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闇文庫

主に寝取られ物を集めた、個人文庫です。

花 濫 第3章女の業火

 もし浩二と別れたあと、田宮を知らなかったら、自分は果たして、夫とふたりの静謐な生活に戻れただろうか。浩二が自分に残していったのは、決して性の悦楽だけではなかった筈だ
 確かに自分は夫に肉以外の不満はないけども、あの強烈な悦楽を知った以上、まだ若く健康な肉は、そのまま夫と一緒に静かに老いていけただろうかと思うと自信はない。

自分はまだ若い。万一、相応の男性が現われて、浩二と同じ行為にはしったら、自分は夫を捨てたかも知れない。それほど当時 自分の肉は男の肉を需めていた。      
 冴子は眼を閉じたまま、当時の悶々とした日々を反蒭していた。
浩二が去った直後は、無性に浩二に会いたかった。ロンドンにツアーにでも混じって夫を欺いて出かける計画を真剣に練ったのも事実である。結婚以来したこともない夫に自分から需めるというはしたない行為をしたこともある。自慰を覚えたのもあの頃である。
 夫以外の男を需めるということは、理性では厳に慎むべき行為であると思っていたし、現実にそのようなことが出来るとも考えてはいなかった。   
 浩二とのことさえ思い返せば、何と重大な夫への背信行為だろうと、身の毛のよだつような罪悪感に駆られて幾度身を苛なんだことだろう。自分の肉が、浩二以来、官能の疼きに狂うのは、裏切りへの罪科だとさえ考えて耐えていた。   
 浩二が帰って来るのなら、耐えて待っていたであろうが、浩二は自分に、永久に現われない、と宣言して去って行ったのだ。
 それも自分に自分に消すことの出来ない劫火の烙印を押して、知らぬ振りをして去ってしまったのだ。考えて見れば、浩二が一番罪深い。
 自分が田宮と出来たのは、よく考えて見れば浩二の責任なのだ。                                
 冴子は、そこまで考えて、少し安堵した。                 
「お前は最近とても色っぽくなった。躯全体が匂うように柔らかくふっくらとして瑞々しいし、眼にいいようのないあだっぽさが漂っている。見るだけで男心をそそるようだ」                            
 夫が宴会から珍しく酒気を帯びて帰った晩、そんなことを言ったのは、たしか浩二がロンドンに去って二月くらい経ってからのことだった。        
 「あなたらしくない冗談だわ」                     
 冴子が顔を赤らめながら言うと、                    
 「俺じゃないよ。田宮が今夜酔ってそんなことを言っていた」       
 「田宮さんって、あの講師の? ………あの人まだ独身でしょう? お増せさんだこと……」                      
「あいつだって、お前と同じ歳だ。普通ならもう幼稚園くらいの子供が居てもおかしくない年令なんだが、純情というのか依怙地というか、婚約していた女性が別の男と駆け落ちして以来、学内のいろんな人が、いろいろないい縁談を持って行っても、一向に反応を示さないんで、結局、彼は変り者という烙印を押されてしまったんだなあ」                          
 この家にも何回も来ている田宮は、国文学専攻の文学青年には見えない行動的な新聞記者のような、痩身の背高い雄豹のような肢体と、長い髪を掻きあげながら細い澄んだ瞳で、見据えるように相手の目を覗き込むようにして話す純朴な表情を冴子は思い浮かべた。
夫の研究の方便言葉の収集の手伝いや、夫が出張する際の講義の代役の打ち合わせなどで、この家に来る機会も多いのだが、来れば夫に酒をねだり、したたか酔って独身らしい軽快なジョークを飛ばしながら冴子を笑わせ、静謐なこの家に花が咲いたような若やいだ雰囲気を残して帰るのが常で、冴子は田宮が来るのを愉しみにしているし、決して田宮を変り者とも考えたこともない。                

