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闇文庫

主に寝取られ物を集めた、個人文庫です。

誤解の代償 第22回

私は妻への愛情が、急速に冷めて行っているのを、ある程度前から気付いていました。
男との浮気が発覚した時には、本能的に奪い返そうと思い、強い怒りや色々な感情に駆られ、妻への愛情を感じましたが、マンションを借りて離れていると、何か如何でも良い様な感覚を覚えました。
彼女との事がそう思わせたのかも知れませんが、元々の私の性格から来る様な気もします。
要するに、1度汚れてしまったものを、受け入れる心の大きさが無いのだと思います。
汚れた妻は、本心は如何であれ元の鞘へ帰りたがっている以上、私のやるべき仕事は終ったのです。
だからと言ってこの女を、その辺を歩いている人間と同じかと言えば、やはり違いますが、そんな事を言っていても仕方が有りません。
考えてみれば単身赴任中に理由は如何であれ、勝手な事をして来なく成り、私を汚いような物でも見る様な目付きで見ていた女と一緒に暮らす訳には行きません。
またその事がばれると嘘で固め、終いには支離滅裂な事を言い出し、ましてや男に教えられた通りに私に言っていた事を許せる訳も有りません。
妻は本当の事を話すと言って来たにも関わらず、このていたらくです。
「まだ居たのか。帰る様にと言っておいた筈だけどな。」
妻は私を睨み付ける様な目で見詰めていましたが、表情は穏やかなものでした。
「誰か来るの?彼女でしょう?私は良いのよ。会って話しをしたいわ。」
「そうか。それも良いだろう。じゃあ、お前もあいつを呼べ。携帯にまだ登録して有るだろう?」
「別れてしまったのに、そんな事出来る訳無いじゃない。変に誤解されたくも無いし。」
「出来ないのだろう?また嘘がばれるからな。」
「そんな事無いわよ。」
「良く言うよな。お前は浮気がばれた時に、あいつとは終ったと言って、随分俺に良くしてくれた。
危うく信じそうに成ったよ。でも、続いていたんだよな?其処までしておいて、もう別れたと言ったて、はいそうですかと思うか?何を考えているんだか、全く分からないよ。なあ志保、信じ合え無い
夫婦が一緒に暮らして幸せなのかな?如何思う?俺はそんなのは嫌だな。」
「いずれ信じてくれる様に成れると思う。だって、私その位努力するつもりよ。」
「お前が努力するのは当たり前だ。それを見ている俺は何を努力する?何故俺が努力しなければ成らない?それは努力では無く我慢だ。」
「・・・・其処まで言うの?分かったわ。確かに私がした事は許されるとは思っていない。如何で有れ、あの人との事に溺れてしまったのは事実だし・・・。でも・・・、分かって欲しい。」
「何を分かれと言うんだ?」
寂しい怒りが気持ちの中に沸き上がりました。
『志保、僕はお前と一緒に成れて、本当に嬉しかった。疑った事だって無かった。幸せな思い出も一杯有るんだよ。愛していた。
でも、もう良いんだ。もう、駄目なんだ。もう遅いんだ。』
心の中の私は、そんな事を呟きました。
「全てを分かって欲しい。私の全て。貴方が見様としなかった部分も。」
「それは無理だ。俺にだってお前の知らない部分は有る。他人の事を全て理解するなんて所詮無理な事だ。」
「貴方とは他人じゃ無いわ!分かろうとすれば分かってくれる筈よ!」
「いや他人だ。夫婦だって他人だよ。だから分かろうと思っても分かり得無い所は有るんだよ。その方が良い事だって一杯有るんだと思う。」
「・・・貴方。」
妻は何かを言いたそうでしたが、聞いた所で如何成る訳でも無いのです。
「さあ、もう行け。これから何か用事がある時は、ちゃんと出るから携帯に連絡してからにしてくれ。これからの事も、話し合わなければ成らない事も有るしな。」
「そうね。今日はそうする。だから、ちゃんと電話に出てね。お願いよ。」
「ああ、分かった。それから、娘は元気か?連絡は有るのか?俺も電話でもすれば良いんだが、何か掛けづらくてな。連絡が有ったら、宜しく言っておいてくれ。気持ちに余裕が出来たら、会いたいな。」
立ち上がりかけた妻に、そう声を掛けました。今迄の、夫婦の思いが蘇ったのでしょうか?
「・・・貴方御免なさい。本当に御免なさい!私悪い女ね。御免なさい・・・。」
涙をタップリと溜め、私に抱き付いて来た妻を、強く抱き締めていました。
何故そうさせたのか、割り切ったつもりでも長い間の二人の絆がそんな行動に走らせたのか、今でも自分の気持ちを理解出来ません。
妻が帰った後には、身体も気持ちも力が抜けてしまい、彼女に連絡するのも億劫に成ってしまいました。

ぼぉーとしていると電話が鳴りました。彼女からです。
「御免、御免。連絡が遅れた。帰ったからもう来ても良いよ。」
少し経ってから部屋のチャイムが鳴りました。
「奥様、私達の事何か言っておられましたか?」
やはり気に成るのか、入って来ての一言目がそれでした。
「うん。それなりに君との事は知っていた。」
「そうですか。それで次長、お認めに成ったのですか?」
「いや、曖昧に誤魔化して於いたけれど、知っていると思うよ。君と一緒に居る所を見た様だしね。何かまずい事でも有るのかい?」
「いいえ。そんな事は有りませんが、次長はそれで良いのですか?まだ奥様の事を思っていらしゃるのでは無いですか?それなら、はっきりと言って下さい。」
「・・・・すまない。何の感情も無いと言ったら嘘になる。でも、元に戻ろうとは思っていない。今は、君だけを見る様にしている。」
「それは、努力していると言う事ですか?」
私は、次に出す言葉に詰まりました。彼女の不安が痛いほど伝わって来ました。
  1. 2014/08/21(木) 08:18:51|
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誤解の代償 第21回

お互いの沈黙の時間が随分長く感じられました。その時の妻の態度は、落ち着き払ったものの様に感じました。
「終わりには成らないわ。私は確かに貴方を裏切ったわよ。でも貴方は?何も知らないと思ったら大きな間違いよ。ちゃんと分かっているの。あの人と、何も無いなんて言わせないわ。きっと、あの時から続いているのでしょう?いや、もっと前からなのよね?今更言ってもしょうが無いかも知れないけれど、私ばかり責められる事も無いと思うのよ。如何かしら?」
「武士の情けと言う言葉を知っているか?情けを掛けたつもりだったが・・・。
あれから何回男の所に行った?お前何が何やら分からなく成っている様だ。言ってる事が、無茶苦茶だと思わないか?良く考えてみろよ。矛盾を責められ無いうちに我を通すのはやめておけ。」
「何が矛盾が有るのかしら?何を言いたいのよ?」
この時に成って、自分の言い訳に無理が有る事に気付いたのでしょう。苛々とした感情があからさまに感じ取れました。
「俺が、男の所に行った事を知ったのは何時だった?墓穴を掘ったな。」
私がふんぎりを付けた瞬間だったかもしれません。
「男との関係は続けたい。でも、夫婦生活も続けたい。理想だよな。俺もそんな立場なら、そう思うかもな。だけど、俺にはそんな図太さは無いな。・・・お前、何時からそんな女に成った?
俺が知らなかっただけで、初めからそうだったのか?そんな事は無かったよな?俺達は何をやって来たのだろう?・・・もう、良いだろう?俺を自由にしてくれ。お前だって、自由に成れるんだ。
これ以上、俺を傷付けるな。黙って帰ってくれ。」
この時流した妻の涙は、今までとは違い、別れを決意している私にも、訴え掛けて来るものが有りましたが、抱き締めたり、優しい言葉を掛けたりする気持ちには成れませんでした。
それでも帰ろうとはしません。大きめのバッグの中には、見慣れた妻のパジャマや、化粧道具等が入っていましたが、それらを出させる事はさせませんでした。
「貴方の気持ちは最もね。逆の立場なら、私も当然そう言うでしょうね。でも、これで終わりはいや。もう如何にも成らないのかしら?確かに、あれからも続いていた。あんなに貴方を傷付けた
のにね。謝って済む事では無いけれども、ヅルヅルと引きずってしまった。・・・一つ嘘を言うとそれがばれない様に、又嘘をつかなければ成らない。そんな事をしているうちに、醜い女に成って
しまったのね。ごめんなさい・・・。それでも今は本当にあの人とは別れたわ。やっぱり、貴方の方が好き。愛しているわ。だから、このまま別れるのはいや。」
「もう遅い。男と別れ様が別れまいが、そんな事はもう如何でも良いんだ。さっきも言ったが、俺も前に進む事にしたよ。今は、お前との生活をなるべくなら思い出したくも無いのが正直な心境だ。
それでも思い出すだろう。俺も辛いんだよ。こんな事に成って、こんなにプライドを傷付けられたのも、お前達のした事だ。言い分は聞いたが、それでも俺の責任は、小さなものだと思っている。
さあ、帰ってくれ。俺にこれ以上言わせるな!お互いに嫌な思いをするだけだ。」
私は時間が気に成っていました。今日は、何の約束もしていませんでしたが、彼女が来てくれるとすればもうそろそろです。
「煙草を買ってくる。その間に帰ってくれ。直ぐに戻るから、鍵は掛けなくても良いから。」
私は何気なく携帯を持ち外へ出ました。
急いで煙草の自販機の方へ歩きながら電話を入れると、彼女がスーパーで買い物をしてくれている所でした。
「済まない。あいつが来ているんだ。直ぐ帰すから時間を潰していてくれ。帰ったら連絡する。ごめん。」
マンションに帰ると、まだ妻がいました。
  1. 2014/08/21(木) 08:17:23|
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誤解の代償 第20回

「そうか。お前の気持ちは分かった。そう言う事にしておこう。俺にも至らない所が有ったのかもしれないな。だがな、それだから許されると言う事ではないよな?それに、まだあの男と続いているんだろう?」
「いいえ。貴方が如何思っているのかは分からないけれど、もう何も無いわ。」
「じゃあ、何故あの日あそこに行った?お前のしてきた事を考えたら何も無かったとは、誰も思えないだろう?」
「あの人は、左遷させられるそうよ。あの時は自暴自棄に成って・・・。何をするのか分からない位に取り乱していて如何にも成らなかったの。でも、貴方に知れると、変に疑われると思って嘘をついてしまったの。悪い事をしたと思っているわ。信じてと言うのは無理なのは分かっているけど本当の事なのよ。」
「確かに無理が有るな。そもそもあの男の事を何も思っていないなら、自暴自棄に成ろうが成るまいが、何の関係も無い筈だ。それでも行くと言う事は、お前の心の中にあいつを思う気持ちが有る
からだろう?熱い時間を過して、俺の事は何もかも忘れてしまった。あの時の、お前の目は今も忘れない。不思議なものでそんな時は、何とかお前の気持ちを、俺に向けさせたいと思ったよ。
だけど今は、そんな事如何でも良く成ってしまった。何よりも、信じられ無い事が辛い。
そんな夫婦は、ざらに有るのかも知れないけれど、俺が求める関係では無いんだよ。まして、お前の痴態を見てしまった以上、俺の許容範囲をとうに越えてしまっているんだ。
志保、俺も至らない所は有ったと思う。こんな事に成るまでは、本当に良くやってくれた。感謝しているよ。でもな、これで終わりにしようや。俺にも、次の人生が有るんだ。」
妻に未練が無いと言ったら、完全に吹っ切れた訳では無いのでしょうが、もう、後戻りは出来ない事も、この歳ですから分かっては
いるのです。
  1. 2014/08/21(木) 08:16:19|
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誤解の代償 第19回

妻は何故この様に、堂々と落ち着きはらって居るのでしょう?
何かに覚悟を決めた女はこれ程、度胸を決められるものなのでしょうか?
「貴方、私の事を知ってる?」
椅子に坐るなり、妻は私に問い掛けて来ました。
「それは長い間一緒に居るんだから知ってるつもりだが。」
「それがもう知らない証拠なのよ。私の事なんか、結局何も分かっていないのよ。」
妻の性格を知っているつもりが、気付かないうちに浮気をされていた訳ですから、そう言われてもしょうが無いのかも知れません。
「俺は・・・・」
妻は私が気付いていたけれども、あえて見ぬ振りをしていた部分に踏み込む話しをし始めました。
「貴方は若い時から、私に母親役を求めたわ。その内に娘が生まれて本当の母親に成って幸せだった。そんな時も貴方はまだ私に母親を求めた。二人の母親でずーっと、女では無かった気がしてた。
若い時はそれでも良かったのよ。お互いに情熱が有ったものね。それが、あの子が手を離れ、貴方も相変わらずだったけれど、別々に暮らす様に成って、気持ちの中にポッカリ穴が開いたで様で・・。女は何歳に成っても女な・・・。寂しいと言うのか、虚しいと言うのか、何と行って良いのか分からない焦りの様なものを抱えて生活していたわ。そんな時に、あの人が女を感じさせてくれたのよ。だから私は・・・・」
「だから私は何なんだ?」
「言い訳には成らないけれど、女でいたいと思った。満たされない部分を、あの人が埋めてくれた。一時は確かに貴方より愛してると思った時も有る。ほんの一時はね。でもね、貴方を愛している事に代わりは無かった。貴方が不倫相手で、あの人が亭主だったらとうに別れているわ。貴方はそれ位魅力が有るの。だって昔から結構持てたじゃない。特に貴方に踏み込まれた時に、貴方は男で私は女だって実感したわ。」
「あの時お前は、俺が浮気をしたから復讐するつもりで不倫したと言ったが嘘だったよな。何故そんな嘘を言った?」
「・・それはあの人の考えなの。本当にあの時は貴方も女が出来たと思っていた。その事を話すと
『お互い様だから、ご主人も余り強くは出られ無い筈だ。』って。だから貴方が踏み込んできた時にあんな態度に出たのよ。でも、あの人の誤算は、私が貴方が可也強いと言っていなかった事。
お互いの家庭の事は出来るだけ話さない様にしていたから。
コテンパンにやられて、強気に出るどころか反対に振るえ上がっちゃって。それからは、貴方を恐れていたわ。でもあの時、私の胸が熱く成ったのは本当よ。」
確かに私は早くに母を無くして、妻に母親役を求めていました。結婚してからは安心感からか、その傾向が強まったのにも気付いていました。また、長い夫婦生活は妻の言う通り、若い時の情熱は色褪せ、刺激の無い生活に成っていたのも事実でしょう。妻を女と見てい無かったのも真実だったののかも知れません。でも、情熱は無くなっていても、生活を続けていた者同士にしか分からない夫婦の歴史が有り、その事が、自分勝手な考え方かもしれませんが、誰にも割り込ませない情に成っていると信じていました。
妻にしても同じ気持ちだと思い込んでいましたが、一人の女で有る事を求めていたようです。
女性と言うものに、男の考え方を押し付け、それでも絶対について来るものと信じていたのは、私の大きな誤解だったのでしょうか?
  1. 2014/08/21(木) 08:15:15|
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誤解の代償 第18回

