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闇文庫

主に寝取られ物を集めた、個人文庫です。

蜃気楼 第24回

「……し、真一さんに見られているような気分になって……感じました」

妻は苦しげな表情で答えます。それは私にとって腹立たしい答えであるはずですが、なぜか妻の凄艶な表情を見ているとたまらない興奮を感じます。私はズボンの下で固く勃起したものを妻のお尻にぐいぐい押し付けました。

「だ……駄目……一線は越えないと……」
「心配するな。約束は守る」

私はこのまま妻に挿入してしまいたい気持ちをぐっとこらえます。自分から約束を破ってしまったら何にもなりません。

「香澄のマンコは村瀬のものなんだろう。俺には使わせたくはないよな」
「……」
「どうなんだ、言え、言わないか」

私は妻の秘奥に指を差し入れると、ゆっくりと抽送をはじめました。くちゃっ、くちゃっというぬかるみを歩くような音が聞こえます。

「ああっ……」
「この浮気女め。お前の本心を言わないか。香澄のマンコは真一さんのものです、とな」
「そんな……」
「何を格好つけてるんだ」

私は指先で屹立した妻のクリトリスをつまみあげました。「ひいっ」という絶叫が妻の喉から迸り出ます。

「あっ、あっ、か、香澄のマンコは、真一さんのものですっ」
「俺にはもう使わせないんだろう」
「は、はいっ」

妻は再び叫びます。

「あ、あなたにはもう、使わせませんっ、あ、ああっ!」

異常な快楽の中で妻は気をやり、背後から抱いている私に体重を預け、ブルブルと身体を震わせます。唇を求めると妻はためらわず私の唇に合わせてきます。

「うっ、うっ……」

私は妻が陶然とした表情で預けてくる舌先を貪るように吸い続けました。


立ったまま気をやった妻を私はベッドの上に乗せ上げます。そして両手をベッドに木枠に、両足を大きく拡げてゴルフのクラブを使って縛り付けました。興奮からやや醒めた妻は、恨めしそうな顔を私に向けています。

「……あなたに、こんな趣味があったとは知りませんでした」
「こんな趣味とはなんだ? SMのことか」

私は妻のあられもない姿を楽しげに見下ろします。

「別にSMが趣味というわけではない。むしろ香澄の趣味に合わせてやっているくらいだ」
「私にこんなおかしな趣味はありませんわ」
「さあ、どうかな……」

私は妻のブラとパンティを外します。紐で固定されているためあっさりと外れたパンティを裏返しにすると、妻の鼻先に突きつけました。

「愛してもいない男に悪戯されて、マンコをこんなに濡らす女がそんな偉そうなことを言えるのかな?」

妻はカッと赤くした顔を逸らせます。

「どうなんだ、言ってみろ」
「……愛していないわけじゃありませんわ」

妻は小声でそんな風に答えます。

「そうか、それは光栄だな。しかし、いずれにしても村瀬のほうをより愛しているのだろう。最愛の男がいながら他の男に悪戯されてマンコを濡らすとはどういうことだ?」

妻は口惜しげに唇を噛みます。その表情を見ていると私はなぜかたまらなく興奮してくるのを感じるのです。

  1. 2014/06/22(日) 11:45:27|
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蜃気楼 第25回

私はベッド脇の引き出しからデジタルカメラを取り出すと、あられもない姿を晒している妻にレンズを向けました。妻は私の行為に驚き、悲鳴に似た声を上げます。

「あ、あなたっ、な、何をするつもりですかっ!」
「何をって、見てわからないのか? 香澄の裸を撮影するんだ」
「や、やめてっ! 気でも狂ったの!」
「何をおかしなことを言っている。亭主が女房の裸を撮影してどこが悪い。それに香澄は俺の言うことは何でも聞くと誓ったんじゃないのか?」
「そ、そんな……やっていいことと悪いことがありますわっ」

妻はもともと羞恥心が強く、写真を撮られるのも好きではありません。したがって裸の写真を撮影するなどもってのほかです。これまで何度か妻に、他人には絶対に見せないという条件で裸を撮らせてくれと頼んだことがあるのですが、すげなく断られていました。

「やっていいことと悪いことの区分は最初に言ったとおりだ。暴力をふるったり、人前で恥をかかせたりはしない。逆にそれ以外なら何でも言うことを聞くということだ」
「写真に撮られたりしたら、誰に見せられるかわからないじゃありませんかっ!」
「ふん……」

私は構えたカメラをいったん下ろします。

「それじゃあこうしよう。撮影したデータはカードに入れて、離婚するときに香澄に渡す。その間、2枚しかプリントしない。1枚は俺が持って、これも離婚するときにまとめて香澄に渡してやろう」
「……もう一枚はどうするんですか?」
「決まっているだろう。村瀬に送ってやるんだ」
「い、嫌っ!」

妻は驚愕に目を見開きます。

「や、やめてっ。真一さんにこんな姿を見せないでっ!」
「駄目だ。俺は他人には見せないといったが、村瀬はもう香澄にとって他人じゃないだろう。香澄のこの大股開きの写真と一緒に、マン汁でべっとり濡らしたパンティも送ってやろう」
「嫌、嫌よっ!」
「いい加減にしないか、約定違反だぞっ!」

私の叱咤に妻はびくっと身体を震わせ、黙り込みます。

「やつも半年間、香澄との接触を立たれて禁欲生活を送らなきゃいけないのはつらいだろうから、自家発電用のズリネタを送ってやるというんだ。どうだ、女房を寝取った相手にこんな気遣いをするなんて親切だと思わないか?」
「……ひどい……ひどいわ……」

妻はついにシクシクすすり泣き始めました。

「泣いていたらズリネタに使えないだろう。それとも村瀬はそういうのが好みか?」

私はそんな風にからかいながら枕を妻の首に下に置き、画面の中に妻の顔と秘奥が同時に入るようにすると再びカメラを構え、妻の股間にレンズを向けました。

「ほら、上の口と下の口が仲良く並んでいるぞ。なかなかいい眺めだ」
「撮るなら早く撮って……」
「そう急ぐな。折角だからにっこり笑って、チーズと言ってみろ」

そういわれてもなかなか笑えるものではありません。ようやく妻が引きつったような笑いを浮かべるのを見た私はシャッターを切りました。

少しずつ角度を変え、妻の卑猥な写真を何枚か撮影すると私は通信販売で注文したもう一つの品物が入った箱を取り出しました。

「マンコを撮影されながらまた濡らしやがって……香澄は露出趣味まであったのか」
「……」

私がそうからかいながら妻の顔に顔を近づけると、妻は表情をこわばらせて顔を背けます。妻の気持ちは早くこの辱めから逃れたいという一心かもしれません。

「残念ながら俺は香澄のことは抱かない、一線は越えないと誓ったからな、いくら香澄の準備が十分でも、ここに入れてやるわけにはいかない、わかるな」

しきりに平静を装っている妻をからかうように、私は妻の恥丘のあたりをポン、ポンと叩きました。

「ね、念を押されなくても……わかっておりますわ」
「そうか……もちろん村瀬のチンポも少なくとも半年は銜え込むことは出来ないぞ。助平な香澄に我慢が出来るかな?」
  1. 2014/06/22(日) 11:47:43|
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蜃気楼 第26回

「が、我慢できますわ。ひどいことをおっしゃらないで」

妻は涙で潤んだ目で私を恨めしそうににらみます。

「そうかな? 村瀬の若いチンポを毎日のようにハメ狂っていた香澄が、半年間も禁欲するのはきついだろう?」
「毎日なんかしていません」
「まあ、そうむきになるな」

私がおかしそうに笑うと、妻はさらに眉を吊り上げ、私をにらみます。

「そんな香澄のためにこんなものを注文してやったんだ」

私は箱の中から通信販売で購入したあるものを取り出し、妻の目の前に突きつけました。

「きゃっ!」

妻の目が驚愕に見開かれます。私が購入したのは黒光りした巨大なバイブです。先端は三叉になっており、クリトリスとアヌスを責めるためのアタッチメントがつけられるようになっていますが、今はもちろんそれはついておらず人間のペニスを形状はそっくりのまま大きくしたような状態です。

「村瀬に可愛がられるまでこれが村瀬の代わりだ」
「そ、そんな……大きすぎますわ」

妻が思わず発した言葉に私は噴き出します。

「なんだ、大きくなければ玩具のチンポでも良いということか?」
「そ、そういう訳では……」

妻は首を振りますが、そのバイブの迫力に思わず見入っているのがおかしく感じます。

「村瀬のものとどちらが大きい?」

妻はまた恨めしげな目をちらりと私に向けます。

「どうなんだ、答えろ」
「こんな大きなものは普通の人は持っていないと思います……」
「どういう意味だ? 香澄は俺のものと村瀬のもの以外のチンポを何本も知っているのか」
「そんなことは……」
「それなら普通の大きさなんてわからないだろう……」

そんな風に追求すると、妻は恥らうように顔を伏せます。

「女性週刊誌なんかに書いてあって……」
「ふん、香澄もそんな記事を読むのか?」

妻は消え入りそうな風情で頷きます。

「香澄はそんな俗っぽいことには興味がないと思っていた。意外だな。長く夫婦をやっているつもりだが、わからないことはあるもんだ」

私がそう言うと妻はちらと私のほうを見ます。

「なんだ? 何か言いたいことがあるのか」
「それは私も同じです」
「どういう意味だ?」
「これまであなたが……こんなに嫌らしいことが好きだとは思っていませんでした」
「ふん……」

私は皮肉を言われたのかと妻の表情を窺いますが、特に強い嫌悪感めいたものは浮かんでいません。

「とにかくこれから半年、香澄のマンコに入るのはこのバイブだけだ。半年の付き合いになるのだから、親しみがわくようにバイブに名前をつけてやろう」
「馬鹿なことはやめてください……といっても無駄なんですね。好きなようにして」

妻は拗ねたように顔を逸らせます。

「そうだな……シンイチってのはどうだ。うん、なかなかいい名だ。これからこのバイブの名前はシンイチだ」
「悪趣味ですわ……」

妻が恨めしそうに私を睨みつけます。

  1. 2014/06/23(月) 00:28:44|
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蜃気楼 第27回

私はかまわずバイブのスイッチを入れます。スイッチは「弱」ですが、そのグロテスクな玩具がウィーンという機械音を立てながら小刻みに震えだすと、妻はおびえたような顔つきになります。

「バイブは初めてか? 香澄」
「あ、当たり前ですわ……」
「村瀬は使わなかったか。まあ、奴は若いからこんなものは必要ないだろうな」

私は含み笑いしながらそういうとバイブの先端を妻の内腿にそっと触れさせます。

「あっ……ああっ……」

妻は始めて体験するバイブの感覚にたちまち声を上げ始めます。

「どうした? 感じるのか」
「い、いえっ……あっ……」
「無理しなくていいぞ。ここが香澄の性感帯だということはわかっている」

私はまるで羽箒で撫でるような微妙な手つきで、妻の内腿を刺激します。妻とセックスするときはそこは指先や唇、掌などを使ってくすぐるように愛撫します。妻はそこが特に弱いようで、そこを責めているうちに蜜壷から溢れんばかりの愛液をこぼれさせるのが常です。

「そういえば、村瀬には香澄の性感帯を教えているのか?」
「え……ええっ?」
「女の感じる場所を教えてやっているのか、と聞いているんだ」
「そんなこと……」

妻はなよなよと首を振りますが、突然「ああっ!」と悲鳴を上げます。私がバイブで妻の陰裂をそろりとなで上げたのです。

「なんだ、教えてやっていないのか」
「……」
「奴は経験が浅いのだろう。どうして香澄がリードしてやらない」
「だって……恥ずかしい」
「何をカマトトぶってるんだ」

私はバイブの先端を妻のクリトリスにそっと押し当てます。

「おっ、おおっ!」

妻は獣が吼えるような声を上げました。

「今度会ったらぜひ教えてやれ……といっても半年後のことになるがな」
「う、ううっ……」

妻は必死に快感に耐えているようです。私はバイブを使って妻を追い上げては、絶頂寸前で落とすという「寸止め責め」を加えます。妻の身体を熟知している私がバイブという強力な武器を持ち、当の妻は縛られて身動きが出来ないのですから、これくらいは容易なことです。妻はあっけなく脳乱の極致に追い込まれました。

「なんなら俺が直接教えてやってもいいぞ。香澄の取扱説明書だ。ここをこうしたら感じるということをリストにしてしっかり引き継いでやろう」
「い、意地悪っ……ああっ……」
「どうした? 何か言いたいことがあるのか」
「く、くださいっ……ああっ……」
「何だ? 何が欲しいんだ?」
「あ、あなたの……」
「何を言っているんだ。お前は村瀬を愛しているんじゃないのか」

妻は私の言葉にはっとした顔つきになり、次になんとも情けない表情になります。私にじらされ続けた妻はおそらく訳がわからなくなって、いつものように私とのセックスをしている気分になり、思わずそう口走ったのでしょう。私も妻の痴態を見てすっかり昂ぶっていますので、妻の秘奥を貫いてやりたい気持ちは山々ですが、ここで易々と一線を越えるわけには行きません。

「ああっ、わ、私、どうすればっ」
「どうすればじゃない。そのためにこれを買ってやったんだろう」

私はバイブの先端をほんの少し妻の濡れそぼった秘奥に挿入します。

「あ、あっ、ああっ……」

妻が貪欲に腰を突き出し、それを迎え入れようとするのを見計らい、私はさっとバイブを引きました。行き場を失った妻の大きな尻は空しく揺れ、妻はさも口惜しげにすすり泣きます。
  1. 2014/06/23(月) 00:29:48|
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蜃気楼 第28回

「も、もう……じ、じらさないでっ」
「バイブでもいいのか」

妻はガクガクと頷きます。私は再びバイブで妻の秘奥の入り口をくすぐります。

「折角さっきバイブに名前をつけてやったんだ。『香澄のマンコにシンイチさんをください』と言ってみろ」
「そんなっ……」

妻は苦しげに顔をしかめます。

「言えなければいつまでもこのままだ。気が狂っても知らないぞ」
「あ、ああーっ!」

妻はぐっと身体を弓なりにそらすと「香澄のマンコにシンイチさんをくださいっ!」と叫ぶように言いました。

「よしっ!」

私は黒光りしたバイブで妻を深々と貫きます。巨大なバイブをくわえ込んだ妻のその部分は生き物のようにたちまちキューンと収縮し、妻は「い、いきますっ!」と絶叫します。私は急いでパジャマのズボンとパンツを同時に下ろすと、猛り立ったものをしごき、妻の白い腹の上に射精しました。


それから私はバイブを使ってもう一度妻をイカせると、熱い蒸しタオルで妻の汚れた腹部を拭い、縄を解きました。しばらく妻は無言のままで手首の縄の痕をさすっていましたが、やがて寝室を出ると浴室に行きました。

シャワーを浴びて来た妻は私に背を向けてベッドに入りました。ちらと様子を窺うと、妻の肩が小刻みに震えています。私の思うままに嬲られたことが口惜しくて泣いているのかも知れません。

私は私で、妻との行為の際に感じた不思議な興奮の原因は何なのかを考えていました。25年もの間夫婦として過ごした妻に対して、改めてこのような昂ぶった気持ちを感じることが私には意外でした。

村瀬によって妻を寝取られたことを確認する被虐的な感覚、私を裏切った妻へ復讐しているという嗜虐的な感覚、そしてすでに村瀬のものとなった妻を逆に寝取っているような倒錯した感覚――それらが重なり、錯綜することによって大きな興奮と快感が得られたのでしょうか。

(まだだ、こんなものは序の口だ)

半年後には妻は村瀬のものになっているかも知れない。それなら私は、この奇妙な快感をとことんまで味わい尽くしてやるという気分になっていました。


次の朝、妻はいつものように私に朝食を用意します。私はいつものように吐き気を催すことを覚悟して妻の作ったものを口にしました。

(おや?)

妻の不倫を知ってからずっと知覚していた嫌悪感がなぜか湧いて来ません。妻が焼いた目玉焼きも、トーストも、違和感なく喉を通って行きます。私は思わず妻の方を見ました。

私と目があった妻は、怒ったような表情をして顔を逸らしました。おそらく妻の心の中は村瀬を裏切ってしまったのではないかという自己嫌悪の思いで一杯なのでしょう。私に対して最後の一線を守り通したというのが妻の唯一の心の支えになっているのではないでしょうか。

私はなぜかひどくおかしくなって必死で笑いをこらえます。私は当面は妻の矜持となっているものを奪うつもりはありません。私の戦い、妻と村瀬に対する復讐戦は始まったばかりなのです。

また、村瀬と話をした中で、彼の弱点らしきものがいくつか浮かび上がって来ました。そこをつけばこの勝負の逆転は可能かも知れません。しかしこれも焦りは禁物です。

妻はフルートの個人レッスンはやめましたが、スクールの講師は続けているようです。村瀬と会っているのではないかという懸念はありましたが、私は少なくとも妻の方から今すぐ約束を破ることはないと考え、しばらく放置することにしました。あれだけ念を押し、書面にまでさせた約束をこんなに早く破るようなら村瀬もそれまでの男です。また、そんな村瀬を許すような妻なら私も未練はありません。

  1. 2014/06/23(月) 00:33:28|
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蜃気楼 第29回

しかしあまり急激に妻を追い込むと、行き場を失った妻は村瀬に助けを求めるかもしれません。そうなったらそうなったでも良いのですが、折角開始した勝負をもう少し楽しみたい気持ちのほうが今は大きいのです。

木曜、金曜と私はまた必死で仕事と、体調の悪い社長に変わっての接待をこなしました。土日に休日出勤しなくてすむようにです。私はその一方で新しい商品をネット通販で注文していました。金曜の夜に注文した品物が届いているのを確認した私は、妻との2回戦を土曜の夜に行うことにしました。

私は極力穏やかな表情を保つようにし、妻に対しても世間話程度の会話を交わすようにしました。木曜の朝は硬い表情をしていた妻も、徐々にほぐれて来たのか時々笑みさえ見せるようになります。水曜の夜の出来事は妻の裏切りを知ったことによる私の一時的な激しい怒りのせいで、もともと穏やかな性格の私はそんなに長く怒りを継続させることはないと妻は考えたのかも知れません。土曜の夕食の時には妻は私の冗談に声を上げて笑うほどです。

食事を終え、お茶を飲んでいる時に私は妻に告げます。

「ところで例の写真だが、奴に送っておいたからな」
「写真って……」
「香澄が素っ裸でマンコを丸出しにしている写真に決まっているだろう。香澄が汚した赤いパンティと一緒に村瀬に郵送しておいた。今日あたり受け取っているころだろう」

妻の顔がさっと青ざめ、次に真っ赤になりました。

「な、なんてことを……」
「言った通りのことをしただけだ。香澄も納得していただろう」
「納得なんかしていません!」
「俺の言うことには逆らわないんじゃなかったか?」

そういうと私は通信販売で届いた新しい包みを妻に渡しました。

「今日はこれだ。風呂に入ったらこれを着て寝室に来い。言っておくが上からパジャマを羽織るのは禁止だ」

妻は呆然とした表情で紙包みを眺めていました。

「どうしてこんなことを……私がそんなに憎いのですか」
「寝言は布団の中だけにしろ。原因を作ったのはお前だ」

妻はしばらくの間私を睨みつけていましたが、やがて立ち上がり、荒々しく包みをつかむと部屋を出ました。大きな尻を振りながら浴室に向かう妻の姿を、私は横目で追います。

浴室からシャワーの音が聞こえ始めたとき、家の電話が鳴りました。

「はい、渡辺です」
「村瀬です、いったい、ど、どういうつもりですかっ!」

受話器をとると、いきなり村瀬の大きな声が聞こえてきました。

「なんのことだ?」

私はわざととぼけます。

「あ、あの写真は……」

村瀬は怒りと興奮のあまり言葉が続かないようです。

「ああ、香澄の写真か。気にいってくれたか」
「香澄さんには手を出さないはずじゃなかったんですか」
「手を出さないとはいっていない。一線を越えないといっただけだ」
「あの状況で一線を越えないはずがない」
「世の中のルールを守らないで開き直るお前たちと一緒にするな。俺は言ったことはきちんと守る。それとも何か証拠があって言っているのか?」

私が低い声でそういうと村瀬は言葉を詰まらせました。

「それに、この電話は厳密に言えば約束違反だ。香澄とは連絡しない、電話も駄目だというのを忘れたのか」
「ご、ご主人に話すつもりでした」
「香澄が電話に出たらどうする。その時点で約定違反だ。5000万円を請求されてもいいのか?」

村瀬はぐっと黙り込みました。
  1. 2014/06/23(月) 00:34:17|
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蜃気楼 第30回

「ご主人の携帯番号を教えてください……」
「いいだろう。ただし、二度と家の電話にはかけるな」

私は村瀬に自分の携帯番号を告げます。

「香澄さんにひどいことをしないでください」
「ひどいことなどしていない。香澄は十分楽しんだぞ。今晩もたっぷり可愛がってやるつもりだ」
「香澄さんは僕を愛しているんです。その香澄さんが愛していない人の嬲りものになるなんて……ご主人はそんなことをして恥ずかしくないんですか」
「何を馬鹿なことを言っているんだ」

私はわざと鼻で笑います。

「人として恥ずかしいことをしたのは君の方だろう。人のものを盗ったら駄目と親から躾けられなかったか?」
「香澄さんはものではありません」
「当たり前だ。ものなら返せばすむこともあるが、人間の場合は取り返しがつかない」
「香澄さんはご主人の所有物ではないということを言いたいのです」
「何を幼稚な理屈をこねている。君はそれでも本当に大学生か。俺の所有物でも君の所有物でもない。香澄がどうするかは香澄が決める問題だ」

私はわざと村瀬を挑発するような言い方をします。これで村瀬が暴発してくれれば面白いのですが、さすがにまだ早いでしょう。

「それと、言っておくが香澄はまだ俺を愛しているといっていたぞ」
「……嘘だ」
「嘘だと思うなら香澄に聞いてみるがいい。いや、失礼。君は香澄と連絡が取れないんだったな」

村瀬が電話の向こうで顔を真っ赤にしている様子が目に浮かびます。

「いずれにしても君が本当に香澄を愛しているのなら、信じて待っていればどうだ。それほど君の愛は頼りないものか」

村瀬が何か怒鳴っていましたが、まともに相手をするのがばかばかしくなってきましたので、私は適当なところで切り上げて電話を終えると寝室へと向かいました。

ベッドに寝転んで妻を待っていると寝室のドアが開き、白いボディスーツに身を包んだ妻が現れました。

デザインはワンピースの水着のようなものですが、生地はごく薄く、乳首や陰毛は言うまでもなく臍の形や尻の割れ目までがはっきり浮き出します。ある意味素っ裸でいるよりも恥ずかしいと言えるでしょう。水曜の夜に引き続き、このような卑猥な格好をさせられた妻は怒りに燃えた目を私に向けます。

「どうだ、サイズは。香澄の身長に合わせて頼んだつもりだが、ちょっと窮屈だったかな」

私は妻がしきりにスーツの裾を引っ張ったり、胸元を引き上げたりしているのを見ながらからかいます。サイズを妻に合わせたというのは嘘で、私はわざとワンサイズ小さいのを頼みました。最近少しふっくらして来た妻の肉が、スーツの下ではちきれんばかりになっているのはなかなかの見ものです。

