主に寝取られ物を集めた、個人文庫です。
◆第一章 過去からきた男
悪夢の再会は、何の前触れもなく訪れた。
「よお、謙一郎。元気そうだな。すっかり一人前になりやがって」
仕事上のプロジェクトが一段落し、久しぶりに自宅でくつろいでいた初夏の夕刻。チャイムに応じて扉を開いたまま、私は立ち尽くした。
「なんだ、忘れちまったのか。ガキの頃はあんなに可愛がってやったのにな。俺だ、修造だよ」
十二年間にも及ぶ空白の間に、もともと薄かった髪はすっかり禿げ上がっていた。だが、卑屈に歪んだ貧相な顔、その下に連なる異常に逞しい身体つき。変わっていない。
「……叔父さん……なんで?……」
ありえない。なぜ、この男がここにいるのだ。私の思考は激しく混乱した。
修造は父の弟だった。東京の一流大学を卒業し、一流商社勤務を経て三十代前半で「スギヤマ・インターナショナル」を創業した父・杉山謙介。故郷・新潟では神童時代の伝説と共に誰もが認める立志伝中の傑物である。
かたや三つ年下の修造は少年時代から札付きのワルだった。傷害、恐喝、窃盗、強姦の常習犯。杉山一族の加護がなければとっくに極道と化していた異端の存在。
「ここだけの話だが、修造さんだけタネが違うんじゃないかねえ。さもなきゃあ、神様のいたずらさ」
近在の者はそう噂し合ったものである。
その後に私たち一家を襲った悲劇の数々。思い出したくもない。過去と訣別した私は砂を噛む思いで独り、どん底から這い上がってきた。
故郷からの支援が絶えてからというもの、奨学金で大学を出、父ほどではないが名の通ったスポーツ用品メーカーに就職すると人一倍働いた。入社三年で販促部の主任という異例の昇進をし、二十六歳を迎えた二年前に結婚したばかりだ。
(もう呪われた昔とは縁を切った。俺の人生はこれからだ)
心機一転、新しいスタートを切ったはずだった。そこに突然現われた過去の亡霊。
「よう、とにかく中へ入れてくれねえか。積もる話はそれからだ」
現実に引き戻された。修造は私の逡巡をいいことに、開いたドアに身体をねじ込むように入ってこようとしている。
「……お、叔父さん。まずいんだ、今」
「散らかってんのか。気にすんなよ。親子にも等しい俺たちの間柄だろうが」
玄関先での小競り合いが続いた。
「いや、そうじゃなくて……。とにかく話なら外でしましょう」
殺しても飽き足らない男なのに、つい下手に出てしまう。それがかつて私の背負ったトラウマだった。
「ほう、何かご馳走してくれるってか。……なら、それもいいな」
徹底して意地汚い男なのだ。そんな虫唾が走る相手と食事をすることへの嫌悪より、
(一刻も早く修造をこの家から遠ざけなければ……)
そんな強迫観念が私を急き立てていた。
「あら、お客さま?」
門の外で声がした。
「ねえ、あなた?」
遅かった。妻の亜紀美が帰ってきてしまったのだ。
「あ……」
淡いクリーム色のスーツ。肩の辺りで揃えたストレートヘア。薄化粧の妻に、修造が呆けたような表情になる。一瞬の後、
「これは奥様ですか。おきれいな方ですなあ。はじめまして。私、謙一郎の叔父の杉山修造と申します」
そつのない挨拶。調子のいいところも昔のままだ。
「まあ、主人にそのような叔父さまがいらしたなんて、ちっとも知りませんでした」
「いやあ、ちょっと事情がありましてね。十年ほど日本を留守にしておったんですよ」
「そうですか。まあ、こんなところで立ち話もなんですから、どうぞおあがりになって」
「すみませんなあ。歳をとると立っているだけでも疲れてしまって……。では、お言葉に甘えて、ちょっとだけ」
こうして私たちは、災いの権化のような男を招き入れてしまった。思わぬ成り行きに動転していた私は、亜紀美を見る修造の目に宿る光が暗示する、呪われた運命を予知することができなかった。
- 2014/09/08(月) 14:58:34|
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◆第二章 寄生の始まり
「私が日本を離れていた間に謙一郎がこんな立派になって……。私はね、それが何よりも嬉しいんですよ」
一時間後のリビング。先刻私に見せた居丈高な態度から一変し、修造は亜紀美を相手に「情に篤い叔父」を演じていた。
「しかも、えらい別嬪の嫁さんまでもらって……。ホント、長生きはするもんですなあ」
その目は本当に潤んでいるように見える。こうして取り入るのが、この男の手なのだ。
「長生きだなんて、まだまだお若いじゃありませんか」
案の定、亜紀美は心を許し始めているようだ。脳裏に危険信号が灯るものの、何も言えずにいる自分。私は苛立っていた。
「ところで叔父さん、十年もの間どこにいたんですか」
「ああ……マニラにね。ちょっとした商売を始めたら軌道に乗ってしまって」
「まあ。それじゃあ、青年実業家でいらっしゃるんですね」
「嬉しいねえ。たとえお世辞でも『青年』なんて言ってもらえて。ありがとう、亜紀美さん」
嘘に決まっている。この男にそんな才覚のあるはずがない。おおかた女衒まがいの怪しげな商いか、フィリピーナのヒモでもしていたのだろう。冴えない風貌をしていながら、昔から女には縁の深い男だった。
「じゃあ忙しいわけだ。あちらにはすぐ帰るんでしょう?」
皮肉と牽制を込めるのが精いっぱいだった。
「じつは、ビジネスの世界は引退してきたんだよ。異国の地でがむしゃらに頑張って、十年。虚しくなったというか日本が恋しくなってねえ」
しんみりと告げる。もちろん効果を計算してのことだ。
「矢も楯もたまらなくなって帰ってみりゃあ、友達とは連絡取れないし、親戚もずいぶん亡くなっているしで……。ようやく幸信から謙一郎の消息を聞けたってわけさ」
幸信とは父の末弟だ。結婚式のとき、さすがに新郎側の親戚が一人もいないのでは格好がつかないと思い、招待したのだが……。
(余計なことを……。よりによって修造に俺の住処を教えるなんて……)
とはいえ、この見てくれに似合わず凶暴な兄に凄まれては、おとなしい幸信叔父などひとたまりもなかっただろう。
「ずいぶん寂しい思いをされたんですね。可哀相な叔父さま……」
心優しい亜紀美がほだされかけている。胸中の信号は黄色から赤へ点滅を始めた。
「さあて、あんまり引き留めても悪いからね。叔父さん、そろそろ」
「あら、はじめて訪ねてくださったんですもの。お夕食をご一緒したいわ」
箱入り娘で育てられた麗らかさが、今は癇に障る。
「そんな厚かましい……と断るべきなんでしょうけどなあ、謙一郎と久しぶりに膝を交えて話をしたいと思ってたんですよ」
「ぜひそうしてくださいな。突然でしたので大したものは用意できませんけど、私、腕を振るいますから」
「そりゃあ、ありがたい。外で気取って食事するより、どれだけ心休まるかわかりません」
「決まりですね。それじゃあ、しばらくお酒でも召し上がってお待ちになってくださいな」
「ありがとうございます。いや、それにしても今日は暑かった。フィリピンの暑さとは違って、汗ばむ陽気。これが日本だと思い出しました」
「ごめんなさい、気がつきませんで。すぐにお風呂を沸かしますから」
完全に修造のペースだ。亜紀美が小走りにバスルームへ消えると、
「いい嫁さんを見つけたじゃねえか。気立てはいいわ、美人だわ、身体つきもたまらんわで。なあ、謙一郎?」
無遠慮な視線を亜紀美の後姿に這わせる。絡みつくように粘着質な物言いに、私は戦慄した。
- 2014/09/08(月) 15:23:06|
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◆第三章 交錯する夫婦
亜紀美の手料理をたらふく食い、出された酒をしこたま腹に収めた修造。
「あんまり幸せで呑みすぎたようだ。こんなに気持ちよく酔ったのは何年ぶりかな」
いかにも見え透いた芝居。しかし、亜紀美は微塵も疑わない。
「今、お住まいはどちらに?」
「寂しい独り身ですからな。新宿のホテルに部屋を取っているんですよ」
「それならホテルに電話すればいいじゃありませんか。今晩は泊まって行ってくださいね」
妻の言葉が結論になった。
「なんで泊まっていけなんて言ったんだ」
まだ呑み足りなさそうな叔父を客間にしている和室に押し込んだ後、夫婦の閨房。私の言葉はどうしても棘を含んでしまう。
「どうして? 当然でしょう、あなたの叔父さまなんだから」
「あんなやつ、叔父貴じゃない!」
「そんなこと言うものじゃないわ。あなた、結婚する前に『俺には幸信叔父さん以外に身寄りはいない。天涯孤独のようなもんだ』って言ってたけど、あんなにご立派な叔父さまがいらしたんじゃないの」
「だから、親戚なんかじゃないって言ってるだろう! 俺は認めない、認めないぞ!」
「どうしたのよ、おかしいわ。昔、何かあったの?」
昔……仁王立ちで私を見下ろす修造。揺らめく裸電球。呆けきった父の表情。隆々とそそり立つ巨大な逸物。蠢く母の裸身。そして……。
病夢のごとく押し寄せるフラッシュバックを慌てて追い払う。
「……な、何もないさ。俺はただ、亜紀美との生活を誰にも邪魔されたくないだけだ」
「何よ、それ? 意味がわからない。とにかく、私は思いがけなく親戚ができて嬉しいの。じゃあ、寝ましょう」
言うに言えないもどかしさ。狂おしい感情が込み上げ、私は思わず亜紀美を抱き寄せた。
「ちょ……ちょっと。何するの?」
「決まってるだろう。おまえとやりたいんだよ」
「何、その下品な言い方? あなた、本当におかしいわ」
妻が他の男の欲望に晒される不安と興奮。背徳的な相克の中、その温かな肉体に埋没して所有者の印を確認したかった。
「いいから、こっちを向けって」
「いやっ、やめて。叔父さんに聞こえるかもしれないでしょう?」
「ここは俺たちの家だぞ。誰に遠慮する必要があるんだ!」
「大きな声を出さないでよ。今日のあなた、こわいわ。とてもそんな気になれない。おやすみ」
向けられた妻の背中。届きそうで届かない。絶望的な距離感。本当に自我が崩壊しそうだった。
(なぜなんだ。どうしてやっと手に入れた俺の生活に入り込んでくる?)