妻からは何度も携帯や職場の電話に連絡が有りましたが、家に帰る事は有りませんでした。
私は何処に住んでいるかも教えていません。
家を出て4ヶ月程経った頃、マンションに帰ると部屋の前に妻が立っていました。
「如何してここが分かった?」
「うん。この前、貴方をつけちゃた。綺麗な人と一緒だったじゃない。少し妬けたわよ。」
「それはご苦労な事で。それで何か用か?」
「冷たいのね。貴方が言ってた、正直な気持ちを話しに来たのよ。中に入れてくれる?」
彼女が来るか知れないので、中には入れたく有りませんでした。
「何処か違う所で話そう。俺にも都合が有る。」
「あら、彼女でも来るのかしら?私はそれでも良いのよ。如何で有れ、貴方の妻は私ですから。」
「勝手な事を言うな。お前にとやかく言う権利が有るか?それにしても勝手な女だったんだな。俺は今迄、お前の表面しか見ていなかったのか。馬鹿な男だったよ。浮気をされてもしょうが無いと言う事か。まあ、こんな所で話していても変に思われる。中に入れ。」
その時気付いたのですが、妻が少し大きめのバッグを持っていました。自分の鈍さに呆れるばかりです。
部屋に入った妻は、周りを舐めるように見渡しました。当然ですが彼女の残り香が有ります。
「綺麗にしてるのね。男の一人暮らしとは思えないわ。結構上手くやってる様ね。それだもの、電話も掛けて来ない筈ね。でもね、このまま貴方の思う様には行かせないわ。これから本当の事を話すから聞いてくれる?」
「ああ、好きにしろ。聞いてから判断させてもらう。ただ、もう騙されないからな。適当な事は言うな。」
  1. 2014/08/21(木) 08:12:37|
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誤解の代償 第17回

朝、何か気持ちに変化を感じていました。妻への感情に大きな転機を迎えた様です。
昨夜の妻との事には、男の影が付き纏っていました。今迄感じていた怒りや,嫉妬の様なものは、夫婦としての関係が有ってのもので、解消してしまえば、何も惑わされる事も無くなる筈です。
まあ、そう言っても、直ぐに割り切れるものでは有りませんが、時間と共に気持ちに整理がつくものと、理解出来たつもりに成ったのは、今回の事で、精神的に少し進歩したからなのかも知れません。
「暫らく離れて暮らそう。その間は、お互いに干渉するのは止めようや。お前もあいつに逢いたかったら好きにしたら良い。それで自分の気持ちに正直に成った時に、本当の事を話してくれ。今は、何を聞いても信じる気に成れない。」
「私の事を、もう嫌いに成った?もう顔を見るのもいや?」
「そんな事も無いけれど、一寸前まで顔を合わせる事も無かった。今更一緒に居なくても如何って事は無いだろう?あの時は、お前がそれを望んだ訳だしな。」
「何時まで?」
「分からないな。ただ今回は、お前の気持ちでは無く、俺が決めさせてもらうよ。」
妻は俯いていましたが、何も言いませんでした。

職場では、相変わらず何だかんだと仕事に追われ、忙しい思いをしましたが、その方が余計な事を考える余裕も無く、かえって助かりました。
仕事帰りに、彼女を誘って食事がてら一杯飲みに行きましたが、度胸が無くそれ以上の事は有りませんでしたが、何処か手頃な部屋が無いものかと言うと、知り合いに不動産屋がいるとの事で、間も無くマンションが見付かりました。
引っ越す前には、地方の娘に別居する事を伝えましたが、「そうなの。何か有ったの?」
と言うだけで、クールなものでしたが、流石に引越しの当日には、家に帰って来ていました。
「お父さん、如何しちゃたの?お母さんと何か有った?このまま、別れるって事は無いよね?また、帰って来るよね?」
娘成りに心配していたのでしょう。当然ですが、別居の理由は話しませんでした。
少しの荷物をトラックに積み込む間、妻は寝室から出て来ませんでしたが、家を出ようとした時には、玄関に来て、
「私、待ってるから。」と、一言だけ言いましたが、目には薄っすらと涙を溜めていました。

離婚届はまだ出していませんが、事実上は離婚した様なものと思っていました。
色々な事が頭の中を駆け巡り、まだ整理された訳では有りませんが、彼女がちょくちょく部屋に来て食事の用意をしてくれ、そんな時は、全てを忘れる事が出来ます。
何度かめに来てくれた時に、
「今日は、泊まっていかないか?明日は休みだし、何処かにドライブに行こう。」
私は彼女の気持ちを、分かっていました。それでも、自分から誘うふんぎりが着かずにいましたが、思い切って誘ってしまいました。
「泊まってもいいんですか?奥様の事はもう忘れられましたか?」
「ごめん。そんなに簡単な事では無い様だ。でも、もう元に戻る事は無いと思っている。」
彼女は寂しそうな瞳を向けていましたが、泊まる決心をした様でした。
まだベッドを買っていなかったので、布団を2枚敷並べてきました。
彼女は抵抗が有るのか、なかなか寝室に行こうとはしません。
「私、次長から離れら無く成ってしまう。それでも良いですか?」
「・・・そのつもりでいる。僕も前に進まなければ成らない。君さえ良かったらの事だけれど。」
私は彼女を抱き寄せ、唇を重ねました。
彼女を抱いてみると、その身体は年齢よりも若く、反応も予想以上に激しいものでした。
この前妻にやった様に、焦らしたりは出来ませんでしたが、敏感な所に舌を這わせると、腰を浮かせ、シーツを鷲づかみにして、私を求めて来ました。
「もう駄目!お願いだから来て下さい。」
腰を深く沈めると、私の腰に手を回し、しがみ付いて来ました。
「恥ずかしい。恥ずかしい・・・。アーー、いきそう!アーー、もう駄目!いくー、いくー」
その声で、私も限界に達してしまいました。
「凄く感じてしまいました。・・・恥ずかしかった。でも、こうなる事が、私の夢でした。嬉しい。本当に嬉しい。」
彼女のいじらしさに、私は強く抱き締め、また唇を合わせました。

朝、目を覚ますと彼女が朝食の用意をしてくれていましたが、その後姿に私は妻を重ねてしまい、愕然としてしまいました。思い起こせば彼女には妻に共通する面影が有り、その部分に引かれていた事を思い出します。このまま彼女と付き合っても、妻の面影を追い求めるだけで、幸せに出来るのかどうか、不安を感じてしまいました。
  1. 2014/08/21(木) 08:11:08|
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誤解の代償 第16回

私はホテルに戻ろうかと思いましたが、妻がそれを許してはくれませんでした。
夕食を食べると、やはり馴染んだ味は、外食では味わえないものです。それでも、余り箸は進みません。
そんな時、妻の携帯が鳴りました。相手を確認して慌てて切った様なので、私は携帯を取り上げ履歴を見てみても、番号だけで誰からかは分かりませんが、見当は付きます。
妻の携帯からリダイヤルしてみると、
「どうして切るんだ?旦那が居るのか?」
やはりあの男でした。
「俺だよ。亭主だよ。こんな時間に掛けてくれば、俺が居るのは当たり前だろう。それとも、
出て行って帰らないとでも、聞いていたか?」
私が出た事に驚いたのか、男は何も言わずに切ってしまいました。
「昨日も逢ったのか?こんな時間に電話を掛けて来るのはおかしいじゃないか。俺が居ないと知って居たんだろう?」
「・・・ええ。昨日電話が有って。」
「それで逢ったのか?そうなんだろう?もう何も言わないから、本当の事を言ってくれ。」
男と女が、禁断の愛に心を染めてしまえば、簡単には後戻り出来ない事でしょう。
私だって、そんな経験をしてしまえば、どうなるか分かりません。
私達夫婦が元に戻る事は、2度と無いだろうと思いました。
「いいえ、逢ったりしていない。あの人のマンションに行ったのは、まだ続いているからじゃ無いの。
確かに、何度も電話は有ったわ。もう奥さんと別れるから、一緒に成らないかって言われたわ。
あんまり何度も来るから、会ってはっきり断ろうと思って行っただけで何も無かった。
それを貴方が知っていたとは思わなかった。嘘をついて行ったのは悪かったと思います。
でも、どんな理由が有っても、二人で会うとは言えなかった。疑われても仕方がないけど・・・。
ごめんなさい。」
真剣な表情で訴える妻の言う事は、本当の事なのかも知れませんが、そうで無いのかもしれません。
1年前で有れば、信じる事が出来たのかも知れません。でも今は、鵜呑みには出来なく成っています。
信じ合える事は、夫婦にとって最小限の必要事項で有る筈です。
それが崩れてしまった以上、もう夫婦でいる必要は無いのでしょう。この時、私の中に彼女の存在が有ったのは言うまでも有りません。
それがどんな結末を迎えるのかは、この時は考えてもみませんでした。
ただ、夫婦としての歴史よりも、今の平静を求めていました。

その夜、妻は私を求めて来ました。答える気持ちは無かったのですが、このところ女性と関係を
持っていなかったので、身体が反応してしまい応じてしまいましたが、それは彼女とそんな関係に
成った時の予行演習の様なもので、暫らく妻にはした事が無いセックスをしました。
縛ったり、バイブを使ったりはしません。その代わり、散々焦らしてみました。
妻は思った通りに乱れ、男とのセックスを想像させるものでした。
  1. 2014/08/21(木) 08:09:45|
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誤解の代償 第15回

ホテルに戻ると、もう午前1時を過ぎていました。ベッドに入っても、妻の事や彼女の事が頭に浮かびなかなか眠れずにいると、携帯に妻からの着信が有りましたが、出るつもりは有りませんでした。

ホテルのベッドは寝辛く熟睡が出来ずに辛い朝でしたが、出社すると休んだ分だけの仕事に追われ、気が付くともう終業時間に成っていました。まだ仕事が残っていましたが、身体が辛く早めに退社
する事にして、帰り仕度をしていると、彼女から前夜の事を気にしている様な事を言って来ました。
「酔いすぎてしまって、妙な事を言ったかもしれません。申し訳
有りませんでした。あれからご自宅に帰られたのですか?」
「いやホテルに泊まったよ。今日は帰ろうと思っているけどね。」
何か言いたそうな彼女を、お茶にでも誘おうかと思いましたが、その日は家に帰って、妻と話しをしょうと決めていました。当分の間帰らずに居様と思っていましたが、何か逃げている様な感じがして、腹立たしく成っていたのと、頻繁に掛かる妻からの電話に,
閉口してしまいました。
いざ帰路に着くと、何を話すべきか何も考えていなかった事が気に成ります。
『成る様にしか成らないさ。俺の気持ちは決まっているんだ。』

玄関の前に立つと、あの日の事を思い出し、やり切れない気持ちに成ってしまいましたが、そんな事を考えている時では無いと自分に言い聞かせます。
ドアを開けると、妻が飛び出して来ました。
「貴方何処へ行っていたの!何回も携帯に電話したのに出てくれないし。心配したんだから。」
この女は、何を心配したのでしょうか?何故こんなに平然として居られるのか、不思議で仕方が有りません。
「何処に行ってい様と、心配する事は無い。別に疚しい事も無いしな。お前は何をしていた?また男のマンションに行ってたのか?あそこは交通の便の良い所では無いから、通うのも大変だろう。
この前お前の車が停まっていたが、路上駐車は止めた方が良いぞ。」
妻の表情が、明かに変わりました。
「余り俺を舐めるなよ。まあ、全ては終った事だ。好きにすれば良いさ。お前は離婚届けに、サインさえしてくれれば良いんだ。もうしてくれているだろう?」
「・・・・いいえ、していません。する気持ちは有りません。」
「お前、何を考えているんだ?勝手な事ばかり言ってると思わないか?好き放題しておいて、自分の思い通りに成るなんて、都合の良い事を考えるべきでは無いな。その位は分かるよな?」
「こんな所で話していてもしょうが無いわ。中に入ってよ。」
私がリビングに入って行くと、妻が玄関のドアに鍵を掛ける音が聞こえました。

ソファーに座ると、妻はビールとつまみを用意して来ましたが、私は手を付けませんでした。
キッチンでまだ何かしている様子です。
「何をしているんだ?俺はお前と話しにに来たんだ。飯を食う為に来たんじゃないぞ。」
妻は手を止め、向かいのソファー腰を落としました。
「分かったわ。じゃあ、貴方のしてきた事は何なの?ここ何年か、私を女として見てくれたかしら?私は貴方にとって何なのかしら?」
「何を言いたい?自分のした事を正等化仕様とでも思ったか?余り都合の良い事は言うなよ。」
妻の思ってもいなかった反撃が、何を意味するのか分かりませんでした。
「私が貴方を裏切った事を、許してとは言わないわ。でもね、私も女なの。貴方には分からないかも知れないけれど、私は本当に寂しかったのよ・・・」
そう言うと激しく泣き出し、話をするどころでは無く成りましたが、
「泣けば良いと思っても駄目だ。そんな事で済まされる事では無い。お前が前に言っていた事は全て嘘だ。それに女だからって何だと言うんだ。俺に何を求める?あの男とお前はまだ続いているのだ
ろう?俺に求めて得られ無いものがあいつに有るのなら、あいつの所に行けば良い。離婚するそうだからな。お前も離婚届にサインして自由に成れば好きに出来るだろう。」
「・・・あの人とは、もう何も有りません。」
「俺に嘘を言って、あいつのマンションに行っておいて、そんな事信じられると思うか?都合の良い事ばかり言うなよ。」
「あの時は、本当に何も無かったの。信じてもらえないだろうけど、何も無かった。」
「それではお前が言っていた、浮気の理由が出鱈目だったのは何だ?奥さんが言っていたが、あいつが別居する原因はお前だったそうだな。よくもそんな酷い事を。お前とあいつの絆を感じるよ。
その絆をもっと強くする方が良いんじゃ無いのか?色々大変な事も有るだろうが、その方が楽だと思うけどな。」
「・・・そんな事無いわ。そんな事・・・」
より激しく泣き出し、私はこれ以上の話は無理だと思い、ただ天井を見詰める事しか出来ませんでした。
  1. 2014/08/21(木) 08:08:20|
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誤解の代償 第14回