            
「あの人、学校では変人という烙印を押されるような人に見られているんですか? うちにいらっしゃる時には、愉しい愉快なひととしか思えないけど…………」                                  
「あいつは全く妙な奴で、学校では、必要なこと以外滅多にしゃべらないし、ほとんど笑顔も見せないんだ。頭もいいし研究成果も学会でも若手の中では秀逸なんだが………。
 それがうちに来ると、あんなに人が変わったように愉快になるんだ。お前に惚れているのかもしれないなあ」                
「あら、厭だわ」                           
 冴子が体を揺さぶって照れたようにしなをつくった。その時に冴子の全身から、灯がともったような照りが匂い立ったのを夫の和夫は見逃さなかった。
 もうとうの昔に自分達夫婦から消えてしまったと思っていた、生臭い性の匂いがはからずも妻からわきたつように漂ったのを、惣太郎は添い慣れた妻ではなくて、初めて会った女と向かい合っているような感情で茫然と冴子の女の匂を沸き立たせているような姿態い眺めていた。       

 「来週から冬休みなんだが、田宮と群馬の方便言葉を集めに伊香保温泉に行くんだ。偶然なんだが、伊香保温泉に九十五才の老婆が居て、その親戚の子がうちの学部にいたんだ。その老婆が言葉だけでなく、古い民話や民謡を沢山覚えているというので、行ってみよう、ということになったんだ。どうだお前も行ってみないか。久し振りに温泉もいいぞ 」                     
 「それは温泉には行ってみたいけど、お仕事のお邪魔じゃなくって? 」  
 「遊び半分の調査だし、田宮が車で連れていってくれるというので行くことにしたんだが、帰りに榛名の山に登って、釣りをして行ってくれと生徒の親からも誘われているんだ。その生徒の親の実家がまた伊香保で古い旅館だそうで、そこへ泊まることにな
ったんだ。最近は伊香保も沢山温泉旅館が出来て、温泉が足りなくなって普通の湯を沸かせている宿が多いそうだが、そこは源泉を確保している数少ない旅館らしい。ただし相当古い旅館らしがね」            
 「清潔なら古い温泉旅館ってあたしは好きだわ 」            
 いつになく饒舌な夫をいぶかりながら冴子は、もう一緒に行くことに決めていた。温泉よりも田宮と一緒に旅することの方が興味があった。
 田宮に好意を寄せているとかいうことではないが、冴子は無性に若い男性と接してみたかった。相手は誰でもいい。自分の中で目覚めた若さを受け止めてくれる話し相手が欲かった。若者同志しか通じ合わぬ木霊のような会話が欲しかった。こんな心境はか
ってないことだったが、浩二とのあと、冴子は砂漠で水を需めるように、同じ世代の男性との会話や接触を渇望してきた。
 それはやはり自分の肉が浩二以来にわかに性に目覚めて、本能的に異性を求めていることは隠しようもない事実であることは冴子自身が痛いほど知っている。
 しかし、いつの間にか男と女の生臭さが消えて、清烈な水の流れのような精神的な穏やかさを需める夫との生活では知り得なかった、狂おしいまでの情熱や湧き立つような情感を互いに秘めながら話し合うという、若い男女特有のあふれるような不思議な精神の昂揚と甘さのあることを経験したことが、冴子の心に大きな変化をもたらしたのだった。      

 若い男女の間には、相互の間に牽引する力が作用するような気がすると冴子は最近考えはじめている。互いに情緒を引き合いたぐり合うから、そこには力が生じ熱がうまれ光りが飛ぶ。
 それが情熱というものなのだ。夫との場合、冴子の吸引しようとする情熱は、夫の寛大でおおらかで世慣ている初老の情緒は、冴子がどんなに牽いても汲みくせず、押してみても手答えがない。満々と水をたたえた湖水を飲み干そうとでもするような味気なさを冴子が夫に感じるには、こういうことなのかも知れない。                        
 今夜田宮が夫に話したしたという自分のことにしても、今までの冴子なら、たとえほめ言葉であっても、他人の妻の肉体に関する微細な評価を、こともあろうにその夫に話す男など、どう考えても下劣で低俗な存在として嫌悪した筈である。
 だが、今の冴子には、たとえ酒席の下品な会話であれ、自分を女性としてほめたたえてくれた田宮に、実際に裸体を視られたような羞恥と妖しく燃え上がるような肉のきしめきを覚えるのは、やはり自分と同世代の田宮に、互いに性を牽引し合う男女の情緒の漲ぎりを感じるからなのだろう。             
 「伊香保はもう寒いでしょう?お二人がお仕事に出かけられたら、あたしはどうしたらいいの?一日旅館でじっと過ごすなら、
編物でも持って行かなければならないわ………」                            
 「伊香保には徳富蘆花の記念館や竹久夢二記念館もあるから一日退屈することもあるまい。それに俺達の仕事も、ただ老婆の喋りや歌うのを録音してくるだけだから、半日もあれば十分なんだ。あとは言ったように遊びなんだ」     
 出無精で誘っても滅多に付いて来なかった妻が、今回に限って待っていたように、頬を上気させ目を輝かせかているのは、自分
が今まで思っていた通り妻は田宮に相当な思いを寄せている証拠に違いないと、自分のもくろみの確かさに、一種の怯れと突き上
げるような妖しいときめきを感じた。           

