主に寝取られ物を集めた、個人文庫です。
一枚の紙の前で沈黙が続く。
一体どの位の時間が過ぎたのだろう。
ほんの数秒で他人に成れる、いや他人に成る。
数年前、笑顔で書き記した二人の名前。
今は笑顔など何処にもない。
私には一滴の涙すら残っていなかった。
意を決してペンを握る私・・・・
息を呑み込み呼吸を止め、目を瞑る妻。
自分の名前を書き終え、薄いその紙を180度ゆっくりと回し、妻の前にペンを沿えて少し押し出す。
また目を瞑り俯く妻、スカートの裾を強く握り締める。
言葉は何も無かった、ただ握り締めた妻の手の甲には大粒の涙が
落ち続けた。
やがて妻は、俯いたままの頭を大きく左右に振り出した。
もう終わりなんだ、元には戻れない。
妻はソファーに泣き崩れ、暫く嗚咽にもにた声で鳴き続けた妻は
まるで現実から逃避するかのように、深い眠りに入った。
私はその姿が哀れに思え、揺り起こすことも無く、妻の目覚めを
待つことにする。
もう結論は出ている、急ぐことはない・・・
何故か自分に言い聞かせている私が居ました。
妻に毛布を掛けながら、出る筈の無い涙か頬を伝う。
何時しか私も眠りに入り、何度も見た悪夢をまた見てしまう。
見たことの無い現実を・・・
- 2014/11/21(金) 02:31:54|
- 夢うつつ・愚か者
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ここは何処なのだろうか?
妻は、一糸纏わぬ姿でベッドに横たわっています。
良く見るともう一人裸の男が妻の横にいます。
その男が私でないことは、少し離れた位置に居る私にも何となく
男の体形等から認識出来るのでした。
どちらからとも無く唇を重ね合い、程なくして二つの身体は
一つになって行きます。
次第に激しく縺れ合う身体と身体は、時には頭と足がお互いの
反対の位置にあり、男の頭は一点に集中し大きな動きはしない、
しかし妻の頭は、上下に激しい動きを繰り返す。
次の場面は、四つん這いになった妻の後ろに男が膝を付きながら
近づいていく。
妻は、男の方を振り向き何か話し掛けている。
その瞳は潤み、唇は少し震えるように、何かを哀願する様に男に
向けられている。
次の瞬間、男の腰は大きく前に押し出され、妻は髪を振り乱しながら
歓喜の声を上げている様な顔に変わる。
男の腰に手を回し、自らの身体を男の下腹部に押し当て、まるで
もっと自分の身体の奥底に男のものが入り込む事を催促するように、
その前後の運動は激しさを増していく。
妻の動きに合わせる様に、男の繰り出す腰の動きにもスピードが
増していく。
私は、息苦しくなり妻の名前を呼ぶが声にならない。
二人の動きは、激しさを増すばかりで、私の制止する声など届く
様子は無い。
私は二人に近づこうと必死になって前へ進むが、中々前に進まない、
まるで水の中を必死に歩いているように、その歩みは苛立つ程に
遅く感じられる。
やっと二人を触れるくらい近づいた頃には、二人とも行為の頂点を
迎えていた。
事を終えた二人は、私のことなど無視するかのように、余韻を楽し
むようにキスを始める。
私は必死になって男の顔を覗き込む、次の瞬間私は体中から汗を
噴出しながら夢から覚めたのでした。
- 2014/11/21(金) 02:39:07|
- 夢うつつ・愚か者
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今まで何度となく見た夢、私にとっては悪夢である。
つい数ヶ月前に不意な事から妻に持ってしまった疑いのこころ。
それから繰り返されたこの悪夢は、妻の顔は解っても、相手の顔は
何時も暗闇の中であった。
しかし、今日は男の顔が遂に夢の中に出て来たのである。
それは鮮明に私の夢の中に現れました。
その相手の男は妻の高校時代の同級生で、桜井浩という男である。
男は31歳の妻子持ちである。
桜井は28歳の妻と、3歳になる長女、生後6ヶ月になる長男と
4人で暮らしている男である。
夢から覚めた私の傍らには、妻の奈美が私の顔を沈黙のまま覗き込んでいた。
「・・・大丈夫ですか」
「何が・・・」
「・・・魘されていたから」
おそらく、私が夢で魘される声に起こされたのであろう妻の手には
洗いざらしのタオルが握られていた。
妻のその手が、私の額の汗を拭おうとした瞬間、私の左手は妻のタオルを
持つ手を払いのけていた。
「大丈夫だ」
「だも・・・ひどい汗・・・」
そう言うと妻はまた黙り込んでしまった。
私が大量の汗をかき、夢に魘されていたことが自分に原因がある事を
妻は察したのでしょう。
「・・奈美・」
「気持ちは、落ち着いたか。」
妻からの返事はない。
俯いて、ただ一点を見つめているばかりで、まるで抜け殻のような妻の姿。
「サインは済んだ。」
「奈美。」
「・・・まだ書いてません」
「書いてくれないか。」
「・・・もう一度・・・」
「もう一度だけ・・・お願いします。」
私は、数時間前までこの部屋で行われていた、出来事を思い出していた。
- 2014/11/21(金) 02:40:04|
- 夢うつつ・愚か者
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今日は金曜日、普段なら週末の慌しさの中仕事に追われている私ですが。
有給休暇を取り会社を休みました。
奈美には何も告げずいつもの様に家をでて、9時の時報と共に駅の公衆電話
から桜井の会社に電話を入れていました。
何れの会社も一緒ですが、受付の女性が機械的に電話に出て応対します。
「恐れ入りますが、営業一課課長の桜井浩さんいらっしゃいますか。」
「恐れ入ります、どちら様でしょうか。」
「私、○○コーポレイションの阿部雄二と申します。」
「ご用件の方は。」
「大変申し訳ありませんが、プライベートな用件なのですが。」
「用件が、解りませんとお繋ぎ出来かねますが。」
「決して怪しい者では有りません。私の名前を伝えて頂ければ
お解かり頂けますので。」
「それでは確認いたしますので、少々お待ち下さい。」
程なくして桜井が電話に出てきました。
「もしもし、桜井です。」
「もしもし、お忙しいところ申し訳ありません、阿部です。」