私はビジネスホテルを探して、チェックインし、これからの事を考えていましたが、取り合えず不動産屋へ行って、手頃な部屋を探す事にしました。いざ探して貰うと、なかなか金額等の事も有り、
見付からないものです。その日は諦めてホテルに戻り、買ってきた弁当を食べていると、携帯に妻からの連絡が有りました。何度も有ったのを無視していましたが、今度は出てみると、
「貴方あれは、如何言う事なの?今日帰ったら良く話し合って下さい。私はサインは出来ません。帰りは何時位になりますか?」
随分と興奮した声で、捲し立てて来ました。
「何を言ってるんだ。俺が何も知らないとでも思っているのか?自分の胸に手を当てて考えて見ろ!」
それだけ言うと、私は携帯を切りました。それからも何度も携帯に着信が有りましたが、出ませんでした。まだ離婚届に記入をしていないでしょう。今は無視する事にして、妻の出方を見る事にしました。
服を着たままベッドに横になると、不倫現場を目撃してしまってからの事が思い浮かび、別の事を考え様としても、頭から離れません。離婚を決意してからは、平静でいられる様な気持ちに成って
いたのですが、やはり無理なのでしょう。
今回は私が浮気をしていると、妻が誤解してこんな事に成ってしまったと、言い訳をしていましたが、それは嘘でした。それならば、何故こんな事に成ったのか?
私に責任が全く無かったとは言いません。自分では気が付かなかっただけで、何かは有るのでしょう。また、やはり夫婦と言えども、離れて暮らす事に問題が有ったのかも知れません。
でも単身赴任をしている家庭が、全てこんな問題を抱えているのか?そんな事は有りません。
では妻には責任が無いのでしょうか?『なぜ』こんな事に、それが妻の『本性』だったのか?何時まで『戦い』を続け無ければ成らないのか?
何とか心を平静に保とうと思うのですが、表現の仕様の無い感情に苛まれ、叫び出しそうに成ってしまいます。

午後9時位に又携帯が鳴り、妻からかと思い着信者を見てみると、彼女からでした。
「私です。今日は如何しました?ご自宅に電話を入れたら、奥様がまだ帰って来ていないと心配しておられました。何処に居らしゃるのですか?少しお話し出来ませんか?私少し酔ってしまって・・
申し訳有りません。もし良かったらこれから御会い出来ませんか?」
「今何処?これから行っても良いよ。」
彼女との待ち合わせ場所に行くと、確かに酔っている様です。
「来てくれて嬉しいです。次長は何を飲みます?」
私はビールを頼み、暫らく他愛の無い話をしていましたが、彼女がさり気なく聞いて来ました。
「奥さんとの間で、何か有ったんじゃ無いですか?今日は取引先との事でお聞きしたい事が有って、携帯に連絡したのですが、出られ無かったので、ご自宅に電話を入れさせて頂きました。」
私が妻からだと思って出なかった着信に、彼女からのものも有った様です。
「次長は帰っておられませんし、奥様の様子が何か尋常じゃ無いと言うのか・・・、良くは分かりませんが、何か普通では無い感じがして。」
「何でも無いんだけど、長く夫婦をしていれば、それなりに色々有ってね。まあそれ程の事でも無いよ。」
私は何とか気持ちを悟られ無い様に、気を使いながら答えました。
「本当にそうでしょうか?一寸私気に成る事が有って・・・」
「気に成る事って?何か何時もと違う様な事をしていたかな?僕なりに普通にしていたと思うけど。」
「やっぱり何か有ったのですね。普通にしていなんて言い方、おかしいじゃ有りませんか。私酔ってるから言いますけど、奥様は浮気しているんじゃ有りませんか?」
余りに突然の言葉に、言葉が出ません。
「実は次長が単身赴任している時に、一度ご自宅に伺った事が有るんです。確か近くに行く用事が有るので、奥様に伝える事か何か用事は有りませんかと、電話を差し上げたと思います。その時は、
何も無いと言われましたが、奥様はどんな方だろうと好奇心から御邪魔してしまいました。その時奥様は、慌てて服を着てきた様な感じで、髪も乱れていて・・・。それに玄関には、男物の靴が有ったので、次長が帰っていらしゃるのかと思いました。そう聞くと、奥様少し動揺された様な感じがしました。確証は有りませんが女の勘で、ぴんと来るものが有りました。次の日に出張で次長の所へ行ったのですが、その事は言えませんでした。だって証拠も、何も有りませんし、そんな事は言い辛くて。だから私、一寸した悪戯をしたんです。
次の日に奥様がいらっしゃるのは知っていましたから、次長の部屋に行って、女の痕跡を残しました。料理をしない男の人が、余り必要としない物を残したり、ブラシに私の髪の毛を付けたり、それと
シーツの目立たない所に、口紅を付けておきました。私成りの奥様への警告のつもりでした。」
私は唖然とするしか有りません。
「何故そんな事を?如何して・・・・」
「私にも分かりません。・・いや分かっているけど言えません。」
私の目をしっかりと見つめる彼女と、この日を境に距離が接近して行きました。
  1. 2014/08/21(木) 08:06:56|
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誤解の代償 第13回

私は妻の行動に注意深く成りましたが、別に変わった所は有りません。しかし、男が妻を愛していると言っている以上、何か行動を起こす筈だと言う確信めいたものが有りました。
その日は意外と早くやって来ました。仕事中携帯に妻から連絡が有り、“今日は会社の人と食事をして帰るから遅くなる”と言って来ました。『やっぱり、思った通りに成るのかな?』
あの日以来何が有っても断っているようで、遅く帰る事は有りませんでした。
それが遅くなると言う事は、何か有ってもおかしく無いと思いました。
別にショックも受けず、私は打たれ強く成っているのかもしれません。

仕事が終って家に戻り、妻が男のマンションに行ってるとは限りませんが、一応車を出して確かめてみる事にしました。
マンションに着く、と妻の車が停まっています。この場所を、私が知っている事は、妻も男も知らないと思います。
暫らく車の中で待ちましたが、妻は出て来ません。私は男の部屋が何処か迄は知りませんし、オートロックのマンションの中には入れず、かと言って、このまま待つのも馬鹿らしく成り、家に帰る事に
しました。妻が戻って来たのは、それから3時間位後でしたが、リビングに入って来ても、私にまともに視線を合わせ様とはしませんでした。
「お帰り。楽しんで来たか?」
「ええ、遅くなって御免なさい。急に誘われたものだから、食事の用意もしないで。」
「いや良いんだ。楽しめたなら良かったじゃないか。遠慮する事は無いよ。これからも、誘われたら行くと良いさ。僕は明日早いからもう寝るよ。」
私が立ち上がると、「ありがとう。」と言って浴室に入って行きました。

朝私は、妻に封筒を手渡し、
「これ後で記入しておいてくれ。」
「ええ、何か急ぐものなの?今書きましょうか?」
「急ぐけれど、今じゃなくて良いよ。書いたら携帯に連絡してくれ。」
妻は怪訝そうな表情で見ていましたが、私は急いで玄関を出ました。その時、
「貴方!貴方!ちょっと待って!」
妻の悲鳴の様な声が聞こえましたが、走ってその場を離れ、携帯にも妻から呼び出しが有りましたが無視しました。
職場に都合で少し遅れると伝え、私は男の会社に急ぎました。
会社に着くと受付に男の部所を聞き、待ち合わせているからと嘘を言ってエレベーターに乗り、今日の仕事の準備で慌しい部所に入って行きました。男は私に気付いた様で慌てて出て来ましたが、迷わずに上司と思われる机の前に立ちました。机の上のネームプレートに部長と有ります。
「突然失礼しますが、田中課長の事で、お話が有ります。」
男は血の気の引いた顔で、私の後ろに立っています。部長はただならぬ様子を察知したのか、別室に案内してくれました。
「田中に何か有りましたでしょうか?」
私の名刺を見ながら部長は、前の椅子に恰幅の良い身体を沈めました。
私は田中の書いた念書を見せ、妻と今も続いているであろう事を伝えました。
「・・・そんな事が有ったとは全く気付きませんでした。困った事をしてくれたものだ。言い訳をする
のでは有りませんが、当社は社内恋愛にもある程度は厳しい所が有りまして。それがこんな事を・・・。困った事をしてくれた。
処罰は会社規定と照らし合わせて取らせて頂きます。馬鹿な事をしてくれたものです。私が責任を持って対処しますので、今日の所はこれでご勘弁願えないでしょうか?」
「宜しくお願い致します。」
後味の良いものでは有りませんでしたが、私が今出来る事をした積もりです。
会社に行っから今日は有給休暇を取る事にして、昼頃に家に戻り妻が居ないのを確認して、取り合えず
必要なスーツや下着等を旅行鞄に詰めした。
  1. 2014/08/21(木) 08:03:57|
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誤解の代償 第12回

私生活は相変わらず悶々としたものですが、仕事は私の事情を考慮してはくれません。
くたくたに成るまで仕事に追われました。その方が余計な事を考え無くても良い唯一の時間です。
そんな私の部下は、たまったものでは無かったでしょうが、彼女だけは何の文句も言わずに付いて来てくれましたが、
「さすがに次長がいると、職場の雰囲気が違いますね。皆ピリピリしちゃっていますよ。私は仕事をしているって実感していますが、他の人達は可也きつそうです。」
「そうか。自分の事で精一杯でそこまで気が付かなかった。悪い事をしてしまったね。少し気配りが足りなかった。」
「いいえ。そんな事は有りません。」
彼女には、私のそんな行動に、何かを感じている様でした。
それからまもなくの昼休みに、男の奥さんから電話が掛かって来ました。
「私達正式に離婚する事に致しました。その事でお電話掛けさせて頂ましたが、主人と別居する理由に成った浮気相手は、ご主人の
奥様でした。あの人が離婚する時に全て話してくれました。」
「えっ!それはどう言う事ですか?家の奴とは別居してから関係を持ったのでは無かったですか?」
私は、愕然としました。これまで妻の言っていた事は、全て嘘だった事に成ってしまいます。
「あのう、宜しかったら、仕事が終ってからお会い出来ないでしょうか?詳しく聞かせて貰いたいのですが。」
仕事が終ってから、奥さんに指定した喫茶店に向かいました。

喫茶店に入ると、奥さんは既に来ていました。
「お待たせして申し訳有りません。早々ですが、どう言う事なのか話して貰えるでしょうか。」
「ええ、分かりました。」
奥さんの話では、妻の言っていた不倫の時期よりも、更に4ヶ月前から男と関係を持っていた事に成ります。当時、浮気が発覚した
時に男は、相手の事は一切口を割らなかったそうです。
それが怒りを大きくしてしまい、別居に迄成ってしまったのは、何となく理解出来ます。
「でも今回はご主人にばれてから、何か熱病にでも罹った様で、私とまた暮らす様になってからも、気もそぞろで・・・。離婚は主人の方から言い出しました。その時に、私に全てを話してくれました。・・・奥さんの事を愛してしまったから、もうお前とは一緒には暮らせないって・・・。何かそちらに、ご迷惑の掛かる様な事は、していませんでしょうか?」
「いいえ、私の知る限りでは。何か言ってましたか?それとも、もう何か行動に?」
「何もしていないと思います。あの人ご主人の事を、恐れている様でしたから。でも、あの様子では何時まで我慢出来るのか・・・。その時は、思う様にして下さって結構ですから。」
もう長年生活を共にして来た相手に、未練は無いのでしょうか?
私の前に居る女性は本心は分かりませんが、吹っ切れた感じがします。私も妻と分かれた後に、この様に振舞えるのかどうか。
やはり男よりも女の方が、タフなのかも知れません。
「これから、如何なさるのですか?失礼な話、生活費等の方は大丈夫なのですか?」
「それは何とか。家を売ったお金と、今迄の貯えから出してくれるそうですから。ただ、子供にもお金が掛かりますので、何か仕事を探そうとは思っています。」
「その時に、お役に立てる事が有れば、何でも言って下さい。」
別れ際に、自分の住所と、男の住む事に成るマンションの場所を
教えてくれました。
奥さんの話に、強いショックを受けましたが、妻には暫らくの間伏せておく事にしました.
当然次の日に離婚届けを用意しました。
  1. 2014/08/21(木) 03:07:46|
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誤解の代償 第11回

