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闇文庫

主に寝取られ物を集めた、個人文庫です。

B棟の人妻 (52)

 「じゃあ、そろそろ次の投稿ネタの撮影と行きましょう。」
高橋がそういったのをきっかけに、小川が待ってましたとばかりに再び里佳子に近づいた。
 「ちょっと…」驚いて逃げようとする里佳子を羽交い絞めにするように、後ろから小川が抱きついた。
 「いや・・・」里佳子の顔が今更ながら恐怖に強張った。
 「奥さん、里佳子さん・・・」
小川は、里佳子の胸に顔を埋め、泣きじゃくるように里佳子の名前を連呼した。
目は真っ赤に血走り、完全にたがが外れたようだった。
里佳子の乳房は小川の頬を挟み、小川が顔を左右に振るのに合わせて、フルフルと震えた。
 「ちょっと・・・小川さん、やめて!」
里佳子はおぞましさに顔を歪めた。
小川の頭部が、里佳子の目の前で脂ぎって光り、そのバーコードのような髪の毛には白いフケが粉のように塗されていた。
小川はそんなことには全くかまわず、里佳子の胸の谷間にめちゃくちゃなキスをした・・・というより、舐め回した。
小川が里佳子の背中に回していた手の無意識の両手の動きは、偶然にも里佳子の敏感な背中を這うように刺激し、里佳子の体内の官能を、刺激していたのである。
 「小川さん、やめて・・・ああ」
おぞましさに鳥肌を立てながらも、背中の愛撫に応えるように、里佳子の息が少し荒くなった。
 小川は里佳子の乳房に埋めた顔を上げた。
里佳子の乳房の内側は小川の唾液でヌラヌラと光っていた。
 「奥さん、乳首、立ってませんか?」
目ざとく見つけた高橋が、再び構えていたカメラのレンズから目を離して言った。
 「そんなこと・・・ありません。」
やっとそう言ったものの、里佳子は自分の意思と全く逆に、乳首が固く尖ってゆくのを感じ、戸惑っていた。
  1. 2014/09/12(金) 08:53:22|
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管理組合の役員に共有された妻 86

   ご感想ありがとうございます  投稿者 里佳子  投稿日  1月21日14時20分

     「みなさん、ご感想をありがとうございます。
      お礼に、もうちょっとエッチな里佳子をご覧下さい。
      …ちなみに主人には内緒です」

 自分のレスに答えるかのように、妻からのレスが入りました。
私は、マウスを握る手ももどかしく、添付された5枚の画像を次々にクリックしました。
さっきのブラチラから一転、いきなり下着姿の妻が目に飛び込んできました。
次々とサムネイルをクリックしました。
徐々に現れる見慣れた妻の胸。
3枚目の画像で、ブラジャーのホックははずれ、4枚目にはずり落ちたカップから、
わずかに乳輪が除いています。
クリックする指先が小刻みに震えました。
そして5枚目。
ついに、妻の乳首が露出しました。
私は大声で泣き叫びたいような不思議な気持ちで胸がいっぱいでした。
このサイトで、もっと淫らな姿を晒されていましたが、それはあくまでも私の知る範囲のこと…。
盗撮された画像も、過去のものでした。
しかし、今目の前に現れた画像は、紛れもなく数分前の妻の痴態なのです。
それに、『…主人には内緒です』という妻のコメント…。
今、まさに妻はほとんど全裸に近い恥ずかしい格好で高橋さんの目の前にいるはずなのです。
私は、再び一気に硬直したペニスを強くしごき始めました。
  1. 2014/09/12(金) 08:51:58|
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B棟の人妻 (51)

  高橋は勝手に5枚の画像を選び出すと、コメントを入れた。

      「みなさん、ご感想をありがとうございます。
      お礼に、もうちょっとエッチな里佳子をご覧下さい。」

 「こんな感じで、いいですね?。」
そして、画面を見つめる里佳子に言った。
 「そういえば、さっきご主人から電話ありましたけど、今日のこと何か話してあるんですか?」
 「いえ、ただ高橋さんがいらっしゃることだけしか…」
里佳子は夫に相談しなかったことを後悔した。
しかし、不安ではあったものの、まさか高橋が他の男性を連れてきて、このような恥ずかしい撮影会が行われようなどとは、想像もしていなかった。
 「でも、この前は、ご主人の目の前でしたよね。ご主人の感想も聞いてみたいですね。」
高橋が冷ややかに笑った。
 「今頃、奥さんがこうやって写真に撮られて、ネットで公開されているとも知らずに、一生懸命仕事しているんだろうなあ」
 「お願い、やめて。」
里佳子は自分のことを心配して会社から電話をかけてくれた夫のことを思い、また暗く沈んでいた。
 「あ、そうだ。このOTTOさんみたいに、勘違いしている人もいるみたいですから、はっきりさせておきましょう。」
 高橋はそう言って、さっき書き込んだレスに少し付け加え、送信した。

    ご感想ありがとうございます  投稿者 里佳子  投稿日  1月21日14時20分

     「みなさん、ご感想をありがとうございます。
      お礼に、もうちょっとエッチな里佳子をご覧下さい。
      …ちなみに主人には内緒です」
  1. 2014/09/12(金) 01:22:56|
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B棟の人妻 (50)

 「次の画像は、撮りたてのほやほやですから、きっと受けますよ。」
高橋はそう言いながら、撮ったばかりの里佳子の画像をパソコンの画面に映し出した。
 里佳子が両腕で乳房を抱えるようにしながら画面に目をやると、ちょうどエプロンを取られ、
濃紺のブラジャーに純白のパンティを晒した自分が、縋るような視線を向けていた。
 『下着のコマーシャルみたいですよ。』と言われたことを思い出した。
そして、小川にブラジャーの肩紐を片方はずされたところ…。
 『ここから見ると、奥さんの乳首が見えそうですよ。』と、
肩越しに胸の谷間を覗き込みながら言う中島に煽られ、高橋が里佳子の胸元を上から狙った写真。
乳首が見えそうで、見えなかった。
続いて、両方の肩紐をはずされ、やがて小川の手でブラジャーのホックをはずされていく姿…。
それらの画像が、文字通りスライド写真のように次々に映し出されていた。
3人の男たちが見守る中、画面の中の里佳子のブラジャーのホックが小川の手ではずされた。
ハラリと外れた里佳子のブラジャーのカップは大きく浮き上がり、薄い乳輪がわずかに覗ている。
 『乳首が見えそうで見えない、って全裸よりもいやらしくないですか?』
その時小川が洩らした感想は的を得ていた、と他の男たちも感心した。
つづいてクローズアップされる里佳子の白いパンティと、屈辱にゆがむ表情。
 とうとう画面の中の里佳子が、気を付けをするような姿勢をさせられ、ブラジャーの肩紐にひきずられるようにブラジャーのカップが下ろされていった。
濃紺のブラジャーから、ピンク色の乳首が現れた瞬間も、高橋のカメラは確実に捕らえていた。
 「この中から、そうですね。5枚くらいいっちゃいましょうか。」
高橋がやや興奮気味に里佳子の方を振り返りながら言った。
 「ひどいわ…」恥辱に顔を赤らめながら、里佳子は高橋を睨みつけた。
 「次は乳首くらいみせないと、この人たちが黙っていないですよね。」
高橋は、ふたたび画面を投稿掲示板に戻し、男たちのレスを指差して笑った。
  1. 2014/09/12(金) 01:21:47|
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管理組合の役員に共有された妻 85

 どうしたのでしょうか。
 前回のレスを最後に、高橋さんからの新しい画像の投稿がありません。
 私の苛立ちを代弁するかのように、他の男たちからのレスが入ります。

   拝見してますよ  投稿者  たつひこ  投稿日   1月21日14時13分

     「平日のお昼からなんて大胆な奥さん…。
      続きを期待してます。」

   Re.近所の奥さん100  投稿者 KKK  投稿日 1月21日14時13分

     「とってもセクシーなブラですね。
      できればナマのおっぱいも、見せてください。」

   奥さん、はじめまして^^  投稿者 A太郎  投稿日 1月21日14時15分

     「ブラチラ、サンキューです。わたしの愚息が乳首を待ち焦がれています。
     ぜひぜひ、お願いします。」

   仕事が手につかない  投稿者  里佳子マニア  投稿日 1月21日14時17分

     「いやらしいチラリ写真を見せらて、仕事が手につかない。
     早く全裸になって、すっきりさせてくれーー」

  前回の画像投稿から10分以上がたとうとしていました。
『高橋さんを煽りすぎたかな…』私は、再び強い不安を感じはじめ、レスを入れずにはいられませんでした。

   エッチな里佳子さんへ    投稿者  OTTO  投稿日 1月21日14時18分

     「エロチックなカラダ、堪能してますよ。
      ちなみに撮影者はご主人?あたりまえか…」
  1. 2014/09/12(金) 01:19:35|
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B棟の人妻 (49)

 「さあ、奥さんの乳首もばっちり撮れたことですし、この辺で皆さんにもご披露しておきましょう。」
高橋は撮ったばかりの里佳子の画像をパソコンに取り込みながら言った。
言うまでもなく、撮影のため中断していた投稿のことである。
 「ほら、全国の里佳子奥さんファンが待ちくたびれてますよ。
それにこのコメントじゃ、続きを期待するな、っていうほうが無理ですよ。」
高橋はそう言って、再び投稿サイトを里佳子に見せた。

   ありがとうございます  投稿者 里佳子  投稿日  1月21日14時08分

     「みなさん、ご感想をありがとうございます。
      すごく恥ずかしいのですが、リクエストにおこたえして、胸もちょっとだけご覧にいれます。
      それから、スリーサイズですが、85・59・90です。」
 
 里佳子は自らそうコメントし、高橋の撮ったブラチラ画像を送信したことを思い出した。
そして、羞恥心を感じる一方で、物足りなさを覚えたことを・・・。
『もっと・・・もっと見てほしい。そして里佳子のオッパイでオチンチ○を勃たせて欲しい・・・』
一瞬ではあるが、そんな淫らな気分に陥ったことを・・・。

 自分のレスの後、10件以上のレスが続いていた。
それぞれが、続きを欲するものであった。
柔らかい表現から、露骨な表現までさまざまではあったが、それぞれに里佳子の裸体を渇望する
男たちの切実さが伝わってきた。
 『こんなに私の裸を見たがっている人がいるなんて…』
高橋たちに裸を晒す嫌悪感とは正反対の感情が、次第に里佳子を支配していった。
  1. 2014/09/12(金) 01:17:37|
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B棟の人妻 (48)

 屈辱にゆがむ里佳子の表情が、男たちをさらに興奮させた。
 里佳子は、自分が今穿いているパンティの状態を案じた。
自分の意思とは無関係に熱を帯びる敏感な部分のむず痒いような感触に戸惑ってもいた。
また恥ずかしい体液が附着しているかもしれない・・・。
そう思うと、生きた心地がしなかった。
 「高橋さん、それよりもやっぱり、乳首をちゃんと見ませんか?」
高橋よりも10歳ほど年上の、中年の貧相な禿おやじの小川が、この場を取り仕切る高橋に懇願するように言った。
 「聞きました、奥さん?小川さんが奥さんの乳首を見たいとおっしゃってますが…」
そう言いながら、高橋は里佳子の両腕を後ろ手にひねり上げている中島に目で合図をした。
中島は、高橋の意図を十分に察し、里佳子の両腕を少しずつ下ろした。
 「いや!やめて」
里佳子は抵抗もむなしく、ちょうど気を付けをするような姿勢をさせられた。
ブラジャーの肩紐が両腕に引っ張られ、肩紐にひきずられるようにブラジャーのカップも下ろされた。
 「奥さんの乳首、いただき!!」
高橋が、ひときわ大きな声を上げた。
高橋のカメラが、乳房をプルンと揺らしながらずりおろされる濃紺のブラジャーから、乳首が現れた瞬間をとらえたのだ。
 小川は目の前に現れた里佳子の乳首に見とれていた。
間近でみる人妻のそれは、薄いながらも淫靡に色づき、淡い乳輪に引き立てられていた。
乳房には鳥肌が立ち、小さく震えていた。
自分と同世代といってもいい里佳子の乳首を目の当たりにし、小川は自分を失いつつあった。
 「奥さん!」小川は半分目に涙を浮かべて、里佳子の乳首を凝視しした。
今にも小川の体内から触手が伸びて、里佳子の唇をこじ開け、乳首をつつき、体中を舐め回しそうな勢いであった。
  1. 2014/09/12(金) 01:15:38|
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B棟の人妻 (46)

 「え、私がですか?」
突然の出番に小川は喜びつつも、動揺を隠せなかった。
小川はその貧相な体と薄い頭髪がコンプレックスとなり、これまでの35年間まともに女性と付き合ったことはなかった。
2~3年前までは、親の勧めで何回か見合いもしたが、すべて相手から断られてしまった。
女性の目を見て話すことが出来ず、見合いの席でも相手の女性の胸元ばかりジロジロ見ながら、趣味のアニメやゲームの話ばかりするのだから、気持ち悪がられて当然である。
 『上手に出来ますように・・・』
小川が息を荒げながら里佳子に近づいた。
 「小川さん、お願い、もうやめて・・・。」
里佳子にとっても、この年上の男性の存在は、とても不気味であった。
 「奥さんの、オッパイ・・・」
小川は小刻みに手を震わせながら里佳子に近づき、吸い寄せられるように里佳子の胸元を上から覗き込んだ。
 「小川さん・・・」
恐怖と気味の悪さに、里佳子は現実を否定するかのように目を閉じた。
里佳子の放つ甘い香りに酔いながら、小川は両手を里佳子の背中に回していた。
里佳子が目を閉じてじっと我慢していたおかげで、小川はようやく里佳子の顔をじっくりと見ることが出来た。
やや茶色がかった上品なさらさらの髪の毛に、清楚な顔立ち・・・
小川がいままで集めてきたどんなフィギュアよりも美しかった。
 『こんなに綺麗な奥さんのブラジャーのホックをこの僕がはずしてもいいなんて・・・』
小川は、夢を見ているようだった。
やがて小川の震える手が、里佳子のブラジャーのホックを捉えた。
 「奥さん、はずしますね・・・」
声まで震わせて小川が里佳子に言った。
 「いや・・・」
小川の手によってあっけなくホックがはずされ、里佳子のブラジャーがハラリと外れた。
屈辱と恥辱に、里佳子は俯いたまま唇を噛んだ。
  1. 2014/09/11(木) 13:34:51|
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B棟の人妻 (27)

 「すみません、お待たせしちゃって。」
水平にピザを抱え持つピザ屋のアルバイトに、里佳子は平静を装って言った。
 「いえ。」
 「おいくらですか?」
アルバイトの青年が、部屋の奥を覗かないことを願っていたが、さすがによく教育されたアルバイトは、
お客さんの家の中や、その家の主婦の胸元を露骨にはジロジロ見たりはしなかった。
 その代わり、しっかりと里佳子の顔を見据えながら答えた。
 「4500円です。」
 「はい。」里佳子は、中島に渡された財布を見て唖然とした。
 『足りない・・・』財布の中には小額の紙幣が1枚と小銭しかなかった。
 『どうしよう。財布を取りに戻らなくては・・・。でもそれではこの人に後ろを見られてしまう。』
里佳子は焦り、またいろいろな考えを頭の中に巡らせた。
 「どうかしましたか?」ピザ屋の若いアルバイトが、そんな里佳子を怪訝そうに見た。
 「いえ、ちょっと待ってくださいますか・・・」里佳子は覚悟した。
『考えてみれば、ピザなんて普段取ることないんだし、1回だけアルバイトの男の子にパンティ姿のお尻を見られるだけだわ・・・』
自分を納得させ、数歩後ずさって、一気に振り返った。
アルバイトの青年の驚いた顔が視線の隅に映った。
 小走りに帰ってきた里佳子に中島が声を掛けた。
 「どうしたんですか?」
 「あの・・・お金が、足りなくて」
 「あれ?おかしいな。あ、そうだ、さっきあれ買っちゃったからだ・・・」
中島がぶつぶつと財布の中身を計算していた。
どうやら、里佳子を辱めるために、わざと財布の中身をぬいたわけではないらしい。
 里佳子は自分の財布を持ち出し、再び玄関先へ急いだ。
  1. 2014/09/11(木) 13:14:25|
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B棟の人妻 (26)

 「ほら、奥さん、早く行かないと、ピザ屋さん、困ってますよ。」小川が調子を合わせた。
 「ぼくのピザが冷めちゃいます。」
ピザ屋が来て急に腹を減らしたのか、中島もイライラしている様子で里佳子の手を取った。
 「それとも、下着もとって、ノーパンにしちゃいましょうか?」
 「痛い!離してください・・・」
 「いや・・・」
 「・・・わかりました。特別に、これを着せてあげましょう。」
高橋は、フローリングに放置してあった里佳子のエプロンを拾った。
 「その代わり、スコートはこうしちゃいますね。」
高橋はそう言いながら、里佳子のスコートの後ろををまくり、その裾をウエストの中に挟み込んだ。
 里佳子はむしりとるようにエプロンを受け取り、いそいそと頭から被った。 
エプロンの下は、前から見ればノースリーブにミニスカート・・・という風に見えなくもなかったが、
後ろからは、パンティが丸見えになっていた。
 「奥さん、これ使ってください。」律儀に中島が財布を渡した。
里佳子は中島の財布を受け取り、どんよりと重たい気持ちで無言で玄関の方に向かった。
 『こんな格好で人前に出るなんて。何て言い訳すればいいのだろう・・・。
いや、何も言わないほうがいいのだろうか・・・。
玄関の電気を消しておけば暗いから、よく見えないだろうし・・・。
まさか、エプロンの下に何もつけていないとは思われないだろうから、
ノースリーブにミニスカートで家事をしていたように見えるだろう・・・。
部屋の中なんだからこんな格好でいてもギリギリ大丈夫・・・だろう。
それでも、やっぱり不自然だろうか・・・。
後ろは、スコートが捲くれているし。それだけは気づかれないようにしなければ・・・』
 いろいろな考えをめぐらせながら玄関に向かう里佳子の後姿を、高橋の高性能ビデオカメラが、じっと追った。
捲れたスコートの下、白いパンティ越しに里佳子のヒップがプリプリと揺れていた。

  1. 2014/09/11(木) 13:13:38|
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管理組合の役員に共有された妻 75

 いつもは15分以上かかる道のりでしたが、必死で走ったおかげで、10分でマンションに着くことができました。
途中で見失ったピザ屋のスクーターが、偶然にも私のマンションの前に停まっていました。
  『高橋さんがまだ来てなかったら、午後はずっと家にいよう。』
私は、呼吸を整えて、エントランスを抜け、自宅に向かって歩きながらそう考えていました。
 『でも、もし、来てたら・・・。そして、妻がまた陵辱されていたら・・・』
私はまた、こっそり家に忍び込み、目の前で犯される妻を覗いている自分の姿を想像していました。
 自宅が視界に入ると、玄関ポーチが開け放たれているのが見えました。
 几帳面な妻が開けっ放しにするわけもなく、案の定玄関に人影がありました。
 さっきのピザ屋の配達係のようです。
 さきほど店を出るときに見た感じからすると、大学生くらいに思えました。たぶんアルバイトなのでしょう。
 妻は特別にピザが好きなわけではないので、不思議に思いましたが、
同じマンションの主婦友達と頻繁に行き来をしているとも聞いていましたので、そのうちの誰かが来ているものと理解しました。
 『助かった・・・』と思いました。お客さんがいれば、高橋さんが来ても安心です。
でも同時に、残念に思っている自分を意識していました。
 私は、なんとなくピザ屋のアルバイトがいる玄関に近づくのが恥ずかしく、遠巻きに見ておりました。
こんな時間に自宅に戻っていると、会社をさぼっていると思われるのではないか(実際、さぼっていたのには違いありませんが)
という気がして、たとえ他人であっても、誰にも会いたくなかったのです。
 アルバイトの青年は、ピザを手に持ったまま、苛立った様子でポーチに立ち、何度も呼び鈴を押していました。
  1. 2014/09/11(木) 13:12:43|
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B棟の人妻 (25)