少年期に刷り込まれた怖れ。膝を抱えても震えが止まらない。
(今日だけの辛抱だ。明日からまた、穏やかな日常が戻ってくる……)
しかし、その日は地獄の始まりに過ぎなかった。
蟻の一穴。一度付け入る隙を与えた牙城は、じりじりと蚕食されていくしかない。
結婚して初めて妻に拒まれたこの晩ですら、やがて訪れる深き夫婦の断層を思えば、まだ甘い追憶の範疇であったことを後の私は思い知らされることになる。
- 2014/09/08(月) 15:24:05|
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◆第四章 沈黙する決意
翌日曜日。朝食を終えると修造は出て行った。
「何だか名残り惜しいわ。もう少しゆっくりしてくださればいいのに……」
「亜紀美、無理言っちゃいけないよ。叔父さんには叔父さんの都合があるんだから」
これで自分と亜紀美の家庭を立て直せる。修造という男の恐ろしさを妻に説き、再び侵りこむことのないよう防御を固めればいい。
(あの頃とは違う。両親の二の舞いを演じてなるものか。俺は決して、あいつになど負けはしないんだ)
台風一過。私は頬が緩むのをどうしようもできなかった。
だが、わずか数時間後、修造は再びわが家のチャイムを鳴らした。焦燥の末の安堵に心を緩めていた私は完全に虚を突かれる格好となった。
「あ……ど、どうしたんですか、叔父さん?」
「何だか胃の辺りがシクシク痛み出してね。昨夜呑み過ぎたせいだとは思うんだが、何だか不安になってしまって……。ひょっとすると重い病かもしれんし、どうせ死ぬなら身内のそばでと思ってホテルを引き払ってきたんだ」
冗談じゃない。これが瀕死の男の顔色なものか。
「そりゃあ心配ですね、だったら早く病院へ行ったほうが……」
「……でしたら、どうぞうちへいらして。大歓迎ですわ。ねえ、あなた」
言葉を遮られた私に、修造が意思を込めた目配せを寄越す。
「親戚とはありがたいものだね。こいつの父親はもちろん、母親とも親しく付き合わさせてもらったもんです。今また、謙一郎の嫁さんに優しくしてもらえるなんてねえ……」
気勢を殺がれた。両親のことを持ち出されては、私は沈黙するしかない。
「ありがとう。で、世話になるお礼というわけではないんだが、近江牛のいいところを買ってきたんだ。すき焼きでもどうかな?」
「あら、主人も私も大好きなんですよ、すき焼き。じゃあ早速、支度をしますわ」
胃の痛い男がすき焼きだと? その矛盾に気づかない亜紀美はどうかしている。そして、姦計と知りつつ一言の反駁すらできない自分も……。
「私も手伝うよ。料理にはいささか自信があってね」
「まあ頼もしい。謙一郎さんはそっちのほうはからきしで……」
「ほう。それじゃあ何か別のほうがバッチリというわけか」
「いやだわ、叔父さまったら。そういう意味じゃあ……」
この手の猥談に免疫のない亜紀美が頬をほんのり赤らめる。
「わかってるさ。ジョーク、ジョーク。はははは」
思えば、この時が貪欲な食客の牙から家庭を守りうる最後の機会だった。私はそれをみすみす逸したのである。
そのまま修造は、わが家に居ついてしまった。無論、病気の気配など微塵もないままに。
- 2014/09/08(月) 15:24:56|
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◆第五章 空白の時間
私たち夫婦と叔父の同居生活が始まった。
亜紀美は都心にある友人のブティックを手伝っている。
「会社は辞めるけれど、家事が疎かにならない程度に働きたいの。家にこもりきりだと、老けてしまいそうだから」
結婚に際しての希望を叶えた形だった。勤務時間は朝十時から夕方五時まで。その後買い物をして夜七時前には家に戻る。一方、私の仕事は時期によってばらつきがあるものの、九時前に帰宅できることは滅多にない。
つまり、二時間以上を妻は修造と二人きりで過ごすことになる。
(今ごろ、亜紀美はあいつと何をしているんだろうか?)
午後六時を過ぎる頃から私は落ち着かなくなり、単純なミスを繰り返すようになった。
「主任、最近疲れてるんじゃないですか。少し休暇でも取られたらどうです?」
「杉山君も結婚して二年か。美人の奥さんがあの味を覚えてきて、夜寝かせてくれないんじゃないかね」
上司の軽口にも、気の利いた言葉を返せない。残業も接待もなるべく控え、早めの帰路に着く私だった。
「なあ、俺が帰ってくるまでの間、叔父さんと何をしてるんだ?」
深夜の寝室。修造は今夜も大いに呑み、食い、語り、眠った。
「どうしたの、突然?」
「いや、まあ何となく気になってね」
「何って、いろいろよ。お料理を手伝っていただいたり、一緒にテレビを観たり、あなたの子供時代の話をしてくださったり……」
「こ、子供時代って、どんな話?」
触れられたくない領域だった。
「あなたったら、中学から高校にかけて随分ませてたんですってね。『思春期を迎えて気難しくなっても、私にだけは打ち解けてくれたんだ』って叔父さま、得意げだったわ」
そんな事実などあるはずがなかった。
(大体その時期といえば……)
じとりと脂汗がにじんだ。
「そ、それでおまえ。叔父さんに何かされたことはないのか?」
「どういう意味?」
「だから……その……手を握られたりとか」
「莫迦ね。そんなこと、あるわけないでしょう。叔父さまなのよ」
叔父だからこそ心配なのだ。それを口に出せないことが歯がゆい。
「ああ……そういえば一度、お風呂を覗かれたことがあったわ」
「な、何だって!」
「というか、私が入ってることに気がつかないで叔父さまがドアを開けたっていうだけのことなの」
「バスルームの扉は曇り硝子張りだろ。気がつかないわけないじゃないか」
「考え事してらしたんだって。仕方ないでしょ」
「どうしたんだ、それで?」
「『いや、失礼』ってドアを閉めておしまいよ」
「おまえは……その……裸を見られたのか」
「ううん、どうだっかな。髪を洗っているときだったから、見えたかもしれない」
「かもって……丸見えじゃないか! で、何もされなかったんだな」
亜紀美の白い蜜のような裸身を盗み見られた。よりによって、あの希代の好色漢に……。狂おしい焦燥が私を襲う。
「当たり前でしょ。あなた、何を心配してるの? 相手はあなたの叔父さまで、あの通りのご高齢じゃないの」
「男というのは何歳になったってだな……」
「やめてよ、いやらしい。五十三といえば私の父より年上なのよ。色気とか欲望なんてとうに卒業している歳じゃない」
「…………」
女子高、女子大から社会勉強のためにOLを一年間勤めただけの亜紀美。義父は真面目一徹の朴念仁だし、男兄弟もいない一人娘だ。世間を、特に男という生き物について無知に等しい。
(たとえ百歩譲って世の中の男が亜紀美の言葉通りだとしても、あの男だけは別なんだ。俺はそれを知っている)
脳裏に再び封印していた光景が甦る。悪鬼さながらに呵々大笑する修造。淫靡にくねる母の裸体、哀れでいながら甘やかな啼き声。ただ歯を食いしばるだけの自分……。
私は終生、修造の支配から逃れることはできないのか。
- 2014/09/08(月) 15:25:47|
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◆第六章 忌まわしい記憶<A>
二十四年前。父・謙介の設立した「スギヤマ・インターナショナル」は順調に業績を伸ばしていった。商社時代に得たノウハウと人脈、そして大企業にはないフットワークの良さを駆使して、さまざまな輸入販売ビジネスに打って出た。
なかでも謙介が注力したのは北欧の家具である。スウェーデンへ自ら出向き、仕入れてくる高級テーブルやチェスト、ベッドなどが飛ぶように売れた。
やがてジャカルタに工場を設け、北欧のデザインを模した家具を自社生産するようになった。原価が十分の一程度なのだから、利幅も大きい。
「注文に製造が追いつかない。次はタイに工場を作ろう」
さらなる拡大路線を歩もうとした矢先、バブルが弾けた。高級家具の需要は激減。過剰な設備投資が祟り、会社は瞬く間に傾いた。
順風満帆な半生で味わう初の挫折。逆境に慣れていない謙介はたちまち追い込まれた。
修造がふらりと現われたのは、そんなときである。
「兄さんの役に立ちたいんだ」
かつては忌み嫌っていた弟。しかし、心底打ちのめされていた謙介は、身内の温かな言葉に涙を流した。
「とりあえず株主たちには俺が頭を下げて回るから、兄さんは資金繰りに専念してくれよ」