赴任が終わり帰って来て少し経った頃に、佐野から連絡が有り、下請けの会社で事務員を募集しているが、妻に勤めるつもりが有るのなら紹介するとの事でした。
男からの慰謝料は、毎月きちんと支払われていたので、働かせなくとも別に生活水準を落とす事も無かったのですが、何時まで続けれるのかは分かりません。一応妻はどう思っているのか聞いてみる事
にしました。
“仕事をしても良いのなら、働きたい。”との事だったので佐野に紹介を頼みました。
外に出すとまた何が有るか分かりませんが、家に男を連れ込む女です。仕事をしようがしまいが、
変わりは有りません。勤め出してからも、定時に帰って来て家事をきちんとやっています。
私が不審に思う事も無く、他人から見ると普通の夫婦に見えるでしょう。
あれからある程度時間が経ち、怒りが納まった訳では有りませんが、気持ちは少し落ち着いて
来ています。そう成ると、男がその妻と最後に来た時に、妻が男に視線を送った事が気に成り出し
ました。あれは気持ちに繋がりが有るからだと思っています。それならば、男が離婚でもする事に
成れば、妻はどの様な行動に出るのでしょうか?私と別れたく無いと言っていますが、本心は分か
りません。それなら仕方が無いのですが、一緒に暮らしている以上は気に成ります。
「もうあいつの事は忘れたか?今はどう思っているんだ?」
「何も思っていないわ。でも時々・・・・」
「時々どうした?また逢いたくなるか?」
「ううん、そうじゃ無くて、貴方にずっと拒否されているから・・・・、時々寂しく成るの。」
「そんな時逢いたく成るのか?思い出すことは有るだろうかな。」
短くは無い期間、関係を持った男を、この位の時間で忘れる事など出来ないと思います。
「そんな事は無いけれど、たまには抱いて欲しい。貴方は嫌だろうけど、抱いて欲しい。ねえ、たまにで良いから抱いて。お願い。」
私は抱く気は無かったのですが、知りたい事が有りました。
「僕は何もしないぞ。それで良いなら先に行って用意しておけよ。今日は寝室で良いぞ。」
「それでも良いわ。」
妻はあれ以来、笑顔を見せませんでしたが、その時は嬉しそうにいそいそと2階に上がって行きました。
シャワーを浴びてから寝室に入ると、妻はもうベッド入って待っていました。
「ベッド変えたのか?知らなかったよ。」
「ええ、貴方が嫌だろうと思って。」
ベッドを替えた位で、この寝室の嫌悪感が無くなる程、私の受けたショックは小さなものでは有りません。本当はこの家に居るのでさえ嫌なのです。
「好きな様にやってくれ。」
横に寝ると、妻は身体に舌を這わせて来ました。私の物を口に含むとやはり、前の妻とは違います。
舌を器用に動かし、執拗に攻めて来ます。明かに浮気前のセックスとは違います。男とのセックスで変えられた事は、私にとって屈辱以外の何ものでも有りません。
妻が絶頂を向かえそうに成った時、私は撥ね退けていました。
「お前、男に教わった事をよくも俺に出来るな。今日は、どんなセックスをするのか知りたくて、
お前の誘いに乗っただけだ。大体の事は分かったよ。」
立ち上がって寝室を出て行こうとすると、泣きながら縋り付いて来ましたが、突き飛ばして娘の部屋に入りました。可哀想な気もしましたが、強い怒りの方が勝っています。でも考えてみると、別れ様と思う気持ちが強い筈なのに、怒りを感じるのは、まだ妻の事を愛しているからだとも思ってしまいます。優柔不断な自分が嫌に成って来ます。
  1. 2014/08/21(木) 03:06:44|
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誤解の代償 第10回

私は日曜の夕方に家を出て赴任先に戻り、妻も月曜の夜にはこちらに来ました。私は完全に口を利きません。
これからどの様な展開が待ち受けているのかは分かりません。
佐野達の意見を受け入れる形には成りましたが、それは私の気持ちの中にまだ踏ん切りが付かない部分が有っただけで、その辺の整理が出来れば結論は決まっています。
佐野からの電話も頻繁に入りましたが、私は特別伝える事は有りませんでした。
そんな或る日、また彼女が出張でやって来ました。
「次長、来月はまた同じ職場でご一緒出来ますね。楽しみにしています。今日も何か食事の用意をして上げましょうか?お口に合えばの話ですが。」
「有難う。気持ちが嬉しいよ。この前造ってくれたのは本当に美味しかった。またお願いしたい
所なんだけれど、今、家のが来てるんだよ。」
「えっ、奥様が・・・。仕事の方はお休みですか?」
「仕事は辞めたんだ。だからこっちに来てるんだけど・・。君が来てくれるんだったら、あいつは
連れて来るんじゃ無かったよ。」」
「何を言ってるのですか。仲の良いご夫婦は本当に羨ましいですわ。私もそんな家庭を造りたかった。
奥様は幸せだわ。」
彼女の表情は何時も通り明るく、辛い気持ちでいる私の心が少し和んだのは言うまでも有りませんが、
現実に変わりは有りません。こんな時ですから、私は彼女を女として意識してしまいました。
ただ如何なる事も無いのでしょう。
妻とお互いが信じ合えていると思えている時には、それ程意識する事も無かったのですが、今は何か心
の寄り所に思えてしまいます。
そんな気持ちでマンションに帰ると、沈んだ表情の妻がいます。何がこんなに暗くさせるのか、
私への贖罪の気持ちからか、今の立場の辛さからなのか、男と逢えないもどかしさなのか知る余地
も有りません。ただ彼女の事が、私の気持ちに余裕を持たせてくれていました。
「貴方、お食事は?」
「要らない。」
私は無愛想に言うと勝手に風呂に入り、外出の用意をしました。
「出かけるんですか?」
「ああ。」
行き先が有る訳で無いのですが、勝手に彼女の事を考えていました。
泊まっているホテルへ電話を入れると、まだ食事前だと言うので一緒に食べる事にしました。
「あら、お一人ですか?奥様は宜しいんですか?」
ホテルの部屋から出て来た彼女は、言葉とは裏腹にウキウキしている様です。
「うん、気にしなくて良いんだ。それより良い店を知っているから行こう。」
店に入ってお酒も進むと、仕事をしている時とは違う彼女がいます。屈託の無い明るさで色々話して
くれて楽しい時間を過せました。妻とも仕事帰りに待ち合わせてこの様な時を良く持ちましたが、
これからは2度と無いのかもしれません。その時はそんな事すら思い出しもしませんでしたが・・・。
ホテルに送って行くと何か言いたそうでしたが、あの男の様に器用でない私は何も出来ませんでした。
それで良かったのでしょう。彼女にその気が有ったのかどうかは分かりませんが、もしそうだとしても
関係を持ってしまうと、単に他に逃げ道を求めるだけでその先は見えています。
マンションに帰ると、妻は酔っていました。
「お帰りなさい。どこで飲んで来たの?女の人と一緒だったんでしょう?」
「ああ、そうだよ。何か悪いか?一緒に飲むくらいで、とやかく言われる筋合いは無いだろう?
何も疚しい事はしていないしな。お前とは違うよ。」
睨む様な視線を送って来ましたが、それ以上の事は何も言いませんでした。
あの日以来初めて妻が求めて来ましたが、男との痴態を見てしまった私には、それに答える事等
当然出来ません。
「今迄散々拒んで来て、良くそんな事が出来るな。どんな神経をしてるんだ?信じられねぇよ。」
「辛いの。貴方に嫌われる事をしてしまったし、私が悪いのは分かっているけれど・・・・。
でも辛いの。」
そう言うと、妻は自分の部屋に戻って行きました。たまには優しくと思っても出来る程時間が癒し
てはくれていません。
  1. 2014/08/21(木) 03:05:42|
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誤解の代償 第9回

佐野との話の中で、妻は会社を辞める事に成りましたが、“相手
の男を追い詰めるのは返って危険な事に成らないか?
切り札的なものとして取って置いても良いのではないか?”
それは私的に納得出来ない部分も有りましたが、男の奥さんの
言っていた事も含めて納得するのも一理有るかなと思いました。
翌日奥さんに電話を入れると、午前中に来るとの事でした。
佐野夫婦が帰ってから、一言も口を利いていない私に妻は腫れ物
にでも触るかの様に接していますが、そんな態度にもイライラ
してしまいます。
「何をビクビクしてるんだ。これから奥さんが来るぞ。昨日は
黙ったままで謝りもしなかっただろう。今日は僕に恥を掻かす
なよ。」
「・・・ごめんなさい。きちんとします。」
妻との離婚を思い留まったのが、如何い言う結果に成るのか、
正しい選択だったのかは、まだ迷っていましたが、そう結論を
出したからには前に進むしか有りません。
進む事を選んだので有れば、私には知っておかなければ成らない
事が山ほど有ります。
「なあ、あいつと関係を持つ様に成ってからどの位に成る?」
「・・・初めの1ヶ月は何も無かったから・・・・」
「7ヶ月か。随分と騙し続けてくれたもんだな。ばれなかったら
どうするつもりだった。まだ続けてはいただろうが、僕と別れる
つもりだったか?」
「・・・続いていたと思います・・・・。でも、貴方と別れる
つもりは無かった。ただ・・・。」
「ただ何だ?その内に分から無く成ったかもしれないか?」
「いいえ、そんな事は無いわ。・・・ただ、そんな事をしていた
とは、貴方に言えないから騙し続けただろうと思って・・・」
「それが如何した?僕が浮気をしていると思っていたんだから、
別に気が咎める事も無かっただろう?勝手な言い分かも知れないが、男と女の浮気は本質的に違うと思う。こんな考え方はもう
古いのか知れない。でも、男は欲求を満たすだけに女を抱く事が
出来る。だからその為だけの店も山ほど有るんじゃないのか?
だけど女はどうだ?今の若い奴らなら如何かは分からないけど、
僕ら達位に成ると、そうは行かないんじゃないだろうか?お前は、あいつが既婚者だから、僕と別れる事を考え無かっんじゃ無いのか?」
「そんな事は無いです。あの人は奥さんと、もう別れる事になる
だろうと言っていたし、もし、別れ無くても私にはそれなりの収入が有るし、そんな気持ちなら貴方と別れる方を選んでいます。」
「そんなものかな?理解出来ないな。良く分から無いよ。ただこれからは、お前の収入は無くなるからな。もう勝手な事は出来ないぞ。」
本当は、あいつとのセックスは如何だったのか?どんな事をしたのか?それも知りたかったのですが、言い出せませんでした。
それらの事を知ったからと言って、何の役に立つ訳でも有りませんが、どうしても気に成ってしまいます。それらの事は、もう少し
気持ちの整理が出来てから聞こうと思いました。
そうこうしている内に田中夫婦がやって来ました。
「お電話有難う御座いました。ご主人のお気持ちは決まりました
でしょうか?」
リビングに入ると、前日と同じく床に正座した奥さんは私に
はっきりとした言葉で尋ねて来ました。
何も人に後ろ指をさされる事の無い人間は堂々としています。
妻もこんな事が無ければこの様にしていられたのでしょう。
何処に出しても恥ずかしく無い自慢のつまでした。それが今は
オドオドして俯いている姿を見ていると、本当に情けなく成って
しまいます。
「あのぅ奥様、この度は大変ご迷惑をお掛けしまして申し訳有り
ませんでした。なんとお詫びすれば良いのか・・・。本当に申し
訳御座いません。」
妻は床に頭を付けて、絞り出すような声で言うと、
「貴方に謝って貰わなくても結構です。」
明かに私に対する態度とは違う、冷たい中に怒りをあらわにした
言葉で制止ました。
当然な事だと思いましたが、その毅然とした態度に、この人の性格の強さが伝わります。
「ええ。決めました。この人には仕事を続けて貰いましょう。それから、私達は離婚を見合わせる事にしました。」
唐突な言葉に、男はチラリと私に視線を向けました。
「その代わり、まずは念書を書いて貰います。何時から不倫を続けたのかはっきりとさせて貰います。妻は仕事を辞めさせますが、
これから二人に何か有ったら、その時は会社に行かせて貰います。
ですから、妻が辞めた後から関係を持ったと言われては、会社的にも処遇に困るでしょうから。
それと慰謝料ですが、妻が仕事を辞めた分の金額を娘が大学を
卒業する迄の3年間払って貰います。
それが法律的に妥当なのか如何かは分かりません。もし異存が有ればそれはそれで構いませんが、それなら会社に行かせて貰います。妻もその内に仕事を始めるでしょうから、そうなればその分、支払
う金額も減らして貰って構いません。その事は誓約書にお互いきちっと書きましょう。
それと非常識な辞め方に成ると思うが、こいつには明日辞表を提出させる。来で有れば引継ぎ等色々しなければ成らないだろう、あんたの口利きで明日で終わりにして貰おう。良いな。」
男は「分かりました。」と家に来て初めて口を利きました。
「良いのね?貴方の責任で処理できるわね?そうさせて頂きます。私達も離婚するかどうか、もう一度良く話し合う事にしました慰謝料の方もそれで結構です。小遣いも遣りませんので、何とか出来ると思います。本当に有難う御座いました。」
奥さんの言葉に妻は男に視線を向けたのを、私は見逃しませんでした。
  1. 2014/08/21(木) 03:04:37|
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誤解の代償 第8回

「志保その顔どうしたの?まさかあんた・・」
娘の部屋で横に成っていると、妻の腫れた顔を見て驚いた様な
美幸さんの声が聞こえて来ました。
階段を降りて行くと、佐野と美幸さんが呆然とした表情で私を
見ています。
「やあ、来てくれたのか。中に入れよ。」
私は佐野夫婦を中に招き入れましたが、今日は静かに時の流れに
任せていたかったと言うのが、正直な気持ちでした。
佐野はソファーに座ると、おもむろに煙草に火を点け、
「何か有ったのか?お前が殴ったのか?」
「・・・・・・・・」
「おい、何が有った?」
私は妻に手を上げた事が有りません。その妻の顔があれ程腫れ
あがっています。何も無かったとは言えません。
私は言葉が出ず、佐野も何を言って良いのか分からない様で、
無言の時間が続きました。
美幸さんはキッチンで、妻をいたわる様に何か話をしていますが、妻は泣いているばかりです。
「なあ、どうした?まさかだよな?」
佐野がポツリと言いました。
「・・・・佐野、・・・俺・・俺・・」
私は佐野の言葉を聞いた瞬間、涙が出そうに成り言葉が詰まり
ました。
長年付き合って来た友人は、全てを悟った様です。私の肩に手を
置きました。
「そうなのか?」
佐野はキッチンに行き、妻と美幸さんに声を掛けました。
「志保ちゃん、何が有ったのか詳しくは分からないが、俺達に
出来る事は無いのかい?こいつに言えない事でも美幸には話せ
無いか?美幸、二人だけで話を聞いてやれ。」
二人は2階に上がって行きました。
「なあ、大体の事は想像が付くよ。これから如何する?」
「・・・・別れ様と思っている。」
「そうか。お前は頑固だから俺が何を言っても駄目だろう。
でもな、別れるのは何時でも出来るぞ。
お前達も、夫婦としての歴史が長いだろう。後から後悔する様な事は無いのか?お前の気持ちは分かる。俺だってお前の立場なら
そう思うだろう。それでも冷静に成るまで結論は急がない方が
良いと思うぞ。」
その通りなのでしょう。一時の感情に任せて結論を急げば、後から後悔するのは私なのかも知れません。でもその時の気持ちは、
余りにも余裕の無いものでした。
暫らくして、妻達が戻って来ましたが、美幸さんも泣いていま
した。
「志保から色々聞きました。今回の事は、志保が悪いと思う。
でもね、誤解も有った訳でしょう。私達も志保の相談に乗って
あげられ無かった。このまま別れられたら、私も責任を感じるの。
もう1度考え直してくれないかしら。来月帰って来る迄で良いか
ら考えて。お願いします!」
美幸さんは妻を促し二人で深々と頭を下げました。
「俺もその方が良いと思うよ。」
3人の考えが一致した様です。確かに私の心の中にも怒りから
来る歯止めの効かない感情を、どうにかしなけえればと言う
気持ちが無かった訳では有りません。しかし、このまま許す事も
含めて考えると言えば、振り上げた手の置き場が有りません。自分でも如何したら良いのか分からなく成って来ていました。
「志保ちゃん、こいつと一緒に行って出来る事は何でもしなけ
れば。辛い事だけしか無いと思うけれ、それは仕様がないさ。
出来るよね?」
妻は俯いたまま頷きました。
「僕は許すつもりは無いんだ。チャンスを与えるつもりも無かった。だけど、いろんな想いは確かに有る。志保、これからお前は
相当辛い思いをするだろう。それでも許せるとは限らない。良い
のか?耐えられるか?それなら、考えない事も無いが、あくまで
離婚するのを延ばすだけだ。」
私は結論を先送りしてしまいましたが、何か安堵感を感じたのも
事実でした.
「貴方ありがとう。ありがとう。」
これからが、本当の『戦い』です。
  1. 2014/08/21(木) 03:03:33|
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誤解の代償 第7回