 「ピンポーン!」不意に玄関のチャイムが鳴った。
 「ああ、来た来た。ピザだ。」
中島がカメラの手を止め、うれしそうに言った。
 「お腹すくと思って、さっきピザ頼んどいたんですよ。ちょっと待っててくださいね。」
そう言って、玄関に向かおうとした。
 「ちょっと、ちょっと。中島さんが取りに行くの変でしょう。
ここは奥さんの家なんだから、ご主人の留守中に変な男を引っ張り上げているなんてうわさがたったら大変だ。」
 「いえ、そんなこと・・・」言いかける里佳子を制して、高橋は続けた。
 「奥さん、お願いします。」
 「ピンポーン、ピンポーン」反応がないのにイライラしているのか、チャイムが催促するようになっている。
 「あ、はーい。」思わず里佳子は返事をして、さきほど脱いだブラウスとスカートを手にした。
思いがけず、再び服を着られることに安堵し、少し心が軽くなった。
 「何やってんですか、奥さん?」
 「え?だって・・・あの・・・ピザ屋さんが・・・」
 「そのまま取りに行くに決まっているでしょう。」高橋が非情に言い放った。
 「そんな・・・」予想外の高橋の言葉に里佳子は耳を疑った。
里佳子の脳裏に、新年会で副会長の甥である裕太の目の前で
半ば強制的に陰裂を開かされた悪夢がよみがえった。
その後、裕太の若いペニスをフェラチオし、射精に導いてしまったことも・・・。
 「それだけは、絶対にいや。」
体を触られること以外は、どんな屈辱にも耐えようと決心していた里佳子であったが、思わず高橋に逆らった。
 「お願いします。服を着させて。」
 「ピンポーン、ピンポーン」
ピザ屋の店員が、苛立ったようにしつこくチャイムを鳴らしていた。
  1. 2014/09/11(木) 13:11:55|
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B棟の人妻 (24)

そんな里佳子の心中を解することが出来るわけもなく、中島も小川も異常に興奮していた。
 「ああ。それがありましたね。」
 「僕も一度見てみたかったんです『人妻テニスルック』」
盛り上がる3人を前に、里佳子はスコートを手に呆然とするばかりだった。
 「どうしたんですか、奥さん。それとも、ブラジャーとパンティだけの方がいいんですか?」
 「いえ、そんなこと・・・」
 「これをつければ、恥ずかしいパンティだって隠せますよ。」
 確かにその通りではある。しかし、男の喜ぶ格好として度々女性誌などでも採り上げられ、
友人の間で『男ってバカね』といった話をしたこともあるその姿を、
自分がすることになるなどとは夢にも思っていなかった。
しかも、夫以外の男たちの前で・・・
 「奥さんが自分で着ないんじゃ、仕方がない。中島さん、着せてあげてください。」
 高橋にそう言われ、待ってましたと言わんばかりに中島が巨体を揺すって里佳子に近づいてきた。
 「待って!自分で着ます。」
 「いいですよ、遠慮しないで」
 中島はそう言って、里佳子に汗ばんだ顔を近づけた。
中島の鼻息と、興奮した熱気が里佳子にも伝わり、肥満特有の体臭が鼻を突いた。
中島は里佳子の正面に向かい、スコートを里佳子の腰に当てた。
 「さあ、奥さん、ちょっと脚を上げてください。」
そんな大胆な行動をするくせに、里佳子の顔を直視できない中島の視線は
ブラジャーにつつまれた胸元のふくらみに注がれたままであった。
 たまらず、「自分でやりますから・・・」と言う里佳子を無視し、
中島は無理やり里佳子の右足首を持ち上げ、スコートを跨がせた。
 「はい、OK!今度は、左足です。」
中島は里佳子の両脚にスコートを通すと、ゆっくりと腰の位置まで持ち上げた。
故意か否か、中島の指がパンティ越しの里佳子のやわらかいヒップに軽く擦るように触れていた。
 「はい、完了!」中島はそう言って、いそいそとカメラを手に取った。
しばらくの間、ブラジャーに、スコートを着けただけの格好のまま、里佳子は3人のカメラマンのモデルになった。
スコートをはいていることが、女性らしい健康的な太ももを強調し、かえって卑猥であった。
また、男たちのリクエストで後ろを向いて前かがみになったときなどに露になる白いパンティは、
何もつけていないよりも一層エロチックであった。
 里佳子は3人によるカメラ越しの視姦に耐えながら、体の奥で反応しようとする女の性に戸惑いを覚えていた。
先日の新年会での集団陵辱以降、自分の体が淫らなものに変わってしまったように思えて、嫌悪するのであった。
  1. 2014/09/11(木) 13:10:50|
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B棟の人妻 (23)

  「え?」里佳子は思わず高橋を見た。
 「はい、スタート!」高橋は里佳子に口を挟む余裕を与えず、映画監督がやりそうなキューサインを出した。
 『反論すればそれ以上の辱めを受ける・・・。』里佳子はそう思い直し、真っ赤になりながらも高橋の要求に従った。
 「・・・里佳子のエッチなお尻をご覧下さい・・・」顔が反対を向いているのが幸いだった。
里佳子はまたしても恥ずかしい言葉を言わされながら服を脱ぎ、それを記録されてしまった。
里佳子がスカートを下ろすと、さきほど穿き替えたばかりの白いパンティが徐々に現れた。
 「おおう。やっと拝めましたね、奥さんの白パンティ。」
 さきほどのようなパンチラもいいが、キッチンという女の聖域でパンティとブラジャーだけの姿を晒す
人妻の姿はこれ以上ないというくらい淫靡であった。 
 「奥さん、そろそろこっち向いてもいいですよ。」
しばらく、そのままの格好で、男たちの被写体として放置された後、高橋が言った。
 「奥さんのパンティ、ちょっと透けてるんですね。お毛々が見えてるみたいです。」
 うれしそうに中島が言ったが、当然里佳子はそのことくらいは承知していた。
それよりも、自分の理性とは全く無関係に股間を熱く潤す分泌液の感触を禁じえず、それが外部に湧き出て、
男たちに発見されてしまうのではないか、ということばかりが気になって仕方なかった。
 その後も、里佳子はブラジャーとパンティだけの非日常的な姿で、冷蔵庫を開けたり、
水道の蛇口をひねったり、食器棚からお皿を出すなどの日常的なポーズをさせられた。
3人は、思い思いの角度で、それらすべてを自分の愛器に収めていった。
 「奥さん、次は、これを着てください。」
高橋の言葉に里佳子は絶句した。
高橋は持参した大きなカバンの中からテニスのスコートを取り出したのである。
 何も着けていないよりはましなはずなのに、そのスコート姿を想像しただけで里佳子は驚愕した。
これではまるで安っぽいAVではないか・・・。
もちろん夫の前でもそんな格好をしたことはなかった。
  1. 2014/09/11(木) 13:10:04|
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管理組合の役員に共有された妻 74

 時計を見ると、12時を回っていました。
 『高橋さんが来るのは何時頃だろうか・・・』
 これだけのマニアックな写真を目の当たりにした私は、すでに高橋さんが妻の撮影をすることを確信していました。
 『今ならまだ間に合う・・・』
 私の中で、高橋さんの撮影会を止めさせなければならないという焦りと、撮影会を覗きたいという欲望が、葛藤していました。
私は、ネットカフェを出ると、すぐに駅に向かい、いつもの通勤電車に飛び乗りました。
我が家へと向かう電車の中でも、私は気が気ではありません。
 『もう、高橋さんが来ているのではないだろうか・・・』
 『そして、この前のように、いろいろと屁理屈をつけながら、あるいは写真をネタに、妻を脱がしている頃ではないだろうか・・・』
 『さっき電話したのが11時30分だったから、あの後すぐに来たとしても、まだ脱がされてはいないだろう・・・』
 『まさか、無理やり乱暴をすることもあるまい・・・』
私の頭の中で同じ考えがぐるぐると回っていました。
 私の住む町までの30分が、いつにもまして長く感じられました。
昼の電車にはいくつも席が空いていましたが、私は、気持ちばかりが逸り
立ったり座ったりしながら通り過ぎる窓の外の景色を眺めていました。
 
 12時50分。ようやく駅に到着した私は、家に電話をしようと携帯電話を取り出しましたが、結局止めました。
 あらためてみる平日の町は穏やかで、さっき見た妻の画像が、まるで夢の中での出来事のような感じすらしました。
 こんな静かなところで、AVや官能小説のようなことが起こるはずがない・・・
私は、自分の過剰な反応に独り苦笑いしながらも、マンションに向かういつもの通勤路を、駆け出しました。
 途中、通りかかったピザ屋から配達のスクーターが出発しました。
私は、『どうせ追いつけるはずはない』と思いながらも、なんとなくそのスクーターを追いかけるようにして、必死に走りました。
  1. 2014/09/11(木) 13:09:07|
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B棟の人妻 (22)

 「そんな恥ずかしいこと・・・。できません。」
 「そうですか。いうこと聞かないと、中島さんが大きな手で揉んじゃいますよ。」高橋が意地悪く言った。
 これ以上、他人には触られたくない。里佳子はただその思いだけで、高橋の指示に従うことを決意した。
自らの手で自分の胸を触るなんて・・・しかも、複数の男性の前で。
もちろんそんな恥ずかしい格好をすることになるなど、今まで想像したこともなかった。
里佳子は、躊躇しながらも、ブラジャー越しに乳房を掴んだ。
ブラジャーにしわがより、形のいい乳房が卑猥に歪んだ。
 「おおう。イヤらしいですねえ」
 「ちょっと、モミモミしてみてください。」
里佳子は、男たちの指示通りその細い指で自分の乳房を、数回揉んだ。
ブラジャーの生地が乳首を擦り、一瞬、官能的な刺激が走った。
 「もう、いいですか?」恥ずかしさに顔を紅潮させて里佳子は言った。
 「そうですね、あんまり苛めちゃかわいそうだから、オッパイはもういいです。
その代わり、スカート脱いじゃいましょう。」
 「・・・はい。」この3人は、言うとおりにしさえすれば、体に触ったりはしない。
ブラジャーとパンティ姿になって、何枚か写真を撮らせればきっと満足するだろう。
今日はお酒も入っていないし、この人たちはただの写真マニアだから、管理組合の役員たちみたいなことはしないだろう・・・。
里佳子は自分に言い聞かせるように、腰のホックに手をかけ、ジッパーをゆっくりと下ろしていった。
 「またまたパンティが見えてきましたよ。」高橋が言った。
 「上下色違いというのも、いいですね。」
35年間女性の下着姿を生で見る機会が全くなかった小川は、目の前でスカートを脱ごうとしている人妻の姿に感動すら覚えていた。
 ジッパーをすべて下ろすと、里佳子のスカートは、里佳子の手によって心細く支えられているだけになった。
里佳子が手を離せば、そのままするリと足元まで落ちてしまうだろう。
 『次は、どうやって脱げばいいの?このまま手を離して、ハラリと落とせばいいの?
それとも、また後ろを向いて、お尻を突き出すようにゆっくり脱げばいいの?』
里佳子は次の指示を待ちながら、無意識に淫らな自分の姿を想像しているのであった。
 「じゃあ、後ろを向いて、お尻を向けながら脱いでもらいましょうか。」 
 「はい。わかりました。」高橋の指示に、里佳子は素直だった。
 「脱ぐとき、『里佳子のエッチなお尻をご覧下さい』と言ってくださいね。」高橋が付け加えた。
  1. 2014/09/11(木) 13:08:18|
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B棟の人妻 (21)

 「確かCカップでしたよね?」高橋がインタビューを続けた。
 「・・・ええ。」里佳子は胸から視線を逸らすようにして答えた。
 「スリーサイズをお願いします。」
 「85・59・90です・・・。」
 「おおおぅ!」小川が唸るように感嘆の声を洩らした。
 「思った通り、いいスタイルですね。子供がいるとは思えない」高橋が抜かりなく感想を記録した。
 「さあ、一気にブラウスのボタンはずして、もっとよく見せてください。」
中島の甲高い声がかすれ、他の人にも興奮が伝わってきた。
 「・・・」中島に言われるまでもなく、里佳子はブラウスのボタンをほとんど全部はずしてしまっていた。
 「いいですねえ。そのまま、ちょっとポーズをつけて!」
再び小川の指示で、里佳子は慣れないながらも、グラビアアイドルのように、簡単なポーズをつけた。
その素人っぽい仕草が、ますます3人を欲情させていった。
 「すごいなー。モデルの水着撮影会よりも全然興奮しますよ。」中島が声をうわずらせて言った。
 「じゃあ、奥さん、そろそろブラウスから腕を抜いちゃってください。」
中島と対照的に、妙に落ち着いた声で高橋が言った。
やはり、ここまでではなかった。
最終的には、ブラウスも剥ぎ取られることにだろうが、そこまでは仕方ない。
『でも・・・』
里佳子は何とか屈辱を最小限に抑える方法がないか考えながら、すこしずつブラウスを脱いでいった。
両方の腕からブラウスを抜き取ると、胸の前にブラウスを抱えるようにして、3人を見た。
 「ブラウスは、もうじゃまですね。どっかにポイしちゃってください。」
 「はい。」里佳子はブラウスをイスに掛け、姿勢をただした。
上半身ブラジャー姿の里佳子は、下に比較的フォーマルなスカートをはいているせいもあり、とても淫靡に映った。
 「奥さんの格好、エッチですね。ちょっと、おっぱい揉んでみてください。」
  1. 2014/09/11(木) 13:07:19|
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管理組合の役員に共有された妻 73

 私は、震える指で、次々に投稿画像をクリックしました。

   近所の奥さん⑱  投稿者 T  投稿日 8月22日22時8分

     「今日は、気分がいいので、取って置きの画像を公開します。
      撮影日は、8月1日に遡ります。
      実は、はじめて奥さんを見かけた時の画像には続きがあったのです
      (詳しくは、8月5日の投稿を見てください)」

  画面に映し出されたのは、まぎれもない、私たちの部屋のリビングでした。
 うすいカーテンは、ほとんど意味をなさず、部屋の中が丸見えでした。
 その日の投稿画像は3枚ありました。
  1枚目は、Tシャツとデニムのミニスカートで、電話をしている様子。
  2枚目は、裾からTシャツをまくり、器用にブラジャーをはずしている姿。
  3枚目は、ノーブラのまま、バルコニーの花に水をやっている姿。
 そして、こんなレス・・・

    Re.近所の奥さん⑱  投稿者  のんきくん 投稿日 8月22日23時42分

      「毎日楽しみに見ています。
       ノーブラの奥さん、最高!
       このつづきが、見たいなあ!!」
    
    これって本当?  投稿者 やらせ  投稿日 8月23日0時25分

      「すごいですね。
      本当だったら、大興奮です。
      ちょっと、やらせっぽいけど・・・」

 もちろん『やらせ』であるわけはありません。
確かに、A棟から私たちの部屋が丸見えなのはわかっていましたが、まさか、同じマンション内で覗かれているとは・・・。
私は、愕然としました。
 しかし、普段見ることの出来ないアングルからの妻の姿に、私は異常なほどの興奮を覚え、複雑な思いでペニスを扱きました。
 そして、個室とはいえ、白昼のインターネットカフェで、射精してしまったのです。
  1. 2014/09/11(木) 13:05:59|
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B棟の人妻 (20)

 「ひとことって?」
 「そうですね。自己紹介しながらってのはどう?」
 「自己紹介なんて。私はただの・・・」
 「ただの・・・何ですか?人妻じゃないですか。
人妻の着替えシーンなんてやらせAV以外ぐらいでしか見ることなんかないんだから、すごく価値あるんですよ。」
 高橋に「人妻」を強調されるたびに里佳子の脳裏に夫の顔が浮かんだ。
夫の仕事中、自分は3人の「オタク」を家に招き入れ、恥ずかしい下着姿を晒し、その画像をデジタルカメラやビデオで記録されているのだ。
 「じゃあ、こうしましょう。僕がいろいろ聞きますから、脱ぎながらそれに答えてください。」
 「え?ええ。」里佳子は、完全に高橋のペースにはまっていた。
 「まず、奥さんのお名前を教えてください・・・」
 「○○里佳子・・・です。」
 「おいくつですか?」
 「・・・32です。」
 里佳子は、高橋の質問に促されながら、ブラウスのボタンをはずした。
 「そうそう、いいですよ、奥さん。身長はいくつですか?」高橋はカメラ越しに質問を続けた。
 「157センチです。」
3つめのボタンをはずすと、さきほどから、薄いブラウスを通して透けていた濃紺のブラジャーが見えてきた。
3人とも、カメラ越しの里佳子に釘付けであった。
さきほど、白いパンティにこだわった小川も、ブラジャーはセクシーものを好むようだった。
 「奥さん、エッチなブラジャーしてますね。」
小川が声を上ずらせて言った。
 『自分にも妻がいれば、毎日こんな下着で迎えてくれるのだろうか』
小川は、勝手に里佳子を自分の妻に仕立て上げて、頭の中で淫らな想像をしながら、何枚もシャッターを切っていた。
  1. 2014/09/11(木) 13:04:15|
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B棟の人妻 (19)

 高橋が自分の恥ずかしい写真を持っている以上、何らかの要求をしてくるのではないかということについては覚悟をしていた。
しかし、全く関係のない男を二人も連れてくるとは思わなかった。
それに、インターネットでの投稿のことも・・・。
目線やモザイクがあるとはいえ、知っている人が見たら自分であることがばればれである。
実際、コンビニの店員は気づいているではないか。
 『投稿のことだけでも、せめて夫には知られたくない。そのためであれば、どんな要求にも応えよう。』
高橋の予想のつかない言動に、里佳子はそんな風に考えるほど追い込まれていた。
 「奥さん、ブラウス脱いでブラジャー見せてよ。
そんなにスケスケだと、かえってエッチですよ。」
場当たり的な中島と小川の要求を高橋が引き継いだ。
高橋の頭の中では、どのようにして久美子を辱めるか、というストーリーが何通りも用意してあった。
 「わかりました。」里佳子は後ろを向いたままつぶやくように言った。
『3人とも下着フェチっぽいから、それ以上の要求はないだろう。
触らないという約束だって、ちゃんと守っているではないか』
自分にそう言い聞かせながら、里佳子はブラウスのボタンに手をかけた。 
 「ストップ!!後ろ向きはないでしょう」小川が里佳子の動きを制して言った。
 「そうですね、パンティはお尻からがいいけど、やっぱりブラジャーは前向きじゃないと、意味ないですね。」
高橋にそう言われ、里佳子はゆっくりと男たちの方に向きなおした。
 「これで・・・いいですか?」
 「いいですね、奥さん、ここでひとことお願いします!」
高橋はいちいち里佳子にしゃべらせながら、この異常な光景をドキュメントタッチでテープに記録していた。
  1. 2014/09/11(木) 13:03:34|
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管理組合の役員に共有された妻 72

