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闇文庫

主に寝取られ物を集めた、個人文庫です。

花 濫 第13章焼けぼっくり

教え子の田辺勇夫がインドから帰ってくる便りを受け取った日に、悪魔に見入られたように忽然と湧いてきた、妻という自分の秘宝をこの田辺
に鑑定させるという思い付きは、久しぶりに惣太郎の欲望を昂らせた。

しかし、現実に還って、東京での宿泊場所を、自分の家にするように手紙を書きはじめたら、しだいに現実味が薄れ、欲望もおさまってきた。
一時の妄想とはいえ、それはあまりにも非現実的だった。
まだ若く、人一倍健康な田辺のことだから、あるいは妻にぞっこん惚れ込んでしまい、こちらが機会を与えなくても、無理矢理にでも妻を抱く
かも知れない。妻にしても、一年前に知った、あのめくるめくような歓楽の限りを尽くした大勢の男との情交の余韻は、いまでも燻っているは
ずだから、田辺のような男の精を溢れさせた若い男に言い寄られれば、無我になって落ち込んでゆく可能性は充分考えられる。

悪魔の囁きを実行すれば、こちらの思う壷になる可能性は高い。
だが、会ったばかりの男女が、それも先輩の妻という立場の冴子を、いきなり犯すことは常識的にも出来ることではない。
だから、自分が、偶然そうなるような演出をしてやらなければならない。
その方法は、いろいろ考えてみたが、さまざまな演出が思い浮かんだ。どれをとっても実行可能で、確立は高い。

だが惣太郎の逡巡は、成功率よりも心の問題にあった。夫の庇護を信じ切っている妻は、今まで純粋に夫の仕掛けた罠に自らを溺れさせて
きた。決して夫の欲望の犠牲になるとか、夫の企みに便乗して狡猾に自分の欲望を満足させてきたということではない。
最愛の庇護者の夫から甘美な食べ物を与えられるように、男を与えられて満足してきた。

しかし今回妻は夫の居ない場所で、夫にそそのかせられることもなく、自分の意志で他の男を受け入れるわけだから、妻にとってもはじめ
てのケースといえる。純情でありながら男との情交に関しては、普通の人妻では想像もできない豊富な体験の持ち主だから、美味しい食べ
物に引き寄せられる子供のように、善悪や倫理などを超えた、超人間的な欲望のおもむくままに男を受け入れるに違いない。なにしろ貞節と
か貞操という観念を、夫によって喪失させられ、不倫も夫婦関係を円滑に保つための正当な手段という観念が植え付けられている。 

厳格な教育者の父に育てられ、女子短大まで出た冴子に、貞操観念や倫理観念がない筈はない。当然、不倫行為が夫への背信行為であ
ることぐらいは常識的に知っている。それなのに、夫にそそのかされたとはいえ、あれほど容易に大勢の男に溺れ込んでいったということは、
一体どう考えればいいのだろうか。

はたして今までで妻の心の中には、裏切りと欲望との葛藤とか、自分の行為から生じる心の落魄とかに関して悩んだことがあるのだろうか。
たぶんそんなことはないと惣太郎は思う。
 父と二人だけの鄙びた山奥で育った冴子には、性に関しては本質的な意識欠如のようなものがあったのではないだろうか。戦後世代に育
った者だから、昔の深窓の令嬢と違い、性に関する情報は書物や村の若い者達から当然溢れるほど得ていたに違いない。だが、それはあ
くまで観念的なもので、男と女のする情交など、彼女にとっては現実には無縁の世界の出来事だったに違いない。

自分が、夏の夕暮れに冴子の実家で初めて彼女を犯した時に一体どう思っていたのかと、結婚してから訊いたことがるが、
「現実の出来事とは思特になにも考えなかったわ。女が年頃になれば男の人と、そうなるということくらいは識ってましたが、それさえ夢の
ようなことで、とても現実とは思えませんでした。それが、晴天の霹靂のようにわが身に降り懸かってきたわけですから、夜、独りになっても、
まだ夢を見ているような気持ちでした……」
と素直に答えた様子からでも察しがつく。 

田宮からはじまった若い男との遍歴もまた、冴子にとっては青天の霹靂に違いない。冴子の生涯で夢想だにしなかった性宴の深淵につぎつ
ぎと落とし入れられて、その度に妻は激しい驚嘆とめくるめく官能の喜びを味わいながら、この世にこんな世界があったのかと、希望と恐れ
と歓びと悲嘆のうちに、今日を迎えたのだった。

