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闇文庫

主に寝取られ物を集めた、個人文庫です。

序破急 - 序の37 拒否された体位

英生はいつもと違う興奮を覚え、男根の根元を片手で握り、もう片方の手で柚布子の襞を広げて狙いを定めた。

「ん、もうやだ、なぁ~に?」
柚布子は鼻に掛かった甘えた声を出した。 そして片脚の膝を曲げると、身体を反転させ仰向けになった。 英生は正面を向いた柚布子と唇を重ね、舌を絡めて再び柚布子をうつ伏せにしよと背中に手を回した。

柚布子はその手を掴み阻止しようとしたが、再びうつ伏せにさせられてしまった。 そして再び背中に唇を這わせて、二つの丘に向かった。 手は丘の割れ目に沿って進み、急降下して襞を掻き分けて中指を襞の中に埋め込んだ。

「あっ、あ~ん」
柚布子は再び甘えた声を出した。 英生はそれをこれからすることの了解と思った。 均整の取れた二つの丘とその割れ目を見れば、誰もがそこに自分の物を埋め込みたいと思うに違いない。 英生もまた、その割れ目を俯瞰で眺め自分の物を埋め込むべく、脚の間に陣取った。 そう云えば、結婚後にこの光景を見ていないのではと思うくらい新鮮な眺めで避妊具の中で我慢汁を滲ませた。

「ん、うん、なにしてるの?」
柚布子は首を思い切り捻り英生に向けた。 柚布子の目は英生が自分の物をこの姿勢のまま埋め込むのを察した。

英生は男根のカリの下を握った。 避妊具を被せた後に我慢汁を出したのでその行為だけで亀頭が刺激され、一刻も早く柚布子の中に埋め込まなくてはならないと思った。 そして、柚布子のお腹に手を回し、尻を持ち上げ男根に近づけた。


「だめ、そこからは」
柚布子は微かな声で、しかし、しっかりと訴えた。 そして片手で丘の割れ目を押さえた。
英生は構わず割れ目に向かって男根を押し付けたが、やはり柚布子の手がそれを遮った。 柚布子の手は英生の亀頭を刺激するような格好になり、男根は避妊具の中で我慢汁でヌルヌルになっていた。

英生は柚布子の手を退かす為に一旦持ち上げた尻をベッドの上に落とした。

その瞬間、柚布子は機械体操をしていたわけではないが、器用に膝を折り仰向けに身体を回転させると、両脚で英生をは挟んだ。

「このまま来て」
柚布子がそう言うと、英生は三度柚布子をうつ伏せにすることは無かった。 と、言うよりか英生の男根は体位に関係なく埋め込まなければ爆発するのではないかと思う位、この夜は興奮した状態であった。

英生は立ち膝のまま前へ進むと柚布子の脚を大きく開き男根を柚布子の中へと埋め込んだ。 そして、一旦奥まで埋め込むと「っあ~」と溜息を漏らした。

「あん」
英生の男根が奥まで届くと、柚布子はいつもの甘えた声を出した。

英生は前かがみになると柚布子の舌を吸い絡ませた。 それと同時に腰をゆっくり律動させた。 英生は何時でも爆発出来る状態だった。 腰の動きを早くすると、埋め込んだ男根と避妊具が我慢汁を多量に出した為に別々に動き、いつもの柚布子の締め付けを感じなかったが、海綿体を固くするのには充分であった。

「あ、柚布子、いい」
「あん、あなた、あん」
いつもの、夫婦の営みであるが、明らかに英生の腰の動きは速い。 柚布子の声は裏声のように高い声で喘ぎ始めていた。

「あ、柚布子、逝くぞ」
柚布子は、喘ぎながら頷き英生の背中に手を回した。 そして、英生は柚布子の両脚を折るように両腕で押し広げ、腰を打ち付けた。

「あっ、ゆーこ」
英生は激しく打ち付けた腰を密着させた。 すると。内腿から肛門へと筋肉が勝手に収縮し、亀頭の先端に快感が走った。 やがて亀頭全体が圧迫され、自ら放出した液によって包まれていくのを感じた。

「あ、あー」
英生が果てたを知って柚布子が締め付けたのだ。 英生は身震いするような快感を亀頭に感じていた。 そして荒々しい呼吸が暫く続いている間二人は同じ姿勢を保っていた。

柚布子の呼吸が先に静かになり、脚が脱力していた。 英生は腕立て伏せの格好の腕を片方づつ外し柚布子の脚を楽にさせた。 そして、柚布子から離れた。

いつものように枕元のティッシュを取り柚布子の股間を拭き、毛布と掛け布団を柚布子に掛け避妊具の後始末をした。
避妊具の後始末をして英生はベッドに入り柚布子の頭の下に腕を入れた。

いつもなら柚布子が英生の胸に顔を埋め眠りに付くのだが、この日柚布子は反対側を向いて眠りについた。


柚布子はこの夜、明らかに逝ってなかった。
  1. 2014/11/02(日) 08:48:27|
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序破急 - 序の38 一斉退社

「それって、方向性が変わったということ?」
柚布子の声が会議室に響いていた。 午後のプロジェクト進捗会議でのことである。 定期的に関係者が一堂に会し主要プロジェクトの精査を行うのである。 精査と言っても殆どが工程会議みたいなものである。

「それじゃあ、手配の変更が間に合いません」
柚布子は上席のマネジャーに耳打ちすると、マネジャーは頷き腕を組んで沈黙した。 柚布子はその姿を見ると腕時計に目を落とした。 SI会社の打ち合わせの為に会社を出なければならない時間までに会議が終わりそうにないからである。 柚布子は会議のアジェンダを捲ると溜息をついた。


SI会社の打ち合わせは午後4時半からであった。 柚布子がSI会社の受付を通ったのは5時を過ぎていた。 社内でのプロジェクト進捗会議が延びた為である。

打ち合わせスペースで柚布子は重盛達に遅れたことを詫びた。 事前に遅れる旨の連絡は入れてはあっても遅刻は遅刻である。 柚布子はこれからの仕様決めで多少分の悪いことも受け入れなければならないことを覚悟していた。

仕様決めの作業であるから、遅れた時間を短縮する為に手を抜くことも出来ない。 だから、この後の歓迎会の開始時間にも影響してくるハズである。
だが、重盛は機嫌が良かった。 無理な要求をして来るでもなく、柚布子が要求したことはあっさり受け入れてくれた。 もっとも、その為に事前打ち合わせをしているのである。

重盛の部下たちも自分の持分の仕様が決まると席に戻って行った。 そして、彼達は帰り支度をして重盛と柚布子に「お先に」と挨拶をして、何人か連れ立って部屋を出て行った。 その光景を他の部署の者が見て
「なんだ、お前ら、今日、飲み会か?」
と、いう問い掛けに笑いながら頷いていた。

「じゃ、我々も行きましょうか」
「はい」
柚布子は重盛と一緒に先に行った部下を追うものと思っていた。 気が付くと製品企画部には誰も居なくなっていた。 他の部署も大方同じように閑散としていた。 既に照明が落とされてる部署もあり暗くなっていたが、奥の一角だけ人が昼間と変わらず仕事をしているようであった。

その一角は委託や派遣、関連会社の社員が居る場所である。 勿論、そこに柚布子の夫の英生も居るかも知れないが、 柚布子は敢えてそちらの方向に視線を向けなかった。

重盛も帰り支度をし、出口に向かった。 柚布子はその後に従った。 柚布子は首筋に視線を強く感じていたが、振り返らなかった。 それは夫、英生のものと分かっていたからである。


SI会社の受付嬢は既に退社し、代わりに警備員が受付のカウンターに座っていた。 重盛は警備員に何やら話しをし、受付の電話で何処かに電話をした。 そして、柚布子から受付票を受け取ると、柚布子を受付に待たせ購買部の部屋へ向かった。

SI会社の受付は正面玄関にある。 そこから少し離れた脇が社員等の通用口である。 そこを英生が派遣仲間とやって来た。 柚布子も英生も予期していなかったので隠れたり、視線を逸らしたりすることが出来なかった。 始めてSI会社で顔を合わせた瞬間だった。

一瞬、お互いに驚いた顔になったが、直ぐに普段の顔を作った。 柚布子は口元を締め笑顔を作って目だけで頷いた。 英生は鞄を持っていない方の手を掌だけ返してそれに応えた。
「貴方、お疲れ様」
「お疲れさん、君も」
そんな会話があったかのように・・・

柚布子は通用口を出て行く夫の背中を見つめていた。 リストラされ背中が丸く見えるようになった夫の背中が今は一段と丸く見えていた。 英生と並んで歩く派遣仲間の背中も丸く見えていた。 やがて、二人の後ろ姿は正門を出て見えなくなった。 すると、柚布子は少し沈んだ表情になった。

「何か見える?」
重盛が声を掛けた。 購買部から戻って来たのである。
「いいえ、だた、漫然と外を眺めていただけです」
「物憂げに眺める横顔は素敵でしたよ」
「え?」
重盛は警備員に受付票を渡すと、柚布子の肩を軽く押して正面玄関へと誘った。


柚布子は重盛に肩を押されるように正面玄関を出た。 そこは車寄せである。 そこで重盛は立ち止まった。 すると、正門から一台の車が二人の方へ向かってやって来た。 その車はタクシーであった。

タクシーは二人の前で停まると助手席のパワーウィンドウが降り、
「シゲモリさん?」
と、運転手が問い掛けると、重盛は屈んで頷いた。 すると、後部座席のドアが開いた。 柚布子はこの時、重盛が受付で電話していたのはタクシー会社であったのだと悟った。

重盛は柚布子に手で「お先に」と合図した。 立場からすると、重盛が先に乗るのが礼儀であるので、柚布子も「お先に」と同じように手で合図した。
重盛は柚布子の肩を今度は強く押すように、先に乗るように促した。 柚布子も意固地になることは逆に相手を不快にさせると理解していたし、重盛が呼んだ車でもあるので、一礼して乗車することにした。

柚布子はお尻から後部座席に腰掛け脚を社内へと入れた。 そして腰を浮かして、奥へ移動して行った。 ごく普通の女性の所作であるが、今日の服装がビジネススーツ、しかもタイトのスカートであったので気を使った。

案の定、柚布子は膝に視線を二つ感じていた。

  1. 2014/11/02(日) 08:50:40|
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序破急 - 序の39 噂

英生と派遣仲間は曲がり角でタクシーとすれ違いざまにぶつかりそうになり避けた。
「あっぶねーなー」
派遣仲間が振り返りながら言った。
「だね」
英生も賛同した。


「さっき、受付に女性が立っていたでしょう?」
「え、そう?」
派遣仲間の問いに英生は気が付かなかったフリをした。
「最近、ちょくちょく来てますね、なんでも×××機器販売の後任プロマネらしいですよ」
「へえー、そうなんだ、誰から聞いたの?」
「ほら、うちの女性派遣が橋爪さんから聞いたらしいです」
「なるほどね」
「女性はそういうのは早いから」
英生は柚布子の事がどういう風に知れ渡っているか気になった。

「なんでも、歳は33で、重盛と一つ違いの独身だそうです」
おい、おい、柚布子はまだ31歳だぞ、と突っ込みを入れたいところだったが我慢して聞いていた。 それにしても噂は広がるのも早いが正確性に欠けるもんだと実感した。
「へ~、そんな事まで仕入れたんだ」
「なんでも橋爪さんが嫉妬しているらしいですから」
「え? なんで?」
英生は意外な展開になったと思った。

「ほら、橋爪さんて重盛のファンじゃないですか、だから気になるらしいですよ」
「そうなの?」
「知らないんですか? ま、中務さんはそういう下世話なことには感心がないと思いますけど、結構噂みたいですよ」
「でも、橋爪さんは結婚してなかった? 俺、そう聞いていたけど・・・」
「ま、そうなんですけどね、そこは男女の何とかってネ」
「ふ~ん、そういうのあの山田が嫌うんじゃないの?」
「そ、そこなんですよ、山田も社内で不倫騒動になってはと重盛に独身の恋人が出来ればと思っているらしいですよ」
「って、ことは重盛と橋爪さんはそういう関係?」
「さあ?」
派遣の間では女性以外の社員を陰では名前を呼び捨てにしているのである。 英生は関心がないが、派遣仲間では社員のスキャンダルは心地良い息抜きなのである。 男性はプライドがあるから、派遣と社員とでスキャンダル的な情報を交換することはないが、女性同士は男性のような壁はなく情報交換が行われるらしい。

「今のところそういう関係ではないようですよ、橋爪さんは定時でさっさと帰ってしまいますからね」
「そうだろうね」
英生は重盛が悪いヤツであって欲しいと思ったが、現実はそうでもなさそうである。 が、
「でもね、重盛は人妻好きっていう別の噂もありますよ、人妻喰いらしいですよ」
「え! なんだって!」
英生の語気が大きかったので派遣仲間は一瞬驚いた顔になった。
「どうしたんですか?」
「い、いや、別に、ただ、そんな感じの人には見えていなかったから、さ」
「ま、我々もここに来て長くないですから、知らないことは沢山ありますよ」
「そ、そうだな」

英生は柚布子が独身としてここに来ていることが良かったと思った。 もし、別の噂が本当で柚布子の素性も偽っていなかったら、格好の獲物になっていたかも知れないのである。 英生は安心しつつ、獲物として狙われる柚布子に興奮し始めていた。

「で、さあ、他にはどんなこと仕入れたの、その×××機器販売の女性について」
「ま、あんまり無いですけど、いい女ですよね」
「え? そう?」
「中務さんは、あっちにあまり行かないから分からないと思いますケド、結構近くで見ると色っぽい女ですよー」
「そうなんだ・・・」
英生は同じ派遣仲間が柚布子のことを観察していたことに驚くと同時に自分の妻が晒されている錯覚に興奮を覚えていた。

「他の部署の連中は犯りたい女だって言ってましたよ。 重盛の部下達もそうかも知れないけど、重盛の前だから遠慮してるんでしょうね」
「なんか、凄いな」
英生の素直な感想であった。

「彼等の間では、重盛が最初に堕とすのが既定になっているようですよ」
「マジかよ」
「後は、順番に部下に払い下げるとかね」
「嘘だろ! そうだったら、橋爪さんなんかとっくに堕とされてるだろう!」
「おっしゃる通り、でも社員には手を出さない掟なんじゃないですか? 何かと面倒な事になりますから」
「馬鹿気てる!!」
「中務さんは真面目だからこういう話になると興奮するんですね?」
「え?」
英生は真面目だから興奮してるのではなく、自分が柚布子の夫だから興奮しているのだと言いたいのを我慢した。

「堕とす云々は検査部の連中から聞いたんですけどね、 現場の連中は下ネタが好きなんですよ。 だから、どこまで本当なのか・・・」
「そ、想像に決まってるさ・・・・」
「そうだと思いますけど、前科があるからそういう噂になるのかも知れないですよ」
「・・・・・」
英生は興奮と不安が入り混じった状態とはこういうことなのだと実感していた。 そして二人は無言で駅に向かっていた。

英生も噂というのは殆どが伝播させる為に面白く作っているものだと分かっていても何処まで真実か分からない以上、不安は拭えなかった。


駅に続く商店街の入り口まで来た時だった、二人の脇を先程のタクシーが追い越して行った。 それとなくタクシーに目を遣ると、後部座席の女性が目に入った。 見慣れた髪留めは間違いなく柚布子のものである。 後部座席の二人は楽しげに会話しているように英生には映った。
車は駅のロータリーに続く道には曲がらず、駅を通り越す跨線橋へと上がって行った。

「おっ、さっきの女だ、重盛と一緒だ、 こりゃー、今夜犯られちゃうな」
派遣仲間の言葉に英生は激怒するのを必死に堪えた。

「中務さん、ちょっとひっかけて行きますか?」
英生は飲んで帰りたかった。 もっと重盛に関する情報を知りたかった。 しかし、柚布子が前の夜から用意してくれた食事がある。 それは、柚布子が英生の妻であるという証。 今の英生にはそれが唯一の柚布子からの愛に思えた。

「い、いや、妻が食事を用意してくれているから・・・」
「中務さん、愛妻家なんだ」
  1. 2014/11/02(日) 08:52:03|
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序破急 - 序の40 気になる乗客

吉原辰夫は勤続25年の構内タクシーの運転手である。 出稼ぎで都会に来たが出稼ぎ先が倒産し、それを機にタクシー運転手となった。 長い間タクシー運転手をしていると個人タクシーへと転向するが、吉原辰夫は会社で社員運転手をしている。

近頃の不況のお陰で流しの営業に出るより送迎の仕事の方が率がいい。 会社も乗せる乗客によって車を替えたりする。 勿論ハイヤーも所有しており吉原辰夫はハイヤーも担当する。


この日、吉原辰夫は昼間の勤務だった。 もう上がろうとする時に送迎の依頼がSI会社からあった。 これが上がりの仕事と志願して車を急行させた。

ハイヤーを運転する時は丁寧な運転だが、タクシーとなると昔ながらの習慣なのか運転は荒い。 途中で誰かを引っ掛けるのではないかと思うくらい飛ばしてSI会社の正門で急停車した。 正門でいつもの様に一礼して、正面玄関の車寄せへと向かった。

車寄せには男女のカップルが立っていたので、そこに車を停車させた。 そして、助手席のパワーウィンドを降ろし、
「シゲモリさん?」
そう聞くと、男が屈んで頷いたので、後部座席のドアを開けた。


何処にでもある光景である。 どちらが先に乗るか譲り合っていた。 女が先に乗ると踏んでルームミラーを車道側に少し向けた。

予想通り女が後部座席に腰掛け、身体を回転させて脚を車内へと入れた。 タイトスカートから伸びた脚はしゃぶりつきたい程魅力的だった。 その脚を見ない男がいるであろうか。 
長年の経験でどの辺りで声を掛けて振り返れば眺めが良いか知っていた。 車の揺れ具合から尻を浮かしながら車道側へと移動しているのが分かる。

「はい、どうぞ」
後ろを振り向く口実の為に言葉を掛けた。 駆動系が収まった箇所を乗り越えるのには脚を揃えては出来ない。 タイトスカートから出た脚はバラバラに動いて前席からは奥まで見えていたに違いない。

タイミングは合っていたが、その光景は視野の左下でぼやけていた。 女と一緒に移動しているバッグに見蕩れてしまったからである。 使い古したトートバッグに柄の付け根に小さな熊のマスコット。 何処かで見た記憶があったからである。


女が車道側の座席に移ると、直ぐ様男が乗り込んで来た。 男はやはり女の脚を見ているのがルームミラー越しにも分かった。

「ボン・ハイムでしたよね」
「はい、そこでお願いします」
男が答えるとドアを閉め発車させた。 バッグのことを思い出そうとしていたら正門を通り越すところだった。 慌てて急停車すると、男と女は前にのめり、そして守衛に一礼してアクセルを噴かすと今度は背もたれに押し付けられた。 少し荒い運転である。
ルームミラーの中で後部座席の二人はやれやれという顔つきで互いに視線を合わせていた。

「新しく出来たところですよね?」
「ええ、そうですよ」
再び声を掛けた。 女が座席の中央寄りへ首を傾けて前方を見ようとでもしたのであろう。 ルームミラー越しに目が合った。 女は少し驚いた顔をした。 仕事柄乗客のことが気になるので自然と詮索するような目つきになっていたのに驚いたのかも知れないと思った。


「どちらに行くんですか?」
「弥勒亭別邸」
「え?」
男の答えに女の顔が曇った。 前方を見ながらルームミラーに何度も目を遣った。 女は男の顔を睨んでいるようだった。

「ご、御免、申し訳ない」
男は急に困った顔になった。 冗談のつもりで言った言葉が女を不快にさせてしまったからであろう。
女は男の困った顔を見て更に抗議する言葉でも探しているようだった。 だが、言葉が見つからないようであった。


-弥勒亭別邸- あの時の女だ。 吉原辰夫は思い出した。
飲みすぎて具合が悪くなったらしい女と同じ会社の男らしい二人を弥勒亭別邸から乗せたのである。 しかし、ただ飲み過ぎたくらいではないことは仕事柄感じていた。 この男もそれに加担したのか? 自然とアクセルが緩んだ。 ルームミラーを頻繁に覗かなくてはならないからだ。

女はしばらく考えた後に、急に表情を変えた。
「いいえ、すいません、あの時はちょっと飲み過ぎたの」
先程とは打って変わて穏やかな表情で見つめていた。
「い、いや、気に触りましたか? そんな、つもりじゃ・・・」


「どんな、つもりなんですか?」
「・・・・」
今度は悪戯っぽく見つめていた。 見方によっては色っぽくとも思える目つきであった。 そして
「また、酔わせるつもりなんですか?」
「い、いや、いや・・・」
女は自然と男を誘うような眼差しと微笑みで見つめていた。


この状況で誤解しない男が居るだろうか? この女、男を誘っているのか? いったいどういう心境の変化があったのか理解出来ないままアクセルを踏み込んだ。
弥勒亭別邸から乗せた時も同乗の男にスカートの中を触らせていたし、別れ際におでこに女の方からキスをしていた。 あれは何だったんだ? 恋人同士ではなかったのか? そしてこの男は・・・浮気?
全く運転に集中出来ない気になる乗客だと思った。



「もう、皆さん着いているのかしら?」
「え? ああー、さて」
「・・・・・」
男は答えに窮したような表情になった。 そして暫く間が空いた。


女の視線が外へと急に向き、後方へと頭を動かした。 そして急に真顔になった。 ドライバーから死角になる方向だったのでそこに何があるのか分からなかった。

吉原辰夫がアクセルをキックダウンすると車は荒々しく駅を通り越す跨線橋へと駆け上がっていった。 そして、運転席側のサイドミラーには二人連れの男性が駅の商店街へと続くアーケードを潜っていくのが小さく映っていた。
  1. 2014/11/02(日) 08:53:01|
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序破急 - 序の41 二人だけの歓迎会

開店して間もない店のようであった。 入り口には開店を祝う花がまだ飾られていた。
重盛が名前を告げると、係りの者に奥へと案内された。 入り口近くはカウンターと4人掛けの小さなテーブルが並んでいた。

柚布子は変だと思った。 他の製品企画部の人達が居ないのである。

奥に歓迎会が出来る大きなテーブルがあるのかと思ったが、案内されたのは個室のような4人掛けのテーブルに椅子が二つだけある席であった。 既にテーブルの隣り合う2辺にはランチョンマットのようなものが用意されていた。

係りに案内されるがままにテーブルに着いた。 二人だけとは言え、相手は得意先である。 向かい合わせに座るものと思っていたが、隣合わせである。 これは親しいカップルの席の着き方である。

既にセッティングされたテーブルを直して貰うことも出来るが、そこまでしたら今後の付き合いに支障が出ると思った。 それに、これを重盛が手配したのか、店が勝手にしたのか分からないからである。

「他のみなさんは?」
柚布子はやはり聞くことにした。 というのも、今までの重盛とこうなるまでのやり取りを席に着きながら整理したのである。 確かに重盛は皆で歓迎会をするとは言っていなかった。 柚布子が勝手に製品企画部がする歓迎会と思い込んでいたかも知れないからである。
だから、柚布子も漠然と聞いた。

「うん、今日は一斉退社日で、どっか飲みに行っただろうね」
重盛のもっともらしい返事であるが、目が泳いでいた。 柚布子はしてやられたと思った。
「いい雰囲気のお店ですね、みなさんも一緒なら良かったのにネ」
柚布子のせめての反撃であった。


係りの者が注文を取りに来た。
「ビールでいいですか?」
柚布子が頷く。
「黒の中グラスを」
重盛が指を2本出して注文した。 重盛はその他に2品料理を注文した。

「何か注文しますか? ビールが来たら頼みましょう」
重盛はそういうと、柚布子にアラカルトのメニューを渡した。

ビールは直ぐに運ばれて来たので、柚布子も2品注文した。

「じゃ、お疲れさん」
重盛がジョッキを片手で掲げたので柚布子もジョッキーを両手で掲げてそれに応えた。
「お疲れさまです」

重盛はジョッキの半分位を一気に飲んだ。 柚布子は2,3口飲んだだけにした。
「ビールがお好きなんですか?」
柚布子は微笑ましく重盛の飲みっぷりを見て聞いた。 ビールのコマーシャル以外で美味しそうにビールを飲む男性を見たことがなかったからである。
「好きですよ、柚布子さんは?」

「ほど、ほど、にですよ」
「ほど、ほど、ですか・・・・」
柚布子は差し障りない答え方をした。


程なく料理が幾つか運ばれて来た。 ソーセージと酢漬けのキャベツの盛り合わせを柚布子はフォークで切って、取り皿に取り分けた。
「ありがとう、女性にこうして貰うと嬉しいです」
重盛はそう言うと、ソーセージを口に放り込むと残りのビールを一気に飲み干した。 柚布子もその光景を嬉しそうに見つめていた。


重盛は4杯目のビールを頼んでいた。
「ところで、プライベートな事聞いてもいいですか?」
柚布子はやっぱりその話題になったと思った。 今まで仕事の話題でなんとか繋いできたが、そろそろネタ切れだった。

「どんな事ですかぁ?」
柚布子は頷くとちょっと悪戯っぽい眼差しで聞いた。
「ズバリ、決まってる人いるんですか?」
「え?」
「彼氏とか・・・」
柚布子は残りのビールを飲み干した。 下手な小細工をするとボロが出る。 柚布子はそれを知っている。 しかし、上手な小細工を自分は出来ないことも知っていた。
「居ないですよ」
飲み干したグラスに付いた口紅を指で拭き取りながら上目使いに答えた。
  1. 2014/11/02(日) 08:54:03|
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序破急 - 序の42 相々傘

重盛がかなりの手応えを感じたのも無理はなかった。


二人は駅へと続く道を肩を並べて歩いていた。 柚布子は何処を歩いているのか分からなかった。 地図の読めない女ではないが、流石に始めての場所で、しかも夜ともなれば方向感覚も怪しくなる。 多少なり酒が入っていれば尚更である。


「何処に向かっているんですか?」
「駅ですよ」
「本当に?」
「はい、本当ですよ」
「逆の方向ってことないですよね?」
店の前の道を左に出たのを柚布子は覚えていた。 そして、タクシーを降りた正面が店だったことも覚えていた。 つまり、タクシーが来た方向とは逆である事くらい分かっていた。
店は少し高台にあったのか道は緩やかな下り坂であった。 そして、住宅街の先には原色のネオンが幾つか闇夜に異彩を放っていた。 ラブホテルのネオンである。

「この少し先に、駅があるんですよ」
「そうなんですか?」
柚布子も多少の地理は理解していた。 確かにSI会社の最寄駅である路線を越えると別の鉄道会社の路線があり、それを少し上るとSI会社の路線との乗り換え駅があることは知っていた。
「この坂を右へ行くと直ぐに駅です」
その路は原色のネオンに挟まれていた。

重盛は柚布子の腰に手を廻しエスコートするような体制で歩いていた。 柚布子はネオンの方へエスコートされるのを警戒して歩の速度を速めた。

暫く早歩きをしていると踏み切りの警報音が聞えて、電車が通過する音が聞えた。 建物で電車は見えないが、駅が近いのには間違いがないようである。

「タクシーで来た道の駅じゃダメだったんですか?」
「うん、それでも良かったけど・・・」
重盛は柚布子の腰に少し力を入れた。
「会社の人に見られるかも知れないからサ・・・俺は構わないけど」
「・・・」
柚布子は重盛の手から少し逃げるように歩いた。 ネオンの光る建物へ誘う事を隠す為の口実かも知れないと思った。



この日の夜は店を出ると異様に湿っぽい空気に包まれていた。
駅の入り口らしい看板の灯りが見えた頃に、それは重力に耐え切れなくなり霧雨となって降りて来た。 急げは傘など必要もないくらいであった。 

柚布子は急いでトートバッグから折畳傘を出すと重盛に翳した。 柚布子にとっては得意先であるから当然のことである。
重盛は腰を屈めその下に入った。

駅まで数十メートルである。 駅から出て来る人々は傘を差さずに家路へ急いでいる。 逆に傘を差しているのは柚布子くらいであった。 駅前の道を渡る横断歩道の信号が赤になった。

「これじゃ、君が濡れてしまうよ」
重盛はそう言うと柚布子から傘を取り上げ柚布子の方へ翳した。
「それでは、重盛さんが・・」
柚布子がその先を言いかけると
「じゃ、こうすればいいよ」
重盛はそういうと傘をもっていない方の手を柚布子の腰に廻し引き寄せた。 重盛は合法的に身体を密着させることに成功した。

横断歩道の向かいには電車を降りて家路へ向かう人々が信号待ちをしていた。 その誰もが向かいの柚布子と重盛を視野に入れているのは言うまでもない。
ここで重盛の手を振り払えば対峙している人々に重盛が良くない男に見え、恥を掻かせる事になる。 勿論、そういう行動を取っても冷静に考えれば今後の仕事に影響は出ないであろう。

「今日は飲み過ぎたんですか?」
柚布子は重盛の行動を酒のせいにすることで傷つけないようにした。
「君は飲み足らなかった?」
「え?」
柚布子は重盛が酒のせいにして身体を密着させていることを止めると想定していた。 それに身体を引き寄せられた時に反射的に拒否するような態度を取ればよかったが、今のタイミングでは容認したように取られても仕方がなかった。 柚布子はまた、してやられたと思った。

「ほど、ほどに頂きましたわ」
「ほど、ほどですか・・・」
信号が変わり、二人は歩き始めた。 横断歩道を渡るともうそこは駅舎の庇の下で傘を差す必要のない場所である。

先ほどの信号で降車した乗客は家路へと向かい、駅員の他には誰も駅舎には居ないようであった。 柚布子は傘を受け取るべく手を重盛が持つ傘の柄に手を伸ばした。 すると、
「ほど、ほどなら、まだ酔っていないってことだよね」
重盛は柚布子の瞳を見つめて言った。
「え?」
「俺も、まだ、酔っていない、だから酔っていないうちに聞いて欲しい」
誰もがそうであろう、柚布子も何かの告白があるような予感を感じていた。

「彼氏、居ないんだよね、だったら俺はどうかな?」
「・・・・」
柚布子は、はやりと思ったが、告白の仕方としてはストレートだと思った。 騙したと言っても最初のデートである。 断られたらとか考えないほど楽観的なのか、よほどの自信家だろうと思った。

「ごめんなさい」そう言えば済むことである。 理由は実は既婚であるということでなくても幾らでも考えることが出来る。
「ごめんなさい」そう言えば今日のようなことは二度と無い。 無難に仕事を切り抜けて二ヵ月後には次のマネジャーに引き継げるのである。

だが、店での会話、店を出てからここまでの雰囲気を柚布子は未だ味わったことが無かった。 英生とも仕事関係で一緒になった結果であるが、身内過ぎていて今日のような緊張感があったのかと言うと記憶にない。 また、他の得意先の久世と比べれば、久世とは同窓生同士の気安さで学生時代に戻ったような感じでこれとも違っていた。

柚布子は男女が出逢って恋人同士になる過程の緊張感は本当はこんな感じなのではと思った。 だとしたら自分は早くに結婚して損をした錯覚になった。 取り戻してもいいのでは?と・・・


長い間見つめ合ってたよな気がした。 柚布子は重盛の手から傘を取ると、それを畳んだ。 そして
「わからないわ」
そう答えた。

二人はこの駅で別々の方向へと帰っていった。 そんな付き合いが繰り返されて柚布子はもう「わからない」とは言えない状況に追い込まれていった。
  1. 2014/11/02(日) 08:54:57|
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序破急 - 序の43 夫の知らない妻(5)

柚布子は結構多忙であった。 SI会社のプロジェクトの案件も一つ手配を完了させて後は仕上がりを待つだけと、その合間に次の案件の引き合い対応をしていた。

プロジェクトはSI会社だけではなく○○○システムは勿論のこと他の得意先でも相談を受ければ対応していた。 この時期は年に一度の同業者の展示会が臨海地区で開催される。 その展示会は柚布子の会社にとっては最大の催し物なので柚布子の会社の規模なら殆どの会社の人間が何らかの形でそれに携わるのである。

柚布子も嘗ては製品の説明員をしたことがあったが、女性説明員となると製品の内容より柚布子を冷やかす者ばかりであることを経験済みなのでここ数年は裏方として精を出していた。

SI会社との次の引き合いはまだ具体化していなかったので谷間の状態であった。 しかし、重盛からこの日も誘われていた。 時間を作れないこともないが、流石に気が乗らなかった。 何か理由をつけて断っても構わないが、断るきっかけが無ければズルズル重盛のペースに嵌って行くのを感じていた。


今週のスケジュール表を眺めながらぼんやりしていると、社用の携帯の電話が鳴った。 柚布子は表示された着信を見て、席を立ち人気の無い所へと移動しながら携帯のフック釦を押した。 顔の表情は既に微笑んでいる。
「はい、生田でございます」
「くぜ(久世)で~す。 ゆ~こぉー、おひさー、げんきぃー」
「まぁ君」
柚布子は声を落としたが、口調は弾んでいた。 まるで久しぶりに恋人にでも逢ったかの弾み具合であった。
「んだから、さぁ、まぁ君じゃねぇーっつうの、 おっ、どうした? 泣いているのか?」
「・・・・」
「何だよ、俺が泣かしたのか?」
「違うの、移動したから、息が切れてて」
「なんだ、そっかー、心配させんなよ」
「御免なさい」
「何処にいるんだよ」
「会社です」
「あ、そうだったんだ、てっきり浮気してんじゃないかと、携帯に電話しちゃったよ」
「もう、浮気なんてしてません!」
「仕事上のことだよ、ったくぅ」
「分かってますぅ」
「浮気してないんだ、じゃ、ここ数週間何処行ってたんだよ」
「・・・・」
「ほら、浮気してたんだろう?」
「仕事だから、仕方ないでしょ?」
「まあな、 ところで、今夜軽く行くか? 来るよな?」
「え? 今夜? 今夜はちょっと・・・」
「なぁんだ、浮気相手と時間外デートか?」
「え?」
柚布子は一瞬凍りついた。 まさか競合会社の久世にまで重盛とのことを知られていたとは予想外であったからである。

「おまえさん、さぁー、イケメン好きだから、しょうがねぇ~なぁ」
「・・・」
「なんだよ、図星かよ、マジ?」
「違いますぅ、もう、相変わらずだから、返事しなかったダケですぅ」
柚布子は何とか取り繕った。 それにしても久世はいつもヒヤヒヤさせる存在であった。

「あのね、まぁ君、今度の展示会の準備でちょっと立込んでいるの」
「ほう、そっかー、そんなのあったな」
「でも、ちょっと時間作ってみる、だから・・・後で折り返しますから」
「りょ~かーい、必ず電話よこせよ」
「うん、まぁ君、電話くれてありがとう」
「愛してるからな、ほいじゃねぇ~」
柚布子は携帯畳んで自席に戻った。



「製品企画部でございます」
事務員の橋爪恵美が電話に出た。
「お世話になります、×××機器販売の」
柚布子が名乗り終わらないうちに受話器の向こうから「こーたさ~ん、でんわ~、かのじょ~」と重盛を呼ぶ声が聞えて来た。
「お待ち下さい」
ぶっきらぼうな橋爪恵美の声に続き電話の保留音を聞かされた。

「お待たせしました、重盛です」
「×××機器販売の生田でございます」
「うん、わかってる」
「お世話になります」
「はい、お世話になっています、で、どうする?」
「それなんですが、今日これから展示会の打ち合わせ等が入ってしまいまして」
「そうなんだ」
「はい、もう開幕日まで日が無いもんですから」
「そうだね、じゃ、その次の日にしようか」
「いや、あの、次の日は別の予定が入っていまして」
「ふ~ん、仕方ないな、じゃ、展示会に行くからその帰りにしよう?」
「あ、はい」
「決まりね」
柚布子は結局、展示会の日に重盛とデートをすることを承諾させられてしまった。 しかし、今夜久世と久々に逢えることに比べれば今夜のことを優先しなければならないからその代償としては仕方ないと思った。


柚布子は帰り支度を始めていた。 展示会の準備といってもイベント会社に製作資料を渡してしまえば、後はイベント会社がブースをそれなりに設計して作ってしまう。 忙しそうであまりやることは無かった。 柚布子は所在を記入するボードに「休み」と赤のマーカーで書くと、バッグにノートパソコンを入れ、それを手にして会社を後にした。 他の社員は展示会の準備で出払っていて、会社を出ていく柚布子の姿を見た者は居なかった。


柚布子はいつになく軽やかな足取りで地下鉄への階段を降り、来た電車に乗り込んで時計を見た。 「遅れてない」そう呟いて笑顔になった。 遅れると久世にイビリのネタにされるからである。

いつもは郊外へ直通運転する電車を待つが今日はその必要が無かった。 久世との待ち合わせの店は地下鉄のエリアだからである。 だから電車は帰宅時間にしては空いていた。 柚布子が降りる駅では相変わらず郊外への直通電車を待つ乗客がホームの乗車位置で整列していた。 柚布子はその列を掻き分けるように改札口へと向かった。

ここは他の地下鉄と環状線との乗り換え駅でもあるので人の流れに逆らいながら柚布子は地下街を急いだ。 人の流れは邪魔だが、それを避ける所作も楽しく感じていた。 それは待ち合わせ場所のショットバーが目の前に見えていたからである。

薄暗いショットバーの入り口を入るとバーテンダーと目があった。
「いらっしゃいませ」
声を掛けられた柚布子は軽くお辞儀で応えて店内を見渡した。
「お待ち合わせですか?」
「はい」
「今日は私の方が早かったわ」そう思い、久世といつも座っているカウンターの席へ進むとそこには先客らしい人の荷物が置かれていた。 予約するような店ではないので仕方ないと思った。 と、その時臀部に何かが当たった。
「ひぁっ」
柚布子は思わず小声せ叫んでしまった。

「おっせーんだよ」
久世の声が懐かしく感じて臀部を触られているのを咎めることが出来なかった。

  1. 2014/11/02(日) 08:55:49|
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序破急 - 序の44 夫の知らない妻(6)

乗り換え駅の地下街にあるショットバー。 柚布子は臀部に何か当たっているのが人の手であることが分かっていた。 それは久世の手に他ならない・・・・

「おっせーんだよ」
久しぶりに逢う久世の第一声が背後から聞えた。 柚布子が振り返るのと同時に臀部の手も離れていったがその間際に軽く揉まれたような気がした。

「うっそー、まぁー君」
柚布子は腕時計を見ながら久世に抗議する目を向けた。 いつも遅れるが、今日は絶対に早く着いた自信があった。 現に待ち合わせの時間より7分ばかり早かった。

「いいから、席につけよ」
久世はいつも二人が逢う時の席を指差した。 先客の荷物だと思われたのは久世の荷物であった。 A4サイズくらいの赤い手提げ袋でまるで化粧品の買い物袋のようであった。 それを男性の荷物だとは誰も思わないであろう。

席に着くとバーテンダーがタイミング良くおしぼりを渡した。 そして久世がいつもの飲み物をオーダーすると、柚布子もいつものスタイリッシュなグラスに注がれたビールをオーダーした。

「久しぶりね、まぁー君」
「だから、まぁー君じゃ、ねぇーての、ところで、どうよ、最近」
「どうって、何が?」
「決まってんじゃねかよ」
「仕事?」
「ばーか、そんなこと聞いてどうすんだよ、うちに最近来てねぇーんだから仕事は暇だろ」
「もう、さっきも展示会の準備で忙しいって言ったでしょ?」
「それはさっき聞いたから分かってるさ、で、どう?」
「えー?」
久世との今までの会話の経験で何を聞きたいのか分かっていた。 ここのショットバーでの会話は同窓生感覚もあってか意外と会社の同僚や夫とは出来ない話を今迄してきた。 だからと言っていきなり柚布子からそのことを切り出すことは出来ない。

「あっちだよ、旦那とのことだよ」
「うん」
「やっぱり、ご無沙汰か」
ご無沙汰ではない。 だが、こういう場では、たとえそうであっても旦那とやりまくってるなどと言うハズもない。 そこそこと答えるかさっぱりと謙遜するかである。 そこそこと答えるのも、やってることに変わりがないので、そのことでネタにされる。 だから柚布子ははっきりではないが営みが無い旨のことを以前話していた。 それはそれでネタにされるが、生々しい夫婦の営みを深く追求されるよりかはましなのである。

柚布子は「もう、まったく」といった感じで久世を見つめていた。
「そっかー、じゃ、尻触って悪かったな」
「え?」
「エッチな気分挑発してしまったかもな」
「もう、そんなことないってば」
「尻だけじゃ足りなくて、帰りに知らない男にナンパされちゃうんじゃないかと心配だよ、おまえさん、イケメンに弱いからな」
「あ・り・え・ません!!」
「そう? 尻触られて平気な女は意外とスキ有りだからな」
「もう、平気じゃないですよ、まぁ君だから、大声出さなかったんです」
「そうか、それは助かった、じゃ、次は他触っても声出すなよ」
「・・・・」
柚布子は困惑した顔つきではなく、久世のいうことを暗黙に了解しているようにも取れる微笑で久世を見ていた。

バーテンダーが久世と柚布子の飲み物をカウンターに置いた。 それを互いに取って掲げた。
「取りあえず、お疲れさん」
「おつかれさまです」
久世の言葉に柚布子も応え、互いのグラスを合わせた。

飲み物を口にすると、二人ともグラスをカウンターに置いた。 すると久世が隣の椅子に置いてあった赤い手提げ袋を柚布子に手渡した。

「可愛い袋、なーにー? まさか、プレゼント?」
「その、まさか・・・・ んな訳ねーだろ」
柚布子は少しガッカリした顔になったが、手提げの中身を覗いた。
「出して見て」
久世の言葉に促されて柚布子は中の物を取り出した。

それは、いつも目にする仕様書の束と折りたたまれた図面であった。 柚布子は一番上の取り纏め表に目を通した。 久世の会社から手配されるものには決まってこの取り纏め表があり、それから書類が展開されてシステムが手配されるようになっている。 それを大体は久世や遊佐と打ち合わせて、遊佐が仕上げていた。 今回も遊佐が取り纏めたものと疑わなかった。 その先入観が後でとんでもないことになることを柚布子はこの時気付くはずもなかった。

「もう、ちゃんと出来上がっているなら、営業に渡すだけで良いのに」
柚布子は書類を見ながらそう言った。
「おまえさんだけじゃなくて、営業も足運ばねーからさ」
「相すいません」
「営業呼びつけて渡せば良かった? ま、そうすれば今日逢わずに済んだかもな」
「もう、そんなこと言って・・・」
「なに、俺に逢いたかった? 愛しちゃったか?」
「・・・・」
柚布子は嬉しかった。 久世のお陰で久世の会社からの取引が増え柚布子の株が上がっているからだ。 そして、また労せずに受注が決まった。 SI会社の時も同じような受注であるが、こうも効率が違うものだと感心した。 もっとも久世の会社では久世の意を汲んで処理する遊佐があっての事だと柚布子も分かったいた。
それに比べるとSI会社は組織で動くので重盛が奮闘している割には仕様が纏まるのに手間が掛かっていた。