 私は、毎日少しずつ投稿される妻の画像を食い入るように見つめました。
8月7日から、8月11日までの投稿画像は、近所の奥さんと立ち話をするところや
息子の手を引いて、クリーニング店に入る姿など、妻の日常生活の様子が続いていました。
また、妻の服装から、盗撮が毎日続けられていたこともわかりました。
 そして、8月12日の投稿・・・

    近所の奥さん⑧  投稿者 T  投稿日 8月12日23時41分

     「今日は、快心の一作です。
     奥さんの水着画像の盗撮です。
     近くのプールで撮影しました。」

 画面には、妻が今年買った水着を着て、プールサイドで近くの奥さんと話している画像が写し出されました。
 夏休みに、息子を、同じ小学校に通うマンションのお母さんたちと一緒に、プールに連れて行ったという話を思い出しました。
  妻への賛美や、高橋さんへの応援レスも、10件ほどまでに増えていました。

    Re.近所の奥さん⑧  投稿者 Aたろう  投稿日 8月12日23時59分

     「人妻の水着ってイヤラシイですね。
     じっと見つめていると乳首が透けてるような・・・
     気のせいですね。」

    Re.近所の奥さん⑧  投稿者 りす  投稿日 8月13日0時13分

     「Tさん、いつも楽しみにしています。
     とうとう水着ですね。思ったとおり、けっこういい乳しますよね。
     パンチラ・ブラチラ、チャレンジしてくださいね。」

 妻の水着は、普通のワンピースタイプで、もちろん乳首など透けていませんが、
やはり、性の対象として見られているかと思うと、卑猥に思えました。

  翌8月13日の投稿は、自宅マンションの近所の広場で、盆踊り大会が催されたときのものでした。
 浴衣越しの妻のお尻がとても色っぽく、その夜浴衣を着せたままSEXしたことを思い出しました。

    近所の奥さん⑨  投稿者 T  投稿日 8月13日17時11分

     「先日の町内会の盆踊りの様子です。
     浴衣の奥さんも、いいでしょう?」
  1. 2014/09/11(木) 13:02:50|
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B棟の人妻 (18)

 里佳子は、3人を背にし、流し台の方を向いた。
 「やっぱり、人妻はキッチンが似合いますね。」高橋がビデオカメラ越しに言った。
 「奥さん、料理をする振りをして下さい。」中島のリクエストに
『ばかばかしい・・・』と思いながらも里佳子は従わざるを得なかった。
 「いいですね。人妻とキッチン」汗を掻きながら小川と高橋が同じようなことを言った。
 「奥さん、ちょっとスカートが長いですね。人妻なんだからもっと短くしてください」中島のリクエストは続いた。
21歳にもなってまだ浪人生という身分の中島にとって、人妻=エロスであった。
もっとも、中島が人妻に対してエロスを意識したのは、去年の8月、高橋によって投稿された里佳子の後姿画像がきっかけだったのだが・・・
 「こうですか・・・」抵抗しても無駄であることを知る里佳子は、少しだけスカートをたくし上げた。
 「ああ・・・、いいなあ、奥さんの太もも。とても細くて、白くて綺麗だ。」小川が呻くように言った。
35歳の小川は、その貧相な体つきと剥げた頭が女性に不快感を与えるだけでなく、性格も陰湿で「オタク」を絵に描いたような男であった。
比較的年齢が近い里佳子に、同級生か、下級生を苛めているようなサディスティックな感触を覚えていた。
小川もまた、着衣画像しか投稿されていない頃からの里佳子ファンであった。
 「奥さん、もう少し」そう言われて、さらにスカートをたくし上げ、太ももを晒しながら、里佳子の顔は屈辱に歪んだ。
3人のカメラの前で、里佳子は、ヒップがギリギリ隠れるところまでスカートをミニにした。
 「おお!奥さん。パンティが見えそうだよ。」そう言いながら、中島はしゃがみこみ、下から覗き込むように里佳子のパンティを狙った。
キッチンでミニスカートの人妻を覗く自分の行為に興奮し、中島のペニスはすでに膨張していた。
 「ああ!白だ。やっぱり白がエッチだな」小川が嬉しそうに叫んだ。
さきほど穿き替えたばかりのパンティがスカートの下から顔を出していた。
里佳子のお尻にはパンティが少し食い込み、お尻とふとももの間の肉が盛りあがっていた。
 「あー、奥さん。また食い込んでるよ・・・この前といっしょだ。いやらしいなあ。」
高橋が意識的に自分のコメントも記録しながらつぶやいた。
里佳子はあわてて、この前もそうしたように、人差し指を器用に使って、食い込みを直した。
 「奥さん、じゃまだから、スカート取っちゃいましょうよ。中島の要求はエスカレートしていった。
 「いや・・・です。」
 「あ、そう。じゃあ、ブラウス脱いで。どっちからでもいいや。」小川も写真を撮りながら、ふてぶてしく言った。

  1. 2014/09/11(木) 12:59:40|
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管理組合の役員に共有された妻 71

  私は、ペニスを弄びながら、再び高橋さんの投稿した妻の写真を、最初から見始めました。
 高橋さんの最初の投稿日は、去年の8月5日になっていました。

   近所の奥さん  投稿者 T  投稿日 8月5日23時15分

   「はじめて投稿します。
   先日コンビニで立ち読みをしていた時、
   Tシャツを着た20代後半くらいのきれいな奥さんが
   スーパーの袋を提げたまま入ってきました。
   僕の横で雑誌を取ろうと屈みこんだTシャツの胸元から
   真っ白いブラジャー丸見えになってドキッとして、
   出てきた奥さんの後姿にこっそりとカメラを向けてしまいました。
   ブレてますが、きれいな後姿でしょう?」

 画像は、白いTシャツにデニムのミニスカートを着た妻でした。
スーパーの袋を提げて、見覚えのある道を歩いている何気ない後姿も、高橋さんのコメントつきで見ると
少しエッチな感じがしました。

    Re.近所の奥さん  投稿者 オーガスト  投稿日 8月5日23時30分

    はじめまして。エッチなお尻ですね。続きがあったらお願いします。

 他の人たちの投稿に比べて、露出度が少ない(と言いますか、まったくない)せいか、コメントはこれだけでしたが、
『エッチなお尻』という表現に、妻が性の対象として晒されていることを意識し、ドキドキしました。
 次の投稿は翌日でした。

    近所の奥さん②  投稿者 T  投稿日 8月6日22時57分

    「オーガストさん、早速のレスありがとうございます。
    昨日の続きを投稿します。
    思い切って先回りして、盗撮しました。
    コメントお願いします。」

    Re.近所の奥さん②  投稿者 オーガスト  投稿日 8月5日23時30分

    「いいですね。モザイク越しにも奥さんのかわいらしさが伝わってきます。
    おっぱい結構おっきそうですね^^
    続きをお願いします。」

    Tさんへ  投稿者 匿名

    「こういう盗撮っぽいのって好きです。パンチラとか狙ってください!!
     期待してます」
  1. 2014/09/11(木) 12:58:43|
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B棟の人妻 (17)

 「誰からですか?」
 「主人です。」
 「ご主人って、このセクシーな下着が好きな、あのご主人のことですか?」
 「・・・」里佳子は屈辱に少し眉をしかめた。こんな男に主人の趣味をとやかく言われたくはなかった。
 「ご主人、何ですって?」
 「いえ、ちょっと・・・」
 「ご主人、奥さんがまさかこんな格好をしてるなんて思わないでしょうね。」
 「当たり前です。もう終わりにして。」里佳子は少しイライラして言った。
 「あれ?奥さん、そんなこと言っていいのかな?」高橋が意味ありげに自分のパソコンを見た。
 「まあいいです、それより奥さん、パンティを穿いて、撮影の続きしましょう。小川さんも中島さんもお待ちかねですよ」
 里佳子は高橋から手渡された自分の白いパンティを持って、こそこそと寝室にもどった。
里佳子は、あいかわらず、自分をつけまわす高橋のカメラを気にしながら、すばやくパンティに足首を通した。
高橋にお尻を見られないようにパンティを穿くのは骨が折れたが、何とか穿けたようだ。
 「見えませんでしたか?」そう言いながら、里佳子は自ら余計なことを言ってしまったことを後悔した。
 「何がですか?」
 「いえ、何でも・・・」
 「もしかして、奥さんのオ・○・ン・コですか。さあ、どうでしょうねえ。ビデオ巻き戻して確認しましょうか?」
 「いえ、いいです」どこまでも卑猥な高橋の言葉に、里佳子の声は震えた。
 リビングでは中島と小川が高橋のパソコンを見ながら、しきりに感心していた。
 「高橋さん、ここら辺のはまだネットでも公開されたないやつですね。モロ見えじゃないですか。
それに、奥さん、自分から進んでみんなのチ○ポ咥えてるみたいでけど・・・」
 里佳子は目をそむけた。自分が恥ずかしがったり、嫌がったりすればするほど、この男たちは喜ぶのだ。
 「これだって、自分から一枚ずつ脱いでるみたいですけど。カメラ目線だし・・・」
 「なーんだ。結構撮られるのが好きなんですね。」中島と小川は二人で好き勝手な感想を言い合った。
 「じゃあ、奥さん、僕たちにもこんな写真を撮らせてくださいね。」35歳独身の小川が機嫌よく言った。
 「掃除ときたら、次は炊事ですね。次は台所でお願いします。」巨漢の中島が甲高い声で言った。
 「あの・・・。お二人のお好きな格好で写真を撮って結構ですから、その代わり・・・」里佳子は思い切って二人の方を向いて言った。
 「触ったりするのは、許して下さい・・・・」
 里佳子はそのまま台所に向かい、高橋、中島、小川がそれぞれのカメラを持ってその後を追った。
  1. 2014/09/11(木) 12:57:57|
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管理組合の役員に共有された妻 70

 電話を切った瞬間、どっと汗が吹き出ました。
高橋さんは、まだ来ていませんでした。
ホットしたような、残念なような・・・そんな気持ちで
私はまた、妻の画像に目を戻しました。
驚いたことに、妻の画像の投稿は、その日より半年も前から始まっていました。
その日の画像以前のものは、ほとんどが日常のスナップ写真や、盗撮でした。
私が会社に言っている間の、普段の妻の姿をのぞき見るような気がして、とても興奮しました。
毎日のように投稿される妻には、着実にファンが増えているようでした。
日に日に増えるレス・・・
いずれも、妻の淫らな姿を待ち望む、助平な男たちの欲求を素直に表現してありました。
そして、そんな男たちのレスは、その日の投稿で爆発的に増えていました。
私は、その日の高橋さんのコメントを読み返しました。

 「・・・なお、近々奥さんの撮影会を企画しています。
  ご興味ある方からの連絡もお待ちしています。」

 『撮影会?・・・まさか』不安がよぎりました。『もしかして、それが今日・・・?』
 昨日からの妻の憂鬱そうな顔が思い浮かびました。それに、さっきの電話。何かいいたそうな・・・。
 高橋さんが、こんなチャンスを見逃すはずはない。高橋さんは、必ず今日も妻を撮影する。
 不安はやがて、いやな予感となり、私の頭を支配していましたが、
 一方で、私のペニスはズボンを突き破らんばかりに膨張していました。
 私は、妻と高橋さんの淫靡な撮影会を想像しながら、場所もわきまえず、ペニスを弄っていました。
  1. 2014/09/11(木) 12:57:16|
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B棟の人妻 (16)

 里佳子は『ビクッ』と振り返り、高橋を見た。
 「奥さん、電話ですよ。」
 「でも・・・・」
 「電話くらいでたほうがいいんじゃないですか?緊急の用事かもしれませんよ」
 「はい・・・」
里佳子は足早にリビングに戻り、3人のカメラ越しの視線を感じながら、陰鬱な気分で電話に出た。
 「はい○○です・・・」間が悪く、パンティを抜き取ったところだったので、グレーのスカートの下はノーパンだった。
 「あ、里佳子か。お・・俺だ。」
 「どうしたの?こんな時間に」
日中めったに電話をかけてくることのない旦那の声に、里佳子は少し戸惑った。
 「いや、ちょっと気になって。」
 「何が?」里佳子は高橋たちが来ていることを、主人に告げるべきか迷っていた。
 「いや、高橋さんが来るのって今日だったかなぁって思って・・・」
 「そうよ。」ノーパンの下半身をに頼りなさを覚えながら、里佳子は平静を装って答えた。
リビングで待ち構えていた小川と中島のデジタルカメラ、そして高橋のデジタルビデオが
里佳子の様子を監視するように見つめている。
特に中島のデジタル一眼レフは、ローアングルから里佳子の股間を狙っているようだった。
 「何時だっけ?」
 「え?ええ・・・多分午後だと思うけど。」
もちろん、高橋はすでに現れている。しかも二人のマニアックな男たちまで連れて。
しかし、脅されながらの成り行きとはいえ、男たちの前でパンティをはかずに電話をしている自分の状況が、つい嘘をつかせてしまった。
 「そ・・そうか、高橋さんによろしくな。」
 「わかった。それだけ?」
 「いや、まあ。じゃあ・・・」
 「あ、あなた・・・」里佳子は、再び迷った。
 『言うなら今しかない。すぐに帰ってきてもらえば、なんとかなるかもしれない』
そんな思いを見透かしたかのように、高橋がパソコンの画面を里佳子に向けた。
 「うん?どうした」
 「いえ、なんでも、ないの・・・」
画面に再び広がる、自分の生殖器のアップに、里佳子は言葉を詰まらせてしまった。
 「そうか。今日も早く帰れるからな」
電話はそう言い残して、無情に切れた。里佳子は恨めしそうに、受話器を眺めるしかなかった。
  1. 2014/09/11(木) 12:56:25|
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B棟の人妻 (15)

 「奥さん、ゆっくりお願いしますよ。おお、パンティが見えてきましたねえ!!」
高橋は絶えず里佳子が恥ずかしくなるような言葉をかけていた。
 「え?」パンティを太ももの辺りまで下げたとき、里佳子は思わず声を出してしまった。『濡れている・・・』
 黒いパンティが秘肉と触れる部分に、半透明の恥ずかしい体液が附着していたのである。
恥ずかしかった・・・。先日の忌まわしい夜でもそうであったが、自分の気持ちとは無関係に淫らな反応を示す体が憎かった。
里佳子は高橋に気づかれないように、すばやくパンティを脱ごうと焦った。
 「どうかしましたか?」
 「いえ、なんでも・・・」そう言いながら、里佳子は一気にパンティを足首まで下ろした。
 「イエーイ!奥さんのオ○ンコ見えちゃった!!」高橋が歓喜の声を上げた。
陰部を濡らしてしまったことに動揺し、あわてて前かがみになった里佳子は、
無防備なヒップを高橋のビデオカメラに向かって突き出してしまったのである。
高橋のビデオカメラは、太ももの奥に卑猥に歪む里佳子の淫肉を捉えていた。
 「いやあ!!」里佳子は慌てて、捲れ上がったスカートを下げた。
 「奥さん、あいかわらず、いやらしい割れ目ですね。」
ビデオカメラ越しに高橋が声を掛けるのを里佳子は無視した。
 「そういえば、あの時も僕はこうやって奥さんのこと撮ってばかりで、全然触れなかったんですよね」
 「その話はしないで!」
 「ちょっと触ってもいいですか?」
 「だ、だめです。」里佳子はスカートの下に何もつけていない自分を心細く思った。
 『それだけは、絶対にだめ。この前みたいなことは絶対に拒まなければ・・・』
 「まあ、いいか。撮る方が大事ですからね。」
高橋がそう言いながら、イヤらしく笑ったちょうどその時、リビングの電話が鳴った。
  1. 2014/09/11(木) 12:55:19|
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B棟の人妻 (14)

 高橋は里佳子の箪笥を無理やり物色し、一枚の白いパンティを選び出した。
 「奥さん、とりあえずこれにしましょう。」
 「わかりました。穿き替えますから、あっちの部屋で待っててください。」
 「僕のことは気にしないで、ここで穿き替えちゃってください。」
高橋は里佳子の言葉を無視して、ビデオカメラのレンズ越しに里佳子を見つめていた。
 「そんな・・・いやです。」
 「じゃなきゃ、小川さんも呼びますよ。小川さん、せっかくおとなしく待ってるのに・・・」
 「もう、本当に許して。」
 「だめですね。僕は記録係なんですから、奥さんのことは全部カメラに収めなくちゃ。」
 いったいどうしてこうなってしまったのか。やはり夫に言って、会社を休んでもらえばよかった・・・
 もし、このまま夫の知らないところで、他人に汚されたりしたら・・・。
 そして、それがばれてしまったとしたら、それでも夫は自分を今までどおり愛してくれるだろうか・・・
夫にマゾ的な性癖があることに気づいていない里佳子は、そんな最悪のシナリオを頭に描き、絶望していた。
 この一週間、一人で悩まず、きちんと夫に相談しておけばよかった・・・
 「奥さん!!」煩悶する里佳子を、高橋の大きな声が恥辱の世界に引き戻した。
 「どうするんですか?」
 「・・・・ここで着替えます。」
里佳子はか細い声でやっとそう言うと、クルリと後ろを向き、グレーのスカートの下から手を差し入れた。
 「いいですねえ、奥さん。」高橋はビデオカメラのレンズ越しに声を掛け、
 「『実録、人妻の着替え』ってとこですか。」と、里佳子を茶化した。
 『恥ずかしい・・・』里佳子は、スカートの中で、器用にパンティを下げはじめた。
  1. 2014/09/11(木) 12:52:58|
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管理組合の役員に共有された妻 69

 妻とは、今日のことをほとんど話していませんでした。
憂鬱な顔をする妻から、詳しいことを聞くことは、なんとなく憚られましたし、
私が、高橋さんが撮った写真を見るのを楽しみにしていることを悟られるのが怖かったため
そのことについてあまり会話はできなかったのです。
高橋さんは、どうやって、妻に画像を返すのだろうか・・・
メモリーカードを1枚渡すだけなのだろうか・・・
それとも、パソコンに画像を1枚、1枚写して妻に見せながら、妻の前で「消去」していくのだろうか・・・
妻は、自分の痴態を最後まで見続けることが出来るのだろうか・・・
 いや、それじゃあ、せっかくの画像を見ることが出来ない・・・
高橋さんが、貴重な画像を消すはずがないから、妻の画像を見るチャンスがなくなるわけではないが、
せいぜい、ここに投稿されている程度の画像で我慢するか、高橋さんに直接頼まなければならなくなる・・・
でも、その場合、建前上画像は消去済みになっているので、簡単には行かないはずだし・・・
 副会長たちに画像は渡っているのだろうか、そちらから入手することは可能だろうか・・・
 高橋さんは妻に、この投稿のことを言うだろうか・・・
 もし言ったら、それを知った妻の反応は・・・
 高橋さんは、これらのことをネタに、妻を辱めるつもりなのではないだろうか・・・
私の頭の中で、いろいろな思いが駆け巡りました。
 そういえば、あの日副会長に促されたのに、高橋さんは
『僕は今日の写真で部屋でオナニーします。』などと言って、一人だけ妻の肉体での奉仕を受けていないのです。
私は、高橋さんが何をたくらんでいるのか、改めて不安に思うのでした。
 ふと、腕時計を見ると、午前11時30分になっていました。
私は、いてもたってもいられなくなり、携帯電話を握り締めていました。
  1. 2014/09/11(木) 12:52:05|
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管理組合の役員に共有された妻 68

