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闇文庫

主に寝取られ物を集めた、個人文庫です。

月満ちて、堕ちる刻 第壱話 「支配する、男達」

河邑五月(かわむら・さつき 仮名)は、その形の良い下唇を噛み締めた。

電車内。正午過ぎ。
何時もなら、自宅に居る筈の夫の義父、義母の二人は法事で留守だった。気遣い、早めの帰宅をする必要も無い。
だからこそ、少し遠出をした。久し振りに繁華街迄、その足を伸ばそうと、準急の電車に乗ったのだった。

車内はそう混雑はしていなかった。無論途中から乗り込んだ五月には座る場所は無い。それでも良かった。いや、いい筈だった。
しかし、五月は後悔していた。

車両の両開きのドア。その前に立った。車内は結構揺れる。自然と五月の両足は少し間を広げて踏ん張る形を取った。
その時。何かが、足首に当たったのを感じた。
反射的に五月の口元は「済みません」という形に開き、その場を退けようとした。
その右方向への行く手を阻もうとするかの如く、そのドアに長身の若者が凭れ掛かる。
五月は、驚いた様に逆の左にと向きを変えた。
その方向にも、今度は小太りの若者が背を向けて立ちはだかる。
何時の間に、二人は現われたのか。全く解らなかった。

五月は嫌な予感を感じた。
目の前では、見慣れた光景が右へと流れていく。しかし、五月の焦点は既に定まった所には無かった。

背後にいる何者かが、その身体を押し付けて来ていた。
額に汗が浮かんでくるのを感じる。誰が背後にいたのか、その性別すら解らない。だが、それは直ぐに判明した。
堅くなった物が、五月の尻の部分に押し付けられ始めたのだった。
男の動きは大胆そのものだった。スカートの裾がゆっくりと上がり始めていた。動揺する五月を余所に、その裾は腿の上部迄捲くられていった。
今日の服装は、白いブラウスにグレーの薄いフレアースカートを着用していた。軽装に素足だった事を、五月は悔やんだ。
男の行為は、より大胆になっていく。
恐怖と羞恥で声は愚か、背後を向く事も顔を上げる事も出来ない侭、五月はその下唇を噛み締めた。
左右では若者が、五月の項垂れた頭部の上で何か会話を交わしている。聞き取れない。只、何かを言った後、下卑た笑いだけは耳に飛び込んでくる。
「!!」
五月は俯いたまま、その眼を裂ける程に開いた。

自分の両足の狭間には、手提げの紙袋が置かれている。その中にはビデオカメラらしい機材が、五月の股間を真下から仰ぐ形でその全てを撮影していた。更にはそのカメラ側部から、折畳式のモニターが背後から痴漢行為を続ける男に向けて、その画面を点灯させている。五月からも、その画面が逆像となって覗き込めた。
自身の両足、脹脛からその上部、尻から股間迄の全てが映し出されている。真っ白い尻に、白いレースのショーツが噛み付く様に食い込み、その肉を腿の付け根へと押し出す様に食み出させていた。
その食み出した尻の肉が、裏腿の表面が、電車の揺れに合わせて波打っている。

五月は絶望感と、嘗て経験した事の無い恥辱を感じた。
車内のアナウンスが次の停車駅を告げてから未だ数分だった。到着までに十分以上在る。鼓動が加速を付けて昂まっていく。
次の瞬間、五月は声を放ちそうになるのを覚えた。
背後の男が、スカートを腰迄捲り上げていた。その裾を束ね、何かクリップに近い物で下がらぬ様に止めた気配が在った。
五月の口が無言の侭、大きく開く。穿いていたショーツが一気に腿まで降ろされたからだった。五月の顔が泣き出しそうに歪む。男は両手でその剥き出された尻をわし掴み、捏ねる様に揉み始めていた。

男の行為は正に狂態だった。
公衆の面前で、電車内で、そのスカートを腰迄捲くり上げられ、その尻を剥き出しにされ、両手で弄ばれている。五月はドアにその両手を押し付け、両の腕で自身の顔を隠していた。額がドアのガラス
の振動を伝えている。
一体、何人の人間がこの行為に気付いているのか。背後からは、自分の下半身が全て露出されているに相違無い。
五月の身上を知っている人がいれば、どうすればいいのか。

背後の男は、今や二人の協力者を得てか、五月の下半身全てをその手で、指で、犯そうと懸命に動いている。
尻を両手で左右に割る動作を繰り返し、楽しんでいる。
堅く眼を閉じ、その唇を血が滲む程噛み締めて堪えた。
両脇を固めた二人も共犯だろう。今は何も会話していない。五月の
身体を、打ち震える反応を伺っているに違いなかった。

五月の身体がびくんッ、と弾んだ。
無骨な指が尻の下から前へと周り込み、股間の亀裂をなぞり始めていた。五月はその場に崩れそうになった。それを背後の男は許さなかった。分厚い左手が五月の腹部に回され、その尻を突き出させる格好で支え上げた。五月はドアに上半身を押し付けられ、両手を壁に密着させて嘆く「罪人」の如く、態勢を取らされた。

五月はこの行為が現実とは思えない侭、全てをもぎ取られていく屈辱感に飲み込まれていた。あれだけ恐怖に戦き、屈辱に嫌悪した股間が、男に反応し始めていた。指は惨酷な程、繊細な動きに変化していたのだった。
一番敏感な、亀裂の上部。其処に生えている陰核は、女の貞操そのものを否定して、堅く頭を擡げている。亀裂の奥から止めど無い蜜が溢れ出し始めていた。

五月の身体が、その下半身が連続的に跳ね始めた。
痙攣を起こしたかの様に、尻が跳ね、上半身が震えていた。
声も出せず、五月はドアに震える吐息を吐き出した。男は今や突き出した尻を左手で巻き取る格好で支配し、右手を尻の裏から奥へと
伸ばし、激しい振動を送り続ける。
その振動を受けて、五月の盛り上がった真っ白い尻が、ブルブルと波打って表面を揺らせている。ドアに押しつけた白い指が、その表面に爪を立てる。五月は項垂れた首を左右に振り続けた。

【もう、全てを支配される・・・助けて・・・許して】
  1. 2014/07/10(木) 00:26:03|
  2. 月満ちて・hyde
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輪姦される妻 第4回

私は嫌な予感を感じながらも私は恐る恐るテレビの前まで行き、ビデオ
デッキにテープを差し込みました・・・

再生が始まりました。しばらく真っ青な画面が続いた後、いきなり何か
コンクリートのような灰色の・・・いや、何かの天井?が映りました。
どうやらカメラが真上を向いているようで日光が入るとすぐに画面全体
が白く飛んでしまいます。音から判断するに、どこかの駅のようでし
た。しかし画面は白く飛び、音は雑音だらけでいまいち状況が掴めませ
ん。突然、画像が揺れ始めました。どうやらこの撮影者が走っているよ
うです。そして電車に乗り込みました。

「あっ!」

私はまたしても声にだしてしまいました。低い位置からの真上を見上げ
たアングルですが、そこには妻が映っていたのです。そして今朝の4人
がぐいぐいと妻を電車の奥へと押し込んで行く様子も映っていました。
妻の服装を見るとやはり今朝撮ったもののようです。

「い、痛い!」
「押さないで!」

という妻の声が雑音に混じりながらもかすかに聴き取れました。驚いた
事に、すでにこの時点で妻の後ろにいる男は妻の両脇から手を差し入
れ、ウェストを抱え込んでいます。また両脇にいる男達はそれぞれ妻の
手を握っているようでした。妻は電車に乗ってすぐに身動きができない
状態になっていたようです。カメラは妻の真下ではなく、少し前から上
を見上げるようなアングルになっています。恐らく妻の前にいる男の足
下にカメラが置いてあるのでしょう。私は瞬きもせず、ただただ画面に
見入っていました。電車が動き出すと急に画面が左右二分割になりまし
た。左側には今までの下からの映像、そして右側には、妻の左胸あたり
から表情を伺うようなアングルの画像が映っていました。左側の男が
バッグかなにかにカメラを入れて抱え込んでいるようです。

妻の表情を見ると、まさに苦悶の表情でした。うつむき加減になりじっ
と耐えています。男達の手はそれぞれが意志をもって動き始めており、
妻の後ろから両手をウェストにまわした男は服の上から妻の乳房を腫れ
物でも触るかのようにやさしくさすり、左右の男はそれぞれ妻の手を握
りつつ、空いたもう片方の手で妻の臀部を下着のラインに沿ってなぞり
あげていました。妻の前に位置した男はスカートのスリット部分から右
手を侵入させ、その白い太ももを這い回っています。妻の胸を触ってい
た赤黒い大きな手はその動きが次第に大きくなり、大胆に両乳房を鷲掴
み、大きなストロークで揉みしだくようになりました。たまに妻の
「うっ」「くぅっ」というくぐもった声が聞こえます。後ろの男は時折
妻の耳に息を吹き掛けているようで、その度に妻はビクッ、ビクッと反
応しています。また左側の画面を見るといつのまにかカメラが妻の脚と
脚の間に置かれた状態になっており、ちょうどスカートの中を真下から
見上げる格好になっていました。明かりが無いために若干暗いのです
が、妻のスカートの中はかろうじて映っていました。前の男がスリット
から手を差し込んでいる為か、スカートは膝上10cmくらいまでずり上
がっています。白くて柔らかいシミ一つない妻の太ももを、血管の浮き
出た手が、その手に吸い付くような瑞々しい感触を楽しむかのごとくナ
メクジのように這い回っています。
私は絶句しました。

「いやだっ、やめて・・・」

妻の囁くような、それでも精一杯の抵抗がテレビのスピーカーから聞こ
えていました。
  1. 2014/07/10(木) 00:25:02|
  2. 輪姦される妻・なべしき
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輪姦される妻 第3回

その日の私は仕事が全く手につきませんでした。会社に着いてからしば
らくして携帯に妻からのメールがあり安心はしましたが、心の中のもや
もやとしたものは消える事がありませんでした。電車の中の15分の長さ
がまるで嘘のように午前中はあっというまに終わり、昼休みになると私
はすぐに妻の携帯に電話をかけました。

「ごめん、今朝は何もできなくて・・・大丈夫だったか?」
「うん、大丈夫・・・帰ったら話すから・・・心配しないで。」

やはり妻は心無しか元気がありませんでした。言葉少なに携帯を切り、
その後私は今朝の事をずっと考えていました。今さら考えた所で何も始
まらないのは分かってはいたのですが・・・

仕事は適当に切り上げ、私は家路へと急ぎました。少しでも早く妻と
会って、今朝、何があったのか、何をされていたのかを聞きたくてしよ
うがありませんでした。家についたのは、もう少しで9時になろうかと
いう時刻だったと思います。妻はとある病院にて会計事務をしているの
ですが残業も殆ど無く、この時間であれば普段は家に帰り窓には明かり
が灯っているはずだったのです。が・・・今日、その窓に明かりは無く
人の気配はありませんでした。私は不安に駆られました。

(何故帰っていないんだ!?)

昼以来妻からは何の連絡も無く、飲みに行ったとか食事に行ったという
事は考えられませんでした。もう寝たのか?とも思いましたが時間がま
だ早すぎます。きっと急に仕事が忙しくなったか買い物でもしているの
だろう、と無理矢理自分に言い聞かせるように自宅のドアを開けまし
た。その時足下からカタッという音がしたのです。見てみるとそこには
A4サイズの封筒がありました。妻が帰宅していなかった事ばかり気にし
て今まで全く気付きませんでしたが、どうやらドアに立て掛けてあった
ようです。

(こんな所に何故?誰が?)

封筒の中身は結構な厚みがあり、カラカラと音がします。が、重量はそ
んなにありません。とりあえず私は部屋に入り、封筒を開けてみまし
た。封筒を開ける時点ですでに心臓の鼓動が速くなっていたのですが、
中身を見てさらにそれは速くなりました。封筒の中には1本のビデオ
テープが入っていたのです。ラベル等は貼って無く、ケースも無い真っ
黒のビデオテープでした。とりあえず再生してみようとテープを取り出
した時、封筒の底に何か光るものがあるのを見つけました。何か小さい
針のような・・・

「あっ!!」

私は思わず声に出していました。その光るものは普段妻がつけていたシ
ルバーのピアスだったのです。その時私には自分の心臓の鼓動しか聞こ
えていませんでした。かなり速いペースで正確にリズムを刻む自分の鼓
動が、私の視野を狭めます。嫌な予感を感じながらも私は恐る恐るテレ
ビの前まで行き、ビデオデッキにテープを差し込みました・・・
  1. 2014/07/10(木) 00:24:19|
  2. 輪姦される妻・なべしき
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輪姦される妻 第2回

途中電車が揺れてちらっと妻の様子が伺える時がありましたが、依然と
して妻は下を向いたままです。見るとびっしょりと汗をかき、額から首
筋へと汗が流れていました。あきらかに苦悶の表情を浮かべており、時
折ぴくっと動くその仕種を見ていると、やはり何かされているとしか思
えません。が、見えた!と思ってもすぐに新聞が視界を塞いでしまい、
また何も見えなくなってしまいます。15分という時間がこんなに長く感
じられた事はありませんでした。

耐えに耐え、ようやく駅に着いた時です。私は下車する乗客の流れに
乗って妻の所へ行こうとしました。するとなんとした事か、新聞を読ん
でいた男が私を下車する流れに押し込むのです!!どうやらその男はこ
こで降りたいらしく、力の限り私の事を押してきました。私も必死に車
内にとどまろうとするのですが、まんまとホームへと押し出されてしま
いました。諦めずに私はまた電車に乗ろうとするのですが、そこで新聞
の男が私に絡んできたのです。この時になって気付いたのですが、この
男は日本人ではないらしく訳の分からない言葉でわめき散らしていまし
た。無視して電車に乗ろうとしても胸ぐらをつかんできて私の進路の邪
魔をします。今思えばこの新聞の男も奴等と仲間だったのでしょう。こ
の男とやりあっているうちに電車は無情にも発車してしまいました。

私はどうすることもできず、唖然としながら動き出す電車内の妻を探し
ました。そして、そこには妻がいました。一瞬ですが、恐怖に怯え、助
けを乞う妻と視線が合いました。そして、妻の後ろに陣取った男とも目
があいました。その男は無表情ですが、まるで私に勝ち誇ったかのよう
に口元だけは笑っていました。そして妻が私の視界から消える寸前、確
かに見えたのです。その男が妻のうなじに吸い付く姿を・・・
  1. 2014/07/10(木) 00:23:39|
  2. 輪姦される妻・なべしき
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輪姦される妻 第1回

近、いつもこのページを見ています。
昔は『妻と他の男のSEX』なんて想像もできませんでした。
が、今年の夏にとある事件が起こり、私は変わったのです。と
いうより、変わってしまったといった方が良いでしょう。この
話を公にするのは勇気が要ります。いまこうして書いている段
階でも「やめておいた方が・・・」と思っています。しかしこ
こに公表した事で事件の再犯防止になれば、それに超した事は
ありません。そして何よりも、心のどこかで「妻に起こった出
来事を知ってもらいたい」という気持ちがあるのも事実です。
妻には本当に悪いと思いますが、ここに公表したいと思いま
す。

※細かい設定や名前は変えてあります。


それは今年の7月も終わりの頃でした。

いつものように朝、出発の支度をし、朝食をとりながら妻と何
気ない会話をしていると突然妻が思い出したように話しはじめ
ました。近所の仲の良い奥さんが妊娠したと言うのです。
私はまたか・・・と思いました。私達夫婦は社宅に住んでいる
のですが、4月、5月、6月とまわりで妊娠が相次いでいたの
です。結婚してちょうど2年になりますが、まだ子供はいませ
ん。妻が子供を欲しがっているのは良く分かるのですが、私は
子供が嫌いな事もあり、まだいい、と思っていました。ここ最
近の妊娠騒ぎで嫌気もさしていて、また子供の話をされてはた
まらないと思い私は妻にそろそろ出発ようと言いました。私達
夫婦は共働きをしており、毎朝一緒に家を出て、同じ電車にて
通勤していたのです。社内恋愛の末の職場結婚で、妻は結婚し
てからは退職し、私とは全然別の職場で働いていました。です
が、勤め先が共に都内で、また場所もそんなに離れていなかっ
たので毎朝一緒に家を出るようになったのです。

いつもの事ですが、電車はもの凄い通勤ラッシュでした。電車
に乗り込むときはとにかく人と人の押し合いで、妻とははぐれ
てしまう事が多く、そしてその日も結構離れて乗車することに
なってしまいました。距離にして3mくらいでしょうか?ちょ
うどドアを隔てた向う側、といった感じです。妻の方を見てみ
ると、かなり窮屈そうにしています。そこで私はハッとしまし
た。妻の後ろに陣取っている男に見覚えがあったのです。よく
見ると、妻の左右にいる男も見た事のある男でした。私に背を
向ける格好の、妻の前に陣取った男も恐らくそうでしょ
う・・・

話が前後しますが、実は1ヶ月程前に妻が痴漢にあったと私に
話してきたことがあったのです。その日の朝の事は私も何とな
く覚えていて、今と同じように人込みに押され、妻と離ればな
れになった時に今と同じ男達に囲まれていたのです。その男達
がスーツではなく、普段着でしかも今風の若者だったから印象
に残っていたのです。

(また痴漢か・・・!?)

電車はちょうど走りはじめた所です。妻の表情を見ていると、
どうやら妻も周りの若者に気付いたようでうつむいています。
額にはうっすらと汗が浮かんでいるように見えました。
それはこの熱気のせいなのか、それとも・・・

自分で言うのも何ですが確かに妻は綺麗で、今年で32歳になり
ます。が、恐らく周りの人間からはもっと若く見えているで
しょう。決して大きくはないが形の良いツンと上を向いたバス
ト、抱き着けばそれだけで折れてしまいそうな細いウェスト、
そしてまだまだ弾力を失わない丸いヒップ・・・。子供を産ん
でいないので驚く程スタイルも良く、男好きのする体をしてい
ると思います。こんな通勤ラッシュの電車に乗って痴漢にあう
な、という方が無理な話でしょう。しかし同じ男達にまたして
も狙われるとは・・・

私はどうすればいいか必死に考えました。この混雑の中では身
動きはとれないので、もし何か出来たとしても、私には声に出
して周りの人間に助けを求めるくらいしかできないでしょ
う・・・
しかし実際に妻が痴漢されていなかったら?
それにもし私が叫んだ所で男達は何もしていないと言い張ったら?
その後に仕返しじみた事をされたら?

とにかくパニック状態になりながら必死に考えていると、何
と、突然私と私の目の前にいる男が新聞を読みはじめたので
す。いくら小さく新聞を折っているといえ、妻、そしてそのま
わりの男達は見えなくなってしまいました。この新聞を読む男
が妻の周りを取り囲む男達と仲間なのかどうかははっきりしま
せん。

どうしようも無く私は次の駅までの15分間耐える事にしまし
た。駅についたら多少動けるようになるので妻の所へ行け
る・・・そう考えたのです。その15分間はまさに苦痛でした。
この電車が快速特急である事を恨みました。
いったい妻はどんな事をされているのだろう?
4人の男に囲まれて15分もの間、いったい何を・・・?
  1. 2014/07/10(木) 00:22:52|
  2. 輪姦される妻・なべしき
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夏の生贄 第三十章 「焦燥」

どろどろと四肢を腐らせていく毒液のような想いに耐えかねて、車外へ飛び出そうとドアに手をかけた昭文を秋山は必死で止めた。
「いまはまずいです!」
「そんなこと言ってられるか!」
昭文は悲痛な目で秋山を見た。
「あいつは・・・・おれの妻なんだ!」
その気迫に気圧され、秋山は黙った。
二人が言い争っているうちに、礼二と夏海は迎えの車に乗り込んだ。
「早く・・・! 行ってしまうぞ!」
「いまは無理です。夏海さんと礼二さんだけのときを狙うんです。朝方に二人が店から帰るときを狙いましょう」

クラブ“POPPER”は礼二のマンションから歩いて十五分ほどの、いかがわしい店の立ち並ぶ繁華街沿いの小ビル地下にあった。
そのビルの出入り口を見渡せる道に車を停め、昭文と秋山は待機していた。
秋山の心中はむろん穏やかではない。もう他に手段はないと思い切って、昭文に夏海と直接コンタクトをとらせることを提案したのは秋山だったが、本当にそれで事態は好転するのか。まるで別人に変わってしまった愛妻に、いまだ彼女を深く愛している夫を会わせることは更なる悲劇を呼ぶことになりはしないだろうか。しかもその女の傍らには、実の弟が愛人として寄り添っているのだ―――。
秋山はちらりと横に座っている昭文を見る。
小刻みに震える肩、額に浮かんだ脂汗は昭文がいまどんな精神状態にあるのかを、痛々しいほど如実に伝えている。無理もないだろう。いま彼の愛する妻は、卑猥な秘密クラブで娼婦として働いているのだ。かつては昭文の目にしか晒されることのなかった肢体を、好色な客たちが列をなして鑑賞し、好きなように弄ぶのだ。夫としてこれほど辛いことはないだろう。
「秋山さん」
それまでじっと黙っていた昭文が声をかけてきた。
「はい」
「ここは会員制のクラブでしたよね? そしてあなたは会員しか入ることの出来ないここのサイトに入ることが出来た。となれば、あなたはここの会員になったわけだ」
「それは・・・そうですが」
「それなら・・・あなたはいまからでもこのクラブに入れるわけだ」
「送付されてきた会員証は持っていますが・・・・ですが、いまぼくがここでクラブへ入ったとしても、奥さんを連れ戻せはしません。―――待ちましょう、お願いします」
「いや、待てない」
昭文はもの凄い目で秋山を見た。それからいきなり、秋山に掴みかかり、その懐を探り始めた。
「あ、何をするんです・・・やめてくださいっ」
「もう一秒だって待てるものか!!」
狼狽した秋山を強い力で殴りつけ、昭文はその懐から財布を抜き取った。そのまま車外へ飛び出す。
「待って―――待ってください」
よろめきながら必死で制する秋山の声も聞かず、昭文は飛び出していった。
クラブ“POPPER”へ。
  1. 2014/07/10(木) 00:21:26|
  2. 夏の生贄・TELL ME
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夏の生贄 第二十九章 「世界の壊れる音」

雨の気配を感じて、礼二はベッドの中から窓の外を見た。どんよりと曇った空から、針のように細い雨がさあさあと降り注いでいる。
時計を見ると、もう夕方の六時だった。クラブ“POPPER”へ出勤する夏海を送っていく時刻だ。礼二は上半身を起こした。
傍らで眠っている夏海。その顔を見つめながら、礼二はしばしじっと考える。
―――自分はこの女に妄執していた。それも随分長い間。そのために兄を嵌め、非道な行いにどっぷりと手を染めた・・・。
そして、手に入れた女がいま自分の横で眠っている。その容姿は礼二がかつて恋焦がれたときと同様に美しい。だが、その美貌にまとわりついていた清楚な空気、芯の強さを感じさせる凛とした気配はすでに消え失せている。代わりにあるものは、淫蕩な笑みと絶え間ない媚態だった。
変わり果てた夏海と礼二はこの半年もの間、狂乱の生活を送ってきた。いま暮らしているこの高級マンションの部屋を見ても、それは分かる。荒廃した生活の気配と、セックスの残り香が部屋にこもっている。いまの夏海はかつてのようにかいがいしく家事に取り組んだり、男の心を安らげるような家庭の温かさを感じさせる女ではなくなっている。彼女に出来るのは、セックスだけだった。そういうふうに礼二が仕込んだのだ。
狂った生活を送る中で、礼二も徐々に変質した。陰惨な翳がその顔を覆い、荒涼とした風がその心で渦巻いた。すべてがなげやりだった。もう何もかもどうでもよかった。
より深い快楽! 礼二の心にあるのはもはやそれだけだった。そのために夏海とともにいるのだ。今となっても、礼二のリビドーを喚起させる女はこの世でただひとり、夏海しかいない。礼二はやはり狂っているのかもしれない。
夏海に、夏海に与えられる快楽に狂っている。
「おい、起きろ。時間だ」
そして今日も礼二は、夏海を揺り起こす。クラブ“POPPER”。あの爛れた快楽の館へ向かうために。
夏海は小さく呻いて、薄目を開けた。唇の端を淫らに、あどけなく歪めて言う。
「もう時間なの?」

昭文は狭い路地に停めた車のミラーをじっと見つめている。
そのミラーに映っているのは、夏海と礼二が住むというマンションの正面玄関だ。
様子を見に出ていた秋山が小走りに戻ってきた。
「まずいですね」
運転席に戻って、開口一番秋山はそう言った。さきほどから降り出した雨で濡れた髪の毛先から水滴がぽつりと滴った。
「いつもならここから夏海さんは礼二さんが歩いて付き添って、例のクラブに向かうのですが、きょうは雨のために迎えの車が来ているようです。あっ」
秋山が小さく叫んだ。ミラーの中で派手な衣装の夏海と、スーツ姿の礼二が並んでマンションの玄関から出てきたところだった。
昭文もそれを見た。覚悟はしていたことだったが、凍てついた風が昭文の身体を吹き抜けた。
ミラーごしの夏海は、礼二と腕を組んで歩いている。礼二は仏頂面をしているが、夏海は盛んに何事か話しかけ、時折、弾けるような笑顔を見せている。その笑顔は夫の昭文でさえなかなか見たことのないような、あけっぴろげな笑顔だった。
夫を捨て、子を捨て、世間を忍ぶ立場となった女。そんな女があれほど、明るく振る舞うことのできるものだろうか。まして、昭文はその女をよく知っているのだ。

あの女は夏海なのだ。妻の夏海なのだ。

いまでも信じられなかった。
そして―――その妻があれほど無垢な信頼をあらわしている傍らの男は、実の弟の礼二だった。その礼二もしばらく見ない間に相が変わって、遠目からでも何やら得体の知れない妖気を感じる。
礼二。いまの昭文にとって、この名前はもっとも憎むべきものに変わり果てていた。

お前がおれたちの家庭を壊したんだ。

昭文は声にならない声でそう叫ぶ。だが一方で、そう考えている自分を惨めに感じていた。負け犬、敗北者、という言葉が昭文の頭の中をよぎり、一瞬吐き気を覚えるほど胸がむかついた。
  1. 2014/07/10(木) 00:20:41|
  2. 夏の生贄・TELL ME
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夏の生贄 第二十八章 「灰色の決断」

「だいぶお疲れのご様子ですね」
夏海の叔母の陽子は、その日久しぶりに現れた昭文にそんなことを言った。
「そうですか。疲れるほど働いてはいないんですけどね」
そう言って昭文は笑うが、その笑顔にもどことなく陰があるように感じる。以前はこんなふうではなかった。根っから明るく、快活な気性の持ち主だと思っていた。
「晴喜はどうしてます?」
「奥の座敷でお昼寝の最中ですよ」
「ちょっと顔を見てきます」
昭文はそう言って立ち上がった。陽子も後ろからついてくる。
晴喜は畳の上に大の字になって寝ていた。その健やかな寝顔に昭文は安心する。もともと明るい子だったが、母の失踪以来、淋しげな表情でいることが多かった。
晴喜はもうこの陽子の家での暮らしが長い。陽子もその夫も母のいない晴喜を心配し、可愛がってくれているのがよく分かるので、昭文はありがたく思うと同時に心苦しかった。
「風邪をひいてしまうわ」
陽子はそう言って、押入れから毛布を取り出すと、晴喜にかけてやった。その表情は慈愛に満ちた母のものだった。
昭文は思わず瞳を逸らす。陽子はもともと夏海にとてもよく似ているが、こんなときに見せる表情は生き写しといっていいほどだった。それが辛かった。
「それではぼくはこの辺でお暇させてもらいます。また寄らせてもらいます」
もう少しゆっくりしていけばいいのに、と陽子は不服そうだったが、昭文は家を出た。
門の前の道路に車が停まっていた。秋山が運転席側から顔を出す。
昭文は目顔で軽くうなずいて、助手席に乗り込んだ。
「もういいんですか?」
「ああ」
昭文はフロントガラスごしの光景を見つめたまま、短くこたえた。
「息子さんはどうでした?」
「元気そうだったよ、安心した」
「それで・・・決心はつきましたか」
「うん・・・・、いったい夏海の身に何があったのか、どうしてあんなふうになってしまったのか、さっぱり分からないが・・・・あいつはぼくの妻で、そして晴喜の母だ。それだけはたしかなことなんだ」
自分自身に言い聞かせるように、昭文はゆっくりと言う。
「だから、ぼくにやれることをやらなければ・・・・そうだろ?」
「そうです。がんばりましょう」
そう返事をしながら、秋山は少し心配になる。愛妻のあのような姿を見せつけられた後では仕方のないことなのかもしれないが、昭文はひどく疲れきっているように見えた。決意の言葉を語りながらも、その口調にはどこか諦念の色があった。
きょうこれから二人はF市に行き、夏海とコンタクトを取り、場合によっては無理やりにでも奪還しようという腹積もりでいる。だが、はたしてこんな状態で昭文は変貌した妻とまともに対峙できるのであろうか。
秋山のそんな疑念を感じ取ったように、昭文はふと横を向いて秋山に笑いかけた。
「大丈夫だよ。ぼくなら・・・大丈夫だ」
秋山はその瞳をしばらく見つめていたが、やがてうなずくと、ハンドルに手をかけた。
「行きましょう。勝負はこれからです」
「そうだ」
そして車は走っていく。その先に待ち受けているものは、はたして聖か魔か―――。
  1. 2014/07/10(木) 00:19:58|
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夏の生贄 第二十七章 「三日月の夜」

秋山が戻ってきたのは、昭文が衝撃的な妻の痴態を目にしてから、およそ一時間後のことだった。昭文はそのときもまだぼんやりして、硝子ごしに自宅の庭を眺めていた。
なんと言葉をかけていいか分からぬ様子で、所在なさげに立っている秋山をちらりと見て、
昭文はぽつりと語りだした。
「うちの庭、何もないでしょう。引っ越してきたばかりだから当たり前だが・・・・」
「・・・・・」
「春だというのに寒々しいったらありゃしない。家を建てる前にうちのと宅地を見に来たときには、ここに欅を植えよう。あそこには楡を植えようなんて、色々話したもんだが・・・。ぼくも妻も植物が好きでね・・・・」
そう言って、昭文は淋しげにニッと笑った。秋山はたまらない気持ちになる。
「ご主人・・・・・」
「教えてください。妻はいったいどうしたのですか? 妻に何があったのですか? ぼくの知っている妻はあんな女じゃないんだ。あんな・・・・」
そこで昭文は言葉を詰まらせた。秋山は近寄ってその肩に手を置いた。
「ぼくにも分かりません。まだ、分かりません。でも何か理由があるはずです。必ず」
震えている昭文の肩に手を置いたまま、秋山は一気にそう言って、それから優しい目で昭文を見つめた。
「希望を捨てないでください。ぼくにやれることは何でもします。二人で頑張りましょう」
秋山の言葉に、昭文は何度もうなずいた。うなずくしか出来なかった。そうしながら昭文は、哀しみのあまり涙を流したのはいつ以来のことだろうと考えていた。