「そうやっているとなかなかセクシーだな。せっかくだから記念撮影をしてやろう」

私はまたベッド脇の引き出しからデジタルカメラを取り出し、妻に向けます。

「どうした、この前のように笑って見せろ」
「こんなもの着せられて笑える訳がないじゃないですか……ひどいわ」

妻は恨めしそうに私を睨みます。

「折角村瀬に送ってやるんだ。色っぽい顔をしてみせたらどうだ」

妻は私のからかいを無視するように、強ばった顔を見せています。

「そうだ、村瀬と言えばさっき奴から電話があったぞ」

妻はびくっと身体を震わせ、私を見ました。

「なんだ、やっぱり村瀬のことは気になるか」

妻は私の言葉に動揺を見せまいと、懸命に無表情を保とうとしているようです。

  1. 2014/06/23(月) 00:35:07|
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蜃気楼 第31回

「家に電話をかけてくるなんてルール違反じゃないかと文句を言ってやったんだが、矢も盾もたまらなくなって電話して来たそうだ。理由は何だと思う?」
「……知りません」
「恋人の考えが分からないのか? 薄情な奴だな」
「……」

妻は拗ねたように顔を背けて黙り込みました。

「俺からのプレゼントがとても気に入ったので、もっと送ってほしいそうだ。香澄の了解は取っているので写真ならいくらでも送ってやると言っておいた」
「彼がそんなことを言うはずがありません!」

妻はさすがに怒ったのか、大きな声を上げます。

「どうしてだ? 奴はこれまで毎日のようにお前を抱くことが出来たのに、可哀想に俺から香澄との接触を止められている。もちろん他の女を抱くことも出来ない。そうなれば自分で処理するしかないだろう」
「……」
「そんなとき、香澄の写真で処理したいといっているんだ。AV女優なんぞで抜かれるよりは香澄も余程嬉しいだろう」
「出鱈目を言って、真一さんを侮辱しないでください」
「出鱈目でも侮辱でもない。むしろ感心しているんだ。奴の香澄への愛が感じられるとは思わないか」
「……彼がそんなことをするはずがありません」
「香澄は男の生理が全然分かっていない」

私はあざ笑うように言いました。

「俺が村瀬の年の頃は、毎日でも抜きたかったぞ。もちろん今のようにAVやネットのポルノ画像などなかったが」
「……」

妻は私の言葉に何か考え込んでいるようでした。

「どうした?」
「……聞いてもいいですか」
「なんだ、いったい」
「あなたはその時、いったい、何で、その……」

妻は言いにくそうに口ごもります。

「ああ、若い頃何をズリネタにしていたか聞きたいのか?」
「下品なことを言わないでください」

妻の頬が赤くなります。

「下品と言われても他に表現のしようがない。そうだな……主に男性雑誌のグラビアかな。篠山紀信の『激写』というのが有名だった」

そこまでしゃべった私は、急にあることを思い出しました。

「そういえばあるグラビアで、香澄にとても良く似た女の子がいたな。色が白くて目許がはっきりしていて、香澄がヌードになったらこんな風なのかと思うすごく興奮した。あのグラビアには何度もお世話になった」
「そうですか……」

妻はまた何か考え込むような目付きをします。

「俺のことはどうでもいい。今は香澄には村瀬が大事なんだろう」
「はい……」

妻は返事をしますが、どことなくうわの空のように聞こえるのは私の気のせいでしょうか。

「手を頭の後ろで組んで、少し身体を捻って見ろ」
「こうですか……」

妻は私に言われた通りの姿勢を取ります。私はそんなセクシーなポーズを取っている妻の姿にレンズを向け、シャッターを切りました。

「そのスーツは股間にスリットが入っている。わかるか?」
「はい……」
「スーツを着たままセックスが出来るようになっているんだ。どうだ、傑作だとは思わないか」
「……」
「そのスリットに手を当てて、マンコをひろげて見ろ」
  1. 2014/06/23(月) 00:35:51|
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蜃気楼 第32回

妻はビクッと身体を震わせましたが、言われた通り指先をスリットにあてがうと、肉唇を大きく開きます。妻があまりにも私の命令に対して従順なので、気味が悪くなります。私はさらに妻に苛酷な要求をすることにしました。

「そのポーズのまま『真一さん、香澄のマンコ見てー』と言ってみろ」
「真一さん、香澄のマンコ見てー」
「もっと大きな声で」
「香澄のマンコ見てー」

もっと恥ずかしがったり言い淀んだりするかと思ったのですが、妻があっさりとそんな卑猥な言葉を口にしたので私は少し拍子抜けしました。しかしここで動揺を見せる訳には行きません。

(俺のペースに乗せられるのが口惜しくて、平常心を保とうとしているのか? 恥ずかしがったらこちらの思う壺だと思っているのか?)

私は妻の心のうちを量ろうと頭を巡らせますが、ふと部屋の隅に置かれた鏡台が目に入りました。

「悪くはないが少し熟女の色っぽさにかけるな。折角恋しい村瀬に見せてやるんだから、もっとセクシーな表情やポーズを決めたほうがいい」
「……じゃあどうすれば」

妻はやや不服そうな顔をします。うまく餌に食いついてきたと私はほくそ笑みました。

「あの鏡の前で練習してみろ」

私が鏡台を指差すと、妻の顔色が変わりました。

「そんな……」
「そんな、じゃない。鏡というのは自分の姿をチェックするために使うものだ」

私は妻の姿が出来るだけ映りやすくするよう、鏡台の位置を調整します。しぶしぶ鏡の前に立った妻が鏡の中の自分の姿を目にした途端、明らかに衝撃を受けたような顔になりました。

「さっきやったとおりのことをやってみろ」
「……」

妻は顔を真っ赤にしてためらっています。鏡を見て自分がどんな卑猥な姿をしているのかを思い知らされ、激しい羞恥心に駆られたのでしょう。また、そんな姿を撮影した写真が村瀬のところに送られるということを改めて実感したのかもしれません。

「どうした、早くしないか」

妻はおずおずと指先をスーツの股間に持ってきますが、自分の浅ましいまでに卑猥な姿を見続けるのに耐えられなくなったのか、思わず目を閉じます。いかに若く見えるとはいえ、47歳の女が熟れきった身体を乳首や臍、陰毛まで透ける様な薄い生地の窮屈なボディスーツに包み、股間のスリットを自ら開いて臓物の奥まで開陳しようとしているのです。もともと羞恥心の強い妻が耐えられなくなるのも無理はありません。

「さっきは出来たじゃないか。何をぐずぐずしているんだ」
「……許して」

妻は真っ赤に頬を染め、肩先を震わせはじめます。私は妻の背後に立ち腰から手を回すとスーツのスリットを開き、両手の指先を使って妻のラビアを押し開きました。

「あっ!」
「こんな風にするんだ。わかったか」
「……嫌」
「このままさっきの台詞を言ってみろ『真一さん、香澄のマンコ見てー』とな」
「許して……お願い」
「甘ったれるな。ちゃんと目を開けて自分の嫌らしい身体をよく見ろ」

妻は涙に潤んだ瞳を鏡に向けると「ああ……」とため息のような声を漏らします。

「いつまで俺にこんなことをさせるんだ。村瀬のチンポを食い締めたマンコなど、直接触るのも汚らわしい。ちゃんと自分の指で開け」

妻はシクシクすすり泣きながら、言われたとおり自分の指を使って陰唇を押し開きます。私はすっかり勃起したペニスを、妻の豊かな尻にぐいぐいこすり付けますが、徐々に脳乱し始めた妻はそれを気にする余裕もないようです。

私は薄いスーツ越しに妻の豊かな乳房を揉み始めます。「あっ、あっ……」と切なげな声を上げはじめる妻の瞳はしっとりと潤んでいきます。
  1. 2014/06/23(月) 00:36:48|
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蜃気楼 第33回

「何を一人でよがっているんだ。言われたとおりにしないか」
「あ、あっ……言えない。言えません……」
「甘えるんじゃない」

私は片手で妻の乳房を揉みながら、もう一方の手を妻の臀裂に這わせます。スーツの生地越しに肛門をまさぐられた妻は「ひ、ヒイっ!」と叫びます。

「そういえば香澄のここを味わったことはなかったな」
「ど、どういう意味ですか……」

妻は震える声でたずねます。

「何をとぼけている。香澄が読んだ女性週刊誌にも載っていただろう。アナルセックスのことだ」
「そ、そんなっ、変態みたいなことっ」
「25歳も年下のマザコン男とセックスするのとどちらが変態だ」

私はそういうとさらに強く香澄のアヌスをまさぐります。

「村瀬にはこっちに入れさせたことはないのか」
「あ、あるわけないでしょうっ!」
「そうか、すると香澄の尻の穴はまだ処女ということになるな。25年も夫婦をやっているのに、香澄のここを味見しないまま別れるのは残念だ」
「そ、そんなことしないでいいですっ!」
「そういえば、アナルセックスというのは一線を越えることになるのかな。どう思う? 香澄」

私はそんなことをいいながら乳房からクリトリスへと標的を切り替えます。

「あっ、あっ……、そ、そこはっ!」

鏡に映る自ら陰唇を押し開いた卑猥な姿を眺めながら、アヌスとクリトリスを同時に刺激される妻はすっかり倒錯的な性感に浸りきっているようで、スーツに包まれた熟れた身体を海草のように悶えさせ、秘奥からは粘り気のある蜜をたらたらと流し、太腿を濡らしています。ようやく妻は私に命じられた言葉を再び口にします。

「し、真一さーん、か、香澄のマンコ、み、見てー」
「だいぶ感情がこもってきたぞ。あと一歩だ」
「か、香澄のマンコ見てー」
「もっと色っぽく、村瀬を悩殺してやるつもりで尻を振るんだ」
「こ、こうですかー」

妻はゆらゆらと逞しいばかりに豊かなヒップを振ります。

「なかなかいいぞ」

私は片手で妻の身体を支えながら、ベッドの上に置いたデジカメをすばやく取り上げ、鏡の中の妻の痴態にレンズを向けます。

「いいぞ、もう一度だ」
「香澄のま、マンコ見てー」
「もっと」
「真一さん、か、香澄のマンコ見てー」

私は身体全体で妻の身体を支えるようにしながら、片手で妻のクリトリスを摩り上げ、さらに片手で持ったデジカメで鏡に映った妻を撮影するという離れ業を演じ続けます。

「真一さん、ああっ、か、香澄のマンコ見てっ、あ、ああっ、イッちゃう!」


妻はまたもや立ったまま気をやるという屈辱を味わった後、ボディスーツを着たままベッドに縛り付けられ、私が操るバイブによって2回連続で絶頂に追い上げられました。私は前回同様、妻が2回目の絶頂に達するのと同時に妻の腹の上に射精を遂げましたが、うっかりしたのは妻のボディスーツ姿があまりに艶っぽかったので、結局脱がさないまま責め続けたことです。

したがって白いボディスーツは私の白濁でべっとり汚れてしまいました。いくらなんでも自分の精液で汚したボディスーツを村瀬に送る気にはなりません。妻を辱める材料が一つ減ってしまったわけです。

妻はしばらくぐったりとベッドに横たわっていましたが、やがて起き上がるとボディスーツを着たまま部屋を出ました。どうやらシャワーを浴びに行ったようです。村瀬に対する申し訳なさを心の中詫びながら、私によって汚された箇所を清めているのかもしれません。私はそんなことをぼんやり考えながら、妻に対する次の調教計画を頭の中で練るのでした。

  1. 2014/06/23(月) 00:37:46|
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蜃気楼 第34回

翌朝、私は朝食を妻と向かい合って食べていました。何も知らない他人が見れば夫婦二人の平和な日常といったところです。しかしながら私と妻の間には微妙な緊張感が漂っていました。

妻はわざとそうしているかのような、ことさらに不機嫌な表情を私に見せていましたが、私は何食わぬ顔をして食事を続けます。ここで妻に対する攻撃の手を緩める訳には行かないのです。妻の膨れっ面を見ている私はまた妻をからかいたくなってきました。

「どうも昨夜無理な姿勢をとったせいか、腰が痛い。俺ももう年かな」

妻は私にちらと視線を向けますが、すぐに顔を逸らします。私は攻めの方向を変えることにします。

「ところで、香澄は最近ますます奇麗になったな」

私が突然そんなことを言い出したので、妻はいぶかしげな目を向けます。

「……皮肉ですか」
「どうしてそうひねくれた受け止め方をする。本当にそう思っているからそう言っているんだ」
「それはありがとうございます」

妻は棒読みするような調子で答えます。

「やはり、恋をしているからかな。そう言えば、恋する女は奇麗さ、ていう歌もあった。あれは誰の歌だったかな」
「やっぱり皮肉ですね」
「皮肉ではなくて事実だ。女房が奇麗になると俺も嬉しい」

妻の膨れっ面にほんの少し赤みが差してきたような気がしました。

「ところで、香澄は村瀬のどんなところに恋をしたんだ」
「……恋をした訳じゃありません」

妻は意外な答えをします。

「どういう意味だ? 村瀬が好きになったから、俺と別れたいんじゃないのか?」
「好きということと、恋とは違うと思います」
「意味がわからんな。村瀬は香澄に恋をしていると思うぞ」
「さあ……どうでしょうか……」

妻は何か考え込むような顔付きをします。

「そもそも、どうして俺と別れたいんだ」
「別れたい訳じゃありません」
「確かに別れたいと言ったぞ」
「それは、あなたと結婚したまま裏切り続ける訳には行かないからです」
「本当は別れたくないのか?」

私が妻の表情を伺うと、妻はきっとした視線を私に向けました。

「いえ、今は別れたいです。昨夜のような嫌らしいことをするあなたとは、一緒にいたくありません」

妻は怒ったようにそう言うと視線を落とし、黙々と食事を続けました。私は苦笑して食事を終えると、テーブルを離れました。

書斎に戻ると、携帯電話のライトが点滅しています。見ると何件も同じ番号から着信がありました。私はその番号へ折り返しの電話をします。

「もしもし」
「香澄さんはどんな様子ですかっ!」

やはり電話の主は村瀬です。私は携帯電話の録音ボタンを押しました。

「村瀬か?」
「はい」
「何を考えているんだ、君は。自分の立場を考えてことがあるのか」
「……すみません。香澄さんのことが気になって気になって仕方がないのです。夜も寝られないほどです」
「そんなことを言われても俺は知らん。溜まっているからだ。マスをかいて寝ろ」
「……」
「なんだ、何と言った?」
「それでも寝られないのです……ご主人があんな写真を送って来たせいです」
  1. 2014/06/23(月) 00:38:37|
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蜃気楼 第35回

冗談で言ったのですが、村瀬は本当に香澄の写真でマスターベーションに耽ったようです。

「呆れた奴だな」
「香澄さんを虐めないで下さい、お願いします」
「面倒みきれん。香澄の様子が知りたければまた写真を送ってやるからしばらく待て」

私はそう言い放つと、まだ何か訳の分からないことを言っている村瀬を無視して電話を切りました。

(相当イライラしているな……)

私が予想した村瀬の弱点の一つは、彼が妻の身体に溺れ切っていたことです。村瀬は妻と経験するまでは童貞だったそうですし、妻と村瀬とのセックスでは当然妻が教える立場だったことでしょう。

年上の成熟した女体の魅力というのは、ただでさえ一度体験してしまうと麻薬のように引き付けられるものである上、そういうシチュエーションは熟女好みの村瀬にとって理想です。ですから余計に現在の禁欲生活は堪えるでしょう。

私がかつて結婚前の妻と、6年間にわたって遠距離恋愛を貫いたのも、正直言って童貞だからできたことです。一度女体の素晴らしさを知ってしまうと、若くて性欲旺盛な時期に禁欲生活などなかなか出来るものではありません。

私はふとあることを思いついて書斎に向かい、パソコンのスイッチを入れます。そしてワープロソフトを立ち上げるとある文章を打ち始めました。何度か推敲を繰り返して完成させるとプリントします。

次に、携帯電話に装填してあったメモリカードをパソコンのカードスロットに差し込み、先ほどの村瀬との会話を取り込んで、オーサリングソフトで編集したものを再びメモリカードに戻します。

(あと、必要なのは衣装だな)

私は寝室に向かうと箪笥の引き出しを探りました。そして妻が村瀬の前で身につけたという下着を取り出したのですが、奥の方に白い布が丸まっているのを見つけました。

(おや?)

引っ張り出して広げて見ると、それは妻に着せた白いボディスーツでした。妻は昨夜汚れたボディスーツを浴室で洗った後そのまま干して、乾いたものをタンスにしまったようです。

(どうして捨てなかったのかな……)

そんな恥ずかしい衣装を捨てて、誰かに見られるのを恐れたのかもしれませんが、自らを恥辱に追い込んだボディスーツを洗濯して取っておいた妻の心理が良く分かりません。私はそのボディスーツを手にとり、プリントした紙と携帯電話、デジカメ、ICレコーダー、鋏、そして黒いマジックペンを手に持ってリビングに戻りました。

妻はリビングのソファに腰を下ろし、フルートの楽譜に目を落していました。私は妻の隣りに坐ると、例のボディスーツをテーブルの上に置きます。妻の顔色がさっと変わりました。

「香澄はこの衣装が気に入ったみたいだな」
「き、気に入るわけないじゃありませんか」
「そうか、それならどうして捨てずに取っておいたんだ」

妻は咄嗟に答えることが出来ず、パクパクと口を動かしています。私はかまわず続けました。

「村瀬からさっき電話があったぞ」
「えっ?」

妻は表情をこわばらせます。

「香澄のことが気になって仕方がないそうだ。ズリネタに使うから写真をまた送って欲しいとも言っていたな。しかし、そんな状態の奴に、昨日のように俺に抱かれながら気をやる香澄の写真を送ったら嫉妬で頭がおかしくなるかも知れん。だから、奴が気に入るような写真を取り直して送ってやろうと思う。協力してくれ」
「な、何を言っているんですか。彼がそんなことをいうはずがありません。真一さんを侮辱するのもいい加減にして下さいっ」

妻は目を三角にして怒り出します。私はわざとらしく溜息をつくと「嘘だと思うのならこれをきいてみろ」と携帯電話のスイッチを入れました。
  1. 2014/06/23(月) 00:39:28|
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蜃気楼 第36回

(香澄さんのことが気になって気になって仕方がないのです。夜も寝られないほどです。ご主人があんな写真を送って来たせいです)
(溜まっているからだ。マスをかいて寝ろ)
(はい)
(また写真を送ってやるからしばらく待て)
(お願いします)

私と村瀬の会話を聞き終えた妻は呆然とした顔をしています。

「言ったとおりだろう」
「……」

先ほどの村瀬と私の会話をパソコンで適当に編集し、順序を入れ替えたものです。よく聞くと不自然なところもあるのですが、動転した妻はそこまで気づかないようです。

「服を脱いでこれに着替えろ。写真の取り直しだ」
「こんな朝からですか?」
「朝だろうが夜だろうが関係ない」

妻はあきらめたように肩を落とし「着替えてきます」といって寝室に向かいます。しばらく待っていると白いボディスーツを来た妻が真っ赤な顔をして入ってきました。

「そこにまっすぐ立て」

妻を壁際に立たせた私は黒いマジックペンを取り出し、ボディスーツに妻の乳房の形に沿って丸を描きました。

「な、何をするのっ」
「じっとしていろ」

もう一方の乳房も丸で囲むと、次に妻の陰部に沿ってハート型を描きました。妻はベソをかきそうな表情で立ちすくんでいます。

「後ろを向け」

私は妻に後ろを向かせると、双臀の狭間のちょうどアヌスにあたる位置に小さく丸を描きます。作業を終えた私は妻に「スーツを脱げ」と命じました。

「許して……」
「心配しないでもまたすぐに着させてやる」

私は窮屈そうな妻のボディスーツを脱がすと、マジックで印をつけた箇所を鋏を使ってくり抜き始めました。このあたりになると妻も私の意図がわかったのか、素っ裸のまま引きつったような表情で小刻みに震えています。

「さあ、出来たぞ。これをもう一度着ろ」
「そんな……嫌……」
「駄目だ、早くしろ。愛する村瀬のためじゃないか」

私は無理やり妻に、鋏を入れたボディスーツを着せました。それを身につけた妻の姿は想像以上に卑猥なものになっていました。丸くくり抜かれた穴から、二つの豊乳が飛び出しています。ハート型にくり抜かれた股間からはデルタ地帯が丸見えで、これなら素っ裸でいた方がよほど恥ずかしくないでしょう。

「……あんまりです」
「俺も何も自分の女房にこんな格好をさせたくない。しかし、香澄の愛する男を助けるためだから仕方がないじゃないか」
「こんなこと……ありえないわ」

身悶えせんばかりに恥ずかしがる妻の前に三脚を据え、デジカメをセットするとテーブルの上にICレコーダーを置きました。

「何をするつもりですか」
「村瀬は今精神的に極めて不安定な状態にある。不眠はノイローゼの前兆かも知れん。奴の気持ちを落ち着かせるために、香澄から声の便りを送ってやるんだ」
「そんな……」

驚きに言葉を失っている妻に、A4サイズの用紙2枚に印刷した文章を見せました。

「俺が香澄の代わりに手紙の文章まで作っておいた。読みやすいようにわざわざフォントを大きくしておいた。どうだ、女房を寝取られながらここまで親切にしてやる亭主も珍しいだろう」

私の作った文章に目を走らせる妻の頬が見る見るうちに赤く染まります。

「こんなこと……とても言えません」
  1. 2014/06/23(月) 00:40:16|
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蜃気楼 第37回

「それじゃあしょうがないな。先週の土曜の夜、香澄がイク寸前に俺のものをくれといったのを録音したファイルを代わりに送ってやろう」
「え、あの時、録音していたのですかっ!」
「ああ、何かに使えるかと思って、念のためな。奴のノイローゼが悪化しなければ良いんだが」

もちろん嘘です。録音などしていません。

「そ、そんなっ。やめてくださいっ」
「それじゃあおとなしく録音させるか」
「ああ……」

妻は万事窮すという感じで首をうなだれさせていましたが、やがて顔を上げ、私の書いた文章を読み直します。

「……文の途中に括弧書きで(ため息)とか(喘ぎ)とか入っているのは何ですか?」
「そこで香澄が『うふーん』とか『ああっ』とか色っぽい声を出すんだ」
「……馬鹿馬鹿しい。そんなこと出来るわけありませんわ」
「出来るかどうかはやってみないとわからないだろう。ポルノ専門の声優やAV女優なら簡単にやれるぞ」
「私は声優でもAV女優でもありません。何もないのにそんな声は出せません」

妻はまた墓穴を掘ったようです。笑いを堪えるのが大変です。

「そうか、少し待っていろ」

私は寝室に行くと、白いボディスーツと同時に通信販売で購入したリモコン式のローターを持ってきます。これはいつ使おうかと悩んでいましたが、ちょうど良い機会が訪れたようです。

「良い声が出るようにこれを使ってやろう」
「そ、それは何ですか」

妻はローターを見たことがないようで、おびえた顔をします。私は手に持ったローターを妻の秘部に押し付けました。

「い、嫌っ。何をするのっ」
「じっとしていろ……お、少し湿っているじゃないか。これならスムーズに入るぞ」

私は妻の秘奥にリモコンローターを押し込むと、飛び出さないように粘着テープで固定しました。

「剥がすときに少し痛いかもしれないな。いっそ毛を剃ってしまうか……」
「ああ、ひどい……こんなの惨めです」

妻はあまりの屈辱にすすり泣いていましたが、私がリモコンローターのスイッチを入れると、「あっ」と小さく叫んで身体を震わせます。

「どうだ、気持ちいいか」
「良くありません……」
「やせ我慢をするな。身体の中でローターが震えるなんて男では味わえない感覚だ」
「がっ、我慢なんかしていません……ああっ!」

私はスイッチを「弱」から「中」に切り替えます。

「あまり強くするとよがり声ばかりになって、折角の声の便りが訳がわからなくなってしまうからな。これくらいにしておこう。助平な香澄は物足りないかもしれないが、勘弁しろ」
「ひ、ひどい……おおっ!」