 次の画像をクリックすると、画面には中腰で山本さんの話を聞いている妻が写し出されました。
あの夜はいていた妻のベージュのミニスカートの奥に白いパンティが三角形に写りこんでいました。
 私は、憑かれたように次々と画像をクリックしました。
お尻をむけて自らスカートを捲っている妻、
ソファーに座りながらスカートを脱ぐ妻、
そしてブラジャーとパンティ姿でテレビの前に立つ妻。
画面には、あの時のシーンが一こまずつ、順を追って鮮明に写し出されました。
 体中が震えました。
 高橋さんに裏切られたとか、騙された、とは思いませんでした。
こうなることを期待していたのは私のほうなのです。
 しかし、それにしても、モザイクが薄すぎると思いました。
知っている人が見れば、妻だとわかってしまうのではないか・・・
でも、そのことがかえって私を興奮させるのでした。
 私は、高橋さんが、今日何時頃来ることになっているのかを聞いていなかったことに気づきました。
高橋さんは、もう来たのだろうか・・・
妻は、高橋さんを家に上げるのだろうか・・・
そして、お茶くらい出すだろうか・・・
それから・・・
私の想像は、あらぬ方向に向かって行くのでした。

  1. 2014/09/11(木) 12:51:14|
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管理組合の役員に共有された妻 67

 あるサイトで私は手を止めました。

 「今日も近所の奥さんを投稿します。
  いつもこっそり覗くだけでしたが、昨日、チャンスが訪れました。
  ここでお見せできるのはソフトなものばかりですが、この続きの画像を、
  目線・モザイクなしでご覧になりたい方、メールにて連絡ください・・・」

 投稿者の名前はT。投稿日はあの日の翌日になっていました。
私は、胸騒ぎを覚え、恐る恐る画面をクリックしました。
 ドキっとしました。
 思わず声を上げそうになりました。
 パソコンの画面に、二人の男性に囲まれた女性の笑顔が写されたのです。
モザイクこそかかっていましたが、紛れもない私の妻でした。
 それは、10日前の、副会長、鈴木さん、山本さん、そして高橋さんを招いた新年会のものでした。
『記念撮影』と言われ、妻が副会長と鈴木さんに挟まれて、ピースサインと笑顔を向けていたのを思い出しました。
私の心臓がバクバクと鳴り出しました。
 『せっかくだから、記念撮影しましょう。
田中さんも鈴木さんも、なかなかこんな綺麗な人と写真に写ることなんかないでしょう?』
 『あんまりアップにしないでくださいね・・・』あの時の会話が、はっきりと思い出されました。
この後妻は、高橋さんたちに上手く乗せられてしまい、陵辱の限りを尽くされたのです。
 次の画像をクリックする私の指が震えました。

  1. 2014/09/11(木) 12:50:34|
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管理組合の役員に共有された妻 66

 会社についても、妻のことが気になってまったく仕事が手につかない私は
取引先を訪問すると言って、早々に外出しました。
何をしても落ち着いていられそうもなかったので、ネット喫茶に入り、投稿サイトを覗いて回ることにしました。
 『もしかしたら、高橋さんが先日の画像をどこかに投稿しているのではないか』
 そう思いながらこの10日ほどは、暇さえあればいろいろなサイトを覗いていたのです。
あの時の妻と高橋さんの会話が鮮明によみがえります。
 『その、写真・・・・消してくれるんですよね。』不安そうに聞く妻・・・
 『・・・せっかくだから、インターネットで公開してみませんか?』
 『僕がよく見るサイトなんか、一度公開すると1000アクセスくらいはあります・・・』
 『奥さんの痴態が、1000人以上の男に見られることになりますね。』
高橋さんは、本気でそんなことを考えていたのでしょうか。
もし、妻の痴態が本当にネットで公開されていたら・・・
それを見た男たちの反応は・・・
 私は、妻が投稿されていることに期待と不安を抱きながら、
暇さえあれば「投稿」「人妻」「奥さん」などのキーワードでいろいろな投稿サイトを検索するのでした。
  1. 2014/09/11(木) 12:49:49|
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管理組合の役員に共有された妻 65

 あの日から10日が経ちましたが、妻に変わった様子は見られませんでした。
ようやく、私自身も落ち着きを取り戻しつつあり、久しぶり飲んで帰った夜のこと・・・。
 「今日、高橋さんから電話があったわ」
 「え?」酔いが一気に醒めました。
 「この前の写真、返すって。」
 「それで・・・?」
 「明日、持ってくる、って。」
 「そうか、よかった。これで一安心。同じマンションに住んでる人でよかったよ。」
全く安心したわけではありませんが、妻に心配をかけないように、なるべく、何でもないように言いました。
妻は暗い顔をしていましたが、忘れようとしていた陵辱の夜を再び思い出し、気持ちが重くなるのも無理はありません。
 「どうしたんだ。写真も返してもらえるんだから、これですっきりするじゃない。
きっと今までどおり、うまくやっていけるよ」
 「そうね・・・」
 実は私は、暗く沈む妻とは対照的に、早く高橋さんの作品が見たくて浮かれていたのです。
そんな思いを妻に悟られないように、私は「仕事がある」とか何とか言って、部屋に引きこもりました。
今思えば、仕事を持ち帰っている人間が飲んで帰るなんて変なのですが、
 『明日、この前の写真が見られる。』
そう思うと、下半身が熱く煮えたぎるように興奮し、収拾がつかなくなってしまっていたのです。
妻は何も言わず、寝てしまいました。

 翌日も、普段と変わらない一日が始まりました。
妻は、少し緊張したような顔をしていましたが、高橋さんのことは、あえて口に出しませんでした。
 私は、いつものように朝食をとり、7時30分頃家を出ました。
 『今日は早く帰るぞー』私は、昨晩3回もオナニーしたにもかかわらず、下半身を熱くしながら会社に向かいました。
  1. 2014/09/11(木) 12:48:48|
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以降の 管理組合の役員に共有された妻につきまして

これ以降第2部では夫が主体の『管理組合の役員に共有された妻』と妻が主体となった『B棟の妻』が並行して進行する事になります。
また、欠落箇所があるため、オリジナルノナンバーをそのまま記載します。
  1. 2014/09/11(木) 12:47:54|
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別れた妻 最終回

 やがて、時雄は口を開いた。
「君の言いたいことは分かった。どれだけ理解できているのか心もとないけれど、君の気持ちも俺なりに分かったつもりだ。そのうえで言いたい。君はあまり何もかも背負い込もうとしすぎだよ」
 固く握り締められたままの千鶴の小さな拳を見つめながら、時雄は言った。
「さっき病室でお母さんが言っていたよ。何事も頑張りすぎはよくない、ほどほどが一番だとね。誰でも綺麗なだけじゃ生きていけない。エゴのためによくないことや醜いこともする。誰かを犠牲にすることもある。それが本当に生きているってことじゃないのか。たしかに俺は君が出て行ったとき、辛い思いをした。その後も、ここ最近もずっと辛かった」
「ごめんなさい」
「まあ、聞いて。辛かったのは君が好きだからだ。ずっと好きだったからだよ。でもその思いは俺のもので、君のものじゃない。木崎も木崎なりに君のことは愛していただろうが、それと君の思いとは関係ない。君は誰かに何かに縛られる必要はないんだ。すべてのことに矛盾なく辻褄を合わせるなんて、世界中のどんな奴にだって出来るはずはない。皆、違った人間なんだ。だから憎んだり、怒ったり、哀しいことが起きるんだけど。でもそのうえで、出来るかぎりで誰かと心を合わせて生きようとしている」
「そうだとしても・・・自分のしたことの責任は取らなければなりません」
「それはそうだろうけど・・・だけど、少なくとも今の俺にとっては、本当はそんなことは重要じゃない。罪滅ぼしなんて望んでいない。君にとってはまた違うんだろうけど、俺は」
 責任とか、過去とか、罪とか。
 裏切りだとか、後悔だとか。
 そんなことはもうどうでもいいじゃないか。
 俺はただ、好きなだけだ。君のことが好きで、ずっと一緒にいたいだけだ。
 本当はそう叫びたかった。だが、時雄は言わなかった。そんな言葉で片付けるには、千鶴の迷い込んだ深遠はあまりにも深すぎた。どんな言葉も今の千鶴には届かない。彼女のくぐり抜けてきた暗闇の一部を覗き見た時雄だから、なおさらそう思えた。
 
「・・・君がどうしてもそうしたいと言うなら、俺にはとめられない。ただ、俺にも君を助けさせてほしい。言っておくが、木崎には金を返す必要はない。君も俺もそのために十分すぎる代償は払っている。それは木崎にも言い、奴もそれを受け入れた。もうひとつ、久恵さんの治療費に関しては、俺にもその負担を分けてほしい」
「お気持ちはありがたいです。でもこれ以上あなたに迷惑は」
「迷惑なんかじゃない」
 時雄は強い調子で、千鶴の言葉を遮った。
「久恵さんは俺にとっても大切な人なんだ。役に立てて嬉しいとは思っても、迷惑だなんて思いはしない。それは君に対しても言えることだ。俺は今でも君が好きだ。君のためならなんでもしたいと本当に思っている。だけど、今の俺が何をしても、それがまた君を縛ってしまうことになると思う。俺が金の問題を肩代わりして、君が俺のもとへ戻ってきてくれたとしても、それでは木崎と同じことになってしまう。君は俺に対して負い目を感じ続け、また別の人形になってしまうと思う。そんなことは俺も望んでいないよ」
 千鶴は黙ってうつむいた。その細い頸を時雄は見ていた。
「だけど、どうであれ、俺は君にこれ以上不幸になってほしくない。だから」
 時雄は一瞬、ためらった。その先の言葉は、本当は口に出したくなかった。
 だが―――言わなければならない。
「君がこの先、普通の仕事をして普通に生活していけるだけの生活費を考えた範囲で、俺も久恵さんの治療費を分け合う。何度も言うが、これは俺からの気持ちで出すお金で、何も負い目を感じる必要はない。でも、いくらそう言ったところで君の気持ちは納得しないだろう。だから―――俺はもう君には会わないことにする。連絡も取らない」
 千鶴の瞳が驚きで大きく開かれた。悲痛な想いでそれを見つめながら、時雄は言葉を続ける。
「俺のために何かしなければならないなんて思わないでもいい。俺は木崎にはなりたくない。これ以上、金や自分の気持ちで君を縛りたくない。君が自分の意思で生きていこう、そうすることで立ち直ろうとしているなら、決してその邪魔をしたくない。だから・・・もう会わない」
 本当は厭だった。
 どんなことになっても、ほかの誰かを傷つけてでも、千鶴の傍にいたかった。ずっと一緒に生きていきたかった―――。
 けれど、せっかく前向きに生きようとしている千鶴を縛りたくないというのも本心だった。千鶴が自分の意思と心で生きていこうと決意したなら、それを引き止めるような真似はしたくなかった。そうしなければ千鶴の心が救われないなら―――。
 突然告げられた別れの言葉に、千鶴は呆然としていた。やがて、大きく開いたままの瞳から、涙が後から後から零れだした。千鶴の震えた唇が動き、何か言おうとしたが、言葉にならないまま、また閉じられた。
 願わくば―――と時雄は思う。今の別れの言葉を、己に与えられた罰のように千鶴が受け取らないで欲しいと思う。そんなつもりは微塵もない。本当に千鶴を愛している。だから、今は彼女から離れなくてはならない。

 そのまま二人は、何も言わずにいつまでもそこに座っていた。


 一組の元夫婦の事情などかまうはずもなく、時間は流れ、過ぎてゆく。
 千鶴と再会し、また別れたあの秋から、季節は変わって冬になり春になり夏になり、そしてまた秋になった。
 時雄は相変わらず独りだった。周囲の状況にも変化はない。ただ淡々と仕事に精を出しているだけだ。
 千鶴とはあれから一度も会っていない。言葉どおり、千鶴の口座に毎月相応の金額を振り込んでいるが、それを本当に千鶴が使ってくれているかどうかも分からない。そうしてくれればいい、と祈るような想いでいるだけだ。

 先日、久しぶりに久恵の見舞いに行った。久恵は相変わらず時雄と千鶴が今も夫婦でいると思い込んでいる。それが辛くて、あまり見舞いにも行けない。千鶴と会ってしまう可能性もある。本当はそんな偶然が訪れることを心の底で願っているのが自分でも分かるので、なおさら時雄は行かない。
 自分から会うことはしないが、もう二度と千鶴と会えないと決まったわけでもない。もし、千鶴が立ち直り、彼女から会いにきてくれたら、もう一度ただの男と女としてやり直すことが出来るかもしれない。そうならなくても、千鶴が幸せになってくれればそれでいい。一年前、あの辛い日々の中でもがき苦しんだ意味はそれで十分にある。

 その先日の見舞いの時、時雄は久恵から千鶴の描いた花の絵をひとつ分けてもらった。時雄の一番好きな花を。

 だから時雄の何もない部屋では、季節外れの一輪のヒナギクだけが、今もそっと咲いている。

  
  1. 2014/09/11(木) 12:46:37|
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別れた妻 第33回

「千鶴・・・いつから?」
 時雄の問いに、千鶴は人差し指を口元へ持っていっき、目で久恵のベッドを指した。久恵は安らかな眠りについていた。
 時雄は納得して立ち上がり、そっと病室の外へ出た。千鶴も着いてきて、静かに戸を閉めた。

 病院のすぐ傍にある喫茶店は、平日の昼間だというのに混んでいた。
 二人ともコーヒーだけを注文した。
 千鶴はじっと時雄を見て、細い声で言った。
「驚きました。どうしてここが分かったのですか?」
「木崎に聞いた」
 時雄の答えに、千鶴は瞳を少し見開いた。
「・・・また木崎に会ったのですか?」
「探したんだよ。結局は向こうから会いにきたんだがね。木崎も君を探していたんだ」
「そうですか・・・」
「なぜ出て行ったんだい?」
 その問いは、三日前の夜に時雄の部屋から姿を消したことと、木崎のもとを離れたことの両方の理由を聞いていた。
 千鶴は重ねた両手を擦りながら、しばらく黙っていた。
 次の言葉を待ちながら、時雄は店内のざわめきを聞いていた。七年ぶりに再会してからずっと非日常的な状況でしか会う機会がなかったが、こうして穏やかな昼下がりにありふれた喫茶店で千鶴と向かい合っていると、一瞬、昔に戻ったような錯覚に陥る。あるいは先ほどの久恵との会話が、時雄をそんな気にさせるのかもしれない。

「・・あなたと再会してから、私、考えたんです」
 突然、千鶴はそんなことを言った。先ほどの問いの答えではなかったが、時雄は黙って先を促した。
「あの夜、あなたと向かい合って、昔、あなたにしてしまったひどいことの話を聞いてもらって・・・、でもあなたは私を救いたいと言ってくれました。凄く嬉しかったです。でも・・・同時に恥ずかしくなりました。自分が恥ずかしくなりました」
 千鶴は身を震わせて、合わせた掌をぎゅっと握った。
「身勝手な私のせいで、あなたを傷つけて・・・ずっと傷つけて・・・。それなのに、あなたは変わらなくて・・・。そんなあなたを見ていたら、自分がどれだけ醜い人間だったか思い知って、いたたまれなくなりました。だから」
「・・意味が分からないよ。君はたしかに俺に何も告げず出て行った。そのことは今でも怒っているし、悔やんでもいる。でもそれからの君の人生は、色々な不幸な偶然と木崎のせいで大きく歪められてしまっただけだ。醜いとか、恥ずかしいとか、そんなふうに思う必要はない」
 時雄は慎重に言葉を選びながらそう言った。だが、千鶴は静かに首を振った。
「違うんです」
「何が違う?」
「・・人生は何をして生きたか、ではなく、どういう態度で生きたかが一番重要だという言葉があります。誰の言葉かは知りませんが、本当にそのとおりだと思います。そして私はその意味で最低な生き方をしてしまったんです。たしかにはじまりは不幸が重なった結果といえるかもしれません。でも、その後で、その不幸に流されてしまったのは紛れもなく私なんです。そして自分だけでなく、あなたの人生まで深く傷つけてしまった」
 そう語る千鶴の顔に、この前の涙はなかった。ただ、厳しい覚悟のようなものが、その瞳の奥に窺えた。
「私は傷つくのを恐れて、逃げ回ってばかりいた子供だったんです。昔からそうでした。あなたと会ってからも、あなたに頼りきりでずっと自分は安全なところにいたんです。覚えていますか? あなたが最初に私を好きだと言ってくれたときのことを。あのとき、私は本当に嬉しくて嬉しくて・・・でも、後になってふと思ったんです。私もずっとあなたのことを好きでしたけれど、もし、あなたからそう言ってくれなかったら、私からはきっと何も言えずにずっと長い間後悔しただろうなって。傷つくのが怖くて、拒絶されるのが怖くて、結局、私は自分からは何もせずに逃げてしまっただろうなってそう思ったんです」
 千鶴の長い髪がはらりと揺れた。
「あなたと結婚して、幸せを手に入れた私は相変わらず変われないままで、そしてあんなことになってしまいました。そのときも私は何も言えなかった。そのせいであなたをもっと辛い目に遭わせてしまいました」
「・・・・・・・」
「その後も色々なことがあって・・・、最終的に私は木崎に助けられ、そして彼の人形になりました。彼にすべてを委ねてしまいました。・・・自分がひどいことをしている自覚はありました。こんなことになって、あなたには本当にひどいことをしてしまったと思っていました。・・・厭なことから逃げ回ったあげく、私は二重にあなたを裏切ってしまったんです」
 消え入りそうなほど小さくなっていく千鶴の声が、ざわめく店内で時雄の頭の中にだけにまっすぐ響いた。
「自分のしてしまったことを真剣に考えれば考えるほど、恐ろしい後悔と罪悪感でいっぱいになりました。そんな辛さから逃れるために、私は人形のようになっていたんです。人間はすべてを誰かに委ねて、自分の心で思ったり考えたりすることも放棄して生きるほうが楽なんです。その意味で私だって木崎を利用していたんです。木崎の奴隷のように生きることで、私は自分の罪や失ってしまった幸福の重さから逃れようとしました。途中で木崎もそんな私のことを本当に奴隷として扱い始めましたが、私は抵抗しませんでした。辛い目や酷い目に遭わされれば遭わされるほど、自分がひどい状態になればなるほど、私は自分を誤魔化すことが出来ました。一時だけですけれど。その後でまたより重苦しい気持ちがやってきて、私はどんどん自虐的になっていきました」
 似ている―――。
 時雄はそう思った。千鶴の語る言葉は昨日の木崎の話とどこか似ている。千鶴は精神的負担から逃れるために、木崎は千鶴の愛を受けられないという現実から逃れるために、いよいよ深い暗闇へ堕ちていった。まったく違う目的のため、手に手を取り合って。
「そんな日々を続けていたなかで、あなたと再会しました。あなたは何も変わっていませんでした。昔と同じようにまっすぐで、私のひどい話もきちんと聞いてくれて・・・。私はそんなあなたが嬉しくて、同時に自分がいかに醜い生き方をしているかを改めて悟ったんです。そんな自分が厭で厭で、あなたへの申し訳なさでいっぱいで・・・そのとき、思ったんです。もう遅いけど、してしまったことは消えないけど、これからは自分で自分のことを考えて、すべてから逃げずに生きていこうって。辛いこと苦しいこと、醜い自分からも逃げずに生きていこうって。それ以外は、自分の罪滅ぼしを本当にすることにはならないって・・・」
 千鶴は顔をあげてまっすぐに時雄を見た。
「ごめんなさい。私の話はあなたにとっては、意味が分からないかもしれません。そんなことよりも、もっと他にすべきことがあるんじゃないかって思われるかもしれません。でも、これが私の正直な気持ちです。今度は逃げないで、自分の力で母を救いたい。今まで傷つけたあなたへの罪滅ぼしもしたい。木崎に対しても、今までお世話になったお金はきちんと返します」
 しっとりと潤んだ千鶴の瞳に、燃えるような激しさを時雄ははじめて見た。
 息を呑むような思いだった。
  1. 2014/09/11(木) 12:44:51|
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別れた妻 第32回

