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闇文庫

主に寝取られ物を集めた、個人文庫です。

よき妻 第1回

結婚して三年経った頃のことです。当時の私は妻の気持ちをはかりかねていました。
本当に愛されているのかどうか、いつも疑問に思っていました。
妻、瑞希は私よりも五歳年下の三十歳。すらりとした痩せ型の体型、少し冷たい印象を与える顔立ちは整っていて、まず美人といえるでしょう。
夫婦の間に子供はいません。

瑞希とは見合い結婚でした。私は見合いの席で出会ったときから、瑞希の端整な容姿や、年に似合わぬ落ち着いた物腰に惚れこんで、懸命に求婚しました。瑞希はそれを受け入れてくれました。いつものように感情の分かりにくい顔で。

結婚してすぐに分かったのですが、瑞希は妻としては非の打ち所のない女でした。元来、働くのが好きな性質であるらしく、専業主婦となってからも、家事に手を抜くことなどまったくありません。友達の主婦連と亭主そっちのけで遊び回ることも皆無です。

しかし、私は不満でした。というより、不安でした。

瑞希は表情に乏しい女です。いったい何を考えているやら、どんな気持ちでいるのやら、よく分かりません。おまけに無口です。私が気を遣ってあれこれと話しかけても、たいていは冷静で抑揚のない相槌を打つだけで、私はのれんに腕押しのような気分になります。

私は騒々しい女が嫌いだったので、瑞希のそんな静かな佇まいが最初は好もしかったのですが、結婚してしばらく経つと、あまりに妻の気持ちがつかめないことに苛立ちを感じるようになっていきました。見合い結婚ということもあり、妻が自分をどう思っているのか、本当に夫として愛しているのか、気になっていました。

夫婦間の愛情確認といえば、夜の営みもその大きな要素であると思います。しかしそれも上手くいきませんでした。
私からベッドに誘えば瑞希は否ということはありませんでしたし、彼女の裸は見た目そのもののようにすっきりとしていて、若々しい肌の手触りは最高でした。私も最初は大いに発奮して、ベッドの上ではなんとか主導権を握ろうと、あれこれと趣向をこらしたのですが、妻はそんなときでさえ至極冷静で、声をあげることもなく、私はお釈迦様の掌にのせられた孫悟空のようなむなしさを感じ、やがて冷めてしまいました。

結婚当初の私はこのうえなく幸福な人間でした。それがいつの間にか始終いらいらとした人間に変わっていったのです。それほどまで心をかき乱されるほど、私は瑞希にのぼせていたと言えるのかもしれません。しかし、不幸なことに私も瑞希ほどではないにせよ、自分の気持ちを率直に伝えることが不得手な人間でした。しかも、そのことに当時の私は気づいていませんでした。
  1. 2014/10/11(土) 03:38:34|
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よき妻 第2回

私たちの住むマンションの一室はいつも清潔に管理されていて、塵一つ落ちていません。その完璧さ、静謐な趣は、妻の人柄そのもののようでしたが、私はいつしかその家に居るときに、安らぎよりも重苦しさを感じるようになっていきました。

もともと私は品行方正には程遠い人間です。瑞希と結婚した当初は、だらしない所業とは縁を切り、よき夫になるべく努力しようと心に誓ったものですが、当時の私はそんなことさえ忘れはて、夜の街で酒や女に溺れる生活に逆戻りしはじめていました。

そんな私を見つめる妻の瞳には、さすがに沈んだ色が濃くなっていたように思います。しかしどんなときも彼女は何も言わず、自分を崩すこともありませんでした。そのことが私をますます苛立たせます。暗い孤独が私を満たし、時には八つ当たりとしか言えない怒りを妻にぶつけるようになりました。私は日々、荒んでいきました。

ある夜のことでした。仕事を終えた私は、高校時代の旧友で赤嶺という男と久々に待ち合わせて、いっしょに夜の街に繰り出しました。
この赤嶺という男は昔からどこかひとを食ったようなところがあり、一風変わった凄みを感じさせる人間でした。当時はアダルトビデオの製作などを主たる業務としている、S企画というプロダクションに勤めていました。
そんな仕事をしている男だけに、いかがわしい遊び場などには詳しく、若い頃はよく彼に付き合って悪い遊びを教わったものです。

「久々に会ったってのに、いまいち表情が暗いな。何かトラブルでも抱えているのか」
赤嶺の言葉に、私は顔をあげて彼を見返しました。酒場の暗い照明の中で、彼の鋭い目がじっとこちらを見ていました。
「分かるか。相変わらず目ざといな」
「何があったんだ」
私は赤嶺に妻との不和を話しました。
「そうか、あの奥さんがね。お前には出来すぎたひとだと思ったがなあ」
赤嶺も私の結婚式に出席してくれたので、妻のことは見知っています。
「しかし、お前も昔から女にはとことん弱い奴だな」
「お前みたいに割り切れないからだろうな」
「ふん。女なんてベッドに転がせば、なんとでもなるもんだ」
下卑た笑いを浮かべつつ、赤嶺はくっとグラスをあけました。
「たいした自信だな」
「お前こそらしくもなくメソメソしやがって。どこかおかしいんじゃないのか。それともよほど奥さんにいかれちまっているのか。たしかに美人だったけどな。美人なだけじゃなく、色気もあった」
「色気? それは眼鏡違いだぜ。あいつほど色気のない女をおれは見たことがないね」
妻のことを「あいつ」と呼んだのはその日が初めてでした。
「分かってないな。ああいう物堅い感じの女が一番そそるんだよ。とくに俺のような人間にはな」
「はっ、そんなものかな」
「そうさ。奥さんと結婚したのが、お前で残念だね。俺だったら奥さんの女としての性能を、最大限まで引き出してやれるんだがな」
女としての魅力とは言わず、性能と言ったところが、いかにも赤嶺らしい言い方です。
「ほざけ」
私は吐き捨てるように言いましたが、心の中では動揺していました。

夜遅くになって三軒目の酒場を出、さてこれからどうしようかというときでした。不意に赤嶺が言いました。
「お前の家、ここから近かったよな。次はお前の家で飲もう」
「バカを言うな。何時だと思ってる」
しかし、妻はまだ起きているだろう。私はそう確信していました。今までどんなに遅く帰っても、妻は先に寝ているなどということはありませんでした。
「いいじゃないか。たかが悪友ひとり、夜遅くに連れ込んだところで、そんなことに文句を言う女房でもないんだろ」
赤嶺は不敵な笑みを浮かべて言いました。妻もたいがい何を考えているのか分からない人間ですが、この男も相当なものです。

私はついに根負けして、赤嶺を自宅に連れて行くことにしました。

マンションに帰り着いたころには、もう深夜三時を回っていました。
鍵を回してドアを開けると、予想通り瑞希はまだ起きていて、玄関へやってきましたが、赤嶺の姿を目にして、はっと立ち止まりました。
「友達の赤嶺だ」
「どうも奥さん、お久しぶりです。結婚式以来ですな」
「きょうは久々に会ったから、これから家で飲みなおす。酒とツマミの用意を頼む」
非常識な私の言葉に、しかし瑞希はいやな顔をするでもなく、「分かりました」と一言だけ言うと、赤嶺に会釈をしてから家の奥へ消えていきました。
「たしかに相当なもんだな」
赤嶺がそっと私に耳打ちしてきました。
私は喉の奥で苦い気持ちを飲み下しました。
  1. 2014/10/11(土) 03:39:42|
  2. よき妻・BJ
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よき妻 第3回

「奥さんも我々に加わってくださいよ、男だけじゃ殺風景だ」
ツマミを運んでからまた台所に消えていきかけた瑞希に、赤嶺が声をかけました。
「わたし、お酒は」
言いながら、瑞希はそっと私を見つめてきます。
「・・・お客がそう言ってるんだ。座れよ」
私が低くそう言うと、瑞希は伏目がちにそっと私の横に座りました。
赤嶺はニヤニヤと笑いながら、そんな妻に粘っこい視線を向けていました。

私と瑞希がぎこちない様子でいるのに比べて、赤嶺は普段とまったく変わらず(話の内容はずっと紳士的でしたが)、気軽な口調であれこれと妻に話しかけます。妻は相変わらず伏目がちで、赤嶺の言葉に口数少なく答えていました。
やけ気味な私はぐいぐい酒を飲みんでいましたが、やがて気分がわるくなり、付き添おうとする瑞希をふりはらって浴室へ行きました。シャワーを浴びて戻ってくると、わずかに開いたドアから赤嶺の声が聞こえました。
「ご主人とは上手くいっていないんですか?」
私は廊下に立ち止まり、耳を澄ませました。
「・・・分かりません」
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、妻が答えました。
「妙な答えですな。私は昔から彼を知っているが、どこか抜けてるものの、わるくない男ですよ。いったい何が不満なのかな」
「不満なんて・・・」
「あなたにはなくても、彼にはあるようですよ。あなたが冷たいと言っています。日常生活でも、ベッドの中でもね」
赤嶺の露骨な言葉に、私はかっとと頬を染めます。見えない妻の表情が気になりました。
「セックスはお嫌いですか?」
「・・・・・」
「ご主人では満足できない?」
「・・・・・」
妻は答えません。もはや耐え難くなった私は、居間のドアをさっと開けました。
驚く妻の顔。一方の赤嶺は平然とした表情です。
「どういうつもりだ?」
「別に。お前が聞きたくても聞けないことを、俺がかわりに聞いてやっているだけだ」
「そんなことは頼んでいない」
「じゃあ、お前は奥さんの答えを聞きたくないのか?」
私は―――答えかけて、言葉に詰まりました。
妻を見ました。
妻もまた、私を見返しています。瞳を大きく見開いて、その口は何かを訴えたがっているようにかすかに動いていました。
私は言いました。
「どうなんだ、瑞希。お前は俺では満足できないのか」
自分の声ではないような声です。
「俺では―――駄目なのか?」
「そんなことは・・・ありませんっ」
妻は答えました。陶器のような肌を赤く染め、いつになく感情のこもった声で。
「私はあなたが好きです」
「それなら何故いつも、あんなに冷ややかなんだ?」
「違うんです。ごめんなさい、違うんです。私は・・・ただ・・・」
その声には涙が混じっていました。
「ただ・・・恥ずかしくて」
そう言って妻は両手を顔に押し当ててむせび泣きはじめました。その顔は耳まで赤く染まっていました。
わたしはこのような妻の姿を初めて見ました。
「もういい。・・・きょうはもう帰ってくれ、赤嶺」
「分かった」
あっさりといって赤嶺は立ち上がりました。そしてわたしの肩をぽんっと叩くと、にやっと笑い、そのまま出て行きました。
まったくもって不可思議な男です。

私は妻のほうに向き直りました。
初めて感情を露わにした妻。その肩はいつもよりいっそう小さく、その身体はいっそう細く見えました。
私は妻へ駆け寄って抱きしめたい衝動に駆られました。しかしそうするかわりに私は言いました。
「許してくれ。瑞希はいい女だ。一方的に尽くしてもらって、俺からは何も出来なかった。そればかりか、ひどいことばかりしてしまった。俺は最低な男だ。こんな男とはもう別れたほうがいい」
泣いている瑞希の肩がぴくりと動きました。
「明日、離婚届をもらってくる。本当にすまなかった」
私はそれだけ言うと、一人、寝室へ行きました。

ベッドに何かが入ってきた感触で目が覚めたのは、何時ごろのことだったか分かりません。
ただカーテンの隙間から差し込む光は明るく、その光に照らされて、私はベッドに入ってきた妻の姿がはっきり見えました。
妻は裸でした。その瞳は涙で赤く腫れあがっていました。
何か言おうとした私の口を、瑞希の口が塞ぎました。
「ん・・・・」
キスをしたままの妻の手が、私の服のボタンを解いていきます。
私の手は自然に小ぶりで形の良い乳房へ伸びていきます。弾力のある滑らかな感触を楽しみ、その先端にある突起を親指の腹でなぞると、
「あう」
妻が小さく声をあげました。潤んだ瞳が私を見つめています。
私は衣服を脱ぎさって裸になりました。妻の細い身体を抱き寄せ、そのすべやかな肌を私の肌に重ねました。
妻の腕が私の首を抱きました。熱い息遣いとともに、私の口は再び妻の口に塞がれます。私が舌をさしいれると、妻も舌の愛撫で応えてきました。私はゆっくりとベッドに仰向けに倒れこみ、妻の身体がその上へ覆いかぶさります。やがて私の股間のものはしなやかな指につかまれ、妻の中へ導き入れられました。

