、それでも憑かれたように、盗撮の準備は進めていた。
最新の超小型カメラも買ったし、無線での送信装置の他に、アップやロングなど行うズーム機構を遠隔操作出来る機材も整えてあった。                          

自分はまだ、この青年を愛した妻が、どんな姿態や言葉で愛を告白し男を受け入れているのか見たことはない。もう一度、この青年に妻を抱かせ
ても、そう不足の事態が起きるという心配もあるまい。

妄想に駆られていた田辺とのたくらみよりよほど現実味があるし、月に一回ばかりの申し訳程度の愛撫しか与えていない妻にとっても、このあたり
で一度思いきり欲望の発散をさせる必要もあるのではないか、と惣太郎は千載一遇の機会を得たような感慨で、
「そうだな、今週の土曜日などどうかな。君の好きな天津丼でも作らせておくから……」
上機嫌な口調で言った。

「正直申し上げて、いままでに何度かお宅の近くを徘徊したか知れません。しかし、お約束がありましたから……」
劉は純情さをむきだしにして眼に涙さえ溜めて言った。
「もう来るなと言ったのは、あれは、ヴエンとかラサールなど他の学生に言った事で、君のことは毛頭もそんなことは考えていなかったよ。劉君も
白情だねと思っていたんだ」

自分勝手な口から出任せなことを言って、この若い純情な青年の心を嫐りものにする呵責を心の隅で感じながら、それでも惣太郎は笑顔を絶やさ
ずに言った。
コーヒー茶碗に手を伸ばした劉の男にしてはほそっりとした指を眺めながら、惣太郎は、そのしなやかな指が、曾って妻のすべてを識っていること
が、妙に嫉妬心を誘った。この指が、また妻を狂わせようとしている。いや、狂わせようとしているのは自分だ。折角、安寧な生活に戻っている妻
を、淫蕩の地獄にまた投げ込もうとしている自分は一体なにを考えているのだろう。自分こそ淫狂の亡者になっているのではないか。
妻だけではない、この若い劉も、結局は自分の毒牙の犠牲者なのだ。惣太郎の肚の底で妖魔が、低い声で高笑していた。

夕方惣太郎が帰宅した時、妻は玄関に迎えにこなかった。帰りの道々、劉を誘った結果をどう妻に伝えるか思案しながら、結論のでないうちに家に
着いてしまったので、帰ったよ、といういつもの声が小さかったのは事実だ。
鞄を下げたまま廊下を台所に向かうと、油の強い匂いと派手な揚げものをしている音が聞こえてきた。この音では聞こえないのも当たり前だと、台
所に入ると、妻はガスレンジに向かって天婦羅を上げるのに夢中になっていた。      

今日の妻は、デニムの紺色ミニスカートに、Tシャツだけという軽快な姿だった。
前だけは長いエプロンをしているが、後ろから眺めている惣太郎には、太腿も露なミニスカートから伸びすらりとした脚の白さが、暮れはじめた台所
の暗さをはじきかえすようにそこだけ仄白く輝いているのが眩しく映った。
「あら、お帰りなさい。ちっとも気がつきませんでしたわ」

惣太郎に気付いた冴子が振り向いて匂やかに微笑んで言った。マシマロのような軟らかい感覚が身体のどこにも具っていて、長い調理箸を持ったまま、
自分の額の汗を拭いながら、少し集めの唇を反開きにして笑う時、殊になまめかしさが濃く滲み出た。
妻のように、いかにも二八歳という、爛熟の頂点にある女のからだのボリュームを如実に顕していて、肉感をかげろわせているタイプの女に、知的な
ムードを感じさせるものは少ないが、妻の冴子には軟弱な中に知的なひらめきが添っている。
それが特に若いインテリ男達を魅了しているのだと惣太郎は、妻の笑顔に応えて微笑しながら考えていた。                 

「今まで劉君と一緒だったよ」                     
煮沸する油の中から海老を引き上げている妻の後ろ姿に向けて、惣太郎は言った。長い調理箸で油泡の飛び散る鍋から、こんがりと狐色に揚がった海
老を性急に取り出しかけた妻の手元が狂って、海老が鍋に落ちた。
やはり妻にとって衝撃的な言葉だったのか、と惣太郎が言い放ったまま踵を返そうとしたとき、    
「熱い! 」                             
 油が飛び散ったのか、妻のいかにも惣太郎の言葉を無視したことが歴然と判るような言い方であったのが、去りかけた惣太郎の胸に響いた。

「今度の土曜日に遊びに來るように言っておいたから、彼の好物の天津丼でもつくってやったらどうだい……」                     
劉に会った、という夫の言葉のに昏倒するほどの衝撃をうけて、冴子は一瞬煮えたぎる油をいじっているのさえ忘れた。飛び散る湯泡の激しい破裂音の
中で、聞き間違いではないかと思った。箸であげかけた海老が鍋に落ちて、油の飛沫が手にかかって悲鳴を上げ我に帰った。その直後、夫は、劉が土
曜日に來るから天津丼を作っておけと言い残して部屋を出て行った。             

劉に再会したのは昨年の春だった。街で偶然会ってホテルに行った。その後、なんども彼から会いたいと電話があったし、一度だけ、夫の留守にこの家
までやってきたこともある。
やはり去年の初夏だった。その数日後に、夫の出張の夜に、六本木のレストランで待ち合わせてホテルに行った。別れてから三度、夫に内密で逢い引き
したわけだが、それが夫に知れたのだろうか。それとも、また夫と劉のたくらみで、知らぬのは自分だけだったとでもいうのだろか。

劉と夫が、偶然街で会ったとすれば、それでいいのだが……冴子の中に不安と恐怖が拡っていた。  
昨年のホテルを最後に劉に会っていないのは、劉が厭になったからでも、別れることを二人で決めたわけでも、喧嘩をしたわけでもない。ひとえに劉の
純粋さにほかならない。 
別れて半年目に再会してから三度の逢瀬を重ねてからは、冴子の方が離れ難くなっていた。夫に背信行為してまで劉と内通するということは純な冴子の心
情では考えられないことであったけれども、躯が絶えられなかった。

男達が去ってからしばらくは、まるで色情狂のように、日に何度も衝動的に淫欲が襲ってきた。自慰行為を覚えたのもこの頃である。
男なしの生活は考えられなかった。男という麻薬に犯され禁断症状に狂乱する夜もあった。

はしたないと羞恥にまみれながら夫にせがんだ夜も多い。夫はグロテスクな性具を買い求めてまで、その頃の冴子の狂瀾を鎮めてくれた。だが、半年も
すると、禁断症状もしだいにおさまって、月に一度か二度の淡泊な夫の愛撫だけで過ごせるようようになった時、劉に再会したわけである。
飢餓の中で美食に出会ったように冴子は劉の肉体に溺れて行った。劉とても、はじめて識った女体を取り上げられ、狂瀾状態にあっただけに、めぐりあっ
た冴子に狂喜した。あの三回の逢い引きは生涯忘れられないだろうと冴子は今でも思う。
白昼、明るいホテルの部屋で、互いの身体を確かめ合いながら、夢中で貪った快楽は、死の予感まで感じるほど激烈で甘かった。

それが三回目で切れたのは劉の純情さのほかに、一時帰国したためと、劉が二回目に自宅に来た時に、向かいの家の主婦に見つかり、それが当時まだ
その家に出入りしていたヴエンに伝わったためだった。
ヴエンが強迫まがいの執拗さで冴子に迫ってきた。一度だけ、自宅に押し込まれて、冴子は強姦同然に犯されている。
先生を裏切ることは死ぬほど辛いと、逢い引きを躊躇する劉を冴子が解き伏せて三度目の情交を結んだ後だった。
劉が一時帰国する数日前だった。

ヴエンの前と変わらぬ女を知り抜いた愛撫で抵抗する冴子を陥落させた。気がついたときには、ブラウスは引き裂かれスリップの肩紐は切れて全裸で横
たわっていた。抵抗しているうちに、いつの間にか快感が押し上がってきて夢中にさせられた。何度か失神した。最後は官能の業火にあぶられて悲鳴を上
げたまでは覚えていた。気がついた時に、ヴエンが、ほっそりした裸の身体を冴子の上から降ろしながら、

「劉とあんたが出来ていたのは知っていたんだ。前に劉がこの家に来た後、おれがやってきて、あんたにちょっかいを出した時、本当はやる気なんかなか
ったのだけれど、激しい情交の後の、なんともいえない女の妖艶さが、あんたの身体全体からにじみでていておれを狂わせた。
ちょっと抱きしめると、あんたは本気で抵抗した。その抵抗のしかたが普通ではなかった。
これはまだ劉との後始末もしていないな、と思ったら、おれは狂暴になった。案の定、あんたはズロースさえ穿いていなかった。

今度も、劉が来ていると識ったので、ついその気になんだ。おれはもうじき帰国から、あんたが心配することはないが、劉には、ちょっと用事があるんだ」
「用事ってなんですか?」
「少しばかり金が必要なのでね。あんたとのことをねたに、帰国費用を出さそうってわけだ。あいつの家は台湾の富豪だそうだから、おれが帰ってから数
年暮らせるくらの金はなんでもない……」

後から聞くと、ヴエンは、その時すでに滞在期限が切れていて、その直後、強制帰国させられたそうで、日本にいなかった劉に直接被害はなかったらしい。
冴子は、劉のためにヴエンを恐れた。それでも劉の愛撫が忘れられず、最後に一度だけと、劉に連絡を取ったが、すでに劉が一時帰国した後だった。      
劉の一時帰国は、彼の祖父が死亡したための遺産相続のためで、時間がかかった。中国式の葬儀も何日も続くと最後に劉から聞いた。

劉から帰国したという連絡があったのは、その時から三ヶ月が過ぎた頃だった。逢いたいという劉の言葉にはやる気持ちを抑えて拒否し続けたのは、ひたす
らヴエンへの恐れからだった。あの狂暴なヴエンは冴子が初めて知る凶悪な人間であった。
恥知らずの凶悪なヴエンがまた現れて、自分と劉のことが暴露されたら………と考えると冴子は恐怖で夜も眠れなかった。
最近になってヴエンがとっくの昔に帰国していたと知った。それを知った時、一瞬劉の顔が浮かんだが、平穏な心情に慣れてみると、今更炎はかき立てられ
なかった。

忘れかけた劉が、週末には現れる。そして夫と会っている。
冴子は心の動揺を抑えて夫の部屋に着替えを持って、重い脚を運んだ。

惣太郎は庭の向こうに見える納屋のトタン葺きの屋根の上の暮色の空を眺めながら鞄を机の上に置いた。なぜかトタンを残光に白く染めている納屋が気になっ
た。そうだ、盗視のビデオカメラを設置するなら、あの納屋が一番いいという気がした。納屋の窓が、玄関横の和室にもキッチンにも面している。
もし自分が何かの都合で、劉が来た時不在だったとしたら、ふたりは一体どんな行動をするだろうか。そこには誰にも干渉されない男と女の自然な行為が展
開するに違いない。

恋焦がれていた自分の妻に劉は、やっと逢うことが出来て、若い男の純な全身全霊を尽くして妻を愛撫するに違いない。妻の方も、きっと待ち焦がれて女の身
体にたぎっていた思慕の思いを、さらけ出して応えるに違いない。そこには自分の妻としての意識を忘れた純粋な女としての妻の赤裸々な姿が見えるに違いな
いし、劉にしても、自分への気兼ねもなく、憧憬する女への愛着をあらわに燃やした男の情熱の表現が見えるに違いない。

これこそ自分が望んでいた、妻が他の男にとっても仰羨の的であるという秘宝の真価の証ではあるまいか。惣太郎は、妻の白くしなやかな裸身に拝伏する劉の
姿が見えるようだった。そう考えただけで惣太郎は激しいときめきを覚えはじめていた。                                
「本当に劉さんがくるのですか」
後ろで妻の落ち着いた声がして惣太郎は我に返った。
「逢いたくないのか?」
返事はなかった。

惣太郎は煙草に火を付けてから振り返った。襖を開けた暗がりに妻は着替えを捧げるように持って立っていた。白い顔の表情も定かではないが、能面のように無
表情で立っているように惣太郎には思えた。惣太郎は次の言葉を探す合間に煙草を灰皿にすりつけた。
豆腐売りの喇叭がけたたましく通り過ぎて行った。
惣太郎が服を脱ぎはじめると、妻が近づいて後ろからそれを受取ながら、
「どうしてそういうことになったんですか」
と訊いた。尋問するような強さはなかった。

「偶然さ……、偶然会って、つい言ってしまったんだ。お前がいやなら、いつでもよすが……」
また返事はなかった。妻のなかである悶着が燻っているのがありありとわかった。惣太郎はまた言葉に詰まった。会話の途絶えた一瞬の沈黙の中で、惣太郎は
今にも劉がここに出現して、妻を奪ってでも行くような錯覚を覚え昂った気持ちを処置する方法の見い出せないままに衝動的に妻を抱きしめた。
「いやかい?」
妻は夫の胸に顔を埋めたまま、
「また元のようになったら、どうするの?」
くぐもった消えような声だが、否定ではない鼻にかかった甘え声で言った。

妻に告げた時に拒否されるとは考えてもいなかったが、こうもあっさりと迎合の態度をしめすとも思ってはいなかった。抱きしめた妻の温もりが、もう期待に弾んで
いる昂りかと思うと、意外にも劉に対して激しい嫉妬が湧いてきた。それと同時に、愛する妻が、自分から離れて、恋しい男に恋慕の情を露わにしたことに倒錯した
自虐の興奮を覚えた。

惣太郎は、久しぶりに青年に還ったような性的興奮が突き上げてきて、思わず妻をベットに押し倒した。
荒々しく妻のスキャンティーを剥ぎとりミニスカートを捲り上げて脚を広げて、女陰に口づけした。知らぬ間に妻のそこは溢れつづけていた。劉との再会の期待に妻
は興奮していた。
年齢に多い早漏気味の短い交わりであったが、劉の精悍な身体を想い出してか、冴子はいつになく激しく燃え続けた。
惣太郎が冴子のなかで萎縮をはじめた時、
「せっかく忘れていたのに……知らないから………」
妻の身体の上で弛緩したままでいる惣太郎の耳元で囁くように妻が言った。
  1. 2014/12/03(水) 08:52:11|
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花 濫 第13章焼けぼっくり2

調布市の郊外であるこの辺りのは、最近まで雑木林であった。惣太郎の父が家を建てた昭和三十年ころから、雑木林が拓かれはじめて、今ではわずかにこの家
の付近にしか残っていない。
この納屋のある裏に百坪ばかりの雑木林を残したのは、自然にの憧憬した父であった。今では裏に建った家との目隠し役目しかない林だが、初
夏になると、生き残りのしもつげの花が咲く。今も納屋に入るため雑木林の小路を通ったが、しもつげのこんもりとした茂みが、仄赤く染まりはじ
めていたのを惣太郎は思い返していた。

納屋は、惣太郎の古い書籍が埃にまみれて積み重ねてあるのがほとんどであった。時折、書物を探すために、父の代からあった、旧い腰掛け
が置いてある。 今、その机の上にはモニターのテレビが一台とビデオ、それに母屋に設置したビデオカメラのリモートコントロール機器やカメラの切り替えスッチの
器具などが雑然と置かれている。そべて惣太郎が、ここ数日のうちに妻に内緒で持ち込んだ物だ。

今夜、このモニターに劉と妻の演じるすべてが映し出される筈だった。外は強さを増した初夏の陽光が照りつけているが、ここは薄暗くなにか秘密めいている。
大学の教授ともあろう自分が、この歳になってまで、こんな窺視装置まで苦労して取り付けて、自分の妻と男とのきわどい場面を視ようという自分は、いったいどう
いう男なのだろうかと、自己反省が頭をもたげてきた。

人は朴念仁と自分を思っているだろうが、自分ではそうは思っていない。だが人並外れた好色家とも、漁色家とも思わない。具体的に言えば、据え膳を据えられて
逃げ出すほどの意気地んしでもないが、毎夜遊里を徘徊して女を漁るほどの希代の色好みでもない。
しかし、現に自分がいままで実行してきた性宴の数々の実績は、他人がみれば希代の好事家顔負けの痴態であり、現にこうしてまたもや自分の妻の不倫の実態を盗
み見するために、大変な労苦と費用を割いているということは、やはり色狂いの男といわざるをえないのだろうか。