その後に見せた修造の手腕は鮮やかだった。時には土下座しての泣き落としや女を送り込んでの色仕掛け、またある時は昔なじみのならず者を同道させての恫喝。あらゆる手段を駆使して株主たちを沈黙させていった。
だが、資金補充のめどはつかず、創業十年にしてスギヤマ・インターナショナルは倒産した。
「さすがに疲れたな……。久しぶりに海にでも行って気分転換してくるよ」
言い置いて家を出た謙介は、それきり帰ってこなかった。葉山のマリーナから、愛用のクルーザーが消えていた。
遺体が発見されたのは、五日後のことだ。自殺か事故か。いずれにしても非業の最期だった。後には母・涼子と私だけが残された。
父が遺した借金は母と会社を受取人に加入していた生命保険金、新潟の生家から相続した山林、世田谷の邸宅や高級自動車、クルーザー他、一切を売り払った金で購えた。それでも足りないはずだったが、裏社会に通じた修造が奔走した結果、私たち母子は人並みの生活を赦されたのだ。
「兄貴を救えなかった俺にも責任がある。困ったことがあればいつでも言ってくれ」
大黒柱を喪った私たちにとって、修造は唯一の頼るべき存在となった。
倒産、自殺によって謙介は地元の英雄という座から転落した。彼の代わりに杉山家当主を襲ったのが反りの合わない従兄弟だったこともあり、私たちに援助の手は差し伸べられなかった。
一方、静岡の名門である母の生家もバブル崩壊で資産を失い、夜逃げ同然に離散していた。箱入り娘のまま謙介に嫁ぎ、生活のすべを持たない母が、叔父に依存するようになっていったのも仕方のないことだったろう。
「こんなところですまないな、義姉さん。もうしばらく辛抱してくれ」
修造があてがってくれた北千住の小さなアパート。近隣に誰一人として知己のない暮らしの中で、母は時おり訪れる修造を心待ちにするようになった。
「修造さんがいてくれなければ、もう生きていけないわ」
そして、母は修造の女になった。
- 2014/09/08(月) 15:26:36|
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◆第七章 狡猾な誘い
無論、修造の目当てが母であり、私など余計な存在であったことは想像に難くない。だが紛れもなく数年の間、私は叔父に養ってもらった。
その事実がある限り、たとえ社会人となり立場が逆転しようとも、私は修造に断固たる態度が取れないのだった。
今では尾羽打ち枯らしたような修造だが、どこかに収入源があるらしい。時々ふらりと出かけては、
「お世話になってるんだから……生活費の足しにしてくれよ」
帰ってくるなり、五万、十万という金を亜紀美に渡す。
世間並み以上の給料をもらい、妻も働いているとはいえ、二十代で都内に一軒家を構えるべく厳しいローンを組んでしまった私たち夫婦にとって、その金は暮らしを彩る貴重な資金となっていった。
「今度の週末、三人で温泉にでも行こうじゃないか」
修造の唐突な提案。私の脳裏には再び警鐘が鳴ったものの、家を建てて以来、旅行らしい旅行もさせていなかった亜紀美に否応のあろうはずがない。
「わあ、素敵。露天のお風呂があるところがいいなあ」
少女のように喜ぶ妻の姿に、私は言葉を呑み込むしかなかった。
修造が予約していたのは元箱根の高級旅館。一定ランク以上の部屋にそれぞれ露天風呂が付いている。大人三人で泊まれば、まず十万はくだるまい。
「謙一郎も、たまには亜紀美さんに贅沢をさせてやらんとな」
沼津まで新幹線で来ると、修造はタクシーをチャーターした。寿司を食い、美術館を巡り、宿に到着するとたっぷり心づけを弾んだ。
「息子さんご夫婦と水入らずで旅行なんて、羨ましいですなあ」
運転手の笑顔に「嬉しいことを言ってくれるねえ」と助手席で相好を崩す修造の姿に、私は不思議な充足感を覚えていた。
(父さんや母さんと、こんな旅行がしたかった)
息子の妻と会うこともなく逝った両親。叶えられなかった夢の残像を、私は修造に重ね合わせていたのかもしれない。
「せっかくですから、叔父さまもご一緒に入りましょうよ」
「……!……おまえ、何を言ってるんだ」
「あら、こんな休日をプレゼントしてくださったんですもの、お背中くらい流させていただかないと私、気がすまないわ」
亜紀美の提案を強く否定できないのは、確かに一理あると認めざるを得なかったからだ。
「いやあ、それは……いいのかい?」
好々爺を装う修造。だが、その口調には陰火のごとき好色が宿っている。
結局、私たちは三人で混浴することになった。
まず私と修造が湯舟に浸かる。肉体労働者のようにがっしりとした胸板から腹部の筋肉。その下で黒々とした逸物がゆらゆらと揺れている。かつて母を支配した肉体。
「あの頃、二人で風呂に入ったことなんかなかったよなあ、謙一郎」
「そうですね」
当たり前だ。修造は母の男であって、私の父ではなかったのだから。
「……失礼します……」
我々が洗い場へ移動したのを見計らい、亜紀美が格子戸を開いて入ってきた。もちろん、全裸ではない。バスタオルをきっちり身体に巻いてはいるが、それがかえって艶かしさを醸し出していた。
「あんまり見ないで……恥ずかしいわ」
瑞々しい豊かな乳房は両側から持ち上げられて妖しげな谷間を形づくっている。股間が見えるか見えないかという短い丈から伸びた、むっちりとした白い脚。
「……ほう……」
嘆息するように告げる修造。湯煙で判然とはしないが、眼の中の賎しい光が強まった気がした。
「さあ、叔父さま。あちらを向いてくださいな」
背を向けた叔父の後ろで膝をつき、亜紀美は奉仕を始めた。細い指で立てた泡を手のひらで塗りたくっていく。
「まあ……叔父さま……ずいぶん……」
「うん? 何だい、亜紀美さん」
「いえ……その……逞しいんですね」
妻が男の裸に触れ、その肉体を賞賛している。圧倒されている。私の胸に強烈な嫉妬が湧き起こった。
「亜紀美さんのような若い美人に背中を流してもらえるなんて……」
「……長生きはするもんだ、ですか? それは言わない約束でしょう」
アップにまとめた髪がほつれ、うなじに濡れ髪となってへばりつく。かすかに紅潮し、ほんのり汗ばんだ卵形の顔。夫の私から見ても扇情的だった。
そのとき背中の向こうで、修造はどんな表情をしていたのだろうか。
- 2014/09/08(月) 15:27:28|
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◆第八章 甘美な悪夢
夜は十畳のメインルームに私たち夫婦、襖を隔てた隣室の六畳間に修造が床を取った。
「それでは叔父さま。おやすみなさい」
冗談のつもりらしい、亜紀美は浴衣姿で三つ指を突いて挨拶をしている。私はといえば、横たわった布団で押し寄せる睡魔と格闘していた。
(いくら修造でも、今夜何かを仕掛けてくることはないだろう)
言い聞かせようとする半面、
(夫が寝入ったかたわらで妻に迫る。よく聞く話じゃないか)
だが、久しぶりの旅がもたらす疲労と、修造に勧められて杯を重ねた結果の酔いが勝った。私は妻の身を案じつつ、深い眠りの底へ落ちていった。
夢の中で、亜紀美が修造に犯されていた。
旅館の布団で仰向けに横たわる脚の間に修造の身体が割り込み、激しく突き上げている。思うさま開かれた浴衣からこぼれる美乳が毛むくじゃらの指でひしゃげられ、薄桃色の突起を厚い舌で舐られていた。
(ああ……亜紀美)
だが、力づくで凌辱されているのでないことは明らかだ。しなやかな脚は修造の尻に絡みつき、腰は挿入のリズムに合わせて前後動している。両手で男の頭部を慈しむように撫でる様は、愛する男と交わっている証だ。
「ああ……叔父さま! 素敵よ! もっと、亜紀美を愛して!」
ぽってりと開いた肉感的な唇から流れ出る嬌声。その合間にピチャピチャと湿った音が聞こえてくる。
「うっ! うっ! すごい……おかしくなっちゃう!」
苦しげに寄せられた眉根。首筋を伝う汗。やがて律動が速まった。
「……いくわ……亜紀美……いっぱいください……ああ、いくっ!」
目が覚めた。隣に亜紀美は……いない。
「おはよう、あなた。うなされてたけど、大丈夫?」
頭を起こすと、降り注ぐ朝日の中、窓際に置かれた籐椅子に向かい合って座る妻と修造が見えた。間のテーブルには湯気の立つ茶碗が置かれている。
「謙一郎は寝坊介だな。俺たちはとっくに起きて、もうひとっ風呂浴びたぞ」
何かに満足したように、ゆったりと修造が笑う。
(俺たち? ひとっ風呂? 二人で入ったのか?)