 翌日は月曜日だったが、時雄は仕事を休み、千鶴の母親が入院しているという病院へ向かった。
 病院の所在は木崎に聞いた。
 昨日の苦しかった木崎との対峙を、時雄は思い出す。

「お前が何をしようが、奪われた時間はもう戻ってこない。今さらその時間を返せとも言わない」

 両者ともに魂をすり減らすような時間の終わりに、時雄は木崎に対して言った。
「だが、これからも千鶴につきまとうことだけは絶対に許さない。お前が千鶴の母親のために使った金がどれくらいのものかは知らないが、お前はその代価を十分に支払わせたはずだ。これ以上、千鶴の人生を金で縛るな」
「・・・・・・」
「もし、またそんなことがあるようなら、どこにいてもお前を探し出して、今度こそ叩きのめす。絶対に」
 木崎は黙っていたが、その様子に昔のようなふてくされたところはなかった。憑きものが落ちたようなその姿は一回り小さくなったようだった。

「最後に聞きたい。千鶴の居場所の心当たりはあるか?」
「・・・お前のところにいないなら、あとはひとつしかない。母親のいる病院だ。この何年もの間、時間があれば千鶴はいつもそこに通っていた」
「場所は?」
 時雄の問いに、木崎は迷うことなく答えた。それからくるっと背を向けて玄関に向かった。
「じゃあな」
 振り返らないままに、木崎は言った。
「もう千鶴には会わない―――」

 病院の受付係にはある程度の真実を素直に告げた。自分が入院している紙屋久恵の娘の別れた夫であること、世話になった久恵の見舞いをしたいこと。幸い、受付係の女性はその説明を信じてくれたが、しばらくまじまじと時雄の顔を見て言った。
「あなた、ものすごく顔色がわるいですよ。帰りにうちの医院で検査されたほうがいいですよ」
 時雄は苦笑するしかなかった。あまりにも苛酷なこの数日のために、身も心も疲れきっていた。

「久恵さん、とてもいい方で私も大好きなんですけど、お年のせいか、最近はちょっと記憶が混乱していたりします。そのことを少し、心に留めておいてください」
 時雄を案内してくれた看護婦はそう言って、病室の戸を叩いた。
「久恵おばあちゃん」
 看護婦の呼びかけに、ベッドの上の老女が顔をあげた。
「ああ・・・時雄さん」
「お見舞いに来てくだすったんですよ」
 看護婦はそう言って、時雄を中へ誘い入れた。
「お久しぶりです」
「ほんに・・・」
 久々に会った久恵は、当然のことながら記憶の中の久恵より老い、身体も小さくなっていた。長年にわたる病床生活で、腕も足も折れそうなほど細い。だが、柔和なその表情、優しげな目元は以前のままだった。
「この人はね、私の娘の旦那さんなんですよ。とてもいい方よ。あの子もいいひとにもらわれて、私、本当に嬉しく思っているの」
 久恵は顔をほころばせ、看護婦に向けてそう言った。驚いた時雄がちらりとそのほうを見ると、看護婦は無言でうなずいてみせた。
「そうなの。よかったね、お婆ちゃん」 
「はい・・・」
 看護婦の言葉に、久恵はにこっと笑った。人の善意そのもののようなその笑みは、張りつめた時雄の心を優しく潤わせた。
 ―――この世で一番尊い笑顔だ。
 本当にそう思えた。
 看護婦は久恵に笑い返し、もう一度時雄を見て無言でうなずくと、「失礼します」と言って出て行った。

「千鶴はよくお義母さんに会いにくるのですか?」
 しばらく久恵の体調や容態についての話をしたあとで、時雄はそっと聞いてみた。『お義母さん』という昔の呼び名を使うことは時雄にとっては切なくもあったが、久恵の中では時雄はまだ変わらず千鶴の夫だった。
「それはしょっちゅう。時雄さんにも迷惑だからそんなに頻繁にじゃなくていいといつも言ってるんですけどね・・・あの子は優しいから・・・。それより私は孫の顔が早く見たいですねえ」
 久恵の言葉に時雄はなんと答えていいか分からなかった。記憶の混乱した久恵は、千鶴と話すときも、今でも娘の夫は時雄であると思いこんで話していたのだろうか。そんなとき、千鶴はなんと答えていたのだろう。母親に夫のこと、家庭のことを聞かれて、千鶴はどう答えていたのだろう。
 そんな場面を想像して、時雄の胸は痛んだ。

「そういえば、昨日もあの子は来ましたよ。この花を見舞いに持ってきてくれました」
 幸い、久恵はあっさり話を変えて、ベッドの横の台上を指差した。久恵は『花』と言ったが、実際はそれは縦長の画用紙に描かれた絵だった。花は金木犀、素朴なタッチと繊細な色使いは、明らかに記憶の中の千鶴のものだった。
「あの子はよくこんなふうな花の絵を持ってきてくれるんですよ。絵なら枯れないし、いつでも楽しめるからねえ。ほら、ここにたくさん」
 そう言って久恵は台の引き出しからクリアファイルを取り出した。受け取って開いてみると、そこには花、花、花。春夏秋冬を彩る花の数々が、季節ごとにきちんと整理されて並べられていた。
 暗鬱な日々を生きる中でも、千鶴は床に伏す母に贈るため、こうして何枚も何枚も美しい絵を描き続けていたのだ。眺めていると、自然に涙が出てきた。今までどんな辛い目にあっても涙は出なかったが、今度ばかりはたまらなかった。そもそものはじまり、時雄が千鶴という女性に惹かれるきっかけとなったのも、温かさに満ちた彼女の絵だった。そして今、眼前には千鶴の絵があふれている。千鶴があふれている。
 ぽろぽろと涙をこぼし、声もあげずに泣く時雄を、久恵は驚いたように見ていたが、やがてまた慈愛に満ちたあの笑みを浮かべた。
「どうも、時雄さんは疲れているようですね。何事も頑張りすぎはよくありませんよ、ほどほどが一番・・・。ほら、そこの椅子に座って、今日はしばらく休んでいかれたらどうですか」
 時雄は久恵に頭を下げ、彼女の言葉どおり病室の椅子に腰掛けた。涙をぬぐって、瞳を閉じる。
 これまでひどい日々の連続で心身ともにすり減らしてきたが、今日この瞬間だけでその甲斐はあったと思えた。それほど胸が熱くなっていた。
 そのまま、ゆっくり時雄は眠りに落ちた。久々の、何もかも包みこまれるような眠りへと。

 そして、目が覚めたとき、目の前には千鶴がいた。 
  1. 2014/09/11(木) 01:39:30|
  2. 別れた妻・七塚
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別れた妻 第31回

 木崎が初めて知った頃の千鶴は、新品の真綿のような女だった。清潔でふわふわとしていて、軽く力をこめれば簡単に引き裂けるようなはかない雰囲気が木崎の心を捉え、また時には薄汚れた自分との絶望的な距離を感じさせた。

 だが、それは昔の話である。
  
 金のために風俗に身を堕とし、見知らぬ男と寝ていた千鶴。
 挙句の果てにはまた金のために、自分を犯した男の所有物となった千鶴。
 そんな千鶴はどうしようもなく惨めな女であるはずだった。
 実際、木崎のものになってからの千鶴は、まるで抜け殻のようで、かつての面影をまったく失っていたのだ。
 だからこそ、木崎はそんな千鶴の中に唯一残っていた時雄への無垢な愛情が憎かった。
 その愛情は永遠に自分へ向けられることがないという事実が憎かった。 

 それからの木崎は千鶴を汚し、貶めることに異常な情熱を燃やした。思いつく限りの淫虐を千鶴にくわえた。

『お前は商売女だ。金を取って男と寝ていたんだ。それを忘れるなよ』

 そんな言葉を木崎は執拗に繰り返し、千鶴の心を嬲った。
 どんなにあがこうが、苦しもうが、もう二度と幸福な昔には帰れない、穢れのない姿には戻れない―――。
 絶えずそう言い聞かせ、彼女のもっとも深い心の傷にナイフを刺しこむことで、木崎は千鶴に自覚させようとした。今の自分は木崎に金で買われた身であること、二度と再び時雄の前には姿を出せない自分であることを。
 木崎が言うまでもなく、千鶴自身そのことは絶えず思っていたはずだ。どんなに辛い仕打ちにあわされても、ほとんど唯々諾々だった千鶴がそのときは悲痛な表情を隠せなかった。そんなとき、木崎は鋭い痛みとともに、自虐的な快感を覚えていた。
 千鶴を傷つけることは、木崎にとっては自傷行為にも近かった。そうと気づいていながら、やめることは出来ず、木崎はどんどんとその行為にのめりこんでいった。

「本当に救いようのない歳月だった・・・暗闇で滅茶苦茶に突っ走っているような・・・その結果がこれだ。千鶴は出て行った」
 木崎は苦渋の吐息を漏らした。
「最初は千鶴への復讐のつもりだった。俺がどんなに愛しても、決して俺を見ようとはしないあの女への復讐。だが、今思えばそうじゃなかったのかもな。諦めのわるい俺は、そうやって千鶴を汚すことで、いつかはあいつを本当に手に入れられると考えていたのかもしれない。間抜けな話さ。結局、千鶴はお前と再会してから、あっという間もなく俺から去っていった」
 木崎はそう言って、乾いた笑い声をたてた。
 時雄は黙ってそんな木崎を見ていた。
 やがて、言った。
「お前の話は―――それで終わりか?」
「・・・え?」
 聞き返した木崎の鼻面を、時雄は渾身の力で殴りつけた。
 腰掛けたソファごと、木崎は床に崩れ落ちた。
 時雄は立ち上がった。這いつくばった木崎を睨みつけた。
「ふざけるなよ・・・!」
 そう吐き捨てた。
「お前がどんな思いで、どんなことを考えて生きてきたのかなんて、俺にとってはどうでもいい。お前は俺と千鶴の人生を身勝手に捻じ曲げたんだ。千鶴の心を得たかっただと? 愛されたかっただと? いいかげんにしろよ、何様のつもりだ。千鶴はモノじゃない、生きて悩んで苦しんでいる人間なんだ。千鶴の心は千鶴のものだ、他の誰のものでもない」
 分かっている―――。
 誰かを愛しすぎた人間は木崎のようになる。愛する者を自分だけのものにしたくなる。独占欲に狂っては、檻の中に閉じ込めて、自由を奪って、自分に都合のいい姿だけを見せてほしいと願う。時雄にだってそういう部分はある。とりわけ千鶴に対しては――。
 だが、それは思春期の少年が夢見るような幻想だ。決して形にしてはならない熱病のような想いだ。
「お前が身勝手な理屈をどれだけこねようが、お前に誰かを傷つける権利はない。苦しむなら自分だけで苦しめよ。千鶴を巻き添えにするなよ。そんな、そんなくだらない理由でお前は千鶴の七年を」
 俺の七年を奪ったのか―――。
 時雄は血を吐くような想いでそう叫んだ。
 木崎はがっくりとうなだれたまま、何も言い返さなかった。

 やがて―――
 少しだけ落ち着きを取り戻した時雄は、低い声で聞いた。
「ひとつ聞かせろ。お前は千鶴と籍を入れているのか?」
「・・・いや。なぜだ?」
「千鶴がそう言った」
 時雄の言葉に、木崎ははっとした表情になった。その顔がゆっくりと歪み、木崎は馬鹿笑いを始めた。実に苦しげな笑みだった。
「ははは、こいつはおかしい。最初、俺はあいつを自分の力で幸せに出来たら、そのときにきちんと籍を入れようと思っていたんだ。それが―――俺の夢だった」
 木崎の目尻から涙が落ちた。
「まったく、どこまで俺を虚仮にすれば気がすむんだ、あの女は」
「お前に千鶴を責める資格はない」
 時雄は抑えた声でそれだけ口にした。

「なあ・・・」
 しばしの沈黙の後で、木崎はぼんやりと言った。
「千鶴は・・・お前のところへ戻るのか」
 時雄は宙を見つめた。自分の心と、今もどこにいるのか知れない千鶴の幻影を見つめた。
 そして、答えた。
「分からない。それは千鶴が決めることだ」  
  1. 2014/09/10(水) 02:15:31|
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別れた妻 第30回

 千鶴と暮らし始めて数年の間は、木崎は幸せだった。
 もちろん、傍らの千鶴は、かつて木崎が死ぬほど恋焦がれた女とは違っていた。昔の千鶴ははにかむようにしながらもよく笑う女だったが、その頃はむしろ生気のない、人形めいた女と化していた。苛酷な生活の果てに、感情をどこかに置き去りにしてしまったかのようだった。かつて確かに抱いていた木崎への激しい憎しみさえも。
 だが、それは木崎にとっては都合がよかった。ようやく手中に収めた千鶴は自分に対してひたすら従順だったが、それは愛情ゆえではない。木崎が肩代わりして払っている母親の治療費ゆえだ。そのくらいのことも分からないほど、木崎は愚かではない。しかしそうであっても、とにかく憎まれることさえなければ、いつかは本当に千鶴の愛を手に入れられる日が来るかもしれない。木崎はそう考えた。
 だから、木崎は千鶴に尽くした。徹底的に。金で千鶴を縛っているだけだ、と考えるのは自分でも苦痛だったが、その気持ちを表す手段も木崎にとっては金しかなかった。
 木崎は千鶴に金をかけた。美しい服を買い与え、常に美しく着飾らせた。そうすることで、一時の悲惨な生活で生彩を欠いていた千鶴の美貌が蘇ってくるのが、木崎には嬉しかった。相変わらず生気を欠いた千鶴の表情が、かえって異様な美を形作っていた。
 その頃の千鶴はまさに人形だったといっていい。木崎の欲望を満足させ、妄想を昂進させる着せ替え人形のような存在だった。
 だが、それから約一年後のある日。木崎の蜜月は急に終わりを告げた。

 その当時、自分のいないときに、千鶴がどこかによく出かけているようだと木崎は気づいていた。それまではそんなことはなかったので、木崎は不安になって千鶴を問い詰めた。いつも無表情だった千鶴の顔に、さっと動揺が走るのを木崎は見た。

 
「俺は千鶴を問い詰めた。あいつからようやく話を聞いて、仰天したぜ。千鶴はどこへ行っていたと思う? ここだよ、お前が住んでいるこのマンションの前だ。もう一箇所ある。昔、お前と暮らしていた家だ。その家はともかく、千鶴がどうやってお前がここに住んでいることを知ったのは、俺には分からない。だが、あいつはよくここに来ていた。お前のいない時間を見計らってな。あの向かいの喫茶店で、ぼんやりこのマンションを眺めていたんだ」
 木崎は自嘲気味に鼻を鳴らしながら、そう言った。
 時雄は驚いていた。千鶴が昔、このマンションの前によく来ていた? 時雄が暮らしていると知りながら、わざわざ時雄のいない時間にやってきて、千鶴はどんな想いでこの建物を眺めていたのだろう。それから何年も経った一昨夜、初めてこの時雄の部屋に足を踏み入れたとき、千鶴はどんな想いでいたのだろう。
「俺も千鶴の話が本当かどうか、確かめるため、ここに来たことがある。だから、俺は今日ここへ来れたのさ。あのとき、一度来ていたからな」


 そうしてマンションの表札にたしかに時雄の名があることを確認した木崎は、深い絶望に陥った。
 千鶴と暮らすことで手に入れたと思っていた、理想的な生活が音を立てて崩れていくようだった。
 ようやくモノにして、今度こそ掌中の珠を慈しむように愛していこうと誓った女。
 その女の心の中には、まだあの憎い男がいた!
 なんということだろう。
 会える望みもなく、会っても憎まれるだけだと知りながら、かつて愛した男の住んでいる部屋をぼんやりと眺めている千鶴。その姿に、かつて血を燃えたぎらせるような想いで千鶴と時雄のいるアパートを見つめていた自分が、木崎の中でオーバーラップした。 
 ある意味、木崎は誰よりもそのときの千鶴の心情を理解出来る男だった。だからこそ、木崎は怒りと憎しみで我を忘れた。
 木崎が千鶴を決して忘れられなかったように、千鶴もまたあの男のことを忘れられないのだ。そう思うと、いつかは千鶴の愛を受けられると夢見ていた自分が、たまらなく惨めになった。なんという道化者だったのだ、自分は!
 千鶴の心はあの男を去らない。木崎は決して千鶴から愛されることはない。
 それならばいっそ、傷つけてやる。傷つけて、傷つけて、二度と元には戻れないくらい、徹底的に堕としてやる。
 憎悪の虜となった木崎の心は、今度はそんな妄執に取り憑かれた。
  1. 2014/09/10(水) 02:14:24|
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別れた妻 第29回

 そして―――あの運命の日がやってきた。
 木崎は千鶴を犯した。
 あまつさえ、その事実を脅迫の種に使い、千鶴に関係を迫った。

 あの時期の千鶴の怯えた瞳は忘れられない。千鶴は世の中に存在するぎらついた悪意を知らずに育ってきたような女だった。かつては母親が、やがては時雄が、千鶴の強力な庇護者となり、世間の波風から徹底的に守ってきたからだ。
 そんなふうに育ってきた女がいきなり強烈な暴力に晒され、肉欲の捌け口となった。
 砂漠にいきなり放り出されたハツカネズミのように、千鶴はただ怯えていた。
 まるで鬼か化け物でも見るように自分を見つめる千鶴に、木崎自身も困惑を覚えていた。もともとはこんなふうにしたかったわけではない。掌中の珠を守るように千鶴を愛したかったのは木崎とて同じことだった。
 困惑はやがて激しい憎しみへ変わった。子供は欲しいものが手に入らないと、逆にそのものを憎むようになる。いくら望んでも手に入らないから憎いのだ。そして、木崎は子供だった。
 夫に真実を告げられない千鶴の弱さを盾にとり、木崎は千鶴の肢体を弄んだ。
 本当に欲しいのは千鶴の心。
 だが、それは永遠に叶うことはない望みである。
 もう戻れはしない。戻ることは二度とこの女を抱けなくなることである。
 そうする気にはなれなかった。何があっても。
 矛盾する愛憎と破滅への恐怖が、いよいよ木崎を狂気に駆り立てた。