だが自分では、自分の趣味が少々変わっているとしか思えない。この因果な趣味に取り憑かれたそもそもは、冴子という歳不相応な美しい妻と再婚したからだった。
匿秘している美しい妻を磨く技も歳とともに衰えていた時、ふとした機会に、外の男に犯される妻を垣間みた。妻の凄艶な魅力の虜になった若い雄鹿のような男性の
勇猛な活力に充ちた男に組伏せられて、官能の極致にのぞけける妻が、なんと美しく見えたことか。
それを手始めに、次々と妻を若い男に与えてきた。

突然、惣太郎の胸の中に、さまざまな男に組み敷かれてのたうつ妻の美しい姿態が蘇ってきた。
それぞれの時に自分の脳裡に焼き付けられた猥ら過ぎる狂おしいほどの印画は、いったい何だったのだろう。何に自分は魅入られたのだろう。
今こうして、また新しい刺激を求めて妻を男に与える準備をしていることが、自分に嫌悪感や拒否感をもたずに、逆に胸ぐるしい期待とさえいえるもので自分を苛みな
がら息をつめているのは、もしかしたら妻に自分が果たせなかった強烈な男の愛のかたちを与えたかったからかもしれない。
自分はまだその異様な愛のかたちから逃れられないでいるのだが、いままでの淫猥の極であるあの情景は妻にとっては何だったのだろうか。

従順に自分の指示通りに従った妻の態度はいまだに謎というほかないのだが、自分にわずかでも想像できることといえば、すくなくとも最初は、彼女は性という麻薬
に犯されたとでもいうほかはないような気がする。未知の快楽の深淵に落ち込んで無我のうちに悦楽を貪っていたというのが本音のようだ。やがて一通りの性愛を修得
した後は、妻は自分を抱く代わりに、与えられた若い男を抱くことによって、それをまた夫の自分にみせつけることによって何かを……自分の夫への愛を確認したかった
のだ。

太郎はそこまで考えて、自分が今夜また妻が犯されることで自分もまた犯される歓びを得ようとしているにと似ているかもしれないと思った。それは一見奇怪な姿を備
えているかもしれないが、惣太郎は今そういう形もまた、激しい愛のかたちのうちであることに気付いていた。そ
れが二人だけで交わす愛の行為よりも、もっと深いところで噛み合った契りかも知れないことも自分の身体の痛みのように疑えないものだと思った。

惣太郎は腕時計を見た。いつの間にか納屋の中は薄暗くなっている。
夕闇にすかして見ると五時を少し回っていた。
もう冴子は帰っていい時間だ。冴子は新橋の中華料理屋に今夜劉のための料理を取りに行かせていた。酢豚、鱶鰭スープの旨い店で惣太郎の行きつけの店だったの
で無理に用意させたのだが、三時半に受け取に行くように妻に命じたのも惣太郎の筋書きだった。

惣太郎は今夜の筋書きを綿密に立て、誤算のないよう書き留めてまで念を押していた。土曜日だから二時には学校から帰宅できる。彼が帰った
時は妻は出かけた後になるような筋書きだったが、彼が帰宅したとき妻は玄関を出るところでかち合ってしまった。
「劉は六時に來るのだったね。三時半に新宿でアメリカの大学から来た友人に書類を取りに戻ったんだ。渡したらすぐ帰るから六時には帰られからね……」
「必ず帰って下さいよ」
南部の紫根染めの絞りに、白っぽいつづれ帯びをあわせた妻は、午前中に美容院に行ったらしく、すなおな細いたっぷりの髪を結いあげた洋髪がほんのり乱れて、ほ
つれ毛がこめかみにおちかかっているのがなまめかしく見えた。

そのほつれ毛を掻き上げながら、    
「きっと帰って下さいよ」
夫の企みを見透かすように上目使いで惣太郎の目の奥を覗き見るような目付きで言った。
「自信がないのか?」
惣太郎の揶揄するような質問に、ほんのりと顔を染めただけで出て行った。
三時十分に、惣太郎は予定通り、自宅の電話から新橋の中華料理屋に電話を入れ、妻が着いたら、客と夕食をしなければならなくなったから、先に食べて置くよう
に言付けた。

四時には夕食に買ってきたサンドヴィッチとウイスキーのポケット瓶を持って納屋に入って、カメラのテストを繰り返した。
玄関横の和室の床の間の人形ケースの後ろに隠したビデオカメラの調子がおかしかったが、それも直した。
盗視カメラの設置は、地方に出張して古老の方便での会話を採取するために何度も使っており慣れた作業だったが、家の隅々まで熟知した妻に気付かれづにセット
するのは苦労した。
自分が持っているカメラに学校から借りてきた一台を加えた二台を食堂と玄関横の和室にセットしたが、食堂のは最初食器戸棚の上に隠したが、テストしてみると八畳
間の狭い部屋の俯瞰で死角が多く、慌てて冷蔵庫と壁の隙間の腰の高さに設置た。壁の柱に冴子が掛けた小さなカレンダーのおかげでカメラのレンズは大人の視線を
遮って見えない。

和室の方は人形ケースでうまく隠せた。問題はズームを使った場合の機械音だが、これもカメラをタオルで巻いて、やっと聞こえない程度になった。カメラとこの納屋
のモニターテレビとは無線でつながっており、操作も無線でコントロール出来る。これらの機材の設置には数日を要したが、冴子は一度納屋に入って蛇を見つけて以
来ひとりで入ることはなかったので見つけられる心配はなかった。

納屋の窓は南側に一つだけついていて母屋は見えない。
六月の陽気だから、温度は気にならない。早めに夕食でも食べるかと、惣太郎は用意した毛布に寝ころんでサンドヴィッチの紙箱を開けてレシーバーを耳に挟んだ。
突然レシーバーから食器の音が裂くような硬質の音で聞こえてきた。惣太郎は慌てて起きあがると、机の上のモニターテレビのスイッチを入れた。
テレビには食卓の向こうにあるソフアの一部である模様がクローズアップで映っている。リモコンのズームボタンを押すと、画面が次第に開けて、部屋全体が映り、右
隅に流しに向かっている妻の姿がわずかに映っていた。

妻は帰宅して着替えたらしく、明るい灯の中に、薄緑のカーディガンをふっくらと着ている。肱まで引き上げた袖口からのびた白い腕が、薔薇色に染まっていた。
カーデガンの裾は小さなえぷろんできりっとスカートにしばりつけて、片手に長い料理箸を持っていた。スカートは惣太郎が見たこのない真紅の派手さで、わずかに腰
を覆ったというほどの超ミニだった。後ろから見ると太腿から尻の膨らみが盛り上がる陰りまで露出している。かたちのよ脚は、画面の右端のせいで明確には見えない。

玄関のチャイムが鳴ったのは、それから三十分ばかりたってからだった。ほとんど料理は並べられ、冴子は食堂にはいなかった。
「あら、いらっしゃい」
玄関から妻の声がかすかに聞こえた。劉がなにか言っているが、低い男の声としかわからない。
「急に用事が出来て……」
「いいのよ……」
「わからない……でも、そんなに遅くならないと思うわ」玄関での会話が、切れ切れに聞こえてくるが、テレビの画面は、ひっそりとした食堂の全景だけを冷酷に映
しているままである。

「あっ……」妻の短い声が聞こえた後会話は聞こえなくなった。自動集音装置の付いたビデオカメラのマイクは、音が聞こえなくなると小さな音でも拾おうと自動的に
ボリュームを上げる。雑音に交じって微かに時計の時を刻む音が聞こえていた。玄関で抱擁しているに違いないと惣太郎は昂った気持ちで思った。会話のとぎれたあ
との音のないブランクは、玄関で何かが起こっている証拠だった。

惣太郎にとっておそろしく長い時間に思えた。
突然ドアの開く音が響いて二人が食堂に入ってきた。
妻が先に真っ赤な薔薇の花束を抱いて入ってくると、カメラの方に大きく近づいてきた。微笑している顔が溶けるように和らいでいる。劉は黒いセーターに紺色のズボ
ンを穿き、ネクタイのないワイシャツの胸の釦を外したラフな服装である。

妻がカメラに近づき過ぎて、ミニスカートから下しか見えない。カメラを隠してある冷蔵庫の横に飾り棚があり、そこの大きな花瓶があったのを惣太郎は思い出した。
劉の顔は妻のスカートに隠れて見えないが、やがて劉も妻の方に近づいてズボンだけしか見えなくなった。妻の後ろに劉がぴったりと寄り添った。

「まあ、いい匂いだこと」
なにか花束を持ってきたのだろう。
妻の声がした後、俄に妻の脚がよじれた。劉が後ろから妻を抱いたのだ。
妻の白い脚がしだいに向きを変えて劉と向かい合った。吸い合う唇の音が聞こえた。劉のズボンの脚が妻の裸の脚を割って差し込まれた。全体が見えない苛立ちが惣
太郎をやきもきさせた。
突然妻の逆光で黒く見えるミニスカートの尻の辺りに劉の手が当てがわれ、その手がしだいに股間に後ろから差し込まれた。妻の尻が阻止すようによじれた。
「駄目よ、駄目よ、もう帰ってくるから」
「だって、残酷だなあ、気がくるっちゃうよ」
「我慢して……あたしだって……ほら、こんなに………」
劉の手がミニスカートを捲り上げ、ほとんど尻を露出した恰好で、わずかに股間を覆うだけの小さな白いスキャンティーの中に手を入れようとしていた。妻の白い掌が、
その劉の手を押さえてさらに奥に導いた。
「ね………わかるでしょう……」服を着たままのペッティングは長々と続いた。
  1. 2014/12/03(水) 08:53:41|
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花 濫 第13章焼け簿ぼっくり3

惣太郎は画面を睨みつけたまま携帯電話機を取り上げ、自宅のダイヤルを回した。
レシーバーに呼出音が響き、妻が画面から遠ざかって行った。電話は食卓の向こうのソフアの横にある。カメラを広角にしてあるので、ソフアのところで電話を取った
妻がいやに遠くに見える。
「もしもし……」
「あら、あなた?………」
乱れた髪をなで上げながら妻が、ちらりと劉に視線を投げて夫からの電話を知らせている。

「まだ銀座だ。食事は終わったんだが、この外人がね、成田に行く方法を知らないっていうんだ。しかたないから、これからタクシーで成田を往復するから、少し遅
くなる」
成田往復ですって?そうすると一体何時にお帰りになるの?」
劉が妻に近づいて行っている。妻が受話器を手で覆って、これから成田往復ですって……、と劉に告げている。
「片道二時間として往復四時間……調布までだと、もうすこしかかるかな。でも高速道路だから、あまり変わらないかも知れないな」
「四時間としても十時過ぎになるじゃありませんか」
「劉君は来たのかい?」
「ええ、いらっしゃっているわよ」

劉が心配そうに妻に更に近づいて肩に手をかけている。
「ちょっと代わってくれ」
妻が受話器を劉に渡す。
「せっかく来てくれて悪いね。ゆっくり遊んでいてくれないか。なるべく急いで帰るが、彼の飛ぶ飛行機が出るのが八時半だから、どうしても十一時近くになると思う」
「それじゃあ、先生、ぼくまた来ます」
いいじゃないか。知らない間でもないし、折角料理も用意してあるんだ。帰るまで必ず居てくれよ」
電話を妻に代わらせてから、
「いい機会じゃないか、ゆっくり楽しんでいいよ」

妻が言葉に詰まった隙に惣太郎は携帯電話のスイッチを切った。
「十一時になるって……」
劉がソフアに座りながら言った。                    
受話器を置いた妻は、一瞬何か考えているようだったが、劉の肩に手をやさしく置いて、 
「ちょっと待っててね」
というと、すんなりと伸びた形のいい二本の脚を揃えてバレリーナのような仕草で一回転すると、ドアを開けて廊下に出て行った。
ひとりになった劉が所在なさげに煙草に火を付けしばらう喫っていると、妻が帰ってきた。ソフアから見上げた劉の顔になぜか緊張がはしるのを惣太郎は見た。妻は出
て行った時と変わらぬ服装で劉の横にぴったりと寄り添って坐った。

ズームを少しアップにしてみると、画面一杯に坐った二人が映った。テレビ画面でみるわが家の食堂で進行している場面が、声を出せば届く近くなのに、なぜか遠い場
所での出来事のように思えた。見慣れた自分の家の食堂も、妻も劉も、テレビドラマの場面のように現実味が薄くも感じられたが、一方ではカメラをアップすると、確実
にすぐ側で窺視している実感があった。

劉が妻の肩に手を掛けて引き寄せた。
お腹が空いたでしょう。もう用意出来ていてよ」            
「え?」                               
「スープ暖めましょうね」                        
劉は、それには返事をしないで、すっと腕をのばし、冴子の上体をひきおこした。ソフアの背に寄り掛かっていた冴子の上体は、一挙に劉の胸の方へなだれこみ、ミニ
スカートから伸びた白い脚が付け根の辺りまで露わになった。
劉がミニスカートの裾を引き下ろそうとするのを阻止するように手を掛けたままの恰好の冴子の躯を、劉は吊り上げるように抱き直し、軽々と自分の膝へ乗せてしまった。
待っていたように全身の力を抜いてしなだれかかった冴子と、ゆっくりと唇を近づけていく劉との間には、慣れ合った親和力が作用しているのが画面からも察しられた。         

唇を合わすのを待ちかねていたように冴子は無抵抗に唇を開いた。カメラをさらにアップして、二人の顔だけを画面一杯に操作すると、冴子の小粒の歯が、すぐ劉の舌
を吸いこみ、柔らかく甘噛みする様子がはっきりと判った。 
冴子は目もとをぼうっと染め上げたあどけない表情で、上向きに劉の接吻を受けていた。
躯の奥から染め上げられたそんな自然な紅の色が映えて、どきっとするほどなまめかしさをそそる。そのくせ、接吻の後の冴子の表情は、何もかもまかせきったという自
己放棄の安らかさをたたえ、線という線がゆるみきって、見ている方で泪のこぼれそうなほど無邪気にかえっているのであった。     

劉はやにわに冴子をソフアの上に押し倒した。劉の突然の行動を予期し期待していたように、冴子が劉の体にすがるように、柔らかく劉を誘て仰向きに倒れた。                     惣太郎が操作した画面いっぱいに、仰向きになった冴子の白い顔が広がった。顔の肌や広くあいたカーディガンの襟から覗いた胸元の肌も、灯が肌を透かすように強く
差し込んで、白く肌目の細かい冴子の肌を、半透明に輝かせて、一層柔らかく艶やかに女らしい魅力を感じさせた。
劉は、その女体を夢中で抱き締め、薄緑のカーディガンの胸元を広げ、なぜか釦を外すしぐさもなくブラウスの胸元を押し開いて顔を埋めていった。

やがて劉はこまやかな手つきで、妻の服をぬがせていった。冴子は人形のように身じろぎもしないでなすままにされていた。それでも、ミニスカートのかくれたホックや
ファスナーを探しあぐねる劉の手を、風のように導いた。

全裸にされた何もつけない冴子の全身を見て、惣太郎は涙があふれそうになった。美しいと思う心の底から、情欲も嫉妬もむしろ萎えそうな清浄な思いに襲われた。
妻の腕が花茎のように伸び、劉の首にまわされた。劉の逡巡が破られたように、ふいに荒々しく自分の身につけたものをはぎとると、劉の逞しい身体が冴子の上に重ね
られた。

前技はなく、ふたりはわずかに唇を合わせただけで、劉がいきなり妻の上で背中を丸くして自分の逸物を冴子に挿入しようとしていた。
妻は脚を広げ十分な受け入れ体制をとっていたが、初な劉は思い通りにいかないらしく焦っていた。
妻の白い手が劉の股間にちらりと見えたと思うと、途端に劉が腰を沈めた。二人の躯が一瞬硬直して一体になり、冴子が、ああ、と声を上げた。
「やっと奥さんとひとつになれた」
感慨を込めて囁くようにいう劉の掠れたこえが入ってきた。二人はしっかりと抱き合ったまま、ゆっくりと動きはじめていた。
わずらわしい日常性を何ひとつ分け合わず、暮しむきの現実的な処世の喜憂を全く共有しない男と女の関係は、はじめから根のない感じで、いつまでも風のままに、どこ
へでも吹き飛ばされてしまいそうなはかなさを持っている。
その危なつかしさ故に、こうした不倫も現実味のない幻想の世界のように嫌みなく見えるのだろうかと惣太郎は、絡み合った二人を眺めながら考えた。       

美しい光景であった。記憶にある何かのバレーのシーンに似ていた。
二人とも全裸だった。
妻は仰向いて、形のいい片脚をはね上げ、もう一つの脚をソフアから、床に落としていた。そのあいだに、背筋の深い溝と臀筋の隆起をみせて、劉が割って入っていた。
褐色の大きなのように臀だけを動かしていた。       