F市市内にある高級マンションの一室―――。
高島礼二は窓ごしにマンションから見える、都会の夜景を眺めていた。
「何をぼんやりしてるの?」
妖艶な赤のイブニングドレスを着た夏海が寄ってきて、声をかける。礼二がそれに答えずに黙ってキャメルをくわえると、夏海はライターを出して火をつける。
「お前、そろそろ出勤の時刻じゃないか」
紫煙を吐きながら礼二が言うと、夏海はうなずいたが、そのまま悪戯っぽい笑みになる。
「昨日はまた大芝さんが来たわ。あのひと、顔は爽やかなのにベッドの上では凄くしつこいのよ」
「そうか」
「あなた、妬かないの」
「別に」
礼二は煙草をくわえつつ、またマンション下の夜景に目を移す。
「ひどい人」
夏海はすねたように口を尖らせたが、また妖しい微笑を浮かべて、背中から礼二にしがみついた。
「でもいいの。どんなひどいことをされても、わたしはあなたが好き。あなたがいないと生きていけないの」
「もう行けよ。本当に遅れる」
「いや。まだこうしていたい」
「言うことを聞かないならまたお仕置きだぞ」
「お仕置きされたっていいもの」
あどけない口調に凄いほどの色気を滲ませて、夏海は言った。礼二は黙って煙草をもみ消し、夏海の背後に立つ。
「窓ガラスに手をついて、尻を突き出せ」
夏海が言うとおりにすると、礼二はドレスの裾をまくり、下着をずり下げた。染みひとつない夏海の尻が露わになる。その尻を礼二は平手で打った。打つたびに桃肉が揺れ、夏海は「あん」と甘ったるい声を出す。尻が赤く染まる頃には、夏海の肢体も火照っていた。
「ねえ、ねえ」
夏海が媚びた目つきで、気だるげに次をねだる。礼二も少し興奮してきていたが、あえて仏頂面を作って、
「ダメだ。続きは帰ってきてからだ。早く店へ行け」
「・・・きっとよ。帰ったらしてね。昨日もしてくれなかったんだから」
夏海は稚い口調で礼二を咎めると、名残惜しそうに幾度も振り返りながら部屋を出て行った。
礼二はまた窓の外を見た。
月が浮かんでいる。不吉なほど綺麗な三日月が。
  1. 2014/07/10(木) 00:19:12|
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夏の生贄 第二十六章 「灰燼」

昭文の苦悩する想いをよそに、パソコンの画面には風俗嬢・ナツミのプロモーション用の動画が再生され始めた。
画面に夏海が映った。普通の浴衣姿をして、化粧もあまりしていない。場所はどこかのホテルの一室らしかった。ゆったりした肘掛け椅子にちょこんと座って、ぼんやりとしている。その様子は旅先でくつろいでいる、ごく普通の若妻という感じだった。
「夏海」
ビデオカメラをかまえているらしい男が声をかけた。その声に昭文は聞き覚えがあった。
―――礼二だった。
名を呼ばれた夏海は、ぱっと瞳を輝かせてカメラのほうを見た。その様子は主人に呼びかけられて喜ぶ犬に似ていた。
昭文の胸は激しく疼いた。カメラ越しに見つめてくる妻の視線。だが、妻が愛しげな表情で見つめているのは自分ではなかった。
弟だった。
地獄の炎のような嫉妬と痛みを昭文は感じた。

画面が変わり、夏海の胸から上をアップで映した画像になる。場所も移動したようで、夏海はベッドの上に座っているようだ。異様だったのはその表情で、瞳はしっとりと潤み、頬が紅潮していた。上体が小刻みに震えている。時折、はぁはぁと切なげな吐息を洩らしていた。
(何か・・・された後なのか?)
昭文は思う。いまさらながら、妻が他の男に欲しいままにされるという現実に慄然となる。
「さあ、お客様に自己紹介をするんだ。さっき教えたとおりにやるんだぞ」
カメラを持った礼二が言うと、夏海はこっくりとうなずき、
「今度から新しく・・・お店に入ることになった・・・ナツミと申します」
なぜかそれだけの言葉を吐くのもしんどそうに、夏海が切れ切れに話しているうちに、その背後に頭にすっぽりと黒マスクをした男が横から現れた。男は無造作に右手を夏海の浴衣の襟元に這わすと、その中に隠されている胸の膨らみをぎゅっと握った。
夏海は「あん」と甘えたような声を出すと、悪戯っぽく恨む目つきで背後の男をちらりと見た。夏海の口元には照れ笑いのようなものが浮かんでいる。
そんな夏海の表情を昭文は見たことがなかった。彼の知る夏海は堅い女だった。夫婦の寝室での営みのときでさえ、ふざけてじゃれあうなどといったことはなく、いつもどこか緊張した表情で昭文の愛撫に応えていた。

「さあ、自己紹介を続けて」
礼二が笑いを含んだ声で先を促す。
「ああん・・・・ナツミは・・・お客様方によろこんでいただけるよう・・・せいいっぱいがんばりますぅ」
語尾を甘ったるく伸ばしてそう言い、夏海はくすぐったそうに身体を揺すった。背後にいる黒マスクの男はそれでもいっこうやめる気配を見せず、それどころか両手で夏海の浴衣の襟元を完全にくつろげた。
色白の珠のような乳房が、ビデオカメラの前に晒される。
男はその乳房を両手で下からすくいあげ、カメラに見せつけるようにした。カメラも乳房にズームアップしていく。
夫の昭文でさえ、これほどはっきり見たことはない、優しい線を描く綺麗な乳房。その乳房が不特定多数の人間に鑑賞されるために、顔も分からない男の手で上向きに持ち上げられている。乳房の中心で記憶にあるよりも、少し黒ずみ、大きくなったように見える乳首がはっきりと屹立しているのが、昭文の目に入った。
「まだ先があるだろう? 夏海」
礼二がまた声をかける。昭文は突き刺さるような礼二への憎しみを感じた。
夏海は切なそうに眉をたわめながら、また言葉を続けようとする。そこで礼二が、
「笑顔はどうした?」
と、ややきつい調子で言った。夏海は慌てたように、少し不自然な笑顔をつくってカメラを見返した。そんな妻の姿が昭文の目にはひどく哀しく、そして苛立たしく映った。
「ナツミは、セックスが大好きです、ひんっ、これからお客様に、ああ、いろいろなことをしてもらえるとおもうと、う、うれしくて濡れてしまいます、あはぁっ」
セリフの途中で、夏海はたびたび喘ぎ声をあげた。画面では黒マスクの男がもう遠慮も何もあったものではない手つきで、夏海のはだけた浴衣に手を突っ込み、乳房をわし掴んではいやらしい手つきでこねまわすように揉みたて、中心の突起を摘まんで指の腹で擦りたてている。
「ああ、ナツミにいやらしいことを、はああ、いっぱいしてください、はふう、い、いっぱい気持ちよくしてください、あ、いいっ、はあ~!」
もう自分の喋っている言葉がカメラの向こうにいる客へ向かってのものなのか、それとも背後で乳房を嬲っている男へ向かってのものなのか、それすら分からぬ様子で、夏海は悦びに肢体を震わせながら、ろれつの回らぬ言葉で哀願している。
「もう限界みたいなので、これでナツミの自己紹介は終了させていただきます。つづきはクラブ“POPPER”でどうぞ」
愉悦に乱れる夏海をおいて、礼二がふざけたナレーションとともに、カメラをゆっくりとひいていく。次第に夏海の全身が画面に映っていく。
「あっ・・・・・」
昭文は思わず言葉を洩らした。
画面の中の夏海はベッドの上に、いや、ベッドの上に横たわったもう一人の男の顔にまたがっていたのだ。はだけられた浴衣をまとった下半身に、薄いレースのパンティだけを身に着けて。白く輝く夏海の健康な太腿に挟まれた男は、痴毛がうっすらと透けて見えるパンティの舟底を口で受けていた。
やがて―――
画面は暗闇に溶けていく。時折響く夏海の嬌声と、ぼろぼろになった昭文の心を置き去りにして―――。
  1. 2014/07/09(水) 14:54:14|
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夏の生贄 第二十五章 「崩壊」

昭文の決意のこもった言葉を聞いた後も、秋山はしばらくためらいの様子を見せていたが、やがてバッグからノートパソコンを取り出した。
秋山はネットに接続し、どこかのサイトを開いた。だが、画面は真っ黒でこれといった画像も文章もなく、いったいこれが何のサイトなのか分からない。ただ、ユーザー名と暗証番号の入力をせよ、と表示が出ているだけだ。
「杉浦商事は風俗関係の事業も手がけていると先ほど言いましたよね」
「はい」
「彼らの事業のなかには、ソープランドやイメージクラブといった店の経営も含まれているのですが、他にも特別なクラブを経営しています。会員制の秘密クラブといったところでしょうか。これはそのクラブのサイトで、普通に検索してもひっかからない裏サイトです」
「・・・・・・」
秋山が入力を済ませると、画面が切り替わった。
『クラブ“POPPER”』というでかでかとした題字。その下の『GIRLS』という表記を秋山はクリックした。
画面が切り替わり、クラブで働いている女の写真と名前が縦にずらっと並ぶ。この時点で昭文はすでに次に起こることを予感していたが、秋山がゆっくりと画面を下にずらしていき、ページの最下部に妻の写真と「ナツミ」の文字を目にしたときには、身体の震えを抑えることが出来なかった。
「少しの間、ぼくは席を外します」
昭文の表情をじっと窺っていた秋山は、静かにそう言って席を立った。
ドアの閉まる音を昭文は背中で聞いた。
それでもしばらくは何も出来なかったが、昭文はやがてマウスを手に夏海、いや、ナツミの画像をクリックした。自分でもなぜそうするのか、ちっとも分からないまま。マウスを握る掌にじっとり汗をかいていたが、画面を見つめる眼球は痛いくらいに乾いていた。
画面がまた切り替わる。
昭文は声を出さずに呻いた。
淫らな感じの黒い下着だけをつけたナツミの画像が煙草の箱サイズで表示された。その横には店員の紹介文らしきものがついていた。

『ナツミ』:“期待の新人です! 新人とはいっても、男のお客様を蕩かす技術は一級品! 一見、おとなしそうな顔をしていますが、いざプレイになるととっても大胆で濃厚です! この文を書いているわたしもじつは一度、お相手してもらったことがあるのですが、いくらイッても満足してもらえず、貪欲に求めてきてもうたまりませんでした。抜かれすぎてあれが痛かったです(汗) 重度のマゾっ子なので、お客様がご主人様となって好きに虐めてあげてください。”

その文の下には、ナツミの小さな画像集らしきものがあった。
黒の下着姿のナツミがカメラに向かってねっとりと絡みつくような視線を向けながら、両手で乳房をすくい上げている写真―――。
全裸で卑猥な形に緊縛され、潤んだ瞳でカメラを見つめている写真―――。
どの写真のナツミもカメラのレンズに向かって、いやレンズごしの男たちの欲望に向かって媚びる風俗嬢そのものの顔をしていた。

昭文は―――
壊れていた。
どんな人間にも、一度は世界観の崩壊が訪れる。夢を信じていた少年が知る現実の残酷さ。無垢な少女がはじめて知る卑猥なセックスの営み。
愛しぬいていた者の、信じがたい裏の顔。

知らないうちに礼二と愛し合っていた夏海―――。
昭文や息子の晴喜を捨てて、礼二と駆け落ちした夏海―――。
そして男たちの淫猥な欲望の対象としてのナツミ―――。
そのいずれも昭文の知る妻とはあまりにかけ離れていた。
昭文の知る夏海は無垢な女だった。夫や子を心から愛していた。気が強くて、そのくせ繊細で、淋しがり屋で、意地っ張りで、そして可愛い女だった。

やがて昭文はのろのろとマウスを動かした。画像集のさらに下をクリックして、用意されているナツミの動画を再生する。
見たくなかった。
だが、見るしかなかった。
いまの昭文に出来ることは、それしかなかった。
  1. 2014/07/09(水) 14:53:29|
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夏の生贄 第二十四章 「疑惑」

写真は数枚あったが、いずれもどこかの街角で写したものらしかった。それも夜間に暗視スコープか何かで写したもののようだった。
どの写真の夏海も幸せそうに微笑み、礼二の肩に甘えかかるようにしなだれかかっているものさえあった。

秋山は写真を見て驚愕の色を浮かべた昭文を見て、深いため息をついた。
「奥さんに間違いないのですね」
「ええ・・・それと・・・この横に写っている男は・・・」
「弟の礼二さんですね」
昭文は無言でうなずいた。
打ちのめされた気分だった。夏海の失踪の原因がなんであれ、このような事態だけは想定していなかった。客観的に見ればありうることなのかもしれないが、昭文にはまったく考えられなかったのだ。
夏海の失踪が礼二と愛し合った後、駆け落ちしたなどというものであるとは。
だが、写真を見る限り、そうとしか思えないのも事実だった。
「この写真はF市の街角で撮影したものです。奥さんと礼二さんは一ヶ月前ほどから、この街に姿を現すようになったようです。といっても普段はあまり人目につかないようにしているらしいですが」
F市とはこの県の県庁所在地である。雑多な繁華街やビルが立ち並び、この地方では有数の繁栄を見せている。
「その礼二さんのことなのですが・・・」
悲痛な表情の昭文を哀れむように見ながら、秋山は言葉を続ける。
「彼は杉浦商事に務めていたようですね」
「・・・はい。わたしも警察の方に教えられるまで知りませんでしたが」
「じつは豊田刑事があなたにぼくを紹介したのも、礼二さんが杉浦商事で働いていることがどうにも気になったかららしいのです。というのも、あの会社は総会屋まがいの強請りやたかり、裏風俗産業などの悪徳業務に手を染めているヤクザ企業なのです」
「・・・知らなかった」
「豊田刑事は去年のあなたの事故のときから不審なものを感じていました。そこへきて続けざまに奥さんの失踪。しかもそれに杉浦商事の社員が関わっている。これは何か大きな闇の力が働いていると豊田刑事は睨んだのです。しかし、杉浦商事はこの地方の政財界に強い影響力を持っていて、一刑事が公的に干渉することは出来ない。そこで在野のぼくにあなたの助っ人になるよう依頼してきたのです」
気が動転している昭文に、いまの秋山の言葉は話が大きすぎて内容がつかめない。いまの写真で明らかになったことといえば、妻の失踪が単に夫以外に好きな男が出来て、その男と一緒になるために駆け落ちしたという事実だけではないのか。
「妻は礼二との関わりでその杉浦商事と何かの関係を持ったということですか」
「あるいは強制的に持たされたか」
呟くように短くそう言って、秋山は真正面から昭文を見た。
「失踪後に礼二さんは杉浦商事を首になったはずです。しかし、彼はここ最近、杉浦商事の本社を幾度も訪れています。ときには夏海さんを同伴して」
「・・・どういうことですか」
秋山はふっと昭文から目線を逸らした。そのままうつむいてしばらく黙っていたが、やがて低い声で言った。
「じつはあなたに見てもらいたいものがまだあるのです。ただ、ぼくは正直、迷っています。これはあなたにとってあまりにも酷なことだと思うから・・・・。不安を煽るような言い方になってしまって、申し訳ありません。でも、これがぼくの正直な気持ちなのです。かといってぼくの立場からは、ここで完全に調査を打ち切って、奥さんのことは諦めてくださいとも言えないのですが・・・・」
煮えきれない言葉だったが、昭文には秋山の真摯な気持ちがよく分かった。
そして自分はたとえどのようなことがあっても、先に進むことしか出来ないのだということも。
「それを見せてください。覚悟はしました」
  1. 2014/07/09(水) 14:52:41|
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夏の生贄 第二十三章 「暴露」

高島昭文は新居の寝室で一人、仰向けに天井を見つめている。その周囲には家財の入ったダンボール箱がそここに置かれている。
去年の夏に昭文が事故に遭わなければ、すでに家族三人で越してきているはずの家である。事故を理由に不動産会社に手をまわして、売りに出していたもとの家にしばらくは住み続けることにしたのだ。幸い、買い手がまだついていなかったこともあり、それは可能だったが、今度は妻が失踪してしまった。
とはいえ、いつまでも新居をほっぽりだしておくわけにもいかず、先月に昭文は会社の人間に手伝ってもらい、ここに引越してきたのだ。
当たり前のことだが心は侘しかった。家族三人、ここで幸福に暮らすはずだったのに、妻はいなくなり、息子も妻の叔母のうちに預けたままなのである。
それに―――昭文にはもうひとつ、心残りがあった。失踪した妻がまず帰ってくるとしたら、この家ではなく、数え切れないほどの思い出の染み付いた古い家であろう。彼女が現在どのような境遇にあるのかまだ分からないが、やっとのことで戻ってきた妻があの懐かしい家にいまは赤の他人が住んでいるのを見たら、それだけでたとえようもない喪失感に襲われることだろう。その光景を想像すると胸が痛む。
引越し前の数日間、昭文は妻の夏海の持ち物を自分の手でダンボール箱に梱包したのだが、それは辛い作業だった。どの品を見ても夏海を思い出す。どの品にも夏海の残り香を感じる。
ごろり、と昭文は寝返りをうった。ベッドがかすかに軋む音がした。
夫婦のベッド。昭文は事故に遭った前の日に、このベッドで夏海とともに床につきながらかわした会話を思い出す。

『新しい家は親子三人で住むのはもったいないくらいの広さだな』
『そうね』
『家族を増やそう。子供は多ければ多いほどいい。ぼくも頑張るから』
『何を頑張る気よ。へんなひと』
『へんじゃないだろ。相変わらず妙なところに気を回すね、君は』
『それよりもお金の余裕あるの? 今回だって相当無理してお金を作ったでしょう。家のローンだってあと何年もあるし』
『どうにでもなる。分不相応に欲張らなければさ。家族が幸せに暮らすだけのものがあればいい。それでぼくの分は十分』
『・・・へんなひと』

夫の言葉にいつものように素直じゃない反応をして、夏海は昭文の腕に顔を埋めたのだった。
あのときは幸せだった。家族の未来は希望に満ちているように感じた。
それがたった半年で跡形もなく崩れ去ってしまった。
過去・現在・未来。様々なことを考えながら、昭文はその夜、一睡も出来なかった。

豊田刑事に紹介された探偵は秋山という名で、まだ三十を少し過ぎたばかり若い男だった。
くりっとした瞳の童顔で、ひとなつこい顔をしている。探偵と聞くとこわもてなイメージがあったが、現実にはこういう顔のほうがひとに警戒されないだけ探偵向きだといえるかもしれない。
豊田刑事の大学の後輩だというその男が衝撃的な話を持ってきたのは、その翌日のことだった。
「この写真を見てください」
挨拶もそこそこに秋山は不器用な手つきで、茶封筒から数枚の写真を取り出した。
それを見て、昭文の顔から血の気がひいた。
写真には二人の人間が写っていた。
まず弟の礼二。
そして礼二の傍らで腕を組んで歩いている女。
その女は―――
夏海だった。
以前の彼女からは想像もつかない派手な装いで、濃いメイクをしていたが間違えるはずもない。
昭文にとってより衝撃的だったのは、夏海の表情だった。
写真の中の夏海はじつに幸福そうだった。その笑顔は明らかに愛する男とともにいる幸福の相だった。
  1. 2014/07/09(水) 14:52:01|
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夏の生贄 第二十二章 「変貌」

杉浦商事第三課課長室。
栢山秀明は、その日半年ぶりに目にした高島礼二の変貌ぶりに瞠目した。
変貌といっても、外見が変わったわけではない。ただ、かつての礼二には見られなかったような貫禄や凄みが、その内面から滲み出ているように感じるのだ。男ぶりが上がったというよりは、何か違うものに変質したような礼二の変化だった。
その隣には、これは完全なる「変化」を遂げた高島夏海の姿がある。半年前に寺元博士から受け取った報告書に添付されていた写真では、その美しい黒髪を剃り上げられた無惨な姿を晒していたが、いま眼前にいる彼女は艶やかな黒髪を肩まで垂らしている。
栢山はかつて一度しか、夏海を直接目にしたことはない。そのときも美しい女だと思い、何よりその全身から匂い立つ無垢な雰囲気に惹かれた。
だが、いま栢山の目の前で、ソファに腰をかけ、隣に座った礼二にしなだれかかっている女は、無垢とは程遠い妖艶な女だった。服装からして水商売の女が着るような、胸元の大きく開いた黒のドレスを着ている。その変貌振りに呆気に取られた栢山が、しばらくその姿を見つめていると、夏海はそれに気づいて栢山に媚びた目つきで艶やかに笑んだ。淫蕩な笑みだった。
柄にもなくどぎまぎして栢山は目を逸らし、煙草の火をつけた。
「潜伏先の台湾での生活はどうだったんだ」
「何事も問題なく・・・と、言いたいところですが、二、三度身体を壊しかけましたよ」
「なぜだ?」
栢山が聞くと、礼二はにやりと笑って傍らの夏海を見た。夏海も細やかな右手で口元を覆い、くすくすと忍び笑いを洩らしている。
なんとなく淫靡なものを感じさせるやりとりに、本来なら不機嫌になるはずの栢山だったが、雰囲気にのまれたいまは何も言えなかった。
「ですが、仕事はきちんとしましたよ。警察が動いたのかどうか知りませんが、動いていたとしてももうわたしや夏海の捜索は打ち切られていることでしょうし、これからは自由に動けます。必ず会社の役に立ちますよ」
礼二はよどみない口調で言った。
「それに今回の件のために、会社にずいぶんお金をかけさせてしまったことですしね」
「それはそうだ」
栢山はうなずき、夏海をちらりと見た。夏海はまるで自分とは無関係な話がされているかのように、礼二の腕にしがみつき、愛しげにその顔を眺めている。
その視線に気づいて、礼二は薄く笑い、夏海に何事か囁いた。
夏海はすぐにこくりとうなずいて、すっと立ち上がり、栢山のもとへ近寄った。
「な、なんだ?」
思わずうわずった声でそう言った栢山に、色めいた流し目をくれて、夏海は栢山の膝元にしゃがみこんだ。
「研究の成果をお見せしますよ」
どこか皮肉な響きを含ませた声で礼二が言う。だが、栢山はそれどころではなかった。
夏海は栢山のズボンの前を優雅な手つきで二、三度撫ですさると、ジッパーを開け、中のものを掴み出した。朱唇を近づけ、ちらりと覗かせた舌で亀頭の先を丁寧に舐めた後で、ためらいもせず含んだ。
「お、おい・・・ここは社内だぞ」
自分の声を他人のもののように聞きながら、栢山は自分の股間に跪いた美女の姿から目が離せない。栢山の怒張を唇でしごく度に伸びる白い頸の線が、妖しいほどなめらかだった。
くちゅ・・・くちゅ・・・。
室内に響く淫猥な音。栢山は急速に現実感を失っていく。
夏海が肉棒を口に含んだまま視線を上げ、栢山を見た。媚びを含んだ瞳、淫らに歪んだ口元で笑みを作っている。
「どうだ、夏海。課長のモノは?」
ソファに座ったまま、礼二がふざけた口調で聞くと、夏海は栢山の顔を見つめたまま、肢体をゆっくりとくねらせながら、「おいしい・・・」と小さく言った。
その瞬間、たまらず栢山の怒張が膨れ上がり、夏海の口中で爆ぜた。夏海は慣れた仕草で、流れ出た精液を飲み込んでいく。そればかりか、怒張に残った精液まですべて舐めとろうと、萎みかけたそれに吸い付いている。商売女のように細やかなフェラチオだった。

「どうでした課長? 満足しましたか?」
「あ、ああ・・・・とてもあの奥さんだとは思えないな。これは期待できそうだ」
栢山は心底からそう言った。
「研究所の報告あったが、彼女はお前の言うことならなんでも聞くのか?」
「そうです。それに夏海自身も様々な経験を経て、肉の悦びに目覚めています。いまでは男なら誰でもよろこんで奉仕しますよ。そんな女になっているんです」
栢山はもう一度、夏海を見た。夏海はまだ栢山の肉棒の亀頭や裏筋を、可愛らしい舌で清めている。その瞳は潤み、長い睫の先は男に奉仕する愉悦で震えているように見えた。
「これは・・・期待できそうだ」
栢山はもう一度そう呟いた。
  1. 2014/07/09(水) 14:51:12|
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夏の生贄 第二十一章 「春の家族」

春―――。
縁側に座って、我が子が庭の蟻の巣を食い入るように見つめている様を見ながら、高島昭文はぼんやりと縁側に座っていた。
日差しが暖かい。もう冬は終わったのだと思う。
だが、昭文の心の内で冬は終わっていない。終わるわけがない。
いなくなった妻が見つかるまでは。
「お茶はいかかがですか」
妻の叔母の陽子が傍らにやってきて茶を勧める。ありがたく湯飲みを受け取って、昭文は温かい茶を啜った。
「夏海ちゃんはいまどうしているんでしょうか」
陽子がポツリと呟くように言った。
「あれからもう半年以上経っているわ」
昭文の妻、夏海がいなくなったのは、去年の夏だった。一ヶ月住み込みで働く短期の仕事に就くといって家を出たきり、連絡もないまま、そのまま家に戻ってこなかった。
当時、昭文は交通事故に遭い、入院していた。
慌てて夏海に仕事を紹介した弟の礼二に連絡を取ろうとしたが、もはや連絡はつかなかった。消えたのは夏海だけではなく、礼二もだった。
後の調べで分かったことだが、礼二が持ってきた仕事の話というのも、まったくの虚偽架空のもので、そんなものは存在しない、とこれは礼二の上司が証言した。

常識的に考えれば、夫のいぬ間に二人して駆け落ちを図ったと考えるのが、妥当な状況かもしれない。だが、昭文には信じられない。夏海は礼二を嫌っていたし―――それに何より、彼女は自分の夫と息子を愛していた。自惚れなくそう思う。
その息子は父親は入院で不在、母親も消えてしまったという苛酷な状況で、陽子の家に預けられている。昭文が退院してからも、それは変わっていない。昭文には仕事がある。いつまでも休んではいられない。
だが、夏海のほうも放っておく気はむろんなかった。
先年の事故をきっかけに知り合った豊田という刑事がいる。警察は事件性がないとして夏海と礼二の失踪の捜査をとっくに打ち切っているが、昭文は個人的に豊田に度々相談に行っている。豊田自身も今度の事件に不審なものを嗅ぎ取っているようで、昭文の話を熱心に聞き、それから知り合いの探偵を紹介してくれた。
つい昨日、その探偵から連絡がきて、今度の週末に会って報告することがあると言ってきた。昭文はいまから武者震いしている。

「本当に心配だわ。晴喜ちゃんのこともあるし」
陽子は庭で遊んでいる晴喜を見つめながら、そっと瞳をうるませている。親戚だけあって、涙もろいところは夏海とよく似ている、と昭文は思った。
「大丈夫です。夏海は必ずぼくが見つけだします」
昭文は傍らの陽子にきっぱりと言って、立ち上がった。
「おーい、晴喜。何を見ているんだ? おとうさんも混ぜてくれよ」
  1. 2014/07/09(水) 14:50:04|
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夏の生贄 第二十章 「不穏な旅立ち」

新しく生まれ変わった夏海の「破瓜」から三日後、礼二は再び博士の研究所を訪れた。
夏海が研究所に入ってちょうど一ヶ月がたっている。夏海を引き取りにやってきた礼二を、その日は珍しく博士がじきじきに出迎えた。
「わたしの研究もだいぶはかどったよ。これもきみがいい素材を連れてきてくれたおかげだな」
博士はそう言って笑った。
しばらく待っているとクリスティが夏海を連れてきた。夏海はここにやってきたときに身に着けていた服装で、剃られた頭髪を隠すように白い帽子をかぶっていたが、それ以外はまったく以前と変わらないように見えた。
だが、礼二は知っている。いま眼前に立っているのはかつての高島夏海という女ではない、まったく別の人間だ。
やや不安げな表情で歩いてきた夏海は、礼二の顔を見ると、ぱっとクリスティの背後に隠れた。
「何をはにかんでいるの? あなたのご主人さまがお見えになっているというのに」
クリスティは歌うようにそう言うと、夏海を無理やり礼二の前に立たせた。
「夏海・・・・」
長い睫を震わせながらうつむく夏海を目の前にして、礼二は呟くようにその名を呼んだ。我知らず身体が動き、その細やかな肢体を抱きしめ、口を吸った。
「あ、あ・・・・」
夏海は抵抗しなかったが、礼二に抱きしめられ、唇を合わせられると、呆けたような表情で、うわごとめいたうめき声をあげた。肢体が小刻みに揺れ、その心拍の激しさが礼二まで伝わってきた。
礼二が身体を離すと、夏海はそのままがくっと床に崩れ落ちそうになった。クリスティが傍らに寄ってその身体を支えてやると、夏海はクリスティにしがみつくようにした。
その様子を驚きの表情で見つめる礼二に、クリスティは悪戯な笑みを向けて、
「この子、いま軽くイッてしまったみたい」
と言った。
(そんな馬鹿な・・・ただキスをしただけで)
礼二は思うが、いまクリスティにしがみつくように立っている夏海の瞳は潤み、そのなかにはたしかに恍惚の色があった。
「わたしは彼女をその根底から作り変えるべく様々なことをしたが、最後にそれを成し遂げたのはきみだ。いわばきみは彼女の創造主なのだ」
博士は低い声で、ゆっくりという。
「創造主を愛さない者がこの世にいるだろうか? 神の御手に抱かれて恍惚に酔わない者がいるだろうか?」

礼二が夏海を連れて、研究所のある山奥から麓へ降り、そこに停めていた車に乗り込むまで、クリスティはついてきた。
「さようなら」
いよいよ別れの際にクリスティはそう言って、夏海を見ながら少し泣いた。
いったいクリスティはどういう女だったのか。どんな気持ちで夏海と関わっていたのか。礼二にはよく分からない。
よく分からないといえば寺元博士もそうだが、彼は見送りにも来ないで、研究室の玄関でさっさと背を翻し、自身の研究に戻っていった。
そして今―――
礼二は不可解な博士夫妻の新たなおとし子を乗せ、車を走らせている。
この女にはもはや何もない。ただひとつすがるものがあるとすれば、それは彼女を現在の運命に叩き落した礼二だけだ。
そんなことを知ってか知らずか、助手席に乗り込んだ夏海は不安げな表情のままで、窓の外に目をやっている。ときどき、礼二の顔をちらちらと窺っているのが分かる。
「夏海・・・・」
礼二はまたその名を呼んだ。心の底から湧きあがってくる奇妙な高揚感を噛み殺しながら。

車は林道を走り抜けていく。もうすぐ町に出るだろう。
  1. 2014/07/09(水) 14:48:59|
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夏の生贄 第十九章 「征服」

