主に寝取られ物を集めた、個人文庫です。
田宮と惣太郎の、悪魔の打ち合せがおわりかけた頃、浩二が新しいブランデーの瓶と、燗をした銚子を持って入ってきた。乱れたま
ま出て行った浴衣が、着付けでもしたようにきれいに整えられている。誰がみても冴子が着せ直したことが判る。
「ママは、つまみを造ってから着替えてきますって……。この日本酒はパパが今日千葉でもらってきた吟醸酒だそうです」
「ああ、これはねえ、館山の造酒屋がくれたもので、大きな樽で醸造したものを、そのまま上澄をすくってくれたんだ。だから正式には
濁り酒だ。しかし、生地の酒はうまいよ。重かったけど、三本もらってきたから、思いきり呑んでくれ」
惣太郎は、田宮と浩二のどちらにともつかずにいうと、まず田宮に銚子を向けて、促すように銚子をしゃくると、田宮は小さく頭を下げて
猪口を差し出した。
「おまえはコップの方がいいだろう」
惣太郎は、浩二の前のコップに、田宮に注いだ残りを全部空けながら、いよいよこれからはじまる悪魔の宴に、自ら飛び込んでいく決
心を、もう一度確認した。
男三人が、最初の酒を毒味でもするように、黙したまま口に含んで 吟味していた時、冴子が、淡い茶色のハウスコート姿で入ってきた。
先ほどの事は忘れたようにに華やかな微笑をたたえてる。手には大きなガラス容器を持っていた。
「さあ、今日は浩二さんの帰朝のお祝いですから、お刺身をいっぱい造りましたの。そしたらパパが、また気をきかせて、千葉か伊
勢海老をこんなに買ってきたのよ。パパのは全部生きていたの。さあ、浩二さん海老は好物だったでしょう、召し上がれ。ほら、こちら
にあわびもあるわよ。頂く?」
取り箸で、浩二の前の小皿に取り分けてやりながら陽気に冴子が言った。襟もなく、首の周りを丸く裁断しただけのハウスコートは、
薄茶色に濃い茶で木の葉をあしらった模様の木綿地の薄いものだった。
一枚の布を前でちょっと合わせただけのように、上から腰の辺りまでがスナップで止めてあるたよりなさである。手を触れただけで、は
らりと開いてしまいそうな、その頼りなさがなんとも艶っぽい。裾は踝近くまであるが、横は割れていなくて、前合わせのスナップが腰の
上までしかないので、椅子に座ると前が割れて、艶やかな膝小僧から太股の奥までが覗いてしまう。
冴子自身それが気になるのか、前が割れる度に慌てて合わせているのがかえって扇情的で、男心をそそる。普通では他人の前で着
られるものではなく、個室でのナイトガウンである。冴子は夫以外の男の前で自分から、こんなはしたない着衣を冴子が自発的に着るよ
なことは絶対にない。
実 は今夜は惣太郎が冴子の厭がるのを無理に着るように命じていたのである。下にブラジャーもスリップを着けることも禁じてあった。
下穿も最初は穿かないように要求したが、さすがに、冴子は応じなかった。それでは腰に線の出るものはやめて、小さなスキャンティ
ーを穿くようにいってあったから、きっとそうしているに違いない。
この服は、先週、学園で開かれたバザーで惣太郎が買い求めて来たものである。生活学科の女子生徒が創ったもので、同じスタイル
の色違いを自ら着て賣っていたのをが、惣太郎の目に留まった。
前のスナップの合わせを臍のあたりから下は外して裾を風になびかせていたので、小麦色に日焼けした弾むよう女子学生の太股が妙
に色っぽく惣太郎の目を刺激した。
惣太郎は、ふと、その女子学生を妻に置き換えて眺めてみた。むちむちと熟しきった柔らかそうな躯の、色の白さが、首筋から胸へかけ
ていっそう透き通るよな妻は、肩も腰も腿も、躯のどこをとっても、まるくなめらかで色白だ。その妻がこれを着ればどんなに艶っぽいだろうと、