 しかし、強制的に結ばせた関係はすぐに破綻した。時雄に不倫の現場を見られたのだ。
 木崎は怯えていた。この期に及んでは、さすがに千鶴も不倫の発端がレイプであったことを夫に告白するだろう。そうなれば―――いよいよ木崎は何もかも失うことになる。
 だが、千鶴は時雄に何も言わなかった。ただ、離婚の意思を示しただけだった。
 同時に千鶴と木崎との関係も終わった。
『あなたを恨んでいます。一生、恨みます』
 そう告げられた。
 それまで怯え一辺倒だった千鶴の目に、木崎ははじめて燃えるような怒りを見た。いくつになっても少女めいた雰囲気を持ち、無垢な小動物のようだった千鶴が、そのときはじめて生々しい憎悪の感情を爆発させたのだ。
 木崎は衝撃とともに、そんな千鶴を見つめた。

 やがて、本当に千鶴は時雄と離婚した。
 してやったり、とは思わなかった。どうせ時雄と別れても、千鶴が木崎のもとに戻ることはない。それどころか、一生、自分は憎悪の対象のままだ。
 なぜか、そのことが木崎の心を深く沈ませた。狂おしいほどに。

 ところが、運命のいたずらが起こる。千鶴のたったひとりの家族である母親が重い病に倒れ、千鶴はその治療費を捻出するためにソープに身を沈めたのだ。
 偶然、木崎はそのことを知った。ひどくショックだった。転がり落ちるような千鶴の不幸がショックだったのだ。言うまでもなく、そのひきがねを引いたのは木崎自身であるが、同時に木崎は千鶴のことを深く愛してもいた。狂気じみた愛憎の末に、滅茶苦茶に傷つけておきながら、いまだに身勝手な愛情を抱いていた。

 木崎は千鶴の勤めるソープに通った。
 千鶴はすでに昔の千鶴ではなかった。畳み掛けるような不幸の果てに、千鶴がかつて持っていた無垢な色は消え去り、かわりにどこか凄惨な空気を身にまとっていた。
 客としてやってきた木崎に、千鶴は激しい拒否反応を示した。当たり前だ。その瞳に映る燃えるような憎悪は消える気配すらなかった。木崎は木崎でここまで千鶴を堕としてしまったことに対する後悔と懺悔の念を抱いていた。少なくともそのときまでは。
 拒まれても、拒まれても、木崎はその店に通った。
 会うたびに口も聞かず、何もせずだったが、千鶴が次第にぼろぼろになっていくのは目に見えて分かった。母親のためとはいえ、それまで生きてきた世界とあまりにもかけ離れたところに放り込まれたのだ。かつての千鶴を知っているものからすれば、よく気がおかしくならなかったものだと思う。

 ゆっくりと崩壊していくような日々を過ごす中で、千鶴の木崎への対応も変わっていった。商売女らしい媚びを見せるようになったわけでもなく、相変わらず口もきかなかったが、いつ来ても指一本触れず、ひたすら懺悔し続ける木崎に、千鶴はどこか気を許すようになっていくようだった。

 孤独な人間ほど隙のあるものはいない。そのときの千鶴は本当に独りだった。木崎にすら心を許さずにはいられないほどに。
 千鶴の心が徐々に自分を受け入れつつあることに気づいた木崎は、予想外の展開に内心で狂喜した。これでやっと、対等の関係で千鶴と向き合うことが出来るようになったと思ったのだ。それは大学時代からの木崎の宿願だった。

 やがて、木崎はかねてから考えていた提案を口にする。母親の治療費を自分が肩代わりすること。そのかわり―――とは言わなかったが、木崎の言下の意図には千鶴だって気づいていたはずだ。だから、木崎はむしろおずおずとその提案を言った。
 その日、千鶴は何も言わなかった。だが、何を馬鹿なことを、と言ってその提案を撥ねつけることもしなかった。
 木崎の心は躍った。
 次にその店に行ったとき、ついに木崎は望みのものを手にする。千鶴が自分から身を任せてきたのだ。それが返事だった。

 ようやく、この女を本当に手に入れた!

 木崎はそう確信した。
最高の気分だった。
  1. 2014/09/10(水) 02:13:08|
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別れた妻 第28回

 不意の木崎の出現に、時雄は驚くよりもショックを受けた。あれほど苦しい思いをして探していた人間が、自分からのこのこ現れたのだ。
 一昨夜、時雄に殴りつけられた木崎は、痛々しい顔の傷以外にも相当のダメージを受けているらしく、よろめくように車から降りた。その姿を見つめる時雄の心はむしろ呆然としている。
 時雄が何か言おうと口を開く前に、木崎は言った。
「千鶴はここにいるのか?」
 どういう―――ことだ?
 不可解な顔をした時雄の反応に、木崎はひとりで納得したようだった。
「そうか、いないのか」
「・・・千鶴はお前のところに戻っていないのか?」
 ゆっくりと時雄は木崎に近づいていく。木崎の目に警戒心と怯えのようなものが見えた。その木崎の肩を時雄は掴む。
「どうなんだ!」
「いない、俺のところにはいない」
「じゃあ、どこにいるんだ」
「知らない。俺はてっきりお前のところだと思っていた。だから来たんだ」
 時雄は木崎の肩を掴んだまま、しばらくその顔を睨みつけた。
 木崎も精一杯の虚勢を張って、時雄の顔を睨み返す。
 そのまましばらく対峙していた。
「とりあえず、俺の部屋に来い。そこで話を聞かせろ」
 やがて、時雄は言った。

「本当に・・・いないようだな」
 木崎の呟きを無視して、時雄は煙草に火を点ける。
 煙を吐き出しつつ、問う。
「いつから千鶴はいなくなった?」
「昨日からだ。・・・お前にやられたこの怪我のせいで、俺はその前の夜から家でずっと寝ていた。いつまで待っても千鶴も戻ってこなかったんでな。千鶴はここにいたんだろ?」
「・・・・・・」
「それは本人から聞いた」
 木崎は唇の端で薄く笑った。
「あいつを抱いたんだろ?」
「・・・・千鶴は翌朝早く、知らないうちに出て行った。やはり、その後一度お前のもとへ帰ったんだな」
 木崎の言葉をまたも無視し、時雄は話を続けた。
「そうだ。朝帰りしておきながら、ご丁寧に俺の怪我の手当てをして、また出て行きやがった。昨夜も戻らない。それで俺はまたお前のところへ行ったのかと思ったんだ」
「出て行くときに引き止めなかったのか」
「ふん。何があったのか知らないが、俺の話なんて聞きやしない。ただただ泣いてわめいて、『このままではいられない』、『お世話になったお金は返す』の一点張りだ。それに引き止めようにも、俺のほうは怪我でろくに動けやしなかったからな」
「・・・・・・」
「いったい俺が今までいくらあいつに金を遣ったか・・・それを元の亭主に会うやいなや、あっさり俺を捨てていきやがった。まったく、たいした女だよ」
「・・・お互いさまだろ。いったい、この七年でお前は千鶴に何をした? レイプしたあげくに、金で縛って、言いように玩具にしていたんだろう」
 凄いほど怒気を孕んだ声で、時雄は言った。
「お前が千鶴の人生を壊したんだ。俺の人生もな」
 木崎は一瞬怯んだようだったが、すぐに持ち前の皮肉な笑みを浮かべた。
「たしかにそうかもな・・・だが、俺だって別に幸せだったわけじゃない。ずっと、長い間」
「知るか」
 時雄は短く吐き捨てた。
「俺は大学時代ずっと、あいつのことが好きだった。それはお前も知っているだろう?」
 時雄の言葉を今度は木崎が無視して、話を続けた。
「だが、お前がいた。お前もまた千鶴のことが好きで、なんとかモノにしようとしていることは、すぐ分かったぜ。内心焦ったよ。お前には、お前にだけは勝てる気がしなかったからな」
 いつも尊大な口調でしか、時雄に向かい合わなかった木崎が、なぜかそのときは様子が違っていた。そんな木崎に時雄は戸惑いを覚えた。
「そして筋書き通りに、千鶴はお前のものになった。あのときは、口惜しくてたまらなかった。逆恨みとは分かっていても、千鶴も、千鶴を奪っていったお前のことも、憎くてしょうがなかった」

 木崎の千鶴への思い入れも、時雄と同じく凄まじいものがあった。
 同じサークルにいる以上、いやでも時雄と千鶴が、恋人となった千鶴の姿が目に入る。それが苦痛で仕方ない。ならばさっさとサークルをやめればいいのだが、木崎はそれもしなかった。あくまで千鶴に執着していた。
 だが、そのときはまだ千鶴を時雄から奪い取ってやろうとは考えていなかったという。
「最初に千鶴がお前のものになったと聞いたとき、ああ、やっぱりなと思った。俺はもともとお前を恐れていたんだ。俺には、お前が別の次元にいる人間のように思えた。絵の才能も男としても、とてもかなわないと思っていた」
 だが、屈折した木崎は内に秘めた思いを口に出すことはなく、むしろ傲慢な調子で時雄に接した。時雄が年下だったことも、木崎のプライドを刺激したようだ。
 とはいえ、時雄から千鶴を奪うことは出来そうにない。二人は誰が見ても似合いのカップルだった。
 だからといって、千鶴を忘れられもしない。
 あるときなどは千鶴のあとをつけて、時雄のアパートの部屋に入るのを見とどけ、それから朝までそのアパートを外から眺めていた。
「暗すぎて笑えるだろ? あの頃はとても正気じゃなかったな」
 自嘲の笑みを浮かべながら、木崎は回想した。

 やがて、木崎にとっては暗い思い出となった大学時代が終わった。
 一時は美術関係の職につくことを志した木崎はしかし、平凡なサラリーマンとなり、平凡な毎日を送っていた。恋に敗れ、夢に敗れた木崎は新しい何かをみつけることも出来ず、ただ鬱々としていた。
 そんなときである。大学の美術サークルの同窓会の話が持ち上がった。
 その知らせを聞いたときはもちろん断ろうと思っていた。しかし、そのとき電話してきたかつての仲間の話を聞いて、木崎は顔色を変えた。
 大学時代の苦い思い出の象徴ともいえるあの男。今では千鶴と結婚したあの横村時雄が、かつて木崎も志望していたデザイン系の会社に就職しているという。
 時雄は木崎の手に出来なかった夢も、恋もすべて手に入れたのだ。
 電話を切った後も、その日はショックでずっと寝つかれなかった。
 敗北感、喪失感、そして嫉妬の念が木崎の中でどろどろと渦巻き、身を焼いた。
 千鶴の顔が浮かぶ。大学時代、時雄も千鶴もシャイな性格なので、人の目のあるところでは決してべたべたしなかったが、ふとした瞬間に千鶴が時雄を見つめていることに気づくことがあった。その顔に浮かんでいる幸福さと愛しさの表情は、まさに恋する女のそれだった。
 いったい何度、苦い想いでそんな千鶴の表情を木崎は見つめたことだろう。
 友人からの電話で、絵に描いたような二人の近況を聞いたとき、木崎の脳裏に浮かんだのは、まさにそのときの千鶴の表情だった。
 あの女は今もまだ時雄の傍らで、そんな幸せな表情を浮かべているのだろう。
 その様子を思い浮かべると、木崎は気がおかしくなりそうだった。いや、すでにおかしくなっていたのかもしれない。そのときにはもう、木崎の頭にうっすらとあの同窓会の夜の計画が具体的な形を取りつつあったのだから。
  1. 2014/09/10(水) 02:12:02|
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別れた妻 第27回

 過去を振り返ることが嫌いだった。
 後ろ向きに生きていくことは何よりも耐えがたかった。
 かつて、時雄は確かにそんなタイプの人間だった。
 辛いときも、哀しいときも、そのままの状態で沈み込んでしまえば、救いようのないところまで堕ちていってしまいそうで怖かった。
 だから、もがいた。ひどい気分のときはもがいて、あがいて、どうにかして立ち直る。それがある時期までの時雄の生き方だった。
 現状を受け入れてしまえば、自分の弱さを認めることになりそうで、厭だった。どんなときも、負けたくはなかった。
 いつからだろう。そんな時雄の生き方に変化が訪れたのは。
 不意に訪れる哀しみに流され、沈み込むようになっていったのは。
 ―――千鶴と別れてからだ。
 青天の霹靂としか言いようのないあの離婚劇は、時雄から最愛の女だけでなく、男としての自信のようなものを確かに奪い去った。
 ときには傲慢とさえとられた時雄の自分自身を信じぬく気概は、あの事件をきっかけに失われ、かわりに己への不信感のようなものが芽生えた。
 本当の自分はこんなにも弱く脆い人間だったのだ、と。
 そもそも、時雄がいつもいつも自分を奮い立たせて生きてこれたのは、千鶴がいたからなのかもしれない。自分を貫きとおした結果、どんな酷い目に遭って、どんなに周囲から孤立したとしても、千鶴だけは傍にいてくれる。ずっと見守っていてくれる。かつて、時雄はたしかにそう信じていた。
 だから、千鶴が去っていってからの時雄はまったく別の人間になってしまった気がした。
 孤独―――。
 そして、時雄は過去ばかりを見つめる人間になった。どうしようもない後悔とやりきれなさに始終支配されている人間になった。

 そして今も―――
 時雄は終わってしまった過去に苛まれている。
 伊藤から聞かされた、自分と別れてからの千鶴の人生の断片。
 救いようのないその話は、時雄の心を打ち壊すだけの圧倒的な力を持っていた。
 理不尽に訪れたあの離婚のときも、それ以降の長い年月も、そしてつい最近再会し、あの恐ろしい告白を聞いた後でさえも、時雄は心のどこかで千鶴を信じる気持ちを捨てられなかった。憎しみや怒りや自分自身への不信感はあったとしても、だ。
 なぜそこまでの思い入れがあるのかと考えても分からない。心から愛していたからと言えばそれまでだ。あるいは、短い期間ではあったが、千鶴と暮らした幸せな年月の記憶を汚したくないという想いがあったのかもしれない。あの年月すらも幻だったとしたら、時雄の人生は本当に何もなくなってしまう。
 それが怖かった。
 伊藤は他人だ。当たり前の人生を歩んでいたら、時雄とも千鶴とも一生関わることがなかったであろう男。
 その男の目から見た、つい最近までの千鶴の姿は、時雄には信じがたいものだった。かつての千鶴からは想像も出来ない姿。
 だが、それは実際にあったことなのだ。
 一昨夜の告白で、千鶴はもっともひどい状態だったとき、木崎に助けられたといった。それをきっかけに、身も心も木崎に売り渡してしまった、と―――。
 それはつまり、木崎の望むような女になったということだったのか。伊藤の話に出てきた破廉恥な振る舞いさえ厭わないほどの女に。
 
(嫌よ嫌よも好きのうちってね。そういうプレイなんだよ。男が卑猥なことを女に強制して、女はいやがる素振りを見せながら従うことで、下半身を濡らす。本当にいやだったら、まともな神経をしていたら、そんな馬鹿げたことをやる女はいないよ)

 不意に伊藤の言葉が蘇る。目の前が真っ赤になって、時雄は慌てて道の端に車を停める。
 息をついて、呼吸を落ち着かせた。
 そんなことがあるはずはない。
 たとえ、言葉どおり、千鶴が木崎の奴隷になっていたとしても、そんな境遇に彼女が暗い楽しみをおぼえていたなんてことは、あるはずはない。
 心に湧いた疑念を必死に打ち消しながら、一方で時雄は自嘲している。
 いまだ千鶴を信じる心を捨て切れていない自分を哂っている。
 

 時雄は伊藤の話を最後まで聞くことは出来なかった。すでに神経はぎりぎりまで痛めつけられていて、気がおかしくなりそうだった。
 明らかに様子のおかしい時雄に伊藤は恐ろしげな顔をしていたが、とにかく木崎の住所だけは教えてくれた。
「それで、写真は・・・」
 それだけ聞いてさっさと靴を履きかけた時雄に、伊藤は玄関口でおそるおそる声をかけた。
「―――――!」
 ものも言わず、時雄は手にしていた写真をびりびりに破き捨て、伊藤の家から飛び出した。つい一時間前のことだ。
 そのまま時雄は自宅に向かった。木崎の家に直行はしなかった。すでに食わず寝ずの生活が長く続いていて、身体も心もぼろぼろである。このままの状態で木崎と対峙することは出来そうにもなかったし、その前に自分が何のために何を望んで動いているのか、またも時雄には見えなくなっていた。
 あるいは―――時雄は怖かったのかもしれない。木崎の家に行き、そこにいるかもしれない千鶴と直接向き合うことが・・・。

 自宅マンションの駐車場に車を停め、時雄は自室に向かった。
 とりあえずはもう何も考えないで、ただ身体を休めたかった。
 だが―――
 マンションの前に停まった車の中から、こちらをじっと窺っている男が目に入った。
 顔中アザだらけで、ところどころガーゼや絆創膏を貼っている。その下から時雄を見つめる、あの暗い目つき。
「木崎・・・・」
 時雄は思わず呟いていた。
  1. 2014/09/10(水) 02:10:49|
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別れた妻 第26回

「・・・あなたは」
 時雄はようやくのことで声を絞り出した。
「どうしてそのとき何もしなかったんですか? その女性―――紙屋さんは決して望んでやっている様子ではなかったんでしょう? 木崎に強制されて無理やりそんな・・・ことをやらされていたんでしょう? どうして」
 助けてやれなかったのか―――。
 語っているうちに、怒りと悲しみが降るように湧いてきて、言葉が詰まる。
 胸が詰まる。
 息が詰まる。 
「あんたもいい年なんだから分かるでしょ? 嫌よ嫌よも好きのうちってね。そういうプレイなんだよ。男が卑猥なことを女に強制して、女はいやがる素振りを見せながら従うことで、下半身を濡らす。本当にいやだったら、まともな神経をしていたら、そんな馬鹿げたことをやる女はいないよ。私が口を出す問題じゃない」
 わけ知り顔で伊藤は言う。
 時雄の脳裏に一昨日の木崎の顔が蘇る。
 木崎の言葉が蘇る。

(・・・女のほうも望んでやっているんですよ・・・)
(・・・そういうのが好きな女なんです・・・)

「まあ、そんなことがあってからだね、私と木崎さんとその・・紙屋さん・・・奥さんか、三人の付き合いが始まったのは。それからはたまに連絡を取り合って、三人で遊ぶことがあった。まあ、遊ぶといってもご想像通り、世間一般のおとなしいものじゃない。今から思えば木崎さんはたしかにまともじゃないね。女房を私のようなよく知りもしない男に抱かせて、自分はそれを見て悦んでるんだから。ときには写真なんか撮ったりしながら。とはいえ、奥さんはあれだけの美人だし、身体もよかった。私も夢中になっちゃってね」

(あいつは心の底から俺に惚れているのさ。だから俺の望むことなら、何でもしてくれる。ただ、それだけだ。理屈も何も関係ない)

「私もこの年になるまで色んな女を抱いたが、あれほどの極上品は他にはいなかったね。木崎さんに色々仕込まれていたっていうのもあるだろうが、まるで風俗嬢のように男を悦ばせるテクニックを知ってるんだ。普通の女なら決してやらないようなことでも、言えばなんでもやってくれた。あれは真性のM女だね。木崎さんもいい女をものにしたもんだ。まったく、男の玩具になるために生まれてきたような女だったよ」