「はっ・・・あっ・・・っ」

情熱的に動く妻の腰。私は右手で妻の締まった尻を掴み、左手で上下に揺れる乳房を揉みたてます。その柔らかさ、その冷たい肌の感触、そして何より今まで見たことのない、我を忘れた妻の表情に興奮をかきたてられ、やがて私は妻の中に濃くて熱い白濁をどろりと放って果てました。
  1. 2014/10/11(土) 03:40:45|
  2. よき妻・BJ
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よき妻 第4回

妻の中に出した後、私はそのまま軽く眠ってしまったようです。ふと目が覚めたときには、ベッドの中に妻の姿はありませんでした。
ぼうっとした頭で、私はベッドから起きだしました。
妻は浴室でシャワーを使っていました。
戸を開けて中へ入っていくと、妻はちらりと私を見て、また瞳を逸らしました。私はそんな妻を後ろから抱きすくめました。最初はこわばっていた妻の身体から、次第に力が抜けていくのが分かります。
「さっきは驚いた」
「・・・・・・」
「聞いてもいいのかどうか分からないが、あれはどういうつもりだったんだ?」
「・・・・・このままだとあなたが出て行ってしまう。そう思ったから」
妻は正面を向いたまま、細い声で呟くように言いました。
「私は不器用な女です。うまく喋れないし、うまく笑えないし・・・そんな私にあなたが不満を持っていることも知っていました。でもどうしても・・・恥ずかしくて」
私は常々、妻の気持ちが掴めないこと、妻が心を開いてくれないことに悩んでいましたが、妻のほうでも自分のそうした性質に悩んでいたのでした。
「あなたと結婚して、私はうれしかったんです。これからは私も変わっていけるとも思いました。でも、あなたがいろいろと気を遣ってくれているのに、私はうまくやれなくて・・・あなたを苦しませてしまって・・・」
「もういい、分かったから」
震える妻の肩をもう一度ぎゅっと抱きしめました。心臓の高鳴りが腕に伝わってきます。
妻は振り向いて私にキスをしてきました。私もそれに応えます。
しばらく抱き合って口付けを交わしてました。
むくむくと起き上がった私のペニスが腹に当たるのを感じて、妻はそのほうを見つめました。それから恐る恐ると言った感じで、勃起したものを細やかな手で掴みます。
妻はゆっくりとしゃがみこんで、いきりたった怒張を口に含もうとしました。私はそれを手で制して、
「フェラチオの経験はあるのか?」
妻は赤くなって、かすかに首を横に振りました。
「じゃあ、まだ今日はいい」
「・・・・いいんです、やらせてください」
そう言うと、妻は小さな口で私の男根を頬張りました。頭を前後に動かしながら、つたない舌使いで懸命に奉仕している妻に、私は今まで感じたことのない愛情を感じました。

その日は土曜日で会社は休みでした。私たち夫婦は週末をほとんど家から出ず、ただただベッドの中で絡まりあって過ごしました。それは今までのぎこちない時間を解きほぐすかのような、濃密なセックスの時間です。
妻の悩ましい表情、伸びやかな肢体、うねる腰、そして悦びを喰い締める仕草が、私を熱い欲望に駆り立てます。ふたりで繋がったまま、どろどろと溶けあっていく感覚は、他のすべてを忘れさせてくれました。

こうして私たち夫婦は以前よりも互いに近づきあうことが出来ました。一見、隙のない完璧さを持っていて、しかしその一方ではとても不器用で恥ずかしがりの妻を、私は深く愛しました。
そんなある日、赤嶺からの電話がかかってきたのです。
  1. 2014/10/11(土) 03:41:41|
  2. よき妻・BJ
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よき妻 第5回

妻との仲が改善されてからは、会社から寄り道することもなく帰ることが多くなっていたのですが、その日は赤嶺の誘いにのり、待ち合わせて一緒に行きつけの酒場へ行きました。

「ふうん、それで今のところは、奥さんと上手くやれているわけか」
グラスの氷をちりんと揺らしつつ、赤嶺は呟くように言いました。
「よかったじゃないか」
「まあ一応、お前のおかげかな。礼を言っとく。ありがとう」
「よせよ」
赤嶺は特有の不敵な笑みを浮かべました。
「別に俺はお前のことを考えて、あんなことを言ったわけじゃない」
「じゃあ何故」
「俺は職業柄、いろいろな女に接する機会が多いのは知ってるだろ。最近じゃ見ただけで、その女がどんな種類の人間か、だいたい分かるようになってきた」
「・・・それで?」
私は赤嶺に話しの続きを促しました。
「お前の奥さんに会って感じたんだけどさ、あんなふうに始終張りつめているというか、心に鎧をつけているような女は、結局は愛情に飢えているのが多いんだよ。頭が良すぎるせいか、自意識が強すぎるせいか、馬鹿になれなくて、男にすがったり頼ったりすることができない。それでいて強い孤独を感じている。だからいったん歯止めが外れると、どこまでも抑制がきかなくて、ずるずる男に引きずられて身を持ち崩すタイプも多い」
「たいした心理学者だな」
私が不快を滲ませて揶揄すると、赤嶺はにっと歯を見せて笑いました。
「怒るなよ。正直言えばさ、奥さんみたいなタイプの女が、俺は一番好みなんだよ。だからあのときも、お前のことをどうこうというより、ちょっと奥さんを虐めてやりたくなったのさ。どうだ? 俺の言うとおりだっただろ」
「何が?」
「前にしただろ、お前の奥さんには色気があるって話。泣いている奥さんは、すごくセクシーだと思わなかったか?」
「・・・・・・・」
たしかにあのときの妻の様子は、普段の毅然とした佇まいを知っているだけに、私には余計心を揺さぶられるものがありました。その後の妻との濃密な情事も、それまで私が知ることのなかった刺激がありました。
「そうだな」
私は赤嶺の言葉を認めました。
「そういえばお前はこうも言ったな、『俺だったら奥さんの女としての性能を、最大限まで引き出してやれる』と」
「それも当たってるぜ」
赤嶺がぬけぬけと言います。私は苦笑しました。
「ちくしょう。でも、そうかもしれない」
私が結婚後三年も分からなかった瑞希という女を、赤嶺は一瞬で彼女の中に隠されていたものを見抜いたのです。

「お、来たな。こっちだ」
赤嶺が不意に振り返って手を上げました。その視線の先には二十四、五歳くらいの若い女がいます。背が高く、目鼻立ちのはっきりした美しい女でした。
「彼女はうちの会社でモデルをやってくれている遠野明子だ。個人的にぼくの秘書のようなこともやってくれている。明子、こちらは俺の旧友の――だ。前に話したことがあるだろう」
S企画でモデルと言えばAV女優を指すとは、以前に赤嶺から聞いていました。そう思って改めて明子を見ると、たしかに彼女にはこの年頃のかたぎのOLにはない、水商売的な艶っぽさがありました。
明子はぱっちりとした瞳に色気を滲ませて、私に笑顔を向けました。
「はじめまして。遠野明子です。うちの赤嶺がいつもお世話になっています」

それからしばらく、私たちは三人で飲みながら話をしました。
「ということは明子さんは赤嶺にスカウトされて、今の仕事につくようになったわけですか。それまでは普通のOLをされていたんですね」
「そうなんです。このひと、わるいひとでしょう」
明子は口元に笑みを浮かべながら、悪戯っぽい目で赤嶺を見ました。その目は明らかに自分の愛人を見る目です。
「じゃあ明子は今の仕事が気に入ってないのかね。撮影のたびにたくさんのテクニック豊かな男に抱かれて嬉しいと言っていたのは嘘なのか」
赤嶺がからかうように言うと、明子は流石に顔を少し赤くしました。
「いやん、――さんの前で恥ずかしいことを言うのはよして」
「明子は露出症の気味もあってな、カメラの前でセックスすると余計感じるらしくて撮影のときはいつも大変なんだよ」
「いや、いや」
明子は悶えるように全身を震わせて抗議しますが、その肌は赤嶺の言葉に興奮させられてたのか、ぽうっと赤く上気したようで、それがいかにも淫蕩な空気を漂わせていました。
「たしかに赤嶺はわるい男ですが、明子さんもよい職業につかれたようですね」
私が言うと、明子は軽く睨んできました。
「まあ、――さんまで。でも本当にそうね。口惜しいけど、このひと、女を見抜く力はあるのよ」
「・・・そのようですね」
私の脳裏に妻の顔が浮かびました。
  1. 2014/10/11(土) 03:42:42|
  2. よき妻・BJ
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よき妻 第6回

「――さんの奥さんはどんな方ですの?」
すっかり酔いがまわったふうの明子が舌足らずな口調で聞いてきたのに、私が答えるより早く、
「美人で、凄く色っぽいひとだよ」
赤嶺が言いました。
「あなたがそんなに誉めるなんて珍しいわね。ひょっとしてお気に入り?」
「ああ。――が羨ましいよ」
「何言ってんだ」
私は照れてそっぽを向きました。
「お前だってこんないいひとがいるじゃないか」
私の言葉に赤嶺と明子は一瞬顔を見合わせ、そして笑い出しました。
「ははは、いやわるい。でも俺たちの関係はそんなんじゃないよ。そりゃときどきはプライベートで会ってデートもするがね。俺も明子も企業の一員で、商品としてのAVを撮る側だし、明子はそれに出演する側だ。割り切った関係だよ」
「独占欲とかはないんだな」
「ないね。だいたい男にしろ女にしろ、それぞれ特定の相手だけに縛られているのはもう古いと俺は思う。夫婦やカップル同士でスワッピングってのも、今じゃありきたりな話だろ」
「さあね。俺はお前とは違って、その辺りには詳しくないからな。簡単に割り切れるタイプでもないし」
「まあ、お前はそうだろうな」
赤嶺は真面目な顔で言ってから、ふと気がついたように明子を見ました。
「そういえば新作のサンプルはもう出来たのか?」
「きょう出来ました。ここに持ってきてます」
明子はカバンからDVDのディスクをいくつか取り出しました。
「これは明子が出ているもので、監督は珍しくおれが務めてるんだ。何枚かあるようだから、一枚お前にやるよ」
「いいのか、そんなことして」
「いいんだよ。お前、俺の関わった作品を一度も見たことないだろ。本当に友達がいのない奴だよな」
私と赤嶺のやりとりを、明子はくすくす笑いながら聞いていました。

「・・・どうしかしましたか?」
その声で私はふと我に返りました。ベッドの傍らを見ると、妻がものといたげな目で私を見つめています。シーツに半分だけ隠された裸の乳房が、艶めかしく映りました。
「いや、なんでもない」
その日は帰ってから、妻と睦みあう最中でさえ、私は赤嶺の言ったことを思い返していました。あの夜の出来事をきっかけに、日常生活でもベッドの中でもより近づくことの出来た妻。私の腕の中ですこし遠慮がちに、しかし蟲惑的に乱れる妻の姿を眺めながら、私はいまだ彼女の中に秘匿されているであろう『女』を幻視していたのでした。
たしかに赤嶺の言うとおり、彼なら私以上に妻の『女』としての性をより深く開花させられたかもしれない、と思いました。赤嶺は男の私の目から見ても魅力的な男でしたし(外見が、というよりも、その内面から仄見えるぎらぎらした雰囲気がです)、私は妻を単純に『女』としてだけ見るには彼女を愛しすぎていました。赤嶺が明子を愛するようには、私は妻を愛せないと思いました。
しかし―――。
愛しているからこそ、もっともっと妻を知りたい、もっともっと剥きだしの姿を見てみたい。そんな激しい欲望も私の中にはたしかにあったのです。
  1. 2014/10/11(土) 03:43:54|
  2. よき妻・BJ
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よき妻 第7回

そんなことがあってから、しばらく時間が過ぎました。
若い頃は孤独を好むところもあった私ですが、本当の意味で妻と生きるようになってから
は、彼女のために働き、彼女とともに過ごす時間が何よりも大事に思えるようになっていました。
不思議なことに妻を愛している自分を自覚するたびに、より深く妻を知りたいという衝動が大きくなっていきました。以前はそばにいるのに孤独を感じていて、それでも触れられない妻がもどかしくてたまらなかったのですが、そのときとはまた別の気持ち、しかも以前よりずっと強い灼けつくような衝動です。
私のまだ見ぬ妻の姿を思い描くたびに、ふっと赤嶺の顔が浮かんできて、私を動揺させることもありました。