思った時、惣太郎は、これを着た妻に魅了されて言葉もなく夢中で妻を抱き締めようとしている田宮の姿が忽然とうかんできた。
寵愛する妻は、他の男に対しても限りなく魅力的な存在でなければならない。妻を与えた男が、妻にひれ伏し、魅了され、盲従するか
らこそ夫である自分は優位であるのだ。もし男が不能の男の妻を慰めてやっているのだという立場になると、自分はどんなに惨めだろうか。
幸い田宮は妻に完全に魅了されている。しかし、慣れとは恐ろしいもので、田宮が妻の心と躯になれてしまえば、後者の態度に出ないと
も限らない。そのためには、手を変え品を変えて、妻は田宮の前で、いつも新鮮でなければならない。
惣太郎は買ってくれとせがむ女子学生に、親戚の娘にでもやるか、と照れを隠して買ったのだった。
田宮と浩二の視線は、妻が、ともすれば割れる膝を合わせる度にそこに釘付けにされている。
惣太郎は、恥ずかしい思いをしてまでそれを買ってきたことに満足していた。
「うまいですねこの酒は……。燗もいいけど、原酒は冷やがいいかも知れませんね。奥さんすみませんが、氷と瓶を持ってきてくれませ
んか」
惣太郎は田宮を凝視した。よく冷やした酒は、水を呑むようにすいすいと呑めて、後でどっと酔いがくる。冷静に悪魔の宴を開くべく、着
々と大胆に準備を進めていく田宮に、犯罪馴した凶悪犯にでも押し込まれて、脅されているような恐怖を惣太郎は覚えていた。
田宮は勧め上手だった。一時間もたつと、浩二は英国の歌を、まるで学生の応援団のように高吟しはじめた。酔いの回ってきた証拠であ
る。
やがて、大胆にも惣太郎や田宮の視線も気にせず、冴子がはだけた膝にじかに掌を置いたりするようになった。酩酊してきたのだ。
冴子も田宮が酒を勧めても三度に二度は、酔ってしまうからと受け付けなかったのが、やがて三度に一度しか拒否しなくなり、冴子が酔った
特徴である鼻声になりはじめた頃には、頬も紅をはいたように艶やかで、目がしっとりと潤んで、田宮が差す度に呷るようにして杯を空けるよ
うになった。
冴子は動作も緩慢になり、裾のスナップが外れて、艶やかな膝小僧や太腿が露わになっているのも気付かぬほどに注意力も散漫になっ
ていた。
浩二が大きな声で話ながら、机の下で隠しているつもりで、冴子の露わになった太股に置かれているのが、実は惣太郎からも田宮からも
よく見えたいるのだが、それに冴子も浩二も気付かぬほど酔いが回っている。
ほの昏いフロアスタンドの明りが、そこだけ光を集めているように、艶やかに白く輝く冴子のむっちりとした膝に置かれた浩二の大きな掌は、
膝小僧のあたりにじっと置かれていて、笑いや言葉のはずみに、あたかも、偶然掌が滑ったというようなあどけなさで、膝から太腿の上を、す
っと愛撫している。浩二の女ずれしていない純情さが、その掌の動きにもよくあらわれている。
杯を片手に持って、じっとその掌の動きを眺めていた田宮が、じれたように言った。
「さあ、浩二君、奥さんと踊るかい。もし踊らないなら僕が踊れたいんだが……」
けしかけるような田宮の言い方だった。
「田宮さんは駄目ですよ。ママに悪い事するから。僕が踊りますとも……。僕が帰ったからは奥さんにあんなことさせませんからね。……
ママ……もうだいじょうぶですよ……僕が守って上げますからね……さあ、踊りましょう……」
冴子を抱くようにして、浩二が無理槍立ち上がらせた。冴子の脚が机の下で無理に開いて、前合わせのスナップが飛んで、白い絹のスキャ
ンティーが、股間に食い込んでいるのが見えたが、冴子も酔っているので気付かない。
冴子の脚がふらついていた。
浩二にすがるようにして立ったが踊ることもできない。
「浩二さん、駄目。酔ってしまって踊れないわ……」