たとえ今度の企みが実現したとしても、妻は、また新しい性の扉が開かれたというくらいにしか受け取らないに違いない。これは安堵でもあ
るが、反面、それを異常とは理解せずに、自分の識らなかった一般世間の裏面での常識的行為として甘受する可能性が強い。

そうなると一体妻の想念はどうなるのか。当分は自分の夫としての強い庇護の下で、そういう異常な感性もまかり通るが、これは世間に通用
するものではない。とすれば、妻は異常者であり妻を異常者に教育したのは自分である。異常者は、自分を正常と思っているから、どこで異
常な自分を平然と現すか知れない危険がある。田辺との企みがうまくいったとしても、妻の側には異常の感情はないのだから、夫の指示がな
くても、自分を需める男が現れて、もし自分も好ましければ、迷うことなくめりこんでいっても、それは夫公認で許されることと信じるだろう。
そうなると後はどうなるか推察が付く。

自分に妻の欲望を充たしてやるだけの能力がないとすれば、妻に自制心がない限り、他の男にそれを需めるに違いない。そしてそれが不道
徳だとか裏切りだとかの観念が欠如しいて、夫もそれを迎合していると信じたら末恐ろしい。
惣太郎がこんどのたくらみを逡巡する原因はそこにあったのだ。

八重洲ブックセンターの二階で書物を探していた劉を見つけて、先に声を掛けたのは惣太郎の方だった。
初夏の汗ばむほどの陽気の日で、ほとんどの客がワイシャツ姿か、スーツを脱いで肩に掛けたりした気楽な恰好で本を漁っている中で、劉
は良家の息子らしく、相変わらずきちんとしたスーツ姿で、髪も整っていた。           

劉が選んで小脇に抱えた本に眼を流すと、それは「アイヌ部族の言語から推察する南方漂流説」という惣太郎が一昨年書いたものだった。
「ほおう、そんなものを読むのかね」
再会の挨拶より先に惣太郎は、そんな言葉を吐いた自分がおかしかった。自分の書いた本など、ほとんどの書店には並んでいないし、また
言語学を専攻する学生以外読む事はないと信じていたから、まして劉のような経済学専攻の一般学生が小脇に抱えているのにまず驚いたわけ
である。

「しばらくです先生……。ああ、これは、最近北海道に旅をしまして、アイヌ部落を訪れた時に、ふと台湾の高砂族を思い出しました。彫り
の深い顔や太い眉、そして体格などにあまりにも似通ったところを発見しまして驚いたいたのですが、その時、ふと、先生からかって、そん
なお話しを伺ったのを思い出しまして、書店で調べて貰いましたら、著書があるいわれましたので頼んでいたのです」

ふたりは客で混雑する本売り場を避けて喫茶室に入った。
「……奥様もお元気でいらっしゃいますか……」
劉が妻のことを言い出したのは、アイヌに関する話題が尽きてからだった。惣太郎は劉がいつそれを話題にするかと心待ちに待っていた。あ
れほど愛し合った女の消息も訊かずに去るような冷淡な青年ではないと、話しの合間に考えていたのだった。もし劉が、妻のことを訊かなかっ
たとしたら、あの激しい愛は劉の虚構であったと思わざるを得ない。秘宝をざれごとで褒めそやされて使い棄られたのでは惣太郎の衿持が許せ
なかった。

だから、劉がいくぶん羞恥に顔を染めて妻の名を口にしたとき、惣太郎は思わず、ほっと安堵のため息が出て、思わず思っても見なかった言
葉を出していた。
「ああ元気だよ。冴子も君がどうしているか心配しているようだ。一度元気な顔を見せにやってこないか」
言ってしまってから、これは大変なことになったと後悔した。

しかし、日焼けした顔をほころばせて白い健康そうな歯を見せて、こちらも安堵の笑顔を見せている劉を眺めていると、一年前の、あの頃の夜が
忽然と甦って、あれからずっと味わっていない、妻と劉の激しい媾合を覗き見した時の、激しい興奮がたまらなく味わいたくなっていた。