画面を凝視したまま惣太郎は痺びれて立ち尽くした。自分の感情が快楽なのか苦痛なのか、嫉妬なのか悦びなのか、安堵なのか不安なのか、判らなかった。
ただ一つ、はっきりしているのは、陶酔感だった。
それも、苛ら立たしく、苦々しい陶酔だった。ある種の麻薬を服用したときに、おそらく、こんな感覚があるのか。 この瞬間が、永遠に過ぎないで欲しかった。
二人に気付かれぬ自分の存在に満悦していた。出来れば、これがカメラによる窺視ではなく、空気のような透明な存在になって、二人に気付かれづに纏付き、二人の間に
入り込み、二人をそっと、柔らかく、包みたいと心底思った。
  1. 2014/12/03(水) 08:59:16|
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花 濫 第13章焼けぼっくり4

カメラをワイドにズームして見る。見慣れた食堂だが、カメラが幼児背丈の視線の高さにあるのと、遠近感が誇張されていて、はじめて見るどこかの家の食堂のように目新
しく眺められる。カメラのすぐ前のアールヌボー調の食卓は眼前に迫って写り、料理が並べられた食卓の裏側や食卓の下に差し入れられた椅子の暗い間を通して、向こうの
明るい壁際に置かれたソフアで絡んでいるふたりが見え、自分が食卓の下に潜んで窺視しているようなスリルがあった。

床に伏せて眺めているように水平な床が彼方まで続いていて、水平線の辺りにソフアが小さく見える。ソフアのすぐ前の床には、ふたりが脱ぎ捨てた衣類が寄せる波のよう
に間近に見えた。妻の深紅のミニスカートと薄緑のカーディガンや劉のズボンなどの大きな波にに混じって、劉の格子模様のパンツと妻の小さな白いスキャンティーが小さく
溶け合うように重なって見えるのが印象的だ。

惣太郎はその時、ふと妻のブラジャーもスリップも見えないのに気づいた。妻はスキャンティー以外下着はつけていなかたのだろかという疑念がわいてきた。
カーディガンを羽織っていたとはいえ、あの薄いシルクのブラウスだけでは、豊満な乳房の陰影や突起が自然と見えることになる。それは当然劉の欲情をそそることを計算
してのことといえる。
自分が帰宅して劉と一緒に夕食をとるはずだたっ時点では、まさかそんな格好をするとは考えられないから、自分が遅くなることを知らせた後ということになる。それはに
劉が来てから電話した直後、妻がちょっと食堂から出たあの時着替えたに違いない。
あの時、妻が食堂に帰ってきて劉の前に姿を現したのを見た彼の表情が、一瞬硬直したように思えたのは、妻の薄いフラウスを透かして乳房が見えたからに違いない。いや
、それだけではない。

妻はブラウスの前のホックさえ外していたのだ。
妻は捨て身で劉を挑發したに違いない。夫の帰る前に劉と結ばれることを心底願っていたのだろう。うぶな劉の躊躇による時間を惜しんだのに違いないと思った。
いつの間に売女のようなことを覚えて……と惣太郎に怒りがこみ上げてきた時、彼はふと劉と妻の関係を思い返した。
二人は初会ではない。互いに身体の隅々まで知り合った深い仲だったのだ。
そう考え直すと、妻の大胆な挑發も劉への甘えの表現と受けとめられる。食堂に入ってきた妻の、あのにこやかな罪のない笑顔がそれを物語っていたではないか。
妻はあの電話で自分の企みを見抜いたのだろうか。それとも最初から機会さえあればその気でいたのだが、自分が帰らないことを知って一層大胆になったのだろうか。
いずれにしても大胆不敵な挑戦である。 

「せっかく忘れていたのに……知らないから…」
今日の劉のことを伝えた時の妻の鼻にかかった言葉が思い出されてきた。惣太郎はカメラをズームアップして慎重にソフアの上を調べようとした。
 リモートコントロールのボタンをゆくりと押すと、まるで自分が食卓の下をしゃがんだまま絡み合ったふたりのいるソフアに近付いていくようにカメラが寄っていく。劉が覆いか
ぶさって、激しく腰を躍動させている下に、妻の白い躯がくねっている。だがソフアの上のどこにもやはり妻の下着は見つからなかった。 

先程までは、片脚をソフアの背に揚げ、もう一方を垂らしていたのが、いまは劉の腰に強く巻き付けて、男の腰の抽送運動の快感を的確に受容するため自分の腰も男の動き
に相応して上下に動かし、その上貪欲にもさらにより一層鋭い快感を得ようと微妙な円運動までしている。フロアスタンドの光がふたりの交合を斜め横から照らしているが、
高感度のビデオカメラは、鮮明にその様子を写し出し、指向性の高いカメラのマイクも交接の微妙で淫猥な粘膜のきしる音を生よりもはっきりと拡大して伝えていた。

ふたりの会話は聞こえない。のぞけった妻の顔を両手で挟んで上から激しい口づけをしていた劉の手から、苦悶の表情でかぶりを振って逃ががれた妻が、
「ああ…いく…」
と叫んだ。その拍子に劉の背がまるまって顔を引き妻の乳房に落とした。  
しばらく揉みあっていた劉が、顔を天井に向けて激痛に耐えているような表情を皺ませたかと思うと、
「もう駄目!……」
と絶句しながら、勇猛な勢いで腰を激しく律動させはじめた。
「いって………いって…」
妻も嬌声を絶え間なく発しながら、両手を男の首に巻き付けて、腰をソフアから浮かせて男の抽送に応えて激しく揺すっていた。

劉の狂気のような動きが最後の瞬間を迎え、放出の微動を開始すると、妻は身体全体をくの字に反らせて男の身体を支えて硬直したが、最後の躍動を終えた劉が、がっくりと
全身を弛緩させて妻のうえに倒むと、互いに神経が通じあってでもいるように、ふたりは同時に硬直を解いて、ぐったりと
重なり合って弛緩していた。

惣太郎はブラウン管の明かりに透かせて腕時計を見た。まだ七時前だった。死体のように微動もしな二人の裸体の密着した腹部だけが、まだ激しい性交運動の余韻を残して大
きく呼吸しいるだけで、辺りがあまりの静寂に包まれて深夜の感じがしたからだった。久しぶりの交歓に劉は敢えなく果ててしまったらしい。
無音のなかで音を探し求めて、カメラの自動集音装置がボリュームをいっぱいにあげるので雑音が激しい。その雑音の中に微かに置時計の
秒針を刻む音だけが聞こえていたが、突然、異様に大きな擦過音が聞こえた。ブラウン管を凝視すると、劉が妻の上から下りているところだった。

ソフアから下りて立ち上がった劉の股間には、まだてらてらと濡れ光っている巨大な逸物が、もう鎌首を持ち上げるていた。
劉が裸のままカメラに近付いて来た。カメラに近付くと次第に大きく写り、やがて下半身だけになる。勃起した男根が反りかえって臍の辺りまで鎌首を持ち挙げて、何かを訴える
ように首を振っていた。劉が食卓まで来ると食卓の下に見える下半身しか見えなくなったが、コップに水を注ぐ音が聞こえた。
「飲む?」
優しい劉の声がして、向こうから、ええ、と弱々しい妻の声がした。劉がソフアまで引き返し、まだ喘ぎを残してソフアに仰向けに横たわったままの妻の前にひざまずいて、口移
で水を与えた。

「ああ…」
劉の裸体の陰で見えないが、水の旨さとも愉楽の余韻ともとれる妻の感嘆の溜め息が聞こえた。劉の頭はしばらく妻の顔の上に落ちたままなのは、あと長い接吻に変わったのだ
ろう。                         
カメラはソフアに向かって中腰になって妻の上に顔を落としている若い劉の壮健な裸体の後ろ姿と、上半身は劉の陰で見えないが、ソフアの上で片膝を立てた脚をやや閉じ加減に
して陰部を隠すようにしている妻の下半身を写していた。
一糸もまとわぬ劉の後ろ姿は、拝むように背中を曲げて妻に接吻をしている。頭は見えないが、背中も腰も脚もむきだしのまま、弓なりに躯を撓めているのが、崇高な祈りを捧げ
ている若者のように清楚に見える。無駄な肉は一切れもなく、名工の刻んだ美しい大理石の像を見るようであった。汗に濡れた肌もなめらかにしめってている。
そこに輝いているものは若さだけだった。      

妻の白い下半身の裸身が、カメラに鮮やかに写っている。最近のビデオカメラは性能がよくなって天井についている明かりだけで白昼のように鮮明に写り、色彩も見事に再現して
いる。
カメラをややアップにして妻の下半身を舐めるようにパンしてみると、二八歳の妻の体が、はじめて見る女体のように見える。こうして子細に妻の裸身を熟視したのは久しぶりだった。
妻の身体は女の盛りの成熟に匂い立っていた。腰のくびれは優しく、乳房はふくよかであった。下腹を覆う淡黒いひろがりにも、大人の匂いがあった。脚を動かすたびに揺れる内
腿の羽二重のような白い肉にも艶がある。ふたりの肢体が美しいだけに、どこかで見た写真集の美しい性愛の場面のように芸術的な匂いさえ漂ってくるような気がする。

やがて美しい男と女の塑像は、生き返ったようにひそひそと聞き取れない会話をはじめた。囁きの合間の含み笑う声だけが大きく聞こえた。
囁きながら劉の手が妻の股間に滑っていった。劉の手が触れると、妻は一瞬股間を広げかけたが、突然、
「さあ……、そうしましょ……」
と、劉の手をを払い除けるようにして起き上がろうとした。劉がすかず手をのべて助け起こした。
なにを約束したのか、二人は明確な目的を持っているように全裸のまま手を取り合って食堂を出て行こうとした。

ドアを開けてから劉が妻の手を引いて引き返すと、食器戸棚の上の時計を振り返って見て、
「まだ三時間もある」
と片腕を上げて喜びの声を上げた。劉に引き戻されよろけた妻が、その反動を利用したように劉に抱きついて、
「三時間しかないわ」
と言ってから劉の背の高い首にぶら下がるようにして自分の方から、短い接吻をした。

ふたりは間もなく笑い声を残して廊下に出て行った。
傍若無人にも、脱ぎ捨てた衣類もそのまま、家の中を全裸のまま我が物顔に出ていくふたりに惣太郎は、腹の底から突き上げるような怒りを覚えた。それは自分に対する不遜な行為
であった。若い劉はともかくとして、世間一般の常識を備えた今まで清純な挙措の正しい人妻だと、自分ばかりか誰でもがそう信じている妻までが、全裸で家の中を男と手を取り合
って騒ぐとは惣太郎にとって思いもよらない妻の行動だった。

妻が落魄したということなのだろうかと惣太郎は考えて見た。女には男に理解出来ない心理がある。
たとえば妻の交歓の時のことを考えてもそれがいえる。あの貞淑な妻が、たとえ夫のたくらみであっても、夫以外の男に次々と躯を開いていった心情の底には、勿論はじめて知った
官能への耽溺があったであろうが、知った淫欲への貪欲な願望を、巧みに夫の強制によって不本意ながら実行させられていると、自分以外の者にも自分もそう信じることで罪の意識
を回避している。

惣太郎自身も、今までは、妻自身はためらいながらも夫の強引な示唆によって、しかたなく男との歓交にはまり込み、その結果として躊躇が何時の間にか、性の官能にのたうってい
るという構図になっていると信じていた。
最初は強引に麻薬を打たれ苦悶していたのが、やがて自ら薬の快感を求めていくのに似ている。妻ももう一人前の淫蕩な女になり果てたということなのだろうか。

秘すれば花で、花がみずからを露に見せてはいけないのだ。それは結果的に、花に魅せられて集まる男達を嫌悪の情にさせるか、ありきたりの花として、なんの感動もなく蜜を食べ
るのに似ている。
だが、妻をそうさせたのも結局は自分の欲望からであって、妻を責めることは出来ないと惣太郎は思わず溜め息をついた。
これから妻をどう導けばいいのだろうか。

ふたりはシャワーでも浴びているらしい。時々妻の悲鳴が浴室独特のタイルに反響する声で聞こえる。惣太郎はふたりはシャワーを浴びながらいちゃついているに違いないと判断して
カメラのスイッチを切り、今まで録画していたビデオを巻き戻して掛けた。サ
ーチを繰り返して、先程の、終わった後の囁きの場面を出しレーシバーをかぶりなおした。
聞き取れない部分をボリュームを上げて見る。雑音がひどくなるが、かすかに囁きが聞こえてきた。

「………お食事を済ませておかなければ………」
「…………お酒は飲みたい………」
「………あのホテルの時に…………」
後は劉が妻の秘所に触ってからの、しどけない囁きだった。

問題は、あのホテルの時に、という言葉だった。何度か聞き返してみたが、そこだけしか聞こえない。劉と妻の関係は、すべてこの自宅だけだった筈だ。劉だけではない。あの留
学生達すべてに言えることだであった。

田宮と伊香保の温泉でのことがあるが、妻をひとりこの家以外で男と逢わせたことはないし、食事さえ外で男とふたりでさせた事もない。………あのホテルの時に………と云ったの
は劉の声だった。あるいは劉が、いつか泊まったホテルの話を妻に聞かせたという何気ない会話だったのかも知れない。だが惣太郎の心にはひっかかるものがあった。

惣太郎は妻が自分に内密で、妻がいそいそと男のもとに出かける場面を想像してみた。そしてホテルの一室で、男と戯れ合っている妻の裸身が目
に浮かんでくる。
その幻の光景は、今まで妻が惣太郎に見せた男達との数々の性交場面の嫉妬と被虐と陶酔の入り混じったある種の恍惚感と違って、背信の憎悪に充ちた嫌悪感しかなかった。そ
れは世間によくあるの浮気妻の頽廃と自堕落な性情と少しも変わらないからであった。
秘宝の妻を他の男に与え、その男が妻に魅せられて狂喜し、また妻も男の礼賛に応えて一層潜めていた自分さえ知らない凄艶さを現し、それによって夫の自分もまた感奮するという、
三人の間に醸し出される親和力が欠如しているからである。

最近流行している夫婦交換には、妻ひとりを男との逢引きに出してやる夫の話しも聞いていた。だがそれは夫が妻を自分の見えないところで他の男と歓交することに、ある種の嫉妬
、羨望、自虐と被虐、陶酔を覚え、妻も夫のそういう性情を満足させ自分も歓びを得るという一体感があるからこそである。
妻の裏切りがあったとすれば絶対に許せないことだ。だが、もし妻の秘事が事実であることが判ったとしたら、お前はどうするのか。
惣太郎は自分自身に訊いてみたが、ただ心の動揺が高まるばかりで返事はなかった。それよりも自分の秘宝を失う恐怖の方が先に立った。決して偽物でない秘宝と信じていたのが
仮面であったと信じたくなかった。冴子という若い妻は、自分にとって残された唯一の秘宝である。それが偽物になってはたまらないという気持ちが強かった。

まだ偽物と決まったわけではない、と惣太郎は考え直した。妻
を責めて告白させることは可能かも知れないが、それで信じていた秘宝が、ただの贋作に色褪せるのが恐ろしかった。
それよりも、妻が自分に秘して男と戯れる光景が目にちらつき、それが目前で他の男に犯されているのを見た時よりさらに強烈な高ぶりになってくるのに我ながら驚いていた。考えて
見れば、今現在の妻も、こうして自分が窃覗しているとは知らずに劉との時をわけ持っているわけで、隠れて男と過ごしたのと変わりはないではないか。ただ違うのは、自分が示唆
し、妻が劉に逢えばそうなることをほのめかしていたという、
自分と妻の間に暗黙の密約が成立していたということである。

だとすると、万一妻が自分の知らない情事をホテルで劉とわけ持ったとしても、その原因は結局自分がつくったことといえる。
妻は劉と今後絶対逢ってはならないなどと夫から言い渡されたことはない。劉や他の学生達に、移転したら一切を関係を断つと約束させたのは自分である。妻は劉とのことも禁じら
れていたわけではないから、偶然でも呼びあってでも会うことに背信を覚えなかったともいえる。ひとつの思いは、なぜ自分にその事実を打ちあけなかったか、といことだけである。

それも、その後、静謐に返った我が家の現状では、前のように性事は話せなかったのではないだろうか。
それより問題は、これからどう妻をあづかうかが問題だった。自分に隠れて密会をさせないためには、前のように情事が気楽に話し合える夫婦関係に戻す必要ある。そのめには妻に
再び性に関して気楽に話し合えるムードを復活させる必要がある。
それは再び妻に充分な性の歓楽を与え、それを容認することだと惣太郎は考えた。一度甘美な蜜を知った女王蜂は、その後絶えず与え続けなければ、大勢の働き蜂に囲まれた巣
からび出して、どこまでも甘美な蜜を探し需め続けると聴いたことがある。妻が味わった甘美な蜜である浩司が関西転勤でいないし、田宮がアメリカに帰っている現状では劉しかない。