(そのときから私は決して彼の言うことに逆らえない女になってしまったんです―――)

「普通なら虐待といえるようなことでも、マゾの女には最高の刺激なんだな。写真を撮られながら、夫以外の男に奉仕させられる奥さんのほうもまんざらでもない様子だったよ。ときには私と木崎さんの二人がかりで責められてヒイヒイ泣いていた。あの奥さん、顔もいいけど声もいいんだよな。汗びっしょりになりながらハメられてるときなんか、こっちもゾクゾクするほどいい声で啼くんだよ」

(千鶴もまんざらでもない様子だぜ。お前と別れてから、初めて本当の女の悦びってやつを知ったんだよ、あいつは。もちろん教えたのは俺だがな)
(女はいいな、どんなことも悦びに変えてしまう)

「まあ、そんなこんなで私も大いに楽しませてもらったし、世話にもなったからね。奥さんにあのバーを紹介したんだよ。オーナーと私は昔からの知り合いだからね。でも、あの店でもときどき客をとってるらしいね。前に会ったとき、木崎さんが言っていたよ。ほんと、イカれてるよなあ」

(あなたに軽蔑されるのが怖かったんです―――)

「・・・黙れ」
 突然、低い声でそう言った時雄に、伊藤はきょとんとした顔になった。その顔を時雄は睨みつけた。
 心が、身体が、バラバラになりそうだ。
「もういい・・・そんな話はもう聞きたくない。やめてくれ」
  
  1. 2014/09/10(水) 02:09:54|
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別れた妻 第25回

 伊藤と向かい合って、時雄はソファに腰を下ろした。
 眼前の伊藤は最初の印象どおり、適当に遊んで適当に老けてきた人生が透けて見えるような、たがのゆるんだ風貌をしていた。肩幅はがっちりとしているが、突き出した太鼓腹が見苦しい。
 こんな男が千鶴をいいように弄んでいたかと思うと、腹の底がかっと熱くなるようだが、とりあえずこの場では忘れるしかない。
 木崎と千鶴の所在を知ることが何よりも肝心だ。
「まずお聞きしたいのですが、あなたと木崎夫妻はそもそもどういう知り合いなのですか?」
 伊藤は上目遣いで探るように時雄を見た。
「どういうって・・・さっきも言ったけど、そんな深い付き合いでもない。ただ、行きつけの飲み屋で知り合って、ときどき連絡をとって遊ぶようになったってくらいかな。だいたいあんたは木崎夫妻というけど、私はあのひとが結婚していたのも知らなかったんだ」
 伊藤の言葉にはひっかかるものがあった。
「あなたは木崎さんとこの写真の女性が結婚されていることをご存じなかったのですか?」
 この写真の女性、と言ったとき、伊藤の顔がわずかに動揺した。
「私は聞いていないよ。最初に会ったとき――これは二年くらい前のことだが――そのひとは私に「紙屋千鶴です」と名乗っただけで、それ以上のことは何も言わなかった。木崎さんも結婚してるなんて言わなかった。もちろん最初からふたりがただならぬ関係だということは分かっていたが、結婚していたなんて初耳だ」
 これは―――どういうことなのだろうか。
 紙屋は千鶴の旧姓だ。時雄と別れて間もない頃なら、千鶴が旧姓を名乗っているのは当たり前だが、伊藤の話はつい二年前の話なのである。普通に考えれば、そのときはもう木崎と籍を入れていておかしくない。すでに籍を入れていたなら、わざわざ旧姓を名乗る理由が分からない。
 もちろん、その後に籍を入れたという可能性もあるが、そうだとしても、友人の伊藤でさえ知らないとはどういうことか。
 よくよく考えてみれば、千鶴が木崎と再婚しているという話は、千鶴の口から聞いただけである。木崎本人からもそんな話は聞いていない。もっとも、木崎とはあまり話を出来る状況ではなかったが。
 ふと心に生まれた動揺で時雄が黙っていると、伊藤が、
「あのふたりがまともじゃないということは分かっていたけど、まさか夫婦だったとはね。いよいよイカれたカップルだ」
 と呟いた。
「どういうことですか?」
「いや・・・あんな写真を見られているんじゃ説得力はないだろうが、私から見てもあのふたりはおかしかったよ。変態的っていうのかな。・・・ところであの写真、後で返して貰えるんだろうね。あんなのが出回ってると思ったら、おちおち表にも出られない」
 時雄はにこりともせず、「続きを聞かせてください」とだけ言った。伊藤は少しむっとしたようだったが、諦めたようにまた口を開いた。
「最初に彼らと会ったのはある飲み屋でね。私はそこの常連だったから、ちょくちょく行っていた。で、あるとき、ふと気づいたら、私と同じように、よく来る男女二人連れの女のほうがかなりの美人だということに気づいたんだな。男のほうは、木崎さんには悪いが、たいして風采のあがらない、貧相な感じだったから、面白い組み合わせだなと思っていた。
やがてその店に行って、そのカップルを見かけるたび、意識してそのほうを見るようになった。そうして見ていると、やっぱりおかしい。女のほうはおとなしめな顔で、化粧だってそんなにしていないのに、やたら派手というか、露出の多い服を着ている。そう若くもないのにね。で、店で並んで飲みながら、男のほうはやたらと女にちょっかいをかける。キスをしたり、尻をさすったり、ひどいときなんか胸元に手を入れたりしているんだな。女のほうはいかにも恥ずかしそうに形だけ抗っているようだが、結局は抵抗らしい抵抗もしないでなすがままになっている」
 そのときのことを思い出して語る伊藤の顔には、はっきりと好色な笑みが浮かんでいた。時雄は胸糞がわるくなった。
「そんな話はいい。とにかく、あなたはその店で木崎と知り合ったんですね」
「そう。木崎さんの狼藉があんまりひどいんで、店でもそろそろ話題になっていたころだったな。ちょうど小便に立ったとき、木崎さんがいたんだ。『あなたたちがあんまり派手にやってるもんで、店の者も客もびっくりしてますよ』って私から話しかけたんだ。私の言葉に木崎さんはただへらへら笑っていた。そのときから、店で会うと挨拶くらいするようになったんだ」
「・・・いつから本格的に親しくなったんですか?」
 時雄が問うと、伊藤はまた下卑た笑いを浮かべた。
「それが今から思い返せばとんだ笑い話でね。あれは冬の頃だったが、ふたりがまた連れ立ってやって来たんだ。たまたま店が混んでいて、私はひとりで飲んでたんだが、木崎さんが『こちらのテーブルにご一緒してよろしいですか』と聞いてきたから、いいよと答えた。そのとき、改めて真近から女を見たんだが、本当にいい女でね。でも、その日は黒いレザーコート一枚を羽織って、店に入っても脱ごうとしないんだ。私ともろくろく目を合わさず終始うつむいているし、寒いのに額にはうっすらと汗が浮かんでいた。どう見ても普通な様子じゃないんだね。
私は気になって、『どこか具合がわるいのですか?』と聞いた。それを聞くと、木崎さんはなぜか笑った。おかしくてたまらないという様子だった。女のほうはますます縮こまっている。私は何がなんだか分からないし、どうも馬鹿にされたふうだったから、不機嫌な顔をした。そしたら木崎さんが女の耳に何か囁いたんだ。女の様子は普通じゃなかったから、私はこの女は耳が聞こえにくいのだろうかなどと思った」
「・・・・・・」
「木崎さんに何か言われて、女のほうは小さくかぶりを振った。瞳が潤んでいて、それがなんとも蟲惑的に見えた。あの女はいつもそんな瞳をしていたね。困っているような、戸惑ったような、潤んだ瞳。それがまたなんともそそるんだよ」
 話に興がのってきたらしく、伊藤は身振り手振りも交えながらいやらしい口調で語る。
 伊藤の口に出した『あの女』という呼称自体、この男が千鶴に対して抱いていた感情を如実にあらわしていた。殴りつけたくなるほどの怒りを覚えながらも、時雄の脳裏には一昨日に見た千鶴の瞳がよぎっている。
 あのときも、千鶴の瞳は潤んでいた―――。
 時雄にとっては、その瞳の色は蟲惑というよりも、哀切の念を激しく呼び起こすものだったが。
 時雄の感傷など知るはずもなく、伊藤は滔々と話を続ける。
「木崎さんに再三何か言われて、女はしばらくそうして困っていたが、やがて私のほうを見た。背筋がぞっとするような艶っぽい目だった。それから女は顔を伏せて、静かにコートの前を開いた」
 思わせぶりな口調で言葉を切って、伊藤は時雄を見た。時雄は思わずその顔に罵声を浴びせてやりたくなったが、そうする前に伊藤が口に出した言葉のほうに衝撃を受けた。
「驚いたねえ。コートの下に女は何も着てなかった。真っ裸さ。ちょっと開いただけで、女はすぐに身体を隠してしまったが、おっぱいもあそこの毛もはっきり見えたよ」
 世の中には本当に変態っているものなんだな。
 そう言って、伊藤はまた下卑た笑みを浮かべた。
  1. 2014/09/10(水) 02:08:32|
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別れた妻 第24回

 バーテンから聞いた男の名は伊藤牧人。この男が千鶴をあの店のオーナーに紹介したのだという。
 連夜の睡眠不足からくる生活の乱れがたたって、ふらふらの身体を引きずるように、時雄は翌日、伊藤の家を訪ねた。
 朝、出かけるとき、床に放り出したままの、あの写真が目に入った。見るも恐ろしいそれを時雄がポケットに突っ込んで出かけたのは、ある予感が頭をかすめたからである。
 この写真に千鶴と一緒に映っている男は、もしやその伊藤という男ではないか。千鶴に対する男の馴れ馴れしげな様子、また男がファインダー越しにカメラを構えているであろう木崎に送っている笑みは、この男が木崎と千鶴の生活に深く食い込んでいる証のように思えたのだ。

 時雄の予感は当たった。突然の見知らぬ男の訪問に、不機嫌そうな顔をして出てきた伊藤は、まさに写真のとおりの男だった。
 その顔を見た瞬間、凍るような戦慄が時雄の身体を貫いた。
「どなたですか?」
 固まっている時雄に、伊藤はうさんくさげな視線を向けた。
 時雄は震える声を抑え、自らの名を名乗った。
「あなたにお聞きしたいことがあります。あなたのご友人の木崎ご夫妻のことです」
 伊藤の太い眉がぴくりと動いた。
「木崎さんたちがどうかしたんですか?」
「事情があって、お二人に至急会わなければいけないのです。もしよろしければ、お話を聞かせていただきたいのですが」
「そんなことを言われても、あんたが何者かも分からないうちに勝手によそ様のことを話すわけにはいかんよ。だいたい、私だってそんなに親しく付き合っていたわけでもない」
「・・・・そうでしょうか」
 時雄は低い声で応えた。ポケットを探り、つかみ出したそれをゆっくりと伊藤の前に突きつけた。芝居がかったことをしていることは自覚していたが、自分を抑えられなかった。
「―――――」
 伊藤が絶句するのが、見えた。
「どこで、これを・・・」
「私の質問に答えてもらえますか」
「待て。中で話そう。入ってくれ」

 伊藤は広い家にひとりで住んでいた。中年の男の一人暮らしにしては整理整頓がゆきとどいている。
 客間に通されて、時雄ははっとした。
 間違いなかった。ここが写真に映っていた部屋だ。
 あのおぞましい撮影はこの部屋で行われたのだ。
 顔色の変わった時雄を、伊藤はじっと見つめていたが、
「あんたはいったい何者なんだ」
 と、おもむろに尋ねた。
「私のことなどどうでもいいでしょう」
「あんたの質問にだけ答えればいい、というのか。言っておくが、あの写真は木崎さんに頼まれたから、モデルになってやっただけだ。誰からも非難される覚えはない」
 伊藤は強い調子でそう言った後、急に不安げな表情になった。
「まさか、あんた、警察のひとじゃないよね」
「警察だと困るようなことがあるんですか」
 伊藤を睨みつけながら、時雄はそう切り返し、また首を振った。
「やめましょう。こっちも言っておきますが、私は警察ではないし、あなたに迷惑をかける気もない。ただ、あなたにお話を聞かせていただきたいだけです。協力してください」
 時雄の調子に気圧されて、伊藤はようやくうなずいた。
  1. 2014/09/10(水) 02:07:36|
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別れた妻 第23回

 写真を掴んだ掌にじっとりと汗をかいている。心臓の刻む鼓動が異常なほどに早まっていくのを感じる。それでも時雄は写真から目を逸らすことが出来ない。過去にたしかに存在したその光景から、目を逸らせない。
 震える指先でまた写真をめくる。
 瞬時に視界に入る恐ろしい場面。
 その写真では、自分は相変わらず服を着たままの中年男が、裸の千鶴を両腕で抱えていた。ただ抱えているだけではない。千鶴の両膝を抱き広げ、その股の付け根に隠された秘所をカメラに向かってあますところなく晒して見せていた。無惨に開陳された生々しい女性器。その向こうに見える千鶴の顔は、細い手でしっかりと隠されている。かすかに見える朱い唇が歪んでいた。
 思わず声にならない声をあげて、時雄は写真を放り出した。
 あらゆる感情の奔流が時雄を襲い、虚ろになった内部を満たす。眩暈がする。吐き気がする。とてもじっとしていられない。時雄は飛び出すように部屋を出た。
 意図も目的もなく、夜の街を歩いた。歩いているうちにも気分は少しも静まらない。不快な感情が澱のように心に沈殿していくのを時雄は感じる。
 写真を見ると決めたときから、覚悟はしていたはずだ。しかし、なんという屈辱だろう。いったい、これは何の報いだ? 苦しんで、苦しんで、苦しんできた七年の、これは何の報いだ?
 不意に冷たい風がびゅっと時雄の身体を行き過ぎた。上着も羽織らないうちに出てきてしまったが、夜の空気は相当冷え込んでいる。ここ数日は特にだ。気がつけば身体がどうも熱っぽいようだ。ここ最近はろくに食べず、眠らずの日々だったから、身体が悲鳴をあげるのも無理はない。
 もう、自分は若くないのだ。
 時雄は夜空を見上げた。本当は無数に浮かんでいるはずの星は、まばらにしか見えない。秋の空気はいつもより澄んではいたが、それでもこの煩雑な都会の空を浄化することはない。
 夜空を見つめているうちに少しだけ冷静な気持ちを取り戻し、時雄は帰途に着いた。このままでは確実に風邪を引く。そうなれば、明日からの行動に差し障る。
(明日から、か・・・)
 いったい、自分は何をするというんだ?
 時雄は心の内で思う。あんな写真など見るのではなかった。千鶴の話だけで知っていた、彼女の過ごした七年。その一端を先ほど時雄は垣間見た。彼女のはまり込んだ泥沼の深さを、そのとき初めて時雄は自分の目で見たのだ。
 同時に、時雄の中で何かが崩れ去った。今までどんな状況であっても、自分の内側で大切に守り続けてきた場所。その聖域は無惨にも踏みしだかれた。これ以上ないほどに汚されてしまった。
 昨夜、千鶴に告白されたときよりも、今朝、彼女が出て行ったことに気づいたときよりも、もっと絶望的な気分の中に時雄はいた。

 ふらふらとした足取りでマンションまで戻り、自室の部屋に鍵を差し込んだ。扉を開くと、携帯が鳴っている音が聞こえた。
 散らばった写真のほうを見ないようにして、時雄はリビングに戻り、電話に出た。バーテンからだった。
「ついさっき身体が空いたんで、あんたに何度も電話をかけたんだが、やっと繋がった」
 バーテンはなじるようにそう言った後で、千鶴を店に紹介したというその男の名や住所などを時雄に教えた。
 礼を言い、電話を切った後で、時雄は声もなくベッドの上に座り込んだ。
 消えたと思っていた手がかりが、ようやく舞い込んできた。
 それは喜ぶべきことなのだろうか。この道を進んでいった先には、さらにひどい衝撃が待っているのではないだろうか。
 希望よりもむしろ恐怖を、そのときの時雄は感じていた。
 目的を見失いかけている。肝心なのは千鶴を救うことだ。自分のことなど、どうでもいい。そう思ってはいたが、現実ははかなかった。
 結局、一睡も出来ず、時雄はその夜を明かした。
 
  1. 2014/09/10(水) 02:06:30|
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別れた妻 第22回

「調べてみたんだが、いまはちょっと分からないな。あんたの連絡先を教えてくれ。そのひとのことが分かったら、すぐに連絡する」
 店の奥から戻ってきたバーテンは、相変わらずの仏頂面で時雄にそう告げた。
 さしあたって言うとおりにするしか、時雄には方法がなかった。
 その後は何を頼りに千鶴と木崎の居所を探せばいいのか分からないまま、いま時雄は自宅でバーテンからの連絡を待っている。
 いつまでたっても、バーテンからの連絡はない。騙されたかもしれないな、と思う。金を受け取った以上、義理は果たさなくてはならないと考える程度にバーテンが正直な男であったという保証などないのだから。
 所詮、自分に探偵の真似事など、無理な話であったのだ。
 諦めて、時雄は唯一連絡先の分かるかつてのサークル仲間に電話をかけた。久々に電話をかけてきて、いきなり木崎の住所を尋ねた時雄に、案の定、相手は疑念を抱いたようだった。曖昧に話をぼかしたが、結局のところ、相手はただ「知らない」との返事だった。
 八方塞がりだ。
 疲れと失望で何もかも投げ出したい気分だったが、千鶴のことを思えば簡単に放り出すことは出来なかった。いま千鶴がどんなふうにこの夜を過ごしているかを思えば、いくら疲れていようがやめることは出来ない。
 とはいえ現状を見れば悲観的になるのも無理はなく、万一、木崎と千鶴を見つけ出したところで、そこから先にどんな困難が待ち構えているか、想像も尽かないほどだ。だが、たとえどんな結末が待っていようとも、やれるだけのことはやらなければならない。ベストを尽くさなければならない。そうしなければ、自分はいつまでたっても、この七年の重みから抜け出すことは出来ない。
 そのためにはまず手がかりが必要だ。
 何かないか、と時雄は必死で頭を巡らす。昨夜の木崎や千鶴とのやりとりで何か手がかりになるようなものはなかったか。
 はっと思いついて、時雄は昨日着ていた背広のズボンを探る。
 あった。
 公園で木崎を殴り倒したとき、そばに落ちていた封筒だ。中身はおそらく写真。木崎が『客』であったサラリーマン風の男に見せていたものに相違ない。
 この写真に映っているのは、おそらく時雄にとって、もっとも見たくないものであるはずだった。同時に、千鶴にとっても、もっとも見られたくないものであるはずだった。見る人間が時雄とあっては、なおさら―――。
 これが木崎と千鶴の居所を知るための、いかほどの手がかりを含んでいるかは分からない。むしろまるで役に立たない可能性のほうが圧倒的に高い。
 ただ、時雄の心に深い傷をつけるだけで。
 しかし、現状では他に手がかりになりうるものは何もなかった。
 時雄は立ち上がった。冷蔵庫から昨夜のワインを取り出し、瓶に口をつけて残りを一息に飲んだ。
 睨むように封筒を見つめ、ゆっくりとその封を開いた。
 酔いのせいではなく、心臓のどくどくいう音が聞こえる。
 取り出した写真は数枚あった。
 その一番上にあった写真が時雄の目に入る。
 千鶴がいた。白いノースリーブのシャツに、ピンクのミニを穿いている。今の千鶴よりいくらか若い頃を写したもののように思えた。
 その隣には男がいた。意外なことに木崎ではない。背は低いが、肩幅の広いがっちりとした男だ。年は五十を過ぎた辺りか。濃い眉に厚い唇、だが決して男臭い顔ではなかった。へらへらと笑った表情のせいか、中年を過ぎても金と暇を持て余した遊び人のようにも見える。
 一方の千鶴も顔は笑っていたが、気のせいかその表情にはどこか怯えのようなものが窺えた。
 ふたりは並んで立っている。場所はどこかの室内だが、ホテルの一室のようではなかった。若々しい装いの千鶴に比して、年齢のずいぶん上らしい男のために、ふたりが並んだその写真には妙な違和感があった。
 厭な予感が確信に変わるのを感じながら、時雄はおそるおそる写真をめくる。次の写真を一瞥して、時雄は低く唸った。
 まったく同じ場所、同じ構図で撮られた写真だった。大きく違っているのはただひとつ。その写真の千鶴は全裸だった。隣の男に両腕を後ろで掴まれているらしく、千鶴は隠そうにも隠せない裸をカメラの前に晒していた。綺麗な形の胸も、白く滑らかな腹も、その下に茂る艶やかな陰毛も、すべて。
 写真の中の千鶴はまだ、笑っていた。その表情は時雄にはほとんど泣き笑いのように見えた。一方の男は前の写真よりも一段と楽しげな笑みを浮かべ、カメラに向かっておどけていた。 
  1. 2014/09/10(水) 02:05:34|
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別れた妻 第21回