 田宮が以前から妻に思いを寄せていることは、無口な癖に普通なら心の襞に隠しおくようなことでも平気で表現する彼だから、
縁談を勧めても、先生の奥さんのような女性なら一も二もなく承諾するのですけど、とか、今夜の打ち合わせは先生の家でしたい
な、奥さんの貌をもう二月も見ていないので会いたくて………………、と平気で言う。
 それも冗談やお世辞でなく真底そう思っているのが、ながい付き合いの惣太郎にははっきりわかる。
 田宮は自分の感情や意見を偽らない性格だから、学内でも田宮の率直な意見を曲解して敵対する者も多いが、その反面、田宮の
言うことなら………と、その発言には誰もが信頼を寄せる。特に学生にはそういう田宮の率直さが受けて人気がある。剣道は六段
の腕前で国体に出場したこともあるほどで、今も大学の剣道部のコーチを引き受けている。無口な
上に一たび言葉を発すれば辛辣だし、痩せて背高の身体体には野武士のよな隙のない強靭さが滲み出ていて、はじめて会う者には、
近寄り難い印象を与えるが、惣太郎のように長らく付き合ってみると、剛健さの中に素直で一図な愛すべき性格の持ち主であるこ
とがよくわかる。                    
 田宮がはじめてこの家にやって来たのは、彼がまだ助手をしていた頃で、浩二が大学の二年生だった。冴子もはじめて田宮に会
った頃は、          
 「やくざか昔のお侍みたいで怖い人……」                 
 と評してあまり近寄らなかったが、いつの間にかすっかり田宮の性格を理解して、馴染んでいた。                           
 途中二年アメリカの大学に留学し、丁度、浩二がロンドンに行くのと入れ違いのように帰って来たのだが、どうもその頃から妻
の田宮に対する感情に変化が現われ始めたような気がする。                       

 惣太郎がはっきりと妻の田宮への愛慕の情を感じとったのは、田宮と二人で受け持った地方の大学の集中講義が、惣太郎が俄な
腰痛で行けなくなり、急遽田宮が一人で講義することになって、二晩ほどこの家に田宮が泊まり込んで準備した時である。                  