当分劉をどう妻に与えるかが問題だ。
また曾ってのように自宅にこさせるか。いやそれだけでは、慣れがあって自分にとって刺激が少ない。自分の了解のもとでなら、外でふたりだけで会わせるのもいいではないか。
妻のバックに超小型のテープレコーダーを忍ばせるか、場所さえ確定すれば無線盗聴器を設置して、邪魔者のいない二人だけの密室での赤裸な歓交を聴くのも面白い。惣太郎は、そ
んな邪妄をしていると、再び激しい昂りに襲われた。
これは自分自身の回春効果も大きいし、一挙両得の話しだと、先ほどの怒りも忘れて悦に入った。

そうだ、妻も例え劉に惚れているといっても、新しい男を与えれば、なお一層の悦楽を知るかも知れない。いやきっと知る。なぜなら女の淫欲は、どんなに理性的な女でも、ひと
たびそうなると理性より躯が勝って、性交の快感には徹底的に実利主義、実質主義になるようにつくられているからだ。
それは女が男より低俗とか言う問題ではなく、子孫を残すために神から与えられた業というものである。暴漢に襲われた時にも、挿入されると、つい快感を感じてしまうのもそれである。
だから妻も劉のように慣れた身体よりも、初めの男に一層強い刺激と快感を感じる可能性は間違いない事実と考えられる。

それならば、この間ふと思い付いたように、帰ってくる後輩の田辺勇夫に妻を抱かせるということも現実のこととして実行していいのではないか。
秘宝をいつまでも自分のものとしておくためにも、妻の愛情を一人の男に集中させるのは危険である。
惣太郎がそんなことを考えながら、またカメラのスイッチを入れた。
だが、モニターテレビには依然として先ほどと同じ人気のない食堂のソフアが写っているだけだった。まだ風呂場か………と思った瞬間、惣太郎は床に散らばっていた脱いだ衣類が
片付けられているのを発見した。

思わず腕時計を見た。ふたりが消えてから、いつの間にか四十分が経過ぎしている。そんなに長くシャワーを浴びているわけがない。
惣太郎は慌ててカメラを和室に切り替えた。だが、和室は電気も付いておらず音もしない。高感度カメラは、わずかな庭からの明かりに、畳が冷たい暗さで静まり返っているのを写
し出しているだけだった。

惣太郎は思い切って、携帯電話を取り上げてダイヤルしながらカメラを再び食堂に切り替えた。
呼出音がしばらく無人の食堂になっていたが、やがて廊下を小走りに近づく足音がして妻が、タオル地のバスガウン姿で現れ、急いで受話器を取った。妻の顔にまだ水滴が付いている。
今までまだ風呂場にいたのである。風呂場でふたりは睦み合っていたのに違いない。
「小泉です……」
妻の声がかすれている。
「おれだ、まだ成田にいる。出発の飛行機が二時間も遅れていて、帰れないんだ。ユーナイテッドだが、機材に故障があって、修理に手間取っ
ているらしいんだ」

まあ、どうするんですか?」
「十二時には搭乗で来るって放送があったから、二時には帰れるはずだ。とんだ目にあったよ。明日は講義があるし、ついていないな。それはそうと劉はどうしている?」
「貴方が悪いのよ………知らないから……」
「もう、したのか?」
ちょっとだけ………だって、劉さん……我慢の限界だったんですもの………」
久しぶりによかっただろう」
「いやね………。そんなに遅くなるんだったら、あたしだって………」
いいではないか。ゆっくり楽しむんだな。なんなら劉を泊めてもいいんだよ」
いまそこに劉はいないのか?」
シャワーを浴びているの……そこでまた……一緒に入る気はなかったんですけど……どうしても入りたいと言うから……」
「思い出の和室で、ゆっくりと楽しんだらいいではないか」
「そうするわ。劉さん遠慮して泊まらないと思うけど……」

妻が正直に実状を報告したことに、惣太郎は気分を良くしていた。お前もいいのだろうと聞きかけた時、開け放たれたドアから劉が裸で現れた。
前は勃起したままだった。劉が妻に目線で訊いている。
「じゃあ、お帰りは二時を過ぎますのね」
妻が横の劉に認知させるように改めて言った。
「お前達が気兼ねなく出来るように、車に乗るときまた電話するから……」
お気をつけてお帰り下さい」

事務的な口調で言って妻は電話を切ると、斜め後ろにいる劉が、待ちかねたように、受話器を置くため腰を屈めた妻を後ろから抱きしめて、
「先生もっと遅くなるの?……二時だとすれば、まだ七時間もあるね」
子供のように無邪気な喜びの声を出して言った。妻は返事がなく、くすん、と笑った。受話器を置いた妻を、くるりと向きを変えさせて抱き取ると、劉は手を下げて妻のバスガウン
の腰紐を解くと、胸の辺りに両手を差し入れてガウンを脱がせた。肩からガウンが滑り落ちて、白い妻の裸身が一度に電灯の光を集めて輝いた。接吻をすませた劉が、劉の首に巻
いていた妻の腕を解いて、一方の手を自分の勃起したものに導いた。すなおにそれを柔らかくり締めてから、
「悪い坊やね……。早くシャワーを済ませて来なさい。頭を洗うのだったでしょう?」
「……残酷だな……途中だったのに……」

「あと、たっぷりと時間があると言ったのは、どなた様でしたかしら……。折角先生が貴方のために注文してくれた酢豚とふか鰭のスープだけでも召し上がらなくては失礼よ」
「うん、時間がたっぷりあると思ったら、安心して、急にお腹が空いた」
「さあ、ちゃんと洗ってきなさい。その間に用意しておきますから……」
まだ勃起したままの男根を、指先で弾いて笑いながら言った。劉が出ていくと、妻も食堂を出て行った。足音から自分の部屋に向かったのが判った。
  1. 2014/12/03(水) 09:02:29|
  2. 花濫・夢想原人
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花 濫 第13章焼けぼっくり5

劉が旺盛な食欲で料理を片付けるには、さほどの時間はかからなかった。  
低く構えたカメラから見える食卓の裏側からは、向かい合って椅子に腰を降ろした二人の下半身が眺められた。                     
妻は淡い茶色のハウスコートに着替えており、劉は惣太郎の木綿の格子縞の浴衣を着ていた。                             

二年前の冬、田宮と浩二を交えた三人の性宴が思いがけなく開かれた時着ていたもので、惣太郎はそれ以来初めて目にするものだった。
学園祭で無理に買わされた服で、薄茶色の地に濃い茶の木の葉模様をあしらった地味なハウスコートだが、一枚の布地を合わせて着たよ
うな頼りないもので、裾は踝まであるものの合せ目のスナップが腰の上までしかなく、ちょっと触れば、はらりと落ちてしまうしどけなさであ
る。そのうえ腰から下は合わせただけだから、椅子に坐ると腰の辺りまで割れてしまう。食卓の下で劉には見えないが、今も妻の下半身は
前から二つに割れて臍の辺りから下があられもなく露出している。椅子から立ち上がる時には、下穿をつけていない股間の淡黒い陰りまで
鮮明に見えている。     

「お酒まだ召し上がるでしょう? 和室に用意するわね」
妻の下半身が椅子から立ち上がった。
ぼくも手伝います」
劉の下半身も立ち上がった。

「いいわよ、しばらく、ここにいてね」
妻が食堂から出て行った。惣太郎はカメラを和室に切り替えた。
和室のカメラは床に置かれた人形ケースの裏に仕掛けられているから、食堂よりさらに低い。どんなに広角にしても立った時には腰から上は
写らない。和箪笥の上もテストしたのだが、そこからはどんなに俯瞰にしても畳の上に寝た二人はとらえられない。

冴子の白い足が見えていた。歩く度に裾が割れて両足が尻のあたりまで見える。広角いっぱいにしたカメラからは、庭側の障子が見える。
障子の前にちゃぶ台が押しつけられ、そこに酒の用意がされている。正面の障子の左側が押入で、両開きの襖の半分が見える。右側は廊下
からの入り口の襖があるが、そこまでは見えない。
押入から妻が布団を出して敷いていた。これから好きな男との情事を楽しむために布団を敷く妻の表情は、酒のせいもあるのだろうが、上気
していて目元も赤く潤んでいる。化粧も前より厚くしていて、光の加減では能面のように見えるときもある。女は化粧を厚くすることで、日頃の
自分を消して別の女になることが出来ると、なにかの本で読んだことがあるのを惣太郎は思い出していた。妻もいまは、自分の妻を消し去って、
劉にふさわしい若く美しい恋人に変身していると思っているのであろうか。

「手伝いますよ」
突然劉の声がした。妻は腰を屈めてシーツを広げようとしていた。カメラの前に劉の浴衣の下半身がにゅっという感じで現れ、やがてしゃがん
だ妻の前で膝を突き、シーツの片方を掴んだ。
劉がシーツを持ったまま、あとすざりをして広げ、開き切ったシーツを二人で引き合っていたが、その動きが俄に止まった。胸の辺りまであげて
シーツを持った妻の視線が、魅せられたように劉に固定されていた。ふたりは森閑とした和室の中で、しばらく視線を交わしたままじっと動かなか
ったが、やがて、同時に堰を切ったような火急さで寄り合うと、敷きかけのシーツをそのままに、抱き合った。

「もう待てない」
せつなそうな声で劉が冴子の耳に囁き、しゃがんだままの冴子の肩を抱いた。妻は、それを待ち望んでいたように、全身の力を抜いて、眠り人
形に化身したかのように睫毛を閉じたまま、がっくりと首の力が抜けた顔を劉の胸に埋め込んだ。
妻の長い髪が銀鼠色の光沢を反射させながら、劉の浴衣から出た毛深い腕を伝ってよじれたシーツの上に流れていた。

劉が脱がせたわけではないのに、どこでどうなっているのか、熱い抱擁に二人が悶えている間に、茶色のハウススーツは、するりと妻の肩を滑
り、胸から腰を剥き出して、シーツの上に藻屑のようになって落ち、丸い肩や豊かな乳房や柔らかそうな腹があふれ出て、劉の腕の中にすべりこ
んできた。
仰向きになった妻に寄り添うように横から裸体を密着させて、乳房を揉みしだきながら接吻をしていた劉が、不意に?全体を妻の下半身の方に
滑らせていった。劉の両腕が閉じて重ねられた太腿にかかって広げにかかった。
「ああそんなあ………明るいのに……」
劉が妻の股の間に顔を入れて、舌をはしらせはじめたとき妻は乱れはじめた。その部分に口と舌を使われることに妻は弱い。それをされると、
きまって乱れてしまう。

「きれいだ……いつも、ここのことを考えていたんだ」
劉は中国人らしい大げさな感嘆のことばを口にし、妻の溢れるもので濡れた繁みの毛むらをかきあげ、舌をチロチロ動かす。
……そして、劉の舌がありとあらゆる秘めやかな部分に触れ、浅瀬をなぞり、深みをうねうね這いまわると、蟻走感にもにた性感はいっそう昴り、
妻は身悶えてしまう。妻は下腹を波打たせ腰をふるわせながら、劉に挿入をせがむ言葉を口にしていた。

劉は妻の顔の横に位置していた自分の腰をずらせて妻の顔に押し当てた。カメラからは男の尻が邪魔をしてよく見えないが、猛けり狂った男を妻
の顔に突き当てているようだった。妻がが上体を起こして、乳房を揺すりながら男の股間を俯かせて、天に向かって憤怒している硬直した陰茎を
両掌で掴み口に含んだ。妻の股間に埋もっていた劉の顔がよじれるようにあがってきて恍惚の表情をみせた。劉が腰をひねって陰茎がまっすぐ上を
向くような恰好になったので、陰茎を含んだ妻の表情も見えるようになった。

妻は、静脈を浮き上がらせた男に白い指を巻き付けて、深々とくわえて舌を巻き付けていた。劉の人並はづれの大きいものはきっと先端が彼女
の偏桃を打っているの違いない。劉の腰が痙攣する。                   
劉は顔をふたたび妻の股間に埋めると、妻の陰部に武者振りついた。妻の両膝が小刻みに震えながら、縮めたり開いたりを繰り返して劉の愛撫
に応えている。やがて妻の膝の開閉が、激しくなった。体液が溢れ出したのか、締めっぽい音が聞こえだした。その音で、劉の欲望は、更に燃え
上がるのが、妻の細い指の絡まった陰茎が、ひくひくと脈動するのでわかった。妻の?からは夥しい体液が、吹き出しているらしく、劉の舌が動く
たびに淫猥な音を立てている。

劉が水中の息苦しさに水面に顔を出すように、妻の股間からときどき顔を挙げると、とめどもなく湧き出る体液が劉の鼻や口を、ぬるぬる濡らした
ているのがよく見えた。妻の白い裸が、ピンクに染まってのたうちまわる。腰が動く度に、濡れた音を立て、体液が劉の顔にふりかかった。劉は、
秘口から舌を抜くと、クレパスに強く顔を押し付け、固く突出している花芯をスルリと口の中に吸い込んだ。
「ひいっ……」妻の腰が、ぶるぶると左右に搖れる。陰毛が劉の顔をざらざらと撫でた。体液は、妻の大腿部の内側から臀部までも濡らし、シ
ーツに大きな地図を作っていた。

妻は仰向きに寝ている。
劉が横から右腕を女の首に巻け、左手は女の左の乳房を握っている。そして右足は女の股間を割っていた。
妻の右腰に劉の隆々と勃起した陰茎があたていた。それは巨大で硬そうに見えた。男の右膝が妻の太腿を大きく割り広げた。左側だけ大きく開かれ
た股間に劉の腰がはいり、やがて大きく硬いものが、妻の陰唇を割ってぬめり込んでいった。 挿入と同時に妻は声をあげた。大きく硬いものはゆ
っくりはいっていって静止していた。それは静止しながら息づいていた。息づいているぐあいがわかった。

劉が妻に入って静止したまま大丈夫か、ときいた。ええ、と妻は答えた。そのとき最初の山がやってきたらしく、妻は、声を絞って泣き声をだした。
劉が体位を替えた。妻の両の脚を掴み、胸のほうに折り曲げた。妻の腰と尻ががシーツから離れる。劉は怒り狂った青い血管をどくろのように浮
かび上がらせて脈動する陰茎をあてがいながら、両手を妻の二本のふくらはぎの内側において、妻の躯を折りたたむようにしてから、欲望を叩き
こむように腰を沈めてそれを埋没させた。劉はなめらかな水飴のような感触のなかにまみれ、しりぞき、そして押し込む動作をはじめた。

妻の全身がふるえ出し、痙攣していた。
ふたりはもう口をきかなかった。劉の息遣いと粘液の音だけが聞こえている。よけいなお喋りは、邪魔なものにしかならない。妻の頭の中も、空
っぽもになっているようだった。
の自分がいつ帰るかということも、いまの妻の脳裡からは消えているはずだ。そのようなことは、どうでもよくなっているにちがいない。いまは、
愛し合うことだけしか考えられない筈だ。
ふたりはこの陶酔と充足感のほかに、いま何もない。それ以外のことは、すべて忘れる。いや、忘れるのではなく、忘れさせられるのだ。男と女
が協同して狂乱の歓喜を、ひたすら目指していた。めくるめく快美感を、貪欲に求め続けている。可能な限り、たくさんの喜悦をむさぼり味わうこと
が、唯一の目的であった。

劉のものは妻の中で、ダイナミックに躍動している。劉は、深く激しい抽送を繰り返す。それが、少しも衰えない。いつまでも、規則正しく続けら
れる。劉が日本人ではないというのが、裸体になると、その強壮な体つきや細い腰や逞しい筋肉の動きや、それにも増して特徴づけられる陰茎の
亀頭の並外れた大きさや太さでよくわかる。
歓喜の表情も日本人より大げさだし、抽送運動も大胆で野生的である。その劉の躍動のたびに、妻は深奥部までいっぱいに満たされているに違
いない。きっと間断なく、貫かれるという感覚なのだろう。自分なら、あれだけ強烈に亀頭が見えるほど
抜いてから、一気に陰茎の根元まで突っ込むという運動を間断なく続けたら、あっという間に達してしまう。それを、延々と続ける精力は日本人には
ない。