その頃には妻との営みもだいぶ馴れたものになってきていて、ときには妻の両腕を紐で軽く縛るなど、SMめいたプレイも楽しんだりはしていました。

「痛い・・・・」
かすかに呟いて、妻は顔をうつむけます。両手を背中で縛られた彼女の乳房を隠しているのは、折り曲げた白い膝です。首筋から肩にかけての細く、淡い線が妻そのもののように繊細な美を描いています。
「強く縛りすぎたかな」
私が言うと、妻は首を横に振りました。
「大丈夫です」
そう言って見上げた妻の瞳は頼りなく潤んでいて、私の胸を妖しくざわめかせました。この従順な、柔らかい生き物。彼女はいまこの瞬間、何を考えているのだろうとふと思います。たとえ問うたとしても、真実のところはやはり謎のままでしょう。人と人との間には埋まらない隙間があるものですが、その壁となるものは互いのエゴや醜い部分ばかりでなく、互いへの愛や優しさであったりもするのだと思います。だからこそ、幸福と淋しさはいつも背中合わせなのです。
這うように近づいていった私がゆっくりと両膝を押し開いていくと、妻は
「く・・・・っ」
と小さく呻いて、いやいやするように首を振りました。
「駄目です」
「何が駄目なんだ。このままじゃできないだろ」
「せめて電気を消してください」
「いやだ、このまま瑞希を見ながらしたい」
「優しく・・・」
「してるじゃないか」
私たちはまるで愛を囁きあうようにそんな会話をかわしながら、一つに繋がりました。

そんな日々が続いていた、ある休日のことでした。妻は買い物に出かけていて、私はひとり家にいて、退屈紛れにインターネットでアダルトサイトを見ていました。素人が自身もしくは恋人の画像を投稿するサイトです。
こうしたサイトを見ていると、世の中には色々な男女がいると思わずにはいられません。投稿画像には夫が妻の裸身やプレイ中の姿などを撮ったものも多くあって、他人の性生活を覗き見る背徳的な楽しみを与えてくれます。素人が撮ったものらしく、妙に生々しい雰囲気がかえって興奮を誘います。
ある男性が撮った彼の妻の画像―――顔を両手で隠しながら、細い裸身を晒し、カメラに向かって恥ずかしそうに股を開いている―――を見ながら、私はモザイク入りのその女性の顔にいつしか妻の顔を重ねていました。
その妄想は私を激しく昂ぶらせました。恥ずかしがる妻に向かってカメラを向けながら、「もっと股を大きく開け」と命じる・・・。しかし不可解なことに妄想の中でカメラを構え、そう妻に命じているのは、私ではなく赤嶺なのでした。

ふと私は思い出して、机の引き出しから、以前赤嶺にもらったDVDを取り出してパソコンに入れました。赤嶺が監督を務め、明子が「モデル」として出ているという例のやつです。
しばらくの間、私はそのDVDに見入りました。
映像の中で明子はまだ若い男優に絡みつき、甘え、悶えます。短い時間とはいえ、自分が直接会って話した女性のセックスシーンを見るのは初めてで、そのことも興奮を誘ったのですが、より刺激的だったのは、この映像を監督しているのが、彼女の愛人である赤嶺だという事実でした。実際のところ、赤嶺が明子をどう想っているかは謎ですが、彼女が赤嶺を見る目は間違いなく愛人の目でした。その女が愛する男の前で、あられもない痴態を晒しては、淫らな声をあげて泣くのです。時折、明子の視線が相手の男優を離れ、あらぬところを見ているとき、私はその先に赤嶺がいることを想像しました。

DVDが終わりました。
私はぞわぞわと背筋を撫であげる何かを感じながら、しばらく呆然とソファに横たわっていました。そして。
そして私は立ち上がりました。赤嶺に電話をかけるためです。妻が帰ってくる前に。
  1. 2014/10/11(土) 03:44:56|
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よき妻 第8回

私と妻が休暇を利用して岐阜の温泉郷へ出かけたのは、その年の八月半ばのことでした。
妻と旅行へ行くのは新婚のとき以来でした。喧騒の街大阪を離れ、仕事も忘れて四日間ゆっくりと静かな山里で過ごすという計画に、妻も喜んでいるようでした。
難波から近鉄で二時間かけて名古屋へ到着し、それからJR高山本線へ乗り換えます。天気は快晴で、抜けるような青空には何の翳りもありません。
妻の表情も珍しく晴れ晴れとしていました。私はその顔を見て、今更に胸が痛むのを感じました。

高山の駅で降りて、城山公園を巡り高山城跡を見てから、また市街地へ戻った時のことでした。
「おい、――じゃないか」
すれ違いかけた男が声をかけてきました。赤嶺です。隣には明子がいて、これもびっくりしたように私を見つめています。
「どうしてお前がここに?」
「それはこっちが聞きたいくらいだ」
赤嶺が妻へ視線を向けました。同様に驚いた顔をしていた妻が、その瞬間恥ずかしそうに目を伏せます。それを目にして赤嶺が苦笑を滲ませた表情を私に向けました。私は軽くうなずきました。

すべて計画通りでした。私と赤嶺、それに明子は旅先で偶然出会ったことを装う計画を立てていたのです。知らぬは妻ばかりです。
「お久しぶり、――さん。それにしても驚きね」
明子は、彼女はあらかじめ赤嶺に頼まれて私たちの協力者になっていましたが、この旅では私の大学時代のサークルの後輩という設定でした。
「ああ、本当に」
「そちらの方は奥さん?」
「そうだ」
「はじめまして。わたしは遠野明子といいます。――さんとは大学のサークルが同じで、色々お世話になりました」
突然のことに困惑したようだった妻も、明子の年に似合わぬ落ち着いた物腰に普段の自分を取り戻したようで、「はじめてお目にかかります。――の妻で、瑞希と申します」と生真面目な挨拶を返しました。
「赤嶺のことはもう知っているだろう。明子は赤嶺の奥さんなんだよ。俺がふたりの間をとりもったんだ」
「そうでしたの」
「おーい、こんな道端で立ち話もなんだ。どこか休める店に入ろう」
赤嶺の号令で私たち四人は歩き出しました。

「ふうん、それにしても奇遇だな。夫婦で旅行した先が同じ場所なんて」
「あなたたち、よっぽど気が合うのね」
「よせよ、明子。こいつとは昔から因縁の仲なんだ」
「何よ、それ」
私と赤嶺、そして明子がさも和気あふれる会話を交わしているのを、妻は所在なさそうに、ただし外見にはそんな思いは出さぬように気を遣いながら静かに聞いています。適当に入った喫茶店はよくクーラーが効いていて、少し肌寒いほどでした。
「お前と奥さんは泊まる宿は決めているのか?」
赤嶺がふと思いついたように聞いてきました。
「ああ。北部の奥飛騨のほうに宿を決めてあるんだ。そこに三日間連泊してゆっくり過ごす。お前たちは?」
「じつは俺たち、行きあたりばったりでさ。なにせ飛騨へ出かけることも昨日決めたくらいだから、宿も何も考えてないんだ」
「いい加減だな」
「それでさ、もしよかったら、お前と奥さんが泊まる宿を紹介してくれないか?」
「いいけど、この季節だし、空いていないかもしれないぞ」
「電話番号は控えてあるんだろ。聞いてみてくれないか?」
「しょうがないな」
私はぶつくさ言いながら、店の外へ電話をかけに行くふりをしました。事実はすでに赤嶺たちの宿は確保されているのです。
  1. 2014/10/11(土) 03:45:50|
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よき妻 第9回

奥飛騨の宿には夕方の五時過ぎに着きました。
「僕たちの部屋は隣同士らしいぞ」
チェックインに行っていた私と赤嶺は戻ってきて、互いの相方へ言いました。
「さっき部屋の空き状況を確認したときに僕が電話をかけたものだから、宿のほうが気を遣って、僕と瑞希があらかじめ予約していた部屋を二間の部屋へ変えたんだ。四人連れと思ったんだな」
もちろんこの説明は嘘っぱちです。事実は最初に宿をとったときから、そう指定しておいたのでした。
「二つの部屋の間は襖で仕切ってあるらしいが、どうだ?」
「私はかまわないわ」
明子が即座に答えました。
妻はちらりと私を見ました。その瞳は何か言いたげであるように見えましたが、彼女の唇から出てきたのは自分もかまわないという一言でした。

私たちの泊まる部屋は決して豪奢な造りではありませんが、小奇麗でさっぱりした感じのいい和室でした。窓の外には山深い奥飛騨の緑が、都会の騒がしさに馴れた者をやさしく包むように広がっています。
「いい部屋じゃないか」
「そうですね」
妻は微笑みながら短く答えましたが、その微笑みはどこか弱々しく、無理しているような印象でした。当然でしょう。夫婦水いらずで静かな温泉郷でゆっくりと休日をとるはずが、得体の知れない夫の友人とその妻が突然現れ、襖一枚ごしの隣室に宿をとり、以後の休日をずっと一緒に過ごす気配を見せているのですから。もともと人付き合いの苦手な妻には、なおさら負担になっているはずです。しかしそれでも彼女の物腰には、無神経な夫への怒りや不満のようなものは見えず、なおさら私に罪の意識を覚えさせます。

“妻を抱いてみたくはないか?”
そんな私の非常識な提案にのった赤嶺が立てたのが今回の旅行計画でした。
目的はスワッピングです。つまり私たち夫婦と赤嶺・明子のカップル(妻には夫婦と言っていますが)が、互いに相手を代えてセックスをするのです。いかにも身持ちの堅そうな妻を堕とすために、まず夫たる私が率先して他の女性(しかも人妻)と関係する場面を見せつけ、それから赤嶺が妻を口説き落とすという計画でした。
“しかし明子さんはそんな役割を承知してくれるのか?”
“あいつがこんな面白い話を蹴るはずがない。心配はいらないよ。それより問題はお前のほうだ。覚悟はちゃんと出来ているんだろうな”
電話越しに赤嶺が低い声で確認してきました。赤嶺の言う覚悟とはもちろん、妻を赤嶺の自由にさせる覚悟のことです。
正直、計画を立てた段階では、妻が実際に赤嶺に抱かれることになるかは分かりませんし、もしそうならなかった場合、後の夫婦関係がどうなっていくのかも分かりません。また、もし妻が赤嶺に抱かれたとしても、それから先がどうなるのか、まったく予想できません。
まさに一寸先は闇、下手すると今まで築いてきた幸福すべてを失う可能性だってあるのです。それでも私は赤嶺に答えました。

「覚悟は出来ている。何が起こっても後悔はしない」

私はたしかに何かに憑かれていました。

「おーい、これから俺たち、宿の温泉へ行くんだが、そっちはどうする?」
「俺たちも行くよ」
襖越しに聞こえてきた赤嶺の声に私は答えました。
宿の背後に鬱蒼と茂る木立に臨んで、露天風呂が湯気をたてていました。近くに渓流があるのか、川のせせらぎの音も聞こえています。
私と赤嶺が先に風呂につかっていると、やがて明子が女用の更衣室から出てきました。タオルで腰を、腕で乳房を隠しているだけの姿です。私は眩しげに瞳を逸らしながら、
「瑞希は?」
と尋ねました。
「奥さま、混浴だってことご存知なかったのね。恥ずかしがってしまったみたいで、いくら説得しても出てこないの」
妻ならいかにもありそうなことです。
私は立ち上がって、女用の更衣室に近づきました。人影がひとつ、曇りガラス越しに見えています。
「瑞希」
「・・・・・・」
「早く出てくるんだ。子供じゃあるまいし、何を恥ずかしがっている。早く来い」
私はわざと冷たい口調で言いました。これからのことを考えると、心を鬼にすることはどうしても必要です。
普段とは違う私の冷酷な声音に、妻は一瞬びくりとしたようです。数分後、衣服を脱いだ妻が出てきました。
  1. 2014/10/11(土) 03:47:05|
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よき妻 第10回

左手で乳房を隠し、右手に持ったタオルで股間を隠しながら、妻がゆっくりと歩いてきました。途中、ちらっと私と目が合いましたが、すぐに羞じたように目を逸らせます。時刻はもう夕暮れでしたが、夏のことでまだ日は高く、うっすらとした西日が妻の白い裸身をかすかに染めていました。
赤嶺を見ると、彼はいつものように鷹揚にかまえ、明子とふざけあっていましたが、その実、視線はちらちらと妻を見ています。明子はそんな赤嶺を見て、耳元で何か囁きました。

かけ湯を浴びた後、妻はやっと湯船のところまでやってきました。私の浸かっている湯のすぐ近くに立って私を見ます。私がうなずくと、妻は諦めたようにタオルを置いて、皆の前で裸を晒しつつ、湯船に足を沈めました。
「瑞希さんたら、いまどき混浴くらいでそんな悲壮な顔することないじゃない。私だって裸なんだから」
明子が明るく声をかけて、妻はかすかな微笑でそれに応えましたが、決して赤嶺や明子と視線を合わせようとはしませんでした。
「わるいな。うちのはこういうのになれてなくてね」
「あら、私だって別になれてるわけじゃないわ」
唇を尖らせた明子が、くねくねと肢体をゆすって抗議します。その仕草は妻の抑制された色気とは別種の、挑発するような艶っぽさを放っていました。
「それにしても瑞希さん、白いし細いし、本当にお綺麗な身体をしてるのねえ、うらやましいわ。ね、そう思わない?」
明子がはしゃいだ口調で赤嶺に問います。赤嶺は先ほどからはもはや遠慮のない視線を妻に向けていましたが、
「たしかにお綺麗だけど、俺がうらやましいのは瑞希さんじゃなくて――だよ。こんなひとを奥さんにしているんだからな」
言って、にかっと笑いました。その言葉に妻はますます身を縮こませ、その身体は湯の熱さのためばかりでなく、仄赤く染まっています。