妻は苦しげに身を捩じらせますが、私は構わず村瀬への手紙を印刷した紙を手に掲げました。

「さあ、まずは練習だ。一度通しで読んでみろ」
「は、はい……」

妻は改めてその紙に涙に濡れた目を向けました。

「し、真一さん。香澄です。約束を守って禁欲生活を過ごしていただいていることと思います。か、香澄も真一さんに抱かれたいのは山々ですが、半年の間は我慢してね。香澄からのお願いです。ああっ!」

妻は喘ぐような声を出すとなよなよと身悶えしました。
  1. 2014/06/23(月) 00:41:01|
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蜃気楼 第38回

「そこは喘ぎ声を出すところじゃないぞ」
「だ、だって……ローターが、あ、ああーっ!」
「しょうがない奴だ」

私はいったんローターを「弱」に戻します。

「真一さん、い、今まで毎日のように香澄とお……セックスをしていたのに……」
「おい、そこはセックスとは書いてないぞ」
「だって……」
「書いているとおりに言わないか」

私はローターを一気に「強」にします。

「お、おおっ! ま、待って、言いますわっ」

妻は腰部をブルブル震わせながら悲鳴を上げます。私はローターを「弱」に戻しました。

「か、香澄とオマンコしていたのに、今は、せ、せんずりで処理をしなければならないなんて可哀想。ですから、香澄は主人にお願いして、真一さんのず、ズリネタとして香澄の何もかも丸出しにした写真を……ああっ……」

妻はそこまで口にするとシクシクすすり泣きを始めました。

「どうした、まだ終わっていないぞ」
「だって……だって……こんなのひどすぎます。まるで色気違いの女みたい……」
「似たようなものだろう」

そう口にした私を妻は涙に濡れた目できっと睨みつけました。

「あなたはずっとそう思っていたのですか……私がそのような淫らな女だと」
「だってそうじゃないか。俺に隠れて息子より若い男と乳繰り合いやがって。淫らな女じゃなければなんだというんだ」
「違います……私はそんな女じゃありません……」

妻の泣き声が次第に高くなります。乳房もあそこも丸出しにして、秘奥にローターをくわえ込んだままシクシク泣いて、自分は淫らな女じゃないと抗議している妻の姿は滑稽です。しかし、幼女のような泣き声を上げている妻の姿を見ていると私は少しやり過ぎたかなとも思っていました。どうも作戦は失敗したかも知れません。

しかし、押しても駄目なら引いてみよと言います。一瞬妻を哀れに思った私ですが、すぐに新しいアイデアが浮かびました。

「よしよし、わかった。香澄。俺が言い過ぎた。悪かった。許してくれ」
「……」
「確かにオマンコとかセンズリとかズリネタなんて下品な言葉は香澄は絶対に使わないよな。愛する香澄に不倫をされたことがあまりにつらくて、つい香澄にひどいことをしてしまった。俺こそ下品で最低な人間だ」
「……あなた」

妻は涙に濡れた目を上げて私に向けます。

「香澄に裏切られたショックで、俺の品性下劣なところが出てしまったんだ。しかしこれが俺の本性かも知れない。香澄に愛想を尽かされても当然だ」
「そんな……悪いのは私です」
「いや……俺だ。俺が悪いんだ。このままでは俺は駄目になってしまう。いや、もう駄目になっているのかもしれない」
「あなた……それは……」
「しかし俺がこのままどんどん堕ちて行くのに香澄を付き合わせる訳にはいかない。もう香澄を解放してやる。村瀬のところへでもどこへでも行け。俺のことはもう気にしないで良い」
「駄目っ、あなたっ!」

妻が私にしがみついてきます。秘奥に埋められたローターのスイッチは入ったままで、大きな尻がプルプルと震えています。

「私に、私に償いをさせてっ。約束した通り、半年間は何でもあなたの言うことを聞きますっ! だから、そんな風に自棄にならないでっ」
「いや、これ以上香澄につらい思いをさせる訳にはいかない」
「あなたの辛さに比べたら私の辛さなんて……」
「そうか……」
 私は手を目許に当て、鼻を啜ります。
「香澄……こんな俺を見捨てないでいてくれるのか」
「当然ですわ。私はあなたの妻です」
「うれしいことを言ってくれるじゃないか。やはり俺が選んだ女だ」

私は涙ぐむ振りをします。うまくいった、と私は思いました。
  1. 2014/06/23(月) 00:41:48|
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蜃気楼 第39回

「俺も香澄を抱きたくてたまらないんだ。香澄がまだ俺の妻であることを確認したい。しかし、俺は香澄と一線を越えないと約束した。このまま香澄を抱かずに別れなければならないのかと思うと村瀬と同じ、いやそれ以上に俺も気が狂いそうなんだ」
「ど、どうしたらいいの。私に出来ることなら何でも言って」
「……口でしてくれないか」
「えっ?」

妻はさすがに戸惑いの表情を見せます。

「香澄と一つになる訳には行かないが、口でなら一線を越えたことにならないだろう。俺はその間、香澄に指一本触れないことを約束してもいい」
「でも……」
「そうか……残念だ」
 私は肩を落とします。
「何でも言うことを聞いてくれると言ったから、つい甘えてしまった。許してくれ。勇気を奮って頼んだのだが……香澄にとって俺はもう過去の男なんだな」
「あ、あなた……」
「俺はやはり香澄との25年……いや、31年の思い出だけを抱いてこれからは生きて行くことにするよ。香澄、いい思い出をありがとう」
「ま、待って」

妻はあわてて私にしがみつきました。

「本当に、本当に身体には触らないのね」
「ああ……約束する」
「ズボンを降ろして……ソファに深く腰をかけて」

言うとおりにすると妻は私の前にひざまずき、パンツに手をかけます。私は妻に気づかれないようそっとICレコーダーを引き寄せました。

「してくれるのか?」
「恥ずかしいことを確認しないで」

妻は頬を染めて顔を伏せています。

「……香澄、お願いがある」
「何? あなた」
「香澄と愛し合っていたころの思い出に浸りたい。出来るだけ俺を喜ばせるような言葉を言ってくれないか?」
「いいわよ……でも、あまりエッチなのは駄目よ」

妻は微笑して頷きます。

「ローターのスイッチを切ってくれないの?」
「そのままにさせてくれ。香澄が悩ましく悶える姿がみたい」
「馬鹿ね……」

妻は再び婉然とほほ笑みます。私はそっとICレコーダーのスイッチを入れました。

「……ああ、あなた」

妻はゆっくりと私のパンツを引き下ろします。私のものはすっかり硬化しており、バネ仕掛けのように屹立します。

「まあ……素敵。すっかり大きくなっているのね」

妻はため息をつくようにそう言うと私のペニスの先端にそっとキスをします。

「あなた……愛しているわ」
「俺もだ、香澄」
「嬉しい……」

妻はチュッ、チュッと音を立てて接吻をすると、亀頭を口に中にパクリと咥えます。

「ああ……頼もしいわ……あなたのもの」

妻は喘ぎ声を上げながら私のものをゆっくりと愛撫します。なかなかの色っぽさです。村瀬のものを愛することによって上達したのかと思うと嫉妬心がわき、悪戯をしたくなりました。

私はローターのスイッチを操作し「弱」から「中」に切り替えました。

「あ、あんっ! 駄目っ、い、悪戯しない約束でしょう」
「約束は守っているぞ。指は触れさせていない」
  1. 2014/06/23(月) 00:42:40|
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蜃気楼 第40回

「馬鹿っ……いけない人ね」
「香澄のあそこを良く見せて欲しい。シックスナインの格好になってくれないか」
「ええ?」

妻は一瞬戸惑いますが、すぐに「わかったわ」と頷きました。

「絨毯の上に仰向けに寝そべって」

私はソファから降りると、妻に言われたとおり仰向けに寝転びます。もちろんICレコーダーをそっと頭の下に隠したのは言うまでもありません。

「恥ずかしいわ……」

妻の大きな尻が私の頭の上を覆います。見慣れた光景のはずですが、ボディスーツに空けられた穴から覗く妻のその部分はなかなか新鮮で迫力があります。

よく見ると、ローターを固定した粘着テープが妻の汗と愛液で外れそうになっており、ローターのお尻が秘唇の間から覗いています。私は落ちないようにそれをそっと指先で押しました。

「あ、あんっ! 駄目っ。触らないっていったじゃない」
「ローターが落ちそうになっているんだ。しょうがないじゃないか」
「駄目、駄目よっ。約束を守って」
「そうか。それなら仕方がない」

私は妻の秘奥に口をつけると、ぐっと舌先を差し入れました。

「あ、あっ、ああっ! な、何をするのっ」
「約束は守っているぞ。指では触れさせていない」
「あ、あんっ。そんな、ず、ずるいわっ!」
「香澄にされていることをお返ししてあげているだけだ。おっ、クリトリスが大きくなっているな」
「ああっ、そ、そんなところを吸わないでっ!」
「気にせずに香澄は香澄で続けろ」
「あーん」

すっかり官能に痺れ切った妻はなよなよと尻を悶えさせながら、私のペニスに吸い付きます。

「うっ、うっ、うぐっ……ああっ……ううぐっ」
「うぐうぐ言っていないで、感想を言わないか」
「あっ、お、大きい、大きいわっ。の、喉が詰まりそうっ」
「香澄は本当に俺のチンポが好きだな」
「そ、そうよ。大好きっ、あなたのチンポっ。あ、あっ、そ、そんなところっ!」
「こっちにも穴を開けておいて正解だ」

私は妻の尻をぐいと引き寄せると、アヌスの部分にあけた穴から舌を差し込みました。

「あっ、駄目っ。き、汚いわっ」
「香澄の身体に汚い場所なんかあるものか。村瀬はここを舐めてくれたか」
「あっ、そ、そんなことしないわっ」
「そうか、村瀬よりも俺の愛のほうが深いということだな。どう思う? 香澄」
「うっ、うっ、うぐっ……ああ、いいわっ」
「良いか悪いかを聞いているんだじゃない。深いか浅いかを聞いているんだ。どうだ!」

私は妻の肛門にぐいと舌を突き入れます。

「あ、あっ、そんなっ、ふ、深いわっ」
「そうだろう。俺の方が深いんだな」

私はローターのスイッチを「強」にします。大きな尻が電流に触れたようにブルブル震え始め、妻はまさに狂乱状態に陥ります。

「あーっ、そ、そんなっ、い、いっちゃうっ、いっちゃうよっ」
「俺のチンポが好きか? 香澄」
「ああっ、好きよっ、好きっ。うぐっ……あ、あなたのチンポが好きっ」
「俺のチンポが欲しいかっ」
「あーん、うぐっ……欲しいっ。欲しいわっ」
「どこに欲しいっ。言ってみろっ」
「香澄のオマンコ、オマンコよっ…うぐっ、うぐっ」
「よしっ、出すぞっ。香澄っ」
「ああっ、出してっ。出してっ。香澄もいっちゃうっ」
「香澄っ!」
「いっ、いくっ。うっ、うぐっ……」

私が妻の口中に思い切り射精すると同時に、妻の双臀はブルッ、ブルッと痙攣し、蜜壷からは大量の果汁が流れ出しました。
  1. 2014/06/23(月) 00:43:38|
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蜃気楼 第41回

「真一さん、香澄です。お元気ですか? 今回、主人の許しをもらって真一さんへの声の便りを出させていただくことになりました」
「真一さんも辛く苦しい日々を送っていると思いますが、どうか香澄のことを信じて待っていてください。私も真一さんの愛を信じて、主人への償いの日々を送っています。半年後に真一さんとお会いできるのを楽しみにしています……」

品の良いワンピースを身にまとった妻はわざわざ化粧までして私の用意したICレコーダーに向かって、村瀬に対する「声の便り」を吹き込んでいます。

私はそんな妻の姿をデジカメに収めていきます。ちなみに村瀬への「声の便り」の文章は妻が自分で考えたものです。

(馬鹿め。何を気取ってやがる)

私は妻のそんな少女趣味の台詞を聞きながら苦笑しています。

その言葉どおり妻は村瀬を愛しているのか、それともその年に似合わない少女趣味的な感傷によりそう言ってるのかは分かりません。しかし、いずれにしてもそんな妻の自己陶酔的な振る舞いは私にとっては笑止千万でした。

「よし、この画像と音声を村瀬に送ってやれば、奴の気持ちも随分落ち着くだろう」

私はそう言うとカメラを置き、妻に向かって余裕たっぷりに微笑します。妻の表情がパッと明るくなるのが何とも滑稽です。

「そうでしょうか」
「ああ、すぐに村瀬に送ってやろう。香澄からは連絡が取ることが出来ないからな」
「あなた……すみません。あなたにとっては腹立たしいことと思いますが、どうか許してください」
「気にするな。これも香澄のためだ」

私はそう言うと妻に向かって微笑します。妻は目を潤ませて「ありがとうございます」と言いながら頭を下げます。私は妻に対して嘘を言うつもりはなく、妻のお洒落をした写真と「声の便り」は確かに村瀬に届けてやる気でいます。

しかし、それだけを単独で送るつもりはさらさらありません。私は翌日の月曜、それと妻が私の指技で激しく気をやった写真と、私のものを口唇で愛した時の録音を合わせて村瀬に送ってやりました。

案の定、次の火曜日に私の携帯に村瀬から電話がかかってきました。

「わ、渡辺さんっ、ど、どういうつもりですかっ」
「ああ、村瀬か。香澄からの声の便りを受け取ったか」
「こ、こ、こんなことが……」

村瀬は興奮のあまり呂律が回らないようです。

「落ち着け、ゆっくり深呼吸をしろ」

私がそう言うと電話の向こうで大きく息を吸う気配がしました。村瀬は本質的にはなかなか素直な男なのかも知れません。

「落ち着いたか。いったい何の用だ」
「こ、こ、この写真と録音です」
「ああ……香澄は自分の正直な気持ちを伝えると言っていた。俺は詳しく内容は聞いていないのだが、君を愛している香澄のことだから、甘い言葉を囁いたのだろう。なかなか羨ましいことだ。俺なんか香澄からここんところ優しい言葉をかけてもらったことがないからな」
「ち、違いますっ」
「何が違うんだ。香澄は自分を信じて待っていてくれとお前に頼まなかったか」
「そ、それは……そうですが」
「ならそれが香澄の本当の気持ちだろう。その通り待っていてやればどうだ」
「渡辺さんっ!」

村瀬が怒りの声を上げました。

「ば、馬鹿にするのもいい加減にしてくださいっ。渡辺さんは僕が香澄さんに手を出せないことをいいことに、僕を嬲りものにしているっ」

(やっと気が付いたか)

村瀬もそれほど馬鹿ではないなと私は思いましたが、ここでひるむ訳にはいきません。

「君は何を逆切れしているんだ。自分が何をやったか分かっているのか」
「わかっています。だから償いをすると言っているのです」
  1. 2014/06/23(月) 00:45:02|
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蜃気楼 第42回

「今がその償いの時期じゃないのか」
「違いますっ!」

村瀬はまたも大声を出します。

「こんなのは償いでもなんでもありません。ただの偽りの世界ですっ」

ご主人に本当の愛とはどんなものなのか見せてやるとわめきながら村瀬は電話を切りました。

(ふん……)

村瀬は一体どう出るだろうかと私は考えます。怒りのあまり自爆的なこういに出れば私の思う壷ですが、それほど単純にいくかどうかは疑問です。

私は当初は単純に自分を裏切った妻と、その相手の村瀬に対して復讐が出来ればよいと考えていましたが、次第にその考えは変わってきました。25年もともに暮らした妻がどうして私を裏切ったが知りたくなったのです。

水曜の夜、例によって妻を苛めてやろうと声をかけた私に、妻は「生理になったから今夜は許してほしい」と頼みます。

「本当か?」
「本当ですわ……ほら」

妻はスカートをまくり上げて、ナプキンで膨れた股間を見せます。もちろんパンティは履いているものの、その大胆な行為に私はやや鼻白みました。以前の妻はこんなはしたないことができる女ではありませんでした。

(わざと羞恥心を見せないようにしているのか。恥ずかしがったら俺を喜ばせるだけだと思っているのかもしれないな)

妻がこの前いつ生理だったのかはっきり覚えていませんし、仮に周期がズレていたとしても、妻の年齢ではそれほど珍しいことではありません。男は女から生理と言われれば深追いする訳にはなかなかいかないものです。

「そうか、わかった。今夜は何もしないでおこう」
「ありがとうございます」

妻はペコリと頭を下げました。その表情が妙に冷めているのが私には気になりました。

翌日の木曜の夜、私がいつもより早く帰って来ると、妻がダイニングテーブルでノートパソコンを開いていました。

「お帰りなさい」

妻があわてて立ち上がります。

「何をやっていた」
「ちょっとインターネットで調べ物をしていたの」
「村瀬と連絡を取っていたんじゃないだろうな」
「そんなことしないわよ。何ならメールのチェックをしてもいいわ」

妻は憮然とした表情でそう言います。

「ふん……」

私は少し迷いましたが、ここで曖昧にするのは気分がよくありません。私は妻のパソコンのメールソフトを立ち上げ、受信フォルダをチェックしました。

「……」

とくに怪しいメールはありません。続いて送信メールや、フォルダ毎に分類された過去のメールも見ましたが、村瀬とのやり取りの形跡はありません。

「以前のものも一切ないというのはどういう訳だ」
「連絡は携帯でしていたから……」
「そうすると、今も携帯で連絡をとっているんじゃないのか」
「あなたに連絡を絶つと約束してからは、電話もメールもしていないわ。なんなら通信履歴やパケットの使用料を調べてもらっても良いわ」

そこまで言われるとこれ以上追求する訳にも行きません。なんとなく妻の行動に不審を感じている私でしたが、証拠がないのです。私はここは引き下がることにしました。

夜、ベッドに入ってもなかなか寝付けません。私は村瀬と妻がなんらかの連絡を取っているのではないかと考えましたが、その方法が分かりません。
  1. 2014/06/23(月) 00:45:51|
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蜃気楼 第43回

(村瀬が妻のことを愛しているのなら、連絡を取らずにはいられないはずだ)

私はぼんやりと考えます。

(しかし、先程の妻の表情は嘘をついている感じはなかった。俺との約束を露骨に破ることになり、証拠の残りやすい電話や手紙、メールなどの手段は取っていないのではないか)

(電話でも、手紙でも、メールでも、まして直接会う訳でもない。それでいて極力証拠を残さず連絡を取るには、どうしたらいい?)

あれこれ考えましたが思いつきません。私は諦めて眠ることにしました。

金曜も私は遅くまで仕事をこなし、帰宅した時、やはり妻はダイニングテーブルの上でノートパソコンを開いていました。

「お帰りなさい。何か召し上がりますか?」

妻は座ったまま私に尋ねます。

「いや、遅くなるので外で済まして来た」
「そうですか……」

妻は再びパソコンの画面に目を落とします。

「また調べ物か?」
「ごめんなさい、今終わりますから……」

妻はそう言うと、マウスを数回クリックしてパソコンを終了させました。

「お茶でもいれますね」

妻はようやく立ち上がると薬缶をコンロにかけます。妻の私に対する態度は確実にそっけなくなっています。少し前までは、妻は時折逆切れすることはあっても私に対して不倫を働いたことを基本的に反省を示していたのですが、今はすっかり態度が一変しています。

翌日の土曜日、妻は朝から「微熱がある」とのことで寝込みました。土曜日は妻の調教を行うと決めていたのですが、体調が悪いというのに無理矢理責めることが出来るほど私は厚顔ではありません。この週末はわざわざ通信販売で買い揃えた責め具も、ついに登場することはありませんでした。

週明けの月曜日、私は会社でぼんやりと考えごとをしていました。社長の体調は相変わらず優れず、私が代行を務めている状況です。企画課の若手社員で、性格はかなりの天然ですが会議では時々斬新な発想をする加藤有花が私のデスクに近づき、声をかけてきました。

「社長、どうしたんですか。ぼうっとして」
「俺は社長じゃない」
「専務はもう社長同然ですよ。みんなそう言っています」
「つまらん噂を流すな」

私は加藤をたしなめますが、自分でも声に張りがないのがわかります。

「渡辺専務にまで倒れられたら会社はお手上げです。私を失業者にしないでください」
「ああ……」

私は気のない返事をしますが、加藤なりに私を気遣ってくれているのはわかります。

「加藤、ちょっと聞きたいのだが」
「何ですか?」
「お前が恋人や、友達と連絡を取りたいのだが、メールも電話も使えない。もちろん直接会うことも出来ない。しかし、できるだけ第三者に知られないで連絡を取りたい。そんな場合、お前ならどうする?」

加藤はしばらく大きな瞳をクルクルさせて考えていましたが、やがて答えます。

「ミクシイですね」
「ミクシイ?」
「専務は知らないんですか?」
「いや、もちろん聞いたことはあるが……まだ使ったことはない」
「通販会社の役員がそれでは困りますね」

加藤が楽しそうに笑います。
  1. 2014/06/23(月) 00:46:52|
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蜃気楼 第44回

「ミクシイは招待がないと入れないコミュニティサイトです。逆に自分がそこに入っていると知り合いを招待出来ます。ミクシイでは自分のページで日記も書けますし、会員同士のメッセージのやり取りや、コミュニティへの参加も出来ます。コミュニティは誰でも作れますし、管理人の許可制にして、特定の人しか参加出来ないようにも設定可能です」

「それに自分のパソコンが手元になくても、IDとパスワードがわかっていれば、ウェブブラウザを使ってどのパソコンからでも自分のページにログインして、書き込みをしたりメッセージを読んだり出来ます」
「つまりそれならメールを使わないで、しかも外の人間には見られない形で特定の相手と連絡を取ることが出来るんだな?」

「そんなふうには考えたことがないけど、そう言われればそうですね。私もよく、友達との待ち合わせに使っています。2人なら携帯メールで十分ですが、3人以上で連絡を取る場合は、ミクシイは便利です」
「3人以上……」

私は妻と村瀬、そして久美の顔が頭に浮かびました。

「そういえばミクシイは風俗やアダルトの業者が入るのを警戒しています。逆に言うと人に知られたくない集まりが出きるというのは、いくらでも怪しい用途に使えるからでしょうね」

加藤が感心したように頷きます。

「専務はミクシイに招待されたことがないんですか?」
「あったかも知れないが覚えていないな。忙しかったんで放ったらかしにしたんじゃないかな」
「それじゃあ、私が招待しましょうか」

加藤は再び大きな瞳をクルクルさせます。

「そうだな、頼むよ」
「わかりました」

それから10分も経たないうちに加藤から招待メールが到着しました。私は指示にしたがってサイトにログインします。

ミクシイは巨大なコミュニティです。本名を公開していない限りは膨大なユーザーの中から妻の情報を捜し出すのは不可能と言えます。案の定、私は「渡辺香澄」の名前で検索しても、妻のページにたどり着くことは出来ませんでした。

しかし、色々と機能を試しているうちに要領が分かってきました。要するに妻のページにログインしてしまえば良いのです。そうすれば村瀬や久美と連絡を取っているかどうかはたちどころに判明します。

妻のノートPCを使ってログインすることが出来るでしょうか。妻のPCがログインの際のIDとパスワードを記憶していれば可能ですが、まさかそのような迂闊なことをしているとは思えません。

(IDとパスを知る方法はないか……)

携帯電話のロックでしたら、4桁の数字を順に入力して行くという手はありますが、IDとパスの両方が分からない状態ではそのような方法では一生かけても無理でしょう。私は部屋を出ると、システム担当のデスクへと向かいました。