もう妻は圧迫感ではすまなくなり、外子宮口を直接突き上げられるという強烈な感覚を味わっているに違い。全身を貫かれるような激烈な刺激で、
性感が頭まで響いていのだろう。
劉は、疲れを知らなかった。その体力には、見ている惣太郎も圧倒された。
夜の冷気が迫って、肌寒さを感じる気温だが、劉の滑らかな肌には汗が浮きでている。それに応じて妻の腰が慣れた動作で貪欲な動きを見せている。
そういう逞しいセックスを、妻はこれまで何度も経験したのだということが如実に見ている惣太郎の心に響いてきた。

劉は体力に任せて、飽くことなく求め抜く。全身を使うようにして、深々と埋め込むという動きが、何百回となく繰り返されている。そういう大型で
動的なセックスというものに、妻は臆することなく応じているのも惣太郎には驚きだった。
妻の性感は、すでに上昇しきっているにらしい。溶岩となった快感美が、いまにも火口から溢れ出すような感覚が、悲鳴に近い嬌声からよくわかる。
溢れてしまえば一気に、エクスタシーへとのぼりつめることになる。

オルガスムスの弱い波が、もう何度も押し寄せているのは、妻の太腿の痙攣する様子でわかる。それがいまは、妻の胎内で小さな中海を作ってい
る。中海の水面は、常に波打っているらしい。
あちこちに、渦巻が生じている陶酔の中海が、そのまま維持されているのであろう。その弱々しく到達しっぱなしの状態に、身を任せているのが妻
の陶酔の極致にる惚けた表情でよくわかる。
妻はバラ色の性感に、柔らかく包まれるのだろう。忘我の境にいて、甘美な夢を見ている朦朧とした顔で、大きく開けた口から涎が顎に流れて光っ
ている。そうした歓喜がいつまでも、妻の身体の芯に溜まっているようだ。そして貪欲にも妻は少しでも長く、その歓喜を味わおうと時間をかけたが
っているのだ。溶岩が溢れそうになるのを、必死になって抑える表情が、ときどき怒りのような緊張しているのが頬の痙攣となっている。。
 
その爆発しかかるものを、堪えるというのがまた新たな快感となるらしい。
妻の嬌声は、瞬時もやむことがない。長短と高低の変化はあっても、妻の声が止むことはなかった。切れ目なしに部屋の空気を震わせていた。苦
しくなって、声を殺そうとして妻は口を結ぶ。くぐもった声が口の中で、呻きのように聞こえる。首を締められているような、呻き声にもなった。それ
らはむしろ奇声になって、唇の間から漏れている。かえって息苦しいように、見ている惣太郎には聞こえる。妻は、また口をあける。空気を裂くように、
甲高い声が吐き出される。

いまの劉は妻の両脚を抱えた体位を崩そうともしない。それが、ほんの少しばかり姿勢を変えた。天井に向けられていた妻の両足を、さらに押し倒
すようにしたのだが、妻の両足の甲が、自分の肩に触れそうになった。妻の身体は、完全に二つ折りにされた。その上に、劉が腰を浮かせてのしか
かる。
劉の体重に、おしつぶされるという感じであった。妻が最も歓迎する姿勢であった。男から完璧に征服されたようなこの体位をとると、妻は精神的
に満足する。肉体的にも、結合感が深まる。劉の巨大な陰茎が真上から埋没して、妻を激しく突き刺している。

妻の声が、一段と狂おしさを増す。頭を押さえて、髪の毛を掻きむしったり、両手を伸ばして、頭の上のベットに縁を握りしめていた。開いた口の中で、
白い歯が震えていた。
妻は次第に噴火を封じきれなくなったらしい。気を反らすどころか、妻は訪れる性感を期待するようになっていた。いつの間にか、甘美な中海が消え
ている。

外海から巨大な波が襲ってくるのを、妻は察知していた。骨までとろけそうな麻痺感が、地面を割るように盛り上がってくるらしい。何が何だかわか
らなくなるような陶酔の感覚を覚えて胎内の噴火を繰り返しているのが、全身の痙攣している情態で判る。
もう我慢できないぞと、妻の朦朧となった表情を見ながら惣太郎は思った。
ついに到着したらしく妻の腹が大波のように激しい起伏を見せ、重い劉の乗った下肢を持ち上げて痙攣している。
劉が狂気したように腰を使いはじめ、苦痛のように眉の間に縦皺を寄せて、大げさな呻き声を挙げはじめた。

「ねえ、一緒よ!」
劉のものが一層太さを増して膨張しながら脈搏のしてるのがはっきりと見える。妻は悲鳴を上げた。そのあとは、あらゆることを口走る絶叫となった。
うねりが生じて、妻の裸身を弾ませた。妻は、首を振り続けた。頭の中まで、甘く痺れているようである。底無しの闇の世界へ、妻のエクスタシーが
引っ張り込まれているようである。         

劉は、さらに大きくて深い律動をはじめていた。
劉の両足が敷布団を踏ん張っているでいるせいか、腰の上下運動が思いがけない激しさで、妻の中へ没入するようすがはっきりと眺められる。
「劉さん!」
大きくのぞけってから、妻は頭を枕に打ちつけた。両手を後頭部に回して、押さえつけるようにする。
妻の股間で最後の勇をふりしぼって狂気のように陰茎が出入りする音が生々しく聞こえ、妻が、知恵足らずの女のように声を上げ、汗を流しながら我慢
出来ない快感波に揉まれ続けていた。
劉の硬い尻を両手で掴み、まるで切り裂いてやるというように尻の割れ目に爪を立てていた。                           

劉が妻の乳房に顔をうずめ、身を強く押し付けたままぴくぴく震えて気を放つのを、妻は不満だというように、自分の腰を激しく揺すってうながしてい
たが、やがて全身を弓のよにしならせて硬直した。                
最後に妻は、ほんの短い間だったが臨終を迎えたように息を止め、微動だにしなかった。
思い切り噴出した後も、劉は妻の中のものをそのままにして妻の上で弛緩していた。             

しばらくして劉が妻に静かな接吻をした。もう劉は「どうだった」とは訊かなかった。長い長い対話をしつくした後のような理解が、ふたりの皮膚
から皮膚を通じて、互いの胸にしっくりとおさまっているようであった。 
二人は裸を平べったく重ねたまま、全身汗みどろで、息も絶え絶えに、死骸のように、身を投げ出していた。征服するがわも征服されるがわも共に斃
れ、あとはひっそりとした中で、瀕死の息づかいだけだけが聞こえていた。妻のからだは、腹の下から突き上げられたせいで、蒲団から畳の上へ上半
身を乗り出し、枕が畳みに落ていた。汗っぽく乱れた髪に覆われた顔が、眉間の皺を深め、虚ろに上吊った瞳に意識のない恍惚とした表情を浮かべ、
何が悲しくてか、長い睫毛に涙の幕を張って、一滴が頬を伝って落ちた。              

ブラウン管を凝視しつづけていた惣太郎は、ほっと、大きな息をついてから煙草に火をつけた。今日の交合は、ある時には艶やかに、ある時には歓
びに、またある時には、凄愴をきわめ、それぞれに男と女の性交の時にのみ、見られる凄艶に輝く美が存在するということを惣太郎は識った。
極色鮮で艶めかしく、交合した男女が、活きて躍動する極色彩の春画の『美』、この『美』は否定出来ない。
いったい美にも倫理の規制があるのか、あってもいいのか、それとも美の極限は醜に繋がるのか。どちらにしても、人間がこの世に生きているという
そのことの奥深くにある、偽りのない真実、人間が生存することの正体が、交合に極致にこそ虚構なくそこに露呈している、と惣太郎は感銘を深めていた。              

よかったわ」                            
劉の体が離れると、妻は心底から堪能したような顔を見せた。情事を始めてからすでに三時間半がたっている。            
劉は、壁ぎわに、どすんと、肩をうちあてながら、妻の横に長々とのびてはいた。
ふたりが死んだ魚のように懈怠したのは、わずか数分で、これですべてが終わると考えていた惣太郎を驚かせた。
ゆっくりと上半身を起き上がらせた劉が、妻に軽い接吻をしたと思ったら、妻が意外にも悲鳴をあげた。おや?、と下半身を見やると、妻の片脚は、
すでに劉の腰のうえにあって、その中心には、深々と劉の陰茎が埋没していた。驚くべき劉の強靭さに、惣太郎は圧倒されてしまった。
妻が身をしならせた。
これでは、二人の終焉はいつになるかわからない、と惣太郎は考えた。

人並みはずれた劉の猛攻も、妻が女である限り果敢に応受する本性が備わっているのだ。それに妻は、劉の絶倫さは、すでに慣れ親しんでいて、い
まや畏伏の状態にある。妻は劉という男に隷属の情態だという事実をまのあたりにした惣太郎の心は動揺していた。
妻を劉から奪い返す必要がある。それは劉より、さらに完璧な男を与えることしか今の惣太郎には考えられなかった。
美食を重ねた果てには、かならず飽食の絶望がくることは解っていたが、いまの惣太郎には、そこまで考えるゆとりはなかった。直情から醒めた惣太
郎には、また激しい歓交にはいったふたりが、いままでの美としてではなく、肉の残滓をどろどろと全身に塗りたくって、腐敗臭を撒き散らしながら交合
しているようで、ふたつの狂った肉塊が蠢くのを、辟易とした感情で視ていた。
  1. 2014/12/03(水) 09:04:42|
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花 濫 第13章焼けぼっくり6

腰で折り曲げられ、伸びきった両脚の足首を掴んで左右にひらかれ、その間に男の腰が入っていた。掴んだ両足を手綱のように上下に揺すりながら、
男は前後に抽送運動を繰り返していた。女は人形のように自由に動かされながら、この世にいなかった。
男だけが夜のしじまの中で一点を見据えて孤独な動きを続けていた。突然鳴りはじめた電話のベルは、最初男にしか聞こえなかった。

調布のインターチェンジを出たから、あと三〇分で着く……、劉がまだいるなら、駅前の餃子を買って帰るが……。電話が切れる直前に、そのままで
もいぞ、と夫が言った。意味はわっかったが、劉の手前、そうはゆかなかった。
しかし、夫の期待を、すべて消し去ることも出来ず、思案のすえに、和室をそのままにすることにした。
劉には、夫が和室に入ることはないから、と説明した。和室は二人の体液と汗の淫らな痕跡が、布団にも空気にもいろ濃く残っている。
身体を洗う間もなかった。素肌に皺になった茶のハウスコートを着た。釦がふたつとれていた。その分だけ乳房と尻が多くむき出しになった。劉が着
替えたのを見届けてから、自室にかけこみ、鏡にむかった。狂って血の色に染まりかけた妻の顔が、おぼろげに視えた。
乱れた髪を直しながら、寝起きのような顔を化粧で隠そうとしているな、と惣太郎は思った。目の潤みも上気した顔も隠しようがないのにとも思った。 

心に乱れはなかったが、動揺している男を、どう静めるか、ということだけが頭にあった。夫と通じ合って仕組んだ、とは言えなかった。帰ってきて、
夫がどういう態度を示すかということも考えてみたが、それは夫しだいで、考えてもはじまらないことだった。夫が男に無体な態度をとるとは思えなか
ったが、純な男の心の動揺には心が痛んだ。夫が、もう劉と会うな、と言ったら、はたしてそれに従えるだろうか。いまの女には、肉の希望だけが
すべてのように思えた。

夫が帰ってくるのだから、ちゃんとした服装で現れると思っていたのに、ネグリジェ姿で現れた冴子を見て劉は、息をのんだ。
ネグリジェは薄くどうかした光線のかげんで、陰毛が透けて見えた。下穿のないのも歴然としていた。
「そんな恰好で………」
微笑みかけた冴子の顔が一瞬、惚けた表情をみせてから、あわてふためいて、また自室にかけ込んだ。
まだ精神が正常にかえっていない、と劉は思った。
これでは、もうすぐ帰ってくる主人に見破られるかも知れないと考えると、日本の社会ではどうか知らないが、台湾で畏敬のひとの妻と通じたという
ことが発覚すれば、それは社会的抹殺を覚悟しなければならない。
劉の中に恐怖がはしった。すぐにもこの家を飛び出したい衝動にかられたが、日本の風習ではないことはたしかだが、この家の主人は、どこが違っ
ていると、前から考えていたことが、その衝動を阻止させていた。

調布の外人寮にいたころ、毎夜のように、この家にやってきて酒を飲み、夫婦と話し、そして主人が二階の書斎に消えるのを待って、階下の和室で
交わっていたことを、主人はほんとうに知らないのだろうか、という疑問があった。
若い妻とわかい男が、毎日のように、夜遅くまで、ふたりだけでなにをしていたと考えていたのだろうか。まったく疑念がを感じなかったとすれば、
よほど自分の妻を信頼していたか、世間知らずというほかない。

言語学者として世間でも通る五十歳の男の経験が、それほど非常識とは思えなかった。当時じの劉にとっては冴子が生き甲斐の軸だった。
はじめて識った女のやわらかさは、なにものにもかえがたかった。
そんな時、同じ寮に宿泊していたバンコック出身のヴエンという青年が、あなたも橋田先生の所に出入りしているらしいが、あの先生はインポで奥
さんを満足させてやることが出来ないと聞いた。もしそうであったら、あの若いし美人の奥さんは欲求不満に違いないから、ぜひ一度紹介してくれ、
と劉に言ったことがある。

ヴエンは、政府の奨学金で留学していたが、ただ貧困な母国を抜け出して豊かな日本で遊びたいという、真摯な学問を追求する劉とは違った世界
の人間だから、それまで劉は相手にしなかった。
しかし、その時だけは、ヴエンの話しにのるような恰好で、
「それは初耳だ。本当なら、あなたより自分が立候補しますよ。しかし、それは事実ですかねえ……」
劉が、わざと好色そうに問いかけると、

「隣の部屋のラサールも、よくあの家に遊びに行くそうだが、酒を飲んだすえ、奥さんを抱いてダンスを踊った時、あまりにも魅力的なので、つい
激しいチークダンスをしたのだが、横で見ていた主人が、自分はもう若くないが、妻は若いのだから慰めてくれ……、と言ったそうだ」
劉は焦る心を鎮めながら、
「そしたら?」
と促したが、
あとのことは言わなかったね。その後通っていないところを見ると、成功しなかったのではないか」

ちょうど劉が冴子によって男になったばかりだっただけに、ヴエンの言葉は衝撃で、しばらくは、そればかり考え続けて、あるいは、自分とのこ
とが発覚して、とおまわしに詰問してきたのだろうか、とまで疑ったが、そのあとなにもなかった。
いまの冴子は、たしかに精神的混乱を起こしていたのだろうけれど、混乱しているがゆえに、無意識で素裸にネグリジェをはおるというのは、夫
とのあいだに、それが許されるような一種の馴合の合意とでもいうべきものが成立している、とも考えられる。
だからこそ、本能的に裸にネグリジェを纏うという行動に出たのではないか。劉の脳裏に生じた瞬間の疑念は、なぜか彼の心に尾をひいた。

つぎに現われたとき冴子は、ミニのグレーのスカートに、胸ぐりの大きくあいた目の醒めるような深紅のブラウスをつけていた。深紅が冴子の
肌の白さを目立たせていた。
「これならいいでしょう……」
冴子は、少女のように短いスカートの裾に手をかけてしなをつくってみせた。一瞬、股間のあたりまでまくれ上がったスカートの奥の隠微な部分に、
下穿は見えなかったが、きくわけにもいかなかった。

車の停まる音もなく、玄関があいたのは、それから間もなくだった。
冴子が出迎えに出た。靴を脱ぎ手提げ鞄を渡しながら見上げた夫の眼に光があった。首尾を問うまなざしであることは冴子の一目でわかった。
冴子は返事をせず顔を赤らめた。惣太郎があがってきた時に、冴子はリビングにいる劉を気遣いながら、そっと玄関横の和室の襖をあけてみせた。
惣太郎が、わずかに開いた襖から首を突っ込んで、

「相当派手にやったな」
小声で言ってから、冴子のスカートの裾に手をさしこんだ。
下穿のない股間は濡れていた。
「なんだ、風呂にも入っていないのか」
惣太郎は、ややふるえる声で妻に言った。自分が興奮しているのが、わかった。
「一度
入りましたけど……」
消え入るような声で妻が答えて赤面した。

リビングで聞き耳をたてているであろう劉を気にして、惣太郎はわざと大股で歩いてリビングに入った。ドアをあけた正面のソフアにかしこまって座
っている劉が、いたずらを見つかった子供のように顔を皺わらせて笑った。
「劉君はあまり飲めないのだったね。無理に飲むとどうなるんだい?」
惣太郎がブランデーグラスを揺すりながら訊いた。
「すぐに前後不覚になってしまいます。あとで聞きますと、とても元気よくなるそうですが、自分では覚えておりません。二、三杯飲むと、これが限
度だというように頭が重くなってきて、それを過ぎると、あとは忘れてしまうのです。自分の行動を覚えていないというのは恐ろしいことです。それ
で、あまり飲まなくなってしまったのです」
「酒を飲めば、多かれ少なかれ、記憶は失うものだよ。まあ、今夜は、もう泊まることにして、ゆっくりやろうよ」