寺元博士の研究室はいま、普段の静謐な雰囲気とはかけ離れた生臭い肉の祭典が行われている。
部屋の中央に置かれたベッドで、裸の男と女が睦みあっているのだ。
いや、それは睦みあうなどというような和やかな単語の似合う光景ではない。
猛り立つ欲望を思うさま女体にぶつける男の姿は、まさに獣だ。体中にびっしょりとかいた汗をふり飛ばしながら、女の美しい白肌を舐めまわし、乳房を揉みしだきながら、そそり立つ肉柱を女の優しい口元に強引に突き入れているその様は、凶暴というよりもいっそ凄惨であった。
男の荒々しい行為を受けている女のほうも、最初は嫌がって泣きわめいていたが、もはや涙も枯れ果てた態で、なされるがままに肢体を嬲られ、口中を荒らされている。
男女二人の赤裸々な性行為を、少し離れた場所で博士は冷徹に見守っている。
男―――高島礼二が、女の口に突き入れていた肉棒を抜き取ると、兄嫁―――かつては兄嫁であった女をどんと突き飛ばした。女―――夏海はベッドに叩きつけられ、仰向けに倒れこむ。礼二はその細腰を両手でつかむと、夏海をうつぶせの格好にして、柔尻を抱え上げ、自分のもとに引き寄せた。
「やめて・・・・」
夏海がか弱い声を上げて、抵抗の姿勢を見せる。たった一ヶ月足らずで、それまでのささやかな人生でようやく掴み取った幸せのすべてを根こそぎ奪われつくした女。その彼女がうるみきった哀れな瞳で、礼二を見つめている。しかし昂ぶりきった礼二には、その哀れさすら「ひたすら続けろ」というサインでしかない。
染みひとつない清らかな尻を自らの腰に引きつけると、礼二は後ろからずぶりと夏海の陰部に怒張を捻じこんだ。
「あうう」
夏海が苦しげな声をあげて、眉根を寄せた。かまわず礼二は激しく腰を動かして、長年積もりに積もった欲望の塊を、夏海の女の源泉に打ちつける。腰と腰が激しく衝突する度に、夏海の桃尻がばこんばこんと軽快な音を立てる。
「よかったわねえ、夏海。これであなたも一人前の女よ」
自分のセリフのおかしさに自ら笑いながら、クリスティがうつぶせた夏海の顎をくいっと持ち上げた。夏海は額にびっしりと汗をかきながら、はっはっと荒い息をついている。礼二が怒張を打ち込むたびに、その切れ長の瞳が切なげに細められ、鼻から熱い息がふきこぼれる。
「ふふふ、あなたもまんざらでもない気分みたいね。色っぽい表情をしているわ」
ハンカチで顔の汗をふき取ってやりながら、クリスティが冗談っぽく言う。
「ああ・・・いやぁ・・・・」
顔を激しく揺さぶって儚げな抵抗をする夏海。その様に欲望を掻き立てられた礼二がことさら激しい一突きを尻にくれる。
「あんんっ」
悲鳴なのか喘ぎ声なのか分からない声を上げ、夏海はのけぞった。その姿は傷ついた小鳥のように可憐で弱々しく、それゆえに男の嗜虐心をそそってやまなかった。
「あっ、あっ、あっ、おかしくなる・・・ダメッ」
誰に向かって言っているのか、夏海はしきりに「ダメ、ダメ」と訴えながら、くねくねと肢体を揺すって身悶えている。
「駄目じゃないのよ。もっともっと悦びなさい。好きなだけ声を出したらいいわ。恥ずかしいことなんて何もないのよ」
行為の最中で礼二は肉棒を抜き取ると、今度は夏海を仰向けにした。その細やかな足を両手で掴み、大きく開かせる。
夫の昭文以外には、いや、その昭文ですらこれほどはっきり見たことはないであろう、夏海の股間に隠された秘密の場所が衆目に晒される。礼二の荒々しい行為に、しかし快感のツボを刺激されたそこはしっとりと潤み、めくりだされた端整な肉の花びらは生々しい芳香を放っている。
「ほうら、見て。夏海のクリトリス、大きいでしょ。ここをいじられるとすぐに気持ちよくなって、いきそうになるのよ」
クリスティの言葉に誘われるように、礼二は広げきった夏海の股間に顔を埋めていき、ぴんと勃起したピンクの肉粒を舌でざらりと舐めた。
「ひぃっ」
電撃のように走った快感に、夏海の腰がびくっと跳ねる。礼二はとり憑かれたように愛らしいクリトリスを口に含み、舌でしゃぶり、唇できつくしごきたてた。
「はああ~ダメぇ、そこはダメぇ!」
「うふふ、可愛い。ほんとに夏海はここが弱いわねえ」
からかいながらクリスティは、汗をかいたお椀型の乳房をやわやわと揉みしだき、勃起した小さな乳首を指先でころころとまさぐっている。
「ふああ、へんなのぉっ、あ、あ、あ、へんになっちゃう、たすけて!」
「そろそろみたいね」
呟いて、クリスティはそっと身を離した。
陰部から顔を離して、礼二も夏海を見つめた。汗と鼻水で汚れたその表情は、あどけない子供が突然沸き起こった災難に混乱して、助けを求めているようだ。そんな稚い表情とは裏腹に、股間の付け根ではぱっくりと開いた女陰が、生々しい赤肉が濡れ濡れとぬめ輝いている。
その開いた女陰に礼二は再び指を入れた。膣襞をまさぐり、しこりきったクリトリスをこりこりと揉み潰す。
「あ、あ、あ」
途端に流し込まれる快楽に、夏海の顔が再び切なく歪む。形のいい唇によだれがだらしなく垂れおちる。
「お前はおれの女だ」
礼二はどすの効いた声で言った。怯えた夏海の瞳が大きく見開き、礼二の顔を見つめる。
「分かったな」
またクリトリスを強く、握りつぶす。「ひい~っ」と甲高く啼いて、夏海はがくがくとうなずいた。
―――やった・・・。
―――ついに・・・、
―――ついにこの女をおれのものにした。
入道雲のように沸きあがってくる達成感を噛み締めながら、礼二は夏海の腰を引き掴み、自らの股間に乗せあげた。
「あはあっ」
再び子宮に侵入してきた野太い肉塊に、夏海が切なげな声を洩らす。
それからはもう滅茶苦茶だった。自分の身体にまたがらせた夏海を、礼二は思うさまに揺さぶりたて、繋がったままでさんざんに躍らせ、気をやらせまくった。
「いくっ―――あ、またいくぅっ」
「も、も、ダメェッ―――いっちゃうっ」
何度も絶頂に押し上げられながら、夏海もいつしか愉悦の波にひき攫われ、自分から腰を揺さぶりたて、礼二の唇を求めては『初めて』経験する喜悦の行為に沈み込んでいった。
そんな夏海の姿を寺元博士は深沈とした表情で静かに見つめていた。
  1. 2014/07/09(水) 14:48:19|
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夏の生贄 第十八章 「破瓜」

クリスティに揺り起こされ、ようやく瞳を開けた夏海は醒めきらない意識のまま、ぼんやりと上体を起こした。
醒めきらない意識? いや、そうではないのかもしれない。夏海がいま感情のこもらないぼやっとした表情なのは、眠気のためではなく、博士の施した精神改造で記憶をすべて抹消されたからなのかもしれない。疑うことを知らない犬のようなあの無垢な瞳は赤子のものだ。
その赤子の瞳がゆっくりと動き、はじめて礼二と目が合った。そのときだった。それまでまさに動物のように感情のなかった瞳に、さっと怯えのようなものがはしった。
「いや・・・・」
「どうしたの? 夏海」
クリスティが優しく呼びかける。
「いや、あのひと・・・こわい。きらい」
そう言ってぶるぶると震えながら、夏海は両手で顔を覆った。
「おやおや、これは驚いた。以前の記憶は完全に消去したと思っていたが、きみのことはまだ意識の片隅にひっかかっていたようだ」
驚いた、とは言いながら態度には少しもそんな様子は表さずに博士はつぶやいた。それから礼二を見てにやりと笑う。
「夫や子供のことももう覚えていないというのに。ふふふ、きみもたいした嫌われ方をしていたようだな」
義姉の豹変を呆気に取られて見ていた礼二は、嘲るような口調の博士の言葉にかっとなった。怒りで身体が震えた。
自分がはじめて心底から惚れこんだ女―――。
顔を見るだけで気分が浮き立ち、嫌われていると知りながらも惨めな思いを抱えて会いにいかずにはいられなかった女―――。
その女がすべてを失った哀れな姿を晒しながら、それでもなお自分を嫌悪し、顔を背けている―――。
憎かった。殺してやりたいと思うほど憎かった。
礼二はもう一度博士の顔を見た。博士はうなずいて言った。
「行きたまえ。きみが彼女を女にするのだ」

溢れかえる愛憎の念を抱え、凄惨極まる表情の礼二が近寄ってきたのを見て、夏海は震え上がった。必死でベッドから身を起こし、逃げようとしたところをクリスティに押さえつけられた。
「駄目よ。言ったでしょ、きょうはあなたが破瓜を迎える日。あのひとにあなたの処女を貰っていただくの」
擬似的なイニシエーション―――。
先ほど博士が言った言葉を礼二は思い出す。そのなかに破瓜の体験も含まれていたのか。新しく生まれ変わった夏海が礼二とのまぐわいであらためて処女を失うことも、博士のプログラムに組み込まれていたのか。
だが、礼二にとってはそんなことはもはやどうでもよかった。
いまはただ、眼前にいるこの哀れな、美しい生き物を思いのかぎり凌辱し、自分のなかに積もりに積もった愛憎の念を叩きつけてやることしか礼二の頭にはなかった。
ベッドに上がりこみ、じたばたともがく義姉ににじり寄る。
睨みつけながら、その乳房を右手でぎゅっと掴んだ。夏海はひっと悲鳴をあげた。礼二は乳房を握る手にますます力をこめる。
柔らかい餅のような肌の奥に、たしかに息づく温かい血潮の感触。この女は生きている。礼二はそう感じる。これは夢幻などではない。この女は生きて、ここにいる。
今度こそおれのものだ。
「いたい・・・いたい!」
強く乳房を握りつぶされて悲鳴をあげている夏海の唇を、その肢体にのしかかった礼二が強引に奪う。
異形の処女貫通儀式が始まった。

高島昭文は読み飽きた本を投げ出して、また病室のベッドに身を沈めた。
まったくいつになったらここを抜け出せるのか。呑気にいつまでも寝ていられるような状況ではないのに。
きょうは昼間に夏海の叔母の陽子が見舞いに訪れた。彼女の話では、最近、晴喜は母の夏海を恋しがって泣いてばかりいるらしい。一、二度困りきって夏海の携帯に電話したが、つながらなかったという。折り返しの電話もなかったというから、夏海はいま電波の通じない場所にいるのだろうか。それにしても電話の一度もないのはおかしい、と陽子は話した。昭文のところにも夏海からの連絡はまだ一度もない。
陽子が帰ってから、楽天家の昭文もさすがに心配になって、弟の礼二に渡された連絡先に電話をしてみた。電話に出た礼二の上司だという男は、礼二は仕事の用件で二、三日留守にしていると言った。
いまこうしてただ寝転びながら、病室の天井を眺めていると、思い出されてくるのは妻のことばかりだった。
結婚してから五年ほどたつが、一ヶ月もの間、お互いの顔を見なかったことなどかつてなかったことだ。夏海は大丈夫だろうか。おとなしげな顔に似ず、頑固で不器用で意地っ張り、些細なことにも傷つきやすい繊細な女だった。大学時代からの付き合いだが、いまでは夏海のことならたいていのことは分かる。頑なに拒否されながら、昭文があれほど夏海と彼女の両親との仲を修復しようとしたのも、夏海が心の底では両親の愛情に飢えていることを知っていたからだった。
子供が出来てからは、夏海は少し変わった。少々甘すぎると思えるくらい、息子にたっぷりと愛情を注いだ。あたかも自分にはなかった幸福な幼少時代を晴喜には存分に味合わせてやろうとしているかのように。
そんな夏海の姿は昭文にとって愛しくもあり、痛々しくもあった。
―――あいつだけは不幸にしたくない。
昭文は今まで何回も思ったことを、また心の中で繰り返す。
そのためにも自分が頑張らなくては。
眠りに誘い込まれながら、昭文は安らいでゆく身体に逆らうように、心にそう鞭をくれていた。
  1. 2014/07/09(水) 14:47:31|
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夏の生贄 第十七章 「リセット」

「TVゲームをやったことはあるかね」
その日、二週間ぶりに研究室を訪れた礼二は、会ったそばから博士にそんな質問を受けた。
「学生の時分はずいぶんやりましたが・・・それが何か?」
戸惑いながら礼二は答える。
「じつはわたしも昔、TVゲームに熱中したことがあるのだよ。といっても、最初にファミコンが出たくらいのときだがね」
「それは意外ですね」
「わたしはロールプレイングゲームが好きだったな。いまはどうだか知らないが、当時のゲームのコンピュータはいい加減なものでね。カセットに少しの衝撃を与えただけで、記録されたデータが消えてしまうのだ」
博士は虚空を見ながら、抑揚のない口調で続ける。
「すると次にゲームを開始したときに、画面にメッセージが現れる。『あなたのデータは消滅しました』とね。しょせんくだらない暇つぶしと分かっていても、いや、それが分かっているからこそ、そんなときにはむなしい気持ちになるものだ。今まで自分がそれに費やした時間がまったくの無駄になってしまうのだからね」
博士はそこで言葉を切って、コーヒーを啜った。
「だが、わたしはそのむなしい感覚が好きだったな。せっせと時間をかけて造ったものの、不意の風にあっという間に崩れ去っていく砂の城のような、あのうんざりする気分がね」
あれから義姉はどうなっただろう―――そればかり考えて眠れない日々を過ごしてきた礼二に、いまこの場で聞く意図の読めない博士の言葉は苛立ちしか呼ばない。その気持ちを隠すように、礼二はうつむいてコーヒーを啜った。
そんな礼二の姿を見て、博士は薄く笑った。そして短く言う。
「夏海の砂の城はわたしが崩してやった」
礼二は一瞬かたまった。
「それは・・・どういうことですか?」
「夏海の記憶をすべて消したのだ。彼女の脳は過去の記憶に関するデータのすべてが消えた。夫や子の姿ももはやない。いまや彼女自身が一人の大きな子供に還っている」
「何も―――記憶は残っていないのですか?」
「もちろん言語や身体の記憶とも言うべき基礎的な生活習慣のようなものは残っているが、精神の記憶は消滅した。リセットだ。本来ならこれからわたしが新たな記憶や価値観を夏海の脳に上書きしていき、彼女の新しい人格を形作ってやるのだが、きみたちとの契約期間は一ヶ月でもはや間がない。ゆえにその役目はきみに託す」
博士は奥深い深淵を感じさせる瞳で、礼二を見つめ返した。
「きみを彼女の価値観の最上位に置いてやる。これからはきみが彼女にとっての絶対主になるのだ」

博士とともに部屋へ入った礼二は、義姉の外見上の変貌にまず息を呑んだ。
かつて義姉の頭を美しく飾っていた艶やかな黒髪。それが影も形もなくなっていた。
「体毛は眉を残してすべて剃った」
博士は淡々と語る。
「儀式のようなものだ。幼子に還った夏海に擬似的なイニシエーションを経験させるのだ」
博士の言葉はまるで分からなかったが、礼二は眼前で眠りについている義姉の姿に目を奪われている。
すべての記憶を奪われ、頭髪や股間の繊毛すらも剃り取られてしまった義姉。形のよい頭を小坊主のように丸められているのに、その肢体は女らしい優美な曲線を描き、裸の胸や尻には肉の谷間が魅惑的な陰影をつくっている。無毛となった股間は、童女のようにすべやかな肌を晒し、中心には深い切れ込みがはしっていた。
しかし―――
礼二は驚嘆する。すべてを失ってもなお、義姉はあまりに美しかった。
もともと無垢な雰囲気を持ち、透明な少女っぽさのような不思議な魅力を漂わせていた義姉だったが、眼前の無惨ともいえる変形を強いられた姿は、その変形ゆえにいっそう清らかさ、無垢さを増していた。その美しさはもはやこの世のものではないような気がした。
自らがここまで追い込んだ義姉の凄絶な姿を目にして、しかし礼二は激しく欲情した。
「クリスティ」
夏海の傍らに座っているクリスティに博士が呼びかけると、彼女はうなづいて夏海を揺さぶった。
「起きなさい。きょうはあなたの大切な日なのよ」
  1. 2014/07/09(水) 14:46:48|
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夏の生贄 第十六章 「目覚め」

目覚めた瞬間から、哀しい気持ちでいっぱいのときがある。
寝ている間に自分が世界にただ一人取り残されてしまったような、奇妙な喪失感――。
その日、研究室のベッドで久々に覚醒した夏海も、そんな気分だった。
何か哀しい夢でも見ていたのだろうか。
こんなことは初めてではない。夏海は漠然とそう思う。今までにもこんな瞬間は、何回もあった気がする。気がするだけで、それがいつだったかは思い出せない。何も思い出せない
なんだか、とても不安になった。誰かの姿を探して、夏海はベッドから出て隣室に向かう。裸のままだったが、気にならなかった。
寺元博士がいた。いつものようにパソコンに向かっている。
「やあ、目覚めたのか。気分はどうだね?」
夏海に気づくと、博士は振り返ってそう言った。
「とても変な気分。すごく哀しいの。どうしてか分からないけれど」
「そうかね。じきに落ち着くだろう」
博士は内線の受話器を取り上げた。
「熱い紅茶を持ってきてくれ」

やがてクリスティが紅茶の入ったポットを持って現れ、それから三人は博士の研究室でささやかなお茶会を開いた。もっとも、テーブルを囲む一人は裸の女性なのだから、普通に見れば異常な光景なのだが、博士もクリスティもそんなことには微塵も気を取られていないようだった。
夏海の意識にも羞恥の感情はなかった。温かいアールグレイを啜っているうちに、先ほどの哀しい気持ちは薄れていき、平穏が再び彼女の心を満たした。
「きみががんばってくれたおかげで、わたしの研究もかなりの進捗をみることができたようだ。ありがとう」
博士が珍しく穏やかな口調で、笑みすら浮かべながらねぎらいの言葉を述べるのを、夏海はきょとんとした表情で見た。
「わたしは何もしていないわ」
「そんなことはない」
「でも」
「感謝の言葉は素直に受けるものよ、夏海」
夏海の傍らに座っていたクリスティが口を挟む。そしてにっこり笑いながら、夏海の手を取る。
「わたしもとても感謝しているわ。だから、あなたにお礼をあげたいと思うの」
クリスティは悪戯に微笑んで、博士を見た。博士がうなづくと、クリスティは着ていたセーターを脱ぎ捨て、ブラジャーも取った。
突然目の前に現れた白く豊かな乳房に、夏海は驚きながらその視線を釘付けにされた。
「きみは生まれ変わったのだ、夏海」
神官が託宣の言葉を告げるように、博士はなめらかに言う。
「これからは思うがままに生の喜びを受け取り、何に縛られることもなく自由に生きられるのだよ」
博士の落ち着いた言葉が、夏海の精神をゆっくりとさらっていく。
「きょうがきみの誕生日だ。さあ、遠慮することなく、母の乳房に吸い付くがいい。それはきみの当然持つべき権利なのだから」
夏海は目の前に開陳された乳房を見つめている。
クリスティの胸にずっしりと実り、ぶらさがっている豊かな果肉。その先端では大きな乳輪が、生々しい芳香を放っている。
とても魅力的だった。
夏海はおずおずと上目遣いにクリスティを見た。
「いいのよ」
クリスティの優しげな言葉に誘われて、夏海はそろそろと右腕を伸ばして乳房に触れた。その肌の温かみを掌に感じながら、ゆっくりと乳房を握り締めていく。ずっしりとした肉の感触が、なぜか夏海の気分を高揚させる。
何かに憑かれたように、夏海は乳房の先端に顔を寄せていった。そのまま赤黒い乳首を口に含む。
母の味がした。
「ん・・・・・」
夢中で乳首に吸い付き、しゃぶる。
その瞬間、夏海は幼子に還っていた。
「そんなにがっつかなくても大丈夫よ。これからはあなたが望むときに、好きなだけ吸わせてあげるわ」
夏海を見下ろしながら、クリスティが歌うように言う。
博士はそんな二人の姿を見て、満足そうな笑みを浮かべた。
  1. 2014/07/09(水) 14:45:58|
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夏の生贄 第十五章 「Call」

夢の中で、夏海はいつものようにプールの中に立っている。
晴喜は消えてしまった。プールには誰もいない。
カメラを取りに行った夫も戻ってこない。
夏海は途方に暮れてプールから上がろうとするが、どれだけ歩いても陸には辿りつけない。
涙はとうに枯れ果てている。それでも夏海はのろのろと歩きだす。
歩きながら思い出している。あれは去年の夏だったか。昭文とひどく口論になったことがあった。
結婚した後も夏海は依然として、両親と疎遠であった。晴喜が生まれてからは特に、父母は夏海と親子関係の修復がしたいと言ってきていた。だが、夏海はそんな気にはなれなかった。今でも両親を許せなかった。
情に厚く、親戚関係などはことに大切にする昭文には、夏海の両親と疎遠になっていることは気がかりであったようだ。それまでも度々、自分も協力するからもう少しだけ両親に歩み寄ってはどうかと夏海を諭していた。
その日の昭文はことさら熱心だった。だが、いくらなだめてもすかしても夏海が言うことを聞こうとしないので、さすがに昭文も呆れ顔になって、
「なんできみはそう頑固なんだ。ご両親だってかなりの年なんだし、きみや孫の晴喜の顔をもっと頻繁に見たいという気持ちを察してやれよ。それくらいの優しさがあってもいいじゃないか」
夏海は何も言わなかった。黙って昭文に背を向け、台所に行きかけた。
「逃げるなよ!」
昭文のいつになく厳しい声が飛んだ。
夏海は胸がかっと熱くなった。振り返って、昭文を睨みつける。
「いい加減にして! わたしと両親との問題はあなたとは関係ないわ」
「関係なくはない。きみはぼくの妻で、ご両親は義理でもぼくの親だ」
「・・・知らない、そんなこと」
「何を子供みたいなことを・・・もっと大人になれよ」
夏海は昭文を睨みつけたままで、硬直していた。
心底、口惜しかった。知ったようなことを言う昭文が憎くてたまらなかった。
瞳が燃えるように熱い。そう思ったとき、涙がぽろぽろと零れ落ちてきた。
「あなたには分からないわ・・・・わたしの気持ちなんて」
そう言い捨てて、夏海は振り返った。そのまま玄関へ向かう。
「勝手にしろ!」
昭文の怒声が後ろで聞こえた。
家を出ると、外は曇り空だった。昂ぶった気持ちを抱えたまま、行く当てもなく歩き出したとき、後ろから晴喜が追いついてきた。滅多にない両親の喧嘩を怯えながら聞いていた晴喜は、母が不意に家を飛び出したのを見て、心配でたまらなくなったのだ。
「おかあさん・・・」
いつもにこにこと笑っている晴喜の泣きそうな表情を見て、夏海もまたたまらない気持ちになった。手をつなぎ、二人で泣きながら歩いた。道行くひとが何事かと好奇の目を注いできたが、夏海はそれでも立ち止まらず歩いた。
途中で雨が降ってきて、二人は商家の軒先で雨粒をしのいだ。
もう夕暮れの時刻である。辺りは徐々に暗くなってきていた。心細くなったのか、晴喜が夏海の手をぎゅっと握った。そんな幼い我が子の姿があまりにも可哀相で、夏海はかがんで晴喜をぎゅっと抱きしめた。
雨のしとしと降る音と晴喜の胸の鼓動が混ざり合って聞こえる。初夏だというのに、夏海は自分たちがマッチ売りの少女になったような気がした。
「かえろ・・・ね、おかあさん。もうかえろうよ」
晴喜が細い声で言う。夏海はただ黙ってうなずいた。新しい涙がまたその頬をつたっていた。
濡れ鼠になって家に帰り着くと、昭文が玄関の外で立って待っていた。
「風呂は沸かしてあるから、まず入ってきなさい」
うつむく夏海に、昭文はまずそう言った。それから小さく、「ごめん」と―――。
夏海は無言で家に入った。何も言えなかった。

―――プールを歩きながら、夏海はそのときのことを考えている。
わずかな時間だったが、それでもまだ消えない胸の痛み。愛するひととでも、分かり合えないことがあると知った哀しさ。
孤独。
―――もういやだ。
生まれてからずっと孤独な思いを味わってきた。また一人になるくらいなら、死んだほうがましだ。
枯れ果てたと思っていた涙がまた滲み出てきて、夏海の視界をぼかす。切なくて切なくて、夏海はいつしか駆け出している。
「昭文さん・・・・晴喜・・・・!」
走りながら、夏海は声のかぎりに夫と子の名を叫んだ。いつまでも、いつまでも叫びつづけた。


「この子、泣いているわ」
クリスティが呟く。その視線の先には、夏海が横たわっている。
視覚、聴覚、嗅覚のすべてを器具で封じられた状態で、夏海は今までよりも深い眠りについている。もう一週間も眠ったままだ。
睡眠の間にも博士の『治療』は続けられている。そのカリキュラムもほとんどが終了し、残りはあとわずかとなっている。
「家族を失う夢でも見ているのだろう」
博士がぽつりと言う。
「そうなのかしら」
「・・・もうすぐ夏海の記憶はすべて消去される。そのときには夫のことも子のことも、その名前すら思い出せなくなるのだ。哀しみを感じることもなくなる」
博士はむしろ陶然とした口調で言った。
「その日が夏海の新しい誕生日となるのだ」


晴喜はふと目を覚ました。
母がいなくなってからも、晴喜は母を恋しがって泣くこともなく元気に遊びまわっていた。もう近所に友達も数人出来たようで、晴喜を預かる夏海の叔母陽子は晴喜のわんぱくぶりに手を焼きながらも、これなら心配いらないと胸を撫でおろしていた。
その日も晴喜は朝から近くの公園へ行って、友達と鬼ごっこやかくれんぼに精を出し、帰ってきてからは座敷で昼寝していた。

目を覚ました後、晴喜はぼんやりと辺りを見回した。
「おかあさん」
そう呼んでから、いまは母がいないことを幼い頭で思い出した。
おかあさんはどこに行っているんだっけ?
考えていると、不意に鼻の奥がつんとなった。なぜだか哀しい気持ちが、胸のうちでどんどん大きくなる。母の優しい声が聞きたくてたまらなくなる。
「おかあさん・・・・」
もう一度、そう呼びかけた。そのうちに晴喜の瞳にみるみる涙の珠が盛り上がってきた。
「あら、ハルちゃん、どうしたの?」
ちょうど様子を見に来た陽子はそんな晴喜の姿を見て驚き、駆け寄ってなだめたが、晴喜は容易に泣き止まず、ただただ母の名前を呼び続けていた。
  1. 2014/07/09(水) 14:45:17|
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夏の生贄 第十四章 「供物」

「少しの間、ここで待っていたまえ」
博士は礼二にそう言って、隣室に入っていく。ドアは開けたままだ。
礼二は中をそっと覗き見る。
夏海がいた。全裸でベッドに横たわっている。
剥きだしの両手は頭上で、両足は少し開いた格好で金属製の強固な器具で固定されていた。さらに首筋から顎にかけても金属のマスクのようなもので固定されており、これでは夏海は頭を少し動かすことも出来ない。
そのように固定された夏海のこめかみの両方に、直径五センチほどの円盤型電磁器のようなものが貼り付けられている。その電磁器は細い銅線でベッドの脇にある長方形の黒い装置につながっていた。その装置のモニター画面には円グラフが映し出されており、絶えずその形を変化させている。
あの装置はいったい何のためのものなのか―――。
科学知識に乏しい礼二だったが、博士が自身の開発した装置を使って行っている得体の知れない「実験」を目の当たりにして、おぞましい予感を感じずにはいられない。
再び、ベッドの上の義姉の姿に目を移す。
ピンで刺し留められた美しい蝶―――。
礼二はいまの夏海の姿を見て、そんなイメージを抱いた。
それにしてもその蝶はなんと蟲惑的な身体をしていることだろう。
決して大きくはないが、椀形の綺麗な乳房。はっとするほど白く、肌理の細かい薄肌の下に、細い血管が透けているのが生々しい。その真っ白な丘の上に、若々しい桜色の小さな乳首がちょこんとのっている。
夏海の呼吸に合わせて穏やかに隆起するその乳房の下で、滑らかな線を描く白肌が室内灯の光を柔らかく弾いていた。
さらに下に目をやると、少し開き気味にされた両足の付け根に、萌え出たばかりの若草といった趣の淡い恥毛が輝いているのが見える。夏海の気性そのままの上品な生えぶりを示すその若草の中心がそっと割れていて、その中から清らかな薄桃色の花園がのぞいている。
礼二はごくりと息を呑む。初めて目の当たりにした義姉の肢体はあまりにも美しく、あまりにも無垢な清らかさを保っていた。とても人妻とは思えない、この清廉な処女雪のごとき肢体をたった一人で占有していた男がいるのだ。その男が兄の昭文だということが、いまこの場でも礼二により狂気じみた嫉妬の感情を呼び起こした。
子供の頃から出来のいい兄の影で、比較されて惨めな思いになるのはいつも礼二だった。そのことにひねくれ、歪んではより深く堕ちていく礼二を尻目に、昭文はさっさと一流の大学へ行き、極上の妻をもらい、幸せな家庭を築いていった。
礼二が兄の昭文を轢く、という乱暴極まりない命令を上司から受け、素直にそれを実行したのも、子供の頃から積もりに積もった兄へのコンプレックスの噴出だったのかもしれない。
そして今、兄のもっとも大切なもの、もっとも愛する女が、自分の目の前で無防備な姿を晒している。
様々に捻じれた感情の波に揺られながら、礼二はどろどろと濁った欲望で満たされていく。