「俺に逢いたかった?」そう聞かれたことが何より嬉しかった。 そう聞くということはそれだけ柚布子のことを気遣っているからこそと思ったからである。 「愛しちゃったか?」は今までも久世流のお世辞で何度か聞かされていて、流していたが、今日は心にその言葉が留まったような気がした。


「でも、ちゃんと営業に手配のメール出しておいてよ」
「ああ、出したよ、丁度、おまえさんが会社出たくらいにな」
「そう、それなら安心だわ」
「書類の現物は、今夜、中務柚布子にベッドの中で渡しておきますって付け足しておいたよ」
「もう、まぁー君ったら、嘘つき」
柚布子はこれも怒るのではなく、いつものからかいのことのように微笑んで応えていた。 もっとも柚布子より久世の会社の方がこの店から遠く、先に店に着いているので柚布子が会社を出た頃に久世がメールを出すのも不可能なのである。 だからメールの内容も嘘ということである。

「まあ、まあ」
「もう、また、そういう悪い嘘ばかり言って」
「じゃ、今度は嘘じゃないようにするさ、おまえさん次第だけどな」
「え?」
「おまえさんの好きなバックでな」
柚布子はいつもの久世の調子だがいささか過激であるとは薄々感じていた。 だが、今迄の久世との会話の慣れと久しぶりに逢ったというギャップが過激さを許容してしまっていることに気が付いていなかった。

「また、そんな目をする、本気か?」
「・・・・」
「悪かった、悪かった、謝るよ、だから、もうその書類仕舞えよ」
柚布子は書類を自分のバッグに仕舞おうとした。 しかし、どう見ても柚布子のバッグには入りそうになかった。

「その手提げに入れて持って帰っていいよ、何の為に俺がその手提げ用意したと思っているんだよ」
柚布子の仕草を見て久世が空かさず言った。
「ありがとう、まぁー君、そんなことまでしてくれて」
柚布子は嬉しかった。 久世の得意の口説き術かも知れない。 散々責めて、不意に優しくされるとその優しさが倍以上に感じることを。 しかし、普通以上であることには変わりはなかった。

「だって、さ、その、おまえさんのくたびれたバッグじゃ底抜けて書類を道にばら撒いちゃうだろ?」
「もう、ちゃんと、底はついてますぅ」
「それに、その、熊のマスコットも汚れて白熊が月の輪熊になってるみたいじゃん」
「失礼ね」
柚布子は少し本気に怒った。

「ま、大事にしろや、そのバッグ、思い入れがあるんだろうから」
久世は急に声を落として真面目な表情になった。
「うん」
柚布子はまたしても久世の緩急にしてやられたと思った。 思い入れのあるバッグに無理に詰め込むようなことがないようにと、ましてやバッグに思い入れがあることまで見透かされているのだから・・・・
  1. 2014/11/02(日) 08:57:00|
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序破急 - 序の45 夫の知らない妻(7)

二人は世間話を少ししながらグラスを傾けたが柚布子はグラスを干すことは無かった。

「ところでさ、以前紹介したネイルサロン、行った?」
柚布子は首を振った。
「明日、時間が取れたから行こうと思うの」
「そっかー、ちゃんと指名しろよ、雄太を、お姉キャラだけど、腕は確からしいから」
「うん、指名してあるわ」
「その、ネイル最後に逢った時と同じだもんな、ってことは結構忙しいってことか、やっぱり」
「ありがとう、まぁー君、気が付いてくれて」
「何が?」
「結構、忙しいってこと」
「ああー、そう忙しいから、旦那とご無沙汰は嘘じゃないと思っただけさ」
「もう」
柚布子は悪戯っぽく見つめた。

「それに」
「それに、何?」
「ここで紹介したイケメン業者とも連絡取ってないみたいだし」
「連絡する訳ないでしょ、用無いんだから」
「あれ、冷たいな、仕事じゃなくて、良かったのに、だってイケメンで好印象だって言ってたじゃん」
「・・・」
「あいつ、バック得意って、言ってたぜ、 おまえさん好みだろう?」
「・・・」
「旦那以外とはバック専門だって、違ってないよな?」
「まー君、私、帰る」
柚布子はバッグと手提げを持ってカウンターのスツールから降りようとした。


「まあ、まあ、待てよ、未だ渡す物があるんだから」
柚布子は本気で帰るつもりであった。 しかし、久世の言葉に反射的に動作を止めた。 柚布子の身体は責められた後には良いことがあることを学習してしまったようである。

「これは、正真正銘のプレゼント」
久世はポケットから白く光る小さな四角いペンダントを取り出し柚布子に渡した。
「わー、嬉しい、これプラチナ? それとも銀? かしら」
「ばーか、アルミだよ、見れば分かるだろ?」
「なーんだ」
柚布子は手に取るとそれが小さな四角いアルミ片ではないことが直ぐに分かった。 そして、そのペンダントには『U5』と『Maa』の刻印が別々の面に彫られていた。 それが何を意味するか柚布子には直ぐ分かった。

「アラブの職人がさぁ、門前通りの角で露天出しててさぁ、冷やかしているうちに買わされちゃってさ」
「そうなんだ」
「漢字は流石に活字が無いので彫れないからさ、それに『柚布子』って彫ったらマズイだろ?」
確かにそうである。 そうでなくても家では着けられないと柚布子は思った。


「貸して」
久世は柚布子の手からペンダントを取ると、柚布子に近づき柚布子の首にペンダントを着けた。 いままでの付き合いの中で一番接近した場面かも知れない。
「おまえに、首ったけ、なんてね」
久世はペンダントを留め終わると、手に掛かった柚布子の髪をそっと撫でながら手を引いた。 柚布子はその手に頬ずりしたい衝動を必死に堪えていた。 そして、
「ありがとう、まぁーくん」
「ん、だから、まぁー君じゃねーだろう」
柚布子は掛けられたペンダントを親指と人指し指とで挟んでそれを実感していた。

「それ、着けたまま混浴温泉入るなよな」
「え?」
「鍍金とはいえ、黒くなっちゃうからな」
「やっぱり、アルミじゃないのね」
「アルミだよ、黒くなるアルミ、硫黄のような酸に浸かると黒くなるアルミ」
「また、嘘ばっかり」
「嘘じゃないさ、じゃ一緒に混浴で確かめるか?」
「何で、混浴なの?」
柚布子はまた久世流の話術だと分かっていたが、そのままその話に合せた。


「さて、おまえさんも、これ以上飲む気ないみたいだから、引き上げるか?」
「うん」
二人は割り勘で会計を済ませ店を出ると、地下街を並んで改札口まで歩いた。


柚布子の乗る路線の改札口に着くと柚布子は改札を入り、振り返った。 そこには久世が片手をポケットに入れ、もう片方の手で小さくバイバイをしていた。 柚布子も同じようにそれに応えた。


柚布子は自宅とは反対方向の電車に乗った。 会社へ戻る為である。 書類を渡された時にそう決めていた。 だからビールを一杯しか飲まなかった。

会社に戻ると事務所の部屋には誰も居なかった。 周りの机を見ても誰かが勤務している様子では無かった。 柚布子は久世から預かった書類を机に広げると、酔い覚ましの為に自動販売機コーナーに向かった。 一杯とはいえ飲んだ後の仕事であるから、あまり褒められたことではない。 柚布子は同僚や上司に見られないことでほっとした。

缶コーヒーを一口飲むと、トートバッグの中からノートパソコンを取り出し起動させた。


メールを立ち上げると、新着メールが2件入っていた。 1件はあろうことか久世からだった。 メールボックスへの着信時間を見ると。 何と、柚布子が会社を出た後でショットバーに着く前であった。 久世の言った通りであった。

柚布子は急に指が震えた。 ここまで久世の言う通りだと、ベッドで書類を渡すということが書かれているかも知れないのである。 メールでも冗談をそのまま書くのが久世流である。

果たしてメールの内容は;
『メールで送れない図面の元本は、本日打ち合わせに来てくれたゆうこりんに預けましたので受け取って下さい。

以上、宜しくです。

○○○システム株式会社
久世 昌哉』
であった。 柚布子はメールの内容が先ほど聞いた物と正反対なのでホットした。
「もうっ」
柚布子はそう呟くとペンダントを触ってまた親指と人差し指で挟んでそれを実感していた。
そして、もう一通は担当営業からのお礼の返信メールであった。


柚布子は図面をコピーして関係者に配り、手配リストを作成して営業からの返信メールのスレッドで社内の関係者に手配した。 手配リストも久世からのメールに添付されいたエクセルを編集して社内向けにするだけなので楽だった。 柚布子はあまりにも順調に進む手配に重要な事を忘れていた。

それは、社内レビューであった。 さらに運の悪いことに展示会で忙しいことも有り、他の者もその手順が抜けていることを指摘せずに手配されてしまうことになるのである。

柚布子はペンダントを外すと机の引き出しに仕舞い、帰り仕度を始めた。




自宅の最寄駅に着くと流石に疲れが出て来た。 少し重い足取りで改札口を出ると、
「柚布子」
柚布子を呼び止める声が聞えた。

英生であった。 偶然にも同じ時間に帰宅したのであった。
「あなた、遅くなってごめんなさい」
「何が?」
「今日、急に、手配しなきゃならない案件があって、遅くなったの」
「そーなんだ、お疲れさん」
「うん」
柚布子は久世と逢ってたことを少し後ろめたく思い、謝った。 以前も久世といつものショットバーで飲んで帰ったことがあったが、夫より後に帰宅することは無かった。 勿論、会社に戻らなければ先に帰宅出来ていたのである。

久世と遊んで遅くなったのではなく案件の手配をしたが為なので、仕事で遅くなった訳だが、それは久世の為に早く手配したいという柚布子の思いであったというならば、久世の為に遅くなったと言える。

「帰ったら、直ぐに夕飯作るわね」
「いや、今日はラーメン、食べて帰らないか?」
「え?」
「折角、こうして二人になったんだから」
「うん」
柚布子は英生の提案を断るはずが無かった。 だが、夫と並んで歩く柚布子は久世と地下街を並んで歩いた時より離れて歩いていることに気付いていた。

  1. 2014/11/02(日) 08:57:55|
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序破急 - 序の46 有給休暇

英生がゴミ袋を持って出掛けるのを柚布子は見送った。 今日、柚布子は有給休暇を取っていた。 自宅マンションのインターフォンの入れ替えがあるからである。 マンションのインターフォン工事は1ヶ月前の休日に一斉に行われていたが、柚布子たち夫婦は親戚の用事で出掛けていたのでその時に工事していなかった。 今日がその時に不在だった部屋の工事日である。

マンション全体は新しいインターフォンシステムに更新されているので、柚布子の部屋のインターフォンはその間使えていなかった。

英生は派遣社員である為休みが取り辛い。 社員の柚布子が立ち会うことになった。


インターフォンの工事は午前中というだけで詳細の時間は決まっていない。 柚布子は簡単なメイクだけは済ませて洗濯や掃除をした。 そして、あることを始めた。

それは、久世とショットバーに行った夜は英生が帰宅するまでの間行っていたことである。 昨夜は帰宅が英生と一緒になったので行わなかった。 だから、それをこれからするのである。

念の為、戸締りを確認してカーテンを閉めた。 しかし、一旦閉めたカーテンをレースのカーテンだけに戻した。 10階建てのマンションの5階である。 いつもは夜行うのでカーテンが開いていても部屋の電気を消せば暗闇であるが、今は午前中なので明るい。 明るい時間帯の行為は初めてで、刺激的かも知れないと思った。

いつもは、英生が何時帰宅するかも分からないので大胆なことは出来ない。 だが、今は違う・・・


柚布子は寝室のドレッサーの鏡をベッドの方へ向けて、ベッドから身体が映せるようにした。 次に、ドレッサーの引き出しからあまり使わないヘアーブラシを取り出し、洗面所に持って行き無水アルコールで柄の部分を消毒した。 それを寝室のベッドの枕元に置いた。 ヘアーブラシを準備するようになったのはつい最近のことである。 そして一旦リビングに戻った。


リビングのソファーに座ると、ワンピースの胸元から左手をインナーの下へ入れた。 更にブラジャーの淵から指を滑り込ませ乳首を挟んだ。 そして、指を動かし始めた。



「あ、あーん、だめよ」
自ら声を出して、喘ぎ、舌で唇の淵をなぞった。 その唇に右手の指を這わせ、唇を弄った。 その指を舌が追いかける。 ついに、舌が指に追いつき指は唇に包まれて舌で弄ばれた。 柚布子の脳裏にはディープキッスをしている光景が浮かんでいるに違いない。

「あっ、だめっ」
柚布子は硬くなった乳首を指で揉んだ。 そして掌全体で乳房を包み揉み始めた。 唇を離れた右手は右の太腿からミニのワンピースの中へと容易に滑り込んだ。

「あっ、いけないわ」
右手は太腿から脚の付け根へまっしぐらに進み下着へと到達した。 柚布子の両脚はきつく閉じられているが、手の侵入と共にゆっくりと開いていった。

「そこは、だめっ」
右手は下着の縁から懸命に中へ入ろうと演出している。 暫く演出した後、下着の中へと滑り込んだ。 そして、指にしっとりした湿り気を感じていた。



いつもは英生が帰宅することを想定してこれ以上リビングで行為をすることは無いが、今は大胆に出来る。 柚布子はパンティーを脱ぎ、フローリングの上へ落とした。


明るい日差しの中での自慰行為。 柚布子にとっては初めてであった。 柚布子はソファーに腰掛けたまま窓の方へ脚を向けて、外が見える姿勢になった。 外には空しか見えない。
その空に向かって脚を広げ右手で股間を揉んだ。


「あ、いやん」
陰核を爪の先で掻いた。 同時に左手で乳首を揉んだ。 自然と腰が前へ突き出していた。
柚布子はその行為に暫く耽った。 しかし、柚布子の身体はそれだけの行為で終わるように出来ていない。

柚布子は指で大陰唇を挟み揉んだ。 それに続き小陰唇を今度は広げ。日差しの下へ晒した。 太陽からは柚布子の身体の奥まで見えているに違いない;

「あ、あん」
柚布子は小陰唇を広げ膣口を露にした。 そこに指を入れて揉んだ。 もっと奥まで指を差し込みたい衝動を堪えていた。 それは、柚布子のネイルが邪魔して奥まで差し込めないのである。 仕方ないので小陰唇を指で押さえるようにして揉んだ。 時折、膣口を広げ、胸から左手の応援を得て陰核や広げられた膣口をネイルの先で掻くことを繰り返した。

小陰唇から指が離れるとと指から糸を引いたように柚布子の陰汁が伸びた。 もはや、この状態を繰り返して居られるはずかない。


柚布子は寝室に行くと、生まれたままの姿になりベッドにうつ伏せにダイブした。 誰かにベッドに放り投げられた光景でも想像したのであろうか・・・・

「あー」
柚布子は溜息を漏らし、腰をゆっくりと持ち上げ下半身だけ膝立ちの姿勢になった。 顔は掛け布団に埋もれているが横を向いてドレッサーの鏡を見つめている。 そこには下半身だけの自分が映っていた。

「あー、見ないでぇ」
その下半身を誰かに見られているかのように天井に突き出した。 そして、片手で小陰唇を開き、膣口を天井に見せつけた。 そこは既に潤いギラギラと光っていた。 その光る膣口に指を入れ潤いを指に絡めると陰核に塗り、指で捏ねた。 すると、潤いは更に増した。

柚布子はその臀部を誰かに掴まれえいるかのように振り、小陰唇をこれでもかというくらい押し広げたり、窄めたりした。

柚布子の陰汁は小陰唇から溢れてくるのではと思うくらい潤んでいた。

いつまでもこのままで居られるはずもない。 身体は快楽を求めている。 柚布子は枕元のヘアーブラシ引き寄せ、ブラシの部分を握った。 そして、柄の部分を恥丘の方から小陰唇へと這わせた。

柚布子夫婦はバイブを使うプレイをしていない。 だからバイブを持っていなかった。 内緒で買うつもりも柚布子にはない。 しかし、夫意外の男根の代わりのバイブのそのまた代用品が今は必要である。 ヘアーブラシの柄がそれである。

「あ、だめよ、それは」
柚布子は自ら甘い言葉を吐くことで陶酔を深めた。 夫以外の男根は陰核を擦り、小陰唇をなぞった。 英生がいつも行っていることと同じである。 浮気の経験の無い柚布子は夫のする行為と同じ事を代用品に求めた。 しかし、柚布子が覗いている鏡の中は英生ではない男の男根が柚布子を堕とす寸前の光景なのに違いない。

「あー、許してー」
誰に許しを乞うのか。 不義を働くことなのか、堕とさないでくれということなのか。
代用品の男根は膣口に宛がわれ、柚布子の貞操を破ろうとしている。


柚布子は実際のセックスのようには昂ぶらないことを知っていた。 柚布子を貫こうとしているものは代用品のそのまた代わりである。 柚布子は肉体的な昂ぶりの代わりに精神的な満足を得ようとしていた。 この体位がそうである。 夫の英生はノーマルな体位が多いのでこの体位は妄想の時だけに取って置きたかった。

柚布子の本心は妄想の中の男の為にだけこの体位を取りたかったのかも知れない。

柚布子はドレッサーの中の自分の下半身と脳裏の男性を重ねた。 そして妄想の世界へ入って行った。



柚布子の臀部は男の手に掴まれていた。 その手は無骨でゴツゴツした肉体派とは程遠く白く細長く冷たい物であった。 そして、腰を密着すべく狙いを定めている。

男は柚布子のヴァギナを押し広げるとペニスをそこにあてがった。
「柚布子、いいね?」
男は柚布子に最終確認をした。 柚布子は小さく頷いた。 すると、男は腰を少し押し出した。
「あ、あー」
柚布子の悦びの声が部屋に響いた。

男は、ペニスのをカリの部分まで埋め込むと小刻みに腰を振動させた。 ペニスを包んでいた襞にあっという間に柚布子の陰汁が染み出て来た。 それは奥までペニスが挿入されることを催促しているかのようである。

「柚布子、じゃ、いいんだね」
男は腰を進めペニスを柚布子の中に埋め込み腰を柚布子の臀部に密着させた。

「あ、あーん」
柚布子は先ほどに増して大きな悦びの声を上げた。
男はゆっくり腰をグラインドさせながら、腰を律動させた。

「あ、あ、あん」
柚布子の鼻から抜けるような喘ぎ声が男の腰の律動に合わせて漏れている。 柚布子は時折胸を揉まれ、その手で感じ易くなっているクリトリスをも揉まれていた。 臀部を天井に突き出した格好で男に貫かれていた。 その光景に自ら昂ぶっていった。


「あ、あ、いいー」
男の腰の動きが激しくなってきた。 柚布子も歓喜の喘ぎを加速させていった。 柚布子のヴァギナは激しい動きに歪み、クリトリスは強く指で揉まれて逝きそうであった。 そして、
「ゆ、柚布子、愛してやるぞ」
「まっ、昌哉さ~ん」
柚布子は妄想の中の男の名前を叫び身体を硬直させ、背中を仰け反らせた。 そして目を閉じて余韻に浸ろうとする中、異様な振動と人が呼ぶような声を遠くに感じていた。

  1. 2014/11/02(日) 12:42:51|
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序破急 - 序の47 インターフォン

「まっ、昌哉さ~ん」
柚布子は久世の名前を叫びながら身体を硬直させた。 名前を叫ぶことで精神的に満足させていた。 そしてその余韻に浸ろうとしていると、異様な空気の振動と人声のような音を感じた。

余韻の中でその振動が自分の部屋の玄関ドアを叩く音で、誰かが名前を呼んでいる声であると気が付いた。

柚布子は正気に戻った。 状況から判断すると、インターフォンの工事業者が尋ねて来たに違いないのである。 習慣とは恐ろしいものである。 人が尋ねて来るのであればインターフォンのチャイムが鳴ると思っていた。 しかし、柚布子たちの部屋はチャイムが鳴らないということを忘れていた。

柚布子は慌てた。 今、全裸である。

ベッドの脇に脱いだインナーとワンピースを取りあえず着けた。 そして玄関ドアへと手櫛で髪を整えながら向かった。


玄関のドアスコープから外を覗いた。 もし、工事業者であれば暫く待ってもらって身だしなみを整えようと思った。 柚布子の頭の片隅に、もしかすると音は空耳だったかも知れないとの思いがあったからである。

ドアスコープの外には誰もおらず、何の物音もしなかった。 空耳だったのである。

柚布子は念の為ドアの外を確かめる事にした。
ドアのチェーンを外しロックレバーを開放にした。 レバー式のドアノブを下に降ろし、ドアを押し開けた。 機密性の高いマンションのドアは空気が通う瞬間まではとても重く力が要る。

ドアを開けた瞬間、柚布子はドアと一緒に外に出てしまった。 と、その時確かにドアの前には人は居なかったが、インターフォン工事の関係者だろうか、二人の若い作業服姿の男性が他の階へ行くつもりでエレベータの前に居たが、勢い良く開いたドアの方を振り返った。

作業員は開いたエレベータの扉には目もくれず、一目散に柚布子の部屋の前にやって来た。 

「おはようございます、 またお留守かと思いました」
「すいません、奥にいたものですから」
柚布子は咄嗟に答えた。 もし、作業員が居たならドアを開けずに少し待たせて身だしなみを整えてから中に入れようと考えていたが、誰も居ないという想定でドアを開けたところ作業員が来てしまったのでそれが出来なくなった。
作業員も工事のことは事前に通知済みで部屋の前で待たされたのだから、直ぐに中に入って作業が出来ると思っていた。

「508号室、これから作業に入ります」
一人の作業員がトランシーバーで管理人室の作業員にでも連絡をしたのであろう。 もはや、柚布子は作業員を待たせることは出来ない。

「どうぞ」
柚布子は作業員を部屋の中へ入れた。
「失礼しまーす」
一人の作業員が養生シートを抱えながら柚布子に続いた。 最初は下を向いて入って来た作業員だが、急ににやけた表情になり視姦するかのように目線を身体に這わせたのを柚布子は感じた。

作業員は居間に来るなり独特な匂いを感じ取っていたようだ。 それぞれの世帯には個性のある匂いが付き物であるが、あの匂いはどこでも同じである。 作業員は柚布子の陰汁の匂いを嗅ぎ付けたに違いない。 そして、柚布子の姿を観察した。 特にミニのワンピースの裾から膝にかけて視線を何度も這わせた。 柚布子は気が付いていないが、作業員には両方の膝頭から脛にかけて薄っすらと肌が腫れるほどではないが、赤味を帯びていることがはっきり見えていた。

部屋着姿であるのは当たり前である。 だから生脚であっても不思議ではない。 だが、作業員は柚布子が纏っている服が少ないことに気が付いていたかも知れない。 インナーとミニのワンピースのみである。 しかも膝頭から脛にかけて擦れたように赤い。 それは四つん這いの姿勢でいたことを物語っている。 そしてその臭いはワンピースの裾の奥からも漂っていたかも知れない。

もう一人の作業員は玄関の外で玄関のインターフォンを壁から外していた。 中に入った作業員はリビングのインターフォン周りを養生シートで養生を行っていた。 柚布子はそれを少し離れて見ていた。

「工具を取ってきます」
中に入った作業員は養生を終えるとそう言って玄関に向かった。 そして何かひそひそと一言二言外の作業員と言葉を交わして工具箱を提げて戻って来た。 柚布子はまだどうしていいのか考え付かずにただ立っていた。

作業員は手際良く壁のインターフォンを取り外した。 養生など必要のないくらいの手際良さであった。 すると玄関からもう一人の作業員が新しいインターフォンを持って入って来た。 柚布子に目礼するその顔は初対面の時とは違ってにやついていた。

「古いコードを引き出しますので、もう少し養生します」
そう言うと反物のように丸めていた養生シートをリビングの中へ伸ばした。 と、その時作業員の手が止まった。 作業員の視線の先には白い小さな布が落ちていた。


柚布子もそれに気が付いた。 寝室から出て来る方向からは見えない位置にそれは落ちていたので柚布子はすぐに気が付かなかった。 柚布子は咄嗟にワンピースの上から股間を押さえようとするのを止めた。
もし、それを見られたら自分がその小さな布切れを身に付けていないことを白状しているようなものである。

作業員は思ったに違いない。 今、この女を押し倒してミニのワンピースを捲れば、何も身に付けていない生身の女体が現れ脚を広げ容易に女の体内に自分の欲望を突き刺すことが出来ると。 一人でも可能な状態だ。 もう一人と共謀すれば、隣の寝室に連れ込みベッドで抵抗できない状態で思う存分楽しむこが出来る。

柚布子もまた、同じように危険な状態であると感じていた。 なんとか口実を考えて他の部屋で身だしなみを整えようとしたが、リビングは中心に位置しているので何をするにも悟られてしまう。 何も気が付かないフリをするのが最善だと思い立ち尽くすしかなかった。

柚布子には作業員の背中に目があるかのように感じていた。


作業員の手際は相変わらず良かった。 一人の作業員が準備を済ませたのか再び玄関へと戻っていった。 そして掛け声が聞えるとリビングの作業員は古いコードを壁からみるみる引き出した。 そのコードは養生シートの上へ長い蛇のように畝っていた。 そして。その蛇の先には小さな布切れが柚布子のミニのワンピースの中は何も着けていないことを物語るように落ちている。

あと少しで蛇が柚布子の布切れを飲み込むのではないかと思うくらい近づくと、蛇は止まり、その根元に新たな蛇の頭が現れた。

古いコードを通線代わりに新しいコードを玄関から通したのである。 同じ技術系の柚布子はそのやり方に感心していた。

作業員が新しいコードの先端のビニールを剥がすと、そこには幾つかのコネクターが既に付いていて新しいインターフォンの裏に差し込んでボタンを操作した。 そして暫く操作した後、壁に取り付けた。

取り付けが終わるとトランシーバーで連絡して柚布子の方を振り返った。
「奥さん、取り付けが終わりましたので説明します」
「はい」

柚布子はインターフォンの前へ来ると、作業員と肩を並べるように立った。 作業員は柚布子の胸元から中へ視線を這わせた。 インナーとミニのワンピース以外にその下に着衣がないことが手にとるように分かった。


築15年以上のマンションのインターフォンは映像記録付きの最新のものに交換された。 柚布子が使い方の説明を受けているうちにもう一人の作業員が養生を片付けていた。 最後に玄関のインターフォンの説明を聞くと所定の書類に印鑑を貰って作業員は次の部屋の作業へ向かった。

柚布子は気恥ずかしい時間が過ぎてほっとしたに違いない。 だがリビングに戻った柚布子に新たな事件が待ち受けていた。
 


「人妻のマン汁たまんねぇ~な」
「朝っぱらからオナ狂いだからな」
「犯らせてくれるかもな、お、その5階に停まるぞ」
ここは一般のマンション、ビジネス用ビルのエレベータに比べれば昇降速度が遅い。 幅広い年齢層に対応する為、停止してからの扉の開閉速度も遅い。

柚布子は外出の為エレベータの前で待っていた。 その人声はエレベータの降下と共に降ってきた。 エレベータの扉の奥からの人声なので周りに聞えるほどではなく、エレベータの前で待っている人にしか聞えなかったであろう。

柚布子はその会話が自分の事に違いないと思った。 だから、エレベータの中の人と顔を合わせたくなかったが、エレベータの扉は開く寸前である。 もし、開いてエレベータに乗らなかったら不自然だし、扉の前から離れる時間もない。 柚布子は聞えなかったフリをしてエレベータに乗るしかなかった。


インターフォンの工事作業員が部屋を出て行った後、柚布子はその重大なことに気がついた。 インターフォンの工事中には恥ずかしい思いを隠しつつ平静を装っていた。 その原因となった小さな布切れ。 柚布子が不用意に脱ぎ捨てたままで、作業員に発見されたかも知れない下着。 それをいの一番に片付けようとしたがソファーの陰にそれは無かった。

状況からみて柚布子がインターフォンの説明を受けている間に養生シートを片付けた作業員が一緒に持ち帰ったに違いないのである。 物が物だけに、作業員を追いかけ問い詰められない。 それは柚布子に恥ずかしい行為の最中だったことを逆に弱みとして握られるかも知れないという思いがあったからである。

これ以上係わらなければ何事も起こらないと思った。 現にどういう経緯のものであろうが、窃盗なのであるからそれを盗んだ者がそれをネタに何かしてくるとも思えない。 ましてや窃盗が知られれば職を失うことは間違いないのである。 仮に警察沙汰にならなくても、その手の業者は住居内のものに手を出さないように常に教育していることになっているからである。

柚布子の恥ずかしい行為を盗まれた下着からは証明出来ない。 だから大人しくその下着を諦めればそれ以上大きな事件にはならないのである。

柚布子は作業員と顔を会わせたくはなかったが、ネイルサロンの予約があったので出掛けなくてはならなかった。


果たして、エレベータの扉が開くとそこには柚布子の部屋のインターフォン工事をした作業員たちが乗っていた。 一人は初対面と同じように養生シートを丸めて抱えて手には工具箱を提げていた。 そして、もう一人は古いインターフォンやゴミをビニールに入れて持っていた。

柚布子は軽く会釈をしてエレベータに乗ると、身体を反転させて外を向き「閉」の釦を押した。 5階より下でエレベータに乗って来る者は無くエレベータは1階まで降りた。 その間皆無言だったが、作業員たちがにやにや笑いを堪えているのが息遣いで感じていた。

エレベーターが1階に着くと柚布子は振り返らずにエントランスの外に出た。 柚布子の姿が見えなくなると高らかに何か話す声が聞えた。 柚布子は自分の痴態を話し始めたのだと思った。 そして足早に駅へと向かった。
  1. 2014/11/02(日) 12:43:57|
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序破急 - 序の48 ネイルサロン

柚布子は朝から落ち込んでいた。 インターフォン工事の一件である。 せめてネイルサロンで気分を変えて落ち込みを取り戻すことにした。



初めて来るネイルサロンである。 久世の紹介である。 久世にその趣味があるのではなくネイリストと知り合いだからである。

柚布子は受付で名前を告げると待合室に通された。 暫くすると、受付の女性が5番と書かれたパーティションで区切られた部屋(?)に通された。 そこは、他のサロンと変わりない部屋であった。

「アサミさん5番にお客さん」
受付の女性が入って来た誰かに話しかける声が聞えた。 5番は自分の部屋であるが、『アサミ』は久世に紹介された人ではない。 柚布子は違うと思い入って来た女性に間違いであることを告げるべくドアの方に向かって立った。

「ごめんなさーい、待ちましたぁ?」
入って来たのは女性のネイリストではなく男性であった。 しかもその話し方でお姉キャラであることが直ぐに分かった。

「久世さんの紹介の柚布子さんね?」
柚布子は頷いた。
「そう、よかった、じゃ、座って」
「あのぉ」
柚布子は座りながら、久世から紹介された人ではないことを告げようとした。
「久世さんから紹介されたのはアサミさんではありませんが・・・」

「あら、聞えた? ゆーた(雄太)でーす、よろしくね?」
「はあ・・・」
「アサミはお店での名前なの、分かる?」
「あ、そうなんですか」
柚布子は店と聞いて全てを理解した。 そして雄太はバッグの中から名刺を取り出し柚布子に渡した。

「お時間大丈夫? じゃ見せて?」
柚布子は雄太に手を差し出した。
「まあ、なかなかじゃない、今度はどうする? 久世さんからは任せるって言われているけど・・・」
「はい、その通りにお願いします」
「分かったわ」
雄太はリムーバーをコットンに付けると柚布子のネイルに当てた。 そして古いジェルを丁寧に剥がしていった。

「あの、久世さんとは、どんなお知り合いですか?」
「聞きたい?」
柚布子は頷いた。 こういう場所では無言でいることが稀である。 仕上がるまでの間のトークも楽しみの一つだからである。

「別に知り合いじゃないの、 お店にねお客さんに連れられて来たのね、だから、お店とお客の関係でしかないのよ・・・」
雄太はそう話しながら柚布子の指を自分の鼻に近づけて匂いを嗅いだ。 そして少しにやけた表情をして話を続けた。
「オカマは趣味じゃないと思うけど、話を合わすのは上手な人よ、結構盛り上がったわよ・・・・ そこでね貴女の話も出たのよね」
「そうなんですか、で、どんな話だったんですか?」
「怒らないでよ、お酒の席での話しだから」
「ええ」
「私が昼間はネイルサロンで働いているって言ったら、私に頼みたい欲求不満の人妻が居るって言うのよ、なんでも旦那とは随分ご無沙汰な人妻なんですって、でも、ネイルが印象的だから、もっと男好きするネイルにしてくれって」
柚布子は思わず両手を引いた。

「冗談よ、男好きするネイルなんて出来ないわよ、私は貴女に似合うネイルをするわよ、任せて大丈夫だから、ところで久世さんは私の事何て言ってた?」
柚布子は再び両手を雄太に委ねながら話した。
「美大出のセンスの良いネイリストが居るから、頼んで見ろって、その人の手に掛かったネイルアートを見てみたいって」
「正解!! さすが久世さん、初対面からそういう眼力のある人だと思ったのよね」
雄太はクイズ番組のMCのようにはしゃいだ。 そして、古いネイルを全て落とすと柚布子の素の指が現れた。 それはネイルアートを施さなくても充分魅力的であった。

雄太もそう思ったのか、柚布子の素の指を眺めてうっとりしているようだった。


「ところでさぁ、立ち入ったこと聞いてもいい?」
「どんなことですか?」
柚布子はなんとなく話の流れから夫との夫婦生活のことだろうと予想した。
「久世さんとはもう寝たの?」
「え?」
予想外の質問に柚布子は当惑した。

「あら、そういう関係じゃないみたいね、ま、仕事柄初対面でそんな関係になっていないとは思っていたけど・・・」
柚布子は久世との関係を誤解されていないことに安堵した。
「御免なさいね、変な事ばかり聞いて、ほら、私たちって男女の線越えてるでしょ? だから未婚だの既婚だのって区別していないのね、男と女は寝たか寝ていないかなの、ホホホ・・・」
雄太が笑うので、柚布子も釣られて笑ってしまった。

「人妻に私のネイルアートをさせたい男、その男の勧めでネイルをする人妻・・・
どうみても二人は相思相愛としか思えないでしょ?」
柚布子は頷く代わりに首を傾げた。 しかし、目をじっと見ている雄太には見透かされていると思った。

「さてと、ベースコートは済んだわ、ちゃんと乾くまで手をそうしててね
ところでペディキュアはどうしてるの? 見せてくれる?」
柚布子は雄太が信用出切る人だと思い、任せた。

雄太は柚布子の座っている椅子を回転させると、その足元に膝を突いて座った。 そして、柚布子のヒールを脱がせた。
雄太はストッキング越に柚布子のペティキュアをチェックした。

柚布子は指が乾くように手を伸ばして何も出来ない格好をするしかなかった。 すると、雄太はペティキュアをチェックしていた手を脚の甲から脹脛へと這わせ片方の手を脛に当ててマッサージを始めた。

驚いている柚布子に
「あたしね、マッサージの修行中なのね、ほら、この業界ってお店だけじゃ遣っていけないじゃない? だから・・・・ 一応、免許皆伝の手前の腕前だから大丈夫よ」
「じゃ、マッサージでも稼いでいるんですか?」
「まだね、今は一応、美大を出た経験生かしてこれね、でも皆男に貢いじゃうのね」
雄太は笑いながら話しているが、柚布子は合わしていいか分からず
「大変ですね」
と、だけ応えた。

雄太の手は膝裏から腿へとマッサージをした。 柚布子は思わずスカートの裾を押さえた。 すると雄太はもう片方の脚を同じようにマッサージした。 そして今度も腿へ手を伸ばした。
「心配しないで、女同士でしょ?」
柚布子の手が緩むと雄太の手は太腿辺りまでマッサージをした。 雄太からは柚布子の下着がはっきり見えている。 柚布子も不思議な気分でマッサージを受けていた。 本当の女同士でも恥ずかしい。 下着が見えないようにブランケットで隠したりする。

雄太はまだ男性に違いないが、中身は女性に成りきっているようだ。 その男性に見られているのがあまり恥ずかしいとは感じなかった。 女性なら下着のセンスやらで詮索されるが、男はそんなことに興味はない。 逆に男は下着の良し悪しでなく単に女性のスカートの中というだけで興奮するだろうが、女性はそんなことで興奮はしないのである。
そんな、何とも中途半端な状態が恥ずかしさを打ち消しているのかも知れない。

柚布子はこのままマッサージが続くと思ったが雄太はあっさり止めて爪の状態をチェックした。 その切り替えに感心した。

「じゃ、貴女に似合う久世さんの為の仕上げをするわね」
雄太は道具箱から筆を取り出し下地のマネキュアを塗り始めた。 ベースコートの処理までは今までのネイリストとの差が判らなかったが、マネキュアを塗り始めるとその手付きの違いに驚いた。 流石美大出であると思った。

雄太が下地を塗り模様を描いている間も世間話に興じた。 そして、柚布子は今朝の一件をアレンジして話した。
「そう、それは災難だったわね、ま。男なんてそんなちっぽけなもんよね」
「・・・」
「ところでさあ、話作ってるでしょ?」
「え?」
「本当は、貴女朝から自分で慰めていたでしょう?」
「・・・」
「図星でしょ?」
「・・・」
「判るのよ」
「どうして、判るんですか?」
柚布子は反撃を始めたが、瞬殺されるのである。

「だって、爪の間からマン汁の匂いがしてたもの」
柚布子は雄太が爪の匂いを嗅いでいたことを思い出した。 そして、観念した。 それも雄太の人柄のせいかも知れない。 女性とも男性とも云えないことが何故か許せるのである。 柚布子は頷いた。

「今頃、貴女のパンティーでオチンチン擦っているわよ」
柚布子は不快な顔をした。
「そして、べっとりザーメン付けて、貴女を犯したつもりになっているわ」
柚布子には男性のそういう行動が理解出来ずにさらに嫌悪感を露にした表情をした。
「貴女も楽しんじゃいなさいよ、どうせオナするんなら」
「え?」
「作業員にザーメーン掛けられるネタでオナしちゃいなさいな」
「・・・・」
「夫の留守中に工事に来た若い作業員に身体を与える人妻なんて設定どう?
女の柔肌をまだ知らない若い男、人妻の秘部に触れた瞬間若い血潮が暴発なんて・・」
「・・・・」

「ごめんなさい、 ちょっと、調子に乗り過ぎたわね、 一応、ワタシも昔はそんなことしてたかな?」
「はあ?」
「驚いた? でも安心して、今はもう男捨てているから・・・」

そんな会話をしているうちに柚布子のネイルは完成した。 今までとは違った感性のもので柚布子も満足だった。
「なかなか良い出来だわ、これで久世さんのオチンチン握るのね?」
「もう、そんなことしませんってば・・・」
「久世さんのどんなのかアタシも興味あるわ、後で教えてね」
「もう、知らない」
だが、柚布子の頬は少女の恥じらいのように赤くなっていた。


「今度は家に来て、名刺に書いてあるから」
そして、雄太は声を潜めて
「ここ、手数料高いの、それに今度はベディキュアとマッサージを無料でしてあげるわ」
柚布子はここのネイルサロンの仕組みを雄太との会話で理解した。 ここはフリーのネイリストが場所を借りて商売しているのである。 自前で店を出せない者や自宅で商売している者が、ここで客を集めるのである。 勿論サロンを安定させる為に数名の専属のネイリストは雇っている。
改めて部屋を見渡すと監視カメラが設置されていた。 ネイルサロンのオーナーに内緒でオプション料金を貰ったりするのを監視しているのだと思った。 勿論、防犯の目的もあるだろう。

柚布子はカウンターで料金を支払った。 メンバーズカードを作るように勧誘されたが、断った。 更に勧められていると、雄太が「その人、いい人と逢う時間が迫っているから次にしてあげて」と助け舟を出してくれた。

柚布子は次回はもう雄太の家に行くことを決めていた。

そして、午前中と違って晴れやかな気分になりウィンドウショッピングを楽しんだ。 店の店員がそれとなく柚布子のネイルをチェクするのに優越感を感じていた。
帰りの電車の中でもつり革に捕まる指を誰もがチェックしているかのようであった。

だが、晴れやかな気分も帰宅するまでの間でしか無かった。
  1. 2014/11/02(日) 12:45:15|
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序破急 - 序の49 雄太の言葉

それは明らかに雄太の影響に他ならない。 雄太の言葉が頭に残っていた。

「今頃、貴女のパンティーでオチンチン擦っているわよ そして、べっとりザーメン付けて、貴女を犯したつもりになっているわ」
雄太の言葉が現実になっていた。


柚布子は全裸でベッドに寝ていた。 朝と同じように一人で慰めていた。 朝と違うのは妄想の対象が久世ではないことだ。 午前中のインターフォン工事の作業員である。

「柚布子さん、もう我慢できないよ」
二人の作業員の一人がそう言った。 二人とも全裸の柚布子を見下ろしながら、自分のペニスを扱いていた。 柚布子は二人のペニスがもっと誇張されるように胸を自ら揉んだり身体をくねらせて挑発した。

「う、逝く」
一人の作業員がそう呻くと誇張されたペニスから白い液を柚布子の胸へ放った。
「あっ、あっ、あっ」
扱きながら柚布子の胸へと白い液を扱き出した。 
そして、もう一人は膝立ちの体制になって柚布子の足元へ進み柚布子の脚を割った。 それに呼応するかのように柚布子も股間に指を這わせヴァギナを広げて見せた。
「そこに掛けていいんだね、俺も、逝く」
作業員は柚布子の茂みに向かって白い液を放った。
「うっ、うー、ふー」
この男もまた最大限大きくなったペニスを扱きながら最後の一滴まで柚布子の茂み付近に搾り出した。


柚布子は妄想の中で午前中の作業員にザーメンを浴びせられた。 柚布子の視線の先には白い布切れが転がっている。 それは午前中に盗まれたものである。 それにべっとりと汚れのようなものが付着して光っていた。 柚布子の妄想の原点である。

柚布子はそれを眺めて妄想していたが、手に取った。 そしてその一部を指で掬い乳首に塗り揉んだ。
「あ、あ、あん」
柚布子は声をげながら一人目の男の行為を脳の中でプレイバクさせた。
男が柚布子の胸にザーメンを掛けるとそれを柚布子は乳房に塗り乳首を激しく擦った。 乳首のザーメンは擦り方の激しさのあまり直ぐに乾いた。


最初はそれを眺めてネタにして自慰をするだけのはずだったが、手に取りそれを自分の身体の一部に実際に塗ることで妄想が拡大した。 それでお仕舞いにしようと思った。

だが、汚れは意外と多量で、布に染みこんだものも多い。 乳首に塗ったのはほんの一部だったが、残りのものにも手を付けたい衝動が湧いてきた。

「べっとりザーメン付けて、貴女を犯したつもりになっているわ」
雄太の言葉がまた蘇る。 柚布子の手が再びザーメンで汚されたパンティに伸びた。

「あ、あん、あ、だめー」
そう言いながらパンティーを裏返し、ザーメンが付着した部分を表にした。 そして、脚を広げその汚れの部分を股間に近づけた。 だが、手はそれ以上股間に近づけるのを躊躇しているかのように止まった。 一旦、それを遠ざけ止めようとしたが、再び近づけ、また股間直前で止まった。
柚布子は行為を続けるか迷っているかのように何度か同じ動作を繰り返していたが、
「あー」
と悲しい小さな叫びを洩らすと、ザーメンの付いた部分をクリトリスとヴァギナに擦り付けた。 貞淑な妻が淫魔な快感の誘惑に負けた瞬間だった。 そして、先程の妄想を修正した。

もう一人の作業員は柚布子の足元へ進み柚布子の脚を割った。 それに呼応するかのように柚布子も股間に指を這わせヴァギナを指で広げて見せた。
「そこに入れていいんだね」
柚布子は頷いた。すると、作業員はペニスを扱きながらヴァギナにペニスを押し当てた。 後は腰を押し出しペニスを埋め込むだけである。 しかし、
「あ、我慢出来ない、柚布子さん、逝く」
そう言うと、どくどくとザーメンをヴァギナに注いだ。


「あ、あん、いやーん」
柚布子は激しくそれを擦り付けた。 ザーメンと柚布子の淫汁とでパンティのクロッチ部分はヌルヌルの状態になった。 柚布子はさらにそれをヴァギナに押し込んで擦った。
「あ、あー、あーん」
柚布子は腰を浮かせ身体を硬直させた。 硬直の後、腰をベッドに落とし、暫くして上半身を起こした。 そして両手で頭を抱え髪を掻き分け、ついには両手で自分の両肩を抱き悪寒に震えた。

思いたったかのように浴室へ行き、パンティーを洗濯機に放り込みシャワーを浴びた。 胸と股間をソープで何度も洗った。 柚布子は少し後悔していた。 射精して時間の経った精液だから妊娠するこもないし、子宮に入れたわけでもない。

そうは言っても夫との行為はいつもゴム付きであるから、それを女性器に付着させたのは数ヶ月ぶりである。 しかも夫以外のものである。

流石に柚布子は嫌悪感が沸いて来た。 部屋着を着ると汚されたパンティーを洗濯機から取り出しビニール袋に入れゴミ箱の奥へと隠した。



それは柚布子が帰宅して夕食の支度が一段落した頃だった。 玄関で物音がした。 柚布子が不審に思い玄関へ注意深く行くと、玄関に小さな布切れのような物が落ちていた。 玄関ドアの新聞受けの小窓から落とし入れられたのであろう。 それは午前中に盗られたパンティーであった。 それを拾いあげようと、それに触れた瞬間、指にぬめり気のある感触が伝わり、柚布子は思わず、手を引いた。

パンティーのクロッチの部分に多量の精液が付着していた。 経験上一人分ではないと思った。 しかも、それが真新しいことくらい触れた温度で柚布子には判った。 柚布子はその事実に鳥肌が立った。
それは何処か他の場所で雄太の言うような自慰をし、柚布子の部屋のドアの新聞受けの小窓からに入れたのではなく、このマンションの何処か、しかも柚布子の部屋の近くで精液を付着させたことに他ならないからである。 恐らく非常階段の物陰だろうと思った。

柚布子は朝のようにドアのスコープから外を覗いた。 今度は午前中のように外に出たりはしなかった。 取りあえず盗られたものは戻って来たのでこれ以上何かあることが無いと思った。

「今頃、貴女のパンティーでオチンチン擦っているわよ そして、べっとりザーメン付けて、貴女を犯したつもりになっているわ」
雄太の言葉が頭をかすめた。 そして催眠術の暗示にでも掛かったようにベッドに全裸になった。


柚布子は暫く自己嫌悪に陥っていた。 もしかして、自分に誰かに襲われたい願望があるのかと不安になった。 そんな時電話が鳴った。

「あ、俺」
「あ、あなた」
「これから、帰るから、今、会社出るところ」
「うん、気をつけて帰ってきてね」
「何かあった?」
「え、どうして?」
「携帯出なかったから」
「あ、御免なさい、鞄に入れたままだわ」
「そっか、それならいいよ、じゃ」
「あ、あなた」
「なに」
「本当に気をつけて帰ってきてね」
「ああ、わかってる、じゃ」
  1. 2014/11/02(日) 12:46:23|
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序破急 - 序の50 以前のセッションを回復しますか?