劉をけしかけるようにして、ふたりで酒をかわしだしたのは十二時を過ぎた頃だった。自分で云った通り、劉はすぐ酩酊した。酩酊すると暗示にか
かりやすくなるタイプだった。それを惣太郎は巧みに利用した 自分が帰るまでの妻とのことなど、軽々と告白し、死んで詫びると、泣きながら訴
えた。
惣太郎の老獪な誘導で、劉と妻を和室に入れて愛交に入らせるには、それほど時間はかからなかった。

もう休んだ方がいいから……、とシーツの皺を横目で見ながら布団に劉を寝させ、その横に妻に添い寝するように命じたとき、妻は、
「いやよ、こんなに明るいところで……」
羞恥に顔を染める妻を説き伏せて寝させると、劉は自然の反応で、すぐに妻を抱いた。酩酊して眼はつぶっているが、もう惣太郎が、すぐそばで
見ているなどということは眼中にないらしく、着ていた寝巻も下穿も脱ぎ捨てて全裸になって、妻に挑んでいった。
贅肉のない硬く逞しい劉の裸体が、妻に馬乗りになって、妻の衣服を剥がしはじめた。酒を飲んでいない妻はあがらったが、劉には非力だった。

「そんな無茶なことしたら、破れてしまうわ」
薄いブラウスの前ほっくをはずさないで、強引に前を開こうとする劉に妻が叫んだ。
「いいではないか、ブラウスの一枚ぐらい…」
惣太郎が言った時には、もうブラウスは、左右にちぎられて、ぼろきれにようになって、妻の躯の下に落ちていた。
深紅のミニスカートが捲くしげられた格好で、妻は劉のものを受け止めていた。仰向けにされた蛙のように両脚をくの字形に開いたあいだに劉の
腰がはまってい動いていた。惣太郎のものと比較するとひとまわりも、ふたまわりも大きく見える劉の陰茎がまた妻を貫いた。
  1. 2014/12/03(水) 09:06:20|
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花 濫 第14章田辺の帰国

田辺に東京にいる間は、ぜひ我が家に下宿するよう進めたら、恐縮しながらも感激して喜んでいた。

あの野蛮人の長髪族のような風貌で、我が家の玄関に彼が立ったら、冴子は驚愕するだろうと思っていた。

ところが実際に現れた田辺は、きりりと締まった顔に、ストライブのスーツを着こなしていて、惣太郎の方が、かえって驚いた。
「東京は近代都市ですから、ちゃんとした身なりでないともてませんからね。日本の美しい婦人には飢えていますから」
帰国の祝いの夕食で、ブランデーなど久しぶりで、いつもは山羊に乳からつくった酒を呑んでいたというだけあって、本当に旨そうに飲む。
具合のいいことに、田辺が帰国する二ヶ月前に、劉は母親が亡くなって台湾に帰国していた。
再び静謐に戻った家で、冴子もいつしか静かな挙措の妻に戻ってた。

しかし惣太郎は妻の躯のうちで、情念との激しい葛藤が繰り返し起こっているのを充分承知していた。
夜の床でねだる妻を二度ばかり抱いた。昼間の静謐をかなぐり捨てて夜叉のように、むしゃぶりついてくる妻を、惣太郎は御すのに苦労した。
なにかの弾みに、すこしばかり性的な会話をしたり、ふと接吻したりした時の冴子の顔が、にわかに生気を取り戻したように紅潮し、潤んだ眼差しが男
心をそそる。

田辺と初めての会食をした夜、惣太郎は冴子に聞いてみた。
「田辺君をどう思うかね。はじめた会ってみて」
「あたし若い男のひととばかり会っていたから、彼のような中年の男性は、どう対応して良いのか判りません。それに田辺さんって、男の体臭を振りま
いているようで、なんだか怖い気がするわ。じっと見つけめれると、なんだか呑み込まれてしまいそうで、脚がすくむ感じなの」
「彼に男の魅力を感じるということかね」
「わからないわ…なんていうのかな……彼と対面すると、なにか堅い大きな棒を突きつけられたという感じなの。体中が竦むという感じ……」

悪い印象はないらしい。田宮、浩二、劉とは違った男というものを見つけたという感じらしい。
問題は、妻よりも田辺にあると惣太郎は考えた。独りでも多くの女性を知りたかったからと、パイプカットまでして、女性遍歴を重ねた来た、甲羅を経た
田辺に、自分の妻はどう映っただろうか。自分の秘宝の鑑定がどうなのかが一番問題である。

なんでも言葉を濁さず、堂々としゃべるのが田辺らしさである。このために誤解を生むことも多い。その彼が、妻に酒を汲まし談笑しても、ひとことも妻
を褒めないばかりか、冴子を見る表情にも、さしたる変化はない。田宮や浩二、劉のように、妻に惹かれて輝く瞳もみいられない。
惣太郎は秘宝に関心のない田辺に、自分がどんなに妻を過信していたか知らされたような気がした。

帰国から一ヶ月の間この家に泊まっていても、田辺は妻にこれという関心を示さなかった。
大学の同窓生有志により田辺の帰国歓迎会が催されたのはこの頃だった。微醺をもう一杯という感じで二人だけで居酒屋に立ち寄った。
「奥さんの冴子さんのことですけど、先生は寝取られの性癖をお持ちですか」
いきなり切り込まれて惣太郎はたじろいだ。
「どういう意味だね」
「奥さんから発散するあの男心を痺らすような濃厚な精気は、先生お一人でつくることは出来ないと思ったんです。何人かの男の精によって醸し出された
女体だと思ったのです。そう思ってから、奥さんに接する度に、耐えられない欲情に苛まされているんです」

「そうかね冴子はそんなに男心を誘う雰囲気を持っているかね」
「いままで私は結構の数の女性を識ってきたと自負しています。女性を見たとき、いつも、犯したい女か、抱きしめたい女か、どうでもいい女かと三通
りに見分けることにしています。しかし奥さんの場合は、犯してたいし、また奥さんは抱きしめたいと複合しています。要するに男心をそそるということな
んですね」
「君ほど女を知りぬいた男が、家内のような、どこにでもいる嫁が気に入るとは信じがたいね」
「いや先生にとって奥さんが最愛の貴重な人で手中の存在だと思います。しかし奥さんには、男を惹きつける媚態が備わっているのです。美貌は勿論で、
私は奥さんのようなつぶらな瞳やぼっちゃりとしたタイプが昔から好きです。いわゆる特別にスタイルが優れているというのではないけれど、あの柔らか
そうなむっちりりした色白の肌は、ほんとうにむさぶりつきたくなります。そして性格が清純で挙措がうつくしい」

「おいおい……少し褒めすぎじゃないのかい」
冗談めかして言ったが、実は内心では不魚であった釣り竿に、突然猛烈な引きがあった時のような衝撃が惣太郎を襲っていたのだ。
「わたしは大変失礼かも知れませんが、奥さんは、性的にも完全に成熟されている。濃厚な男の精を思い切り吸収しておられるように見え、先生お一人
で創り上げた女体には見えなかったのです。普通なら静謐で叙情な挙措のあの奥さんを、先生がほかの男に与える筈がない。だから性癖として寝取られ
なのかと思ったわけです」

「冴子とわたしを、そんな風に見ていたのかね」
田辺は杯を干すと、彼の特徴である、じっと人の眼差しを覗き込むような目つきで、惣太郎を見据えた。
ここまで切り込まれ、見透かされていれば、もうすべてを語るべきだと惣太郎は決心した。なんと言っても、彼が妻に魅力に魅せられていることには間違い
ない。
秘宝は最大級に評価されたのだ。

「少し長い話になるが聞いてくれるかね」
惣太郎は岡山の鄙で厳父の元で育った玲子を半ば強制的に我がものとし。最近年齢差から彼女を満足させられていないと思い出し、若い男と交合させた。
すると秘宝は、男の精によって一段と艶がましてきたと話した。
「実は先生の秘宝は実に甘美でした。申し訳ないのですが、もう奥さんを頂いてしまいました」
惣太郎にとって百雷が落ちたような衝撃的な言葉だった。

「それはいつのことだね」
「先生が千葉の集中講義でお留守の時でした。
「何時のことかね」
「冴子は嫌がらなかったんだね。すぐ応諾したのかい」
「いえ、激しく抵抗されました。いまでは私が無理矢理犯したとのが正しかったと思っています」
  1. 2014/12/03(水) 09:08:33|
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花 濫 第15章田辺の告白

惣太郎は月に一度大学の分校がある千葉に集中講義に出かける。
講義が終わると現地の学生達とのコンパに出席するから、帰りは最終電車になることが多い。
その日も冴子に遅くなることを電話していて、夕食は田辺と二人で済ましておくように伝えててあった。

田辺の告白は次のようであった。
暑い夏の日であったから、汗を流して帰宅した田辺は、冴子の勧めるままに、食事の前にシャワーを浴びた。冴子が脱衣場に置いてくれた、糊のきいた
浴衣を着ようとしたら腰紐がなかった。冴子を呼ぼうとして、ふと思い直して、そのまま脱いだ着衣を抱えて、浴衣の前を合わせただけで、キッチンに入っ
ていった。
「奥さん帯が入っていませんでした」
対面の流しにいた冴子は、飛び出してきて、まず田辺が抱えている脱いだ着衣を受け取ろうと掌を伸ばした。田辺の浴衣の前が、はらりと開いた。田辺は
ひやりとし冷房の感触を下腹に感じて、言いようのない開放感を覚えた。

すぐ前に、ノースリーブの薄いブラウスに、一枚の布を回しただけで釦でとめたミニのラップスカート姿の冴子に抑えきれない欲情を覚えた。
浴衣の前がはだけたまま、田辺は呆然と冴子を見つめていた。
田辺の躯は、身長もあり分厚い大胸筋が逞しく、太股も筋肉の塊のようであった。大胸筋のあたりから濃い胸毛が腹部まで続いて、股間の陰茎がにょっき
りと上向いていた。
まさに成熟した男そのものという感じで、向かいあった冴子を圧倒していた。

浴衣の前が開いて覗ける田辺の筋骨逞しい姿に冴子は思わずそこに立ちすくんだ。
その冴子を無意識のうちに抱きしめていた。
「あっ、いやな田辺さん」
と声を出した冴子の唇を奪った。

「奥さんの抵抗はあまりなかったように思います。ただ私の胸を両手で押していましたが、抱きしめていた腕を解いて、ブラウスの上から乳房を揉みながら、
私は奥さんが欲しいとずっと思っていました。もう我慢出来ませんと、本心を告げました」
田辺は冴子を抱きしめたまま愛撫を続けた。乳房から躯全体を愛撫し、ラップスカートのホックを外そうとすると、奥さんはその手を握って抵抗されました。
思い切ってフラウスの前を引き裂きました。釦の飛ぶ音や私の激しい気迫に驚かれたのか、その後の抵抗はあまり強いものではありませんでした。

しばらく二人は無言のままでした。奥さんの息が徐々に喘ぎに変わっていくのがわかりましたし、躯のあちこちに愛撫と接吻を繰り返しているうちに、奥さん
の性感帯が判ってきました。
耳朶から頸のあたりに唇を這わすと奥さんは猛烈に感じるのですね。
この歳までさんざ女を知った私の愛撫は、絶対に女体を燃え上がらせるという自信がありました。私は羽織った浴衣を脱ぎ捨てました。
「田辺さんって、凄く男臭くってお上手なんだから……あたし知らないから……」
奥さんがはじめて言葉にされたのです。私は奥さんが承諾されたと確信しました。心底私に好意を寄せられたとは思いませんでしたが、私の経験を積んだテ
クニックに嵌ってこられたのがわかりました。

二人の足下に散らかった私の着衣はそのままにして、奥さんを横抱きにして、リビングに行き、ソフアに荒々しく放り投げました。
私のを見て下さいと、私は勃起している陰茎を奥さんの顔の上にもっていき、それをしごきました。
下半身はスカートが取り除かれてスキャンティーだけになっていることも忘れたのか、私の陰茎から目をそらしていた奥さんが、時々怒り勃っている男根に時
々目がいってしまうようでした。
私は奥さんをものにしたと、こみ上げる雄叫びを殺して、いままで蓄積してきた愛技をつくして奥さんを愛撫しました。

スキャンテーの上から陰部を強く愛撫しはじめた頃から、呻き声を出しはじめられました。
先生からお聞きしていた奥さんの性歴を識っていましたから、これだけ愛撫すれば、奥さんはもう拒みはしない。しだいに昇華していかれるのが、手に取る
ように判りました。
奥さんは自分の裸体を私の前に曝し、もう完全に抵抗を止め、それどころか私の勃起した陰茎に掌を伸ばしてこられました。
私の陰茎は濃い茶色で血管を浮かび上がらせて、亀頭は極限まで腫れ上がっていました。そこに奥さんの小さな白い手が絡みついているのが、とても淫猥で
した。

「私のはどうですか?他の男と較べて」
「凄いわ、ものすごく固くて熱いの……握り切れないわ」
 奥さんがこの場におよんで、さすが甲羅経た性愛の経験者らしく、やさしく私の陰茎をいとおしんで下さるのが、とても嬉しく、また怖いと思いました。
「奥さんごめんなさい。ここの家にお世話になった時から、奥さんに夢中になっていました。やっとこれで満足しました」私ははやる心を抑えて、もう一度奥さ
んに接吻してから、躯
を離して終わりを告げました。

それは決して本心はありません。奥さんの意志を確認したかったからです。
「田辺さん あたしがお嫌い?」
小首をかしいで言う奥さんの目がうるんでいました。
これはいけるな!

奥さんの言葉に私は満足していました。先生の秘宝が私に墜ちたという満足感です。
私は先生から聞いていた、奥さんと関係のあった男達のことを思い出していました。互いが猛烈に愛し愛ながらの性交が、いままでの奥さんが体験した交合で
す。ここでまだ奥さんが体験していない交合とは、犯される歓びだと思ったのです。
私は態度を改めました。

「会った時かから、奥さんとこうなる時を狙っていたんだ。今日は奥さんを頂くからな、覚悟しなさい」
突然変貌した私の顔を、奥さんは惚けた顔で覗き込んでおられました。
そういいながら、いきなり私は奥さんの乳房を鷲掴みしました。
「痛い!」奥さんが悲鳴をあげました。
そして奥さんのスキャンティーを荒々しく剥ぎ取リ、パンパンとお尻を強く平手で叩きました。
一瞬きょとんそた表情の奥さんの顔を無視して、まだあまり潤っていない陰唇へ無理に指を突っ込みました。

奥さんは無言で私のその掌を押しのけようとされました。かまわず指を挿入したまま、私の技巧を屈しして、微細な動きをはめた私の指の動きに、あっと声を上
げて、躯を弓なりに反り
返らました。奥さんの陰部から透明な体液が溢れ出していました。

私は怖声でどすをきかせて
「奥さんそろそろ頂くよ。」
と言いながら、両足の間に腰を入れ、開ききった陰唇のピンクに狙いを定めて、大きく腰を振って一気に男根を突き入れました。
奥さんは「あっ 痛い! ううっつ」と叫び躯をよじらせました。

嵌め込んだ陰茎を 抽送はせずに、中をかき混ぜるように動かせしました。やがて動かす度に「あっあっ」と奥さんは嬌声をあげます。ぐっと奥まで突き入れると、
「きついわ……どこまで入るの、怖い」
と奥さんは狂いました。
その奥さんの言葉に刺激され、私はさらに 抽送のスピードを速めました。そして、
「どうです私のチンポは…良いだろう……こんな長いチンポで貫かれるのは初めてかい?」
わざと卑猥な言葉を吐きながら攻め続けます。

「そらそらもっと奥まで突っ込むぞ」
「お腹の中がこわれそう……キャアー」
と叫んで奥さんが早々に逝ってしまわれました。
弛緩した奥さんのほっぺたを叩いて、
「これから本番だというのに、もう逝っちゃたのかい。さあさあ本気でよがさせてあげるからな」
私が 抽送をはじめると、奥さんも電気仕掛けの人形にスイッチが入ったように、またよがりはじめました。

「奥さんのオマンコの中でチンンポが締めつけられているよ。俺のぶっとい陰茎が全部奥さんの中に埋まってるんだ。うわあ、この締め付けはたまんないな」など
とさらに卑猥な言葉
で攻め続けると、奥さんは半狂乱の情態になり、逝き続けました。体位もいろいろと変えて、最後は奥さんの手首を後ろ手に縛って、後ろから思い切り突っ込みま
した。

