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闇文庫

主に寝取られ物を集めた、個人文庫です。

パーティー 第1回

 寝室を覗いて家族がみな寝静っていることを確認した私は、書斎に戻りパソコンのスイッチを入れた。
「畜生、早く立ち上がれ」
 焦りからか、起動時間がいつもよりずっと長く感じる。
 DVDを持つ手が震え、うまくトレイにセットできない。もう片方の手を添え、両手でようやくそれをセットした。
 口が渇く。汗が噴き出す。バクバクと激しい動悸が胸を打つ。まるで心臓が何倍にも肥大化しているようだ。
「本当なのか・・・本当にそんなことが・・・」
 パソコンが立ち上がり、DVDが再生され始める。
 そしてそこに・・・

「なんで・・・」

 新たな妻物語が、今静かに幕を開ける---。



 あれほど盛り上がっていたしりとりにも飽きて、次男の直樹がチャイルドシートの上で大きく伸びをした。
「パパまだぁ。もう疲れちゃった」
「もうちょっとだって」
「さっきからもうちょっと、もうちょっとって、いったいいつになったら着くんだよぉ」
 長男の勇樹もふてくされたように後席で体を横にしていた。

 高速道路は、行楽の車でかなりの混み具合だった。
「だから違う道で行こうって言ったのに」
 妻の加奈までもが、さっきからブツブツと呟いている。ナビに表示された所要時間は55分だったのに、出発してかれこれ2時間近くになる。約束の10:00はとっくに過ぎてしまっていた。

 5月のとある日曜日。私たちは、車を一路S市郊外に向かわせていた。佐久間家のガーデンパーティーに家族で招待されていたのだ。

”トゥルルル~トゥルルル~”
 遅々として進まぬ車の流れ。苛立ちの充満する車内に、突然コール音が鳴り響いた。ナビに接続した携帯電話が赤く点滅している。
「あ、佳澄さんよ、きっと」
 加奈が、通話ボタンを押す。
「もしもしぃ」

『もしもし、佳澄ですぅ。今どこ?』

 懐かしい声が車内に響く。相変わらず艶っぽい声である。思わずうっとりしてしまう。なにやら、沈んだ車内にパアッと明るい花が咲いたようである。
「ごめんねぇ。けっこう車混んでるの。でも、あと少しで高速をおりるところよ」
『じゃあもうすぐね。さっきから瑞希がお待ちかねよ。勇樹くん直樹くんまだ~って』
”勇樹く~ん、直樹く~ん。早く早くぅ!”
 電話の向こうから瑞希ちゃんの可愛い声が聞こえてくる。

「なんか勇樹照れてるみたい。ソッポ向いて、赤い顔してるわ」
『あははっなんでぇ。でも、ほんと会うの楽しみだわ。早く来てぇ。勇樹く~ん!直樹く~ん!ひさしぶりぃ~、元気してた~!?』
「うん、元気ぃ~!」と直樹が大声で答えた。勇樹は照れた顔を、窓の外に向けたままだ。

『じゃ気をつけて来てね』
「うん、ありがとう」
『それじゃ、またあとで』
「は~い」

「相変わらず綺麗な声だよなぁ。美人はどうして、声まで美人なんだろ」
「なによ鼻の下のばしちゃってぇ。勇樹もなんか照れちゃって、親子そろってもう、やんなっちゃう。ねえ直樹ぃ~」
「そうだそうだぁ」
 佳澄さんの登場で、沈んだ車内に活気が戻ってきた。車はようやく長い渋滞を抜け、高速道路の出口にたどり着いた。佐久間家まではもうすぐだ。

 私の名は斉藤昌史、出版社に勤務する36歳のサラリーマン。妻の加奈はわたしより4つ年下の32歳の専業主婦である。そして小学校3年の勇樹と、幼稚園児の直樹の4人家族。
 私たちをガーデンパーティーに招待してくれる佐久間家は、44歳のご主人・博史さんと、一回り年下の妻・佳澄さん、それに長女の瑞希ちゃんとの3人暮らし。もともと私達と同じマンションに住んでいたのだが、昨年、ご主人の父親の遺産相続を機にマンションを売却、実家のあるS市郊外にハウスメーカーのモデルハウスさながら、それは見事な白亜の豪邸を建てたのだ。
「は~っうらやましい・・・うちの戸建の夢はいつ叶うのかしら」
 一年前、毎夜吐き出される妻の溜息に、遺産相続など無縁の安サラリーマンを父にもったさだめを呪わずにはいられなかったことを思い出す。
 奥さんの佳澄さんは、美人妻として近所でも評判の人で、マンションの亭主族、独身族の憧れの存在であった。なんでも、若いころはモデルやコンパニオンの仕事をしていたそうで、ミスなんとかにも何度も選ばれたことのある筋金入りの美人なのである。
 それだけの美貌を誇りながらも、お高く止まる様子はまるでなく、明るく気さくで、主婦仲間からの評判もいい。傍目から見てそれはもう非のうちどころのない女性であった。越してきた当初、私などはエレベーターで一緒になるたび、胸がドキドキわくわく、まるで少年のような気持ちになったものだ。髪も薄くなり、でっぷりとお腹の突き出た佐久間氏を見るにつけ、”この醜い躰と、あの美しい躰が毎夜ベッドの上で絡みあっているなど、かほどの不条理が何故ゆえ許されるのであろうか!いつの日か神の糾弾が下らんことを!”と真に自分勝手な思いに耽ることもあったほどだ。
 その後ラッキーにも、勇樹と瑞希ちゃんが同じ幼稚園に通うことになり、佳澄さんと妻の加奈がまるで旧知の親友のように親しくなって、以来うちと佐久間家は家族ぐるみの付き合いをするようになった。春や秋のバーベキューに夏の海水浴、そして冬のスキーツアー。数々の思い出とともに4年の月日が流れ、そして突然の佐久間家の転居。引越しのその日、去っていく車のリアウインドウ越しに泣きながら手を振る佳澄さんと瑞希ちゃんに、千切れるほどに手を振り返しながら、大粒の涙をこぼしていた妻の顔が今も忘れられない。
「どんなすごい家なんだろうなぁ」
「そりゃもう溜息が出るわよ。なにせ部屋が12もあるんだから」
 それほど親しい付き合いをしていたのに、転居後は、あれやこれやで何かと都合がつかず、妻は何度かお邪魔していたものの、私と子供たちは、初めての訪問になる。


”ピンポーン”
 インターフォンを押すや否や、玄関の扉が開いて瑞希ちゃんが飛び出してきた。
「いらっしゃい!勇樹くーん!、直樹くーん!」両手を振りながら、広い庭を駆けてくる。
「こんにちは。ひさしぶりだね、瑞希ちゃん」
「あ、直樹くんのパパこんにちは!」
”また一段と可愛くなったなあ”
 女の子は父親に似るというが、幸いなことに瑞希ちゃんは佳澄さんに瓜二つだ。小学校三年にして、早くもほんのりと女の色気を感じさせるほどになっている。
”こりゃまた将来すごい美人になるな”

「あっ!おばちゃんだ!」
 そして佳澄さんの登場である。玄関前の階段を軽やかに駆け下りてくる。
 流行のターコイズブルーのワンピースに、純白のエプロン姿。駆けるたび、栗色のセミロングの髪がふわりと風に舞い、五月の陽光と戯れるようにキラキラと輝いている。ドラマならさしずめここで、麗しいピアノの調べなどが奏でられるのだろうか。そびえ立つ白亜の屋敷を背景にして、それはひとつの絵画のように見えた。
”綺麗だ・・・”
 深い憂いを放つ神秘的な瞳、整った鼻梁、男好きのする少し厚めの唇。まるで絹織りのような細やかな素肌と艶のある美しい髪。久方ぶりに見る佳澄さんの美貌はさらに深みを増し、それはもうある種の凄みさえ感じさせるほどになっている。私は一瞬挨拶の言葉も忘れ、まるで美術品のようなその姿に呆然と見とれてしまっていた。

「いらっしゃい、斉藤さんお久しぶりですぅ。うわぁ~勇樹くん大きくなったね。直樹くんももうすっかりお兄ちゃんだ」
「あ、こんにちは、おやすみのところお邪魔します」
「どうぞ、さぁ入って入ってぇ」
「ねぇ、あなたどう?すごいお宅でしょう。ここに親子三人で暮らしているんだからほんと贅沢よねえ」

 佳澄さんばかりを褒め称えているが、うちの加奈もなかなかどうして結構美人の部類に入ると思うのだ。夫のひいき目かもしれないが、少なくとも”素材”の良さという点なら佳澄さんにもそれほど引けをとらないはずだ。ただ、圧倒的な経済力の違いがものをいうのか、女としての”仕上がり”という点になると、かなりの差があると言わざるをえない。一部上場企業の部長である佐久間氏と、中小企業の平社員の私とでは、倍以上の年収の違いがあるはずで、そこに親の遺産が転がり込んだとなれば、生活レベルの差はそれこそ月とスッポンである。
「どうこれ、今日ユニクロで買ったの。いくらだったと思う。なんと1000円よ1000円!見えないでしょ」
 安物の服を身につけ、いつも私の前でおどけてターンをしてみせる妻。
”もう少し楽な暮らしをさせてやれれば、加奈だって”
 こうして二人を並べて見ると、いつもそんなことを考えてしまう。
 それにしても今日の佳澄さんの、この艶かしさはなんだ。以前はどちらかというと、爽やかな色気を感じさせるタイプだったのだが、しばらくぶりに見る佳澄さんには、成熟した女の艶めいた潤いのようなものが躰全体にオーラのように纏わりついているように思える。三十路を過ぎ、以前からの清楚で可憐な魅力と、熟した女の妖艶な魅力が最高のバランスで調和しているようだ。まさに花は今が盛り、満開に咲き誇っている。こんな女性を独り占めしている佐久間氏に改めて烈しい羨望と嫉妬を感じないわけにはいかなかった。

「それじゃ、1年ぶりの再会を祝って乾杯します。カンパーイ!」
「カンパーイ!」
 佐久間氏の音頭で、久方ぶりの両家のパーティーが始まった。テラスに用意された8人掛けの大きなテーブルには、青いギンガムチェックのテーブルクロスが掛けられていて、その上に佳澄さんの自慢の手料理の数々が所狭しと並べられていた。

「さあどれから食べようかなあ」
「うまい!、このパエリア」「このピザもとってもおいしい!」勇樹と直樹が歓声をあげる。
「ありがとう。おばさん、勇樹くんと直樹くんにいっぱい食べてもらおうと思って、朝早くから作ったのよ。頑張って全部食べてね」

 加奈と私が並んで座り、その向かい側に佐久間夫婦が座っている。
「ほんとひさしぶりですよねぇ」と佳澄さんが私にビールを注いでくれる。
「ほんとに。もう呼んでもらえないのかと思ってました。アハハハッ」
「いやだぁ、ごめんなさい。なんだかんだとバタバタして、一年たってやっと家が片付いたって感じなんです。でもこれからは前みたいに、楽しくやりましょうよ。ね、あなた」
「そうそう、ダッチオーブン買ったからさ、今度またキャンプでも行こうよ」
「いいですねぇ」

 こうしてあらためて佐久間夫婦を眺めると、失礼ながらつくづく不釣合いな夫婦だと感じてしまう。こうしたカップルを表現するのに、美女と野獣”などという最近では少々使い古された感のある言葉があるが、佐久間夫婦ほどその言葉がピタリと当てはまるカップルはいない。きっと”美女と野獣コンテスト”でもやれば、ぶっちぎりでチャンピオンになるに違いない。佐久間氏の醜悪な容姿もさることながら、それほどに佳澄さんの美貌が際立っているのだ。
 ところがその容姿の差異からは想像できないほどに、この二人はとびきりのおしどり夫婦なのだ。その仲睦まじい様子からは、とても結婚して10年、小学生の子供のいる夫婦には見えず、まるで新婚か、付き合いはじめて間もない恋人同士のようなのである。こうして今も佳澄さんは、隣に座る瑞希ちゃんの世話などはそこそこに、佐久間氏に対してあれやこれやと世話を焼くのである。
”何もそこまでしなくてもなぁ”
 よその夫婦が何をしようが勝手なのだが、いちゃつく二人のあまりに大きな容姿のギャップが、周りのものにどうしようもない腹立たしさを沸き立たせてしまうのである。

「なによ、直樹。すっごい食欲じゃなーい。ママの料理もそれだけ食べてくれるとうれしいんだけどなあ」
「だって、どれもこれもみんなおいしいんだもの」
「ええ、それってママのはおいしくないってこと?」
「違う違う!ママのとおんなじくらいおいしいってこと!」
「このー、うまいこと言っちゃって」
「さすがに次男はちゃっかりしてるよ」
「アハハハッ」
 佳澄さんの料理の腕前は玄人はだしである。これだけおいしい料理が毎日出てくるのだから、佐久間氏のお腹がどんどんせり出してくるのも解る気がする。美人で気立てが良くて料理もうまい。こんなに完璧であると他に何かとびきりのアラがあるんじゃないかと探してみたくもなるが、この5年間の付き合いの中で未だそれは見つけられない。
 天は二物をを与えずというが、実際には、まったく与えられないものもいれば、彼女のように三つも四つも与えられているものもいる。選ばれし人間に対する神の作為のようなものの存在を感じないわけにはいかなかった。

 食事がひと段落すると、佐久間氏が家の中の案内をしてくれた。果たして佐久間家は、私の想像をはるかに超えた大豪邸であった。
 1階はキッチン、リビング、ダイニングのほかに家事室、仏間に大広間、そして大浴場のような風呂場。2階にはもうひとつのリビングに、書庫、寝室、子供部屋が2つに、佳澄さんの部屋、それに巨大なシアタールームとマシンルーム。地下のガレージには真紅のアルファGTとシルバーグレーのカイエンターボが並んで鎮座していた。
 これだけの大豪邸と一流企業の部長という地位、可愛い娘にとびきり美人の妻。人生まさに順風満帆、佐久間氏の表情は、すべてを手に入れたものだけがもつ独特な柔和さに満ち溢れていた。

「そしてここがオレの根城さ」

 ところが、最後に案内された書斎で、その佐久間氏からまさかあのような話を持ちかけられることになろうとは。まるで絵に描いたような幸せが満ち溢れるこの夫婦に、よもやあのような秘密が隠されていようとは・・・。まさに青天の霹靂、五月晴れの穏やかな日曜日の風景が、ここから一変することになる。
  1. 2014/10/29(水) 08:39:41|
  2. パーティー・ミチル
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パーティー 第2回

「また書斎も立派ですねぇ。ここ何畳くらいあるんですか?」
 広い室内をながめ回しながら私が言った。
「さあ、14,5畳はあるんじゃないかなぁ」
「いいなぁ、うちなんか今ある4畳半の書斎もどきの部屋が来年には直樹に取られちゃいますからねぇ」
「あはは、そりゃ悲しいねぇ」
 書斎の窓からは、下のテラスが見える。佳澄さんと加奈がテーブルでコーヒーを飲みながら談笑しているまわりで、子供たちがワアワアと、はしゃぎまわっていた。一面に敷き詰められた芝の緑と五月晴れの空の青が、目を染めるほどの色彩を放っている。なんともすばらしい眺めである。こうしてここからの眺めを見るたびに、自らが手に入れた幸せの大きさを噛み締めることであろう。

「しっかし、なにもかも立派なお宅ですよねぇ、さっきからため息しかでませんよ」
「いやいや、親の遺産全部使い果たしちゃったよ。もうすっからかんさ。親父怒ってんだろうなぁ、こんな無駄遣いしやがってね」
 言いながら、佐久間氏が部屋のコーナーにある黒い革のソファにすわり、私も勧められるまま腰を下ろした。
「奥さんが綺麗で、瑞希ちゃんもあんなに可愛くて、最近よく勝ち組、負け組って言いますけど、佐久間さんって、ほんと究極の勝ち組ですよね。うらやましいったらありゃしない」
「アハハッ、そうでもないって。これでもいろいろあってさ」
 そう言って佐久間氏がタバコに火をつけた。

「それはそうと、奥さん、また綺麗になられましたよね」
「えっ・・・そうかい?」
 私の言葉に、組んでいた足をほどき佐久間氏がグッと身を乗り出した。意外な反応だった。 佳澄さんへの”賛美”はいつものお約束のようになっているはずなのに。
「どんなふうに?」
 佐久間氏が長いままのタバコをもみ消し言った。
「うまくは言えないんですけど、以前の美しさになんかこう、妖艶な感じが加わったというか」
「そうか、妖艶ねぇ!も、もっと具体的に言うと、どんな感じかな?」と、さらに身を乗り出す。
「具体的に・・・ですか?」
 どうしてしまったのか。佳澄さんの話題を持ち出したとたん、明らかに佐久間氏の様子が一変した。
「どうかしたんですか?」
「いや・・・」
 私の言葉に、急に我に返ったように乗り出した体を元へと戻した。

「じゃそろそろ、戻りましょうか」
「いや、ちょ、ちょっと待ってくれるかな」と佐久間氏が立ち上がろうとする私を制した。
「どうしたんです?」
 目が私の顔と窓の外を何度も往復するように、キョロキョロと動き回っている。明らかに落ち着かない様子だ。
「実はさ・・・」
 次の言葉を吐き出すべきか、飲み込むべきか、激しく逡巡している様子が見て取れた。いつも堂々としている佐久間氏らしくない態度であった。
「佳澄さ・・・」
 そう一言つぶやいて、しばらくの沈黙ののちだった。佐久間氏の口から信じられない言葉が飛び出した。

「浮気してんだよ」

「へぇ?」と私が間の抜けた声を上げた。これまでの和やかな空気とはあまりにそぐわぬ言葉であったので、私は瞬時にそれを理解することが出来なかった。
「浮気してるんだよ、佳澄」と佐久間氏が繰り返し言った。
「浮気ぃ!?奥さんが!?」
「ああ」
「なに言ってんですか、あはははっ、冗談やめてくださいよ。あの佳澄さんに限ってそんなことあるわけないじゃないですか」
「ううん、冗談なんかじゃない。ほんとだよ」
「またまたぁ」
 佐久間氏の表情からはさっきまでの微笑みが完全に消えている。佳澄さんが浮気をしているその真偽はともかく、彼はどうやら本気にそう思っているらしい。

「マジですか?」
「ああ」
「どうしてわかっちゃったんですか?」
「なんとなくね」
「なんとなく?それだけですか?」
 私の問いに佐久間氏はうつむき、小さく含み笑いを見せた。
「な~んだぁ、びっくりさせないでくださいよぉ。それって単に佐久間さんの被害妄想ってことですか?。そりゃあれだけの美人の奥さんじゃそんな風になるのも無理はありませんけどね」
 何を言い出すかと思えば・・・。もともと親分肌の佐久間氏は、どうも年下の私を子分のように思っているフシがある。ときにこうして悪い冗談を言って、私の反応を楽しんだりするのだ。
「さぁ、下に戻りましょう。佳澄さん、手作りのデザートがあるって言ってたじゃないですか」

「ちょっと待って」

 そう小さく言って佐久間氏が立ち上がり、机の上にあるパソコンのスイッチを入れた。
「どうしたんですか」
 私の問いかけを無視したまま、佐久間氏は腕を組み、パソコンの起動画面を見つめている。

 しばらくしてパソコンが立ち上がると、デスクトップにある「tuma」と名づけられたフォルダーを開けた。
「これ付けて」と、佐久間氏は机の引き出しからイヤホンを取り出し、パソコンのスピーカーにつないだあと、私に手渡した。私は言われるがままにイヤホンを右の耳に入れた。

「じゃ、いくよ」
 そう言って佐久間氏が、画面上にある「シーン3」と名づけられたアイコンをダブルクリックした。次の瞬間、信じられない音声が私の耳穴に飛び込んできた。

『吸って!ああん!吸って!藤木くん!そこっ・・・あっ吸ってぇ~~!』

 絶句した。凍りついた。そのまましばらく佐久間氏の横顔を凝視し続けた。マウスを握り締めたまま佐久間氏がじっとパソコンの画面を見つめている。それは紛れもなく佳澄さんの声であった。さっき、沈んだ車内を瞬時に和ませたあの声で、喜悦の咆哮をあげているのだ。

「な、何ですかこれ!?」そう一言、ようやく口から出た。
「佳澄の浮気の現場さ。今のは四つん這いにされて、後ろからクリトリスをチューチュー吸われてるところだよ」

『おばさん自慢のオレンジケーキなの。おいしいんだから。ほっぺが落ちても知らないぞお』
 窓の下、テラスでは佳澄さんが自家製のスイーツを切り分けている。
”あの佳澄さんが・・・まさか・・・”
 あまりの衝撃に今度は足に震えが来た。いまだかつて経験したことのない類の強烈なエロスの波動を全身に感じていた。股間が痛いほどにいきり立っている。

「どうだい」
 佐久間氏がようやく視線を私に向けた。
「信じられません・・・。これはどうやって?」
「盗聴だよ」
「盗聴?」
「ああ」
「佳澄と男の浮気の現場の一部始終が録音されている」
「そりゃすごい・・・」
 あの佳澄さんが他の男とセックス・・・。そして今その最中の声を聞いた・・・。悪い夢でも見ているのか。まるで現実感がない。

「しかしどうやって盗聴なんてできたんですか?」
 映画や小説じゃあるまいし、妻の浮気現場の盗聴などそんなに簡単に出来るはずがない。

「頼んだんだよ、相手の男に」

「頼んだ?、て、どういうことです?」
「だから、相手の男に妻とやってるところを録音してくれと頼んだんだ」
「どうして?・・・、頼むって・・・、え、なんかわけがわかんないんですけど?」
 浮気の相手に録音を頼むとはどういうことだ?やはりこれは何かのおふざけか?

「斉藤くん」
「はい?」
「驚かないで聞いてくれよ」
「何ですか?」
「実は・・・この女房の浮気はオレが仕掛けたことなんだ」
「えっ?」

「オレが男に佳澄を寝取ってくれと依頼したんだ」

「何ですって!」

「やっぱり驚いたかい」と佐久間氏が口端にわずかな笑みを浮かべ言った。
「ど、どうしてそんなことを!?」
 狂ってる・・・。自分の最愛の女房を他の男に寝取らせるなんて・・・。
「君、こんなサイト知ってる?」
 佐久間氏は今度は画面上にある「妻物語」というアイコンをダブルクリックした。ブラウザーが立ち上がり、直後、黒地に白文字のなにやら怪しいサイトが画面上に現れた。

『妻物語』
『汚れていても良いですか?それでも愛してくれますか?』
『自分の妻の性体験』
『これほどに興奮出来る話題が他にあるだろうか?』
『色々な男に騙され犯されて嬲られて・・・』
『上の口・下の穴・後ろの穴まで犯されて・・・』
『あなたも奥様の過去・現在の淫らな性体験教えて下さい』
 各所に数々の刺激的な言葉が散りばめられている。
「ここはね、自分の妻を他人に寝取らせたいと日夜妄想する輩が集う場所なんだ。オレも毎日のように訪れてる」

 自分の妻を他人に寝取らせたい---。
 そういえば、そういう癖のある亭主達がいることをうちの雑誌で特集したことがある。だがそういう男達の多くは、ひ弱で神経質そうなイメージがあった。まさかこの豪放磊落な佐久間氏が・・・。
「佐久間さんにはこういう嗜好があると?」
「ああ、そうさ。それもかなりの重症でね」と佐久間氏が苦笑いを浮かべた。
「驚きました・・・。まさか佐久間さんが・・・」
「おいおい、そんな特殊なものを見るような目はやめてくれよ。オレはね、ここにくる連中ほど自分の妻を純粋に愛しているものはいないと思ってる。けっして変態なんかじゃない。愛してなかったら他人に抱かせてみたいなんてことは思やしないさ」
「そんなもんなんですかね。ということは、今回の一件は佳澄さんも承知の上ということなんですね。夫婦でそういうプレイを楽しんでると」
「いいや」と佐久間氏が大きく首を横に振る。
「佳澄はオレが仕掛けたことは知らない。自分の意思で浮気をしていると思っているよ」
「そ、そんな・・・」
「おかしいかい?」
「おかしいですよ!だっていくら佐久間さんが仕掛けたとはいえ、それじゃ佳澄さんは佐久間さんを裏切ったことになるんですよ。スワッピングも、妻を他人に提供して喜ぶMの夫の存在もわかりますが、それはあくまで夫と妻の互いの合意のもとで成立するひとつのプレイであって、妻が不貞を働くということとは根本的に別のものじゃないんですか」
「君の言うこともわかる。こういう亭主たちにもいろんなタイプがあってね。君の言うように必ず二人の合意のもとで、プレイとして楽しみたいというものもいる。がしかし、オレは純粋に女房に裏切られたいんだ。そしてそのことによって死ぬほどの切なさを味わいたいんだよ」
「それがわからない。失礼ですけど、それでほんとうに奥さんを愛していると言えるんでしょうか?」
「ああ、オレは純粋に佳澄を愛している。俺たちはこうなった今も深い絆で結ばれているんだ。それだけは確信している」
「そうですか・・・。でももし今はそうだとしても、この先万が一奥さんがその男と本物の関係になったらどうするんです?。ないとは言い切れないでしょ。理性や愛情が肉欲に負けてしまうことだってあるかもしれませんよ」
「斉藤くんオレはね、もしそうなったらそれでもいいと思ってるんだよ」
「ええーまさか!それはおかしいじゃないですか!」
「いいや、そうじゃない。オレはね、もし仮にそうなっても、佳澄はいつか必ずオレのもとへ帰ってくる。そう確信しているんだ。偉そうに言うとね、オレ達夫婦は、そこまで崇高な信頼関係で結ばれてるってことなんだよ」
「わかりません・・・」
”妻を愛しているからこそ”
 この種の嗜好をもつ亭主たちの言い分はいつもそうだ。愛するがゆえに他人に弄ばれる妻の姿を見てみたいと。しかし、それじゃいったい愛するとは何なのだ。愛とは男と女が一対一で向き合い、互いに慈しみあうことではないのか。女房の足を拡げて股間を他人の目に晒すようなマネをして、果たしてそれが本当の愛と呼べるのか!