柚布子は電話を切ると、時計を見た。 英生が帰宅するまでにはまだ時間があった。 テレビのリモコンを取り電源を入れて番組表の釦を押した。 表示されるどの番組にもお笑いタレントの名前が出演者にあり、どこも同じような番組に感じたので電源を切った。
他にすることがないか考えていると、昨日の手配の事が気になった。


柚布子はトートバッグからノートパソコンを取り出すとモバイルカードを挿入して起動した。 そして会社のメールをチェックした。 昨日手配した案件について数人の担当から質問や納期回答が入っていた。 他にもインターネットで確認したいことが出て来たが、モバイル環境でインターネットを検索するには速度が十分ではなかった。

柚布子は自宅のパソコンの電源を入れた。 起動画面に続き選択を促す画面が現れた。 それは前回のシャットダウンが予期しないものであったのでセーフモードで起動するかどうかの選択画面であった。

柚布子は「通常のウィンドウを起動」を選択した。 英生からそういう画面が出たらそうするように言われていた。 本来ならセーフモードで起動すべきなのであろうが、その後の操作を柚布子は知らないからである。

ウィンドウは普段通りに起動した。 すると、初めて目にするポップアップが現れた。

『前回のセッションを回復しますか?』

柚布子は「はい」を選択したてみた。 柚布子にとっては前回のセッションなどどうでも良かった。 それは前回柚布子が操作した時に予期しないシャットダウンが発生したわけではないからである。

しかし、直感的に気になった。 それは英生がパソコンで何をしていたか気になったからである。

暫くすると、ブラウザーが起動し、とあるサイトが表示された。

『汚れていても愛せますか?』

黒の背景に白い文字で書かれたそのサイトのキャッチコピーである。
「え? なに? これ・・・」
柚布子は呟くと今まで自分が何か調べ物をしようとしていたことなど忘れてそのサイトに見入ってしまった。

『あなたの妻の赤裸々なを体験をお聞かせ下さい』

それは自分の妻を他人に抱かせることや汚されることが性癖の輩が集まるサイトのように柚布子には思えた。
柚布子はブラウザの更新釦を押した。 するとイメージカウンターの下2桁が変わった。 わずか1分も経っていないのにでアクセスが多いのだと思った。

夫がこのサイトを常習的に見ているのだろうか? 柚布子に疑問が沸いた。

ブラウザーのブックマークを確認したが見当たらなかった。 更に来歴にも前回と思われる記録しかなかったが、トップページ以外にも見ていることが判った。 もしかしたら、偶然このサイトを見ていてパソコンがフリーズしたのかも知れないとも思った。 柚布子のパソコン知識からはこれ以上の詮索は出来ないのであった。

柚布子は来歴に記録されているこのサイトの他のページを見た。 チャットにはM癖の夫が過激なメッセージで待機していた。 柚布子にはそういう心境が理解出来なかった。 S癖のある人には分かるのだろうか? と納得しないまま他のページを見た。

柚布子は妻が自らの夫以外との体験を告白する掲示板の入り口を見つけリンクをクリックした。 その内容は表題通りのものであった。 いとも簡単に夫以外の男に抱かれる様子を読んで信じられなかったが、限られた容量の中で告白するには心情の変化はかなり省略されているか表現出来ないのだろうと思った。
柚布子は全ての妻の告白を読みたかったが、限られた時間の中では諦めざるを得なかった。 しかし、何か勇気を得た気分になった。

妻の告白のページは来歴には無かったので柚布子は最後の来歴をクリックして、今自分が見たページの来歴を消した。
最後の来歴は自分の妻の体験を書き込む掲示板であった。 幾つかの投稿に目を通した。 流石に妻の告白とは違い男性雑誌に出てくるような露骨な表現のものが多かった。 その中で柚布子は一つの投稿に目が留まった。

それは、英世という夫が裕子という妻を自分の会社に派遣として働かせ女遊びが好きな若い社員に堕させるという物語風の投稿であった。 裕子は会社の若い独身男と次々関係を持ち、夫の直属の部下にまで身体を開いていた。 そして身篭ってしまったのである。
名前の読みが自分と同じで夫の名前も酷似していた。 もしかして夫が投稿したのか?

「ぷっ」
柚布子は噴出した。 それは、もし、夫が投稿してたものならあまりに芸のない設定と思ったからである。 それに夫にはそんな文才があるとは思えなかったからである。 結婚前に夫の報告書を読んだが同じように噴出したのを思い出した。
「有り得ないわね」


柚布子は夫がこのサイトをネットサーフィンか何かをしている時に偶然辿り着いたのだと思っていたが、それにしてはその日の来歴が少ないのであった。 柚布子は日付別に来歴を並び変えた。
すると、その日は二つのサイトしか記録されていなかった。 一つは今見ていたサイトである。 そしてもう一つは検索サイトであった。
柚布子はその来歴をクリックした。

検索結果の中にリンクが紫色のものがあった。 先ほど見ていたサイトである。 そしてページトップの検索窓には『妻の性体験』と表示された。


柚布子は夫が偶然このサイトに辿り着いたのではないという疑問が再び沸いてきた。 そして、この後のパソコンの状態をどうしようかと考えている時にインターフォンが鳴った。


朝の説明通りにインターフォンを操作すると、小さな画面に夫の顔がいっぱいに表示された。 柚布子は笑いながら
「お帰りなさい」
とマイクに向かって話すと「開く」の釦を押した。 すると画面の夫はドアへと方向転換していた。

柚布子はパソコンの前で慌てていた。 咄嗟にトートバックからUSBメモリーを取り出し、パソコンに差した。 柚布子は玄関を何度も振り返り早くUSBメモリーが認識されるのを待った。 そして自動的にUSBメモリーの内容が展開するとエクセルを軌道させ、ブラウザの来歴を本日の分だけ消した。

程なく玄関のチャイムが鳴り、柚布子はインターフォンで画像を確認して玄関の鍵を開けた。

「ありがとう、鍵持ってたけど、新しいインターフォンがどうなのか試したくて」
「うん、私も、丁度良かったわ、あなたカメラに近づき過ぎよ」
「そっか、次は離れるよ」
「そうね」
「ところで、うちは何時工事した?」
「午前中よ」
「そうだよな」
「どうして?」
「うん、インターフォンの工事らしい作業員がまだ作業していたからさ、夜でも良かったならうちもそうすれば、柚布子も会社休まなくても良かったのにって」
「そうなんだ」
柚布子はインターフォン工事の作業員がまだマンションにいることに一抹の不安を憶えた。


「あっ、パソコン使っていたんだ」
英生はいささか慌てた様子で柚布子に聞いた。
「ええ、ちょっとエクセルの修正したくて」
「そうなんだ、立ち上げる時にエラー出てなかった?」
「特に気にしなかったけど」
「そう、それならいいけど」
「食事、用意するわね」
「ああ、腹減った・・・」

柚布子は夕食の準備に台所へ行った。 台所からパソコンは見えない。 後に英生が入浴中にブラウザの来歴を確認したらあのサイトの来歴は残っていなかった。

柚布子は夫に投稿のような性癖があるのでは? と、思うようになった。


そして、物語は序の1~6へと続くのである。
  1. 2014/11/02(日) 12:47:30|
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序破急 - 破の1 「包囲網」

物語の時は序の段、第六話の続きである。

甲陽精密機器販売に勤める中務柚布子(31歳)は夫が派遣として働くシステム・インテグレーション産業のアカウントマネジャーとなった。 しかし、既婚であることを偽っていた。 その為担当の重盛浩太(34歳)に交際を迫られていた。 一方、夫の中務英生(36歳)は自分の妻が口説かれていることに興奮を覚え柚布子が自分以外の男に身体を開く妄想に耽って寝取られ願望を芽生えさせていた。

柚布子もまた英生の寝取られ性癖に気付き始めていた。 そして、システム・インテグレーション産業を担当する前から担当しているリューベックシステム社の久世昌弥(35歳)に好意以上の感情を持ち始めて、越えてはならない領域へ入っていくのを感じていた。




今日は展示会の最終日。 柚布子はブースの裏でパンフレットやノベルティーの準備を手伝っていた。 時たま受付担当が休憩の間に受付を代わるくらいで忙しくはなかった。 こういう場では競合他社や関連会社の製品を一堂に見る事が出来るので、空いている時間は柚布子も可能な限り情報を収集した。


この業界の旬な話題は最新の制御装置と関連機器の組み合わせシステムである。 その中でも有名な装置はジブラルタル通商が扱っている。 FXのコードネームで呼ばれている。 柚布子はそのFXに久世の会社のキッティングセンターで既に触れていた。 柚布子はジブラルタル通商のブースを遠めに眺めたがFXをメインテーマにしている様子はなかった。 柚布子の会社とは格が違うが一応競合会社なので遠慮がちに眺めていた。

「もっと近くでご覧になっては?」
不意に、後ろから頭を超えて声が降ってきた。 そこには長身の男性が薄笑いを浮かべながら立っていた。 シブラルタル通商の柳沢である。 柚布子は慌てて会釈した。
「この間は自己紹介もせずに失礼しました」
柳沢は胸から名刺入れを出すと
「ジブ通の柳沢を申します」
柚布子も名刺入れを出し
「生田柚布子と申します、先般は大変失礼致しました」
柳沢は名刺を受け取ると
「そうですね、お陰様で展示内容を急遽変更しましたからね」
「・・・・」
柚布子は返す言葉が無かった。 競合会社の商品を久世の許可があったとしても勝手に操作してしまったからである。
「ま、その件は久世様と後日解決致しましょう、うちのブースを案内しますよ」
柚布子は久世が柳沢と話を付けていないのだと思った。 久世が何も柚布子にそのことを話さないのは問題無く片付いたのではなく、片付いていなかったからであるとがこの時分かった。

柚布子はこの場を去りたかった。 柚布子の仕出かしたことでブースの展示内容を変更したのである。 その説明を受けるのは辛い立場である。

しかし、冷静に考えれば柳沢のハッタリであることくらい直ぐに分かるのである。 柚布子も自分の会社のブース作りに参加していた。 柚布子が事前にFXに触ったくらいで会社で決めた展示内容を変えるであろうか? 展示会より先行して納品したのであれば多くの人間に触れられているのは当然である。 だが、柳沢の威圧感がその思考を止めているのである。

柳沢は柚布子の肩に手を廻しブースへと誘おうとした。 このまま競合会社のブースに連れ込まれ、ご丁寧に説明までされてはそれを見ている見学者は柚布子の会社が柳沢の会社に屈したように映るに違いないからである。 そうなれは柚布子の進退にも影響し兼ねない。 何とかしてこの状況を脱しなくてはならない。

柚布子はこんな時に久世が居たなら軽いノリで柳沢をかわしたに違いないと思った。 だがこういう展示会を久世は嫌いなので現れることがないことも分かっていた。 このまま柳沢の会社のブースに入ってしまうのか・・・ 競合会社なのでブースの位置も自分の会社とは離れていて柚布子の会社の人間に助けを求める事も出来ない。

そんな時、
「おー、柚布子君」
背後から聞き覚えのある声が聞えた。 柚布子にとっては柳沢と同様に逢いたくない人間の声であると直ぐに分かった。
「こんな所に居たのかね、君の会社のブースに行っても居ないはずだ」
システム・インテグレーション産業購買部の園田である。 柚布子にとっては二重苦の出来事である。 しかし、ここは利用するしかないと思った。 まだ、園田の方が素性を知っているだけ安心であった。 柚布子は園田に借りを作ってでも利用すべきか迷った。 弥勒亭別邸での一件がある以上危険である。

迷っているうちに園田から切り出されてしまった。
「柚布子君、うちに来ても全く購買部に顔を出さないじゃないか」
「相すいません」
「ところで、こちらの方は?」
柳沢は天性の営業の勘なのであろう、園田が発した『購買部』という言葉で柚布子より優先すべきだと感じたのである。 何故なら柚布子は唾をつけたも同然の状態であると思っていたからである。 ここで新しい販路を作る方が得策なのであった。

「ジブラルタル通商の柳沢と申します」
空かさず名刺を差し出した。
「システム・インテグレーション産業で購買をやっております園田です」
園田がそれに応えて名刺を差し出した。 展示会ではどこのブースでも名刺を要求されるので容易に出せる体制なのである。

「柚布子君、こう言っちゃあ、なんだがお知り合いなの?」
園田にとっては競合同士が一緒にいるのが不思議と思うより男の勘で柚布子と柳沢を近づけてはならないと思ったのである。
「いいえ、たった今名刺を交換したばかりです」
「あ、そう、そうだよね」
園田は柳沢の顔を疑うように見ると、柳沢も頷いていた。

「あ、それから、こちらの方を紹介しておこう、柚布子君にはあまり縁がないかも知れんが」
園田がそういうとちょっと下がって園田と同じ年恰好の男性が立っていた。 園田と同じように高厚な感じだが物腰は柔らかく
「備装工業の妹尾と申します」
柚布子と柳沢に名刺を差し出した。
「そっちの地方でシステムを組む時にうちが使う業者さんなんだ」
園田が妹尾の紹介をした。
「折角だからジブラルタル通商さんのブースを拝見させて頂こうか?」
「はい、光栄です」
柳沢は断るはずがない。

「あ、柚布子君、帰って磯貝に、もっとちゃんと製品憶えて説明しろと言っておいてくれ」
「はい、直ぐに伝えます」
磯貝は営業部員だが、技術には詳しい。 そのことは園田も知っているはずである。 柚布子はこの時しかないと思いそう答えると踵を返すようにジブラルタル通商のブースを背にして自分のブースへと戻って行った。
当面の危機は脱したと柚布子は思った。


園田は柳沢の説明を上の空で聞いて、生返事で応えていた。 逆に妹尾は仕事に直結している内容なので感心して聞いていた。

「ところで、柳沢さん、柚布子君とはどうして名刺交換を?」
園田が切り出した。
「とあるユーザーさんで顔を合わせたのですが、名刺交換をする時間もなく行き違いましてね、そしたら今日また見掛けたので名刺を交換したというわけです」
「ほう、そうでしたか」
「園田さんは生田さんをひいきにしているようですが、顔を出さないのですか」
柳沢も反撃した。
「ああ、うちの若い連中と時間に追われて頑張っているからな、優秀なマネジャーだよ」
園田は柳沢より柚布子について多くのことを知っていることで張り合っていた。

「では、今度はうちが扱っている商品も是非採用下さい」
「ああ、機会があったら」
「是非」
園田はジブラルタル通商のブースを後にした。


「園田さんの方があの女性にはぞっこんなんじゃないですか? なかなかの女性ですな」
ブースを離れるとと妹尾が声を掛けた。
「うふふ、いい女だろう」
「もう計画してるんじゃないですか?」
「まあ、な、でもこの間お宅に世話してもらった人妻もなかなか良かったぞ」
「次に仕事を頂ける時はあの女性を献上したいところですが、もうその時は園田さんに堕とされているでしょうから残念です」
「堕としてないとしても献上出来る案件は当分無いな」
「園田さんの為なら先行投資しますよ、その代わり案件の価格は例の金額で」
「備装屋、お主も悪よのぉ」
「はい、購買部長殿、うふふふふ」
「ふふ、待て待て、、もし献上するということは俺様より先に」
「はい、園田様を悦ばすように仕込みますので・・・」
「うーん、この歳になると流石に衰えてな、でも俺の上で逝き続ける柚布子を見たいもんよ」
「ほう、では逝かず地獄を味合わせた後にお渡しするというのは・・・」



柚布子は久世と重盛を意識しているが、柳沢、園田、そして妹尾にも取り囲まれ間合いを詰められようとしているのにこの時は気付くよしも無なかった。
  1. 2014/11/02(日) 12:49:41|
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序破急 - 破の2 「ネットカフェの個室」

「今度、何時、重盛にオマンコ触らせるの?」
「明々後日・・・」
柚布子の唇は深い眠りに落ちながらそう動いた。 英生も柚布子のおでこにキスをすると眠りに就いた。
今日がその日である。



「もしもし」
「あ、俺」
「貴方、どうかしたの?」
「今日、こっちへ来る?」
「・・・・・」
親戚で不幸があったとか緊急なこと以外で英生は柚布子に就業中の電話をすることなどなかった。 しかも英生の職場に来るかどうかを尋ねられた。 柚布子は咄嗟には答えられなかった。 何故なら重盛とデートをする約束をさせられていたからである。

「来ないんだ、それは良かった」
「え? でも急に呼ばれるかも知れないわ」
「そっかー」
英生の電話は今度柚布子が納めるシステムの現地調整に英生が行くかも知れないというのである。 その打ち合わせが今日行われるというものである。 もし、同じ会議で顔を合わせてしまったらどう振舞うか打ち合わせしておこうというものであった。

しかし、打ち合わせは社内の関係者だけで行われることを英生は知っていた。 英生は柚布子が今日重盛と逢うかどうかの探りを入れていたのである。 あの夜の柚布子の言葉が本当なら今日はデートして際どいところまで進むと妄想を膨らましていたのである。




重盛は柚布子の肩に廻した手を下に降ろし、柚布子の脇の下から胸へと運びスーツの上からその膨らみを掌に包んだ。 もう一方の手は柚布子の膝からスカートの中へと進んで行った。 柚布子は両手で重盛が迫ってくるのを拒んでいた。 重盛の唇が柚布子の顔に接近していた。 まるで、臨海地区の公園で重盛が迫った時の続きのような光景であった。

ここは繁華街のネットカフェのような個室喫茶の一室、システム・インテグレーション産業からは離れた街である。 いつものように少し飲んで、その後にもう少し話そうということでここに連れて来られた。

「まさか、こんなところでセックスをするわけない」柚布子の中の固定観念である。

柚布子はホテルに誘われたら断ろうと思っていた。 だが、ネットカフェなら断り切れない。 何故なら手配した案件がもうすぐ納品され、次の引き合いの話も出ている状態なら断り切れない。 それにあと少しで後任のマネジャーが来るのである。 それまではなんとか誤魔化そうと思っていた。 いや、欲張っていたと言っていいだろう。 本人にその気がなくて既婚でここまで来たなら態度をはっきりさせる方が付き合い上は問題が起きないのである。


柚布子は二つの選択肢の内どちらかを選ばなければならない状態であった。
重盛の手の侵攻か、唇の接近のどちらかを防がなくてはならない。 個室のソファーに並んで腰掛ている状態で、重盛の上体が柚布子に被さろうとしていた。

重盛は焦らなかった。 案の定、前回と同じところまではあっという間に攻められた。 重盛はそれを自分が許された者と勘違いして余裕を持っていたのである。

柚布子の右胸は重盛のゆったりした指の運動に次第に乳首か硬くなってくるのを感じていた。 重盛の指はアコーディオンでバラードを弾くようにゆっくりと膨らみを押していた。

一方、重盛の片方の手は柚布子のスカートの中で自由に動くことが出来た。 それは、柚布子の両手は重盛の上体を押さえて必死に唇の接近を防いでいたからである。 柚布子にとってはどちらも防ぎたいが物理的に無理なのである。

「やっぱり、嘘を言ってでも断れば良かった」 柚布子はそう思ったに違いない。 前回の臨海地区で迫られたことから、誘いを断らなければ必然的にこうなるのは分かっていたのである。 にも係わらず、重盛の誘いを断らなかったのは英生の性癖を知ってしまったからだ。 今日の予定は前回のデートを切り上げる為にむりやり約束させられたものである。 柚布子は何か理由を付けて断ることも考えていたが、直前の夫の電話で気持ちが変わったのだと思うようにした。

本当にそうであろうか、柚布子は身体の奥に潜む背徳への願望に気付いていないのである。


理性は簡単に崩れる。 重盛が柚布子の耳の後ろに唇を押し付けるといままで硬く閉じていた太腿が緩んだ。 その瞬間、重盛の手は内腿の奥まで侵攻し、内側を丹念に摩り始めた。
そして、少しづつ脚を開かせていった。

「あ、あん」
柚布子の喘ぎのような吐息が漏れた。 個室になってはいるが防音ではない。 柚布子は声を堪えることにも神経を働かせなくてはならなかった。

重盛の唇は耳の裏から喉、そして顎へと吸い付きながら進んだ。 そして喉仏付近を吸うと柚布子は上体を仰け反らせた。 その瞬間、重盛は柚布子に上体を被せ、ソファーに横向きに倒した。 狭い個室のソファーから柚布子の上体ははみ出した。

重盛は一旦、柚布子の喉から唇を離し、柚布子と距離を置いた。 するとスカートの中から手を抜くと柚布子を見つめた。
柚布子は首を振って拒否の意思を示したが、そういう場合男はそれを受諾の意思と解釈するのである。
重盛はスカートから引き上げた手を柚布子の胸の谷間へと運んだ。 それを柚布子の片手が阻止するが、構わずブラウスの釦を外しにかかりる。 柚布子のもう片方の手が阻止を応援するがそれを待っていたかのように重盛は上体を被せて来た。 しかし、先ほどより接近しないが、柚布子は両手でそれを押さえるしかなかった。


そうしているうちにブラウスの釦は2つ外された。 スーツの上着を着たままブラウスの釦が外れている情景。 その間からは柚布子の黄色の下地に白い刺繍のような模様のあるブラジャーが見えている。 男の誰もが飛び掛るのに充分な光景である。

重盛の手は柚布子の手に抑えながらもブラウスの胸元から中へ侵入した。 重盛の掌は初めて柚布子の柔肌に触れた。 それは暖かく例えようのない柔らかさであった。 重盛は女の肌に触れるのが始めてではないが、初めて触れた時のような感動を覚えた。 それが人妻の柔肌と知れば感動は更に増したかも知れない。

「だめ、お願い」
柚布子の声にはお構い無しに重盛の指は芋虫にように柚布子の胸の膨らみを奥へと進んだ。 柚布子が手に力を入れて抑えれば、その力にに勝る指の屈伸力で進み終にブラジャーの端に指が掛かった。

「あん」
それは以外と浅かった。 重盛の指がブラジャーの端を潜り第二間接くらいまで進めたところで、柔らかい乳房とは異なる突起に遭遇した。 柚布子の乳首である。
重盛の人差し指の腹は柚布子の乳首を釦を押すような仕草で刺激した。 柚布子の乳首はプッシュロック釦のロックが解除されたかのように乳房の中から飛び出し隆起した。


乳首の刺激に柚布子の手が緩んだ、その瞬間重盛の唇は柚布子の唇の脇にある黒子に吸い付いた。 そして吸いなから舌で刺激した。 柚布子は硬く唇を閉ざしていたが、乳首の刺激と黒子の刺激で息苦しくなり息を吐いた。
重盛は何となく気が付いていた。 唇の左下の黒子が性感帯なのではと。 俗に言う男好きする黒子又はビューティー・マークに使われるものとは少し位置が違って、しかも大きい。 小さい頃はその黒子がコンプレックスだったに違いないと思った。
であるからこそ感じ易いと重盛は読んだ。

「は、はー」
果たして重盛の読み通り柚布子の唇が開いた。その瞬間、重盛は黒子から舌を一気に柚布子の唇の割れ目に滑り込ませた。 柚布子はそれを防げなかった。 何故なら柚布子の右の胸を押さえていた重盛の手は乳房への侵攻と同時に柚布子の頭部を押さえていたからである。

柚布子は口を閉ざすことが出来ない。 何故なら、閉ざせば重盛の舌を噛んでしまうからである。 相手の舌を噛むということは、相当相手を憎んでいることを表すからである。 柚布子はかつて学生時代に同じように迫って来た男性の舌を噛んで絶交した経験があった。

重盛の舌は柚布子の歯と歯茎を刺激した。 そして口の奥へと舌を進ませ、柚布子の舌を捲るように動かすと同時に吸った。 最初は動かなかった柚布子の舌も溜まる唾液に耐え切れず吸ってしまった。 ついには舌を互いに絡ませた。

1分近く舌を絡ませ吸いあったであろうか。 重盛は一旦唇を離した。 二人とも大きく呼吸した。 そして、重盛が再び唇を重ねると今度は何の拒否も無く重盛の舌の動きに合わせるように柚布子は舌を絡ませて自ら吸った。

重盛はキスに専念するのと同時に乳首を刺激していた手で乳房全体を包むと、手の甲でブラジャーを捲るように乳房をブラジャーの外に出した。 スーツの襟元から果物の皮を剥がされたように露になった乳房は扇情的である。 どんな男もその光景を目の当たりにすれば、そこに唇を這わせるに違いないのである。

重盛もまたそうであった。 重盛は唇はもう堕としたと判断し、唇を一気に乳首へと移動させ、それを含んだ。

「あん、いや、止めて」
そんな柚布子の懇願には耳を貸さずに、舌で乳首を転がし吸った。 重盛は一生この乳首を転がし続けても飽きないだろうと思った。 それ程柚布子の乳首は魅力的なのであった。

「あ、いや、だめ、お願い」
重盛は柚布子の乳首にだけに集中してはいられなかった。 今日は決着を付ける予定でいたからだ。 もちろん、この個室で柚布子を抱くことなど出来ないが、場所や日を変えても気が変わらないように堕とすつもりでいた。 勿論、今夜ホテルに連れ込めれば最高の出来なのである。


「あ、あ、お願い、止めて」
柚布子はソファーニ倒されたような格好になり胸から上はソファーの肘掛からはみ出していた。 重盛は乳首を舌で転がし、吸うのと同時にもう片方の乳房も同じように露にすると揉みしだいた。 重盛は柚布子に覆いかぶさる姿勢から床に膝を付く体制になった。 そして、揉みしだいていた乳房の乳首にも舌を這わせ転がし、吸った。 それを交互に繰り返した。

「あん、いや、だめ」
柚布子の声は次第に喘ぎ声に変わろうとしていた。 柚布子はそれを必死に堪え、重盛の頭部と肩を両手で押しのけようとしているが、本気の力が入ってはいなかった。 やがて、重盛の髪の毛を掻き毟り感じまいと堪えた。

「だめ、いや、いや、だめ」
重盛はこのタイミングだと思った。 柚布子の両手は重盛の頭にあった。 柚布子の感心をを胸に惹き付けておいて、自由の効く手を柚布子のスカートの中へ一気に入れた。 指で股間をパンストの上から刺激するようなことなどなく、尻に廻しパンストの淵から手を入れた。 柚布子が起き上がろうとするのと同時にパンティの中まで手をいれ、尻を剥いた。 そしてその手を前に廻すと柚布子のパンストとパンティーは一緒に降ろされ、陰毛が露になった。

重盛は自分の股間が久しぶりにズボンの中で熱くなっているのを感じた。

柚布子は必死にパンティを押さえた。


「やめて、もう逢わないから」
果たして、重盛の手はそんな言葉で止まるだろうか・・・


重盛の手が一瞬止まった。 それは、今まで喘ぎそうな声が急に語気が荒く大きかったからである。 だが、重盛は露になった陰毛に手を伸ばすことを止めなかった。 柚布子の陰毛を見て何もしない男は男ではない。

重盛は手を動かせなかった。 柚布子の陰毛に手を伸ばしたが柚布子の両手によって押さえられていた。 重盛はその力が尋常でないと感じた。 それでも中指の指先は茂みを越えて湿り気に触れていた。 そして、芋虫のように指を這わせて割れ目へと入りその中で蠢かせた。

「あん、いやー」
柚布子は上体を仰け反らせた。 重盛の中指の湿度は一気に百分率を超えた。
  1. 2014/11/02(日) 12:51:26|
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序破急 - 破の3 「伏兵」

「だめ、本当に逢わないから」
流石に重盛の手が止まった。 同時に柚布子の割れ目の中で蠢いていた芋虫のような指の動きも止まった。 止まったのは柚布子に言われたからではない。 柚布子の鞄の中で社用の携帯電話が鳴り、ネットカフェ全体に響くような耳障りな音だったからである。 止めなければ係りの者が注意しに来るに違いないからである。
柚布子はネットカフェに入る直前にマナーモードを解除しておいたのである。

高周波の電子音がネットカフェに響いた。 重盛は仕方なく柚布子から離れ、恨めしそうに柚布子の鞄を見た。
「出てくれ」

柚布子は立ち上がると、パンティとパンストを戻し鞄の中の携帯を取った。
「はい、生田です」
柚布子は電話を片手に持ちながら乳房をブラジャーに納めた。 それを待っていたかのように個室のドアがノックされた。

ネットカフェの係りが携帯をマナーモードにするよう言いに来たのである。 重盛がそれに対応していた。 係りの者は柚布子がブラウスの釦を止めながら電話している様子を見てドアを閉めた。

重盛は所在なさそうに柚布子が電話するのを見ているしかなかった。
「うん、分かった、すぐ落ち合いましょう」

柚布子が電話を切った。 すると、
「何かあったの?」
「帰ります」
「ねえ、どうしたの?」
柚布子は明らかに怒った表情をしていた。 怒っていたのは勿論電話の内容ではなく、重盛に対してである。

「ちょっと、納品に関して問題が出ました」
「え? どんな?」
「詳しくはこれから、営業と落ち合って確認します」
柚布子はブラウウスの襟を直し、髪を整えるとカバンの中から財布を取り出し、個室料金の半分をテーブルに置き、部屋を出た。
料金は前金制であるから、重盛が既に払っていた。 その半額を置いたのである。 重盛はそのお金を取りポケットに入れると柚布子の後を追った。


店を出ると、直ぐに重盛が追いつき並んで歩いた。 事が終わった後なら話し易いが未然に終わった状態では話し掛けるのが難しい。 柚布子は繁華街を駅に向かって歩いた。
「何処で営業と落ち合うの?」
「駅です」

柚布子は「駅です」と答えた後に重盛が「何処の?」と聞かないことを祈っていた。 なぜなら答えた直後に柚布子にも何処の駅なのか確認しなかったとに気付いたのである。
電話に出ることで柚布子は窮地を脱したかも知れないが、心は取り乱していて電話の内容を正しく把握していなかったのである。

柚布子は電話の内容を思い返そうとした。 柚布子自体問題を整理する必要があるし、重盛に仕事として説明しなければならないからである。 しかし、思い出そうとしても出て来ない。 柚布子はネットカフェを出る口実があればそれに縋るつもりだった。 でも、電話の相手も問題については話さず柚布子と落ち合う事を求めていた。

相手が 「駅で」 と言うなり 「すぐ落ち合いましょう」 と言って一方的に電話を切ってしまった。 それは柚布子のネットカフェから一刻も早く去りたいという焦りからであった。 だから、柚布子は鞄の中に片手を入れて中で携帯電話を持って鳴れば直ぐに出られるようにしていた。

重盛と並んで歩いている状態で 「何処の駅だったっけ?」 などと折り返しの電話は出来ない。 相手から 「そういえば、どこの駅にします?」 と掛かって来るのを待っているのである。


柚布子は電話が掛かってこないことに焦りを感じていた。 何時重盛が何処の駅に行くか聞いて来るか分からないからである。 何故場所を確認する電話が掛かって来ないのか? それとも会話の中で場所のことも言っていたのか? 柚布子の焦りは募るばかりであった。 ネットカフェを出てまだ数メートルしか歩いていないが、柚布子には数十メートルも歩いたように感じた。

そして重盛が話しかけようとしたその時、二人の脇を白いADバンが通り過ぎるのと同時に急減速して二人の前方に急停車した。

柚布子はほっとした。 そのADバンには見覚えがあったからである。 ADバンが停車すると運転席のドアが開き、甲陽精密機器販売営業部の磯貝が降りて来た。

柚布子は車が停車すると小走りに車へと向かった。 重盛は柚布子に遅れてそれに続いた。


「急に、すいません」
磯貝は柚布子に声を掛けると、偶然にも重盛と出くわしてしまったかのような驚きの表情を作り重盛に会釈した。
「何か、カーナビの抜け道検索の通り走ったらこんなところに出てしまって、そうしたら前を生田さんが歩いているじゃないですか・・・」
「そうだったの」
「さぁ、乗って、すいません、急いでいますのでご報告は後ほど」
磯貝は重盛に向かってそう言うと、再び会釈をして運転席へと戻って行った。 それと同時に柚布子も助手席のドアを開けると、重盛の方を振り返り会釈をして乗り込んだ。

重盛はあっけに取られてそれを眺めているしか無かった。 二人が乗り込むと車は直ぐに発進し、繁華街を抜け、駅前のロータリーを半周して重盛の視界から消えて行った。


「ちぇっ」
重盛は舌打ちすると、背広の内ポケットから携帯を取り出し、メモリーの釦を押して何処かへコールした。

「あ、俺、
うん、
今、大丈夫?
あのさー・・・」
重盛は電話しながら繁華街を駅に向かい歩きタクシー乗り場の列に並んだ。
  1. 2014/11/02(日) 12:52:44|
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序破急 - 破の4 「便利な女」

女はミュールの音を響かせながら駅の階段を駆け下りていた。 そして、階段の下にいた男に駆け寄った。
「お待たせ、待った?」
「いや、今来たばかりだ」
男は答えた。
女が男の腕を抱えると、歩き出した。

「旦那は大丈夫?」
「平気、たぶん・・・」
会話からすると女は既婚であり、夫以外の男性と腕を組んで歩いているらしい。
「あの女に振られたの?」
「まさか、この俺様が?」
「相変わらず自信家ネ」
二人は飲食店の脇を小道へと入っていた。 そして、その先の建物の忍び口を足早に潜った。



二人は部屋に入るなり抱きつき唇を合せ吸いあった。 女の吸い方が激しい。 男はやや戸惑いながらも女に合せていた。 だが男の脳裏にはつい数時間前に他の女と初めて交わした接吻が蘇っていた。

女は唇を離した。
「ねえ、他のこと考えてる?」
女は男の気の入っていない接吻に気が付いた。
「ああ、早くお前にぶちこみたいってね」
「すけべ・・・」

女は再び男の唇に吸い付くとゆっくりと舌を転がし男の舌を吸った。 男もそれに応えるように女の舌を吸い互いに舌を絡ませた。 二人の舌が絡まる音と鼻で息を吸う音が暫く続いた。

女は唇を男から放すと、男の顔を見詰めながら服を脱ぎ始めた。 男もそれに応えるように服を脱ぎ始めた。 女の服の枚数の方が少なかった。 女が先に全裸になった。 すると、ベッドの毛布を跳ね上げ中へと身体を滑り込ませ、ベッドの中で男に背を向けた。

男も全裸になると、女の背側に入りその背中に唇を付け、激しく吸った。
「いや~ん、跡がついちゃう・・」
女は背中をベッドにつけ、仰向けになった。 そこに男が覆いかぶさり唇を合わせ三度吸い合い、同時に女の胸を愛撫した。

人差し指の腹で女の乳首を押した。 女の乳首は既に硬くなっていて男の指はそれを実感した。 いつも触り慣れている乳首である。 数時間前の押したその瞬間に硬くなって男の指を跳ね返した女の乳首のような感動は無かった。

男は乳首を口に含むと舌で転がした。 硬くなった乳首を転がしながら、やはり数時間前の女の乳首を思い出していた。
歳の頃は同じであるがその乳首はかなり違っていた。 目の前の乳首は黒ずんで乳輪も大きい。 それに比べ数時間前の女の乳首はピンクで乳輪は500円玉くらいでバランスが取れていた。 男は今口に含んでいる乳首は相当使われたものであることを知っていた。 勿論使っているのは男本人である。 一方、数時間前の女はそれ程経験が無いのだと思った。 それはその女が独身であるという前提に立っているからである。

「あー、はやくぅー」
女は胸の愛撫の次を催促した。 男も胸の愛撫を堪能するつもりはない。 もともと目的は中途半端に勃起してしまった股間を鎮める為である。 女も自分の身体が利用されているのを承知である。

男は、当初この女を抱くことに時めきを感じ愛しく思って抱いていたことを思い出していた。 それが、何時から自分の欲望のはけ口に使うようになったのか自分でも分からなかった。

男は女に催促されるままに唇を胸から下腹部へと移動させ茂みの中を進んだ。 男はまた、数時間前の女を思い出した。 その女の茂みは大きく濃かった。 きっと、ビキニサイズの下着ならはみ出ていたかも知れない。 パンストと下着を一気にスカートの中で降ろしたのでその様子は見ていない。

目の前の女のように全てを見ていないが、下着を降ろした時に目にした茂みは初めて拝むにしても扇情的であった。 更に大陰唇の方までその勢いは続いているように見えたが、その時は確認することは出来なかった。

次回はあの女の下着姿からゆっくり堪能しようなどと考えながら目の前の女の陰核に舌を這わせ、それを捲るように愛撫し吸い上げた。 するとピンクの陰核はすぐに顔を出して来た。 男はこうなるまでにずいぶん吸い出したもんだと振り返った。 今度はあの女のものを思い切り捲ることが出来ると思うと股間が熱くなった。

この女の陰核もかなり捲った。 これに旦那が気付かないのは旦那がよほどセックスに淡白なのだと思った。 最初はかなり愛撫しなければ捲れて来なかったが、最近では一回吸い上げただけで捲れてくる。 それはそれで時間が限られているセックスでは便利であった。

男は女の陰核を舌で愛撫しながら、指で膣口を穿り指を入れて、勝手知ったる女の感じる内壁を指で掻いた。 すると、いつものように男の口に女の淫汁が流れ込んだ。

「あ、あん、あーん」
女は喘ぎ声を遠慮無しに上げ始めていた。 男は指を2本にして掻いた。
「あっ、あっ、あーん、逝くかもー」
「まだだ、逝くな」
「あ、あん、だめー、逝っちゃう」
「しょうがねぇーな」

普通の恋人同士なら、ここで男は女を逝かせるであろう。 そして、何度か逝かせて、逝き易くなったところで男根を女に埋め込んで最後は二人同時に逝くであろう。
しかし、この二人には時間が無いようである。

男は女の脚を大きく開くとその中へ膝立ちの姿勢で位置を変えた。 男の男根は既に硬くなってそのまま突き刺せばいいような状態であった。
「待って、ゴム付けて」
「大丈夫だよ、ちゃんと外に出すから」
「ダメったら」
「いいだろう」
女は身体を捩って、男根の挿入をさせないようにしたが、直ぐに腰を掴まれ元の状態にさせられた。 女も必死で逃げるわけでもない。
それは、何度も二人の間で行われた交渉で結果は知れているから女も形式的に逆らっているように見えた。

男の男根が女の膣口に押し当てられると、まるで吸い込まれるように女の体内へと入っていった。
「あっ、あー、ふー」
男は温泉に浸かる時に似た声を漏らした。 何人も女を抱いたが、この女のこの瞬間は今までの中で最高だと思った。 しばらく動かずにいると男根の周りに肉襞が絡んでくる感覚がするのであった。

「あん、あん、あん」
自分の声に合せて女が腰を使い始めた。 男に腰を使うことを催促しているようであった。 男はこういう光景をあの女もするだろうかと思い目を閉じた。 すると瞼の裏には数時間前の女の表情が浮かび上がった。 男は腰を突き始めた。