その日の夜、妻が寝静まった後でそっとベッドを抜け出した私は居間へ行き、妻のノートPCの電源を入れ、インターネットのブラウザを立ち上げます。

「履歴」をチェックしますが、案の定すべて消されています。ミクシイのページに移動したところ、これも思った通りIDやパスは記憶されていません。もし妻がミクシイに加入しているとしたら一々IDとパスを入力するような設定にしているのでしょう。妻はパソコンの取り扱いは素人です。終了時にキャッシュを消したり、設定を変更したりするのを妻だけで実行したとは考えられません。

私は会社のシステム担当から入手した「キーロガー」というソフトを妻のPCにインストールします。これは「トロイの木馬」と呼ばれるソフトの一種で、ウィルスのようにデータを破壊することはありませんが、PCの中に潜み、キー入力の履歴(ログファイル)を記録し、他のPCへ転送するものです。

例えば他人のPCから入力されるクレジットカードの情報などを不正入手したい場合などに使われますが、私はこれによって妻がミクシイにログインする際のIDとパスを取得しようと考えました。

私の会社はウェブ通販も営んでいますから、この手の有害なキーロガー対策は必須です。そのために主要なキーロガーはテストのために入手しています。
  1. 2014/06/23(月) 00:49:15|
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蜃気楼 第45回

私が妻のPCに仕込んだのは最も新しい形のキーロガーで、検出するための定義ファイルはまだ出回っていません。それがどんな挙動をするのか自分で確認したいという理由でシステム担当から借りてきたものです。

作業を終えるとブラウザの履歴を消し、PCの電源を落とします。私は妻に気づかれないよう、そっとベッドに戻りました。

翌日は火曜日です。朝食を用意し、私を送り出す妻の様子は一見いつもと変わりませんが、私には妻が微妙な距離を取ろうとしていることが分かります。

(何を考えているのか、今に突き止めてやる)

私は胸の中でそう呟きながら会社へ向かいました。

会社へ着くと私はミクシイの自分のページにログインします。見るとトップページに「メッセージが一件到着しています」という表示がありました。加藤からです。

「ゆかりんからのメッセージ:ミクシイデビューおめでとうございます。分からないことがあったらなんでも聞いてくださいね」

(何がゆかりんだ)

私は苦笑してメッセージを閉じようとしますが、最後に1行「追伸」と書かれているのに気づきました。

「『足あと』をチェックしてみてください」

私は言われた通り「足あと」をチェックしてみました。すると加藤のハンドルネームである「ゆかりん」以外に、結構な数のユーザーが私のページを訪れていることに気づきました。

私は昨日ページを作ったばかりで、プロフィールも簡単で、何のコミュニティにも加入していません。どうしてこれほどのユーザーが私のページを見つけたのかがわからず、「ゆかりん」のページをクリックしてみました。

(……)

そこには思い切り修正された、アイドルタレントのような加藤の写真がありました。加藤の「ミクシイ」での友人、つまり「マイミク」の数は500人を越えます。また多くのコミュニティに加入しているだけでなく、いくつかは自分で主宰しています。加藤はミクシイではちょっとしたアイドルだったのです。

「マイミク」の先頭に私「りゅう」の名前があったので、加藤のマイミクたちが興味を持って私のページを開いたのでしょう。

(うーん……)

私はある危険性に気づきます。妻や村瀬、そして久美のページを発見したとしても、下手に訪れると足あとに私のハンドルネームが残り、私の動きが察知される恐れがあります。

(しかし加藤、いや「ゆかりん」はいずれ何かに使えるかもしれない)

私はいったんブラウザを閉じ、妻の動きを待ちます。

やがて私のメールアドレスに、妻のPCに仕込んだ「キーロガー」が発信したログファイルが到着し始めました。私はシステム担当から渡された簡単なマニュアルをみながら、妻のキーの動きを解析します。

妻はPCを起動させると真っ先にインターネットブラウザを立ち上げ、ミクシイにアクセスします。ちなみに妻のIDは「kasumin」でした。

(「かすみん」か……「ゆかりん」とレベルが同じだな)

私はため息を付きます。次にパスワードが入力されます。

(shin1112……「shin」というのは「真一」のことか? その後の1112は? ひょっとして誕生日?)

妻は村瀬の名前と誕生日をパスワードにしているのでしょうか。妻の村瀬に対する思い入れがそこに表れているような気がして、私は衝撃を受けました。

(11月12日が村瀬の誕生日だとしたら、次の土曜日じゃないか)

私は嫌な予感がしました。
  1. 2014/06/23(月) 00:52:29|
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蜃気楼 第46回

妻のPCからのログファイルの通信は延々と続きます。ミクシイにつなぎっぱなしで村瀬とやり取りをしているのでしょうか。これではチャットをしているようなものです。

(お互いがリアルタイムでつなげばチャットの代わりになるし、メールやブログ、掲示板のようにメッセージを残すこともできる。なかなか良く出来たシステムだな)

私はこんなときでも商売柄か、おかしなところに感心します。いつまでたっても妻はログオフしないので、私はいったん外出し、営業回りをすることにしました。会社の中にいて次々と吐き出されるログファイルを眺めているのは精神衛生上良くありません。

午後に会社に戻ると、ようやく妻はログオフしたようで、ファイルの転送は終わっています。私は手に入れたIDとパスワードで、妻のページにログインします。

[mixi]かすみんさん
プロフィール
名前:香澄
性別:女性
誕生日:2月28日
血液型:O型

マイミクシィ一覧
・しんちゃんさん
・くーみんさん
・ヨーコさん

(「しんちゃん」というのは村瀬、「くーみん」は久美だな。気持ちの悪いハンドルをつけやがって。しかし、「ヨーコ」というのは誰だ?)

コミュニティ一覧
・メルカダンテの部屋

メルカダンテというのはイタリアの作曲家で、19世紀中頃のイタリアでは非常な人気を博したオペラ作家ですが、ヴェルディの登場によりその作品は時代遅れとされ、今では一般的にはほとんど忘れられた存在となっています。

しかしフルート吹きなら誰でも知っているといって良いほど、その「フルート協奏曲ホ短調」は有名で、妻も私も大好きな曲です。しかし一般的にはマイナーですから、検索によって発見されることは少ないでしょう。そんな作曲家の名前をコミュニティに付けるところが姑息さを感じさせます。私はそのコミュニティをクリックしました。

思ったとおり入会には管理人承認が必要なコミュニティです。しかし妻のIDを使っていますので、当然ログインできます。コミュニティは今月の1日、つまり妻が生理だといって私の調教を拒否した日に解説されています。

スレッドは毎日のように立てられており、私は最初の日の「かすみさんへ」というスレッドをクリックしました。そこには思ったとおり妻と村瀬、そして久美のやり取りが綴られています。書き込みは「かすみん」だの「しんちゃん」だのといったハンドル名で、またところどころいわゆる「2ちゃんねる用語」が使われていますが、それをそのまま転記すると頭が痛くなってきますので名前は本名に、また文体は普通の会話調に直しています。

村瀬「あの男から香澄さんの写真と録音が送られてきた。僕はもう頭がおかしくなりそうだ。香澄さんはもう僕を愛していないの?」

妻「真一さん、どうしたの? 落ち着いて」

村瀬「落ち着いてなんていられないよ。香澄さんがあの男に『愛しているわ』なんていいながらのオチンチンをしゃぶっている声を聞かされたり、立ったままあの男に抱かれて指であそこをいじくられている写真を見せられたら」

妻「ええっ? そんなものがどうして真一さんのところにあるの?」

村瀬「あの男から送られてきたからに決まっているじゃないか。香澄さんはやっぱり僕よりもあの男の方を愛しているんだね」

久美「本当なの? 先生。そんなことをしたの?」

妻「ち、ちがうわ……いえ、無理やりさせられたのよ。私は真一さんを愛しているわ。信じて頂戴」

久美「旦那さんが先生と村瀬君の仲を裂こうとしてしていることじゃないの? そんなのに乗せられたら駄目よ、先生を信じて待っていなさい、村瀬君」

村瀬「だって、あんな写真を見せられちゃあ、信じたくても信じられなくなってしまうよ」

  1. 2014/06/23(月) 00:53:16|
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蜃気楼 第47回

妻「本当はこうやってミクシイを使って連絡を取ることも、主人に対する約束違反なのよ。でも、真一さんがすごく精神的に不安定になっているって聞いたから……」

村瀬「約束したとおり会ってもいないし、メールも電話もしていないよ」

久美「ミクシイのことを連絡したのも、ヨーコを通じてだからね。旦那さんとの約束は守っているわ」

妻「これはメールをやり取りしているのと同じことだわ」

村瀬「あの男が香澄さんに酷いことをするからいけないんだ。何もしないのなら僕も香澄さんと連絡を取らないでじっと耐えていたよ。約束を破ったのはあの男だよ」

妻「主人は約束は破ってはいないわ……」

村瀬「香澄さんはやっぱりあの男の肩を持つんだね? 僕がどうなっても良いの? それにこれが約束違反というのなら、香澄さんも同罪だよ」

久美「落ち着きなさい、村瀬君。それは言いすぎよ」

妻「……そうね、私も同罪だわ。約束を破ったことになるわね」

久美「いいのよ、先生。メールや電話と違って、ミクシイなら絶対にばれないわ。それで村瀬君の気持ちが落ち着いて、半年間耐えることができるならそれが一番良いじゃない」
妻「でも、それはルール違反だわ」

久美「先生は固すぎるわ。村瀬君と関係を持ったことでもう旦那さんを裏切っているのよ。旦那さんへの償いは償いとして、新しい恋人のことを大事にしてあげなければ」

妻「わかったわ……それで真一さんの気持ちが軽くなるのなら」


そこまで読んだ私は怒りで手が震えるのを感じてました。

思ったとおり、妻は私との約束を破り村瀬と連絡を取っていたのです。それを仲介したのは久美です。久美も妻との接触を禁じられていましたので、ヨーコという友人を使って妻と連絡したようです。妻をミクシイに招待したり、機械音痴の妻に代わってパソコンの設定をしたのはのはこのヨーコかもしれません。

村瀬や久美とのやり取りを読んでいると、妻は多少は私との約束を破ることについての罪悪感を覚えているようですが、簡単に久美に丸め込まれているところを見ると、結局は村瀬と繋がっていたいという気持ちには勝てないのでしょう。

私はスレッドの先を読み進みます。

妻「真一さん、主人が録音した……その……私の言葉は本心ではないわ。無理やり言わされたのよ。わかって。真一さんに送られるなんて思ってもいなかったの」

久美「無理やり感じさせられて心にもないことを言ってしまうということは、女にはあるものよ、村瀬君。先生も女なの。わかってあげなさい」

村瀬「でも……あの声は真に迫っていたよ」

久美「先生、村瀬君が不安がっているわ。香澄が愛しているのは真一さんだけ、と言ってあげてよ」

妻「久美さん、大人にそんなことを言わせるものじゃないわ」

久美「でも、そう言ってもらわないと、村瀬君は嫉妬のあまりノイローゼになっちゃうわよ。それでもいいの? 先生」

妻「それは……」

久美「それなら言ってあげてよ」

妻「わかったわ……」

妻と久美のやり取りを読んでいると、どちらが目上か分かりません。妻がまるで久美に従属しているようにも感じるのです。久美という娘はS性を持っているのかも知れません。

それはともか村瀬と久美にせっつかれた妻は、村瀬に対する「愛の告白」を書き込みます。

妻「真一さん、香澄が愛しているのは真一さんだけです……」
  1. 2014/06/23(月) 00:54:13|
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蜃気楼 第48回

一度そんな言葉を書き込んだ妻は、村瀬と久美に求められるまま何度も「香澄が愛しているのは真一さんだけです」と繰り返し書き込みます。村瀬はようやく落ち着いてきたようで、今度は私に対する怒りを露わにします。

村瀬「それにしてもあの男は最低だ。嫌がる香澄さんに酷いことをして、無理やりに自分の思い通りにさせるなんて」

久美「そうよ、夫婦でも無理やり犯したらレイプが成立するのよ。先生も知っているでしょう?」

妻「別に犯されたわけでは……」

久美「それじゃあ強制わいせつだわ」

村瀬「どちらにしても、これからはあの男に香澄さんの身体を好きにさせたくない。おかしなことをしようとしたら何か理由をつけて断ってよ」

妻「でも……」

久美「生理って言うと良いわ。それなら無理やりには出来ないでしょう」

妻「……一度ならともかく、何度も使える手じゃないわ」

村瀬「香澄さんは僕のことを愛してくれているといったでしょう。それなら僕に操を立てるのは当然だよ。あの男に肌を触れさせないでよ」

久美「真一さんにおかしな写真や録音を送られて、先生も怒っているのでしょう?」

妻「それはもちろん、それについては腹を立てているけど」

村瀬「とにかく、あの男を拒むことを約束してよ。本当に愛し合っている僕たちだって我慢しているんだから、あいつだって香澄さんを抱くのを我慢すべきだ」

妻「わかったわ……出きる限りそうするわ」

村瀬「出きる限りじゃなくて絶対だよ。毎日ここで報告するんだ。わかったね」

妻「わ、わかったわ……」


その日のやり取りはそれで終わっていました。これで、水曜日に妻が突然醒めた表情になり、生理と嘘をついて私の調教を拒んだ理由がわかりました。

(勝手なことばかりほざきやがって……)

これは完全な約束違反です。このやり取りを突きつけると、村瀬と妻は私に対して慰謝料を払わざるを得ないでしょう。私はいっそそうしてやり、妻との関係に終止符を打とうかとも思いました。

(いや、待て……奴らを潰すのはいつでも出きる。この展開はむしろ俺の予想通りではないか)

必死で怒りを抑えた私は、今回の件は当初想定していた村瀬の弱点の一つが露呈したのだと思い返します。妻という熟れた女の身体を知った村瀬が、いつまでも禁欲を続けることは困難です。とりあえずミクシイでの言葉のやり取りで気持ちを落ち着かせようとしていますが、このまま我慢できるとは思えません。いずれ来る決定的瞬間を押さえた方が後の交渉が有利になるのではないのかと考えたのです。

また私は、この期に及んでも妻とやり直す可能性を捨ててはいませんでした。このミクシイでのやり取りを見ても、村瀬はただの頼りない若造です。妻がこれからの人生を村瀬と共に暮らそうと考えるなど、正気の沙汰ではありません。不倫は麻薬中毒に似たところがあるといいますが、妻に目を覚ます機会を与えたいという気持ちもないわけではありません。

しかし同時にそうして目を覚まし、自分の行いを涙を流して悔いている妻を襤褸切れのように捨ててやりたいという陰湿な復讐心が自分の中にあるのも否定できません。村瀬との恋愛ごっこに酔っている時ではなく、正気に戻った妻を傷つけたいと思うのです。麻酔が効いている相手にメスを入れても痛みがないように。

翌日、翌々日と毎日のようにスレッドが立てられています。久美は毎日は参加していないようで、妻と村瀬のチャット状態のやり取りが記されています。久美の友人というヨーコという女は参加しておらず、足跡をチェックしても妻のページに立ち寄っている形跡はありません。妻と村瀬のやり取りは恋人同士の睦言、あるいは痴話喧嘩といった類のものでした。妻との仲を終わりにするにしても、やり直すにしても、妻が何を考えているのかを知りたい。どうして村瀬との関係にのめりこんだのかを知りたい、そういった気持ちから私は不快感を堪えてそのやり取りを読みました

  1. 2014/06/23(月) 00:55:34|
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蜃気楼 第49回

村瀬「とにかく香澄さんをこれ以上あの男に好きなようにさせたくないんだ。何とか断ってよ」

妻「でも、何でも言うことを聞くと約束をしたんだし……」

村瀬「何でも聞くといっても、限度があるよ」

妻「身体に傷をつけたり、人前で恥を欠かせないという約束は少なくとも主人は守っているわ。それと最後の一線は守るということも……」

村瀬「香澄さんにあんなことをさせるなんて、最後の一線を越えているのも同じだよ」

妻「そ、それはそうかも知れないけど……」

村瀬「このままあと5ヶ月以上も香澄さんをあの男の玩具にさせるなんて耐えられないんだ」

妻「真一さん、あまり私を困らせないで……約束の6ヶ月のうち、まだ一ヶ月もたっていないのよ。それなのに私たちはこうやって連絡を取り合っている。主人との約束を明らかに破っているのは私たちの方よ」

村瀬「香澄さんは僕のことを愛していないの?」

妻「またそんなことを言って……愛しているに決まっているじゃない」

村瀬「それなら、僕の苦しさはわかるよね」

妻「わかるわ……私も苦しいの。でも、主人はもっと苦しんでいると思うわ」

村瀬「あいつは苦しんでなんかいないよ。僕や香澄さんをいたぶって楽しんでいるんだ。ああ、僕はもう一日も香澄さんをあの男のところに置いていたくない。だから、お願いだよ」

妻「仕方がないわね……わかったわ。今度の土曜日は熱を出したということで断るわ」


やはり妻が土曜日に「微熱がある」と言ったのは仮病だったのです。

妻と村瀬のやり取りを見ていると、子供のように駄々をこねる村瀬を妻が宥めようとしていますが、結局は村瀬に押されて妻がズルズルと要求を呑んでいるという感じがします。もちろん妻の意志の弱さは責められるべきですが、村瀬は妻の母性愛のようなものを巧みに刺激しているようで、私にはそれが不快でした。

私は2人のログを読みつづけます。村瀬はだんだん妻に対する要求をエスカレートさせ、直接会いたいと迫るようになっていました。村瀬が妻を呼び出そうとしている日、それが彼の誕生日である11月12日、つまり今週の土曜日です。やはり妻がパスワードにしていた「1112」という数字が村瀬の誕生日だったのです。

妻「真一さん、もう限界だわ。この水曜は主人を拒むことが出来ないわ」

村瀬「もう一度だけ仮病を使ってよ」

妻「でも……それはさすがに……」

村瀬「それで土曜日に一度だけ会って欲しいんだ。そうしてくれたらこれからは耐えられるよ」

妻「そ、それは約束違反だわ」

村瀬「こうやって香澄さんがあの男のいうことを聞かない状態だってすでに約束違反だよ。お願いだから土曜日に僕と会ってよ。土曜日が何の日か香澄さんもわかっているだろう?」

妻「それは……もちろんわかっているわ。真一さんの誕生日を私が忘れるわけがないじゃないの」

村瀬「誕生日のプレゼントだと思って会ってよ。僕にとっては香澄さんを抱けるのが最高のプレゼントだよ」

妻「馬鹿ね……でも一度会ったらまたすぐに我慢できなくなるんじゃないの?」

村瀬「そんな……子供じゃないから大丈夫だよ」

妻「そうかしら、世話のかかる子供みたいだわ」

村瀬「馬鹿にしないでよ。香澄さんが出て気やすいように、いつものホテルを予約しておくね」

妻「言い出したら聞かないのね……わかったわ、その代わり絶対に今回だけよ
  1. 2014/06/23(月) 00:57:07|
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蜃気楼 第50回

(香澄のやつ、やはり裏切る気だな……)

私は怒りに頭がカッと熱くなります。

(どうするか……)

そういえば今回の妻と村瀬の不倫は妻が自分から告白し、それを村瀬と久美が認めたもので、何か物証があるわけではありません。もちろん過去の不倫については当事者が認めており、誓約書まで書かせたわけですから、それはそれで十分なわけです。

しかしさらに誓約書にも違反したということを立証するには、決定的な証拠があった方が良いといえます。

もちろんこうやってミクシイを使って連絡を取っているわけですからそれだけでも誓約書違反です。ただ、もしも裁判などになればネットを使って連絡しただけで5000万円もの慰謝料を要求することは「権利の濫用」といわれかねません。それにこちらは会社にあったキーロガーを使って妻のIDとパスを不正取得したという弱みもあります。

(よし、証拠を押さえてやる)

妻と村瀬がもう一度抱き合うことを認めるのは正直言って苦しい気持ちもあります。しかし、私は敢えて2人を泳がせ、決定的な証拠を得ることにしました。そう心に決めると、念のためにこれまでの妻と村瀬のやり取りを、ファイルと画面コピーの形で保存しました。

次の日、家に帰ると妻は分厚いカーデガンを着て、ご丁寧にもマスクまでかけていました。

「なんだか風邪がぶり返したみたいで……申し訳ないですが、今日は早めに休ませていただいて良いですか」

妻は小さく咳をしながらそう言いますが、その視線は頼りなく泳いでいます。長年一緒に暮らしているから分かりますが、妻が嘘をつくときの癖です。しかし私はそれに気づかぬ振りをしてわざと優しく声をかけます。

「そうか、大事にしろよ」
「……すみません」

妻は多少罪悪感を覚えるのか、顔を伏せて小声で答えます。

私は妻と村瀬が裏切ろうとしているのを知っていることを気づかれないよう、細心の注意を払いました。家に帰っても必死で平常心を保ち、妻に対してもことさらに穏やかな表情を見せ、時には笑いかけるようにします。妻は少し前のようなそっけない態度はなくなりましたが、その代わりどことなくおどおどした、心ここにあらずといった雰囲気を見せます。やはり心に後ろ暗いことがあるからでしょうか。

この頃、なぜかまた妻の作ったものを食べるのが再び苦痛になって来ました。それでも私はこみ上げる吐き気をこらえながら、必死で食べました。そんなことが身体に良いはずがありません。私は徐々に体重が落ちてきました。

金曜の夜、仕事で遅くなった私が家に着くと、起きて私を待っていた妻が申し訳なさそうに切り出しました。

「……あなた、すみません。明日、外出をしたいのですが」
「どこへ行くんだ」
「佐和子と美奈子が、久しぶりに食事でもしようと誘ってくれて……」
「そうか……」

いつもいつも不倫の言い訳に使われる佐和子さんと美奈子さんもいい迷惑です。私は懸命に内心の怒りを堪えながら答えます。

「風邪はもういいのか?」
「はい……」
「たまには香澄も気分を変えた方が良いだろう。美奈子さんと佐和子さんなら心配ない。俺に気にせず行って来い」
「すみません……」

妻は蚊の鳴くような声で返事をします。本質的には嘘が嫌いな女ですから、私に罪悪感を抱いているものと信じたいです。

土曜の朝食が終わると妻は丁寧に化粧をし、お気に入りのコートを着て玄関に立ちました。

「あなた、行って来ます」
「ああ、楽しんで来い」

私の何気ない言葉に妻ははっとした表情になり、顔を伏せました。

  1. 2014/06/23(月) 00:58:17|
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蜃気楼 第51回

「夕方には帰りますから……」

妻は小声でそう言うと、家を出て行きました。男に抱かれるために出かける妻を見送るというのはなんとも嫌なものです。こんな気持ちを人生で味わうことになるとは思ってもいませんでした。

私はすぐに待機している興信所の調査員に電話します。ミクシイでのやり取りにより、妻が村瀬と会う日は予め分かっているわけですから、ピンポイントで調査が出来ます。私自身が尾行しても良いようなものですが、証拠としての価値を考えると興信所の報告書があった方が良いと思いました。

妻が不貞を働くことを知りながら泳がせる、当時のことを今思い出してもこの時期が一番辛かったです。知らないということはある意味幸せなことです。

やがて興信所の調査員から電話がありました。妻は出かけるとまっすぐにラブホテルに向かったということです。昼前からラブホテルで若い男と情事に耽る女、そんな女が自分の妻だとは……実に情けない話です。