テープに残った妻とこの青年の激しい愛媾の場面が思い出される。そうだ、今度はビデオがある。惣太郎は、田辺とのたくらみは逡巡の最中であ
ったが、それでも憑かれたように、盗撮の準備は進めていた。
最新の超小型カメラも買ったし、無線での送信装置の他に、アップやロングなど行うズーム機構を遠隔操作出来る機材も整えてあった。                          

自分はまだ、この青年を愛した妻が、どんな姿態や言葉で愛を告白し男を受け入れているのか見たことはない。もう一度、この青年に妻を抱かせ
ても、そう不足の事態が起きるという心配もあるまい。

妄想に駆られていた田辺とのたくらみよりよほど現実味があるし、月に一回ばかりの申し訳程度の愛撫しか与えていない妻にとっても、このあたり
で一度思いきり欲望の発散をさせる必要もあるのではないか、と惣太郎は千載一遇の機会を得たような感慨で、
「そうだな、今週の土曜日などどうかな。君の好きな天津丼でも作らせておくから……」
上機嫌な口調で言った。

「正直申し上げて、いままでに何度かお宅の近くを徘徊したか知れません。しかし、お約束がありましたから……」
劉は純情さをむきだしにして眼に涙さえ溜めて言った。
「もう来るなと言ったのは、あれは、ヴエンとかラサールなど他の学生に言った事で、君のことは毛頭もそんなことは考えていなかったよ。劉君も
白情だねと思っていたんだ」

自分勝手な口から出任せなことを言って、この若い純情な青年の心を嫐りものにする呵責を心の隅で感じながら、それでも惣太郎は笑顔を絶やさ
ずに言った。
コーヒー茶碗に手を伸ばした劉の男にしてはほそっりとした指を眺めながら、惣太郎は、そのしなやかな指が、曾って妻のすべてを識っていること
が、妙に嫉妬心を誘った。この指が、また妻を狂わせようとしている。いや、狂わせようとしているのは自分だ。折角、安寧な生活に戻っている妻
を、淫蕩の地獄にまた投げ込もうとしている自分は一体なにを考えているのだろう。自分こそ淫狂の亡者になっているのではないか。
妻だけではない、この若い劉も、結局は自分の毒牙の犠牲者なのだ。惣太郎の肚の底で妖魔が、低い声で高笑していた。

夕方惣太郎が帰宅した時、妻は玄関に迎えにこなかった。帰りの道々、劉を誘った結果をどう妻に伝えるか思案しながら、結論のでないうちに家に
着いてしまったので、帰ったよ、といういつもの声が小さかったのは事実だ。
鞄を下げたまま廊下を台所に向かうと、油の強い匂いと派手な揚げものをしている音が聞こえてきた。この音では聞こえないのも当たり前だと、台
所に入ると、妻はガスレンジに向かって天婦羅を上げるのに夢中になっていた。      

今日の妻は、デニムの紺色ミニスカートに、Tシャツだけという軽快な姿だった。
前だけは長いエプロンをしているが、後ろから眺めている惣太郎には、太腿も露なミニスカートから伸びすらりとした脚の白さが、暮れはじめた台所
の暗さをはじきかえすようにそこだけ仄白く輝いているのが眩しく映った。
「あら、お帰りなさい。ちっとも気がつきませんでしたわ」

惣太郎に気付いた冴子が振り向いて匂やかに微笑んで言った。マシマロのような軟らかい感覚が身体のどこにも具っていて、長い調理箸を持ったまま、
自分の額の汗を拭いながら、少し集めの唇を反開きにして笑う時、殊になまめかしさが濃く滲み出た。
妻のように、いかにも二八歳という、爛熟の頂点にある女のからだのボリュームを如実に顕していて、肉感をかげろわせているタイプの女に、知的な
ムードを感じさせるものは少ないが、妻の冴子には軟弱な中に知的なひらめきが添っている。
それが特に若いインテリ男達を魅了しているのだと惣太郎は、妻の笑顔に応えて微笑しながら考えていた。                 

「今まで劉君と一緒だったよ」                     
煮沸する油の中から海老を引き上げている妻の後ろ姿に向けて、惣太郎は言った。長い調理箸で油泡の飛び散る鍋から、こんがりと狐色に揚がった海
老を性急に取り出しかけた妻の手元が狂って、海老が鍋に落ちた。
やはり妻にとって衝撃的な言葉だったのか、と惣太郎が言い放ったまま踵を返そうとしたとき、    
「熱い! 」                             
 油が飛び散ったのか、妻のいかにも惣太郎の言葉を無視したことが歴然と判るような言い方であったのが、去りかけた惣太郎の胸に響いた。