男は激しく、時にはグラインドするように腰を使った。 その腰が前へ突き出る度に女の喉が鳴った。 女の太腿を持ち上げていた手を離しても女の脚は跳ね上がったままである。 男は女の胸に手を伸ばし掌でその乳房を揉みしだいた。 それをリズミカルに繰り返していた。

「あっ、あっ、あっ、あ、逝くぅ」
「ほら、逝け」
男が腰を深く打ち込むと女は上体を仰け反らせた。 脚の親指がぴくりと突っ張った。
「あー」
女の溜息が漏れると、再び男は腰を使い始め、その動きに女の喘ぎ声が直ぐに同調した。

男は女の腰を両手で掴むとより深く突くようになった。 女もそれが何を意味しているのか理解していた。 それだけ付き合いが深い二人であった。

「恵美、俺も逝くぞ」
「あー、こーちゃん、一緒に・・・」
「このまま中で逝くぞ」
「・・・・」
女は首を横に激しく振り、両手で男を突き放そうとするが、しっかり挿入され、腰を掴まれている状態では適わない。

「あ、あ、いやー、だめー、だめー」
「恵美、逝くぞ」
「あ、あ、だめ、あ、あ、ああー」
「うっ」
男は、腰を深く押し出し、女の中で果てた。 女は両手をばたつかせていたが、観念したかのように男の背中に廻した。 すると男は女に覆いかぶさり、二人は密着した。 女は自分の中で男根が脈打っているのを感じていた。

二人は互いに脱力していくのを感じた。 だが、女は男の背に廻した腕を解かなかった。
「おい、早く洗わないと、妊娠するぞ」
「いいの、出来ても」
「ばか、困らせるなよ」
「だったら、外に出せば良かったのに・・・」
「・・・・」

女はまだ手を放さない。
「おい、旦那、帰ってくるぞ」
「こーちゃん、逝く時に甲陽精密の生田柚布子って言う女のこと想像してたでしょう?」
「まさか」
「本当は、今日抱く予定だったんでしょ?」
「おい、おい」
「振られたから、代わりに私を抱いたんでしょ?」
「この俺様が、振られただと?」
「いいよ、あの女の代わりでも、抱いてくれれば」

重盛は同じ会社の机を並べている橋爪恵美と深い関係になっていた。 恵美が重盛のファンだと公言していることで実際の不倫関係がカモフラージュされていた。 重盛はいささか可愛そうに思うこともあるが、互いに割り切っての事だと思うようにしていた。

「あの女、悪い女だから、騙されないでね」
「え?」
「年下の彼氏でも居るんじゃないかな」
「なんだ、それ? 誰がそんなこと」
「ほら、営業の男の子、良くあの女と一緒でしょ?
だから、それとなくカマ掛けて聞いちゃったの」
「マジかよ・・・」
  1. 2014/11/02(日) 12:54:28|
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序破急 - 破の5 「姐さん」

磯貝は柚布子がシートベルトを締めるのを待って車を発進させた。 繁華街の人波みを避けながら駅前のロータリーに出るとアクセルを踏み込み、ロータリーを半周し駅前から離れて行った。 そして、ルームミラーから駅のロータリーが見えなくなるとアクセルを緩めた。

柚布子と磯貝は暫く無言だった。 本来なら発生した問題について確認するのが第一であるはずである。 その為に二人は落ち合ったのである。 しかし、どちらからもその話は切り出さない。


「磯くん、この車カーナビ付いてないのね」
「え? そうですけど・・・」
柚布子はそれを口にすることによって、不可解と思っていたことが全て理解出来た。

磯貝は柚布子に会うなり、「カーナビの抜け道検索の通り走ったらこんなところに出てしまって」 と言っていた。 しかし、会社の営業車にはカーナビなど付けていない。 そんな嘘をわざわざ柚布子についたとしても直ぐに嘘と分かる。 つまり、柚布子に対してではなく、重盛に対して聞えるように言ったに他ならない。

柚布子と重盛がネットカフェから出て来た道を磯貝が通る。 しかも、柚布子と電話した直後である。 明らかに磯貝は柚布子と重盛を尾行していたことになる。 柚布子と重盛の仲がある程度噂になって磯貝がマークしていたとしても、今日のネットカフェは始めてであるから張り込んでいたとは思えないからである。

重盛と食事をした店は何度か通った店であるから、そこへ張り込んでいたことは考えられる。 しかし、そこからネットカフェのある駅まではタクシーを使っていた。 柚布子は磯貝の映画並みの尾行術に感謝した。 何より絶妙なタイミングで電話をして来たのである。

柚布子は重盛とデートを重ねることである種のスリルを感じていた。 だから、もう少し早いタイミング、つまり、唇を奪われる前に磯貝から電話があったならどうであっただろうとか、もう少し遅かったらとか不謹慎にも考えてしまっていた。

仕事の付き合いの長い磯貝は柚布子のそいう性格を読み取っていたのかも知れない。 磯貝は柚布子に惚れている。 二人が始めて出会った時には柚布子は結婚していたのでファンという位置を保っていた。 そして本気で惚れてしまったなら既婚かどうかに関係なく口説いていたに違いない。 しかし、磯貝はそうせず、柚布子を観察しながら、他に恋人を作っていた。 それを柚布子に見せることで本気で惚れていないと柚布子に思わせたのである。 一種の男の見栄なのかも知れない。 はたまた磯貝は冒険をしないタイプなのかも知れない。


車は人通りの少ない幹線道路の側道に停まった。 

「もう、何やってたんですか!」
磯貝はサイドブレーキを引きシフトレバーをパーキングにすると、左腕を助手席の背もたれに廻し、柚布子の顔に自分の顔を近づけて怒鳴るように言った。

「御免なさい、磯くん」
「誤らなければならにような事してたんですか? 姐さん、自分のしてること分かってますか?」
磯貝は柚布子より4つ年下であった。 仕事上で磯貝は柚布子にパシリみたいに使われることがある。 必然的に姐御的存在になってしまうので磯貝はオフィシャルな場以外では柚布子のことを「姐さん」と呼んでいた。 そんな関係を他の営業部員も見ていて彼らも柚布子のことを間接的に「姐さん」と呼んでいた。

「ありがとう、磯くん、電話くれて」
「・・・・私にも責任がありますから・・・」
磯貝は柚布子に惚れていたからこそ心配なのであって、責任など無かった。 しかし、システム・インテグレーション産業の担当マネジャーに磯貝が強く推薦した手前責任があると主張した。

「問題なんて起きてないんでしょ?」
「何言ってるんですか、問題が起きているに決まってるじゃないですか!」
磯貝の語気は相変わらず荒い。

「え、どのサブシステムで?」
「ここです」
磯貝は柚布子の唇を指差した。
「え?」
「何で、こんなにルージュが唇の外にはみ出ているんですか?」
柚布子は慌てて唇を押さえた。

重盛と最初の店を出る時に柚布子はリュージュを引き直していた。 だが、ネットカフェから一刻も早く出たいが為に化粧室に寄らずに店を出てしまった。 だから、そのことはネットカフェで重盛に唇を奪われたことを証明していた。

「姐さん、そんなに化粧が下手じゃないですよね」
「・・・・」
「謝らなければならない証拠がここにあるんですね?」
磯貝は唇を押さえていた柚布子の手を退けると、身を運転席から乗り出し柚布子の顔へ自分の顔を近づけた。
柚布子はそれを拒むでもなく、自然な成り行きのよう感じていた。 そして、磯貝の唇が柚布子の唇と重なった。

柚布子と磯貝がキスをするのは始めてではない。 しかし、唇同士を重ねる接吻は初めてであった。
唇が重なると磯貝の舌が柚布子の唇に触れた。 すると、自動ドアのように柚布子の唇が磯貝の舌の大きさ分だけ開き、磯貝の舌が入って来た。 柚布子は不思議な感覚を感じていた。

磯貝の舌の動きに自然と合わせてしまう自分の行動に驚いていた。 今までにない経験であった。 今までの経験では夫でさえこんなにスムーズな舌の動きとはならないと思っていた。 訪米人はキスが上手だと聞いたことがあった。 磯貝は外国生活が長い。 だからキスが上手なのだと思った。

激しく舌を絡ませたり、激しく吸ったりではない。 自然と呼吸している延長線上の接吻だと柚布子は思った。

「姐さん、残念です」
「・・・・」
磯貝は柚布子から唇を離すと、そう言い、さらに続けた。
「重盛に汚染されています」
「・・・・」
「除染しないといけませんね」
磯貝はそう言うと、再び柚布子と唇を合わせた。
ゆっくり、丹念に舌を絡ませた。 そして、呼吸するかのように吸った。 柚布子もそれに合せていた。 柚布子は初めてキスでうっとりした気分になった。 今までは、セックスの前工程のような欲情した接吻だったのである。 しかし、磯貝との今の接吻はそんなに欲情するものでもなく、この後のセックスを前提としたものでもない。 これがキスを日常としている者の成せる事なのだと思った。


「これで、重盛の汚染は消えたでしょう」
「磯くん・・・」
柚布子はその先の言葉が続かなかった。 確かに磯貝の接吻で重盛の匂いは消えた。 むしろ、磯貝のキスのテクニックの感触が柚布子の口腔に残った。

「もう、磯貝に逢わないですよね」
「・・・・」
「姐さん!」
「でも・・・」
「あの会社でも結構重盛との事が噂になってるんですよ」
「そうなの?」
「まだ、頻繁にあそこに出入りしているのは事情を知ってる私達だけだけど、これから調整で会社の他の者も出入りするようになったら、あっという間にバレちゃいますよ」
「そうね、既婚ということはバレないようにしないとね」
「姐さん、そういうことじゃないでしょ!」
磯貝の語気がまた荒くなった。 確かに既婚かどうかの問題ではなく、柚布子が重盛の領域にズルズルと引き込まれていく事が磯貝にとって問題なのである。


柚布子は磯貝の心配をよそに茶目っ気ある表情をして見せた。
「姐さん、そこ以外にも重盛に汚染されてるなんてことないですよね!」
「・・・」
柚布子は否定しなかった。 嘘でも無いと言えば済む話である。 しかし、柚布子は自分でも「他には無いわ」と何故言わないのか分からなかった。 それは磯貝と交わした接吻の影響に他ならない。

「姐さん、他にもあるんですね?」
「・・・」
「もう、どうして、そうなんですか!! ここじゃ除染できませんよ!!」
磯貝はシートベルトを締めるとシフトレバーをDレンジに入れ車を発進させた。 柚布子は磯貝の横顔を見つめていた。 その表情には覚悟があるようであった。
  1. 2014/11/02(日) 12:55:49|
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序破急 - 破の6 「尾行術」

幹線道路と高速道路が交差するインターチェンジを見下ろす小高い丘の上に一軒の旧家がある。 その旧家の庭先には小さな電波塔があり離れにアンテナ線を引き込んでいる。 その離れの窓からインターチェンジ近くのホテルが見える。 離れの主はハンディーマイクを握りながら窓外の車のライトとネオンを眺めていた。

マリリンとはハンドルネームである。 幹線道路や高速道路を行き交うトラックやダンプの運転手と無線を楽しんでいるのである。


ホテルの駐車場は高い壁に囲まれているが、離れの窓からは様子が手に取るように見える。 マリリンは駐車場から建物に入って行くカップル、出て来るカップルの様子を眺めながら無線を楽しんでいた。 土壇場になって助手席から降りようとしない女、それを無理やり降ろそうとする男、 男を振り切って駐車場から走って逃げる女、それを車で追う男。 様々な小活劇を見る事が出来るのである。 中継することもあった。

この夜も3割方駐車場は埋まっていた。

白のADバンが滑り込んで来た。 商用車であるが会社名などペイントされていない車であった。 背広姿の20代後半の男が運転席から出ると、助手席からビジネススーツのいかにもキャリアウーマンという感じの女性が降りて来た。
「あら~」
マリリンは感嘆の声を漏らした。 遠目でしかも暗くはっきり見える訳でもないが、なかなかイケてる女性が降りて来たもんだと思った。

こういうホテルに来るのは、同じ歳のカップルか、歳の離れた男女や、パワハラ、セクハラの関係が多い。 だが、二人はそれらには当てはならないカップルに見えた。


男はホテルの入り口を探して見渡していた。 女は下を向いて顔を隠しているよでもあった。 やがて、男が入り口を見つけると女に声を掛けた。 女は男の背を小走りに追い、背中に隠れるように従った。 そして、二人の姿は建物の中へと消えて行った。

「ありゃ、不倫だわ」
マリリンは女の勘でそう思った。 そしてハンディーのPTT釦を押した。
「チェック、チェック、どちらかこのチャンネルお使いですか・・・」




二人はベッドの脇で抱き合って接吻をしていた。 やがて、女はベッドに腰掛けるように倒れると男はその上へ被さってきた。

「ここは汚染されたんですか?」
男の問いに女は頷いた。
「仕方ないなぁ」
男はそう言うと、女のスーツの上着を脱がしベッド脇の椅子に放り投げた。 そして、ブラウスの釦を全て外した。 すると、ブラジャーを着けた女の胸が露になった。 男はブラウスから女の腕を抜くと上着と同じようにブラウスもスーツの上着と同じ所へ放り投げた。

黄色の下地に白い刺繍柄のあるブラジャーは清楚にも見えるし、妖艶にも見える。 いつも男がブラウウス越しに見ていた胸の谷間が今は直接見えている。 男は自分の股間を意識した。

男はブラジャーの下側から両方の掌で両方のカップを同時に捲った。 すると、既に隆起した乳首と小ぶりの乳房が露になった。 男はそのまま掌で乳房全体を揉んだ。 男の掌は硬くなた乳首を感じていた。

「あ、あん」
女の喘ぎ声が洩れ始めていた。 つい数時間前にも他の男に揉まれていた乳房である。 しかし、その時とは違い女の胸は開放感を感じていた。 声も堪えなくていいのである。

「こんなことも、されたんですか?」
そう言うと男は女の片方の乳首を口に含み、乳首を舌で転がした。 すると、女は二回首を縦に動かした。

「じゃ、除染しないと」
男は舌で乳首を甚振り、吸った。
「あ、あーん」
女の喘ぎ声が猫撫で声の喘ぎに変わって行った。 男は交互に両方の乳首を甚振った。 今まで触る事さえ出来なかった惚れの女の乳首を丹念に愛撫した。


男は一旦胸から離れると、女のスカートのホックに手を伸ばし外すとジッパーを降ろした。 女はスカートに手を伸ばし降ろされないように押さえた。
「僕の探知機はこっちも汚染されていると言ってますよ!」
そう言われると女は手を離し、男がスカートを下ろすのに合せるように腰を捻りながら浮かして、スカートを降ろし易いようにした。

男の視野にブラジャーとお揃いの柄のビキニの下着がストッキング越に現れた。 男の股間のガリガーカウンターの針は急上昇していた。
男はこの時になって女のストッキングが薄いながらも網目模様なのだと知った。 ストッキングの網目模様は太腿の奥で終わっていて、そこから上は下着が透けてみえる。 そのコントラストは妖艶さを助長させていた。

男は精悍なキャリアウーマンの鎧の下に男を蕩けさす下着をつけていることに興奮を覚えた。 少なくとも今の自分の恋人との経験では無いことだ。 更にあの男の為に選んだ下着だと思うと嫉妬心が沸いて来た。

本当にここは汚染されているのか? 男に疑問が沸いてきた。 あの放射能男の指が汚したのか? それとも舌が汚したのか? まさか、あのネットカフェでそれ以上のことは無かったであろうと思った。




男は女があの男とネットカフェに入っていた時間を割り出した。 男は女が張り込んでいた店からあの男とタクシーに乗った後を追ったが見失った。 映画のシーンでもない限り尾行など簡単には行かないのである。

男は当てもなくタクシーが向かった方向に車を走らせた。 当然、行き先はホテルであろうと思った。 駅まで送るのであれば方向が逆であったからである。 今のホテルはその時に探したホテルである。
冷静に考えると、タクシーで駅から遠いホテルに向かへば帰りにまたタクシーを呼ばなくてはならない。 男の感性からするとそれはスマートではないからしないであろうと想像出来た。 それなら、可能性があるのは職場から遠い駅近くのホテルである。 男はどの駅に向かうか迷った。 



男の今日の運勢は絶好調なのかも知れない。 交差点で停まった時に見覚えのあるタクシーが交差点を横切った。 女を乗せたタクシーが営業所にでも戻るのに違いない。

信号が変わると男はタクシーが来た方向に左折した。

しかし、その先にホテルは見当たらなかった。 やはり諦めるしかないのかと男は思った。 男の顔は焦燥感に覆われて来た。 人妻とはいえ自分の惚れた女が他の男に犯られるのである。 いや、今頃もうその男に堕とされたかも知れない。

やはり諦められない。 男は二人を乗せたタクシーが来たであろう街の繁華街の入り口に車を停めた。 そして、一か八か女に電話を掛けた。 長い呼び出しの後に女が電話に出た。 どうやら間に合ったようである。

男は駅のロータリーから繁華街へと車を入れた。 二人が入りそうな店を探しながら車を走らせていた。 すると、ルームミラーに女が店から出て駅に向かっているのが見えた。 男は急いで車の頭を路地に入れ何度も切り返しながらユーターンさせた。 そしてアクセルを吹かした。 やはり今日の運勢は絶好調に違いない。 



今、目の前にその女の肢体が男を誘っている。 もう男は躊躇する必要はないのである。 自分にはこの女を除染する責任があると言い聞かせた。

男は女のストッキングの淵に手を掛けると、女の脚から果物の皮を剥くように脱がせた。 今度も女が腰を浮かせた。 男は女に最後通牒を行う為に唇を重ねた。 そして、中途半端に外れたブラジャーを取り去ると、女の臀部の脇に移動し、パンティーを脱がした。

パンティーが降ろされると女の陰毛が現れた。 ほんの少しパンティーを降ろしただけでそれは現れ始めた。 だが、その光景は一瞬だった。 女が両手でそれを隠したからだ。

「除染しますからね」
だが、男はしばし女の肢体を眺めていた。 なんと美しい光景なのだろうかと思った。 股間を押さえる両手の指先のネイルがさらに扇情的であった。 しかも小刻みに動いている。 まるで、早く退かして欲しいと訴えているよにも見えた。

男は女の手首を掴むと身体の脇に退かした。
女の顔は恥らうように横を向いた。 夫以外の男に全裸を晒した瞬間である。
  1. 2014/11/02(日) 12:57:09|
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序破急 - 破の7 「漁夫の利」

「は~い、マリリンで~す、 何方かいますか?」
いつものマリリンの軽快な呼び出しが始まった。

「今日もね、いつもの風景って感じで眺めていましたよ~
いつものインター上空からのオン・エアー、何方さまもお元気で、しぶろくよんきゅう(4649:ヨロシク)送っておきますよ~」

マリリンがしばらく応答を待っていると、ププツ、ププッ とスピーカーから音がした。
「は~い、さっそくビッグな応答ありがとうございますね~、それではどうぞ、お入りくださ~い。」

「早速のピックアップありがとうございます、
こちらハイウェー上り込んでの、ひとまるまる(100キロ)ポスト付近からのオン・エアー、
さすらいのスリーダイヤと申しますってね、しぶろくよんきゅう送っておきますってね~」

「は~い、さすらいのスリーダイヤさ~ん、ビッグなご挨拶ありがとうございますね~、
ハンドルネームからどんな車乗ってるか想像つきますよ~って、
派手なネオンで周りの車を蹴散らしながら上りこんでいるのから?」

「当局、大人しく一番端の車線を走っていますよ~ってね、右のネ」

「まあ、気を付けて走行して下さいね、スピードは控えめに、よそ見、寄り道、浮気は厳禁ですからね~」

「当局、真っ直ぐな男、車のスピードは抑えても、あれの発射は早すぎるって言われていますよ~ってね、でも当局の車に是非マリリンさん乗せてみたいですよ~って、そのお返しに、マリリンさんに乗っちゃうかな~」
マリリンは夫の勧めで無線を始めてかれこれ30年は経つのである。

そんな電波が行き交う下のホテルでは・・・



男は目の前に横たわる人妻の全裸姿に見惚れていた。 同じ職場の年上の惚れた人妻である。 一緒に仕事をしているだけではこんな事には決してならない運命であった。 ましてや口説いたり、告白したことなど無かった。 女は男が自分に惚れていると思っていただろうか? 単なる好意くらいにしか思っていなかったかも知れない。


自分が惚れた人妻が他の男とデートを重ねることに胸が焦がれていた。 男には恋人がいる。 性欲のはけ口は必要ない。 このまま行けばその恋人と結婚するかも知れない。

だが、男は恋のような焦がれる思いを日々募らせて行き、気が付けば人妻の行動を監視していた。 その人妻が夫以外の誰と寝ようが男には関係がないはずであった。 ただ、自分が推薦して相手の男の会社の担当になった結果のことだから自分に責任があると思っているのか?

相手の男が仕事上のことでパワハラをしているのかと云えば、決してそうではない。 人妻も合意の上での付き合いである。 だが、男は許せなかった。 そんなことで不倫をする女であって欲しくないのである。


だからと言って、今、目の前の光景になるなどと思ってもいなかった。 ただ、自分の惚れた人妻を窮地から救いたかった。 それも窮地と思っているのが本人だけで、人妻と相手の男が相思相愛なら男はピエロである。 お邪魔虫に他ならない。 


男はこの機会を逃す手はないと思った。 いや、どんな男もそうに決まっている。 男は労せずして女を抱く機会を得た。



「除染しますからね」
男は女の手首を掴むと身体の脇に退かした。 そして、顔を股間に近づけた。 女の淫汁の匂いが漂って来た。 男は女の内股を両手で押し広げた。 女は抵抗する様子もなく脚を開いた。

男は迷った。 このまま顔を近づけて舌で愛撫するか、指で愛撫するか。 男はこんな事で悩むなどと思いもしなかった。 これもあの男がネットカフェでお膳立てしてくれたからこそであった。

もし、あの男との交際を咎めるだけならホテルに入る事も出来なかったはずである。 女をその気にさせたのは間違いなくあの男である。



男は女の陰毛を丁寧に掻き分け小陰唇を丁寧に広げた。 ピンク色の花びらが目の前に開花すると男を誘う匂いを発していた。 そして小陰唇の谷間を人差し指でなぞった。 指が小陰唇を離れる時、指に女の淫汁が糸を引いた。

「あん」
女は切ないような喘ぎ声を出した。
男は糸を引いた人差し指を女の太腿に擦りつけた。 すると今度は中指を捻るように膣口に埋め込んだ。
「あ、あー」
女の腰が浮いた。

男の中指の腹は女の膣壁をなぞった。 指に伝わる感触をやがて自分の陰茎で感じるのだと思うと股間は爆発しそうになった。 男は新呼吸して気を逸らした。


ゆっくり、男の指は女の膣壁を掻いていた。 指は既に女の淫汁で濡れていた。 女は目を閉じて喘いでいた。 男はその顔を見ながら指を動かし、何処が感じるか探した。 そして一番顎が上がる場所を突き止めた。


男は一旦女の身体から指を抜くと、片手で胸を揉み、もう片方の手の親指の腹で女の陰核を捲るように押した。 女は身体全体で感じようと身体をくねらせた。 そして、陰核を押している手の中指と薬指を陰核を押しながら膣口から埋め込んだ。

女の背中がベッドから浮いた。 男は先ほど探り当てたポイントを2本の指で刺激した。 女はシーツを掴んで身体を硬直させた。

男は一旦女から離れた。 女の肩と腹部が荒い息のせいで激しく上下していた。


女は男が服を脱ぐ絹ずれの音で男の方を振り返った。
「もう、除染は終わったわよね?」
「・・・・」
「ねえ、済んだわよね?」
「・・・・」
「もう、いいから、帰りましょう?」

男は全裸になると、ベッドの女の足元に乗った。 女は今まで開いていた脚を閉じてベッドの枕の方へ後ずさった。
「もう、充分だから、お仕舞いにしましょう?」
「・・・」
「お願い、もう止めて」
女が起き上がろうとした瞬間、男が女の足首を掴んだ。

「ねえ、だめ、だから」
「・・・・」
「お願い・・」
男は女の言う事に耳を貸すことなどなく掴んだ足首を引き寄せた。 ベッドの毛布が女の身体と一緒に移動して皺を作った。

男は引き寄せた足首を左右に開き、その間に自分の身体を入れた。 そして、女に覆いかぶさり、唇を重ねた。

女の拒否を示す言葉を発していた口はそれとは正反対に男の接吻に応えていた。

男は女の内腿を押して脚を大きく開かせると、女の股間に自分の腰を近づけ、片手で陰茎を掴み女の膣口に押し当てた。


「あー、磯くん、だめったら~」
柚布子は観念したかのように目を閉じた。
  1. 2014/11/02(日) 13:12:53|
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序破急 - 破の8 「過ち」

過ちとは、 それは人によって変わるものなのか? 普遍的な定義があるのか?
『過ちを犯してしまった』とか『過ちに気付く』とか表現される。 つまり、本人にそれが間違っているという意識が無ければそれは『過ち』ではなく、必然の行為も『過ち』ではなくなる。

だが、それは自分を正当化する詭弁に過ぎないかも知れない。




「ねえ、だめ、だから」
「・・・・」
「お願い・・」
柚布子がそう言う唇を磯貝は自分の唇で塞いだ。 そして、舌を動かすと柚布子も磯貝の舌に自ら絡めて来た。 それは 「だめ」 というのが形ばかりであることを物語る。

「あー、磯くん、だめったら~」
「奥はこれじゃないと届かないから除染出来ないんですよ」
「だめ、だめ・・・・」
柚布子は観念したのか声が消え入りそうであった。 磯貝は枕元の避妊具を掴み開封し、ペニスに装着した。

「ねえ、磯くん、本当にだめ?」
「だめです・・・」
磯貝はヴァギナの割れ目をペニスでなぞった。

「あっ、あー」
磯貝はペニスを柚布子のクリトリスに押し付けたのである。

「ほら、やっぱり除染が必要じゃないですか・・・」
「・・・・」
「いいですね?」
柚布子は首を横に振り拒否を示したが、それは首の動きだけで開いた脚を閉じるでもなく磯貝を受け入れる体制を示していた。

磯貝はペニスを柚布子のヴァギナに押し付け、両手で裕子の脚を更に開いた。 そして膝を前に進めてペニスを埋め込んだ。

「あ、いやー」
柚布子の悲鳴に似た叫びが部屋に響いた。 磯貝は身体を柚布子に覆いかぶさるように屈んだ。 そのことでペニスがカリの部分まで埋め込まれた。

「あ、あー」
柚布子の叫びは続いていた。 初めて夫を裏切る瞬間であり、過ちを犯す瞬間の興奮に叫びが止まらないのであろう。

「う、うっ」
興奮しているのは磯貝とて同じである。 まだ、カリの部分まで埋め込んだだけなのに、内股からペニスの先端にじわりと走る快感が沸いて来たのである。 普段では聞く事のない柚布子の叫び声に刺激されたのである。

磯貝は柚布子の腿を広げている片手を自分の股間に移動させて睾丸を握った。 激痛の一歩手前の痛さまで握り亀頭に集中する神経を押し戻した。 そして、ゆっくり深呼吸をした。 どうやら、惨めな事態は食い止められた。

磯貝はいつになく避妊具の中で我慢汁を充満させていた。

磯貝は呼吸を整えると腰をゆっくり限界まで押し出した。
「あ、あ、いや~、だめ~」
柚布子の叫びは止まった。

磯貝は亀頭に集まる神経の分散に成功させると、ゆっくり腰を律動させた。 柚布子の叫び声は磯貝の律動とともの喘ぎになっていた。



磯貝は竿師でも無ければ性壕でもなく普通の男子である。 一旦、亀頭に集中しそうになった神経は集中し易い。 何度も睾丸を握っては耐えていたが、限界に来ていた。 柚布子が絶頂に達するまで突いていられないだろうと思った。

ここで一度果てて、再度挑むことも考えた。 このホテルは避妊具を二つ枕元に置いてあるので、それも問題はない。 だが、帰宅時間が問題である。 休息して再び柚布子を抱くことが出来るのであろうか? 柚布子は自分が絶頂に達していないから、もう一度抱いてなどと言うハズもない。

それに、今夜のような機会はもう来ない。 ならば、中途半端では終わりたくない。 たとえ短い挿入時間でも、柚布子が逝かなくても、早いと馬鹿にされても、磯貝は思い切り果てることに決めた。

磯貝は今まで聞いたことのない柚布子の喘ぎ声を耳にしていた。 磯貝が思案している間に柚布子も逝きそうになっていた。 と、そんな律動運動のタイミングが互いに合わず、磯貝のペニスは柚布子の中から抜け出てしまった。

柚布子の喘ぎも一瞬止まった。 柚布子の顔を覗き込むと放心したようにあらぬ方向に目をやっていた。 磯貝はペニスを握り柚布子のヴァギナに押し付け再び埋め込んだ。 そして、再び引き抜いた。

埋め込むのと同時に柚布子は喘いだ。 そして引き抜くと喘ぎは止まった。 磯貝はそんな柚布子の顔を覗きこんだ。 相変わらずあらぬ方向を見つめていた。 磯貝はこの時しかないと思った。 もう次の挿入が限界であった。



柚布子は再び磯貝がペニスを握り埋め込むと思っていた。 だが磯貝は我慢汁が溜まった避妊具の精液溜めをつまみ避妊具を外した。 そして、クリトリスからヴァギナにかけてペニスを擦りつけ、一気に挿入した。

「あん」
柚布子は気持ち良いと思った。 今までよりペニスの凹凸が感じられたからである。 そして、膣の奥で今までとは違う、久しく感じていなかったゴム以外の感触に声を上げた。 が、それが何を意味するか理解するのに数秒掛かった。

「いや、だめ、だめ、磯くん、それだけは・・」
避妊具を着けていれば物理的にはゴムの挿入であって磯貝のペニスが挿入されたことにはならない。 しかし、避妊具の隔たりが無いとすれば柚布子の膣襞と磯貝のペニスが直接触れることになり、物理的にも柚布子は夫以外のペニスを受け入れたことになる。

磯貝は最後の試練に耐えていた。 もはや律動運動は出来ない。 いや、しようと思えばあと数回は出来るであろう。 しかし、この密着した状態で果てたかった。

「いや、いや、ぬいて~、おねが~いっ」
柚布子は起き上がろうとするが磯貝が腰をしっかり押さえていて叶わない。 柚布子も経験上磯貝が果てる寸前であることが分かった。

磯貝は肛門の周りと、内股から快感が込み上げ、睾丸の辺りで合流し、ペニスを先端に向かって進むのをもう止められなかった。 後は自立神経のなすがままに従うしかないのである。
快感はカリのところでペニスを周回すると、海綿体は最高に硬直した。 そして、次の瞬間、硬直は一瞬緩んだ後再び硬直し快感は亀頭へ走るのと同時に肛門が収縮した。

「あっ、あー」
磯貝が吐くように声を出すのにやや遅れて
「いっ、や~」
柚布子の叫び声が響いた。
  1. 2014/11/02(日) 13:15:34|
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序破急 - 破の9 「瞬き」

柚布子は目に涙が浮かんでいるのが分かった。 涙の向こうの視界はぼやけていた。 裸の男が荒い息をしている。 瞼を閉じると涙が目尻から零れて頬を伝った。 視界から裸の男が消えた。 柚布子の聴覚からも音が消えた。 それは一瞬だったが、柚布子には長い時間無音の時が過ぎたと思った。

闇の中でフラッシュバックのように過去の映像が浮かび上がった。 それは柚布子が自分の頭の中で経緯を整理していたからである。



一言で言えば成り行きであった。 柚布子に今の状況になることを望む意思は無かった。 そう思いたかった。 だが、フラッシュバックの映像に注釈をつけて繋げて一つの物語にすれば、柚布子の意思によって今があることになるかも知れない。

柚布子は重盛と交際しているに等しい。 誰もが二人を見て付き合っていると判定するだろう。 柚布子と重盛が出会う前に既に柚布子は重盛の恋人候補となっていた。 まるで一昔前のお見合いのようである。 これがアメリカなら三流の弁護士でもパワハラで訴えることが出来る状況である。 しかし、それは本人が望まない場合である。

柚布子と重盛は大人である。 交際となれば男が身体を求めてくることもあるだろう。 柚布子は重盛とは恋人同士ではないと思っていた。 しかし、恋人に発展する過程を楽しんでいた。 それは夫の英生との交際では無かった感覚であったからである。 そしてズルズルと重盛のペースに嵌り女の秘部へ指の侵入を許してしまったのである。

次に重盛と逢うとすれば、それ以上の行為に及ぶことは必定である。 そんな時に同じ会社のしかも舎弟のように接している磯貝が現れた。 柚布子は磯貝に縋った。 しかし、柚布子は磯貝の感情の変化まで考えていなかった。 磯貝と会社では同僚であり、同期でもあり、弟のような存在だった。 磯貝が帰国子女ということもあり挨拶で接吻をする中であった。

重盛と深い関係になることはいけない事と理性では分かっていたが、感性では一度性欲の釦を押された身体がそのままであることに気がついていなかった。 男性経験の少ない女性なら数時間前の重盛との行為を理性が取り消せば性欲も一緒に取り消されたであろう。

しかし、人妻の柚布子の身体は条件的にその先に進むことを欲していることに本人が気が付いていなかった。 そこにガードの必要の無い磯貝が現れたのである。 そして磯貝は今まで以上に柚布子への感情を昂ぶらせていた。 1ヶ月前の磯貝なら何処かのファミレスに車を滑り込ませ、柚布子に化粧を直させ自宅まで送ったであろう。

柚布子がシステム・インテグレーション産業のアカウントマネジャーになってから磯貝は嫉妬を感じていた。 重盛は事情を知らないとはいえ柚布子を口説いている。 柚布子を口説いて良いなら自分が真っ先に口説いていたはずだからである。 そんな磯貝の心情状態で柚布子がガードをしなければ磯貝は自分の思いを遂げようとするのは当たり前である。


柚布子は磯貝の挿入物に避妊具が装着されていないと知った時から、こうなったのは自分が原因ではない理由を懸命に探していた。 それは、その後に何が起こるか知っているからである。 だが、探せば探す程自分に非があることだけが浮かび上がった。 そして、自分で何を叫んでいるかも分からなくなりその時が来た。


柚布子は泣いた記憶は無いが、涙が頬を伝って落ちたのを感じた。 その涙に促されて瞼を開けた。
目の前に唸り声を上げた磯貝がいた。 その唸り声と同時に柚布子の身体の中で磯貝の挿入物が躍動した。 柚布子は身体の奥くに熱い物が充満するのを感じて叫び声を上げた。

今が現実であった。 柚布子は一瞬先の予知夢を瞬きの間に見たのだと思った。

柚布子は何ヶ月も味わっていない感触を夫以外から受けてしまった。 背徳感や罪悪感より柚布は快感に支配されていた。

「あ、あ~」
磯貝は恍惚の声を上げた。 それは自分の挿入物に絡まるように収縮した柚布子の肉襞に噴出した欲望の液が搾り取られるように感じたからである。 柚布子も自分の意思ではないものが下腹部を動かしているのを感じて仰け反った。

  1. 2014/11/02(日) 13:17:50|
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序破急 - 破の10 「自己嫌悪」

「自分はなんて女なの」
柚布子は自分で自分のことをそう思った。 本当は一大事であるのにそんな自分を俯瞰で見ている自分がいる。 身体は反応しても意識の中では自分は逝っていないと思っている。
依然として膣の中では磯貝のペニスが収縮をし、精液を吐き続けていた。 夫以外の精液を膣の奥で受け、子宮に入り込もうとしているのに柚布子は他人のことのように感じていた。

柚布子が嫌悪したのはそれだけではない。 行為の最中は意識しなかったが、今こうして磯貝のペニスが静止していると夫の物と比較してしまっている自分がいることに気が付いた。

「長いんだ」
柚布子はそう心の中で呟いた。
夫との行為でも最後は奥に夫のペニスを感じている。 そして密着した夫の陰毛がクリトリスに当たって同時に刺激するのである。

しかし、今はクリトリスにその刺激がない。 確かに膣の奥、つまり子宮口に磯貝のペニスはあり同時に噴出した精液の暖かさと共に感じている。 柚布子は薄らと目を開け磯貝との結合部分を見た。 そして自分が思っていることを心で呟いた。
「やっぱり・・・」


柚布子は息の荒い磯貝の顔に目を向けると俯瞰で見ている自分から本人に戻った。
「磯くん・・・」
「姐さん」
磯貝は腕立ての姿勢から、肘立ての姿勢になり両手で柚布子の乳房を揉み、乳首を親指で押しながら甚振った。 すると僅かだが、膣が締まったように感じた。 既に射精は終わっているが、ペニスは硬さを維持していたのでその締まりを感じることが出来た。
「あ、あん」
柚布子は喘ぎ声を上げた。 その声に促されるように磯貝は柚布子と唇を重ね吸い合った。


磯貝はペニスの硬直が少し解れたが、このままでいれば再び硬直しそうな予感がしていた。 しかし、このまま続けていられないことも分かっていた。 自分が惚れていた女との逢瀬ではあるが、人妻である。 このまま引き留めることも出来ないと思った。
ここまでは、重森のお膳立ての流れで来てしまったと言ってもいい。 だから、この先をどう進めて良いか迷っていた。

「磯君・・・帰らないと・・・」
柚布子のその声で磯貝は結合を解いた。 磯貝のペニスは完全には委縮してはいなかった。 柚布子から離れると、その跡から白濁した液が毀れようとしていた。
いつもなら夫がティッシュで拭いてくれるが、磯貝も初めてのことなのでどうして良いか分からなかった。

柚布子は磯貝より年上であった。 今までの男性経験は夫も含め全て年上だった。 従って相手の言われるままにしていれば良かったが、今は自分が年上である。 仕事でもそうであるように自分が指図しなければならないのか迷った。 互いに迷っていた。

磯貝は柚布子から離れると体を反転させるように転がり枕元のティッシュの箱を手に取り、何枚かティッシュを取り柚布子の股間に当てようとした。 すると、柚布子が上半身を起こしそれを受け取り自分で股間に当てるとベッドから降りトイレに向かった。

磯貝はその後ろ姿を見ながら綺麗だと思った。 自分の恋人とは違いその綺麗さはやはり人妻であるということから来ているのではないだろうかと磯貝は思った。 そして、ティッシュを取り自分のペニスを絞って綺麗にしようとした。
いつもなら絞った時に尿道に残っている精液が出てくるのだが、今は殆ど出て来なかった。 磯貝は射精後にあの絞り取られるような締め付けを思い出そうとしたが、ペニスはそれとは反対に急激に萎んでいった。

柚布子がトイレから出る音がすると、浴室でシャワーが出る音がし始めた。
磯貝は放心していたようにベッドに腰掛けていたが、急いでペニスを拭くと浴室へと向かった。


柚布子はトイレから出ると浴室へ行きシャワーを出した。 温度は40度以上の赤い印を超えていた。 シャワーキャップを着けると手でシャワーを触り温度を少し下げた。 そしえ身体全体にシャワーを馴染ませた。
本当は頭から熱いシャワーを浴びたいところであるが、髪の毛を濡らすわけにはいかなかった。

柚布子はボディーシャンプーを手に取ると、股間に塗り泡立てた。 それをシャワーで流し、しゃがみ込んだ。 そして股間に下からシャワーを掛けバギナに指を入れて中を洗った。 トイレのビデで洗ったがそうせずにはいられなかった。

柚布子は立ち上がるとボディーシャンプを再び掌に取った。 と、その時、浴室の外に人の気配がして磯貝が浴室のドアを開けた。 柚布子は反射的に磯貝に背を向けた。

「姐さん、石鹸使っちゃだめだよ」
「・・・・」
「香が残るから」
「ありがとう、磯君」
磯貝は浴室のドアを閉め戻って行った。 柚布子は掌をシャワーで流しシャワーの温度を上げた。


シャワーから出ると磯貝が腰にバスタオルを巻いた格好でベッドに座っていた。 ベッドの脇のテーブルには缶ビールが2本出ていた。

柚布子のバスタオル姿を見た磯貝は柚布子に歩み寄り再び抱擁して唇を重ねた。 磯貝は唇を重ねながらバスタオルの中の柚布子の胸を揉んだ。 すると乳首は既に立っていた。

「あ、あ~ん」
唇を離すと、柚布子の喘ぎ声が漏れた。 柚布子はバスタオル越に磯貝のペニスが再び硬直しているのを感じた。 柚布子は名残惜しそうに磯貝の体を両手で突き放した。

「だめ、今夜はこれ以上、もう帰らないと・・・」
「そ、そうだね」
柚布子は取れかけたバスタオルを両手で押さえた。

「姐さん、服着たらビール飲んで下さい」
「磯君、車でしょ?」
「勿論、僕は飲みませんよ、姐さん2本飲んで下さい」
「どうして?」
「急な飲みの誘いを断れなかったということにしないといけないから・・・」
「ありがとう、磯君」
磯貝は浴室へと行き、ボディーシャンプーを手に付けるとペニスに塗り付け扱いた。 そうせずにはいられなかった。




「そんなわけでねマリリンも旦那とはすっかりご無沙汰ですよ~、
でも、だからと言って他人には乗りません、乗せませんってね、
皆様もご家庭大事にして下さいね~、」
マリリンの軽快なトークは続いていた。

マリリンがふとホテルの駐車場に目をやると一組のカップルが逢瀬を終えたのだろうか建物から出てきた。 そのシルエットからマリリンは二人がADバンのカップルに違いないと思った。 果たして二人はADバンへ向かった。 車へ向かう二人は入って来た時のよそよそしさとは正反対に寄り添っているように見えた。 そしてADバンは幹線道路へと出て、ヘッドライトの車列に紛れて行った。

「ありゃ~、旦那が可哀そうだ」
マリリンはそう呟いた。 トークボタンは押していないのでその呟きはオン・エアーされていない。
マリリンは最後のトークボタンを押した。

「今夜も何処かで悲しい寝取られ夫が誕生してるかも知れませんね~
家には大事な人が待ってます~って、
人生も車も注意1秒怪我一生って言いますよ~、
だから安全運転でお帰り下さいね~、
人生も安全運転が一番、いつものインター上空から今夜もマリリンでした~」
  1. 2014/11/02(日) 13:19:33|
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序破急 - 破の11 「三番目の男」