冴子は甘えた口調でいいながら、浩二の躯にしがみつくようにして、やっと立っているという状態だった。
「大丈夫だよママ。こうして踊ればいいんだ………」
浩二が冴子の背中に両腕を回して自分に強く引き付けて、足は動かさずに腰だけをゆっくりと左右に動かせた。それを眺めている惣太郎と
田宮からは、冴子の着た薄いコートが、浩二の力で前に手繰り寄せられてしまい、太っても痩せてもいない頃合の冴子の女らしい背中が、正
中線のまっすぐな凹みまではっきり見えていた。腰から臀の隆起も、薄い布地が、まるで冴子の皮膚のように張り付いていて、盛り上がった肉が、
浩二の動きに合わせて、くりくりと動く様子が、直接裸体を見るより扇情的だった。
浩二の肩に額を押し付けるようにして顔を埋めているので冴子の表情は見えないが、浩二は冴子の左耳のあたりに顔を擦り付けて、髪の乱
れた首の辺りに唇を押し当てて目を閉じて陶酔の表情で踊っていた。
腰だけ小さく左右に揺らしていた浩二の動きがしだいに大きくなり、左右の運動だけではなく躯全体を、冴子に強く擦り付けるようにして、前
後左右に円でも描くように強く大きく動かせはじめた。ささやくようなCDディスクの音楽の流れの合間に、ぷつんと、聞き取れないほどの小さな
鈍い音で、冴子の着衣のスナップが飛ぶ音が、惣太郎の耳に、心臓に突き刺さるような強さで響いていた。
スナップが外れる度に、冴子の前ははだけられて、浩二はそこに自分を密着しているに違いなかった。
何度目かにその鈍い音を聴いた時、平静を装えなくなって、身を椅子から乗り出すようにして二人を凝視した。きりりと着直した浩二の浴衣の
胸は、だらしなく肌けられていて、そこに冴子が顔を埋めている。先ほどまでまるで冴子自身の肌のように密着して、臀の丸味から背中の正中
線まではっきりと見せていた冴子の着衣も、くびれた細い腹の辺りが、前で引っ張られているように肌に密着している以外は、余裕たっぷりの着
衣のように躯の線を隠しているということは、前が肌けられて腹のところでわずかに残りのスナップが留まっているだけではないだうか。
いま、ふたりの肌は汗ばんで直接密着しているに違いない。冴子は股間に薄いスキャンティーを透して浩二の怒張したものを突き当てられて
を感じているのだろうか。また裸の乳房は浩二の熱い胸に直接触れて押しつぶされているのだろうか。浩二も又、冴子の柔らかい肌を熱い体温
と湿ったような感触を味わいながら陶然となっているのだろうか。惣太郎の狂うような昂ぶりも知らぬ気で、二人はしっかりと密着したまま、声も出
さずに搖れていた。
「浩二さん……… それ……いやよ……」
あとは含み笑いした冴子のささやくような声がして、抱き合った二人が大きく搖れた。
視ると冴子の胴抱き締めていた浩二の腕が、いつのにか解けて、片方が冴子の股間に当てられたらしい。
冴子が腰を浩二から大きく引いたと思うと、急に大きな笑い声をたてながら浩二からはなれて、その場にしゃがみ込んでしまった。
「駄目だよママ………」
浩二がしゃがんだまま着衣の前を合わせている冴子の斜め後ろから、冴子の両脇に腕を差し込んで抱え上げた。
力が抜けて人形のようにぐったりなった冴子が、足先を残して斜めに引き上げられる時、着衣の前の臍から下がはらりと開いて、スキャンティー
けの、むっちりした下腹やすんなりした脚があらわになって、灯を集めて白く浮かび上がった。
浩二が慌ててはだけた冴子の前を合わせようとしたが、薄い着衣は生き物のように冴子の裸身を包むことを拒否して滑り落ちた。
浩二が引き擦るようにして冴子を惣太郎が腰を下ろしているソファに坐らせると、冴子は緩慢な動作で自分で前を合わせながら、
「あなた………お水飲みたいわ」