全身全霊を亀頭に集中して、今まで経験してきた、あらゆるテクニクを使いました。
私の奥義はボルチオ性感帯の刺激です。
奥さんは近所に聞こえないかと思うほど、大きな声でよがっていましたが、最後は失神してしまい、今度は簡単には起きてくれませんでした。

先生の最終電車の時間が近くなり、私は慌てて裸のままの奥さんを風呂場に運び、すこし熱めのシャワーを奥さんにかけて、やっと正気にかえさせました。
その後慌てて後始末をしていたら、先生が帰ってこられました。

あの時、先生を囲んでブランデーを呑みましたね。一緒にグラスを舐めるようにしていた奥さんの視線が、ちらちらと私の方に向けられていました。それは怒りの顔
ではなく、共犯者同士が、こっそりと意志を交わしているような感じで安堵しました。

「それで終わったんだな。その後はどうなったんだ」
奥さんを頂いたのは、その時だけです。失神はされましたけど、満足はされっていないと思いました。それだけにこの交に奥さはきっと未練を残しておられますから、
また機会があれば、今度は苦労せずに、すぐ出来ると確信しています」

「なるほど冴子が被虐の歓びを知ったということか」
惣太郎は思わず唸った。
「被虐というほどのことではありませんが、いままで惚れられて大切にあつかわれてだけいたのを、ちょっとマゾを感じさせてあげたということです」
「それで冴子は悦んだというのだね」
「私の感では、奥さんはいわゆる被虐の歓びはお好きではないけど、受け身の女として、男の強烈な力で抑えつけられる歓びはかんじられるようですね。特に言
葉の暴力には、いままで清純な方だっただけに敏感ですね」

「おかしいな。万一そのようなことがあったら、私は絶対報告するように言ってあるんだがなあ」
「彼女は、先生に顔向け出来ないと泣いていました。私は先生から一部始終を聞かせてもらっていましたから、彼女は要するに自分の意志ではなく、、無理矢理手
込めされたのですから、もし報告すると先生がお怒りになり、不注意で私に躯を許したことや、私の行為に先生が激怒され、私との仲が決すると思ったらいのです。
私も不注意だったし、それでなのに感じてしまい、無念だと判断したようで困惑しておられました」

田辺は自分から先生に報告して、穏当に解決するから、それまで黙ったいてくれるようにお願いしてあったのですと言った。
惣太郎は、いくら田辺が弁解しても、妻が田辺の説得に応じて自分の報告しなかったことを裏切とも思えて怒りを覚えた。
しかし陵辱される妻の、見たことない犯されながら悶えている姿態があやしく目に浮かんで、それを見たいと、おののく自分の思いに愕然とした。

「それ1回だったんだね」
念を押すようにもう一度田辺に言った。
頷いた田辺に惣太郎は、なにげなくと言った口調で、
「いたぶられる妻はまだ見たことがないよ、大人しい男達だったからね。そんな妻の様子ま見たこともないが……」
自分で言って、未練がましいと反省していた。
  1. 2014/12/03(水) 09:10:09|
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花 濫 第16章田辺が狂った

その日は、田辺がどこからか朝鮮のマッコリという酒を貰ってきたので、三人で呑んだ。
ビールほどのアルコール含有量のその酒では飲み足らず、惣太郎が愛蔵していたコニャックを空けた。
田辺がの日ははじめから酔っていたが、一〇時を過ぎると眠ってしまった。田辺に与えていた二階へ連れていけなくて、冴子がリビングの隣に敷いた和室の布団に、
二人がかりで、その重い身体を横たえた。
田辺は鼾をかいて、そのまま泥のように寝込んでしまった。

[お前は田辺君をどう想っているのかね」
率直に訊いてみた。妻はなにも言わずに微笑した。

「お風呂に入っていいかしら」
しばらくして惣太郎は、酒のグラスを置いて、田辺の様子を伺いに和室の襖を少し空けて覘いてみた。
暗い和室の布団の上に、田辺が座っていた。なぜか浴衣を脱ぎ捨ててる。
そればかりか下履きも脱いで全裸になっていた。酔っていると思った。
しばらくすると田辺は裸のまま立ち上がった。トイレにでも行く気なのだろうと、惣太郎は慌ててその場を立ち去り、自分も入浴の用意をするため、二階の寝室に向
かった。

惣太郎が階段を降りかけて、ふと見ると、リビングのソフアに全裸のまま座っている田辺が見えた。
まだ呑む気かと思ったが、なぜ裸になったのだろうと訝りながら、注意してやらなければと思った。


階段を降りかけて、田辺が、裸のままソフアに堂々と座って、まだ片づけていないテーブルにあったグラスに酒を注いで呑んでいるが見えて驚いた。
広げた股間からは、黒い陰毛のなかから、屹立した陰茎がにょっきりと飛び出して脈打っていた。
大きいが、これというと特徴は見あたらない。だが亀頭がいやに黒いし、それに続く陰茎の表面がざらついていて皮が厚そうだ。鍛え抜いた陰茎だと惣太郎は思っ
た。
早速階段を降りて、声を掛けようとした時だった。

廊下側のドアが開いて、浴用のバスタオルを肩から羽織った妻が、そこに立っていた。リビングを通り抜けて寝室に上がってくるつもりだったのだろう。
裸の田辺を見て、妻が惚けた表情で立ちすくんでいた。
その妻を見つけた田辺が裸で立ち上がった。半立ちの陰茎が揺れていた。
驚いた表情で呆然としている冴子は、声も出ない様子で、両手を胸のあたりにおいて棒立ちになっていた。
田辺が無言のまま妻に近づいた。

階段の途中からリビングを俯瞰して見ている惣太郎は、浅黒い巨体が、真っ白いふっくらとして妻の裸体に近づく様子が、現実の光景とは一瞬思えなかった。
妻のすぐ前まで、ゆっくりとした動作で近づくと、目の焦点もうつろな妻のバスタオルに手を掛けたかと思うと、片手をあげてバスタオルを妻の頸のあたりから引き
はがした。妻は言葉も出ないのだろう。
顔面を警戒してか思わず肘で顔を庇ったとき、露わになった乳房がゆらりと揺れた。

妻は全裸にスキャンティー姿で立ちすくんでいる。
惣太郎も突然の出来事に圧倒されて階段の途中で足が止まってしまっていた。
白いスキャンティーだけで、両手でで胸だけを覆って、大きく胸をゆらせて呼吸をしながら、恐怖に引きつった顔で、やはり無言のまま田辺の顔を凝視していた。
田辺も無言で冴子の裸体を見据えていた。惣太郎も事態の急変に立ち尽くした。
三人の人間が、緊迫した事態にもかかわらず、無言である。不気味な静寂が立ちこめていた。

その静寂をや破って、田辺は玲子の躯に手を掛けて冴子を半回転させて背中から抱きしめた。そして片手を降ろしてスキャンティーを脱がしにかかった。腰を屈め
て阻止しようとする冴子に、田辺も中腰になり、一気に引き下ろした。冴子の足首にスキャンテーが引っかかりよろめいた。
冴子が、はっと我に返って、両手で抱きかかえられた田辺の腕を引き払おうとする。その冴子の両手を掴んで、ぐいと後ろ手にして両手首をあわせて手錠でもか
けたような格好で押さえつけた。逃れようとする冴子の頭が揺れ長い髪が散った。
「止めて! 主人が二階にいるのよ!」
冴子が初めて正気に返ったらしく声を出したが、田辺は無言だった。

まるで囚人を引き立てるように田辺は、冴子の裸体を押して、隣の和室に向かわせる。
冴子の思い乳房が揺れ、黒髪が湿気を帯びたまま波打っていた。浅黒い隆々とした男が、真っ白いふっくらとした女体をいたぶりる様子を惣太郎は、夢を見てい
る気分で凝視していた。怪獣が獲物を連れ去るような光景だった。

早く降りて行って妻を助けなければと思いながら、一方では身を縮めてあがらっている妻の白い躯が、可憐でいとしく見えるのはなぜだろうと、頭の隅で考えてい
た。その猛獣がれからはじめるようとしている性宴への恐れと期待と興奮が、下腹あたりから、むらむらと沸き上がってくるのを、抑えることが出来なかった。
この興奮は一体何だろう。繁殖期に愛猫が、野猫と交わって大きな鳴き声を上げているのを、痛々しくも被虐の感情で見ているのに似ていると思った。 

和室に妻が連れ込まれたのを見て、惣太郎もやっと我に返り、階段を降りてリビングに立った。
和室の襖は開け放たれたままで、布団の上に転がされ、くの字に躯を縮めて横たわっている冴子が見えた。室内に妻の風呂上がりの石鹸の匂いが漂っていた。
田辺は降りてきた惣太郎に気付いた筈だが見向きもしないで、転がされている冴子の真上に両脚を分踏ん張って立っている。
いつのまにか、その股間の陰茎は隆々と怒張して下腹に付きそうなぐらい反り返って脈動していた。

全身の筋肉の隆起がいちじるしく毛深い剛健な裸体が、両腕を組んで仁王立ちになっている姿は、プロレスリングの選手のように頑強で、男の惣太郎が止めに入
っても、はじき返されそうな迫力があった。
田辺は右脚を揚げて冴子の腰に載せて、ぐいと仰向きにした。なんの抵抗もなく冴子は麻酔を打たれた患者のように、ごろりと仰向きになった。顔を上に向けて、
下から虚ろな目で田辺を見上げていた。
田辺が腰を屈めたと思うと、片手でいきなり冴子の長い髪を鷲掴みにして引き上げた。

「痛い やめて!」
冴子が声を出した。
惣太郎も妻の声に触発されたように声を上げた。
[田辺君、今日はここまでにしよう」
言ってしまってから、これでは共犯ではないかと反省し、慌てて言い換えた。
「ともかく止めたまえ」
大きな声を出すつもりが、しわがれた声になっていた。

田辺の血走った目の顔が、はじめて惣太郎に向けられた。酔いが深いらしく赤ら顔で、惣太郎を睨み付けていた。しばらく惣太郎をじっと見据えていたが、
「今夜もう一度奥さんを犯す」
惣太郎に宣告するような口調で言った。
まだ濡れている黒髪を引っ張られて横座りのまま起き上がり、両手を髪を握られた彼の手をもぎ離そうと両腕を挙げて悶えている妻の姿態がなんとも猥雑に見えた。
掴んだ髪を引き寄せて、先ほどから勃起したまま揺れていた陰茎に片手を添えて、冴子の口にあてがった。
冴子があがらって髪にかけていた両手で田辺の下腹を押していたが、ぐいと固い陰茎を口に押しつけられて、はっと口を開いてしまった。その隙に陰茎はやすやす
と冴子の口腔に侵入してしまった。

「おらおら、大好きなチンポをしっかりと咥えてくれよな」
髪を掴んだ手首を揺すって、冴子の顔を動かした。
冴子の口が陰茎を含んで揺らされていた。
「もうやめろよ」
無理に陰茎を出し入れさせられている妻の苦しげな表情を見て、
惣太郎が和室の敷居のあたりから室内に入って、田辺の躯に手をかけた。

いきなり田辺の右脚が惣太郎の足首に絡んで引いた。惣太郎が足を掬われて、畳の上にもんどりと仰向きに尻餅をついていた。田辺の早業だった。
「この人はこれでいいんだ。決して止めはしないから」
鼻にかかった笑い声でいうと、もう惣太郎は無視して、冴子を布団の上に俯せに押し倒した。すばやい動作だった。腰を屈めて冴子の腰を掴むと、ぐいと持ち上
げた。
後ろから股間に掌を入れて女陰を嬲りはじめていた。
惣太郎は田辺のあまりの変身ぶりに唖然としていたが、ふと、妻が犯されるのを見たいと田辺に言ったことを思い出た。
これは田辺の演技だと気付いたのである。
惣太郎は和室の入り口まで下がって、そこで座り込んだ。
  1. 2014/12/03(水) 09:11:29|
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花 濫 第16章田辺が狂った2

田辺が掴んだ髪を動かせた。冴子が布団の上に投げ出されて、俯せに倒れた。
田辺が、冴子の腰を両手で掴み引き上げて、自分の腰にあてがった。
「もう濡れているじゃないか。自分で確かめてみるかい」
両手を布団に突っ張って躯を支えている冴子の片方の手を後ろから掴んで、その掌を冴子の股間へ導いた。
「ほら、自分でいたぶってみるかい」
冴子は慌ててその掌を引いて、また躯を支えていた。 

冴子が短い声を上げた。田辺の掌が差し込まれたのだろう。腰を抱え上げられて上半身を支えるために両腕は必死で布団を突っ張っているので防ぎようが
ない。
「その辺の男達と一緒にするなよな。俺には長い経験があるんだ。ほら、ここがあんたのGスポットだね…ほら、気持ちいいだろう」
田辺は、顔を上げて、自分の指の触感を確かめるように執拗に指を動かせる。また二人の間に沈黙が広がり、やがて冴子の尻が動きはじめると同時に呼吸
がしだいに荒くなってきた。

二〇分ぐらい経っただろうか、
「うぅう………‥ああ…」
冴子が呻き声を上げ、腰を振った。
片手で冴子の腰を持ち上げていた田辺の腕が滑って外れると、冴子が両膝を布団につけて、膝をつけて四つん這いになった。
「よしよし感じだしたな」

田辺が納得したというように言うと、今度は指の抽送に力を込めて、激しく揺すった。
冴子が悲鳴をあげると、激しく動く掌のあたりから、噴水のような音と水が噴き出していた。
「逝ったね、よくなっただろう」
静かな和室に、田辺の低い声と指の動きんつれて淫らな淫水の混じり合う音が響いた。

飛び出した淫水の飛沫が、惣太郎の顔にかかるほど二人のすぐ後ろに居た。
「奥さん この間はこのチンポに啼かされたなあ。今夜も思い切りよがるようにしてっやるからな」
田辺は膣から指を抜くと、再び冴子の腰を持ち上げてから、じろりと惣太郎を振り帰ってから、ぐいと自分の腰を押しつけた。 

「あぁ…見てるじゃありませんか」
「気になるのは今の内だけだ。そのうちそんなことは忘れてしまうさ……おーら元まで入ったぞ」
眉間に皺を寄せて、垂らしていた頭をもたげて冴子は呻いた。
すぐ目の前で、男らしい頑健な躯の田辺とたおやかな姿態の冴子が繋がって、激しく揺れ動いている。
田辺の背筋が強く動く度に冴子は嬌声をあげた。
田辺が次第に腰の動きを強めていくにつれて妻は、田辺に征服されていく。惣太郎はすでに快感に無我になった冴子は、自分がすぐ側にいることも意識し
ていなに違いないと思った。

田辺の男に屈服して、彼から与えられる快感に身をよじらせ嗚咽の声を放っている妻は、自分が与えられなかった享楽の極致を今感じているのかと思うと、
激しい嫉妬も沸き起こってくる。
力が抜けて崩れ落ちそうになる冴子の躯をずり挙げながら、さらに田辺は腰の動きを加速していく。
接近した凝視している惣太郎からは、二人の身体から吹き出す汗に一滴までが鮮明に見える。
田辺の下腹と冴子の尻の肉とがぶつかりあって音を立てていた。

冴子が上体を支えていた腕の力が抜けて上体が崩れた。顔を布団に擦りつけて、長い黒髪が布団の上で蛇のように揺れ出しても田辺は抽送は止めなかった。
強烈な力で陰茎が押し入れられ、それが引き抜かれる。その度に冴子の嬌声と陰唇から漏れる体液の淫猥な音が、深閑として深夜の和室に響く。伏して長
い髪が顔に乱れ散っている間から、時々冴子の真っ赤に上気した顔が見える。
悦楽に歪んだ顔に、荒い呼吸音をさせている口が魚のように大きく開け閉めしてた。
常識では考えられないほどの長い 抽送だった。
その間に冴子の嬌声は絶え間がなく続き、何度も[逝く……イク」を連発していた。
田辺の性技の鍛錬ぶりに惣太郎は度肝を抜いていた。

やがて田辺は冴子への 抽送をやめて、深々と陰茎を押しつけて、自分の腰を円形に動かせてはじめた。
冴子の悲鳴が一時止まった。
きっとボルチオ性感帯を刺激してるに違いないと惣太郎は思った。ボルチオ性感帯は子宮頸部にある。そこを刺激されると、陰核やGスポットの刺激による局
部的な快感ではなく、全身を電流でも突き抜けるような激しい、全く快感の質が違う強烈さだと聞いている。