「・・・というわけで、こいつは大学時代、お前に惚れてたんだって」
「もうっ。そんな話、瑞希さんの前でしなくてもいいじゃない」
「いいじゃないか、四人こうして裸になって一緒の湯に浸かってるんだから、心の底まで裸になって語り合おうや」
相変わらず黙りこくったままの妻を残して、赤嶺と明子は勝手な話をしています。むろん、作り話です。
「その話は本当なのか?」
私が問うと、明子は微笑んで、
「そうね。好きだったかも」
「この前は好きだったってはっきり言ってたじゃないか」
赤嶺が横から口をはさむと、明子はそのほうを軽く睨んで、
「チャチャをいれないでよ、もう。でもあの頃、――さんに憧れてる女の子は他にもいたのよ。だって凄く優しいし、ハンサムだし、それでいてちょっと翳りがあるところなんか魅力的だったもの。とても私なんかとじゃ釣り合わないと思って告白も出来なかった」
こちらが赤面するようなセリフを明子はさらっと言ってのけました。妻はいま、どんな表情をしているだろうと気になりました。
「だからきょう瑞希さんを見て、納得したわ。ほんとお綺麗で女らしい方、――さんとお似合いだわ」
「僕らのことはともかく、明子だって赤嶺とお似合いだよ。幸せそうだ」
「ふふ、優しくもないし、ハンサムでもないし、翳りなんかどこにもない俺とお似合いだってさ」
赤嶺はおどけたようにそう言うと、明子の裸の肩に手を回し、自らの元に引き寄せました。もう一方の手を明子の乳房に伸ばし、その先端の突起をちょっと摘まみます。
「あん。もう、恥ずかしいことしないで。――さんと瑞希さんの前なのよ」
甘えるような舌足らずの口調で抗議しながら、明子はちらりと妻を見たようです。
そのとき、私は湯の中で自分の手に妻の手が触れてくるのを感じました。私の手をぎゅっと握ったまま、妻はやはりうつむいたままの格好です。その細やかなうなじと裸の背中に私は新鮮な欲望を覚えました。
  1. 2014/10/11(土) 03:48:15|
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よき妻 第11回

夜になりました。
流石に山深い土地だけあって、辺りは森閑としています。
夕食は部屋でとったのですが、その際には私たち夫婦の部屋と赤嶺・明子の部屋の間の襖を開け放って、四人でひとつのテーブルにつきました。
一緒に風呂に入った仲だというのに、妻はまだ打ち解ける気配を見せず、会話にもあまり加わりません。もともと口数の少ない女ではありますし、夫の私とでさえ打ち解けるのにあれだけ時間がかかったのですから無理からぬことではあるかもしれません。
それとも――妻は妻で赤嶺と明子の偽りの夫婦を、どこか信用できない、なんとなくうさんくさいと思っていたのかもしれません。妻は繊細な性質だけに、そういう感受性には特に敏感なところがありました。
夕食が終わって私たちは自室に引き上げました。赤嶺との相談ではスワッピングは明日以降の晩に試みることになっています。しかし、ちっとも場に馴染んでいない妻を見るにつけ、私にはその実現は期待できないように思われてきました。
私は残念なような、それでいてどこかほっとしたような、複雑な心境でした。

夜中にふと目覚めたのは一時を少しまわったくらいの頃でしょうか。色々と緊張した日中の疲れで、床につくとすぐに眠りに入っていったのですが、隣室から聞こえる声で目を覚ましたのです。

きれぎれに聞こえる女の喘ぎ声。高く細く、淫蕩な響きを持ったその声はたしかに明子のものでした。

私は傍らの妻を見ました。妻は目を瞑っていますがずっと起きていたようで、何かにじっと耐えているような表情です。
私はそっと手を伸ばしました。妻がはっと目を開けます。私の意図を察したのか、その口が「いや」とかすかに動きました。
しかし、私は有無を言わせずに妻の布団に忍びこみました。妻の首筋にキスをしながら、浴衣の懐に手を入れて乳房を揉みしだきます。と同時にもう一方の手を、そろそろと妻の下半身へ伸ばしました。
妻は――声をあげると隣室のふたりに気づかれると思ったのでしょうか――無言のまま、いつになく激しく抵抗してきます。私は片腕で妻の両手を束ねて押さえつけ、身体を覆いかぶせるようにしてその抵抗を封じました。そうしておいて改めて、妻の下半身へ、下着の奥へ手を伸ばします。
ようやくその部分に触れたとき、私は驚きました。

妻の股間ははっきりと分かるほどに濡れそぼっていたのです。

驚きとともに見つめる私の目に、その意を汲み取ったのか、妻はほとんど泣きそうな表情になって、私の胸に顔を押し付けてきました。

それがきっかけとなりました。
私はほとんど我を忘れるような強い欲情の中、今までにないほど荒々しいやり方で妻を抱いたのです。
崩された浴衣を腰の辺りに巻きつけたまま、下着だけすべて剥ぎ取られた格好の妻は、私の腕の中でしばらくは必死になって声を殺していましたが、やがて耐えきれぬげに「あっ、あっ」と啼きはじめます。とめようとしてとめられないその声は、男の心をさらに加虐的にさせずにはおかないような哀婉な調子を含んでいました。

いつの間にか、隣室の声はやんでいました。

赤嶺と明子はどうしているのでしょうか。ひょっとしたら、いやおそらくは間違いなく、暗闇に紛れて少しだけ開いた襖の間から、私たち夫婦の情事を眺めているのでしょう。
妻は――そのことに思い至っているのでしょうか。私の下で悦びを喰い締めながら、愛らしい泣き声をあげている妻は――。

「は、、っ、ああっ、、ああんっ」

そして私は果てました。それと同時に抱きしめた妻の身体のびくびくと痙攣する感触が、いつまでも腕の中に残りました。
  1. 2014/10/11(土) 03:49:27|
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よき妻 第12回

「ね、昨夜は凄かったわね」
近くに寄ってきた明子が囁くように言いました。私は後ろの妻と赤嶺を気にしながら、ぶっきらぼうな口調で「何が?」と答えます。
「分かってるくせに」
「・・・・・」
「奥さん、あんなに乱れることもあるのね。普段の楚々とした感じからは想像もできないくらい。凄くエロティックで魅力的だったわ」
明子はそう言いましたが、実のところ私だってあれほど感じている妻の姿を見たのは昨夜が初めてだったのです。

その日の朝、目覚めると横に妻の姿はありませんでした。しばらくして部屋へ戻ってきた妻に「どこへ行ってた?」と聞くと、
「お風呂に・・・」
短く答えるその様子はいつもの妻でしたが、やはり昨夜の乱れ方を恥じているのか目を合わせようとはしませんでした。
その後、部屋の襖を開けはらって、昨日のようにまた四人で朝飯をとったのですが、昨夜の情事を二人に見られていたかと思うと私自身、多少気まずくなるくらいでしたから、妻はなおさらのことでしたでしょう。喋るのは赤嶺と明子ばかりで、私たち夫婦は黙々としていました。なに、赤嶺や明子だって事情は似たようなものだったのですが。

車がないので観光しようにも足がなく、またこの宿がある一帯の閑静な雰囲気が気に入ったので、午前中は特に何をするでもなく無為に過ごしました。午後になって赤嶺が「辺りを散歩しないか」と誘ってきたので、四人そろって宿を出たのです。

「君たちだって盛り上がっていたんじゃないのか」
私が言い返すと、明子は軽く笑って手を振りました。
「駄目。あなたたちが始めだしたら、あのひと、そっちのほうが気になっちゃって。ほら、あのひと前から瑞希さんのファンでしょ。だからね」
『あのひと』とはもちろん赤嶺のことで、その赤嶺は私たちの背後で妻にあれこれと喋りかけています。妻がそれに対して言葉少なく相槌を打っているのを横目で見て、私はふとあることに思い至りました。
あの日・・・赤嶺が我が家へやってきて、妻に「セックスはお嫌いですか?」「ご主人では満足出来ない?」などと問いかけたあの日のことです。私はそれ以前からうまくいっていなかった妻にはじめて離婚を切りだし、そしてその夜、妻は私のベッドへ忍んできたのです。
あのとき妻はこのままでは離婚してしまう、だからなんとか私を引きとめようとしてあのような行動に出たと説明しました。
しかし。
私は昨夜のことを思い出しました。隣室で睦みあう赤嶺らの声を聞きながら、密かに秘所を濡らしていた妻。そのことを私に知られ、恥じ悶えながら私の愛撫に泣き乱れた妻・・・。
それは私がかつて見たことのない妻の姿でした。
もしかすると妻は恥ずかしさで感じてしまう女なのではないか、と私は思いました。羞恥心が人一倍強いだけに、羞恥を強制されると性感を刺激されてしまう女。もしそうだとするとと、あの日妻がベッドへ忍んできたのは、私を引き止めるだけでなく、赤嶺の言葉による嬲りで火照った身体を鎮めて欲しかったからではないか・・・。

「何を考えているの?」
物思いに耽っている私をおかしそうに見て、明子は不意に腕を絡めてきました。まるで以前からの恋人か夫婦のように自然な仕草で。
「自然にして。奥さんが見てるわ」
明子の狙いが分かりました。今夜実行する予定のスワッピングの布石として、私と明子の親密さを妻へ見せつけようというのです。
私は後ろを振り返らずに、なるべく自然な様子で明子と腕を組み、歩きました。
  1. 2014/10/11(土) 03:50:30|
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よき妻 第13回

そうしてまた夜がやってきました。
「ああ、いい気持ち。ここは本当にいいところだわ」
畳の上に仰向けに倒れながら、明子はしみじみとした口調で言いました。その顔は酒でほんのり赤く染まっています。
「静かで、ゆったりできて、何もかも忘れて開放的な気分になれちゃう。こんな気持ち、大学のとき以来よ」
そう言うと明子は潤んだ瞳で、私を見上げてきました。
「こらこら、大学時代の焼けぼっくいに火がついたんじゃないだろうな」
酒を飲んでいた赤嶺が横から茶々をいれると、明子は余裕の表情です。
「いいじゃない、――さんとは本当に久しぶりに会ったんだから。ね」
そう言うと明子は悪戯な顔になり、「ごろにゃーん」などと言いながら、猫の真似をして私に抱きついてきました。
「おいおい、本気で酔ってるな」
「にゃーん」
私はなかば本当に慌てて明子に言いましたが、彼女はなおも猫の真似をしてしがみつき、離れません。
妻を見ると、向こうもこちらを見つめていたようで、慌てて目を逸らすのが見えました。そのまま妻の手がグラスに伸びます。普段、酒を飲まない彼女にしては珍しく、妻はその夜は多く飲んでいました。傍らに妻がいるのに、はしたなく夫に絡んでくる明子や、そんな明子にデレデレ?している私を苦々しく思っているのでしょうか。表情の読めない女なので、よく分かりません。

なおもしばらくの間、部屋でだらだらと酒を飲んだ後、私たちは床につきました。
そして一時間後。ごそごそと起きだした私を見て、妻はいぶかしげな表情になりました。
「どうなさったんですか?」
「風呂に入ってくる」
この宿の風呂は二十四時間入れるのです。
「そうですか」
何も知らない妻はまた瞳を閉じました。

室内を出ると、玄関にはすでに明子がいました。すべて打ち合わせのとおりです。私たちは目と目で合図をした後、その場にしゃがみこみました。
しばらくして―――。
「奥さん、起きていますか」
室内から赤嶺の声が聞こえました。
「・・・はい」
小さな声で妻が答えるのが聞こえました。続いて襖の開く音がします。
「そちらの部屋に――は・・・いませんね」
最初に「奥さん」と妻だけに呼びかけているので、よくよく考えるとおかしな赤嶺の言葉です。妻は緊張を含んだ声で、
「主人はお風呂へ行っております」
と答えました。
「やっぱりね・・・明子もいま風呂に行っているんですよ」
「・・・・・」
「我が妻ながら大胆な女ですな。主人を残して、他の男と逢瀬とはね。そしてあなたのご主人も」
「・・・お風呂へ行っているだけでしょう」
「混浴風呂にね。そしてこの時間なら他の客はいない。奥さんだって昼間のあのふたりの様子を見たでしょう」
暗闇の中で思わず明子と目が合います。明子は含み笑いをしていましたが、私は妻が気になってそれどころではありませんでした。
「――もひどい奴ですね。こんな美しいひとを置いて、他の女と」
「・・・それ以上、寄らないでください」
妻の声は震えています。
「聞いてください。私は何も残された者同士、傷を舐めあおうと思っているわけではありません。私はあなたが好きです」
赤嶺の言葉を聞いて、それが演技だと分かっているにも関わらず、私の胸はざわめきました。
「はじめて会ったときから、あなたに惚れていた。あなたが――の、私にとって唯一親友と呼べるあいつの妻だという事実が憎かった。私はわるい男です。他の男だったら、私はどんな手を使ってでもあなたを奪いとったことでしょう。でもあいつだけは裏切れない。だが――あいつはあなたを裏切った」
「ああ・・・・」
吐息まじりの妻の呻きが聞こえました。
「泣いているのですか?」
「・・・・・・」