しなだれかかりように惣太郎の肩に汗ばんだ顔をもたせかけた。多すぎる髪が惣太郎の顔に触れて、そこから甘酸っぱい女の発情の体臭が
惣太郎の鼻腔に強く匂っていた。
「浩二君、さあ、この水を飲ませて上げなさい」
落ち着いた抑揚のない田宮の低い言葉に、惣太郎が田宮に視線を移すと、田宮は、大きなコップによく冷えた酒をなみなみと注いで浩二に差
し出すところだった。田宮とは一体どういう男なのだろうと、惣太郎は付き合い慣れた田宮をはじめて視る男のように疑念の眼差しで凝視していた。
たしかに、自分と二人で企んだ悪魔の宴を、彼は忠実に実行しているのだ。
二人が完全に酔えば愛し合うという条件を二人で確認し、そうすることにしたのだ。しかし、二人はまだ完全に酔って理性を失うまでに至ってい
ない。とすればもっと酔わさなければならないのだから、田宮が酒を勧めるのは、しごく当然の約束の履行である。だが、いま、妻は、喉の渇きに
水を欲しているのではないか。
それを酒に換えて騙してまで飲まさなければならないのだろうか。
田宮の先ほどからの冷静すぎる行動は、妻に魅了されつくしている男のとる行動だろうか。
田宮は不能の先輩の妻を、主人の了承の上で味わい、それに飽きた矢先に、馬鹿な主人は、またと見られない若い男と人妻の性交場面を見
たがっている。
この滅多にないチャンスを逃がす手はない。この際、何がなんでもこの人妻と青年を酔わせて、たっぷりとその濡れ場を鑑賞しなければ損だ。
まさかとは思うが、田宮はそんな凶暴な心境で事を進めているのではあるまいかと、惣太郎は疑ったのだ。
もしそうだとすれば、この宴は中止しなければならない。
そんなことを考えている間に、何も知らぬ浩二は、気安く田宮からコップを受け取ると、
「はい、ママ………」
冴子の顔にそのコップを突きつけた。
両手でコップを受け取った冴子は、そんな疑惑など全く感じてはいず、酒の冷たさにごまかされて、一気にうまそうに喉を鳴らしながらそれを飲
み干して、
「ああ、おいしいわ、浩二さん」
と吐息をついた。
「そろそろ休みませんか」
田宮の声で惣太郎は目を覚ました。目の前の椅子で、田宮がまだ一人で杯を空けていた。その横の椅子では浩二が背もたれに埋まるような
格好で口を開けて鼾をかきながら眠っている。横では冴子が、惣太郎の方に、縮めた脚を向け、頭を向こうの肘掛けに横向きに載せて眠っている。
「もう何時になった?」
惣太郎が聴くと、
「一時過ぎました」
田宮が昏い奥から答えた。
あれから雑談をしながら、田宮が妻と浩二に酒を勧めていた。真っ先に浩二が眠った。田宮が冴子に、自分と妻の出会いの頃の話をさせてい
たのを覚えている。
話は新婚旅行の話から初夜の様子に移り、それが本当にはじめてか、とひつっこく田宮が冴子に聴いていた。何度も、本当にはじめてかと田
宮が聴き、鸚鵡返しで、そうよ、と妻が答えていた。
呪文のように、田宮が抑揚のない声で聴き、妻が呪詛にかかったように力なく答えて、その合間に、田宮が巧みに妻に酒を勧めていた。その単
純な催眠術師のような問答は、醒めた田宮が冷静に妻の酔い加減を測定しているのだろうと思いながら惣太郎は聴いていたが、そのうち眠ってし
まったらしい。
今一時だとすれば、一時間以上眠ったことになる。その間、田宮は一体何をしていたのだろう。そこまで考えた時、惣太郎の胸に、ある疑念がに
わかに浮かび上がってきた。
「君は今の間に冴子と……………」
惣太郎は田宮に思わず聴いた。聴きながら自分が意志とは無関係に、田宮に随従するように、思わずにんまりと好色らしく笑いかけたのを、
内心苦々しく思った。
「ええ、奥さんの寝乱れ姿が、あまり色っぽくて我慢できなくて…… すみません」
「何も謝ることはない」
「ちょっとですけれど……」