跳ね起きようとした私は、股間が痛いほど屹立していることに気づいた。
(俺は……亜紀美が他の男に抱かれる夢を見て……俺は……)
「どうしたの? あなたも起きて、お風呂いただいたら?」
今にも弾けてしまいそうなペニスを手で押さえながら、私は布団の中で呆然としていた。
- 2014/09/08(月) 15:28:16|
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◆第九章 忌まわしい記憶<B>
母・涼子は子供の私から見ても美しいひとだった。
色白のうりざね顔に黒目がちの切れ長な双眸。小ぶりながらも肉感的に盛り上がった唇。ほっそりとしたノーブルな風情に似合わず、誇らしげに張り出した胸のふくらみ。
「謙一郎君のお母さんって、女優さんみたいだね」
友達の羨ましそうな声を聞くたび、誇らしくなったものだった。
三十半ばの女ざかりを迎えて美貌に奥行きを加えた母と醜男の修造では、いかにも釣り合いが取れない。それでも、新聞配達のアルバイト代程度しか稼げない十四歳の私は言葉を呑むしかなかった。
母と私の生活費は、修造によって賄われていた。その対価として母はその身体を提供し、奉仕に努める。それはまさに囲い物としての“お手当て”だった。
修造は独身なのだから、正式に籍を入れることも可能だったはずだ。だが、その気配はなかった。
「あの謙介兄さんの奥さんだったひとと再婚するだなんて、畏れ多くてできないよ」
殊勝な言葉。そこに誠意はなかった。修造はただ、高嶺の華だった美しき兄嫁の肉体を蹂躙し、私娼に貶めることで邪な満足感に酔いたかっただけなのだろう。
「謙一郎、今日は修造叔父さまがいらっしゃるの。だから……わかっているわね」
六畳と三畳間だけのアパート。叔父がくる晩は二人の邪魔にならないよう、私は外へ出された。
「ああ。わかってるよ、母さん」
転校したばかりで、泊まりに行けるほど親しい友人などいない。終夜営業のファミレスでぼんやりと朝を待つしかない私だった。
一度、暇つぶしのための本を忘れ、取りに戻ったことがあった。大人の男と女が二人きりで何をするのか知らない歳ではなかったものの、それは深夜になってからのことだと思っていた。
「ひいっ……ああっ……」
薄いドア越しにもれてくる生々しい声に、私の足は竦んでしまった。
「もっと……もっと虐めて……ああ……修造さま……」
もはや何が行なわれているかは明確だ。だが、私は金縛りにあったように動けなかった。
「ふふふ……あの貞淑そのものだった義姉さんが、こんな好き者だったとはな」
「義姉さんだなんて……涼子と呼んでください……涼子と……ああ」
「涼子、ほら四つん這いになって、おま×こを見せろよ」
「……はい……どうぞご覧になって……涼子のいやらしいおま×こ……」
あの理知的で誇り高い母とは思えぬ、淫猥で卑屈な嬌声。たまらない嫌悪を覚える一方で、私は激しく興奮していた。
(母さん……母さん……母さん……)
ベニヤ板造りの扉が開いたのは、廊下でパンツに手を突っ込んだ私が、まさに射精しようとする瞬間だった。
「やっぱり、おまえか」
全裸で仁王立ちする修造。股間では禍々しい巨根がぬらぬらと光を放っている。
「おふくろのセックスを盗み聞きしてマスかいてやがる。とんでもねえ変態野郎だぜ。ひゃははははは」
張力を失った陰茎を握り締めたまま、私は屈辱に震えていた。
- 2014/09/08(月) 15:30:06|
- 侵略・流石川
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◆第十章 疎外される夫
温泉旅行以来、亜紀美はますます修造との距離を縮めたようだった。
「いやだわ、叔父さまったら。うふふ」
今日も晩酌をしながら、修造が口にするジョークに笑い転げている。二対二の形に椅子を配した我が家のリビング。当初は私と亜紀美が並び、対面に修造が位置していたが、このところ妻は叔父の隣に座るようになった。
「いや、それで私は言ってやったんだ。『おい、俺の女から離れろ!』ってね」
「すごい。それで、どうなったんですの?」
すっかり惹きこまれている。確かに修造は話題が豊富だった。放蕩の限りを尽くしていた少年期のエピソードからフィリピンでの武勇伝まで、面白おかしく語って聞かせる。
いかにも眉唾な物語もあるものの、筋者との話のつけ方、警察の追及をかわす方法、留置場での他房者とのやりとりなど、知らなければ語れないような真実味のあるネタも多かった。
「やっぱり男と女はね、互いの身体が馴染んでくる頃が一番幸せなんだよ」
酒が進むにつれ、下ネタが飛び出してくるのも常だった。
「謙一郎と結婚して二年か。亜紀美さんもあっちのほうがズンと良くなってきた頃だろう?」
「ううん……どうかしら。しなければしないで大丈夫って感じだし……」
当初は恥じらいを見せていただけの妻が、最近では大胆に切り返したりする。
「そりゃあ、いかんな。謙一郎、努力が足りんぞ。ではひとつ、私が手ほどきをしてしんぜようか」
「まあ。そんなこと言って、本気にしちゃいますよ、私」
まるでナイトクラブのホステスと客だ。この家の主でありながら、つんぼ桟敷に置かれたような疎外感を味わうこともしばしばだった。
夏が終わりを告げる頃から、私の仕事が忙しくなり始めた。ウィンターシーズンに向けたスキーやスノボの新製品がリリースの時節を迎えたためだ。帰宅時間は次第に遅くなり、早くて十一時、午前様になることも珍しくなくなった。
(今宵も亜紀美は、酌婦のように修造に侍っているのか)
二人きりの時間が増えれば、それだけ過ちの起きる危険性も高まってしまう。妻を信じようとする一方で、間男の跳梁をみすみす看過するコキュのような気分になる。
「謙一郎も今が大事な時期だろう。仕事に打ち込め」
「大丈夫よ。叔父さまがいてくださるから寂しくないわ」
いつも一人で私の帰りを待っていてくれた亜紀美。通常ならば、妻の孤独を癒す相手のできたことを歓迎べきだろう。だが、その相手が修造だと話は違う。
「亜紀美は俺が可愛がってやるからな」
「もうあなたなんかいらないわ」
そう受け取ってしまうのだ。深まる修造と妻の絆。もはや私は無用の存在と化しているのか。
- 2014/09/08(月) 15:30:57|
- 侵略・流石川
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◆第十一章 不在の三日間
十月初旬。冬季商品のキャンペーンが全国的にスタートした。私も関西地区担当として、大阪・京都へそれぞれ一泊の出張をしなければならない。
誰かに代わってもらうことも不可能ではなかった。しかし、この件は主任クラスが中心となるのが通例となっている。若い私には、ただでさえ社内の風当たりも強い。才覚より行動力で評価を得てきた自分だけが外れるわけにはいかなかった。
「二泊三日か。ふふふ。まあ、留守中のことは俺に任せておけ」
意味ありげな修造の目に送られて、私は家を出た。
朝からイベントの準備と運営に忙殺された。夜には販売代理店の接待。疲労困憊でホテルに辿り着くのは深夜だ。