妻のすすり泣く声がします。

私はそれ以上聞いていられませんでした。自分が望んでしたことにも関わらず、いざ妻の泣き声を聞くと、心が痛んで仕方ありませんでした。

もういい、何もかも嘘だ、すべて茶番だったんだ、だから泣かないで。

私はもう少しでそう叫びながら、部屋へ飛び込むところでした。そうしなかったのは、そのときわずかに室内の明かりが灯り、障子の曇りガラス越しに、座りこんだ妻と彼女を抱く赤嶺の姿が映ったからです。

「泣かないでください」
私が言うはずだったセリフを赤嶺が言いました。今まで彼の口から聞いたことがないような、優しい声で。
「心配しないで。大丈夫」

私は―――
私は静かに外へ出ました。先ほどとは別の意味で、弱い私は妻と赤嶺の会話をそれ以上聞いていられなかったのです。
  1. 2014/10/11(土) 03:51:31|
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よき妻 第14回

「なんで部屋から出て行っちゃったんです? いいところだったのに」
先ほどの赤嶺と妻を思い出しながら、ぼんやり風呂に浸かっている私に、明子が話しかけてきました。
「いや、分からないけど聞いてられなくて」
「奥さんを愛しているのね。でもなおさら分からないわ。今度の事はそもそも――さんが計画したんでしょ? 私はそう聞いているけど・・・」
「それは・・・そうだよ」
「それなのにいざ奥さんが他の男に口説かれるときには、聞いていられなくて逃げちゃうなんて・・・男心は複雑なのね」
明子はふざけた口調でそう言って、ぺろっと舌を出します。私は苦笑しました。

ちゃぽん・・・・。

流石にこの時間の風呂は他に利用客もなく、辺りは静まりかえっていて、湯のたてる音だけが時折響いています。
「ねえ・・・」
近寄ってきた明子が、私の腕をとりました。軽く触れた乳房の感触に、私は情欲を覚えます。
「あれから赤嶺と奥さんがどうなったか気にならない?」
「・・・・・」
「もしかして今頃はもう」
そう囁きかける明子の瞳は、小悪魔のように妖しく揺らめいていました。
「奥さん、アレのとき、とってもいい声で泣くのね。昨夜は聞いていて、こっちまでぽおっとなっちゃった」
「・・・・・」
「赤嶺はとっても上手いのよ。私、いっつも泣かされるの。泣くまいと思っていても、やっぱり泣かされて、最後はいつも「挿れて、挿れて」っておねだりしちゃうの。私でさえそうなんだから、素人の奥さんじゃひとたまりもな、あっ」
気がつくと、私は手を伸ばし、明子の乳首を強く摘まんでいました。
「怒ったの?」
「違う」
「怒ったんだ・・・」
くすくすと笑いながら明子は、私の耳たぶを甘く噛みました。私も我を忘れて明子の見事な乳房を掌に包み、揉みたてます。
「楽しみましょ。ふたりに負けないくらい」
あくまで私の嫉妬心を駆り立てようとする明子の言葉。宿屋の風呂場というシチュエーションもあいまって、私は激しく昂ぶりました。
それからはふたり、獣のように荒々しく何度も交わりました。客か宿の清掃員が来るなどということは考えもせず、私は一匹の牡となって明子の身体を嬲り、明子はそれに応えてあけっぴろげな喘ぎ声をあげました。
私の身体の下で股を放恣に開き、切なげに顔を歪める明子。私の妄想の中でそのとき彼女は妻でした。そして私自身は赤嶺と化していました。

明子との奔放なセックスを終えて、私だけ先に部屋へ戻ったのはいつのことだったでしょうか。すでに空はかすかに白みがかり、朝の訪れの近いことを告げていました。
部屋のドアを開けるとき、私は少し躊躇しました。赤嶺と妻が今もなお、この部屋の中で睦みあっている・・・そんな妄想がふっと頭に浮かんだのです。
ドアを開けると、室内は暗く、私が出て行ったときかすかについていた室内灯も消えていました。
暗い部屋の中で妻は静かに寝ていました。布団にも衣服にも乱れは見当たりません。まったく普段の通りの端整な寝姿です。
私は布団へ入りました。胸は熱く高鳴っていましたが、身体はひどく疲れきっていました。
私は目を瞑りました。
暗闇の中で、誰かが私をじっと見つめている気がしました。
  1. 2014/10/11(土) 03:52:26|
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よき妻 第15回

「起きてください、もう朝ですよ」
私は瞳を開けました。目の前に妻の顔がありました。
「皆さん、もう起きてらっしゃいますよ。あなたも早く」
「ああ・・・」
私はぼんやりと布団から起き上がりました。昨夜は寝た時刻も遅く、また様々なことがありすぎてよく眠れなかったので、身体にだるい感じが残っています。
てきぱきと布団をたたむ妻の姿を見つめながら、私はその姿に普段と違う様子がないかどうか観察しました。しかし、どうもよく分かりません。
朝食が運ばれてきて、私たちはまた四人で卓を囲みました。私は食事をしながら赤嶺の顔
をちらちらと見ます。
(お前は昨夜、妻を抱いたのか?)
私としては一刻も早くそのことを確認したい気持ちでした。しかし、赤嶺もまたいつもと変わらない様子で箸を使っています。
その赤嶺が思いがけない提案をしたのは、食事が終わって皆が寛いでいたときでした。
「きょうはお互いのパートナーを交換して遊びに行かないか?」
「・・・どういうことだ?」
「俺は瑞希さんと、お前は明子と一緒に行動するってことだよ。せっかく普段とは違う場所に来てるんだから、普段とは違う相手と旅を楽しむのもわるくないと思ってさ」
こんなプランは私たちが事前にたてた計画にはありませんでした。私は赤嶺の真意を掴みかねて、その顔をまじまじと見つめましたが、赤嶺は平然たるもので、今度は明子に向かい、
「どうだ?」
と尋ねます。
「面白そう。私は賛成よ」
明子は即座に賛成しました。
赤嶺は妻を見ました。
「奥さんはどうですか?」
「私も・・かまいません」
妻がほとんど躊躇することなくそう答えたことに、私は驚愕しました。
「ということで女性陣は皆賛成しているけど、お前はどうだ?」
赤嶺が屈託のない口調で聞いてきます。私は皆がグルになっているような疑心暗鬼に囚われながら、
「いいよ、それで」
とぶっきらぼうに答えました。
「じゃ、決まりだ」
赤嶺はにこりと笑います。私はその笑顔になぜとなく不吉なものを感じて、目を逸らします。
(これは何かある・・・)
一番の疑惑のもとはこの問答の間中、妻が一度も私を見なかったことです。

「ねえ、せっかくだからどこかへ行きましょうよ」
部屋にぼんやりと寝転んだままの私に、明子がさすがに焦れた声をあげます。すでに赤嶺と妻の姿はありません。
「分かってるわ。奥さんのことが気になっているんでしょう」
「・・・君は赤嶺から昨夜のことを聞いたのか?」
『昨夜のこと』とはもちろん、私と明子が部屋を出て行った後、赤嶺と妻に起こったことを指しています。
「さあねえ」
明子は世にも曖昧な返答をしました。その顔は駄々っ子を見つめる大人のような小憎らしい微笑を浮かべています。
「――まったく、あなたも赤嶺も瑞希さんのことばっかり気にして。私のこと、なんだと思っているのかしら」
「・・・すまない」
「すまないと思っているのなら、さ、早く出かけましょ。行き先はどこでもいいわ。私を楽しませてくれるならね」
明子に促されて私はようやく重い腰をあげました。しかし相変わらず、心の中は重く濁ったままでした。
  1. 2014/10/11(土) 03:53:30|
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よき妻 第16回

それから明子とふたり、飛騨観光をしましたが、山深い緑の美しさや素朴な伝統美溢れる工芸などを見ているときも、私の脳裏によぎるのは生臭い想念だけでした。
いまこうしている最中も妻と赤嶺はどこかのホテルで昼間から情事を楽しんでいるかもしれない。そんな邪推がどうしても頭に浮かんできます。
(何をいまさら・・・)
苦しい心境の私を、もうひとりの醒めた自分が笑います。
(今度の事はおまえ自身が望んで計画したことではないか)
(その結果がどうなろうと、もとよりお前の覚悟のうえのことだろう)
そしてそれはたしかにそうなのです。

宿へ戻ったのは夕方も六時を過ぎた頃でした。
「遅かったな」
部屋へ入った私に赤嶺が声をかけました。その横に妻が行儀よく座っています。そろって浴衣を着た二人は、知らぬ者が見たら夫婦と思うくらい違和感がありません。そんなくだらない事実が、私の胸をかすかに痛ませました。
「疲れただろう。まずは風呂へ入ってこいよ。おれたちはもう入ってきた」
『おれたちはもう入ってきた』
その言葉にひっかかる心をこらえて、私は「ああ」とうなずきました。出がけに妻をちらりと見ましたが、彼女はうつむいていて視線を合わせませんでした。

風呂から戻ってくると、すでに夕餉の支度は出来ていました。
卓の一方に妻と赤嶺が並んでいます。私は何も言えないまま、明子と並んで座ります。これでは本当にどちらが夫婦なのか分かりません。
私がむっつり黙り込んで食事し、また酒を飲んでいるのを知ってか知らずか、赤嶺は陽気に笑いながら、妻にあれこれ話をしています。妻は相変わらず静かな受け答えをしていましたが、その様子にも以前とは違う親しさがあるように見えて仕方ありません。
「――さん、これ食べる?」
「お酒、もっと注ぎましょうか」
明子は大きな瞳をくりくりと動かしながら、あれこれと私の世話を焼いてきます。まるで私の妻であるかのように。
私はすべてがどうでもよくなり、なされるままに明子の世話を受けながら、したたかに酔っ払いました。

「それにしても暑いわねえ、クーラー効いてるのかしら」
皆の酔いもだいぶ進んだ頃、明子がぶつくさ言いながら立ち上がりました。その足取りは相当にふらふらとしています。
「大丈夫か。足がふらついているぞ」
「大丈夫、大丈夫。それにしても暑いわぁ。私、もう我慢できない」
明子はそう言うと、皆の顔を見て悪戯な微笑を浮かべ、浴衣の帯を解き始めました。
「おい!」
「いいじゃない、今夜は無礼講だもん」
甘ったるい口調で言いながら、明子はふりふりと腰を揺らしつつ、しどけない仕草で浴衣を脱ぎ捨ててしまいました。ブラジャーはつけていなかったので、パンティだけのセミヌード姿です。
パンティだけになった明子は、ふらふらとした足取りで私に近寄り、しなだれかかりました。
「明子!」
「あ~ん、身体が熱いわ。――さんも分かるでしょう」
明子の豊かな乳房の感触を私の背中が感じます。その部分はたしかに熱く火照っていて、淫らな熱を伝えていました。
「まったくしょうがない女だな」
さすがの赤嶺も苦笑していましたが、
「でもたしかに暑いな。瑞希さんはどうですか?」
「・・暑いです」
妻の短い返答を聞いて、次に赤嶺は驚くようなことを言いました。
「明子みたいに浴衣を脱いだらいかがです? 涼しくなりますよ」
「な・・・」
何を馬鹿なことを、と言いかけて私は言葉を飲み込みました。
一瞬、窺い見た妻の顔に、ただならぬ張りつめた気配を感じたからです。
妻は―――まっすぐ赤嶺だけを見返しました。そして言ったのです。
「・・・そうですね。私も脱ぎます」
  1. 2014/10/11(土) 03:54:49|
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よき妻 第17回