何がちょっとだと、内心の腹立たしさを押さえて、反射的に冴子の顔を見た。
長い睫毛をしとやかそうに伏せて、妻は眠っていた。顔はやや汗ばんで、ほつれ毛が額に張り付いており、眉と眉の間にわずかに苦悶か快楽
を味わってでもいるような縦皺が刻まれている。
終わった直後でないことはわかるが、妻の表情には、まだ充分に余韻が残っていると惣太郎は思った。
「ここでしたのかい? それにしては俺も、よく眠っていたものだな」
惣太郎は平静を装って聞いた。
「いえ、そこの絨毯の上です。………途中で、私ではなく浩二さんだと勘違いしたようで……さかんに浩二さんの名を呼んでました」
「浩二と思っても、別に拒否しなかったというんだな」
「ええ、拒否どころか、かえって興奮して………、応じ方といい、声の出し方といい、それは大変でした……。私との時との較ではありませ
ん」
「そんなに浩二としていると思って興奮したかね。こいつは、そんなに浩二が好きなんだろうかね」
惣太郎は嫉妬ではなく、ある安堵感を抱いて田宮に訊いた。それは、今夜、はっきりと田宮に感じていた恐怖と嫌悪感がそう思わせたのだっ
た。いまの田宮の立場で彼が自分を裏切ることはあり得ない。
自分が田宮を学会で誹謗すれば、彼の言語学者としての社会的地位を喪失差せることも可能である。しかし逆にこんな自分の個人的秘密
を握られたことによって、田宮の無言の圧力と要求に応じなければならなくなることだってあり得る。
現実に田宮は、いまは助教授だが、国内のどこかの大学の教授になって箔をつけてからアメリカへ帰りたいと考えている。自分が推薦すれ
ば、地方の私立大学なら、いますぐにでも教授になれないこともない。要するに田宮は自分達夫婦の性の愛玩物にするには、あまりにも世慣
れすぎていた。
それに比較して、浩二は世間も知らない若竹のような素直さで、人を疑うことも知らない。もし、いまの田宮の言葉が本当だとすれば、冴子も
浩二が嫌ではない。浩二が妻にぞっこん惚れていることは、今までに充分証明されている。
こういう危険な遊戯には、一抹の嫌疑でも感じる人物を交えてはいけない。
惣太郎は、本能的に田宮に危険なものを感じていた。
そうなると、今夜の機会を逃して、妻と浩二を結び付ける機会がないとはいわないが、それには、また大変な時間と気苦労とエネルギーを費
やさなければならない。そうだ、やはりこの機会に妻と浩二を結び付けて、田宮を遠ざけるのが賢命だと惣太郎は思った。そう心に決めると、気
が楽になった。
「ほんとうに、こいつは浩二が好きなのかねえ」
惣太郎は、自分のすぐ傍に、揃えて投げ出されている妻の、薄いマニキュアに貝細工のように美しい爪の輝く足先を愛撫しながら言った。す
んなりとした形のよいふくらはぎを重ねて、膝で折り曲げ、その奥にむっちりとした太股が着衣の奥に蠱惑を秘めて盛り上がっている。
この美しい妻の躯が、いま田宮に犯され、やがて若い浩二の餌食にされるのかと思うと、毒を呷っているような被虐の悦楽感と、臓腑が空にな
るような加虐の昂ぶりと、一夜に二人もの若い男から妻自身が味わう享楽の激しさとの入り交じった倒錯の喜悦に、惣太郎は目舞がするような興
奮を覚えて、思わず、妻の薄い着衣の裾を開いて、その奥まで手を差入れて愛撫した。
「そのままにしてあります………」
田宮が羞恥を含んだ言葉使いで言った。惣太郎は男の体液を受け入れたばかりの妻の熱湯を溜めたような膣を好んだ。
自分より強壮な男を受け入れて、歓喜の絶頂を迎えたばかりの灼熱の余韻がまだふつふつとたぎっている妻の躯は、挿入した瞬間に、再び
燃え狂い、先ほどの若い男との狂乱が、一時中断の後、再び続行されているようで、まるで最初から自分が妻を徹底的に狂わせているような優