「まあそりゃそうさ、そういう癖のない人間には逆立ちしたってオレらの思いは理解できないさ」
 佐久間氏は立ち上がり、もう一度ソファへと移動し腰を下ろした。
「それより、なんだってオレがこんな話を君にするのかって、思わないかい?」言いながら、再びたばこに火をつけた。
 佐久間氏の言葉に急に我に返ったようであった。言われてみればそうだ。佐久間氏はどうしてこんなことを私にカミングアウトする必要があるのだろう。余りの衝撃の連続に、今までそんな単純な疑問さえも湧いてこなかった。
「ええ、まあ」
「それを説明する前に、どうしてオレがこんな風になっちまったかを聞いてくれるかい?」
「はい・・・」
 私はなぜかソファに座って佐久間氏と向き合う気にはなれず、窓辺に寄りかかったまま話を聞くことにした。
  1. 2014/10/29(水) 08:40:55|
  2. パーティー・ミチル
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パーティー 第3回

「オレと佳澄の馴れ初めは前にも話したことがあっただろ」
「ええ」
 モデルをしていた佳澄さんが、佐久間氏が勤務する製薬会社のキャンペーンガールに起用されて、当時そのキャンペーンの企画に携わっていた佐久間氏が見初め、熱烈に口説き落したという話を以前に聞いたことがある。

「当時女房には男がいてね。売れない役者でさ、いかにも女房みたいな女が引っかかりそうな男さ。背が高くてハンサムだけどまるで線が細くて弱々しくて、金もなけりゃ運もない。で、結局そいつからオレが佳澄を奪い取ったって格好になったんだけどね、結婚して半年くらいたったころ、そいつからオレのもとに一通の手紙が送られてきたんだ」
「手紙ですか?」
「ああ、それが奇妙な手紙でね」
「どんな内容だったんです?」
「それがね、ほとんど遺書のようなものだったんだよ」
「遺書?」
「ああ、自殺したんだその男」
 佐久間氏が淡々とした口調で言った。
「ええっ!」
「よっぽど、佳澄を奪われたことが無念だったんだろうなぁ。死ぬ前に、あてつけにオレのところにそんなものをよこしやがった」
「そんなことが・・・」
「そこにはね、男の佳澄への思いが綿々とつづられていたんだ。自分は佳澄の将来を思い、泣く泣く手放しはしたけれど、やはりどうしても彼女を忘れることは出来ない。自分にはどうしても佳澄が必要だ。自分と佳澄は前の世も、その前の世もずっと一緒だったのだ。不条理なこの世には絶望した。こんな世からは即刻消えなければならない。そして来世でまた自分と佳澄は結ばれるのだ。そんな内容の手紙だった」
「なんなんですかそれ。狂ってますね」
「ああ、たぶん佳澄恋しさに精神がおかしくなっちまったんだろうな。でも手紙はそれだけじゃなかったんだ。そのあとにはその男と佳澄の睦み事の一部始終がそれは丁寧に綴られていたんだ」
 佐久間氏の話に吸い寄せられるように、私は知らず窓際から離れ、
「睦み事の一部始終・・・ですか?」
 再びソファに腰を下ろしながら言った。
「ああ。どんな体位が好きだとか、どこをどう攻めればどんな声を出すかとか、男が望むものはどんなことでもけっしていやとは言わなかったとか、果ては、縛られるのが好きで、自分で紐を買ってきて縛ってくれとせがんだこともあったとか、それはもう、微にいり細にいり詳しく綴られていたんだ」
「すごい・・・」
 あの佳澄さんが、縛られるのが好き・・・。これまでの佳澄さんのイメージとのあまりの乖離がゆえに、烈しい興奮が湧き上がってくる。緊縛姿の佳澄さん・・・。頭の中にその神々しい姿が描き出されていき、またもや股間がむくむくと反応を始める。

「しかしオレが一番衝撃を受けたのは、次のくだりだった。この短い文章が、それからの私達夫婦のあり方、そして私の人生そのものを大きく変えてしまったんだ。何度も何度も、擦り切れるほど読んだからね、すっかり覚えちまった。

”驚かれるかもしれませんが、実はあなたとの結婚後一度だけ佳澄を抱いたことがあります。酔っ払って泣きながら「死にたい」って電話をすると、心配して佳澄が私のアパートまで飛んできてくれたのです。扉が開き佳澄が部屋に入って来るなり、私はまるで犯すように彼女を抱きました。私を裏切った冷酷非道なこの女を、それでいて死ぬほど愛しくて堪らないこの女を、めちゃくちゃに壊してやりたいと思いました。それはもうほとんど殺意に近かったと思います。そんな異常な抱き方に佳澄は乱れました。そして言うのです。やっぱりあなたとのセックスが一番だ、夫とは比べものにならないと。このまま突かれて突かれて、突き殺されてもいい・・・あなたのそれであたしを突き殺して!と、叫ぶように佳澄が言うのです”」
 遠くを見つめる目で、佐久間氏が滔々と男の”遺書”の一節を謳いあげた。

「す、すごいですね・・・」
「それを読んだ瞬間さ、自分の中にとてつもない官能の嵐が吹き荒れていることを悟ったのは。生まれてこのかた、あれほどの衝撃を受けたのは初めてだった。裏切られることがこれほど甘美なものであったとは・・・。まさか自分にこれほど被虐嗜好の素養が潜んでいたとは・・・。本当に信じられない思いだった」
「でもそれは、事実なんでしょうか?私はその男の妄想のように思うんですけどね」
「ああ、ひょっとしたらそうかも知れない。佳澄に問いただしてみると案の定、知らぬ存ぜぬでね。終いには泣きながら、信じてくれと懇願してた。オレが全く逆の期待をしていることも知らずにね」
「なんだかすごい話ですね」

”あなたのそれであたしを突き殺して!”か・・・。
 あまりポピュラリティーのない言い方だけに、それが却ってある種のリアリティーを感じさせる。物静かでいてどこか情熱的なものを感じさせる佳澄さんに似つかわしい言葉ではある。

「だから、本当のところはわからないんだ。肝心の男が、その手紙を受け取ってすぐ死んでしまったからね。確かめようにもその術がない。真実は佳澄の胸の奥底だよ。でもオレはきっと佳澄は抱かれたと思ってるんだ。あの”一度だけ抱いたことがあります”のくだりは、どうしても作り事とは思えないんだよ。それからというもの、もう一度あの切なさを味わいたい、それも今度は明確な形で佳澄がオレを裏切った事実を知りたい。そんな普通の人間からしたら異常としか思えないような願望を、密かに胸に抱き続けてきたんだ」
「いつもあれだけ仲のいいお二人なのに、まさか佐久間さんが佳澄さんに対してそんなことを考えていたとは・・・驚きです」
「けれど佳澄はいつまでたってもそんな私の願いを叶えてくれようとはしなかった。旦那のオレが言うのもなんだけど、あれだけの女だから結婚してても言い寄る男は星の数だ。きっといつかは怪しいことになるんじゃないかと期待してた。でもダメだった。探偵を使って素行調査をしてみたこともあったんだけど、結果は白。まさに品行方正、清廉潔白。佳澄の素行には一点の曇りもなかった。そしてついに痺れを切らしたオレは、奥の手を使うことにした。本当はナチュラルに妻に裏切られる夫の悲哀を味わいたかったんだけれど、この際しょうがない。そこで、インターネットで佳澄を寝取ってくれる男を、自分で捜すことにしたんだ」
「そこまでして・・・」
「ああ、もう何がなんでもって思ってたからね。しかしこれもうまくはいかなかった。どいつもこいつも口ばっかりで、佳澄へのアプローチはことごとく失敗に終わった。もう駄目かとほとんどあきらめかけてて、これが最後と依頼した男が今の男さ。これがまさにプロフェッショナルでね。見事に難攻不落の佳澄を口説き落としてくれたんだ。寝取ってくれたそのあと、待ち合わせた喫茶店でお土産だと言って、佳澄のはいてたホカホカのパンティをくれたこともあったよ」
「ええっ!パ、パンティを!?」
「ああ、自分がいつもベッドで脱がせているパンティを、他の男から手渡されるんだよ。これがどんな興奮かわかるかい?」
そう言った瞬間、佐久間氏の表情がこれまで見たこともないものに変貌した。瞳の奥になにやらどす黒い欲情の光が宿っている。
「男はテーブルの上でそのパンティを両手で拡げて見せるんだ。そしたら、あそこの部分に大きな透明のシミができててね。そのシミを指で撫でながら、佳澄の乱れっぷりをそれは詳しく説明してくれたよ。そりゃもう堪らない興奮だった。そのあと用を足すふりをして、そこのトイレでパンティに顔を埋めて自慰をしたよ」
「す、すごい・・・」
 佐久間氏の余りの明け透けな告白に、私は思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。
 それにしてもあの佳澄さんを口説き落とし、穿いていたパンティまでもせしめてこれる男。いったいどんな男なんだろうか。
「そして、その次には、セックスの最中の声を録音して送ってきてくれたよ。それがさっきのあれさ。男に弄ばれる佳澄の喜色の声を聞いたときときたら、余りの興奮に身も心も壊れてしまうんじゃないかと思ったほどさ」
 それはそうだろう。他人の私が聞いても躰が震えるほどの衝撃であった。あれがもし、加奈だったら。ああ、考えるだけでもおぞましい。しかし、なんとも理解しがたいことに、夫である佐久間氏がそれを依頼しているとは。

「そこでやっと本題に入るんだが。君に頼みたいことがあるんだ」
  1. 2014/10/29(水) 08:42:07|
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パーティー 第4回

「なんでしょう?」
 これまでの話の流れの中で、私の出る幕などがいったいどこにあるというのだろう。皆目見当がつかない。

「今度は隠し撮りをやろうかと思ってるんだ」
「か、隠し撮りですか!」
「ああ。男はそれもうまくやれるって言ってんだよ。で、頼みごとなんだけど」
「はい・・・」

「その内容を是非、記事にしてほしいんだよ」

「な、なんですって!?」

「『有名企業部長夫人・背徳の情事』みたいなヤツをさ。君んとこに『人妻実話』って雑誌あったじゃない。あれに載せたらどうかなって思うんだ。あの雑誌なら、女子供にゃバレないしさ。もちろん、顔はわからないようにしてほしいんだけど」
「ちょ、ちょっと待ってください。佐久間さん、本気なんですか?」
「ああ、こんなこと冗談で言えるかよ。本気さ、大本気。最後の最後に徹底的に佳澄を汚してみたいんだ。で、オレの願望はそこまでだ。そこで完結する。それで一生佳澄を愛していける」
「佐久間さん・・・」
「インターネットで妻のエロ写真公開するヤツは大勢いるけど、あんなんじゃ物足りない。ちゃんとしたプロのライターに記事を書いてもらいたいんだよ。非の打ち所がないと、いつも周りから羨望の眼差しで見られている自分の妻が、他の男に弄ばれて娼婦も驚愕の狂態をさらす。その姿を克明に描写してほしいんだ。映像のキャプチャーを箇所に散りばめてさ、もう読んでるだけで、股間がズキズキしそうな飛び切りエッチな記事をさ、作ってほしいんだよ。オレは、本当のエロスは映像よりも活字の中にこそあると思ってるんだ。自分の妻の密事が、一流のライターの手によってどういう風に描写されるのか、あそこのようすがどんな言葉で表現されるのか。考えただけで堪らなくなる。できたらあの雑誌で連載小説を書いてる久丸裕也あたりに書いてもらえるとうれしいなぁ」
 用意していた言葉なのだろうか、まるで立て板に水のごとく、佐久間氏は一気にまくしたてた。
「で、オレが手記を書くからさ、それも一緒に載せてほしいんだ。オレがどんなに妻を愛しているか。そしてこの異常な思いが、その愛情の深さゆえにこそ湧き上がるいかに純真なものであるか。オレの寝取られ賛歌を切々と書き綴ろうと思っているんだよ。どうだい?斉藤くん」
 瞳が血走っている。これほど興奮した佐久間氏を見るのは初めてのことだ。
「斉藤くん、こんなこときみにしか頼めないないんだよ。全然知らない出版社じゃなにかと不安だしさ。だから君にお願いしたんだ。だめかな?」
 すがるように佐久間氏が私を見つめている。私はそのあまりに熱い視線をさけるように首を窓の方にむけ、腕を組み、ソファの背もたれに躰を預けた。
「佐久間さん・・・、そりゃ、ビジネスとしては非常においしい話で、そんなネタは、のどから手が出るほどほしいんですけどね・・・。でも個人的には、やっぱり遠慮したいですねぇ。だって、相手が佳澄さんじゃ・・・」
「そこを何とか!お願いだよ。これで最後なんだ。これで、オレの妻物語は完結するんだよ。頼むよ斉藤くん!」

「どうしたのよぉ?二人でこそこそなんの話しぃ。早く降りてきてぇ」
 テラスから佳澄さんの声が聞こえてきた。
「おお、今行くよぉ」と佐久間氏が窓をあけ、佳澄さんに手を上げて応えた。
 この仲睦まじい夫婦にまさかこんな秘密が隠されていたとは・・・。これは本当に現実なのか。あまりの衝撃に眩暈がしそうだ。
 長年連れ添って、もはや性別さえはっきりしないような古女房ならば、くたびれたセックスのカンフル剤として、そうした思いに駆られることもあるかもしれない。だが、相手はあの佳澄さんなのである。佐久間氏にとって、彼女はいわば掌中の玉とも言える自慢の妻なのだ。その妻を他の男に抱かせ、それを雑誌の記事にするなどという理不尽な思いがどうして湧き上がってくるのだろうか。佐久間氏の理屈からすれば、その非の付け所のないほどの良妻がゆえに生じる思いということになろうが、私など正常な人間には到底理解の及ばぬことだ。

「なあ、斉藤くん頼むよ。このとおりだ」
「う~ん・・・」
「ダメかい?」
 ビジネスとしてはこれ以上のうまい話はないし、知人の妻の情事を、しかも長年憧れ続けていている佳澄さんのあられもない姿を盗み見ることができるという夢のような話を、断る理由など見当たらないはずなのに、何故か私はこの佐久間氏の依頼を素直に承諾することが出来ないでいた。どうしてかはわからない。ただ無性に何かよからぬことが起こるのではないかという胸騒ぎのようなものを感じるのだ。

「どうだい?斉藤くん?やっぱりダメかい?」
「いえ・・・」と私は小さく首を横に振った。
「えっ?」
「わかりました」
「そ、それじゃ!?」と佐久間氏の目が輝いた。
「私が断ったら、佐久間さんほかあたっちゃうんでしょ」
「ま、そうかなあ・・・」
「どのみち記事になっちゃうんなら、うちがやりますよ。一度会社で話してみます。ただ、久丸裕也はちょっと難しいですけどね、アハハッ」
「ほんとかい!やったぁ!是非頼むよ!いやぁ、思い切って話してよかったよ。ひょっとしたらまるで変態扱いされて、蔑まされちまうんじゃないかって、内心冷や冷やしてたんだけどさぁ。いやぁほんとによかった!アハハハッ」
と佐久間氏が満面の笑顔で握手を求めてきた。
 別に蔑むわけではないが、はっきり言ってそれに近い感情はある。いくら純粋な愛だの、崇高な信頼関係などと講釈を並べてみても、われわれ一般の人間からみれば、自分の女房を他の男に抱かせるなど言語道断、とても理解できるものではない。ましてや、それを記事にして雑誌に掲載させるなどは、キチガイ沙汰もいいところである。
 妻に裏切られたい。妻を寝取られたい。普通の人間にはまるっきり苦痛でしかないものが、あるものにとってはこの上ない快楽となりうる。人間の性の欲望の何たる摩訶不思議なことか。

「決行日は来月の初め頃になると思う。一週間ばかり中国に出張に行くことになっててね。その間のどこかで、男と佳澄はここで、一夜を過ごすことになるんだ」
「ここって!?この家でですか!?」
「ああそうだ」
「いくらなんでも愛人を自宅に入れて一夜をともにするなんて、奥さんそんな大胆なことを承知しますかね」
「それがもう、手筈は整っているんだよ。男からは、佳澄がそれを承知したと聞いている」
「まさか・・・」
「そこまで佳澄は調教されてしまっているということだよ」
「いいんですか、自分の妻がほんとにそんなことにまでなって」
「ああ、極めて愉快、とても喜ばしいことだよ。それに私が望む盗撮はこの家でしかできないんだよ」
「この家でしか・・・。え、それはどういう?」
 佐久間氏は再びパソコンを操作し始めた。
「これは・・・!?」
 なんとパソコンに階下のリビングルームが映し出されている。今丁度、食器を載せたトレイを手にした佳澄さんが画面の端を横切っていった。
「隠し撮りの映像だよ」
「まさか・・・」
「ズームイン、ブームアウトも思いのまま。こうして多少首を振ることもできる。どうだい、すごいだろ」
「まったく・・・。いや、もうなんて言ったらいいのか・・・。言葉がありません」
 隠し撮りというからコンビニの防犯映像のようなものを想像していたのだが、この映像はまるでそんなレベルではなく、ほとんど最新の家庭用ホームビデオに匹敵するものであった。もちろんモノクロでなくカラー映像だ。
「うちを建てた理由のひとつがこれでね。いつか必ずこんなチャンスが来ると信じてたからね。リビングに五台、寝室に六台、隠しカメラが壁に埋め込んである」
「信じられません・・・。でも、こんなことして奥さんにはバレないんですか」
「あいつ、電気ものにはからっきし弱くてね。ビデオの予約もできなければ、電球のひとつも替えられないんだ。新しい警備機器だって説明したら、まったく疑ってなかったよ」
まるで何か超常的なものに取憑かれたように邪な笑みを浮かべ、佐久間氏が言った。勝気で男気のあるいつもの氏とのあまりの様子の違いに、何やら薄気味の悪いものを感じる私であった。
「取れた映像はオレが編集してDVDに焼いて提供させてもらうよ。さすがに見られたくない場面もあるかもしれないからね。それでいいかい?」
「わかりました。楽しみにしてます」

 こうして私は、自分の女房を他人に抱かせ、それを盗み撮りした映像を記事にするという世にも奇妙な依頼を承諾することになった。しかし、それがまさかあんなとんでもない結果になろうこととは、このときはもちろん知る由もなかった。
  1. 2014/10/29(水) 08:43:10|
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パーティー 第5回

 帰り道、延々と続く加奈のおしゃべりに適当に相槌をうちながらも、心の中は、まるで白日夢のような書斎での佐久間氏とのやり取りで埋め尽くされていた。
『吸って!ああん!吸って!藤木くん!そこっ・・・あっ吸ってぇ~~!』
 あの声は紛れもなく佳澄さんの声である。あまりにも仰天すぎる出来事に、ひょっとして夫婦二人して私にいたずらをしているのだろうかと思ったりもするのだが、よくよく考えてみれば、そもそもそんな下品ないたずらにあの佳澄さんが加担するはずがないし、単純ないたずらにしては、あまりにも話が込み入り過ぎている。やはりあれは、本当の話なのだ。

「・・・・ぐらいには帰れると思うから。ねえ、行っていいい?」
「えっ?何の話だったっけ?」
「やだぁ、聞いてなかったのぉ!もうどうしちゃったのよぉ!さっきからボーとしちゃって」
「そ、そうかい?別になんでもないよ。ちょっと疲れただけ。ごめん何の話だったっけ?」
「同窓会よ。来月。行っていいかな。二次会があるみたいだからちょっと遅くなると思うけど」
「ああ全然、かまわないよ」
「ほんとどうしちゃったの?久しぶりに見た佳澄さんにそんなにのぼせちゃってるわけ?」
「違うよ。一日陽にあたってたからね。ガーデンパティーは疲れるな」と首をぐるぐると回してみせた。
 往きの混雑がウソのように帰りの高速道路は空いていて、車は気持ちいいようにスイスイと流れていた。後席では子供達が寝息をたてている。

「ねぇどうだった?すごいでしょあのお宅」
 加奈の言葉に、「ああ、そうだな」と気のない返事をした。豪邸のことなどすっかり頭にはない。
”吸って”
 頭の中を佳澄さんの声だけがぐるぐると駆け巡っていた。
「でもちょっとやりすぎよねぇ。私ならあの三分の一でいいわ。一階は大きなリビング・ダイニングにしてほかに部屋は作らないの。2階には寝室と勇樹と直樹の部屋と、あと大きなクローゼットがほしいなぁ。あ、ごめんパパの書斎を忘れてた。あ~あ、やっぱりもうちょっと頑張って戸建買えばよかっ・・・ちょ、ちょっとなによ」
 加奈がびっくりした表情で、私の顔を見つめている。夢中で話をしている加奈の手を突然に私が握り締めたからだ。
「なあ、今日は久しぶりにどうだい?」
 他人の妻に欲情し、そのはけ口を自分の妻に求めるなどいささか罪悪感を感じるが、今夜はこのままでは眠れそうもない。なんとしてでもこのじんじんと火照りきったイチモツを鎮めたかった。ところが、
「何言ってるの、疲れてるんでしょ。あたしもなんかくたびれちゃった。また今度ね」と軽くあしらわれてしまった。
 最近はいつもこうだ。誘ってOKが出る確率は三回に一回あるかないか、確実にイチローの打率を下回る。しかも、もともと私が誘う回数が少ないものだから、二人が肌を合わせる機会は最近ではひと月に一度あるかないか、ひどい時には二、三ヶ月もご無沙汰ということが少なくない。
 三十代の健全な夫婦としてこれは由々しき問題で、なんとかしなければこのままでは世に言う”セックスレス夫婦”と化してしまうと、少なからず危機感を募らせているのだが、こればかりは如何ともし難い。なにしろ、ひと月に一度というペースは、鮮度を保持するギリギリのラインで、これ以上間隔が狭まれば、なんとも盛り上がりに欠ける退屈な交わりになってしまうことこの上なく、愛情を確認し合うどころか、逆に、その愛情がこれほどまでにくたびれたものになってしまっているのかと、どうにもやるせない気持ちになってしまうのである。

”安定は情熱を枯らす”

 夫婦の関係が円満であればあるほどに、互いに相手を性の対象とは思えなくなってくる。これはもう結婚という契約形態を採る上でのひとつの宿命のようなものと言っていいかもしれない。
 そもそも結婚生活とは、情熱などとは別の、穏やかで優しい感情によって満たされるものであるから、まるで伸びをするがごとき、はたまた就寝前のストレッチ体操がごときの退屈なセックスこそ、円満な夫婦の正しい性生活のあり方で、これを文字通り退屈と敬遠してしまったら、あとはもうセックスレスの道を歩むほかないのである。
”セックスは家庭には持ち込まない”などとうそぶく輩がいるが、そのように考えると、ちゃらけた言葉のようでいて、実はこれこそが、真理をついた言葉なのだと思えてくる。身悶えるほどの興奮を味わいたければ、家庭外でのセックスに耽るほかはないということだ。
”円満な結婚生活にめくりめく性の喜びなどは存在しない”
 残念ながらこれが真実のようだ。

 しかしながら、あくまでこれを追求しようとするもの達がいる。それがさっきインターネットで見た妻物語を実践するもの達なのである。
”自分の妻を他人に寝取らせる・・・”
 その禁断の扉の向こうには、愛する妻とのめくりめく享楽の世界が待ち受けているのか。
 佐久間氏の話を聞いている間中、どこか憐れみと蔑みの感情を拭いきれずにいた私であったが、こうして考えていくと、彼らこそは純粋なる性の探求者であり、少なくとも流れのままにセックスレスと化すもの達に比べれば、ずっと健全であると言えなくもない。
 他人に妻を寝取らせるなどはあまりにも行き過ぎた行為であるとしても、現状の退屈な夫婦生活に少々のスパイスを振り掛ける程度の刺激をもたらすことはできないものか・・・。

 下半身に熱い充血感を感じつつ、そんな取り留めのないことを考えながら帰路のハンドルを握る私であった。
  1. 2014/10/29(水) 08:44:14|
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パーティー 第6回

 次の日、雑誌『人妻実話』の編集長に、くだんの話を持ちかけたところ、それは渡りに船だと大乗り気であった。というのも、次々号の巻頭を飾るはずだった記事が突然のトラブルでボツになり、ちょうど新しい企画をさがしていたところだったのだという。
「期待してるよ!斉藤くん」
「わかりました。まかせといてください」

 その旨を佐久間氏に伝えると、
「そうかい!それはよかった!ひょっとしたら断られるかなって不安だったんだけど!そうかい、載せてくれるかい!」
と、まるでお祭り騒ぎのような喜びようであった。
「はい、編集長に佳澄さんの写真を見せたら、へぇこんな美人がねぇってびっくりしてました。顔を見せられないのがおしいって」
「そうかぁ!いやぁよかった。ああ、そうだ、そうだ。これは君んとこの予算もあるから勝手なことは言えないんだけど、抽選で何名かにDVDをプレゼントするってのはどうかなぁなんて思うんだけど」
「DVDって、奥さんの映像を公開するってことですか!?」
「ああ、そうさ。世の人妻フェチ連中にうちの佳澄のあられもない姿を見てもらうんだよ」

 どこまでエスカレートすれば気が済むのか。いくら顔を判らなくするとはいえ、自分の妻の裸の映像を、しかも他人相手に身悶えている映像を、不特定多数の人間にばらまくなど、被虐嗜好もここまでくれば病的である。
 インターネットで、そうした夫婦のエロサイトを時折見かけることがあるが、あれはあくまで双方合意のもとでの行為であって、佐久間氏の行為とは根本的に別のものだ。昨日から私なりに寝取られ亭主なるものの正当性を考えてきたが、やはりそれはあくまで二人で楽しむプレイでのみ認められるもので、妻を陥れ、自分のみが快楽の湯殿に浸るという行為には、どう考えても正当性は見出せない。

「そこまでやって、本当にいいんですか?」
「ああ、是非やってほしいんだよ。考えといてくれないかな」
「わかりました。伝えておきます」
「それじゃ、相手の男には期待に応えるようせいぜい頑張ってくれと言っとくよ」
「はい、お願いします。それから佐久間さん、念のために言っておきますが、こうなった以上もう後戻りはできませんよ。できあがった映像を見てやっぱり見せたくないなんてなしですよ。いいですか?」
「ああ、もちろんさ。オレが依頼したんだ。まさかそんなことするわけないよ」
「わかりました。じゃ、来月楽しみにしてます」


「加奈、まだ起きてる?」
「なあに?」
 時計の針は午前零時をまわっている。私と加奈の間で、勇樹と直樹がスースーと寝息をたてていた。私達は時折こうして、無邪気に眠る子供達を挟んで静かにピロートークを楽しむことがある。
「おまえさ」
「うん」
「浮気したいとか思ったことある?」
 言いながら私は躰を横にし、ひじ枕の姿勢になった。
「どうしたの突然?」
 閉じていた瞳をあけ、加奈が天井を向いたまま言った。
「いや、ちょっと聞いてみたいだけさ」