博士は夏海の傍らに近寄り、彼女の顔の下半分を覆うマスクとこめかみの装置を外した。
「苦しくなかったかね?」
「はい。ああ、でも変な気持ち・・・」
夏海は妙に締まりのない、ゆるい口調でうめくようにそう答えた。
「それでいい。きみは徐々に変化を遂げているのだ。蛹のなかにいる蝶の気分を今のうちに味わっておきたまえ」
博士はそう言った後で、ちらりと礼二のほうを見た。
「夏海。今日はきみにお客さんがいるのだ。―――入ってきたまえ」
博士の言葉に促されて礼二は部屋の中へ歩み寄った。
「だれ・・・・?」
夏海はまだ頭がはっきりしないのか、ベッドに固定されたままの全裸を恥ずかしがる様子もなく、とろんとした視線で礼二を見つめた。
礼二の鼓動が高鳴る。
「あ・・・・」
夏海はかすかに声をあげた。
「ああ・・・・」
夏海の顔つきがゆっくり変わっていく。幻覚の中を彷徨っているようだった瞳に、感情の炎が揺らめきはじめた。
不意に夏海は弾かれたように身体を起こそうとした。が、四肢をきつく固定された身体はびくともしない。それでも夏海は頭を狂ったように振り回して、ベッドから抜け出ようとする。
礼二はそんな夏海の反応の物凄さに完全に気圧された。
博士が夏海の顎を右手で掴んだ。そして言う。
「暴れるんじゃない、夏海。ただの礼二くんじゃないか」
「離して・・・このひとは悪魔よ・・・・何の罪もないわたしの主人を傷つけた男・・・それで何食わぬ顔でわたしをだました男よ・・・・ぜったいに許さない・・・!」
「やれやれ、まだ早かったか」
言いながら博士は注射器を取り出し、夏海の左腕に素早く針を突き刺した。
「あうう・・・・ゆるさない・・・わたしは、わたしは」
薬物が久しぶりに蘇った夏海の生気を急速に奪っていく。それでも夏海は弱々しく身体をよじりながら、うわごとのように怨嗟の言葉を吐いている。
博士が今度は黒いアイマスクを取り出し、夏海の両の瞳を覆った。
「あ・・・・」
先ほどとは違う声音で、夏海が小さく声をあげた。
「落ち着いてきたかね。さあ、いつものお楽しみの時間だよ」
博士は視力を奪われた夏海の耳元で妖しく囁きかける。
「部屋の明かりは消えた。もうすぐ夏海の大好きな旦那さまが、ベッドへとやってくる。ほら、もう入り込んできたようだよ」
「あう・・・・ああ、あなた・・・昭文さん」
礼二は耳を疑った。さきほどまであれほど自分を憎み、罵っていた夏海が、不意に甘い声で夫の名を呼んだのだ。
博士は夏海の四肢を固定していた金属の器具をすべて外した。
「いつものように旦那さまをたっぷりと悦ばせてあげたまえ。もちろん、きみも誰に気兼ねすることもなく、快楽に耽るがいい。恥ずかしがることは何もない。きみたちは夫婦なのだから」
博士は夏海の四肢を固定していた金属の器具をすべて外した。
「ああ・・・・あなた、うれしい」
夏海は幸福そうな笑みを口元に浮かべながら、まるで本当に誰かにのしかかられているかのように肢体をのけぞらせた。
「あ、ああ・・・・・んんっ」
「ひっ・・・そこはいや・・・舐めちゃいや」
一人でベッドに横たわりながら夏海はくねくねと身体を蠢かせ、時折、嬌声をあげている。
揺れ動く乳房の上で、桜色の乳首がぽつんと勃起しているのが見えた。
「あ、あ、ああん、いい・・・あなた・・・・」
呆然と夏海の痴態を眺めている礼二に、博士が近寄ってきた。
「どうだ、いい眺めだろう」
「博士、これは・・・・?」
「ふふふ。夏海はいま幻の中で、夫との夜の営みに耽っている。ここ最近は毎日、この実験を行っているから、そろそろアイマスクを付けただけで反応するようになってきた。条件づけは完璧だな」
「こんなことも出来るのですか・・・凄いものですね」
「最初は夏海もここまで声をあげたり、身体を動かしたりなどということはなかった。あの子にとっては、セックスはひとつのトラウマに近いものだからな。わたしが熱心に『治療』をしてやったおかげで、やっと自由に性の快楽を心から楽しめるまでになったのだ。
さしずめわたしは、彼女のセックスカウンセラーというところだな」
ブラックな冗談を吐いて、博士は薄く笑った。
「ふふふ、そろそろ本番が始まるようだよ」
ベッドの上では夏海が両足をカエルのように広げていた。空想の夫のペニスを迎え入れているのだ。
「んんん・・・・」
切ない声で夏海が啼いた。
「どうだね、夏海。ご主人のものは?」
ベッドの中で大きく股を広げ、腰を蠢かせている夏海に博士はまた近寄り、その耳元で囁きかける。
「あ、あん、おっきい、すごくいい・・・・きもちいい」
「それならもっと激しく腰を動かして、ご主人を悦ばせてあげなさい。夏海ならもっともっと激しく出来るはずだよ。ご主人を愛しているのだろう?」
「あ、愛してる、あ、あはぁん、ひっ、ひっ」
幻のペニスを喰い締め、子宮深くまで受け入れながら、夏海は激しく腰を使う。張りのある乳房がぷるんぷるんと揺れ、滑らかな腹が隆起する。うっすらとかいた汗で夏海の肌はぬめ光っている。
「あうう、あ、あんっ、も、もう」
細く高く啼きながら、夏海は頭を右左に揺すって絶頂の近いことを知らせた。
「いきそうなのだな。いくときは力いっぱい大きな声をあげるのだ。そのほうがご主人も悦ぶ」
博士は悪魔じみた笑みを浮かべた。
「―――さあ、自分を解放するのだ、夏海」
「んあああっ、い、いくぅ、あなた、いきますっ、あ、あ、あ」
いっちゃうっ、と最後に一声高く啼いて、夏海の身体がぶるぶると激しく痙攣した。

「今日の夏海は最高のオルガスムを迎えたようだな」
博士は礼二のもとへ行き、そう囁いたが、不意に苦笑いの表情になった。
「なんだ。きみまでいってしまったのかね」
礼二は顔を真っ赤にした。激しく恋焦がれてきた義姉の、あまりにも扇情的な痴態を目の前にして、礼二はズボンの中で射精してしまったのだった。
「夏海は気持ちよさそうに眠っているよ。気をやった後は、いつもすぐに眠くなってしまうのだそうだ。子供のような女だな」
博士はそれから真面目な顔になって、礼二のほうに向き直った。
「あと三週間も経てば、彼女を完全に作り変えられるだろう。その最後の仕上げはきみの力を借りることになる。いずれまた来てもらうことになろう」
「それは・・・どういうことですか?」
「時が来れば分かる」
博士はベッドに視線を移した。礼二もつられてそのほうを見た。
ベッドでは夏海が絶頂の後で弛緩した肢体を晒したまま、すやすやと寝入っている。
礼二にはそんな義姉の姿が、祭壇に捧げられた供物のように見えた。
「もうすぐ彼女は生まれ変わる。そのときを楽しみに待っていたまえ」
博士は呟くように言った。
その言葉に、礼二は今更ながら背筋に冷たい寒気が走るのを感じた。
  1. 2014/07/09(水) 14:44:27|
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夏の生贄 第十三章 「心の内側」

画面の中では異様な対話が続けられている。
博士が聞く。
「お母さんのそんな姿を見てしまったことは、きみのセックスに対する考え方に何か影響を及ぼしたと思うかね?」
「セックスというものに嫌悪感を持ったわ。男性に対しても。大きくなるにつれて何人かの男性に声をかけられたり、誘われたりしたこともあったけど、どうしても心を開くことが出来なかった」
「夫の昭文さんとはどこで?」
「彼は大学で入ったサークルの先輩だったわ。明るくてかっこよくて、皆から好かれてた。わたしも憧れてたわ。でも、わたしは皆から男嫌いだと思われてたし、自分でもそう思っていたから、彼にうまく声をかけることも出来なかった。それで一人でいじいじして、子供みたいに拗ねて・・・・、だから彼が『好きだ』と言ってくれたときは本当に嬉しくて、思わず泣いてしまったくらい」
夏海はそのときのことを思い出したのか、瞳に幸福そうな色を浮かべてかすかに微笑んだ。
そんな義姉の姿を画面越しに熱心に見つめていた礼二は、今更ながら兄の昭文に対して灼けるような嫉妬を感じた。
そんな礼二の想いとは無関係に対話はつづく。
「そうして結ばれた彼と初めて一夜をともにしたのはいつ?」
「付き合って一年くらいした頃」
「きみは処女だった?」
「そう。だから、そのときはもうこわくてこわくて。でも怯えるわたしに彼は優しくしてくれて・・・・それでやっとできたの」
「その後は彼と頻繁にセックスを?」
「そんなでもなかったけど・・・処女でなくなってからも、セックスはちょっと苦手だった。彼としてて気持ちよくないとか、そんなことじゃなくて・・・、セックスの最中にあのときの母の姿が浮かんでくることがよくあって・・・。自分もあんなふうにいやらしい、はしたない姿になったらどうしようと思ってしまうの。わたしも母の娘だから、そういう血をひいているから・・・」
「自分も淫乱な女になる可能性があると思っていたのか?」
「そうかもしれない。だからわたし、どんなに気持ちよくなっても、絶対に声を出したりしなかった」
「行為の最中でも声を出すのをこらえてた?」
「そう。彼にはもっとリラックスしたらいいのに、とよく言われていたけど、どうしてもダメで。・・・今はだいぶリラックスできるようになったけど」
「いまは彼との行為は週に何回くらい?」
「週に二回くらいかしら」
「彼はきみとのセックスについてどんな感想を持っていると思うか?」
「・・・彼が満足しているかどうかはわからない。時々不安になるけど・・・。彼はよくわたしの身体について誉めてくれるわ。でも・・・」
「でも?」
「彼に昔、『夏海のクリトリスは大きめで、凄く感度もいい』と言われたときには、ちょっと落ち込んだわ。他の女性と比べられたのがイヤということもあるけど、何より自分の身体のそんな部分がひとより大きいということが気になって・・・母のことも頭にあって、わたしの身体もあんなふうに淫らに出来ているんじゃないかって・・・」
「それ以来、クリトリスの大きさが夏海のコンプレックスになった?」
「そう。ほかのひとのものなんて見たことないから、分からないけど」
「わたしも一度、夏海のクリトリスを見せてもらったことがあったな」
「どうだった? ひとより大きい?」
催眠状態にあるとはいえ、あまりにも無邪気に心配気な声で聞いてくる夏海に、画面の中で博士は笑った。
「そうだな。たしかに大きめだった」
「やっぱり・・・・」
「だが、それはよいことなのだよ。ご主人も誉めてくれたのだろう? 大きな、感じやすいクリトリスを持っていることは恥ずかしいことではないし、むしろ女性にとっても男性にとっても喜ばしいことなのだよ」
「・・・・ほんとに?」
「本当だとも。よく言うだろう、大きいことはいいことだとね」
「・・・・・」
黙って何か考えている様子の夏海に、博士は促す。
「言ってみなさい。大きいことはいいことだ」
「・・・大きいことはいいことだ」
博士の言葉を呪文のように繰り返し、夏海は―――
にこっと笑った。
それを見て礼二は眩暈がしそうだった。とてもこれが現実にあったことだとは信じられなかった。


そこで博士はパソコンの画像を止めた。振り返って礼二を見る。
「どうだったね?」
「いや、驚きました。あのシャイな義姉がここまで自分のことを、しかも夫とのセックスのことまで話すなんてね。催眠とは凄いものですね」
「彼女はついこの間まで、わたしのことを激しく憎んでいたのだよ。殺してやる、とまで言われたくらいだ。ふふふ」
「・・・・・」
「そうそう、彼女はきみのことも憎んでいるぞ。きみに騙されたと知ったうえ、きみが昭文氏を轢いたこともわたしが告げたからな」
「どうしてそれを・・・彼女に!」
礼二は声を荒げた。自分で画策して夏海をいまの状況下に置いたとはいえ、心底惚れこんでいる女なのだ。「憎まれている」と聞いていい気はしない。
「心配するな。愛憎という言葉があるだろう。愛と憎しみは表裏一体。それこそ感情の回路を少しいじっただけで、両者は逆転する。さっきの画像がその証拠だ。安心したまえ、きみにわるいようにはしない。それどころか、わたしはきみに素晴らしいご褒美をあげることになろう」
意味深な言葉を吐きながら、博士は立ち上がって隣室のドアを開けた。
  1. 2014/07/09(水) 14:43:34|
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夏の生贄 第十二章 「記憶」

研究所に夏海を残して去ったのち、礼二は夜も眠れない日々を過ごしていた。
礼二は寺元博士が具体的にどのような「改変」を夏海の精神に施しているのか、知らない。だからこそ妄想は無限に膨らみ、礼二の眠りを夜毎に妨げるのだ。
そして二週間後。礼二は再び研究所の門をくぐった。
一階の応接室でしばらく待たされた後、礼二は博士の研究室に通された。
部屋には何に使うのか分からない無数の機材や膨大な資料で溢れていたが、そのどれもがきちんと整理され、ほこりひとつ見当たらない。
「凄い部屋ですね」
礼二が言うと、博士はにこりともせずにうなずいた。
「今日は何をしに来たのかね」
「ちょっと、義姉さん・・・例の女性の様子が気にかかっていまして」
「夏海か・・・、研究は順調に進んでいる。安心したまえ」
「具体的にどのようなことをしているのですか?」
「夏海にはあの日以来、催眠薬を日常的に射ち、常に深い催眠状態にあるように精神誘導している。そうした状態の夏海と日々対話し、彼女の人間性――笑止極まりない言葉だが――の理解に努めているのだ。精神の改変にはまず被験者の精神の奥底までもを知らなくてはならないからな。最近ではそうした深い催眠状態が、夏海にとっての常態となっている。ゆえに意識が本来の状態に覚醒し始めると、夫や子供のことを考えたりして、かえって様々な現実の不安が洪水のように襲ってくるようだ。この前などは夜遅くに自らわたしのもとへやって来て、早くいつもの薬を射ってほしいと涙まで流して懇願したよ」
「まるで麻薬中毒の患者ですね。危険はないんですか?」
「わたしは医者でもあるのだよ。可愛い患者の身体を危険に晒すような真似はしないさ」
博士はうっすらと凍りつくような笑みを浮かべた。
「つい最近の夏海との対話を記録した画像がこのパソコンに入っている。しばらく待ちたまえ。きみに見せてやろう」

パソコンの画面に画像が映し出された。
礼二にとっては二週間ぶりの義姉の姿がそこにあった。白のシャツに白のスカートを履いた奇妙ないでたちで椅子に座っている。
だが、何より衝撃的だったのは画面のなかの義姉の表情だ。きらきらと輝くようだった瞳はまったく生彩をなくし、まるで夢の中にいるようなとろんとした表情になっている。夏海の全身からいつも醸し出されていた凛とした雰囲気はその影すら残っていない。
「夏海」
画面の中で博士が呼びかける。夏海はきょとんとした表情で、呼びかけた声のほうを見た。
「そろそろいつものお喋りを始めよう。昨日は夏海が子供の頃から両親を嫌っていたという話を聞かせてもらったっけな。それでは、今日もその話をもう少し詳しく聞かせてもらおうか」
「はい」
夏海は素直にそう返事した。その口調はいつものはきはきしたそれではなく、まるで幼子のようにあどけない感じだった。
「昨日の話では夏海のお母さんは浮気性で家に帰らないお父さんへのあてつけで、次第に自分も他の男との浮気にはしるようになっていった。そうだったね?」
「そうよ。知らない男を家にまで連れてきて、わたしの前でもベタベタしてたわ。わたしはそんな母が本当に嫌だった。毎日学校が終わってからも家に帰るのが嫌で、遅くまで図書室なんかで時間を潰していたわ」
催眠状態にある夏海は聞かれたことに対してなんら躊躇することなく、すらすらと答えていく。たとえ質問者があれほど憎んだ博士であっても。
「きみが家に帰りたくなかった理由はそれだけかい? 他にも何か原因があったんじゃないのかね? たとえば母の浮気相手の男たちの誰かに身体を触られたとか」
「そんなことはなかったわ・・・・いつもいやらしい目で見られていたけど。わたしが家に帰りたくなかったのは・・・」
夏海は戸惑った表情でうつむいた。やがて、
「見てしまったから」
ぽつりと言った。
「何をだね?」
「母と浮気相手が・・・セックスをしているところ」
夏海の顔にはっきりと苦痛の色が現れた。いまの夏海の告白は夫の昭文にさえしていないものだった。誰にも言えはしなかった、夏海のもっとも辛い記憶である。
「それはきみがいくつのときだ?」
「十三歳のとき。わたしは中学生になりたてだった・・・。ある日、わたしは具合がわるくなって学校を早退したの。それでいつもより早くに家に帰ったら・・・」
「お母さんと浮気相手がセックスに耽っていたわけか。そのときお母さんはどのような格好で男を受け入れていたのだね? 正常位、それとも騎乗位かな?」
「騎乗位・・・・。母はすごく興奮していて、甲高い声をあげていたわ。わたし、そのころはまだセックスを知らなかったの。でも、母がわたしにまったく気づきもせず、夢中になって男にまたがって腰を振っているのを見て、もの凄くどきどきして・・・とても嫌な気分になったわ。見てはいけないものを見てしまったと思ったの。でも」
「でも、なんだね?」
「男―――渡辺という名前の男だったけど―――渡辺はわたしが襖のかげから見ていることに途中で気づいたの。わたしのほうを見て、ぎょっとしたような顔になった。わたしもびっくりして逃げ出そうと思ったけど、腰が抜けてみたいで身体がちっとも動かなくて・・・。
渡辺のほうはすぐに落ち着きを取り戻したようだった。それどころかわたしに向かってニヤニヤ笑いかけた後、もっと力をこめて母を貫きだしたの。渡辺が腰を動かすたびに、母は蕩けたようになって悦びの声を出していた・・・・」
そこまで言ったとき、夏海の瞳から涙がぽろぽろと零れだした。
「そんなお母さんの姿を見て以来、夏海はなるべく遅く家に帰るようになったのだね」
「そう」
  1. 2014/07/09(水) 14:42:49|
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夏の生贄 第十一章 「闇の中へ」

裸の胸と股間を両手で必死に隠しながら睨みつけてくる夏海を面白そうに眺めつつ、クリスティはゆっくりと近づいてきた。
「そんなに隠しても無駄よ。夏海が寝ている間に、身体のほうの検査は済ませておいたわ。胸もお尻もヴァギナの中まですっかり見せてもらったわよ」
その言葉に夏海の顔がさっと紅潮する。
クリスティは悪戯な表情で夏海を見つめた。
「本当に綺麗な身体ね。とても来年三十歳を迎えるとは思えないくらい、おっぱいもお尻もぷりぷりしててとても若々しいの。うらやましくなっちゃう」
「こんなこと・・・」
夏海は拳をぎゅっと握り締めた。
「こんなことして・・・許されると思っているの?」
「許すも何も夏海が警察へでも訴えないかぎり、こんなこと問題にもならないわよ」
「わたしは訴えるわ!」
「そう。ここを出るときまで、その決意が続けばいいわね。さ、お夕食の時間よ。この服に着替えなさい」
そう言ってクリスティは下着と白のシャツ、そして同じく白のスカートを渡した。
「わたしの荷物はどこ? あの中に着替えが」
「あの荷物は夏海がここを出るときまでわたしたちが預かっておくわ」
「何を言ってるの・・・!? 早く返して!」
「聞き分けのない子ねえ。そうだわ、あなたの荷物に携帯電話があったわね」
クリスティは酷薄な笑みを浮かべた。
「いい考えが浮かんだわ。さっきわたしたちが撮った夏海の恥ずかしいところの写真を、その携帯に転送しましょう。そうしたら夏海のお知り合いの方たち全員に、その写真を見てもらえるわね」
「・・・あなた、正気じゃないわ」
「うふふ。あなたのご両親だって、娘のあそこの写真なんて見たことないでしょうから、ご両親にもきちんと送ってあげるわね。『あなたたちの娘はこんなに立派に大人の身体になって、毎日夫とのセックスに励んでいます。ご心配はいりません』なんてね。どう? 本当にそうしてほしいの?」
「・・・・・」
夏海は下唇をきゅっと噛んだ。あまりにも理不尽な言葉に、夏海は燃えたぎるような屈辱と怒りを感じている。出来ることならこの場で目の前の女の頬を引っぱたいてやりたかったが、暴力とは無縁の世界で生きてきた女の悲しさで結局は手を出すことが出来ない。ただただ瞳に怒りをこめてクリスティを睨みつけるのみだ。
「写真を送ってほしくないなら、さっさと着替えなさい。あと十五分もしたら食堂で夕食よ」

クリスティの用意した白づくめの衣装に着替え、夏海が食堂へ行ったのはそれから三十分後だった。食堂にはすでに博士を除く研究所の所員全員が座っていた。彼らは少し怯えた顔で食堂に入ってきた夏海を無関心な目で見た。
「こちらが前に話した夏海さん。今日から研究所で働くことになったの」
クリスティがそう言うと、所員たちはひとりづつ自分の名前を言い、それから「よろしくお願いします」と言った。それ以上のことを話すものは誰もいなかった。彼らのあまりの生気のなさは研究所の異様な雰囲気のなかではしごく正常なものであるのかもしれない。だが、「異邦人」の夏海の目には、彼らは明らかに「異常」な人々だった。
「博士はどうしたの? わたしは彼に話があります」
夕食がはじまってしばらく経った頃、夏海はクリスティにそう言った。
「とりあえず食べなさいよ。あなた、一口も食べてないじゃない」
「いりません。わたしは今日中にここを出ます。博士に話をつけてくるわ。彼はどこ?」
「そんなに急がなくても、博士は夕食後にあなたに研究室へ来るようにと言っていたわよ」
夏海はそれを聞いて、無言で立ち上がった。食堂から出て行く夏海を、残りの所員たちは誰一人見ようともしなかった。

三階の研究室のドアをノックする。すぐに、
「お入り」
という博士の声がした。
ドアを開けると、博士は部屋の机でパソコンを開いていた。
「お話があります」
「そこにかけたまえ」
博士が指差した椅子に腰掛けようとした夏海は、博士のパソコン画面に映し出されているグロテスクな女性器のアップ画像に一瞬ぎょっとした。すぐにその画像が自分の局部を映したものであると悟り、夏海はあまりの恥辱と怒りで我を忘れた。
「いいかげんにしてください! 薬を飲ませてひとのそんな写真を撮るなんて・・・あなたたちには常識というものがないの!」
「ほう。性器の画像を見ただけで、それが自分のものと分かるのか? 夏海はそんなに自分のアレを見慣れているのかね」
「はぐらかさないで・・・・この件についての処罰は、いつか必ずあなたたちに受けさせるわ。とりあえず、わたしをこの研究所から出しなさい。今すぐによ」
「君の労働期間はあと三十日も残っているはずだがね。契約書にサインしたのだろう」
「・・・そんなの無効だわ」
そう言いながら、夏海は別の思いにとらわれていた。そもそもこの話を自分に持ってきた礼二への疑いだ。礼二の言っていた今回の仕事の話はすべてが嘘だった。モニターが聞いて呆れる。現実にモニターをしているのは向こうで、こちらはやって来た途端に理不尽な「吟味」をされたのだ。
「礼二さんもグルだったのね・・・。あなたたちが皆で共謀してわたしを・・・。なぜ?
 永久にわたしをここから出さない気なの? あなたのイカれた研究のために?」
「一度に複数の質問をするのはよしたほうがいい。とりあえず二つ目の質問答えよう。きみは一ヵ月後にはここから出ていく。それだけは保証する」
「いやよ・・・わたしは今すぐここから出て行くわ。夫や子供が待っている場所に帰るの」
博士夫妻への怒り、裏切った礼二への怒り、そして今現在自分が置かれている状況に対する不安で、夏海はなかばパニックになりながら子供のようにいやいやと首を振った。
「夫や子供か。彼らがそんなに大切なのかね」
「当たり前でしょ・・・、でもあなたのような人には分からないかもしれないわね」
「ふむ。それではわたしもひとつ話をしよう。きみにとっては少々不愉快な話になるだろうが」
博士はその作り物めいた瞳を、まっすぐに夏海に向けた。
「きみの夫の高島忠明氏は少し前に轢き逃げ事故に遭ったね。大事には至らなかったが、肋骨二本と右腕を折るという大怪我を負った」
「・・・・・・・」
夏海は不可解極まりないものを見る目で、博士を見つめ返す。
「じつはその轢き逃げ犯は礼二くんなのだ。きみをこの研究所に送り込むために、杉浦商事の幹部が指示したのだよ。きみは知らなかったかもしれないが、あそこは相当荒っぽいことも平気でやるようなヤクザ企業なのだ。本当は昭文氏はあそこで轢き殺されてもおかしくなかったのだよ。さすがに肉親だけあって礼二くんも手加減したのだろうか、ともかくも幸運だったな」
まったく抑揚のない口調で事実を告げた後、博士は黙って夏海の表情を観察する。
博士の言葉があまりにも唐突で、夏海は最初はその意味が分からなかったらしい。瞳を大きく見開いて、ぽかんとした表情である。
「あの事故・・・・」
呟く。
それからすぐに夏海の顔が―――
歪んだ。
「あああああ!!」
何やら獣のうなり声じみた叫びをあげながら、夏海は椅子から飛び出すように立ち上がり、博士のシャツの胸元を掴んだ。激しく泣き叫びながら、その細腕で力のかぎり博士を揺さぶる。
「殺してやる・・・殺してやる・・・」
暴れ狂う夏海になんとか抵抗しながら、博士は部屋のブザーを押した。すぐにドアが開き、数人の所員たちが駆けつけてきて、夏海を押さえつける。
「やれやれ・・・身体が若々しいだけでなく、力も強いのだな」
そう独りごちながら博士は立ち上がり、備え付けの戸棚から薬瓶と注射器を取って戻ってきた。
注射器の針をを薬瓶に差し込み、中の薬液をたっぷりと抽出しながら、博士は夏海の顔を冷酷な瞳で見つめる。
夏海は所員たちに取り押さえられながら、まだ荒い息をついている。注射器を見ても、博士を睨む瞳の力の強さはいっこうに衰えない。思ったよりも強い女だ、と博士は思う。これは取り組みがいのある実験になろう。
「また薬を使う気? でもわたしは負けない・・・あなたたちみたいな連中に負けるものですか。ぜったいにここから出てやる。そしてあなたたちの犯罪行為を世間に知らしめてやるわ!」
「がんばりたまえ」
夏海の言葉を軽くいなして、博士は注射器の針をその細腕に近づける。ぶすりと注射針が白肌を突き破り、薬液を夏海の身体に容赦なく注入していく。
・・・すべてが終わり、夏海は呆気なく深い眠りに堕ちていった。
その寝顔に残る涙の後を指でなぞりながら、寺元博士は久しぶりに心から楽しそうな顔でわらった。
  1. 2014/07/09(水) 14:42:08|
  2. 夏の生贄・TELL ME
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夏の生贄 第十章 「夢」

寺元博士の理論では、個人の人格などというものは、まったく不確定で問題とするに値しないものである。
多重人格という精神の病理がある。一人の人間に複数の人格が宿り、それが交互に表に表れてくるというものだ。巷間信じられているように人格が確固不動のものならば、なぜ複数の人格が同時に並立して存在できるというのだろう。
一人の人間の奥底には、一つの宇宙といってもいい広大な世界が広がっている。人格はその中に浮かんでいる惑星のひとつに過ぎない。我々が普段自分の人格と受けとめているものを地球とすると、我々はその地球を飛び立ってみてはじめて、それまでいた場所がただのちっぽけな惑星に過ぎなかったことに気づくことが出来るのだ。
それはともかく我々が個性と呼ぶものは、そんな脆弱な土壌の上で成り立っている。寺元博士はそんなものを認めない。一人の人間の個性は肉体にこそ現れる。
―――そして今、博士は高島夏海という一女性の個性の極みを観察している。
夏海はすでに全裸である。その両足は大きく広げられた格好で膝を立てさせられている。夏海の意識はいまだ回復していない。無防備に自身の肉体のすべてを博士夫妻の目に晒したまま、深い眠りについている。
「それにしても夏海のここは綺麗ね。とても子供を産んだとは思えないわ。花びらも美しいピンク色だし」
かがみこんで夏海の股間をまじまじと見つめていたクリスティが嘆声を洩らす。
「うわつきというやつだな。大きさも標準より小さめだ」
「日本人は全体に小造りだけど、たしかに夏海のカントは小ぶりだわ。ペニスが挿入されたときはきついでしょうね。男にとっては気持ちいいでしょうけど」
「女も同じじゃないかね」
「ふふふ。そうね、でも」
クリスティは医療用のピンセットを手にとって、夏海の女性器に息づくクリトリスを摘まみあげる。ピンセットがそれに触れた瞬間、夏海が、
「あ・・・・」
と小さく声をあげた。
「クリトリスは標準より大きめね。それに感度もよさそうだわ」
摘まみあげたそれを見つめながら、クリスティは淫蕩な笑みを洩らした。
「見て。もうこんなに勃起しているわ。あらあら、乳首のほうも勃ってきちゃったわね。この子、おとなしそうな顔をして、意外と好きなほうなのかもしれないわ」
「おしゃべりはそこまでだ。さっさとデータを取るぞ」


・・・夏海はプールの中で立っている。
目の前では晴喜が浮き輪につかまって、水浴びを楽しんでいた。その顔は本当に楽しそうで見ているだけで心が和む。
「本当にハルくんは水が好きね」
夏海も泳ぐのは好きだった。昭文と結婚してからは毎年、海へ泳ぎに出かけている。
その昭文はビデオカメラを取りに車へ戻ったまま、なかなか戻ってこない。
(遅いわね・・・)
そう思って夏海が駐車場のほうを振り向いた、そのときだった。
晴喜の悲鳴が聞こえた。
「ハルくん!?」
振り返ると、そこに晴喜の姿はなかった。ただ浮き輪だけがぷかぷかと浮かんでいる。
「ハルくん、どこ!? どこにいるの!」
動揺のあまり、夏海は大声でそう叫びながら、周囲をばちゃばちゃと探し回る。水に潜って息子の姿を捜し求めるが、どこにもいない。
「ハルくん!!」
夏海は恐怖に背筋を凍らせて、消えてしまった我が子の名を力のかぎりに呼んだ。

夏海は絶叫とともに目を覚ました。
(夢だったの・・・よかった)
心からの安堵とともに夏海がようやくそのことを悟ったときも、まだ脈は異常に早いままだった。瞳に涙が滲んでいる。身体中にびっしょりと汗を―――
夏海はどきりとした。
彼女は全裸でベッドに横たわっていた。
「お目覚めのようね。もの凄いうなされかただったから心配したわよ」
不意に声がして夏海がそのほうを見ると、クリスティが部屋の隅に座っていた。
「ここは・・・?」
「貴女の部屋よ」
  1. 2014/07/09(水) 14:41:18|
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夏の生贄 第九章 「データの収集」

開け放した病室の窓から、心地よい夏の風が入ってくる。
子供の歓声が近くで聞こえる。病院のすぐ脇にある市民球場では、今日も少年野球チームが汗だくになりながら、快活に白球を追いかけている。
その練習風景を、高島昭文は病室の窓から眺めていた。
「またベッドから出て・・・ちゃんと寝てなきゃ駄目ですよ」
病室に入ってきた看護婦の由紀子が、苦笑しながら昭文をたしなめた。
「ごめんごめん。でも寝てばっかりだと身体もなまるし、なにより退屈でしょうがないんでね」
昭文はひとなつこい表情で、由紀子に微笑み返す。
「まったくもう・・・。そう言えば、今日はあの美人の奥さまはお見えにならないの? 噂を聞きつけて内科の本島先生まで高島さんの奥さまを一目見たいと言ってるわ」
「なんだい、それ。病院も暇だねえ」
由紀子の言葉に、昭文は苦笑いした。
「残念ながら当分の間は来ないけど、夏海に伝えとくよ」
「そうそう、夏海さんだったわね。でもなんで夏海さんは当分いらっしゃらないの?」
「働きはじめたのさ。ぼくがこんな状態だし、家計もあまりよくないからね」
「そう。大変ね」
いつも明るい昭文の表情にふっと陰がさしたのを見て、由紀子もしんみりした声になった。
「いや、働くことは夏海にとってもいい経験になるだろうからね。いつもいつも家庭にいて、子供と見飽きた亭主の顔を見ているより楽しいかもしれない」
暗くなった空気を振り払うように、昭文はまたいつものおどけた口調で言う。
「また、そんなことを言って・・・少しは真面目に出来ないんですか」
「はは・・・・」