「今度の土曜日に遊びに來るように言っておいたから、彼の好物の天津丼でもつくってやったらどうだい……」                     
劉に会った、という夫の言葉のに昏倒するほどの衝撃をうけて、冴子は一瞬煮えたぎる油をいじっているのさえ忘れた。飛び散る湯泡の激しい破裂音の
中で、聞き間違いではないかと思った。箸であげかけた海老が鍋に落ちて、油の飛沫が手にかかって悲鳴を上げ我に帰った。その直後、夫は、劉が土
曜日に來るから天津丼を作っておけと言い残して部屋を出て行った。             

劉に再会したのは昨年の春だった。街で偶然会ってホテルに行った。その後、なんども彼から会いたいと電話があったし、一度だけ、夫の留守にこの家
までやってきたこともある。
やはり去年の初夏だった。その数日後に、夫の出張の夜に、六本木のレストランで待ち合わせてホテルに行った。別れてから三度、夫に内密で逢い引き
したわけだが、それが夫に知れたのだろうか。それとも、また夫と劉のたくらみで、知らぬのは自分だけだったとでもいうのだろか。

劉と夫が、偶然街で会ったとすれば、それでいいのだが……冴子の中に不安と恐怖が拡っていた。  
昨年のホテルを最後に劉に会っていないのは、劉が厭になったからでも、別れることを二人で決めたわけでも、喧嘩をしたわけでもない。ひとえに劉の
純粋さにほかならない。 
別れて半年目に再会してから三度の逢瀬を重ねてからは、冴子の方が離れ難くなっていた。夫に背信行為してまで劉と内通するということは純な冴子の心
情では考えられないことであったけれども、躯が絶えられなかった。

男達が去ってからしばらくは、まるで色情狂のように、日に何度も衝動的に淫欲が襲ってきた。自慰行為を覚えたのもこの頃である。
男なしの生活は考えられなかった。男という麻薬に犯され禁断症状に狂乱する夜もあった。

はしたないと羞恥にまみれながら夫にせがんだ夜も多い。夫はグロテスクな性具を買い求めてまで、その頃の冴子の狂瀾を鎮めてくれた。だが、半年も
すると、禁断症状もしだいにおさまって、月に一度か二度の淡泊な夫の愛撫だけで過ごせるようようになった時、劉に再会したわけである。
飢餓の中で美食に出会ったように冴子は劉の肉体に溺れて行った。劉とても、はじめて識った女体を取り上げられ、狂瀾状態にあっただけに、めぐりあっ
た冴子に狂喜した。あの三回の逢い引きは生涯忘れられないだろうと冴子は今でも思う。
白昼、明るいホテルの部屋で、互いの身体を確かめ合いながら、夢中で貪った快楽は、死の予感まで感じるほど激烈で甘かった。

それが三回目で切れたのは劉の純情さのほかに、一時帰国したためと、劉が二回目に自宅に来た時に、向かいの家の主婦に見つかり、それが当時まだ
その家に出入りしていたヴエンに伝わったためだった。
ヴエンが強迫まがいの執拗さで冴子に迫ってきた。一度だけ、自宅に押し込まれて、冴子は強姦同然に犯されている。
先生を裏切ることは死ぬほど辛いと、逢い引きを躊躇する劉を冴子が解き伏せて三度目の情交を結んだ後だった。
劉が一時帰国する数日前だった。

ヴエンの前と変わらぬ女を知り抜いた愛撫で抵抗する冴子を陥落させた。気がついたときには、ブラウスは引き裂かれスリップの肩紐は切れて全裸で横
たわっていた。抵抗しているうちに、いつの間にか快感が押し上がってきて夢中にさせられた。何度か失神した。最後は官能の業火にあぶられて悲鳴を上
げたまでは覚えていた。気がついた時に、ヴエンが、ほっそりした裸の身体を冴子の上から降ろしながら、