 千鶴はきっと木崎のもとにいる。千鶴を救うためにも、いま直面している問題をすべて解決するためにも、木崎を見つけ出さなくてはならない。
 だが、木崎が現在どこで暮らしているか、時雄は知らない。
 可能性は低いが、かつての美術サークルの仲間に聞けば、知っている者がいるかもしれない。とはいえ、そもそも時雄自身がもはや彼らとの関わりを断ってしまっていた。連絡先の分かる者がいないではないが、もしその相手が時雄たちの間にあったいざこざを噂で聞いていて、現在では木崎が千鶴と再婚していることを知っていたとしたら。木崎の現住所を聞く時雄の意図を、きっといぶかしむことだろう。その場合、相手になんと説明すればよいのか、時雄には分からなかった。

 昨夜、あの乱闘の後で倒れた木崎はどうしただろう。自分から警察に行くような真似はすまい。喧嘩の原因を聞かれたら、自分もただではすまないからだ。そもそも満足に動けたかどうかすら怪しい。異変を聞きつけた第三者が、倒れている木崎を見つけ、救急車を呼んだ可能性はある。もしそんなことがあったとしたら、後になって事情を聞きに警察がやってくるかもしれない。そうなったとしても、木崎は真実を話さないだろう。暴漢に遭ったとでも言うかもしれない。たとえ木崎が真実を話したとして、警察が時雄のもとへやってくるような事態になったとしても、それはそれでいい。千鶴を木崎のもとから引き離す糸口がつかめる。勤め人としての時雄の経歴に傷がつき、最悪辞めることになるかもしれないが、そうなったらなったでかまわない。覚悟は出来ている。
 あれこれと考えたが、具体的な行動を思いつかないままに、時雄は千鶴の働くバーの前まで行った。結局のところ、さしあたっての手がかりはこの店しかない。今夜、千鶴がこの店に来る可能性は低いだろうと思いつつ、開店時間を待たずにバーの戸を叩いた。
 まだ店を開けてもいないのにやってきた客に、バーテンは驚いた顔をしたが、すぐにその客が昨夜店のホステスを連れ去った男だと気づいたらしかった。
「ちょっとあんた、昨夜のあれはどういうつもりだ」
 中年の体格のいいバーテンは、そう言って時雄を睨んだ。返事次第によってはただじゃおかないという風情だ。
「昨夜は申し訳ありませんでした」
 時雄は深々と頭を下げて謝罪しつつ、店内に千鶴がいないことを確認した。店にはこのバーテンの男しかいなかった。
「どうもご迷惑をおかけしました。これはお詫びです。少ないですが受け取ってください」
 財布から一万円札を二枚取り出し、バーテンの前に置く。いきなりの時雄の対応に、バーテンは目を白黒させた。
「何がなんだか分からんな。いったいあんたはどこの何者なんだ」
 時雄は非礼を詫びた後、改めて名を名乗った。
 不機嫌な顔をしたバーテンは、それでも万札に手を伸ばした。その後でまたじろっと時雄を睨んだ。
「で、何?」
「・・・は?」
「だから、あんた、あの女の何?」
「・・・親族です」
 返事に苦慮した時雄は、咄嗟にそう答えた。
 バーテンは疑わしい目つきで時雄を見た。
「親族だとしてもなんで、店の者に何の断りもなく連れていったわけ? 十代の小娘でもあるまいに」
「緊急の用事があったんです。とにかく気が焦っていて、無礼な真似をしてしまいました。本当に申し訳ありません」
「まったく・・・お客さんがびっくりしていたよ。それでもって今度は電話一本で、『店を辞める』なんて言い出すし」
「え・・・・」
 時雄は思わず驚きの声をあげた。
「なんだ、あんた知らないのか。さっき、あの子から電話があって『事情があって、店を辞めなければいけない』とまあいきなりこうきたのさ。昨夜のこともあるから、こっちも怒って怒鳴りつけたら平謝りするばかりで、最後には電話を切っちまった。いい迷惑だよ、ほんと」
「そうですか・・・」
 たった一日のうちに、千鶴はこの店を辞める決心をしたのだ。或いは木崎の意向かもしれない。どちらにしてもその意図は分かりきっている。時雄に後を追ってこさせないためだ。
「あの、こちらから彼女に連絡を取れないのでしょうか。住所や電話番号などは」
「うちもいいかげんな店でね。電話番号は分かるが、あの子がどこに住んでるかは知らないんだ。その電話もさっきかけたが、まるでつながらない」
 目の前が暗くなる想いで、時雄はバーテンの言葉を聞いた。さしあたっての手がかりが消えてしまった。
「あんたこそ、親族ならなぜ連絡が取れないんだ」
 逆にバーテンが聞いてきた。
「実は・・・あの子は私の妹なんですが、若い頃に家出しましてね。実家のほうとは絶縁状態なんですよ。それでいま、父親が病気で危篤状態になっているので、なんとか最期に一目だけでも会わせてやりたいと思い、わずかな手がかりからこの店で働いていることを知って訪ねてきたんですが、昨夜店から連れ出した後で、結局逃げられてしまったんです。私のほうとしても、なんとか連絡を取る手段を探しているんですが・・・」
 我ながら苦しい嘘だと時雄は思ったが、バーテンは存外簡単に信じたようだった。
「そうかい。ふん、なんとなく翳のある女だとは思っていたが、そんな事情があったとはね」
「あの、彼女はどういう経緯でこの店に?」
「オーナーの友人の紹介だよ。ホステスとしてはいささかトウがたっているが、あんたの妹さんはあのとおりの美人だしね。うちも人が少なかったから、渡りに舟だったわけ」
「その友人の方の連絡先は分かりますか? ぜひとも教えていただきたいのですが」
「分からないこともないが、そう言われても困るな。オーナーの友人というだけで、私個人の知り合いじゃないから、勝手に連絡先など教えられるはずもない」
 時雄は黙って財布を開き、また一万円札を取り出した。
「すみません。本当に困っているんです。どうか教えてください」
 バーテンは目の前に置かれた一万円札を見つめていたが、やがて辺りを窺うようにしてその金を懐にしまった。
「待ってな」
 声をひそめて短く言い、バーテンは店の奥へ消えて行った。
  1. 2014/09/10(水) 02:04:39|
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別れた妻 第20回

 しばらくの間、時雄は呆けたようにベッドの上に座っていた。
 頭がまるで働かない。
 コーヒーでも入れようとようやくベッドから出たが、思い直して服を着た。
 千鶴がどれくらい前にこの部屋から出て行ったのかは分からない。もしかしたら、まだその辺りにいるかもしれない。

 部屋を出ると、雨がぱらぱらと降っていた。玄関に置いた傘はそのまま残っていた。千鶴は雨が降る前に出て行ったのか。それとも雨に打たれるのもかまわず、そのまま歩いていったのか。
 急ぎマンションの階段を降り、駅への道を走った。
 駅についてからも、しばらく構内を捜して歩き回ったが、千鶴は見つからなかった。
 諦めて、駅の喫茶店に入る。モーニングセットを頼む気にもならず、コーヒーだけを注文した。
 運ばれてきたコーヒーを啜り、煙草を吹かすと、身体中がだるくなった。
 時雄はため息をつく。深い徒労感がじわじわとやってくるのを感じる。

 さっきは夢のように感じたが、昨夜、千鶴はたしかにあの部屋にいたのだ。彼女が過ごした苛酷な年月の話を、木崎との成り行きを、身を切り裂かれるような想いで自分は聞いた。
 最後には、もつれるように愛し合った―――。
 腕の中に抱えた千鶴の感触が、いまもまだ時雄には残っている。彼女の体温が、肢体の重みが、激しい息遣いが、どんな言葉よりも生々しい記憶となって時雄の中には残っている。
 だが、朝になり、時雄が目覚めたとき、部屋に千鶴の姿はなかった。誰もいない、独りきりの部屋があるだけだった。
 そして、それこそが時雄にとって、当たり前の日常の光景だった。だから、すべてが夢であったかのように感じたのだ―――と思う。
 なぜ千鶴は姿を消してしまったのか。
 去るにしても、なぜ時雄に一言もなかったのか。
 本当は分かっている。言えば引き止められるから、千鶴は何も言わなかったのだ。そして、時雄に引き止められるにもかかわらず、千鶴が帰らなければならない場所はひとつしかない。
 木崎のもとだ。
 その場所こそが、今の千鶴にとっての日常なのだ。
 時雄にとっては胸が苦しくなるような、現実だった。
 普通に考えれば、当然のことなのかもしれない。今は別の夫がいる身でありながら、かつて別れた夫の部屋で一夜を明かした。そのことのほうが世間的に見れば異常なのだろう。
 ふと、厭な考えが時雄の脳裏に浮かぶ。昨夜、千鶴がベッドの上で見せた激しい昂ぶり。あれは時雄を誘い、眠らせ、木崎のもとへ帰るための技巧ではなかったか。
 時雄は瞳を瞑り、その疑念を打ち消した。そこまで疑いたくはない。あの瞬間、千鶴が見せた情熱は、真剣な表情は本物だった。
 だからこそ、いま時雄の胸は沈んでいる。
 千鶴を救いたい。幸せにしてやりたい。一度はその夢に挫折してしまった自分だが、今度こそはその夢を本当にしたい。
 だが、一方でいまの自分にいったい何が出来るのだろうかという思いがある。七年前に別れた夫である自分が。
 そのことは千鶴もよく分かっていたはずだ。加えて彼女には時雄に対する重い罪の意識がある。
 結果、千鶴は時雄に何も告げず、ひっそりと出て行った。
 そのこと自体が時雄の想いに対する、千鶴の答えであったように思う。いや、きっとそうなのだろう。
 秋の雨に打たれるまま、ひとり悄然と歩いている千鶴の幻影が浮かび、いつまでも時雄の心をかき乱した。

 喫茶店を出ると、時刻はもう昼近かった。
 休日の駅前は混んでいる。意気揚々と街を行く若者たち、腕を組んだカップル、子連れの夫婦の幸せを絵に描いたような楽しげな表情。その間をすり抜けるように、時雄はひとり家路につく。
 いったいなんでこんなことになってしまったのか。
 苦い想いが時雄の胸を満たす。
 昨夜聞かされた千鶴の辛い話を思い返す。木崎に犯され、家庭を壊され、最愛の母親まで病魔に冒された。そのために身体まで売る破目になり、挙句の果てにはすべての元凶ともいえる木崎の奴隷状態になっている。
 時雄自身、自分が幸福な人間だとはとても思えないが、千鶴の場合は言語を絶するほどひどい。たいていの女なら一生かかっても経験しないような不幸が、わずか七年で千鶴の身に降りかかったのだ。
 なぜ、こんなことに―――。
 時雄の知っている千鶴は、ごくごく普通の女だった。何かを高望みするわけでもなく、現実的すぎるわけでもなく、ただそこにある普通の幸せで十分だと思っている、そんな女だった。
 そんな普通の女が、なぜここまで不幸にならなければいけないのか、時雄には分からなかった。
 くらっと眩暈を感じ、時雄は足を停めた。
 激しい感情が襲ってくる。それは悲哀ではなかった。わけの分からないほど強い怒りだった。
 木崎に対する怒り、自分と千鶴の運命に対する怒り―――。
 時雄は踵を返し、今来た道を戻り始めた。どう考えても、このまま終わることは出来なかった。
 
  1. 2014/09/10(水) 02:03:45|
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別れた妻 第19回

 ベッドは譲ると言ったのだが、千鶴がどうしても自分がソファで寝ると言い張ったので、結局、時雄がベッドで寝ることになった。
「おやすみ」
 そう言って電気を消す前に、ちらりと見えた千鶴の潤んだ瞳が、いまこうして暗闇の中でも瞼に浮かんでいる。
 思えばふたりが一室で寝るのも、ずいぶん久しぶりのことだ。
 もう二度と、こんな機会は訪れないと思っていた―――。
 いまこの暗闇の中、すぐ傍にに千鶴が寝ているのだと思うだけで、時雄の胸は切なく疼く。まるで十代の少年のようだな、と時雄は力なく苦笑した。あれほど辛い思いをした後で、まだそんなことを考えている自分に、自分で驚く。
 想いはさらに過去へ飛び、初めて千鶴とともに朝を迎えた日のことを時雄は思い返した。いま思えば、あまりにも未熟な交わりだったが、ひとつになったときの喜びは今でもはっきりと覚えている。他人に話せば笑われるだろうが、あれは自分のはかない生涯の中で最高の日だった。
 翌朝目覚めて、明るい日の光の中、互いの顔を見あったとき、千鶴も恥ずかしがっていたが、時雄の照れようはそれ以上だった。あまり照れるので、しまいには千鶴のほうが吹きだしてしまったくらいだ。まったくもって、格好わるい男だった。あの頃も今も、そんな不器用なところはたいして変わっていない。
 他愛なくも幸福な思い出が次々と時雄の脳裏に蘇る。短い結婚生活だったが、楽しいこともたくさんあった。そんな思い出をひとつひとつ思い返しているうちに、やがて記憶は七年前のあの日に届いて、時雄の背筋を凍らせる。
 いや、千鶴の話を聞いた今では少し違う。本当に恐ろしいのは、千鶴が木崎と過ごしたその後の七年だった。
「起きていますか?」
 突然、呼びかけられて、時雄ははっとした。
「起きてるよ。酒は飲んだけれど、今夜は眠りがなかなかやって来ない」
「昔は、あなたはあまりお酒を飲むほうではなかったと思います」
 暗闇から千鶴の声が返ってくる。
「仕事の付き合いで段々と好きになったのさ」
 嘘である。本当は独りの夜を誤魔化すために、酒を飲み始めた。以前は行かなかったバーなどにも一人で行くようになり、そして千鶴と再会したのだ。
「私が家を出て行った後で・・・」
 そんなふうに言いかけて、暗闇からの声はとまった。
「何?」
「いえ・・・」
「気になるじゃないか」
「・・・私が出て行った後で、あなたがどんなふうに思って暮らしていたのかと思って・・・」
 消え入るような千鶴の声。
 時雄は思わず千鶴が寝ているであろうソファのほうに目をやった。しばらく考えた後で、口を開いた。
「最初は君を怨んだよ。ただただ君を憎んで、毎日を過ごしていた」
「・・・・・・」
「でもその後、凄く淋しくなった。淋しくてたまらなかった。仕事から帰ってきて、家のドアを開く前に、もしかしたら君が戻ってきてくれているんじゃないか、とバカなことばかり毎日考えた」
 呟くように時雄は言って、ごろりと寝返りを打った。
 闇の奥から、静かに千鶴の嗚咽が聞こえてきた。
「頼むから泣かないでほしい。そんなつもりで言ったんじゃないんだから」
 慌てて時雄は言った。だが千鶴は何も答えなかった。
 しばらくそうして時は流れた。
 不意に闇の中でごそごそと何かが動く音がした。
「千鶴?」
 振り返った時雄の視界に、薄闇の中でもはっきり白いと分かるものが入った。
 それが何なのかはもちろん、すぐに分かった。
 白いものはするりと時雄のベッドに入ってきた。
 駄目だ。いけない。
 そんなことをしてしまったら、今度こそ俺たちはどうにかなってしまう。またあの愛憎の渦に巻き込まれてしまう。
 そんな想いが言葉となって時雄の口から出かけた瞬間、千鶴の唇が時雄の口を塞いだ。
 冷たい肌の滑らかな感触が、ふっくらとした胸の優しい重みが、服の上からはっきり感じられた。
「ごめんなさい」
 耳元で千鶴の囁く声がした。
「もう軽蔑されてもかまわない―――」

 すべてを捨て去ったかのような千鶴の振る舞いに、結局、時雄も抗えなかった。抗えるはずもない。七年間ずっと焦がれていたのは、時雄のほうだったのだから。
 久々に触れた千鶴の肢体は、以前よりもずっと『女』を感じさせるものに変わっていた。時雄の愛撫に応える反応もまた、『女』そのものという感じだった。そんな千鶴に時雄は胸を刺されるような痛みを感じながらも、惹きつけられずにはいられなかった。
 夜目にも白くまるい乳房を撫で、背中に回した手で背肌をさすると、それだけで千鶴は忍び声をあげた。かくっと頸が折れ、倒れこんだ千鶴の唇から洩れる吐息が、時雄の胸をくすぐった。
 むしろおずおずと、時雄は千鶴の秘所へと手を這わせた。柔らかい繊毛を分け入って、さらに奥へと手を伸ばす。その箇所に触れた途端、千鶴は「あっ」と声をあげ、打たれたように全身をふるわせた。時雄も驚いていた。千鶴のそこは熱いほどたぎっていた。
 時雄がなんとか理性を保っていられたのも、そこまでだった。その後は千鶴の後を追うように、没我の底に沈んでいった。
 後から思い返しても、その夜の千鶴の昂ぶりようは激しかった。最初はそれでも表情を押し隠そうと忍苦して、息も絶え絶えになっていたが、次々と波のように打ち寄せるらしい悦びに、最後はほとんど泣き声になっていた。何度も何度も、果てしなく昇りつめる千鶴の反応は、完全に開花した女のそれだった。
 幾度となく求め合い、高め合った後で、時雄は吸い込まれるような眠りに落ちていった。頬にかすかにかかった千鶴の髪の艶やかな感触が、沈み込んでいく時雄の意識にいつまでも残っていた。

  
 翌朝―――。
 目覚める前から、時雄は厭な予感がしていたように思う。
 窓の外から、かすかな雨音が絶え間なく聞こえていた。
 千鶴はもういなかった。
 消えていた。
 昨夜、彼女がこの部屋にいたことが、すべて夢だったように。
 なぜか、そのときの時雄には感じられた。 
  1. 2014/09/10(水) 02:02:34|
  2. 別れた妻・七塚
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