夕方にと言って於いたのに、田中夫婦は早めの時間にやって
来ました。
男の方は、ソファーに腰掛け様としたのですが、それを奥さんが
制して床に二人で正座しました。
「この度は主人がとんでもない事を致しまして、真に申し訳
御座いませんでした。」
奥さんは床に頭を付けて謝りましたが、男の方は軽く頭を下げた
だけです。その事に気付いた奥さんは、
「何をしているの。ちゃんと謝りなさい。私まで恥を掻くのよ。」
それを聞いて、男は慌てて頭を床に付けました。
「奥さん、どうか頭を上げて下さい。それから、そんな所に座ら
ずに此方にどうぞ。家のも同罪ですから。」
妻も少し離れた所に俯きながら正座しています。
「いいえ、とんでも有りません。ここで充分です。この度お伺い
させて頂いたのは、ご主人様にお願いが有って参りました。
家の主人がこんな事しておいて、大変申しずらいのですが、今宅
の方は、もうご存知とは思いますが別居しております。恥ずかし
い話、私は務めを持たないもので、この人から生活費を預かって
おります。その事なのですが、ご主人様がこの人の会社に行かれ
ると、このご時世ですから最悪職を失ってしまいます。自業自得
ですから、この人にはその方が薬に成って良いのかも知れませんが、そのう・・・、私の生活費が心配に成ってしまいます。子供
も丁度お金が掛かる時でも有りますし、そこの所は何卒ご容赦願
えないでしょうか。その代わりと言っては何ですが、私は奥様に
慰謝料の請求は致しません。」
何を勝手な事を言っているのかと思いましたが、決して綺麗な訳
では有りませんが、清楚な感じの奥さんが、必死で頼み込む姿に、
此処にも夫婦の割り切れない遣る瀬無さが有る様です。
「お気持ちは分かりますが、このまま二人を同じ職場に置く訳に
は行きません。家の妻もこの歳迄働いて来て、大した理由も無く
辞めさせて貰えるとも思えません。もし了承されても、引継ぎ等
である程度は会社に出なければ成らないと思います。その事を
黙って見ている訳には行きません。大変失礼なのですが、一つ聞
いても宜しいでしょうか?」
「はい、構いませんが・・・」
「奥さんは、これから如何するおつもりなのでしょうか?またやり直されるおつもりですか?」
「・・・今は分かりません。でも、もう駄目かとも思います・・」
「それならば、今迄蓄えてきた財産と、家の奴からの慰謝料で
何とか成らないのでしょうか?もし、勤めるおつもりが有るので
したら、私が紹介させて頂いても構いませんが。それで何とか成らないでしょうか?」
その時、妻と男が同時に私の顔を見ました。私が気持ちを変えな
いからなのか、何かを企んでいるとでも思ったのか、私の知る所
では有りません。
「そうして頂けると何とかやって行けると思います。ただ・・・、本当の事を言いますと、この人とは長く生活して参りましたから、やはり情が無い訳では有りません。今仕事を取り上げられてしま
うと、この歳ですから再就職と言ってもなかなか無いのではない
かと存じます。そう思うと何故か不憫で・・・。勝手な事をお願いしているのは重々承知しておりますが・・・・」
やはり愛情が有るのでしょう。長年夫婦でいた訳ですから、こんな男にでもその気持ち有るのは当然なのだと思います。
「私も奥さんのお話を聞いていて少し考えてみようと思いまが、
ご期待に答えられるかどうか気持ちを整理しないと分かりません。ただ、お宅のご主人に慰謝料は請求させて頂きます。
その為にも仕事は持っていて貰わないといけない訳ですし・・・。良く考えさせて頂きます。それから、謝ってばかり居られますが、奥さんも家の奴に言いたい事が沢山有るかと存じます。
どうか気兼ねしないで言ってやって下さい。」
妻は、頭を深く下げているだけで、何も言いません。
「いいえ、私から奥様に言う事は有りません。ただ、人間って
理性を持つ生き物なのに、どうしてこんな事をするのかと思い
ます。発覚した時の事を思うと、自制心が少し位は有っても良い
筈です。特に女性には。」
奥さんの妻に対する、精一杯の嫌味だと感じました。
妻と男は1度も目を合わせる事も無く、ただうな垂れているだけで、親に叱られている子供の様でした。
一時の快楽に溺れた罰なのですから当たり前なのですが、良い歳
をしてこんな姿は恥ずかしいものです。私はこんな惨めな姿は
晒したくないものだと自分自身を戒めました。
田中の奥さんは、“明日にでも連絡を欲しい”と言い電話番号を
メモして立ち上がりました。
田中達が帰った後、妻の会社に乗り込むかどうか、色々考えまし
たが、結論は出せませんでした。
妻は俯いたまま、私が動く度にビクビクしています。
「何をビクツイテいるんだ。見ていると苛つくから、何処かに行ってろ。そのまま帰って来なくても良いぞ。」
そう言っても妻は動きません。
「他所の奥さんの前で、あんな見っともない姿晒して恥ずかしい
とは思わないのか?お前はおかげで俺までいい恥さらしだ。」
言ってるうちに、ドンドン口調が激しく成って行きます。
「ごめんね、・・・ごめんね、もう裏切らないから許して。」
妻はまたすすり泣き始めました。
「何を泣いているんだ。うっとうしい。もう裏切ら無いって、1回裏切れば何度でも同じだ。頼むから出て行ってくれ。」
それでも妻は動かないので、私は娘の部屋に戻りました。。
今後の事を、話し合うつもりでいたのに、どうしても妻の顔を見ると腹が立って冷静でいられません。
  1. 2014/08/21(木) 03:00:53|
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誤解の代償 第6回

妻の気持ちを考えているうちに、また眠ってしまった様です。
妻も泣き疲れたのか、私の横で寝息を立てています。
私はそっと起き出そうとすると妻も眼を覚まし、
「貴方、私・・・」
何か言い出す前に、私がさえぎりました。
「もう何も言わなくて良い。」
それだけ言って浴室に向かいました。シャワーを浴びてリビングに行くと、妻が朝食の用意をしています。
その朝食は、私に踏み込まれなければ、あの男と取る筈だった物でしょう。
「朝飯なら要らないぞ。あの男のおこぼれなんか食えないからな。」
どうしても、意地が悪く成ってしまいます。私の言葉を聞いて、
妻の動きが止りました。
「・・・ごめんなさい。でも、そんなつもりは無いの・・・。」
「そうか。でも要らない。それから、昨日言っておいたマンションの部屋に来た人に電話するから、此処に来て貰おうか?それとも
何処か外で会おうか?」
「いいえ、そんな事は良いです。色々考えたけど、もっと早く私が意地を張らずに貴方と話し合っていれば・・・。もう遅いかもしれないけれど、何も無かったって今は信じたいと思います。」
本当に私の話だけで、信じる事が出来るのでしょうか?
「本当に遅かったな。」
冷たい怒りがそう言わせました。そう言うと、妻は目に大粒の涙が溢れました。
こんなに早く結論を出しても良いのかどうか、私には考える余裕は有りません。
私は昔から怒りを力に変えて生きて来た所が有ります。その後で
反省する事が幾つも有りましたが、今もそうする他に方法を知りません。
暫らくして、佐野から電話が有り、昨日からの事を話そうとも思いましたが話せませんでした。
落ち込んだ声だったのか、佐野は何かを感じた様で、
「そうか。・・・お前達が来ると思って、楽しみにしていたんだけどな。疲れているんじゃしょうが無いな。・・・お前大丈夫か?
何か有ったんじゃ無いのか?」
心配そうな声で問い掛けて来ましたが、「大丈夫だ。心配掛けて
済まなかったな。」そう言って電話を切りました。
横で聞いていた妻は、私に殴られて腫れた顔を、冷やそうともしないで泣いています。
本来なら佐野からの電話は、これからの楽しい時間を予感させる筈のものです。
でも今は、それすらも現実を思い出させる事に成ってしまいます。
私がガックリとソファーに腰を落とすと、妻が堰を切った様に話し出しました。
「もう駄目なの?どうしても駄目なの?・・・私どうしたら良いの?何か許してもらえる方法は無いの?・・・私別れたく無い!
そんな事出来ないわ!」
「お前は、あの男を愛しているんだろう?何故そんな事を言うのか、理解出来ないな。」
「いいえ、私は貴方を・・・・。貴方を疑いさえしなければ、こんな事には・・・。私が馬鹿でした。今更言っても仕様が無いかも
知れないけれど・・・馬鹿でした。」
私が言うのも何ですが、妻は純な女でした。もしも、私が浮気していると信じていれば、可也苦しんだと思います。その気持ちが分からない訳では有りません。でも、私の事を疑って、他の男の言う事を信じてしまったのは、妻の気持ちの何処かに、それを望む隙が有ったのでは無いかと思います。
「ここ何ヶ月か、月に1度会うか、会わないかの夫婦だ。その間、あの男とは何回寝た?僕が何度来て欲しいと言っても、色々理由を付けて来てくれなかった。その理由があの男との事だった。
僕の所に来るよりも、男と逢う方を選んだのだから、お前の言ってる事は信用出来ない。それが当たり前なんじゃないか?
正直お前の言っている意味が、今の僕にはまったく理解出気ないん
だよ。」
私はまた娘の部屋に入り横に成ると、昨日の妻と男の痴態が頭の中に蘇って来て苦しめます。
妻と出会ってこんな事が起こる迄、本当に幸せでした。それまで
小さなトラブルが無かった訳では有りません。でも、お互いの信頼感と夫婦ならではの安心感が有り、乗り切る事が出来ました。
これからは、そうは行かないと思います。だいたい、妻が『許して欲しい』と言ってる事自体、何かその裏に有るのでは無いかと思ってしまいます。今迄、そんなふうに妻を思った事が有りません。
今回も、不信な行動を疑いこそすれ、最後の瞬間迄信じたいと、
思っていました。
そんな自分が悲しく思えて来ます。夫婦の思い出は、愛の形を出会いの時の様な熱い感情では無く、それ以上の深い愛情に変えています。だから、別れは辛いのでしょうが、いや、辛いと言う様な簡単なものではなく、身を引き千切られる様な、全てを無くしてしまう様な激情に駆り立てるのでしょう。
この激情から逃げ出すには、どうであれ、妻を許してしまうか、別れる事しか無いのでしょうか?
それならば、私は別れる方を選ぶ人間だと思います。
そんな生き方で、何度も失敗した事も有ります。自分の欠点だとも思います。でもこの歳まで生きて来て、今すぐに改めろと言われても、そう簡単に出来ない事は、誰よりも自分が良く知っています。
しかし、これからの事に背を向ける事は出来ません。妻と話さなければ成らない事が、まだまだ有ります。
私はリビングに戻りました。妻はソファーに座り、焦点の合わない表情で一点を見詰めています。
「この前電話で言った通り、来月に戻って来る。それ迄にハッキリさせたい。僕は別れ様と思っているけど、お前はどうだ?正直に言って欲しい。」
「・・・私は、別れたく無い。そんな事、考えた事無い。でも、貴方にそう言われても仕方が無いと思います。貴方の思う様にして下さい。」
「分かった。離婚届けにサインして送ってくれ。その後は、お前の人生だから、僕の感知する事では無いけれど、如何するつもりだ?あいつと一緒に成るのか?」
「そんな事は考えていません。貴方に離婚されてもあの人と一緒に成る事は有りません。それと変な事を言っても良いですか?」
「良いよ。思っている事は何でも言えよ。」
「昨日貴方が私達の浮気現場に入って来た時、久振りに貴方の荒々しさを見ました。あの人が粋がって掛かって行った時に簡単にいなしました。。貴方は覚えているかしら?私は昔を思い出したの。
まだ一緒に成る前、二人でデートしている時にチンピラに絡まれた事が有ったでしょう?
覚えていますか?あの時、一瞬にチンピラを叩きのめして私を守ってくれました。
あれから、貴方との色んな事を思い出して胸が熱く成ったの。
理屈じゃ無くて、本当に愛しているのは貴方なんだって・・・・。私・・・・、だから・・・やっぱり貴方と別れたく無い。
やっぱり嫌、どんな事されても良いから、許して欲しい。もう1度チャンスを貰えないですか?貴方お願い!」
そう言って、激しく泣き始めました。
「お前は僕を疑っただけで、浮気をしてしまった。何よりも僕はその現場を見てしまった。それもこの家でだ。もし、反対だったらお前は許せるか?たとえ疑いが有ったとしても確証も無くこんな事をされたら許せるのか?僕は許す事は出来ない。」
「・・・分かっています。分かっているけど・・・・。もう1度
チャンスを下さい。もう1度だけ、お願い!ねえ、お願い!」
気持ちの中に、妻と別れたくは無いと言う葛藤が無い訳では有りません。しかし、男に貫かれている所を見てしまっては、寝取られ
趣味の有る人間は別でしょうが、普通は許す事が出来るでしょうか
私には出来ません。
「あの男に愛情は無いのか?好き放題やっておいて、僕を愛しているからと割り切れるのか?そんなものじゃ無いだろう?
特別な感情も無く抱かれる女ではないだろう?そんな気持ちの
お前とやって行ける程大きな包容力は持ち合わせていないんだよ」
「ごめんなさい。貴方の言う通り、直ぐには気持ちの整理は出来ません。一度愛してると思った人だから・・・・、ごめんない・・。こんな事言わない方が良いと思うけれど・・でも、・・・でも・・
貴方への気持ちは昔と変わりません。」
正直な気持ちなのかも知れませんが、こんな時は、あの男の事は
何とも思っていないと言うのが、一般的な常識じゃ無いのかと思い、何を勝手な事を言ってるのかと私の気持ちにまた強い怒りが沸き起こりました。
「あいつの家庭は、おそらく駄目だろう。そんなに忘れられないなら、一緒に成れば良いだろう。別れてしまえば僕にとやかく言う
権利は無いからな。」
それを許せる程私は寛容では有りませんが、言わないといられませんでした。他の男を愛した妻を許す事は出来ません。そもそも、女がこんなに素直に許しを求められるのでしょうか?男よりも余程
したたかな生き物の筈です。
「もう貴方を裏切りません。もう疑ったりもしません。あの人と一緒に成るなんて事は絶対有りません。」
そも時電話が有りました。妻が出て何やら話していると、私に変わる様に合図をして来ました。
電話を変わると、相手は田中の奥さんで、今日家に来たいとの事でした。私はまだ妻と話さなければ成らない事が有ったので、夕方
来てくれる様に伝えました。
「聞いていたと思うけれど、夕方に来るそうだ。それ迄に僕達の方をはっきりさせよう。今お前の話を聞いていて思ったんだけれど、チャンスを与える事も出来ない訳じゃ無いのかもしれない。
でも僕はお前の顔を見ると、今迄の事を思い出してしまう。その時また言いたくない事も言うだろう。そんな生活はお互いに不幸なだけだと思う。僕だって別れるのは辛いさ。お前を許してこのままでいたい気持ちも有る。だけれど、別れた方が幸せに成れるなら、その方が良いと思う。別れてどんなに辛くても、時間が解決してくれるだろう。その時にお互い、新しい出会いも有るかも知れない。そうなれば、新しい幸せのスタートを切れると思う。」
妻は涙を溢れさせ聞いていましたが、私が言い終わると悲鳴の様な声を出しました。
「嫌!そんなの絶対嫌!」
そう言うとテーブルに泣き伏してしまい、手が付けられません。
今は何を言っても駄目でしょう。
「泣いていったて、何の解決にも成らないぞ。」
私はそう言って、また娘の部屋に戻りました。
  1. 2014/08/21(木) 02:58:36|
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誤解の代償 第5回