「阿部さんとおっしゃいますと・・・」
解っている筈なのに、桜井は始めて聴く名前のような口調で聞き直してきました。
「奈美の夫です、これでお解かりですか。」
「あぁ、失礼しました。お会いした事が無かったものでつい・・・」
「奈美が何時もお世話になっております。」
「いや別にお世話など何も・・・」
桜井は突然落ち着きが無くなって来ました。
「ご用件は・・・」
「お話が有るので、今日私の家にお越し頂けないでしょうか。」
「急に言われましても、私にも都合がありますので。」
「お忙しければ、こちらから伺いますが。」
そこまで言うと、桜井は観念したのか。
「かしこまりました、何時に伺えば宜しいでしょうか。」
「そちらの都合もあるでしょうが、夕方6時にお願いします。」
「・・・6時ですか。」
「解りました、6時ですね。」
「えぇ、6時です。」
- 2014/11/21(金) 12:16:12|
- 夢うつつ・愚か者
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電話を切った私は、今度はポケットから携帯電話を出すと自宅に電話を入れました。
呼び出し音が数回続きやっと妻が電話に出ました。
「もしもし、阿部です。」
「僕だ。」
「あぁ、貴方どうしたの。」
「今日は、珍しく身体の調子が悪い。」
「どうしたの、大丈夫。」
「大した事は無い、風邪でも引いたかな。」
「身体、気を付けてね。」
「大丈夫だよ、今日は休みを取ったから。」
「そう・・・」
「ところで、夕方お客さんが来るのを言い忘れていた。」
「お客さん?」
「仕事のお客だから、断れなかったんだ。」
「解りました。」
「詳しいことは、返ってから話すよ。」
妻との話を終えると、自宅に急いで返りました。
自宅に戻った私は、直ぐに書斎に入り素早く着替えると、リビングに
行きました。
リビングに居た妻が、私の帰宅に気付くとすばやく駆け寄って来て、
私の額に手をあてます。
「熱は無さそうね。」
「大した事は無いよ。」
「ならいいけど。」
「お医者さんは。」
「一晩寝れば直るよ。」
「ところでね、私の携帯見なかった。」
「知らないな。」
「何処行ったんだろう?」
「良く探したのか。」
「無いのよ。」
ある訳が無いのです。
妻の携帯電話は私が持っているのです。
夕方来るであろう桜井と妻が連絡を取る事を避ける為、私が朝隠し持って
出たのですから。
- 2014/11/21(金) 12:17:06|
- 夢うつつ・愚か者
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家に戻った私には確認しなければならないことがありました。
私の移動中に、桜井が自宅に電話を入れたかも知れないため、妻に探りを
入れてみる必要がありました。
「携帯が無いと不自由か?。」
「えぇ、急ぎなら、自宅の電話に来るだろうから良いけど、
相手の番号が解らないのよ。」
「友達に用事があったから探したんだけど・・・」
「誰からか、電話でもあったのか?」
「誰からも無いわよ。」
「アドレス帳で見れば解るだろう。」
「そうなんだけど、やっぱり不自由で。」
妻の表情から察するに、桜井からはまだ連絡は来ていない様です。
私は、少し安堵しながらも確信がない為、妻がトイレに行ってる隙に
自宅の電話の着信履歴を確認しましたが、私からの電話が最後でした。
もしやと思い、書斎の鞄から妻の携帯を出してみると、やはり桜井からの
着信が数件入っていました。
妻の携帯を鞄に戻しリビングに戻ると、妻がソファーの下を覗いています。
「まだ、携帯を探しているのか?」
「うん、家の中に有る筈なんだけど。」
「携帯呼び出してみたら。」
「あ、そうね、気が付かなかった。」
妻は、自宅の電話に自分の携帯番号を打ち込みます。
受話器を外したまま、トイレや洗面所などあらゆる所に行き、妻の携帯の
着信音がしないか確認していますが音はしませんでした。
私の鞄の奥のその携帯は、マナーモードにして有ります。
多少の振動音はしても、妻の耳に届く筈も無いのです。
そうこうしていると妻も諦めたのか、受話器を直しました。
「どうしよう。」
「家の中にあるんだろう?」
「その筈なんだけど・・・」
「落ち着いて考えたら。」
「契約し直そうかな。」
「2,3日待って見たら」
「・・・うん・・・」
妻は直ぐにでも、携帯が欲しいようですが、それ以上は言いません。
その時電話が鳴りのした。
- 2014/11/21(金) 12:18:00|
- 夢うつつ・愚か者
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私は電話の音に少しびっくりしていると、妻は電話の方へ歩みを進めます。
桜井からの電話だと思った私は、とっさに妻を制止します。
「俺がでる、お客からかも知れない。」
「そうですか。」
妻は私の言葉を簡単に受け入れ、また携帯を探す素振りを見せました。
この様子を見た私は、やはり妻と桜井はまだ連絡を取り合っていない事を
確認できたように思いました。
ゆっくりと電話の前に進み受話器を手にした私は、相手の声を確認する為に
少しの間無言でいました。
「・・・阿部さんのお宅ですが?」
「はい、阿部です・・・」
私の声を聴いた瞬間、相手は電話を切りました。
やはり桜井でした、妻に連絡の取れない桜井は、仕方なく自宅にまで電話を
して来たのでしょう。
受話器を置いた私は何故か少し心に余裕が出来てきました、一応は妻と桜井
が話し合う機会を阻止する事が出来たのですから。
「どうしたの、誰から?」
「切れてしまった。」
「そう。」
後は、妻の方から桜井に連絡を取らない様にしなければなりません。
「貴方、お客様何時に来られるの?」
「あぁ、6時に来る。」
「それじゃ、お食事はどうします。」
「何か適当に頼むよ。」
「だったらお買い物をしてこないと、私行ってきますね。」
「有る物で、済ませれば良いよ!」
「そうは行かないわよ。」
「酒も食べ物も、買い置きで何とかなるだろう、わざわざ買ってこなくて良いよ。」
妻を外出させたくない私は、少し口調が荒くなっていたようです。
「解りました、それで何人いらっしゃるんですか。」
「あぁ、一人だよ。」