次に興信所から電話があったのは4時間以上後でした。妻と村瀬はよほど名残惜しかったのでしょうか。10時から2時までの4時間をホテルの中で過ごしたようです。

これで証拠は押さえたわけですから、調査はここで切り上げても良いのですが、私は念のためにそのまま継続を依頼しました。妻の行動の全てを把握しておきたかったのです。

妻はその後、村瀬と共に元町へ向かいます。私には美奈子さんと佐和子さんと買い物に行くと言って出かけたのですから、何か買って帰らないと不審に思われると考えたのでしょう。

元町で久美が2人と合流したのには少々驚きました。初日以降、久美はミクシイにはほとんど顔を出していなかったので、今回の逢引にはからんでいないのかと思っていたのです。考えてみれば村瀬と久美は電話で連絡が取れるわけですから、3人が行動を共にしてもおかしくはありません。

3人はしばらく一緒にショッピングをします。といっても、妻と久美の女同士の買い物に村瀬が付き合うという感じでしょうか。確かに3人が仲良く買い物を楽しんでいる写真を見ると、母親とその娘と息子、という風に見えなくもありません。

4時半ごろ、妻と村瀬・久美は駅で別れます。調査員からここで再び継続の要否確認の電話が入ります。

「妻が帰って、村瀬と久美はその場に残っているのだな」
(はい、このまま奥様を尾行しますか?)
「……」

予め夕方には帰ると行って出かけた妻ですから、おそらくこのまままっすぐ帰ってくるでしょう。私は引っかかることがあって少し考えます。

「村瀬と久美の方を尾行してくれ」
(わかりました)

私が当初から村瀬と久美に対して抱いていた疑念がありました。それが正しいかどうかが、証明できるかもしれません。村瀬と久美は妻と別れると駅から元町通りを抜け、山下公園に向かいました。そこから中華街に行き食事をします。

(デートコースじゃないか……)

そうこうしているうちにそろそろ妻が帰ってくる時間です。私は調査員に、以後の連絡はメールに切り替えるように依頼しました。しばらくすると玄関のチャイムが鳴りました。
「ただいま」

妻が帰ってきました。私が玄関まで迎えると、妻は手に持った買い物袋を置きます。

「遅くなってごめんなさい……すぐに食事の用意をしますね」

妻は一瞬私と視線が合うとすぐに逸らし、キッチンへと向かいました。その時ポケットに入れてあった携帯電話が震え、メールの着信を告げます。

(2人は石川町近くのホテルに入りました)

私は調査員からのそのメールを複雑な思いで眺めます。妻と村瀬の不倫が露呈し、久美が村瀬と共に私の家に来たときから、私は久美に対して不審なものを感じていました。村瀬が母親のような年齢の妻を愛するというのはわからないでもありません。また、久美のような娘が同年代の男には興味がなく、これも父親のような男に身を任せるというのもあり得ない話ではありません。しかし、その2人が同じ大学で、同じフルートのパートに所属しているというのが偶然にしても出来すぎだと思っていたのです。

  1. 2014/06/23(月) 00:59:39|
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蜃気楼 第52回

村瀬と久美がホテルに入ったという報告を聞いても、私はそれほど意外ではありませんでした。少し前から、おそらくそういうことではないかと思っていたのです。

村瀬を裏切るなら5000万円の違約金の連帯保証から久美を外すといったのにもかかわらず、久美がむしろ村瀬が誓約書に違反するような行為を促したのは何故か。久美の立場が、村瀬の妻に対する恋心を単純に応援するというものに過ぎないのなら、これほどのリスクを犯すのはどう見ても不自然です。

村瀬が年上好みだというのは事実でしょう。しかし、久美が同じように年上好みで、村瀬と結婚した後もセックスレスでよいと考えているとは私には信じられませんでした。その思いはミクシイでの3人のやり取りを読んでから確信に変わります。村瀬は気づいていないようでしたが、そこでは明らかに久美の妻に対する嫉妬が現れていました。

久美は村瀬のことを愛しており、自分の方を向いて欲しいと思っていると私は考えました。村瀬の方も妻のことが好きなのは確かですが、久美も嫌いではない、いや、むしろ本当は愛しているのではないかと私は推測します。そうでなければ「最高のパートナー」だとか「彼女なしの人生は考えられない」などとは言いません。

幼いときに母親と別れなければならなくなった村瀬にとって、妻は理想の女性というよりも、母親の代わりのような存在なのでしょう。母親に対する憧憬が深すぎて、村瀬は久美を本当は愛していながら抱くことが出来ない。だから愛しているのは妻で、久美に対する想いは同志愛のようなものだと自分を誤魔化しているのではないでしょうか。

久美は女としての本能的な直感から、村瀬が母親に対する愛情を卒業しない限り、自分を抱くことは出来ないと考えているのではないでしょうか。だから村瀬と妻のことを応援するような行動に出た。しかし内心の嫉妬は抑えられず、時々表面に噴出してしまうといったところではないでしょうか。

その久美にとって、村瀬と妻の接触が6ヶ月間絶たれたことは誤算だったことでしょう。久美としては少しでも早く村瀬を妻から卒業させたいのです。村瀬がある程度妻とのセックスで経験を積み、女の性のあからさまな実態を知ることで母親の幻影から解放されれば、自分の若い肉体で村瀬をひきつける自信があったのでしょう。妻と会えないままではいつまでも村瀬は妻に拘りつづけ、久美の方を向かないでしょう。

リビングのソファで私がそんなことをぼんやり考えていると妻が呼びに来ました。

「お食事の準備が出来ました」

妻は気を使ってか、私の好物を食卓に並べます。しきりに今日会ったことになっている美奈子さんと佐和子さんの話題を口にするのはアリバイ工作をしているつもりでしょうか。私は冷めた気持ちでそれを聞いていました。

妻の作った食事は吐き気がするというほどのことはありませんでしたが、味がほとんど感じられませんでした。

食事が終わる頃、私は妻に向かって言いました。

「風呂から上がったら、何も身につけないで寝室に来い」
「あなた……」

妻の目が驚きに見開かれます。

「俺の言うことは何でも聞くんじゃなかったのか?」
「今日は……」
「生理も終わっただろう。買い物に行ったくらいだから風邪も治ったはずだ」
「わかりました」

妻は覚悟を決めたように頷きます。

私は先に風呂に入る間、妻は食器を片付けます。私は風呂から上がり、寝室で音楽を聴きながら妻が来るのを待ちます。かなり経って寝室の扉が開き、妻が電気を消しました。

「電気はつけたままにしろ」
「でも……」
「久しぶりに香澄の身体をよく見たい。もうすぐ見られなくなるかもしれないからな」

妻はあきらめて電気をつけます。扉の近くで恥ずかしそうに胸と股間を隠している妻に私は声をかけます。

「隠さないで見せろ」
「許して……」
「言うことを聞くはずだったな」

妻は腕を下ろし、素っ裸を私の目の前に晒します。村瀬との情事の痕跡が私に露見することを脅えているのでしょうか。妻の裸身は小刻みに震えているようです。
  1. 2014/06/23(月) 01:00:23|
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蜃気楼 第53回

「こっちへ来い」

妻は私に呼ばれるままベッドに身を横たえます。村瀬に抱かれたばかりの身体を見られ続けるよりは、私に抱かれた方が良いと思ったのでしょうか。妻の表情にどことなく安堵の色が浮かんでいました。

私は自分も裸になると妻を抱きしめ、口付けをしました。こんな風に妻を抱いてキスをするのはいつ以来でしょうか。

「ああ……」

キスに弱い妻はたちまち溜息に似た声を洩らします。私はうなじ、胸元、乳首と上から順に妻の身体に優しく接吻を注ぎ込みます。それは村瀬がつけた妻への痕跡を消していくかのようでした。

私は妻の羞恥の箇所はわざと避けると、両足を開かせると内腿を強く吸います。そこは妻の性感帯の一つでした。妻の喘ぎ声が一段と高まります。

(村瀬にはこの場所のことはもう教えてやったのか?)

私はそう胸の中で呟きながらその柔らかい箇所を優しく、そして激しく愛撫します。妻はかなり感じてきたのか荒い息を吐きながら、その両肢はもどかしげに海草のようにゆらゆらと蠢き始めます。

私は顔を上方にずらし、妻の羞恥の部分に口吻を注ぎ込みます。肉襞を甘噛みし、内部に舌を這わせ、唇ですっかり尖った花蕾を吸い上げると妻は「あ、ああっ」と悲鳴のような声をあげ、逞しいまでに実った腰部をブルブルと震わせます。

(村瀬にもこうやってクリニングスをさせて声をあげたのか?)
(尖らせたクリトリスをはしたなく突き出して、吸わせたのか?)

私は妻をぐっと強く抱きしめると、再び口付けをします。今度は妻の舌先を吸い上げ、自らの口の中で弄びます。妻は「うっ、うっ……」と声を上げながら、甘い唾液を私に吸われて行きます。

(村瀬にもそんなうっとりした顔で口を吸わせたのか?)
(こんな風に強く抱かれたのか?)

私は胸の中で妻に問いかけながら愛撫をつづけます。妻はますます気持ちが昂ぶってきたのか「あっ、あっ」とさも切なげな声をあげています。それがまるで私の問いに対する肯定のように思え、私は激しい嫉妬を感じると共に強い欲情を覚えました。

私は妻の身体を支えるようにして自分の体の上に乗せあげます。妻の好きな騎乗位です。妻はすっかり潤った羞恥の箇所を、私の硬化したものに擦り付け始めます。妻が無意識のうちに挿入を求める時の癖です。

(そうやって村瀬のものも求めたのか?)

私は妻の耳元に囁きかけました。

「欲しいのか?」
「……」
「どうなんだ、言ってみろ」
「ください……」
「何が欲しいんだ。ちゃんと言わないか……」
「あなたの……ペニス……」

私は片手で妻の腰部を少し持ち上げると、指を羞恥の部分にあてがい、ぐいぐいと押し込むようにします。

「あ、ああっ!」

ペニスの代わりに二本の指を挿入された妻は悲鳴をあげて私から逃れようとしますが、私はそうはさせじと片腕を妻の背中に回して抱きとめます。

「ああ……そんな……」

妻は指でイかされるのが惨めなのか、さも切なげにすすり泣きますが、火の点いたようになっている身体は止まらないようで、いやらしく腰を振りたてています。私が指先で愛撫しつづけると妻は遂に「い、いきますっ」と声をあげて、絶頂に達しました。

裸身を痙攣させながら快感に浸っている妻を私は優しく抱きしめるともう一度接吻をします。そして起き上がると、ベッドの上にぐったりとうつ伏せになった妻の丸い尻の上に射精します。私の熱いものを肌の上に感じた瞬間、妻は豊満な尻をブルッと震わせました
  1. 2014/06/23(月) 01:01:18|
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蜃気楼 第54回

私はタオルをお湯で絞ると妻の身体の汚れた箇所を拭います。

「……どうして抱かなかったのですか?」
「おかしなことを言うな。香澄は」

私は苦笑します。

「お前とはもう一線を超えないと約束しただろう」
「それなら、なぜ……」
「こんなことをするのか、と聞きたいのか?」
「はい……」

私は少し黙った後、口を開きます。

「俺にも良く分からない。なぜなのか、香澄も一緒に考えてくれ」

私はそう言うと横になり、目を閉じました。妻はしばらく起きている気配がしましたが、やがて眠りについたようでした。


私はその後、妻を週に一度のペースで同じように愛撫しました。これまでのように妻が嫌がるような露出的な下着を着せたり、卑猥な格好をさせたり、バイブで弄ぶようなことはなく、私の指と舌を使って何度もイかせ、その後妻の腹か尻の上に射精するのが常でした。妻は私に抱かれるたびに激しく乱れましたが、同時に挿入してもらえないことをもどかしく感じているようでもありました。

村瀬はその後しばらく大人しくしているようでしたが、12月に入ってから再び妻を抱きたいとねだってくるようになりました。妻は最初は拒否していたのですが、久美からも強く頼まれて断れなくなったのか、17日の土曜日に再び村瀬に抱かれました。

そうなってしまうとタガが外れたのか、翌週の土曜日、つまり24日のクリスマスイブにまた村瀬に懇願され、身体を許してしまいました。この両日についても興信所に依頼して証拠写真を撮影したのは言うまでもありません。17日は久美は登場しなかったようですが、24日のイブは、久美は村瀬と妻が別れるのを待ちかねたように現れると、村瀬と共に夜の町に消えていきました。おそらく2人でクリスマスイブを過ごしたのでしょう。

村瀬は私に対して妻と結婚しないまでも一生愛していく、妻が生きている間は妻としかセックスをしない。妻を最後の女性とすると言いました。そんな世迷言を信じたわけではありませんが村瀬の行為は妻に対する裏切りですし、今さらですが誓約書違反でもあります。

村瀬と久美にこういった形で裏切られている妻も気の毒ともいえます。しかし私でも推し量ることが出きる程度の久美の本当の気持ちを、同性である妻が全く気づいていないというのも不自然ではあります。結局私にとって未だにわからないのが妻の本心でした。

ずっと家に寄り付いていなかった2人の息子たちも、さすがに年末年始ともなると帰省します。村瀬と再び会い始めてからは沈んでいた妻の表情も、息子たちが帰ってくるとぱっと明るくなりました。私も妻の不倫のことなどは息子たちの前ではおくびにも出さず、以前と同様、仲の良い夫婦を演じました。

あっという間に三が日が過ぎ、息子たちがそれぞれの勤め先へと帰り、久しぶりに二人になった夜に妻が私に話し掛けました。

「賑やかでしたね。やっぱり家族というものはいいものですわ」
「ああ……」
「これからもお正月はこういう風に、4人で過ごせると良いですね」
「それは無理だな」

私はそっけなく答えます。妻は「えっ」という表情を私に向けます。

「5月になったら俺たちは別れるんだろう。こういった正月は今回でおしまいだ」
「でも……」

妻は一瞬言葉を失ったようですが、しばらくして口を開きます。

「私はあの子達の母親であるということはこれからも変わらない訳ですから、一年に一回くらいは4人で集まっても良いのでは……」
「俺は離婚したら二度と香澄と会うつもりはない」
「えっ……」
「もちろん陽一や栄治が香澄と会いたいというのならそれは自由だ。止めるつもりはない。しかし、俺はその場にはいる気はない」
「……二度と会わないって……陽一や栄治が結婚するときもですか?」
「そうだ。2人が香澄を式や披露宴に呼びたいというのならそれはかまわない。しかし、その場合は俺は出席しない」

  1. 2014/06/23(月) 01:02:48|
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蜃気楼 第55回

「そんな……」
「俺は香澄と別れたら、いずれ新しいパートナーを探すつもりだ。香澄もそうしろといってくれただろう」
「はい……」
「仮に2人が俺を結婚式に呼んでくれるのなら俺はその新しいパートナーと一緒に出席したい。今誰か特にあてがあるわけではないが、そういった場合普通は前妻とは顔を合わせたくないだろう。周りからいい笑いものになるのが落ちだ」

妻は悲痛な表情を私に向けます。

「香澄は前に、どうして俺が一線を超えるつもりがないのに自分を抱くのかと聞いたな。俺はその時分からないと答えた」
「はい……」
「今ならその答えが分かる気がする。俺は香澄を忘れようとしているんだ。25年間の夫婦としての記憶、31年間の二人の記憶を自分の中から消し去るために香澄の身体を抱く、しかし、絶対に最後までは行かない。俺はその空しい行為で少しずつ香澄に別れを告げているんだ」

妻は顔を覆って泣き始めました。

「俺は香澄をまだ愛している。香澄も俺のことを嫌いになったわけではないと言った。そんな男と女が別れるというのはそういうことではないのか。互いに未練を残せば、新しいパートナーに対して失礼だ」
「私たちは、良い友達でいられないんですか……」
「それは無理だ」

私は冷たく言い放ちます。

「俺は香澄と良い友達になろうなんて思ったことは一度もない。高校生のときに香澄と始めて出あったとき、香澄のフルートの音色を始めて聞いたときから俺は香澄を自分のものにしたいと思っていた。それはこの30年以上変わっていない」

妻は真っ赤な目を私に向けました。私は何故か唐突に高校1年のとき、妻に部室の裏に呼び出されたときのことを思い出しました。妻が私に転校しなければならないことを告げたときです。あの時の妻の目も真っ赤にはれていました。

「俺は香澄を友達にすることは絶対にない。俺にとっての香澄は恋人か妻でしかない。香澄と別れるからには、俺は香澄は死んだものと思うことにした。死人と会うことは絶対にない」

私はそう言うとダイニングを出ました。妻の泣き声が背後で大きくなるのがわかりました。妻は始めて私と別れることに意味を知ったのかもしれません。


その後、村瀬は相変わらず妻を執拗に誘っていましたが、妻は頑として応えなかったため自然に2人は疎遠になり、妻がミクシイにアクセスすることは何時の間にかなくなっていきました。興信所の調べによると、村瀬と久美のデートの回数は増えてきているようでした。

私は相変わらず妻を抱きますが、決して一線は超えません。妻は私に愛撫されている間は我を忘れたように快感に浸っているようですが、行為が終わると必ず悲しげに声を殺して泣きます。私がその行為によって妻に対して別れを告げていると言ったことが堪えているのでしょう。

2月に入ると村瀬と久美はすっかり恋人同士になったようです。結果的には妻が身体を張ってキューピット役を務めたということでしょうか。バレンタインデーが近づいてきても、村瀬が妻にアプローチすることはありませんでした。村瀬に対する復讐の時期が近づいていることを感じた私は、ある土曜日の夜妻に対して告げました。

「明日の日曜日に、村瀬と久美を呼べ」
「えっ?」

妻は驚いた表情を私に向けます。

「どうしてですか?」

問い掛ける妻に、私は興信所の報告書を三冊テーブルの上に置きました。妻が息を呑むのが分かりました。

「まだ約束の半年まで3ヶ月近く残っているが、そろそろ終わりにしたい」
「あなた……」
「野球でもコールドゲームというのがあるだろう。これだけの証拠が揃っているんだ。おまえ達の負けだ」
「待って、あなた。お願いです……話を聞いて」
「話なら明日、三人が揃ったところで聞く。もっとも言い訳以上の何かが聞けるとも思っていないが」

私はそう言うと立ち上がり、寝室に向かいました。妻はその夜寝室に来ることはありませんでした。
  1. 2014/06/23(月) 01:04:01|
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蜃気楼 第56回

次の日曜日の朝9時、村瀬と久美が現れました。リビングのソファに並んで座っている2人とも妻から事前にある程度の事情を聞いているのか、緊張に顔を強張らせています。

妻もまた緊張した顔つきで紅茶のポットとカップを運んできます。私は妻が人数分の紅茶を注ぎ終わるのを確認すると、妻に「そこに座れ」と村瀬たちの隣を指差します。

「君たちに会うのはもう少し先になるかと思っていたが……」

私が話を切り出すと3人ともはっとした顔つきになります。

「3人とも約定違反だ。約束したことは守ってもらう」

村瀬が口惜しげに顔を伏せます。久美は何か言いたげに口を開きかけましたが、私が睨むと村瀬に倣って顔を伏せました。

「村瀬君の分担は5000万円のうち3000万円だ。来週の土曜日までに用意しろ。いいな?」
「あなた、待って。村瀬君は……」
「香澄は黙っていろ。お前には別に話がある」

私に叱咤されて妻は口を噤みます。私は妻が村瀬のことを「真一さん」ではなく、「村瀬君」と呼んでいることに気づきました。

「5000万円は全額僕が用意します」

村瀬は顔を上げると挑戦的な目を私に向けました。

「ですから、香澄さんを自由にしてあげてください」
「夫婦のことに口を出すな」
「ご主人は本来香澄さんのものである2000万円もの財産を取り上げようというのでしょう? その上香澄さんを奴隷のように自分の元に置き続けるつもりですか?」
「香澄をどう扱おうが俺の自由だ。それにこれは香澄が自分で約束したことだ」
「ご主人は金が手に入ればいいのでしょう? その上香澄さんを縛り続けようというのですか?」
「ああ、その通りだ」

私は怒声をあげて村瀬を睨みつけます。

「ぐずぐず言わずに約束どおり金をもってこい。5000万円の金をここに並べることが出来れば君の要求を考えてやってもいい」
「あなたは最低だ!」

村瀬は立ち上がって叫び声を上げます。

「お望みどおり、5000万円叩きつけてやる」
「真一さん……」

久美が村瀬を見上げました。

「心配するな、久美。年末から会社の株価が上がって、僕の持ち株の評価は1億円をはるかに超えている。香澄さんが僕たちのためにしてくれたことを思えば、5000万円くらいどうということはない」

その言葉を聞いた妻は一瞬はっとした表情を村瀬に向け、すぐに顔を伏せました。

村瀬は憤慨しながら帰っていきました。久美はさすがに帰り際、すまなそうに妻に頭を下げましたが、私に対しては詫びの言葉はありませんでした。

2人が帰った後、リビングには私と妻だけが残されます。妻がおずおずと口を開きました。

「あなた……」
「お前との話は、あの2人のことが片付いてからだ」
「ごめんなさい……」

妻は顔を伏せて涙を流し始めます。

「謝らなくてもいい」
「でも……」
「2人で過ごせる時間もあと少しだ。紅茶のお代わりをくれ」

妻は無言でうなずくと、ポットの葉を新しいものに取り替えました。アールグレイの紅茶は妻も私も一番好きなものです。私は妻の啜り泣きを聞きながら、熱く香りのよい紅茶をゆっくりと味わいました。
  1. 2014/06/24(火) 08:21:46|
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蜃気楼 第57回

土曜日がやってきました。約束の時間に玄関に現れた村瀬と久美は前回とは人が違ったように沈んでいました。特に村瀬の消沈振りは見る影もないほどです。

「どうした、突っ立っていないで入れ」

私は2人をリビングに招き入れます。村瀬と久美がいつまでも立っているので、私は「座れ」とソファを指差します。妻が心配そうに2人の様子を見ています。

「金は持ってきたのか?」

村瀬の顔は青ざめ、唇が小さく震えています。

「持ってきていないのか?」
「……」
「どうした、黙っていてはわからない」

村瀬はいきなり「申し訳ありません!」と叫ぶような声を上げると、床の上に土下座をしました。

「何の真似だ?」
「……」
「株は売れなかったのか?」
「……はい」

村瀬は蚊の鳴くような声で答えました。紅茶のカップを乗せたトレイを手に持ったままの妻がため息のような声を上げました。私の視線に気づいた久美があわてて村瀬の隣に土下座をします。

「……そうだろう」

私の言葉に村瀬が顔を上げました。

「父親に叱られたんじゃないか?」
「なぜそれを……」
「簡単なことだ」

私は静かな口調で話し始めます。

「父親が君に対してなぜ株を渡したのか、君はまったくその意味がわかっていない。おおかた財産の前払いか何かだと、安易に考えていたのではないか?」

村瀬は顔を引きつらせたまま私の言葉を聞いています。

「君の父親の会社は2年前に公開したばかりといったな。少し調べさせてもらったが、まだまだ成長していく会社のようだ。これからもたくさんの資金が必要だろう。その場合、株式市場から調達、要するに会社が新しい株式を発行して個人などの投資家に株を買ってもらう必要がある」

「そんな会社の経営者が自分の息子に株を渡して、そいつが人妻と不倫をはたらき、慰謝料を払うために株を売ったなどということがわかればいったいどうなると思う? そんな馬鹿な理由で経営者の息子が売る株を掴まされる投資家こそいい面の皮だ」

「また、君の父親は当分の間は自分が会社のトップを勤めるつもりだろうし、将来は出来れば君を後継者にとも考えているかもしれない。そんな経営者が自分や自分の家族の持ち株を売ることを認めるなどということはありえない」