まあ> じゃ、今頃そのSとかいう男と奥さんは乳繰り合ってるんだ
英夫> はい
まあ> 奥さんを職場のSに与えて興奮して勃起してるんじゃないの?
英夫> いえ、そこまでは
まあ> いいって、ここはそういうサイトだから
英夫> はい
まあ> 奥さんにどこまで許しているんだい?
英夫> 大事なところまで弄られるのを許しました
まあ> 大事なところ? どこだ? それ、人によって大事なものは違うぜ
英夫> はい、それは
まあ> 言えよ、言っちまえよ、英夫
英夫> オマンコです
まあ> 奥さんにSにオマンコ弄られて来いって言って送り出したんだ
まあ> じゃ、奥さん今頃そのSにオマンコぐちょぐちょにされているぜ
英夫> そう思うと興奮してきました
まあ> 今日はオマンコ散々弄らせて頂き有難うございました、なんて言って女を帰す男が居ると思うか?
まあ> そのSのチンポが奥さんのぐちょぐちょのオマンコに出し入れしているに決まってるだろ
英夫> やっぱりそうなりますよね
まあ> 本当はその男に抱かれて来いって言ったんじゃねぇ~の?
英夫> そう言ったも同然です
まあ> 帰ったらSの痕跡がないか奥さん身体検査するんだろ?
英夫> 痕跡ですか?
まあ> オマンコにSのザーメン残っていないか奥まで穿ってみな
英夫> 妻は中出しされるんですか?
まあ> 旦那の言い付け通りに男に抱かれるスケベな奥さんなら中出しもさせてるさ
英夫> 検査が楽しみになって来ました
まあ> 淫乱な奥さんだな、俺もお前の奥さんのオマンコにデカマラぶち込んでたっぷりザーメン流し込んでやるぜ


英生はいつものサイトでチャットをしていた。 今夜は妻の柚布子の帰宅が遅くなることが携帯メールで知らされていた。 柚布子が派遣先の職場の重森という男と逢うのだろうと思っていた。
だから、重森が定時に退社するのを見届けて後を付けた。

重森は駅前の本屋で時間を潰すと都心へ向かう電車に乗った。 英生は隣の車両に乗り様子を伺った。 重森は二つ目の駅で降りると乗り入れている別会社の路線のホームへ向かった。
英生が少し遅れてホームへ上がる階段を昇って行くと、柚布子がホームで重森を待っていた。 英生は急いで階段を降り、反対側の階段に回りホームへ上がり二人の様子を伺った。

郊外へ向かう電車が入線すると、乗換駅である為大勢の乗客が乗り降りする。 その人混みで英生は二人の様子が見えなくなった。 二人は下りのホームに立っていたのでこの電車に乗るだろうと思った。
二人がホーム上に居なくなっていればこの電車に乗っていることになるが、それを確認していたらその電車に乗り遅れる。 英生は一か八か電車に乗った。

電車のドアが閉まり走り出すと英生はホームを車内から確認した。 果たして、ホーム上には重森と楽しそうに会話する柚布子の姿があった。 二人は後発の準急に乗るのに他ならない。 英生の賭けは外れた。

次の駅で英生の乗った電車は準急の通過待ちをした。 これ以上の尾行は諦め反対方向の電車に乗り換え自宅へと帰った。


「今度、何時、重盛にオマンコ触らせるの?」
「明々後日・・・」
今日がその日である。 だから英生は尾行をした。 しかし、それは報われず悶々としていた。 そんな気持ちを助長させるべくいつもの寝取られサイトを覗いていたのである。

英生がチャットをしているとインターフォンのチャイムが鳴った。

英生はインターフォンのモニターで柚布子を確認するとエントランスの扉解除ボタンを押した。 そして一方的にチャットを終わらせパソコンをシャットダウンした。



玄関のチャイムが鳴ると、英生は玄関へと向かい扉を開けた。 すると、柚布子が倒れるように抱きついて来た。

「どうした?」
「少し、飲みすぎた」
「少し?」
「・・・」
英生は柚布子に肩を貸し担ぐようにすると、ヒールを脱がせ寝室へと運んだ。 ベッドに腰掛けるように座らせると柚布子はベッドに仰向けになった。
「誰と飲んだの?」
「会社の人」
「会社の人?」
いつもなら饒舌に言い訳をするのに今日は一言も言い訳をする様子がない。 それだけ酔っているのだと思った。

重森とこんなになるまで飲んだのか? と、いうことは今夜は飲んだだけなのか? 英生はもっと聞き出したいと思ったが、柚布子は目を閉じ寝入り始めていた。


深酔いするほど飲む妻ではない。 それが英生が知っている柚布子である。 それがこんなに飲まされた。 それは酒を楽しんだ結果のことではなく、他に目的があって飲まされたに違いないと思った。


着衣のままベッドに仰向けになった柚布子を眺めていると、英生はそこに自分の妄想を重ねた。 柚布子を酔わせたのは柚布子に何かしようとしたからと思った。 そして何かされてしまったのかも知れないと。

こんなに酔わされて何もされていないなんてあるのか?
英生に疑念が湧いた。 そもそも下心があって酔わせたに違いないと思ったからである。

そう思ってベッドに横たわる柚布子を見下ろしていると着衣のままでも欲情して来るのを感じた。
「ゆうこ」
英生は柚布子の顔を覗き込み声を掛けた。
柚布子は「うん~」と消え入りそうな声で答えたようだが目は開かなかった。

英生は柚布子の額から髪の毛をなぞった。 綺麗な黒髪がベッドに乱れていて思わず手を出さずにいられなかった。 それでも柚布子は目を開けなかった。

柚布子は流石に立て続けに飲んだビールが効いて目が開けられなった。 だが、英夫が何をしているか分かっていた。 柚布子は磯貝に感謝した。 飲み会で酔って帰った事にすることで英生とまともに会話せずに済んでいるのである。 柚布子に度胸があったとしても初めて夫以外に抱かれた直後である。 尋常な精神状態ではいられないのである。

それは、大きな波のうねりを似たようなうねりを立てることで目立たないようにしているのに似ている。 柚布子は暫く酔ったままでいることにした。


「柚布子、スーツが皺になるぞ」
英生はそう話しかけるとスーツの上着を脱がした。 酔って帰った妻の服を脱がせるということは初めてのことで、それが更に欲情を掻き立てた。

上着を脱がせると、英夫は次にスカートを脱がした。
ブラウスとパンティーストッキングだけの柚布子に英生は欲情を隠し切れなかった。 そういう姿を見たのは初めてではなかった。 だが、今夜は特別であった。 それは、目の前の妻の肢体を重森も眺めたかも知れないからである。

英生は心なしか震える指でブラウスの釦を外し、胸をさらけ出すと黄色の布に包まれた二つの丘が露わになった。 この丘を重森は今夜は布の上からでは無く直に触ったに違いない。
英生は二つの丘を布の上から両方の掌に包むをゆっくり指を動かし揉み始めた。 すると、柚布子が鼻から息をするように呻いた。

暫く揉むと、英夫は布の端から指を入れ布を首の方へと押しのけて甘食のような乳房を露出させた。 そして、両方の乳首を親指で触ると既に硬くなっていた。 英生はそれをはさらに親指で弄るのと同時に乳房全体を揉んだ。

「なんでこんなに感じているんだ」 英生はいつもより直ぐに硬くなった乳首を疑問に思った。 それは重森に今まで甚振られていたからと思うようにした。 そう思うことで英生は自分の股間が熱くなってくるのを感じていた。 

英生は片方の乳首を口に含み舌で転がし吸った。 いつも柚布子に対してしていることである。 柚布子はいつもと変わらぬ喘ぎを初めていた。 揉みしだきながら乳房を搾り乳首を尖らせると、そこに口を持っていき吸い、舌で転がした。 それを交互に続けた。 それは何時もと変わらぬ柚布子の喘ぎを引き出していた。

英生は重森にどんな愛撫をされたのか? どのように乳房や乳首を甚振ったのか考えていた。 そして、柚布子は同じような喘ぎを聞かせたのか? 果たして、今、柚布子は自分ではなく重森に甚振られていると思って喘いでいるのではないか? そう、思うと目の前の妻が重森に胸を愛撫されているように見えて来て、更に股間は熱くなった。


柚布子は英生の独り妄想とは正反対に今は英生に胸を愛撫されているのを理解していた。 一気に飲んだビールが回って酩酊状態になったが、落ち着くと次第に意識がはっきりして来ていた。


「男って皆同じなんだ」 柚布子はそう思った。
何故なら、同じように愛撫されたのが、今で3度目であることを冷静的に理解していた。
英生は夫でありながら今日は三番目の男であった。
  1. 2014/11/02(日) 13:20:21|
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序破急 - 破の12 「身体検査」

まあ> 帰ったらSの痕跡がないか奥さん身体検査するんだろ?
英夫> 痕跡ですか?
まあ> オマンコにSのザーメン残っていないか奥まで穿ってみな
英夫> 妻は中出しされるんですか?
まあ> 旦那の言い付け通りに男に抱かれるスケベな奥さんなら中出しもさせてるさ

英生は先程のチャットを思い出していた。

目の前の妻の肢体は重盛によって愛撫され、重盛の男根を受け入れ精液まで膣奥深く受け入れたかも知れない。 英生の妄想は膨らみ、股間も膨らんでいた。

妄想が膨らめば行動に移るしかない。 英生は柚布子のストッキングの端に指を入れ勝手知ったるそれを脱がした。 そしして、パンティーに手を掛けると、柚布子が気が付き目を開けた。

「あん、あなた、今夜はだめ・・・」
消え入りそうな声に英生は促されパンティーを脱がした。


流石に柚布子は今夜夫婦の営みをする気にはなれない。 夫以外に抱かれた夜に続けて夫に抱かれるなどとは想像もしていなかったのである。 しかし、結婚以来柚布子達夫婦はどちらかが求めれば必ず応えていた。 たとえ、英夫が妄想の果てに柚布子を抱こうとしていたとしても柚布子は応えなければならないと思った。

そうすることによって帰宅前は何もなかったと主張したかったのかも知れない。 柚布子は英生のしたいようにさせるしかなかった。 


英生はパンティーを脱がすとパンティーのクロッチ部分を調べた。 今までこんなことをしたことはなかった。 果たしてクロッチは汚れていた。 しかし、一日穿いたものであればこれくらいの汚れは当たり前なのか、残念ながら英生にはその判断が出来なかった。

英生はパンティーを床に落とすと、柚布子の脚を膝から曲げ同時に押し広げた。 そして自分も裸になるとその間に身体を入れて柚布子の性器を覗き込んだ。 それはいつもの夫婦の営みと何らかわることのない所作であった。

いつもと違うのは英生の精神状態かも知れない。
英生は柚布子の脚を両脇に抱えるような姿勢になり、そのまま両手を胸へと伸ばし再び乳房を両手に刳るんだ。 そして、掌でゆっくり肌を捲るように揉んだ。 それはまるで皮を親指で剥くような動作であった。 英生はそれを乳房だけではなくその周辺、腋の下と行った。

英生はさながら皮膚科の医者にでもなったように丹念に肌を調べた。 だが、キスマークひとつ見つからなかった。 次に英生は少し後ずさりして柚布子の性器を覗き込んだ。 両手の指は少し震えていた。

英生は目の前に性器が来るように柚布子の腰を抱え上げていわゆるマングリ返しのような格好にしたかったが、そこまでして調べる勇気はなかった。 そうすれば明らかに今夜の不貞の証拠を探していると思われてしまうからである。

その代わり英生は柚布子の脚の間にうつ伏せになった。

英生は震える指で柚布子の性器を陰毛を掻き分けて押し広げた。 交際時代も含めて、英夫は柚布子に対してこのようなことをした記憶は数回しか無く、結婚後は無かった。 もし、柚布子が正気なら、拒否されていたに違いない。 酔った今だから出来ることである。


陰毛は既に湿気を帯びているようだった。 しかし、それが普段と違うことを英生は気が付かなかった。 何故なら夫婦の営みは入浴後に行っており、陰毛の湿気まで気にしていなかったのである。 それより英生は性器自体に目が行ってしまっていたからである。


重盛はもっと厭らしい指使いでこの襞を押し広げたのかも知れない。 そして可愛らしいピンクの陰核を舌で転がしたのかも知れない。 英生はそれを人差し指で掻くように弄った。
「あん、いやん」
柚布子は甘い声を出した。
重盛にもそんな声で甘えたのかと思うと、夜具に触れている自分の陰茎の先から汁が洩れた。 英生は何時でも射精出来ると思った。


押し広げられた柚布子の襞は蛍光灯の光に反射して光っていた。 それは既に潤んでいるからである。 英生はその潤みの中に中指を入れて中を触診した。 数時間前に抱かれた柚布子の性器は感じ易くなっていた。
だが、英夫には普段の柚布子のように思えた。 違いが判るほど経験がないのである。 英生は経験の無さを夢想で補った。
出し入れしている自分の指を重森の指だと思うようすると、中指に纏わり付く愛液を重盛も味わったに違いないと思えた。


「う~ん、」
重盛の指の動きに喘ぐ自分の妻が目の前にいる。 英生の頭の中では自分の代わりに重盛が柚布子を責めている映像になっていた。

「あ~ん、止めて、今夜は」
柚布子の声ははっきり言葉になっていた。
しかし、指に纏わりつく愛液は次第に多くなって来ていた。 それを感じて英生は指の動きを加速した。 そして、もう片方の手の親指で陰核を刺激した。

「はぁー、お願い、だめ~」
激しさを増した英生の手を押さえるように柚布子が上体をお越し手を伸ばした。 酔いは醒めたようだ。 英生は陰核を刺激していた手で柚布子の胸を揉みながら起き上ろうとするのを押さえた。 柚布子は額に片手を当てるようにしながら上体を倒し、再び仰向けになった。 その様子は必至に感じまいとしているようにも見えた。


「あん、あー、いやー」
柚布子が拒否しているのと反対に身体は感じていた。 柚布子は本当に止めて欲しかったに違いない。 柚布子にとって一晩に二人の男に抱かれるという経験はなかった。 一晩に一人の男というのが彼女の常識であった。 だが、そう思うのは男目線かも知れない。 柚布子は磯貝の感触を英生によって消されるのが惜しかったのかも知れない。


英生は胸と性器の両方を愛撫していた。 胸を愛撫している手にブラジャーが絡まった。 それは柚布子が起き上ろうとした時に下にずれて来たからである。 英生はそれを胸を揉みながら退かすが再び手に絡まって来た。 と、その時、

柚布子が起き上りブラウスとブラジャーを自ら外した。 そして、枕元の小箱に手を伸ばし避妊具を取り出すと英生に渡した。 やはり、そこは夫婦の阿吽の呼吸なのであろうか・・・


英生は避妊具を着けると柚布子の膝を左右に割って中に入った。 そして、陰茎を柚布子の陰核に擦り付けた。 そして、溝に沿って陰茎を移動させると窪みを確認し、腰を送り出した。


「あ、あ~」
柚布子の悲しい声が響いた。
  1. 2014/11/02(日) 13:21:15|
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序破急 - 破の13 「二度目の涙」

柚布子は脚を大きく開かされた。 そこに男が入って来た。 何をされるのか分からないほど初心ではない。 やがて、恥丘にペニスが当たりクリトリスを刺激して来た。
柚布子は感じていた。 数時間前に他の男に抱かれた。 それは逢瀬を堪能するというようなセックスではなく性行為であった。 行きがかり上のセックス。 完全には燃えていなかった。


精神的には今夜これ以上男に抱かれる気分ではなかったが、不思議と身体は男を欲していることを感じていた。 本気で逝ってはいなかったのだろう。 だから、気分では抱かれたくないと思っても強く拒否はしなかったのである。 ましてや、今、ペニスを埋め込もうとしているのは夫である。


柚布子のヴァギナをペニスが移動している。 そして膣口で止まった。 ペニスにとっては勝手知ったる場所である。 何の迷いもなくそこを探り当てている。 ペニスはゆっくりと膣の中へ侵入して来た。

「あ、あ~」
柚布子の口から切ない叫び漏れた。 同時に柚布子は自然と自ら腰を浮かせペニスを奥まで迎い入れた。 切ない声は迎い入れたペニスの感触があまりにも物理的で数時間前の感触と違っていたからかも知れない。
何か月もの間夫婦の営みでは避妊具を着けていた。 そして、夫以外の生のペニスを感じた後では違いが分かるのは無理もない。 勿論、以前は夫とも避妊具無しで営みを行ってはいたが、一晩に有り無しの両方を経験することは無かった。 だから、今日の経験は鮮明に違いを意識したのであろう。

この時、柚布子はまだ、避妊具を装着した挿入では逝かなくなってしまったことに気づいていなかった。



柚布子の膣の中をゴムの棒がゆっくり挿入されていく。 柚布子はそれを拒むことは出来ない。 何故なら自分の夫のゴム棒だからである。 しかし、拒めるものであれば拒みたいとも思っていた。
だが、自分のそういう意志には関係なく先ほどから身体の芯は熱くなっていた。

ゴムの棒は往復運動を始めた。 その動きは滑らかで、柚布子の膣壁との摩擦係数が低いことを窺わせる。 柚布子は痒い場所を爪を立てて掻いて欲しいところを、摩られているようなもどかしさを感じた。 もっと、膣襞に引っかかる感触が欲しかった。

柚布子は横を向いていた顔を正面に戻して男の顔を見た。 男は前方を見つめながら、口の中でモグモグと何か呟いているようであった。 以前の営みなら、そんな時は柚布子が見つめているのに気付いて唇を重ねて舌を吸いあったが、今はその素振りを見せない。

柚布子はいつもの営みの感覚を感じていた。 ゴム棒はスムーズに出入りを繰り返している。 たまに子宮口に強く当たると柚布子はいつもの声を出して喘いだ。 そして乳房はゴム棒の出し入れの周期に半周遅れて揺れていた。


柚布子は複雑な心境であった。
いつもなら手を伸ばせばそれに呼応するかのように夫が屈み唇を合わせ一緒に燃え上がるのである。 そうすればいつもなら更に燃える。 しかし、数時間前の接吻の記憶を消されたくはなかった。
柚布子は、遠慮気味に腰を掴んでいる男の手に自分の手を重ねた。

男はその手を逆に握り返すのと同時に万歳をするように柚布子の頭の上へと持って行き屈み込んだ。 柚布子の顔に男の顔が近づいた。 男の腰は動きを止めた。

「重盛に何処まで許した」
「・・・・」
男は柚布子の耳元に囁いた。 その声は震えていた。 さすがに男もその質問に緊張していたのであろう。
柚布子は一瞬磯貝同様に英生もストーカーしていたのかと疑った。 しかし、それは前回の営みでもあった男の妄想プレイだと直ぐに理解した。

「オマンコ触らせたのか?」
「・・・・」
柚布子の中のゴム棒がゆっくりグラインドを始めた。

「俺以外の男にオマンコ触らせたのか?」
「・・・・」
柚布子は無言だが、顔を逸らした。 男は言葉を選ばなかったが、柚布子にとっては言葉に依って意味が大きく異なる。
男は重盛を指す言葉として『俺以外』と言った。 話の流れでそれは重盛に違い無いが、柚布子にとっては単に『俺以外(夫以外)』なのである。 顔を逸らしたのは肯定を匂わせる仕草と男は思った。

「俺以外の男が柚布子のオマンコを・・・」
男のグラインドの速度が増して来た。 柚布子は微かに顎を引いた。

「触らせただけか?」
柚布子は再び顔を逸らした。 今度のそれは否定を匂わせる仕草だと男は思った。

「クンニされたのか?」
柚布子は首を振った。 確かに柚布子はクリニングスはされていなかった。 柚布子は磯貝との行為を夫に告白するような問答に燃え初めていた。 いつしか、いつもの鼻にかかった喘ぎ声を出していた。

「じゃ、何をされたんだ!! まさか」
「・・・・」
柚布子は再び顔を男から逸らした。 万歳をさせた姿勢はそれを解除させ、柚布子の両手を自由にした。 男は姿勢を改め手を柚布子の腰に当て、柚布子の身体を固定させ律動運動をし易いようにした。
柚布子は自由になった片方の手を唇に持っていき人差し指を噛むような仕草をした。
男にはその仕草が自分の妄想と同じ事を柚布子が告白する仕草と思い込んだ。 そして腰の動きを速めなくてもそのことだけで射精しそうであった。


「重盛にチンポ嵌められたんだな?」
「・・・・」
男は普段の営みでは使わないような卑猥な言い方をした。 柚布子の上体はのゴム棒の律動運動で揺れて肯定とも否定ともどちらの仕草とも分からない状態であった。

「俺以外のチンポ嵌められたんだな?」
「あ~ん」
「ゆうこー」
男は柚布子の叫び声を聞くなり腰を深く押し当て動かなくなった。

柚布子の中でゴム棒がピクン、ピクンと動きゴム棒の先端が膨らんでくるのを感じていた。
柚布子は二度と夫と以前のような営みは無いのかも知れないと思った。 それは自分が夫以外に身体を許した結果なのだと思った。


流れる涙を夫に見られないようにシーツに顔を埋め、そして嗚咽を堪えた。 それを男は行為の後の息遣いと勘違いした。 自分の妄想プレイが普段以上の興奮を柚布子に与えたものと思い込んた。
  1. 2014/11/02(日) 13:22:02|
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序破急 - 破の14 「三者三様」

夫婦の朝はぎこちなかった。 夫は寝取られプレイを妻に強要したような罪悪感があり、妻は不貞を働いた罪悪感があったからであろう。



英生はいつもの通り職場へ向かった。 しかし、仕事は半分手についていなかった。 自分の妄想のお蔭で妻を職場の男に寝取られようとしていた。 夕べ、柚布子は重盛と一線を越えたかのような思わせな返事をした。 やはり気になる。
大人の男女がデートを重ねて何もないはずがない。 噂によれば重盛は人妻喰いだという。

英生は重盛の課の方を注視していた。 重盛の課は朝に事務員を除き必ず全員で課内打ち合わせを行う。 時間も大抵決まっていた。 丁度愛煙家が禁断症状を表すくらいの時間である。
だから、打ち合わせが終わると喫煙者は連れ立って屋上の喫煙所へと向かうのである。

重盛達が打ち合わせから席に戻って来た。 英生はそれを見ると反対側の階段を屋上へと急いだ。 そして自販機からパック飲料を買い、ストローを刺そうとした。 指が震えて上手く刺さらなかった。

英生が生垣の陰に移動する頃、エレベーターで重盛が数人の部下と屋上に上がって来た。 彼等も自販機からそれぞれ好みの飲み物を買うと、灰皿の前で煙草を咥えて火を付けた。 そして、数回続けて煙草を蒸かした。

「でも、、あれですよね、急にあんなトラブルになるなんて管理が出来ていませんよね」
一人の部下が話し始めた。 打ち合わせでの出来事のようであった。
「まあ、そう言うな、一応収拾したんだからさ」
重盛が宥めるように応えた。
「重盛さん、あの甲陽精密機器の生田さんに甘いですよ、もう堕したとか? 昨夜も?」
「ばーか、昨夜はあっちはトラブルでそれどころじゃなかっただろう」
「そうですよね、じゃ、昨日はデートじゃなかったんだ」
「昨夜は野暮用で逢ってないんだ」
重盛は本当は柚布子と逢って堕とす寸前で邪魔が入ったことを隠していた。 ある意味失敗したのだから上司としては隠しておきたいのであろう。

「重盛さんが堕とさないなら、俺、堕としに行っちゃっていいですか?」
「まあ、待てよ、それに彼女はそういう女性じゃないんだから」
「へー、重盛さんマジで口説いているんですか?」
「プロジェクトもこれから搬入と組み立て試験が始まるんだ、大事に行かないとプロジェクトがコケるだろう?」
重盛は柚布子をものに出来ないのを仕事のせいにした。

「そうなんだ、遊びじゃなかったんだ、でも皆狙ってますよ。 重盛さんの手前遠慮してますケド。」
「やっぱり、そうなのか?」
「だって、なんかあの落ち着いたとこなんか人妻の雰囲気ありますよね」
「あー、俺も何となく、そこが他の女と違って気に入っているんだ」
「ともかく、重盛さんが遊びじゃないなら他の人は手が出せませんよ」
「そうか」
重盛は幾分満足気に煙草を蒸かした。

「でも、男女の間に上下関係はありませんから、下克上があるかも知れませんよ」
「なに!! お前もか?」
「何人かは写メで盗撮してオナペットにしてますよ・・・ 何たってあのミニのスーツのスカート姿は堪らないですからね」
重盛はポケットから取り出された携帯を覗き込んだ。
「しょうがないな・・・」
二人は短くなった煙草を最後にひと蒸かしすると灰皿にそれを押し付けてエレベータの方へ向かった。


英生は生垣の陰で胸を撫で下ろすのと同時に更に妄想が膨らもうとしていた。 その一方で事実を知って昨夜の柚布子との行為に後ろめたさを感じた。 妄想で柚布子が重盛と一線を越えたとして興奮して営みをしたが、重盛の話が真実なら、柚布子は重盛と昨夜は逢っておらずトラブル対応で遅くなりその慰労の為に会社の連中と飲んで帰ったのは間違いないのである。

柚布子と重盛の仲は進展していないが、他の男も柚布子を狙っているのを知って新たな興奮を感じた。 何より同僚が噂だと話した事がどうやら本当で、彼等はヤリチングループだったのである。

英生は柚布子を取り巻く者が距離を詰めつつあるのを感じると同時に自分は柚布子と距離が出来ているのを感じ初めていた。 だからと言って寝取られの妄想を止めようという気持ちも起こらなかった。




柚布子は憂鬱な面持ちで出社した。 それは昨夜の磯貝との出来事が理由に他ならない。 昨夜の別れ際こそいつもの雰囲気だったが、一夜明けると改めてどう接して良いか不安であった。
仕事が始まる前に磯貝と何か話しておかなければと思い少し早く出社した。

「おー、生田君、直ぐにメールチェックしてくれ、直ぐに打ち合わせするから」
自席に着くなり上席のプロジェクトマネジャーに命令された。 始業時間には30分以上あるのに命令されるという事は何かあったに違いなかった。 柚布子は机の引き出しからノートパソコンを取り出し電源を入れた。

パソコンが起動するまでの間柚布子は営業部の席の方へ目を遣った。 営業部員は大抵早く出社する。 磯貝も出社していて営業部長の末永の周りに他の営業部員と集って何か話をしていた。

柚布子はメールをチェック出来ていなかった。 柚布子のパソコンは他の者のそれと比べると非力だった。 エンジニアリング部門は仕事柄高性能なパソコンを与えられている。 営業部も対外的な面目で比較的パソコンの入れ替え周期が短い。 従って結果的に周りより高性能の物になっている事が多い。 それに比べ柚布子のような部署は大抵最後に入れ替えを行うか営業部のお下がりを与えられたりする。 無線LANこそ内臓されているがシングル・コアのCPUのパソコンは柚布子くらいであった。
ようやくメーラーが起動され、サーバーからメールがダウンロードされたところであった。
「生田君、直ぐ会議室へ行くよ」
「あの、まだメールを・・・」
「パソコン持ってで良いから」
「あの、何が・・・」
柚布子は何だか分からず会議室へ向かった。 そこで営業の磯貝も入って来た。 慌ただしく人が集まったお蔭でいつものように磯貝と挨拶をして席に着いた。

柚布子はメールのヘッダーを順繰り読んでいた。 そこへ上席のマネジャーがあるメールを指差したので開いて読み始めた。 それと同時にエンジニアリング部門の責任者が事の次第を説明し始めた。

柚布子は事の次第をメールと責任者の説明で理解した。
柚布子が担当してるシステム・インテグレーション産業のプロジェクトに問題が発生したのである。 搬入日が迫っていたので対策を講じなくてはならなかったが、担当営業もアカウントマネジャーも捕まらずシステム・インテグレーション産業にも説明が出来ていないという事であった。
担当営業、アカウントマネジャーとは磯貝と柚布子のことである。 問題の経緯説明から推測すると、柚布子と磯貝がホテルに居た頃の時間に問題が起きていたことになる。 二人共携帯の電源を切ってはいなかった。 だが、着信がどちらにも無かったということはホテルの部屋は電波の届かない場所だったのである。

「まったく、二人共何処に行っていたのかね、まさか一緒だったんじゃ・・・」
「いいえ、部長そんな」
磯貝が直ぐに否定した。
「ま、一緒の訳ないだろうけど」
「丁度地下道を走っていた頃だと思います」
「で、生田君は?」
「すいません、電池が切れているのに気が付きませんでした。」
柚布子は営業部長の質問を嘘でかわした。

事態はエンジニア部門が収拾して対応したので搬入には問題は無いが、後工程を考えてシステム・インテグレーション産業に申告して了解を貰おうということになったのである。 磯貝が直ぐに担当の重盛に事情を電話で説明することになり、柚布子は後工程の組み直しが必要かエンジニア部門と協議することになった。
本来であれば黙っていても問題は起きなかったかも知れないが柚布子の前任者の時に問題を起こして出入り禁止になったので早めに且つ安全に手を打ったのである。


柚布子、磯貝、それに重盛に関係するトラブルが昨夜の出来事を誤魔化す口実になっていた。 しかし、そこに柚布子に一番近いはずの英生は絡んで居なかった。


磯貝は末永とシステム・インテグレーション産業へ説明に向かった。 本来であればアカウントマネジャーの柚布子が同席しなくてはならないが、後工程のシミュレーションと技術的な裏付けを柚布子が仕切るべきだと磯貝が主張した為、同行していなかった。 勿論、磯貝は昨夜の事があっての後だから柚布子は重盛に会いたくないだろうと気を利かしたのである。

システム・インテグレーション産業も柚布子が同行していない事を気にしていなかった。 寧ろそれを歓迎していた。 勿論重盛だけである。 重盛もやはり夕べの今日で柚布子と顔を合わせたくなかったのである。


磯貝はシステム・インテグレーション産業の帰りに末永を駅まで送ると柚布子がエンジニアリング部門と一緒に打ち合わせに行っている外注の会社に向かった。

磯貝が外注に着いた時には打ち合わせは終わり細かい担当者同士の打ち合わせになっていた。 磯貝は柚布子から事情を聞き、会社へ進捗報告をした。 そして直接帰宅する許可を貰った。

外出した際には会社に帰社するのが規則である。 しかし、どこの会社も外出先で遅くなった場合には帰社せずに直接帰宅することが許されているのは同じであろう。

柚布子と磯貝はそこを後にした。

磯貝の運転する車の助手席に乗った柚布子は流石に無言だった。

「あれから、どうだった?」
磯貝が運転しながら切り出した。
「どうって?」
「家に着いてから、大丈夫だった?」
「うん、直ぐに寝ちゃったから、大丈夫よ」
柚布子は磯貝を気遣った。 そうでなくても、「あれから夫に抱かれちゃって大変だった」等と言う性格ではない。

「本当にトラブルが起きたなんて驚いたよ」
「そうね、ビックリ、あんな嘘言うから、嘘から出た真になっちゃったのよ」
二人にようやく笑みが浮かんだ。 それは重盛から柚布子を引き離す際に磯貝がついた嘘であった。


「それにしても、あそこのホテル電波届かないところなんですね?」
「そうね、気が付かなかったわ」
「本当ですかね? 今時そんな所あるんですかね?」
「さあー」

「確かめに行きますか」
「え?」
「そうしましょう・・・」

磯貝は高速のランプへとハンドルを切った。 そして柚布子は携帯を取り出しメールを1通送ると携帯の電源を切った。

  1. 2014/11/02(日) 13:22:57|
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序破急 - 破の15 「鮑と蛤」

「それにしても、そっくりだよな」
末永はそう言うとガラス張りの生簀を指差した。
「何がですか?」
傍らで一緒に飲んでいる部下の磯貝が聞いた。
末永が指差した生簀には鮑(アワビ)がガラス板の内側を這っていた。 淵は薄黒く内側は肌色の軟体物は妖しく形を変えながら移動していた。
「あれだよ、鮑、女のアソコにそっくりだよな」
磯貝は末永の説明に合点がいかなかった。
磯貝の初体験は17歳の時、相手はアルバイト先で知り合った20歳の学生であった。 米国で暮らしていた時なので相手は米国人であった。 所謂筆おろしをされたのである。
色白の女の陰毛は薄く、性器は襞が重なりどことなく蛤(ハマグリ)に似ていた。 今の恋人も小陰唇は薄く同じように例えるならば蛤だと思った。
そんな磯貝の経験からでは末永が言う鮑が女陰とは思えなかったのである。 もっともどの状態を例えるかにもよる。 磯貝は素直に女性器を眺めた様子を思い浮かべていた。

磯貝は末永と海鮮居酒屋に行った時の下ネタ話を思い出すことになるのである。




暗くなるにはまだ早い時間である。

部屋のレースのカーテン越に夕陽が差していた。 こういう部屋は大抵二重カーテンになっていて内側の厚い生地のカーテンを閉めると部屋は暗闇になる。 だが、窓のカーテンはルームキーパーが清掃した直後のままであった。

ベッドの毛布の隆起がその夕陽に照らされていた。 毛布の隆起は女体の腰あたりの形をしている。 女体は横臥しているように見えた。 毛布の隆起はその括れた腰から、尻、脚と綺麗な流線型を描いていた。

その見事な流線型を大波が壊した。 大波のように跳ね上がった毛布の隙間から白い女体の臀部が見えたかと思いきや男の裸体がそれに重なり毛布が降りて砂丘のように盛り上がった。

砂丘はいろいろな形に変化し、最後には盛り上がりベッドの脇へと落ちて行った。
毛布が落ちるとそこには仰向けの女性に重なる男の姿が現れた。

女は男の頭に手を廻して撫で上げていた。 その男の頭の下は女の胸である。 男は女の片方の乳首を口に含みもう片方の乳房を手で揉んでいた。 男が強く吸ったり、舌で激しく転がす度に女は下半身を捩じらせていた。 それは、まるで胸は前菜でメインは脚の付け根の方だからと誘っているかのようであった。


男は丹念に胸を責めた。 夕べも同じことをしたが、夕べ以上に愛おしむように胸に執着した。 何時でも抱ける女ではない。 今日の逢瀬が最後かも知れないのである。
一度女は身体を許すと以降容易に抱けるという。 確かに昨日抱いたということで今日もすんなりここまで来た。
明日もきっと抱けるであろう。 しかし、二人の関係を続けてはいけないことを男は分かっていた。 だから、今の目の前の肉体の隅々まで知り記憶に留めておこうと男は思った。


どれくらい胸に執着していたであろうか、男はまだ足りないと思ったが女の喘ぎ声はさらに下に下がるように促しているようであった。 男は両方の手を胸から退かせ両脇から腹部へと円を描きながら愛撫を繰り返した。 それに応えるように女は身体を少し捩って悶えた。
それは、これから愛撫が下半身へと移ることをさりげなく予告する行為に女が思ったからである。 しかし、男の口は赤子のように乳首に吸い付いたままであった。


男は名残惜しく胸から唇を放し、舌を臍へと這わせた。 それと同時に両手は臀部の方へと向かった。 男は女の身体を片方づつ捲るように起こし、そこへ手を進め摩るように愛撫をした。 軽く爪を立てるように愛撫すると女の方から身体を浮かしてそれに応えた。


男の手が女の臀部を掻くように愛撫すると女は甘い喘ぎ声でそれに応えた。 そして男の目の前には茂みが迫り淫匂が鼻を刺激した。 男はその茂みの手前で舌を女から離し、茂み全体を観察した。
その茂みの中には何か生き物でもいるかのように蠢いているような気がした。





柚布子と磯貝は昨夜とは別のホテルに居た。 昨夜のホテルに行くつもりであったが高速道路が思ったより早く夕方の渋滞が始まっていたから、次のインターで降りたのである。 それは磯貝の判断であるが、柚布子はそれに異を唱えることなく従っていた。

二人は部屋に入るなり唇を重ね長いディープキッスを続けた後、競うように服を脱ぎベッドに入った。 競争には柚布子が勝った。 そして、今、磯貝は柚布子の股間をマジマジと見つめていた。


それは見事な黒いデルタである。 磯貝はそう思った。 彼がいまだかつて見たことにないものである。 普通の下着でさえその黒さが透けて見えるのではと思うくらいの濃さである。 そしてそのデルタの下端は二つに割れて大陰唇へと続き、菊の入り口まで延びていた。 昨夜もこのデルタ地帯に侵入したが、観察するほど余裕は無かった。 

「磯君恥ずかしいわ」
柚布子は両手でデルタ地帯を覆うように伸ばした。
「だめです」
磯貝はその手を抑えてそうはさせまいとした。 するとその手は従順にも力が抜けていった。

磯貝は陰毛を掻き分けた。 昨夜より丹念に掻き分けた。 するとそこにピンク色した小豆大の突起が顔をみせた。 そこを人差し指で軽く押すと柚布子は腰を捩った。
磯貝は柚布子の太腿を押して脚を大きく開き、そこに屈み込んだ。 そして昨夜より時間を掛けて小陰唇を指で押し広げた。

昨夜は膣口を探す為に小陰唇を押し広げた。 意識の中は膣口だけで押し広げた小陰唇自体を観察してはいなかったが、今は小陰唇を観察する為に開いている。
磯貝は恋人のそれとは随分違うと思った。 これが人妻だからなのか?
「あっ、あ~ん」
小陰唇の淵を指でなぞりながら押し広げると潤んでいるのが分かった。 そして、そこから指を離すと小陰唇は左右非対称の動きで閉じた。 それを指で広げる。 磯貝をそれを何度か繰り返した。

「なるほど、鮑に違いない」 磯貝は心の中で呟いた。
指で押し広げたその様子は磯貝が部長の末永と行った海鮮居酒屋での生簀の中の鮑そっくりだと思った。 しかもその鮑は妖艶な動きを見せ磯貝の股間を激しく熱くした。 そして、舌を迷わず陰核に這わせた。

「あ、は~ん、磯くーん、いいわー」
柚布子は磯貝の舌と指で女陰を愛撫され、淫汁を惜しげもなく磯貝に吸い取られて歓びの声を上げていった。
  1. 2014/11/02(日) 13:23:52|
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序破急 - 破の16 「同僚棒」

柚布子は自制心が無くなったことを思い知らされていた。
年下の男の愛撫に狂い初めていた。 同じ会社の同僚、夫以外の男に身体を許している。 それを意識するとさらに身体の芯が熱くなり、磯貝のペニスが欲しいと思った。

「あ、あ、あー、来てー」
柚布子はついに自ら口走ってしまった。

「ゆうこ」
磯貝はいつもとは違う呼び方をした。 それに柚布子は違和感を感じた。 だが、身体はもう止まらない。 いつしか磯貝の指は2本になって柚布子の膣壁を掻いていた。

柚布子は会社と同じ関係で結ばれたいと思った。 そうすることで単なる浮気であり、火遊びとして終らせる事が出来る。 だが、磯貝はもっと違った関係に発展させたいと望んでいるのではと思った。 そうだとしたら良くない結末が待っているかも知れないと不安が過った。

そんな不安を打ち消す快感に溺れたいと思った。


磯貝は指を柚布子の膣から抜くと、太腿を持ち上げ、それを左右に開いた。 そして、その間に膝立ちのまま入り柚布子の股間へと腰を寄せた。
柚布子の白い太腿と磯貝の無骨な太腿とが接すると、磯貝のペニスの下側が柚布子のヴァギナに当たった。 磯貝はいつになく興奮していきり立つ自分の分身を感じていた。

しかし、磯貝は冷静だった。 冷静と言ってもそれは昨夜よりはということである。 昨夜は奇跡と言える機会だったので既成事実を作ることを第一に考えたが、今は憧れの人妻を堪能しようとした。 じっくり順を追って深い関係になるのも良いが、磯貝にはこの関係を早く終わらせる必要も理解していた。 そんな磯貝の思いを柚布子は知る由もない。


天を向いた磯貝のペニスは身体が更に接近するとクリトリスを押しつぶすように擦った。 そしてその先端は柚布子の顔に狙いを定めているバズーカ砲のようであった。
「あん」
柚布子はそのバズーカにロックオンされた歓びの声を上げた。
柚布子は軽く仰け反ると視線を砲口に戻し、これから自分に不貞を働かせるペニスに手を伸ばした。

柚布子は両手で磯貝のペニスを覆うと腰を自ら動かしクリトリスと磯貝のカリを同時に刺激した。 磯貝はそんな柚布子の行動に困惑した。 清楚で堅いイメージの人妻でも、一度堕ちるとこうも変わるものかと。
それとも今まで自分が柚布子に抱いていたイメージが自分に都合良くしていただけなのかも知れないと思った。 しかし、その行動にペニスは素直に硬直を増した。

「姐さん」
やはり、こう呼ぶしかないかと磯貝は思った。 呼びかけに柚布子の腰の動きが止まると、ペニスを覆っていた手を退かし、自らペニスを握り先端をヴァギナへと移動させた。

「いいね?」
磯貝は最後の確認のつもりで問いかけた。 このホテルに来たということで確認などする必要はないが、その返事を聞くことで責任が二分されるような気がした。
果たして柚布子は横を向いて肯定の意思表示をしなかったが、この場合否定以外であれば良いのである。

磯貝は息を吸い込むと、ペニスをヴァギナにゆっくり埋め込んで行った。 埋め込みながら膣口に先端を押し当てた。 その場所は先ほど小陰唇を開いた時に場所を確認していたので容易に探し当てた。
息を止め腰を送り出すと、微かな抵抗感を亀頭に感じたがカリの部分まで膣に侵入した。

「はあっ」
柚布子の溜息が喉から漏れた。 まるでペニスの挿入をし易くするように力を抜いたように聞こえた。
磯貝のペニスは柚布子の膣襞を押し広げながら奥へと進んだ。
「ああっ」
柚布子は軽く仰け反った。 ペニスの先端が子宮口に当たったのであろうか。 磯貝はこの体勢ではこれ以上深く進めないと思い柚布子の両脚の膝裏に手を入れると持ち上げるようにして膣口を上に向けた。 そして腰を送り出した。

「あ、あ、いた」
ペニスの先端が子口を突いたのであろう。 磯貝は腰を一旦引いて、再び突いた。
「あ、あ~」
磯貝にはもっと突いて欲しいと言ってるように聞こえたので、ピッチを早くして突いた。 しかし、数回突いたところで腕が疲れた。 柚布子の両脚を持ち上げたままでは辛過ぎた。 そこで、片方の脚を降ろしそれに跨り、もう片方の脚は担ぐように自分の肩に掛けた。 すると柚布子は自然と横向きの体勢になった。 磯貝は腰を使った。


「あ、あ、あ、ん」
柚布子の喘ぎは磯貝の腰の動きと同調していた。 磯貝は自由になった片手を柚布子の胸に伸ばし鷲掴みするように胸を揉んだ。 柚布子は仰け反りシーツを掴んだり離したりして悶えた。 磯貝は昨夜より律動運動を堪能していた。 昨夜はとっくに果てていたが、今夜はまだまだいけると思った。 しかし、そう時間に余裕はなかった。

「あ、あん、磯く~ん」
磯貝は息を止め一気に突いた。 そして酸素が切れると二酸化炭素を吐いて、酸素を吸い、また息を止めて柚布子を突いた。
気が付くと柚布子の胸から首にかけて赤く染まっていた。 だいぶ感じているのだと思った。 そんな女体の変化を磯貝は初めて見た。 これが人妻なのだと磯貝は思った。



磯貝は一旦柚布子から離れた。 柚布子は荒い息使いをしている。 自ら仰向けに直り自然と両膝を立て、その間に磯貝を挟んだ。 柚布子もあまり時間が無いのを分かっていた。
夫との営みで最後は正常位で終わっていた。 だから無意識のうちに正常位で磯貝のペニスを迎い入れる体勢になろうとした。