             
 腰の痛みに起き上がれない惣太郎に田宮は、カイロ・プラクチクスという、こういう場合いちばん効果的なマッサージ治療法を
アメリカで修練してきているから治療してあげます、と申し出た。なんでもカイロ・プラクチクスとは、ギリシャ語で掌の手術、
という意味だそうで、剣道や柔道の高段者は、人間の骨や筋肉については医者並みに研究していて、大抵鍼、マッサージ、整骨な
どの資格を取得しているが、自分は前からこのカイロ・プラクチクスに興味を感じて、日本国内の関係者について習っていたが、
今回向こうで徹底的に学び、アメリカでの治療士の資格も取って来たっという。
 残念ながら我が国ではまだ厚生省の認可が下りていないので、治療することは出来ないが、自分が取得しているマッサージと整
骨士の資格で治療して上げて、大勢の人から喜ばれている、ということだった。
 下穿だけで俯伏せにされ、田宮の剣道で鍛えた大きな掌が、惣太郎の脊髄骨の両側を撫でさすっていった。羽毛で撫でられてい
るような擽ったさと、じんわりと押え付けられるようなかゆさに似た痛みとが入混った妙に性感を刺激するような、焦燥感の残る
治療で、惣太郎は小馬鹿にしたが、実際治療が終って見ると、つい先ほどまでちょっと身動きしても激痛がはしり呻き声が出てい
たのが嘘のように、身を動かせても鈍痛しか感じない。                  
 「田宮さんがこんな特技をお持ちだとは知らなかったわ。どうして隠していらっしゃったの? 」                           
 「隠してなんかいませんよ。学校の運動部の選手たちのこの種の治療はほとんど奉仕でやっているし、せんだっても、どこで聞
いたのか副学長の奥さんが、長いこと貧血症で肩凝りに悩まされているから、ぜひともと頼まれて、忙しいのに六回ばかり世田谷
の自宅に通いました」                  
 「それで治ったのかね」                        
 やっと身動き出来出し躯をゆっくりと横臥させながら惣太郎が口を挟んだ。 
 「ええ、血圧も随分ら下がって、肩凝りは完全に治ったらしいですね。こんな爽やかな躯になったのは何年ぶりだろう…………
って、感謝されました。まあお齢ですから、そのうちまた懲り始めるでしょうがね」             
 「これも年中肩懲りで悩んでいるんだが、一つ治してやってくれんかね」   
 「あら、あたしのは運動不足ですよ」                   
 にわかに矛先が自分に向けられて冴子が慌てて弁明した。         
 「ええ奥さんのも多分貧血からくる肩懲りだと思います。ただし副学長の奥さんと違うのは、まだ若いから治療で増血作用を促
せば、完全に肩凝は治るということです」                               
 「副学長の奥さんって幾つになるんだね」                
 「六十五才です」                           
 「それじゃあ冴子はまだ見込があるな」                  
 「あら! 二人ともあたしを馬鹿にしたのね。ねえ貴方、本当にそうならあたしもやってもらいたいわ。肩凝って意外苦痛なん
ですよ」           
 「奥さんなら絶対自信がありますね。二週間置きくらいに、そうですね五回治療すればいいでしょう」                         

 
 「そりゃあいい、ぜひやってやってくれよ」               
 惣太郎の寝ている布団の横に敷き布団を一枚だけ敷いて冴子が横になった。  
 「奥さんそれじゃあ駄目です。本当なら裸になって頂くのですけれども、スリップ一枚か薄いネグリジェかまたは浴衣になって
下さい。この治療は神経を刺激して血行をよくしたりするのですから、厚い衣服があると効果がないんです」 
 「えっ、田宮さんの前でそんな格好出来ないわ」             
 冴子が羞恥に顔を染めながら言うのを、惣太郎が強引に説き伏せると、隣室に出ていった冴子は、薄い夏物の木綿地に椿の藍色
模様の浴衣を着て入って来た。
 顔の化粧も落として、素顔に薄く口紅だけはたいていた。          
 ネクタイをとったワイシャツ姿の田宮が長い脚を持て余すように折り曲げて、横臥した冴子の肩に掌を伸ばした。
 冴子は惣太郎に背を向けて横臥している。髪をたくし上げてピンで留めているが、襟脚にほつれた細い髪が女らしい色気をほの
ぼのと匂わせ、細い腰からこんもりと悩ましげな曲線で盛り上がる臀の丸みが、田宮の篠竹のような腕の動きにかすかにゆらめい
ている。
 田宮の掌が肩からしだいに下がり脇腹や腰の辺りを撫ではじめると、今まで無言だった冴子が、しきりに空咳や咽喉にからんだ
痰を除去するような声を出しはじめた。
 鼻が詰まったようなその声は、冴子が発情している状態であることを惣太郎は敏感に察した。
 田宮の顔は後ろ向きで見えないが、なんとなく昂ぶりが感じられる。      
 やがて田宮の指示で、冴子が惣太郎の方に横臥の向きを変えた時、惣太郎はあっと、思った。
 惣太郎の想像通り、冴子の変化が目に付いた。冴子の全身から妖気が立ち上っているような一瞬の感じがあった。閉じていた瞳を、
ちらと、あけて惣太郎を見た瞳が黒々と濡れて、化粧のない白い頬が紅をさしたようにつやつや輝いていた。          
 「眠くなるくらい気持がいいわ」                    
 惣太郎を見る目が朦朧と霞んでいた。俯伏せに変った時、冴子は顔を夫の反対側の向きに変えた。                          