「一人ですか、それなら何とかなります。」
「すまないが、頼むよ。」
「それじゃ、支度しないと。」
「まだ、早いだろう。」
「ちょっとは、良いもの作らないとお客さんに失礼でしょ、いつもと一緒って言う訳にも行かないし、私が恥ずかしいもの、結構時間掛かるのよ。」
「そうか、任せるよ。」
妻は、いそいそと料理の準備を始めました。
「貴方、ところで、今日のお客さんはどんな人なの?」
「・・俺は、初めて会う人なんだ。」
「えぇ・・・」
そうです、私は始めて桜井に会うのです。
写真では、その容姿は知っていますし、電話越しでは有りますが声も聞いています。
しかし、本人と会うのは今日が初めてなのです。
「初めての人で、ここに来れるの?」
「大丈夫だろう、それに近くに住んでいるようだし。」
「そうなの?」
「解らなければ、電話でもして来るだろう。」
妻は小首を傾げながらも、それ以上は聞いて来ませんでした。
- 2014/11/21(金) 12:19:05|
- 夢うつつ・愚か者
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そうこうしている内に、昼食の時間になりました。
「貴方、お昼どうします?」
「食べたくないな。」
「そう、私もあまり食べたくないんだけど、簡単なものなら直ぐ作るわよ。」
「いや、要らない。」
「じゃ、作らないわね!」
「あぁ・・・」
本当に食べたくなかった。
数時間後にここでどんな事が起こるのか、まんじりともしないで考えていると
ただ時間だけは過ぎて行きました。
その数時間の間、妻は料理の合い間にリビングの掃除やトイレの掃除やら、忙しく
動き回っていました。
ふと気づくと私は、リビングのソファーで眠ってしまっていたようです。
体には毛布が掛けられており、慌てて体を起すと妻の姿を探しました。
キッチンのオーブンを覗き込んでいた妻が、私の目覚めに気付いたようです。
時計を見ると5時を少し過ぎたところでした。
「目が覚めました?」
「あぁ」
「やっぱり、少し疲れているようね。」
「そうだな。」
「お水でも飲みますか?」
「ありがとう。」
コップ一杯の水を私に渡した妻は、ダイニングの方へ行きデーブルの上に
食器を並べ始めました。
私はそれを無表情のまま見つめていると、妻と目が合いました。
「どうかした?」
「・・・別に何も。」
「何か今日は変ね。」
妻は屈託のない笑顔で話しかけてきました。
「貴方、お向かいで、お花買ってきてもいい。」
「・・・ん、花。」
「だって、殺風景でしょ。」
「・・あぁ、そうだな。」
「じゃ、買ってきますね。」
エプロンを外して、髪型を気にしながら玄関に向かう妻の後姿は、
これから起こるであろう事に対する準備など一切されていない。
その姿はあまりにも無防備に見え、私には哀れに思えてなりませんでした。
私たちはマンションの一室に住まいを設けていました。
10階建ての最上階にあるこの部屋からは、向かいの花屋は手に取るように
見る事が出来ます。
マンションのエントランスから出て来た妻は、小走りに道路を横断すると
前髪を耳に掛ける仕草をしながら、花屋に入っていきました。
ベランダから覗くこと10分少々、妻が小脇に花を抱えながら、斜め後に会釈
しながら出てきました。
花屋を出た妻は、まもなく家に戻ってきました。
「早かったな。」
「お向かいだもの、そんなに時間は掛からないわよ。」
妻は買ってきた花をすばやく花瓶にいけると、ダイニングテーブルの真ん中に
置きました。
「こんな感じかな~。」
「いいんじゃないか。」
妻は、突然思い立ったように言うのでした。
「もうこんな時間、私着替えて来ますね。」
「そのままでいいんじゃないか?」
「だってこれ部屋着よ、お客さんに失礼でしょ。」
「そうか。」
妻は、クローゼットからなにやら持ち出すと、寝室に入って生きました。
5分も経ったでしょうか、黒のワンピース姿の妻がリビングに戻ってきました。
化粧は、さっきと差ほど違いは無いものの、少し清楚な雰囲気を漂わせている
感じがしました。
「どうかしら。」
「・・すてきだよ。」
「ありがとう。」
「妻は、耳にピアスをしながらキッチンに行くと、オーブンの中を覗き込んで
いました。
そのとき、インターホンが鳴りました、時計の針は5時55分を回った位のところです。
「私が出ますか。」
「あぁ、そうしてくれ。」
妻は、また髪型を気にしながらインターホンの前に立ち、ゆっくりと受話器を
取りました。
「はい、阿部でございます。」
その言葉の後、インターホンのモニターを見たままの妻は、言葉を発しません。
「どうした、入ってもらいなさい。」
私はそう言いながら、インターホンの受話器を妻から取り上げ、オートロックを
解除し、インターホンの受話器を置きました。
- 2014/11/21(金) 12:20:15|
- 夢うつつ・愚か者
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受話器を置くと、我に戻った妻が私に質問を浴びせかけてきます。
「知らない人じゃなかったの?」
「俺は、会ったことはない。」
「どうして、桜井さんなの?」
「桜井さんじゃ、何か都合が悪いのか。」
「そんな訳ではないけれど。」
「お前の同級生だったな。」
「どうして知ってるの?」
「人から聞いてね!」
「何の用事なの?」
「何をそんなに気にしてるんだ。」
「別に、何でもないけど、びっくりしただけ。」
間も無く、玄関のチャイムが鳴りました。
さすがに妻は、玄関に足が向かない様子なので私が出る事にしました。
玄関の扉を開けると、顔を引きつらせた桜井が立っていました。
「桜井です。」
「阿部です、どうぞ。」
「失礼します。」
桜井の狼狽ぶりは、顕著なものでした。
手は小刻みに震え、靴を脱ぐ時などは余りの緊張からか、よろける始末です。
桜井が靴を脱ぎ終えるのを待ちリビングに案内すると、そこにはこれまた緊張
しきった妻がソファーの脇に立っていました。
「桜井さん、お掛け下さい。」
「・・はい、失礼します。」
「奈美、桜井さんにご挨拶して。」
「・・・いらっしゃいませ・・・」
「どうも、お邪魔します。」