磯貝は柚布子に促されるままに柚布子のヴァギナにペニスを当てがい膣口を弄り奥に埋め込んだ。
「あ、いー、ひっ」
やはり正常位の方が深く入るのであろう、磯貝の亀頭は柚布子の子宮口を突いていた。 それでも磯貝のペニスには若干の余裕があった。 磯貝は子宮口を突くのと同時にクリトリスを指で押しつぶすように揉んだ。

「あ、ひ~」
柚布子の眉間に皺がよっていた。 磯貝も亀頭の刺激がカリの周りまで伝搬してくるのを感じていた。

「姐さん、逝くよ」
柚布子は胸を揺らしながら頷いた。
磯貝は亀頭とカリの周りに纏わり付いた粘液に屈しようとしていた。 だが、敗北感などない。 十分戦ったと思った。 クリトリスを刺激していた手を離すと、柚布子の膝裏に自分の腕を通し柚布子の股間が天を向くようにして、ペニスを柚布子の子宮口に突き立てた。

「あー、あーあっ、う~」
磯貝は雄叫びのような声を発し激しく動かしていた腰を柚布子の股間に押し付けた。
「は、あ~ん」
柚布子も長い叫び声を上げた。
「あっ、あっ、 あっ、あっ、あ」
磯貝の声に同調するように柚布子は下腹部が波打っているように感じた。 それは磯貝の精液を子宮に受け止めているからであろう。
  1. 2014/11/03(月) 10:17:27|
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序破急 - 破の17 「おしどり」

重盛は非常階段から向かいの建物の階下の様子を羨望の眼差しで眺めていた。 そこでは甲陽精密機器の営業車から小物の搬入作業を磯貝がしていた。 その傍らには柚布子が付き添い手伝いをしていた。 大物は専門の業者が搬入と設置を行ったが別のところから運んだ物や精密部品は営業が自ら運んだ。

これから、ここ、システム・インテグレーション産業の調整棟で柚布子が纏めたシステムの調整が行われるのである。


プロジェクトとしては順調に進んでいるので重盛としては満足なハズであるが、眼下の光景に満足感を打ち消されていた。


「年下の彼氏でも居るんじゃないかな」
「なんだ、それ? 誰がそんなこと」
「ほら、営業の男の子、良くあの女と一緒でしょ? だから、それとなくカマ掛けて聞いちゃったの」
重盛は事務員の橋爪恵美との話を思い出していた。 重盛は恵美の話を鵜呑みにはしていなかった。 もし、磯貝と柚布子が付き合っていたとして自分とデートを繰り返すだろうか? しかもそのことをあの磯貝は知っている。 柚布子と最後に仕事以外で逢った時も見られている。 もし、恋人ならそんなことはさせないだろうと思った。

だが、眼下の二人はおしどり夫婦のように息が合っているように見えた。 恵美の告げ口による予断を差し引いても仲が良さそうである。 現に、直前の打ち合わせで磯貝が飲み残しの飲み物に手を引っ掛けて倒してしまった時も、柚布子は即座にティッシュで拭きとり「家のものはそそっかしくてすみません」とでも女房気取りで言ったような表情を皆に見せていた。

「そんなハズはない」
重盛は必死に否定して頭を振った。 そして、事務所に戻って行った。



男女は一度繋がると阿吽の呼吸が出来るようになるのだろうか。 磯貝と柚布子はあれ以来繋がっていない。 だが、何度も繋がった仲のように息が合っていた。


柚布子と磯貝は荷物を現場の組み立て担当に渡すと車に戻った。 すると大型トラックからクラクションを鳴らされた。 柚布子達のシステムと接続される別会社のシステムを載せたトラックが搬入しようとしていた。
搬入トラックは数台来ていて磯貝の車と行き違いが出来ない状態であった。 磯貝にしてみれば先の状況も分からず入って来る大型車が問題だと非難している顔をしていた。

「ほら、ほおら、磯くん、車奥に下げて」
柚布子が磯貝を宥めるように言った。 磯貝はその言葉を聞くや運転席に座りバックで奥に下がって行った。 下がりながら柚布子を見ると、建物を指差して円を描いていた。 どうやら建物を一周しろと言っているようであった。
磯貝が頷くと柚布子はトラックの運転席の方へ歩きながらお辞儀をして向かって行った。

磯貝は少し広い場所までバックすると切り返して車の向きを変えた。 そしてルームミラー越に柚布子と別システムの搬入係りが挨拶をして話しているのが見えた。 それはやがて小さくなり、建物の角を曲がると見えなくなった。


建物の角を曲がると様相は一変した。 磯貝はこんな敷地の奥まで来たのは初めてであった。 路面のアスファルトには雨が流した砂が流れの跡をそのまま残しており、金属片やらボルトやらが転がって人の行き来がないことを窺わせた。 磯貝はそこを最徐行で進んだ。 次の角を曲がると完全に建物の裏になり、暗くなった。 建物の隅にはトイレらしい建物が飛び出していて、磯貝はそれを避けるように車を切り返した。
その先こは使わなくなった重機やパレットが置かれていて試験場の裏方といった雰囲気である。 更に先には青空喫煙所があった。 裏方の人や搬出待ちのトラックの運転手が使うのであろう。

磯貝はトイレらしい建物を見て用を足したくなった。 車を建物の壁際に寄せると戻ってその小屋みたいな所を覗いた。 やはり、そこはトイレであった。 大小それぞれ一つの便器があり、男女の区別の表示も無かった。 最近では殆ど使われていないし、他のトイレと違って毎日清掃されてはいないようであった。

磯貝は乾いた小便器に用を足した。 蠅が数匹飛んでいた。 用を足し終わって便器に付いている釦を押したら、ちゃんと水が流れて何故か小さな感動があった。 そして洗面台も水は出た。
磯貝はトイレから出る時に何気なく大の方を覗いた。
公園や駅のトイレなど、床は濡れて汚物が残り見るに堪えないものであるが、そんな想像とは違って綺麗な和式の便器で床も乾いていた。 磯貝は意外に思って立ち去ろうとした時に金隠し側の壁に何かが書かれているのに気が付いた。

かなりリアルに描かれたデッサン調の悪戯書きだった。
「ほう」
磯貝はつぶやくと悪戯に参加した。


磯貝は車に戻ると発進むさせ、資材部脇の駐車場に車を止めて、そこのトイレの洗面台でもう一度手を洗った。 手を洗いながら磯貝は今日は柚布子を抱きたいと思った。

磯貝がトイレから車に戻ると柚布子が安全通路を車の方へ歩いて来るのが見えたので待っていた。
「もう、どうしたの、待っても戻って来ないから」
「すいません、トラックで混んでいると思って」
「歩くと少し、遠かったわね」
「ええ、ところで、設計部にまだ用あります?」
「もう無いと思うけど」
「じゃ、引き上げますか・・・」
「そうね」

「乗って行きますよね?」
「真っ直ぐ帰るの?」
「お望みなら曲がって帰りますケド?」
「なに、それ・・・」

磯貝は車のドアのロックを解除して運転席に乗り込むと、それに続くように柚布子が助手席に乗り込んだ。 その様子を重盛が屋上の喫煙所から見ていた。 この後二人が逢瀬を過すなどと思ってもいないであろう。

また、柚布子もこれが最後の逢瀬になるとは思っていなかったに違いない。
  1. 2014/11/03(月) 10:18:32|
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序破急 - 破の18 「負け組感」

柚布子は今日から磯貝と行動を共にしないようにしていた。 何故なら磯貝の彼女が長期休暇が明けて出社して来る日だからである。 やはり彼女とは顔を合わせたくなかった。 顔を合わせないようにシステム・インテグレーション産業に直行し、進捗を確認したら社に戻らず、そのままリューベックシステム社に向かうことにしていた。

システム・インテグレーション産業の帰りに同僚のエンジニアと早めの昼食を済ませると同僚と別れリューベックシステム社に向かった。 午後から定例会があるからである。 特に進行中の案件がない限り営業のセールス・トークに付き合うだけである。

柚布子は担当営業とリューベックシステム社の受付で待ち合わせることにした。 打ち合わせの時間には早いので柚布子は近くのコーヒーショップで時間を潰すことにしていた。 そこは、昼食後リューベックシステム社の久世が良く時間を潰している所であるからである。

定例会は午後2時からである。 それは柚布子達がゆっくり昼食を摂ってから移動した時にリューベックシステム社に着く時間である。 久世にとっては昼食後の1時間は中途半端な時間なので、昼食を遅く摂りそのままコーヒーショップで時間を潰すのである。

柚布子は磯貝とのことがあっても久世に対して相変わらず好意以上のものを持っていた。 この日もそのコーヒーショップへ行けば久世と逢えることを期待していた。 地下鉄の駅から上がるとそのコーヒーショップへは一旦久世の会社の入るビルへ行き、玄関前の横断歩道を渡るのが一番近いルートである。 

柚布子が地下鉄の駅からの階段を地上へと上がると、横断歩道で信号待ちをする久世の姿が見えた。 久世は相変わらずズボンのポケットに片手を入れていた。 もう片方の手には赤い小さな紙袋を提げていた。 どう見ても女性が持つような物である。

柚布子は微笑んで信号が変わらないうちにと小走りに駆け出した。 しかし、数歩走って足は止まった。 それは久世が単に信号待ちをしているのではなく、誰かと話していることに気付いたからである。 そして、その久世の傍らには20代後半と思えるショートヘアーの女性が久世と向かい合って楽しく会話しているのが見えたのである。


柚布子は真顔になって周りを見渡した。 滑稽な自分の姿を誰かに見られて、恥をかいていないかと気になったからであ。 しかし、都会の雑踏は柚布子に関心が無く誰もが柚布子の脇を追い越していった。 柚布子は楽しげに会話しながら横断歩道を渡る二人の後ろ姿を見送るしかなかった。



柚布子は担当営業部員と打ち合わせの時間が来るのを久世の会社の受付のロビーで待っていた。 ロビーの窓から外を覗くと通りの向かいのコーヒーショップを見下ろすことが出来る。 柚布子はコーヒーショップの出口を凝視していた。
「何か変わったものでも見えます?」
「特になにも」
営業部員の問いに柚布子は答えたが視線は変えていない。 すると、久世と一人の女性がコーヒーショップから出て来た。


数分後エレベータが到着するチャイムが聞こえた。 ドアが開くと、一人の女性に続いて久世が降りて来た。 その女性も受付で同伴者を待っていたようで、その同伴者と再びエレベータの前に向かった。 同伴者は小脇に資料やら荷物を抱えていた。

その女性がエレベータ前に着くと、振り返り久世に対してペコリと頭を下げた。 久世は片手を上げてそれに応えた。
「ほいじゃね~、お疲れさ~ん、よろしくね~」
久世はいつもの軽いノリの返事を返した。 そして、女性の手には赤い小さな紙袋が提げられていた。 二人を乗せたエレベータが上がって行くのを階数表示の点灯が知らせた。

「こんちは~、今日もご苦労さま~」
エレベーターを見送った久世は柚布子達に声を掛けると受付嬢の所に向かい何やら会話をした。 それと同時久世の片腕と言われている遊佐もエレベーターから降りて来た。

「じゃ、どうぞ」
久世がエレベーターの方へ柚布子達を案内した。
「もう聞いた、306」
受付に行こうとする遊佐を久世が制止した。 受付と出迎えの対応はいつも遊佐がしていた。

遊佐が真っ先にエレベーターに乗り込み、36階の釦を押して、4人は上昇し始めた。
「ゆうこりん、どう元気だった?」
「お蔭さまで」
「今日、機嫌が悪かったりする?」
「はあ? そんなことないですよ、ところで外で打ち合わせでもしていたんですか?」
「うん、電気メーカーの営業さんと」
「そうなんですか、営業の方と打ち合わせですか」
柚布子と久世のそんな会話のうちに高速で36階にエレベーターは到着した。
久世に続き柚布子達が降り最後に遊佐が降りた。

「28歳にしてはしっかりした子でさ」
「女性なんですか?」
「そう、さっきの子、よさ気な子だよ」
「そうなんですか」

「お、ゆうこりん、ネイル変えたんだ」
「ええ」
「もしかして、雄太のところ?」
「ええ」
「アイツ、結構上手い?」
「ええ、気に入ってますよ」
柚布子はネイルが久世に良く見えるように掌を広げた。
柚布子と久世のそんな会話の脇を遊佐がすり抜け306号室のドアを開けて部屋の電気を付けた。 そして毎月の定例会が始まった。



「久世さん、そちらの女性は?」
「おお、甲陽精密機器の新しいプロマネさん」
「へ~、女性のプロマネさんですか」
「結構技術に詳しくてさ、いい感じだよ」
「甲陽精密機器の生田柚布子と申します」
柚布子は久世に促されて自己紹介をした。
柚布子の頭の中でグラフィック・イコライザーの低音と高温を極端にカットしたような会話が流れた。 久世の会社を担当するようになったばかりの頃の久世の会社内で久世が同僚に柚布子を紹介した時の光景である。

言葉こそ違っていたが、久世が電気メーカーの担当の女性を紹介した時と同じ空気を柚布子は感じた。 あの女性も私と同じように久世と接近するのであろうか? すでにかなりの仲になっているのでは? あの赤い手提げは? 私の時は無かった。 柚布子のネガティブな妄想が膨らんだ。
髪はショート、最近の女性という事もあり、背は高い。 久世と向かい合った光景から柚布子より高いと思った。 服装も柚布子がビジネススーツでいつも久世と逢っているのに比べ、彼女はややカジュアルな感じの服装であった。
何もかもが柚布子と対比していると思った。 そして、「久世はその女性が好きに違いない、私より」と柚布子は考えていた。


「生田さん駅ですよ、降りますよ」
柚布子は同行している営業部員に声を掛けられて、急いで電車を降りた。

「何か考え事でも?」
「・・・・」
柚布子は首を振り、営業部員と一緒に社へと向かうエスカレーターを地上へと向かって行った。 柚布子は我に返ったが、何か大事な事を忘れているような気がした。
  1. 2014/11/03(月) 10:20:05|
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序破急 - 破の19 「見透かされた女」

「ゆーこ姉さん」
柚布子がリューベックシステム社の定例から戻って自席で漫然としていると、背後から女性の声が聞こえた。 その声で柚布子は再び我に返った。 忘れていた大事な事とは声をかけた女性のことである。

その声の主は磯貝の彼女である美佳のものであった。

「あら~、なんか落ち込んでますぅ?」
「・・・・」
「もしかして、もう、彼から聞いて落ち込んでいるとか?」
「え? 何を? 今日はまだ会っていないから何も聞いていないわ」
「そーでしたか・・・」
美佳は覗き込むような眼差しを柚布子へ向けた。 何かを詮索しているようであったが、柚布子は美佳が何を言っているのか理解出来なかった。

「じゃ、私から、言っちゃおうかな・・・」
「なーに?」
「と、その前にこれ、お土産で~す、イタリヤの帰りに寄ったスイスの物で~す」
美佳は持っていた箱に中から小さくブロック状に包まれたチョコレートを一握り柚布子の机の上に置いた。 皆に配っていたようである。

「イタリヤに行ったの? 休暇で」
「そーで~っす、女友達と、独身最後の思い出になっちゃいました」
「独身最後?」
「うん、旅先で彼からプロポーズの電話があったんですよ~」
「そ、それは、おめでとう、私も二人は何時か結婚すると思っていたわ」
柚布子は流石に驚いたが、負けず嫌いの性格であろう、努めて冷静を装っていた。 柚布子は何時プロポーズがあったか気になったが、聞けば色々詮索されると思ったから流し気味に対応した。 磯貝と身体が繋がってから磯貝がプロポーズしたに違いないが、それを確認したかったのである。


「もしかして、もう、彼から聞いて落ち込んでいるとか?」磯貝と美佳の結婚話を聞いて何故柚布子が落ち込むのかと美佳は思ったのか疑問に思った。 落ち込むとすれば美佳との恋敵くらいではと誰もが思う。 そのことに気付いて柚布子は内心焦った。

柚布子は美佳の恋敵ではないが、それと同等に美佳が認識しているとするなら、磯貝と柚布子の仲を美佳は知っているかも知れないのである。
磯貝が柚布子との関係を話すとは思えないと柚布子は思った。 と、すれば女の勘なのか・・・


確かに、磯貝から聞いていたら落ち込んでいたかも知れない。

「そ、それで、式は何時なの?」
「まだ、決めていないんですけど、籍は来月にも入れるつもりなんですぅ」
「そう、随分急なのね」
「ええ、彼の気が変わらないうちに固めてしまえって両親が言うんですよ」
「磯君が貴女と結婚する気持ちは鉄板でしょ?」
「そっちじゃなくて、彼、私の実家の会社を手伝うんですよ」
「え? そーなの?」
「もう、課長さんと部長さんの了解は貰ったんですって、来月二人揃って寿退職で~す」

身体が繋がった仲なのにそんな大事な事も知らされていなかった。 一体自分は磯貝にとって唯の彼女が居ない間の慰み者だったのか。 柚布子は裏切られてた気分であった。

「私、てっきり、ゆーこ姉さんに打ち明けていると思った」
「・・・・」
「私、煮え切らない彼が決断してくれたのは、ゆーこ姉さんのお蔭だと思ってますから」
「え?」
美佳は声を落として続けた
「旅行中、彼が色々とお世話になりました、彼、どうでした?」
「へえ? 何のこと?」

「冗談ですよ、ちょっと落ち込んでるゆーこ姉さん、からかっただけですから」
「・・・・」
「私、結婚する前なら許せるんです、結婚したら絶対許さないんです」
「・・・・」
「ゆーこ姉さん夫婦もそーですよね?」
「こ、答えるまでも無いわ」
「ですよね~」
柚布子は腕時計に目を遣った。
「また、ゆっくり磯君との話聞かせてね、打ち合わせ行かなきゃならないから」
「は~い、じゃ、またー」



柚布子は会社の近くのコーヒーショップで放心したように醒めたコーヒーを眺めていた。 どうやってここに来たか憶えていなかった。 1時間近くそうしていたかも知れない。 別れ際の美佳の全てを見透かしたような不敵な笑みが脳裏から離れなかった。 気が付くと退社時間が近づいていた。 柚布子は醒めたコーヒーをそのまま返却口に置くと社には戻らずそのまま帰宅した。


自宅マンションに着くと玄関にへたり込むように座った。 そして、夫からの帰宅連絡の電話があるまでそこに座り込んでいた。



その後、柚布子が美佳から詳しい話を聞くことは無かった。 磯貝とも仕事以外に会話はしなかった。 磯貝は言い訳を柚布子にしたかったに違いないが、二人きりになる機会を柚布子は避けていた。

磯貝は憧れの柚布子と出来るだけ今の仕事を続けたかったに違いない。 しかし、身体が繋がったことでその関係が終わる時の結末をお互い不幸なものにならないように早期に最良の決断をしたのである。


柚布子は降りかかる問題のお蔭で磯貝のことを思い出すことは無かった。 次に柚布子が磯貝の消息を知ったの暫く後の事である。 磯貝が美佳と離婚したらしい。 原因は美佳の妊娠。
磯貝は結婚後偶然かかった病院で不妊検査をした。 それは自分が万全の精子を持っていることを密かに証明しよとしたのだが、逆に無精子症であることを知らされたのである。 それと同時に美佳が妊娠した。
相手は海外旅行で知り合った日本人男性で帰国後も付き合っていた。決断の速い磯貝は即離婚したのである。 風の便りであるから何処まで真実かは疑問だと柚布子は思ったが、磯貝が離婚して別の仕事に就いたのは間違いない事実であった。


柚布子と磯貝が再会することは無かった。 磯貝を不憫に思っていられる立場に柚布子はその時居ないのである。
  1. 2014/11/03(月) 10:21:02|
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序破急 - 破の20 「落書き」

英生は久しぶりに嘗て関わっていた会社の製品の調整をしていた。 柚布子が纏めてたプロジェクトである。 英生にとっては懐かしくもあったが、柚布子との関係を知られないようにそこそこの仕事をしていた。

そうは言っても勝手知ったる製品、他の人よりどう細工しても手が速い。 自然と英生に仕事が集まって来る。 事務所に居るより調整棟に居る方が長くなる。 だが、調整棟は検査部の縄張りである。従って、事務棟に席のある者は休憩を事務所で取り喫煙も事務棟の喫煙所を使うのがしきたりになっている。 トイレとて例外ではない。 調整棟に席のある検査部の者でさえ、トイレとなると管理棟のトイレを使う。 調整棟のトイレより管理棟のトイレの方が遥かに近いということもあり、よほどの事がない限り調整棟のトイレは使わない。



英生が計器を読み取りながら試験表に数値を書き込んでいると検査部の者が徒党を組むように4,5名やって来た。 こういう時は大抵力ずくで何かをしようとする時である。 検査部の一人が英生の書き込んでいる試験表を覗き込んだ。
「ほう、だいぶ進んでいますね」
「・・・・・」
他の仲間に目配せすると、徒党の中の頭風の検査員が
「ちょっと、空けてくれないかな?」
設計部の社員なら割り当てられた時間と仕事の優先度やらを楯に一悶着あるところだが、派遣の英生はそんなことは出来ない。
「どうぞ、どのくらい掛かりますか?」
「ああ、ほんのちょっとサ、その辺ブラブラしてて」

ほんの少しの時間でない事はあまり現場に出ることがない英生にも予想がついた。 だからと言って事務棟へ行って休憩でもすると、割り当てられた時間を放棄したと思われるので、仕方なく調整棟を散策することにした。

英生は裏手の非常扉を開けて外へ出た。 そこは運搬用の車両待機場になっていて1台のトラックがエンジンを掛けたままで運転台にはドライバーらしき男性がダッッシュボードに足を乗せて雑誌を読んでいた。
そのトラックの先には喫煙所らしい場所が設けてあり、重機やパレットの置き場になっていた。 その先は調整棟からはみ出すように小屋があり、入り口のドアが無いその構造からトイレであると分かった。

英生はそのトイレを通り過ぎ、調整棟をほぼ一周して、表から現場へと戻った。 そして、検査部員の作業を牽制した。 相手も「まだ、終わってないぞ、ボケー」といった形相で英生を見返した。 英生は先ほどとは逆のコースで検査棟の裏へ廻ることにした。

先ほどの牽制の様子であの検査部員達ではまだ時間が掛かると思った。



調整棟を半周したところで、先ほど通り過ぎたトイレが目に止まった。 尿意を催していなかったが、時間潰しにその小屋を覗いた。 大小それぞれ一つの便器があり、男女の区別はないようである。 現場作業員の緊急避難的な用途のトイレに思われた。 乾いた便器が使用者が殆どいないことを物語っていた。

英生は開いていた大用の扉の中を何気なく覗いた。 そこは和式の便器であった。 この会社の他のトイレの便器は全て洋式だと英生は記憶している。 建物自体古い物であるから、後から洋式に改造したに違いない。 それだけ、ここは見捨てられているような場所のようである。

大用の個室の内側はベニヤ板が貼られ、淡い水色のベンキが塗られていた。 英生がさらに首を入れて中を覗くと、丁度金隠しの上辺りに何やら落書きがしてあった。 英生が覗いた位置からは天井近くから差し込む光ではっきり見えなかったが、位置を変えてそれを見て英生は驚いた。

見事なデッサン画が描かれていた。 所々ペンの種類や色が違っていたりタッチが違うことから複数の人間が手を加えたらしい。 その描かれた物とは;

全裸の女性がM字に脚を広げ寝ている様を足元から見た状態が描かれていた。 特に女性器は詳細に描かれていた。 描かれている場所からすると、用を足す姿勢になると目の前になることから、便器に屈み込んで書いたに違いない。

絵のタッチからすると女性器を描いた者と他を描いた者は別人で、最初は女性器が描かれ徐々に他が足されたようである。 M字の脚を足した者も絵心があるのか、綺麗な脚線美を描いていた。 更に胸を描いた者も観察力があるのであろう。 上を向いた乳房は程よく重力に逆らわない丸味があり、それとは対象的に乳首はピンと天を向いて、細かいボツボツがリアルに描かれていた。

最後に下から覗いた顔の部分だが、これは脚や胸を描いた者より下手で一筆書きのようなタッチである。 もっとも下から見た顔は顎と唇と鼻くらいである。 英生はその下手な部分を見て更に驚いた。

唇の右下の顎に小さな黒子らしき点が書かれていたのである。 柚布子にも同じ場所に黒子があるのである。 そう思って女性器を見るとそれが、柚布子の物であるかのように見えてくるのである。

柚布子も大陰唇の周りにヘアーが生えている。 壁の絵も同じように生えていた。 もっともそのタッチは性器を書いた者とは別人のものが加えたものに違いないが、英生は柚布子が晒されている錯覚に陥った。

驚かされたのはデッサンだけではない。 その周りには文字が書き込まれていた。 一際目を引くのが「_田_布子のまんこ」と書かれて矢印が性器部分を指していた。 そして、何故か苗字と名前の一文字づづが消されていた。 それは最初からではなく明らかに文字があったのを誰かが擦って消したものであった。

「まさか!」
英生は思わず声が出そうになった。 それと同時に勃起していた。 名前が柚布子だとは限らないが、落書きの中に「ゆうこにチンポはめました」とか「中出し専用人妻ゆうこ」等や相合傘の片方に「ゆうこ」もう片方に「SK」のイニシャルが落書きされたものがあった。 英生にはどう考えても名前は柚布子に違いないと思えた。


妻の柚布子がここで組み立てや検査の者達に全裸を露に晒し、何本もの男根を埋め込まれる光景が頭に浮かび英生は股間をズボンの上から扱いていた。 そのままズボンを脱いで悪戯書きに射精したい衝動に駆られたが、ふと、我に返った。 入り口にドアの無いトイレである。



英生は現場に戻った。 すると、検査部員達はファイルを閉じて片付けをしていた。 英生に気が付くと彼等はニヤニヤしながら英生を見た。
英生はトイレでのことを見られたのだと勘違いした。

「さんきゅ~、またよろしくね~」
検査部員達は現場を後にした。 去り際もやはり彼等はニヤニヤしながら英生を見ていた。
英生はトイレの落書きが気になって仕事が手に付かなかった。 しかし、習慣とは恐ろしいもので、計器類をセットして測定の準備を無意識に整えた。 だが、それから先の作業をする気になれなかった。

一人になると、トイレの落書きが頭の中を占めた。


5,6分経ったであろうか、検査部員の一人がそっと英生の様子を見に来た。 英生はそれに気が付き調整を始めたが、中断した続きではなく最初からやり直してしまった。 トイレでのことでどこで中断したかを確かめる思考が止まっていたのである。

「チェッ」
検査部員は計器を覗き込むと英生に気付かれないように舌打ちして戻って行った。 彼等は英生がした調整を故意に変更し、作業を続けたなら警報が鳴るような値にこっそりプリセットしていたのである。 そして、英生が作業を再開して暫くすると警報が鳴る嫌がらせをしたのである。
しかし、何時まで経っても警報が鳴らないので一人が様子を見に来たのである。 結果は英生が無意識に設定値を初期値に戻してしまったので嫌がらせは失敗に終わったのでる。

検査部員には英生は切れると思われたがその実は放心していただけなのである。 それほど、トイレの落書きは衝撃だったのである。



英生はまだ、衝撃の中に居た。
パソコンの黒い防塵用カバーに柚布子の裸体が映っている。 柚布子は調整室の一角の床に寝かされている。 一人の男が柚布子の足元に屈み、ペンライトを片手に持ちもう片方の手で柚布子の脚をM字にひらき股間へペンライトを進めた。 その様子を何人もの男達が見守っていた。
「上玉ですよ」
男がみんなに告げると、男達は卑猥な笑みを浮かべた。

  1. 2014/11/03(月) 10:21:47|
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序破急 - 破の21 「種付け式」

調整室の冷たい床にカーペットらしき敷物が敷かれ、その上に柚布子が全裸で寝かされている。 その足元には検査服の男が屈み込み柚布子の脚をM字に開くと股間に手を進めた。 男の手は手術用のゴムの手袋に覆われてさながら医者のようである。 そして、その周りには何人もの男達がその様子を窺っていた。

男は柚布子の股間のヘアーを掻き分け大陰唇を広げ、更に小陰唇を広げるべく割れ目に指を入れた。 そんなことをされているのに柚布子はピクリとも動かない。 薬で眠らされているのか。

男が小陰唇を広げるとピンクの膣口と陰核、それに尿道までもが晒された。 男は周りに群がっている男達によく見えるようにペンライトを口に挟み柚布子の女の部分を両手で広げ奥まで見えるようにした。

「お~」
何人かの男が声を上げた。 男は更に小陰唇を閉じたり開いたりしてそこの具合が周りの男達にも実感出来るように繰り返した。

男は柚布子の股間から一旦手を離すと、後ろに手を廻し銀色の金属の器具を取り出した。 それは医療器具のようであった。 その器具の先端を柚布子の股間に宛がった。 そして小陰唇を先端の平らな部分で広げるようにすると、徐々に柚布子の膣の中へと挿入していった。 柚布子の身体がピクリと動いた。 先端が子宮口に当たったのかも知れない。

挿入された器具は90度回転させられた。 そして男がその器具のレバーらしきものを握るとそれは柚布子の膣を大きく開かせた。 男は器具のネジらしきものを回してその開きを固定した。

柚布子の身体の奥が見知らぬ男の前に晒された。 夫の英生さえ見た事がないであろう。 産婦人科に行った事がない柚布子はそこを初めて人に見られたことになる。 しかも夫以外に・・・


「ほ~、気持ち良さそうな穴だこと」
男が口に咥えていたペンライトを手に持ち替えて開かれた柚布子の身体の奥を照らしていた。 男はペンライトの向きを巧みに変え、柚布子の膣の奥をくまなく照らした。 そしてそのライトは奥の更に小さな穴らしきものを照らしていた。 産婦人科医が使うクスコによっ子宮口を晒されたのである。

「ぞくぞくする子宮口だな、このまま何もしないのは罪ってもんだ」
別の男が覗き込んで言った。
「それでは早速儀式を始めますか」
「種付け式ですね?」
「ああ、他人妻に種付けすることほど楽しいことはないな」
そんな男二人の会話が終わると、いつの間にか他の男達は下半身が裸になり自分の男根を扱いていた。


最初の男は直ぐに現れた。 既に息が荒く扱く速度も速い。 射精が近いのであろう。 柚布子の股間へ膝立の姿勢で進みクスコの淵に自分の男根を当てがうと呻き声を出して射精した。 勢い良く発射した最初の一撃はクスコを外れ柚布子の臍の辺りに落ちた。

「もったいね~」
十分扱いて出し切ると臍の辺りの一撃を指で掬いクスコの淵へなすり付けた。


銀色の器具の縁を男の欲望の証がゆっくりと落ちていく。 その先にはピンク色の肉襞があり、小さな生命の穴がある。 男の欲望は溶岩流のようにゆっくり落ちて行くが、最後は加速して一気に肉襞に到達した。

「い、いやー、やめてー」
柚布子は急に喚き、暴れ始めた。 今まで死人のように大人しかったのが別人のようである。 それは、柚布子の視線の先にはモニターがあり、クスコで開かれた自分自身の性器が映されていた。
一人が柚布子の上半身を、もう二人がそれぞれ片方の脚を押さえた。
それでも柚布子は腰を捩って逆らおうとした。 だが、逆にそれは柚布子の中に放たれた男の欲望が中に侵入し易くしてしまうのである。

「いやー」
クスコを伝った男の欲望は底に満たされた。 後はゆっくり小さな穴へと入るだけである。


「いや、いや、お願いやめてー」
顔をモニターから自分の股間へと進む男に向け見据え、顔をこおばらせた。 二人目の男である。

「外すなよ」
男の後ろから声が掛かった。
「任せておけ」
二人目の男がクスコに挿入する勢いで男根を当てがうと太腿を痙攣させながら射精した。

「きゃー」
柚布子の嘗てない叫びが響いた。 直接底へ届いたのであろう。 二人目の男が柚布子から離れると、クスコを入れた男がペンライトでクスコの中を照らした。 モニターにはピンクの肉襞が白い精液で覆われている様子が映し出されていた。

「お願い、やめて、妊娠・・・」
柚布子は恐ろしくてその先の言葉が出なかった。
「そうだ、妊娠するだろうよ」
男達の不敵な笑いが湧いた。

「だ、だめ~、いや~」
柚布子の視線の先には三人目の男。 この男も激しく扱いている。 射精が近いのである。

「うっ、う~」
柚布子は顔を顰めて三人目の男の精液を受け止めた。

「う、う、おねが、い」
柚布子の懇願には耳も貸さずに四人目も柚布子の膣へ直撃弾を落としていった。 柚布子の叫びの勢いが徐々に衰えていった。 しかし、男が射精する度に悲鳴をあげた。
男が射精したことを自分の肌で感じることは出来ていないであろう。 しかし、モニターに映し出された光景によって柚布子の脳は男の欲望が侵入して来る感覚を作り出しているに違いない。


何人もの男が柚布子の膣に射精していった。 大量の精液が柚布子の膣に満たされている。 それだけ満たされていれば少なからず子宮口から中へ侵入しているに違いない。

柚布子は既に声が出なくなっていた。
柚布子の膣からクスコが抜かれた。 閉じた小陰唇の間から白い精液が垂れて床の敷物の上へ落ちた。

「孕んだな」
男の声が何処からとなく聞こえると柚布子の姿はボヤけて行った。



英生はファイル交換でダウンロードした無修正の女性凌辱動画を観終わって、プレイヤーソフトのウィンドウを閉じた。 動画の中の女性を柚布子に置き換えて観ていた。

柚布子は入浴中である。

英生はベッドインまで待てなかった。 トイレへ急ぎパンツを下げると同時にベニスから我慢汁が垂れた。 英生はペニスを扱いた。 脳裏には先ほどの動画、しかも女性は柚布子に置き換わっている。 1分と経たないうちに英生は便器めがけて射精した。


トイレの中にザーメン臭が横切った。 英生は何年ぶりかでそれを嗅いだ。
すっかりザーメンを絞ると、脱力したように便器に座った。 達成感もあったが、自慰行為をしてしまった罪悪感もあった。 なにより性行為を本当に行ったような疲労感があった。 暫くすると尿意を感じ小便をした。


トイレから出ると。 柚布子が寝室の鏡台の前で髪を乾かしていた。 柚布子は英生を見るなり、
「どうしたの?」
「なにが?」
「随分、疲れた顔しているから」
「あ、ああ」
英生はトイレで自慰していたことを知られたのかと思い焦ったが、
「うん、やっぱり、ちょっと最近、仕事キツイんだ」
「うん、分かる」
英生はなんとか誤魔化した。


この夜、英夫は柚布子を抱く性欲は失せていた。 しかし、布団の中で柚布子はいつもより英生に寄り添った。 それは、柚布子からの営みの誘いだと分かっていた。
「あまり、無理しないでね」
「・・・・」

柚布子は英生の肩に顔を擦るようにして眠りに入って行った。
  1. 2014/11/03(月) 10:22:42|
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序破急 - 破の22 「落書きのモデル」

脳裏に焼き付いた記憶より、実物の方が勝っていた。 英生は仕事はキツイがその分あのトイレを覗く事が出来るのが楽しみだった。 散歩の振りして数分覗くだけである。 そして、それを脳裏に焼き直すのである。

落書きは時に加筆されていた。 英生が最後に見たそれはエスカレートしていて文字も増えていたが、何より男根が追加されていたのには興醒めだった。 その男根は小陰唇の上に亀頭が描かれて先端からは精液が流れていた。

今まで芸術的なタッチだったそれは一気に公園の便所の落書きに格下げされたように下品なものとなり、英生にとっては驚愕より落胆の方が大きかった。

しかし、英夫はそれでも見たいと思い周りを気にしながら調整棟のトイレを覗いた。 しかし、そこの個室の内側は新しいペンキが塗られていて落書きの跡すら無かった。

それと同じくして職場には節約を呼びかける回覧と一緒に「トイレを大事に使いましょう」という回覧が回っていた。 更に設計部の者は設計棟のトイレ以外は使わないようにと口頭で伝達されていた。

英生にはなんとなく落書きの事のような気がしていた。 落書きのことは噂で広まった。 それは「設計部の者は設計棟のトイレ以外は使わないように」という意味有り気な伝達から引き出された。



落書きは総務部のお堅い人の耳に入り、直ぐに消されたらしい。 その内容は兎も角誰が書いたかということが部長会での話題になり、その場所に関わる検査部、物流部、設計部が互いに他の部を犯人だと言い合いをしたらしい。 その結果、設計棟以外のトイレは使うなという伝達になったということである。

噂では設計部でその落書きを見たものは居ないらしい。 英生は派遣なのでそういった社内の恥に関することの聴取は行われない。 仮に行われたとしても見ていないと答えるであろう。 設計部員とて同じであろう。 と、言う事は設計部で見た者は居ないということも確かではない。 

しかし、設計部で落書きの内容について噂を聞くことは無かった。 社員と親交のある派遣仲間でさえ落書きの内容は知らなかった。 そして、この物語に磯貝が登場しなくなった今では、彼が悪戯書きの何処に参加したのかも分からないままとなってしまった。



この日は三連休の最終日で、英夫は休日出勤をした。 それも普段より早く出勤した。 それは、トラブル対応の為に地方へ出張する柚布子が朝早い新幹線に乗るのを見送ったからである。

平日なら守衛所の警備員にIDカードを示せば入館出来るが、休日に入館する場合は守衛所で記帳する必要がある。 英生が守衛所に着くと、車両の停止線に一台の軽トラックが停まっていた。 荷台には幌が掛けられていて何が積まれているか分からなかった。 そして、守衛所にはその軽トラックの人らしい女性が警備員と会話しながら記帳していた。

その女性はデニムのミニスカートにトレーナーの上にジャンパー、作業用の長い前掛けといったいでたちである。 英生からは後ろ姿ではあるが艶香を感じた。 入館票を左手で押さえて記帳している、その左手の薬指には結婚指輪が光っていた。
「人妻か」
英生はそう心で呟いた。

英生が守衛所の窓口に近づくと会話の一部が聞こえて来た。

「・・・円ならいいだろう?」
「また、また、冗談ばっかり」
「冷たいな、俺にもいい思いさせてくれよ、はずむからさぁ」
「うちは花屋ですよ、花は売っても、春は売らないの」
女は悪戯っぽく笑いながらバッヂを2つ掴み軽トラックの助手席に乗り込むと、軽トラックは発進し本館の方へと向かった。

その女が方向を変える時に英生に女の顔立ちが一瞬見えた。
「いい、おんな」
英生は声が出そうになった。 そして何処か妻の柚布子に似た雰囲気を感じた。 英生は軽トラックに乗り込む女の後ろ姿を視線で追った。 デニムのミニが艶っぽい、歳の頃は34、5歳に見えた。
デニムのミニから伸び脚はそれを覆う透けた被服が見えないことから生脚である。


既にIDカードを持っている常駐者と持たない出入りの業者とでは記帳が異なる。 英生は記帳簿に指名、カード番号、行き先と入退館時間を書くだけであるが。 出入りの業者は入館票に記入するのである。

英生が記帳簿に記入しようとすると、女が記帳した入館票が目に入った。 女をニヤニヤしながら目で追っている警備員がまだ片づけていないのである。 英生をそれを見て思わず目を疑った。

業者名:江南フラワーガーデン
氏名:袴田友布子 他1名

システム・インテグレーション産業にレンタルで鉢植えの観葉植物等をレンタルしている業者で、この日はその一部を入れ替えたり、水遣りや簡単な剪定をしに来たのである。 英生はそう云えば、その名前の花屋が駅前にあることを思い出した。

もしかしたら落書きのモデルはあの女だったのか・・・

もし、そうだとすると聞こえて来た会話は;
「なあ、検査部の連中に犯られているらしいじゃないか」
「何のことですか?」
「皆知ってるよ、検査部の若いのと嵌めたって噂だぜ」
「まあ、厭らしい噂ですのね」
「しかも、生で、羨ましいなぁ、中にたっぷり出させたらしいじゃないか」
「そんな、誰がそんな、馬鹿馬鹿しい・・・」
「検査部じゃ5人も同じ穴兄弟になっちまったって、いくらならやらせて貰えるんだい?」
「何言ってるんですか、もう」
「3万円ならいいだろう?」
「また、また、冗談ばっかり」
「冷たいな、俺にもいい思いさせてくれよ、はずむからさぁ」
「うちは花屋ですよ、花は売っても、春は売らないの」


「おい、おい、アンタ、ちゃんと枠の中へ記帳してくれよ」
警備員の注意する声で我に返った。
「す、すいません」
あの女と守衛との会話を妄想しているうちに枠からはみだして記入していた。
「アンタもあの女に見惚れたのか? よせよあの女は、これのお手付きだからさ」
警備員はそう言うと記帳簿の上の方を指で叩いた。 そこには「ソノダ」と雑に書かれていた。
「名前くらいちゃんと書けってんだよ」
「顔パスしよとしてた頃に比べれば良くなったサ」
奥のもう一人の警備員が割り込んで来た。
「俺たちも警備会社からの派遣だからさ、いちゃもん付けた仲間はここクビにさせられたサ」
窓口の警備員は渋い顔して頷いていた。
「花屋が来る時は、休みというのに出て来てサ、あの女と乳繰りあってるらしいよ、今日も」
「おい、おい」
奥の警備員が喋り過ぎだぞといった顔をして制した。

「私も派遣なんで、それに、そういう話興味無いんで」
英生はそう言うと、守衛所を後にした。 勿論興味は有り有りである。

  1. 2014/11/03(月) 10:23:33|
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序破急 - 破の23 「プレゼン準備室」

英生はメールの確認やら、準備を終えると調整棟へ向かった。 しかし、調整棟は鍵が掛かっていて開いていなかった。 いつもならこの場所が縄張りの検査部か物流部の誰かが開けているのであるが、流石に三連休の最終日で、しかも早い時間ということで開いていなかった。

英生は警備室へ開錠を依頼すべく向かった。 以前は鍵を貸し出していたのだが、鍵がなかなか返ってこなかったりというトラブルがあってから、警備員が同行して開けることになっていた。

英生は警備室の窓口で開錠依頼の記帳をした。
すると、奥から
「俺行きますよ」
と、声が聞こえた。 英生が声の方向へ視線を向けると先ほど守衛所で会話した警備員だった。 警備員は時間で受け持ちをシフトしているらしい。 守衛所でのシフトが終わり警備室で次のシフトまで待機していたのであろう。

英生は警備員と一緒に調整棟へ向かった。
「あんたも、派遣なんだ、大変だね、休みだって言うのに」
「はい」
「社員は派遣に仕事を任せて、ゴルフだもんな」
警備員は英生が同じ派遣と分かって親しみを感じたのであろう。 それに、設計部がこの3連休のどこかでゴルフコンペを行っているということも知っていた。 警備員には色々な情報が入るもんだと英生は感心した。 それと同時に情報通であれば落書きの事も知っているのだろうと思った。