 
 惣太郎は田宮が、アメリカに同棲している二世の女を残して帰国しており、帰国後、女は田宮の子を出産し、今一才に成長してい
る。名前は英美夫といい、女の父親である一世の医者の父が名付けた。あちらの両親が離したがらないので置いて来たが、あと二年、
日本の大学で教えると、アメリカの大学の日本語教授が約束されているので、向こうに帰って永住することにしている。そういう約
束で、女と子供は、女の両親に預けて来ていた。もちろん仕送りは続けている。
 このことは田宮の母親が、二年前から重い病に伏している関係で、本人と惣太郎以外は誰も知らない。もちろん冴子は知らない。             

    
 冴子は田宮を未経験な独身青年くらいにしか思っていないだろうが、実は女の扱い方は熟知しているのだ。内縁の妻の他にもアメ
リカでは相当女遊びを経験していると、惣太郎に告白している。
 このカイロプラクチクスというマッサージも、実は学校に通っている頃に、学資に窮していた田宮が、ある機会に医者の友人に勧
められて習い覚え、冷感症の女の治療専門にアルバイトとして開業したものらしい。
 ある期間は繁盛し、金持ちの婦人達が押しかけたらしいが、今の女と恋愛関係に入ってから止めてしまったらしい。だから田宮の
性の遍歴や習い覚えた技術と経験からすれば、冴子のような純真な女を発情させることぐらい、いとも簡単なことに違いない。
 そう考えると、惣太郎は、目の前の田宮と妻が、まるで媾合でもはじめかねないような怖れを感じて、思わず身を乗り出していた。   

 一体田宮の掌にはどんな魔法が隠されているのだろうか、と冴子は朦朧としていく頭で考えていた。薄い浴衣を通して、じかに肌
に触られているように田宮の掌のぬくもりが、あたかも田宮の精を注入されているように感じられ、その後に冴子の躯の内部から快
感がわきおこり、触られる度にその場所が痙攣してくるのを押えることが出来なかった。
 悪寒のような戦慄と官能の疼きが、しだいに冴子の体内を満たしていく。ともすると出そうになる嗚咽を冴子は必死で堪えた。
最後に田宮は、背筋から腰と、臀の割れ目のあたりから太腿、脛、爪先までを、羽毛で撫でるようにして、マッサージした。
自分の躯の性感帯が、すべて田宮の掌先に集まっていくような恍惚感に、冴子はとろけるような官能に朦朧となっていた。それは浩
二との烈しさとは違った、じっとりと弱火で、とろとろと灼きあげられるような、切ない情緒であった。                   
 治療を終えて、淡いピンクの柔らかそうなセーターに襞の多い紺のスカート姿で現われた冴子を惣太郎が寝たまま見上げた時
、そこにしっとりと潤いの出た顔に、いきいきとした瞳と、躯の奥から染め上げられたような肌の艶がまぶしく匂い立っている、妻
の冴子ではなく、見知らぬ女が艶然と俯向きかげんに自分を見下ろして微笑んでいるような錯覚を覚えた。                 
 「ほんと!まるで自分の体重がなくなったみたいに躯が軽くなって翔んでいきそう よ。有り難うございました」                   
 田宮に熱燗を注ぎながら、照れた上目使いで挨拶をしている妻は、まだあえぎの治まらぬように小さく開いた唇から、美しい小粒
の歯をこぼれさせながら、耳まで染めあげている。
 惣太郎は冴子の内部にいま、消えていた若さの灯がいっせいにともされたような耀きを見ると同時に、酒を受けながら、冴子に優
しさをたたえた目を注ぎかけている田宮にも、獲物を捕らえた猟
師のような満足感のあふれた表情を読み取っていた。
 二人の一瞬の視線の溶け合いに、惣太郎は健康な性を共有する男と女が互いに心を開き合った暗黙の了解が成立した証を視た。   
 「今度は温泉に行った時に治療しましょう。よく利きますよ。先生もそうしましょう」                                 
 「ああそれはいいね、ぜひ、そうしてもらおう」             
 「でも、田宮さんに悪いわ。温泉にまで行って、あたし達夫婦の治療をしているんじゃ、疲れに行くようなものでしょう」                
 「先生の治療は、早く直って貰わなければ自分が困るから、奥さんの方は、触れることが愉しいから、お二人とも自分のためにする
ようなものです。どうか気になさらないで下さい」                          
 「まあ、田宮さんたら………」                     
 冴子が羞恥とも照れともとれる表情で、両手を上気した頬にあてて、子供のいやいやをするようなしぐさで身体を揺すった。その姿
に惣太郎は自分の妻に今まで見たことのない妖しい輝きを見た。                    
 その時、惣太郎に激しい嫉妬の感情の替りに、田宮の鋼線のような鋭い身体に容赦なく犯されながら、歓喜に身を打ち震わせている
自分の妻の、見たこともない嬌態のあられもない姿が、天女のもだえのように美しく想い描かれて来るのだった。                     