寺元博士の研究室―――。
様々な機材や書物などが所狭しと並べられている部屋の中心に、病院で使うようなベッドが据え付けられている。
その上に意識を失った夏海が寝かせられていた。健やかな寝息をたてながら、夏海は深い眠りに陥っている。
「始めよう」
博士の指示でクリスティが、夏海の衣服を脱がせにかかった。
上半身の白いシャツのボタンが解かれ、夏海のすべすべとした滑らかな肌が次第にあらわになっていく。やがてシャツは剥ぎ取られ、その下に付けていたピンクのブラジャーのホックにクリスティは手をかけた。
「可愛い・・・」
呟きながら、クリスティはブラジャーを外し、夏海の上半身を裸にした。
「ふむ。美しい乳房をしているな」
はじめて夫以外の異性の目に晒された、小ぶりだが形のよい乳房を見て、博士がそんな感想を洩らした。
「ええ。形も崩れていないし。自然で健康そうだわ。うらやましい」
うっとりとした瞳で、クリスティも相槌を打つ。
「乳輪が小さいな。乳首もまるで子供のようだ。一児の母というのは本当か」
「あまり旦那さまに可愛がられていなかったのかしら。そんなことはないわよね。こんなに綺麗な身体をしてるのに」
クリスティは陶然とした表情で、夏海の剥きだしの乳房に手を伸ばす。慎ましい人妻が服の下に隠していた宝玉。そのまろやかな手触りを楽しみながら、握り締めたお椀型の乳房をやわやわと揉みしだく。
「ん・・・・・」
無意識状態の夏海が切なそうに顔をゆがめ、色っぽい吐息を洩らした。
「ふふふ。寝ながら感じてるわ」
「いいかげんにしろ。それよりも早く裸にして、夏海の肉体データを収集するのだ」
寺元博士は相も変わらず血の通わない声で、夏海を玩弄して楽しむ妻をせかした。
  1. 2014/07/09(水) 14:40:10|
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夏の生贄 第八章 「研究のための前準備」

寺元博士の研究所は高島家のある神戸市から車で三、四時間の距離にある、奈良の山奥にあった。ふもとに車を停めた後で、礼二に連れられて山の小さな道を歩いた夏海は、やがて目的の研究所を目にした。
それはもともと杉浦商事の社長、杉浦幹春の私有する別荘を改造したもので、鉄筋コンクリートの小さな四角いビル建築である。白塗りのそのビルの周りには、鉄柵が張り巡らされていた。
人里離れた山深い土地にいかにもそぐわない人工的な建築物である。
(でも、こんな不便な山奥でどうして新製品の開発などするのだろう)
夏海のそんな疑問を感じ取ったのか、礼二は振り返って、
「最近は企業スパイが多くてね。新製品の情報が洩れないように、とうとうこんな場所に研究所を建てたんですよ。でもこれは流石にやりすぎだと思いますがね」
と、囁くように言った。
それから礼二は研究所の鉄の門の前に立ち、インターフォンを押した。
「はい」
男の声が出る。
「先日ご連絡した第二課の高島礼二です。例の女性をお連れしました」
「お待ちしていました。どうぞ」
しばらくして、門がゆっくりと開いた。向こう側には誰もいない。研究所の中から電動で開け閉めが出来るようだ。
礼二と夏海は門をくぐった。

「ようこそ、いらっしゃいました。私が当研究所の責任担当者の寺元恭次です」
あらゆる感情がまったく欠けた、少し耳障りな金属質の声―――。
夏海は「こちらこそ、よろしくお願いいたします」と丁重に挨拶を返しながら、なぜか背筋が寒気立つような思いに囚われていた。
目の前には寺元博士が座っている。年齢は四十も半ばを過ぎたくらいだろうか。声と同じく、無機質で生気を感じさせない風貌の男だった。汚れがまるで見当たらない真っ白な白衣を着ていて、少し長めの髪を七三にぴっちり撫でつけている。黒ぶち眼鏡をかけているが、その奥に炯炯と光る瞳は視線の先にいる夏海に恐怖の念を起こさせるほど、異様な迫力を湛えていた。鼻は彫刻刀で彫ったように高く、鋭い。
 寺元博士の隣には博士のアメリカ人の妻、クリスティがこれも白衣を着て座っている。年齢は博士と同じくらいだろう。美しい女だった。かがやくブロンドの髪をショートにまとめている。
「お会いできてうれしいわ。わたしたちの研究所にはあと四人の所員がいるけれど、皆、男性なの。あなたのような素敵な女性のお友達が出来てとてもうれしい」
クリスティはにこやかに笑いながら、流暢な日本語でそう言った。
「わたしもうれしいですわ、奥さま」
「クリスティと呼んで。わたしもあなたのことは夏海、と呼ばせてもらうわ」
「わかりました。これからよろしくお願いしますね・・・クリスティ」
「そうそう」
楽しそうにクリスティは笑った。

「それでは、ぼくはもうそろそろ帰ります。義姉さん、一ヶ月の長丁場ですけど、くれぐれも身体に気をつけて頑張ってください」
そう言って礼二が去った後で、博士夫妻は夏海を彼女のために用意された部屋へ案内した。研究所は三階建てでそのうち一階は所員たちの研究用の施設、二階は住居部分で、三階は寺元博士個人の研究室となっている。夏海の部屋はほかの所員たちと同じく二階にあった。狭い空間にベッドと物書き用の机だけのごく簡素な部屋である。
荷物を部屋へ置いた後で、夏海は二階の食堂へ行った。ここで所員たちは日に三回、皆で集まって食事をとる。
食堂ではクリスティがお茶の用意をしていた。夏海が手伝おうとすると、「いいから座っていて」と言う。食堂の席に戻ると博士が座っていた。夏海は軽く会釈をして、同じテーブルに座った。
クリスティがお茶を持ってくる。
「それにしても殺風景な部屋でごめんなさいね」
「いえ、そんなことはありませんわ。皆さんが寝食を惜しんで、熱心に研究に打ち込んでいらっしゃるご様子が伝わってきます」
「ふふふ。そんなおおげさなことでもないのよ」
笑うクリスティの隣で、寺元博士は黙ってお茶を啜っている。

「・・・ここでのわたしのお仕事は、どのような予定で進んでいくのでしょうか?」
しばらく三人で話した後(といっても口を開いたのは夏海とクリスティだけで博士は一言も喋らずに、じっと夏海の顔を見つめていた。その度に夏海は息が詰まるような思いを味わって、顔をうつむけずにはいられなかった)、夏海は遠慮がちに尋ねた。この研究所に来て以来、博士もクリスティも、夏海の今後の具体的な仕事内容をまったく説明しようとしていないのだ。
夏海の問いに、クリスティはなぜか黙り込んだ。黙って夫の顔を見る。
「仕事ですか」
博士が口を開いた。
それだけで部屋の空気が変わる。
博士の異様な凄みを持った眼光が、夏海を射抜いた。その瞳を見返すだけで、夏海は眩暈がしそうな気になる。
―――いや、気のせいではなかったのだ。
(え・・・・・?)
そのとき夏海の視界の中で、世界がぐにゃりと折れ曲がった。
「あ・・・・」
嘘のように夏海の身体から力が抜けていく。胸の奥から不快な感触が沸き起こってきて、ぞわぞわと夏海を犯していく。全身ががくがくと激しく震える。
すぐに身体を支えていられなくなり、夏海は崩れ落ちるように目の前のテーブルに突っ伏した。
そんな夏海の様子を博士夫妻は静かに見下ろしている。
「茶に仕込んだ薬が効いてきたようだな」
「ええ。なかなか効き目が現れないので、配分を間違えたのかと思いましたよ」
博士とクリスティの声が、きーんという耳鳴りの音に混ざりながら夏海の頭に響く。
(これは・・・どういうこと・・・!?)
ぐったりとなりながら、夏海は弱々しく博士の顔を見上げる。感情の読み取れないその顔に、心の底から恐怖を覚えながら。
まぶたひとつ動かさずに、博士は口を開いた。
「仕事の話が聞きたいと言ったね。貴女の仕事はわたしの研究の手伝いをすることだ。ただし、それは新しく開発された製品の感想を述べるといった無意味な作業ではない。もっと簡単で、かつ貴女にとっても有益な仕事だ。詳しいことはゆくゆく分かってくるはずだがね・・・・」
博士は一度言葉を切り、改めて夏海を足の先から頭までゆっくり眺めわたす。その視線はまぎれもなく、実験動物を目の前にした研究者のものだった。
「とりあえずの貴女の仕事は、自らのすべてをわたしに委ねること。それだけだ。あらかじめ伝えておくが、あと三分もしたら貴女は意識を失う。その後でわたしと家内は貴女を裸にしてその肉体の特徴を細かく記録することになる。髪の毛の性質から肌の具合、首筋から背中にかけての骨格の張り出し方、胸や尻の肉付き、女性器の構造、さらにはクリトリスの大きさ―――これは平常時と勃起時の両方で計測するが―――まで、ありとあらゆることを観察させてもらう。その後、きみが意識を取り戻した後で、今度は精神活動の方面の観察に入っていくことになるが、これはなかなか時間がかかるだろうから、きみにも気長に付き合ってもらうことになろう」
何を言っているのか、まるで分からない―――。
この男は正気じゃない―――。
底知れない恐怖に駆られ、夏海はパニックになりながら、食堂の入り口へ向かおうとする。しかし、薬物を投与された身体は本人の意思を裏切って、すぐに床に崩れ落ちてしまう。
(逃げなきゃ・・・逃げなきゃ・・・・)
頭の中でそう繰り返すものの、もう身体はぴくりとも動かせない。
(どうしてこんなことに・・・・)
自分の身に突然襲い掛かった夢魔のような出来事に、夏海の現実感は跡形もなく消え去ってしまっていた。
「諦めるのだね。少なくとも一月はここから出られはしない。いざここを出るときには、きみは新しい自分と生活を手に入れていることだろう」
鉄槌のような博士の言葉が終わらないうちに、夏海はもう意識を失っていた。
  1. 2014/07/09(水) 14:39:30|
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夏の生贄 第七章 「夏の日の出発」

夏海は叔母夫婦に晴喜を一ヶ月間預かってもらうことにした。叔母の陽子は夏海の母親の妹だが、夏海と両親の不和をよく知っていて、子供の頃から夏海を可愛がってくれていた。夏海にとっては、夫以外でもっとも心を許せる相手である。
「でも大変ねえ。夏海ちゃんは外で働いたことがないでしょう。それで一ヶ月の間、休みなしに働くのだもの」
「大丈夫よ、叔母さま。わたしはもう子供じゃないし、こんなときくらい頑張らないと夫に申し訳ないわ」
夏海はそう言って笑った。
(この子は変わったわ)
その顔を見て、陽子は思う。不仲の両親の間で板ばさみになっていたころは、笑っていてもどこか淋しそうな子だった。だが今の夏海の笑みは、成熟した女性らしい穏やかな笑みだった。結婚して子をなしたことが、夏海に自信と安定を与えたのだろう。女性にとって結婚・出産・育児は、それほど大きな意味を持つことなのだ。
(それにとても美しくなった・・・)
子供の頃から美少女ではあったが、それにしても近頃の清楚な色香の漂う美しさは夏海の幼少時代を知る陽子でさえ目を見張るほどだ。普段は夜の床でさぞ夫にかまわれているのだろう、と無意識に考えて陽子は人知れず赤面した。

「ハルちゃん」
夏海は叔母の家の居間で西瓜を頬張っている晴喜に声をかけた。
「もうお母さんは行くわ。しばらく会えないけど、淋しくなったらいつでも電話するのよ。それから叔母さんたちに迷惑をかけないように、行儀よくしてね」
「うん!」
晴喜は夢中で西瓜を食べながら、母の言葉に元気よく答える。といって言葉の内容を十分に理解しているわけではないだろう。何しろ四歳児なのだ。陽気で明るい子ではあったが、一ヶ月もの長い間母に会えないとなれば、そのうちに夏海を恋しがって泣いたり騒いだりすることもあるだろう。その情景を想像しただけで夏海は涙ぐみそうになる。
「じゃあね、ハルちゃん。バイバイ」
「バイバイ」
 夏海は哀切な気持ちでいっぱいになりかけた心に鞭を打って、愛しい我が子のもとを離れた。それでも未練を断ち切れずにすぐに振り返り、西瓜を食べる晴喜の小さな背中をしばらく見つめていたが、やがて早足にその場を駆け去った。

病室の開け放した窓から吹き込む風が、レースのカーテンを揺らしている。窓の外に目をやると、夏の太陽が支配する街並みが見える。
「それにしても、今度の話は礼二が持ってきたんだと君から聞いたときには意外だったよ。
あいつもなかなかいいところがあるんだな」
そう言って昭文は明るく微笑んだ。入院生活も二週間を越え、もとからひとなつこい性格の昭文は医者や看護婦ともすっかり打ち解けている。
「ええ。わたしも礼二さんには感謝しています」
夏海は林檎の皮を果物ナイフで器用に剥きながら、夫の言葉に答えた。
「うん・・・本当によかった。かといってこれから君に苦労をかけてしまうのは、ぼくには本当に心苦しいことなんだが」
「そんなこと言わないで」
夏海はベッドに横たわる昭文の枕元に寄り添った。顔を近づけて、頬にキスをする。
「こんなときには頼るも頼らないもないの。わたしたち夫婦なんだから」
キスの後で夏海は少しはにかんだ微笑を浮かべつつ、優しい口調で夫をたしなめた。
昭文はそんな妻の姿を心から愛しく感じながら、穏やかに笑う。
「そうだね。でもくれぐれも無理だけはしないでくれよ」
「分かったわ、あなた」

病室を出て病院の玄関のロビーへ行くと、そこで礼二が待っていた。
「お待たせしました」
「兄さんは元気そうでしたか」
「だいぶよくなってたけど、まだ少し辛そうね」
夏海はその手に衣類や最小限の持ち物の入った鞄を抱えている。今日これから新たな勤め先である研究所へ向かうことになっていた。
「それでは―――行きましょうか」
夏海はきっぱりした声で礼二を促して歩き出した。その声には夏海の妻としての、また母としての決意がこめられていた。
出発の日。それは夏海と昭文、そして晴喜が本当の意味で家族であった最後の日でもあったことを、そのときの夏海はもちろん知る由もなかった。
  1. 2014/07/09(水) 14:38:38|
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夏の生贄 第六章 「罠」

不意の来訪者は礼二だった。
病院での久々の再会から、礼二はしばしば連絡をよこしてきている。最初は警戒していた夏海だったが、自分たち一家を心配する礼二の真摯な様子に、次第に心を許すようになっていた。このような心細いときには、普段は不仲の義弟といえども心配してくれるひとがいるというのは素直にありがたかった。
「今日はどうなさったのですか」
礼二をリビングに通し、自分は台所でコーヒーを沸かしながら夏海は聞いた。
「この前の電話で義姉さんは、働く場所を探したいと言っていたでしょう。ぼくの勤めている会社の関係でそれに関してよさそうな話があったので、お知らせにあがったのです」
夏海は礼二の仕事を知らない。それどころか、礼二がいまはきちんと定職についていると知って、ちょっと意外な気がしたくらいだ。
「・・・・それはどのようなお話なのですか?」
入れたてのコーヒーをテーブルに置きながら、夏海は礼二に聞く。礼二はまず一口、うまそうにコーヒーを啜ってから、ゆっくりと話しだした。
―――礼二の持ってきた話とはある企業の製品開発研究所で、新製品のモニターを務める仕事への誘いだった。その研究所では主婦向けの衣類や様々なグッズを開発しているのだという。
「モニターなんて・・・わたしは流行には疎いですよ。ファッションセンスもないし」
「いや、その研究所ではごく普通の主婦を求めてるんですよ。特別な素養など必要はありません」
礼二は無駄のない言葉で、はきはきと答える。
「・・・・仕事の時間帯はどういった感じなのですか?」
「それなんですがね、義姉さん」
礼二は手に持っていたコーヒーカップを下ろし、義姉の顔を見た。
「たった一ヶ月です。そのかわり、期間中はずっとその研究所で寝泊りしなくてはならないですが」
「それは―――無理ですわ。わたしには晴喜の世話もあります」
「でも、晴喜君の幼稚園はもうすぐ夏休みに入るでしょう。晴喜君はその休みの間にご親戚の方に預かってもらうというのは出来ないのですか?」
「でも・・・父親がいない生活であの子も淋しがっていますし・・・このうえ、わたしとも離れて暮らすとなったら・・・」
「たった一ヶ月の辛抱です。言い忘れていましたが、その期間の労働に支払われる賃金は―――」
礼二が口にした金額は一ヶ月の短期労働としては破格の高賃金だった。
「そんなに・・・。でも新製品のモニターをやるだけなのでしょう? それなのに一ヶ月も泊りこんで働くというのはなぜ?」
「もちろんモニターの仕事がないときには、研究所の宿舎などで掃除や洗濯などの雑用業務に従事してもらうことになります。ですがそれにしたって、この支払いのよさは異例です。こんなチャンスはそう何度もあるものではありませんよ」
夏海は少しの間黙りこんだあとで、「しばらく考える時間をください」と言った。
「分かりました。でも躊躇していられる時間はあまりありませんよ。明後日の夕方四時が期限なので、それまでに必ずお返事を聞かせてください」
それではまた来ます、と言って礼二は去っていった。

礼二が夏海からの電話を受けたのは、その翌日のことであった。
「件のお誘いをお受けしたいと思います」
夏海は先日の迷いを振り切るように、きっぱりとそう言った。
「それはよかった。お役に立ててわたしもうれしいです。今後の日程については、近いうちにまたお知らせしますよ」
電話を切った後で、礼二は傍のソファで煙草をふかしている栢山ににっと笑ってみせた。
「あの海水浴場で見た奥さんだろ。うまくいったのか」
「はい。今後ともよろしくお願いします、と殊勝な声で言ってましたよ」
「あ~あ、可哀相にな。自分がどんな『モニター』をさせられるかも知らないで」
礼二と栢山がいるこのオフィスは、杉浦商事の本社ビルの七階にある。
杉浦商事は表向きには様々なイベントや新製品の企画開発を請け負う会社だったが、裏では他企業への強請りや乗っ取り、非合法な商品の流通・販売を行う、ヤクザの隠れ蓑的会社だった。裏ビデオの製作や数多くの風俗店の経営などその活動は多岐に及び、『社長』の杉浦幹春はこの市の政財界に隠然たる勢力をふるうほどの権力を集めている。
礼二は栢山の向かいのソファに座り、煙草をくわえた。盛大に煙を吐きながら、
「ところで本当に大丈夫なんですかね、寺元とかいうあのマッドサイエンティストは? 今までにも相当問題を起こしてきているんでしょう?」
と栢山に言った。
「まあな。だが藤岡の兄貴によれば、寺元博士が本物の天才であることは間違いないそうだ。専門の深層心理学以外にも、医学、数学、物理学、薬学、化学その他あらゆる学問に通じ、その知識は博学にして多彩。彼が学会で最初に認められだしたころは、百年に一人の天才が現れた、ノーベル賞も夢じゃない、とずいぶんな騒がれ方をしたらしい。だが、その後すぐに研究内容が危なすぎて学会から異端視され、あげくには完全に追放されてしまったがな」
「その研究内容というのが人間の『人格改造』ですか」
「ああ。もっとも博士によれば、自分の学問はそんなものじゃないということらしいが、とにかく研究者たちにはそういう受けとめられ方をされた。我らが会社が寺元博士に期待しているのは、まさにその『人格改造』の実現だからな。あの奥さんはその実験の被験者となるわけだ」
「常識や倫理観を強く持っていて感情も豊か、そして家庭を持っている普通の人間。それが博士の依頼した被験者の条件でしたね」
「俺たちの側からも条件を付け加えたがな。実験の後で別の人間に生まれ変わっても『リサイクル』できるようになるべく美しい女がいい、と。お前が見つけてきたあの奥さんはまさにぴったりというわけだ」
「あの奥さんを罠にかけるために、こちらは兄貴を車で撥ねとばすという危ない橋まで渡っているわけですからね。寺元博士にも頑張ってもらって、早いとこ生まれ変わった奥さんに会いたいですな。もっともそのときには奥さんなんていう上品な呼称の似合わない女になっているんでしょうが」
欲望に瞳をぎらつかせながら、礼二と栢山は顔を見合わせてくつくつと笑った。
  1. 2014/07/09(水) 14:37:57|
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夏の生贄 第五章 「妻の心配」

新しい生活が始まっている。夫のいない生活が。
と、いっても夏海の生活自体は大きく変わったわけではない。それまでと同じように、朝になると晴喜を幼稚園に送り出し、あとは家事をしながら日を過ごす。夕方になれば晴喜を幼稚園に迎えに行き、二人で夕食をとる。
ただひとつの変化は、夜になっても夫が帰ってこないことだった。普段は床についてから夫婦で今日一日あったことを話し(その話題の多くは晴喜のことだった。今日の晴喜がどれだけ可愛い顔で笑い、どんなことに熱中していたか、幼稚園の先生の話を交えながら夏海が熱心に話すのを昭文が笑いながら聞いていることが大部分だった)、ときにはその後で夫婦の夜の営みを交わし、幸せな眠りについて明日を迎える。それがどれだけ大事なことだったが、どれだけ自分に毎日を生きる活力を与えていたことか、夏海は思い知った。

夫の昭文とは、三日前にようやく面会することが出来た。
あのときに見た、包帯やギプスに厚くくるまれた状態で病室に横たわる昭文。思い出すだけで胸が痛む。
「大丈夫、大丈夫。すぐによくなるよ」
夏海の心配をよそに、昭文はそう言って笑った。だが、笑っている途中で痛そうに顔をしかめたところを見ると、そんな言葉はただの気休めなのだろう。
傍にいた晴喜は、まだ父親が陥った事態を理解しているはずもなく、ただベッドの上の昭文を見て目を丸くしていた。
「おとうさんがミイラ男になってる!」
「はは、ミイラ男か。それはいいや。おいで、晴喜」
昭文が瞳を細めながら、右手でベッドの脇を弱々しく叩く。玩具を抱えた晴喜は、嬉しそうに父のもとに駆けていった。
それを見ているだけで、夏海は瞳に涙が滲むのを感じた。最近、とみに涙もろくなっている。こんなことではいけない、今はわたしがもっともっとしっかりしていなくてはいけないのに。そう思ってはいるのだが―――。
「駄目よ。安静にしていなくちゃ・・・お医者様も仰ってたわ。少なくとも三ヶ月は入院して、じっとしていなければいけないって」
「三ヶ月! そんな長いこと、このベッドに寝ているなんて、考えただけでもおかしくなるな。絶対にもっと早く、ここから抜け出してやる」
「馬鹿なこと言わないの」
「だって、現実問題、仕事の都合もあるからね。とりあえず刈谷さんに、ぼくがいない間も会社をいつもどおり運営していくようお願いしたんだが、実は来週までに必ず仕上げると契約した家があったんだ。知ってのとおり、うちの会社は人手が少ないし、多くはアルバイトでまかなっていたから、ぼくが抜けたら仕事がちっともはかどらない。たぶん違約金を数十万円払うことになるだろう」
「数十万・・・・」
重い金額だった。ただでさえ、家を新築したことで家計は火の車のなのだ。それに加えて昭文の入院費用、さらにその違約金も重なれば、乏しい家計は決定的な打撃を受けるだろう。
夏海はうつむいて、何も分からずはしゃいでいる晴喜の頭を撫でた。
「そういえば、この前、豊田さんという刑事がぼくに会いにきたよ」
暗くなった空気を追い払うように、昭文が明るい声で言った。
「ああ・・・わたしも前にお会いしたわ」
「今度の轢き逃げは故意にぼくを狙った可能性もあるから、話を聞きたいと言ってたな。たしかに出会い頭に轢かれたという感じではなかったけどねえ。たとえ本当に最初からぼくを狙ったとしても、いったい誰がどんな目的でしたというんだろう」
「心当たりはあるの?」
昭文はベッドの中で肩をすくめて見せた。
「分からない。轢き逃げされるほど、アコギな商売はやってないと思うんだがなあ」
「呑気なことばかり言ってないで、本当に気をつけてよ。もしもあなたが・・・・」
「ぼくが?」
「・・・なんでもないわ」
不意に黙り込んだ夏海を、昭文は優しい目で見つめた。
「あまり深刻に考えすぎないでくれよ。君は昔から根が生真面目だから・・・・」
そう言ったときの、昭文の慈愛に満ちた声音が今も耳に残っている。
しかし―――
どちらかと言えばマイナス思考に傾きがちな自分の性格を自覚してもなお、今度の事態はそれほど楽観的な問題ではない、と夏海は思う。さしあたっては緊迫する家計の問題だ。
どこかへ働きに出よう、と夏海は決意した。晴喜のいない昼の間にパートで働こう。たとえ微々たるお金でも、少しは家計の足しになるだろう。
そんなことを考えていたとき、玄関のチャイムが鳴った。
  1. 2014/07/09(水) 14:37:15|
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夏の生贄 第四章 「義弟」

高島礼二は久しぶりに兄嫁を間近に見て、あらためてその美しさに瞠目した。
ただ容姿が美しいとか、ほっそりとした端正なスタイルをしているというだけではない。内面の清らかさ、純粋さがそのまま外側に浮きでているような女だ。
「礼二さん・・・」
そう言った後で夏海はしばし黙って、礼二を探るように見つめた。
(警戒しているな・・・)
当然だろう。礼二は出来のいい兄の昭文の陰で、放蕩三昧の生活を送ってきた典型的な遊び人だった。数年前にはついに親から勘当を言い渡されている。
その後は遊ぶ金欲しさに、ちょくちょく兄の家へ行き、小遣いを無心してきた。昭文は昔から人の好い性格で、さらに言うならば極めて鷹揚な性格で、不出来な弟に舌打ちしながらも、いつも金を包んでよこした。
礼二はそのとき、昭文の傍らにいた夏海の咎めるような視線を覚えている。潔癖な性格の夏海には、三十近くにもなってまだ金をねだりにくる礼二も、甘やかす昭文も不純なものとして映っていたのだろう。単純に兄一家の経済状況がそれほど余裕のある状態でないこともあっただろうが。
礼二がしつこく兄の家に行ったのは、金欲しさということもあるが、この魅力的な兄嫁の姿を見たいという気持ちもあった。兄の結婚式で初めて会ったときから、礼二は夏海に魂を奪われていた。もちろん、その後の行状の結果、この兄嫁が自分を嫌っていることも承知していたが、それでも数ヶ月に一度はその顔を見なくては収まらなかった。
だがこの半年、礼二は兄の家を訪問していない。自分から連絡もしていないし、兄から連絡がくることもなかった。
夏海が不意に現れた礼二を見て、いぶかしげな表情になったのはそういう経緯からだった。
「実家から兄さんが事故に遭ったと知らせがあって飛んできましたよ。本当に大変なことでしたね」
嘘だった。実家とは絶縁状態で知らせなどくるはずもない。それに実家のほうでは、まだ兄の事故のことなど知りもしないのではないか。
だが、夏海は素直にそれを信じたふうで、礼二に頭を下げて礼を言った。
「それで兄さんの怪我はどの程度のものなんですか」
「お医者様の話では、命に関わるようなことはない、と。当分の間は入院して絶対安静でいなければならないようです」
「そうですか。兄さんも義姉さんも、本当にお気の毒なことです」
礼二は夏海の叙情的な美しい瞳を、真正面から見つめながらそう答えた。
「ところで義姉さんはこれからどうします?」
「いったん自宅に帰ります。晴喜を幼稚園に迎えに行かなくてはならないし。それに病室は面会謝絶になっていますから、ここでわたしが付き添っていてもどうにもなりません」
「それならぼくが義姉さんの家まで車で送りますよ」
夏海は少し考えたようだが、
「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらいます」
と、言った。
「じゃあ病院の駐車場へ行きましょう」
「ちょっと待ってください」
そう言うと、夏海は昭文の眠る病室のドアを振り返った。少しうつむきかげんの姿勢で、瞳を瞑っている。おそらくは昭文の回復を、神仏に祈ってでもいるのだろう。
悲嘆に暮れる妻の敬虔な祈り。だが、それを見つめる礼二の視線は邪悪な色に濁っていた。
  1. 2014/07/09(水) 14:36:20|
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夏の生贄 第三章 「暗転」

雨の日だった。
その日も夏海は晴喜を幼稚園へ送り出してから、いつものように家事にいそしんでいた。
高島一家がいま住んでいる家は、もうあと一ヶ月で引っ越す予定になっている。昭文は個人でリフォーム業の会社を経営しているのだが、今度その仕事場に近い場所に、いまの家よりも大きな家を新築したのだった。
「新しい家は親子三人で住むのはもったいないくらいの広さだな」
「そうね」
「家族を増やそう。子供は多ければ多いほどいい。ぼくも頑張るから」
「何を頑張る気よ。へんなひと」
「へんじゃないだろ。相変わらず妙なところに気を回すね、君は」
「それよりもお金の余裕あるの? 今回だって相当無理してお金を作ったでしょう。家のローンだってあと何年もあるし」
「どうにでもなる。分不相応に欲張らなければさ。家族が幸せに暮らすだけのものがあればいい。それでぼくの分は十分」
「・・・へんなひと」
夫婦の寝室で夫に腕枕されながら、夏海が昭文とそんな会話をしたのはつい昨日のことだ。
建設中の新しい家を、夏海も何度か見に行っている。最初はただの更地、その次に行ったときは家の土台が出来ていた。二週間前見たときにはもう家の骨組みは、ほとんど完成していた。
そうして家が次第に造られていく様子を思い返していると、夏海はわくわくした気持ちになってくる。これからどれほどの思い出が、あの家での暮らしの中から生まれてくるだろう。どれほど楽しいことが待っているだろう。
(新しい家族か・・・わたしも頑張ってみようかしら)
夏海が洗濯物を折りたたみながら、そんな想いに耽っていたそのときだった。
夫の昭文が数時間前、交通事故に巻き込まれたことを告げる電話が鳴った。

取るものも取らずに夏海が電話で指定された病院に駆けつけたとき、昭文はすでに手術を終え、面会謝絶の病室で麻酔を打たれ、眠りについていた。
医師の話では肋骨を二本と右腕を折っているという。幸いに内臓や血管に重大な損傷はなかったようだが、それにしても大怪我であることには間違いない。医師は手術後の経過を見て、これからどのような処置をするかを詳しく説明してくれたが、夏海の耳にはろくすっぽ入ってこなかった。