「あんた、設計部に派遣されているのだったら、プレゼン準備室へ行くことあるか?」
「いえ、行きません」
「そっかー、それなら安心だ」
「どうしてですか?」
「あそこの開錠レベルを変更するようにと購買の園田が来ていたらしいから」
「それが、なにか?」
「自分の部門と出入りの業者のみに変更させたんだ、なんか、やってるかもね?」
「え?」
プレゼン準備室とは発表等を隣接する会議室で行う時に使用する機材を保管している部屋である。 元々は発表時の資料を作成する部屋であったが、パソコンで作成し、プロジェクターでスクリーンに映すようになった今では機材置き場になっていたのである。
そうは言っても椅子や机等はそのまま残されており、数人なら会議が出来る広さは保っていた。

本館の出入り口の殆どがIDカードによるセキュリティーが掛かっている。 配布されているIDカードの権限で入れる場所を制限しているのである。 警備員の話から推測すると、購買部と出入りの業者のみが、プレゼン準備室に入れるように変更されている。
休日出勤しているのは購買部では園田だけで、出入りの業者がわざわざ準備室には来ない。 となれば、園田と花屋だけが入れるようになっていることになる。

「いや、ちょっと前まで、あの園田はサ、花屋が来る休みの日は物流部の資材置き場の部屋へ花屋を連れ込んでいたらしいんだ」
「はぁ・・・」
「物流部も殆どが運送会社からの派遣だろ? 見て見ぬフリしていたんだけど、運悪く検査部の誰かに見つかったらしい」
「はあ、でも私には何のことか・・・」
「あ、あんた、設計部だったか、それじゃあまり園田の事は知らないか・・・」
園田は出資銀行から邪魔者同然にシステム・インテグレーション産業に出向させられているが、それなりに改革らしき事をやって来た。 それは以前の出向先で優秀な銀行マンがやったリストラを真似ただけであるが、それでもそれなりに効果を出していた。
手始めに物流部を外注化しコスト削減の効果を出した。 そして次々と手を伸ばしていったが、設計部だけは執行取締役製品企画部部長の山田が居るので手が出せていないのである。

「ま、そう言う訳で、場所を準備室に変えたんじゃないかな?」
「そうなんですか」
「だから、クビになりたくなかったら、準備室には行くな、もっとも中には入れないけどナ」
「はい、もともと、そこには用はないですから」
「そっか」

「あの花屋もここに売り込みに来なければ、園田に捉まることも無かったろうにな」
警備員は憐れむように声を落とした。
「あの、園田ってヤツは職権使って業者の女誑し込んでやがるのサ」
「え?」
「あんた、設計部だったら知ってるか?」
「何をですか?」
「甲陽精密なんとかとう会社の女が良く出入りしていただろう?」
「えっ?」
「その女も結構そそるんだよナ」
英生は柚布子のことを警備員が知っていることに驚いた。

「あの女なんか園田の好みだと思うよ。 絶対機会があれば物にしているサ」
英生は弥勒亭別邸での手打ち式の時の園田の印象を柚布子があまり良く言ってない事を思い出して心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。 すでに園田の毒牙に妻が捕らわれたのではと・・・

「でも、最近来なくなったので一安心サ」
警備員は調整棟の入り口の鍵を開けると、最終退場者カードを英生に渡し、警備室に戻って行った。

英生の頭の中には園田の蜘蛛の糸に引っ掛かってもがいている半裸の柚布子とあの女がいた。 そして、一匹の蜘蛛があの女へ迫って行った。 女と同じ体格の蜘蛛である。 その蜘蛛の足が女の胸を押さえる。 昆虫の棘のある足に抑えられた乳房は蚯蚓腫れのような跡を付け苦痛の叫び声を上げる。
やがて蜘蛛は女の手足の倍の数の足で女の手足を広げると尻尾の先を女の股間に当てがい胴体を震えさせた。 女は絶命したかのように動かなくなった。
英生の妄想癖はエスカレートしていった。  



英生は警備員の「準備室へ行くな」というのは「準備室へ行けば面白いものが見られるぞ」と言っているように思えて仕方なった。


英生はシステムの調整しながらもプレゼン準備室の事が頭から離れなかった。 警備員の言うことが本当であれば、園田と花屋は何かをしているハズである。 何をしているか警備員は言わないが、言い回しから想像がつく。 しかし、一方で会社の一角でふしだらな行為が行われているという事も怪しいと思った。 準備室には入れないが、近くで様子を伺うことくらいしてみたいとも思った。

調整を初めてから資料の一部を持って来るのを忘れたことに気が付いた。 それが無くても調整は続けられるが、本館へ行く口実が必要であった。 英生は本館経由で設計部へ戻ることにした。 本館に着くとロビーを台車に観葉植物を乗せて曳いている男性が目に入った。 軽トラックを運転していた人に違いない。 あの女と同じ柄の作業用エプロンを付けていることから、同じ会社の同僚に思えた。 男性はロビーの観葉植物と台車の物とを交換すると、再び来た通路を戻っていった。 英生は軽トラッククに積むのだろうと思った。


英生は自然と抜き足差し足になって階段を4階まで上がりプレゼン準備室の近くの通路へ出た。 通路の陰からプレゼン準備室の前辺りを覗った。

プレゼン準備室の前の通路には観葉植物の鉢が一つあり、その脇には水遣りの道具が置かれていた。 そこにあの女が居ることを示す目印になっていた。

準備室の前で中を窺うと微かに男女の話声が聞こえる。 話の内容は分からないが、時折女が喘いでいるようにも聞こえた。 と、その時入り口のカード読み取り機の赤色のLEDが消灯し、緑色が点灯した。 英生が首から下げているIDカードに反応したらしい。
派遣である英生のIDカードの大分別は外注であった。 設定は大分別で行われていたので英生が準備室に入れる設定なっていた。

英生は過去に数回手伝いで準備室に入ったことがあった。 準備室は奥にもう一部屋あり、手前が機材置き場になっていて会議室へ直接入れる扉がある。 英生は意を決して中へ入った。 そこに園田達が居れば一貫の終わりである。 しかし、そこには誰もおらず、会話らしい声は奥の部屋から洩れていた。

奥の部屋へ続く扉は半開きになっておりそこからは信じられない光景が目に飛び込んで来た。 テーブルに突っ伏すような恰好で尻を突きだしている女にズボンを降ろした男の股間が押し付けられていた。 まるで、半開きの扉からわざと見えるような位置であった。
  1. 2014/11/03(月) 10:24:40|
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序破急 - 破の24 「差し出された妻」

女はIDカードを受け取ると携帯メールで指示された通りに4階のプレゼン準備室へ向かった。 入り口のカード読み取り機にIDカードを近づけると緑色のLEDが点灯した。 そして扉を開け中へ入った。

準備室の中は光が届かないのか入り口の扉を閉めると暗闇になった。 暫くその場に佇み目を慣らすと奥の部屋へ続く扉を見つけメールの指示通り中へ入った。 奥の部屋に入った女は窓際へ手探りで進みカーテンを開け部屋に光を入れた。 部屋に光を入れると今度はカーテンを調整し、テーブルの一角だけに光が当たるようにした。

女はメールの次の指示に従った。 作業用のエプロンを外し、デニムのミニの中へ手を入れると下着を外した。 それを光の当たっているテーブルに置き傍らのソファーに座り、脚をソファーに上げM字を作り脚を入り口に向けて開いた。 そして開いた脚の根本へ片手を這わせ、もう一方の手で作業用ジャンパーのチャックを器用に下げて外すと前を開き厚手のスウェットのシャツの中へ手を入れた。

女はメールで指示されて自慰をしているのである。 しかも、その部屋に入って来た者にその様子を晒す体勢を強いた。

準備室入り口のカード読み取り機がIDカードを認証した音を発した。 誰かが部屋に入ってくるのである。 女の手の動きが止まった。 部屋に入って来る者によって女の運命が変わるかも知れないのである。

扉が開き閉まる音がするとカーテンから差し込む光の帯に一人の男の姿が現れた。

「ちゃんと、指示を守ったようだな」
男は購買部の園田であった。

「俺以外の者だったらどうする? 警備員だったら? 万一旦那だったら、うん?」
女には反論することは出来ない。 仮に痴態を隠したら、今度は指示を守らなかった事を責められることが分かっていた。
「旦那にもここへ来るようにメールをしたとは思わなかったのか? 助平な女だな」
女は泣きそうな顔になった。
「誰が手を止めて良いと言った」
園田の声は小さいがドスを効かせていた。
女は仕方なくといった感じで再び指を動かした。
「返事が無いな」
「すいません」
初めて女が口を開いた。
「それだけか?」
「・・・・・」
「うん?」
「助平な女です」
「うん、分かってるじゃないか」

「そうか、助平か、 助平な女はここで何をしていた?」
「・・・・」
「うん? 答えられないくらい感じていたのか?」
「・・・・」
「気持ちいいか? うん?」
「はい」
「そうか、気持ちいいか、自分だけ」
「・・・・」
「それはまずいだろう」
園田はそう言うと、女を手招きし、自分の前に膝まずかせた。 女を何をすればよいか十分理解していた。
「安心しろ、ここは私と君達しか入れないようになっている」

女は園田のズボンと下着を降ろすと、半立ちになった園田の陰茎を手で軽く扱くと膝立ちになってそれを咥えた。


袴田友布子が何故このような状況に屈するようになったかの経緯は分からない。 ただ、それは友布子が望んだものでは無いのに違いない。



園田は50歳を過ぎているだろう。 しかし、その陰茎は女のフェラチオで十分硬くなっていた。 園田は女にテーブルに手をつくように仕草で命令した。 そしてデニムのミニの中に手を入れた。
「ほう、濡れているじゃないか、助平だな」
「ああ」


園田は女の背を押し胸をテーブルに押し付けた。 すると女の尻が突き出たようになった。 さらに足で女の足を払い開くようにした。
女は次に何をされるか分かっている。 園田でなくても女を弄ぶ男のすることは大体同じである。 女陰が微かに潤んでいるのが誰にでも分かるくらい尻を突き出されていた。

園田は片方の手の中指を立てると女の尻の割れ目に沿ってそれを進めた。 女が僅か胸をテーブルから上げ仰け反った。 そして割れ目の中へ指を埋め込んだ。 完全に膣口は指で塞がれた。 そしてもう片方の手で女の腰を押さえて固定した。

「あ、ああ」
「ほう、こんなになって、どれどれ」
園田は掌で尻を包む角度で指を入れていたが、それを180度回転させ、掌が床に向く恰好で深く突き入れた。 女の膣は園田の指で満たされた。
「ああ、うっ」
女が声を上げそうになったのを自ら手で押さえた。 園田は中指に絡みつく女の愛液を感じて顔をニヤつかせた。

園田は突き入れた指を少し引き戻し、女の膣の中で曲げたり伸ばしたりして膣壁を掻いた。 そこが女の感じる所であることを十分に知っていることを見せつけた。
「ああ、だめっ」
女は声を押し堪えて訴えた。 しかし、園田の指の動きは止まらない。 堪らず女は自らの口を手で押さえて堪えた。 その様子を見ているだけで園田の陰茎の硬直は維持出来た。 それは女を征服している満足感からであろう。

と、その時、準備室の入り口で物音がした。 誰かが準備室に入って来たに違いないのだ。 女にとっては狼狽する出来事であるが、園田にとっては想定内のことである。
「お客さんだ」
園田はそう耳元で囁くと手を抜いた。 抜いた指に纏わりついた愛液を自分の亀頭に塗り付けるとそれを女の尻の割れ目に当てがって、ゆっくりと陰茎を挿入した。
「んぐ、うう」
女は込み上げてくる快感に堪えようと口を更に強く押さえた。
  1. 2014/11/03(月) 10:26:00|
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序破急 - 破の25 「差し出した夫」

暫く静寂が続いた。 準備室に入った者と園田とどちらが先に動くか根競べをしているようである。 女は誰に見られているかを考えると無意識のうちに膣の筋肉を収縮させた。 園田はペニス全体を締め付けたり離したりする膣壁の動きに満足し、カリに纏わりつく女の愛液から引き出される快感を更に増す誘惑と戦っていた。 ここで腰を動かせば更に快感が湧くのは長年の経験で得ていた。

園田は誘惑に負けた。 息を吸い込むとと腰をゆっくり律動させた。 するとテーブルが軋む音がし、その音に準備室の入口の物音がかき消された。 その音に紛れ、準備室に侵入した者は慎重に廊下へ出ていった。 園田のカリに纏わり付いた愛液が陰茎全体を覆い快感を助長させた。

「誰が覗いているのかな?」
園田は腰をゆっくり動かしながら女の耳元に囁いた。
「う、うう」
女は涙目になりながらも感じずにはいられなかった。

「もっと、見てもらおうか」
園田は腰の動きを止めた。 女はほっとしたように口を塞いでいる手を離し、大きく息を吸った。
園田は女の上体を起こしトレーナーを首まで捲る勢いで上げるとブラジャーも上にずらし、胸を露わにした。 そして上体を更に起こし両手で乳房と乳首を揉んだ。 丁度女の胸辺りにカーテンの隙間からの光が当たっていた。

「あ、あ、ああ」
女は胸を揉まれながら喘いだ。 もう聞かれても仕方ないと覚悟でもしたのであろう。
「乳首硬くてコリコリじゃないか」
園田が腰を一回突いた。
「あっ」
女は叫びそうになりまた口を塞いだ。
「うん、逝ってしまおうかな?」
「だっ、ダメ」
女は顔を思い切り園田の方へ向け首を振りながら懇願した。

「しょうがないなあ~、持って来たのか?」
女はジャンパーの内ポケットからコンドームを出して、園田に差し出した。
「じゃ、着けろ」
園田は女の耳元でそう囁くと腰からペニスを抜いた。

女は園田の方に向き直り、コンドームの袋を切り中身を取り出し、園田のペニスに被せた。 すると園田は女の胸を押しテーブルへ腰掛けるように導いた。 そして両脚が園田の手にによって開かれた。

「ほら、自分で持つんだ」
園田は女自ら太腿を持って脚を開くように要求した。 園田はその開かれた脚の中心に向かって腰を進めた。 女はテーブルに仰向けに寝て脚を開き、園田のペニスを再び迎えた。
「あ、うっ」
園田はペニスを挿入すると、上体をテーブルの女に被せた。 そして女の耳元で囁いた。

「どうだ、気持ち良いか?」
「・・・」
「生の方が良いだろ?」
「・・・・」
「そうか、言葉にならないほど良いか?」
「う・・ぐ」
女は口硬く結んだまま首を振った。

「検査部の奴等には生でやらせたんだろ?」
園田は腰を少し引き、勢い良くペニスを打ち付けた。
「あ、うっ」
女は咄嗟に口を手で塞いだ。 園田はそのまま耳に舌を出し女の耳の中へ舌を入れた。 すると耳の穴を舌で愛撫するのに同調してペニスが締め付けられるのを感じていた。 園田はその快感をしばらく貪った。

女の両耳が園田の唾液で十分に濡れると園田は口を塞いでいる女の両手を掴み万歳をする恰好でテーブルに押さえつけた。 そして無防備になった女の唇に舌を這わせた。
女は少し首を左右に振り園田の舌を避けていたが直ぐに唇を割られ、園田の口で塞がれた。

女は既に抗うことはせずに園田の動きに合わせるように舌を吸いあったり、転がしたりした。 その動きに合わせ自分の下腹部が無意識に痙攣するかのように動いているのを感じていた。

女は明らかに自ら感じていた。

女はペニスを挿入されたままディープキッスをするセックスは初めてでは無い。 しかし、新しい刺激のように身体が反応している。 それは、脳が誰かに見られながら園田に抱かれているという指令を受けているからである。 しかも、それは一番見られたくない相手に他ならない。

女は一時消えていた人の気配を入り口の方に感じていた。

園田は女の唇から離れる代わりに腰を動かした。
「あ、あっ」
手は園田に依って押さえられているのでもう口を塞ぐくとは出来ない。

「うん? それでど~だったんだ、検査部のチンポは? うん?」
園田が強く腰を打ち付けた。
「う、うう」
「良かったのか・・・、そうか・・」
園田は腰をグラインドさせた。 女は必死に口を開けずに喘いでいた。
「ふうんうん、んん」
「この俺様より良いとは、けしからんな~ じゃあ、何処かへ飛ばす算段でもするか、ほれほれ」
園田の腰の動きが早まり、テーブルの軋む音と女の喘ぐ声とが協調していた。 そんな音の中に廊下を台車が移動して行く車輪の音が混ざっていた。

「なんだ、あの観客は、もうすぐいいところだっていうのに」
園田の腰の動きが一層早くなると
「あ、あ、だめ、い、いくっ」
女が喘ぎなからも言葉を発した。 女にも廊下の台車の音が分かったのだろう、急に快感が込み上げてきたようであった。
  1. 2014/11/03(月) 10:26:47|
  2. 序破急・中務
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月の裏側 第1回

 私はこれから妻について語ろうと思う。正確にいえば、元・妻である。彼女――月子は2年と少し前に家を出て、私たちの夫婦関係は終焉を迎えた。

 決定的な破局の訪れる以前から、私たちの仲は危うかった。
 きっかけは私たちの一粒種であった息子、猛資の死である。
 今も私の心に深い傷を残すその出来事を語る前に、まずは私自身と月子について、もう少し説明を加える必要があるだろう。

 私は藤島厚夫という。千葉県銚子市の生まれで今年43歳。長く出版社で編集の仕事に携わっていたが、30代の半ばから小説の筆を取り、現在は専業作家としてどうにか暮らしている。月子は私より2つ下だから、今年41歳を迎えるはずである。
 月子との出会いは20数年前に遡る。当時の私はある出版社に就職し、駆け出しの編集者として働き始めたばかりの、まだ顔に幼さの残る若造だった。

 最初に月子と巡り会ったのは5月のある日だった。よく覚えているのはその日、仕事上で一悶着があったことだ。その少し前、さる著述家に雑誌の原稿を依頼していたのだが、連絡の食い違いで、こちらの意図と異なる文章が仕上がってきたのである。私はその著述家の家を訪ねて、不機嫌な顔をした彼に平謝りし、何とか原稿の書き直しに応じてもらった。
 とりあえず問題は解決したものの、こちらもまだ分別のつかない若造のことだから、「何だい。俺の話を向こうがきちんと聞いていなかっただけじゃないか」と不貞腐れる気持ちがあった。
 くさくさした気持ちで最寄り駅へ向かう途中の道、ふと小さな画廊が目に入った。自分では絵など一つも描いたことがないくせに、私は昔から絵画を見るのが好きだった。むしゃくしゃした心をわずかでも静めようと、こすい考えで、店内に飛び込んだ。

 画廊では、M美術大の学生有志による展示会が開催中らしかった。油彩、水彩、彫刻、何が何やら分からぬ現代アートまで、よくもわるくも学生らしい熱気に満ちた展示物の数々は、芸術的感興によって心の平穏を得ようという俗な目的にはそぐわぬものであったが、面白いことは面白かった。が、それ以上に、受付にぽつねんと座っていた女性が気になった。

 若造だった私よりその女はまだ若かった。受付に座っている以上、まずM美大の学生であろうことは間違いない。
 白色の質素なサマーセーターに、これまた地味な黒のスカートで膝まで隠していた。ぱっと見、非常に細作りの身体つきをしていたが、セーターの胸の部分は目を引くほど盛り上がっている。
 癖の少ない、さらりとした黒髪。切れの深い大きな目に鋭い印象がある。肌が蒼いほど白く、時刻は昼間だというのに、彼女の周囲にだけは月の光が降り注いでいるような、妙な雰囲気を漂わせていた。
 これが月子との出会いであった。

 その日、私が何と言って彼女に話しかけたのかはよく覚えていない。もしかしたら、何も話し掛けなかったかもしれない。とはいえ、3日後の休日に私は再びその画廊を訪れているのだから、彼女によほど心を惹かれ、どうにかして知り合いたいと思っていたのは間違いない。
 ただし、3日後のその日、月子は画廊にいなかった。私は受付にいた男子学生から彼女の名前と、次に受付を担当する日を聞き出し、三度目の来訪をすることにした。
 私の尋問にあった男子学生は、さっそく仲間うちにそのニュースを広めたらしく、ようやくデートに漕ぎつけたあとで、月子からぼそりと文句を言われた。『あれからずいぶん迷惑したのよ』と。

 話をするようになってみると、月子はその容貌から漂わせていた印象どおり、若さに似合わぬ落ち着いた話し方をする女だった。2歳という年の差、そして社会人と学生という立場の違いもさほど意識することなく、私たちは付き合いを深めていった。
 月子は仙台の生まれ。小学校に上がる前に、公務員だった父を亡くしたらしい。母親はまだ幼い月子を連れて、実家のある東京へ戻ったが、数年前に再婚。その再婚相手も前妻と死別しており、月子と同年齢の息子がいた。相手方の家族に遠慮するところがあったのか、母の再婚後も月子ひとりは同居せず、祖父母の元で暮らしていた。
 そのような家庭の事情もあって、彼女は年齢より精神的に成熟していたのかもしれない。ただ、私と付き合うようになるまで、男性経験は無かったようだ。という以上に、私と出会う頃までの月子には男嫌いの気があったらしく、それがなぜかといえば、原因は彼女の胸なのである。

 あたかもきりきりに冴えた三日月のように、月子の容子にはどこか鋭いものを感じさせるところがあったが、外見においてその印象をただひとつ裏切るのは、服の上からでもハッキリと分かる、豊かな胸のふくらみだった。身体の成長は早かったらしく、中学生の頃からその弾むような胸の大きさは、周囲の男たちから好奇の視線を集めていたようだ。ばかりでなく、実際、痴漢被害に遭うことも多かったという。このような過程を踏んで、月子は男という生き物の獣臭さを感じ取り、意識的に拒絶するようになったらしい。母の再婚後も先方の家族と同居しなかったのは、おそらくは相手方に同年の息子がいたことが主な原因ではないか。

 そんなわけなので、彼女は大学でも男嫌いで通っており、だからこそ件の男子学生は大喜びで仲間たちにニュースを広めたのだろう。「どこぞの馬鹿な男が、それと知らず、男嫌いで有名な月子にモーションをかけている」というわけだ。疑問なのはむしろ、私のようなぽっと出の、得体の知れぬ男の誘いに、なぜ彼女が応じたのかということだろう。

『そうね。考えてみると、自分でもよく分からないわ』
 後になって、月子は、初対面の時のことを振り返り言った。
『ただ、私も、あの時、画廊にふらりと入ってきたあなたのことは印象に残っていたから』
『変な奴だと思っていたんだろう。なにしろ、僕は美術とも芸術ともまるで縁の無さそうな顔をしている』
『馬鹿なこと言わないの』彼女はくすくすと笑った。その頃にはもうずいぶんと、私たちはうちとけて話すようになっていた。『変なヤツとは思わなかったけど――面白い顔をした人だな、とは思ったわよ』
『平然と非道いことを言うね!』
『非道いことを言ったつもりはないわね』
 月子はそれこそ平然と言い返したものである。
  1. 2014/11/03(月) 11:05:48|
  2. 月の裏側・久生
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月の裏側 第2回

 私たちは結婚した。
 式を挙げた時、月子はまだ22歳の学生であった。彼女は翌年、都内の中学校で美術教師の職に就いた。しかし、それも1年経つか経たずで休職をすることになる。子供を身ごもったからである。
 そして翌年、生まれたのが息子の猛資だった。

 若い頃、男嫌いで通っていた月子ではあったが、父親を早くに亡くしたためか、家庭に対する憧れは人一倍だったようだ。まだ学生のうちに私の求婚を受け入れたのは、その表れでもあったろう。そんな彼女は、はじめての我が子を得、その世話に追われることに幸福を感じているようであった(もちろん、私の喜びだって並一通りのものではなかった)。

 私たちの愛を一身に受けて、猛資はすくすくと成長したが、大きくなるにつれて、引っ込み思案な性格が顕著になってきた。母に手を引かれ幼稚園に入ってからも、おずおずとしていて、他の子供とうちとけられるまではかなり時間が掛かったようだ。その頃にはもう美術教師の職に復帰していた月子は、幼くして人間関係に不器用な息子のことを、心配げなまなざしで見つめていた。
『あんなにシャイな性格じゃ、この先、世の中をわたっていくのに苦労しそうだわ』
 などと先回りして、月子はよくため息をついたものである。
『心配するのが早すぎるよ。猛資はまだ幼児じゃないか。それこそこの先、どんなに性格が変わるかも分からない。ひょっとしたら、すごいドラ息子になるかもしれないよ』
『あら、あなたはあの子にドラ息子になってほしいのかしら』
『そんなことは言っていない。許せるのは、腕白小僧くらいまでだね』
『私はあの子に内気な性格を直してほしい――なんて、まったく思わないのよ。それは猛資の個性だし、いいところでもあるもの。シャイなのはあの子が普通以上に優しいからだわ』
『好意的な解釈をすればね』
『好意的な解釈をするのが親ってものでしょう』
 月子は冷たい目で私を見た。首をすくめながら、私は心の中で『母は盲目』とつぶやいた。毅然とした性格は変わらなかったが、若い頃の月子が漂わせていたある種の鋭さはいつの間にか薄まり、彼女は、息子と家庭の幸福を第一として生きる女へと変わっていた。

 猛資の成長以外にも変化はあった。私は若い頃から小説が好きで、編集者の仕事をつづけながら、ある時思い立って、小説の執筆を始めた。海外ミステリの影響が色濃い、趣味的なサスペンスだったが、完成品を月子に読ませたところ、『面白いわ。どこかの出版社に送ってみたら?』と勧められた。
 私自身、編集者であるし、業界のことはそれなりに分かっているつもりだった。だからこそ、そううまくいくはずがない、とは思ったのだが、原稿を持ち込んで数ヵ月後には、なんと向こうから『本にしたい』と言ってきた。嘘みたいな本当の話である。
 以来、私は忙しい仕事のかたわら、小説家を副業とすることになった。月子はとても喜んで、『ほらね。私の勘は鋭いでしょう』と、普段見せないような得意げな顔をした。
『感謝してるよ。君に勧められなければ、とても原稿を出版社に持ち込もうなんて気にはならなかった』
『そのことじゃないわ。いつだったかしら、初対面のあなたを見て「面白い顔をした人だなと思った」という話をしたでしょう』
『ああ、あったね。……すると、何だい。君は、あろうことか初対面の時から、僕の中にある小説家の素質をひそかに見抜いていた――とでも言い出す気なのかい?』
『そこまでは言わないけど』
『言ったようなものじゃないか。呆れたね』
 ふざけた会話の応酬をしながら、私たちは笑い合ったものである。

 話を戻そう。盲目な愛情を子に注ぐ月子の心配は半分当たっていて、猛資の引っ込み思案はその後も治らなかった。とはいえ、それが原因で損をすることはあっても、いじめられるところまではいかなかったようだから、のんきに構えていた私の態度もある意味正しかったと思う。ひとり息子を中心として、私たちの家庭は、父の楽観と母の悲観とでバランスが取れていたのだ。そう、あの時までは――。

 バランスが崩れたのは、猛資が中学2年生となった春のことだった。生まれて以来、私たちの家の中心であり、汲めども尽きぬ幸福と心配の種であった息子。
 その猛資が――死んでしまったのだ。
  1. 2014/11/03(月) 11:06:49|
  2. 月の裏側・久生
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月の裏側 第3回

 猛資が死んだ日のことは忘れられない。
 日曜日だった。

 猛資は中学校で卓球部に所属しており、その日曜日も、練習のため午後から部活へ行っていた。私は書斎にこもって小説を書き、月子は休日になるといつでもそうしていたように、部屋の隅から隅までをぴかぴかと磨き上げる作業に余念がなかった(彼女は掃除狂いといっていいほど清潔好きな性質があった)。
 夕方5時近くになり、窓の外が暗くなってきたなと思ったら、雨が降ってきた。
 しばらくして、書斎に月子が入ってきた。
『あなた、ちょっと』
『どうした?』
『猛資、傘を持っていかなかったみたいなの。わるいけど、学校まで車で迎えに行ってくれないかしら?』
 ちょうどその時、執筆作業が珍しく快調で、本音をいうと返事するのさえおっくうだった私は、妻の言葉に厭な顔をした。
『この程度の雨ぐらいで、車はおおげさじゃないか』
『天気予報を見たけど、これから激しくなるみたいなの』
『友達の傘に入れてもらえばいいだろう。僕も忙しいんだよ』
『……同じ方角に帰る子、いたかしら?』
 私の素っ気ない返事を聞いて諦めたのか、月子は携帯を取り出し、猛資に電話をかけた。だが、その日、猛資は携帯を自室に置きっぱなしにしていたらしく、連絡は繋がらなかった。
『仕方ないわ。私が傘を持って学校まで行ってくる。今から出掛けても、練習の終わる時間過ぎちゃうけど』
 中学校へは徒歩で30分以上かかる。月子は運転免許を持っていなかった。
『そこまでしなくっていいんじゃないか。たとえズブ濡れで帰ってきたところで、その後、風呂で温まればいい話だろう』
 私が言うと、月子はため息をついて『男親ってこれだから…』とつぶやいた。私は私で『女親ってこれだからなあ…』とでも言いたいような気分だった。

 月子の過保護な心配は、しかしその日に限っていえば、間近に迫る破局を予感した胸騒ぎのようなものだったかもしれない。

 妻が出掛けていった後、私はまた意欲を新たにして小説に取り掛かった。集中して書く時、いつもそうするように、お気に入りの洋楽をヘッドフォンで聞きながら、ひたすらパソコンのキーを打ち叩いた。
 そうして、ひとり、夢想の世界に没入していた私だったが、ふと疲れを感じて、顔を上げた。気がつけば、時計の針は6時半を過ぎている。
 驚いたことに、月子が出て行ってもう1時間以上過ぎていた。だというのに、月子も、そして猛資も戻ってきていない。
 ヘッドフォンを外すと、途端、激しい雨音が窓の外から聞こえてきた。硝子の向こうはもう真性の闇だったが、部屋の明かりの届く範囲は、降水で視界が歪むほどだった。
 ふと気付いて携帯を取り上げると、妻からの着信が3度も入っていた。
(――まずいな)
 そう思った矢先、玄関のドアが開く音がした。出てみると、真っ青な唇をした月子が立っていた。雨に濡れた黒髪がしっとりと光っていた。
『さっきから何度も電話かけていたのよ』
『ごめん、気付かなかったんだ』
『猛資は帰ってない?』
『帰ってないけど……学校では会えなかったのかい?』
『私が着いた時にはもう誰も体育館にいなかったわ。今日は早めに練習を切り上げたのかも』
『それでも…いや、それなら、まだ帰ってこないのはおかしいな』
『おかしいのよ』
 珍しく強い調子で答えた妻の言葉には、不安の響きが滲んでいた。
『ともかく、ひどい雨で君も冷えただろう。僕が車で探して来るから、シャワーでも浴びたらどうだ』
『そんな気になれないわ』
『心配しすぎだよ。あいつももう中学2年生だぞ。きっと、友達の家にでも寄っているんだろう』
 私は妻を励ましながら、玄関脇に置かれた傘を手に取った。
 ドアを開けて外へ出る。陰鬱な雨の降りそそぐ団地は、まだ夜になって間もないというのに、いやにひっそりと静まりかえっていた。


 ……この後のことを書くのは、私には辛い。
 結論からいうと、その日の夕方5時40分頃、猛資は交通事故に遭っていた。

 部活が早めに終了して後、猛資は自宅の方角が近い友達の傘に入って帰ったが、途中でその子と別れてからは、雨宿りもせず走って家を目指したらしい。友達と別れがたかったのか、2人が「さよなら」を言い合った場所は、猛資の普段通る道からずいぶん外れた地点にあった(このために、迎えにいった月子とも会えなかったのだ)。
 雨はその頃にはもう本降りで、視界は大変悪くなっていた。濡れ鼠になって道端を走る中学生に、トラックは気付かなかった。――まだ成長しきっていないその身体をはね飛ばすまで。
  1. 2014/11/03(月) 11:07:44|
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月の裏側 第4回

 猛資の死は、残された私と月子の関係を大きく変えた。

 結果論には違いない。だが、もしもあの事故当日、はじめから私が重い腰をあげて猛資の迎えに行っていたら――、私たち夫婦は最愛の息子を失わずに済んだかもしれないのだ。
 どうしようもない後悔に私は苛まれた。と同時に、妻もまたそう考え、ひそかに私を責めているのかもしれないという想像が、私の心胆を寒からしめた。
 もっとも、月子はその件に関して何も言わなかった。愛息をなくした喪失感は、妻をほとんど鬱状態にまで追いやった。私は勧めて、彼女をカウンセラーのもとに通わせた。
 彼女の口数はかぎりなく減って、私といる時も沈黙しがちになった。かつて夫婦の絆の象徴であった猛資という名前を口にすることは、私たちの間でタブーに似たものとなっていった。

 タブーはそれだけではなかった。
 猛資の死以来、月子は私とのセックスを拒否するようになった。
 「拒否するようになった」という結果の前には、「恐れるようになった」という心情が先にくる。セックスという子をなすための生殖行為は、月子にしてみれば、失った息子の記憶とただちに結び付く営みでしかありえなかった。性の快楽によって生きる慰みを得たり、夫妻の絆を確かめたりといったことは、当時の妻にはあまりにも遠い感覚となっていた――ようだ。
 こうして私たち夫婦の隔たりは、精神的にも肉体的にも広がっていったのである。

 猛資の死から半分鬱状態にあった月子は、勤めていた中学校の美術教師の職も長らく休職していた。そのまま辞めてしまってもおかしくないくらいだったが、同僚の熱心な勧めで、やがて職場復帰することになった。
 私もその頃はまだ編集者の仕事と小説家という二足のわらじを履いており、日中は外で働いていた。ひとりで家にいる時間が多いほど、月子は余計に息子のことを思い出し、気分の落ち込みがひどくなるのではないか――そう心配していたから、妻の決断には一応喜んだ。ただし、月子の職場が中学校であり、彼女の教える生徒たちが、死んだ猛資と同じ中学生であることは少なからず気がかりであったが……。
 その気がかりは、しかし私の心配した事態とはまったく異なる形で、やがて的中することになる。それを私が知ったのは、月子が姿を消してずいぶんと経ってからのことだった。――
 だが、とりあえず今は順を追って、この先の出来事を語り続けることにしよう。


 猛資がこの世を去ってから一度目の、新しい春がやってきた。
 月子の表情が変わってきたのはその頃のことである。もともと月子はかなりの色白で、昼間でも月光を浴びているかのような雰囲気があったが、息子の死以来、その顔は暗く蒼褪め、生気を欠くようになっていた。それが変わってきたのである。
 うつろに宙を彷徨いがちだった目のかがやきが少し戻り、頬の色もこころなしか血色が良い。口調も以前よりはよほど明るくなった。
 私はもちろんこの変化を歓迎した。春になり、月子の勤める中学校も新学期を迎えている。新しい入学生や、新学年となった生徒らの若々しい活気にふれて、彼女にも何かしら新鮮な気持ちが芽生えたのかもしれない。このまま良い変化が続くことを私は願った。
 しかし――事態は私の願う方向には向かわなかった。

 4月が終わり、GWも過ぎて、梅雨の時期を迎えた頃には、月子はまた沈みがちな様子を見せるようになっていた。
『大丈夫かい。最近、疲れているようだけど』
 ある夜、食卓に腰掛けてぼんやりと頬杖をついている月子に、私は話しかけた。だが、もの思いに耽る妻には、私の言葉も届いていなかった。
『おい』
『あら、ごめんなさい。ぼうっとしていたわ』
『最近多いよ。疲れが溜まっているんじゃないか』
『ううん。そんなことはないのよ。ただ――』
『ただ?』
『……なんでもないわ。明日の授業のことを考えていただけ』
 妻は立ち上がると、洗い物をするために台所へ行った。私はいぶかしく思いながらも、食器を洗う彼女のパンツスーツごしに、若い頃よりずいぶん成熟味を増した臀部を眺めた。
 もう長い間、月子との性交渉は途絶えていた。当時40になって間もなかった私の欲望は妻の後ろ姿に疼いたが、その肢体を求めて拒否された記憶はまだ生々しかった。私はため息を一つつくと、小説を書くために書斎へ向かった。――

 猛資の死後、月子に対して遠慮を感じていたこと。結果として、彼女との夜の営みがなくなっていたこと。今振り返ると、これらのことは、妻に起きていた本当の「変化」を私に気付かせなかった原因といえる。とはいえ、それも言い訳に過ぎない。つまるところ、私は、小説家にしては著しく観察力の欠けた人間だったのである。

  1. 2014/11/03(月) 11:08:57|
  2. 月の裏側・久生
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月の裏側 第5回

 その年の梅雨はことに降水が多く、雨はほとんど毎日のように街を濡らした。

 私は雨が嫌いだ。息子の死んだ日の出来事が自然と思い出されるからだ。
 月子も同じに違いないと思う。彼女と一緒にいた間、それを確かめたことはなかったけれど。
 ――話を戻そう。
 6月のある日のことである。その日も雨だった。月子が遠慮がちな口調で『ジムに通いたい』と言い出した。

 元・美大生の月子は筋金入りの文化系といってよい。結婚する前も後も、彼女が好んでスポーツをするところなど見たことはなかった。年相応の成熟味も出てきたとはいえ、痩せ形の体型は昔とほとんど変わらず、ダイエットが目的とは思えない。私が怪訝な表情をすると、
『新しいことをしてみたくなったの』
 彼女はぽつりと言った。
 4月以降、一時期は明るさを取り戻しかけていたが、このところは再び塞ぎ込んだ表情を見せることが多くなっていた。そんな折だったから、私は良い兆候だと思い、簡単に賛成した。
 やがて、月子は最寄駅近くにあるスポーツジムへ入会の手続きに行った。通うのは週の月・木曜と決め、その日は勤め帰りに中学校から直接ジムへ向かうという。
『ひょっとしたら、私の帰宅があなたの帰る時刻より遅くなるかもしれない。朝のうちに夕御飯の用意はしておくつもりだから、私の戻りが遅い時は、わるいけれども、それを温め直して食べてくれる?』
 すまなそうな顔をする月子に、私は『了解。僕のことは気にしないでいいから』と笑ってみせた。

  *  *  *  *  *

 月子の帰宅時間は夜7時前が普通で、一方の私はといえば、おおよその場合、8時少し過ぎには会社から戻る。それがジム通いを始めて以降、月子があらかじめ示した懸念は現実のものとなった。月・木曜日にかぎって、彼女の帰宅は9時過ぎ、時によってはもっと遅くなる日も出てきた。
 一度決意したことはやり抜く。妻の生真面目な性格を、私はよく知っていた。決めた以上、律儀に通うに違いないと思ってはいたが、これはなかなかどうしてたいした熱の入れようじゃないかと、私はなかば感心し、なかば呆れる気持ちだった。

 当時を振り返って、印象深い記憶がある。
 月子のジム通いが始まってまだ間もない、ある木曜のことだ。帰宅した私は、その晩も妻が帰っていないことを確認し、ひとり、風呂を沸かして入った。
 冷蔵庫を開けて、月子が用意していった夕食を取り出し、半分ほど食べ終わったあたりで、玄関のドアの開く音を聞いた。時計を見ると、9時半に近かった。
『また遅くなっちゃって……ごめんなさい』
 居間に姿をあらわした月子は、すぐに殊勝な口調で謝った。ジム帰りの夜にはいつもそうであったが、肩先で切りそろえた彼女の黒髪は濡れ光っていた(『運動の後は、必ずジムでシャワーを浴びてから帰るの』と、彼女からは聞いていた)。
『わざわざ謝らないでいいよ。僕のことには気を遣わないでくれと言っただろう』
 軽い口調で返事しながら、ふと見やった妻の姿に、なぜであろう、私の目は吸われた。

 当時、月子は38歳であった。透けるように白い肌は肌理が細かく、しっとりと濡れたような光沢を帯びており、〈白磁のような〉という形容がよく似合った。卵形の面輪に切れの深い張りつめた眸、薄い唇も形良く整っていて、わが妻ながらまず美貌といってよい女だったと思う。
 とはいうものの、息子の死以来、悲しみは月子の容貌から確実に生色を奪っていた。私は痛ましいような気持ちでそれを眺めていたのである。
 ところがその瞬間、何気なしに見た彼女は異様なほど若々しかった。すべやかな頬はもちろん、細い頸からシャツの胸元にかけてほんのりと朱に染まり、あたかも微醺を帯びた人のようで、その鮮やかな色艶には匂うようなエロスが漂っていた。私はどきりとした。
 運動後の余熱がまだ躯のうちに残っているからだろうか――私は考えた。
『何?』
 気がつくと、目の前で月子が小首を傾げていた。
『いや、何でもないよ。少し考えごとをしていた』
 誤魔化した私を、月子はちらりと一瞥し、『そう。なら、いいけど』と言った。
『お風呂は――あ、もう沸かして入ってくれたのね』
『うん』と私は答えた。
  1. 2014/11/03(月) 11:13:04|
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月の裏側 第6回

 長かった梅雨もようやく明け、本格的な夏がやってきた。

 月子の中学校は夏休み期間に入った。夏休みといっても、当然ながら教師の仕事はあって、彼女も毎日出勤していた。スポーツジム通いも続けており、月・木曜は相変わらず帰りが遅かった。
 私の方はといえば、勤めていた出版社が新雑誌の創刊準備を進めており、私もチームの一員だったので、平常より忙しい日々を過ごしていた。
 忙しい原因はそれだけではなかった。同じ頃、副業である小説家としての仕事も増え始めていたのである。小さな文学賞ひとつ取ったこともなく、確固とした足場のない私のような作家にしてみれば、本業が忙しいからという理由で原稿の注文を断るのもそれはそれで怖い。出版社を退社して筆一本に生きる道も考えないではなかったが、そう決断できるほどの自信はなかった。

 そのようなわけで、もともと速筆でもない私は、編集者勤務を続けながら、依頼された原稿を書き上げるのに大わらわとなった。会社から帰った後も、深夜遅くまで書斎の机にかじりつき、パソコン画面を睨む毎日だった。
 仕事に追われる私を気遣って、月子は『あまり打ち込み過ぎると、身体を壊してしまうわ。ほどほどになさいね』とよく言っていた。当時は何も思わなかったが、しかし今から思い起こすと、その言葉にはどこか心ここにあらずの響きがあったように思う。

 *  *  *  *  *

 忙しい毎日が続いていた、8月のある夜のことである。その日も自宅に戻った私は、風呂と夕食を済ますとすぐ二階に上がり、クーラーをがんがんに効かせた部屋で、眉間に皺を寄せながら原稿と格闘していた。途中、執筆に行き詰まって、しばらく煙草をやたらとふかしたりしていたが、どうにも先が続かない。時計を見ると、時刻は深夜2時を過ぎようとしていた。
(今日は仕舞いにしよう。明日、つづきをやればいいさ)
 私は諦めて、一階の寝室へと向かった。このところ、月子には私にかまわず先に寝るように言っている。彼女を起こさぬよう、私は足音をできるだけ断つようにして、明かりもつけずに階段を降りた。
 一階について暗い廊下に立った私は、ふと居間の方に目をやり、そこにかすかな光と黒い人影を見て驚いた。