妻の意外すぎる発言に私は呆気にとられました。次の瞬間、思わず「馬鹿なことを言うな」と叫びだしそうになった私の腕を明子が掴みました。その顔にはまたあの悪戯な表情が浮かんでいて、目で私に「何も言うな」と伝えています。
そうこうしているうちに、妻は立ち上がりました。何も言わずに細やかな指を帯に這わせ、赤嶺を見ました。赤嶺がうなずくと、妻は帯を解き、さらに浴衣へ手をかけました。その口元はかたく引き締められ、瞳は何かに憑かれているようです。私は混乱の極みにいましたが、そんな凄絶とも言える妻の表情に目を奪われていました。
ついに妻は浴衣を脱ぎさり、白いスリップとパンティだけの姿になりました。私は何も言えずにその姿をぼんやり眺めていましたが、赤嶺が、
「スリップも脱いだらどうです? もっと涼しいですよ」
と言ったときには、全身がかっと熱くなるような気がしました。思わず睨みつけましたが、赤嶺はそ知らぬ顔をしています。
妻は赤嶺の言葉に大きな瞳を見開きましたが、すぐに、
「そうですね・・・」
と返事をして、今度はスリップに手をかけました。妻は気が違ってしまったのではないか、と一瞬、私は本気で思いました。
手指を震わせながら、男の言われるままに下着を脱いでいく妻。私はまったく見知らぬ女のストリップを見ているような錯覚さえ覚えます。

さらり。

妻の手から離れたスリップの落ちる音が聞こえるくらい、辺りは静まり返っていました。
静寂の中でひとり立っている妻は、白いパンティだけの姿です。見慣れたはずの小さい肩と細く長い手足、綺麗な珠の乳房、そして透けるような白い肌が、こうして明かりの下で見ると、普段とは違う艶めかしい陰影を浮かべているように見えました。
『普段とは違う』・・・たしかに違います。ここには明子が、そして赤嶺がいて、食い入るような視線を妻に向けているのです。ふたりともすでに風呂場で妻の裸は見ていますが、こんな状況での脱衣ショーは、また違った扇情的な興奮を誘うのでしょう。そしてそれは私も同じだったのです。他の男の言いなりに服を脱ぎ、乳房まで晒した妻に、私は燃えるような嫉妬と、そして同じくらい激しい欲望を感じていました。

パンティ一枚だけの姿になった妻はしばらくの間、虚脱したように立っていましたが、
「涼しくなったでしょう、奥さん。こっちに来て、私の酌をしてくれませんか」
という赤嶺の言葉に、催眠術でもかけられたかのようにふらふらと座り込み、赤嶺の傍へ行きました。まだかすかに震えている手が、赤嶺の差し出した杯に酒を注ぎます。乳房を丸出しにしたまま酌をしている妻は、知らない者が見たら間違いなく赤嶺の情婦だと思うことでしょう。
そんなしどけない妻を楽しげに見つめていた赤嶺が、不意に彼女の耳元に口を寄せ、
「がんばったね・・・」
と小さく囁く声が聞こえました。
(がんばったね・・・)
その言葉の意味を詮索する以前に、私はその囁きにいかにも情の通じ合った男女のやりとりを感じて、強いショックを受けました。

「奥さんを見てたら、私、ますます熱くなってきちゃった・・・」
生温かい吐息とともにそう囁いた明子が、もはや慎みの影もなく、私にしなだれかかり、耳たぶを甘噛みしてきました。こちらも丸出しの若い乳房が、その存在を誇示するかのように私の腕や胸にぐりぐりと押し付けられます。いつの間にか悪い夢に迷い込んだような気分でいた私は、明子の挑発的な仕草を制止することもなく、ただなされるままになっていました。視線は相変わらず妻に向けたままでしたが、妻はこちらを顧みることはありません。
明子の手が私の股間に伸びました。傷つけられた心とは対照的に、私のそこはすでにこれ以上ないほど猛っていました。その肉棒に明子の手が絡みつき、男の身体をよく知った女らしい淫らな愛撫を繰り返します。
「う・・・・」
快感のあまり、私は思わず一方の手で明子の裸の身体をぎゅっと引き寄せました。明子はにんまりと笑って、私の顔に口を寄せ、貪るようにキスをしてきました。
口内をねちゃねちゃと荒らしまわる濃厚なディープキスにうろたえる私の視界に、妻が映ります。妻は今夜はじめて私の顔をまっすぐ見つめていました。目の前で別の女と痴態を繰り広げている夫を彼女はなんと思っているのでしょうか。彼女の瞳に映っているのが、悲哀の色なのか、それとも軽蔑の色なのか、そのときも私には分かりませんでした。
私をじっと見つめる妻に、赤嶺が顔を寄せ、何事か囁きました。そうしているうちにも、赤嶺の手は伸びて、若々しく上を向いた妻の乳房の、その頂点の突起をぎゅっと掴んだのです。
「あ・・・・・っ」
妻の顔が切なげに歪むのが見えました。
  1. 2014/10/11(土) 03:56:00|
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よき妻 第18回

赤嶺は妻の反応を面白がるように、摘まんだ乳首を親指の腹でぐりぐりと擦りあげます。妻はぎゅっと瞳を瞑り、眉根を寄せて押し寄せる快感に耐えているようです。
赤嶺の手は好き放題に妻の片方の乳首を蹂躙した後で、もう一方の乳房へ移りました。卑猥に弄ばれた乳首は遠目からも分かるほどにきゅっと屹立し、乳房は火照って紅に染まっていました。
乳首弄りを続けながら、赤嶺は妻の口元へ顔を寄せました。目を瞑ったままでじっと快感に耐えていた妻は、突然かぶさってきた赤嶺の口に、
「んん・・・」
と小さく呻きながら、自ら朱唇を開いてそれに応えました。

私は気が変になりそうでした。
結婚した当初、私は妻が理解できませんでした。そのことに悩み、苦しみ、赤嶺の助けもあって、ついに私は妻と分かり合えた、本当の意味で愛し合うことが出来たと思っていました。そしていま眼前の妻は、その赤嶺に肢体を好きにさせながら、唇の愛撫にまで応えているのです。
妻はまた私にとって未知の女になりました。気が狂うほどに愛しいのに、いくら手を伸ばしても届かない女になりました。
そして――。
私はそのことに慄然としつつ、なぜか恐ろしいほどの興奮に見舞われたのです。

奥飛騨の静かな宿で、私たちのスワッピング――そうです、初めからその目的のために来ていたはずなのでした――は続いています。
うねうねと肢体を揺らしながら、派手な嬌声をあげて私にしがみついてくる明子。すでにほとんど崩れかけた浴衣を腰の辺りに巻きつけたまま、私は明子を抱き上げ、あぐらの上に乗せてその乳房に吸い付きました。明子は熱い鼻息を洩らしながら、女っぽさに満ちた裸身をくねらせ、私の首筋にキスの雨を降らせます。
卓を挟んだ向こう側では、赤嶺が妻の耳を舐めまわしながら、両手で乳房をねっとりと揉みたてています。赤嶺のごつごつとした掌にたわめられ、引き伸ばされ、ぐりぐりと揉みまわされる妻の乳房。私が妻の身体のうちでも最も好きなその部分は、いまは他の男の玩具と成り果てていました。
「ひっ、ひっ」と切ない声をあげて、妻が泣いています。その額にはうっすらと汗が浮かんでいます。潤みがかった瞳は、すでに宙を彷徨っているようです。
妻を快感の淵に追い込んだ赤嶺は、弄りまわした乳房から一方の手を離すと、今度はパンティにそろそろと手を伸ばしていきます。そのパンティはすでに傍から見てもはっきり分かるほどに、ぐっしょりと濡れそぼっていました。
「あっ、あっ、だ、だ、、、めっ」
赤嶺の手がパンティへ伸びるのを見て、妻が抵抗の気配を見せましたが、その声はすでにろれつがまわっていません。赤嶺は笑いながら妻の顔をもう一方の手で触り、親指をその口元に差し入れます。
「んんんっ」
赤嶺の親指は妻の舌を嬲り、唇を歪ませます。妻は諦めたようにきゅっと瞳を瞑ると、まるで赤子のように一心にその親指をしゃぶりはじめました。
おとなしくなった妻を尻目に、赤嶺の手はパンティの上から妻の秘所を撫でまわしはじめました。赤嶺のごつい指がその部分を一撫でするたびに、妻の小さな裸身がびくりと痙攣します。私との営みのときにはほとんど見せたことのないような妻の激しい反応に、私は目を見張りました。
やがて赤嶺の手はそろそろとパンティの中へ潜り込み、直に妻の秘所を嬲り始めました。妻の反応もさらに激しくなり、親指を入れられたままの口からすすり泣くような声が洩れ聞こえはじめます。唇の端からわずかに零れたよだれが、室内の明かりに照らされてきらりと光って見えました。
  1. 2014/10/11(土) 03:57:01|
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よき妻 第19回

むんとする熱気、汗の匂い、そして心をかきむしられるような妻の啼き声。
私たちは四匹の獣でした。互いの痴態から快楽を盗み取っては欲情する獣でした。
「あんっ、ああんっ、あ、あーっ」
すでに十分以上は赤嶺の手で秘所を嬲られ続けている妻が、もはや耐えられぬげに悶え泣き、全身を震わせました。
「瑞希は可愛い声で泣くな。今夜はもっともっと泣かせてやるからな」
紳士の仮面をかなぐり捨てた赤嶺は妻の名前を呼び捨てにし、そんなことをほざきました。
「あ、あっ、も、だめ、、、、もうすぐ、もうすぐです」
妻はうわごとのように呟きながら、ふらふらの身体で赤嶺にぎゅっとしがみつきました。
「逝きそうなのか? 瑞希」
「いや・・・」
「なんだ、まだ逝きたくないのか」
「・・・・・・」
「逝きたいならきちんと私にお願いするんだ。『早く瑞希のパンティを脱がせて、あなたのおちん*んで思いっきり逝かせてください』と」
「やっ、そんなのだめです、言えない」
「それならまだ逝かせてやれないな」
赤嶺はにたりと笑うと、しばらくやめていた秘所嬲りを再開しました。赤嶺の手がパンティ越しに蠢くたびに、妻の尻がびくっびくっと跳ね上がります。
「あんあんあん! い、いじわる」
妻は真っ赤に染まった顔を赤嶺の胸にぐいぐいと押し付けています。そんな妻を赤嶺はさも満足げに笑みながら見つめているのです。

「もう。奥さんのほうばかり見て・・・」
明子が私の耳元で囁いてきました。その明子の手が私の下着の中に差し込まれ、いきりたったものをぎゅっと握り締めました。私は思わず顔をしかめます。
「犯される奥さんを見て、こんなになってる。本物の変態さんね」
明子はうふっと笑って立ち上がり、私の視界を遮りました。そのまま、自らの手でパンティを脱ぎ下ろします。私の目の前に明子の黒々とした陰毛に覆われた恥裂が晒されました。
「触って」
明子の言葉に促されるように私は秘芯へと手を伸ばし、濡れ濡れとした肉裂へ二本の指を差し込みました。
「ああ・・・・」
明子が深い愉悦の吐息を洩らしました。
「気持ちいいのか?」
「とってもいい・・・」
陶酔の表情を浮かべた明子は、次の瞬間、ぞっとするほど蟲惑的な笑みを私へ向けました。
「奥さんのことを考えながらしたら承知しないんだから」
それだけ言うと、明子は私をゆっくりと押し倒しました。

私の上に明子が騎上位でまたがった格好で、ふたりは繋がりました。
女として磨き抜かれた明子の技巧、肉棒をきつく締め付けてくる膣襞の感触に、私はえぐられるような快感を味合わされます。
ゆっくりと悦びを喰い締めるかのように、明子の上半身がうねります。滑らかな乳房の上にふつふつと浮かんだ汗の玉が、私の胸にぽたぽたと垂れ落ちました。
「はああ・・・・」
瞳を瞑ったまま、満足げな顔でエクスタシーに浸る明子。その肢体の影で妻は――。
妻は―――。

「は、や、く」
「うん? 聞こえないぞ。もっと大きな声で言うんだ」
「は、や、く、パ、パンティを、、、脱がせて、、、、」
「あ、あなたの、お、お、おちん*ん、、、、」
「逝かせて、、、ください、、、、瑞希を、、、逝かせて、、、ください、、、」
  1. 2014/10/12(日) 07:25:51|
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よき妻 第20回

「逝かせて、、、ください、、、、瑞希を、、、逝かせて、、、ください、、、」

挿入をねだる妻の声。
私以外の男の肉棒をねだる声。
息も絶え絶えなその声は、快感よりもむしろ苦悶を感じさせるような鬼気迫る調子でした。

まさに自業自得、身から出たサビとしか言いようのないことですが、そのときの妻の声は、
(妻を失ってしまった・・・)
という感慨を強烈に自覚させるものでした。
自業自得・・・たしかにそうです。これは私が望んでしたことなのです。他の男に抱かれて欲望を曝け出す妻を、私は心の底から見てみたいと思っていたのです。その覚悟も出来ていたはず・・・でした。