「劉とあんたが出来ていたのは知っていたんだ。前に劉がこの家に来た後、おれがやってきて、あんたにちょっかいを出した時、本当はやる気なんかなか
ったのだけれど、激しい情交の後の、なんともいえない女の妖艶さが、あんたの身体全体からにじみでていておれを狂わせた。
ちょっと抱きしめると、あんたは本気で抵抗した。その抵抗のしかたが普通ではなかった。
これはまだ劉との後始末もしていないな、と思ったら、おれは狂暴になった。案の定、あんたはズロースさえ穿いていなかった。

今度も、劉が来ていると識ったので、ついその気になんだ。おれはもうじき帰国から、あんたが心配することはないが、劉には、ちょっと用事があるんだ」
「用事ってなんですか?」
「少しばかり金が必要なのでね。あんたとのことをねたに、帰国費用を出さそうってわけだ。あいつの家は台湾の富豪だそうだから、おれが帰ってから数
年暮らせるくらの金はなんでもない……」

後から聞くと、ヴエンは、その時すでに滞在期限が切れていて、その直後、強制帰国させられたそうで、日本にいなかった劉に直接被害はなかったらしい。
冴子は、劉のためにヴエンを恐れた。それでも劉の愛撫が忘れられず、最後に一度だけと、劉に連絡を取ったが、すでに劉が一時帰国した後だった。      
劉の一時帰国は、彼の祖父が死亡したための遺産相続のためで、時間がかかった。中国式の葬儀も何日も続くと最後に劉から聞いた。

劉から帰国したという連絡があったのは、その時から三ヶ月が過ぎた頃だった。逢いたいという劉の言葉にはやる気持ちを抑えて拒否し続けたのは、ひたす
らヴエンへの恐れからだった。あの狂暴なヴエンは冴子が初めて知る凶悪な人間であった。
恥知らずの凶悪なヴエンがまた現れて、自分と劉のことが暴露されたら………と考えると冴子は恐怖で夜も眠れなかった。
最近になってヴエンがとっくの昔に帰国していたと知った。それを知った時、一瞬劉の顔が浮かんだが、平穏な心情に慣れてみると、今更炎はかき立てられ
なかった。

忘れかけた劉が、週末には現れる。そして夫と会っている。
冴子は心の動揺を抑えて夫の部屋に着替えを持って、重い脚を運んだ。

惣太郎は庭の向こうに見える納屋のトタン葺きの屋根の上の暮色の空を眺めながら鞄を机の上に置いた。なぜかトタンを残光に白く染めている納屋が気になっ
た。そうだ、盗視のビデオカメラを設置するなら、あの納屋が一番いいという気がした。納屋の窓が、玄関横の和室にもキッチンにも面している。
もし自分が何かの都合で、劉が来た時不在だったとしたら、ふたりは一体どんな行動をするだろうか。そこには誰にも干渉されない男と女の自然な行為が展
開するに違いない。

恋焦がれていた自分の妻に劉は、やっと逢うことが出来て、若い男の純な全身全霊を尽くして妻を愛撫するに違いない。妻の方も、きっと待ち焦がれて女の身
体にたぎっていた思慕の思いを、さらけ出して応えるに違いない。そこには自分の妻としての意識を忘れた純粋な女としての妻の赤裸々な姿が見えるに違いな
いし、劉にしても、自分への気兼ねもなく、憧憬する女への愛着をあらわに燃やした男の情熱の表現が見えるに違いない。

これこそ自分が望んでいた、妻が他の男にとっても仰羨の的であるという秘宝の真価の証ではあるまいか。惣太郎は、妻の白くしなやかな裸身に拝伏する劉の
姿が見えるようだった。そう考えただけで惣太郎は激しいときめきを覚えはじめていた。                                
「本当に劉さんがくるのですか」
後ろで妻の落ち着いた声がして惣太郎は我に返った。
「逢いたくないのか?」
返事はなかった。

惣太郎は煙草に火を付けてから振り返った。襖を開けた暗がりに妻は着替えを捧げるように持って立っていた。白い顔の表情も定かではないが、能面のように無
表情で立っているように惣太郎には思えた。惣太郎は次の言葉を探す合間に煙草を灰皿にすりつけた。
豆腐売りの喇叭がけたたましく通り過ぎて行った。
惣太郎が服を脱ぎはじめると、妻が近づいて後ろからそれを受取ながら、
「どうしてそういうことになったんですか」
と訊いた。尋問するような強さはなかった。