「高島昭文さんの奥さんですか?」
顔面蒼白で病室の前に立ちつくしていた夏海に、スーツ姿の中年男が話しかけてきた。
「そうですが・・・?」
「私は警察のものです」
男はそう言って背広のポケットから、警察手帳を取り出して見せた。豊田という名前の刑事だった。
「この度はとんだことになりまして・・・心からご同情申し上げます」
「主人は・・・どうして・・・」
「轢き逃げです。ご主人は仕事の合間に近くのレストランで食事をとりに行き、また仕事場へ戻る途中の裏路地で何者かの車に轢かれたようです」
「・・・・・」
「視界のわるい、細い道路でした。悪天候でしたし、ご主人が道を渡ろうとしていたのに気づかなかったのかもしれませんが・・・あいにく目撃者もいませんで。逃げていく車を見たものもいません。ゆえに事故なのか、それとも違うのかがまだ分からないのです」
「それは・・・誰かが」
夏海はやっとの思いで言葉を吐いた。声が震えているのが自分で分かった。
「故意に主人を轢いた可能性もあるということですか?」
「心当たりがあるんですか」
豊田の目がきらりと光る。だが、夏海は首を振った。
「そんな・・・主人は他人の恨みを買うようなひとではありません」
夏海は本心からそう言った。夏海の知らないところで、昭文が仕事上のトラブルに巻き込まれていたことはあるかもしれないが、それにしたって轢き逃げされるほどのことを昭文がやるはずはない。そんな男ではない。
「そうですか・・・・。捜査が進展したら、また何か新しい情報が出てくると思います。ご主人の意識が回復したら、また話を伺うことにもなるでしょう。すみませんが奥さんの連絡先を教えていただけませんか」
夏海が自宅の電話番号を告げると、豊田はそれを手帳にメモし、
「それでは、またいずれお会いすることもあると思います。くれぐれもお気を落さぬように、頑張ってください」
豊田は一礼して去っていった。
夏海はその背中をぼんやりと見送った。
何も考えられなかった。
(どうしてこんなことに・・・)
ただそれだけが、頭の中を駆け巡る。今朝自宅を出て行ったときの、昭文の笑顔が脳裏に蘇り、胸を痛ませる。
医師の話では死に関わるような怪我ではないということだったが、夏海はもう二度と夫の元気な姿を見られないのではないか、という恐怖を感じていた。
それまでなぜか出てこなかった涙が今頃になって溢れ出し、夏海は嗚咽した。
そのときだった。
「義姉さん」
呼びかける声がした。振り返るとそこには、昭文の弟の礼二がいた。
  1. 2014/07/09(水) 14:35:41|
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夏の生贄 第二章 「雨の予感」

高島夏海は今年で二十九歳になる。二十四歳の時に現在の夫、昭文と恋愛結婚し、翌年に長男の晴喜を出産した。
昭文は大学のサークルの先輩だった。あっけらかんとした性格と天性の愛嬌の持ち主で、多少頼りないところもあるが、夏海は知り合ってすぐに彼が好きになった。
ひとは自分と似た人間に好意を抱くこともあれば、まったく違う性格の人間を愛することもある。夏海の場合は後者だった。結婚して以降の平穏な暮らしのなかでだいぶ改善されてきたものの、もともと夏海は不器用で神経質な性格だった。愛想を言うことが苦手で、誰にでも気安く話しかけることなど出来ない。曲がったことが嫌いで、ひとの些細な過ちを忘れられない。なまじ美人なだけあって、若い頃の夏海は周囲からつんと澄ました性格だと思われ、陰口を叩かれたことも多かった。
そんな夏海の性格は子供の頃の家庭環境が影響しているのかもしれない。夏海の両親は不仲で、子供の前でも平気で度々激しい夫婦喧嘩をやらかした。父は母に愛想を尽かし、女遊びに金をつぎこんでは何日も家に帰らない。母は母でそんな父への反発か、よその男を自宅に引っ張り込んで、子供の前だというのに男にしなだれかかり、媚びた振る舞いをする。
父と母は幼い夏海に向かって、よく同じことを言った。
「お前がいるから離婚しないんだよ」
夏海はそんな両親が大嫌いだった。
こんなふうに子供を言い訳にして、自分のエゴを押し通しながら偽善的な営みを続けていくのが夫婦というものなら、夏海は結婚などしたくもなかった。
昭文と付き合うようになって数年が経ってからも、夏海は次第に現実味を帯びてくる「結婚」の二文字にまだ違和感と、そして少しの恐怖を感じずにはいられなかった。
昭文が初めて「結婚」を口にしたとき、夏海はしばらく黙り込んでしまった。次にようやく口を開いたとき、夏海はプロポーズへの返事ではなく、自分の過去のことを話した。過去のこと、両親の結婚生活への嫌悪。
そのときまで夏海は昭文にすら、そうした過去の暗い記憶を喋っていなかった。それは夏海のもっとも深い部分、誰にも話せなかった心の傷口だった。昭文に話しながら、夏海はいつしか涙を流していた。
昭文はいつもと同じように、穏和な表情で夏海の話を聞いてくれた。
すべてを昭文に打ち明けた後、夏海は心が少し軽くなったのを感じた。今まで自分ひとりの胸に抱え込んできた痛みや苦しみ。それは夏海の心の闇でもあったが、その闇を愛する男の前にさらけだすことで、夏海ははじめて自分以外の人間と真正面から向き合うことができたのだった。
愛する人間に心を開くこと、委ねること。それが出来なかったことが、夏海の両親の夫婦生活が破綻したことのもっとも大きな原因だったのだと、夏海は気づいた。
やがて夏海と昭文は結婚し、夫婦となった。
そして生まれた晴喜は、夏海に母となることの喜びを教えてくれたのだった。
子を持つことで、夏海はまた変わった。母となったことの自信と責任感が、夏海をより強く優しくさせた。
夏海は穏やかに笑うようになり、それとともに穏やかに暮らす術を覚えた。
今の夏海は以前のように、始終気を張りつめてぴりぴりしてはいない。ゆっくりと深呼吸をするように、愛する夫と息子との暮らしを味わっている。
夏の空を彩る入道雲のように、ゆったりと成熟しながら。
しかし―――
誰もが薄々知っているように、幸福な時間はいつまでもは続かないものだ。やがて運命の歯車は回り始め、思いがけない試練のときがやってくる。

夏は他のどの時期よりも美しく楽しい季節だ。だが、夏の天気はしごく変わりやすい。
  1. 2014/07/09(水) 14:34:46|
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夏の生贄 第一章 「夏の夢」

空は果てしなく青く澄み渡っている。
時期は七月の中旬。照りつける陽光はすでに真夏のもので、このT海水浴場にひしめく水着姿の男女たちの肌に健康な焼印をあてている。
砂浜には白いビーチパラソルがいくつも並び立ち、その向こうに広がる海では若者や家族連れが笑顔でバチャバチャやっている。ビーチボールが飛び交い、ビキニ姿の乙女たちがかしましい嬌声をあげる。
夏の楽しさ、ここに極まれりといった情景だ。
砂浜から少し離れたところに幼児用のごく浅いプールが設置されている。そこではまだうら若い親たちが我が子とともに水に浸かっていた。ある親は怖がる子をなだめすかして、水に入れるのに懸命になっている。またある親は、子供が際限なくはしゃぎまわるのを横目で眺めながら、疲れてぐったりしている。
その中に一人、その一箇所だけぱっと花が咲いているかのように華やかな雰囲気を漂わせている女性がいた。
黄のおとなしい花柄のワンピース水着をつけたその女の年齢は、三十より少し前くらいだろうか。背が高く、すらりとした体型だ。背筋がきりっと伸びていて、凛とした印象を与える。ストレートの美しい黒髪は肩までの長さで、前髪が眉の上で切りそろえられているのが、少し童顔気味の顔の印象と相まって女をいっそう若々しく見せている。
形のいい鼻梁。小造りのきゅっとした口元。何より、切れ長の美しい瞳の溌剌とした輝きが、女を周囲の誰よりも魅力的に見せていた。
女―――高島夏海は幼児用のプールに膝まで浸かりながら、四歳になる我が子晴喜が浮き輪に助けられながら、初めての水泳を楽しむ様子を眺めている。
晴喜は生まれつき度胸がいいのか、さして怖がりもせず水に入ると、浮き輪につかまってぷかりぷかりと浮かんでいる。その顔はいかにも楽しげで、夏海が時折、浮き輪をつかんで動かしてやると、きゃっきゃっと声をあげて喜ぶ。我が子の無垢な笑顔を見つめる夏海の顔も、幸福そのものといった表情だ。
「ハルくん、楽しい? 泳ぐの好き?」
「すき~!」
晴喜の返事を聞いて、夏海はまたにっこりと微笑む。
陽光きらめく夏の日。波音と若者たちの騒ぐ声に包まれながら、プールで戯れる幼子とそれを優しげに見つめる母親の姿は、絵画の題材になりそうなほど可憐で、詩情あふれる光景だった。
と、そこへ海パン姿の男が駆けて来た。夏海の亭主、昭文である。
「わるいわるい。車のトランクひっかきまわしてようやく見つけたよ」
そう言って、昭文は右手のビデオカメラを持ち上げた。
「もう。せっかく高いお金を出してやっと買ったカメラなんだから、大事にしまっておいてよね」
「わるかったって。ほら笑って笑って」
私はいいから晴喜を撮ってよ、と小さく言いながらも、夏海はすっと背を伸ばして、ビデオカメラを見た。口元にはにかんだ笑みを浮かべている。
「いいねえ。夏海はまだまだいけるよ。やっぱりビキニにすればよかったのに」
「まだ言ってる。もうそんな年じゃありません。まったく・・・ほら、私はもういいからハルくんを撮ってよ」
「はいはい」
昭文が言うと、水に浮かびながら両親を眺めていた晴喜が、
「はいはい」
とオウム返しした。
夏海と昭文は顔を見合わせ、それから弾けるように笑った。

そんな幸せな家族の情景を、プールサイドで二人組の男が眺めていた。日陰に設けられた長椅子に寝そべり、煙草を吹かしながら、男たちはサングラスの奥の瞳を光らせて高島一家を、その中でも夏海を見つめている。
低い声で男の一人が言う。
「たしかにすげえ上玉だな。お前が何年も馬鹿みたいに岡惚れしてるってのも分かる」
「何かこう、上品な色気があるでしょう。男なら誰でもあの女の水着を引きちぎって、好き放題に犯してみたいと思うはずですよ」
「相変わらずてめえの発想は下衆だな。上品さのカケラもねえ」
男はそう言って鼻で笑うと、煙草をもみ消した。
「それでどうですか? あの女。礼の件に使えそうですか?」
もう一人の男が尋ねる。
「ああ、いけそうだな。ちょっと見ただけだが、ただ美人なだけじゃなくてなかなか芯も強そうだ。礼の件にはぴったりの人材かもしれん。藤岡の兄貴には俺から言っておこう」
「それはよかった。でも、あの女を例の奴のの生贄にするのはちょっと惜しい気もしますがね」
「今更、何言ってやがる」

夏。
空はどこまでも青く、不吉なほど果てしなく広がっていた。
  1. 2014/07/09(水) 14:34:00|
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憧れの人が薬で変えられた

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  1. 2014/07/08(火) 01:14:49|
  2. 1話完結■隣人または友人

黒の凱歌 第二部 最終回 

一週間後―――。
白い病室で意識を取り戻したとき、美枝子がまず目にしたものは、自分の胸元にすがりつくようにして泣いている息子の姿だった。
「母さん・・・母さん・・・・」
美枝子は優しい瞳で息子を見た。弱々しく手を伸ばして、その顔に触れた。
忠志は涙にまみれた顔をくちゃくちゃにして、また泣いた。
顔を上げると、夫が病室の隅で白衣の医者と話をしているのが見えた。話しながら夫はちらりと美枝子を見た。
美枝子は顔をうつむけた。夫の顔をまともに見ることが出来なかった。それは辛すぎた。
シーツの下で、傷口がずきんと痛んだ。

あの騒ぎののち、美枝子が病院に運ばれた後で、岡は警察に自首したのだそうだ。
美枝子を刺したのは自分だ、と岡は警察に言ったという。そして過去のこと、美枝子を犯し、調教し、強制的に売春までさせたことをすべて話した。
岡の自白により、大宮を含む近所の男たちも、そうした犯罪に関わったとして一斉に検挙された。
マスコミは大々的にこの事件を報道し、病院の外では大変な騒ぎになっている、らしい。
美枝子は考えている。
自分はどうしてあのとき、岡をかばってナイフに刺されたのだろう、と。
結局、美枝子にとって岡とは、自身の弱さそのものだったのかもしれない。
あれほど酷い目に遭わされながら、美枝子はそれでも岡から離れられなかった。夫のもとから去り、家を飛び出した後でまた岡のもとへ行った。
美枝子が心の奥深くに隠し持っていた欲望。
自分自身すら知らなかったそんな欲望を、岡は白昼の下に晒してみせた。
そのことで美枝子は悩み苦しみ、最後には考えることすら放棄してしまった。すべてを岡に委ね、支配されることでどこかに安定を見出していた。
自分が弱い人間だったからだ、と美枝子は思った。岡はそんな美枝子の弱さにつけこんだのだ。

忠志は毎日病室へやってきては、何かと美枝子の世話をやいた。
誤ったこととはいえ母親を刺してしまったことが、母の知られざる女の部分を見てしまったことよりも深く、忠志の心を傷つけているようだった。
自分は周囲の人を傷つけてばかりいる、と美枝子は思う。何よりも大切な人たちの気持ちをずっとずっと踏みにじってきた。すべて自身の弱さゆえのことだ。
そして今―――
美枝子は最も深く愛し、最も深く傷つけた人物の背中を見つめている。
夫の忠明は、美枝子の意識が冷めてからも一言も責めることをしなかった。というより、あまり口を開くこともなかった。ただただ哀しそうな笑みを浮かべて、横たわる美枝子を見守っては家へ帰っていった。美枝子も夫に語りかける言葉を持っていなかった。
今も忠明は見舞いにきたものの、話す言葉を見つけられず、美枝子に背を向けて座り、病室の窓から見える風景を眺めている。
美枝子はその背中をぼんやり見つめていた。
不意に涙が溢れてきた。そっと身体を起こして、後ろから忠明の身体にそっと顔を押し付けた。
「ごめんなさい・・・・あなた・・・ごめんなさい・・・」
美枝子はかすれる声で、何度も何度もそう言った。
忠明はゆっくりと美枝子のほうに向き直った。そしてその身体をしっかりと抱きしめた。

今日は退院の日だ。
世話になった医者や看護婦に礼を言い、美枝子は忠明と一緒に病院を出た。忠志は詰め掛けたマスコミ陣を撒くために、ダミーの看護婦と一時間ほど前に病院を出ていた。
病院の玄関を通り抜けると、外は眩しいほどの陽光が溢れていた。
久しぶりに見る外の世界。美枝子は少しだけこわいと思った。
これからいったい何が待っているのだろう。
だが―――
美枝子はもう知っている。たとえ弱い人間であっても、時には全身全霊を賭けて戦わなくてはならない瞬間があることを。
ふと気づくと、傍らで夫が心配そうにこちらを見ていた。
美枝子は夫に微笑み返した。精一杯のありがとうとごめんなさいの気持ちをこめて。
夫も笑い返してくれた。
そして―――
夫婦はともに歩き出した。
  1. 2014/07/08(火) 01:12:09|
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黒の凱歌 第二部 第16回 

一声叫んでステージ上に駆け上がった忠志は、横で待機していたらしい警備員の男に取り押さえられた。それでもばたばたと忠志はもがいたが、警備員の太い腕に取り押さえられた身体はそれ以上前に進まない。
激しいアクメの末に弛緩した身体をぐったりと床へ横たえさせていた美枝子は、不意の闖入者をぼやけた瞳で見た。次第に意識がはっきりしてきて、その闖入者がまぎれもなく自分の息子であると悟ったとき、美枝子は悲鳴を――悲鳴ともいえない、動物的な叫び声をあげた。そのまま床に突っ伏して両手で顔を抑えると、まるで幼子のようにえーんえーんと声をあげて泣き始めた。それ以外、美枝子に出来ることはもはや何もなかった。
岡は最初さすがに驚いた顔で、忠志を見た。それからしばらく何か考え込んでいるように黙っていたが、やがてぞっとするような陰気な笑みを浮かべた。
「久しぶりじゃないか、忠志」
「母さんを返せ!! お前だけは絶対に許さないぞ!!」
押さえつけられた身体をじたばたさせながら忠志は叫ぶ。
「美枝子はもうお前のお袋なんかじゃないよ。俺のものだ。俺の奴隷だよ。そうだな、美枝子?」
岡に呼びかけられた美枝子はびくっと背中を震わせたが、そのまま身体を起こすこともせず、「見ないで・・・見ないで・・・」と泣きながらうわごとのように呻いている。
岡はそんな美枝子に背後から近づいていき、ぐいっとその肩をつかんで顔を引き起こした。涙でぐちょぐちょになった母の顔が、忠明と観衆の前に晒された。
「もう、この女は普通の生活には戻れない。変態的な生活にどっぷり浸かって、本物のマゾ女になったのさ。そうだよな、美枝子」
「あ・・・あ・・・・」
「それでは気の毒な息子の忠志くんへの餞別をやろうか。母親が目の前でファックされて気をやるとこを見せてやろう」
岡はそう言うと、美枝子の尻を掴んで、ぐいっと自分のもとに引き寄せた。そしてズボンのチャックから取り出した怒張を、美枝子の秘孔にあてがう。
「や・・・やめて・・・・」
「股ぐらをこんなにべとべとに濡らしたままで、何を言ってるんだ。そうか、美枝子は露出狂だからな。息子の前でやられることに興奮しているんだろ? 息子の前でズコズコとお**こを突かれて、派手によがりたいんだな?」
「お許し―――それだけは許して!」
美枝子ががくがくと頭を揺すりながら抵抗するのを軽くいなして、岡は肉棒を秘所に突き入れた。
「あぐうう」
「ははは、入れた途端に、お**こがきゅっと俺のものを喰い締めてきたぞ。よっぽど期待していたようだな。忠志、お前の母さんはよっぽどの淫乱だな」
「もうやめろ・・・・やめてくれ・・・っ」
忠志は泣いていた。目の前で犯されている母の姿を見ながら、忠志は生まれて初めて絶望という言葉の意味を知った。
岡はそんな打ちひしがれた忠志の様子を小気味よさそうに眺めながら、美枝子の髪を掴んで頭を引き上げ、母のよがる顔を息子にいっそう見せつけるようにした。同時にいよいよ激しい勢いで、バックから美枝子を貫いた。美枝子の肢体には、まだ先ほどのテグスが付けられたままだ。乳首を締め付けられた乳房をぐいぐいと揉みたて、絞りあげられたクリトリスを巻き込みながら、猛り立った怒張で膣内をずんずんと突き上げる。
「あ、あ、あ」
岡の赤黒い怒張がずんと激しい一突きをくれる度、母の裸体が揺れ、その口から悦楽の呻きが洩れるのが、涙で曇った忠志の瞳にはっきりと映った。
観客たちも息を呑んで、不意に始まった背徳のショーに見とれている。
「はああ~、だめっ、これ以上は・・、ゆる、ゆるしてぇ・・・っ」
美枝子が泣き声をあげる。
「おやおや、もうイキそうなのか。本当に堪え性のない、淫らな肢体だな。じゃあ、さっきよりももっと激しくイキな。お前の本性を息子に見せつけてやれ」
「いやぁ~、そ、そんなことっ、あはぁぁぁっ、ひっ、ひっ、だめぇ・・・っ」
「ふふふ、口ではそんなことを言っていても、もうイキたくてイキたくてたまらないんだろ。そら、そら」
岡は薄く笑いながら乳房を鷲づかみにした手指で、勢いよく乳首を擦りあげた。
「あああああああ」
快楽に狂った凄まじい形相の母の口元からよだれがどろりと垂れた。
「イケ! 息子の前ですべてを晒して見せろ!」
「うああああ、も、も、ダメぇぇ、あうあうあうイクッ、イッちゃうっ!!」
忠志は見た。肉の悦びに蕩けきった顔が引き攣り、白目まで剥いて激しい絶頂を迎えた母の顔を。ぶるぶると身体を震わせながら、ぐにゃりと崩れ落ちていく、その様を。

美枝子は床に倒れ伏している。両足と両股を広げきったあられない格好で。まだ岡のものを喰い締めているかのように、時折、尻がぴくぴくと痙攣しているのが見える。
岡は満足げな顔でそんな美枝子を仰向けにし、その乳首とクリトリスを痛めつけていたテグスをようやく外してやった。
それから、忠志を見た。
「見てのとおりだ。お前の母さんはこんな女なんだよ。もうお前の知っているお袋はどこにもいないんだ。分かったら、さっさと帰るんだな」
忠志は―――
がっくりと肩を落していた。表情は虚ろで、もはや岡の言葉が聞こえているかどうかすら定かではない。
それを見て、岡は冷酷な笑みを洩らした。
警備員に忠志を連れ出すように言い、岡は背中を向けた。
そのときだった。
すべての力を失ってしまったかのようだった忠志が、恐ろしい勢いで警備員を突き飛ばした。そのまま、獣じみたうなり声をあげて岡に向かい、突進した。
その手にはジャケットの裏に潜ませておいたナイフが握られていた。
振り返った岡が驚愕の表情を浮かべる。
そのときだった。
跳ねるようにして起き上がった美枝子が、岡を突き飛ばした。
だが、勢いよく突き出されたナイフの刃先を、忠志はその瞬間に止めることが出来なかった。
「美枝子っ!!」
岡の叫びを忠志は背中で聞いた。
一瞬後―――。
忠志は自分の手が血にまみれているのを見た。そして恐怖で身体を凍らせながら、振り返った。
母が倒れていた。その腹に深々と突き刺さっているナイフ―――。
「うあああああ」
忠志が叫んだのと、観客の狂ったようなどよめきとはほぼ同時だった。パニックになった観客たちは、我先にその場を逃げ去ろうと入り口に向かった。
阿鼻叫喚の地獄の中で、ステージに残ったのは三人だけ。一人は血を流し、倒れている。
忠志は虚脱していた。
岡も虚脱していた。
時間は完全に止まっていた。
そのとき、どよめき逃げ出す男たちとは逆に、その部屋へ入ってくる人影があった。

美枝子は薄れゆく意識の中で、どこか安らいだ気持ちを感じていた。
これでやっと終われると思った。
肉に負け、心に負け、家族まで捨てた自分。
死んで当然だった。この汚れきった肉体は、もはや滅するより他に救われることなどはあるまい。
だが―――
ひとつだけ心残りがあった。
最後に。
最後に一目だけでも。
「美枝子・・・・・」
暗闇の中で声がした。
美枝子は薄目を開ける。
懐かしい夫の顔がそこにあった。
美枝子は満たされた。夫に向かってにこっと笑いかけた。
それから美枝子は深い闇へと沈んでいった。
  1. 2014/07/08(火) 01:10:59|
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黒の凱歌 第二部 第15回 

「管理人S」が公開調教の場として指定した店―――どうやら非合法の秘密クラブらしい―――「ヴァニティ・フェア」の前に坂口忠志が立ったのは、日曜日の夜十時をまわった頃だった。
この数日間、周辺をうろついて母の姿を捜し求めたのだが、とうとうその姿を発見することは出来なかった。こうなれば仕方ない。その公開調教の席とやらで、どんなことをしても母をつかまえて連れ戻そう。忠志はそう決意した。もしかして必要になるかもしれないと考えて、忠志は護身用のナイフをジャケットに潜ませてすらいる。
三万円を払って「ヴァニティ・フェア」の薄暗い店内に通された。途中でボーイにマスクを渡された。マスクはレスラーのかぶるような顔全体をすっぽり覆うもので、鼻と口の部分にだけ穴が空いている。
店内は薄紫の間接照明の海だった。インド楽器のシタールらしい、陰々滅々とした演奏が不気味なメロディーを奏でている。
いかにも妖しげなムードだった。その中で、マスクをかぶったたくさんの男たちが、ショーの始まりを今か今かと待っていた。
前方には客席より一段高い場所にステージが設けられていて、背後には緋の緞帳が垂れている。前列の客たちはまだ誰もいないのに、ステージに身を乗り出して、時折揺れ動く緞帳を興奮した表情で眺めていた。遅くに入った忠志は、列の一番後方に立っている。
不意にシタールの演奏が終わった。
緋の緞帳を割って、金髪の若い男が出てくる。
その顔に忠志は見覚えがあった。
幼馴染の岡祐樹だった。
驚きに打たれる忠志の頭の中で、春ごろに母と電話で話したときのことが蘇る。あのとき母は今度、英会話教室に岡が入会したいと言ってきたと話していた―――。
(そうか・・・・こいつが)
(岡祐樹が管理人Sだったのか)
岡はステージ上で、マイクを片手に喋り始めた。
「本日はたくさんの方にお集まりいただいきまして、ありがとうございます。皆さんもすでにご承知のように、我らが性奴隷M子は重度の露出狂にして変態のマゾ女です。今日はたくさんの皆さんの目で、M子の恥知らずの牝犬ぶりをたっぷりと視姦してやってください。もちろん―――」
岡はそこで言葉を切り、観衆に向かって不気味な笑みを見せた。
「それだけで終わることはありません。時間の許す限り、出来るだけ多くの方にM子の淫猥極まりない肢体を味わっていただこうと思っています」
その言葉に熱狂した観衆が、割れんばかりの大歓声をあげた。忠志はぎゅっと拳を握り締めた。
「それではM子の登場です」
岡はそう言うと、ステージの横に移動した。スポットの光がステージの中心に落ちた
緞帳を割って、一人の全裸の女が現れた。いや、全裸ではない。首には黒い皮製のごつい首輪を付けていた。いかにもSM嬢が着るようなボンテージの黒ブラジャーを付けていて、乳房が丸くくり抜かれたように前へ絞り出されている。股間にもボンテージ風の、鎖がじゃらじゃらと付いた衣装を着ているが、尻も股間も肝心な部分はすべて剥きだしであった。
女はスポットの光に入った。改めてはっきりとその姿が観衆の目に晒される。光に照らされて輝く両の乳房にまたがって、マジックインキの不細工な文字で「牝」「犬」と書かれているのが見える。乳首の先にも、そして無毛の股間の肉ビラにも金属製のピアスがぶらさがっていた。
どこからどう見ても、SMプレイ専用のマゾ娼婦といった趣の女だった。最初はどよめき、沸きたった観衆も、今はただただ息を呑んで淫の化身のような女の姿を眺めている。
(母さん・・・・・)
覚悟はしていたが、今初めて実物を目にし、その女が母親であることを確認した忠志は、足ががくがくと震えるのを抑えることが出来なかった。あの暖かく、優しく、そして時に可愛らしかった母が、どうしてここまで変わってしまったのか。変えられてしまったのか。
人知れず慟哭する忠志の耳に、岡の残酷な進行はつづく。
「さて、皆さんにお前の淫らな肢体をご覧になっていただいたところで、M子の挨拶へいきたいと思います」
「うあ・・・み、皆さん」
「違う」
岡がいつの間にか手にしていた皮の鞭で、母の突き出た乳房を打った。「ひんっ」とか弱い悲鳴をあげて、母はのけぞった。
「さっきあれほど教えこんだだろうが。M子、お前はいったいなんだ?」
焦点の合わない瞳を岡へ向けて、母はとろりとした表情で答えた。
「・・・・め、牝犬です・・・・マゾの牝犬です」
「なら牝犬らしいポーズをとって、きちんと皆様にご挨拶をしろ」
「は・・・い・・・」
母はゆるりと観衆の方に向き直った。まるで四股を踏むかのように股を大きく広げていき、そのまま地面すれすれまで腰を落した。両手はグーにして乳房の脇まで持ち上げ、そこから動かさない。
牝犬のポーズ―――チンチンの格好だった。
女の隠しておきたいところをすべて観衆に晒したまま、母は教え込まれたらしい口上を述べていく。
「本日は淫乱マゾ牝M子の調教にお集まりいただき、本当にありがとうございます。今日はM子の口もお**こも尻もすべて使って、皆様方に全身全霊のご奉仕をさせていただきます。どうか、皆様でこのM子を思う存分おもちゃにして、M子の淫らに火照った肢体の熱を静めてくださいまし」
言い終わると母は腰を突き出し、割り裂かれた無毛の股間を見せ付けるように、うねうねと揺すりたてた。腰が動くのに合わせて、むっちりとした太腿の肉がぷるぷると震えるの見えた。
そのあまりにも淫靡な姿に、観客の熱気はさらに高まった。もっと近くで女の姿を見ようと、男たちの列は押し合いへしあい、どっと前へ進んだ。
「母さん――――母さん!!」
我を忘れて忠志は叫んでいた。無我夢中でステージに駆け上がろうとするが、興奮の極みにある男たちの背中に阻まれて、どうしてもたどり着くことが出来ない
「それではM子のご挨拶も済んだようですので、最初の余興へ移りたいと思います。皆さんに見られることでM子も興奮して、アソコをじっとり濡らしているようです。どうです?
 この勃起した乳首」
言いながら岡は、母のピアスをぶら下げた乳首をぎゅっと握った。すでに痛々しいほど勃起しきっていたそこを、乱暴に握り締められて母は悲鳴をあげた。
「あは・・・あ・・・」
「どうだ、M子? 一度気をやりたくてたまらないんだろ?」
岡がいやらしい声音でそう問いかけると、母はがくがくとうなずいた。
「気を・・・・やらせてください」
「じゃあ、まず自家発電で思いきりイクところを皆さんに見てもらおうな」
「はい・・・M子のはしたなく気をやるところを・・・ご覧になってください」
美枝子は快感に濁った瞳で、観客のほうを見てそう言った。その瞳には息子が客席で苦悶している様子など映っていない。露出の快感、被虐の悦楽で美枝子の頭は霞がかったよう。一匹の牝犬と化して、肉欲を満たすことしかその脳裏にはもはやない。
岡はそんな美枝子の勃起した両方の乳首をテグス糸でぴんと縛りつけ、結びつける。さらにその糸を股間に伸ばし、こちらも勃起しきっているクリトリスに結びつけた。女体の一番敏感な部分を結ぶ淫の三角形が完成する。
「ううううううっ!」
痛みの混じった凄まじい快楽の刺激に、美枝子は顔を歪めて悶えている。
「さあ自家発電で思いきりイッて見せろ。さっき教えたように、牝犬のやり方でな」
「は・・・ひ・・・」
美枝子はよだれをたらたらと流す口元から、赤い舌を出した。そのまま、まさに牝犬のごとく舌を出しながら「はっ、はっ」と息を吐きつつ、テグスで縛られた身体を上下に揺さぶりたてる。豊満な乳房がぷるんぷるんと揺れる度に、ぎゅっと絞りたてられた乳首と、それに連結したクリトリスが激しい刺激を受ける。
「ひあ・・・っ、あう、あう、あうううっ!!」
「イケ! はしたなく気をやるところを見せてやれ!」
「あぐぐぐぐ・・・・はあぁ~、イクぅ! あんあんあんっ、イキますぅっ!!」
どろどろと愛液を垂れ流しながら、美枝子が身体中をぶるぶると痙攣させて絶頂に達したのと、忠志がようやくステージの傍にたどり着いたのはほぼ同時だった。
「母さんっ!!」
  1. 2014/07/08(火) 01:09:57|
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黒の凱歌 第二部 第14回