妻の話を聞いていて、私は絶望のどん底に叩き落とされた様な気持ちでした。私に対する態度を見ていて、もしも不倫をしているならば、もう相手の事を愛しているのだろうと思っていましたが、何か
事情が有ってそうなってしまったと言う事も考えられます。そんな、淡い期待も吹き飛んでしまいました。『私にとって忘れられないもの』その言葉が全てを物語っています。
こう成っては、今更何を言ってもしょうがない事です。嫉妬、虚しさ、寂しさ、怒り、色々な感情が湧き起りましたが、もうどうし様も無い事です。ただ、このまま黙って引き下がる事は出来ません。
「僕とお前の家に何故引き込んだ。僕に対してどれ程屈辱的な事か分からない訳は無いだろう?
その上お前は、あの男を庇ったよな。とことん馬鹿にしてくれた。お前とあの男は絶対許さない。法律的にも社会的にも責任は取ってもらうのは当然だが、それ以上の事もさせてもらう。
まずはこの家は売る事にする。お前とあいつが乳繰り合ってた所には住めないからな。売れた金の半分はやるから、残りのローンはお前が払え。僕とあいつの奥さんに慰謝料を払って、家のローンもと成ると大変だろうが、もう僕には関係無い。仕事は早く探した方が良いぞ。今の会社は当然首だろうからな。それと、僕の浮気を疑っている様だが、本当に何も無いよ。確かに、誤魔化そうとしたの
は悪かった。あの時は、そうでも言わないと変に疑われる様な気がした。謝るよ。でも何も無い。明日でも、あの日部屋に来た人を呼ぶから自分で聞いてみろ。それでも疑うのならしょうが無いけれ
どな。」
妻を寝取られた私に言う事が出来るのは、これが精一杯でした。
「・・・庇うなんて。あの人を庇うつもりなんか無かった。でも私怖くて・・・・。ごめんなさい・・・。あの人を家に入れたのは、貴方が何時も電話を掛けて来るから・・・。貴方に知られたく無かったから・・・。貴方は私に嘘を言う事が無かった。だからあの時凄くショックで、寂しかった・・・・。言い訳に成ってしまうけれど、貴方に復讐する事で自分の気持ちを保ちたかった・・・・」
妻は泣き伏せてしまい、言葉がもう出そうも有りませんでした。
「僕は何もしていないよ。でも今更そんな事どうでも良いじゃないか。お前もその方が良いだろう。」
妻は泣き腫らした目で、虚ろに私を見ながら
「・・・・そんな事ないわ。私は貴方以外の人と一緒に成るなんて考えた事無いもの。だから私辛くて・・・。気が変に成る位辛くて・・・・。貴方・・もう許してくれないわよね。でも嫌、このままでは嫌、絶対に嫌。私に、私にもう少し時間を下さい。お願いします。お願いします。・・もう少し時間を・・・」
妻は何を言っているのでしょう。男を愛しているのなら、私と別れる方が都合が良い筈です。
お金の事が心配で、何とか時間稼ぎを考えているのでしょうか。妻の真意が分かりません。
「志保、時間は無い、もう時間は無いよ。今後の事は、明日話そう。」
言いたい事も、聞きたい事もまだ有りましたが、もう話し合う気力が私には残っていませんでした。
妻の真意は分かりませんが、今の私の気持ちは到底許す気には成れません。妻と過した思い出等、これから私を苦しめる多くの事が襲って来るのでしょうが、その時の正直な気持ちです。
泣き伏している妻を残して、汚れた寝室ではなく娘の使っていた部屋に入りました。
気持ちの中を嵐が渦巻き、なかなか眠る事が出来ずにいましたが、何時の間にか眠ってしまった様です。何かの気配に目を覚ますと、私に寄り添う様に妻が横に成って泣いていました。私が寝たふりをしていると、
「貴方ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・。」
妻は呟く様に言っています。先程の妻の話では、明らかにあの男を愛していると思いました。
今迄の妻の態度も、いくら私を疑っていたからと言っても、余りに冷たいものでした。
どうしてこんな事を言うのか、理解出来ませんでした。
  1. 2014/08/21(木) 02:57:35|
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誤解の代償 第4回

男を放り出してから、激情に駆られ,妻をどう問いただすべきか考えていなかったので、私は一旦リビングに入りました。ソファーに座り冷静に成らなければと思うのですが、この怒りはどうしょうも有りません。嫉妬や寂しさ、虚しさ等の感情は、不思議と有りません。ただ、復讐心から来る強い怒りが有るだけです。その他の感情はこれから感じて来るのかも知れませんが、今は怒りだけです。暫らく経ってから、妻がリビングに入って来ました。
「あなた、私、私・・・・」
泣いていて言葉に成らない様です。
「何時からだ?如何してこう成った?僕はお前を信じていた。まさかこんな事とは・・・。」
怒りの感情しか無かった筈なのに涙が溢れて来ました。
私の涙に気がついた妻は、声を出して泣きながら、
「・・・私・・寂しかった・・・本当に、寂しかったの・・・・」
私は何か言おうと思うのですが、涙がこぼれ出て声に成りません。気を落ち着かせ様と洗面台で、顔を水で洗っていると、妻が背中に縋り付いて来ましたが振りほどいてしまいました。
「さっき迄、男に抱かれていてよくそんな事が出来るな。」
本当は抱き締めてやる位の余裕が有っても良いのかもあしれませんが、また怒りが強く支配して来ます。
「何が寂しかったんだ?お前は寂しければ、何でもするのか?如何してこうなったのか始めから説明してみろ!」
妻の話は、
“最後に貴方の所に行った時、何時もよりも部屋が綺麗に整頓されているのに気が付きました。
それだけなら何の事は無いのですが、冷蔵庫の中に明かに買って来たものとは違う料理の残り物が有り、キッチンの引き出しにはクッキングペーパが入っていました。料理をしない貴方が買っておく物では有りません。誰か女性が来て行ったのは確かです。私は貴方に、「誰か来たの?」と聞くと、「ああ、会社のに居る婆さんが、“残り物で良かったら食べて。”と言ってくれたのでお願いしたら、部屋に来て温めてくれたんだ。」そう言う貴方は、妙に不自然で動揺している様でした。貴方の言う歳を取った女性では無いと思いました。何故かと言うと、洗面台のブラシに長い髪の毛が付いていましたから。料理を温めに来た人がブラシに痕跡を残して行く筈は無いんじゃ無いでしょうか?貴方を信じたい気持ちと、疑う気持ちが心の中で渦を巻きました。家に帰ってからもその事が頭から離れませんでした。こんな時、一緒に暮らしていれば、気持を整理出来る安心感を持てたかも知れませんが、離れて暮らしていると、どんどん悪い方に考えてしまいます。でもこの時はまだ半信半疑で、今度は貴方と話し合ってはっきりさせ様と思ってました。電話が掛かって来てその話を仕様と思っても、私にその隙を与え様としない貴方に、疑惑は気持の中でどんどん大きく成ってしまいました。
今度貴方の所に行った時にしっかり問いただそう、しっかり話し合おう。そうしないと私のお気持ちが、おかしく成ってしまう。仕事にも身が入らない。わたしの誤解ならそれに越した事はないし、もし、貴方が浮気しているなら耐えられない事だけど、まずは止めて
貰わないと。そんな事を考えている時、会社の課の仲間で飲み会をしようと言う事に成り、あなた
の所に行かなければと思っていたのですが、たまにしか無い飲み会なので断り難く出席する事にしました。酔いも少し回った頃に、田中課長がわたしの所に来て、
「志保さん、このごろ元気が無いようだけど、何かあったの?」
やはり、会社の中で自分では普通にしているつもりでも沈んでいた様です。
「実は、余りに元気が無い様だから、君を励まそうと思って飲み会を開いたんだよ。何か心配事が有るのなら何でも言って来て。僕に出来る事なら相談に乗るから。それも上司の仕事の内だからね。」
飲んでいても何時もと変わらぬ紳士的態度の優しさに、気持の沈んでいた私は凄く嬉しく感じました。
次の日に、貴方の所に行こうと思っていたのですが、前日飲み過ぎていたので頭が痛く行く事が出来ませんでした。
週明け仕事が終ると、課長が声を掛けて来ました。
「どう?少しは元気が出たかな?一寸だけお茶でも飲みに行こうか。」
会社の中ではエリートで、また人望の厚い課長に誘ってもらって嬉しく感じたわたしは、二つ返事で誘いに乗りました。
近くの喫茶店に入っても、物静かで紳士的な態度は何時もと変わり有りません。
「志保さん、何か有ったの?今日は少しだけ明るかったけれど、それでもたまに暗い顔していたよ。家庭の事なら僕が口を出せる事では無いけれど、もし相談出来る事なら言ってみてよ。そのほうが
気が楽に成ると思うけど。」
勿論わたしは、課長に言える筈も無く、
「ありがとう御座います。休みの日には、主人の所へ行ったりして疲れが溜まっているんだと思います。ご心配掛けて申し訳御座いません。」
その日は、そんな話だけで家に帰りました。
その週の内にまたお茶に誘われ、
「今週も、ご主人の所へ行くの?こんな事、僕が言える立場じゃ無いんだけれど、疲れているのなら止めた方が良いと思うんだ。その内に仕事で失敗してしまうと大変なのは自分自身だからね。それと
良かったら、金曜日に仕事が終ったら一寸付き合ってくれないかな。話が有るんだ。」
「分かりました。」
仕事を失敗したら等と言われたら、そう言うしか仕方が有りませんでしたが、私の事を心配してくれる課長に、悪い気はしませんでした。
金曜日に課長の行きつけの居酒屋で、私は以外な事を聞きました。
「実はね、僕の所、別居しているんだよ・・・。言い難いけれど僕の浮気がばれちゃてね。志保さんを心配している場合じゃ無いんだけどね。でも、僕の所は何とか謝って許してもらえそうだ。本当に馬鹿な事をしてしまったよ。実は僕が何故こんな話をしたかと言うと、志保さんの元気が無いのはご主人が浮気したからじゃ無いかと思って。違ったらご免ね。ご主人単身赴任だそうだから少し心配に成っちゃてね。」
「・・・・・・・・・」
余りに図星なので、言葉が出て来ません。
「そうなんでしょう?」
私は酔いのせいも有り頷いてしまいましたが、まだ、自分が疑っているだけで確証が無い事を言うと、
「何故疑ったの。何か理由が無いと疑わないと思うんだ。変な話僕は経験者だから少しは分かると思うよ。」
余り深刻にでは無く軽い感じで言うのが、私の言葉を出やすくさせました。感じていた疑問を言うと、「それは間違い無いな。こんな綺麗な奥さんがいるのに。男ってどうしょうも無いね。」
口に出した分、気持が少し楽に成った様に感じましたが、その反面、貴方が浮気していると疑う気持ちが大きく成長して行きました。
その日も課長は、余り遅い時間には成らない様に帰してくれ、浮気をしたのは悪い事だけれど、本当に反省している様で好感を持ちました。
その後も仕事帰りに何度も逢っていましたが、課長は紳士的で下心が有る様に感じませんでした。
その頃に成ると、あなたが絶対浮気をしていると思い込み出した私は、あなたの所に行くよりも課長と逢っている時間の方が何か充実している様に感じてしまいました。
そんな或る日、仕事中に課長が暗い顔をしているのが気に成りました。その日仕事が終ると課長から
「また付き合って欲しい。今日は時間大丈夫かな?」
と誘って来て、心配していた私は断るつもりは有りません。その日は、食事をした後に珍しく2軒梯子して2軒目でようやく課長が、暗い顔をしていた理由を話してくれました。
「・・・あいつとやり直せると思っていたんだが駄目みたいなんだ。やっぱり僕の事を許せ無い様だ
。これから僕は・・・。悪いのは僕だから仕方が無いんだけど寂しいよ・・・」
本当に寂しそうで落ち込んでいる課長を見ていると、私に出来る事は何か無いかしらと思い、
「志保さん。悪いんだけどもう少し付き合ってくれないか?」
もう可也遅い時間に成っていましたが、断りませんでした。
お店を出ると私の肩に手をまわして来て、抵抗しない私に唇を重ねて来ました。
「これから何処かに行こうか?」
課長が初めて私を、女として誘って来ました。1度唇を許したからなのか、余り抵抗を感じる事が有りませんでしたが、
「課長、まだ奥様とどうなるか分かりませんよ。そんな時に何を言ってるんですか。それに、今日は途中で主人に″飲み会が有るから遅く成る”って、電話入れておきましたが、朝に電話を掛けて来る
かも知れないから。」
そう言って断りました。
「そうだね。ご主人に心配掛けるのも悪いしね。」
会社では弱音を吐かない課長が、本当に寂しそうで母性本能とでも言うのか良く分かりませんが、何かいとおしく成り、それが何を意味するのか分からなかった訳では有りませんでしたが、
「家に来て飲み直しますか?」
私から誘ってしまいました。その夜は、私にとって忘れられないものに成りましたが、朝、目を覚ますと貴方に対して罪悪感でいっぱいに成りました。でも、『貴方も浮気しているのだから。』そう
自分に言い聞かせて、その内に何度も関係を持ってしまいました。
  1. 2014/08/21(木) 02:56:22|
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誤解の代償 第3回