桜井はある程度の覚悟はしているのでしょうが、妻は何が何だかわからない
状態のようです。
「立ってないで、お茶でもお入れして。」
「・・・はい、失礼しました、今お持ちします。」
「御構い無く。」
妻は下を向いたまま、キッチンに向かいました。
次に妻がお茶を持ってくる間、桜井も私も一言も喋ることなく数分が過ぎました。
ようやく妻がお茶を持って来たとき、桜井が口火を切りました。
「今日はどの様なご用件で?」
「妻が何時もお世話になっておりまして。」
「ですから、別にお世話など何も・・・」
「奈美お前もここに座りなさい。」
「私は・・・・」
「お前にも関係する話だ。」
「・・・はい」
妻も何となく、事の成り行きが創造できる様な精神状態に成って来たようです。
「・・失礼します。」
妻も席に着きお互いが相手の様子を見るような沈黙が暫く続きました。
- 2014/11/21(金) 12:21:38|
- 夢うつつ・愚か者
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桜井と妻の顔を見ていると、無性に腹立たしくなってきた私は、二人に
対して問いかけをしました。
「桜井さん、今日お呼びした用件はお分かりですよね。」
「・・はぁ~」
「奈美、お前は解るな?」
「・・・・」
「桜井さん、妻とはどういう関係ですか。」
「・・・・高校時代の同級生です。」
「そんな事は聞いてません。」
「奈美、お前はどうなんだ?」
「同級生です。」
「桜井さん、高校の同級生という事はわかりました。私が聞きたいのは最近の
二人の関係をお聞きしたいんです。」
「そういえば、最近偶然町で逢うことが有って、お茶をご一緒した事が。」
「ほう~、お茶を一緒に、本当か奈美? 俺は聞いていないが。」
「そうそう、言い忘れてたかも。」
「私が、知っている二人の関係はそんなものとは程遠いけどね。」
「何かの誤解ですよ。」
「そう、何て聞いたか知らないけど、誰かが変な噂を流しただけでしょ。」
「一度お茶を飲んだだけ、それで間違いないね。」
「貴方に、言っておけばそんな誤解をされなくても良かったのに、御免なさい。」
「私も不注意でした。久しぶりに奈美さんと遇ったので、昔の乗りで馴れ馴れしく
し過ぎたかも知れません。それで誰かに誤解をされてしまったかも知れません。」
「桜井さん、貴方はこの家の住所はご存知だったんですね。」
「・・・奈美さんとお会いした時、お聞きしてましたまで。私の家も近いですから。」
「お見えになるのは、初めてですか。」
「もちろん、初めてです。」
このとき妻の顔を見てみると、桜井の言う事に同調するように、首を立てに振って
いました。
「それでは、二人に説明してもらいたいものがあります。」
そう告げると私は席を立ち書斎に入って行き、茶封筒一つ手に持って戻ってきました。
「先ほど。お聞きした事が正しければ、これはどう説明して頂けますか。」
私が封筒から、A4サイズの綴りをテーブルの上に置いた瞬間、二人の顔は見る見る
うちに青褪めて行くのが解りました。
綴りの表には、報告書と○○興信所の文字が書いてあり、二人は瞬時にその意味を
悟ったようです。
妻と桜井は、茫然自失の状態でただうな垂れているばかりでした。
「奈美、桜井さん、子供騙しは止めましょうよ。」
「中を見なくても、この意味はお分かりですね。」
ほどなく、妻は嗚咽にも似た泣き声を発して床にへたり込んでしまいました。
- 2014/11/21(金) 12:22:43|
- 夢うつつ・愚か者
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二人の口からは、謝罪の言葉すら出てきません。
ただ泣くだけの妻と言い訳を探しているかのような落ち着きの無い桜井を目にして
いた私は、ついに自分にコントロールが聞かなくなり、大声を上げていました。
「お前ら何か言う事は無いのか。」
「貴方ご免なさい。」
妻は私の目を見つめ叫びます、まるで子供が親の摂関から逃れようとするかのように
上体を後に反らし、手は頭を庇っています。
妻にしてみれば、この様な私を見るのは初めてだったでしょうから無理もありません。
桜井といえば、背筋を伸ばし私のほうを見て固まっています。
「ご主人、申し訳ありませんでした。」
「今更遅いんだよ。」
「すみません、もう奥さんとはお会いしません。」
「さっきのお前らの話は何だ!。見苦しい言い訳しやがって。」
桜井の煮え切らない態度や言動がさらに拍車を掛けて行きます。
私の言葉遣いは、エスカレートしていくばかりです。
「おい、どうする気なんだ・・桜井!」
「泣いてばかりいないで何とか言えよ、奈美!」
報告書を開きながら、二人を追い詰めていく私がいました。
2,3ページ捲り、写真の入った日時のページを指差し、妻と桜井に罵倒を浴びせます。
「初めてこの家に来ただと!」
「おいこれは何だ、前にも俺の家に来てるじゃないか。午後2時から5時半まで、何をしていた。」
「ご主人すみません、弁解のしようがありません。」
「桜井さん、何をしていたと俺は聞いてるんだ!」
「それは・・・」
「それはじゃ分からないぞ。」
「ご想像の通りです。」
「馬鹿やろう・・・」
「貴方ご免なさい・・ご免なさい・・ご免なさい・・」
「奈美、何をしてたんだ、言ってみろ、桜井さんは応えられないらしい。」
暫し私の目を凝視していた妻は、桜井の方を見やってからやっと口を開きました。
「エッチしてました。」
正直に答えようが何だろうが、今の私にはこれで良いという答えはないのです。
「エッチしていただと、子供みたいな言い方は止めろ!」
「ご免なさい。」
「セックスだろうが、セックス! 違うか、どうなんだ、奈美!」
「はい、セックスしてました。」
「桜井さん、セックスしてたと奈美は言ってますが?」
「・・そ、そうです・・ご主人。」
「それくらいの事、女の奈美に言わせてどうする。男のあんたが言えよ。」
ここまで来ると私は精神的に壊れ、サディステックになっていました。
- 2014/11/21(金) 12:23:34|
- 夢うつつ・愚か者
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私はこれから二人に対して、何を聞こうとしているのか自分自身解らないの