 通勤電車の週刊誌のツリ広告には毎号のように”人妻不倫”の文字が躍り、インターネットでは人妻系のエロサイトが乱立するなど、人妻の乱れた性がとかく話題の近頃であるが、大抵の亭主たちは、”うちの女房に限って”と、凡そ自分ごととは思ってはいない。
 かく言う私もその一人で、そうした記事を送る側の人間でありながら、妻の不倫などという事態が自分の身に降りかかるなど、ゆめゆめ思いもしていない。
 しかし、これは決して対岸の火事ではないのだということを認識しなければならない。
”これがまさにプロフェッショナルでね。見事に難攻不落の佳澄を口説き落としてくれたんだ。”
 あの佳澄さんが口説き落とされたのだ。手練手管の男にかかれば、普通の主婦などは簡単に落されてしまう。うちの加奈も例外ではないはずだ。
 だがそれでもなお、加奈だけはと妻を信じきっている自分がいる。しっかりものの加奈に限って、そんなやすやすと落されるはずはないと。浮気や不倫などはまるで眼中にはないはずだと。だからきっと今の私の質問にも”ないよそんなの、なんだかめんどくさいもの”とか、”そんなパワー、もうどっか行っちゃったわ”などといった、しっかりものの主婦としての模範的な答えを返してくるものと思っていた。
 ところが・・・
「う~ん」としばらく考え込んだあと、

「ないって言ったらウソかなぁ」

と、加奈は予想外の言葉を吐いた。
「へぇーそうなんだ?」
 私は、思わず手のひらに乗せていた頭を持ち上げ、寝ている加奈の顔を覗き込んだ。
「うん、若いカッコいい男の子とか見たら、私もまだイケるかなぁなんて思っちゃうもの」
「イケるって、ナンパの対象になるかってこと?」
「うん、そうそう」
”そうか、子供が二人もできた今でも、そんなこと思っているんだ・・・”
思えば近頃加奈とは、子供の学校や幼稚園の話か、マンションの住人の噂程度の話しかしていなかった。男だ、女だの話はもうどれくらいぶりになるだろう。

「最近ナンパとかされることあるの?」
「あるよ。たまーにだけど」
「へぇー、あるの!?そんなことなにも言ってなかったじゃん!」
「別にいちいち報告するほどのことでもないじゃない。でもイマイチなのばっかりなの。おまえが言うな!って感じのばっか」
「でも、子供が二人もいる三十過ぎの主婦って考えりゃ、ナンパされるだけでもすごいことじゃない。大したもんだ」
「なんかいやな言い方ねぇ。それってバカにしてる?」
「違う、違う。夫として誇らしいと思ってんの」
「あーあ、昔はもっとカッコいい男の子が声かけてくれてたのになぁ。あの頃の体型に戻れたらなぁ」
”あの頃の体型か・・・”

 付き合い始めたころの加奈は、私の自慢であった。顔の造作もさることながら、なによりスタイルが抜群だった。165cmの長身で細身の躰に大きく形のいい胸、くびれた腰に張りのあるお尻、美しい正中線を浮かび上がらせる贅肉のとれた背中。夏になると海へプールへとくり出して、私はまるで新品のスポーツカーを自慢するような誇らしい気持ちで、加奈のボディを人目に晒していたことを思い出す。あれから10年以上の時が経ち、二度の出産を経験して、さすがに張り艶こそ失ってしまったものの、加奈のボディラインは今でも女として充分”現役”のレベルである。夫の贔屓目ながら、スタイルの良さだけなら佳澄さんにも負けてはいないと思う。にも関わらず、そうした私の加奈への思いはすっかり退化してしまった。最近ではほとんど加奈の女の部分を意識しなくなってしまい、こうして今だにナンパされている事実にも驚くような有様である。考えてみれば、加奈の容姿ならば今でもナンパの一声、二声は当然であるはずなのに。

「ということは、そんなカッコいいヤツに誘われたら、ついていっちゃうってことか?」
「ひょっとしたらそうかも・・・」
「おいおい、ほんとかよ」
「わかんないよそんなの、その時になってみないと」
「その時になってって・・・、おまえ、意外と貞操観念ないんだなぁ」
「テイソウカンネン?なんだかおじさんくさい。久しぶりに聞いたわ、そんな言葉」

「ひょっとして、もうやっちゃってたりして」

 何気なく言った言葉だった。
 しかしその言葉に、加奈が意外な反応を見せた。
「フフッ・・・」と意味深な笑いを見せて、初めて首をこちらに向ける。
「何だよ?その笑いは?」

「怒らない?」
  1. 2014/10/29(水) 08:45:14|
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パーティー 第7回

「な、なにがだよ!?」

「実はね・・・一回だけ・・・」
 と加奈が片目を閉じ、鼻の上で人差し指を一本、まっすぐに立てた。

「ええっ!」
 と私は、布団から飛び起きた。
「ま、まじかよぉ!」
「うん」と加奈が屈託なく答えた。
「い、いつだよ、それっ!」
「直樹が生まれる前のことだからもう五年以上も前のことになるかな。デパートで買い物しててナンパされたの。それで」
 まさか、加奈が浮気!?そんな・・・
「やったのか・・・」
 恐る恐るの私の問いに、加奈が小さく頷いた。
「おい加奈、おまえっ!」
「怒った?だってもう昔の話じゃない。時効でしょ」
 そんな問題ではない。妻の浮気に時効などはあるもんか!
”加奈が他の男に抱かれた・・・”

 私達が付き合い始めたのは加奈が18のときだった。処女だった。以来その躰は、私以外の誰にも触れられることはない私だけの聖域であると思っていた。永遠にそうだと思い込んでいた。しかしそうではなかった---。
 その大きな白い乳房を鷲掴みにする手があった・・・。薄めの陰毛に覆われた芳しき秘部に吸い付いた唇があった・・・。 私は加奈の唯一の男ではなかった---。
”なんだ・・・?!”
 このときだった。私は自分の心と躰の異変に気づき、愕然とした。
 興奮?
 そうだ、加奈の浮気の話を聞いて私は今、興奮しているのだ。

 布団の上に胡坐をかき、加奈の顔を睨みつけた。加奈は布団を目の下の位置までに持ち上げて、不安な瞳で私を見つめている。あまりの私の反応の大きさに、言うんじゃなかったと後悔しているのか・・・。
 長い沈黙が流れる---。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」心臓が高鳴る・・・。呼吸が乱れている・・・。
 こんなとき、亭主はどんな言葉を吐けばいいのだろうか・・・。怒鳴り散らせばいいのだろうか。それとも冷静に諭せばいいのだろうか・・・。懸命に次の言葉を捜していたそのときだった。突然、加奈が吹き出した。
「プーッ、冗談よ、冗談!何よそんな怖い顔してぇ。あり得ないわよそんなこと」
「はぁ、はぁ、はぁ、へぇ・・・」
 う、うそ・・・。
「あなた、私がそんなに軽い女だと思ってるわけぇ!だいいち今まで子育てに精一杯で、とてもそんな気持ちにはなれなかったわよ。どうしたの?そんなに本気になるとは思わなかったわ」
 あまりの安堵に躰の力がヘナヘナと抜けていく。
「おい、びっくりさせんなよぉ!心臓が止まるかって思ったよ」
「おげさよぉ。いつもはそんなウソにはまるで乗ってこないのに、今日はどうしちゃったの?」

 思えば、他愛もないウソである。どうしてあんなウソに本気に反応してしまったのだろう。佐久間氏の一件以降、どうも調子がおかしい。これはすっかり氏の毒気にあてられてしまったらしい。
 それにしてもなんなんだ今の感覚は・・・?!全身が総毛立ち、頭の芯がジーンと痺れたようになった。口の奥に粘り気のある唾液が分泌されている。何故だ?何故こんなことに・・・。
 今私は紛れもなく、加奈のウソの告白を聞いて、極度の性的な興奮状態に陥った。これは、いったい・・・。

”妻物語・・・”

『生まれてこのかた、あれほどの衝撃を受けたのは初めてだった』
『裏切られることがこれほど甘美なものであったとは・・・』
『まさか自分にこれほどMの素養が潜んでいたとは・・・。本当に信じられない思いだった』
 書斎での佐久間氏の言葉が甦る。
 まさか、私にそんな素養が・・・?!
 どうしたことか・・・今までそんなことは考えたこともなかったのに・・・。

「でも、そんなにびっくりしてくれてなんだかうれしい。あんな告白をしても、ひょっとしたらあっそうで終わっちゃうかなって思ってたわ。最近私にはほとんど関心ないみたいだし。ウソついてみてよかった。やっぱり愛されてるんだよね、私」
「加奈」
 私は堪らず寝ている勇樹と直樹を跨ぎ、加奈の上に覆いかぶさった。
「ちょ、ちょっとなに!子供達起きちゃうじゃない!ダメよ、あ、あん・・・」
 私の小さな小さな”妻物語”であった。

”やっぱり加奈はオレのものだ・・・オレひとりのものだ・・・”
 そう心の中で何度も叫びながら、ひさしぶりに情熱的に妻を抱いた夜であった。
  1. 2014/10/29(水) 08:46:15|
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パーティー 第8回

 これから出張に出かけると、佐久間氏から電話が入ったのは6月の初め、梅雨空の広がる午後のことだった。
「そうですか!ということは、いよいよということですね!」
「ああ、おそらくこの週末あたりが決行日になるんじゃないかと思う」
「うわあ、なんだかドキドキしますね」
「帰国したら、すぐに映像をチェックして、なるべく早く提供できるようにするよ」
「お願いします」
「まぁ、楽しみに待っていてくれよ」
「ええ、わかりました。出張気をつけて行って来て下さい」
「ありがとう、それじゃ」

 話を持ちかけられた時は、なにか得体の知れない胸騒ぎを感じて、これほどおいしい話にも関わらず不思議に気乗りのしなかった私であったが、穴の空いた「人妻実話」の巻頭を、なんとしてでもとびきりの記事で穴埋めしたいという会社人としての野心と責任感、それにやはり、長年憧れ続けた佳澄さんの裸体を拝めるというスケベ心が、いつのまにかそんな思いをどこかへ消し去ってしまった。一刻も早く映像を手に入れたいとの思いが日に日に膨らんでいき、佐久間氏からの連絡を一日千秋の思いで待ち続けた。ところが・・・。
 それから半月が経ち、六月の半ばを過ぎても、佐久間氏からは何の連絡もなかった。こちらから携帯に電話を入れても捕まらず、コールバックもない。
”どうしてしまったのだろう”
 出張が長引いているのだろうか。それとも盗撮が失敗に終わってしまったのだろうか。どちらにしても、それならそれで連絡があるはずだ。なにも言ってこないのはおかしい。でなければ、撮影された映像を見て、あまりの衝撃に恐れをなしてしまったのだろうか・・・。いや、あれほど寝取られの道に心酔している佐久間氏のことだ、内容が過激であればあるほどによしとするに違いない。映像を見て恐れをなしたとは考えにくい。
 本当にどうしてしまったのだろう・・・。
 記事の締め切りは迫ってきている。遅くとも今週中には映像を入手して編集部に提出しなければならない。私は徐々に焦りを感じ始めていた。ことがことだけに、当の佳澄さんがいる自宅に連絡をするのは躊躇われたのだが、そうも言ってられない状況になってしまった。

「はい、佐久間ですぅ」
「こんばんは、斉藤です」
 夜、会社から佐久間氏の自宅に電話を入れた。できれば佐久間氏が直接取ってくれればと思っていたのだが、案の定佳澄さんが出た。
「あら、こんばんは。この前はどうもぉ」
 返す返すも、艶のある美しい声である。
”吸って!藤木くん!そこっ・・・あっ吸ってぇ~~!”
 ひと月が経ち、幾分薄れていたあの生々しさが、またにわかに甦ってくる。
「こちらこそ、どうもご馳走さまでした。勇樹も直樹も大喜びで、あれから毎週のように今日は瑞希ちゃんちに行こうってうるさいんですよ」
「アハハッそうなんですか。それはうれしいなぁ。またどうぞ遊びに来て下さい。うちはいつでもOKですよ」
 ああ、もうすぐだ・・・。もうすぐこの美しい声で淫らに鳴き狂う姿をたっぷりと拝めるのだ。なんという興奮!なんという至福!。そう思うと、こうして普通に会話しているだけで、局所が逞しくなってくる。

「主人ですか?」
「あ、は、はい。すみません」
 しばらく軽妙な保留の音楽が流れたあと、
「おまたせ」
 と佐久間氏が電話に出た。しかし、その声は暗く重々しかった。

「もしもし、すみません自宅に電話なんかしちゃって。今話せますか?」
「ああ・・・いいよ。書斎にひとりだから」
「どうしちゃってたんですか佐久間さん、何度も携帯に電話入れてたんですけど・・・」
「ああ、ごめん。ちょっと忙しかったもんだから」
 沈んだ声で佐久間氏が言った。
「そうでしたか」
 約束の期日は過ぎてしまっているのだ。それならそれで、電話の一本でも寄こしてくれればいいのに・・・。
 愚痴りたい気持ちを抑え、
「で、早速なんですけど、例の件どうなりました?」
 と、単刀直入に切り出した。

「ああ・・・」と佐久間氏は、気の抜けた声を出した。
 どうしてしまったのか、一ヶ月前の元気はどこへ行ってしまったのか。
「隠し撮り、うまくいったんですか!?」
「い、いやそれがそのぉ・・・」
「どうしたんですか?まさか、ダメだったんですか?」
「そういうわけじゃ・・・」
「じゃ、うまくいったんですね!?」
「斉藤くん、それがね・・・」
「はい」
「あのさ・・・」
「はい、なんでしょう?」
「あの件なんだけど・・・」
  1. 2014/10/29(水) 08:47:18|
  2. パーティー・ミチル
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パーティー 第9回

 ひどく言い澱んでいる。どうしたのか?まさかこの期に及んで、やめるなどと!?。いや、それが許されないことは佐久間氏も重々承知している筈だ。
 しかし次の瞬間、受話器からそのまさかの言葉が聞こえてきた。

「なかったことにしてくれないかな・・・」

「えっ!そ、そんな今さら・・・」
「ゴメン・・・」
「ダメですよ!『人妻実話』はもう佳澄さんの線で進めちゃってるんですから。今さらダメになったなんて言えないですよ」
「ほんとにすまん・・・」
「すまんて、だからあの時言ったじゃないですか、もう後戻りは出来ないって。佐久間さん私が念を押したとき、”オレが依頼したんだ。まさかそんなことするわけないよ”って言いましたよね! 私の立場も考えてくださいよ。編集長になんて言えばいいんですか!佐久間さんが提案してくれたDVDの手筈も整っているんですよ。どうすればいいんですか!」

 何を言い出すのか!
 この件はもう遊びではない。今や立派なビジネスに発展してしまったのだ。今さら駄目だと言われてても、はいそうですかと簡単に引き下がるわけにはいかない。なんとしてでも佳澄さんの映像を頂戴しなければならない。
 私のいつにない烈しい口調に、佐久間氏は黙りこんでしまった。
 長い沈黙が続く---。受話器の奥に氏の困惑の気配が広がっている。

「何がまずいんですか?」
「いや、それが・・・」
「隠し撮りはできたんですよね?」
「ああ、それは・・・」
 まるで要領を得ない。
「とにかく撮れた映像を一度見せていただけませんか?佐久間さんがイヤな部分はもちろん記事にしませんし、極力マイルドなものにするよう配慮します。とにかく一度、見せてください!お願いします!」
「い、いや・・・それがその・・・」
 私の懸命の説得にも、佐久間氏の口からは煮え切らない言葉が出るのみで、てんで話が前に進まない。何があったのか、どうしてダメなのか、理由さえも話そうとはしない。
 これはだめだ、これでは埒が明かないと判断した私は仕方なく、
「佐久間さん、これは契約違反ですよ。うちとしてはどんなことがあっても映像をいただかないわけにはいかないんです。あす会社の近くまで伺いますので、約束のDVD、用意しておいてください。イヤな部分は全部カットしておいていただいて結構です。とにかく映像をください。どうかよろしくお願いします」と、強硬手段に打って出た。

 あくる日私は、佐久間氏の会社まで出向き、近所の喫茶店で氏と一ヶ月ぶりに対面をした。露骨にバツの悪そうな顔を浮かべた佐久間氏は、私と視線を合わせようともしない。氏のこんな弱気な顔を見るのは初めてのことだ。

「斉藤君。オレはとても後悔してる。どうして撮れた映像を先に確認してから君に依頼をしなかったのかって。なぜあんなに先走ってしまったのかって・・・」
 と、席につくなり開口一番佐久間氏は言い、深々と頭を垂れた。
「ちょ、ちょっと佐久間さん、いったいどうしちゃったんです?」
「まさか、あんなとんでもないことになるなんて・・・」
 と俯きながら、佐久間氏が呟くように言った。
「佐久間さん、とんでもないことってどんなことなんですか?」
 とんでもないこと・・・。この佐久間氏の許容範囲を超えるほどの過激な映像とはいったいどんなものなのか?
 緊縛、SM、露出、放尿、浣腸、スカトロジー・・・
 アブノーマルな言葉が次々と浮かんでは消えていく・・・

「隠し撮りの内容なんだが・・・」
 と、佐久間氏がついに重い口を開き始めた。
  1. 2014/10/29(水) 08:48:09|
  2. パーティー・ミチル
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パーティー 第10回

「隠し撮りの内容なんだが・・・」
「はい」
「普通じゃないんだ」
「えっ、それはどういう?」
 普通じゃない?!んん!これはやはりアブノーマルなものなのか!
 スカトロなどあんまり過激なものは困りものだが、近頃の読者の傾向から言ってアブなものは大歓迎だ。いったいどんな内容なのか。高まる期待に、私は知らずテーブルの上に身を乗り出していた。

「二人じゃないんだ」
「えっ?」
「二人じゃないんだ。映っていたのが・・・」
「そ、それって・・・、えーっ!まさか3Pですか?!」
「いや、そうじゃないよ」
「えっ?」
「四人いるんだ」
「よ、四人!ええっー!4Pですかぁ!そりゃ大変じゃないですか!佳澄さん、そんなところまで調教されちゃってるんですか!そうか、そういうことだったんですね。いくら望んだこととはいえ、三人の男によってたかってやられゃったとなると、それはかなりショックですよねぇ」
 なるほど、どおりで提供を渋るはずだ。いやいや、それにしてもこれは期待以上の出来じゃないか!。いくらアブ系を好む読者が多くなってきたとはいえ、どちらかというとソフト路線の人妻実話の性格からすればSMはちょっと方向性が違う。アブ系なら複数プレイがベストな選択だ。こりゃ極上の記事になりそうだ。編集長の喜ぶ顔が目に浮かぶ。これはもうどんなことがあっても映像を手に入れなければならない。
 あまりにも好都合な事の結果ゆえ、どうにも興奮を抑えきれない私を尻目に、相変わらず佐久間氏は浮かない表情を浮かべたままだ。

「違う違う、そうじゃないんだ・・・」
「えっ?違うんですか?」
「一人は女性なんだ」
「あ、そういうことですか。じゃあ乱交パーティーってことですね。そっちの方へ行っちゃいましたか。それも面白いじゃ・・・あ、すみません、勝手なこと言っちゃいました。で、そのもう一人の女性は誰なんです?」
 私の言葉に佐久間氏は俯き、二度三度と首を大きく横に振りながら「信じられない・・・どうして彼女が・・・」とかすれた声で言った。
「それが・・・」
 そう言って顔をあげ、私を見つめたあと、すぐにまた俯いてしまう。
「どうしたんです?誰なんですか、その女性?」
「驚かないで聞いてくれよ・・・」
 俯いたまま、上目遣いに私を見て、佐久間氏が言った。
「え、ええ」
 驚く?私が?誰だろう?だれが映っていたのだろう?
「実は・・・」
 そう小さく呟いたあと、佐久間氏の口から予想もしない人間の名前が飛び出した。


「加奈さん・・・なんだ・・・」

「えっ?」

「もうひとりの女性は、君の奥さん・・・加奈さんなんだ・・・」
  1. 2014/10/29(水) 08:49:22|
  2. パーティー・ミチル
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パーティー 第11回

 何を言い出すのかこの男は・・・。
 どうしてうちの加奈の名前がこんなところに登場するのか?
 こっちは何としてでも締め切りに間に合わせようと、必死の思いでこうして出向いて来ているのだ。ここでそんなつまらない冗談を言うようなくだらない人間だったのかこの男は!氏のあまりの非常識さに烈しい憤りを感じる私であった。
「佐久間さん、冗談はやめてくださいよ」
 と私は佐久間氏を睨みつけ、蔑むような口調で言った。
「違うんだ・・・冗談なんかじゃない・・・ほんとなんだよ」
 まだ言うのか!いい加減にしてくれ!
「加奈がそんなところにいるはずないじゃないですか!佐久間さん、本当にもう冗談はやめてください!私は今日、仕事で来てるんですよ。目的はただひとつ、佳澄さんの不倫現場の映像を収めたDVDをいただいて帰る。それだけなんですよ。お願いします。映像をください!」
「だから、そこにぃ!その映像にぃ!加奈さんが映ってるって言ってるんだよ!」
 これまで大人しかった佐久間氏が突然大声を張り上げ、ドンとばかりに両手をテーブルに叩きつけた。
「さ、佐久間さん・・・」

 まさか・・・!?

 冗談ではない・・・!? まさか・・・! うちの加奈が・・・!?

「ハプニングなんだ!オレも送られてきた映像を見てびっくりしたんだ。まさか加奈さんが・・・」
「本当なんですか!?本当に、ほんとなんですか!?」
 立ち上がり、今にも掴み掛からんばかりの剣幕で佐久間氏に詰めより言った。私の言葉に氏の首がうな垂れるようにカクリと前に折れた。何ごとかと、周囲にいる数組の客が、私たちに興味深げなまなざしを向けている。
「ほんとに、冗談はなしですよ佐久間さん!ここで冗談だなんて言ったら、オレあんた殴りますよ!」
「ほんとだよ、斉藤君。信じられないことだが・・・本当のことなんだ・・・」
 あり得ない!そんなことは断じてあり得ない!
「な、なんでそんなところに加奈が・・・あっ!まさか、佐久間さんが画策したんじゃないでしょうね!」
「じょ、冗談じゃない!何でオレがそんなことをする必要があるんだ。佳澄だよ。カッコいい男が来るから、うちに遊びこないかと誘ったらしいんだ。そしたら・・・」
「そ、そんな・・・」
”若いカッコいい男の子とか見たら、私もまだイケるかなぁなんて思っちゃうもの”
寝間で加奈が言ったあの言葉。
あれは単なるじゃれ事だと思っていた。まさか加奈が本気でそんなことを・・・!?

「で、加奈は、加奈はどうなってるんですぅ!?まさか・・・」
「・・・」
 俯いたまま、佐久間氏が返事をしない。
 無言の肯定・・・。
 まさか、加奈が他の男にやられているぅ!!?
「佐久間さん!」
「斉藤君、それは、自分で確かめてみてくれないか。私の口からは言えないよ」
 そう言って、佐久間氏は鞄をあけ、中から一枚のDVDを取り出した。
「ほら、君が欲しがってたDVDだよ。ここにすべてが記録されている。ウソだと思うなら、その目で確かめてくれ」

 私は呆然と立ち尽くしたまま、テーブルに置かれたDVDを見つめた。
”この中に加奈が・・・、私の知らない加奈が・・・”
 躰の力が抜けていく・・・。膝に力が入らない・・・。
 ヘナヘナと崩れるように椅子に腰をおろした。

「これは絶対君には知られてはいけない。絶対私の胸の中に閉じ込めていなくてはいけない。そう思って君に連絡できないでいたんだ。でもどうしても君が映像を渡せというものだから・・・」
 何も考えられない・・・何も見えない・・・聞こえない・・・。加奈が・・・妻が・・・私を裏切った・・・。

「斉藤くん、加奈さんは決して無理やりその・・・なにされたわけじゃないんだよ・・・。別に彼らはレイプ紛いのことをしでかしたわけじゃないんだ。むしろ・・・」
「も、もういいです!もう何も聞きたくないです!失礼します!」
 と私はテーブルの上のDVDを鞄に押し込み、逃げる様に店を飛び出した。
  1. 2014/10/29(水) 08:51:18|
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パーティー 第12回

 あまりの衝撃に、とても満員の電車に揺られて帰る気力はなく、店の前ですぐにタクシーを止め、乗り込んだ。まるで投げつけるように行き先を告げたあと、沈み込むようにしてシートに深々と腰を下ろし、目を閉じた。

 今日は朝から気力の充実した一日だった。なんとしてでも佳澄さんの映像をいただいて帰る。そうしたら今夜はひとり書斎に篭もり、憧れの佳澄さんの痴態を水割り片手に存分に楽しむことにしよう。乳首はどんな色をしているのだろうか。乳輪はでかいだろうか。陰毛は薄目か、濃い目か、性器のアップはあるだろうか。どんな体位ではめられているのだろうか・・・。そんなことをあれこれと考えながら、日中ひとり会社のデスクでほくそ笑んでいた。それが、ああなんということだ、まさかそこにうちの女房が一緒に映っているなんて・・・。天国から地獄とはまさにこのことだ。楽しいはずの一日が、一転、人生最悪の日になってしまった。あのときの不吉な胸騒ぎはこれを予見してのことだったのか。私の中の防衛本能のようなものが、この件に関わることを拒絶していたのだろうか。こうなってしまったら『人妻実話』への映像提供などとんでもない。すべてはご破算だ。せっかくのお手柄もふいである。いや、もうそんなことはどうでもいい・・・。ことは、私たちの結婚生活を根底から揺るがす、一大事なのだ。

 それにしても何だって加奈が・・・。
 友達にカッコいい男が来るからと誘われた。それにのこのこ出かけて行って、結果いいように弄ばれた。なんと単純な図式なのか。そんなに安い女だったのか。いやいや信じられない。断じて信じられない!

”あなた私がそんなに軽い女だと思ってるわけぇ!”