私は階段で、足が竦んで動けません。妻達の声だけが耳に響いて来ます。
「アーー、もうお願い。ねえ早くぅ。アーーン。」
「まだまだ。」
「ウーーン、もう駄目!アー、堪忍して!」
「なあ、旦那どうしてる?まだ気付いて無いのか?志保は俺にこんな事されているのに。目出度い奴だな。」
「アッ、そんな事は・・どうでも・・アーー、ねえ、もう、もう、アーー、もう駄目!早く!アーーー、駄目イクーー」
悲鳴の様な大きな声が響きました。私は急いで階段を上がり、寝室のドアを開けると、男は妻を後ろから貫いている所でした。その光景は一生忘れる事の出来ないものと成り、今も目に焼き付いて離れません。
「誰だ!」
男は妻と繋がったままで、この家の主人でも有るかの様な事を口にしました。
「俺はその女の亭主だ!お前こそ何をしている。」
「あっ、貴方!イヤー!見ないで!見ないで!」
妻が慌てて離れ様としましたが、男は妻を貫いたまま、挑発的な視線を向けて来ます。
「とんだ所を見られたな。まあ、こう言う事だ。」
妻から離れ私の前に立ち、何も悪びれた様子も無く背広の襟を掴もうとしましたが、それよりも先に私の前蹴りが鳩尾を捕らえていました。
声に成らない呻き声を出し蹲った所を、今度は顔面に蹴りをみまい腕を捩じ上げると、
「いっ、痛い!分かった、分かったから離してくれ。」
「うるせい!何なんだお前!ふざけた態度とりやがって!」
腕を捩じ上げたまま、顔面に膝蹴りを入れると、顔を押さえて動かなく成りました。
拳法等、特殊能力を一般の人に使うのは、凶器を使うのと同じで法律で禁止されています。
しかし、この時はそんな事を考え余裕も無く、何の躊躇もしませんでした。
「志保、どう言う事だ?こう言う事で俺の所に来なかったのか?俺は、お前を信じたかった!」
「違うの、違うの。私・・貴方が・・・」
「何を言ってるんだ。何が違うんだ!これの何が、何が違うと言うんだ!」
私は妻の頬を何回も平手で打つと、口の中が切れた様で血が流れ出ましたが、それでも止めません
でした。妻は何の抵抗もせずに打たれていましたが、涙を流し「違うの、違うの。」と言い続ける姿を見ていると、虚しく成って来て突き放し、何が違うのか?これから如何するか?混乱した頭を整理
する為にまた煙草に火を点けました。もう手は震えていません。
「志保、何が違うんだ。」
私が妻を問いただそうそうとした時、
「うーん」
男は両手で顔を覆ったまま立ち上がりかけましたが、私に気が付き「あっ。」と妙な声を上げて後退り、怯えた目をしました。
「お前は何を偉そうにしていた?何を考えているんだこの馬鹿が!まあ、お前ら許さんからそこに座っていろ!」
男が立ち上がりベッドに腰掛け様としたので、
「おい、お前、誰がそこに座れと言った!まだ俺に喧嘩を売るのか?」
私はもう1度横っ面を殴り付けました。
「申し訳有りません。如何かもう暴力は・・・、申し訳有りません。」
男は土下座して謝り始めました。初めの威勢は妻に格好を付ける為のハッタリだったのか、私の方が明かに強いと観ると、手の平を返した様に低姿勢に出て来ています。仕事をしていても、何を勘違いしているのか、自分の立場を弁えないこう言う人間は多くいて、大嫌いなタイプです。
「おい、お前、何処の奴だ。」
「いやそれは・・・」
「どうした。勘弁してくれってか?出来る訳無いだろう。この馬鹿が!」
私は男の背広とセカンドバックを調べると、身分証明が出て来たので見てみると、妻と同じ会社に勤めています。
「田中肇?同じ会社か。良く有る話だな。だがな、俺には良く有る話では済まされ無いんだ。きっちり形を付けさせて貰うからな!」
「方を付けるとは・・・あの・・どの様な?・・・」
「お前達のした事に決まって居るだろう。どう責任を取って貰うかはこれから考えるが、可也の事をさせて貰うから覚悟しておけ。まず、お前の奥さんは何をして居る?」
「家のとは今別居中です・・・実家の方に帰って居まして・・・」
「ふん、どうせお前の浮気でもばれたんだろう?とことん馬鹿な奴だ。奥さんには悪いが、この事を知らせない訳には行かないな。電話番号を教えて貰おうか。」
その時、私に殴られ放心状態だった妻が、
「奥さんには関係無いわ。責任を取るのは私達だけにして。」
泣きながらでは有りますが、はっきりとした口調で言って来ました。
「黙れ淫売!この馬鹿と別れていない限り、奥さんにも知る権利は有るんだ!」
男を庇っているのか、自分のした事を知られるのが怖いのか、私の気持ちを逆撫でする様な事を言う妻に無性に腹が立ち、また殴り付けました。
「申し訳有りませんでした。どんな事でもさせて頂きます。・・・ただ・・今は別居中ですが何とか修復出来そうな所迄来ています。妻にだけは・・妻にだけは・・どうか勘弁して下さい。お願い
致します。」
「お決まりの言葉だな。お前本当に正気か?修復仕様としている時にこんな事するか?お前みたいな奴に騙されて元に戻るより、別れた方がよっぽど幸せだ。早く番号を教えろ!」
「・・・・・・・」
土下座したまま動かない男に、何を言っても駄目だと思い、背広のポッケトに携帯は無いかと探しましたが有りません。その時妻が何かを枕の下に入れた様な動きをしたので、枕を放り投げると、見覚えの無い携帯が有りました。男の携帯を隠す程、こいつを庇うのかと思い大きな怒りが沸いて来て、口から血を流している妻にまたビンタを見舞ってしまいました。
携帯のアドレスを見ても、どれが奥さんの物か分かりません。
「おい、どれがそうだ。言わないと片っ端から掛け捲るぞ。会社の同僚や上司だったら困るだろう?」
男は困惑した表情で、
「・・・・それは・・・」」
男は渋々教えました。私も会ったこともない田中の奥さんと話すのは、それなりの覚悟が必要でしたが思い切って掛けると、上品そうな話方をする女性でした。
田中からの電話だと思って出たのが、知らない男からだったので初めは戸惑い気味でしたが、話の内容を聞いている内に、段々無口に成ってしまいました。
「分かりました。そちらの話が終りましたら、こちらに寄る様に伝えて頂けますでしょうか。」
毅然とした態度で答えましたが、怒りが伝わって来るものでした。男に代わるかどうか聞きましたが、
「それは結構です。」と冷淡な声で言い、この夫婦はまた元に戻る事が有るのだろうか?恐らくは駄目だろうと、自分の所を棚に上げ余計な事を思ってしまいましたが、すぐに現実に引き戻されます。
「俺が入って来た時の偉そうな態度は何を考えてだ?」
「・・・私は昔から喧嘩をしても負けたことが有りません・・・。それでつい・・。もしもご主人を黙らせる事が出来たら、志保にも良い所を見せられると思って・・・。うわっ。」
私は男を殴りつけていました。
「40面下げて何をガキみたいな事を言っているんだ。お前みたいなのが勤めていられる会社は中身が知れるな。それとな、他人の妻を呼び捨てにするなよ!」
「申し訳有りません、申し訳有りません。つい何時もの習慣で。」
田中の名刺に課長と言う役職が書いて有り、恐らくは私よりも年下であろうこの男は、あの規模の会社では間違い無くエリートなのでしょう。仕事も出来るのでしょうが、それだけに自分を過大評価
してしまっているのでは無いかと思います。だから、自分には何でも出来る様な錯覚に陥り、私が寝室に入って行った時にあの様な態度が取れたのではのでは無いでしょうか?それならば大人としての考え方を、しっかりと教えなければ成りません。
「お前の家庭は、これからどう成るのかな?奥さんが帰りに寄る様に言っていたよ。あの感じだともう終わりだろうな。今度は、仕事も終わりにしてやるよ。俺もそう休みは取れないが、こうなった
以上そうも言っていられない。月曜日にお前の会社に行くから上司に言っておけ。当然、慰謝料の事も有るが、それは奥さんからこの女にも請求が有るだろうから後回しだ。これから奥さんの所に行っ
て良く相談しておけ。結果は会社に行った時に聞いてやる。」
「私の妻から慰謝料の事は言わせません。ですから会社の方には・・・・お願いします。お願い致します。」
「駄目だな。何を偉そうに。奥さんを説得出来る位なら別居なんかしているか?さあ、もう今日は帰って良いぞ。だけどな、これだけで終ると思うなよ。」
男は、だらしなく泣き始めましたが帰ろうとしません。奥さんに知られてしまったのはもう、如何し様も有りませんが、会社に来られるのは余程困るのでしょう。こう言うタイプの男は、肩書きに執着するのかも知れません。私もそうですが、会社の名前と肩書きで仕事が出来ているのを、全て自分の実力の様に錯覚しがちです。
「何をしてるんだ?まだ俺を舐めているのか?早く帰れよ。あっそうか、お前まだ出してないから最後迄やらせろってか?おう良いぞ。見ていてやるから、やってみろ。」
こうなったら、トコトン苛め貫いて、少しでも自分の気持ちをスッキリさせ様と思いましたが、男は慌てて服を着ようとしています。
「ここは更衣室じゃないんだ!外で着ろ!」
男の髪を掴み、引きずる様にして玄関から外に放り出しました。
  1. 2014/08/21(木) 02:54:42|
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誤解の代償 第2回

金曜日の朝に出て電車で帰って来たので、着いたのはまだ午後1時を少し過ぎた位で時間にはタップリ余裕が有ります。
佐野に電話を入れると、
「お前も良くやるな。まあ、そんな心配をするのも愛が有る証か。今日は夫婦仲良くやって、明日でも家に遊びに来いよ。美幸に旨い物でも作る様に言っておくよ。」
私も久振りに佐野夫婦と食事でもしながら、志保が誤解をしているなら,佐野達の力も借りて良く話し合おうと思っていました。

私は妻の勤める会社が良く見える所は無いだろうかと思い,少し早めに行って物色していると、丁度,会社の出入り口が見やすい喫茶店が有りました。入ってみると時間が時間なだけに余り客も居なく
窓際の席に座り妻の出て来るのを待ちました。

午後5時26分
妻が一人で会社から出て来て駅の方向に歩いて行きます。私も喫茶店を出て妻に気付かれない様に後を追いました。15分程の距離に駅が有りますが、何事も無く一人でプラットホームに入って行き,
電車を待っています。
『やはり志保は何もしていなかったのか。疑って悪い事をしてしまったな。』
ほっとした気持ちと、何故か分かりませんが、残念な気持ちも有り、自分でも複雑な心境です。
私は直ぐに声を掛けようと思いましたが、何かプレゼントでもしてやろうと思いつき、今来た道を戻る事にしました。
あれこれ何を買ってやろうか迷っていると、さっき妻に声を掛けて一緒に選べば良かったと、後悔もしましたが、プレゼントを持て,
急に帰った方が、ドラマチィクの様に思います。
『いい年をして俺も馬鹿な事を考えているな。』と気恥ずかしく成りましたが、妻が喜んでくれるなら、これはこれで良かったとも思いました。

午後7時10分
買い物に時間を取られて、思ったよりも遅く成っていたので、もうとっくに妻は帰っている筈です。
それが家の前に立つと1階のリビングに明かりが点いていません。2階を見ると寝室には明かりが点いています。リビングの明かりを消して、こんなに早い時間に寝室に入ってしまうのも不自然です。
考えてみると、妻が一人で帰って行ったからと言って安心してしまったのは、私の不注意でした。
落ち合うのは何処でも出来る筈です。ただ、リビングに明かりが点いていないからと言って、不倫をしていると決め付けるのには無理が有りますが、何か嫌な予感がしました。
音を立てない様にドアの鍵を開け、そっと寝室に向かおうとしましたが、心臓の音が聞こえる様で,気を落ち着かせる為に、リビングに入り煙草に火を点けましたが、手が小刻みに震えています。
『自分の家で何を情けない。しっかりしろよ。』自分を勇気ずけました。もしも男がいたとしても、その男に恐怖感が有る訳では有りません。私は子供の時から少林寺拳法を習っていてもう有段者です。これから遭遇するかも知れない現実が怖いのです。少し気が落ち着いて来たので、意を決して、静かに寝室に向かうと、階段の辺りでもう、あの時の声が聞こえて来ました。
『志保・・・・お前・・・・・』
この時の感情は何と言っていいのか、頭も中が真っ白に成り何を如何したらいいのか、これまで感じた事のないものでした。
  1. 2014/08/21(木) 02:53:21|
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誤解の代償 第1回