ですが、勢いが止まりません。
興信所の報告で、妻と桜井の不貞は明白な事実であり、今更何を聞く必要も
無いのかも知れません。
ただ、今まで何度と見て来た悪夢に、二人の行って来たであろう不貞行為を
重ね合わせて、自分の悪夢を現実のものに仕上げて行こうとしているように、
夢の中の二人の行為を問いただして行くのでした。
「お前達、もう嘘は言うなよ。」
「・・・・。」
「聞いているのか、お前ら。」
「はい・・・」
二人は、声を揃える様に答えるのでした。
それが、また私の気持ちを逆撫でするのです。
「ほー、仲の良い事で・・息もピッタリってか?なるほどな。」
「・・・・。」
「身体の相性もさぞかし良かったんだろうな、えっ奈美。」
「・・・そんなことは・・・別に・・・」
「別に何だよ、俺とセックスするより、こいつとする方が良かったんだろが、
違うのか?」
「・・・いいえ・・・そんなことありせん。・・・」
「それなら何故、こいつと何度も寝たんだよ 言ってろ!」
「・・・それは・・・解りません、ごめんなさい。」
「お前は、理由も無く男に抱かれるのか? 男なら誰でもいいのか?」
「そんな事はありません。」
「じゃ 何故なんだ?俺が解るように説明してみろ!。」
「ごめんなさい、・・・何故なのか私にも解りません・・・」
「なら、身体じゃなく、こいつのことが俺よりも好きになったからか?」
「そんなこと、思ったことありません。」
「奈美、嘘はつくなと言った筈だぞ。」
何の準備もしていない妻の口から満足な答えが出て来る筈はありません。
私は、また茶封筒の中に手を入れて、銀色のボイスレコーダーとCDを
数枚取り出しました。
二人がその意味を理解するのに時間は必要有りませんでした。
「これを再生すれば、二人の関係が良くわかるよ、聴いてみるかい お二人さん。」
「貴方、止めてください、お願いですから。」
「解りましたご主人、何でも答えますから。」
私は、制止する二人を尻目にボイスレコーダーのスイッチを入れました。
- 2014/11/21(金) 12:24:22|
- 夢うつつ・愚か者
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レコーダーからは、衣擦れの音やベッドの軋む音に続き、妻の甲高い声が
飛び出して来ました。
「あああぁ・・・んーん あっ あっ・・・」
「奈美ちゃん いいかい 良いだろ?」
「んぅー あっ あっ ああああ 」
「好いんだろ、奈美ちゃん・・・・」
「あ・あ・あ・うぅ・・・」
妻は両手で顔を覆い、手の隙間から涙がこぼれ落ちて来ます。
桜井の顔を見ると、下唇を噛み締め、焦点の定まらない視線を天井や壁の方に
向け落ち着きの無い様子です。
手はスラックスの折り目を親指と人差し指で何度もなぞっています。
「いやー、貴方止めて、もう止めてください。」
「うるさい。」
妻がレコーダーに手を掛けようとした瞬間、私は妻の手を平手で叩き、
払いのけていました。
私とて、妻と桜井の性交渉の実況など聞きたくも有りません。
私の顔は血の気が引き、まるで鬼の様な形相だったことでしょう。
「これから良いところだ、邪魔をするな。」
「貴方・・・お願いですから、もう止めてください、お願いです。」
またレコーダーに妻が手を伸ばしかけたとき、今度は妻の頬を殴っていました。
桜井は、妻を庇うでもなく呆然として座っているだけです。
「触るな、何度言ったら解る!」
「ご免なさい、ご免なさい、ご免・・・」
「お前は、奴の隣に座れ。」
妻は、泣きながら私の顔を見ています。
こんな状況下においても、私の妻という位置に居た奈美にとって、私の隣から
桜井の隣に席を移すようにいわれる事は、妻の座から追い出される様な感じが
したのでしょう。
妻の見開いた目は、私の目を捕え、頭を大きく左右に振り動こうとしません。
「聞こえないのか、奴の隣へ行けと言ってるんだ!」
「嫌です、ここに居させて、お願いします。」
「いいから、行け!何度言わせる。」
私の口調から、居座る事を断念した妻は渋々桜井の居るソファーに足を進めました。
妻は桜井の座っているソファーの端に腰を下ろします。
それにつられる様に、桜井もソファーの反対側に座り直すのでした。
その間も、レコーダーからは淫らな音が流れ続けています。
「別に、くっ付いて座ったらどうだ、お二人さん。」
「・・・・」
「こんなに、仲がいいのに、遠慮しなくてもいいぞ。」
「・・・出来ません、貴方、簡便してください。」
「まぁ、あまりくっ付きすぎて、ここでセックスされても困るがな。」
今まさに、レコーダーから流れる淫らな声の主が二人揃って、私の目の前に神妙な
面持ちで座っているのです。
この二人が、こいつらが、私はレコーダーから流れる音から、場面を想像しながら
二人の顔をそれに当て嵌めるのでした。
悔しさと共に、吐き気をもようしながらも、冷静を装うのが精一杯でした。
それにも関わらず、レコーダーの中の二人は性欲の塊と化し、この場の押し詰まった
空気など無視し続け、上り詰めていくのでした。
- 2014/11/21(金) 12:25:13|
- 夢うつつ・愚か者
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レコーダーからは、お互いの性器を舐め合ってでもいるのでしょうか、
くぐもったピチャピチャと言う様な音や、時折妻の喘ぐ声が続きました。
その後、体位までは解りませんが、レコーダーの音は、肉と肉のぶつかり合う音
ピタ・ピタいう音に変わり、妻の喘ぐ声はいっそう大きさを増して行き、桜井の
荒くなった息遣いがそれと重なり合います、この段階の二人は肉を貪る獣の様でした。
「奈美ちゃん・いいよ・いい。」
「あぁ・私もいい・・う~う。」
「君のおまんこ、最高だよ。」
「あぁ~もっと・もっとー」
「こうかい?・・・」
「ああああぁ・いい・いいわ。」
「気持ちいいよ、最高だよ。」
「あぁー、もっと・もっと・もっと突いて~」
「こう・こうかい・ほらーっ・・」
何時しか、肉のぶつかり合う音は、その音色を変えてリズミカルにパンパンと