 人影は月子だった。

 消灯した部屋の薄闇の中で、月子はソファに座っていた。かすかな光と見えたものは、彼女が手にした携帯の画面から発しているものだった。
(何をしているんだ?)
 私は首をひねった。とうに眠っているだろうと思っていた妻は、私に気付かず、掌に握った携帯を操作している。こんな深夜だというのに、誰かにメールを打っているらしい。
 そんな彼女を廊下から見つめながら、私は考え込んだ。

 月子はそもそも携帯電話という文明の利器を好いていなかった。『あんなものが出来たから、社会が気忙しくなってたまらないわ』などと文句さえ言っていた。自分も使うようになったのは、あくまで私や息子と連絡を取る時の必要を考えたからであって、必要以上に携帯をいじるなどということはついぞなかった。
 しかしである。ことさら意識していなかったが、思えば数か月ほど前から、妻は思いついたように携帯を眺めることが多くなっていた。普段、家にいる時は電源を切っているらしかったが、折々取り出して、チェックしていたようである。あれは誰からの連絡を気にしていたのだろう? もともと月子は社交的な性格ではない。友達と呼べるほど親しい人は少なく、その親しい相手であっても、頻繁にやりとりをすることはなかったのである。

 以上のような思考を巡らして、私は戸惑ったのだが、かといってそうした材料がすぐさま妻への疑いに直結したわけではない。男嫌いと噂されていた学生の時分から、月子は性に対して潔癖な考えを持つ女だったし、浮気・不倫のような単語の持つイメージとはあまりにもかけ離れていた。だいいち、息子の死以来、彼女は極端にセックスを忌避するようになっているではないか。その忌避はあくまでセックスという行為に対するもので、「性交の相手が夫、すなわち私であることが厭なのだ」という風に、私は解釈していなかった。
 ただ、気になることは他にもあった。月子がジム通いを始めてまだ間もない頃のある宵、私はふと妻の若々しさに目を見張り、妖しいほどの色香を感じたが、日が経つにつれて、その印象は強まっていた。息子の死から憂愁に沈みがちだった彼女の変化は、もちろん私としても喜ばしいことだったが、しかし一方では、どこか気にかかるところがあったのも事実である。

 私が廊下に立ち尽くしていた実際の時間は、おおよそ3分くらいだったろう。月子はやがて携帯を閉じると、立ち上がり、寝室へ向かった。最後まで私には気付かなかったようだ。

 私は洗面所へ行き、歯を磨いた。磨きながら目撃したことの意味を考えたが、思考は深まらなかった。
 寝室に入ると、妻は消灯した室内で静かにベッドに横たわっていた。私に気付くと上半身を起こして『おつかれさま。今夜はずいぶん遅かったね』と言った。暗闇の中、こちらを見ている月子の瞳を、私は落ち着かぬ思いで見つめ返した。部屋の片隅で静かに首を振る扇風機の風が、彼女の髪を柔らかくそよがせていた。
『……君もまだ寝ていなかったのか』
 私は嘘をついた。眠っていなかったことは分かっているのになぜ嘘を口にしたのか。ほんの直前まで、こんな深夜に誰宛てのメールを打っていたのか、尋ねてみるつもりでいたのに。
 捗らない原稿に続いて、偶然目撃した月子の不可解な行動に頭を悩まし、私は疲れていた。と同時に、私はまだまだ愚かしいほどにのんき者だったのである。メールの件は、また朝にでも訊いてみよう。そう結論して、私は妻の傍らにもぐりこみ、夏用の薄毛布をかぶった。
『今夜は蒸し暑いね』
 傍らで、目をつむった妻が独り言のように言う。最近、彼女は夏痩せしてきたようである。それとも、ジム通いの成果が出てきたのか――。とりとめのないことを考えながら、私もまた瞳を閉じた。
  1. 2014/11/03(月) 11:14:05|
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月の裏側 第7回

 息子の死という悲しみの荒波に襲われ、航海中に櫂を失った小舟のごとく漂いながらも、一応は途切れることなく「家族」をつづけていた私と妻の日常。
 しかし、その日常は呆気なく崩壊してしまうことになる。再び訪れた嵐によって。
 いや、この比喩は正しくない。災害は必ずしも外からくるものではない。私たちの生活を終焉させた嵐は、ほかならぬ妻の胸の中に生まれ、私の気付かぬうちに勢いを強めていたのだから――。


 夏が過ぎ、残暑も少し弱まってきた9月の末であった。
 私は相変わらず多忙な編集者の業務と小説執筆に追われていた。中学校の新学期が始まった月子は、美術教諭としての勤めを果たしながら、やはりジム通いを続けていた。

 その日は水曜日だった。自宅に帰りつき、居間のソファに腰を落ち着けた私は、夕食の膳を運んでくる月子に『ビールも頼むよ』と声を掛けた。
『原稿を書く時は飲まないんじゃないの? 今夜はいいの?』
 妻は怪訝な顔をした。
『ああ。昨日頑張ったおかげで、ようやく終わりが見えてきた。今夜は前祝い』
『全部終わってからにしたら?』
『いいじゃないか。景気づけだ』
『前祝いと景気づけは大違いよ』
 と言いながらも、月子はビール缶とグラスを運んできた。
『君も飲まないか』
『私はいいわ。お風呂に入ってくる。私があがったら、あなたもさっさと入ってね』
 すげなく断って、さっさと浴室へ歩み去っていった妻の背中を、私は何となく物足りない思いで見送った。
 ひとり残された私は、冷奴と南瓜の煮つけをつつきながらビールをあおり、くだらないバラエティ番組を眺めた。画面の中で面白くもないジョークを飛ばす芸人を見つめながら、ぼんやりと月子のことを考えた。
 すでに夜の営みは1年以上絶えている。中年の域に入ったとはいえ、まだまだ性的に枯れていない健康な男としてはいかにも辛い。最近とみに美しくなってきた妻を持つ者ならば、なおさらのことだ。
 猛資の死以来、月子は性交渉を拒否するようになった。生殖のための行為が失った最愛の息子を直接に連想させるから――らしい。猛資の不幸な事故には私も責任を感じているだけに、「いや」と言われればそれ以上強く出ることができぬ。一方で、その妻が日に日に若返り、女としての魅力を増しているように見えるのはなぜだろう。悲しみに打ちのめされたあの日から妻はまだ立ち直っておらず、切れ長の目から暗さが消えたわけではないのに――。

 沈んだもの思いは、突然鳴り響いた携帯電話の震動音に破られた。
 ソファの上に置かれた妻のバッグ。その中で携帯が動いていた。在宅中はいつも注意深く電源を切っているのだが、今日はうっかりしていたらしかった。

 8月のあの深夜、真暗な居間で携帯メールを打っていた月子。その光景を偶然覗き見た記憶が私の中にまざまざと蘇った。
 忙しさにかまけて、以後も私はメールの件を妻に問い質していなかった。気にはしつつ、「たいしたことじゃない」と思い込んでいたのも原因の一つである。後になって振り返れば、それはまさしく救いようのない楽天家の思い込みだったのだが。

 携帯の震動はすぐに止まった。どうやらメールらしい。
(いったい誰からだろう。あの晩と同じ相手だろうか)
 8月の出来事をすっかり思い出した私は、気になって仕方なかった。

 自己弁護するつもりはないが、思いのほか酔っていたのだろう。もともと好きなわりに酒に強い方ではない。久々に口にしたアルコールは、私の理性を揺るがし、普段ならまずしないであろうことをさせた。――私は月子のバッグを手繰り寄せ、その中から携帯を取り出したのである。
 手にした携帯を開く。かつて妻の携帯画面の壁紙は息子の写真だったが、悲劇の記憶を喚起させずにおかないそれはいつの間にか取り払われ、ただ黒一色の画面に日付や時間を告げる白文字だけが浮いていた。
 いや、もうひとつ、メールの着信を告げるマークも表示されていた。私は妻の秘密を覗くために、携帯を操作してそのマークを押した。酔いは早くも醒めかけて、心臓の鼓動が早くなっていた。
  1. 2014/11/03(月) 11:15:05|
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月の裏側 第8回

 携帯の画面を切り替えて、受信メール一覧の頁に移った。
 先ほどのメール――その差出人は「T」と表示されていた。
 
 T――。

 「誰だ?」という疑問が浮かぶ前に、まず不審を覚えた。アルファベット一文字の登録名とは、いかにも差出人の本名を隠すための細心な配慮を感じるではないか? もちろん、そのような配慮をしたのはほかならぬ妻なのである。
 黒い雲のような不安と猜疑が胸中に広がっていく。
 居間のテレビでは相変わらずバラエティ番組の放送がつづいていた。そのにぎやかな音声も、私の耳にはまったく入ってこなかった。
 こわばる指で携帯を操作し、Tのメールを開いた。
 一瞬後、私の唇から声にならぬ声が漏れた。


 2009/9/30(Wed)
 Frm:T
 Sb:(non title)
 《おとといヤッたばかりだけど、すげー悶々する

  早く月子とヤリたい

  今日はこれ見てオナニーするわ(笑)》


 その文面からは知性というものがまるで感じられなかった。ぎらついた性欲と生臭い精液の匂いが漂っているばかりだった。何より私の気分を悪くさせたのは、もちろん、「月子とヤリたい」という一文だった。
 心臓は異常な早さで鼓動していた。眩暈のような不快な感覚に私は襲われた。携帯を握りしめた手は震え、指先までべったりと汗ばんでいた。
 しかし、本当の衝撃はすぐ後にやってきたのである。

 Tのメールには動画ファイルが添付されていた。最後の一行にあった「これ見てオナニーするわ」の「これ」とは、この動画を指すらしい。
 厭な予感がした。
 見たくなかった。
 だが、見ないで済ますという選択肢は存在しなかった。
 最悪の悪夢を見ると分かっていながら眠りにつく人のように、私はその添付ファイルを再生した。


 動画が始まり、すぐさま中心に映し出されたのは、女の顔であった。
 ただ顔というだけではない。女の眼前には勃起した男のものが傲然と突きつけられており、女はそれに唇を使っていた。

 女が月子であることは、携帯動画の貧しい画質でも明らかだった。

 場所はどこかのベッドの上らしい。上半身しか見えないが、どうやら月子は一糸も身につけていない様子だった。裸身を晒して男のものに口奉仕している月子を、当の男が上から見下ろすアングルで撮影しているようだ。
 撮られる月子には、しかし携帯のカメラもほとんど意識されていないようであった。ベッドに両手をついた姿勢の彼女は、主人を見上げる犬のように顔を上げ、薄桃色の舌を伸ばして差し出された肉柱にすり寄せていた。くなくなと頸を揺すりながら、茎胴の裏筋から雁首まで丹念に舐め上げ、鈴口を舌でくすぐるようにして、一心に奉仕している。時折、はぁはぁという熱っぽい吐息がその口と鼻から噴きこぼれた。
 そのようにして間断なく奉仕する月子が頭を前後に動かす度、華奢な身体つきにふさわしからぬ豊かな乳房――その胸乳の大きさこそ若い頃の彼女を男嫌いにさせた原因であった――がたぷんたぷんと弾み、白い珠のようなそれは柔らかくさざ波立った。

 想像を超えた淫らさだった。私は鉄槌で殴られたようなショックを覚えた。

『もっと舌出して舐めろよ。カメラもちゃんと見て』
 突然、男の声がした。この声の主が撮影者であり、Tなのだろう。メールの文面と同じように軽薄で、子供っぽい口調だが、甲高くハスキーな声質には特徴があった。
 映像の中の妻が閉じていた目を開き、カメラを見上げた。その瞳はうるうると潤み、鼻頭から頬の辺りまで紅潮している。汗の玉が浮いた額に、ほつれた前髪が幾筋か張り付いていた。
『いいぞ。あー気持ちいいわ。だいぶうまくなったじゃん』
 Tは言いながら、月子の髪を梳くように左手で撫でた。その人差し指には髑髏を象った趣味の悪いリングが鈍い光を放っていた。
 まるで子供をほめる時のようなTの仕草に、しかし妻はうっとりと目を細め、うれしげに男の手指を受けていた。気のせいか、舌の愛撫にいっそうの濃やかさが加わったように見えた。

『そろそろ入れてほしいか?』
 唇の奉仕を途切れさせぬまま、妻はうなずいた。
『じゃあ、四つん這いになれよ。後ろからハメてやる』
 剛直からようやく口を離した妻は、Tの無造作な命令に『はい……』と小さく返事をした。すぐに身体をねじって、後ろ向きになる。つきたての餅のような、真っ白な尻がカメラの前に晒された――。
 そこで、唐突に映像は終わった。


 描写すると長くなってしまうが、時間にして1分にも満たない動画だった。
 だが、それによって私の受けた驚愕と混乱は、空前のものであった。

 映像が終わってからも、私は妻の携帯を握りしめたまま、その場に座り込んで動くことができなかった。呆然自失を絵に描いたような有り様だった。不意に強烈な吐き気が私を襲い、『うっ』と呻きながらようやく喉もとでそれを堪えた。目尻に涙が滲んだ。
 考えるべきことはやまほどあるのに、私の思考回路は灼き切れる寸前で、周囲への注意力すらまったく失われていた。だから、その時すぐ近くまで歩み寄っていた月子の影にもまったく気付いていなかった。
  1. 2014/11/04(火) 00:06:48|
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月の裏側 第9回

 今になって考えてみると、Tと秘密の連絡を取り合うようになって以降の月子は、携帯電話の取り扱いに慎重になっていったようだ。それでも8月のあの夜あたりまでは、彼女が携帯をチェックしているのを家の中で時どき見かけたけれども、近頃ではまったくなくなっていた。夫の目の届くところで携帯を扱うのは危険だと、月子はもちろんそう感じていたにちがいない。

 だが、その晩の妻はよほど疲れていてうっかりしたのか、普段は切っている携帯の電源を入れっぱなしで、あまつさえ夫のいる居間に置いてきてしまった。
 月子は風呂場でそのことを思い出し、動揺したにちがいない。
 猛資が事故に遭った日もそうだったが、妻にはもともとおそろしく勘の鋭いところがあった。厭な予感がしたのだろうか。彼女はすぐに風呂を切り上げ、バスタオル一枚だけを身にまとって、居間の様子をうかがいに来たのだ。
 するとどうであろう。夫、すなわち私が、まさしく彼女の携帯を見つめて愕然としているではないか。

 月子にとっては最悪の事態だったはずだ。もちろん、私には彼女の内心が真実どうであったかということは分からない。次の瞬間、彼女が取った行動を振り返ると、妻は素早く落ち着きを取り戻したようにも、あるいはまったく取り乱していたようにも見える。
 月子はどうしたのか。そろりとした足取りで私に忍びより、私の手から、さっと携帯を取り返したのである。

 呆然自失していた私は、その時はじめて妻の存在に気づき、『あっ』と声をたてて驚いた。携帯を手にした彼女は、くるりと私に背を向けて、部屋の外へ駆け出していた。
『待ちなさい――待て!』
 私は大慌てでバスタオル一枚の後ろ姿を追った。
 月子が走っていったのは、再び浴室の方角だった。室内に飛び込むと、彼女は尋常ならざる素早さでドアの鍵を掛けた。
『開けろ開けろ!!』
 私はすでに隣近所の耳を気にする余裕もなく、がんがんと扉を打ち叩きながら叫んだ。しかし、中からは何の応答も無い。

 まったくもって不可解だった。
 不倫の証拠を見られた――妻がそう認識しているのは十分すぎるほど明らかだ。このような場合、世間一般の尋常な不倫妻――というのもおかしな表現だが――の反応はどうだろうか。顔面蒼白になってわなわなと立ち尽くすか、あるいは泣き崩れながら亭主に詫びをいれるか――私の貧しい想像力ではこれくらいしか思いつかないけれども、だいたいありそうなのはこんなところではないか。しかるに、月子のリアクションはまったく異なっていた。
 混乱の極みにありながら、私は腹の底から猛烈な怒りがわきあがってくるのを感じた。貞淑そのものに見えていた月子が実は不倫していた――という事実はもちろんのこと、それ以上に、彼女は不倫相手のTなる男に痴態の撮影まで許していたのである。映像の中の妻は、Tの野卑で淫猥な命令に対し従順そのもので、みずから望んで「男のおもちゃになっている」という表現がぴったりだった。妻を信じきっていた私には、あまりにも衝撃的であり許そうにも許しがたい裏切りであった。あまつさえ、その裏切りが発覚した月子は、天の岩戸よろしく、こうして浴室にたてこもっている。これで怒らない人間が――亭主が、いるだろうか。


 月子が浴室から出てきたのは、それから20分も経たないうちだったが、私には永遠のごとく長い時間のように感じられた。


 伏し目がちに姿をあらわした月子は、きちんと寝巻に着替えていた。白蝋のように蒼褪め、唇はわずかに震えていたが、扉を開いた時にはもう覚悟を決めて――その覚悟がまたも私を驚愕の淵に叩き落とすのだが――いたのか、抑えた表情には諦めと同時に意志的なものが漂っていた。
 私はそんな妻の様子に戸惑った。しかし、やがて彼女の唇が動き、かすかに震えながらもしっかりとした声音で『ごめんなさい』と言った時、私の中で何かが弾けた。自制の意識を働かす間もなく、右手を大きく振り抜いて、月子の横っ面を張り飛ばした。それは私が女性に対して――そして何よりも妻に対してふるった、初めての暴力であった。
 月子はのけぞり、壁にぶつかって崩折れた。唇が切れて、端から赤い血がすーっと流れ落ちた。打った私も動揺したが、しかしそれよりも収まらぬ腹立ちの方が大きかった。
 問い質すべき「なぜ?」はあふれるほどだったが、私はその時あることが気になった。
『携帯はどうしたんだ?』
 背中を壁に預けて床にへたりこんだ月子の前髪は乱れ、見下ろす私の視線から彼女の目元を隠していた。血の筋を垂らしたままの唇は、私の問い掛けには答えなかった。ただ静かに『ごめんなさい』という言葉が再び漏れ聞こえた。
 私は月子の衣服を探った。携帯を持っている様子はなかった。私は浴室に足を踏み入れ、辺りを見回した。

 携帯はあった。バッテリーを抜かれた状態で、水を張った洗面器の中に沈められて。内蔵のカードも取り外され、念入りに折られていた。

 最初は何が何だか分からなかった。徐々に思考が冴えて、「これは不倫相手を庇うためにやったことではないか」と気がついた。携帯のアドレス帳にすら、万一の場合を考えて、「T」というアルファベット一文字で登録していたくらいだ。月子にとって相手の男の本名や身元は絶対に知られたくないものらしい。だからこそ、不倫の発覚を悟ったまさにその時、何よりも優先して彼女は、Tに直接つながる情報が入った携帯の処分を考えたのだ。
 私はそう結論した。その結論は沸点を迎えていた妻への怒りをさらに煮えたぎらせた。


 浴室から踵を返した私は、まだ床に座り込んだままの月子の寝巻の襟元を掴んで、無理やりに立たせた。
『お前の相手は誰なんだ? 言え!』
 妻を「お前」呼ばわりしたのもその時が初めてだった。冷静さを失っているはずの私は、しかし頭のどこかでその事実に気づき、なぜだか冷やりとした哀しみに胸をつかれた。
 月子の顔もまたひどく哀しげだった。彼女はすでに決めていたのだ。これからどのようにするのかを。

『ごめんなさい。あなた、本当にごめんなさい』

 噛みしめるような口調だった。ひょっとしたらその言葉は、猛資の死以来、彼女が私に向かって発した言葉のうち、もっとも深く、直截に、彼女の心を反映したものであったかもしれない。

 そして彼女は言った。『離婚してください』と――。

  1. 2014/11/04(火) 00:07:37|
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月の裏側 第10回

 私たちは日常生活において他人の悲劇をしばしば見聞きする。ときには心配げに眉をひそめながら、同情の言葉を口にしたりもする。
 17世紀フランスのモラリスト、ラ・ロシュフーコーは唯一の著作『箴言集』に「我々は皆、他人の不幸には耐えていくだけの強さをもっている」と記している。なんと意地悪な男だろう!
 とはいえ、結局のところ、同情は同情でしかない。私たちはつねに他者の悲劇を対岸の火事と思い込んでいる。こんなことが自分の人生に起きるはずはない、と――。
 私たちはたしかに「他人の不幸には耐えていくだけの強さをもっている」かもしれない。だがしかし、未来に対する想像力にはいつだって愚かしいほどに欠けている。
 「子供を亡くした夫婦の話」は、私にとってそんな対岸の火事的エピソードの一つだった。自分の現実に起きるまでは。
 そして、「妻をよその男に寝取られた夫の話」。これもまた私にとってはありえるはずもないことだった。私の知人には妻に不倫された男がいる。彼の話を聞いた時ですら、『そいつは大変だったなぁ』と労わりの言葉を発しながら、ただの一度だって、そんな出来事が自分に起こりうるなどとは想像したこともなかったのだ。
 しかし――それは現実となった。
 悲劇なるものはときにやすやすと平凡な日常へ侵入してくるらしい。とはいえ、容赦ない現実に厳しく鞭打たれても、人が賢くなるには長い時間が掛かる。少なくとも私はそうだった。さらにいえば、私の場合はすべてが連鎖的で、第二の悲劇のあとには第三の悲劇がすぐに待ち受けていたのだ。それは申すまでもない――「妻に離婚を切り出された男の話」である。


 月子から突然に離婚の話を切り出され、私の混乱と驚愕は最高潮に達した。不倫の発覚で生じた怒りすら、その一瞬には毒気を抜かれてしまったくらいだった。
『離婚って……何なんだ、それは。どういうことなんだ』
 パニックの波が引き、わずかに冷静さを取り戻したあとで、私はようやく声を絞り出した。
『言葉どおりの意味です』
 月子は言葉少なに答えた。切れた唇の血は止まっていたが、私の平手打ちをうけた彼女の左頬は赤黒く腫れあがっていた。色白なだけに余計痛々しく見えたが、もちろん、その時の私に気遣う余裕はない。それどころか、再びこみあげてきた怒りを押し殺して会話をつづけるのが精いっぱいだった。
『……僕の正直な気持ちを言おう。悪い冗談でも聞いている気分だ』
 呻くように私は言った。
『もう必要もないと思うけれど、まず確認したい。君は……僕に隠れて、よその男に抱かれていたな』
 私にとっては口にしながら自らを傷つけるような言葉だった。視線を伏せたまま、月子はかすかに身じろぎした。だが、すぐに『はい』と小さく答えた。

『……いつからだ?』
『それは……言えません』
『なぜ?』
 今度は答えが返ってこなかった。
『君の相手……そいつはいったい誰なんだ?』
 私は先ほどの問いをもう一度繰り返した。妻はやはり答えず、ただ同じように『ごめんなさい』と繰り返すだけだった。

 何となく分かった。つまりは携帯を処分したのと同じことだ。相手が誰であるかという質問はもちろん、不倫の始まりはいつかという問い掛けですら、それに対する答えはTの身元特定につながるおそれはある。月子はそう考えている。だからこそ、答えようとしないのだと。

 この瞬間、私は憎んだ。はっきりと妻を憎んだ。20年近く前にあの画廊で出会い、恋に落ち、やがて夫婦となり、子に恵まれ、その子を失い、それでもなお「健やかな時も病める時も」人生の同伴者としてともに歩んでいくものと信じ込んでいた女を――心底から憎んだ。
 むろんのこと、憎悪は妻を奪ったTなる男にも向かった。だが、私はそいつの顔も知らないのだ。知っているのは声だけ――軽薄そのものの口調で妻に淫らな振る舞いを命じているその声だけだった。ふと頭の中にあの携帯動画の映像がよみがえって、私はもの狂おしい気持ちになった。

 妻の手を引っ張って居間へ追いやると、私は台所へ行き、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。飲まなければやっていられなかった。アルコールを流し込みながら、再び彼女のもとへ戻った。

 月子は黙然とソファに腰掛けていた。もともと小柄にはちがいないが、今宵はいつにもまして小さく痩せて見える。左頬は赤黒く腫れあがり、まだ濡れの乾かない髪は乱れたままだ。だというのに、その姿からは凄艶な趣すら感じられた。
 妻の器量の良さは結婚以来、私のひそかな自慢であった。けれど今、目の前で黙りこくっているのは、妻であると同時に不貞の罪を犯した女だった。彼女の美しさはかえって、私の憎しみをかきたてずにおかなかった。

 再びTのことを尋ねた。月子は答えず、すっと目を伏せた。唇をきゅっと引き結んだのが分かった。
 私はようやくのことで怒鳴りつけたい衝動を押さえつけた。
『じゃあ質問を変えよう。君はどうして離婚したいんだ? 僕と別れて、相手の男と一緒になる気なのか』
『そんなことは――』

 はじめて月子が鋭い反応を見せた。

『そんなことは絶対にありません。彼とは……もう会いません』
『信じられるものか』私は吐き捨てるように言った。『だいいち、それならなぜ離婚する必要がある?』
『あなたを……裏切っていたから。許されないことをしてしまったから』
『……そうだな、君はひどい女だ』
『ごめんなさい』
『謝ってすむ問題じゃない。そもそも、本当に悪いと思っているのなら、なぜすべてを洗いざらい打ち明けてくれないんだ?』
『…………………』
『分かっているさ、君の相手……携帯にはTと登録していたな。そのTとやらを庇っているんだろ』

 言いながら、私は胸のうちで灼けつくような痛みを感じていた。

『分かっているはずだが、僕はTから君宛てに届いたメールを見た。添付の動画も見た。あんなところまで撮らせて……いったい何を考えているんだ』

 強張ったままの月子の仄白い顔にさっと羞恥の色が浮かんだ。

『君があれほど淫らになれる女だとはまるで知らなかった』
『…………………』
『この1年間、僕に抱かれるのを拒んでいたな。僕はてっきり猛資のことが原因で、君がセックスを怖がるようになってしまったのだと思い込んでいた。今思えば間抜けだったな。それは――ただの口実だったんだ』
『…………………』
『君はセックス自体が厭になったんじゃない。僕という男が厭になったんだ。離婚したいというのもつまりはそういうことなんだろ。なぜだ? あの事故があった日、僕が猛資を迎えに行かなかったことを怨んでいるのか?』
『ちがう――――!』

 ずっと視線を外したままだった妻の目がはじめてまっすぐに私をとらえた。そのまなざしには必死なものがあった。

『何がちがうんだ?』
『何もかも……全部よ。私はあなたを厭になったことなんてないし、もちろん怨んだこともない。あの日のことは……二度と言わないで』
『じゃあ、なぜTには抱かれた?』

 口にした瞬間、愚かしい質問だと自分で思った。月子が言ったことのどれだけが真実なのかは分からないが、仮に私への気持ちが冷めきっていたわけではないとしよう。猛資の死がきっかけでセックス恐怖症になったという話も本当だとしよう。だからといって、彼女がTと関係をもっていたことはまったき事実なのだ。

 なぜTに抱かれた? 答えは明白だ。妻はそれだけTという男に激しい愛情を感じていたのだ。あの映像にあったとおり、Tの命令なら何であれ拒めないほどの愛情を。
 暗澹たる気分に落ち込んだ私を、突き刺すような苦痛と嫉妬が襲った。

 月子はやはり押し黙ったままで先ほどの質問にも答えなかった。顔を伏せていたが、泣いているのは気配で分かった。彼女は声を立てずに泣く女だった。私はそれを知っていた。




 ……実のところ、これ以上、長々と描写を重ねても仕方ないのである。


 激動の一夜のあとも、毎日のように同じ問答が繰り返されただけだった。私は間男について尋ねた。不倫の詳細を訊きだそうとした。問いを重ねながら、混乱し、怒り、時には激昂のあまり暴力もふるった。『すべてを明らかにするまでは、ぜったいに離婚の申し出は受けない』と言い張った。
 月子は最後まで何も答えなかった。肩を揺さぶられても、髪をつかまれ頬を打たれても、何一つ反抗しようとはしなかった。『ごめんなさい』と幾度も謝り、『私がすべて悪いの』『離婚してください』という言葉がそれにつづくだけだった。


 月子が出て行ったのはそれから一週間後であった。
 あとには妻の印だけが押された離婚届と、これまでの感謝と謝罪をつづった短い書き置き、そして、急速に温もりを失い、がらんとした家ばかりが残された。

  1. 2014/11/04(火) 00:08:42|
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月の裏側 第11回

『――で、月子さんはまだ帰ってこないのか』
 懐から取り出した布きれで眼鏡の曇りを拭きながら、金塚は気遣わしげな口調で言った。
 場所は新宿のとあるバーだ。私はその日、大学時代の旧友である金塚と、久々に酒を酌みかわしていた。
『ああ』
 私は短く答えた。まだ生々しい傷口がじわりと疼いた。

 月子が姿を消してから、はや2ヶ月が経過していた。
 その間、手をこまねいていたわけではもちろんない。妻の母親(先述したように月子は母子家庭で、彼女の母は再婚している)をはじめ、心当たりにはすべて連絡している。だが、月子の行方は杳として知れなかった。

『藤島にはもったいないくらいのいい奥さんだったのになあ。いったいどうしちゃったんだろう。人間、魔がさすというのは誰でもあるけどなあ』
 しんみりした声だった。同い年の金塚はいまだ独り身、テレビ局で報道関係の仕事をしている。昔から気のいい男で、就職が決まったときはこんなにおっとりしたやつが生き馬の目を抜くようなマスコミの世界でやっていけるのかと、心配になったものだ。もちろん、余計な心配であったのだが。
 大学を卒業してからは互いに忙しくて年に数回しか会えないのだが、付き合いはずっと続いていた。私の結婚式では友人代表としてスピーチしてくれたし、わが家にも、何度か遊びにきたことがある。月子も金塚のファンで、『あんなにいい人はいないわね。どうして結婚されないのかしら』とよく言っていたものだ。

『さて、どうだろうね』
 あいまいな返事をしながら、私は意味もなくグラスを揺らした。中の氷が、ちん、と音を立てた。
『やっぱり猛資君のことが相当ショックだったんじゃないだろうか。葬儀の席では気丈にしてたけど、あの頃の月子さん、ちょっと見ていられなかったもんな』
『それはショックだったろうけどね。実際、しばらく鬱状態で通院していたくらいだから……。でも、それと月子が不倫に走ったことを結びつけるのは、ちょっとおかしいだろう』
『そうかな。猛資君が亡くなっていなかったら、月子さんの心にぽっかりと穴が空くこともなかったし、不倫なんてぜったいになかったと思うよ。彼女、ずいぶん堅い人だったじゃないか。もっと細かくいえば、月子さんの心に隙間が出来ていたからこそ、どこかの悪い男がそれにつけこんだんだろう』
 そこまで言ってから、金塚はばつのわるい顔をした。
『無神経だったかな。すまん』
『いや………』
 私はふっとため息をついた。


 新宿駅で金塚と別れたあと、帰りの電車に揺られながら、私は何度となく考えたことをまたも考えた。むろん、月子についてである。
 月子は今どこでどうしているのか。あの晩、離婚してほしいと言い出した彼女は、しかし「相手の男と一緒になる気はない」と言っていた。それどころか「もう会わない」とも。
 真実である保証はない。月子はその相手――Tを庇って、どんなに責められてもTに関する情報は一切口にしなかった。それほどまでに打ち込んだ相手と簡単に別れられるはずがないし、夫のもとから離れたあとではなおさらだ。「会わない」どころか、一緒に暮らしている可能性の方が高いのではないだろうか。もちろん、Tが既婚か未婚かにも大きく関わる話ではあるけれど。
 月子の行方が知れないのと同様、Tの正体についてもいまだ見当すらついていなかった。妻が出て行った当初は、何としてでもTの首根っこをつかまえて家庭を崩壊させた責任を取らせてやる、とその一念ばかりだったが、手掛かりはあまりにも少なかった。
 とはいえ、考えるべきポイントはいくつかある。

 まず可能性は極めて薄いが、学生時代の古い知り合いという線である。しかし、当時の彼女は男嫌いで通っていたくらいだから、親しい異性がいたという話さえ聞いたこともない。

 次に、彼女が勤めていた中学校の関係者。これがもっともありそうだ。
 もともと月子は勤め先での話をあまりしなかったし、話すとしても教えている生徒のことばかりだった。同僚の教師たちとはさほど個人的な付き合いをしている様子はなかった。
 妻が家を出て行ったあと、彼女が職場でもっとも仲良くしていたらしい、内川さんという女性の数学教諭に一度だけ連絡を取った。息子に先立たれ、さらには妻まで失った私に、内川さんはたいそう同情してくれたが、しかし、月子の相手となると『まったく分かりません』ということだった。少なくとも内川さんの見たところでは、月子が職場の男性教師のうち特定の人間と親しくしていた様子はなかったという。

 最後に、月子が通っていたスポーツジムの線だ。運動とはおよそ縁のなかった彼女がジム通いを突然始めたのは、今となってはいかにもあやしい。
 Tのメールにあった文句を思い出す。

『おとといヤッたばかりだけど、すげー悶々する』

 おととい。
 あのメールが来たのは水曜日の夜だった。水曜の一昨日といえば月曜であり、月子が職場帰りにジムへ通っていたのは一週間のうちの月・木曜日である。つまり、本当ならジムにいるはずの時間にTと会っていた可能性が高い。
 私は実際にそのスポーツジムへ行き、スタッフに妻のことを訊いてみた。思ったとおりだった。入会はしていたものの、実際には、月子がジムへ顔を見せる日はほとんどなかったという。
 月子はジムへ行くと偽って毎週月木曜の夜にTと密会していたのだ。なぜそんなことをしたのか。もちろん、私の目を気にしたからだろう。その年の夏はたまたま忙しかったが、普段の私は夜8時過ぎには帰宅するし、小説を書かなければならないから週末はほとんど家にこもっている。密会のたびに口実を作って出掛けるにしても、度重なれば私の疑惑を招くと、月子は考えたにちがいない。
 しかしである。そうなると、ジムの関係者もしくは会員に月子の相手がいた、という線はほぼ消えてしまう。何しろ月子はほとんどジムに顔を出していない。ジムへの入会はそもそもTと密会する口実を作るためだった――そう考える方が自然だ。
 月子がジムに通い出したのは6月からだ。となると、彼女はそれ以前にTと知り合っていることになる。

 思い返せば、その年の春から月子の様子はどこか妙だった。息子の死からずっと塞ぎ込んでいた月子だったが、4月に入ってしばらくした頃、ふと明るい表情を見せるようになった。私は「おや?」と思い、しかしそんな彼女の変化を喜んだものである。けれども、その変化はあまり長くつづかず、ジムに通い始めるあたりの時期には、むしろ再び沈んだ顔を見せる日が多くなっていた。

 これらの現象から想像するに――月子がTと出会ったのは4月ごろであったように私には思える。
 なぜかは分からないし、それを考えるのも苦痛なのだが、ともかくTは4月のある日に現れ、どういうわけか月子の心をつよく惹きつけた(同時期、彼女の様子に浮き浮きしたものが見られたのはそのためだ)。もちろん、当初、2人の仲はただちに不倫へと結びつくようなものではなかったろう。だが、4月から6月にかけてのいつかの時点で、月子とTの関係は決定的に変わった。一度は明るさを取り戻しかけた月子の顔が次第に曇っていったのは、Tとの関係が思いがけぬ進展を見せたこと、つまりは肉体関係にまで発展していったことが影響しているのではないだろうか。私に対して不倫の罪を犯した罪悪感が月子を翳らせたのだ。しかし、それでも彼女は止まれなかった。ずるずると悪い深みに嵌まっていった――。


 私の思考はここに及んでストップしてしまう。結局のところ、Tの正体に関する手掛かりはまるでないのだ。
 同様に、月子の居所を示すような手掛かりもない。
 だいいち、彼女を見つけたとして、私はどのように行動するのか。その回答を私は持ち合わせているのか。
 月子が置いていった離婚届はまだ家にあった。夫側の欄に印は押していない。いつか、決定的な心境の変化が起こり、この欄を埋める気になる日がくるのかもしれない。だが、そのときの私はまだ決意らしきものを何一つ持ち合わせていなかった。来る日も来る日も考えつづけているばかりだった。――



 *  *  *  *  *

 金塚と会った夜からちょうど1週間後のことである。
 その日、私は小説の資料集めのために神保町の古本屋街へ出掛けた。目当てであった建築関係の専門書と、ついでに以前から読みたかった国枝史郎の『神州纐纈城』を買った。

 もう12月の半ばだった。間近に迫ったクリスマスのために、古本の街もいつもより浮かれモードである。師走の冷たい風を浴びながら、山下達郎やWham!の名曲が流れる通りを歩いて帰りの駅へと急いでいた私は、ふと気を変えて、通りすがりのカフェに足を踏み入れた。
 猛資は逝き、月子は去り、私ひとりが残された自宅。その暗い空間を思って、まっすぐに帰ろうという気が削がれたのだった。当時はこんなことがよくあった。


 私が入ったのはいまや都内の至るところにチェーン展開をしているカフェだった。
 アメリカンを注文し、カウンターでそれを待っている間、私は何気なく店の奥へ目をやり、そこにいた中学生の一群にふと注意を引かれた。
 その中学生グループの生徒たちはみんな男の子で、いずれも詰襟の学ランではなく、洒落たブレザー型の制服を着ていた。にもかかわらず、一目で中学生と分かったのは、その制服に見覚えがあったからだ。
 月子の勤め先であったM中学校の制服だったのである。M中学はそれなりに歴史ある名門の私立校で、私立中学といえばたいていそうであるように、富裕な家庭の子供たちしか通っていないらしい。
 私は月子がもっていた学校資料で同じブレザー型の制服を見、『へえ、今どきは中学校でもこんな服を着せているのか』と感心したことがあった。なので、彼らがM中学の生徒だとすぐに分かったのだ。

(中学生が学校帰りにカフェに入るのは、校則違反じゃないか)
 そう思わないでもなかったが、わざわざ注意する義理はなかった。月子が失踪した今となってはなおさらだ。だいいち、私は中学生が苦手なのである。14歳で死んだ息子のことが、どうしたって思い出されるから――。
 それきり、私は中学生たちの方を気にするのをやめた。アメリカンを受け取って、店の隅に腰掛け、買ってきたばかりの古書をぱらぱらとめくった。だが、すぐに思考は手元の本から離れて、いつものもの思いへと移っていった。

 もうすぐクリスマスがやってくる。その次は大晦日、一夜明けると正月――。猛資が健在だった頃、年末年始のイベントは家族3人の楽しみだった。
 まだ結婚する前、恋人時代の月子は、こうしたイベント事にたいして関心のない女だった。誕生日にプレゼントを贈った時、当人が自分の誕生日を忘れていたことすらあった。クリスマスだろうが正月だろうが大差はなかった。
 なのに、猛資が生まれてからは人が変わったごとく、家族で行う祝い事や季節の行事をこよなく大切にするようになった。むろん、息子のためである。彼女自身は早くに父親を失って家庭的なイベントに縁が薄かったから、余計、息子には多くの楽しみを味合わせたくなったにちがいない。
 ふと金塚の言葉が思い出された。

『やっぱり猛資君のことが相当ショックだったんじゃないだろうか。葬儀の席では気丈にしてたけど、あの頃の月子さん、ちょっと見ていられなかったもんな』
『猛資君が亡くなっていなかったら、月子さんの心にぽっかりと穴が空くこともなかったし、不倫なんてぜったいになかったと思うよ。彼女、ずいぶん堅い人だったじゃないか。もっと細かくいえば、月子さんの心に隙間が出来ていたからこそ、どこかの悪い男がそれにつけこんだんだろう』

 月子の生活の中心、生きる喜びのほとんどすべては、息子のためにあった。それは間違いない。不意の事故で猛資を失くしたあと、彼女がどれだけ落ち込んだか――私が一番よく知っている。
 だからといって、いや、だからこそ、というべきか、その妻が息子の死後、不倫へと走ったのはどうにも解せない。たとえ、亭主である私に愛想尽かししていたとしても、だ。
 Tのことを思い出す。あのいやらしい口調。卑猥な言葉。私にとっては悪夢のような携帯動画の中で、妻の髪を撫でる指に光っていた、趣味の悪い髑髏の指輪――。どう間違っても、月子のような女が不貞の罪を犯してまで愛し、庇い抜くようなタイプとは思われない。
 しかし、現実はそうだったのだ。だからこそ、私の頭は混乱している。いつまでたっても、思考の泥沼から抜け出せずにいる――。


 ――そのときだった。
 ある強烈な感覚に打たれて、私は迷宮のようなもの思いから一息に醒めた。


 瞬間、電流のように走り抜けていった感覚の正体が何であるか、自分でも分からなかった。
(今のは何だったんだ?)
 心臓がにわかに高鳴っていた。得体の知れない思いで、私は周囲をぐるりと見回した。

 近くのテーブルには数人の女子高生たちがたむろしていた。見ると、先ほどの中学生男子グループが彼女らの周囲をぐるりと取り囲むようにして、にぎやかに騒いでいる。どうやら、ナンパをしているようだ。
(名門校のわりにはませたガキどもだな)
 と思いながらも、ことさら不快の念を抱くでもなくその方を眺めた私は、あるひとりの男子生徒を見て驚愕した。

 彼が中学生グループのリーダー格であるらしいのはすぐにわかった。一番堂々とした態度で、わるくいえば、相当に女擦れした様子で、女子高生たちに声をかけている。

『なあ、いいじゃん。もうすぐクリスマスだってのに、俺たち彼女いなくて超~寂しいの』
『マジマジ、本当に彼女持ちじゃないってば』
『まずは携帯のアドレスだけでも頂戴。ね、お願い』

 子供っぽく、軽薄な口調だった。どうやら声変わりの時期らしく、甲高いその声は微妙にかすれていた。そのハスキーな声質に、私は聞き覚えがあった。
 先ほどの強烈な感覚の正体を私は悟った。少年の声はあの携帯動画で聞いたTの声によく似ていたのだ。もの思いに耽っていた私の耳がそれを聞いて、無意識のうちに神経が昂ったらしい。
 だが――私の驚愕の原因はそれではなかった。


 唇に薄笑いを浮かべて、年上の女子高生を口説いている少年の顔――
 その顔は、死んでしまった息子の猛資と、そっくりだった!


 むろんのこと、表情は全然ちがう。猛資はあんなに卑しげな笑い方はしない。品のよい、おとなしい子で、ナンパなどというまねは逆立ちしたって出来なかったろう。しかし、顔立ちだけとってみれば、世の中にこれほど瓜ふたつの顔があるだろうかと思われるほどよく似ていた。背格好までほとんど同じである。

 私は呆然自失して彼を見つめた。あたかも猛資の肉体に別の魂が宿ってよみがえったようなその少年を――。そうしているうち、私はまた別のあることに気づいた。今度こそ我を忘れて、思わず声にならない声を上げた。

 ぺらぺらと口説き文句を並べ立てながら、せわしなく動いている少年の左手。その人差し指には、髑髏を象ったリングが鈍い光を放っていた。
  1. 2014/11/04(火) 00:11:58|
  2. 月の裏側・久生
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