    
  1. 2014/12/02(火) 15:13:00|
  2. 花濫・夢想原人
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本当のこと。・一良 (14)
リフォーム・とかげ (22)
友達・悦 (13)
悪夢・覆面 (10)
ビデオ・はじめ (4)
言えない真実、言わない真実・JOE (17)
私しか知らなかった妻・一樹 (3)
妻の秘密・光一 (54)
清楚人妻 一夜の陵辱劇 ~親友に騙された~・仁 (6)
俺が負けたので、彼女が手コキした (5)
惨めな自分・子無き爺  (6)
田舎・マス夫 (16)
秘密・POST (14)
新妻の幻想・TAKA (4)
遠方よりの友・ちかこmy-love (11)
管理組合の役員に共有された妻・エス (136)
団地・妄人 (50)
抱かれていた妻・ミリン (18)
パーティー・ミチル (33)
友人・妄僧 (7)
甘い考え・白鳥 (22)
乳フェチの友人・初心者 (6)
1話完結■隣人または友人 (7)
■インターネット (54)
チャットルーム・太郎 (19)
オフ会・仮面夫婦 (10)
ターゲット・アイスマン (5)
奇妙な温泉宿・イワシ (14)
落書きの導き・マルタ (4)
1話完結■インターネット (2)
■旅先のアバンチュール (63)
バカンス・古屋二太郎 (7)
妻との旅行で・けんた (5)
無題・ざじ (10)
A温泉での忘れえぬ一夜・アキオ (18)
露天風呂での出来事・不詳 (2)
たった1度の体験・エロシ (9)
旅行・妄人 (12)
■医者・エステ・マッサージ (62)
孕まされた妻・悩める父親 (7)
とある会で。 ・けんじ (17)
亜希子・E-BOX (14)
子宝施術サービス・かえる (23)
1話完結■医者・エステ・マッサージ (1)
■借金 (56)
私達の出来事・不詳 (9)
私の罪・妻の功・山城 (9)
失業の弱みに付け込んで・栃木のおじさん (3)
変貌・鉄管工・田中 (5)
借金返済・借金夫 (5)
妻で清算・くず男 (5)
妻を売った男・隆弘 (4)
甦れ・赤子 (8)
1話完結■借金 (8)
■脅迫 (107)
夢想・むらさき (8)
見えない支配者・愚者 (19)
不倫していた人妻を奴隷に・単身赴任男 (17)
それでも貞操でありつづける妻・iss (8)
家庭訪問・公務員 (31)
脅迫された妻・正隆 (22)
1話完結■脅迫 (2)
■報復 (51)
復讐する妻・ライト (4)
強気な嫁が部長のイボチンで泡吹いた (4)
ハイト・アシュベリー・対 (10)
罪と罰・F.I (2)
浮気妻への制裁・亮介 (11)
一人病室にて・英明 (10)
復讐された妻・流浪人 (8)
1話完結■報復 (2)
■罠 (87)
ビックバンバン・ざじ (27)
夏の生贄・TELL ME (30)
贖罪・逆瀬川健一 (24)
若妻を罠に (2)
範子・夫 (4)
1話完結■罠 (0)
■レイプ (171)
輪姦される妻・なべしき (4)
月満ちて・hyde (21)
いまごろ、妻は・・・みなみのホタル (8)
嘱託輪姦・Hirosi (5)
私の日常・たかはる (21)
春雷・春幸 (4)
ある少年の一日・私の妻 (23)
告白・小林 守 (10)
牝は強い牡には抗えない。・山崎たかお (11)
堅物の妻が落とされていました・狂師 (9)
野外露出の代償・佐藤 (15)
妻が襲われて・・・ ・ダイヤ (6)
弘美・太郎棒 (11)
強奪された妻・坂井 (2)
痴漢に寝とられた彼女・りょう (16)
1話完結■レイプ (5)
■不倫・不貞・浮気 (788)
尻軽奈緒の話・ダイナ (3)
学生時代のスナック・見守る人 (2)
妻・美由紀・ベクちゃん (6)
押しに弱くて断れない性格の妻と巨根のAV男優・不詳 (8)