部屋中に響かんばかりの音を発していました。
「そうよー、いいわ・気持ちいい・・あぁー・もっと。」
「奈美・・・いくよ・いいかい・いくよ・いく。」
「あああああぁー・う~う・まだよ、まだ・まだよー。」
「ああ・駄目だ・出る・・・出るよ。」
「まだ駄目よ・・・私申し少し・・もう少し・・・。」
「ご免・・・駄目だ 駄目 俺我慢できない・・・出る。」
「中に出しちゃだめよ!」
「あ~あ・出る・出る・・」
「駄目、中は駄目よー、駄目。」
桜井は妻の制止も聞かずに妻の中にはてた様でした。
「もー、知らないから。」
「ご免、つい出しちゃった。」
「子供出来たら、どうするの?」
「本当にご免。」
「責任取ってくれるの?」
「責任って?」
「私に貴方の子供生ませる気なの?」
「危ない日なの?」
「そうじゃないけど、もし出来たら大変でしょ。」
「君だって、コンドーム嫌だって言ってたじゃない。」
「だからって、中に出して良いっては言って無いでしょ!」
この会話の後、ベッドの軋み音と共にどちらかがベッドから降りたようで、
寝室の扉の開閉音がし、レコーダーからは微かに人の気配を感じられる程の
音が流れるばかりでした。
- 2014/11/21(金) 12:26:05|
- 夢うつつ・愚か者
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二人は、俯いたまま顔を上げようとしません。
私の頭の中では、今までぼかされて見えなかった夢の中の妻と相手の男の
顔がはっきりと映し出され、創造の域を超えなかった夢が現実になった瞬間でした。
レコーダの電源を切り、興奮を抑えるためにタバコに火を付けて、白い息を一息吐くと
私は話し出しました。
「お前たちは、これからどうする気なんだ?」
「・・・・」
「質問に答えてくれないか。」
「・・・ご主人、申し訳ありません、許し下さい。」
「貴方、ご免なさい、許してください。」
「二人とも、許してくれって、何を許せって言ってるのかな?。」
「・・ですから、今回の私たちのこの関係を・・・」
「私がどう許せば良いのか解らないな?」
「・・・もう二度と、この様な事は致しません、本当に申し訳ありませんでした。」
「ほー、もう二度としないから、何も無かった事にでもしろと言うのか?」
「貴方、ご免なさい、許して下さい、お願いします。」
「お前たちの許すという事は、俺が一人我慢しろって言う事だな、妻に浮気されても
俺一人か我慢して、何も無かった事にすれば丸く収まるという事か。」
「・・・ご主人、そういう意味では・・・」
「奈美、お前もこいつと同じ考えなのか、ばれたら謝れば済むとでも考えていたのか?」
「・・・貴方、ご免なさい、二度とこの様な事はしません、私が馬鹿でした。」
「お前らこれからどうすると俺は聞いたんだぞ、意味が解らないのか?」
「・・・ですから、もう二度と・・・」
私は桜井の答えを遮るように、怒鳴りました。
「どう責任を取るかって言ってるんだよ!」
私の声と勢いに圧倒された二人は、一瞬背筋を伸ばし私の顔を見つめていました。
今更ながらに、事の重大さに気付いたのか、二人はそわそわし始めました。
「桜井、お前の奥さんはこの事を知っているのか?」
「いいえ、女房はなにも・・・。」
「そうだろうな、知っていたら大変だよな、だが内緒にしておく訳にも行かないな。」
「・・・すみません、それは許してください。」
「貴方、それは勘弁して下さい、奥さんには関係無いことですから。」
「奈美、奥さんには関係無いことだって、関係はあるだろうが、お前の言ってるのは
奥さんにはばらさないでって言ってるだけだろ、虫のいいことを言うな。
こうなった時のことをお前らは何も考えて無かったのか?」
「・・・いえ、そういう積りでは・・・」
「桜井、奥さんと別れる気は有るのか?」
「・・・いゃー・それは・・・」
「奈美と一緒になる気は無いのか?」
「・・・それは・・・」
「まぁ、お前の奥さんが承知すればの話だがな、奥さんがこの録音聞いてどう判断するかだ。」
「貴方、私は何も桜井さんと一緒に成りたいなんて・・・・。」
「奈美は、俺よりこいつのことを好きなんだろー、俺と別れた後どうする気だ?」
「貴方、別れるって?」
「奈美、このままやっていけるとでも思っているのか?」
「ご主人、出来る限りの事はしますので、どうか許してください、お願いします。」
ついに桜井の目からも涙がこぼれ始めました。
妻は私の離婚を意味する言葉に呆然としているばかりでした。
言葉は出ず、うつろな目からはただただ涙か流れるばかりでした。
- 2014/11/21(金) 12:27:15|
- 夢うつつ・愚か者
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桜井は、暫し言葉を捜している様でしたが、何を言っていいのが解らないのでしょう。
私が問いかけないと、言葉を発する事すら出来ない様子でした。
「兎に角、奥さんと子供さんには辛い思いをさせるかも知れないが、一度話しをしなければならない。」
「それは・・・妻には私から話しますので・・・」
「そうは行かないな、君が話せば都合の良い話をするだろから、この録音を直接聞いて
貰うのが一番だ、違うか?」
「・・酷すぎます、妻は何も知らないんです、いきなりそんなものを聞かされたら。」
「だから直接聞いてもらうんだ、その方が奥さんも正確な判断が出来るはずだ。」
突然妻が大きな声で泣き叫び出しました。
「何でこんな事に、何で・・・・
貴方許して、私どうかしてました。
貴方を裏切ってしまったけど、桜井さんのことが好きな訳じゃないの。
信じて下さい。
どうすれば、許してもらえるの貴方。
何でもします、言ってください。
お願いします。」
妻にしてみれば、桜井との関係が白日の下にさらされた今、何不自由ない今の生活と
離婚後の桜井との生活を天秤に掛けたのか、或いは不倫という関係が夫である私に
知られてしまった事で背徳感が一気に冷めしまったのかも知れません。
何れにせよ、私にとって妻のしてきた事は、過去の事として簡単に許せるものでは
無いのです。
信頼してきた妻が、他の男と性交を重ねる、一時の迷いとは言えども決して有っては
ならない事なのです。