(今頃、亜紀美があいつに抱かれているとしたら……)
温泉宿で見た夢が生々しく甦る。汗みずくで修造の背中にしがみつく亜紀美。
(電話すればいい。何事もなかったことがわかるはずだ)
だが、時計の針は午前二時を回っている。亜紀美は明日も仕事だ。いくら夫婦の間でも常識的とは言いがたいだろう。
(もし何もなかったとしたら、叔父との関係を邪推する嫉妬深い夫になってしまう。そんなみっともないことなどできるもんか)
こんな時でも私は、過剰な自意識が先に立ってしまうのだ。
(しかし、もしも本当にそんなことになっているなら……)
焦燥と自尊心の葛藤。とりあえず妻宛てにメールを送ることにした。
「本日の業務やっと終了。そっちは? 叔父さんと楽しくやってるか?」
返信はなかった。
三日目。ようやく仕事を終え、東京駅へ到着した私は飛ぶように帰宅した。
「おかえりなさい。お疲れさま」
亜紀美は普段どおりだった。家の中にしては少し化粧が濃い気もするが、三日ぶりに会う夫のために美しく整えてくれたと考えれば不思議はない。
「三日か。過ぎてしまえば、あっという間だったな」
修造が含んだように笑う。不快な余韻。だが、ここで疑惑を芽生えさせてしまえば、やつの思うつぼに嵌る。亜紀美がこの様子なら大丈夫だ。
「やっぱり我が家はいいなあ。腹が減っているんだ。飯にしてくれ」
夕餉の席。小さな変化があった。このところ叔父の横ばかりだった亜紀美が、久しぶりに私の隣に座ったのである。
(留守にしたお蔭で、夫を求める気持ちが高まったんだろう。悪くない気分だ)
そのことの意味を、私はもう少し考えるべきだったのかもしれない。
- 2014/09/08(月) 15:31:42|
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◆第十二章 ある告白掲示板への投稿<1>
385 無題 投稿者:匿名 投稿日:○月×日
都内に住む二十五歳の人妻です。
主人の叔父と身体の関係を持ってしまいました。
叔父とは最近、同居したばかりです。とても気さくな良い人で、私は心を許していました。
ですから主人が出張に出た夜、突然羽交い絞めにされたときも冗談だと思っていました。
『寂しいんだよ。哀れな年寄りだと思ってくれるなら、ね?』
絡みつくように抱き寄せられ、頬の辺りを舐められました。思いのほか力が強く、逃れることができません。
『叔父さま、呑みすぎたのね。今なら笑って許してあげますから』
『一度でいいんだ。ね、いいだろう?』
『いい加減になさらないと、いくら何でも怒りますよ、私』
セーターの中でブラジャーを押し上げられ、ごつごつした指で乳房を揉みしだかれたとき、これはもう戯れではないと思いました。
『もう……やめてください……だめ……やめてったら!』
思わず突き飛ばす格好になってしまいました。不意を突かれた叔父はよろけたあげく、どすんと尻餅をつきました。
『いててて』
『あ……ごめんなさい……でも叔父さまが……』
ゆっくりと立ち上がったとき、温厚そのものだった目つきが一変していました。
『……ったく、下手に出てりゃあ付け上がりやがって』
凄みを効かせた声は、先ほどまでとは別人のようです。次の瞬間、顔に衝撃が走り、私は弾き飛ばされました。何が起こったのかわかりません。焼けるような頬の感覚で、平手打ちをされたのだと知りました。
人に本気でぶたれるなど、生まれて初めてのことです。あまりのショックに頭の芯が痺れたようになりました。
『たまには正攻法で口説いてみようと思ったが……。やっぱり駄目だな、そんなんじゃあ』
腕をつかまれ引きずり起こされたところを、再び張り倒されました。同じように三発目、四発目、そして五発目。感情のない冷酷な目のまま、叔父は私を殴り続けます。
(……殺されてしまう……)
あまりの恐怖に、全身が冷たくなっていきました。
『おまえは俺の女になるんだ。わかったな?』
私はガクガクと頷いていました。男の力をこれほど圧倒的に思い知らされたことはありませんでした。
『声に出して言え』
触れそうな距離まで顔を近づけてきます。熱くて生臭い息を吹きかけられました。
『……そんな……』
叔父の目の光がさらにすっと細くなり、右手がゆっくりと平手打ちの格好になっていきます。
『言いますからやめて!……叔父さまの……女になります……』
『それでいい。俺は昔から従順な女が好きなんだ。覚えておけ』
意識がすっと遠のいていきました。
気がつくと寝室のベッドの上でした。衣類はすっかり剥がれていて、最後に残ったパンティを引きちぎられるところでした。
『くくく。いよいよご開帳だ』
脚を大きく開かされました。その部分にひんやりとした外気と強い視線を感じます。
『こいつはまた綺麗な××××だな。あの莫迦、あんまり使い込んでいないらしい』
豹変した叔父、殴られた衝撃、耳元で囁かれる卑猥な言葉。異常なことが一度に起こったせいか、犯されようとしているのに、どこか現実味がないような不思議な感じでした。
『さあ、甥の嫁とつながる感動の瞬間だ。俺の目に狂いのあるはずはねえが、どんな具合か愉しみだぜ』
濃い体毛に覆われた獣のような叔父の身体が、覆い被さってきました。
- 2014/09/08(月) 15:32:35|
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◆第十三章 ある告白掲示板への投稿<2>
386 無題 投稿者:匿名 投稿日:○月×日
がっしりと組み敷かれた私の肌を、ぼってりした叔父の舌が嬲っていきます。嫌悪感よりも恐怖が、私を硬直させていました。
『たまらねえパイオツだぜ。この助平な身体が男を誘うんだよ』
乳房を弄びながら、叔父は自分のものを私に握らせました。
『どうだ、俺のチンポは?』
何と答えればいいのでしょうか。でも、黙っていればまた殴られてしまう。
『……お……大きいです……』
『それだけか?』
『……太くて……何か……デコボコしてます……』
『真珠とシリコンをタップリ仕込んであるからな。俺はコイツ一本で世の中を渡ってきたようなもんだ』
『………………』
『おい、ただ触ってるだけでどうすんだよ!?』
『……すみません……あの……どうすれば?』
『そんなことも教えてねえのか。しょうがねえ婿殿だな。手コキだよ』
『?……ごめんなさい……わからないんです』
『手を××××にしたつもりで咥え込んで、しごきをくれてみろ』
よく理解できませんが、何とかそれらしく指を動かしてみました。
『ふん、下手糞もいいところだな。これから俺が仕込んでやるが、まあ、そのぎこちない感じも悪かあない』
裸で叔父に抱かれ、男性の部分をしごいているなんて……。この情況がまだ信じられません。そうしている間にも、そこはさらに大きく漲ってきました。
長い時間が過ぎたように思います。淫らで惨めな行為にも関わらず、いつしか私の中に、
(……これを……もっと大きくしたい……)
理不尽な気持ちが芽生えていました。強く握ったり、優しくさすったり、命じられるままに夢中で奉仕している自分がいます。
(……いけないことなのに……私……どうしちゃったの?)