 寝間で言っていた言葉が甦る。
 そうなのだ。決して感情に流されず、常に沈着冷静に物事を判断する加奈がそんなことになってしまうとは、どうにもこうにも考えられないのだ。しかし、佐久間氏の表情からは決して、ウソや戯言を言っているようには見えなかった。
”これがまさにプロフェッショナルでね。見事に難攻不落の佳澄を口説き落としてくれたんだ。寝取ってくれたそのあと、待ち合わせた喫茶店でお土産だと言って、佳澄のはいてたホカホカのパンティをくれたこともあったよ”

 そんなプロの手管に、さすがのしっかりものの加奈も落とされてしまったということなのだろうか・・・。
 ああ、本当にそうだとしたら、いったいどこまでのことをされているのだろう・・・。
”それは、自分で確かめてみてくれないか。私の口からは言えないよ”
”加奈さんは決して無理やりその・・・なにされたわけじゃないんだよ・・・”
 佐久間氏の言葉が、頭の中をぐるぐると駆け巡る。今も耳の横で繰り返し囁かれているようだ。

 様々なシーンが目に浮かぶ・・・。
 厭らしい舌先でコロコロと乳首を転がされている・・・。
 マングリ返しのポーズをきめられ、剥き出しの性器と肛門をベロベロと舐め尽されている・・・。
 尻を高々と掲げさせられ、背後から猛烈な打ち込みを受けている・・・。
 私が聞いたこともない烈しい喘ぎ声をあげ、夫よりもあなたの方がイイなどと叫ばされている・・・。
 フェラチオはどうだろうか・・・、アナルはどうだろうか・・・
 ひょっとして、もっと変態的な行為まで・・・、まさか、中出しも!?
 想像は限りなく広がっていく・・・。

 と、その時だった。私は、今自分の身に起きているある現象に気づき、思わず「あっ!」と大きな声をあげてしまった。
「どうかしましたか?お客さん?」
 運転手が怪訝そうな顔をして、バックミラーを覗き込んでいる。
「い、いやなんでもない」
 見ず知らずの男に弄ばれる加奈の様々な姿を想像しているうち、なんと、股間のイチモツが激しく勃起しているのだ。
 なんなんだ・・・!?
 このあいだ、寝間で加奈のウソの浮気の話を聞いたときと同じ類の興奮、それを何倍にも増幅させた恐ろしいほどの興奮が、自分の内部に、まるで溶岩のようにドロドロと湧き出しているのを感じるのだ。

”見たいのか・・・!? まさか・・・!? 私は加奈のそんな姿を見たいのか・・・!?”

 妻の不貞。男にとって、これほど残酷ものはない。烈しい嫉妬の坩堝の中でもがき苦しむ男の様ほど、惨めなものはないのだ。
 確かにつらい、張り裂けそうに胸が痛い。今もし、佐久間氏から電話が入り、”さっきは驚かして悪かった。加奈さんが映ってたなんて冗談だよ。そんなことあるわけないじゃないか、君も単純だねぇ、ガハハハッ”と豪快に笑い飛ばしてくれたら、どんなにいいだろうと思う。ウソであってくれ、間違いであってくれ、心の底からそう思う。
 しかしその苦痛に満たされた心の奥底に、とてつもなく甘美な何かがもぞもぞと蠢いていることを私は今、はっきりと自覚しているのだ。情欲という名のもう一人の自分が、本来の思いとはまったく別の意志を持って動いているのだ。

 本当なのか!?、見たいのかオレは!?、本当に見たいと思っているのか・・・!?

 自分の内に、こんなにも倒錯した思いを持つもう一人の自分がいることを明確に自覚しながらも、それをけっして肯定したくはなく、何度も何度も、同じ自問を繰り返す私であった。

”妻を愛しているからこそ・・・”
 弱々しく首を傾け、車窓に流れゆくネオンの灯りをぼんやりと眺めながら、繰り返し、佐久間氏が言ったその言葉の意味を深く噛み締める私であった。                                       
  1. 2014/10/29(水) 08:53:25|
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パーティー 第13回

 エレベーターの扉が開く。重い足取りで廊下に出る。うちに帰ることがこんなにも辛く感じたことはない。自分には一点のやましい所もないはずなのに、加奈の顔を見るのがひどく怖かった。
 部屋にたどり着き、扉の前で深い呼吸をする。どんな顔をすればいいのだろう。なにを話せばいいだろう・・・。答えの出ぬまま、恐る恐るにインターフォンを押した。
『はい』
「ただいま・・・」
『お帰りなさい』
 ガチャリ。
 チェーンの外れる音が胸を抉る。玄関の扉が開いた。

「お帰りなさい。早かったね」

 そこにいつもの加奈がいた。
 何にも変わらない。私の妻、勇樹と直樹の母親としての加奈がそこにいる。
 本当なのだろうか?どう考えてみても、何度考えてみても、加奈が、目の前にいるこの加奈が、私を裏切って他の男と躰の関係を持つなんてことは考えられないのだ。やはり佐久間氏の悪趣味なイタズラではないのか。こうしていつもと変わらぬ加奈を見ると、ますますその思いが強くなってくる。
 DVDを再生してみると突如佐久間氏が現れ、ドラマのストーリーテラーよろしく『ハハハッ斉藤くん、驚いたかね。オレのジョークに付き合ってくれてありがとう。加奈さんが映ってるなんてのはウソウソ大ウソ。いつもながらからかい甲斐のあるヤツだね君は、ヒヒヒッ。それじゃ佳澄の濡れ場を存分に楽しんでくれたまえよ』なんてことにならないだろうか。私のことを子分のように思っている佐久間氏のことだから、きっとそういうこともありうる筈だ。
ああ、後生だから、お願いだから、そうであってくれ・・・。すべてはウソであってくれ・・・。

「どうしたの?顔色悪いわよ」
「いや別に・・・」
 言いながら、私の目は加奈の胸や腰、お尻のあたりにまとわりついた。

「直樹ぃ!パパ帰ったわよぉ!」
「はーい!」
 子供部屋の扉が開き、次男の直樹がなにやら手に持って廊下を駆けてきた。
「はい、パパこれ、父の日おめでとう」
 と、キーホルダーのようなものを私に差し出した。
「直樹、父の日はおめでとうじゃなくて、ありがとうよ」
「ははっそうか、パパありがとう」
「ああ、ありがと・・・」
 と直樹の頭を軽く撫でた。いつもならこんな時は、嫌がる直樹を無理やりに抱き上げ、頬擦りやキッスをしてみせるのだが、さすがに今日は、そんな気持ちにはなれない。
「あら直樹、パパあんまり喜んでくれないね」
「うん、なんかがっかり・・・」
「ごめんごめん。おいおいそんな顔しないでくれよ」
「もういい!」
 と直樹がべそをかきながら、子供部屋に帰ってしまった。
「どうしちゃったの?パパらしくないわ。直樹、幼稚園で一生懸命作ったのよ。父の日に渡せばって言ったんだけど、できたらすぐにあげるってパパに約束してたから絶対今日渡すんだって、頑張って起きてたのよ。あんなに楽しみにしてたのに」
「そうかそりゃ悪かった。ごめん・・・」
「あとでちゃんと言っといてあげてね」
「ああ、わかった」
 夫婦のことで子供につらくあたるなど父親失格だと思うが、今はとにかく加奈のことで頭がいっぱいだ。とても他のことを考える余裕がない。
「先にご飯?」
「いや、風呂に入る。めしはいいよ」
 空腹のはずなのに、まるで食欲がない。腹の中が、なにやら鉛のようなもので満たされている気がした。とにかく風呂に入ってまずは一息つきたい。


”いったいいつだ?。いつそんなことが行われたのだ?”
 ここしばらく土日はずっと一緒にいたし、平日も夜は当然ダメだから、するとしたら昼間か?。平日の昼間、勇樹と直樹が学校や幼稚園に行っているそのわずかな間に、男達との享楽の時間を過ごし、何食わぬ顔をして直樹の幼稚園バスのお迎えに行ったというのか。ばかなっ!加奈が、そんなことのできる女だとはとても考えられない。それじゃいったいいつなんだ・・・?そんなことをする時間がないじゃないか。専業主婦と言えども、小さい子供が二人もいるとなると、案外自由になる時間は少ないものだ。そんなことから考えてみても、やはり加奈が巻き込まれているのはおかしい。やはりこれはからかわれているだけなのか。しかしながら、さっきの佐久間氏の表情は尋常なものではなかった。とてもウソを言っている顔には見えなかった。
”別に彼らはレイプ紛いのことをしでかしたわけじゃないんだ。むしろ・・・”
 またあの声が聞こえてくる・・・。”むしろ・・・?”、むしろ何なのだ!?、むしろ加奈の方が積極的に男に迫ったとでも言うのか!?。はっ!そんな馬鹿げたことが・・・!ありっこない!。
 ああ、どっちなんだ!早く真実を確かめたい。このままでは気が変になってしまいそうだ。しかし、書斎のパソコンでDVDを再生するとなると、皆が寝静まったあとでなければならない。加奈が寝るのはいつも十二時をまわってからだから、まだたっぷり三時間はある。長い・・・。
 ひとり湯船に浸りながら、あれやこれやと思いを巡らせているその時、突然ガラガラと浴室の扉が開いて、全裸の加奈が入ってきた。
  1. 2014/10/29(水) 08:54:18|
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パーティー 第14回

「おいおい・・・」
「なにぃ?、一緒に入るのイヤ?」
「い、いや、別にそんなことないけど・・・」
「ひさしぶりねぇ。子供ができる前は毎日二人で入っていたのにね」
 言いながら、首筋のほうから両手で髪をかきあげ、後頭部のあたりでピン止めをする。長身の躰が妖しくくねり、うなじの後れ毛がえもいわれぬ女の色香を匂わせている。こうしてまじまじと妻の裸体を眺めるのは久方ぶりのことである。
 二児の授乳を経験したものの、まだまだ張り艶の衰えない乳房に、ツンと上を向いた小さめの乳首。薄めの陰毛に覆われた美しく淫らな下腹部と、成熟した女の淫靡さがねっとりと纏わりついた白い臀部。肉付きのいい太股は若さを保ったまま引き締まっている。
 見慣れた妻のパーツのひとつひとつが、どうしたことか、今日は驚くほど新鮮かつ淫らに映る。
”綺麗だ・・・”
 気がつけば、湯船の中でイチモツが激しくそそり立っている。できればここで思い切り加奈を抱きたかった。

「どうしたのよジロジロ見て。また太ったって言いたいんでしょ?」
「いや違う違う、なんかおまえ綺麗になったなって」
「もう、無理しなくていいって」
 と椅子に腰をおろし、両手を頭の後ろにあげて、もう一度髪を止めなおす。目の前で、加奈の両の腋がむき出しになる。うっすらと生えかけた腋毛が妙に艶かしい。ここも、男の舌が這いずりまわったのだろうか。腋は加奈の性感帯だ。貪るような愛撫を受けて、喜悦の声をあげたのではなかろうか・・・。
「先、洗うね」
 そう言って加奈がタオルにボディソープを垂らす。
 もしここで、なにもかもををぶちまけたら、加奈はいったいどんな反応を示すのだろうか。烈しく狼狽し、私に許しを請うだろうか。それとも、女だって浮気のひとつくらいと開き直るだろうか。
 もちろん、そんな無謀なことをする気はないが、少しは探りを入れてみたくなる。

「加奈、この前の浮気の話なんだけどさ」
「え、またあの話?」
 突然の私の問いかけにも、まるで表情を変えずに躰を洗い続けている。見る見るうちに加奈の裸体が真っ白な泡に包まれていく。タオルの両端を持ってゴシゴシと背中を擦る。その腕の動きに合わせるように、両の乳房がたぷたぷと重々しく揺れる。長年連れ添った妻の躰を洗う姿に、これほどのエロスを感じるとは・・・。背中から両手をまわし、乳房を鷲掴みにしたい衝動に駆られる。もしかすると、こうして他の男と一緒に風呂に入り、泡まみれの躰を擦り合わせていたのかもしれない・・・。
 ああ、堪らない。次々に沸き起こる淫らな空想に、股間の怒張がますます勢いを増す。

「おまえ、ほんとにカッコいい男に誘われたらついていっちゃうのか?」
「なによぉ、そんなに気にしてるの?」
「ああ、そりゃ・・・まぁ・・・」
「ついてかない」
「ええっ?」
「あんなふうに言われたから、ちょっと言って見たかっただけ。ついてなんて行かないわ」
「そうか・・・」
「どう?安心した?」
 と、私にニコリと小さな笑みを返しながら、泡立つタオルを拡げた股間にあてた。

 私の探りにも、まるで狼狽する様子はない。ウソのつけない加奈のことだから、もし佐久間氏の言うようなことがあれば、こんなに平然としていられるわけがない。やはり違うのだ!何事もなかったのだ!
”安心した?”
 屈託のない加奈の笑顔に、張り詰めていた緊張が少しはやわらいだ気がする。私はフーッと長い息を吐きながら、深々と湯船に躰を沈めた。湯を両手にすくい、顔を覆う。
 躰は正直だった。思いが少し安心の方向へ傾くと、あれほど逞しくいきり立っていた股間のイチモツが急速に大人しくなってくる。そして、それと同時に信じられない変化が、自分の内に生じていることに戦慄する。なんと驚いたことに、ひょっとしたら加奈が無事であるかもしれないということを、どこか残念に思う気持ちが湧き上がってきているのだ!
”何なんだこれは!?、一体全体どうしちまったんだオレは!?”
 ウソであってくれ、間違いであってくれ、そう切に願う心とは裏腹に、他の男に弄ばれる妻の姿を想像しながら股間を熱くする自分がいる。まるで、上半身と下半身に別々の人格が宿り、激しく争っているようである。
”どうか何事もありませんように・・・”
”見たい!他の男の躰に絡まれた加奈の淫らな姿を見てみたい・・・”
 全身、白い泡に包まれた加奈の裸体に、二人の私が熱い視線を送っていた。


「それじゃ、おやすみなさい」
 と、加奈が寝室に入って三十分が経過した。
”そろそろいいだろう”
 寝室に行き、そおっと扉をあけてみる。
 静まりかえった部屋に勇樹の軽い鼾の音だけがクークーと響いていた。大の字になっているその勇樹の横で、加奈と直樹が寄り添うようにして眠っている。
”よし、大丈夫だ・・・”ゆっくりと扉を閉める。
 書斎に戻りパソコンのスイッチを入れる。
「畜生、早く立ち上がれ」
 焦りからか、起動時間がいつもよりずっと長く感じる。
 鞄の中から佐久間氏からもらったDVDを取り出す。

 いよいよだ・・・。

 ここに・・・この中に・・・本当に加奈が・・・加奈が・・・。
 ガタガタと手が震え、DVDをうまくトレイにセットできない。もう片方の手を添え、両手でようやくそれをセットした。
 口が渇く。汗が噴き出す。バクバクと激しい動悸が胸を打つ。まるで心臓が何倍にも肥大化しているようだ。
 神様、どうか・・・どうか何事もありませんように・・・。

 パソコンが立ち上がり、再生が始まった。
  1. 2014/10/29(水) 08:55:46|
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パーティー 第15回

 どうしよう・・・。
 いきなり全裸の加奈が出てきたら・・・。
 両足を思い切り広げられ、見知らぬ男に強烈な打ち込みを受けている加奈が出てきたら・・・。
 やはりやめておこうか。このまま見ないでおこうか・・・。
 マウスを握り、プレイヤーのSTOPボタンに矢印を合わせる。

 いやダメだ・・・。そんなこと、できるはずがない!
 見なきゃいけないんだ!確かめなきゃいけないんだ!
 大丈夫だ!イタズラなんだこれは!私を裏切って加奈が他の男とどうにかなるなど、そんなバカな話があるはずがないではないか!もうすぐだ。もうすぐ佐久間氏がおどけた顔で登場するはずだ。

 見るべきか、やめておくべきか、マウスを握り締めながら烈しく逡巡しているうち、白地の画面から、霧が晴れるようにして、ひとりの男が姿を現した。
”おおやはりそうか!佐久間さんじゃ・・・”
 ところが・・・。
 登場した男は、佐久間氏には似ても似つかぬ男だった。長髪の美男子。それも頭に超がつくほどのとびきりの美男子であった。
『佐久間様、お世話になっております。藤木です』

”藤木!こいつが藤木か!”
『吸って!ああん!吸って!藤木くん!そこっ・・・あっ吸ってぇ~~!』
 あの佳澄さんをいとも簡単に落とし、はいていたパンティーまでをもせしめてこれる男。
 アイボリーの大きな革のソファに、足を組みながら深く身を沈め、カメラに向かってやわらかな笑みを向けている。

 人妻落としのプロなどというから、見るからに色事師然とした男か、いかにも遊び人風といった男を想像していたのだが、それは全くの私の見当違いであった。画面に映っている男には、ホストクラブの店員のギラついた下品さも、昨今流行の若手芸人風のちゃらけた様子もない。透明感のあるという表現が適切なのだろうか、朝ドラのヒロインが慕う好青年とでもいうような爽やかな印象を受ける男であった。
”こいつがあの佳澄さんを・・・。そしてひょっとしたらうちの加奈までも・・・”
 それにしても、なんと美しい顔をしているのか。モデルや役者でもこれだけの顔を持っているものは少ないだろう。このルックスを持ってすれば、人妻の一人や二人落とすことなど、ほんの朝飯前、造作もないことに違いない。

 藤木の登場で、”ストーリーテラー佐久間”の線はなくなってしまった。なにやら不穏なムードを漂わせるプロローグに、私はズンと気分が重くなっていくのを感じていた。

『少々予定より遅れてしまいましたが、ようやく奥様の痴態をカメラに収めることに成功いたしました。我ながら満足のいく出来栄えだと思っています。きっと佐久間様にもお喜びいただけるものと確信しております。佐久間様には決してほどけなかった女の結び目を、私目がきれいにほどかせていただき、奥様のすべてを余すことなく曝け出させていただいております』
その爽やかな風貌にはおよそ似つかわしくない色事師としての口上を、淡々とした口調で語る藤木であった。

『待ちに待った奥様の艶姿でございます。一刻も早くご覧になりたいお気持ち、お察しいたしますが、その前にひとつ、佐久間様にお断りしなければならないことがあります』
 足を組みながらソファにふんぞり返る不遜な態度とそれとは対照的な丁寧な言葉遣い。このひどく慇懃無礼な態度が、サービスの提供者と依頼者という主従の関係でありながら、寝取る側と寝取られる側、ひいては精神的なサドマゾプレイのSとMの関係にある藤木と佐久間氏の、微妙な立場関係を如実に物語っている。

『今回佐久間様から、どうせやるのなら複数の男から攻められる奥様を見てみたいというご要望をお受けいたしまして、奥様と私、それに私の友人が三人で会っているという何気ないシチュエーションを起点に、徐々に妖しいムードになりながら、果ては本格的な3Pにまで発展してしまうというとびきり淫らなストーリーを組み立てておりました。ところがです。当日お宅を訪問いたしましたところ、なんとそこに奥様のご友人がおいでだったのです』
”友人・・・、それが加奈・・・”
 瞬時に顔から血の気が失せて行くのを感じた。緊張が口の中からみるみると水気を奪っていく。

『聞けば、奥様は私との不倫を、そのご友人に詳しく話をされているらしく、今度彼とその友達の三人で会うことになったので、一緒に合コンのようなことをやろうと誘われたようなのです。われわれとしてもこれはとんだハプニングでして、一時は撮影を中止しようかとも考えたんですが、この日をのがすと佐久間様のおっしゃる期日には間に合わなくなってしまいます。佐久間様は海外にご出張中、相談することもかなわず、思案の末まことに勝手ながら、今回はこのご友人を巻き込んで男女四人による乱交パーティーのようなものにするべく、ストーリーを変更することにいたしました。奥様ともども、このご友人がわれわれプロの手管に屈し、みごとその躰を開くまでの過程を、お楽しみいただければと思います。夫と子供が待っているからと、早く帰らなきゃを繰り返していた平凡な主婦が、最後には二本の指でお尻の穴を穿られながら、”お願いもっと!”と鳴き叫ぶ姿は、それは圧巻の一言ですよ』
 優美な笑みを残しながら、藤木の姿がゆっくりと白地の画面へとフェードアウトしていく。

”奥様ともども、このご友人がわれわれプロの手管に屈し、みごとその躰を開くまでの過程を、お楽しみいただければと思います”
 その友人が、うちの加奈だと言うのか。
”最後には二本の指でお尻の穴を穿られながら、”お願いもっと!”と鳴き叫ぶ・・・”
 ばかな!まさかそんなことをあの加奈が許すはずがないではないか!きっと別の女だ。藤木は加奈の名前は語ってはいなかったではないか。別の友人である可能性もあるのだ。いやきっとそうに違いない!
 この期に及びまだ、そんな儚い可能性に縋り付こうとしていた私であった。
 ところが、そのわずかの後だった。望みは、見るも無残に引き裂かれた。

 画面に、ソファに座る男女四人の姿が映し出された。
 佳澄さんがカメラから見て正面の位置に座り、その隣に藤木が座っていた。その藤木の前に短髪の男が座っている。向こう側を向いているので顔は判らない。そしてその男の横、佳澄さんの向かい側に座っている女性。長い髪をシニヨンに纏め、薄いオレンジ色のノースリーブのワンピースを着ている女性・・・。

 加奈だった---。

 紛れもない、私の妻がそこにいたのだ。
「なんで・・・」
 心臓が凍りつく思いだった。”なんで”、そう一言だけ口から漏れた。
 どうしてこんなところに加奈がいるんだ!なんでこんなバカげた企てに加奈が巻き込まれなければいけないんだ!覚悟はしていたものの、こうして実際に画面の中にいる加奈の姿を見ると、私にとってあまりに理不尽なことの成り行きに、改めて烈しい怒りが込み上げてくる。
 いつなんだ、これは?、いったいいつ行われたのだ・・・?!
 このオレンジ色のワンピースとシニヨンに纏めた髪・・・・。

 んんっ!?これは!?

 そうか!どうしてこんなことに今まで気づかなかったのだろう!

 これまで、そんな大それたことをしでかす時間など加奈にはなかったはずだと思っていたが、なんとも疑わしい空白の一日があった。2週間ばかり前、高校時代の同窓会と称し、夜遅くまで出かけていた日があったではないか!このワンピースはその同窓会のためにと新調したものだ。『思い切って買っちゃった。こんなに高いの買うの久しぶりだわ』と、加奈は鏡の前で何度もポーズをとっていた。それにこのシニヨンの髪型は常日頃のものではない。年に一度あるかないかの特別な日の装いである。間違いない、これはあの同窓会に行くと言って出かけた日に撮影されたものだ。
 憧れていた誰々くんはすっかり髪が薄くなっちゃって幻滅したとか、学年で一番のアイドルだった誰々ちゃんはバツ2の五十男と結婚したんだとか、帰ってきた加奈は同窓会でのエピソードを熱心に語っていた。
 まさかあれが全部作り話だったなんて・・・。まさか加奈が私にこんな大それたウソをつくなんて・・・。

 そう言えば・・・。
『同窓会よ。来月。行っていいかな』
 ガーデンパーティーの帰りの車中、たしか加奈はそう言っていた。あの時は佳澄さんのあられもない声が頭の中に鳴り響いていて、加奈の話はまるで上の空だったが、確かに同窓会に行くと言っていたはずだ。ということは、あの日に既に計画はなされていたということか。佐久間氏と私が書斎にこもり、怪しい密談を交わしていたその時、子供たちがはしゃぎまわっている傍らで、佳澄さんと加奈はこの日のことについて密かに話し合っていたのであろうか。
 いったい二人は何を企んでいたのだろう・・・。
 まさか藤木が言うような展開になることを、初めから期待しての企みだったのだろうか・・・。
 ”加奈さん、いつもいつも優等生主婦やってないで、ちょっとくらい羽目を外さなきゃダメよ”
 ”たまには若い男の子と遊んでみたら”
 ”ねえ、彼の友達も来るからさ、四人でちょっとエッチなことやってみない?”
 佳澄さんからのそんな誘いに、加奈はそうよねぇと軽く応じたのだろうか・・・。とても加奈がそんなことを簡単に承諾するとは考えられないが、現にこれだけ大掛かりな嘘を演じているのだ。そこまでの露骨な会話はなかったにせよ、少なくともこのパーティーが妖しげな何事かを期待させるものになることを、二人は暗黙に了解しあっていたに違いない・・・。
”ああ加奈・・・どうしてなんだ・・・”
 佐久間氏や藤木の言うとおりならば、こののち妻は、この二人の若者が繰り出す数々の手管に、悦楽と恥辱に塗れながら身悶えることになるのだ。あそこを激しく突かれて、たっぷりと愛液を滴らせることになるのだ。
 ああ、胸をかきむしりたくなる。気が狂いそうになる。唇が震え、全身に悪寒が走りだす。
 結婚以来、私は妻を縛りつけたことは一度もなかった。あれはするな、これはダメだなどと言った記憶がない。すべては妻の意思に任せてきた。それもこれも、厳格な家庭に育ち、堅実で浮ついたところのない妻に全幅の信頼を寄せていたからだ。その信頼は、私にとって絶対的なものであった。それは、われわれ家族が不安なく穏やかに暮らしていくための基本事項であり、根本、土台なのであった。それがあるからこそ、仕事や家庭生活の万事がつつがなく運ぶのだ。
 しかし、その信頼が今、脆くも崩れ去ってしまった---。妻に限って間違いはない。妻が私を裏切るなど、太陽が西から昇るがごとき、水が下から上へ流れるがごときにあり得ないことだと信じ込んでいた。その私の中の常識が今、完全に覆ってしまった。妻への信頼、それは私が勝手に作り上げた幻想に過ぎなかったのだ。

「加奈・・・」
 これがもし、今この時に行われていることならば、どんな手だてを使っても阻止する。たとえ命に代えても加奈には指一本触れさせない。だが、なんとも口惜しいことに、ことはすでにすんでしまっているのだ。泣いても喚いても、最早どうすることもできない。すべての真実はこの一枚のDVDの中に、0と1の無機質な連なりによって、冷酷に刻まれているのだ。
 こいつらに、こんなやつらに加奈が奪われてしまうのか・・・。
”最後には二本の指でお尻の穴を穿られながら・・・”
 ほんとにそんなことが・・・。亭主の私でさえ許されない部分への愛撫を許したというのか!