「奈美、大人として、妻として、してはいけない事をお前はしたんだぞ。」
「・・・ご免なさい、許してください。」
「・・・無理だ・・・」
「いや・いや・いやー。」
我が儘としか言いようの無い妻の発言、だが彼女には他に術を知らないのでしょう。
理不尽といわれようが、何と言われようが彼女には泣き叫ぶしか方法が無いのです。
しかし、私は二人に対して、不貞の代償として罰を科していくのです。
二人はこの段階では、その事を知らない、ただ夢から覚めた今、目の前に起こっている
ことを直視するのが精一杯の筈です。
追い討ちを掛けるように、その後に起こる現実の厳しさを知る事になるのです。
「桜井さん、貴方の会社は、私の会社の商品を扱っているのは、ご存知ですね。」
「・・・はい、関西支店が、代理店契約を頂いています。」
「ご存知ですよね。」
「貴方の居られる、関東支店でも、私の会社に地域代理店契約の営業に沢木部長さんが
来られているのを、ご存知でしたか?」
「・・・いいえ・・・。」
「そうですか、ご存知なかった?」
「・・・えぇ・・・」
「営業課長の貴方がご存知無いとは問題ですな!」
「では貴方の会社の関西支店の代理店契約がこの秋に契約期限が切れるのも、ご存知無い
ですね。」
「・・・はぃ・・・」
桜井は、私の話の意味が理解できたようで、膝が振るえて来ているのが解りました。
「それは、会社同士の契約で、個人の問題とは関係無いことでは・・・」
「桜井さん、何を仰っているのか・・・・」
「・・それは、私の会社との契約を破棄すると言うことを仰っているのかと・・・。」
「察しが早いですね。」
「そんな事をされたら、うちの会社の経営が!」
「そんな事を!私にした事を棚に上げてよく言いますね。」
「しかし・・・それだけは・・・」
「大人として、社会的な責任は取って貰いますよ、桜井さん。」
「阿部さん、貴方個人でそんな事が出来る筈が無い、プライベートと会社は別の筈です。」
「私個人に決定権が有ったとしたら・・どうします、桜井さん?」
桜井は、落ち着きが無いというよりは、恐怖に慄いている様子でした。
「・・どうして、そんな事が・・・」
「ご存知無いのは、当然ですが、私は今年の春に常務に昇進しました。」
「・え・あなた・・・」
「奈美にもその事は話してないな。」
「・・・何であなた・・・」
「その頃お前は既に、桜井君といい関係だっただろ!」
「阿部さん、私が責任を取ればすむことでしょー、会社の事は勘弁してください。」
「桜井さん、まだ解ってもらえないようですね、社会的な責任とは、他人を巻き込む
事も有るんです、それを承知の上で行動するのが大人なんじゃないのかな。」
桜井は、すすり泣きを始めました、奈美はその姿を見て一瞬顔を歪め桜井とは反対の
方向に顔をそむけるのでした。
- 2014/11/21(金) 12:28:05|
- 夢うつつ・愚か者
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私の意図は二人に通じたようです。
桜井は、見る影も無い有り様でした。
妻の前であるにも関わらず、鼻水を流しそれを拭うこともなく。
ただ泣きじゃくっているだけで、妻を寝取った男のふてぶてしさや、
開き直りにも似た恫喝的な態度など微塵もなく、私の予想を遥かに裏切る
その態度には、私の方が惨めになる感覚がしました。
こんな男に、最愛のものを奪われ、壊された自分が情けなく思え、それを
奈落のそこに落そうとしている自分自身に嫌悪感を感じていました。
「桜井さん、今日は帰ってくれないか?」
「・・・」
桜井は私の顔を見ていますが言葉が出ません。
「今日はもういい、また連絡する。」
「・・・はい・・・」
「許した訳じゃないから、勘違いしないで欲しい。」
「・・・どうか穏便にお願いします、会社の事はくれぐれも、お願いします。」
「・・もういい、帰ってくれ。」
桜井は、尻尾を丸めて逃げる犬のように一目散に玄関に向かい、私と妻の方を
振り向く事もなく帰っていきました。
一時でも早くこの場から逃れたかったのでしょう。
残された私と妻の間には、沈黙の時間が続きます。
私が何か話さなければ、妻の口から声を発する事はあるはずが無いことは解って
いました。
しかし、私の口から言葉が発せられるまでは、かなりの時間を要しました。
私は両手を組み、ソファーに座り軽く目を閉じながら昔の事を思い足していました。
私の父は、今私が居る会社の工場長をしていました。
母は専業主婦で、子供は私一人でしたが、慎ましいながらも幸せな家庭でした。
会社にさほど遠く無い都内の3LDKのマンションに住まいを構えていた私たち家族に、
現社長は、それは親密な付き合いをしてくれていました。
社長夫婦には子供が無く、家も近い事もありよく招かれ、私の誕生日などは、社長宅で
行われるのが常で、中学を卒業する迄それは続けられました。
私も父が厳格な人間でしたので、何でも願いを叶えてくれる社長に甘えていたところが
ありました。
父から見れば、甘やかすだけの社長の行動は、時には腹立たしいものが有ったようで、
父と社長が時々口論になる事も有りましたが、何時も社長が折れて事は収まりました。
私から見れば、仲の良い兄弟喧嘩程度にしか見えなかった記憶が有ります。
私が20歳のとき、両親が突然亡くなりました。
交通事故に遇い、二人とも即死状態で死に目にも会うことが出来ませんでした。
両親の葬儀の時、社長は私の脇から一時も離れることはありませんでした。
両親を一瞬にして無くし、ただ茫然としている私に対して、社長は献身的に尽して
くれました。
両親とも地方の出身で、都内に親戚も居らず、親類縁者は通夜と告別式に来るのが
精一杯の状況の中、このときほど社長に感謝した事はありませんでした。
四十九日に納骨を澄ませ、百か日の法要が済んだ日のこと、社長が帰り際に私を
家に招きました。
私は、今までのお礼もしなければと思い、家に帰ってから一升瓶を片手に、社長宅を
訪ねました。
玄関には、奥さんが何時ものように、わが子の帰りを出迎えるように、にこやかに
立って居ました。
「雄ちゃん、お疲れさま、お上がりなさい。」
「はい、お邪魔します。」
「さあ、さあ、お父さんお待ちかね!」