結局、私は昔から何も変わっていない、ただ図体が大きくなっただけの子供でした。何かを得ようとするならば、同じくらい大切な何かを失わなければならないこともある。そんな理屈を頭では理解しながら、決して受け入れようとしない未成熟なままの心を抱えたわがままな子供でした。

快楽を貪っている最中、急に私の力が抜けたことに驚いたのか、
「いったいどうしたのよ? ――さん」
そう言って私の顔を覗き込んだ明子は、恨みがましい目つきをしました。
「もう。せっかくいいところまでいってたのに」
私はすまないと言うかわりに明子をそっと抱きしめました。

自らうつ伏せの姿勢を取り、妻は言われるままに尻だけを高く上げています。すでにパンテイは剥ぎ取られ、妻は生まれたままの姿です。
赤嶺の目に妻の濡れそぼった秘口、そして尻の穴までが晒されています。
薄笑いを浮かべた赤嶺は、眼前に差し出された陰部を両手指で広げ、その卑猥な感触を楽しみ始めました。と同時に妻の顔が切なげに歪みます。

ぬちゃ・・・ぬちゃ・・・

鮮紅色の肉裂に根元まで埋まった赤嶺の指が蠢くたび、妻の口から喜悦混じりの泣き声が洩れます。
女の身体を知り尽くした男の淫猥ないたぶり。口先三寸という言葉がありますが、今の妻は指先三寸で赤嶺に操られる淫らな生き人形です。
ようやく赤嶺の指が妻の陰部から引き抜かれました。蜜をいっぱいに付けたその指を妻の尻になすりつけた後、赤嶺はようやく浴衣を脱ぎ始めました。
妻は昂ぶりきった肢体をもてあましているのか、鼻で泣きながら尻をぶるぶると震わせています。男を欲しがって泣き咽ぶ妻の、宙を彷徨うかのようだった視線が、ふと私の視線と出会いました。
何かに打たれたように、妻ははっとした表情になりました。

「あ、あう、あ、、、、」

私の目を見つめたまま、妻が口をぱくぱくと動かしました。何か告げようとしているようですが、言葉にはなりません。
そのときでした。
下着まで脱ぎ去り、一糸まとわぬ姿になった赤嶺が妻の後ろに立ったのです。
学生時代からボクシングをやっていた赤嶺は、ごつごつと筋肉のついた逞しい身体つきをしており、股間でおえかえっている極太の怒張は天を突かんばかりの迫力です。その赤黒い凶悪な怒張が、いまから妻の小ぶりの性器へ入ろうとしているのです。

ふと赤嶺は私を見ました。出会ったときからずっと変わらない、あの不敵な瞳で。
そして。
赤嶺はにっと笑ったのです。
これから先、一生忘れられそうにないその笑みが、私の脳裏に焼きついた、まさにその瞬間でした。

赤嶺の怒張がずぶり、と妻の性器を貫きました。
  1. 2014/10/12(日) 07:27:04|
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よき妻 第21回

「――――――っ」
後ろから赤嶺に貫かれた瞬間、勢いよく弓なりに背を反らせ、妻は声にならない呻きをあげました。
端整な顔は引き攣ったように歪み、首筋から上が真っ赤に紅潮しています。
「挿れられただけでイッたのか? 淫乱な身体だな」
赤嶺は妻と私を同時に嬲る言葉を吐き、妻の両手を太い腕でがっちりと掴みます。
そのときでした。
「や、、、やめて、、、、」
かすれた声でそう言って、妻は涙を滲ませた瞳を薄く開きました。その目はたしかに私を見つめています。
「うん? どうした、瑞希。大好きなおちん*んを食べられてうれしいだろう?」
「いや、、、、きらいです、、、、もういや、、、抜いて、、、おねがい」
「何を今更。瑞希に頼まれたから挿れてやったんだぞ。自分だけイッたからって、それでおしまいなんてことは許さない」
赤嶺はサディスティックな笑みを浮かべました。
「私の味を瑞希がしっかり覚えるまではね」
そう言い放つと、赤嶺は握り締めた妻の手首をぐいっと自分のもとに引き寄せました。
「あうっ」
悲鳴をあげて妻の身体がのけぞります。間接が抜けそうなくらい手首を引き絞られ、強引に背を反らされた妻は、いかにも苦しそうな表情です。
赤嶺は妻をそんな体勢にしておいて、逞しい腰を妻の尻肉にばこんばこんと打ちつけ始めました。
「いやぁっ、、あっ、、、ひっ、ひっ、、、」
いかにも男そのものといったふうの赤嶺の極太の肉棒が、妻の膣襞をえぐりながら激しく抜き差しされます。その抽送の迫力は妻のか細い身体が壊れてしまうのではないかと思えるほどでした。
男の目からは暴力としか思えないような交合です。
しかし女、性感の高まった女には、そんな暴力的な営みがまた別の感覚をもたらすことを、私は変わりゆく妻の様子で知ることになりました。
初め苦悶に満ちていたはずの妻の顔。ぎゅっとたわめられた眉、引き絞られた口元が、徐々に緩んでいきます。上下に激しく振れる乳房の突起は、はっきりと屹立していました。
「くうっ、、、、んんんっ、、、、」
尻に一突きをくれられるたびにあげる妻の声が、次第に肉の悦びを刻んでいくのが分かります。
「あんん、、、そ、そこはだめ、、、あ、あああああっ」
生々しい恍惚の声が妻の口から洩れはじめました。その顔はすでに私の知る妻ではない、快楽に酔う『牝』の表情を晒していました。
私は胸を切り裂かれるような痛みを感じながらも、その蟲惑的な『牝』に見とれていました。
  1. 2014/10/12(日) 07:34:11|
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よき妻 第22回

赤嶺は妻をどうしようもない情態に追い込んでおいて、不意に抜き差しをやめました。膣に咥えさせられたまま、放りっぱなしにされた妻は呆けた表情で赤嶺を見返します。
「いい顔だ」
赤嶺は嘲うようにそう言うと、また抽送を開始しました。呆けたようだった妻の顔が、再び喜悦の色に染まります。
「あっ、あっ、たまらない、、、」
物欲しげに雪尻を振りたてながら、赤嶺に子壷を貫かれる悦びに妻はどんどん蕩かされていきます。突かれる度に餅のような乳房が上下に振られ、玉の汗を散らすのがはっきりと見えます。

「奥さん・・・・すごい」
私の上でぽつりと明子が呟きました。その瞳は魅入られたように、妻と赤嶺の情交に見とれています。
明子もまた、妻という『牝』の妖しい魅力に惹きつけられているのでした。

赤嶺はバックから散々妻を泣かせたあげくに達することは許さず、体勢を入れ替えて今度は自分が下になりました。そのまま崩れ落ちそうな妻の身体を引き寄せて、怒張を呑み込ませます。
赤嶺の身体の上にまたがった妻。その股間は大きな怒張をすっぽりと呑みこんでいます。涙で赤く腫れ上がった瞳は夢遊病者のようですが、赤嶺が下から子壷を突き上げだすと、新たな精気を吹き込まれたかのように妻の腰は淫らにくねりだします。
赤嶺のものをしっかりと喰い締めた妻の細腰が、与えられる打撃に合わせてぽんぽんと撥ね、その度に妻の口から快美の声が洩れます。細く高く、淫蕩に響くその啼き声に誘われたように、私と明子は立ち上がり、ゆらゆらと二人のもとへ近寄っていきました。
「あ、、、、あな、た、、、、」
近づいてきた私に気づいた妻が、泣き濡れた瞳で私を見つめました。
「瑞希」
私はその晩はじめて妻の名前を呼びました。
「あうあ、、、ごめ、、ごめんなさい、、、わ、わたし、、、わたし、、、、ああっ」
がくがくと肢体を震わせながら、妻がそんな言葉を口にします。しかし、その間も妻の細腰は赤嶺をしっかりと受け入れたまま、離そうとはしないのです。
それはたまらなく哀しく、たまらなく淫蕩な光景でした。
私は我を忘れ、涙でぐちゃぐちゃの妻の顔を抱き、唇を吸いました。口の中で妻の舌がひくひく痙攣しているのを感じながら、私は汗で滑光る上半身をねっとり愛撫してゆきます。
「あ、、あなた、、、、、ううう」
もはや完全に崩れかかった妻は悦楽の呻きを洩らし、私の愛撫に熱く反応して全身をわなわなと震わせるのでした。
「奥さま、、、、可愛い、、、、」
ふと気づくと、明子もまた、陶酔した表情で妻の傍らに座り込み、淫らに蠢くその尻や背肌に頬擦りしつつ、細い指で乳や腹を優しく擦っていました。
夫の私、間男?の赤嶺、その愛人である明子と、これ以上ないほど異常な取り合わせの三人に昂ぶりきった全身を弄られ、愛された妻は、深すぎる愉悦に狂乱したように尻を揺さぶりたてていましたが、やがて、
「ああンっ、、た、たまらないっ、、、あ、あ、もう、逝きますっ、逝ってしまいますっ」
一声高く長啼きして、遥かな高みへと駆け上っていくのでした。

それは長い夜のまだまだ始まりにすぎませんでした。
その夜、私たちはそれから明け方近くまで、三人がかりでたっぷりと妻を愛したのです。
  1. 2014/10/12(日) 07:35:49|
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よき妻 第23回

いつの間にか私は眠り込んでいたようです。ううーんと唸りながら目を開けた私に、近くで煙草を吸っていた赤嶺がふっと笑いかけました。
「だいぶお疲れだな。もうロートルなんだからほどほどにしとけよ」
そう言う赤嶺も無精ひげは伸び、目の下には隈が出来ています。私は裸のままでしたが、彼も隣で寝ている明子もすでに浴衣を身に着けていました。
「お前は寝ていないのか?」
「いや、少し寝たよ。さすがの俺も今回はくたびれた」
屈託のない笑顔を浮かべる赤嶺に、私は曖昧な笑みを返しました。
ふたりの視線の先には、畳の上にしどけなく裸の寝姿を晒す妻がいます。
その表情は先ほどまであれほど乱れ狂っていた女とは思えないほど安らかで、あどけなくさえ見えました。

煙草を吸い終わった赤嶺が不意に立ち上がって、寝ている妻の傍らに行きました。
気配に気づいた妻が薄目を開けましたが、その瞳はいまだ夢の中にいるかのようでした。
「お目覚めかい。身体の調子はどう?」
「・・・身体中・・ばらばら・・・」
とろんとした口調で、妻が答えました。
「昨夜は凄かったな」
「いや・・・・」
「風呂へ行こう。疲れがとれるよ」
赤嶺はそう言って、妻の身体を抱き上げました。
「裸はいや・・・着るものを」
「分かったよ」
赤嶺は落ちていた浴衣をいいかげんに妻にかぶせました。
「じゃあ、行って来る」
赤嶺はちらりと私を見てそう言うと、妻を抱えたまま室外へ消えました。
私は何も言わずにそれを見送りました。

しばらくして、明子が「うーん」と呻きながら、薄目を開けました。部屋に私しか残っていないのを見てとって、
「赤嶺と奥さんは?」
「風呂へ行ったよ」
「まったく・・・朝から元気ねえ」
それだけ言って、また眠ってしまいました。
しばらくして私は立ち上がりました。

浴場へ入るガラスの扉から、かすかに明け方の光が差しこんでいました。
私は音を立てないように、その扉の傍に行きます。
ガラス扉越しに妻と赤嶺の姿が見えます。他の客の姿は見えません。
赤嶺は妻を抱え上げ、立位で繋がっていました。
あれほどくたびれていたというのに、妻は赤嶺の首へしどけなく抱きついたまま、ふかぶかと怒張を咥えこんだ腰を激しく揺さぶらせています。瞳を瞑ったその表情は、心の底から愉悦を味わっているようでした。
がっちりと逞しい赤嶺の肉体と妻の女らしい細やかな肢体は見事な対比を描いていて、古代ギリシャの神々を描いたヨーロッパの絵画を思わせました。

しばらくそんな二人をぼんやり見つめていましたが、やがて私は静かにその場を離れました。

部屋へ戻って布団を敷き、ひとり眠っていると、妻と赤嶺の戻ってきた気配がしました。
しばらくして隣に妻が滑り込んできました。私は瞳を瞑って寝たふりを続けます。
目が覚めたら、私たちはどうなるのだろう。そんなことを考えながら、私はいつしか眠ってしまいました。
  1. 2014/10/12(日) 07:37:05|
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よき妻 第24回