『あなた私がそんなに軽い女だと思ってるわけぇ!だいいち今まで子育てに精一杯で、とてもそんな気持ちにはなれなかったわよ』
『あんなふうに言われたから、ちょっと言って見たかっただけ。ついてなんて行かないわ』
『どう?安心した?』
 加奈の言葉が頭の中を空しく駆け巡る。
 何をされたのか・・・。どんな言葉を叫ばされたのか・・・。何度気を遣らされたのか・・・。
 そしてまたここで戦慄が走る---。
 ことが正常な私を苦しめる展開になって行くにつれ、腹の中に、不届きな欲情がとぐろを巻き始めている・・・。落胆の底からふつふつと涌きあがってくる妖しい思いが私を徐々に支配し始めている・・・。
 見ず知らずの男の汗液に塗れながら性の愉悦に浸る妻のあられもない姿が見たい・・・。メス犬の姿勢をとらされながら若き男根を深々と突きたてられ、身も世もないほどに悶え狂う妻の姿を見てみたい・・・。
 もはや否定の余地はない。命に代えても加奈には指一本触れさせないと思う自分とは、まるで正反対の思いを持つもう一人の自分が明らかに存在する。苦悩に打ちひしがれる自分を見下し、高笑いをするもう一人の自分が・・・。

 貞淑だと思い込んでいた妻の奔放な行動、至極正常に妻を愛していると思っていたおのれの、これほどまでに倒錯した心・・・。

 結婚して10年。これまでひたすら真っすぐであった私達夫婦の道が、大きな弧を描いて漆黒の闇の中へと吸い込まれていく・・・。
  1. 2014/10/29(水) 08:59:38|
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パーティー 第16回

「それにしてもこんなべっぴんの奥さん、どうやってGETしたんや藤木。オレやったらビビッてもうて、よう声かけへんわ」
 背徳と享楽の宴は、加奈の横にすわる男のその一声で始まった。
「なに言ってんだよ。ナンパのプロがよく言うよ」
 テーブルには、オードブルのようなものと4つのグラスが並べられ、中央には半分ほどになったワインの瓶が置かれていた。
 藤木が薄い笑みを浮かべながら、グラスを口にする。映像は想像以上の鮮明さだった。とても盗み撮りしたものだとは思えない。
「どうやって知りあったん?」と、男が佳澄さんに顔を向けた。

「行きつけの雑貨屋さんにガーデニングの材料を買いに行ったのね。で、買い物が終わって表に出てみたら、私の車の前に大きなミニバンが停められてたの。後ろに電柱があったから、ちょうど挟まれる格好になっちゃって、車が動かせなくなっちゃってたのよ」
 佳澄さんが藤木との馴れ初めを語り始めた。すでにアルコールが入っているのであろう、声がいつもにも増して艶めいたものになっている。瞳がキラキラと輝いていた。フィットした水色のサマーセーターが、形のいいバストの膨らみをくっきりと浮き立たせている。
「そのあとスイミングスクールに娘を迎えに行かなくちゃいけなくて、すっごく急いでたから、どうしょうと思って、もう半べそかいちゃってたの。そしたら彼が声をかけてくれた」
 そう言って、佳澄さんは隣に座る藤木の膝の上にそっと手をおいた。そのさりげない仕草が、藤木に対する慈しみの深さを物語っていた。
「彼、『ひどいことするなあ。きっと犯人は店の中にいますよ。ちょっと待ってて』って言って、お店の中に入っていったの。何をするんだろうと思っていたら、『店の前に止めてあるミニバンは誰んだ!後ろの車が出せねぇじゃねえか!』って大声で叫んでくれたの」
傍らで藤木が両手を組みながらソファにくつろぎ、柔らかな笑みを湛えている。
「おお、おお、いつもの手ぇやがな。こいつの」
「いやだ、へんなこと言わないでよ。すごいかっこよかったんだから。そしたら、店の奥から中年のおじさんがスゴスゴと出てきて、バツの悪そうな顔をして車をどかしたの」
「ぐるやで、そのおっさん。なあ藤木」
「勝手に言ってろ」と、藤木が小馬鹿にしたような笑みを作った。
「もう、嫌い相楽くん。そしたらそのあと彼ったら、こっちがお礼を言う間もなく、どっかへ消えちゃってたの」
「そこがカッコいいわよねえ。なんだかドラマみたい」加奈が言った。ここで映像が切り替わった。加奈と隣に座る相楽という男が正面になった。この男もかなりの美男子であった。戦隊ヒーローもののイケメン俳優と言えば、解りやすいだろうか。マッタリとした関西弁と精悍なマスクがチグハグな印象を受けるが、そのミスマッチ加減が女を誑かすための大きな武器になるのであろう。

「で、その日から、ほとんど口もきいていない彼のことがなぜか頭から離れなくなっちゃったの」
「へぇー、それって一目ぼれ?」
「そういうことになるかな。三十を過ぎて、子供も大きくなって、自分が恋をするなんて、この先もうありえないって思いこんでたわ。だってすっごい体力いるじゃない、恋って。一日中相手のことを考えて、なんでもないことに喜んだり落ち込んだり。そんなことはもう自分には無理だと思っていたの。でも、そんな私の開くはずのなかった心の扉を彼はなんなく開けてしまったの。いやん!自分で言って恥ずかしくなっちゃった。ちょっと酔っ払っちゃったかな」
「うらやましいなあ。素敵な出会いよねぇ」加奈が言った。
「気持ちは日に日に大きくなっていったわ。しまいには、寝ても覚めても彼のことばっかり考えるようになった。もう一度会いたい、少しでいいから話をしてみたいって、一日中思ってた。こんな気持ちになったのは初めて」
「へえ、なにがそんなによかったん、こいつの?」
「う~ん、何がって、言葉にするのは難しいわ。彼の持っている雰囲気とか、輝きとか憂いとか、そんなものを一瞬にして全部興味を持ったの。それはとても言葉にはできない思いなの」
「ひや~、なんやえらい小説みたいなこと言うんやなぁ」
「でも、敢えてひとつ言うとしたら、”まなざし”、かな」
「まなざし?」
「そう。私、男の魅力は”まなざし”だと思うの。こんなに素敵なまなざしをくれた人は初めて。私、それに射抜かれちゃったみたいに思う」
「へぇー、男の魅力はまなざしかぁ。なんか深いなー。どう、加奈さんオレのまなざし?」
 と、相楽がおどけた調子で気取った顔を加奈に近づけた。
「やだ~、アハハッ」と加奈が大仰なリアクションを返す。
 まさかその劇的な出会いが自分の夫によって仕掛けられたこととは知らず、佳澄さんはまるで少女のようなロマンスに浸っている。哀れであった。改めて佐久間氏の罪の深さを思う。

「それで、そのあとどうなったん?」
「ひょっとしたら、あの雑貨屋さんにいけばまた会えるかもしれないと思って、そのあと何回か行ってみた」
「ええっ、そらまたすごい執念」
「でしょう。自分でもそう思う。ほんとはこんなに執着する人間じゃないのに。この人のこととなると普通の私じゃなくなるの。もうなにもかも」
 藤木は相変わらずソファにくつろぎ、佳澄さんの話にときおりクールな照れ笑いを浮かべている。
”普通の私じゃなくなるの。もうなにもかも・・・”
 妙に耳に残る言葉だった。おそらくこの後の映像で、それを別の形で思い知らされることになるのだろう。

「それで、会えたん?」
「ううん、結局は会えずじまい。出会ってから一ヶ月が経って、さすがにもう無理だなってあきらめようと思ったわ。ちょっとの間だったけど、素敵な夢を見させてもらったって」
「でも、ドラマはここからなのよ。ねぇ~佳澄さん」
 と、加奈が愛くるしく小首を傾げる様にして言った。
「え、なになに」相楽が身を乗り出した。
「最後にその雑貨屋さんに行った日の次の日だったわ。土曜日だった。家族で近所のショッピングセンターに買い物に出かけてたの。晩御飯の材料を買ってレジで支払いをしていたら、隣のレジになんと彼が並んでいたの」
「ええっ!そらまた劇的な再会やんか!」
「でしょう!私もう、いてもたってもいられなくなって、すぐにでも声をかけたかったんだけど、夫も子供もいるから、どうしようもなくて」
「ほんま、ドラマのワンシーンやね」
「そうなのぉ!もう私、心臓がバクバクしちゃって。夫が横から何か話しかけてくるんだけど、全然上の空で、買い物したものを袋に詰めている間、彼を見失わないようにずっと目で追ったわ」
「ここであったが百年目」
「そうそう、そんな感じ。出口に向かう途中で、買い忘れたものがあるから先に車に戻っててって、夫と子供に言って、彼のところへすっ飛んで行ったの。もしかして、はあ?どなたでしたっけ?なんて言われたらどうしようって思ってドキドキしたわ。でも今考えればおかしな話よね。単に困っているときに助けてくれた人なんだから、夫や子供のいる前で声をかければよかったんだよね。でもね、なぜかこの人とのことは家族には知られたくないって思っちゃってたのよねぇ」
「不倫の匂い?」
「たんぶんそう。この時点で既に自分の気持ちの中に、私今いけないことをしているっていう罪悪感とその裏返しの陶酔感みたいなものがあったもの」
「そのとき既に二人ははじまってたんやなあ。それで声かけたらコイツはなんて?」
「彼案の定、なんだかクールで、『先日はどうもありがとうございました』って言ったら、『ああ』って一言だけ」
「それも手ぇやっちゅうねん。惚れたら惚れるほど、態度がクールになるねん、この男は」
「ええ、そうなの藤木くん」
「照れてたんだって。こんな美人と話なんてしたことなかったから」
「うそばっかり」
 と佳澄さんが肩をすくめるようにして呆れたそぶりを見せた。

「お礼がしたいって言ったの。そしたら、彼そんなのいいって。お礼されるようなことじゃないからって」
「まあそら、おっさんどなっただけやからな。確かにお礼されるようなことはしてへんわな」
「いいのぉ、それが格好よかったんだからぁ。それでね、それじゃどうしても私の気が済まないからって言って、さっきもらったレシートの裏に、携帯の電話番号を書いて彼に渡したの」
「おお、すごいやん、佳澄さん積極的!」
「でも彼のクールな顔からしたら、これは望み薄だって思ったわ。でもそれがね・・・」
「ここからがクライマックスね」
「へへっ、そうなの」
「ええ、ドラマはまだ続くん?」
「そのあと、彼と別れて駐車場に向かって歩いてたら、突然携帯が鳴ったの」
「もしかして!?」
「そうなの。出たら彼だった」
「いきなりかー!」
「そう。西側の駐車場に通じる階段の踊り場で待ってるから今すぐ来てって」
「で、行ったん!?」
「もちろん。主人に買い忘れたものをもうひとつ思い出したからって言って」
「ご主人、可愛そ」
「それで、指定された場所に行ったらね。フフッ」
「なんやなんやその笑いは!」
「そしたらね・・・、いきなり手をひっぱられてぇ、抱きすくめられたの」
「ええっ!いきなり!」
「驚いて見上げたら、彼の唇が目の前にあった」
「うわっ!てことはそこで?!」
「そう、キスされちゃったの」
「すっげえ!藤木おまえっちゅうヤツは!こんな別嬪を!」
 相楽の剣幕に、藤木がおどけて小さく肩を竦める仕草を見せた。
「しゃあけど、いくらなんでも、それはあんまり強引やんか。佳澄さん、変な男って思わへんかった?」
「普通ならね。でも彼ならそれが許せちゃうのよ。ほんとに彼は不思議な人。こんな人には今まで一度も会ったことがないわ。普通の男がやったら滑稽で思わず吹き出しちゃいそうなことを、彼はすっごいドラマティックなものに昇華させちゃうの。そんな不思議な力を持ってる」
 佳澄さんの藤木への入れ上げぶりが画面を通してひしひしと伝わってくる。平凡な家庭生活に突如として訪れたとびきりのシンデレラストーリーに、身も心も耽溺しているようである。
 しかしながら、雑貨屋での出会いも、ショッピングセンターでの劇的な再会も、すべては佐久間氏と藤木の仕組んだ芝居なのだ。レジで藤木の姿を目に留め、慌てふためく佳澄さんの姿を佐久間氏はどんな想いで見つめていたのであろう。家族のことをそっちのけで若い男との再会に胸躍らせる愛妻の姿を見て、きっと被虐的な快感に酔い痴れていたことに違いない。
 駐車場で待っている間に唇が奪われてしまうということも、恐らく打ち合わせのとおりなのだろう。車のシートに身を沈めながら、張り裂ける想いに胸を焦がし、股間を熱く滾らせていたに違いない。おそらくはその夜、狂おしい嫉妬の情火に焼かれながら、攻めるように佳澄さんを組し抱いたことは想像に難くない。ああ何という不条理か---。人として、果たしてこれは許されるべき所業なのか---。佳澄さんがことの真実を知ったときの計り知れない衝撃を思うと、これはもう立派な犯罪行為とさえ思う。
 しかし今、そうした明らかにモラルの彼岸にいる佐久間氏の心情を、完全に理解している自分がいる。もしもそれが加奈だったらと、事々をおのれに置き換えるたび、身体の芯に熱いものを滾らせる自分がいる・・・。
 もはや彼の心情は私自身の心情なのだと、はっきりと自覚する私であった。
  1. 2014/10/29(水) 09:00:57|
  2. パーティー・ミチル
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パーティー 第17回

「ご主人に気づかれる心配はないの?」
「うん、それは大丈夫だと思う」
「もしバレたら、どうなるんやろ?」
「う~ん、どうだろう。離婚だ!って怒られちゃうかな。でも案外許してくれそうな気もするの。だって主人、とて
も心の広い人だし、なにより私、すっごく愛されてるものぉ、へへっ」
「そうかなあ、愛してるからこそ、許されへんと思うけどなあ。俺やったらぶっ殺すかも」
「やだ、脅かさないでよぉ」
「そんな危険を冒してまで、こいつと付き合いたい?」
「だってこんなに素敵な人、もう絶対巡り合えないもの。私、この出会いは大切にしたいの」
 佳澄さんが隣に座る藤木の腕に腕を絡めながら、言った。
「はいはい、ごっつぉさん。えらい仲のよろしいことで。あ~あ、ご主人可愛そ」
「いやん、もちろん今も主人のことは愛しているし、尊敬もしているわ。とっても仲がいいんだから私達。でもそれと
これとは全然別なの」
「甘いもんは、別腹?」
「う~ん、かなり違うと思うけど、相楽くん的にはそう理解しておいてOKよ」

 いくらその道のプロとはいえ、少しばかりのきっかけを作っただけで、自分の方からはほとんど何のアプローチもせ
ずに、これほどハイレベルなミセスをものにしてしまうとは、一体この藤木という男は何者なのだろうか。
 一見甘やかに見える双眸の奥に見える精悍な光は、この男がただものではないことを物語っている。職業柄いろんな
人間に接するゆえ、人を見る目は肥えている方だと自負している。私には、佳澄さんを瞬時にして射抜いたというこの
男のまなざしが、単なる虚無的なポーズによって作り出されたものではなく、なにかアーティスティックな思考の果て
に行き着いたとても価値のあるもののように思えるのだ。
 愛する妻を弄んだことに烈しい怒りを覚えつつも、いつの間にかこの若き淫魔に畏怖の視線を向けている自分に気づ
く。

「加奈さんは彼氏いるの?」藤木が言った。
 初めて話の矛先が加奈に向けられ、私の身体がきゅっと固くなった。
「彼氏?、いるわけないじゃないそんなのぉ」
「だって加奈さんはご主人一筋だもんねぇ」と小さく首を傾げる様にして、佳澄さんが言った。
「一筋ってわけじゃないけど・・・」
「てことは、いたことはあるんだ?」
 藤木が加奈のカラになったグラスにワインを注ぐ。
「いない、いない」
 と加奈は顔の前でひらひらと手を振った。
「結婚してすぐに子供ができて、これまで子育てに精一杯だったから、とてもそんなことを考える余裕なんてなかった
もの」
 加奈の言葉に、ほっと安堵の胸をなでおろす私であった。これ以上の衝撃には最早対応できない。もしやここで彼氏
がいるだの、以前にはいたことがあるなどと加奈が言おうものなら、私はこの場でへなへなと情けなく崩れ落ちてし
まったことだろう。

「でも子供も大きくなったんだしさ、そろそろ欲しいって思わない?旦那だけなんてつまんないじゃん。佳澄を見てて
私もって思ったりしない?」
「うん、そりゃあねぇ。でも私なんか誰も相手にしてくれないよ」
「何言ってんだよ、厭味だよそれ。加奈さんみたいな素敵な年上の女性に憧れてるんだぜ俺達。なあ相楽」
「ほんま、ほんま、とても小学生三年の子供がいてるなんて信じられへん。加奈さんやったら、金スマの金曜日の妻達
に出てもオーケーやで」
「ありがとう、お世辞だとわかっててこんなにうれしいの初めてよ」と、加奈は快い笑いをみせた。
「いっそのこと相楽くんと付き合っちゃえば」
「おお、いいねえそれぇ」ポンとひとつテーブルを叩き、藤木が言った。
「いやだ、ちょっと待ってよ」
「オレも藤木みたいに強引に迫ってみようかなぁ」と相楽は下から覗き込むように加奈に顔を近づけた。
「いやん!」と僅かに頬を赤く染めながら、加奈が相楽の肩を押し返した。
 加奈は華やいでいた。これほどキラキラと輝いている姿を見るのはどれくらいぶりになるだろう。思えば、二十歳そ
こそこで私と結婚し、すぐに長男の勇樹を産んだ加奈は、こうした男遊びはほとんど経験がない筈だ。すべての出来事
が魅力的に映るのだろう。そこへもってきて相手がこれ以上はないというほどの極上の男達とくれば、湧き上がる新鮮
な喜びを隠し切れないのも無理はなかった。

”旦那だけなんてつまんないじゃん。佳澄を見てて私もって思ったりしない?”
”うん、そりゃあねぇ”
 本気でそう思っているのか、それとも単に男達との会話を楽しんでいるだけのことなのか・・・。
 いまはまだ他愛もないものだが、このさき藤木達の手管によって身も心もほぐされた加奈の口から、果たしてどんな
衝撃的な言葉が吐き出されるのか。ことによるとそれは、私達の夫婦生活にピリオドを打ってしまうようなものになる
かもしれない。そう考えると映像よりもむしろ、”言葉”に対する恐怖を強く感じる私であった。


 こうしてしばらく、まるで全員が旧知の友人のように和気あいあいと会話が進んでいく。男と女の深刻な話題に、場
のトーンがぐっと落ち着いたものになったかと思えば、何がおかしいのか、しきりに笑い転げる四人の姿が映し出され
たりした。
 その間の藤木と相楽の年上女に対する応対ぶりは、それは見事なものであった。地味すぎず、飛びすぎず、これぞ三
十路過ぎの主婦を蕩かせる極上テクとでも言わんばかりの絶妙なホスティングを展開していくのだ。
 特に藤木のそれは、同じ男として羨望の目を向けざるを得ないほどにすばらしいものであった。これくらいの年代の
男などは、まだまだ自分自身さえももて余しているもので、いくらいいように装っても、どこか子供じみた部分が言葉
や所作に表れるものだが、この藤木という男の言動には、そういった幼さ、稚拙さがまるで感じられないのだ。かと
言って妙に背伸びをしている様子でもなく、年寄りじみてもない。またホストのような執拗に女に媚びた様子や、妙に
勢い込んだところもみせない。おそらくはまだ二十台前半の年頃だろうが、その年にして早くも成熟した大人の女を喜
ばせるコツのようなものをしっかりと身につけているようである。

 ワインの酔いも手伝ってか、会話が進むにつれ、佳澄さんと藤木のスキンシップの度合いがどんどんと高くなってい
く。テーブルの上で手を握り合ったり、ふざけて互いの脇腹を擽りあったり。しまいには二人の身体がべったりと寄り
添う形になり、佳澄さんが藤木の肩の上に頭を乗せたりして、まるで蜜月の恋人どおしのような振る舞いを見せた。容
姿が完璧な二人だけに、なにをやっても様になる。さながら、恋愛映画のワンシーンを見ているようである。
 ときおり佳澄さんの顔がアップになる。藤木との戯れに、瞳がとろりと蕩けだしていた。
 この間、相楽と加奈の接触は少なかった。ときおり佳澄さん達を真似て、相楽が加奈の肩に頭をのせたり、なにやら
ひそひそと耳打ちをしたりと他愛もないアプローチを試みるものの、加奈の身体が相楽の方へ傾いていくことはなかっ
た。そもそもこういったおちゃらけた感じの男は加奈の好みではなく、どちらかというと藤木のような正統派の二枚目
に加奈は弱いのだが、二人の様子からして藤木が加奈の相手をするとは思えない。
”一体この先どんな展開になっていくのだろう?”
 この時点の雰囲気から見ると、この先加奈がこの男達の手管に屈するなどとは考えにくかった。

 しかし、次に行われる遊びによってパーティーのムードは一変、一気に淫蕩なものへと変わっていくのだった。
  1. 2014/10/29(水) 09:02:22|
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パーティー 第18回

「ねえ、何かおもしろいことやろうよ」長い会話がしばし途切れたところで、佳澄さんが言った。
「おもしろいことって?」
「それはあなた達男の子が考えてよ」
「王様ゲームぅ!」相楽が待ってましたとばかりに大声を上げた。
「ええ~!、相楽くん古いよぉ、今どき王様ゲームなんて高校生でもやんないよ」
 と、佳澄さんが大仰に言った。
「そんなことないって、男と女が集まれば、やっぱり王様ゲームやんか」
「いやよ。だって相楽くん、すっごいエッチなこと命令しそうじゃな~い」
「あたりまえや、王様ゲームはそれやからおもろいんやんか」
「それじゃ、やんない。加奈さんもやだよねぇ」
「うん・・・」
「モデルのときは、さんざんやってたんじゃないの?昔思い出してさ、やってみようよ」
「なによ藤木くんまで。い・や・だ」
「そうだ、じゃ携帯でやろうよ」言って、藤木がポケットをまさぐりだした。
「携帯?」
「あるんだよ。命令を出してくれるサイト」
「へぇ~そんなのあるんだぁ。でもそれもエッチじゃないの?」
「いや、大丈夫だよ。軽いのばっかりだから」
「携帯で王様ゲームか。おもしろそうね、やってみようよ。ねぇ加奈さん、やろうよ。いいでしょ」
「え~でもぉ・・・」
「大丈夫、あんまり変なのはパスするからさ。やってみようよ加奈さん」
 藤木が言う。
「絶対エッチなのはいやよ」
「わかってるって。よーしきまりだ!それじゃあさっそく・・・」
 と藤木が携帯を操作し始めた。
「あったあったこれだこれだ。まずは人数を入れてと・・・」

 あれほどスマートなホスティングを続けてきたにしては、王様ゲームとは少々子供じみている。楽しげにしているものの、なかなかガードを緩めない加奈の心を、それで一気に切り崩しにかかろうというのか。

「ん・・・んっ!いやん!唇くっついちゃったぁ!」
「相楽、おまえねらってたろ」
「ちゃうちゃう、オレがポッキー大好物なん、おまえも知ってるやん」
「知らねえよ」
「へへっ柔らかかったな、佳澄さんの唇・・・」
「ちぇっ、やっぱりねらってやがった」

 再生が始まってからすでに三十分以上が経過している。これも佐久間氏を焦らせる演出なのか。その後、腕立て伏せを100回せよだの、男同士のキッスだのと、無邪気なシーンが延々と続いていく。
 こうしてこのまま何事もなく再生が終わってしまったならどんなにいいだろう・・・。そう思わせるほどに、画面からはいつまでたっても淫行の匂いが漂ってこない。
”いや、ひょっとしたら本当にこのまま・・・!?”
 そんな祈りにも似た期待を抱きながら、少し早送りをしてみようとマウスを握り締めた直後だった。藤木の言葉に思わずマウスの動きを止めた。
  1. 2014/10/29(水) 09:03:17|
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パーティー 第19回

「二番は一番の腋の下を一分間舐め続けろだって!」
「イエーイ!」と、相楽が親指をつきたてるポーズを作った。
 二番と一番ということは、相楽が加奈の腋の下を舐めるということだ!
「ダメ!そんなの絶対ダメ!」
 加奈は少し前かがみになって、両手を胸の前で交差しながら大きく首を横に振り、叫ぶように言った。
「あかん、あかん、王様の命令は絶対や」
「これぐらいはやってもらわないとねぇ」と藤木も相楽に加勢する。
「お願い!腋の下は絶対ダメなのぉ!一分どころか一秒だってダメ!」
「はは~ん、ひょっとして加奈さん、そこ性感帯?」
 好色漢を装うような表情を作って藤木が言った。
「いやだ、違うよぉ!でもダメなのぉ」
「そうかぁ腋の下がなあ。それはぜひとも反応見てみたいなぁ」
「いやんエッチ!お願いこのとおり!それだけは許して!」と加奈は顔の前で両手を合わせた。
 藤木の言うとおりだった。私との交わりの最中、興が乗ってくると必ず加奈は『舐めて』と自ら腋を拡げで来る。無駄毛の処理を怠る冬場などは、僅かに伸びた腋毛を前歯で噛んで引っ張ってやると、それまでとは明らかに異なるトーンで咽び泣くような声をあげる。乳首や局部を攻めたときよりも、むしろ反応が大きいほどだ。それほどに、腋の下は加奈の官能器官なのである。

「わかった、わかった、じゃあさ、触らなきゃいいでしょ。顔を近づけて匂いを嗅ぐってのはどう?」
「匂い!?、それもやだぁ~!」
「ダメダメ、どっちかだよ」
「ええ・・・やだなぁ・・・」
「さあ、どっち?」
 両手を頬にあてがったまま、
「じゃあ・・・、匂いの方・・・」と加奈が渋々の口調で言った。
「よし決まった」と藤木が指を鳴らし言った。
「オレは舐める方がよかったんやけど・・・」と相楽が不貞腐れた顔を見せる。
「文句言わない。さあ加奈さん、腋ヌードオープン!」
 藤木の言葉に、加奈はおずおずとした動作で両腕を持ち上げた。ワンピースはノースリーブだ。腕を上げただけで腋の下が丸見えになる。
「ほらもっとこうして両手を頭の後ろに持っていって。ちゃんと見えてから一分間だからね」
「加奈さん頑張って」と佳澄さんが楽しそうに小さな声援を送る。
「いやだもう・・・」言いながら、加奈は腕をさらに上げ、後頭部のあたりで両の掌を重ね合わせた。きれいに剃りあげた腋が、完全に剥き出しになった。腋の下の底の部分がぽっこりと突き出るほどだ。
 加奈は学生時代、本格的にバスケットボールをやっていたスポーツウーマンである。今も週に2、3度はスポーツクラブのマシンジムで筋力トレーニングに励んでいる。バストのサイドから二の腕にかけてのしなやかな筋肉のラインが健康的な官能美を描いている。
「そうそう。うわあ、悩ましいポーズだなあ。こうして改めて眺めると腋の下ってすっげえエロいよねぇ」
「いやだあ、もう変なこと言わないでよぉ!」
 と加奈がわずかに腕を下げた。
「だめだめ!ちゃんと上げてなきゃ」
 加奈がやれやれといった調子で再び腕を元の位置に戻す。
「ほんまエロいエロい。へへっ」
 相楽が右の腋に顔を近づけていく。加奈の二の腕あたりがぶるぶると震えていた。
「オレいつも思うんやけどぉ、胸やお尻を隠すことには、あれほどやっきになる女性が、こんなにエロティックな場所を、なんでこうも無防備にしてるんやろうなあ。ああ、すごいいい匂い」
 鼻先が腋の皮膚に触れるほどに近づいて、ピクピクとひくついている。
 加奈に腋臭の気はなかった。その部分はいつも無臭なのだが、やはり汗をかくこの季節はエチケットのためにパウダースプレーを使っている。レモンライムのさわやかな香りが、相楽の鼻腔を刺激しているはずだ。
 愛する妻が両の腋を無防備にさらけ出し、見ず知らずの男の顔がむしゃぶりつかんばかりの位置にまで近づき、くんくんとその匂いを嗅ぎ取っている。なんと扇情的な構図であろう。場のムードはまだまだ無邪気なものだが、この行為に私の胸の中は、淫らにざわめきたった。股間のイチモツがムクムクと反応し始めている。