坂口忠明は自宅の居間で酔いつぶれながら、ぼんやりと物思いに耽っている。
何日もろくなものを食べていない身体はふらふらで眩暈がしたが、心の中はどこまでも冷えきっていた。
一昨日出て行った息子はまだ帰ってこない。
忠明はまた妻のことを考える。
一緒になってから、今年で二十年。その間に何度か深刻な喧嘩もあったが、離婚などは考えたこともなかった。妻以上の女はいない、と思っていた。結婚したときは、まだ互いに未熟な男と女であったが、その後喜怒哀楽をともにしながら、暖かい家庭をつくってきた。
二人は一本の木だった。晴れの日は喜び勇んで幹を伸ばし、雨風の吹く日はじっと頭を低くしてこらえながら、したたかに成長してきた。そして頼りなかった細木は、揺らぐことのない大木となった。
その大木が突然、無惨にへし折れてしまった―――。
所詮、永遠に続く絆など存在しないのだろうか。
日々の生活のささやかな喜びも、妻の笑顔も、やがては夢幻のごとく色あせてしまうのだろうか。
そんな考えに耽っていた忠明の耳に、いつか酒場で聞いた豊島の声が蘇った。
『人生何が起きるか分からないね。この年になって自分が妻と別れて、一人で暮らすことになるとは思っていなかったよ。でもやっぱり、一人の生活は侘しいね。一緒にいるときは喧嘩ばかりしていたけど、今になってみるとそれもいい思い出だよ。思い出があるから、今でもこうして生きていられる気がする』
『坂口さんには思い出だけじゃなく、今でも愛する奥さんとお子さんがいる。それは本当に幸せなことだよ。君はまだ若いから、この先もいろいろ思いがけないことがあるかも知れないけど、家庭だけは大事にしてください』
そう語ったときの豊島の瞳のなんともいえない温かさ、そして寂しさが脳裏に蘇る。
豊島の真摯な言葉に対して、あのとき自分は「分かりました」と答えた。
だが、現実に「思いがけないこと」に遭遇した自分は何をしているか。何もしていない。ただただ絶望して、妻を恋しがって―――酒を飲んでいる。
ゆらり、と忠明は立ち上がった。
立ち上がるべきときは、間違いなく今だった。
そのことを忠明はやっとのことで悟った。

二階の忠志の自室に忠明は入った。妻の居所の手がかりを求めて。
勉強机の上にパソコンがのっている。そのキーボードに、乱雑な文字で書かれたメモが残っていた。
忠志が「管理人S」からきたメールの内容をメモしたものだ。
それに目を通して、忠明は一階へ降りた。簡単な旅支度をして、家を飛び出す。
今日は土曜日。メモに記された日は明日だった。
忠明はもう迷わなかった。

ちょうど同時刻―――。
東京、品川にあるホテルの一室で、「管理人S」―――岡がソファに腰掛けている。
その股間に頭を寄せ、突き出した怒張に頬張っている全裸の女がいた。
美枝子だった。
もはや無念無想といった感じで口の奉仕をしている美枝子の姿を見ながら、岡は考えている。
最初に美枝子を我が物にしようとしたとき、岡はここまで事態が深刻化するとは思っていなかった。
すべてを捨てたのは美枝子だけではない。岡もだった。家族を捨て、友人を捨て、岡は今こうして、美枝子とともにいる。
生まれ育った町から姿を消した後も、大宮をはじめとする美枝子の肉に狂った男たちから、携帯に頻繁に連絡がきた。うざったくなって、岡は携帯をゴミ箱に捨てた。
もう自分には何もいらない。この女さえいればいい。
すべてを失った美枝子はまるで抜け殻のようになった。岡に魂までも渡したように、どんな命令にも従い、言われるままに淫猥な快楽に耽った。
美枝子は完全な奴隷と化したのだ。
その姿からは破滅の匂いがした。
それでもいい、と岡は思っている。ならば自分もともに破滅していこう。
ただし、その前にこの世の誰も味わったことのない快楽を存分に味わいつくしてからだ。
蝋燭が燃え尽きる前にその輝きを強めるように、岡は邪悪な欲望をいっそう燃やした。
不意に大きくなった肉棒を一度吐き出してから、美枝子はまた器用にそれを飲み込んでいった。
  1. 2014/07/08(火) 01:09:07|
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黒の凱歌 第二部 第13回 

美枝子が失踪して一週間もの時が流れた頃、坂口忠志はようやく自宅の土を踏んだ。忠志は母の失踪を知らなかったのだ。
居間に入って彼が目にしたものは、床中に転がった酒瓶と、酔いつぶれて寝ている父親の姿だった。
「どうしたんだ、親父」
慌てて父のもとに駆け寄り、抱き起こす。父は酒臭い息を吐きながら、薄目を開けた。その目元には汚らしい目やにと、涙の跡が付いていた。
「ううう・・・」
父は何かよく分からない言葉を呟きながら、弱々しくテーブルの上を指差した。
父の指差した先には一通の封筒があった。中には一通の手紙と離婚届、それと五十万の小切手が入っていた。
忠志は手紙を広げた。見慣れた母の筆跡だった。

あなたと忠志には大変申し訳ないことをしてしまいました。
許してくれとは言いません。どうか、憎んでください。罵ってください。
そのほうが私にとっても、まだしも救いになります。
離婚届を同封しておきました。私の署名は済ませてあります。勝手なことばかり言うなとあなたはお怒りになるかもしれませんが、どうか、私のような人でなしのあばずれ女のことなどは忘れて、新しい人生を送ってください。
これから毎月、五十万円のお金をあなたへ送ります。これだけはどんなことがあっても続けるつもりです。私のような女の送ったお金など、あなたは気分が悪くて使う気にもなれないかもしれませんが、私のせめてもの償いを受けてくださることを希望します。
あなたと忠志の幸せを心からお祈りしています。
どうか御身体に気をつけて、よい人生を送ってくださいませ。
最後にもう一度書かせてください。
本当に、本当にごめんなさい。

忠志は手紙を読みながら、涙を抑えることが出来なかった。テーブルに突っ伏している父親の襟首を掴んで引き起こすと、噛み付くように言った。
「いったい、何があったんだよ! 母さんはどうして出ていったんだ!!」
父親はぼんやりとした顔で息子を見返した。やがてその瞳から、涙がぶわっと噴き出した。

忠志は今、自室のパソコン画面に向かっている。
父親の話では、ここ最近の間になぜ母が奇怪な変貌を遂げ、挙句の果てに失踪してしまったのか、まるで分からなかった。
だが、忠志にははっきりとした直感があった。
やはり、あの「M熟女・公開露出」で痴態を晒している女は母だったのだ。母は何かのきっかけで「管理人S」と知り合い、激しい調教を受け、ずるずると淫欲の沼へ引きずりこまれていったのだ。
「M熟女・公開露出」のトップページを見る。そこにはちかちかと点滅する赤文字で、「緊急告知」と出ていた。忠志はその文字をクリックする。

<緊急告知!>
いつも当サイトをご利用いただき、ありがとうございます。この度、当サイトでは、性奴隷M子の公開調教を行うことに決めました。その調教へ参加してくださる方を募集します。
参加費は有料でお一人様、三万円です。ぜひ参加したいという方は、管理人Sにメールをください。日程と場所をお知らせします。

忠志はしばらくの間、鋭い目でその文字を追っていた。それから管理人Sに参加希望のメールを送った。一時間ほどで返信があって、調教の日程と場所を知らせてきた。
次の日曜が、その公開調教の日だった。場所は東京近郊の怪しげな店である。
忠志は二階の自室から、一階へ降りた。
居間では父親が相変わらず、酒を飲んでいる。今までも仕事が上手くいかないとき、父はこうしてよく酒を飲んで気を紛らわせていたものだ。違うのは、こうしたとき、いつもその傍らに寄り添い、暖かいまなざしで父を見守っていた母がいないことだった。
母を失った父がまるで途方に暮れた迷い子のように見え、忠志の胸は痛んだ。
「親父」
忠志は呼びかけた。父はぴくっと身体を動かしただけで、返事をしなかった。
「母さんの居場所が分かった。たぶん東京にいる。俺は今から東京へ行ってくる」
「やめておけ」
父は絶望の極みといった声を出した。
「あれの様子は普通じゃなかった。お前が何といっても、もう戻ってこないと思う」
父の言葉に忠志はカッとなった。
「だからって放っておけないだろうが・・・! だいたい母さんが出て行ったとき、親父は傍にいたんだろ・・? どうして止めなかったんだよ・・・。母さんを愛してるんだろ? 見苦しくても、惨めでもいいから、母さんにすがりついて『行かないで欲しい』と言えばよかったんだよ・・・! そのほうが今みたいに飲んだくれてメソメソ泣いているより、よっぽどマシだったはずだ!!」
忠志は怒鳴った。悲しみに暮れる父に対してこんな言葉を投げつけることに罪悪感はあったが、何もかも吐き出さずにはいられなかった。
「それに・・・このままじゃ母さんが可哀相すぎるだろ・・・。どんな理由があったにしてもさ・・・。送ってきた五十万円だって、どうやって女手ひとつで稼いだっていうんだ?
これからもどうやって稼ぐっていうんだ? きっと悲惨なことになってるんだ。母さんをそんな目に遭わせて、のうのうとしていられるかよ!!」
父は顔を伏せて、何も言わなかった。その肩が小刻みに震えているのが見えた。
忠志はしばらくそんな父の姿を見ていた。荒涼とした風が心を吹き抜けていくのを感じた。
やがて忠志は居間から出て行った。
  1. 2014/07/08(火) 01:08:19|
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黒の凱歌 第二部 第12回

夫婦は今、二人が長年の歳月をともに過ごした家の居間にいる。その部屋の家具や床に残る傷のひとつひとつにさえ、家族の歴史が刻み込まれている。
この部屋の空気は二人と息子の忠志が長年かけて作ってきたものだ。長い年月の間に、家族の洩らした笑い声、泣き声。そのすべてが調和して、今のこの空気を形作っている。世界中の他のどこにもない匂いと温かさを持った空気―――。
その空気に、しかし今夜の忠明はくつろいだ気持ちを感じることが出来なかった。
目の前には妻の美枝子が立っている。
漆黒のロングドレスに、紅のイヤリングを付けた艶やかな姿。
忠明の記憶にあるような家庭の温かさを感じさせる女性ではない、娼婦めいた艶めかしさと妖しさを持った女が目の前にいた。
もはや何もかも諦めきって死刑の宣告を静かに待つ罪人のように、美枝子はどこか疲れた表情で、何も言わずにうつむいている。
忠明は口を開いた。口の中はカラカラに渇いていた。
「何があったのか聞かせてくれ・・・・」
ともすれば、激烈な感情が迸ってしまいそうな自分を必死に抑えて、忠明はそう言った。
「・・・・・・」
美枝子は無言でそっと目を伏せた。
「だんまりを決めこむ気か? あれだけ恥知らずな行いを俺に見せつけておいて、それで済むと思っているのか?」
思わずカッとなって口走った忠明の言葉に、美枝子はびくっと身体を震わせた。傷ついた瞳で忠明を見つめ返した。
美枝子はゆっくりと、感情を喪失したような声で話しだした。
「・・・あなたには本当に申し訳ないことをしました。どんなに謝っても許されるはずのないことを、私はしてしまいました。もう、どんな言い訳の言葉もありません。・・・どうか、私と離婚してください」
「そんなことが聞きたいんじゃない!!」
忠明は怒鳴った。
「俺はお前に言い訳がしてほしいんだ! たとえそれがどんな言い訳であったとしても、お前の口から理由を説明してほしいんだよ!!」
「ごめんなさい・・・本当にごめんなさい。この償いは一生かけても」
美枝子がそこまで言ったとき、忠明の平手がその頬を強く打った。跳ね飛ばされたように、美枝子は床へ倒れこんだ。
我を忘れて妻を打ったものの、生まれて初めて妻に暴力を振るった自分自身に忠明はショックを受けた。狼狽して、倒れた妻のもとへ近寄り、手を差し伸べようとした。
美枝子はその手を払いのけた。そして叫んだ。
「触らないでください!!」
「・・・・」
「・・・私のような女に触れると、あなたまで穢れてしまいます」
まるで何かの宗教に狂信しているがごとく、美枝子は少し常軌を逸したような凄絶な顔で言った。その深く思いつめた表情に、忠明は圧倒された。
「・・・・見てください」
美枝子は静かにそう言うと、不意に服を脱ぎ始めた。
次第に露わになっていく妻の白い肌を、呆気にとられて見ていた忠明は、次の瞬間目に飛び込んできた光景に衝撃を受けた。
自然な形で優しくまろやかな線を描く妻の乳房。その頂点に位置する、紅色の乳首。その乳首にまるで牛の鼻輪のような、巨大なピアスが嵌まっていた。
さらに衝撃だったのは、妻の股間だった。そこには艶々とした漆黒の繊毛は影も形もなく、なだらかに盛り上がる肉の割れ目が、あまりにも生々しく剥きだしになっていた。しかも、切れ込みの傍らの肉唇には、乳首と同じように無機質な金属性のピアスが、両側に三つづつぶら下げられている。
美枝子は両の乳房を手ですくい上げるようにして、忠明に見せつけた。頂点の突起に取り付けられたピアスがきらりと妖しく光った。
「これが・・・今の私です。私の・・・本当の姿なのです。あなたにかまってもらう価値もない・・・」
美枝子はこわいほど真剣な顔で、忠明の瞳から目を逸らさない。
「今日、私が何をしていたか知っていますか? ご近所の中村さんと昼間からホテルへ行っていたのです。お金を貰って、その代わりに彼の望むどんなことでもしました。そうやって彼に抱かれて、何度も気をやりました。彼だけじゃありません。もうずっと前から、私はたくさんの男性とそうした淫らな関係を持っていました。そんなどうしようもない女なのです」
「美枝子・・・・・」
忠明が思わず声をかけると、不意に美枝子の瞳から涙がはらはらと零れ落ちた。流れ出したそれはなかなかとまらず、美枝子はしばらく両手で顔を抑えていたが、やがて気を取り直したように、ぐいっと手の甲で涙を拭うと、床に散らばった衣服へ手を伸ばし、再びそれを身につけはじめた。
「美枝子・・・・」
再び忠明はそう呼びかけた。呼びかけるしか出来なかった。あまりにも様々な出来事の連続で、思考も感情もばらばらになっていた。知らぬ間に自分の手の届かない未知の領域へ飛び去ってしまったような妻を、忠明は何か恐ろしいものでも見るような目で、呆然と見つめた。
娼婦の服装を身にまとった妻は、そんな忠明の瞳をじっと見返した。
「あなたと忠志と、三人で幸せに暮らしていた頃は、自分がまさかこんなふうに堕ちていくとは思いもしませんでした・・・」
ぽつりとそう言った。
立ち尽くしている忠明に、もう一度ぺこりと頭を下げ、それから美枝子は静かに部屋を出て行った。
虚脱した顔で突っ立ったままの忠明の耳に、やがて玄関の戸が開き、そして閉まる音が聞こえてきた。
  1. 2014/07/08(火) 01:07:23|
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黒の凱歌 第二部 第11回

その日、坂口忠明は出張で名古屋へ行っていた。取引先との商談は、思ったよりも早く終わった。予定ではその晩は名古屋に一泊し、翌日は朝一番の新幹線で福岡まで戻るはずだったが、時間の余裕が出来たので、忠明は久しぶりに我が家へ寄っていくことを思い立った。
前もって家に電話を入れることもせずに、いきなり現れて妻をびっくりさせよう。
そんな稚気溢れる考えを抱いて、我が家へと向かう電車に乗り込んだ忠明の心は、どこまでも和やかだった。
そんな忠明の心に、ふと翳りがさしたのは自宅近くの道を歩いているときだった。
あまり付き合いはなかったが、顔見知りではある近所の奥さん連中の様子がおかしいのだ。忠明の姿を見て眉をひそめたり、ヒソヒソ話をしたりしている。たまに目が合って、こちらが会釈をすると、急にそわそわとして黙り込んでしまう。
決定的なことは忠明が自宅の前で、門を開けようとしていたときに起こった。
「あんたの奥さんは牝犬以下だよ!!」
不意に背後から、そんな痛烈な言葉が浴びせかけられたのだ。
振り返ると、向かいの家の奥さんがいた。涙をいっぱいに溜めた眼を吊り上げ、肩を震わせた凄まじい形相に、気を飲まれた忠明は咄嗟に何も言えなかった。その間に奥さんはさっと身を翻して、家の中へ消えてしまった。
まさに茫然自失といった態で、忠明はしばらくその場に突っ立っていた。
<あんたの奥さんは牝犬以下だよ!!>
・・・・いったい、どういう意味だ?

夜の闇の中、忠明は自宅の玄関の前で一人うずくまっている。
妻が戻ってこない。
最初に妻を驚かせようとして、連絡をいれずに帰宅することを思い立ったとき、もしかして妻が家にいないかもしれないと考えてはいた。だが、それでもしばらく待てば帰ってくるはずだった。今日は英会話教室もやっていないはずだし、少なくとも夜の六時か、七時には・・・。
今、時刻は十一時をまわったところだ。
しかし、時間の経過も気にかからないくらい、忠明は嫌な思考に苛まれていた。さきほどの近所の奥さん連中の奇妙な態度、そして向かいの奥さんが妻を「牝犬」呼ばわりしたこと。
これはどう考えても、妻が近所の人々と何かトラブルを起こしたとしか考えられない。トラブル? あの穏和な、誰にでも優しい妻が?
妻がその美貌と溌剌とした気性ゆえに近所の男たちに人気があり、その反面で奥さん方の不評を買いがちであることは、なんとなく気づいていた。もちろん妻がそのようなことで愚痴をこぼしたり、夫である忠明に余計な気遣いをさせることなどなかったが、そこは夫婦の間柄である。別に具体的な言葉など交わさなくても、互いの心痛は手に取るように分かる。分かるはずだった。
だが、今にいたって忠明はその考えを改めざるを得ない。妻が、少なくともここ最近の妻が、夫の忠明の知らないところで、何か妙なことに巻き込まれていることは確実だった。
それはいったい何だろうか。
悩み苦しむ忠明の耳に、そのとき、夜の静寂を切り裂いて車のエンジン音が近づいてくるのが聞こえてきた。
車は坂口家のすぐ近くに停まった。ドアを開けて、人が降りてくる音がする。かすかに男と女の声がしたようだ。
忠明はそろそろと門の傍まで近寄っていった。目立たぬように外の様子を覗く。
男と女が抱き合っていた。男の顔には見覚えがあった。近所に住む中村という妻子持ちの中年男。たしか妻の英会話教室へ通っていたはずだ。
女のほうは後ろ姿しか見えない。
だが―――
忠明には分かる。
目の前で中村に抱かれている女は、妻の美枝子だった。
瞬間、忠明は頭の中が真っ白になった。
中村が口を開くのが見えた。
「ああ、名残惜しいな。いつまでもこうして奥さんの身体を抱きしめていたい」
言いながら、中村は美枝子を抱きしめる手を背中から尻へ移した。スカートを盛り上げる魅力的な尻の膨らみを、いやらしい手つきで撫でまわしている。
「それに今夜はここの穴を使わせてもらってないからね。前に大宮さんが皆の前で、奥さんのここを貫いたときの、あの奥さんの悦びようが忘れられないな。出来ることなら、私もあのように奥さんをのたうちまわらせたかった」
酔ったように言葉を続ける中村。その言葉のひとつひとつが、それまで忠明の住んでいた世界、信じていた世界を、激烈に打ち壊していく。
「まったく残念だよ。奥さんのアソコも口も実によかったけど、この熟れた尻の感触を味わいたかった」
「今度・・・」
女が口を開いた。相変わらず背を向けてはいるが、その声は少しかすれてはいたものの、まぎれもなく美枝子の声だった。
忠明はぎゅっと拳を握り締めた。掌にじっとりと汗をかいている。
「今度、私をお買いになったとき、どうぞご存分に・・・そこを使ってくださいませ」
「楽しみにしているよ。でも予約が詰まっているんだろ。次は多田さんとこのご主人か。奥さんも大変だね」
中村はそう言うと、美枝子をぎゅっと抱き寄せた。そして、その口を美枝子の顔へ近づけようとした。
忠明が黙って様子を窺っていられたのはそこまでだった。わけの分からない激情に囚われて、忠明は怒声をあげながら門から走り出た。「ぎゃっ」と情けなく叫んでのけぞった中村の襟首を掴んで、忠明はその頬に強烈な一撃を加えた。
中村は地面に崩れ落ちた。その顔は恐怖にひきつっていて、口元からは血が流れ出している。
「ご、ご主人・・・・これは」
何か言いかけようとした中村の腹を、忠明は蹴り飛ばす。ぐえっと呻きながら、中村の身体が道路を転がった。なおも追撃を加えようとする忠明の身体に、誰かがしがみついてきた。
美枝子だった。
その隙に中村は後も振り返らずに、大慌てで逃げ去っていった。
夜の静寂が、またその場を支配した。
忠明は妻を見た。息を弾ませながらも、正面からはっきりとその姿を見た。
妻もまたその大きな瞳をしっとりと見開いて、忠明を見つめ返している。
「あなた・・・・・」
呟くように、妻はそう言った。
  1. 2014/07/08(火) 01:06:35|
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黒の凱歌 第二部 第10回

「坂口さんは単身赴任だよね? もうけっこう長かったっけ?」
「一年とちょっとですね」
豊島に聞かれて、忠明はそう答えた。
豊島は会社の違う部所で働く同僚である。階級は豊島のほうが上だが、なぜか二人は馬が合って、よく一緒に飲みに出かけていた。
その晩も二人は会社が終わってから、誘い合わせて、近くの店で一杯やっていた。
「この前、久しぶりに家に帰ったんですが、やっぱり我が家はいいですね。実は最近、仕事が上手くいかなくてイライラしてたんですが、家に帰って見慣れた妻の顔を見ていたら、それだけで救われた気持ちになりましたよ」
「それはよかったね」
「やっぱり、自分は家庭がないと生きていけない人間なんだな、と改めて思いましたよ。今でも根無し草の生活をしていたら、とてもやっていけていないと思います。こうして離れて生活をしていても、どこかで妻や子を心の支えにしているんですね」
忠明がグラスを開けながら、しみじみとそう言うと、豊島はちょっと黙って、それからほろ苦い笑みを浮かべた。
「いいね・・・坂口さんは幸せ者だよ」
「豊島さんのご家族は・・・?」
「いや、二年前に妻と別れてね」
「それは・・・申し訳ありませんでした」
「いいんだ」
忠明は恐縮した。親しく付き合ってはいたが、豊島の家庭の話を聞いたのはその日が初めてだったのだ。
「人生何が起きるか分からないね。この年になって自分が妻と別れて、一人で暮らすことになるとは思っていなかったよ。でもやっぱり、一人の生活は侘しいね。一緒にいるときは喧嘩ばかりしていたけど、今になってみるとそれもいい思い出だよ。思い出があるから、今でもこうして生きていられる気がする」
「・・・・・・」
「坂口さんには思い出だけじゃなく、今でも愛する奥さんとお子さんがいる。それは本当に幸せなことだよ。君はまだ若いから、この先もいろいろ思いがけないことがあるかも知れないけど、家庭だけは大事にしてください」
「分かりました」
豊島の滋味に富んだ優しげな瞳を見つめながら、忠明はしっかりとうなずいた。

坂口忠志は、最近とみにパソコンの画面に向かうことが多くなった。
その晩もサークルの飲み会から帰ってきて、忠志はなかば無意識にパソコンを開き、ネットに接続した。
見るサイトはもちろん「M熟女・公開露出」だ。
もはや何回見ているか分からないが、忠志はこのサイトを訪れる度に空恐ろしい気持ちになる。
母にしか見えない女性「M子」が見せる痴態の数々。
しかもサイトの管理人Sが「M子」に強制する行為は次第にエスカレートしているようだ。
今日更新されたらしい新たな画像には、「M子」が男子便所で立小便を強制されている画像、そしてどう見ても一回り以上年の離れた若者たちと濃厚なセックスに耽っている画像があった。
目元に黒い線が入れられているが、そのセックス画像の「M子」は明らかに、喜悦の表情を浮かべていた。
設置されている掲示板を覗く。
<今回アップされた分見ました。すげえ、興奮したっす~。M子の身体はエロ過ぎですよ>
<今度はもっともっと恥ずかしいことをM子にやらせてやってください。たとえばどっかの道端で見知らぬ通行人にアソコを舐めさせるとか・・・(笑)>
母に似た女に欲情している男たちの書き込みを見ていた忠志は、不意に胸がむかついてきた。パソコンを閉じて、灯りを消し、ベッドに転がる。
今度の休みには実家に帰ろう。
忠志は暗闇の中でそんなことを考えていた。

熱いお湯が身体にかかると、それだけで疲れきった身体に少しだけ生気が戻ってくる気がする。
美枝子は今、自宅のシャワーを使っているところだ。
先日の岡たちとの嵐のような乱交。その熱も冷めきらないうちに、今日は大宮に呼び出された。
前々から大宮に施されていたアナル調教。今日はその成果を試す日だった。
最初は恐怖で、後になってからは痛みで、美枝子は大宮のものを尻の穴に受け入れることに泣いて抵抗したのだったが、しばらく大宮にその部分を嬲られていると、もう新しい快感に目覚めている自分がいた。先日、岡たちに使われた妖しげな薬の効用が、まだ身体のうちに残っていたのかもしれない。
「なんだ、なんだ。やっぱり、美枝子の身体はどこででも感じるようになっているんだな」
「これなら心配ない。実はな、今度、またグラスハウスでのときのように、大勢の観客の前でお前のセックスの様子を披露することになった。そのときは口もアソコも尻の穴もすべて使って、お前の恥ずかしい姿を見せるんだ」
「分かったな」
尻を貫かれながら、美枝子はそんな言葉をぼんやり聞いていた。まるで他人事のように。
だが、今こうしてシャワーを浴びながら、その言葉を考えている美枝子の意識は、次第にグラスハウスでの出来事を思い出し始めている。
あの圧倒的な悦びと解放感―――。
牝犬のように尻を振って男たちに媚びながら、自分の性のすべてを晒す興奮―――。
思い出すだけでゾクゾクした。
浴室から出て、タオルで身体を拭こうとしたとき、そのタオルを新しいものに取り替えていなかったことに気づいた。
夫や子が自宅にいたときは、浴室のタオルは毎日欠かさず取り替えていたのに。
ぼんやりと身体を拭きながら、美枝子は刺すような哀しみを感じていた。
淫欲に爛れた生活を続けているうちに、生活の細かい部分にどんどん気がまわらなくなっていた。かつてはあれほど打ち込んでいた英会話教室も、最近ではずっと休んでいる。
自分の中で、これまで大切にしてきたもの、これだけは失うまいと頑なに守ってきたもの。
そのひとつひとつが、確実に壊れてきていた。
そして。
美枝子は夫と子供の顔を思い浮かべる。
ごくごく平凡な、でもとても幸福だった自分の人生のそのすべてをかけて愛してきた、二人。
その二人を、今、自分は失おうとしている。
そう考えたとき、美枝子の瞳に涙が溢れた。
今からでもいい。二人に何もかもぶちまけて懺悔しよう。これまでのこと、自分の今の姿、本当の姿を何もかも打ち明けよう。たとえ許してもらえなくても、このまま何もせずに破滅へと向かっていくよりはましだ。
そんな激情に取り付かれて、美枝子は裸のまま、風呂場を出た。居間の電話の受話器を取ろうとしたその瞬間、電話が鳴り、美枝子をびくっとさせた。
「もしもし・・・」
「俺だ」
岡からだった。大宮の話した件について、改めて確認するためにかけてきたらしい。
「すでに聞いているなら話は早い。やるのは今度の土曜日だ。いいな」
美枝子は―――
「はい・・・」
と答えた。
「オウケイ。それまで時間はまだる。また外に連れ出して、新しい悦びをたっぷり教えてやるから、楽しみにしておけよ」
電話が切れた後も長い時間、美枝子は虚脱したようにその場に立っていた。
濡れたままの髪の毛の先から、雫がぽたぽたと床へ垂れ落ちていた。
しばらくして美枝子は、前に岡からこれからは毎日するようにと言われた、無毛の股間の処理を怠っていたことを思い出し、また浴室へ戻った。

そして―――
時間は一ヵ月後に移る。破滅のときはもうすぐそこに迫っている。
  1. 2014/07/08(火) 01:05:43|
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黒の凱歌 第二部 第9回

坂口家の居間で四人の若者たちが酒を飲んでいる。もちろん、岡、元倉、藤吉、金子の悪党四人組である。
四人がわいわいと酒を酌み交わしているその前で、今夜も酒の肴となるべく、美枝子が淫猥な「余興」をやらされている。
今、美枝子は全裸に後ろ縛りの格好で、ルームランナー上をひたすら走らされている。
ルームランナーの速度はそれほどでもないが、不自由な格好ですでに三十分も駆けさせられているので、美枝子はもはや疲れきり、汗だくとなっている。
さらに別の拷問が美枝子には与えられていた。
やっとのことで自宅へ帰りついたとき、野外での様々な露出調教の刺激で、美枝子はすでに痛々しいほど発情しきっていた。恥も外聞も忘れて岡に抱いてもらおうと身を寄せた。だが、岡はそれをあっさり拒絶し、あろうことか、美枝子をベッドの上に大の字に固定し、家を出て行った。
二時間後、やっと帰ってきた岡は、他の三人の悪友を連れていた。その中のひとり、元倉は、さらに美枝子を地獄へ追い込む淫具を持っていたのである。
インターネットで取り寄せた中国製の発情昂進薬。ひらたくいえば媚薬である。
その媚薬は、中国では古くから馬の種付けのために使われていた。つまり、薬で強制的に馬をサカリの情態にし、つがわせるのである。
だが、その媚薬は悪いことに人間にも効いた。規制がなかった時代は、若い男女が遊び半分にそれを使って嵐のようなセックスに耽り、あげくのはてはミイラのようになっても情交を続け、凄惨な死を遂げることが度々あった。原料にモルヒネ系の麻薬が使われていることもあり、近代になってその媚薬の使用は法律上で完全に禁止された。
だが、最近の世界的な「性風俗の過激化」で、それは再び脚光を集めることになった。数年前にもアメリカ人観光客に、現地の裏社会の者がそれを売りつけ、騒動になったことがある。
その媚薬は人知れず日本にも入ってきていた。それを元倉がネット経由で手に入れた。
そして今、全裸後ろで縛りで室内マラソンさせられている美枝子の股間に、その媚薬はたっぷりと塗りつけられている。その効果のほどは、汗でどろどろになって走る美枝子の身体がまるで茹でられたように火照りきり、時折転びそうになりながら懸命に走っている両足の股間から、尋常でない量の愛液が垂れ落ちていることからも分かる。
「あ、あ、あ、も、もうだめぇ―――は、はやく抱いてぇぇぇっ!」
疲れきった身体を激しく揺すりたてながら、美枝子は狂ったように喚いた。その顔は汗と涙と鼻水で凄惨な様相を呈している。股間に塗りつけられた媚薬がすでに身体中を犯し、血液中をドロドロと流れている。もはや男たちのペニスを思う存分、膣に突き入れてもらって、溜まりに溜まった欲望を思う存分解き放つこと以外、頭には何もない。
「あああんっ、く、くるっちゃうぅぅっ、おねがいですっ、犯してっ、美枝子をべちゃべちゃに汚してぇぇっ!!」
惨めな泣き声をあげながら、美枝子は凄惨な表情で哀願を繰り返す。その姿には、かつての美人妻の面影は微塵もなかった。
「おらおら、何を言ってんだ。まだ三十分しか走ってないじゃないか。一時間は走る約束だっただろうが」
「泣き言を言った罰として、あと一時間追加で走ってもらうぜ」
「いやああんっ、意地悪言わないでぇっ! もう限界なのぉ! おねがいっ、誰でもいいから美枝子とセックスしてっ、ああん、してぇっ!!」
「やれやれ、仕方ねえなあ。しかし、この奥さん、ホントにただの淫乱女になっちゃったね」
笑いながら、金子がルームランナーを停め、美枝子の縄をほどいた。自由になるのが待ちきれず、男たちにむしゃぶりついていこうとする美枝子の哀れな姿が、また笑いを誘った。
「おいおい、少しは我慢できねえのか。まったく、本物の変態だな、お前は」
「ああん、変態よ、美枝子は変態なのぉ、あ、あ、もうはやくHなことしてっ!!」
ようやく拷問から解放された美枝子は、限界まで発情した身体をぶつけるようにして、男たちに組み付いていく。男たちもすぐに服を脱ぎ捨て、我も我もと美枝子に雪崩れこんでいった。
凄まじい肉の宴が始まった―――。