奥さんの揃えてくれたスリッパを履くと、リビングに直行しました。
リビングのソファーに深く腰を落とした社長は既に酒を飲んでいるようで、少し酔いが
回っているようでした。
「おー、雄二、こっちへ座れ!」
「はい、失礼します。」
手に持った一升瓶をテーブルの上に差し出すと、社長は嬉しそうに微笑みながら話かけて
来ました。
「おー、気が利くなー、雄二は!」
「いえ、この度は大変お世話になりまして、感謝しております。」
「何だ、他人行儀な事を言うな。」
「いえ、本当にありがとう御座いました、社長がいらっしゃらなかったら、本当に・・・」
「いゃー、そんな事は無いさ。」
社長は、少し寂しそうに俯きながらグラスを手にとって、口元に運び飲み干しました。
「おい、酒の用意をしてくれ、雄二が持ってきてくれたやつを頼む。」
「はーい、お冷にしのますか?それとも!」
「・・・今日は、冷にしよう、なぁー雄二?」
「はい。」
程無くして、奥さんが新しいグラスと、つまみを運んで来ました。
「なー、お前もここに座れ・・・」
「はい、はい。」
奥さんは、社長に促されるまま、私たちの脇のソファーに浅く腰掛け、二人に酌をしてく
れました。
「今日は父さんと母さんの供養だ、ゆっくりやろう、な、雄二。」
その日は、たまたま金曜日で私も翌日の事は考える必要も無かったので、お礼の意味も
込めて、快く返事しました。
「はい、こちらこそ、お願いします。」
「そういえば、前にも同じ様なことが、あったな。」
「それは・・・?」
「お前の父さんと、こんな風に二人で飲んだことが有ったよ。」
「そうですか・・・」
「お前の兄さんが、亡くなった時だ。」
私には兄が居ました、正確には居たらしいです。
生後9ヶ月で亡くなってしまったことは、両親から聞いていました。
生まれつき心臓に重い欠陥を持って生まれた兄は、当時の医療では延命が難しく、9ヶ月
でこの世を去ってしまった。
社長が言うには、そのときも社長と父は、酒で兄の供養をしたと言う事でした。
「まさか、雄二と二人で、お前の両親の供養をすることになるとはなー。
俺の方が先に逝く筈だったのに・・・」
「そんな事、無いですよ、寿命ですから。」
「そんな事あるか、物事には順番というものがある、解るか雄二!
俺は悔しいぞ 雄二、何であいつが・・・なんで・・・」
社長は突然グラスをテーブルの上に置くと、両の手で顔を隠すようにして号泣しました。
「雄ちゃん、うちの人、貴方のお父さんを弟みたいに思っていたからね。
うちの人も兄弟がいなくて、両親が早くに無くなってからは一人ぼっちだったからね。
私は子供生んで上げられなかったし、この人寂しいのよ。
四十九日の法要の後は、毎日こんな感じなの・・・」
奥さんの目からは、一筋の涙が流れていました。
私は、父と社長の絆の深さを思い知らされました、社長と従業員という言葉以上の絆、
ここまでのものとは私も気付いていませんでした。
子供の居ない、世話好きの社長の度か過ぎた道楽程度に思っていたのかも知れません。
突然、社長が顔を上げ、私の顔を見据えて言い出しました。
「雄二、今日はお前に話がある!」
「・・・お話ですか?」
「ああ、話がある。」
社長の目は、真っ直ぐに私の目を見据えて動きません。
「・・・何でしょうか。」
「お前、私の息子にならんか!」
余りにも唐突な言葉に私は返事をすることすら出来ません、訳も無くテーブルの
グラスを手にして酒を口にして見ましたが、何と返事して良いのか解りません。
社長はじっと私を見つめていましたが、返事の無い私に催促します。
「どうだ 雄二、嫌か?私が嫌いか?」
「・・・いや、そんな事は無いです、ただ・・・」
「ただ何だ、雄二?」
「急な話ですから、ちょっと・・・」
「雄ちゃん、びっくりしたと思うけど、うちの人は前から考えてた事なの、
雄ちゃんのご両親が無くなってから、ずっとね!」
「私には、子供が居ない、遠縁の者は確かに居るが、今からお前以上に情を持って
接する事は出来そうに無い。
雄二さえ良ければ、私の家族に成ってくれないか?」
私は溢れ出て来る涙を抑える事が出来ませんでした。
両親が無くなり、孤独の身になった私は、両親の保険金や事故の賠償金で、学生の
身で有りながら、経済的には将来に不安はありませんでしたが、心の隙間を埋める事は
自分では出来ないでいました。
子供の頃から、両親の次に接する事が多く、私の人格形成にも少なからず影響を与えてきた人達であり、両親の次に情が通っているとしたらこの二人に間違いはありません。
「雄二、どうなんだ?」
「雄ちゃん、嫌なら無理しなくていいのよ。
でもね、私もこの人と一緒で、雄ちゃん以外は考えられないのよ。」
「雄二、嫌か?」
私は声の出ない涙を流しながら、社長の目を見つめながら首を大きく横に振りました。
「嫌じゃないんだな!いいんだな雄二?」
今度は頭を大きく上下に振ると、思わず大きな声で泣いていました。
「そうか、そうか。雄二有難う。」
涙で顔を上げていられず俯く私の肩に、奥さんの暖かい手が置かれ囁きかけます。
「辛かったよね、寂しかったよね・・雄ちゃん。」
二十歳と言っても、孤独に成ったとき、所詮は親掛かりで生きてきた人間ですから、血の
繋りは無くても身近な人間の情に接したとき、凍りかけていた気持ちが一気に溶けて行き
心が温かくなるのを感じていました。
両親の一周忌を済ませてから、私は社長の家に移り住む事になり、大学を出てから直ぐに
義父の会社に入社し、順風満帆とは申しませんが、他の役員の後ろ盾も得て、現在の地位
まで上り詰めて来ました。
- 2014/11/21(金) 12:28:57|
- 夢うつつ・愚か者
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Author:シーザー
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問い合わせされる前に、お読みになりたい作品は一部を除き「オナニー三昧」の”逝く”ボタンで掲載サイトにリンクしますので大半が閲覧可能です。
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