「いやん!」
 突然短い悲鳴を上げて、加奈が腋を閉じた。
「ダメ~!最初からやり直しぃ!」
「だって、相楽くんの鼻息がかかってくすぐったいんだもん!」
「ほんと感じやすいんだね。旦那さんにいつもそこ可愛がって貰ってんでしょ」
「いやだエッチ。そんなんじゃないってもう!」
 藤木に図星を突かれて、僅かに狼狽する加奈の僅かな表情の変化を私は見逃さなかった。おそらく、今の遊びによって加奈の秘部からは、じわっと熱い樹液が染み出しているに違いない。

 これを境に、命令は徐々に官能的な色合いを深めていく。
  1. 2014/10/29(水) 09:04:34|
  2. パーティー・ミチル
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パーティー 第20回

「一番は、三番の耳元で卑猥な隠語を三つ囁くのじゃ」
「もう、やだあそんなのぉ!」さっきの腋攻めが気持ちを開放的にしたのか、言葉ほどには加奈に拒む気配はなかった。
「さあ、どんなエッチな言葉を囁いてくれるのかなあ。楽しみ楽しみ」
 藤木が耳元に右手を添えながらテーブルの上に身を乗り出した。
「恥ずかしいよぉ」
「早く早く」
「じゃあ・・・」
 加奈が藤木の耳元に顔を近づけた。何事かを囁いている。
「それはダメだよ。おっぱいは隠語じゃないって。”お”のつく四文字の言葉っていったら他にあるじゃない」
「もう」再び加奈が藤木の耳元へと唇を寄せた。
 なかなか言い出せないでいるのか、二人がそのままのポーズで固まっている。 
「ほんとに言うのぉ?」
「もちろん」

 しばらくして、加奈の頬が僅かに動いた。
「おおお、萌え~だねえ。こりゃなかなかいい命令だ。じゃ、あとふたつ」

 加奈が、女性器のあの俗称を口にしたことは間違いない。
 倦怠したセックスを少しでも盛り上げようと考えているのか、最近でこそようやくそういった言葉を吐いてくれるようになったのだが、付き合っている頃はもちろん、結婚してもしばらくは恥ずかしいから絶対にいやだと、加奈は頑なにそういった言葉を口にすることを拒み続けた。ああ、それがどうだ。画面の中にいる加奈は、今日初めて会った男の耳元で、易々とそれを吐き出している。

「うああ!、それやべえ!お願い、も、もう一回言って加奈さん!」
「なんや、なに言うたんや!」
「言っていい?加奈さん」
「だめ~!」

 ゲームを始めた当初、まるで消極的だった加奈が、いつしか驚くほど大胆に振舞うようになっている。加奈のこれほど奔放な姿を見るのは初めてのことだ。自分には引き出せなかった加奈の知られざる一面を垣間見せられて、嫉妬と官能が綯い交ぜになった奇妙な感覚が躰を駆け巡っていく。特別、露骨な性行為が行われているわけでもないのに、さっきから股間が熱く充血したままになっている。嫉妬とはこれほどまでに性欲を煽るものなのか。

「さあ、舐めてよ加奈さん」
「できないよぉ」
「いくらなんでもそれは加奈さんには無理だって。佳澄代わりにやってあげたら」
「いやだぁ」
 相楽が強硬に突っ込むのを、藤木が穏やかに和らげる。おそらくは計算されたものなのだろう、二人の絶妙のコンビネーションによって、加奈の羞恥の衣が、一枚、また一枚と剥ぎ取られていく。

 時間の経過とともにゲームは益々盛り上がりを見せ、四人はいつしかリビングの広い場所へと移動して、そこで車座になっている。テーブルがなくなって自由に動けるようになった分、肉体的な接触が顕著になっていく。

「もう、今胸さわったのだあれ!?」
「違う違うオレじゃないって」

 相楽の接触に対しては、どこか引き気味の加奈であったが、藤木に対してはまるで違った反応を見せた。引くどころか、それを嬉々として受けて入れている様子が見て取れるのだ。佳澄さんを瞬時にして射抜いたというまなざしに、加奈も早々と屈してしまったのだろうか。加奈の振る舞いに見える心の動きを一瞬たりとも見逃さじと、食い入るように画面を凝視し続ける私であった。

 そんな中、ついに決定的な命令が下された。なんと、加奈と藤木が一分間のディープキッスをするというのだ。
  1. 2014/10/29(水) 09:05:25|
  2. パーティー・ミチル
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パーティー 第21回

「だめ~!」
 佳澄さんが頬を膨らませた。
「藤木くんは私だけのものなのぉ」
 しな垂れかかるようにして藤木の腕にしがみつく。
「いいじゃない、せっかく盛り上がってきたんだからさ」
 藤木が佳澄さんの髪をやさしく撫で、言った。
「だめよ。だいいち加奈さんが承知しないわよ。ねえ加奈さん」

 いくら藤木の手管に参っているとはいえ、友人の彼氏を相手にディープキスなどとんでもない。私の知っている加奈ならば当然、こんな命令は一笑に付す言葉を吐き出すはずである。ところが画面にいる加奈は、
「う、うん・・・。そうね・・・ディープキッスはちょっとね・・・」とあいまいな返事をし、瞳をパチパチと瞬かせながら、妙にドギマギとした表情を見せるのだった。
”なんなんだこの表情は・・・!?、ひょっとしたら加奈は・・・!?、ときめいている・・・!?”
「わかった。じゃあさ、ガラス越しのキッスってのはどう?セピア色の映画みたいでさ。カッコよくない?加奈さんも、それならいいでしょ?」
 加奈は上目遣いに佳澄さんの顔を見た。”それならいい?、藤木くんとキスしてもいい?”瞳は佳澄さんにそう語りかけていた。
 なんということだ・・・。
 加奈のような気丈な女でさえ、こういった特別な男にかかればこうも易々と落とされてしまう。女とはこんなに簡単なものなのか。恋愛や性に関しては、むしろ男よりも女の方がアナーキーであるという。しっかりものの加奈も、例外ではなかったということか。


「加奈さん、ここに立って」
 藤木はリビングの掃きだしのガラス戸を開け、テラスの側に立って、こちらを向いた。
 ガラス戸を挟んで、藤木と加奈が向き合う格好になっている。
「加奈、愛してる・・・」
 芝居がかった口調で藤木が言い、ガラス戸に唇を重ねた。
 加奈は無言だった。照れ隠しのような言葉も吐かなかった。わずかに引き攣った微笑みを浮かべ、佳澄さんに一瞥をくれると、ガラス戸に貼りついた藤木の唇に顔を近づけていった。
「おお・・・」相楽が低い声をあげた。あれほど賑やかだった相楽も、囃し立てるような声はあげなかった。場の雰囲気は明らかにそれまでとは違ったものになっている。
 ガラスを挟んで、藤木の唇と加奈の唇がピタリと重なりあった。
 加奈の横顔がアップになる。ぴくぴくと睫が震えていた。鼻腔を抜ける熱い息が、唇の周りのガラスを曇らせている。
 誰も言葉を吐こうとはしない。長い沈黙が続く。そろそろ何かが起こりそうな予感がした。このまま一分が経過して、はいおしまい、おもしろかったねではきっとすまないはずだ。そう思った直後だった。予感は的中した。藤木の左手が行動を始めたのだ。
 ガラス戸の左側から腕を回し、それを加奈の腰に伸ばしていった。触れられた刹那、ピクリと全身を震わせたものの、加奈はこれに抗わなかった。だらりと下げていた右手を持ち上げ、伸びてきた藤木の肘の辺りを指先で摘まんだ。決して藤木の動きを制しているのではなかった。期待していたアプローチに対する無意識の喜びの反応、そう思える加奈の動きであった。
 いける。そう判断したのか、藤木はさらに腕を伸ばし、片手で加奈を抱きかかえるようにした。加奈は首を僅かに傾げながら、唇をいっそう強くガラスに張り付けた。
 すでに命令の一分は経過しているはずだが、二人がキッスをやめる気配はない。それどころか、藤木の行為はさらに刺激的な方向へと向かう。加奈の腰にあった手がするすると背中を這い上ったかと思うと、ワンピースのファスナーを摘まみ、それをゆっくりと下ろし始めるのだ。

「おい・・・」
 思わず声が出た。かぶりつくように画面を凝視する。

 驚いたことには、なんとその行為にさえ加奈は抗う様子を見せないのだ。藤木のシャツの脇腹の辺りをギュッと握り締め、左の掌をガラスに這わせながら、息遣いを荒くする。

『ねえパパ、背中しめてくれない?』
 加奈がこのワンピースを買って来た日のことを思い出した。新しい服を着て久方ぶりに女っぷりの上がった加奈を眺めながら、嬉々として着替えを手伝っていた私であった。振り向いた加奈の肩越しの笑顔が今も脳裏に焼きついている。その同じ服のファスナーを今、ほかの男が引き下ろしていくのだ。燃え上がる嫉妬の炎に胸が焦げつきそうであった。

 焦らすように殊更ゆっくりゆっくり、加奈の背中を藤木の手が滑り落ちていく。しだいに肌を露出するVの字が拡がっていき、ついには白いブラのストラップの部分が姿を見せ始めた。藤木はそこでいったんファスナーから手を離すと、今度はワンピースの開いた部分から手を差し入れ、加奈の素肌にじかに指を這わせ始めた。

”ついに来たか・・・”心臓がまさに早鐘のように鳴り響く。腋の下がじっとりと濡れてくるのを感じていた。
  1. 2014/10/29(水) 09:06:33|
  2. パーティー・ミチル
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パーティー 第22回

 場の盛り上がりを考えているのか、藤木の悦技に陶酔しきっているのか、加奈はこの行為も受け入れた。いったんガラスから唇を離し、藤木の瞳を見つめたあと、さらにねっとりと唇を這わせた。

「やめろ・・・、加奈・・・」震える声でそう呟きながら、ごくり、生唾を飲み下す。

 そして藤木の行為はさらにエスカレートする。なんと今度は、左手をブラのホックにかけるや否や、一瞬にしてそれを外してしまったのである。それはさながらマジシャンの手さばきであった。こうした手管で、数え切れないほどの女の戒めをほどき続けてきたのだろう。
「やん!」
 さすがに加奈も、この行為にはすばやく反応した。突然我に返ったようにガラス戸から唇を離し、その場にしゃがみこんだ。
「ごめん、ごめん、こりゃちょっと調子にのっちゃったかな」
「もう、知らない!」本気なのか、単なるポーズなのか、佳澄さんがふてくされた表情を見せている。
「こら藤木、やり過ぎぃ」
 画面は瞬時に元の和やかな雰囲気を取り戻している。

 ”ぶ、無事だった・・・”

 プレイヤーのポーズボタンを押し、ここでいったん再生を止めた。フーッと長い息を吐き、崩れるように椅子の背もたれに身を預け、天井を仰ぎみた。
 疲れた・・・。顔が火照っている。おそらく熱が出ているだろう。首の後ろに猛烈な痛みがある。脱力感が激しい。未だかつて味わったことのない異様な緊張感に、躰中の力が奪い取られている。

 くだらない・・・。なんてくだらないんだ・・・。
 できるものなら画面の中に飛び込んでいって、「おい、もういいだろう」と加奈の手を引いて連れ帰りたい。画面を見ながら始終そんな衝動にかられていた。しかしそんな見るに耐えない稚拙な戯れに心乱され、気づけばじわじわと漏れ出たカウバー腺液によって、下着を冷たく濡らしている自分はもっとくだらない。
 できることなら連れ帰りたいと切に思う心とは裏腹に、男達に導かれるまま、次第に性の蕾を開花させていく妻の姿に、ときめきに似た感情を高ぶらせている自分が心底情けなくなる。


 喉がカラカラに渇ききっている。水を飲もうと書斎を出た。
 廊下を進み、寝室の前で立ち止まる。

”加奈・・・”

 ノブに手をかけた。
 ゆっくりと扉を開けてみる---。
 ベッドの上に、軽く両膝を曲げ横向きになって眠る加奈がいた。かばう様に左手が、傍らで眠る直樹のお尻の辺りに添えられている。

『いやだ、違うよぉ!でもダメなのぉ』
『もう、今胸さわったのだあれ!?』
 さっきの嬌声が、頭に中にわんわんと鳴り響いている。

”あの画面の中にいる「加奈」と呼ばれている人物は、本当にここにいる加奈と同じ人物なのだろうか・・・”

 顔の形、口の形、目の形。髪の色、肌の色、少し鼻にかかった声の色。どこをどう見てもまるで違いはないのだが、感覚としてどうしても二人が一致しないのだ。あのような動かぬ証拠を見せつけられてなお、妻を信じたいと思う自分がいる。ひょっとしたらあれは加奈ではないんじゃないか。でなければ、無理矢理に催眠術のようなものをかけられていて、一時的に自分を失くしてしまっているんじゃないかなどと、あり得ないことだとは解りつつも、そんな荒唐無稽な可能性に縋ろうとしている。
 十年という歳月は、妻を完全に私の内部に同化させてしまっている。妻が私を裏切るということは、手足が私の意思に反してひとりでに動き出して悪事を働くのと同じことだ。頭では理解できていても、躰がそれを受け入れられないでいるのだ。

 そっと扉を閉め、キッチンに向かう。
 流しの前に立ち、水道のコックを全開にした。勢いよく流れ出る水を両手で掬う。飛沫が弾けシャツを濡らす。構わず口を近づけ、ごくごくと流し込んだ。砂漠化した身体に水気が染み渡っていく。

”果たしてあの続きは見るべきなのか・・・”

 まだ加奈は何もされていない。衝撃はこれから始まるのだ。にも関わらず、この激しい疲労感はどうだ。恐らくはこれから、アダルトビデオも顔負けのハレンチ極まりないシーンがこれでもかとばかりに繰り広げられるに違いない。ほんのニ、三発のジャブを食らっただけで足元も覚束なくなっているのに、これから繰り出されるメガトン級のパンチの連打に、果たしてこの身は持ち堪えることが出来るのであろうか・・・。想像するだけで、烈しい恐怖に押しつぶされてしまいそうになる。
 何を叫ばされるのだろう。何度気をやらされるのだろう。それを目の当たりにした私の中に果たしてどんな異常な感情が芽生えるのだろう。そして、すべてが終わった後に津波のように襲い来るであろう途方もない喪失感は、私を、私達夫婦を、そして家族を、どこへ押し流してしまうのだろう。俯き、流しの縁に両手をつきながら、あれこれと思いを巡らせているそのときだった。

「ねえ」

 あまりの驚きに、一瞬躰がビクンと跳ね上がった。なにやら鋭利なものを背中に突き立てられたような思いがする。
 振り向くと、ダイニングの入り口のところにパジャマ姿の加奈の姿があった。
  1. 2014/10/29(水) 09:07:33|
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パーティー 第23回

「び、びっくりした・・・」

「そんなに驚かなくてもいいじゃない。どうしたの具合でも悪いの?顔が赤いわよ。熱があるんじゃない?」と、加奈が私の額に手を伸ばしてきた。私は咄嗟に顔を後ろに引き、その手を緩やかに払いのけた。
「なんなの?なにか怒ってるの?」
「いや・・・。熱なんかないよ、大丈夫だ。おまえこそどうしたんだ。めずらしいじゃないか、こんな時間に起きてくるなんて」
「なんだか眠れなくて」と軽く髪をかきあげ、充血した目をパチパチとしばたかせた。
「やっとうとうとしかけたら、あなたさっき寝室のぞいたでしょ。あれでまた目が覚めちゃった」
「そうか・・・、悪かった」
「ほんとどうしちゃったの?今日は変よ。私、なんか気に障ることでも言った?」
「いやなんでもない・・・」

「ねえ、一緒に寝ない?」
「ええっ?」
「昔、眠れないときはよく後ろからギュって抱きしめてくれたじゃない。ねえあれやって」と、加奈がまるで邪気のない笑顔を向け、私の手を引いた。

「よくもそんな平気な顔していられるもんだな!」

 もしやここで、そう声を荒げ、「オレが何にも知らないと思っているのか!ちょっと来い!」と加奈の髪を引っ掴みながら書斎へ連れて行き、「これはどういうことなんだ!説明しろ!」などと派手な修羅場を演じたら、一体私たち家族はどうなってしまうだろう・・・。
 はっきりとした気性の加奈のことだから、このまま一生私に負い目を背負ったまま夫婦生活を続けるよりは、いさぎよく離婚の道を選択することだろう。もしもそんなことになってしまったら・・・。
 事情を知った厳格な加奈の父が、こいつを殺してオレも死ぬと激昂する・・・。
 血圧の高いうちのおふくろは、ショックのあまりに倒れてしまうかもしれない・・・。
 加奈と二人、ダイニングのテーブルに向かい合って座り、震える手で離婚届にハンコを押す・・・。
 ありがとうと言う、元気でと言う・・・。子供達に最後の抱擁をする・・・。ガチャリ・・・すべての終わりを告げるように扉が閉まる・・・。
 一人残された部屋で、過ぎ去りし日々に思いをはせながら、落涙に咽ぶ・・・。二人で選んだリビングのカーテンがやさしく風に揺れている・・・。
 まるで早送りのVTRを見るように数々の情景が、次々と頭の中を駆け巡っていく。

「ねえ、どうしちゃったのボーっとして」加奈の言葉に我に返った。
「やっぱりどっか具合悪いんじゃない?ねえ一緒に寝ようよぉ」
 と加奈がめずらしく甘えた声を出し、両手で軽く私の右手の指を掴んで、ぶらりぶらりと左右に振った。

 どうしてよりによってこんな日に、こんな態度を見せるのか。

”なんだか眠れなくて”
 まさか、書斎での様子が覗き見られていた?!
 いや、それならこんな態度には出まい。感の鋭い女だから、私の内に起きている尋常ならざる変化を敏感に嗅ぎ取って、躰が自然に防御本能のようなものを働かせているのか。

「せっかく眠りかけたのに、あなたが起こしちゃったのよ。責任あるぞぉ」
 と、一層甘えた声で言う。
「いや今日は勘弁してくれ。どうしても明日提出しなけきゃいけない企画書を作ってるんだ。もしかしたら徹夜になるかもしれない」と、スルリとその手を解いた。
「そう・・・残念。でも疲れてるみたいだからあんまり無理しないでね」
「ああ」
「おやすみなさい」
 踵を返し、加奈が寝室に向かう。そのときだった---。
 突然、言いようのない不思議な感情が湧き上がってきた。加奈の背中がなにやらとても儚げに見え、後ろからしかと抱きしめたい衝動に駆られるのだ。
 これは一体どういう感情なのだろう・・・。
 怒りがあるのは確かなのだ。何が不満だったのだ、どうして私がこんな理不尽な目に遭わなくてはならないのだと。
 しかし今、それを遥かに凌駕する強い思いが、胸底からどうしようもなくムクムクと湧き上がってくるのだ。

 DVDを見終わって寝室の扉を開けてみると、ベッドの上には直樹だけが眠っていて、加奈の姿はどこにもない。居間にも、キッチンにも、トイレにも、風呂場にも、そしてベランダにも・・・。携帯電話や財布は残されている・・・。夜の夜中、うちの中から忽然と加奈が姿を消してしまう。そんなファンタジー映画のようなストーリーが頭の中に瞬時に組み立てられていって、切なさにぎゅっと胸が締め付けられる思いがするのだ。
 ひょっとしたら今の会話を最後に、二度と加奈と言葉を交わすことができないんじゃないか。もう二度と肌を合わせることはないのではないか---。なにやらこれが今生の別れのような思いがして、猛烈に加奈が恋しくなるのだ。

『オレは純粋に女房に裏切られたいんだ。そしてそのことによって死ぬほどの切なさを味わいたいんだよ』
 佐久間氏が言っていた”死ぬほどの切なさ”とはこういうことだったのか・・・。

 たまらず、「そんなに眠れないのか」と淋しげなその背中に声をかけた。
 寝室の扉を開けようとしていた加奈が振り向いた。
「うん・・・」
「わかった。じゃあ、おまえが眠れるまで一緒に添い寝するよ」
「ほんと!」と加奈が大きな瞳を輝かせた。
  1. 2014/10/29(水) 09:08:35|
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パーティー 第24回

 直樹を下の布団に勇樹と並べて寝かせ、ベッドの上で加奈を後ろから抱きしめるようにして横になった。
「昔思い出すね」
 不思議な抱き心地だった。昨日まで自分の躰の一部のように馴染んでいた加奈の躰が、まるで見知らぬ女を抱いている様に馴染まないのだ。
「どうしたの?胸がドクドクいってるよ」
 異常を示しているのは心臓だけではなかった。股間が痛いほどに起立している。それだけは覚られまいと、僅かに腰を引いた姿勢をとった。
 これほど酷い仕打ちを受けているのに、どうしてこんな気持ちになるのか。十四年前、一人暮らしの自分の部屋で初めて加奈を抱いた時のあの感覚。二人とも充分に意識しているのにふざけてばかりで、いつまでたっても思った雰囲気になれずにいて、ようやくの思いでベッドの上で重なり合えたときのあのときめき、あの感動。同じ思いが今、この胸にある。加奈を誰にも渡したくない。加奈は私だけのものだ。夫婦愛とか家族愛などという以前に、ただ単純に一人の女としての加奈が好きだという感情。十年の結婚生活の中で、いつのまにか色褪せ、古ぼけ、くたびれてしまったものが、今鮮やかにこの胸に甦っているのだ。
「やっぱりどこか悪いんだって。躰が熱いよ。無理しないで今日はこのまま一緒に寝ようよ」
 できることなら、そうしたい。目覚めたら今日の出来事はすべてが夢で、ただ加奈に対するこの新鮮な気持ちだけはそのままに残っている。そうであったらどんなにいいだろうと思う。
「最近ちょっと忙し過ぎない。いやよぉ、下の村田さんとこのご主人みたいに狭心症の発作で突然、なんて」
”狭心症の発作・・・”
 DVDのこれからの内容によっては、ひょっとしたらそんなことが起こるかもしれない。朝になって加奈が書斎の扉を開けると、椅子に腰掛けたまま亡骸になった私がいる。パソコンの画面には獣と化した四人の酒池肉林の狂態が映し出されている。なにがなにやらわけがわからず、両手で顔を覆い、発狂するように泣き喚く加奈。なんとおぞましい光景か。まるでホラーだ。想像することさえ恐ろしい。

「このごろね」
「ああ」
「あなたと結婚して本当によかったなあってつくづく思うの」
「なんだよそれ」
「ユキ覚えてる?」
「ユキって・・・、ああ、高校のときの」
「そうそう。一度旦那さんとうちに遊びに来たことあったじゃない」
「ああ」
「彼女、離婚したの」
 突然、加奈の口から離婚の二文字が出て、ぎゅっと胸が締めつけられる思いがする。さっきの離婚の情景が再び頭をよぎる。
「原因は何だと思う?」
「さあ」
「DVだったんだって」
「DV?」
「ドメスティックバイオレンス。家庭内暴力よ。あんなにやさしそうな旦那さんだったのに。人は見かけだけじゃほんとわかんないものよねえ」
 とてもそんな男には見えなかった。うちに遊びに来たときの小太りで人なつっこい風貌を思いだした。
そんな男が今の私のような仕打ちを受けたら、いったいどんなことになってしまうのだろう。憤激のあまり、妻を殺めてしまうだろうか。それを思うと、私のこの感情は何なのだ。加奈に平手打ちのひとつもくれてやるぐらいの怒りがどうして湧いてこないのか。ひょっとしたら、本当は私は加奈のことなど、大して愛してはいないのではないか。加奈のことを守ろうなどとは、本当は思ってはいないのでないか・・・。
 自分の本当の思いが、いったいどこにあるのか・・・。今私は、完全にそれを見失っている。

「志穂のところも、なんだかあぶないみたい。昨日電話があって散々愚痴聞かされちゃった。こっちは強烈なマザコンだって。大恋愛だったのよ彼女。両方の親に反対されて、駈け落ち同然で一緒になったのに・・・。それが、今では触れられるのもいやだって言うの。あっちの方も、もう一年以上もご沙汰なんだって。どうしてそんな風になっちゃうのかなあ。それに比べたら、ほんとうちはうまくいってるよね」
”あっちの方・・・”
 決してセックスとかエッチなどとあからさまな言葉は吐かない慎ましい女が、煌々と照らされた明かりのもとで、初めてあった男達にこの身の隅々までをも晒けだしたのかと思うと、あまりの口惜しさに張り裂けそうな思いになる。
「ねえ、そう思わない?」
 それにしても、どうしてこんな日にはかったようにこんな話をするのか。いくらなんでもタイミングが良すぎるではないか。やはり、加奈は私があのDVDを見ているのを知っているのではないか。そのうえでわざとこんな話を持ち出して、私を弄んでいるのではなかろうか。実は私以外の人間は皆、裏で繋がっていて、よってたかって私を陥れているのではあるまいか・・・。書斎には小型カメラのようなものが仕掛けられていて、私の様子がどこか別のところで盗み見られている・・・。あるいはインターネットを通じてこの手の嗜好を持つ夫どもに、加奈の映像ともども配信されてるのではあるまいか・・・。もしかしたら佐久間氏が、いやちょっと待て、ちょっと待て・・・。
 それはあまりに考えが突飛すぎる。ドラマや小説じゃあるまいし、そんなことが易々と現実の世界で起こるはずがないでないか。それになんの恨みがあって、加奈が私にそんな惨いことをするというのか。
 妻の貞操という唯一無比の絶対的な信頼を失って、何もかもが疑心暗鬼に囚われてしまう。これから先、ずっとこうなのかと思うと暗澹たる気持ちになる。

「ねえったらぁ」
「ああ」
「もう、さっきからああとか、さあとかばっかり。やっぱりなんか怒ってる」
「だから怒ってない」
「怒ってるよぉ」
「・・・」
 私が答えずにいると加奈は、「じゃあ、もっとギュウってして」と、自分のお腹のあたりに添えられている私の手を取り、それを胸の位置にまで持ち上げた。
 いったいこの態度は何なのだ。本当に単なる偶然なのか・・・。
 私の困惑をよそに、この後加奈は、さらに不可解な態度に出る。

「どうした、おまえも今日は変だぞ」
「わかんない。でもなんだかとっても甘えたい気分なの」
 言われたとおりに、両腕にいっそう力を込め、包み込むようにして加奈を抱いた。
「うん、そう・・・・」
 加奈の体温が伝わってくる。洗髪後のやさしい香りが鼻腔をくすぐる。
”私だけのぬくもりだったのに・・・。私だけの匂いだったのに・・・。”
 そう思うと、もっともっと強く烈しく抱きしめて、このまま加奈を壊してしまいたくなる。鼻先を髪に埋め、深い呼吸をした。と、そのときだった。

「こうしていつまでも、しっかり掴まえててね。離さないでね・・・」

 突然、これまでの軽い口調とはあきらかに違う、どこか儚げな声で加奈が言った。
「どうした?やっぱりおかしいぞおまえ」

「いけない?、甘えたいの。いけない?」

 言って、加奈はくるりとこちらに寝返りをうった。
「おまえ・・・」
 驚いたことに、瞳が潤んでいる。
「おい・・・」

「好き・・・」

「えっ?」

「あなたが好き、大好き・・・」

 そう言って、私の胸に強く顔を埋めてくる。
「加奈・・・」

「お願い抱きしめて・・・。もっと強く・・・。離さないって言ってほしい・・・」

 すすり泣く声で加奈が言う。私のシャツに生温かい加奈の涙が広がっていく。

「おい、なにかあったのか」「泣いてちゃ、わかんないだろ」
 何かしら言葉をかけるたび、泣き声がどんどん大きくなっていく。終いには、深々と息を引いてしゃくり上げるほどの号泣になった。

”どういうことなんだこれはいったい・・・!?”