村瀬の肩の震えがだんだん大きくなってきます。

「だいたい、君の父親の会社の株がどうしてそんなに上がったのか、その理由がわかっているのか」

村瀬と久美が同時に顔を上げました。

「君の父親や父親の会社の従業員が死に物狂いで働き、長い時間をかけてお客に商品が認められ、他の会社との激しい競争に勝ち抜いてきたことの結果だ。その汗の結晶を君はどぶに捨てるような使い方をしようとしている」
「君の父親が君に株を持たせたのは、経営の厳しさとは何か、経営者の心構えとは何か、会社の価値と株とは何か、また生きていくうえでのお金の持つ意味とは何かを教えたかったからじゃないのか」
「父からも……同じようなことを言われました」

村瀬はそう言うと再び深々と頭を下げました。

「申し訳ありません!」
「金が用意できなかったことを謝っているのなら、その必要はない
  1. 2014/06/24(火) 08:22:58|
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蜃気楼 第58回

私は再び静かな声で話します。

「いくらなら用意できるんだ?」
「二百万なら……」
「それは君の貯金か。さすがR大の学生だ。結構貯めているな」

村瀬と久美は身を縮めるように私の言葉を聞いています。

「今すぐ学生向けの消費者金融を回って来い。200万くらいは借りられるだろう。残りの4600万円は借用書でいい。約束どおり久美が連帯保証をしろ。俺も鬼じゃないから金利は利息制限法上限の15%にしておいてやる」

村瀬と久美は愕然とした顔を私に向けました。

「金利だけで月57万5千円になるな。元金の返済込みで100万円以上、これを毎月末に払え」
「ぼ、僕は学生です。そんなには払えません……」

村瀬は顔を引きつらせています。久美も真っ青な顔を私に向けています。

「そんなことは俺は知らん。5000万円払うと啖呵を切ったのは君だろう」

私は冷たく突き放します。

「一度でも遅れると、借用書を債権回収業者に売り払う。連中の取立てはきついぞ。村瀬君には臓器を売れとか、久美さんにはソープに沈めるとか言ってくるだろうな」
「許してくださいっ!」

村瀬と久美は震え上がって頭を床に擦り付けます。

「謝る時期が間違っているんじゃないのか。どうして前回、自分たちが約束を破ったときに謝らなかった?」
「……それは」
「君たちは今日いきなり土下座をした。金が用意できなかったことを謝ることはできるのに、どうして人の心を傷つけたことは謝れない?」

久美は村瀬の隣で身体を強張らせていましたが、顔を上げるとすがるような目を私に向けました。

「……私も払います。自分の貯金と、お金を借りて真一さんとあわせて500万は払います。ですから、サラ金なんて恐ろしいことは……」
「まだわからないのかっ!」

私はそれまで出来るだけ穏やかに話そうとしていましたが、この久美の言葉で激高します。妻が手にもったトレイを音を立てて置くと、久美の隣に並んで土下座しました。

「あなた、許して、私が、全部私が悪いんです。私の財産はみんなあなたにお渡しします。これからずっとあなたの言うとおりにお仕えします。ですから、ですから、2人を許してあげてください」
「先生、駄目っ!」

久美がわっと泣き出しました。

「本当は私なんです。私が悪いんです。私が先生にお願いしたんです。ご主人、ごめんなさい。私、なんでもします。なんでもしますから先生と真一さんを許してあげてくださいっ」

妻と久美は互いに手を取り合うように、わあわあ声を上げて泣き始めます。村瀬は土下座したまま拳を握り締め、涙を流しています。私はそんな3人の姿を見ながら、なぜかたまらない寂寥感がこみ上げてくるのを感じていました。


村瀬と久美が帰った後、私と妻はリビングで向かい合って座っていました。妻の目は泣いたせいか、真っ赤に腫れています。

「あなた、本当にごめんなさい。私が悪かったです」
「……許してくれとは言わないのか」
「私から言うことは出来ません。それだけのことをあなたにしてしまった訳ですから。いまさら償いと言っても遅いでしょうが、何でもしますから言ってください」

妻は頭を下げて、私の言葉を待っています。私はやがて口を開きました。

「離婚してくれ」

妻の肩先が一瞬震えました。

「……わかりました」
  1. 2014/06/24(火) 08:24:21|
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蜃気楼 第59回

私たちの離婚が成立し、妻が家を出て行ってから2カ月以上の時が経ちました。5月に入ったばかりのある日、企画課の加藤有花が私のデスクにやって来ました。

「社長、お客様です」
「社長はやめろと言っただろう」
「何を言っているんですか。今月からは本当に社長でしょう」

そうでした。あれから社長のヘルニアは思わしくなく、5月1日付で社長は会長に就任するとともに、私が後任の社長となったのです。

「午前中は約束はなかったはずだか」
「村瀬さんという方です」
「村瀬?」

私は顔を上げます。

「社長と同じくらいの年齢ですよ。ご存じないのですか」
「ないな……いや、やっぱりあるかな」
「どっちなんですか、もう。A応接にお通ししています」

私が応接に入ると、村瀬と名乗る男は立ったまま私を迎え、深々とお辞儀をすると名刺を差し出しました。

「エムファクトリイの村瀬です」
「渡辺です。どうぞおかけください」
「失礼します」

男は座るなり、いきなりテーブルに擦りつけんばかりに頭を下げました。

「渡辺さん、私の息子が渡辺さんに対してとんでもないことを致しました。どうか、お許しください」

私はしばらく呆気に取られて村瀬の父親を眺めていましたが、やがて口を開きます。

「村瀬さん、頭を上げてください」
「息子の躾を間違いました。母親がいないからとつい甘くなって……渡辺さんに大変なご迷惑をおかけしました」
「村瀬さんのせいじゃありません。お願いですから頭を上げてください」

村瀬の父親はようやく頭を上げます。

「私は渡辺さんがなさったことは至極まっとうなことだと思います。大人は自分の発言に責任をもたなければなりません。息子が5000万円払うと言ったのですから払わせるのは当然です」
「それは……」
「息子の話だと、最初に息子と久美さんが貯金をはたいて400万円を払い、その後毎月100万円ずつお支払いすることになっているとか」
「そうです、昨日2回目の入金をしてもらいました」

私は頷きます。

「私は今回の件では一切金銭的な援助をしておりません。息子と久美さんが蒔いた種ですから、自分で刈り取らせるのが筋です。しかし、学生2人で月100万円の金を稼ぐのは至難の業です。息子はいくつもバイトを掛け持ちし、久美さんは夜の仕事までしているそうです」
「そうですか……」

村瀬と久美が自分で汗を流して金を作っているとは少々意外でした。

「しかしあのままだといずれ身体が保たなくなり、支払いが滞る日がくると思います。馬鹿な息子たちですが、やくざな金融業者に追い込みをかけられるのをさすがに親としては黙って見ている訳にはいきません」
「それはそうでしょうね」

村瀬の父親はその私の言葉にすがるように続けます。

「そこで勝手なお願いですが、もしも支払いが滞ったら、息子の借用書を回収業者に売る前に私に買い取らせてはいただけませんか? もちろん元本の残高全額をお支払いします。渡辺さんが息子や久美さんを恨む気持ちはわかるつもりですが、なにとぞ馬鹿な親の頼みを聞いてください」

村瀬の父親は再び頭を下げます。

「村瀬さん……もう私には恨みはありません」

私は机の中から村瀬が書いた借用書を取り出しました。
  1. 2014/06/24(火) 08:25:25|
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蜃気楼 第60回

「これはもう必要ありません。彼に渡してください」
「しかし……」

私は借用書を村瀬の父親の手に押し付けるようにしました。

「私にも2人の息子がいます。村瀬さんの気持ちは判ります」
「……ありがとうございます」

村瀬の父親は借用書を受け取ると、何度も頭を下げます。

「渡辺さんは息子に、本来私が教えなければいけないことを教えてくれました。この恩は決して忘れません。もし私に出来ることがあれば何でもおっしゃってください」

村瀬の父親はもう一度深々とお辞儀をすると帰って行きました。デスクに戻った私に加藤が声をかけます。

「どうしたんですか、社長。ぼんやりしちゃって」
「お前のそのタメ口はどうにかならないのか」
「気にしない、気にしない。私と社長、マイミク同士じゃないですか」

加藤はそう言うとケラケラ笑います。

「ところでさっきのお客様、誰ですか」
「エムファクトリイの村瀬社長だ」
「ええ、そうなんですか。あそこのギフト、女の子に人気が有るんですよ。うちでも扱えないかなあ」
「可能性はあるな。バイヤーに話してくれ。俺が話をつなぐよ」
「わかりました。ところで、その村瀬社長って人、社長に似てましたね」

加藤が急に声を潜めるように言います。

「どこがだ?」
「どこがって……全体の雰囲気って言うか……」
「そうかな」
「似てると思うんだけどな」

加藤がいつものように瞳をクルクルさせながら首をひねります。

「そういえば社長、ミクシイ全然やってないですね」
「ああ」

妻と村瀬たちとのやり取りを覗いたのが嫌な思い出となっており、妻と別れて以来一度もアクセスしてことがありませんでした。

「時々社長のページ、見に行くんですがいつまでたってもマイミクは私一人。あれじゃあ面白くないですよ」
「そうだな」
「今度私が一人紹介しますよ。マイミクになってあげて下さい」
「なぜ俺がそんなことをしなきゃならない」

私は気のない返事をします。

「色々と教えてあげたじゃないですか。その借りを返してください」
「あれが借りなのか? まあ、気が向いたらな」

きっときっとですよ、と歌うように言いながら加藤はようやく自分のデスクへと戻ります。一体何の用があったのかさっぱりわかりません。

帰宅すると私は加藤から言われたことを思い出し、久しぶりに家のPCを立ち上げました。妻が使っていたノートPCです。

PCはフルート教室の生徒の管理や、楽譜の作成などにも使うこともあるから持って行くようにと言ったのですが、妻は身の回りのものと愛用のフルート以外はすべて置いて行くと言って聞きませんでした。

受信フォルダに一通のメールが届いていました。差出人は「香澄」。離婚した妻からのマイミクの招待状です。

「ヨーコさんがゆかりんさんのページを探し出し、ゆかりんさんがあなたのページを教えてくれました。あなたは私と友人になることはないとおっしゃいましたが、せめてネット上の存在である『香澄』とならマイミクになっていただけませんか。もしこのメールが不愉快ならば申し訳ございませんが、削除してください」

私は少し考えて香澄の申し出を承諾しました。私の「マイミク」のリストが「ゆかりん」と「香澄」の2人になります

  1. 2014/06/24(火) 08:26:42|
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蜃気楼 第61回

私は「香澄」のページにアクセスします。香澄のマイミクは私一人です。もともと誰かの招待がないとページは作れないはずですが、香澄はおそらく「かすみん」として登録していた自分自身で「香澄」を招待し、「かすみん」名義の方は退会したのではないかと思います。そこには村瀬や久美との関係を断ち切る意図があったのかも知れません。

そこには簡単なプロフィールと日記だけが置かれてあり、コミュニティの登録などはありません。私は香澄の日記の最初の記事をクリックしました。

「あなたへ」

1行目の文字が飛び込んで来た時、私はなぜかとても懐かしいものを見たような気がしました。私は香澄の日記を読み続けます。


「あなたへ

いつか読んでもらえる日が来るかもしれないと思い、あなたへのお手紙を書くことにしました。パソコンは置いて来ましたので今は美奈子のものを借りて書いています。ミクシイというのは本当に便利ですね。

あなたは香澄が死んだものと思うとおっしゃいました。死人からの手紙を読まされるのは気分の良いものではないかも知れません。不快に思われたら申し訳なく思います。

それでもこうやってお手紙を書いているのは、私があなたに、村瀬君とのことをきちんと説明出来ないままだったからです。これから新たな生活を始めようとされているあなたにとっては今更聞いたところで不愉快なだけかも知れませんね。どうか私の最後の我儘だと思ってどうかお許しください。

それと始めにお断りして置きますが、これは遺書ではありません。これ以上馬鹿なことをしてあなたにご迷惑をおかけする積もりもありませんので、どうかその点はご心配なさらないでください。

私が村瀬君とどうしてあのような関係になったのか、最初は自分でも分かりませんでした。あなたのことを愛していたのは事実です。以前あなたから聞かれた時、村瀬君とのことは恋ではないと言ったことがあります。あれも私の本当の気持ちなのです。

家を出てからアパートに落ち着くまで、美奈子や佐和子のお世話になったので、2人には今回のことは話しました。案の定とても叱られてしまいましたが。

美奈子や佐和子は陽一と栄治が独立した寂しさから、母性の行き場を求めたのではないかと言ってくれました。確かにそういう理由もあったのかも知れませんが、それだけではありません。

私は目の前に迫って来る老いが怖かったのだと思います。私ももうすぐ50です。あと何年あなたは私のことを女と見てくれるだろうかと、訳もなく不安になりました。そんな時に、無条件の憧憬を捧げてくれる若い村瀬君に惹かれたというのが私の本心だと思います。昨年の5月の連休に、久美さんと一緒とはいえ村瀬君と一緒に旅行するということに、私は確かにうきうきしていました。

村瀬君がただの若い男というだけでは私はこれ程は惹かれず、また仮にそうなったとしても肉体関係を結ぶなどと言うことは決してなかったと思います。5月の旅行で突然村瀬君と2人きりになってしまい、それが久美さんの計画だと知った時、私はその場で帰るつもりでした。

ただ久美さんから理由を聞かされ、旅行を続けることを懇願され、そして私が半ば恐れ半ば期待したようにその夜村瀬君から身体を求められた時に許してしまったのは私なりの理由があるのです。

あなたは否定するかも知れませんが、村瀬君は昔のあなたにとても良く似ています。顔のどこがどう似ているという訳ではないのですが、全体の雰囲気や話し方が学生時代のあなたを思わせます。自信家で負けず嫌いなところ、我儘で理屈っぽいところ、そしてとても優しいところ、あなたにそっくりなのです。

その気持ちをより深く持ったのは村瀬君のフルートの音色でした。村瀬君は私に認められたいと懸命に練習し、ロングトーンや音階などの退屈な基礎練習を必死でこなしました。そうやってみるみる上達して行く姿や、そのフルートの澄んだ空気のような音が、昔のあなたにそっくりでした。

あなたは昔、私が住む日本海の近くの町に来てくれた時、2人で蜃気楼を見に行ったことを覚えていますか。とても美しくて不思議な海上の浮き島に見とれる私に、あなたは蜃気楼がどうして出来るのか教えてくれました。

蜃気楼は空気の状態の加減で光が屈折し、遠くの風景がすぐ近くにあるように見える。私は遠くにある実態を幻のように見ているのだと。

  1. 2014/06/24(火) 08:27:38|
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蜃気楼 最終回

WR 1/30(火) 13:18:48 No.20070130131848 削除
私はあのころあなたと今で言う遠距離恋愛を続けていました。あなたには平気な顔をしていましたが毎日がとても苦しい日々でした。あなたが身近にいる、私以外の女の子に気を移すのではないかと理由もない不安にさいなまれました。

そんな女の醜さをあなたには見せないようにしていましたが、あなたが電話や手紙で何気なくサークルの女の子の話題に触れると、嫉妬にこの身が焼けるような思いでした。

私にとってあの頃のあなたは、実態が見えない蜃気楼のようでした。でも、2人で海辺に立ち不思議な風景を眺めながらあなたが私の手を取ってくれたときは、あなたは幻ではなくて確かにここに存在しているのだと思えたのです。

久美さんが母親からの呪縛から離れられない村瀬君のことを思い、見えない母親の影に嫉妬して苦しんでいる姿はまるで昔の私を見るようでした。あなたにとって久美さんはとても腹立たしい存在でしょうね。だけど、私がもし彼女の立場に立ったなら、彼女と同じことをしなかったとはいえないのです。どうか彼女を許してあげてください。

私にとって村瀬君は、遠い昔のあなたを幻のように見ている蜃気楼だったのかも知れません。だけど私は蜃気楼には必ず実態があることを忘れていました。近くにいて私を愛し、支えてくれるあなたを忘れて、私はいつまでも蜃気楼に見とれていたのです。

私は今、自分のしたことの愚かさ、罪深さに身が震えるような思いです。あなたに会いたくてたまらない私がいます。だけどあなたが身を削るような思いをしながら私のことを忘れようとしているのに、私があなたに縋るのはさらに罪深いことでしょう。

それなのにあなたがいつか読んでくれると思いながら私はこの日記を書き、ヨーコさんが山のようなミクシイの会員からあなたの知り合いを探してくれることに頼り、ゆかりんさんがあなたを信頼している部下だと知って勝手なお願いをしました。私はやはりずるい女です。

あなたが言ってくれた「香澄は自分にとって、妻か恋人でしかありえない」という言葉の重みを、私は今改めて噛み締めています。私にとってもあなたは夫か恋人でしかありえません。お身体に気をつけて、いつまでもお元気でいてください。

香澄」


私は香澄からの手紙を何度も読み返しました。最初に感じたのは、高校時代に香澄から転校の話を聞いた後の「香澄がいなくなる」という胸が締め付けられるような思いでした。

結局私がわかったことは、死んでいないものを、死んだものだとはどうしても考えられないということです。香澄が私とこの地上で生きている、同じ空を見上げ、同じ空気を吸っている。そのことが私をたまらない気持ちにさせます。それは苦しみとは違います。私の心と身体の半分が引き裂かれて、互いに半身を求めているような気がするのです。

私はしまいっぱなしにしているフルートを取り出しました。汚れを取り、表面を磨き、キーに油を差すと吹ける状態になりました。頭部管に口を当てて吹くと何とか音は出ますが思ったような音色ではありません。私はフルートを組み立て、ゆっくりロングトーンの練習を始めました。


それから一週間ほど経ったある日の夜、私は都内のあるターミナル駅前にある音楽教室に向かっていました。そこには香澄が講師を務めているフルートの教室があります。

私が部屋に入ったとき、ちょうどレッスンが終わったばかりで、香澄は最後に残った生徒の質問を受けていました。香澄は私が入ってきたのにも気づかず、熱心に指導をしています。ようやくその生徒がぺこりと頭を下げて指導は終わります。優しげな微笑を浮かべながら生徒を見送った香澄と私の目が合いました。

「あなた……」

香澄の目が驚きに見開かれます。

「手紙を読んだ」
「……ありがとうございます」

香澄は少し恥ずかしげに目を伏せます。

「香澄、俺からも言い忘れていたことがあった。聞いてくれるか」
「……はい」
「俺にとっての香澄は恋人か妻でしかないと言ったが、一つ忘れていたことがあった。香澄は俺のフルートの先生だった」

伏せたままの香澄の睫毛がかすかに震えました。

「俺はまたフルートの練習を始めることにした。だが、俺は忙しいから、教室に通う時間がない。それに折角作った防音室の使い道がなくて困っているから、通いで個人レッスンをしてくれる先生を探している」

香澄は私の顔を見ながら首を傾げます。

「半年前に香澄は俺と約束をしたな。俺の言うことは何でも聞くと。あの約束はまだ生きているか?」

香澄はこっくりと頷きました。

「それじゃあ早速打ち合わせをしたい。時間はあるか?」
「はい」

再び香澄が頷くのを確認して私は教室を出ると、駅に向かって歩き出します。香澄は特に小柄というわけではありませんが、180センチを超える私とはかなり身長差があります。大きな歩幅で歩く私に香澄は懸命に着いてきました。


(了)


ご愛読ありがとうございました。応援・感想BBSでたくさんのメッセージをいただいたことに深く感謝いたします。ひとつひとつにレスが出来なかったことをお詫びいたします。
  1. 2014/06/24(火) 08:28:57|
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雲の上を歩く 第1回

私四十四歳、妻三十九歳、小学校三年生の娘がいます。
それは半年前の金曜日。
仕事が終わって車に乗り込むと携帯が鳴り、見覚えの無い番号だったので不振に思
いながらも出てみると、聞き覚えの無い低い声でした。
「突然申し訳ない。弥生のご主人か?わしは池村組の池村だ。いつも弥生には世話
になっとります。」
それは、妻が一年前から事務の仕事に行っている先の、土建屋の社長でした。
その会社は、今では多少事業を縮小したもののバブル期に急成長した会社です。
妻の父親も数年前までは会社を経営していて、以前この社長と一緒に商工会議所の
役員をしていた事から懇意になり、その関係で妻は雇ってもらったと聞いていまし
た。
「お世話になっています。妻が何か?」
「電話では話せないので、これから一緒に飯でも食いながら話そう。わしの会社を
知っているか?会社から1キロ位北に行った所の右側に寿司屋が有る。そこで待っ
ているからすぐに来てくれ。」
そう言い終ると、私の都合も聞かずに一方的に電話を切ってしまい、余りの強引さ
や、会社ではそうなのかも知れませんが、私に対しても妻を呼び捨てにする事に良
い気はしませんでしたが、妻の事を考えると邪険にも出来ません。
妻の携帯に電話しましたが電源が切られていたので、いつもの様に実家に行ってい
ると思い、一応自宅にも電話しましたがやはり出ません。
それと言うのも、義父は病気になり入院していたのですが、今は自宅で義母が看て
おり、妻はほとんど毎日仕事が終わると実家に行っています。
義父の心臓にはペースメーカーが入れてあるので、実家にいる時は携帯を切ってい
ると言われています。
会社の建物は、隣の街に有る妻の実家に行く途中の国道沿いに有り、建物自体そう
大きくはないのですが、周りがほとんど田んぼで、わりと目立つために以前から知
っていました。
寿司屋に着いて個室に通されると、そこには高そうなスーツを着た小太りの男が、
大皿に盛られたハマグリを手掴みでガツガツと食べています。
「すまんな。少し待ってくれ。」
初対面で、それも自分から呼び出しておいて、なんて失礼な奴だと思いながらも、
少ない髪に垂れそうなほど整髪料を付けてオールバックにしている頭と、異様に大
きく突き出たお腹で汗を掻きながら、必死に食べている姿が何処か滑稽で、そんな
姿を見詰めながら待っていると、ようやく食べ終わっておしぼりで手を拭きながら。
「悪かったな。わしは酒が呑めんのにハマグリの酒蒸しには目が無くて、温かい内
に全部食ってしまわないと気が済まん。女のハマグリはもっと大好物だが。ワッハ
ハハハハハ。おーい、ビールと料理を持って来い。」
伊勢海老のお造りなどの豪華な料理が並び、ビールを勧められたので。
「車なので、アルコールはご遠慮します。それよりも妻が何かご迷惑でもお掛けし
ましたでしょうか?」
「そう焦らずに料理を食え。人間、腹が減っていては短気になって冷静になれん。」
「いいえ。先に聞かせて頂かないと、落ち着いてご馳走になれません。」
私はこの男と一緒に食事する気に成れずに、早く帰りたくて焦っていました。
  1. 2014/07/02(水) 08:53:25|
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雲の上を歩く 第2回