不意に叔父が腰を引きました。
『おっと、あぶねえ。出ちまうところだった。こんなはずはねえんだが、しばらくご無沙汰だったからな』
にやりと独りごちると、叔父は挿入の体制を取りました。
『すまねえが前戯は省略だ。××××をたっぷりねぶってやるのはこの次にして、ぶち込むぜ。力を抜きな、裂けちまうからよ』
そして、叔父がメリメリという感じで入ってきました。とてつもない大きさにも関わらず、痛みを感じないのが不思議でした。
『ううむ……こいつは……すげえぜ』
ゆっくり最奥まで到達すると、叔父は動きを止めました。息もできないほどの圧迫感です。
(……とうとう……犯されてしまった……)
叔父の危険さを再三警告していた夫。その言葉を信じてさえいれば……。でも、もう遅いのです。
『ふう、ここまで極上モンとはな。嬉しい誤算ってやつだ』
いやらしい笑みを浮かべた叔父が抽送を始めました。
(……感じてはダメ。あのひとに申し訳ない……)
せめてもの抵抗として、歯を食いしばって耐えようとしました。
『ふふふ、操を立てようってのか。面白れえ、根比べといこうじゃねえか。どこまで頑張れるかな。時間はたっぷりあるんだ』
ただ暴力的に深く突き上げるだけでなく、浅く緩やかに絡みつけたり、時にはひねりを加えて抉ったり……次々と繰り出される変幻自在な責めに、子宮の奥から甘い感覚が湧き上がってくるのをどうしようもできません。
『……あん……』
堪えきれず声が出てしまいました。
『おいおい。もう本丸陥落かよ。ちょいと早すぎやしねえか?』
律動を繰り返しながら、叔父は私が官能に負けていく様子を観察しています。
- 2014/09/08(月) 15:33:23|
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◆第十四章 ある告白掲示板への投稿<3>
388 無題 投稿者:匿名 投稿日:○月×日
一度堰を切ってしまうと、もう歯止めは効きません。今までに味わったことのない快感に引きずり込まれていきました。
『ふふふ。××××が嬉しそうにヌルヌルと締め付けてくるぜ』
正常位だというのに、叔父のそれは確実に女の最奥を突き上げてきます。
『うっ!うんっ!……あああっ!……これ以上は……あんっ!……おかしくなっちゃう!……ひいっ!』
『遠慮せずにおかしくなれよ。ほれっ、ほれっ!』
ついに、その瞬間が訪れてしまいました。
『もう……ダメ!……いやあっ!』
電流があの部分から脳天へと走り抜けました。意識が遠のき、手足が激しく痙攣します。
『気をやったか。思ったとおり相当のタマだな』
波が引かないうちに、再び叔父が動き始めました。
『はぁはぁ……あっ!……また?……はぁはぁ……お願い……少し……休ませて……くださいっ……』
『何を言ってる。俺はまだ一回も終わってないぞ』
確かに胎内のものは、ずっと大きな状態を保っています。深くつながったまま、両脚を肩に担ぎ上げられました。
『た……助けて……はぁんっ!……こ……壊れちゃう……』
『こんなんでどうにかなる身体なもんか。根っからの淫乱め。おら、早く俺をイカせねえか』
『ひっ!……早く……満足して……ああっ!……また!……うあぁっ!……イキます!……』
その部分が反り返るように収縮するのがわかりました。
『うむ、こいつはたまらん。よし、出すぞ』
その言葉が私を現実に引き戻しました。
『ダメ!……ダメです……中には出さないで!』
『危険日か。構やしねえ。ぼちぼちガキが欲しいって言ってたじゃねえか』
何ということでしょう。叔父の子……夫の従兄弟……を妊娠させられるなんて。
『そんな恐ろしいことっ!……お願いです……それだけは……赦してえっ!』
全身でどれほど抗おうとも、巧みに押さえ込まれた身体はビクともしません。
『いくぞ。うおおおっ! 孕め、孕むんだ!』
子宮に熱いものが炸裂しました。
夫が不在の三日間。仕事へ行くことも許されず、私は叔父に凌辱され続けました。
遮光カーテンの引かれた室内には、昼夜の感覚がありません。いつ終わるとも知れない果てしない恍惚の時間の中で、私はのたうち回りました。
『おっと。ザーメンが溢れ出てきやがった。ご懐妊は確実だぜ。名前を考えとかなきゃな』
そんな言葉を投げられても、もう何も感じなくなりました。
『今度は後ろからだ。おら、さっさと四つん這いになって誘え』
『はい……叔父さま……早く串刺しにしてください……お願いします』
腰をくねらせて媚びる浅ましい私。でも、そんなことはどうでもいいのです。叔父のものが中にいる状態が長過ぎて、抜かれてしまうと凄まじい禁断症状に襲われます。
『早く……叔父さまったら……意地悪しないで……早くう!』
『かかかか。可愛い女になったじゃねえか』
待ち焦がれた挿入に、思わずよだれが垂れ落ちます。全身が性器になったような快楽に翻弄されながら、恥ずかしい言葉を口走る私でした。
『すごい……××××がいいのッ!……もっと……もっとしてッ!』
主人が帰ってくる二時間前まで、私たちは交わりを重ねていました。
『幸せな結婚生活を失いたくなかったら……わかってるな? 俺も可愛い甥を悲しませたくはねえんだ』
叔父はあぐらをかいた格好で私を貫きながら告げました。
『……はい』
頷いたとき、私は本当の意味で共犯者になってしまったのでした。
- 2014/09/08(月) 15:34:32|
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◆第十五章 忍び寄る崩壊
何かが変わり始めていた。
表面的には以前どおり幸せな家庭のように思える。
『おはよう、あなた。はい、新聞』
『行ってらっしゃい。帰りは何時頃になるの?』
『お帰りなさい。お風呂先にする? 今日のお夕飯は、あなたの好きな天ぷらよ』
『おやすみなさい。明日も頑張ってね。愛してるわ』
だが、立派な建築物が目に見えぬ礎の部分でシロアリに食い荒らされていくように、ひたひたと侵蝕されていく気配がする。
一つ一つは取るに足らない些細なことでも、積み重なれば疑惑の証明となりうる。
あの出張以来、亜紀美と叔父の間には一時期のようなベッタリした雰囲気がなくなった。温泉へ行く前の適度な距離感に戻った感じである。
『なあ、叔父さんと何かあったのか?』
二人きりのときに尋ねてみる。
『……別に何もないけど……どうして?』
『いや。何となく、よそよそしくなったような気がしてね』
『もともとあなたの叔父さんで、私と血のつながりがあるわけじゃないんだもの。節度を持ったほうがいいと思い直しただけよ』
亜紀美の言葉は真実なのだろうか。
家の内外がどこか荒んだ雰囲気になったのも気がかりだ。
決して極端な綺麗好きではなかった亜紀美だが、室内はそれなりに整理整頓され、掃除が行き届いていた。今では出した物が出しっぱなし、うっすらと埃が積もっている。
昨日は、ベランダで植木が枯れていた。花をこよなく愛し、丹精込めて手入れをしていた妻だったのに……。
微妙な変化は妻自身にも表われ出した。
いつも気だるく疲れた風情になり、目つきが暗くなったような気がする。単にやつれたというより、鋭敏に研ぎ澄まされたという印象だ。
さらに化粧である。アイラインやルージュの種類なのかメイクの方法なのか、男の私には何がどう違ったのかうまく表現できないのだが、雰囲気が確実に変わった。
美しくはあるのだが、何というか全体として安っぽい女になったように思えてならない。
かつて同じような変貌を見せた女性を私は知っていた。
(……母さん……)
父の死後、義弟の女となり、その歓心を得るためだけに生きるようになった母・涼子。
妻が当時の彼女と似てきたということが何を意味するのか。ある方向へ凝固しようとする思考を、自衛本能が妨げていた。
- 2014/09/08(月) 15:35:34|
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◆第十六章 忌まわしい記憶<C>
母・涼子と修造の醜悪な交合。強いてそれを男と女の関係と呼ぶのなら、その蜜月は短かったのではないか。
私たちが叔父の庇護の下に入って三ヵ月もすると、母は外泊するようになった。
「今日、お母さんは戻りません。これで何か食べてください。ごめんね」
私が中学校から帰ると、走り書きと何がしかの金が置いてある。教養と知性を感じさせる流麗な文字が余計に哀しかった。
それでも母が幸福だったのならいい。しかし、この頃から母は見る見る憔悴していった。一度寝間着の襟元から覗いた肌には、青黒い痣がいくつも刻まれていた。
見知らぬ男たちが入れ替わり立ち代わりアパートを訪れるようになったのは、さらに半年が経過した頃だったろうか。
「へへえ。確かにそそられる女だぜ」
世間知らずの少年でも、彼らが真っ当な世界の住人でないことくらいは理解できた。
彼らは欲望を取り繕おうとすることもなく、下卑た目で母を視姦し、淫猥な想像を実行に移すべく外出を急き立てた。
(……母さんを守らなければ……)
しかし、恐怖に竦んで動けない。すっかり小さくなった背中が男に従って出かけていくのを黙って見送るしかなかった。
「心配しないで。お母さんは大丈夫だから……」
借金の肩代わりだったのか、それとも置屋の親爺のごとく斡旋した男たちから金を取っていたのかはわからない。しかし、叔父が母を愛の対象として扱っていないことだけは明らかだった。
いつの間にか母は煙草を覚え、酒に溺れるようになっていた。
気高く、たおやかだった母を弄ぶ修造。私の憎悪は凝縮した。
(いつか……殺してやる……)
だが、その一方で日に日に貶められていく美しき母に倒錯した性欲を覚えてしまう自分がいた。
(今頃、母さんはあいつらに嬲られている。恥ずかしいことをいっぱいされてるんだ)