 私の胸の中で、大柄な加奈がまるで子供のように小さくなって、ひたすら泣きじゃくっている。
  1. 2014/10/29(水) 09:10:03|
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パーティー 第25回

 泣き疲れた加奈が、私の胸にしがみつく様にして深い眠りに落ちている。
 あの涙はいったいなんだったのか・・・。
 あれからいくら問いただしても、ただ泣き続けるだけで、とうとう最後までわけを話そうとはしなかった。
”離さないって言ってほしい・・・”
 泣きじゃくる加奈の背中をさすり、髪を撫で、ときおり強く抱きしめながら、私は懸命にその言葉の意味を考えていた。

 早くに結婚して、これまでひたすら貞淑な妻、可愛い妻として夫に尽くしてきた。代わり映えのしない毎日。夫との交わりはマンネリの極致。一度くらいは思い切りハメを外してみたい。冒険をしてみたい。週刊誌やレディコミにあるような刺激的な体験をしてみたい・・・。そんな思いから、誘われるままあんなハレンチな行為に身を投じてしまった。ところが、思い描いていたことがいざ現実のことになってしまったら、あまりの罪の意識の大きさに押しつぶされそうになってしまった。私に申し訳が立たず、あれからずっと苦しんでいる。
 願わくばあの涙が、そうした自責の念に駆られたものであればと思う。しかしながら、さっきの加奈の振る舞いを思い返すに、あの涙のすべてが私にとってそのように都合のいいものであったとはどうしても思えないのだ。

『あなたと結婚して本当によかったなあってつくづく思うの』
『それに比べたら、ほんとうちはうまくいってるよね』
『あなたが好き、大好き・・・』

 あれらの言葉は、私に対する贖罪の思いから発せられたものなどではなく、必死に自分に言いかせるための言葉ではなかったか---。

 あの日以来、初めて夫以外に肌を重ねた男のことが忘れられなくなってしまった。日ごと夜ごと思いだしては烈しい恋火に身を焦がし、丹念な愛撫を施された部分へと右手を忍ばせてしまう。日を重ねるうちに気持ちはどんどん膨らんでいって、ついにはどうにも抜き差しならないところまできてしまった。一夜のアバンチュールが本物の恋に転化したのだ。私に泣いて縋り付くことで、そんな気持ちをなんとか制しようとしている・・・。自分ひとりでは最早どうすることもできない。自分の心をなんとかあの男から奪い返してほしい。千切れてしまいそうになる心をなんとか掴まえていてほしい・・・。あの涙はそうした自制の涙ではなかったか・・・。そうした思いが、あの”離さないって言ってほしい・・・”という最後の言葉にすべて集約されているのではないのか・・・。

 ああ、なんという惨めさだろう・・・。
 私は、たったひとり愛する妻の躰だけでなく、心さえも奪われてしまったのだ。私は今、あの妻物語の住人が泣いて羨むほどの、みごとなまでの寝取られ亭主に相成ったのだ。

「加奈ひどいよ・・・」
 言いながら、そっとその髪を撫でてみる。
「なにをされたんだ。そんなによかったのか。泣きたいほどよかったのかよ。忘れられないほどよかったのかよ。ああ、堪らないよ加奈・・・。気が変になりそうだよ。なんとかしてくれよ・・・。泣きたいのはオレの方だよ。しがみつきたいのはオレの方なんだよ」
 まるで亡骸に話しかけるように、加奈の寝顔に向かい、呟いた。いや、事実亡骸なのかもしれない。私への操を頑なに守り続けたあの日までの加奈は、もうこの世にはいないのだ。
「でも不思議なんだ。こんな酷いめにあっているのに、どうしてもおまえのことが憎めないんだ。それどころか愛しくて愛しくて堪らない気持ちになってる。どうしてかな・・・」
 加奈の髪をかきわけ、ひたいに口づけをする。
「抱きたいよ加奈。抱いて、抱きしめて、無茶苦茶にしたいよ。そして訊くんだ。しながら訊くんだ。何をされたのか。何を言ったのか。おまえの口から訊きたいんだ。残らず全部訊きたいんだ。ああ、もう我慢できないよ」

 ズボンを下着もろとも足元までずりおろし、いきり立つ一物を握り締めた。
 瞳を閉じて、妄想の世界へとトリップする。


 加奈の体を仰向けにして、腹の上に馬乗りになる。
『同窓会なんてウソなんだろ?』
『えっ!?』
『知ってるんだよオレ、全部』
『えっ!ど、どうして・・・!』
 妄想の中の加奈が驚愕の表情を浮かべ、絶句する。
『怒らないから、言ってごらん』
『・・・』
『したんだろ?』
『・・・』
『さあ、言ってごらん』
『ごめんなさい・・・』
 瞳から再び大粒の涙が溢れ出す。
『なあ、したんだろ?』
 私の問いに、加奈の首が小さく縦に振れる。
『なにをした?』
『お願い許して・・・』
 震える唇で加奈が言う。
『ああ、許すよ。怒ってなんかいない。だからちゃんと言ってくれ』
『ごめんなさい・・・』
『もう一度きく、何をした?』
『・・・いやらしいことです・・・』
『それじゃわからない』
『・・・セックスをしました。ごめんなさい・・・』
『何人とした?』
『そんな・・・』
『ふつうじゃないんだろ』
『あああ・・・』
『ねえ、言ってよ』
『ふたり・・・、ふたりの男に挟まれてセックスを・・・』
『よかったか?』
『はい・・・』
『オレのよりか?』
『もう許してください・・・!』
『言って。正直に言って』
『言いたくありません!』
『言え!!言うんだ!!』
 加奈のパジャマを左右に力一杯割り開く。ぶちぶちと音をたて、ボタンがはじけ飛ぶ。Eカップの乳房が剥き出しになる。パジャマのズボンをショーツとともに引き摺り下ろす。加奈の裸身が部屋のあかりに煌々と照らされている。
『いや!』
 両の手首を掴み万歳の格好をさせ、自分の両足を使い、加奈の両足を左右に思い切りかき拡げる。なんて眩しい躰なのか。なんて淫らな躰なのか。尖った乳首をむさぼるように口に含む。
『ここも愛されたのか!』
 喘ぎながら、ガクガクと加奈の首が振れる。
『吸われたか!引っ張られたか!噛まれたか!』
『された・・・されたました・・・あああ・・・』
『言え!どっちかよかった!言え!言うんだ!』
『あああ、あ、あっちの・・・』
『言え!言えっ!』
『あっちほうがよかったぁ!あなたよりよかったぁ!』
『ここに入れられたのは本当か?』
 乾いた肛門にグリグリと指を捩じ入れる。
『あああっ!そこはイヤ!』
『入れられたんだろ!』
『いや!いやあああ!』
『あいつらに入れさせて、オレはだめなのか!』
『あああ・・・、許してぇ!許してぇぇ!』
『入れられたんだろ!言え!言ってくれ!』
『・・・は、はい、入れられました・・・』
『こうか、こうやって入れられたか!』
『あああああああっ!』
『こうか!こうなのか』
 根元まで深々と指を突き入れる。
『違う・・・』
『ええ?』
『違う!違う!もっと奥まで・・・』
『加奈・・・おまえ・・・』
『あの子達の指は長いの!バイブみたいに長いの!』
『畜生!こうか!こうかっ!』
『違う!もっと深く!お腹の中まで入れられたぁ!』
『加奈、好きなのかあいつが』
『ああああ・・・』
『こうやってウンコの穴を穿られて好きになったか!』
『す、好きよ!』
『なんだとぉ』
『好きなの!彼のことが!あなたより好きなの!ごめんなさい!ごめんなさい!!』
 自分の頭の中でこしらえた加奈のその言葉が、私に最後の止めを刺した。とてつもない絶頂感だった。頭の中が真空になる。寝ている加奈の頭を抱き、髪の中に深く顔を埋めて、「くぅ・・・」と叫びとも、泣き声ともつかぬ声をあげながらシーツの上に射精をした。涙が出た。あとからあとから湧いて出た。加奈の躰を離れ、ベッドの上でのたうちまわるようにして泣いた。声を殺して、ただただ泣いて、泣いて、泣いた。
 これまでまるで脳内モルヒネのように苦しみを紛らわしてくれていた性欲が精子とともに流れ出て、そのあとに残る、悲傷、寂寥、虚脱、失望、絶望・・・。このまま加奈を殺めてしまえば、少しは楽になるだろうか。憎しみからではなく、私一人の加奈にするためにこの手で殺めてしまえば・・・。
 なにも知らず、加奈は深い眠りの中にいる。
 「加奈・・・」
 そっと、両手をその白く細い首にかけてみる。
 「誰にも渡さない・・・」
 私の涙がひとしずく、眠る加奈の頬に落ちた・・・。



 どれくらい経ったろう・・・。
 ゆっくりとベッドを抜け出した。振り返り、子猫のように躰を丸めた加奈を見下ろす。

「加奈、見てくるよ・・・」

 オレの知らないもう一人のおまえをこの目でちゃんと確かめてくるよ。あの涙のわけを探してくるよ。
 怖いよ加奈・・・。とっても怖いよ。
 でも見るよ最後まで。逃げないよ。そのうえでもう一度ちゃんと向き合おう。
 愛しているよ加奈・・・。何があっても離さない。おまえはオレだけのものだ。

 書斎に戻り、机の椅子に腰を下ろす。大きく深呼吸をする。
 マウスを握る。
 果たして、どんな衝撃が私を待ち受けるだろうか・・・。
 震える手で再生ボタンをクリックする。

 私の妻物語---。
 
 本編の始まりである。
  1. 2014/10/29(水) 09:11:45|
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パーティー 第26回

 再開あけの映像は、それまでとはあきらかに異なる、なんとも淫らな色に染まっていた。
 藤木がリビングの壁にもたれながら足を大きく広げて座り、その間に佳澄さんがいて、とろけた表情で藤木の胸にしな垂れている。ウエストには藤木の両腕が巻きつき、その上に佳澄さんの手が優しく添えられていた。
 二人の表情がこれまでとは全く別なものになっている。淫欲の潤滑油が全身に行き渡り、いつねっとりとした絡みが始まってもおかしくない、そんな妖しい風情なのだ。

「加奈さん、ちょっと手貸して」相楽の声がした。
「もう、なにすんのぉ」
 鼻にかかった甘えた声が聞こえてくる。

 加奈の声だ――――。

 この声がしだいにもっと湿り気をおび、いつしか烈しい喘ぎに変わる。最後には”お願いもっとぉ”と泣き喚くことになる。
”お願い抱きしめて・・・。もっと強く・・・。離さないって言ってほしい・・・”
 同じ声で・・・。私の胸の中で泣きながら囁いたその声で・・・。

 画面が引きの絵になり、二人が姿を現した。
 加奈が横座りの形になっている。シニヨンの髪は解かれていた。傍らで相楽が躰を横にしている。

「おい・・・」思わず声をあげた。
 
 男の頭が加奈の膝の上にのっている―――――。

さっきまでは相楽の接触には露骨に嫌悪の態度を示していた加奈が、なんとその相楽にひざまくらを許しているのだ。
 「最高の癒しや」眼を閉じ、相楽が呟いた。
 それだけではない。相楽が加奈の手をとり、タンクトップの首元から自分の胸を触らせているではないか。
「こうやって胸触られると落ち着くねん」
「もう甘えん坊なんだから」
 加奈はまるで嫌がる様子をみせていない。それどころか、
「わあすっごい、胸かっちかっち!。なんかスポーツやってるの?」
 とやたらとあちこち撫でまわしている。

 『さあ、三人とも今日は耳の大掃除よ。順番におかあさんの膝の上にいらっしゃい』
 加奈の膝は私達家族の癒しの枕だ。今そこに、見ず知らずの若い男の頭がのせられていて、まるで恋人同士のような振る舞いをみせている。嫉妬が呼吸を荒くする。さっきの射精で萎れた性器が、早くもムクムクと反応を始めている。

「相楽くんの胸、すべすべしてて、とても気持ちいい」
「藤木くんのもそう。ダンナとは皮膚の感触がまるで違うのよねえ」
「皮膚の感触?、なんだいそれ」
「いい男はね、みんな肌がすべすべしているの。上質の脂でしっとりとコーティングされている感じ。これは年齢の問題じゃない」佳澄さんが言う。
「ほんまそれ」
「ほんとよ、肌がよくないとセックスもよくない」
「藤木のはそんなにいい?」
「最高よ。胸を重ね合わせただけでウットリしちゃう。この人に抱かれてるとね、なんだか真っ青な海でイルカと戯れてるみたいな気分になる。それに比べてらウチひとはくたびれたトド」

 普段の佳澄さんからは想像もつかない言葉である。若い男の胸に包まれながら、淫らな表情でこんな言葉を吐く妻を、佐久間氏はなおもやさしい思いで見つめることができるのだろうか。いくらなんでも佳澄さんがここまでのめり込んでしまうとは、さすがの佐久間氏も計算外だったのではあるまいか。
 もしや加奈の口からこんな言葉が吐き出されたら・・・。

「でも、ダンナさんともちゃんとやってるんやろ」
「もちろん。週に3回はお勤め果たしてるわ」
「へえ~」
「眠る前の体操みたいなものだから。うちのひととのセックスはもっぱら美容と健康のため。それと日頃の感謝のしるし」
 会話の間、加奈の手はずっと相楽に握られたままだ。さっきまでのように引き気味の態度は見せていない。
 こうしてこのまま加奈の躰は、この関西弁の軽薄な男に奪われてしまうのだろうか・・・。ひょっとしたらさっきの涙はこの男が原因で・・・? まさかこんな男に・・・!? 考えただけで、口惜しさに身震いがする。

「加奈さんのところはどうなん?」その相楽が膝の上で首を反らして加奈を見上げ、言った。

ドキリ・・・。相楽がセックスの話題をわれわれ夫婦に切り替える。なにやらイヤな展開になりそうな気がした。バクバクと心臓が鳴る。

「どうって?」加奈がとぼけた答えをした。
「エッチや、エッチ。どれくらいのペース?週に3回、4回、それとも毎日?」
「やん、毎日だなんて、とんでもない」
「じゃ、週に1回、2回?」
「ないんだって」と佳澄さんの声。
「え?ないって、どういうこと?」
「ねえ、加奈さん」
「うん・・・、みつきに1回くらい・・・」と加奈が消え入りそうな声を出す。
「みつきに一回!?」と、相楽が頓狂な声をあげた。
「そんな大げさに驚かなくてもいいじゃない・・・」
「ほんでも、みつきに一回って!」
「だって子供が二人もいるのよ。そんなものよ」
「だめだめ。男と女の仲はセックスがなくなっちゃったらお終いだよ。もっと頑張んなくっちゃ」
「そうだけど・・・」
「どっちの問題なん?ご主人、加奈さん」
「う~ん、どっちかっていうと私・・・かな」
「なんで、ダンナさんのセックスは不満?」
「別にそんなことはないんだけど・・・」

” ないんだけど・・・“ 加奈のなにやら余韻を残すものいいが私を不安にさせる。ああ、誰か早く話題を変えてくれないものか。こんな連中に自分たちの夫婦生活のことをあれこれ言われたくない!”
しかし案の定、いやな予感は的中する。次の一言が私をまた一歩奈落の底へ引きずり込む。

「つまないんだって」
と佳澄さんがいたずらっぽい笑顔を見せた。悪魔の笑顔だ。

「えっ、そうなの?」
「この頃いっつも私に愚痴ってるんだよ加奈さん。あんまり退屈なんであくびが出そうになるんだだって」
「ちょ、ちょっともう!、余計なこと言わなくてもいいのぉ!」
加奈が慌てた様子で、右手を伸ばし、手のひらを左右に振る。
「だっていつも言ってるじゃない」
「やん、もういいって!」
「こんな可愛い奥さんといっしょに暮らしてて、みつきもお預けやなんてダンナさん可愛そ」
 と相楽は寝返りを打ち、うつぶせの状態になった。頬を加奈の膝の上に乗せ、両手をウエストにまわす。
「やあん、もう」
“やめろ!こいつ!”殴りかかりたい衝動が、胸底から湧き上がってくる。

 恐れていた展開になってしまった・・・。
”セックスがつまらない・・・”、”あんまり退屈なんであくびが出そうになる・・・” 
 衝撃の言葉であった。

 本心なのか・・・。加奈も、余計なことは言わなくてもいい、とは言ったが、否定はしなかった。

 確かに回数は少ないが、それゆえ、みつきに一度の交わりはそれなりに充実したものになっているという思いがあった。それは加奈も同じだと思っていた。交わりの最中、加奈の顔を両手で包みこみ「愛してる、愛してる」と囁くと、「私もよ。大好き。愛してる」と応えてくれる。何度も言ってくれる。
「もう良すぎて死にそう」、「おかしくなっちゃう」そんな情熱的な言葉を何度も何度も囁いてくれる。
 終わったら、ぐったりと加奈はしばらく起き上がれない。ときには鼻の頭に珠の汗を浮かべ、ぜいぜいとした喘ぎがしばらくは収まらないこともある。次の朝、玄関先で「昨日はよかったね」と耳元で囁いて私を送り出してくれるときもある。そんな昔のことではない。いや、この前もそうだった。

 それが、あんまり退屈なんであくびが出そうになるだと・・・!?
 あれもこれも、みんな演技だったといいのか・・・!?。

 それは違う!絶対に違う!遊んでいる友人の手前、調子を合わせているだけなんだ!

「ところで、加奈さんはどうなの?」
「なにが?」
「みつきの間、どうしてるの?」藤木の眼がキラリと輝いた。
「私?、どうって・・・、別になんにもないわよ・・・。さっきも言ったじゃない」
「一人エッチとかもないの?」
「ええっ?、ないよそんな・・・」

「ほんとかなあ~」
 佳澄さんが、にんまりと意味ありげな笑みを浮かべている。
「な、なによ・・・」
 加奈がなにやら狼狽した様子を見せながら、床においてあったグラスを口にした。
 しきりに髪をかきあげている。動揺しているときに見せる仕草だ。瞳がくるくると忙しく動き回わり、ときおりちらちらと佳澄さんの顔をうかがっていた。
新たな恐怖が近づいている。
  1. 2014/10/29(水) 09:12:48|
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パーティー 第27回

「あれぇ、どないしたん加奈さん。顔赤いよ」
 相楽が首を傾げ、下から加奈の顔を覗き込んでいる。
「やあん・・・」加奈が慌てて相楽の顔を両手で覆い隠す。

「加奈さん、ウソ言ってるぅ」
 佳澄さんがそう声をあげ、またもや悪魔的な笑顔を見せる。
 もはや、これまでの佳澄さんに対するイメージは完全に崩壊した。今はただ、妻を私から強引に奪い去る魔女にしか見えなかった。

「なになに、どういうこと?」藤木が佳澄さんの顔を覗き込む。
「あのね・・・」佳澄さんが藤木に舐めるような耳打ちをする。
「ちょっともお、ほんと余計なこと言わなくていいったらあ!」
 加奈が一層強い調子で言った。声に余裕がなくなっている。
 
 ほんとうに厭な展開になってきた。どうやら女同士でのみ共有している加奈の秘密が藤木に告げられているらしい。 どんな秘密なのか。恐ろしい予感がする。気がつけば私は、マウスを握り締め、画面の停止ボタンにポインタを合わせようとしていた。まるで躰の防衛本能がこの倒錯した思いに反旗を翻し、無理矢理に私を制御しようとしているかのようだ。
 
「へえ~加奈さんがねぇ。こりゃ驚いた!」
「おおい、オレにも聞かせろぉ!」
「こらあ、もう、子供は膝の上で寝てなさい!」加奈が両手で相楽の頭を押さえつける、
「まてまて、あとでゆっくり聞かせてやる」

「加奈さん」
 これまでとは明らかに異なるトーンで藤木が妻の名を呼んだ。

「な、なに・・・」加奈の声が震えている。

「イッたこと・・・、ある?」

 そう言った瞬間、藤木の表情が豹変した。これまでの柔和な表情が消え、女落としのプロとしての淫蕩な表情に切り替わったのだ。ついに彼らの”仕事”が始まるのか---。

「なによ突然・・・」
「イクだよ、イク。絶頂、エクスタシー、オーガズム、アクメ」
「そんないっぱい言ってくれなくてもわかるって・・・。ある・・かな・・・」
 加奈が複雑な表情を見せている。
 藤木の表情の変化に何かが近づいていることを痛いくらいに感じているはずだ。このままズルズルと流されてしまうことに対する不安と恐怖。こわい!逃げ出したい・・・。でも・・・。
 これまで見たこともない夢の世界へ足を踏み入れることへの期待、胸の高鳴り。性能のいいカメラは、加奈のそんな微妙な心のあやまでをも描き出していた。
 夢先案内人である藤木に手を引かれ、妻が淫夢の世界へと導かれていく。私がいくら手を伸ばし、どんなに叫んでみても、振り向きもせずに・・・。

「それって中イキ?」
「中イキ?なにそれ?」
「クリトリスでいく、クリイキじゃなくて、おちんちんの出し入れだけでいっちゃうってこと」
「ああ、それは・・・ないかも・・・」
 加奈がまたひとつ、夫婦の秘密を白状する。加奈のいうとおりだった。ペニスの出し入れだけでイカせたことはない。

『イキたいの・・・』『うん』
 その言葉を合図に私達はいつも、わずかに躰を離した形で正常位になり、抽送を続けたまま、私が加奈のクリトリスを指で愛撫する。こうすると、ものの2、3分で加奈は絶頂を迎える。

『一度おちんちんだけでイってみたい・・・』

 そう加奈にねだられたのはいつ頃だったろうか。しかし以来私達夫婦は一度もそれに成功していない。
 私はいわゆる皮かむり、仮性包茎で、世間の男の平均がどれくらいかはわからないが、かなり早漏の方だと思っている。妻がおちんちんだけでイケないのは、出し入れの時間が短いことが原因なのではと、早漏に効く、つまりは射精遅延効果のあるサプリメントを服用したことがあった。これが意外によく効いて、かなりの時間持続はするようにはなったのだが、やはり、ペニスの出し入れだけで妻を絶頂に導くことはできなかった。


「それだよ。セックスにハマるかハマらないかは、そこなんだ。残念ながら加奈さんは未だに本当のセックスの楽しみを知らないことになる」
「本当のセックスの楽しみ?」
「そう。女の成熟ってね、ヴァギナ感覚に目覚めていくことなんだよ」
「ヴァギナ感覚?」
 まるで少女のようなまなざしで加奈が藤木の言葉に耳を傾け、彼が発する聞きなれない言葉をひとつひとつ復唱する。

「要するに膣で感じるかってこと。クリはおちんちんみたいなものだからね。これって男を知らなくても勝手に発達するものなんだよ。それに対してヴァギナ感覚は、男によって開発されるものなんだ。男の介添えがない限り目覚めることはない。最初は刺激の強いクリ感覚がヴァギナ感覚に勝るんだけど、いつしかこれが逆転する。クリトリスの刺激なんて、目じゃなくなる。でも、それが人類にとって大きな意味を持つんだ」
「人類?」
「うん。ヴァギナ感覚がクリ感覚に勝るからこそ、男と女は延々と生殖という行為をしてきたんだ。これが逆だったら、女は男を必要としなくなって、人類は絶えてしまう。だからヴァギナ感覚は圧倒的にクリ感覚に勝らなければならない」
「へぇ・・・」
「以上、渡辺○一大先生の受け売りでしたあ。要するにセックスで大事なのはいかにヴァギナで感じれるかってこと。感じて感じて感じて感じて、そこで、そこだけで絶頂を得られるかってこと。だから、中イキの味を知らないというのは、本当のセックスの楽しみを知らないということになる。加奈さん、膣で感じる?」
 藤木が真剣な眼差しを加奈に向けた。
 この男にこの表情で見つめられたら、加奈のようなうぶな女は、ひとたまりもない。まるで催眠術にかけられたかのように藤木の思い通りに反応してしまう。

「感じるわ・・・」

 このまま藤木のペースに乗せられたら、行き着く先は一つである。しかし加奈に話を切り替える余裕はなかったし、場の雰囲気はもはやそれを許さなかった。
  1. 2014/10/29(水) 09:14:07|
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パーティー 第28回


「でも最後はクリでしかイカない」
「まあ、そうだけど・・・」
「どうしてか、わかる?」
「さあ・・・」
「それは大きさだよ」
「大きさ?」
「そう。中イキにはある程度の大きさが必要なんだ。よく、セックスの良し悪しにものの大きさは関係ないって言うやつがいるけど、あんなのウソ。単なる慰めさ。気持ちのいいセックスをするためには絶対、サイズの適合性が必要なんだ。ご主人のは加奈さんのサイズに合わないんだよたぶん」
「主人のが小さいってこと?」
「そう」
「サイズが合わないと、男と女どっちも不幸。ふたりは性的不適合。動物学的には本当は結ばれてはいけないカップルだったっていうことになる」
「ええ、そんなあ、ひど~い」
この妖しい空気感から逃れたいのか、加奈は無理矢理にふざけた調子で反応するものの、藤木の表情は微動だにしない。もうおふざけはおしまいだ、眼差しがそう告げている。