目が覚めたらもう昼近くでした。
「あなた、起きないと。もうすぐチェックアウトの時間ですよ」
瞳を開けると、妻がいました。いつものように端整に服を着こなし、顔にもやつれや疲れのようなものは見えません。
私はその顔をじっと見つめていましたが、口から出てきたのは次のような間抜けな言葉でした。
「・・・朝飯はどうした?」
「キャンセルしました。赤嶺さんたちは仕事の用事があるらしく、朝も早いうちにお立ちになりましたし、あなたはお疲れのようだったから」
どことなく強張った口調でしたが、妻は私がじっとその顔を見つめていても、いつものように瞳を逸らすことはありませんでした。
それにしても赤嶺たちはどうして去ったのでしょうか。仕事の用事があるなんて聞いていません。普通の男女なら朝になって私たち夫婦と顔を合わすのが気恥ずかしかったという説明も成り立ちそうですが、あいにく赤嶺と明子は普通の男女ではありません。
とりあえず私は起き上がりました。
昨夜は衣服やら何やらで、あれほど散らかっていた部屋が今はもうきちんと片付いています。てきぱきと布団を畳み、帰り支度を整えている妻を見つめながら、私はぼんやりとした面持ちで歯を磨きました。

宿を出ると外は晴れ渡っていました。夏の休暇も明日で終わりです。
私たちは小さな駅前の喫茶店で朝食をとると、高山行きの電車に乗り込みました。電車はとても空いていて、客は私たちのほかにニ、三人しかいません。
目の覚めるような飛騨の緑深い山々を窓越しに眺めながら、私は頬杖をついていました。こうして陽光の下で広がる山々を見ていると、昨夜までの宿屋での出来事がまるで夢のように感じられますが、それが夢でないことは私と妻の間に流れているぎこちない空気が証明していました。
「あの、、、、、」
小さな声で妻が言いました。
「ごめんなさい、、、その、、、昨日は」
「・・・謝る必要があるのは俺だよ」
私は言いました。
「瑞希が謝ることは何もない。今度のことは全部、俺のせいなんだ。俺が・・・最初から仕組んだことなんだ」
私は何もかも告白してしまいたい気持ちでいっぱいでした。それがたとえどのような結果になっても。いや、結果などすでに出てしまっているのかもしれない。そのときの私はそう思っていたのですが―――、
「・・・知っています」
妻の返答は驚くべきものでした。
「・・・どうして?」
「二日目の夜に・・・あなたと明子さんが浴場へ行った後、赤嶺さんにすべて聞きました。
あなたが・・・私を赤嶺さんに抱かせるために、お二人をこの旅行へ引っ張り込んだことも、すべて」
「・・・赤嶺はどうしてそれを?」
「分かりません。あのひとは・・・最初からそのおつもりで来たのですから当然でしょうけど、あなたたちがお風呂場へ行った後、私を誘ってきました。けれど、私がどうしてもそれに応じないのを見て、その話をなさったんです」
「・・・・・・」
「私はその話を聞いて腹が立ちました。私が今度の旅行をどれだけ楽しみにしていたか、あなたには分かりますか? それなのに・・・」
妻の淡々とした口調にかえって凄みを感じ、私は何も言えませんでした。
「私はあなたを憎みました。一言の相談もなしにそんなことを赤嶺さんに約束したあなたのエゴを憎みました。あれだけ私のことを愛していると仰ったのに、まるで物みたいに私を赤嶺さんに抱かせようとしたあなたを」
「・・・・・・」
「私のそんな想いを見て取ったのでしょうか、赤嶺さんは『彼が憎いですか。怨みに思いますか』と尋ねてきました。私がうなずくと、あのひとは『それなら彼を裏切ってみたらどうです。彼の思惑を知りつつ、それにのせられかと思うと、あなたはしゃくかもしれませんが、なに、私の見るところ、彼はそう強い男ではありません。彼はあなたのことをすべて自分の思い通りになる女だと思っています。あなたを私に抱かせてみたいと思いつつ、心の底ではあなたが裏切ることなどないと思っているんです。あなたが私に抱かれるなら、彼はきっと深く傷つくことになるでしょう』・・・そう言ったんです」
「・・・・・・」
「あなたが私のことを『すべて自分の思い通りになる女だと思っている』という赤嶺さんの言葉を聞いて、そのときの私は本当に腹が立ちましたし、今度の一件を見ていると、たしかにそうとしか思えませんでした。復讐のために私は本当に赤嶺さんにこのまま身を任せようかと思いましたが、そのときは決心がつきませんでした。赤嶺さんは『結論は今でなくてもいいです。私の言ったことを考えておいてください』と言って、去っていきました。私はそのまま気が抜けたように横たわっていました。
やがてあなたが戻ってきました。私は目を瞑っていましたが、あなたがお風呂場で明子さんを抱いたこと、そして私が赤嶺さんに抱かれたのではないかと勘繰っていることは、なんとなく分かりました。私はその夜、眠っているあなたをずっと見つめながら、一睡も出来ませんでした」
あのとき、私が感じた暗闇の視線は妻のものだったのです。
  1. 2014/10/12(日) 07:38:14|
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よき妻 第25回

「翌朝になって赤嶺さんが『パートナー交換』を提案したとき、私は彼の意図を察しました。そのときの私はもう決心を固めていて、赤嶺さんの提案に賛成しました。あなたの見ていないところで、彼に抱かれる決心です」
「・・・・・・」
「私が赤嶺さんの提案に賛成したことにあなたは驚いているのを見て、私はいい気味だと思いました。私だってあなたに逆らえるのだと思い知らすことが出来たと思ったのです。けれど、いざ赤嶺さんと街へ出て、ホテルへと入ろうとしたとき、私の足は停まってしまったんです」
妻は私の瞳をまっすぐ見つめました。
「結局、私たちは似たもの夫婦なのかもしれませんね。互いに相手を裏切ろうとしても、いざそのときになると怖くなってしまう臆病者。それが私たちなのかもしれません」
「・・・そうだな」
私は目を伏せて、妻の言葉に同意しました。
「赤嶺さんはそんな私を見て無理強いしようとはしませんでしたが、私は意気地のない女と思われただろうと恥ずかしく思い、また彼に申し訳ないことをしたと思いました。私たちはしばらく高山市を観光した後、宿へ戻りました。しばらくしてあなたと明子さんが戻ってきました。ずいぶん遅かったので、私たちのようにどこかのホテルに行ってきたのかと思い、あなたへの嫉妬や哀しみ、怒りでいっぱいになりました」
あのとき私は妻と赤嶺を見て、ふたりの昼間の情事を妄想したものですが、妻も同じように考えていたのでした。
「夜になって、明子さんが急に裸になり、あなたへ抱きつくのを見て、これが作戦なのだと分かってはいても、私の苛立ちは募りました。あなたが憎くて憎くてたまらなかった。―――だから私は赤嶺さんの誘いにのって、明子さんと同じように服を脱ぎました。でも・・」
妻はそこで少し言葉を切り、ためらう素振りを見せました。なんと言葉を続けたらいいのか、迷っているようでした。
「・・・あなたの目の前で服を脱いで、赤嶺さんや明子さんに裸を晒そうとしたとき、たしかに私の心には復讐の心がありました。でもいざ脱いだそのときは、なんというか・・もうそれどころではなかったんです。恥ずかしくて、気が変になりそうで、・・・でもいやな気持ちじゃなかったんです。うまく口では言えませんが・・・」
「・・・・・・・」
「そうこうしているうちに、あなたと明子さんは私の目の前で、、、、、、、でもそれを見ている私はさっきまでの嫉妬一辺倒の気持ちではありませんでした。しばらくして赤嶺さんに身体を触られたとき、私は・・・・すごく感じました」
「・・・・・・・」
「私は自分という女が分かりません。恥ずかしい思いをすることが何よりもいやだったはずなのに、そのとき私は昂ぶってしまっていたんです。あなたの目の前で違う男性に身体を触られている・・・そのことがすごく・・・・。私の前で明子さんと戯れているあなたを淫らだと思いましたが、同じように、それ以上に自分のことを淫らだと思いました。恥ずかしいことが何より嫌い、他人に恥ずかしいところを見せるくらいなら死んだほうがましという普段の私がどこかへ消えてしまって・・・そしてそのことが凄く快感だったんです。いつも鬱陶しく思っていた自分の殻から抜け出られたように思ったのでしょうか。あなたの目の前で赤嶺さんにいいように弄ばれて感じてしまう淫らな自分が、崩れていく自分がなぜか愛しかったんです」
そう語る妻は今まで見たこともない凄艶な顔で、私は思わず息を呑みました。
「次第に崩れていくなかで、私はもうこのまま赤嶺さんに抱かれてもいいと思いました。『目の前を見てごらん。彼だって明子としているじゃないか』そんな赤嶺さんの誘いに私はいつしかうなずいていました。赤嶺さんは私に言い訳を用意してくれただけなんです。誰よりも求めていたのは、淫らだったのは私なんです」
「・・・・・・・」
「でもそのうちにあなたと目が合ってしまい・・・・私は束の間、普段の自分を思い出しました。ここで一歩踏み出せば、もう後戻りは出来ないのだと私はようやく我に返って、赤嶺さんを拒もうとしました・・・。けれど、すぐに自分を抑えられなりました。もうどうなってもいい、この渇きがおさまるのならば、気持ちよくなれるならば、後のことはどうなってもいい・・・そんなふうに思ってしまいました。流されてしまいました。これではあなたを責める資格なんてありませんね。私は本当に淫らな女です」
妻はそっと目を伏せました。
「私はあなたの目の前で、赤嶺さんと交わりました。最初はやっぱり死にたいほど恥ずかしかった。でもすぐに気持ちよくなって・・・。あなたに見られながら、いえ、見られていることに私はどうしようもなく昂ぶりはじめました。恥知らずな自分をあなたの目に晒している、そのことが異常なまでの興奮を誘いました」
「・・・・・・・・」
「その後はあなたも知ってのとおりです。あなた、赤嶺さん、そして明子さんにまで愛されて、私は数えきれないくらい達しました。あなたに見せつけるように淫奔な姿勢をとったり、破廉恥な言葉を言いながら昂ぶって、昂ぶって、このまま死んでもいいと思ったくらいでした」
「・・・・・・・・」
「朝起きて、赤嶺さんに浴場へ連れて行かれたときも、私の中には淫らな火がまだ消えずに残っていて、赤嶺さんにせがんでその場で抱いてもらいました。本当にどうしようもない女です。いくら謝っても足りないでしょうけど、せめて言わせてください。ごめんなさい、本当に申し訳ないことをしました」
妻はそこまで言って、言葉を切りました。
しばしの沈黙の中に、電車の路面を走る音だけが聞こえます。
次に語りだしたのは私でした。
  1. 2014/10/12(日) 07:39:20|
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よき妻 最終回

「俺は昨夜の瑞希を見ていて、すごく哀しかった」
「・・・・・・・・」
「自分で最初に裏切っておいて何を言うかと思うかもしれないが、そうだったんだ。赤嶺の言うとおり、俺は瑞希のことを自分の思い通りになる女だと傲慢に思っていたのかもしれない。いや、そう思っていなければ、今度のことなんて初めから計画しないだろう。それでいて赤嶺に奪われる瑞希を見て、とても辛かった。口惜しくてしょうがなかった」
「・・・・・・・・」
「でも・・・赤嶺に抱かれて、ありのままの姿を剥きだしにしている瑞希を見て、俺は切なく思うと同時に、凄く興奮したんだ。それまで俺の知らなかった瑞希は、こんなにも蟲惑的だったのかと思った。さっき瑞希は自分という女が分からない、と言ったが、俺だって自分のことなんて分からない。瑞希を心の底から愛しているのに、他人に抱かせようとする自分。そして実際にその場面を目の当たりにしてたまらなく苦しいのに、興奮してしまう自分。俺はそんな矛盾に満ちた存在なんだ。こんな言い方は卑怯かもしれないが、個人差はあれど、人間なんて皆そういったものかもしれないとも思うよ。でもたいていの人間は、内面に抱え込んだ矛盾をあからさまにしてしまうと自分や周囲の人間を壊してしまうかもしれないと分かっているから、強いきっかけでもないかぎり、自分自身で定めた境界線から決して出ようとはしないだけだ」
「その境界線から出てしまった人間はどうなるんでしょうか」
妻はぽつりと呟くように言いました。

「私たちは・・・これからどうなるんでしょうか」

それは妻にとっても、私にとっても胸をえぐられるような問いかけでした。
「・・・分からない」
最後まで卑怯な私はそんな言葉を返すことしか出来ませんでしたが、そのかわりに震えている妻の肩を強く抱き寄せました。ありったけの想いをこめて。
妻の嗚咽を胸で聞きながら、私は窓越しに移り変わっていく外の景色を見つめます。

季節は夏。
私たちを乗せた電車は美しい緑の山々の間を縫うように、ゆっくりと走っていきました。
  1. 2014/10/12(日) 07:41:21|
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