池村は返事もしないでガツガツと料理を食べていましたが、こちらも見ずに突然。
「弥生を俺にくれ。」
「は?意味が分かりませんが。」
「意味?聞いたとおりだ。弥生と結婚するから離婚してくれ。」
「勝手に決められても弥生の気持ちも有るし、離婚など出来ません。」
こんな理不尽な事はもっと怒って、きつく断れば良かったのですが、あまりにも突
然の事で頭がついて行かず、断る言い訳をしていました。
「弥生は承諾しているから後は君だけだ。弥生もわしと一緒になりたいと言ってい
る。付き合い出して半年経つから、君も薄々は知っていたのだろ?」
私に思い当たる事は全く無く、自分でも仲の良い夫婦だと思っていました。
それどころか、先週の金曜日の夜も普通にセックスをしたばかりです。
この男は妄想癖が有るのか、もしくは狂っていると思って席を立つと、ようやく箸
を置いて私を睨み。
「付き合っていると言っても誤解するな。法に触れるような事はしていない。中学
生のような清い交際だ。いや、今時の中学生なら半年も付き合えばやっているか。
ワッハハハハ。」
「弥生に限ってそんな筈は無い。訳の分からない事を言うな。」
「そうカッカするな。だから先に飯を食えと言っただろ。」
「こんな馬鹿な話は、腹が減っていようが満腹だろうが関係ない。」
「そう喧嘩腰にならないで男らしく諦めろ。弥生はわしの事を好きだと言っている。
結婚していても気持ちまでは縛れんぞ。君よりわしの方を好きになったのだから仕
方が無いだろ?君にはまた君に合った女が現れる。気持ちが他の男に移ってしまっ
たら一緒に居る意味が無いだろ?毎日弥生を見ていて、早くわしのマラでヒーヒー
言わせたくて仕方が無から、出来るだけ早く離婚してくれ。ワッハハハハハハ。」
「あんた頭がおかしいのか?はっきりと断る。」
車に乗っても、まだ心臓がドキドキしていて訳が分かりません。
私は大学生の時に相次いで両親を亡くし、親の借金が残りましたが、今の家を手放
すのが嫌で相続を放棄せずに中退して働き、少しずつですが毎月返済していました。
借金を返し終わるまで恋愛など出来ないと思っていましたが、あるサークルでの隣
町との交流会で妻と知り合い、最初私の事をからかっていると思ったほど、純粋で
世間に擦れていないところが可愛く好きになりました。
何故か妻は両親に対して、恋愛をしている事に罪悪感を持っていて、妻の希望で秘
密の交際を続けましたが、私の借金が完済出来た時に、妻との結婚をお願いしに行
きました。
しかし妻の両親は激怒し、借金は返し終わっていてもお金が無い事、大学を出てい
ない事、何より家柄がつり合わない事を理由に、何回行っても門前払いだったので、
最後には、親兄弟のいない身軽な私は、妻も1人っ子なので養子に入る覚悟もした
のですが、異常にプライドの高い妻の両親は、私の事を野良犬とまで言って受け付
けません。
結局何にでも一途な妻が、初めて親に逆らって家を飛び出し、私の家に来て一緒に
暮らし出しました。
何年かは子供に恵まれませんでしたが、その後娘が生まれると、やはり孫は可愛い
のか、妻と娘は何かに付け家に近づけるように成りましたが、大事な一人娘を奪っ
た憎い私の事は受け付けません。
義父が入院した時も見舞いに行くと妻に言ったところ、その日に義母から電話で。
「あなたに会うと興奮して良くないから、出来れば遠慮して下さい。」
歳を取ってから出来た一人娘が可愛いのは分かっても、この執念深さには怒りを覚
えましたが、正座して私に誤る妻を見て、その時はぐっと怒りを飲み込みました。
そのような思いまでして結婚し、その様な思いまでして私に付いて来てくれた妻に
限って、池村が言ったような事は決して無いと信じています。
何より、ほとんど大きな喧嘩もしないで仲良くやって来たし、今でも金曜日の夜は
毎週愛を確かめ合っていました。
  1. 2014/07/02(水) 08:54:07|
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雲の上を歩く 第3回

とにかく妻の話を聞きたくて急いで帰ると、そこにはいつもと変わらぬ笑顔の妻が
いたので少しホッとしました。
「パパ、今日はいつもより遅かったのですね。真理だけは食事を済ませたので、私
達の食事をすぐに仕度しますから、先にお風呂に入って来て下さい。」
「いや、それより話がある。」
私の深刻そうな顔を見て、娘はお風呂に入るように言って連れて行き、戻って来る
と、下を向いて小さな声で。
「何か有ったのですか?」
「ああ、ママの勤めている会社の社長の事だ。」
妻の顔が見る見る青ざめていきます。
「あいつに話が有ると言われて今まで会っていたが、あいつは気が狂っているぞ。
体の関係は無い清い交際だが、ママと半年も付き合っているとか、ママが自分の事
が好きで結婚したがっているので、早く離婚してくれと言われた。そんな事は有る
はずが無いのに、あの社長は変だし気味悪いから勤めは辞めろ。」
妻の目に見る見る涙が溜まり、それが流れ落ちるのと同時に声を出して泣き崩れま
した。
「エッ。うそ。どうして泣いている?なぜ否定しない?悪い冗談は止めてくれ。」
泣き崩れた妻の両肩を掴んで起こした時、妻が小さな声で一言。
「ごめんなさい。」
妻の肯定した言葉を聞いてその瞬間、思い切り頬を叩いてしまいました。
思わず叩いてしまいましたが、今の状況が自分でも理解仕切れずに動揺していると、
妻の泣き声を聞いた娘が慌ててお風呂から出て来て。
「ママをいじめないで。パパ嫌い。」
そう言いながら娘も泣き出しました。
「真理、違うの。ママが悪いの、パパは悪くない。ママが悪いの。ごめんね、ごめ
んね。」
「ママが悪いと言う事は?うそだろ?そんな馬鹿な事って。」
「ごめんなさい、この子の前では。明日きちんとお話ししますから今日は許して下
さい。」
妻は泣きながら逃げるように、娘を子供部屋に連れて行って出て来ません。
すぐに後を追おうと思いましたが、あまりに急な展開に、これが現実に起きている
事なのかどうかも判断出来ずに、後を追う気力も問い詰める気力も湧いて来ません
でした。
私にとっては、それほど予期しない突然の出来事だったのです。
次第に不安は怒りに変わり、中々寝付かれずに何度も娘の部屋の前まで行きました
が、その度に妻のすすり泣く声を聞いて、事実を受け止めるのが嫌で何も言わずに
戻って来ていました。
しかしいつの間にか眠ってしまい、起きると会社へ行っていなければ時間だったの
で、一瞬慌てましたが今日は土曜日だった事に気付き、それと同時に昨夜の事も思
い出し、娘の部屋に行きましたが妻も娘もいません。
おそらく妻は寝ずに私が眠るのを待って、家を出たのだと思います。
携帯に電話しても繋がらず、妻の実家に電話すると義母が出て。
「弥生?何を言っているの、今日は土曜日よ。いつもの様に真理を預けて仕事に行
ったわよ。あなた大丈夫?」
義母は本当に何も知らないようでした。
  1. 2014/07/02(水) 08:54:51|
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雲の上を歩く 第4回

この様な時に会社に行っているはずは無いと思っていても、携帯が繋がらないので
探しようが無く、あの男の所へ行ったのかとも思いましたが、自宅も分からないの
で、妻の勤め先に行ってみるしか有りません。
会社に行くと、何故か事務所は暗くて誰もいなかったので、外でトラックに重機を
積んでいた二人組に。
「社長にお会いしたいのですが。」
「社長?今日はたぶん来ないよ。土曜日は現場の者だけで事務は休みだから、部長
に任せて社長はめったに来ない。部長ならもう来る頃だから、部長では駄目か?ど
うしても社長に急用なら自宅へ行きな。ただ土曜日は急に行くと機嫌が悪いから電
話してからの方がいいぞ。」
妻は土曜日も仕事だと言って、毎週出社していたので不安は大きくなり、池村の自
宅を聞いてから、妻の事を何か聞き出せないかと思い。
「そういえば以前、飲み屋で意気投合した夫婦の奥さんの方が、ここに勤めている
と聞いた覚えが有るのですが、元気にしてみえますか?たしか弥生さんという名前
だったと思いますが。」
「弥生?そんな人はいないぞ。」
「おい、あの人の事じゃないのか?社長の。」
もう一人の男が小指を立てながら言うと。
「そうだ。あの色が白くてオッパイのでかい奥さんは、確か弥生とか言ったな。彼
女なら最初ここの事務をしていたが、半年ぐらい前から社長の家のお手伝いさんを
しているよ。事務をしているより給料がいいらしいからな。」
「いや、給料と言うよりお手当てだろ。お手伝いと言っても前から一人いるし、大
きな家だと言っても、二人も必用なほど仕事も無いから、両手に花でいったい何の
お手伝いをさせている事やら。社長は女癖が悪くて、それも人妻専門だからな。い
けねー。調子に乗って喋り過ぎた。社長に会っても今の話は内緒にしてくれよ。」
私は妻の事を完全に信用していて、何も知らない間抜けな亭主でした。
まさかと思っている事が、どんどん現実の物と成っていきます。
池村の家は会社から車で五分程の所に有り、高い塀で囲まれていて、大きく立派な
アルミ製の門扉がある、寄棟作りの豪邸でした。
二人組の言っていたとおり門が閉ざされていたので、インターホンを押しましたが
返事が有りません。
諦めきれずに押し続けていると、ようやくあの男の声がして、家の中から開ける事
が出来るのか、次の瞬間ガチャッという鍵の開く音がしました。
「今開けたから入って来い。家に入ったら玄関のすぐ右の部屋にいるから、勝手に
上がって来い。」
私だと分かった事が不思議で上を見ると、そこには防犯カメラがこちらを見ていま
した。
部屋に入ると、すでにそこにはバスローブを着たあの男が座っていたので。
「弥生を出してくれ。ここにいるのだろ?」
「残念ながらここには来ていない。君に殴られて口の中が切れ、頬も腫れているの
で、今日は休ませてくれと電話があった。暴力も立派な離婚理由になるから、診断
書を貰っておけと言っておいた。女を殴るとは男として最低だな。女を手荒に扱っ
てもいいのはアレの時だけだ。ワッハハハハ。」
その時、年の頃四十二、三歳の着物を着た綺麗な女の人が、お茶を持って来てくれ
たのですが、慌てて着たのか何処となく着崩れしている様に見えました。
私が目で追っていると、池村もそれに気付いたのか。
「今まで何をしていたか分かってしまったか?ワッハハハハ。着物ぐらいきちんと
着て来い。」
彼女は下を向いて、恥ずかしそうに小さな声で。
「申し訳ございません。」
「そんな事はいい。弥生は本当にいないのか?」
「君の想像通り、わしは今こいつを抱いていたから、わしには何処にいるのか分か
らん。たぶん今頃はわしが指定した病院で、診断書を貰う為に診てもらっている頃
じゃないのかな。疑うなら家中探してみるか?」
「今までこの人を抱いていた?お前は妻と結婚したいのだろ?」
「それとこれとは話が別だ。いけないのか?わしは毎日出したくて仕方が無い。浮
気が駄目なら弥生を抱いてもいいのか?ワッハハハ。」
「ふざけるな。」
「そんな事より早く探さなくてもいいのか?おい、家中案内してやれ。」
「はい、旦那様。」
あまりに落ち着き払った態度と、自信ありげな声だったので。
「もういい。必ず訴えてやるからな。」
「訴える?何の罪で?よその奥さんと付き合っているだけで何の罪だ?うちの弁護
士先生によると、身体の関係を持てば不貞行為とやらで民法に触れるらしいが、キ
スぐらいでは罪にならないらしい。今のわし達はそれすらも無い。仮にもう弥生を
抱いた事が有ったとしても、刑法には触れないから金で済む。それに第一証拠も無
い。さあ、何で訴える?」
それまで法律の事など何も知らなかった私は言い返す事も出来ず、情け無い事に負
け犬が尻尾を丸めて逃げるように車に戻りました。
  1. 2014/07/02(水) 08:55:36|
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雲の上を歩く 第5回

車の中でしばらく考えていると少し冷静さを取り戻し、相手の情報が無い事には対
処の仕様も無いと思っていると、車を走らせてすぐに、玄関先で立ち話をしていた、
五十代らしい奥さん二人を見つけて車から降り。
「突然すみません。そこの角を曲がった所の、池村さんについて少し教えて頂きた
いのですが。」
「なに?東京にいる娘さんの縁談?それとも外国にいる息子さん?」
「詳しくは話せませんが、その様なもので。池村さんとはどの様な方ですか?」
「縁談だと話し難いな。娘さんも息子さんも凄く良い子だから。ただ父親は。」
「決してお聞きした事は言いませんからお願いします。」
「言い難いけど、あの人の事を良く言う人はいないわ。かなりお金を持っているら
しいからチヤホヤする人もいるらしいけど、この近所では真ともにお付き合いして
いる人は誰もいないわ。ただ、縁談となると子供達は本当に良い子だから、これ以
上は言い難いわ。」
言い難いと言いながら、初対面の私にこの様な事を話す事から、近所では嫌われて
いるのだと思いました。
「いいえ、実はお子さんの縁談ではなくて、池村さんについて調べているのです。
奥さん達の事は決して言いませんから、知っている事が有りもしたら、どの様な事
でも結構ですから教えて頂け無いでしょうか?」
「分かった、興信所の人でしょ?またよその奥さんに手を出したの?懲りない男ね。」
「またと言いますと?」
この奥さんの話では、池村は若い時に年上の人妻に手を出して妊娠させてしまい、
散々揉めた挙句、その人と結婚して子供を二人もうけたのですが、その後も人妻に
手を出す癖が治らずに夫婦喧嘩が絶えず、結局奥さんを家から追い出してしまった
そうです。
金儲けは上手いらしく、バブルの時代に可也土地の売買で儲け、悪運が強いのか鼻
が利くのか、バブルが弾ける前に全て売り払い、それを掴まされた人の中には何人
か自殺までした人がいると噂されたそうです。
その後は金に物を言わせて人妻に手を出し続け、奥さんに手を出されたらしいご主
人と、玄関先で言い争っていたのを何回か見ているとの事でした。
「未だに殺されないのが不思議なくらいだわ。反面教師なのか子供達は二人共、真
面目で優しい子共達だったから、そんな父親が嫌で高校を出ると相次いで家を出た
のよ。あなたはお隣だから、もっと知っているでしょ?」
するともう一人の奥さんが、待っていましたと言わんばかりに話し出しました。
「住み込みでいるお手伝いさんも、元は池村さんが手を出した人妻だったと聞いて
いるわ。その事が原因で離婚されて行く所が無かったので、住み込みで働くように
なったと噂よ。その他にも、たまに来ている人妻らしい人を何人か見ているけど、
良し悪しを別にすれば五十代半ばで凄い精力ね。うちの亭主も少しは見習って欲し
いわ。もしかして調べているのは、もう一人お手伝いとして、毎日通いで来ている
色白の若い奥さんの事?」
ズバリ言い当てられ、咄嗟に興信所の振りをしてしまい。
「いいえ。色々教えていただいたのに申し訳有りません。守秘義務が有って、私か
らはあまり答えられないのです。」
しかし、私の動揺が顔に出たのか。
「そうなのね?池村さんの趣味なのか普段は着物を着せられているけれど、時々凄
い格好でいるのよ。あの奥さんは凄く色が白くて可愛い感じだから三十代前半に見
えるけど、本当は三十代半ばでしょ?」
守秘義務が有ると言いながら、動揺していた私はつい。
「いいえ、三十九歳です。」
「やっぱりあの奥さんの事だったのね。三十九歳なの?普段は着物に着替えている
けど、三十九にもなって、たまにパンツが見えそうな凄いミニのスカートを穿いて
いたり、時には赤や黒の下着が透けて見えるシースルーの服を着ている事も有るの
よ。行き帰りは大人しい服装なのに、あんな格好に着替えて男の気を引こうなんて、
いやらしいったら無いわ。可哀想に、あなたに依頼したご主人は、まだ何も知らな
いのでしょうね。あっ、勘違いしないでよ。お隣を覗いている訳ではなくて、洗濯
物を乾している時や取り込んでいる時に、ベランダから見えてしまうのよ。」
次第に考えた事も無かったような、私の知らない妻の姿が浮き彫りになり、動揺を
隠せませんでした。
「顔色が悪いけれど大丈夫?」
「そうですか?別に何も。それよりも、もう一つ教えて欲しいのですが、仮にその
奥さんと池村さんが不倫しているとしても昼間のお手伝いなので、会える時間はそ
れほど無いと思うのですが?」
「何を言っているの。昼食はほとんど自宅に帰って来て、二、三時間いる事も有る
し、昼に帰って来ない時は午後に帰って来て、二時間ぐらいいることもざらよ。そ
れに、土曜日は朝から門まで閉めて一歩も外に出て来ない事が多いし、月に二回は
泊まりらしくて日曜の午前中に帰って行くわ。そうそう、以前社員の人が、急用が
出来たらしくて土曜日に来た事が有ったけれど、門の外で三十分以上待たされた上
に、土曜日は何が有っても来るなと怒鳴られていたわ。自治会の用があっても土曜
日は居留守を使われて誰も出てこない事が多いから、私も土曜日は行かない事にし
ているの。門まで閉めて中で何をしている事やら。」
まだ尋ねたい事は有りましたが、立っているのがやっとの状態で、それ以上聞いて
いる事が出来ませんでした。
  1. 2014/07/02(水) 08:56:22|
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雲の上を歩く 第6回

どこの道を何処に向かって走ったのか、覚えが無いほど動揺していましたが、池村
が病院かも知れないと言っていたせいで、気が付くと以前義父の入院していた、こ
の街唯一の病院まで来ていました。
しかし何処の駐車場にも妻の車は無かったので、諦めて家に帰って携帯に電話する
と意外にもすぐに繋がり。
「今何処にいる?今からそこに行くから待っていろ。」
「車の中です。ごめんなさい、私が帰ります。」
池村は体の関係を否定していましたが、何回かのトラブルで法律に詳しくなって否
定しているだけで、あの男に限って清い交際など無いと確信を持ったので、家に一
人でいると、妻の体を脂ぎったあの男が好きにしている光景を想像してしまい、気
が狂いそうでした。
妻は入籍していなかったので戸籍上初婚でしたが、実は大学を出てすぐに、親に決
められた何処かの会社経営者の次男坊と、婿養子に入ってもらう約束で一度結婚し
ています。
箱入り娘で育てられた妻は信じ難いほど初心だったのに、相手の男も初めてだった
らしく、結婚式当日の夜、式を挙げたホテルの部屋に入るや否や、突然全裸になっ
て迫って来たそうです。
妻は男性のペニスを見たことも無く、ましてや既に大きく勃起しているのをいきな
り見せられ、怖くなって泣きながら逃げ回りました。
それでも男は強引に抱き付いてキスをしようとした為に、妻は相手を突き飛ばして
逃げ帰り、そのまま離婚となったようです。
私とは入籍を済ませてからでしたが、やはり関係を持つのに、優しく諭しながら一
ケ月以上掛かりました。
妻は未だに性に関しては閉鎖的で、普通の週刊誌ですらヌード写真が載っている物
は、目の届く場所に置いてある事を嫌がります。
セックスも、楽しむ為の行為では無く、子供を作る為の行為だと言った事が有り、
そんな妻は自分から求めて来た事は無く、行為中も終始受身でした。
口でして欲しいと何度か頼んだ事も有りましたが、人間のする事では無いと断られ、
未だに、一度も口でしてもらった事が有りません
私は多少物足りなさも感じていましたが、二人で決めた週一回のセックスは拒んだ
事が無かったので、そんな初心なところも好きで結婚したのだと、自分に言い聞か
せてきました。
現実を受け止めなければいけないのに、そんな妻が他の男に、ましてやあんな男に
抱かれていたなどとは、正直、未だに信じられません。
帰って来た妻は、部屋に入るとすぐにまた無言で土下座しました。
「真理はどうした?」
妻は頭を下げたまま。
「実家に暫らく預かってもらいます。学校へは母が車で送り迎えしてくれるそうで
す。勝手な事をしてごめんなさい。」
私は出来る限り穏やかに話そうとしました。
「今日は今まで何処にいた?あいつの所か?」
「いいえ、車で一人考えていました。」
確かに池村の駐車場には、高級外車が二台止まっていただけで、妻の車は有りませ
んでした。
「関係の無い事を聞くが、ママは車で仕事に行っていただろ?車は路上駐車か?」
「何故です?お屋敷と塀の間を入って行くと、裏に小さな駐車場が有ります。」
これで、今日私が行った時も、どこかの部屋に隠れていた可能性が出てきました。
「本当は今日も行っていたのだろ?正直に話してくれ。」
「いいえ、一人で車にいました。」
妻の返事は消え入りそうな小さな声だったので、嘘をついていると思いましたが、
これ以上聞いても答えないだろうと思い。
「そうか。それよりママは俺の事を嫌いになったのか?俺は未だに信じられない。」
「いいえ、嫌いでは有りません。」
「それならどうしてあんな男に抱かれた?半年も毎日抱かれていたのだろ?土曜日
は仕事だと嘘をついて朝から晩まで、いや、実家に泊まると言って、日曜の朝まで
抱かれていたのだろ?あの男の事を知っているか?あいつは今でも何人もの人妻と
付き合っているのだぞ。お手伝いの麻子さんとも関係が有るのだぞ。」
私は妻の真意が分からず、次第に声を荒げていました。
「体の関係は有りません。それに実家に行っていたのは本当です。月に一度か二度
は日曜日に大事なお客さんが来られるので、遅くまでその時出すお料理の下準備を
して、次の朝仕度をして帰る事があったので泊まりの日も有りましたが、体の関係
は有りません。本当です。住み込みの麻子さんに聞いて下さい。」
妻は機転が利く方では無いので、咄嗟にこの様な嘘を言える女で無い事は分かって
います。
池村が私に告白したのは、妻にとって予期せぬ事だった為に子供部屋に逃げ込みま
したが、おそらくその後は池村に、この様な事を聞かれたら、こう答えろと指示さ
れているのでしょう。
「トラブルに成らないように、そう言えとあいつに言われたのか?第一どうして会
社の事務に行っていると嘘をついていた?そんな事を信用できる訳がないだろ。」
妻はようやく顔を上げて、涙を流しながら。
「お手伝いとして働くのは、パパに反対されるだろうと思って。お願いします、離
婚して下さい。パパの事は今でも好きですが、パパより彼を愛してしまいました。
彼とは離れられません。愛してしまいました。」
声を出して泣きながら、また妻は頭を下げました。
  1. 2014/07/02(水) 09:12:31|
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雲の上を歩く 第7回