二時間後。
岡は一人、宴の続く居間を離れた。
美枝子が家族の為に、毎日食事の用意に励んだ台所に立ち、携帯を取り出す。
かつての台所の主の狂ったような嬌声と、男たちの声が居間から響いてくる。
数回のコール音の後で、大宮が出た。
「よう、おっさん」
「どうした?」
「さっそくだけど、今度の土曜の夜に前言ってた計画を実行にうつしたいんだ。それでおっさんに頼んでた人集めは上手くいきそうか?」
「たぶん大丈夫だ。なにせ、たまの休みを潰してまで英会話教室なんぞへ通って、美枝子の顔を拝みにきてた連中だからな。憧れの女神の痴態が見られるとなれば、どんな用があってもすっ飛んでくるさ」
美枝子の英会話教室――二週間前から体調不良の名目で休止状態となっているが――の元生徒である中年男たち。彼らに美枝子の次の調教の「観客」になってもらおう、というのが岡の計画だった。
「じゃあ頼む」
電話を切って、岡は居間へ戻った。その頃には、さしもの若いヤンキー連中も、美枝子の過激に昂進させられた肉欲の前にへたばっていた。満足していないのは美枝子一人。萎びた肉棒をしゃぶりながら、「もっと、もっとしてぇ!」と涙まで流しながらせがんでいる。
その姿を見て、岡は自分がやったこととは言いながら、なんとなく哀切な感情が胸を湧くのを抑えきれない。幼い頃からの憧れ、自分の永遠の理想たる坂口美枝子をここまで壊してしまったことへの、後悔の混じった哀愁の気持ちだった。
居間へ入ってきた岡の姿を見て、美枝子はぱっと顔を輝かせた。もちろん、絶え間なく肢体を灼き続ける肉欲の捌け口を見つけた悦びの表情だ。
「はああっ、うれしいっ、早くあなたのものを美枝子にくださいっ!」
汗と精液でべっとりと汚れた美枝子がしがみついてくると、岡もやけくそまじりの欲望に我を忘れた。
「やってやる。今日はとことんお前のお**こを使ってやるからな」
「使ってぇっ、美枝子のアソコが擦り切れるまで使ってぇっっ!!」
地獄の業火に焼かれた男と女の、果てしない性宴はまだまだ終わりそうにない。
  1. 2014/07/08(火) 01:04:38|
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黒の凱歌 第二部 第8回

美枝子はきょろきょろと辺りを見回しながら、すがるように岡の背中へ寄り添いつつ、公園内を歩いている。
その下半身には何も着けていない。上半身にシャツを着ただけの格好で、美枝子は白昼の公園を歩いていた。何とか、前だけは隠そうとシャツの裾を手で掴んで、秘所の毛むらを覆おうとしている。
羞恥のトイレタイムが終わって、呆然としている中年男を残し、二人は今、公園に隣接したロータリーにあるタクシー乗り場へ向かっている。トイレで剥ぎ取られたスカートは返してもらえないまま、美枝子はこうして裸の下半身を必死で隠しながら、へっぴり腰で歩いている。
上着のシャツの裾は長くないので、それを掴んで前を隠すと、今度は後ろの裾が上がり、裸の尻が露出してしまう。尻にすうすうと風を感じるたび、美枝子は不安げに後ろを振り返り、泣きべそをかきながら、シャツを掴んでいないほうの手で尻を隠すのだった。
この公園は大きく、樹木も豊富に植えられている。今、二人が通っているのは、中心のグラウンドを取り巻く通路で、人通りも少ないし、道の脇に植えられた木々で、公園の外からも、グラウンドからも見られにくい。それでも、午後のひと時を楽しむ子供たちや、その母親らしき人々の声が盛んに聞こえてきて、美枝子の怯えを誘う。
「そんなにびくびくと歩いてないで、もっとしゃんとして歩けよ」
美枝子の情けない歩行ぶりを見て、岡は笑いながら、その裸の尻めがけて平手を振り下ろした。ぴしゃんっ、と小気味のいい音がする。
「ひっ! や、やめてください!」
「ふ~ん、そう言うなら俺は先に行って待ってるぞ」
岡はそう言って、歩みを速めた。岡の背に身を隠すようにして歩いていた美枝子は、慌ててそのあとを追う。
「ま、待ってください。見られちゃいます・・・っ」
「見せたらいいじゃん。露出狂なんだから、そのほうがいいんだろ。さっきもトイレでお前の後始末をしてやったとき、お前が興奮してアソコを濡らしまくるから、いつまでたっても綺麗に出来なかったじゃないか」
「・・・・・・」
「今も濡らしてるんだろうが」
岡は手を伸ばし、嫌がる美枝子の抵抗をかいくぐって、その蜜壷に指を這わせた。
「あうう」
「ほら見ろ。もうぐちょぐちょじゃないか。本当にスケベな女だな、美枝子ちゃんは」
ねっとりと濡れ光る指を眼前に見せつけられた美枝子は、頬を染め、そっと顔をうつむけた。
そのとき、一陣の風が頼りない下半身を吹きぬけ、思わず立ちすくんだ美枝子は、股間の奥がきゅっと熱くなるのを感じた。

タクシー運転手の宮下は、後部座席に乗り込んできた二人の男女を見てぎょっとした。
若いチンピラ然とした男と、黒髪を上品に結いあげた美しい年増の女である。その組み合わせだけでも異色なのに、女のほうはなんと、上半身にタンクトップのシャツを着ているだけの格好なのである。
宮下の視線をさけるようにうつむきかげんになりながら、女はシャツの裾を伸ばして股間を覆っている。その恥ずかしげな風情に、宮下は興奮して声をうわずらせながら、やっとのことで、
「ど、どちらまで行きますか」
と、聞いた。若い男がそれに答えている間も、宮下はミラーで女をじろじろと見つめていた。女もそれに気づいているのか、いっそう顔を伏せた。
行き先を聞いて走り出した後も、宮下は後ろが気になってたまらない。ミラーの中では若い男がくすくすと笑いながら、女の耳に何事か囁いていた。女は首筋まで真っ赤にしながら首を振っている。
女は若い男の愛人で、今は淫猥なプレイの最中なのだろうか。
そんなことを考えていたら、若い男が不意に声をかけてきた。
「すみません、運転手さん。今からちょっと、後ろの座席でこの女がヘアの処理をしたいと言ってるんですが、よろしいですか」
「へ、ヘアの処理と言いますと」
思わず眼鏡がずり下がった。
「今日は暑いでしょう。それでこの女、暑がりなものでスカートも履かないで家を出てきたんですが、今頃になって下の毛の処理が甘くて恥ずかしいと言うんですよ。だから、ここの座席を使って、いっそ毛を全部剃ってしまいたいと言い出しましてね。ちょっと席を汚してしまうかもしれませんが、よろしいですかね?」
「けえっ」
宮下は思わず、奇声をあげた。あげてから、がくがくとうなずいて、
「よ、よろしいですよ。お好きなようにしてください」
と言った。興奮で頭に血が昇っている。
「じゃあ、好意に甘えて・・・おい、これを使えよ」
若い男が取り出したのは剃刀と、スプレー式のシャボンだった。
「いや、ダメです・・・」
「なんでだよ。旦那が帰ったら剃らせるとこの前言っておいただろ」
男が小声で囁いているのが聞こえる。
「さっさと剃れ。嫌なら、お前だけここで放り出すぞ」
「ああ、こんなところで・・・絶対無理です・・・」
なよなよと首を振りながらも、女は剃刀とシャボンを受け取った。そうしてためらいがちに、抑えつけていたシャツの裾をそろそろと上げていく。
思わず食い入るようにミラーを見ていた宮下は、そのときちらりと目を上げた女と目が合った。女は羞恥に顔を歪めて、イヤイヤした。
「ダメです・・・やっぱりこんなところで」
小声で若い男に訴えている。
「何度も言わすな。家に着く前に剃りあげていなかったら、お仕置きだからな。それから運転手さん。ミラーでちらちら見るのはいいけど、事故は起こさないように頼むよ」
「は、はい!」
突然、男がそう声をかけてきて、宮下は動揺した。どう見ても、二十歳かそのくらいの若造になめた口をきかれて、普段ならむかっとするところだが、図星なので仕方ない。宮下は運転に集中することにした。
後ろの二人はそれからもなおも押し問答していたようだが、ついに女が折れたようだった。
しばらくして、スプレーの吹き付ける音がした。その後で、
ジョリ・・・ジョリ・・・
という毛を剃る音がしてきた。宮下は気になってたまらない。ミラーを見ると、女が上半身をかがめて、その部分を隠すようにしながら、剃毛をしているのが見えた。肩口がぶるぶると震えている。首筋にうっすらとかいた汗が、窓から差し込む光で艶めかしく輝いていた。
「横の車の子供がお前を見てるぞ。何してるんだろうって顔してるな。もっと股を開いて、何をしてるかよく見せてやれよ」
若い男が言葉で女を嬲ると、女はか細い声でうわごとのように
「「恥ずかしい・・・恥ずかしい・・・」
と繰り返しながら、それでも手を止めようとはしない。
宮下は自分が白昼夢の中にいるような気がした。夢の中で宮下は激しく勃起していた。

指定された場所から少し離れた人気のない裏路地で、若い男は車を停めるように言った。
すでに剃毛を終えて、ぐったりとしながら女は、男の胸に顔を埋めている。その震える背中に男の手が回っていた。
車を停めると、男は料金を差し出しながら、
「すいません、運転手さん。この女、ちょっと露出狂の気があるもんでね。車内でヘアを剃りながら、アソコを濡らしてちょっと席を汚してしまったみたいなんですよ」
「へ、へえ・・・それは」
「でも綺麗に剃れました。ほら、お世話になった運転手さんにツルツルのアソコを見せてやれよ」
男はそう言って、嫌がる女を前に向かせると、シャツの裾を引きめくった。
「あうう・・・」
恥じらい悶える女の股間は、男の言ったように、まるで童女のごとく、清らかな無毛の丘を晒していた。宮下は思わず「凄い・・・」と呟いていた。
「どうです。まるで幼児みたいでしょ。手触りもツルツルでなかなかですよ。あなたも触ってみてください」
「い、いいんですか」
「座席を汚したお詫びですよ。ほら、お前からもお願いしないか」
男が女をどやす。女は弱々しく顔をあげて、とろりとした表情で宮下を見つめた。
「・・・・ど、どうぞお触りください・・・」
高熱にうなされているかのように、どこか焦点の定まらない瞳で、女はうつつなく言った。
もはや興奮の絶頂にある宮下は、言われるままに震える手を伸ばした。もっこりと盛り上がった美しい白肌の丘。そこに一筋、深い切れ込みがはいっている。宮下がその切れ込みにそっと指をつけ、溝に沿ってそっと指を這わせると、
「ふああああああ・・・っ」
女は悦楽の極みといった声をあげ、上気した身体をぶるぶると揺すった。その瞬間、股間の溝から、びゅっと愛液が染み出してきて、宮下の指を汚した。
「あ、あ、あ」
ひゅうひゅうと息を洩らしながら、女はビクビクと身体を痙攣させている。その表情はたった今、絶頂を迎えたことをはっきりと告げていた。
「また、イッてしまったみたいです。凄いでしょ? こいつは本物の淫乱女なんですよ」
「す、凄い・・・・」
宮下は呻いた。イッてしまったのは女だけではなかった。すでに宮下もズボンの前目掛けて、勢いよく放出してしまっていたのである。
次第に夕闇の迫る中で、さながら夢幻の世界にいるがごとく、車内で淫らな表情を晒している無毛の女を見ながら、宮下は今更、恐ろしい気持ちになっていた
  1. 2014/07/08(火) 01:01:34|
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黒の凱歌 第二部 第7回

上半身に薄布の白いタンクトップを着ただけの格好で、もじもじと立ち尽くしている美枝子に、岡は男子用の便器で用をたすように命じた。せめて個室で排泄させてもらえるだろうと思っていた美枝子は、当然抵抗したが、むろんのこと許されるはずもない。
本日何度目かの哀しい諦めをして、美枝子は辺りを見回し、他に誰もいないことを確認してから、小便用の便器の前に立った。
「足を大きく広げろよ。お前にはち*ぽがついてないんだから、下手すると足にひっかかるぞ」
言いながら、岡は美枝子の背後から裸の尻にカメラを向けている。岡が公開している露出サイトのための写真を撮るつもりなのだろう。最初にそのサイトを見せられたときは、美枝子はショックで口もきけなくなってしまったものだ。自分の恥ずかしすぎる写真の数々を、モザイク入りとはいえ不特定多数の人間に公開される・・・。もしかして、自分のごく近しい人にも見られているかもしれない。画面上で痴態を晒している自分を呆けたように見つめながら、美枝子はそう思い、恐怖した。
それからも断続的に写真を撮られては、ネットで公開されている。美枝子も最近では少しづつ、そのことに慣れてきていた。時折、誰も傍にいないときなど、一人でパソコンを開いてはそのサイトを恐る恐る見ることさえある。そんなとき美枝子は、まるで別人のような自分のエロティックな姿を画面越しに見つめながら、身体の奥がじっとりと熱くなるのを感じていた・・・。
「ほら、もっと足を広げていいポーズをとれ。男子トイレで立小便までする、変態のマゾ女ぶりを写真に撮ってやるからな」
「ああ・・・・」
鼻から熱い息を吹きこぼしながら、美枝子はそろそろと足を広げていった。
男子用とはいえ便器の前に立つと、切迫した尿意がいよいよ激しくなるのは人間の不思議な性である。美枝子の限界まで達した膀胱も、抵抗する理性の制止ももはや聞かず、ゆっくりとその緊張した筋肉をほどいていく。
しゃーっ、と耳を覆いたくなるような音とともに、激しい勢いで美枝子の股間から、羞恥の黄金水が流れ出した。
「はあぁぁ・・・・」
「お、出た出た。ずいぶん溜め込んでたんだな。もの凄い勢いだぜ。どうだ、美枝子。はじめて立小便する気分は?」
岡にからかわれても、美枝子は今の異常な状況に気をとられていて、それどころではなかった。女の股間はそもそも、しゃがみこんで小便をするように構造上造られている。だから、懸命に身体を反らして股間を便器に近づけなければ、床に小水が垂れてしまうのだ。
岡に言葉で嬲られ、羞恥の姿を写真に撮られながら、必死になって流れ出る小水を便器から零さないように努力している美枝子は、そのときトイレの中へ入ってきた人影に気づかなかった。
「お・・・っ」
入ってきたのは、貧相な顔をした中年のサラリーマンだった。ぶらりとトイレへ入ってきて、小便用便器で用を足している下半身裸の美女を目にし、ぎょっとした顔になった。ちらちらと美枝子に視線を送りながら、それでも慌ててその場を離れようとした。
「あ、いいですよ。もうすぐこの女も済むと思うんで、遠慮なく」
岡が出て行きかけた男に声をかける。その声でようやく、第三者の存在に気づいた美枝子は、小さく悲鳴をあげた。かといって、股間の放出は止めることもできず、その場から逃げることも出来ない。
声をかけられた男は、汗を拭き拭き、近づいてきた。美枝子の裸の尻をちろちろと見、清楚な美女の立小便図に見とれている。
「何かの撮影ですか?」
カメラを構えている岡に男が聞く。
「そうです。この女はいい年して、人に恥ずかしい姿を見られることで興奮する露出狂のマゾ女なんですよ。今日も自分から男子トイレで立小便をしてるところを写真に撮ってくれ、と言い出しましてね。仕方なく、こうして付き合ってるわけです」
(うそ・・・うそよ・・・)
岡の言葉に美枝子は心の中で弱々しく反駁するが、現実にはなよなよと首を振るしか出来ない。そんな弱々しい抵抗の所作のひとつひとつに、マゾ女の雰囲気が漂っている。
「あなたもどうか近くでじっくり眺めてやってください。こいつは見られることが快感なんです」
「よ、よろしいんですか」
「どうぞどうぞ。この女もそれを望んでいます」
言われた男は、恐る恐るといった態で、美枝子に近づいてきて、横からその姿を眺めた。
(あああ、見られてる・・・こんな、こんな姿を・・・)
美枝子は首筋まで真っ赤にして、うなだれている。頭の中は沸騰したように熱く、もう何も考えられない。男の視線が美枝子の広げられた股に向かうのを感じて、両足ががくがくと震えた。ちょうど勢いを弱めていた小水が、ぴちゃぴちゃと太腿を濡らした。
「あああああ・・・・」
穴があったら入りたいとはこのことだろう。
あまりの羞辱に美枝子は涙ぐみながら、しかし一方で、美枝子は別種の感情が身体の奥底から湧きあがってくるのを感じていた。
それはくらくらと眩暈がしそうな露出の快感だった―――。
股間ではようやく恥ずかしい放水を終えた小水が、ぽつぽつと惨めな音を立てて便器へ垂れ落ちている。
岡はそんな美枝子の姿をじっと見つめていた。ノーブラの胸の中心が大きく勃起して、シャツを押し上げているのがはっきりと分かる。きっと今頃は小水とは別の液体が、股間を濡らし始めていることだろう・・・。
  1. 2014/07/08(火) 01:00:32|
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黒の凱歌 第二部 第6回

美枝子が徐々に変化しているきているように、岡もまた、最近では少し変わりつつある。
岡が美枝子の調教に執心したのは、もちろん自身のサディスト的嗜好のためでもあるが、美枝子の隠し持っていたマゾ性を見抜いてしまったことも大きな原因である。
男に嬲りぬかれるために生まれたような女。
嬲られるたびに美しさを増していく女。
そんな幻影を岡は美枝子に見た。そしてますます調教にのめりこんでいった。最初の頃にはあった美枝子を他の男に抱かせることへの抵抗感は霧消し、美枝子をより貶め、真の奴隷に堕とすためなら、どんな危険なことでもやる気になっていた。
岡もまた、壊れ始めているようだった。
そして今。
ファーストフード店から出て、岡は嫌がる美枝子を近くの公園内にある男子トイレへ引っ張り込んでいる。
「ここはいやです・・・」
「貞操帯を外して欲しくはないのか? そのままで小便する気か?」
「・・・女子トイレで・・・」
「馬鹿。そしたら俺が変態扱いされるだろうが」
まあ、実際に俺は変態だがな、と岡は心の中で笑った。そして、今、自分の目の前で羞恥と圧迫する尿意の狭間で煩悶しているこの美しい生き物もまた、異常な欲望の世界へと一歩一歩足を進めているのだ。
ようやく諦めた美枝子の手を取って、岡は男子トイレへ入った。中は誰もいない。室内は生暖かく、こもった臭いがした。
周囲を気にし、今にも誰か入ってくるのではないかと怯える人妻のスカートを、岡はしゃがみこんだ姿勢で前からめくりあげた。妖しく黒光りする貞操帯が現れる。
岡は鍵を取り出し、がっちりと美枝子の股ぐらへ喰い込んだそれの錠を外した。そしてゆっくり剥がしていく。貞操帯に接着している張り形が膣内から抜けていく刺激に、思わず美枝子は「ああ・・・」と生臭い女の声を出してしまう。
「何をよがってるんだ、まったく。あ~あ、こんなに股ぐらをべとべとにさせて恥ずかしくないのか?、美枝子は。この濡れ具合から見ると、さっきのファーストフード店でもだいぶ感じていたんだろ?」
「・・・・・・」
「答えないと小便をさせてやらないぞ」
「・・・感じてました・・・すごく・・・おかしくなりそうなくらい・・・」
頬を染めた顔を深くうつむけながら、美枝子はやっとそう答えた。そう答えなければ、いつまでもトイレはさせてもらえない。
それに―――
美枝子は知っている。今でも理性は認めたがらないが、自分の身体がたしかにあの時、震えるような恥辱の中で、ぞくりと疼いていたことを。周囲の人間の嘲るような好奇の目が、美枝子の深い部分を刺し貫き、目眩めくような悦びを精神にもたらしていたことを。
要するにそれは本心の告白だった。
美枝子は最近、恐怖とは別の感情で、この若い暴君に逆らえなくなってきている。一人の女の、自身すら知らなかった陰の部分を完膚なきまでに暴き出し、その女が淫靡な悦びにのたうちまわる様を一部始終見ていた男。そんな男に逆らえる女がいったいこの世にいるだろうか。 
美枝子は時々、想像する。心労も不安も何もかも放り投げ、岡に身も心も支配された一人の性奴隷として快楽に狂いながらただただ毎日を生きる自分の姿を。暗い将来に怯え、夫や子を思って涙を流している今の自分よりは、そんな幻想の中の自分のほうが幸せに見えてしまうこともあった。
それは美枝子が精神的に、完全に岡に屈服する日が近づいている証拠なのかもしれない。

貞操帯を外した後で、岡は美枝子にスカートも脱ぐように命じた。
「そんな・・・・なぜ」
「お前、これからションベンするんだろうが。そのときにスカートにお前の汚いおしっこがつかないように、という俺の暖かい配慮だよ」
「そんなこと・・・」
頬を紅潮させながら恨むような瞳で岡を見る美枝子の姿は、横暴な恋人に拗ねながら、一方で甘えている女の姿に見えなくもなかった。
それはともあれ、下半身の生理現象はもはや我慢が出来ない状態まできている。
「ああ・・・・もうダメです。早く早く」
「なら、さっさと脱げ」
それでもなおためらった後、美枝子はようやくスカートのホックへ手をかけた。もちろん、視線はトイレの入り口へ油断なく向けたままである。
美枝子はスカートを脱ぎさった。
繁華街近くの公園の男子トイレ内で三十九歳の美しい人妻は、下半身を完全に露出させた格好で立っていた。生白い太腿がふるふると震えている。ぷりぷりと張りのある肉感的な尻が窓から差し込む日の光で、美しく照り輝いていた。
  1. 2014/07/08(火) 00:59:48|
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黒の凱歌 第二部 第5回

「おトイレへ行かせてください・・・」
美枝子は傍らでものも言わずにどんどん歩いていく岡に今日何度目かの言葉をかけた。今、二人は手をつないで、美枝子の住む町から少し離れた都市の繁華街を歩いている。
今日の美枝子は薄布の白いタンクトップを着ていて、むちむちした生白い腕が人目に晒されている。ノーブラなので、胸の中心で服を押し上げている突起の形が一目瞭然だ。下は黒いレザーのミニスカートだが、こちらも豊満な尻の形の良さが、道行く人々の目を否応なく惹きつけている。
そんな視線に頬を染め、顔をうつむけながら、美枝子は
「おトイレへ・・・」
と、か細い声でまた繰り返す。実はミニスカートの下では、禍々しく黒光りする、張り形つきの貞操帯が美枝子の股間を締め付けているのだ。昨夜、大宮が別れる際に美枝子に取り付けていったもので、それ以来、美枝子は排泄する自由すら奪われて、悶々としているのだった。圧迫する尿意に思わずしゃがみこんでしまいそうだ。
「我慢しろ。これから昼飯をとるからな」
一言そう冷たく言い放つと、岡は美枝子の手を引いてファーストフードの店に入った。美枝子は残酷な情夫を怨むように見ながら、その後に従う。
岡が注文している間、美枝子は座席で座って待っていた。容姿端麗な色っぽい女が、過激な装いで座っているのを見て、周囲の者たちがちらちらと好奇の視線を向けてくる。その視線を気にしながらも、美枝子は下半身を責めつける尿意に身を小さくしてじっと耐えている。
ハンバーガーを抱えて岡がようやく戻ってきた。美枝子はすがりつくような視線を向けて
「どうかおトイレへ行かせてください」
と震える声音で頼む。岡はジロリと美枝子を睨んで、
「小さな声でぼそぼそ言われても、聞こえないぜ」
「・・・・・」
「店中に聞こえるくらい、大きな声で何をしたいのか言ってみな。そしたら考えてやる」
岡の露骨な意図を感じさせる要求に、美枝子はうつむいた。だが、迫り来る尿意が沈黙を続けることを許さない。やがて決心したように、美枝子は岡を想いのこもった瞳で見つめて、
「おしっこがしたいです!」
と、やや大きめな声で叫んだ。近くにいた二、三人の客が、ぎょっとしたように美枝子のほうを見た。首まで赤くして美枝子はうなだれている。顔から火が出そうだった。
だが、主人である若者は、性の奴隷と化した人妻を責め嬲る手を止めない。
「う~ん、聞こえないなあ。もう一度だけ聞くぞ。美枝子は何がしたいんだ」
「・・・・おしっこが」
「大きな声でと言ったはずだぞ」
「・・・・おしっこがしたいです!! あ、あ、あ・・・」
思わず自棄な気持ちになって、美枝子は大声でそう叫んだ。叫んだ瞬間、羞恥がぶり返してきて、情けない声をあげてしまった。
瞬間、辺りがしんと静まった。そして店中の客たちから一斉に向けられる好奇、好色、嘲笑の眼差し―――。
美枝子は耐え切れなくなって、テーブルに突っ伏し、ぐじぐじと泣き出してしまう。その肩が小刻みに震えているのを見て、岡もようやく手を緩める気持ちになった。
「泣いてないでさっさと食べろ。そしたら、トイレへ行かせてやる」
「・・・ありがとうございます・・・」
耳まで赤くした美枝子はその声を聞いて、そろそろと顔をあげ、弱々しい声で岡に礼を言う。涙でくちゃくちゃになったその顔を眺め、岡はあらためて美しいと思った。
だが、美枝子にとって不幸なことに、その美しさは男の嗜虐欲をより激しくそそるような美しさだった。いや、マゾの女にとってそれは不幸ではないのか―――。
  1. 2014/07/08(火) 00:58:44|
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黒の凱歌 第二部 第4回

自分という女は一度、あのグラスハウスで壊れてしまったのだと、美枝子は考えている。
見知らぬ人々の前で嬲られ、犯され、あろうことかそのことで肉体を激しく燃え上がらせてしまった自分。
あのとき、それまでの坂口美枝子というひとりの女――平凡な人生を送り、主婦として母としてささやかな幸福に満足していた自分は、猛り狂う情欲の業火の中で燃え尽きてしまったのだった。
そして灰燼の中から新たに生まれ変わった美枝子は、それまでの自分ではなかった。
身体が、精神が、変質してしまっていた。
今では岡や大宮らに恥辱の行為を強制され、口では「いやいや」と抵抗しながらも、どこかでそれを待ち望み、淫らな楽しみを享受している。恥じらい悶えながらも、その羞恥にいっそう身体が昂ぶってしまう。そんな身体の反応を残酷な男たちにあざ笑われ、痛烈に罵られて、屈辱の涙を零しながら、どこかでそんな屈辱的な自分の姿に恍惚としている。
昨夜は大宮に尻の穴をたっぷりと調教された。宙に吊られた格好で、アナルスティックを挿入され、菊蕾をネチネチといじりまわされた。
以前の自分なら、そんな行いは不潔としか思えなかっただろう。尻で男を受け入れるなどという行為があることは知ってはいたが、それは人倫に背く畜生の行いだと嫌悪していたのだ。
だが昨夜の美枝子は大宮に尻の穴を嬲りぬかれ、まるで自分が汚辱の沼にずるずると引きずりこまれていくような絶望感に囚われながらも、そんな変態的な行為を強制されていることに奇妙な興奮を覚えていた。排泄するための器官としか思っていなかったそこへ侵入した異物に掻き回されていると、たまらない嫌悪感と不快感がいつしか捻じれていき、身体中の血管が沸騰しているような情態に陥ってしまったのだった。
禁忌を犯す。その禁忌の感覚が強ければ強いほど、マゾの性癖を持つ者にとってはより激しい刺激となることに、まだ美枝子は気づいていない。
「なんだ、尻をいじられているうちに前の穴も濡れてきたぞ。どこまで淫乱なんだ? 美枝子の身体は」
大宮は美枝子の身体の変化を目ざとく見て取って、せせら笑った。美枝子は以前から、この大宮という男が嫌いだった。女にも人格があることなど、まったく念頭にないように、好色の目でしか女性を眺められない男。てらてらと脂ぎった顔も、分厚い唇も、そのすべてが潔癖な美枝子の嫌悪を誘った。今ではその男に、言いように身体を弄ばれ、変態的な行為を強制されているのだ。そしてそんなことをされながら、心を無視した悦びに悶えてしまうのだ。
底なし沼に沈み込んだような気分だった。この前、久々に会い、変わらぬ愛を確かめ合った夫の顔がふと浮かび、美枝子をたまらない気持ちにさせた。
あのひとが、今の自分の本当の姿を知ったら、もう以前のように愛してはくれないだろう。それどころか死ぬまで憎まれ、軽蔑されるだろう。
そのときのことを思うと、いつも冷たい戦慄が背筋を走りぬける。
だが――今のままで夫に自分の現状を隠したまま、のうのうと二重生活を続けていくことも耐えがたかった。美枝子は自分がそんなに器用なことの出来る女ではないと知っていたし、何より夫へのすまなさでいっぱいだった。
やがて、破滅の時が来てしまうのだろう。そのとき、夫婦は、家族はどうなってしまうのだろうか。
美枝子は哀切な瞳でそんな自分の未来を眺めた。過去の幸せな家庭の情景が次々と蘇り、辛い重みとなって肉欲の獄につながれた心にのしかかる。その重みに潰されそうになりながら、美枝子は黒い霧に閉ざされた未来を見つめている。
そして―――美枝子は今日も指定された場所に、岡に調教されるために歩いていくのだった。岡にこれから与えられるはずの恥辱の指令を予感して、無意識に身体を火照らせながら。
  1. 2014/07/08(火) 00:56:01|
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