ボルチオ性感帯を刺激するには、長い陰茎で子宮のすぐ側まで達しなければならないし、それも単に入れば良いというものではなく、うまく刺激しないと、そ
れをされても女性は最初違和感を覚えるだけだという。
違和感がやがて壮絶な快感へと変わっていくのだが、そのためには女性が、与えられる快感に慣れてこなければ快感に変わらない。
つまり挿入している男性を容認して、心から受け入れなければ得られない快感だ。

田辺はその性技にとりかかたのだと思った。
自分の陰茎では、とても子宮頸部まで届いて、そこを攪拌するだけの長さはなく、技術もない。いままでの男の内でボルチオ性感帯を刺激した男が、果たし
ていたのかどうかを、惣太郎は知らないが、みな若かったから、子宮頸部には届いていても、この技巧があったとは思えない。

冴子の嬌声が一時やんだ。子宮頸部は刺激されていても、まだそれが快感に変化するところまではいっていないのだろうと惣太郎は思った。
田辺はそうした過程を経験上掌握しているらしく、無言のまま腰を深めたまま、汗みどろになって腰を微妙に揺すったり前後させたりしている。
深夜の和室の中は、繋がったまま揺れ動く二つの肉が発する熱と緊迫した呼吸音がけが、どす黒い霧のように室内に煙っていた。

それから15分も経っただろうか。突然冴子が狂ったように嬌声をあげはじめた。冴子は田辺を心から受け入れ、今までの恐怖から受容したということだ。
果たして冴子は田辺を心から受け入れはじめたと言うことなのだろう。

布団に擦りつけている顔を左右に振りながら、冴子は嬌声ではなく、子供の泣き声のように、腹の底から絞り出すような声を、気が違ったように発していた。
田辺が陰茎を抜いた。
冴子の股間から抜けた、力を失っていない濡れそぼった陰茎が躍り出て、その後まるで小便を撒き散らすように、体液が散った。

もうぐったりとした冴子を、今度は横抱きにした。
田辺はそんな格好の冴子の後ろから添え寝をする格好になり、冴子の片足を大きく挙げさせて、自分の腰の載せ、開いた股間に自分の腰を入れた。何度か失
敗をしながら陰茎を陰唇に押し込んだ。
後ろから挿入しているので、惣太郎からも陰茎の抽送がはっきりと見えた。自分にはっきり見せるために、この体位を選んだのだろうと惣太郎は思った。

後ろから挿入して腰を揺すりながら、冴子の身体に後ろから差し込んだ掌で乳房を揉んでいた。無理矢理また髪を掴んで冴子の顔をねじ曲げて接吻した。唾
液の交流する長い接吻だった。
後ろから激しく腰を動かす度に、横向きなって布団に擦りつけている冴子の顔が揺れ、鎌首を持ち上たように、長い黒髪が揺れていた。
そして自分との年齢差の少ない田辺の強壮な体力と,甲羅経た性技にに舌を巻きながら、惣太郎は絡み合って揺れる二人に痴態を凝視していた。
いつのまにか自分の陰茎が勃起しているのい気付いた。

田辺が正常位になった。
冴子の嬌声が一段と高くなり、田辺の腰の動きが狂気のように激しくなった。冴子も両腕は田辺の頸にしっかりと巻き付き、両脚も彼の腰の上で合わせられて、
田辺の腰の動きに合わせて組み合わせ、一部の隙もないほど密着した二つの肉塊がひとつになって激しく揺れた。冴子の悲鳴が、あたりかまわない叫び声にな
ると同じに、田辺が腰を押しつけて二,三度腰を古せてからじっと押しつけあ。射精がはじまったのだ。

交合していた二人の射精直後の静寂の中で、まだぴったりと身体を合わせたまま、冴子は横隔膜のあたりに、時々痙攣を起こしながら、長い接吻を止めない、
繋がったまま互いにぴくぴくと身体を微動させながら言葉ではない肉の会話を交歓しあっていた。
惣太郎は終わってから、そのままの格好で、なにか小声で囁いている二人の態度は、実は冴子も一緒なって、二人で仕組んだ芝居ではなかったのだろうかと言
う疑念すら浮かぶほど、親しげだった。

しかしそれは肉の交わりをしてしまった男と女はもう他人ではないという惣太郎の持論からすれば、強姦まがいにはじまった行為としても、互いに享楽を交歓え合
って、ふたりは他人でないということだ。

田辺が妻の身体を仰向きに、くるりとひっくり返した。
「さあ奥さん、これからが本番だよ。今夜はまだまだ許さないからね、今度は奥さんが上になってくれ」
妻の両手を掴んで上体を起こすと、その横に仰向きに寝て、妻を抱いて自分の上に載せた。
「田辺さん、もうゆるして」
半泣きのような声で妻が言ったが、その声は媚びを含んでいると惣太郎には思えた。
田辺の足の先が、惣太郎の目の前にきた。その股間には、淫水と精液に濡れそぼっててらてらと濡れそぼった陰茎が見事に屹立していた。

「もうこんなに……」
感服したような妻の声がして、自ら田辺の身体を跨いだ。そしてそそり立つ陰茎を自分の股間に導いた。
妻のふっくらとした尻が惣太郎の目前にあった。陰部も肛門も惣太郎に丸見えなのに、主人を無視して、屹立した陰茎を頬張っていた。
「ああ、いい」
妻が嘆息しながら、腰を沈めていく。
惣太郎を無視した二人に、むらむらと怒りが込み上げてきた。
いままでも、これに近い妻の性交を間近で見たことは何度もあった。しかしそれは惣太郎を意識していての行為だっし、ある意味では惣太郎を巻き込んだ行為だっ
たが、これほど、その存在すら無視されいたことはない。
田辺のこの行為は妻への嗜虐ではなく、自分への不遜な暴虐行為ではないかと気付き、そう思うと無性に腹が立ってきた。


無視されていると思うと、また享楽にのめり込んでいくふたりに激しい嫉妬の感情がわく一方で、田辺のように妻を満足さえられないという寂寥感などの綯い交ぜ
になった気持ちを抑えることが出来ずに、立ち上がって、言もかけずに、悄然としと階段を上がっていった。

書斎の椅子に座って、虚脱感のようなものを払拭しようと煙草に火を付けた時、階下で妻の嬌声が聞こえてきた。性交の逸楽に狂乱した妻の叫喚が、深夜の家の
静寂を切り裂いて響いた。
自分が消えたことは二人とも判ったはずだ。それを全く気にもせず交接を続けているということは、交合に惑溺されて無我になっているか、無視されたかのどちらか
である。
惣太郎は思わず立ち上がりかけた。
これはもう一度和室に行って確認しなければならないと思ったからである。

消していたはずの和室の灯りが煌々と照らされた下で、屈強な男の身体と嫋やかな妻の躯が一つに縺れ合って蠢いてた。
下になった妻の躯を二つ折りにして、脚を肩に担ぎ上げて被さり、田辺はまた腰を複雑に揺すっている。またボルチオ性感帯を攻めているらしい。
二人の体臭と淫液と汗の入り交じった匂いが、むっとする熱気と混ざって充満していた。

二人の性宴は夜明けまで続いた。
まるで争っているように二人の肉塊gが激しく縺れ揺れ動くのを、惣太郎は、これが成熟した男と女の真の姿かと、改めて識ったと思った。
  1. 2014/12/04(木) 09:30:57|
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花 濫 最終章

惣太郎の家のリビングで、今夜も浩二が惣太郎,冴子と一緒に酒を呑んでいる。
関西から本社に帰ってきた浩二は、いつまでも世話になっていてはという実家の父の命によって、惣太郎の家の近くのマンションに居をかまえた。
しかし冴子が相変わらず食事などの面倒をみていたから、マンションにはあまり帰っていない。
三人掛けの大きくしたソフアの上に、浩二が裸で座っている。その浩二に背中を向けて冴子が裸にされて彼の膝に跨っている。その股間が繋がって
いた。
その結合部分が、前のソフアに座っている惣太郎からは、あからさまにはっきりと見える。妻はもう感じるのを抑えられなくなったのだろう、時々嬌
声をあげていた。

こんな狂態もこの家では珍しいことではない。
今夜も惣太郎の巧みな誘導でこんな格好にされたわけだが、二人も馴れ合った様子で、惣太郎の存在など全く気にしていない。
いつも二人をソフアに並んで座らせ、テーブルを挟んで、対面に惣太郎が腰を下ろして酒を呑んだり談笑するのだが慣習のようになっていた。
浩二は浴衣で冴子が薄いネグリジェ姿だ。酔ってきたふたりが接吻したり、抱き合ったりし出すと惣太郎が声を掛ける。
「冴子、浩二はもう立っているかねー浩二君冴子は濡れてきたかね」
ふたりが臆面もなく互いの着衣の裾に掌をいれて確認し合う。
いつもこれが切っ掛けになって、二人が絡み始める。

前のような激しい緊迫感はない。浩二が冴子を脱がせるのも、浩二が裸になるのも落ちついている。
今夜のように、惣太郎に向かって、あからさまに繋がったところを見せながら交わるのに、座位だったり、松葉崩しだったりと、様々な体位をとるのは、
ほとんど惣太郎の巧みな誘導によることが多い。
ふたりもそれにあがらたり、拒否したりすることはなく、惣太郎の思いを受けて実行することが、新しい刺激となっているようだ。

若いふたりを、思うような姿態にさせ、それを眺めて興奮している惣太郎と、誘導させられてそれに刺激されて興奮の度を増していくふたりの間には、
互いが性的興奮を得られるという奇妙な相関関係が成り立っているのだった。

しかしある夜のことだった。
三人とも酒がまわりはじめた頃、
「浩二君冴子が暑いっていっているよ」
それだけで浩二は察して、冴子のネグリジェに手を掛ける。さて今夜はどんな格好で交わらせるかと、惣太郎が考えていたとき、玄関に人の声がした。
惣太郎が出てみると、隣人がいて、今夜はゴミ捨ての件で説明会があり、それに顔を出すようにとのことだった。
平素町内会に顔など出さない惣太郎だが、やむなく中座して集まりに出た。


一時間をほどで帰ってきた。リビングに入ると、交合時に放つ独特の匂いが充満している。大きなソフアの上で、二人がうち重なっていた。最期を迎え
た直後らしく、妻の足が浩二の裸の腰に巻きついていたのが、力なくほどかれた。丁度交合は終わったとろらしい。
惣太郎をみると慌てて浩二が、歳tごの
「あっパパ」
と言いながら起き上がった。妻はネグリジェを躯の下に敷いていて、仰向きになっでいた。浩二は精も根も使い果たしたというような緩慢な動作で起き
上がったが、妻は起き上がれなかった。両掌で顔を覆ってまだ荒い呼吸を隠しているようだった。浩二が離れた後のスフアが、まるで小便でもしたよう
に、ぐっしょりと濡れている。
一目して激しい交合だったの判った。

あきらかに惣太郎の目から開放されて、やっと二人だけで思いっきり交わったという痕跡があった。
久しぶりに惣太郎は、むらむらとした興奮が下腹あたりから沸き上がってきた。自分が居ない間に、どんな姿態で二人は激しく交わったのだろうか。やは
り自分がいることによって束縛されていた交歓の歓びを、やっと満足さたというように思われた。
自分はふたりにとって、邪魔者だったのだという、なにか裏切られてような思いと、若さゆえ抑えていたものが、留守の間に爆発したという疎外感に打ち
のめされた気がしていた。

見たかった!。自分が居ない留守に、どんなふうに二人は燃え上がったのだろうか。
妻が性愛に狂乱する、女として最高に美しくみえ時を探求するために自分はこんなことをしているので、二人だけの愛を深めるためにやっていることではな
い。
「ほらママ始末しないと」
浩二が甲斐甲斐しく妻を抱き起こして、ぐっと抱き締めて熱く接吻してから、そこらにあった布で妻の股間からソフアを拭うのを、凝視している自分が、見え
ていた。

その後も、妻にかってのように身を焦がすような強烈な交合を味あわせて、法悦状態で叫び声を上げながら、躯をくねねらせて、女として男に貫かれた時だ
け見せる、極限にしい姿態を、もう一度見たいという思いは消えることはなかった。

惣太郎がそんな思いに駆り立てられている頃劉がやってきた。
劉はさすがに浩二のように、惣太郎の前でも平気で交わったりはしない。
一緒に酒を呑んで暇の挨拶をしてから、送りに出た妻と、二人で妻の部屋か、玄関の隣の四畳半に入ってから交接する。
「今夜はどうだったのだい」
劉が帰って寝室に入ってきた妻に訊くのが習慣になっていた。

「特別どうってことないわ。今夜は二度彼が逝ったわ」
「お前はどうだったんだ」
「よかったわよ。劉さんは優しいし、最近は慣れたから時間も長くなり、それだけあたしは感じさせられて逝く回数も増えるの。それに月1回ぐらいでしょう。
待ちかねていた問い風に迫ってくるから、あたしの方も愛しくなってつい燃え上がってしまうの」

その夜12時過ぎに劉が帰った直後だった。
まだ冴子が寝室に帰ってこない時、まだ閉めてなかった玄関のドアを押し開けて浩二が飛び込んできた。
「こんな時間にどうしたのよ」
冴子の声が寝室まで聞こえた。
「これ根室の毛蟹なんだ。残業して腹が減ったから、行きつけの飲み屋に行ったら、おやじが一杯貰ったからとくれたんだ。俺の部屋の冷蔵庫では入らない
いら、急いで持ってきたんだ。ママが毛蟹が大好きだから」

「こんな時間に帰ってもしょうがないでしょう。お風呂に入りなさい。四畳半に布団しいといてあげるから」
起きてやろうと思いながら、惣太郎は先ほど呑んだ酒の酔いも手伝った、微睡んでしまった。

目が覚めたのは大分経ってからだった。隣に妻はいない。
浩二のところかと、起き上がった時だった。
「あぁどうしたのかしら……続きすぎるの……あぁまた逝く! 逝く!」
下のリビングからいつもより激しい妻の嬌声が絶え間なく聞こえる。
[今夜のママどうかしたんじゃないの。凄く感じている」

惣太郎は、ふと思い当たった。
劉との交合の余韻が残っていたに違いない。そこに浩二としたわけだから、再び躯が燃え上がってしまったのだと気付いた。
女の躯は複雑だ。
男は終われば性欲も一時衰えていくが、女の躯は貪欲に、与えれれば当てられるほど燃え上がる。これは自然が与えた女の生理現象なのだ。
「そうだ、妻をより深く燃え上がらせて、その淫楽に狂奔する姿を見るためには、なにも新しい男を与えるだけでなく、激しい連続した刺激を与えればいいのだ」
手短な方法は、浩二と劉の二人一緒に相手をさせたら、きっと妻は激しく燃え上がるに違いない。

そのための手段はどうする。
二人に思い切り酒を呑ませることが一番かも知れない。それは田宮が計画したことがあり、浩二がと田宮のトリプリに性交した例がある。これはいいアイデアだ。劉
は酒に弱いし、浩二は多分いくらか正気であっても拒みはしない。


劉が枕から頭を乗り出して弓なりにのけ反って居る妻の白い裸体に密着して重なり、腰を猛烈に動かしている。重なった劉と妻の横では、浩二が妻の乳房を揉みな
がら接吻している。
妻はふたりから与えられる快楽に、もう何度も登り詰めたらしく、眉根の皺を濃くして、あけた口と両肩を揺すりながら激しい息をしている。
喘ぎを抑えきれずに、長い髪を振り乱し、狂気に犯されて悶え続ける妻。
二人の逞しい躯に挟まれて、妻の真っ白い肢体が愉悦にのめり込んでいる。いつもの清純さをかなぐり捨ててのたうつ妻の肢体に、はじめて見る女の美が輝いている。

そうだ、二人を一緒にして交合させ、淫猥の極致に溺れ込む妻の姿を見よう。
また悪魔に魅入られて、惣太郎は生唾を呑み込みながら、階下から聞こえるる妻のいつもと違った激しい嬌声の聞き入っていた。


まだまだ妻を狂態に落とし入れて、その悦ぶ姿に新しい妻を見つけるという自分の性癖は、決して悪いことではない。
愛しいが故にに自分が嫉妬や怒りや興奮に身を焼く時は、それは妻にいいようのない深い愛情を覚えている時なのだ。
自分の秘宝は、いつも輝いていなければならないのだ。
そのための手段として、他の男に妻を与えて妻が男達の精液を吸収して、さらに輝きを増すということの実証を見て満足するということは、どういわれようが妻を愛する
自分が見つけた最高の至福の方法だと惣太郎は確信した。


(完)
  1. 2014/12/04(木) 09:32:34|
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