「偶然さ……、偶然会って、つい言ってしまったんだ。お前がいやなら、いつでもよすが……」
また返事はなかった。妻のなかである悶着が燻っているのがありありとわかった。惣太郎はまた言葉に詰まった。会話の途絶えた一瞬の沈黙の中で、惣太郎は
今にも劉がここに出現して、妻を奪ってでも行くような錯覚を覚え昂った気持ちを処置する方法の見い出せないままに衝動的に妻を抱きしめた。
「いやかい?」
妻は夫の胸に顔を埋めたまま、
「また元のようになったら、どうするの?」
くぐもった消えような声だが、否定ではない鼻にかかった甘え声で言った。

妻に告げた時に拒否されるとは考えてもいなかったが、こうもあっさりと迎合の態度をしめすとも思ってはいなかった。抱きしめた妻の温もりが、もう期待に弾んで
いる昂りかと思うと、意外にも劉に対して激しい嫉妬が湧いてきた。それと同時に、愛する妻が、自分から離れて、恋しい男に恋慕の情を露わにしたことに倒錯した
自虐の興奮を覚えた。

惣太郎は、久しぶりに青年に還ったような性的興奮が突き上げてきて、思わず妻をベットに押し倒した。
荒々しく妻のスキャンティーを剥ぎとりミニスカートを捲り上げて脚を広げて、女陰に口づけした。知らぬ間に妻のそこは溢れつづけていた。劉との再会の期待に妻
は興奮していた。
年齢に多い早漏気味の短い交わりであったが、劉の精悍な身体を想い出してか、冴子はいつになく激しく燃え続けた。
惣太郎が冴子のなかで萎縮をはじめた時、
「せっかく忘れていたのに……知らないから………」
妻の身体の上で弛緩したままでいる惣太郎の耳元で囁くように妻が言った。
  1. 2014/12/03(水) 08:52:11|
  2. 花濫・夢想原人
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たった1度の体験・エロシ (9)
旅行・妄人 (12)
■医者・エステ・マッサージ (62)
孕まされた妻・悩める父親 (7)
とある会で。 ・けんじ (17)
亜希子・E-BOX (14)
子宝施術サービス・かえる (23)
1話完結■医者・エステ・マッサージ (1)
■借金 (56)
私達の出来事・不詳 (9)
私の罪・妻の功・山城 (9)
失業の弱みに付け込んで・栃木のおじさん (3)
変貌・鉄管工・田中 (5)
借金返済・借金夫 (5)
妻で清算・くず男 (5)
妻を売った男・隆弘 (4)
甦れ・赤子 (8)
1話完結■借金 (8)
■脅迫 (107)
夢想・むらさき (8)
見えない支配者・愚者 (19)
不倫していた人妻を奴隷に・単身赴任男 (17)
それでも貞操でありつづける妻・iss (8)
家庭訪問・公務員 (31)
脅迫された妻・正隆 (22)
1話完結■脅迫 (2)
■報復 (51)
復讐する妻・ライト (4)
強気な嫁が部長のイボチンで泡吹いた (4)
ハイト・アシュベリー・対 (10)
罪と罰・F.I (2)
浮気妻への制裁・亮介 (11)
一人病室にて・英明 (10)
復讐された妻・流浪人 (8)
1話完結■報復 (2)
■罠 (87)
ビックバンバン・ざじ (27)
夏の生贄・TELL ME (30)
贖罪・逆瀬川健一 (24)
若妻を罠に (2)
範子・夫 (4)
1話完結■罠 (0)
■レイプ (171)
輪姦される妻・なべしき (4)
月満ちて・hyde (21)
いまごろ、妻は・・・みなみのホタル (8)
嘱託輪姦・Hirosi (5)
私の日常・たかはる (21)
春雷・春幸 (4)
ある少年の一日・私の妻 (23)
告白・小林 守 (10)
牝は強い牡には抗えない。・山崎たかお (11)
堅物の妻が落とされていました・狂師 (9)
野外露出の代償・佐藤 (15)
妻が襲われて・・・ ・ダイヤ (6)
弘美・太郎棒 (11)
強奪された妻・坂井 (2)
痴漢に寝とられた彼女・りょう (16)
1話完結■レイプ (5)
■不倫・不貞・浮気 (788)
尻軽奈緒の話・ダイナ (3)
学生時代のスナック・見守る人 (2)
妻・美由紀・ベクちゃん (6)