越感に浸れたし、また、まだ妻の体内で、体温まで温存して襞の隅々にまでたっぷりと溜っている前の男の精液が、自分の陰茎に纏つくことで、
その妻を犯した男と一体になったような錯覚が生じて、その男を嫉妬したり恨んだりする感情が消え去っていくのだった。
妻が穿いていたスキャンティーは取り去られていて、なにも着けていなかった。
股間に掌を進めると、太股の内側から臀の割れ目にかけて、二人の体液と汗がべっとりと濡れ付いていて、田宮との情交の後を歴然と示して
いる。
さらに掌を進めると、そこは粘膜が溶けてしまったかと錯覚するほど柔らかくなって、粘質の熱い液が底無し沼のようにたぎっていた。
惣太郎がその沼の奥に指を突き入れようとしたとき、冴子が広げた脚をよじったて、呻き声を上げた。
「浩二さん………。浩二さん………」
自分の胸を掻き抱くようにして、冴子が小さく言ったのを惣太郎は確実に聞いて、慌てて掌を引っ込めて、反射的に田宮の顔を見た。
「どうします?……もし実行するなら今がチャンスですが……。これ以上間をおきなすと、二人とも本気で眠ってしまって、朝まで起きません。
酔いが深くなりますから…………」
惣太郎は妻の顔を見てから、椅子にもたれて眠っている浩二を視た。先ほどまで青かった妻の顔に朱がさしていた。前をはだけて、琥珀色の
すべすべした艶のある贅肉のない締まった浩二の躯は、幼さを残した若さに輝いている。
「どうしますか」
田宮がまた惣太郎に尋ねた。田宮の声が自分の殺生与奪の権利を握っている権者のように惣太郎には聴こえて、畏怖の念を感じた。
惣太郎は声が詰まって、思わず田宮の目をのぞき込むようにしてうなずいた。
「さあ、もう寝ましょう。…………奥さん寝ましょう」
田宮は 椅子から立ち上がって、それでも起きようとしない冴子を揺り動かした。冴子が目を覚ますらしく、躰を動かしはじめると、田宮は妻の
躰の向きを浩二の方に向けて、ぽんと肩を叩いて、
「さあ、もう寝ようよ」
と言った。冴子が、何に刺激されたのか、慌てて起き上がると、
「あら、もうそんな時間? 困ったわ……あたし……。田宮さんの布団はお二階に用意してますけど、浩二さんのはまだ用意してないわ。すぐ
しますから浩二さん暫く待ってください………。ねえ、あなた……、隣の和室でいいわね、浩二さんが休むのは………」
酔いの回ったたどたどしい言葉で言ったが、立ち上がる気配はなく、裾を乱したままソファに腰を下ろし目を閉じたまま、まだ夢の中のように呆
然としていた。
「俺が布団敷いてやろう……」
立ち上がりかけた惣太郎を田宮が制しながら、まだ眠り呆けている浩二の肩を強く揺すった。
「おい! 浩二さん、みんなもう寝るんだが、君はどうするんだい……このままここへ寝るのかい? 」
「いいえ、疲れて帰っているんだからちゃんと寝なきゃいけませんわ。すぐ支度しますから………」
冴子がふらふらと立ち上がりかけたが、すぐふらついて部屋の壁に手を突いて支えた。
「奥さんが支度してくださるそうだよ。君も早く起きて手伝わなくてはいけないよ。ささ……隣の部屋に行きなさい」
田宮が引き起こすようにして浩二の腕を取って引っ張ると、驚いたように浩二が目を開けて、じばらく周りの様子を窺っていたが、
「僕が自分で布団を敷きますから、ママ布団のあるところだけ教えてくださいよ………さあ、行きましょう……」
冴子に寄り添うと、冴子の肩を抱くようにして部屋を出て行った。それを追いかけるように田宮が追っての悪魔のように後につづいた。
- 2014/12/02(火) 15:44:49|
- 花濫・夢想原人
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