友人たちがアイドルやAV女優、あるいは同級の美少女たちを思い浮かべて自慰に耽っていた頃、私は箪笥から引っ張り出した母の下着を顔に押し当てながら白濁の精をしぶかせていた。
私の性は、きわめて歪んだ形で目覚めてしまったのである。
- 2014/09/08(月) 15:36:29|
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◆第十七章 ある告白掲示板への投稿<4>
421 無題 投稿者:匿名 投稿日:○月×日
女は一度犯されると弱いものですね……。
あの三日間からというもの、私は叔父の言いなりの女になりました。
『さあてと。今日も元気に××××しようぜ、なあ』
『お願いします、もうこれきりにして……。叔父さまとこんなこと、つらいんです』
でも抱きすくめられ、愛撫され、挿入されると歓喜の渦に飲み込まれてしまう。目覚めさせられてしまった淫らな身体が恨めしくてなりません。
最初のうちは私が仕事から戻り、夫が帰宅するまでの間が情事にあてられました。
『遅いじゃねえか、待ちかねたぜ。ほれ、まずはご挨拶してもらおうか』
帰るやいなや、玄関先で靴を履いたまま口でさせられました。
(……また、この肉の塊で狂わせられるのね……)
叔父の身体にすっかり馴染んでしまった女の部分が潤う頃、場所を移して交わるのです。夫婦のベッドはもちろん、和室でもリビングでも穢されました。
『どうも慌しくていけねえな。二時間や三時間じゃあ、やった気がしねえ』
やがて、仕事を休まされるようになり、とうとう強制的に辞めさせられました。
『おまえの給料分くらい俺が稼いできてやるから安心しろ。亭主には何も言わねえで、これまで通り働いてるふりをしてりゃあいい』
叔父も主人に知られたくないと考えてくれていることだけが、救いといえば救いでした。
とにかく、こうして夫が不在の時間すべてが不倫の場となりました。恐ろしいほどの精力で、叔父は私を貪り尽くします。
『行ってらっしゃい。帰りは何時頃になるの?』
主人を送り出してすぐ服を脱がされ、夜までそのままの姿で過ごす毎日です。
一緒にお風呂にも入ります。もうさんざん交わった間柄だし、今の今まで裸でいたというのに、叔父は必ず私にバスタオルを巻くよう指図するのです。
『三人で温泉行って混浴したときの再現だ。あのとき、必ずおまえをものにしてやると心に誓ったんだからな』
手で泡立てた石鹸で背中を流すところまでは同じです。違うのはその後で身体の隅々……恥ずかしいところまで洗わなければならないことです。
『ソープではこれをマットプレイって言うんだ』
洗い場に仰向けになった叔父の上に、泡を塗りたくった私の身体を滑らせていきます。
『んんんっ、うまいじゃねえか。そこは乳首を使って念入りにやれ』
勝手のわからない私は、言われるがままにおっぱいを寄せて懸命に努めます。
『ようし。それじゃあ石鹸を流して、今度は舐めろ。愛情を込めてな』
せっかく洗った身体が、そんなことをしたら汚れてしまうのに……。男の人って本当にわからないものです。
いずれにしても逆らうことなど許されません。
『ううむ、いいぞ。唾をたっぷり塗しながら、ゆっくり下のほうにな』
顔から耳へ、首筋から胸、そして腹部へ。唇と舌で奉仕しながらだんだんと下へいくと、岩のように大きくなった部分に辿り着きます。
『叔父さま……すごい……またこんなに逞しくなられて……どうかまた、私の身体で鎮めてください』
命じられる前に、自分から奴隷のような言葉を口にしてしまうのでした。
- 2014/09/08(月) 15:37:44|
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◆第十八章 近隣との断層
わが家は杉並区の外れにある。
土地柄、住民は一定以上の収入がある富裕層が多く、都会にありがちなトラブルや没交渉とは無縁の界隈。ここが終の住処だという意識も手伝い、私なりに近隣との付き合いには気を遣ってきた。
「おはようございます。今日もいい天気ですね」
顔を見れば挨拶を交わす程度ではあるが、まずは良好な人間関係を築けていたと思う。
ところが最近、住民たちの態度が急によそよそしくなった。私が近づくと会話がやむ。声をかけても返事がない。
当初、私は修造が近所に対して横柄な言葉や態度を見せたのではないかと考えた。あの男がわが家に入り込んできた際、向こう三軒両隣には、
「このたび、叔父と同居することになりまして……。どうぞよろしくお願いします」
挨拶して回ったのだが、修造のことだ、無礼な振る舞いに及んだのかもしれない。
だがある時、私をやり過ごした三人の主婦が囁く声が耳に届いた。
「ご主人はご存知なのかしら?」
「まさか……だって……ねえ?」
原因不明の村八分に苛立っていた私は、すぐさま踵を取って返した。
「すみませんが、何のことでしょう?」
「あっ!……いえ……何でも」
この間まで親しみを示してくれていた女たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げ去る。
(あの人たちは何を知っている? 俺の家で何が起こってるんだ!)
誰もいなくなった路上で、私は立ち竦んでいた。
彼女たちの顔に表われた驚き、困惑。それはさておき、続いて浮かんだ憐憫とも思える眼差しはどういうことなのだ。
最近は晩酌を終えるとなぜか無性に眠くなる。朝までまったく目覚めずに寝るのだが、起きたときも頭がすっきりしない感じだ。
疲れが溜まっているせいだろうか。あるいは私もそういう歳になったということなのか。
- 2014/09/08(月) 15:38:41|
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◆第十九章 ある告白掲示板への投稿<5>
558 無題 投稿者:匿名 投稿日:○月×日
主人の叔父と関係を持つようになって二ヵ月が過ぎました。
このところ彼は、普通のセックス……私にとっては初めから普通ではありませんが……では満足してくれません。
『今日は寿司でも取るか』
叔父が告げたのは、夫を送り出した後、その日最初の性交を終えた時でした。性欲同様、彼は食欲も旺盛で、いつもは裸のままの私に何を作らせるのです。
『特上のにぎりを二人前、ひとつは特盛でな。急いでくれ』
注文を終え、ビールでも用意しようとした私を叔父が抱き寄せました。
『あっ……な……何を?』
『決まってるじゃねえか。第二回戦だよ』
『そんな……お寿司屋さんがきてしまいます』
『うるせえ! 俺はやりたい時にやるんだ』
三十分後。玄関のチャイムが鳴った時、私は深々と貫かれている最中でした。
『お、寿司がきたぞ。おまえ、これ着て受け取ってこい』
投げつけられたのは、叔父のタンクトップです。
『これで……ひどい……他にも着る物をください』
また、何度か殴られました。仕方なく身につけると、大きいサイズだけに股間までは何とか隠れますが、大きく開いた襟ぐりから乳房が見えてしまいます。
『どうも毎度……!……お……奥さん……』
寿司屋のご主人は、全裸同然の私を見て絶句しました。
『ごめんなさい……こんな格好で……』
『何か……あったんですか?』
ここへ越してきた頃、和食好きの夫とあちこちを食べ歩き、味と主の人柄が気に入って付き合ってきたお店です。
『……いえ……何でもないんです……』
『でも……』
心配そうに顔を覗き込んでくるお寿司屋さん。それでいて目はいやらしい光を浮かべ、ズボンの股間のところが大きく膨らんでいました。
『いいから……早くお寿司置いていって!』
(……こんな姿を見られて……もうお店へは行けない……)
(……優しそうな人だと思ってたのに……男なんて皆同じなの?)
相反する気持ちが同時に去来しました。
『おい、いつまで待たせんだ。早く持ってこい!』
他の人に私の恥ずかしい姿を見られることに、叔父は興奮を覚えるようです。
『スケベ心丸出しの目で見てたな。おまえとやりたいってよ』
お寿司を口移しで食べさせられながら、いつも以上の激しさで凌辱されました。
先日は、裸でベランダに連れ出され、フェンスに手をついたまま背後から犯されました。
『ゆるしてください。誰かに見られてしまいます』
『それがいいんじゃねえか。おら、気分を出せよ』
巧みに突き上げられ、冬の寒風に吹かれてだというのに、やがて全身が汗にまみれてきました。
『あうっ!……んんっ!……叔父さま!……いいわっ!……もっと突いて!』
白く弾ける視界の隅で、お隣の吉田さんの奥さんが唖然としてこちらを見ていました。
家庭は壊さない。それが暗黙の了解だったはずです。こんなことを繰り返していたら、ここには住めなくなり、私たちは離婚するしかありません。
『はん? そんなこと約束した覚えはないぜ』
問い質した私を、叔父はせせら笑いました。
『どうして……私をこんな女にしただけじゃ足りないんですか?』
『まるっきり俺だけのものにしたくなったんだよ、おまえをな』
私の人生でありながら、自分では決めることができない。落ちた陥穽の深さをあらためて思い知らされました。
最近、主人のビールに睡眠薬を混ぜています。夫が眠りに落ちたのを見届けると、私はベッドを抜け出して叔父の寝床へ行くのです。
明け方までさんざん弄ばれるために……。
- 2014/09/08(月) 15:41:28|
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◆第二十章 忌まわしい記憶<D>
私が高校に進学した頃から、母の涼子は伏せりがちになった。
「母さんは病気なんです。お願いします。どうか大切にしてあげてください」
修造に訴えても、まるで聞き入れてはもらえなかった。女として役立たずになった母を敬遠するように訪れる回数は間遠になり、やがて途絶えた。
生活費は滞り、満足な蓄えもない。病院に掛かることすらできなかった。