押しに弱くて断れない性格の妻と巨根のAV男優・不詳 (8)
妻に貞操帯を着けられた日は・貞操帯夫 (17)
不貞の代償・信定 (77)
妻の浮気を容認?・橘 (18)
背信・流石川 (26)
鬼畜・純 (18)
鬼畜++・柏原 (65)
黒人に中出しされる妻・クロネコ (13)
最近嫁がエロくなったと思ったら (6)
妻の加奈が、出張中に他の男の恋人になった (5)
他の男性とセックスしてる妻 (3)
断れない性格の妻は結婚後も元カレに出されていた!・馬浪夫 (3)
ラブホのライター・され夫 (7)
理恵の浮気に興奮・ユージ (3)
どうしてくれよう・お馬鹿 (11)
器・Tear (14)
仲のよい妻が・・・まぬけな夫 (15)
真面目な妻が・ニシヤマ (7)
自業自得・勇輔 (6)
ブルマー姿の妻が (3)
売れない芸人と妻の結婚性活・ニチロー (25)
ココロ・黒熊 (15)
妻に射精をコントロールされて (3)
疑惑・again (5)
浮気から・アキラ (5)
夫の願い・願う夫 (6)
プライド・高田 (13)
信頼関係・あきお (19)
ココロとカラダ・あきら (39)
ガラム・異邦人 (33)
言い出せない私・・・「AF!」 (27)
再びの妻・WA (51)
股聞き・風 (13)
黒か白か…川越男 (37)
死の淵から・死神 (26)
強がり君・強がり君 (17)
夢うつつ・愚か者 (17)
離婚の間際にわたしは妻が他の男に抱かれているところを目撃しました・匿名 (4)
花濫・夢想原人 (47)
初めて見た浮気現場 (5)
敗北・マスカラス (4)
貞淑な妻・愛妻家 (6)
夫婦の絆・北斗七星 (6)
心の闇・北斗七星 (11)
1話完結■不倫・不貞・浮気 (18)
■寝取らせ (263)
揺れる胸・晦冥 (29)
妻がこうなるとは・妻の尻男 (7)
28歳巨乳妻×45歳他人棒・ ヒロ (11)
妻からのメール・あきら (6)
一夜で変貌した妻・田舎の狸 (39)
元カノ・らいと (21)
愛妻を試したら・星 (3)
嫁を会社の後輩に抱かせた・京子の夫 (5)
妻への夜這い依頼・則子の夫 (22)
寝取らせたのにM男になってしまった・M旦那 (15)
● 宵 待 妻・小野まさお (11)
妻の変貌・ごう (13)
妻をエロ上司のオモチャに・迷う夫 (8)
初めて・・・・体験。・GIG (24)
優しい妻 ・妄僧 (3)
妻の他人棒経験まで・きたむら (26)
淫乱妻サチ子・博 (12)
1話完結■寝取らせ (8)
■道明ワールド(権力と女そして人間模様) (423)
保健師先生(舟木と雅子) (22)
父への憧れ(舟木と真希) (15)
地獄の底から (32)
夫婦模様 (64)
こころ清き人・道明 (34)
知られたくない遊び (39)
春が来た・道明 (99)
胎動の夏・道明 (25)
それぞれの秋・道明 (25)
冬のお天道様・道明 (26)
灼熱の太陽・道明 (4)
落とし穴・道明 (38)
■未分類 (571)
タガが外れました・ひろし (13)
妻と鉢合わせ・まさる (8)
妻のヌードモデル体験・裕一 (46)
妻 結美子・まさひろ (5)
妻の黄金週間・夢魔 (23)
通勤快速・サラリーマン (11)
臭市・ミミズ (17)
野球妻・最後のバッター (14)
売られたビデオ・どる (7)
ああ、妻よ、愛しき妻よ・愛しき妻よ (7)
無防備な妻はみんなのオモチャ・のぶ (87)
契約会・麗 (38)
もうひとつの人生・kyo (17)
風・フェレット (35)
窓明かり ・BJ (14)
「妻の秘密」・街で偶然に・・・ (33)
鎖縛~さばく~・BJ (12)
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妻を育てる・さとし (60)
輪・妄僧 (3)
名器・北斗七星 (14)
つまがり(妻借り)・北斗七星 (5)
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