 それにしてもこんな若い男にセックスの指南を仰ぐことになろうとは・・・。
 たしかに私のそれは大きくはない。人並み以下なのかもしれない。ファックだけでいかせたことはない。けれど、その分愛撫にはたっぷりと時間をかけ、それはそれは丹念に、加奈の躰のすみからすみまでをも愛し尽くしている。
 時にはそれだけでお互いに満足してしまって、ファックには至らずに終わってしまうこともある。しかしそうした静かな交わりこそ、本当に愛し合った夫婦のセックスのあり方なのだ。それは、長年連れ添って、幾度と無く肌を重ね合わせる関係になったものでしか到達できない至高の境地なのだ。
 セックスは男と女の精神と精神の結合だ。エロ小説やアダルトビデオまがいの偽物のセックスに毒された若造になにがわかるというのだ!
「けっ、知った風な口を聞きやがって!」
 パソコンの前で一人毒づいた。しかし、そんな私の言葉を遮るように、
「彼の言うとおりよ」
 佳澄さんがきっぱりとした調子で言った。

 藤木が佳澄さんの右の首筋に唇を寄せる。軽く首を傾げ、佳澄さんがそれに応える。
「私もずっと大きさなんて関係ないって思ってた。でも彼のを受け入れたとたんそれが間違いだってわかった。”大きさは関係あるぅ!”って。夫のでは決して届かない部分に私の最高に感じる部分があるの」
 佳澄さんの右手が持ちあがり、藤木の髪に絡み始める。
「そこを彼のでグリグリされたら、もうだめ。失神しちゃうくらいに感じちゃうの」
「事実してんじゃない、いつも白目剥いちゃってるし」
「やだ、バラさないでぇ!ほんとにもう今までのセックスはいったいなんだったの!?って思うの。こんな気持ちのいい部分にどうして届いてくれなかったのぉ!役立たず!って、夫のおちんちんを恨んだわ。いやん、くすぐったい」
 次第に藤木の愛撫が烈しくなっていく。

「それはほんとこの人にイヤというほど思い知らされた。この人のってほんとすごいの。まるで芸術作品。加奈さんにも見せてあげたい」
 いつの間にか佳澄さんの手が藤木の股間に添えられている。

「セックスは愛情だけじゃない。やっぱりあそこの大きさと技量が肝心なの。彼に愛撫されたらね、全身が性感帯になるの。彼とのセックスはね、結婚して10年、一生懸命に夫や子供に尽くしてきた私自身へのご褒美」

 ご褒美・・・。
 結婚十年。妻を他人に寝取られることを嗜好する亭主と浮気願望の妻。藤木の存在は、そんな夫婦の間に交わされる究極のスィートテンダイヤモンドなのかもしれない。

「加奈さん、女に生まれてきたからには、一度は本当の男に抱かれないとダメ。セックスは食事に似ているの。手早く簡単に空腹を満たすだけのコンビニの弁当もあれば、食欲だけでなく五感のすべてを刺激するディナーもある。もちろん彼のはディナーよ。それも三ツ星の超一流レストランのディナーなの」
 藤木の愛撫に、ときおり小さな吐息で応えながら、佳澄さんは次々に彼への賛辞を口にする。

「加奈さん、そんなとびきりのディナー、味わったことある?」
重たくなり始めた瞼に、淫らな欲情が宿っていた。知的で聡明な彼女がまさかこんな娼婦のような表情を作るとは・・・。女という生き物が真底わからなくなる。

「味わっちゃう?加奈さんも」
そう言った直後、藤木のまなざしが更に淫魔としての鋭さを増す。

「えっ・・・」
 画面が加奈の表情に切り替わる。頬を紅潮させ、瞳を大きく見開いている。明らかに狼狽した様子が見て取れる。

 藤木のその言葉が戦闘開始の合図になり、「パーティー」はついに、最終のステージへと移行する。
  1. 2014/10/30(木) 01:05:04|
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パーティー 第29回

「佳澄、見せてやろうよ。俺たちがどんなに仲がいいか」
「見せるってなにをよぉ?」
「ふん、わかってるくせに。もう恥ずかしいくらいに潤っちゃってるくせに、ここ」
 言って、藤木は佳澄さんのスカートの股間の部分にやさしく手を添える。
 こうした手つきにまるで性急さ、粗雑さが感じられない。どこまでも優雅だ。その優雅さこそが、この男が纏う上等なエロティシズムの源泉なのだろう。それは、同じ男として憧憬のまなざしを向けざるを得ないほどに見事なものだった。

「やだあ、恥ずかし~い」
 佳澄さんの瞳が完全に蕩けきっている。言葉とは裏腹に声のトーンにはまるで否定の色が含まれていない。

 かまわず、藤木は左手をセーターの下から差し入れる。セーターが躰にフィットしたものゆえ、挿入された手の形がくっきりと浮かび上がる。それはまるで獲物を狙うクモのようにもぞもぞと胸の位置に到達する。

「いやん、ほんとに恥ずかしいって・・・やめてふじ・・・んん・・・」
 顎先を摘まみ、首を捻じ曲げるようにして、佳澄さんの口元に唇を近づけていった。
「本気なの?」
 佳澄さんの問いに、藤木は瞼の動きで返事をした。
 直後、観念したように、いや、このときを待ち侘びていたように、佳澄さんの瞳がゆっくりと閉じられた。

 そしてついに・・・
 憧れの佳澄さんの唇に藤木の唇が重ねられたのだ。
 衝撃の映像であった。接吻という行為がこれほど淫らに映るものだとは・・・。
 これを見たときの佐久間氏の胸中には、いったいどれだけの毒々しい感情が湧き上がったことだろう。

 藤木は佳澄さんの上下の唇を交互に甘く啄ばむようにして吸う。
 佳澄さんも同じことをする。
 藤木が唇を伸ばす。
 出迎えた佳澄さんの舌がそれを口内へといざなう。両の頬をへこませて、佳澄さんの唇が烈しく藤木の舌を吸い込んでいる。なにか特殊なマイクで拾い上げているのであろうか、イヤホンからは、”ぴちゃくちゃ”という粘った水音と、鼻孔を抜ける烈しい呼吸の音が、ことさらに大きく出力されてくる。さながら舌と唇が性器と化して、烈しく交合しているかのようだ。
 相手の内にあるものすべてを我が身へ取り込みながら、同時に自分の内にあるものを相手の体内へ送り込もうとする強い意志を感じさせる濃厚な交わりが続く。

 加奈にもこんな濃厚なキスシーンが用意されているのだろうか・・・。
 相手は藤木か、相楽か・・・。他人の妻でさえこれほど衝撃なのだ。もしこれが加奈だったら・・・。ああ、躰が熱い・・・。眼が眩む・・・。

 突き出た佳澄さんの舌が上向きに反り返り、藤木の舌先が、舌の裏をなぞるように這っていく。
 映像がアップになった。性能のいいカメラは、佳澄さんの舌裏のツブツブまでをも克明に映し出している。たっぷりとした唾液に塗れた舌と舌とが執拗に絡み合う。

 二人から放たれる淫蕩極まりない熱気が、まわりを包み込んでいく。もはやさっきまでの友達ムードは完全に一掃され、画面はさながら、アダルトビデオの様相を呈している。
 藤木の唇が、チューチューとしばらく佳澄さんの下唇に吸い付いた後、鋭角なあご先へと滑り落ちていく。つがいを失った佳澄さんの唇が、名残惜しげにパクパクと小さな開閉を繰り返す。溶け出した口紅が、唇の周辺をぼんやりと朱色に染めている。
 藤木はあご先を口中に含むようにした。左手で右の耳朶を揉む。
「ああっ・・・」と、佳澄さんが初めて明確な喘ぎ声を上げた。藤木の舌が喉に到達したのだ。佳澄さんが天井を仰ぎ見る格好になった。

「佳澄はね、本当は苛められるのが好きなんだ」
 執拗な愛撫を続けながら、藤木が画面の外にいる加奈と相楽に語りかける。

 加奈と相楽はどうしている!? 藤木と佳澄さんの本格的な絡みが始まってから、まったく声が聞こえてこないではないか。まさかすでに・・・!? 画面の外で、ふたりと同じようなことをしているのか!?

 堪らず、プレイヤーの早送りボタンにカーソルを合わせたそのときだった。

 かさかさとかすかな衣擦れの音がしたかと思うと、

「いやっ・・・」

 低く掠れた声がした。

 加奈の声だ・・・

 それは明らかに怯えの色を含んでいた。
 相楽がなにかを仕掛けているに違いない。

”逃げろ加奈、逃げてくれ・・・”

 無意味とは知りつつも、心の中で何度もそう叫び続けていた。
  1. 2014/10/30(木) 01:06:30|
  2. パーティー・ミチル
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パーティー 第30回

 画面が切り替わり、ようやく加奈と相楽が姿を現した。その光景は、私の嫉妬心をさらにガリガリと掻き毟るものだった。
 ふたりは、並んで壁にもたれて座っていて、相楽が加奈の肩を抱いている。加奈の顔は相楽の胸の中にすっぽりと収まっていた。
「いや、恥ずかしい・・・」くぐもった加奈の声が聞こえてくる。
 性急な手つきではないものの、なんとか加奈を次のステップへ導こうとする相楽の意図が見て取れる。しかし加奈は容易にこれを受け入れようとしない。
「もう、だめだったらぁ」
 バストのあたりに添えられている相楽の手がもぞもぞと動くたび、加奈は身をよじり逃れようとする。
 しかし、かといって加奈の様子は、露骨に嫌がっているというわけでもないのだ。
 姿が見えないときは、加奈の声がなにやら怯えているように思えて、なんとか逃れてくれと祈る思いでいた。
 ひょっとしたら、嫌がるところを無理矢理に押し倒されて、レイプまがいのことをされたのではあるまいか。さっきの寝室での涙は、そこに原因があるのではないのか。もしそうであるならば、今回の一件が加奈の意志によるものでないのならば、この地獄のような苦しみから逃れることができるのに。
 しかし、どうやらそうではなさそうだ。映像を見る限り、ふたりにそうした気配はまるで感じられない。
 もう覚悟はできている。そうするつもりでここへ来た。でもやはり怖い・・・。あと少しのところで、どうしても踏み込めない。画面の加奈からは、そんな様子が伺える。
”あと一歩で”
 双方が同じ思いを共有しながら、激しくせめぎあっていた。 

 画面が徐々に引きの絵になる。
 ワンピースの裾から、くの字に折り曲げられた足が大胆に露出している。太股の半分以上が露になっていた。
 上半身は相楽の身体にゆだねられている。完全に恋人同士の構図であった。
 これは私の妻なのだ。なぜその妻が他の男とこんなことをしているのか。そしてなぜ私がこうしてその様子を見ているのか。

 相楽が囁くようにしきりに加奈に話しかけている。ときおり、加奈の顔が上下に揺れ、またときおり左右に揺れる。クスクスと笑い声も聞こえてくる。
 相楽は、これまでのおちゃらけたものとはまったく違う雰囲気を漂わせている。容姿が端麗なだけに、こうした切り替えは、とてつもない効果を生む。女は男のこうした手管に弱い。
 相楽と加奈がゆっくりと溶け出し、融合し始めている。

「ああ・・・」ときおり、画面の外で藤木と戯れる佳澄さんの喘ぎが聞こえてくる。

「加奈さん、これ見て」と、相楽は加奈の目の前に自分の掌を差し出した。
胸に埋めていた顔をわずかに起こし、加奈が横目でこれを見た。
「なあに?」
「この上に何が見える?」
「何もないけど・・・」
「ほんま?、ほんまに見えへん?」
「見えない・・・」
「じゃあ、これでどう」
相楽は開いていた手を握り締め、手首をくるりと一回転させた。
「さあ、どうだ」
小指、薬指、中指と一本づつ、ゆっくりと指を開いていく。

「ええっ!」

 なんと、なにもなかった掌の上に不思議な形をした小瓶がのっている。
「なんでぇ!?、どうなってるの!?」
 加奈は相楽の手と顔を交互に見ながら、大きな瞳を白黒させている。
「ふふん」口端をわずかに吊り上げ、相楽は得意げに鼻を鳴らすと、そのなにやら妖しい風情の小瓶の蓋を、恭しい手つきで開ける。

「加奈さん、これ、ちょっと嗅いでみて」
「なんなの?」
「不思議な気持ちになれる不思議な液体。麻薬とか、媚薬とか、そんな変なもんやないよ。エッセンシャルオイルみたいなもんやから心配ない」
「いやん、怖い・・・」
「心配ないっていうてるやん、ほんなら俺が先に」
 相楽は小瓶の口に鼻を近づけ、ニ、三度、首を横に振る。
「うん、いい香り。ほら、加奈さんもやってみて」
 相楽に促され、加奈は、おずおずと小瓶の口に顔を近づけていく。
「ほんとだぁ、不思議な香り・・・。でも、とってもいい香り」
「ほらな」
「こんな香り初めて・・・」

 こんなものを嗅がされて、大丈夫なのか。
 結局、普通のやり方では加奈は落せないので、薬物に頼ったのではないのか。もしそうなら、これは由々しき事態だ。単に、浮気とか寝取られとか、そうした問題ではなくなってくる。

「じゃあ今度は、目を瞑って深呼吸するようにやってみて。もっともっと不思議な気持ちになれる」
「大丈夫?そのまま気を失っちゃうなんてことない?」
「もう、疑り深いなあ。じゃあ、一緒にやろ」
 相楽は小瓶の口に鼻を近づけた。続いて加奈が近づいていく。
 画面いっぱいに二人の顔が映し出されている。鼻の先が触れ合うほどの近距離だ。
「さあ、目を瞑って」
 ささやくような相楽の言葉に、加奈はゆっくりと目を閉じた。その直後だった。

”あっ!”

 相楽の唇が、加奈の唇に重ねられた---

 一瞬の出来事だった。
 唇と唇が触れるか触れないかくらいの、軽いキス・・・
 それでも、これまで執拗に繰り返されてきた戯れ事とは桁違いの衝撃である。
 目が眩みそうになる・・・
 呼吸が苦しくなる・・・
 加奈の、妻の唇に、私以外の男の唇が重ねられた・・・
 身体の力が抜けていく・・・
 しかし、キスそのものよりも、さらに私の心に強い衝撃を持たらしたものがある。

 それはキスのあとの加奈の表情だった---。

 十四年前のファーストキッス。
 あのときと同じ表情をしているのだ。

 どうしてこの表情なのか。これは心の中に大切にしまいこんでいる私の一番の宝物なのに・・・。
 どうせなら、もっと淫らな顔をしてくれればいいではないか。待ってましたと、娼婦も顔負けの淫乱さを剥きだしにして、男の顔を射抜くように見つめればいいではないか。

 ”なんで・・・”

 初めて見た加奈はそれはそれは光り輝いていた。バイト先のファーストフード店に加奈が面接に訪れたとき、けっして大げさではなく、天使が舞い降りてきた、そう思った。
 それから三ヶ月。やっとの思いでこぎつけた初デート。ファーストキスを今日きめるべきか、次回に持ち越すべきか、激しい逡巡ののち、結局なにも出来なかった。二度目、三度目も同じだった。それほどに私は加奈を大切に思っていた。十八歳の加奈の唇は、私にとって聖なる場所だった。
 そして、四度目のデート。帰り道に立ち寄った公園。付かず離れず、微妙な距離で腰掛けたベンチ。
「ねえ!見て!、虹よ!虹が出てる!」
 そう言って、虹の方向を指でさし示したまま振り返った加奈に、小さな小さな口づけをした。
 そのときの加奈の表情。私はそれを生涯忘れることはない。
 驚きと戸惑いと恥ずかしさと喜びと、そしてここから何かが動き出す期待と・・・。いろんな思いが絵の具のように混ざり合って、加奈の小さな顔を染めあげた。彼方の虹がティアラのように加奈の頭を飾っていた。
 今、同じ表情をした加奈が、パソコンの画面の中にいる。そしてその視線の先には、私ではない、見知らぬ男の顔がある。

「さっきの窓越しのキス、めちゃくちゃ興奮した。嫉妬した」
 そう低く呟いて、相楽は加奈の顎先を摘まむ。加奈の濡れた唇が僅かに開いている。怯えるでもなく、照れるでもなく、そして淫らでもなく。すべてのしがらみから解き放たれた素のままの加奈がいる。さっきの軽いキスは、加奈の心を頑なに守っていた最後の壁をきれいに取り払ってしまったようだ。
 ここまでの男たちの手管で、ついに加奈の心が”素っ裸”にされてしまった。

「でも、あれはあくまでガラス越し。本物のキスは・・・」
 直後、相楽の首が僅かに傾いたかと思うと、一直線に加奈の唇めがけて動き出した。
「あ・・・ダメ・・・」
 加奈の唇からは弱々しい否定の言葉が漏れ出るものの、決して顔をそむけようとはしない。視線は、相楽の唇の一点に集中している。
 
 ”おい、やめろ・・・”
 
 そう心の中で叫んだ直後、私の気持ちを弄ぶように、接合の僅か数センチのところで、ふいに相楽の動きが止まる。

「・・・俺がもらう」

 そうひとこと吐息のように囁いたあと、二人の唇が結ばれた。深々と・・・。

 接合の刹那、すべてを観念した様に加奈は見開いていた瞳を静かに閉じた。
 私への操という、ともし火が消え失せた瞬間だった---
  1. 2014/10/30(木) 01:07:49|
  2. パーティー・ミチル
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パーティー 第31回

 ”ああ、重なっている・・・唇が・・・加奈の唇が・・・”

 決して他人に触れさせることなどありえないと信じ込んでいた加奈の唇。セックスのとき、私の鼻や耳たぶを甘やかになめまわしてくれるそのやさしくてやわらかな部分に、他人の唇が重ねられている・・・。貪られている・・・。烈しい行為に上下にめくれ上がっている・・・。
 
 ”ああ、加奈の唇、唇、唇・・・” 

 心臓が早鐘を打つ。体温が上昇する。喉が干乾びてくる・・・。

 加奈の喉仏が上下する。まるで相楽の口から何かが供給されて、それをごくごくと飲み干しているようである。
 相楽の動きは、アダルトビデオのような、あきらかに他人に見せつけることを意識したものだった。裏にこんな悪魔のような仕掛けが張り巡らされていることなど露とも知らず、加奈は男の施しに夢中になっている。

 接吻が烈しさを増すにつれ、始めは放心したようにだらりとさげられていた加奈の両手が、相楽のわき腹に添えられた。的を得たりと思ったか、その動きを受け、相楽の動きがさらに激しさを増す。首を右に左に傾けながら、むさぼる様に加奈の唇を噛み、舐め、吸う。肉食獣を思わせる獰猛な接吻であった。

 繰り広げられるすべてのシーンが、錐のように私の胸をギリギリと抉っていく。まるで全身を火で焙られているようなほてりを覚える。そして、次に用意されたシーンは、そんな私の心をさらに震撼させるものであった。

 「こうしてみて」
 相楽は、尖らせた舌を加奈の目の前に突き出した。
 加奈に舌を出せというのだ。これもアダルトビデオではよく見かけるシーンだ。男優の要求に、その性技にすっかり酔わされているということを装ったAV女優が、欲情たっぷりの顔で舌を出す。見ているものは、そこまで忘我の境地でセックスに没頭しているのかと女の無様な表情に興奮を覚える。そうしたエンタメやステディな恋人同士の関係ならいざ知らず、初めてのキスでこんな要求をするなんて馬鹿げている。ましてや加奈が・・・。
 しかし、今の加奈はもはや私の知る加奈ではなかった。瞳のあたりにわずかな迷いを浮かべたものの、まるで催眠術に掛けられたように、ゆっくりと唇を開いていく。

 ”加奈、やめろ、そこまでは・・・”

 唇の隙間から舌先がわずかに顔を出す。

 ”加奈・・・”

 『てへっ』
 照れを隠すとき、失敗したとき、おどけた調子でそう言って、加奈は小さく舌を出す。付き合っていた頃、私は加奈のこのしぐさが堪らなく好きで、それを見るたび、こんなに素敵な子が自分の彼女であることの満足感、幸福感に酔いしれたものだった。そして今、その愛しい舌先が他の男に蹂躙されようとしている。またひとつ私の大好きな加奈が奪われていく・・・。

 小刻みに震える加奈の舌先に相楽の舌先が触れる。上下に左右にそして円を描くように、ちょろちょろと愛撫する。眉間に深い皺を刻み、加奈は男の行為に敏感に反応する。女のからだはすべてが性感帯になると聞く。舌先への愛撫を受け、加奈はさらなる興奮の高みへと登っていくのか。
 
 そして衝撃のシーンはさらにエスカレートする。今度は、相楽が加奈の口の中に舌を突き入れたのだ。
  1. 2014/10/30(木) 01:09:08|
  2. パーティー・ミチル
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パーティー 第32回

「んん・・・」
 瞳を見開き、驚きの表情を浮かべるものの、加奈は相楽の行為を躊躇なく受け入れた。これも見せつけることを意識しているのだろう、相楽は、舌が加奈の唇に出はいりしていることをことさら強調するような動きをする。それはさながら男根が女陰を貫くさまであった。

 ”犯されている・・・。加奈が・・・、他の男に・・・”

 気づけば、股間が痛いほどに勃起している。泣きたいほどに苦しいはずなのに、どうしてこんな反応をするのか。この妖しげで悩ましげな感覚はなんなのか。むなぞこに湧き上がるこの毒々しい欲情はいったい何ものなのか。
 バラバラになった自分の心と身体に恐怖を感じながらも、もはや我慢は限界にきていた。私は、下着をパジャマのズボンとともに膝までおろし、いきり立ったペニスを握り締めた。頭の中で、加奈の唇に舌を這わせながら、思い切りペニスをしごく。体中を爛れた”快感”が駆けめぐっていく・・・。

 舌と唇が入れ替わった。
 相楽は唇で吸い取るようにして、加奈の舌を自分の口腔内へと導いていく。無様に口を開いた加奈の忘我の表情が、私をさらに堪らない気持ちにさせる。

 ”相楽の口から加奈が、加奈そのものが吸い取られていく・・・”
 
 やはり見てはいけなかったか---。
 加奈のこんな姿を見て、私の加奈に対する気持ちはこれからどうなってしまうのか。明日からのわれわれ夫婦の生活はどう変化してしまうのか。もはや修復不可能な領域に足を踏み入れてしまっているのではないのか。キスだけでこれほどの衝撃を受けているのだ。これ以上のシーンを見せつけられて、果たして私の精神は正常でいられるのか。もうここでやめるべきではないのか。

 ”吸い取られていく・・・、何もかも・・・”

 これまで、私たち夫婦で交わした様々なこと。慈しみや、信頼や、いたわりや・・・。そんな大切な思いまでもが、相楽の口から吸い取られていく・・・。
  1. 2014/10/30(木) 01:18:16|
  2. パーティー・ミチル
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パーティー 第33回

 ひとしきりの交合の後、ようやく相楽が唇を離す。

「上手・・・」
 男から届けられた唾液が口中を蜜のように甘く満たしているのであろうか、恍惚の表情を浮かべながら、加奈はそう言って、相楽の瞳を舐めるように見つめた。緩んだ眼差し、べっとりと唇の周囲を濡らす唾液のきらめきは、まさに扇情の極みであった。私の知らない加奈だった。未だかつてこんな表情の加奈を見たことがない。接吻の行為そのものにも増して、今の加奈の表情は、烈しく私を欲情させた。

 ”堪らない・・・”

 あまりの切なさに胸が潰れてしまいそうになる。同じ女が、今ひとつ屋根の下でスヤスヤと安息の寝息をたてて眠っているなど、とても信じられない。

「なにが?」
 中指で加奈の唇のふちをゆっくりとなぞりながら、相楽が掠れた声を出す。
「・・・キス」
「そうかな」
「すごい・・・。このまま飲み込まれちゃう、って思った・・・。怖かった・・・」
「加奈さんこそ、むちゃくちゃ・・・」
 
「・・・なあに?」
「エッチかった」
「やん、もう」
 こうした戯れの言葉も、さっきまでの友達モードは卒業して、いまや完全に恋人モードである。加奈の声が艶めかしい。

「ねえ、加奈さん」
「ん?」

「飲み込まれたい?」
 そう尋ねられたあと、加奈はまっすぐに相楽を見つめた。わずかに瞳が潤んでいる。堪らない表情であった。ゾクゾクするほどに美しい。しばらくののち、加奈の首がこくりと上下に振れた。

「言ってみて。言葉にしてみて」

 相楽の視線から一瞬、瞳をそらしたあと、再び相楽を見つめ直すと、

「・・・飲み込んで・・・」と、加奈はさらに艶めいた声で言った。

 その一言、その声の潤いが、私の行為にとどめを刺した。ペニスから濃縮された嫉妬の塊が流れ出た。
  1. 2014/10/30(木) 01:20:00|
  2. パーティー・ミチル
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夫婦の絆・北斗七星 (6)
心の闇・北斗七星 (11)
1話完結■不倫・不貞・浮気 (18)
■寝取らせ (263)
揺れる胸・晦冥 (29)
妻がこうなるとは・妻の尻男 (7)
28歳巨乳妻×45歳他人棒・ ヒロ (11)
妻からのメール・あきら (6)
一夜で変貌した妻・田舎の狸 (39)
元カノ・らいと (21)
愛妻を試したら・星 (3)
嫁を会社の後輩に抱かせた・京子の夫 (5)
妻への夜這い依頼・則子の夫 (22)
寝取らせたのにM男になってしまった・M旦那 (15)
● 宵 待 妻・小野まさお (11)
妻の変貌・ごう (13)
妻をエロ上司のオモチャに・迷う夫 (8)
初めて・・・・体験。・GIG (24)
優しい妻 ・妄僧 (3)
妻の他人棒経験まで・きたむら (26)
淫乱妻サチ子・博 (12)
1話完結■寝取らせ (8)
■道明ワールド(権力と女そして人間模様) (423)
保健師先生(舟木と雅子) (22)
父への憧れ(舟木と真希) (15)
地獄の底から (32)
夫婦模様 (64)
こころ清き人・道明 (34)
知られたくない遊び (39)
春が来た・道明 (99)
胎動の夏・道明 (25)
それぞれの秋・道明 (25)
冬のお天道様・道明 (26)
灼熱の太陽・道明 (4)
落とし穴・道明 (38)
■未分類 (571)
タガが外れました・ひろし (13)
妻と鉢合わせ・まさる (8)
妻のヌードモデル体験・裕一 (46)
妻 結美子・まさひろ (5)
妻の黄金週間・夢魔 (23)
通勤快速・サラリーマン (11)
臭市・ミミズ (17)
野球妻・最後のバッター (14)
売られたビデオ・どる (7)
ああ、妻よ、愛しき妻よ・愛しき妻よ (7)
無防備な妻はみんなのオモチャ・のぶ (87)
契約会・麗 (38)
もうひとつの人生・kyo (17)
風・フェレット (35)
窓明かり ・BJ (14)
「妻の秘密」・街で偶然に・・・ (33)
鎖縛~さばく~・BJ (12)
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