「ごめんね、謙一郎。お母さんがもう少ししっかりしていれば……」
こけた頬に涙を流す姿が痛々しく、だが当時の私にはただ傍にいてやる以上のことはできなかった。
半年後、母は死んだ。享年三十七歳。直接の死因は肺炎だったが、その他にも各器官を相当蝕まれていたらしい。
「お母さんはどうにも……ひどい暮らしをしていたようだね」
遺体を検分した医師によると、その身体には幾度にもわたる堕胎の形跡があり、加えて急激な過度の飲酒による肝機能の低下、薬物の結果と思われるダメージなど様々な要因が寿命を縮めたとのことだった。
父を喪ってわずか二年の間に、母の心身はボロボロにされていたのである。
義弟に殺されたも同然の死。憎むべきは修造……だが、私には誰にも明かせない秘密がある。
母が亡くなる半月ほど前。アパートの部屋で、私は彼女の身体を拭いていた。
「僕が綺麗にしてあげるからね。もう何も心配しなくていいんだ」
この頃の母は寝ては覚め、覚めては眠りを繰り返しており、もう現実が正しく認識できていないようだった。
「……あなた……」
うわ言のように父を呼んだかと思えば、次の瞬間には、
「……修造さま……涼子を……可愛がってください」
と叔父に媚びる言葉を発する。
「母さん……僕だよ……謙一郎だ」
悔しかった。私たちを残して一人で逝った父。母の肉体を弄ぶだけ弄んで姿を消した叔父。なのに母は、今なお彼らを求めている。
「畜生。母さんは僕だけのものだ! 誰にも渡したりはしない!」
激情に駆られた私は、無抵抗の母を……犯した。
息子に凌辱されたことを、母は理解していたのだろうか。否と信じたい。
だが、もうそうだったとしたら……。
- 2014/09/08(月) 15:42:57|
- 侵略・流石川
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◆第二十一章 旅立つ二人
「年明けに、新潟で親父の法事があるそうだ」
修造が告げたのは、年の瀬も押し迫った頃だった。叔父の父、つまり、私の祖父の法要である。
杉山の本家と修造は長らく絶縁状態にあるはずだ。いぶかしむ私に、
「時の流れは大概のことを解決してくれる。兄貴が死んで十五年。本家と分家のわだかまりは水に流して、一族の結束を強めようということだろうよ」
杉山家の法事は親戚郎党を集め、何日間にわたり催される。参加するならば、平日も休まなければならない。会社員として微妙な時期にいる私が行けるはずはなかった。
「謙一郎は無理をせんでもいい。とはいえ、おまえも元々は嫡男の血筋だからな。素知らぬ顔というわけにもいくまい。俺と亜紀美さんで顔を出してこようと思う」
その後の時間は瞬く間に過ぎた。
例年のことながら年末年始は仕事に追われる。年内ギリギリまで働き、正月も三が日を自宅で過ごしただけで出社した。
「本当に謙一郎はよく働くな。勤勉なところは兄貴そっくりだ。自慢の甥っ子だよ」
亜紀美と修造が新潟へ発つ日。朝からどんよりと曇っていた。
「今生の別れじゃあるまいし、見送りなんていらんよ」
という叔父を押し切り、私は何とか時間をやりくりして東京駅まで見送った。
十時十二分発、Maxとき三一七号。流線型のボディがホームへ滑り込んでくる。
「そうだ、謙一郎。帰ってきたら、おまえに話したいことがある。兄貴と……その……涼子さんのことでな」
「え……は、はい……わかりました」
どれほどの憎しみを抱いていようと、修造本人の前では従順にならざるを得ない。なぜなら……。
「……じゃあ、あなた……元気でね……」
亜紀美の言葉が私の思考を遮った。修造に付き添われ、車内へ入っていく。
「ああ……気をつけて……」
別れ際に亜紀美の見せた、何かを訴えるような、哀しみに満ちた眼差しが妙に心に残った。
(もう二人は帰ってこないのではないか)
ふと、そんな予感に襲われた。
- 2014/09/08(月) 15:43:41|
- 侵略・流石川
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◆第二十二章 ある告白掲示板への投稿<6>
728 無題 投稿者:匿名 投稿日:○月×日
ついに、この日がきてしまいました。
私は家庭を棄て、叔父と北へ向かいます。主人には新潟での法事ということになっていますが、まったくの嘘です。
『小さな町へ行って、二人で暮らそうじゃねえか。誰にも邪魔されずによ』
不意に告げられたのは、一ヵ月前のことです。
『そんなこと……できません……』
『じゃあ俺と別れられるのか? あん? おまえはもう俺のものなんだよ』
叔父を愛しているのか。そう問われれば答えは「No」です。でも……。
『……どうやって……生活していくんですか……』
そういう質問自体が、叔父を受け容れ始めている証になるのでしょう。
『まかせとけ。と言いたいところだが、俺も歳だ。おまえに食わしてもらって悠々自適と願いたいね』
『……そんな……私……資格も何も持っていないし……』
『この身体があるじゃねえか。たっぷり稼げるぜえ』
女の部分を無骨な指で荒々しくまさぐられました。それだけで、じんわりと熱くなるのがわかります。
『どのみち私たち夫婦は終わり……でも、どうしてこんなことを?』
自分から身体を開き、挿入の姿勢を取りながら尋ねました。
『俺はな。兄貴が羨ましくてたまらなかった。頭は切れる。とびきりの別嬪を娶る。生まれたガキまで可愛くてたまらねえときた。俺には到底できねえことさ。だから俺は、すぐ傍で兄貴一家の幸せを見守っていられりゃあ良かったんだ』
一拍の間を置いて、根元まで一気に挿入されました。
『だけど、あいつらは俺を邪魔者扱いしやがった。可愛さ余って憎さ百倍ってやつさ。だったら、その幸福を徹底的に破壊してやろうと心に決めたのよ』
何度受け容れても息苦しいほどのものが、胎内で動き出します。
『兄貴の会社がヤバくなった時、俺は手伝うふりして株主たちの不信感を煽ってやった。潰れたのは当然だ。そして兄貴は死んだ。本当に自殺だったと思うか?』
ひと際強く突き上げられました。
『エリートってのはな、いざとなっても死ぬ度胸すらねえ野郎が多いのさ。だから……ふふふ、証拠はねえよ。まあ、あったとしても今年で時効だ』
恐ろしい告白を聞かされているのに、心も身体も官能に炙られていきました。
『義姉さんは、ずっと俺の憧れだった。最初は復讐のつもりだったのに……心底惚れちまったんだ。でも、女に愛されたことのねえ俺には、愛し方がわからなかった』
律動が速まっていきます。自分の言葉に興奮しているのか、いつもより早く射精するようです。
『大事にしようと思えば思うほど力が入って壊しちまう。その気持ちがわかるか? ええ? わかるかよ!』
子宮の奥で灼熱が弾けました。
『……俺は……こういうふうにしか……生きられねえんだ……』
息を整え、目を開くと、叔父の目は潤んでいるように見えました。
『……可哀相なひと……』
初めてこの男をいとおしく感じました。
- 2014/09/08(月) 15:44:41|
- 侵略・流石川
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◆終章 独白
亜紀美と修造が旅立った翌朝。誰もいないわが家で、私は目覚めた。
(今頃、叔父と妻は二人きりの朝を迎えているのだろうか)
空はどこまでも碧く澄んでいる。吹き抜ける一陣の爽やかな風。
(それならそれでいい……いや、そうあってほしい)
愛する者を盗まれることに暗い悦びを覚えずにいられない。思春期に開花させられた屈折した性癖。
封印していた過去が解き放たれて以来、私は叔父に、妻を寝取るお膳立てをしてきたような気がする。
叔父の同居を拒まなかったこと。妻と二人きりになる時間を作ったこと。会社から電話の一本すらしなかったこと。温泉宿で先に眠ったこと。三日間の出張を請けたこと……すべては関係の進行を望む潜在意識ゆえの行動ではなかったのか。
なのに今、私の心はこの空のように晴れ渡ってはいない。
(それは、俺が……)
想いは忌まわしい記憶の続きへとリンクする。
……母の四十九日を終えた夏の夜。体調を崩した私は、一人きりになったアパートで寝込んでいた。
(……このまま死んでしまうのかな……)
押し寄せる孤独、不安。朦朧とした状態がふと途切れた時、何かが布団に侵入してきた。
「じっとしていろ。何も心配することはない」
修造だった。寝間着代わりのトレーナーが脱がされ、パンツを降ろされていく。
「……ああ……叔父さん……」
強い者に支配され、服従する安堵感。私は涙を流しながら、叔父を受け容れた……
あれは現実の出来事だったのだろうか。高熱が見せた束の間の夢だったのか……わからない。
確かなのは、深い怖れと激しい憎悪、そして倒錯した愛の結晶こそ、叔父に対する私の感情の真実だということだ。
私は修造に亜紀美を盗まれ、亜紀美に修造を奪われてしまった。狂おしきパラドックス。救いのない迷宮。嫉妬が切なく胸を焦がす。
もしも修造と亜紀美が帰ってきたとしたら……。
(……二人を殺してやろう……)
もう手放しはしない。愛する彼らを永遠に私だけのものにすることで、杉山家二代にわたる呪われた物語に終止符を打つのだ。
無論、私とて生きてはいない。
(父さんがいる。母さんもいる。皆で愛し合いながら、仲良く暮らすんだ)
書斎のデスク。引き出しからハンティングナイフを取り出し、刃に宿る鋭い磨光を確認すると、ジーンズのポケットに仕舞った。官能的な恍惚に包まれていく。
(俺は……幸せだ……)
そして私はデスクトップPCを起動する。掲示板に新たな書き込みをするために……。
<侵略 完>
- 2014/09/08(月) 15:45:31|
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