怒りの収まらない私は池村に電話し。
「毎週土曜日は朝から門まで閉めて何をしていた?泊まりの日も有っただろ?体の
関係が有った証拠じゃないのか?俺は絶対に離婚しないしお前を許さない。必ず訴
えてやる。」
「おいおい、変な事を言うな。今は忙しいから三十分後にこちらから電話する。」
そう言い終ると一方的に電話を切り、四十分ほどして私の携帯が鳴ったので、見覚
えの無い番号でしたが出てみると、それは弁護士だと名乗る男からで。
「今池村さんからお聞きしましたが、あなたの言い分には無理が有ります。奥様と
はちゃんと雇用契約が出来ていますし、きちんと給料も支払われています。あなた
の言い分だと、世の中のお手伝いさんや家政婦さんを雇っている人は、みんな不貞
行為で訴えられる事に成りませんか?訴えるなら止める権利は有りませんが、恥を
掻くだけですよ?あなたの弁護をする訳では無いので余計な事ですが、不貞と認め
られるのは、ホテルなどへの出入りしている写真があるとか、同じ部屋に二人だけ
で数時間いた事が証明できる物、不貞行為を働いたと認めた違法で無い録音などで、
最近ではメールなども参考にしますが、メールだけでは弱いようです。この様な証
拠を何かお持ちですか?」
「いや、無い。」
「そうでしょうね。池村さんは、不貞は働いていないと言っておられるのですから、
有る筈が有りません。それよりあなた達が離婚する時は、解決金として五百万払う
と言っておられます。これは破格の金額で、不貞行為が有って離婚した場合でも、
多くて三百万がいいところです。あなたも、いつまでも未練たらしくしがみ付いて
いないで、奥様を自由にしてあげて、早く新しい人生を歩まれた方が懸命だと思い
ますが?」
「何を勝手な事を。俺は絶対に離婚しない。」
「あなたが離婚を拒む場合、奥様から離婚調停を申し立てる事になります。手元に
全治三週間の診断書が有るそうです。あなたは奥様に暴力を振るったそうですね?
それに今までも度々暴力を振るっておられた。その事を池村さんに相談していて、
奥様の方が次第に好きになってしまったと聞きました。これはDVで有り、立派な
離婚理由になります。」
「全治三週間?確かに今回妻を叩いたが、そんなに酷くはやっていないし、今見て
も何処も怪我などしていない。知り合いの医者に頼んで書いてもらったのか?第一
叩いたのは今回だけで、今まで妻に手を上げた事など無い。嘘ばかり言うな。」
「そうですか。それでは調停でお会いする事になりますね?それでも話がつかない
時は法廷でお会いする事になると思います。その時は宜しく。失礼します。」
今回妻を叩いてしまったのは事実ですが、あとは身に覚えがなく。
「おい、医者に行ったのか?医者に行くほど酷い怪我をさせたか?今まで暴力を振
るった事が有ったか?嘘をついてまで俺と別れたいのか?」
「弁護士の先生に、この件について一切話しをするなと言われていて、今は何も言
えません。ごめんなさい。ごめんなさい。」
「お前も今の弁護士を知っているのか?相談しているのか?どうしてしまったんだ?
何故こうなってしまったんだ?」
その後色々問い掛けても妻は泣いて謝るだけで、一切他の事も話しません。
結局妻が口にしたのは「ごめんなさい。」と「離婚して下さい、お願いします。」と
いう二つの言葉だけでした。
私は着替えもしないで眠ってしまい、息苦しさで目が覚めると妻はパジャマに着替
えて私の横で、しっかりと私に抱き付いて眠っていました。
妻の温もりを感じていると、一昨日からの出来事が夢ではなかったのかと思えて来
ます。
ベッドから出ようとした時、妻は無意識により強く抱き付いてきましたが、その腕
を強引に振り解いても、一昨日から寝ていなかった妻は目を覚ましません。
この様な気持ちのままで明日から仕事に行けないと思った私は、今の状態の妻から
聞き出すのは無理だと思い、池村の家へ向かっていました。
  1. 2014/07/02(水) 09:13:42|
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雲の上を歩く 第8回

今日は日曜日なのに、今日も池村の家の門は固く閉ざされていて、留守かと思いな
がらも暫らくインターホンを押し続けていましたが反応は無く、仕方なく帰ろうと
した時、インターホンから池村の声がしました。
「離婚の報告に来たのか。今開けるから昨日の部屋で待っていてくれ。」
部屋に入ると誰もいませんでしたが、少ししてバスローブを羽織った池村が入って
きて、ソファーに尻餅をつくようにドスンと座り、タバコに火を点けたので私も気
を落ち着けるためにタバコを咥えると。
「良い条件だろ?別れてくれるのだな?それとも金額を吊り上げに来たのか?」
「金額の問題ではない。お前には絶対に渡さん。まだ妻を愛している。」
「愛している?ワッハハハハ。君は中学生か?愛だの恋だので女を選んだのか?」
「当たり前だ。お前も妻を愛してしまったから、私から奪おうとしているのだろ?」
「弥生の気持ちは知らないが、わしは愛してなどいない。いくらこちらが愛しても、
相手の気持ちが逃げれば悔しさだけが残る。永遠の愛など存在しない。わしは人を
愛する事など、中学生の時に辞めた。今の君もそうだろ?いくら君が愛していても、
相手の気持ちが無いと、悔しさが残るだけでどうにもならないだろ?」
「そんな事は無い。今も妻は、私の事を愛していると信じている。」
池村は寂しそうな顔で話していましたが、私の言葉を聞くと元の傲慢な表情に戻り。
「何をくだらん事を。それよりも女はオメ○だ。マラをねじ込んだ時に気持ちいい
かどうかだ。わしのマラに合うかどうかだ。好きな気持ちなどいつかは無くなるが、
オメ○の気持ちいい女とは心が離れても付き合って行ける。考えてみろ、男は仕事
が有るから女房と一緒にいられるのはほとんど夜だけだ。オメ○の具合がいい女が
一番に決まっている。わしは貝類には目がないが、この前言った様にハマグリが一
番好きだ。ずっとハマグリを探していた。ようやく見つけたハマグリを、わしだけ
の物にしたい。」
「妻がハマグリだと言うのか?妻とやったんだな?許さん。」
「君もしつこいな。わしは女に関して可也経験が有るから、顔や体付きを見ればオ
メ○の具合などすぐに分かる。もっとも、既に弥生のハマグリを味わっていたとし
ても、証拠が無ければどうにもならないと、先生から聞かなかったか?ワッハハ。」
私は殺意を覚えて立ち上がると池村は。
「流石暴力亭主。先生が五百万は出し過ぎだと言っていたから、殴ってもらった方
が、先生もやり易くなってその方がいい。ただ困る事が一つ有る。わしは他人の子
供など育てる気は無いから、娘は置いて来いと言っているが、犯罪者になられては、
わしの所で引き取らなければならなくなる。」
私は立ち上がったまま、どの様に対処すれば良いのか分からなくなり。
「寂しい男だな。お前の考えがどうであろうと俺には関係ない。俺の死んだ両親は
借金を残していったが、今まで怨んだ事など一度も無い。それまで充分過ぎるほど
俺に愛を注いでくれた。今の俺は家族を愛しているし、これからも両親がそうして
くれた様に、ずっと家族を愛していく。妻も同じだと信じている。離婚など絶対に
しない。」
池村は二本目のタバコを黙って吸っていましたが、乱暴に灰皿に擦り付けて火を消
すと立ち上がり。
「そうかな?愛する人の為なら死ねると言いながら、いざとなると自分が可愛くて、
自分を優先させる。特に女は相手を愛していると言っていても、そんな物すぐに捨
てられる時が有るぞ。家族の為なら我慢出来ると言いながら、結局はそう思ってい
る自分に酔っているだけだ。いざとなれば。」
「その様な事は無い。」
「まあいい、折角来てくれたのだから面白い物を見せてやろう。付いて来い。」
私は訳も分からず付いて行くとそこは書斎でしたが、この広い豪邸にしては不釣合
いに狭く、その部屋の奥にはドアが有り、微かにですが唸り声のような声が聞こえ
て来た様な気がしました。
「気が付いたかね?奥の部屋はわしの趣味の部屋だが、防音にしてもらったのにど
うもこの部屋を、二つに仕切ったこの壁の防音が甘いようだ。外回りは完璧だし、
この部屋が有るから外へ漏れる事はないからいいのだが。」
「防音の趣味の部屋?」
「ああ、他の空いている部屋を一部屋潰しても良かったのだが、流石に子供達には
見せ難い。何故か二人共わしを嫌っているから、ほとんど帰って来ないし、帰って
来てもわしの書斎など近づこうともしないのでここにした。もっとも、この家を出
て行く前から、わしの趣味を薄々感付いている様だから、今更知られたら知られた
で別に構わんが。」
池村が厚いドアを開けると、可也大きな呻き声が耳に飛び込んで来ました。
  1. 2014/07/02(水) 09:14:29|
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雲の上を歩く 第9回

背中を押されるようにその部屋に入ると、目に前の光景を見て私は言葉も出ません
でした。
この様な世界が有る事は勿論知っていましたが、四十四年間の私の人生には無縁で、
実際に有ると思っていても雑誌やビデオ、小説やインターネットの中だけの、作り
話の様な感覚でいました。
突然その様な世界を見せられ、金縛りに合ったかの様に動けません。
その部屋は広く、書斎とは違い畳が敷き詰められ、小さな床の間まで有って、和風
旅館の客間を広くしたような作りなのですが、大きく違うのは、壁は赤が基調で正
面には浮世絵が描かれており、何処にも窓が無い事です。
また、10センチほど床を高くしてある所にダブルサイズの布団が敷いて有るので
すが、天井には敷いて有る布団の上など、何箇所かに滑車が有り、そこからロープ
が少し垂れ下がっています。
部屋の右隅には大きな茶箪笥の様な物が置いて有り、左奥はこの部屋から突き出た
形で、檜風呂まで有るのですが、ただ唯一、この純和風の部屋には似つかわしく無
いのが、その風呂場はガラス張りに成っていて、シャワーも見えている事でした。
しかし私が、金縛りに合った様に動けなくなったのは、この異様な部屋を見たから
では有りません。
それは、敷かれた布団から少し離れた所で、両手を一つにされて天井の滑車から伸
びているロープに吊られ、大きな乳房の上下を、より大きさが強調される様に荒縄
で縛られた、妻と同じ年格好の女の人がいた事です。
彼女の足は、肩幅より大きく開いた状態で閉じる事が出来ない様に、足首を竹に荒
縄で縛られており、目と口には手拭いで、目隠しと猿轡をされています。
彼女の前にはもう一人、薄いピンクの長襦袢を着た女の人が立膝で座っているので
すが、肌蹴た胸元から大きな乳房を出した姿で、目の前の女の人の股間に入れられ
たバイブを動かしていました。
バイブを動かしていた女の人は、私に気付くとバイブから手を放し、慌てて胸元を
直して俯いてしまった為に、バイブは抜け落ちて床でうねっています。
少し垂れ気味の豊満な胸に目が行ってしまい、すぐには気付きませんでしたが、バ
イブを動かしていたのはお手伝いの麻子さんでした。
池村はドアを閉めると二人に近づき。
「誰が止めろと言った?」
「申し訳ございません。」
「まあ良い、それよりも逝かせて無いだろうな?」
「はい旦那様。」
「何回逝きそうになった?」
「三回です。」
「可哀想に。わしが居た時と合わせると、もう五回も我慢させられているのか。」
池村が吊るされている女の人の目隠しと猿轡を外すと、彼女は初めて私がいる事に
気付き、狂ったように泣き叫びました。
「イヤ~、イヤ~、こんなのイヤ~。」
「嫌ならやめるか?もう帰るか?貸した金を返せるのか?旦那の入院費はいらない
のか?子供達の学費はどうする?分かったら布団に行け。」
彼女は諦めたのか、縄を解かれると恥ずかしそうに両手で体を隠しながら布団の方
へ歩き、布団の上に乗ると体を隠す様に蹲って啜り泣いていました。
「何を今更隠している。そこに寝て足を抱えてお前のバカ貝をよく見せろ。」
彼女が泣きながら従ったのを見て。
「どうしてバカ貝か分かるか?近くに来て見てみろ、こいつの貝は片方だけビラビ
ラが飛び出している。正しくバカ貝だろ?」
そう言われても流石に近くまでは行けませんでしたが、それでも二歩前に進んでし
まい、悪いと思いながらも、自分がどの様な状況に置かれているのかも理解出来ず
に見てしまいました。
「さあ、一度入れてやるから、四つん這いになって尻を突き出せ。」
池村がバスローブを脱ぐと何も身に着けておらず、すでにペニスは勃起しています。
池村のペニスは真っ黒で、体型と同じく私よりやや短いのですが可也太く、特にカ
リの部分は異常に大きく張り出していて、裏ビデオでも見た事の無い変わった形に
見えました。
池村は彼女の後ろに跪き、両手はだらりと下げたまま。
「何をしている。この前教えた様に、わしのマラに手を添えて自分で入れないか。」
彼女は啜り泣きながら、左手で体重を支え、股間から右手を後に出
して池村のペニスを軽く持ち、自分のヴァギナに誘導しました。
池村の真っ黒なペニスは、彼女の手によって中に入ったのですが。
「ほら、これでは先だけしか入っていないだろ。少し後に下がって奥まで入れないか。」
「あっ。」
「よし、次はどうした。早く動かんか。」
彼女は前後にゆっくりと動き出しました。
  1. 2014/07/02(水) 09:15:13|
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雲の上を歩く 第10回

彼女が動き出しても、池村は腰を突き出しているだけで一切動かず。
「そんな遅くてはいつまで経っても、わしは気持ち良くならないぞ。ほら、ほら。」
池村が彼女のお尻を平手で叩きながら催促するので、彼女の動きは次第に早くなり。
「叩かないで、痛いです。お願いします、叩かないで。」
「叩かれるのが嫌ならもっと動け、ほら、ほら。」
彼女が、私がいる事も忘れて声を上げ出すと、池村は彼女の腰を掴んで、ようやく
自らも動き出し。
「まだまだだな。ほら、こうやって動かすんだ。」
「あ~ん、だめ~。そんなにされたら逝ってしまいます。逝ってもいいですか?も
う逝く、逝く、逝く。」
彼女は余程我慢していたのか、池村が動き出すとすぐに達する事を告げたのですが、
逆に池村は動きを止めてしまい。
「まだだ。わしがいいと言うまでは決して逝くな。もしも勝手に逝ったら今日は帰
さん。病院に行けなくてもいいのか?今日は旦那に会えなくてもいいのか?」
「いや~、あの人の事は言わないで~。」
池村はまた動き出したのですが、彼女の声が大きくなると、また腰の動きを止めて
しまいました。
「お願いします。お願いします。」
「何をお願いしている?もしかして逝きたいのか?逝ってしまうと今日は旦那にも
子供達にも会えないぞ。いいのか?愛する家族に会えないぞ。愛しているのだろ?」
そう言うと、また激しく腰を動かし続けましたが、また彼女の声が大きくなると止
めてしまいました。
「いや~、いや~。逝かせて、逝かせて。」
彼女はそう言いながら、自ら体を前後させようとするのですが、池村は腰を掴んで
動く事を許さず。
「旦那を愛しているのだろ?会いたいのだろ?それなら我慢しろ。愛する旦那を裏
切って、自分だけ気持ち良く逝ってもいいのか?」
そう言うと動き出し、動きを徐々に早くしながら。
「病院へ行って愛する旦那の様子を見たいだろ?今日は会えなくてもいいのか?
どうする?会いたいのか、会わなくても良いのか返事しろ。」
「もう駄目です。会えなくてもいいです。逝きたい、逝きます、逝く、逝く。」
それを聞くと、今度はペニスを抜いてしまったので。
「いや~、いや~。おかしく成ってしまう~。いや~。」
「本当に、会えなくてもいいのなら仰向けになって足を抱えろ。旦那への愛よりも
お前が気持ち良くなりたいなら、抱えた足を開けるだけ大きく開け。」
彼女は言われた格好になると左右に大きく足を開いた為に、ヴァギナも池村のペニ
スを待っているかの様に、ポッカリと口を開いていました。
「見てみろ。女なんて皆こんな物だ。愛だの恋だの言っていても、所詮自分が一番
可愛いのだ。それは例え子を思う母親でも大した違いは無い。」
そう言うと彼女を貫いて腰を激しく振りながら。
「まだまだだぞ。まだ逝くな。わしが良いと言うまでは絶対に逝くな。」
「もう駄目です。逝きます~。逝く、逝く、逝く、逝く~~。」
「勝手に逝ってしまったか。今夜は朝までお仕置きだな。」
彼女は抱えていた手を放して、足を投げ出してしまいましたが、池村は投げ出され
た足首を掴むと自分の両肩に乗せ、太腿を抱えた格好でまた腰を前後させながら。
「わしは女を調教するのが趣味だ。勝手に逝かせてしまっては調教にならん。快感
をコントロールさせてこそ調教だ。こいつは、普通には二回抱いてやったが、調教
を受けるのは三回目だからこの有様だ。そこにいる麻子は何十回もわしの調教を受
けているから、わしが逝ってもいいと言うまでは、何をされても逝かずに耐える。
腰の動きもそこらの商売女には負けない。でも麻子を手元に置いているのは、それ
だけの理由では無いぞ。こいつのオメ○はわしが二番目に好きなアワビだ。おい、
お前もここの横に寝てアワビを見てもらえ。」
しかし麻子さんは、返事もせずに俯いたままでした。
「ほう。お前がわしに逆らったのは久し振りだな。お前も久々にお仕置きか?」
それを聞いた麻子さんは立ち上がり、俯いたまま布団の方に歩いて来ました。
「早く裾を撒くってそこに寝て見てもらえ。いや、それよりも全部脱いで、お前の
いやらしい体を全て見てもらった方がいいな。アワビは指で開いて中もよく見ても
らえよ。」
池村に責められている彼女は、乳房が大きくて少し垂れ、腰の横にも肉が付き、熟
していると言うか、どこか少し崩れかけた感じで、それが逆に若い娘には無い色気
を出していましたが、麻子さんは乳房も腰つきも、それを一回り大きくした感じで、
まさに肉感的という言葉がぴったりでした。
池村は一段と激しく腰を打ち付けながら。
「どうだ、見かけもアワビに似ているだろ?でも本当にアワビなのは中だ。マラを
入れると複雑に絡み付いてくる。オッ、出そうになってきた。出すぞ。ほら、教え
た言葉を言わんか。言えばお前も逝っていいぞ。大きな声で言いながら、何もかも
忘れて思い切り逝け。」
「中に下さい。私のバカ貝の中に下さい。バカ貝の中に。アッ、逝く、また逝きま
す~、逝く、逝く、逝く~。」
彼女が崩れ落ちると、池村はペニスを抜いて立ち上がり、足を開いた格好でいる麻
子さんに命じて口できれいにさせながら。
「早くハマグリも味わってみたいものじゃ。ワッハハハ。」
今まで異次元の空間に迷い込んだように、固まってしまい立ち尽くしていましたが、
この言葉を聞いて妻の事を思い出し、部屋を飛び出しました。
  1. 2014/07/02(水) 09:16:01|
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雲の上を歩く 第11回

部屋を飛び出したまでは良いのですが、腰が抜けたように歩き難く、最初に通され
た応接室のソファーに座って、震える手でタバコに火を点けました。
池村は後を追うようにバスローブを羽織ってやって来ましたが、手にはアルバムを
持っています。
「君は今の様な遊びを見るのは初めてだろ?君に勘違いされると嫌なので一つ断っ
ておくが、あの女を脅して無理やりやっている訳では無いぞ。嫌がる様な素振りを
見せたりしていたが、あくまでも合意の上の遊びなんだ。法律に触れる様な事をし
ている訳では無い。疑っている様なら後でバカ貝に聞いてみてくれ。」
どう見ても貸したお金で脅しながら、無理やりしている様に見えましたが、池村に
脅されている彼女に聞いても、正直に話してはくれないでしょう。
池村は言い訳が終わると、手に持っていたアルバムを私の前に置き。
「これはわしの趣味の資料だ。あの部屋を見せるのも、この資料を見せるのも君が
初めてだ。それだけ君を特別と思っている。弥生と離婚したら、君も何かと不便だ
ろうから、この中の女を一人、お手伝いとして君の所に通わせる。女によっては毎
日とはいかんが、今の弥生以上に何でもしてくれる女だ。不便なのは掃除、洗濯、
炊事だけでは無いだろ?君が何を手伝わすのかは自由だ。意味は分かるな?五百万
と何でもしてくれる女一人だ。悪い話では無いだろ。弥生をわしにくれ。」
私は怒鳴りたいのですが、喉がカラカラで声が出せません。
唾を飲み込もうとしても、唾すら出なくなっていました。
それほど先程の光景は、私にとってショックだったのです。
「おーい、お茶を持って来てやれ。いや、水にしろ。水の方が良さそうだ。」
池村に動揺を見透かされた気持ちで、なぜか余裕が有る振りをしてしまい、目の前
のアルバムを手に取って開くと見開きの半分には、ここの庭で撮ったらしい、いか
にも奥様という感じで、大人しく上品な服装で写っている女の人の、大きめの写真
が二枚貼って有り、残りの半分には、一番上には貝の名前、その下には本人の住所、
氏名、年齢や旦那の氏名、年齢、職業、その他に子供の事までも詳しく書かれ、最
後には金額が書かれているのですが、それはほとんど赤い二本線で消されていて、
何回も金額が変化している事から、これは池村に借りている金額だと想像出来ます。
「どうだ?普通の服を着ていても、みんな大きな乳をしているのが分かるだろ?気
に入った女はいたか?他にアルバムは二冊有るが、今どうにか出来るのはそのアル
バムの最後から七人だけだ。最後の赤貝なんか結構いい女だろ?まだ一度しか調教
していないから、君の思い通りにすればいい。」
その時、最後から三番目のページが空いているのに気付き、もしかするとここに妻
の写真と資料が貼って有ったのを、今抜いて来たのでは無いのかと思いましたが、
妻には借金をする理由が有りません。
池村は私がアルバムを見出した事で、この話に同意したと思ったのか。
「勿論本人は同意の上でわしと付き合っているから、犯罪行為をしている訳では無
いので、わしは知られても構わないが、この女は旦那にまだ知られたく無いらしい。
旦那は遠くに左遷させられて単身赴任している。経済的な理由も有って年に何回も
帰って来られないから、その時だけ注意すれば、多少手荒に扱って痕が残ってしま
っても構わないから、結構楽しく遊べるぞ。一番下に〔あ〕と書いて有るだろ?そ
れは荒縄で縛っても良いという意味だ。荒縄は二日、三日痕が残ってしまう事も有
るから、わしとの事が知られても、旦那が何も言って来ない女、他にはバカ貝の様
に旦那が入院していたり、赤貝の旦那の様に単身赴任していて、旦那に痕の残った
体を見られる心配のない女だ。逆に〔ろ〕と書いて有るのは、旦那にわしとの事を
知られたく無いと言う女だ。わしは調教も和風が好きで荒縄の方が興奮するのだが、
まだ旦那に知られたく無いと言っている女は可哀想なので、柔らかいロープで我慢
している。我慢していると言っても、真っ赤なロープや紐も結構良いが。ワッハハ。」
池村の話は自慢話になり。
「わしは女好きだが、こう見えても好みがはっきりしていて、どの様な女でも良い
訳ではない。乳はでかくて少し垂れ気味で、腰の回りや腹に少し肉が付いてしまっ
ている女、つまり体の線が崩れかけているのが好きだ。肉でも腐り掛けが美味いと
言うだろ?ただ腐ってしまっていては食えん。そうなると、おのずから人妻になっ
てしまう。」
私が動揺から、何も言わないのを良い事に更に話は続き。
「それなら人妻でなくても、離婚した女か未亡人を探せばいいと思うだろ?ところ
がそれは違う。人妻には、旦那に申し訳無いと思う罪悪感が有る。子供がいれば子
供に対しての罪悪感も有る。たまに離婚した女や未亡人を抱く事も有るが、多少罪
悪感が有っても、その大きさがまるで違う。やはり、大きな罪悪感を持っているの
にわしに逝かされ、落ちてしまう時の表情が何とも言えん。特に何回抱かれても、
いつまでも罪悪感と羞恥心を忘れない女は堪らん。逝っては駄目だと思いながらも、
逝ってしまう時の逝き方は凄いぞ。」
妻も同じ様な事をされていると思っている私には、耐え難い内容の話でした。
「くどい様だが、本人は納得している遊びだぞ。民法に触れるかどうかは微妙な女
もいるが、あくまでも本人は納得して楽しんでいる。刑法には触れない遊びだ。」
言い訳が多い事から逆に、彼女達を脅迫して無理やり慰み者にするという犯罪行為
だと思いましたが、彼女達が自ら告発しない限り、私ではどうにも成りません。
私の顔が険しいのを見て少し言い訳を挟みましたが、私が何も言わないのを良い事
に、更に調子に乗って。
「麻子だけは特別で、離婚しているのに未だに大きな罪悪感を持っている。もっと
も、時々別れた旦那や子供達が今どうしているのか調べて聞かせ、罪悪感を忘れさ
せない様にもしているが。ワッハハハハハ。」
この男は悪魔だと思いました。
  1. 2014/07/02(水) 09:17:18|
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