妻に貞操帯を着けられた日は・貞操帯夫 (17)
不貞の代償・信定 (77)
妻の浮気を容認?・橘 (18)
背信・流石川 (26)
鬼畜・純 (18)
鬼畜++・柏原 (65)
黒人に中出しされる妻・クロネコ (13)
最近嫁がエロくなったと思ったら (6)
妻の加奈が、出張中に他の男の恋人になった (5)
他の男性とセックスしてる妻 (3)
断れない性格の妻は結婚後も元カレに出されていた!・馬浪夫 (3)
ラブホのライター・され夫 (7)
理恵の浮気に興奮・ユージ (3)
どうしてくれよう・お馬鹿 (11)
器・Tear (14)
仲のよい妻が・・・まぬけな夫 (15)
真面目な妻が・ニシヤマ (7)
自業自得・勇輔 (6)
ブルマー姿の妻が (3)
売れない芸人と妻の結婚性活・ニチロー (25)
ココロ・黒熊 (15)
妻に射精をコントロールされて (3)
疑惑・again (5)
浮気から・アキラ (5)
夫の願い・願う夫 (6)
プライド・高田 (13)
信頼関係・あきお (19)
ココロとカラダ・あきら (39)
ガラム・異邦人 (33)
言い出せない私・・・「AF!」 (27)
再びの妻・WA (51)
股聞き・風 (13)
黒か白か…川越男 (37)
死の淵から・死神 (26)
強がり君・強がり君 (17)
夢うつつ・愚か者 (17)
離婚の間際にわたしは妻が他の男に抱かれているところを目撃しました・匿名 (4)
花濫・夢想原人 (47)
初めて見た浮気現場 (5)
敗北・マスカラス (4)
貞淑な妻・愛妻家 (6)
夫婦の絆・北斗七星 (6)
心の闇・北斗七星 (11)
1話完結■不倫・不貞・浮気 (18)
■寝取らせ (263)
揺れる胸・晦冥 (29)
妻がこうなるとは・妻の尻男 (7)
28歳巨乳妻×45歳他人棒・ ヒロ (11)
妻からのメール・あきら (6)
一夜で変貌した妻・田舎の狸 (39)
元カノ・らいと (21)
愛妻を試したら・星 (3)
嫁を会社の後輩に抱かせた・京子の夫 (5)
妻への夜這い依頼・則子の夫 (22)
寝取らせたのにM男になってしまった・M旦那 (15)
● 宵 待 妻・小野まさお (11)
妻の変貌・ごう (13)
妻をエロ上司のオモチャに・迷う夫 (8)
初めて・・・・体験。・GIG (24)
優しい妻 ・妄僧 (3)
妻の他人棒経験まで・きたむら (26)
淫乱妻サチ子・博 (12)
1話完結■寝取らせ (8)
■道明ワールド(権力と女そして人間模様) (423)
保健師先生(舟木と雅子) (22)
父への憧れ(舟木と真希) (15)
地獄の底から (32)
夫婦模様 (64)
こころ清き人・道明 (34)
知られたくない遊び (39)
春が来た・道明 (99)
胎動の夏・道明 (25)
それぞれの秋・道明 (25)
冬のお天道様・道明 (26)
灼熱の太陽・道明 (4)
落とし穴・道明 (38)
■未分類 (571)
タガが外れました・ひろし (13)
妻と鉢合わせ・まさる (8)
妻のヌードモデル体験・裕一 (46)
妻 結美子・まさひろ (5)
妻の黄金週間・夢魔 (23)
通勤快速・サラリーマン (11)
臭市・ミミズ (17)
野球妻・最後のバッター (14)
売られたビデオ・どる (7)
ああ、妻よ、愛しき妻よ・愛しき妻よ (7)
無防備な妻はみんなのオモチャ・のぶ (87)
契約会・麗 (38)
もうひとつの人生・kyo (17)
風・フェレット (35)
窓明かり ・BJ (14)
「妻の秘密」・街で偶然に・・・ (33)
鎖縛~さばく~・BJ (12)
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輪・妄僧 (3)
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