この「妻物語」を知るまで、悶々とした気持ちで生活して来また。ここに載っている物語を隅から隅まで読みました。その時「戦い」と言う作品に出会い愕然としました。余りにも、私達夫婦に似た話でした。何度も何度も読み返し、その度に胸が張裂ける様な辛とあの頃を思い出し、傷口に塩を擦り付けられる様な痛みを覚えまた。
その内に、私もあの当時を思い出し、馴れないパソコンに思い出を「妻物語」風に記録する様に成りました。その事で少しでも、自分の気持ちが楽に成ればと始めた事です。
今回随分考えましたが、思い切って投稿させて頂き、気持ちに区切りを付けたいと思いました。
大変申し訳有りませんが、その様な事なので、皆様が好んで下さる内容では無いかと思います。如何かご了承下さい。

私は48歳になる会社員です。つい最近迄、車で4時間位の距離の地方の支社に単身赴任をしていました。妻は44歳に成り、やはり仕事を持っていて、一人娘も手を離れ、地方で一人暮らしを始めていたので、赴任先に妻も一緒に来て欲しかったのですが「仕事を急には辞められないから。」と言われ、渋々一人で行く事を決めました。
私は仕事が忙しく、休日出勤も珍しく無くて月に1度も帰れない時も多く有りましたが、妻は少なくても2週間に1度は来てくれていたので、何とか寂しさを我慢して来られました。それが赴任が終る9ヶ月位前からその回数が極端に少なく成って来ました。妻は“仕事が忙しくて疲れているから・送別会が有るから・風邪を引いてしまった”等色々な理由を付けていますが、私には『来たくないら、色んな理由を付けているのでは無いだろうか?』と思って仕舞う事が有ります。それは、たまに来ても、会話らしい会話もなく、なにか不機嫌そうに見えますし、夜妻を誘っても、
「今日は無理して来たけれど、仕事が忙しくて凄く疲れているから・・・また今度にして。」
そんな様な言い訳をして拒み続け、夫婦関係も全然無くなっていました。何よりも、私を見る妻の目が、汚い物でも見る様な感じがして、しょうがありません。
以前何かの週刊誌に『妻の浮気を見破る方法』と言うのが載っていて、面白半分に読んだ記事と今の妻の行動が殆ど当て嵌まってしまい、『まさか志保に限って。』とは思っても、ここまで態度が変わってしまっているのには何か理由が有るはずです。直接妻に聞けばいいのですが、何となく言い出せなく、私もイライラして些細な事にも怒ってしまい、ますます会話が少なく成り、次の日は、不機嫌そうな顔をして朝早く帰って行き電話も掛けて来ません。
あの態度では、もし不倫をしているのなら、気持ちがもう別の男に行って仕舞っているのでしょうから、何を言っても元に戻る事は無いでしょう。でも私にはまだ心に余裕を持っていました。
それは、知り合ってから今迄、妻は私だけを本当に愛してくれていて、性格からしてもその様な事を、絶対にしないと言う自分善がりの変な自信を持っていた事と、いつ電話しても夜は必ず家に居て出て来る事、もう一つ、以前会社のある女性が部屋に来て食事の用意をして行ってくれた事を、妻には内緒にしていて、それに気付き、変に誤解をしてしまい、その事の方が妻の態度をああさせてしまっているのだと確信めいたものを持っていました。

その女性とは、新卒の総合職として入社し、新人時代は私が仕事を教えていましたが、頭が良くて、教えた事の飲み込みも速く、その年の新入社員の中ではピカイチでした。仕事を教えた私を慕ってくれている様で「係長は、私の理想の男性像なんです。」等と言ってくれる彼女に、他の女子社員とは違った感情を抱いていましたが、何よりそれは、どこと無く憂いを秘めた儚げな感じが、妻とダブッタだけでそれ以上の物では有りませんでした。
その彼女が3日間の出張で私の赴任先に来た時に「単身赴任では、ろくな物食べていないでしょう?」
と、部屋に来て料理を作ってくれたのですが、妻とは滅多に行かないスーパーに二人で行き、買い物をしていると、何か夫婦の様であり変に意識をしてしまいました。何より、男と女が夜に同じ部屋に居て何も無かったとは信じて貰えなさそうで、妻には内緒にしていたのですが、残り物をうっかり冷蔵庫に入れて置いたのを、次の日に来た妻に見付かり、慌てて変な言い訳をしたのを覚えています。
その日を境に妻の足が遠のいたので、これは完全に誤解していると思いましたが、何も無かった事をあれこれ言い訳するのも面白く無くて無視していました。
そんな時に、大学時代からの親友の佐野から電話が有り、冗談めかして現状を話し、
「興信所にでも頼むかな。」と言うと、
「まさか志保ちゃんがそんな事している訳ないだろう。」と、笑っていました。
妻の志保とは、大学の時に佐野の彼女(今の奥さん)美幸さんの紹介で知り合い、お互いに気に入り、妻が大学を卒業してから1年後に結婚しました。
佐野夫婦とは、結婚してからも家族ぐるみの付き合いをしていて、長い付き合いの佐野は志保の事をよく知っているので全く心配していません。
「もっとそっちに行く様に、美幸に言わせるよ。」
そんな話をして電話を切りましたが、不思議なもので1度口に出してしまうとその事が何故か頭から離れなくなり、気に成って仕方がありません。ただこの時は、私の勝手な妄想であり、何の確証も
無いので、それほど心配をしていた訳では有りませんでしたが、仕事が終ってマンションに帰って来ると『今頃志保の奴』等と勝手な想像をしてしまいます。そんな妄想を打ち消す為に家に電話を
入れると、
「どうしたの?何か用事でも有るの?今日も仕事が忙しくて疲れているのよ。今度、私から電話するから何も無ければこれで切るね。」
愛想の無い返事ですが、ちゃんと家に居るので『やはり俺の思い過ごしか。だいたい志保がそんな事をしている筈が無いな。』と安心してしまいます。
そう思っても次の日に成るとまた色々な事を考えてしまうので、来週の休みの日に妻には内緒で、こっそり帰って、探偵の様な事でもしてみようと面白半分に思っていました。
ここ暫らく休日も接待ゴルフ等でろくに休んでも居なかったので、有給も含めて3連休を取りました。『こんなにアッサリ休みが取れるなら、もっと早くそうすれば良かった。』
自分の要領の悪さに苦笑いしながらも、何か寂しさも感じて仕舞うのは会社人間の証拠でしょうか?
妻には、今度の休みも接待が有るので帰れないと伝えて、考えて居た事を実行する事にしました。
  1. 2014/08/21(木) 02:51:35|
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喪失 第25回

 ・・・それからしばらくの間、数回にわたって妻と会い、離婚へ向けての話し合いを進めました。娘の親権はわたしが持つことになりました。
 慰謝料を求めて裁判を起こすことも出来たでしょう。しかしそうなると、また裁判のために店を開けなければなりません。娘のこともあります。何より、私自身にそうするだけの気力はかけらも残っていませんでした。
 離婚届を妻とふたりで提出した日のことです。
 ふたりとも沈黙したままで、役所を出ると勇次が妻を待っていました。
 妻はわたしをちらりと見ました。わたしがうなづくと、ゆっくりと勇次へ近づいていきました。
「終わった?」
「はい」
「じゃあ、行こうぜ」
 勇次の腕が妻の肩にかかるのが見えました。その瞬間、わたしはわけの分からない感情の爆発で我を忘れました。
 気がつくと、勇次を殴っていました。不意打ちということもあったのでしょうが、わたしが勇次に殴りかかって成功したのは、過去三度の中で初めてでした。
 勇次はわたしに張り飛ばされて、ふらつきながら毒づくと、わたしに殴りかかろうとして、その手を止めました。
 わたしがわらっていたからです。
 何故あのときわらったのかは、自分でもわかりません。わたしはただただ狂ったように、涙を流しながらケタケタと泣きわらっていました。
 勇次はそんなわたしを気味悪そうに見ると、妻を促して車へ乗り込みました。
 妻はわたしをじっと見つめていました。どんな表情をしていたかは思い出せません。ただわたしをじっと見ていたことだけ記憶にあります。
 やがて、車は去っていきました。

 あれから七年がたちました。
 妻とはあの日以来、会っていません。どこにいるか、何をしているかも知りません。
 あれからしばらくして、一度だけ、勇次から封筒が届きました。中には写真が入っていて、妊娠中でおそらく臨月間近だとおもわれる妻の卑猥な写真が入っていました。おそらく最後に殴られたことへの腹いせで、そんなものを送ってきたのではないかとおもいます。その写真については、もう触れたくありません。
 ところで、わたしの友人にFさんという方がいます。実はこの方に「妻物語」を紹介してもらいました。Fさんにも事情を打ち明けてはいなかったのですが、薄々感づいてはいたようでした。
 数年前、そのFさんから連絡が来て、Fさんが妻に―もう妻ではありませんが―よく似た女が働いていたという店に行ったことがあります。かなりいかがわしい店で、入るのも躊躇われたのですが、ともかくもわたしが見たかぎりでは、それらしい女はいませんでした。
 妻は今年で45歳になるはずです。
 わたしはまだ店を続けています。世間の目もありますし、何より、妻や勇次の面影がちらつく町から去りたいという気持ちもあったのですが・・・。
 未練がましいとおもわれるかもしれませんが、わたしはまだいつか、妻がふらりとわたしたちの店へ戻ってきてくれるかもしれないという気持ちを捨てきれないのです。
 最後になりましたが、ここまで読んでくださった皆様に感謝して、筆を置きたいとおもいます。ありがとうございました。
  1. 2014/08/21(木) 01:27:37|
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喪失 第24回

 妻は語ります。
「あの日、あなたと娘がいなくなって・・・しばらくは呆然としていました。夜になっても、次の日の朝になっても帰ってこなくて・・・その次の日も・・・」
 目じりに浮かんだ涙を、妻はハンカチで拭いました。
「・・・気がおかしくなりそうでした。あなたのご実家に電話をかけようかともおもいましたが、お義父さまやお義母に何と言えばいいのかわからなくて・・・不安を紛らわすために、いつもは飲みなれないお酒をずっと飲んでました・・・」
 わたしはじっとしていられなくて、妻がいなくなってから再び吸い始めた煙草に火を点けました。妻はそんなわたしをちらりと見ました。
「お酒を飲んで、また泣いて、そうやってひとりでずっと過ごしているうちに、もうどうしようもなく淋しくなってきて・・・・どうしても誰かと一緒にいたくなったのです」
「それで勇次のところへ・・・どうして勇次なんだ? あいつのところへもう一度行けば、取り返しのつかないことになるとは分かっていただろ・・・!」
 暗い表情のままで、妻は虚ろにわたしを見つめました。
「取り返しのつかないことになれば、いっそ楽になれる・・・後戻りできなければ、もう思い悩むこともない・・・そんな自暴自棄な・・弱い気持ちになっていたんです。あなたと娘には本当に申し訳ないことをしました・・・」
「その通りだ」
「ごめんなさい・・・・それで彼の部屋に行って・・・抱かれました。一度抱かれてしまうと、今度はそれが怖くなって・・・罪悪感と恐怖を忘れるために、無我夢中で彼を求め続けました・・・・」
「・・・・・」
「それが終わると・・・・わたしは彼に哀願しました。どうか、わたしと逃げてほしい、ここから立ち去ってほしい、と・・・彼は渋りました・・・わたしは彼の機嫌を取るために、彼が言うどんな惨めなことでもしました・・・恥知らずな女です・・・」
 わたしは煙草を灰皿へぎゅっと押し付けました。狂おしいおもいで、気が変になりそうでした。
「・・・・しばらくして、彼はやっと了承してくれました・・・わたしは彼と逃げました」
「・・・一度逃げておいて、いまさらおれと別れたいと言ってきたのは何故なんだ? おれと別れてあいつと籍を入れたい、とおもうようになったのか?」
 妻は静かに首を振りました。
「ちがいます・・・・彼はわたしと籍を入れる気はないと言っています」
「それじゃあ、何故」
「あなたが誰か他の人と、あたらしく幸せになる機会があるかもしれない、でもわたしと別れないかぎり、再婚できない・・・ずっとそうおもって悩んでました。一度あなたにお目にかかってちゃんと話したいとおもっていたけれども、勇気がなくて・・・決心が着いたのは本当に最近です」
 そのときのわたしの気持ちはとても表現しきれません。苛立ち、憎しみ、哀しみ。それらすべてが混ぜ合わされた妻へのおもいで壊れそうでした。
「おれのことはいい。それよりも勇次はお前と籍を入れる気はないと言ってるんだろ? その一事だけでも奴がお前のことをどうおもっているか、自明じゃないか・・! このままの生活を続けていったら・・・お前・・・どうして・・・どうして」
(どうして、それが分からないんだ・・・!!)
 わたしの血を吐くようなおもいは、言葉になりませんでした。
「分かってます・・・でも、もう駄目なんです」
 しかし、妻は言いました。
「何が駄目なんだ・・・」
「子供が・・・・」
 おかしなことに、わたしはそのときの妻の言葉が、咄嗟に分かりませんでした。しばらく阿呆のように妻を見つめていて、その腹に添えられた両手を見て初めてその意味に気づきました。
「子供・・・・」
 わたしは呆然として呟きました。すべての思考は止まっていました。
「もうどうしようもないんです・・・だから、わたしと別れてください・・・お願いします―――お願いします」
 必死でそう言う妻の言葉も、耳に入っていませんでした。
 わたしは死体のように、ただそこへ座っているだけでした。
  1. 2014/08/20(水) 15:00:40|
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喪失 第23回

 その翌々日の夜、わたしは娘を知り合いの家へ預けて、指定されたレストランへ出かけました。
 妻がいました。
 半年前と比べて幾分やつれていました。顔色も少し青ざめています。そのやつれを隠すかのように、化粧は濃い目で、以前は使うことのなかったアイシャドウを塗っていました。
 顔に比べて、身体は全体的にむちっとして、より女っぽくなった感じでした。胸の大きく開いた上着に、三十八歳という年齢にそぐわない短めのスカートを履いているためにそう見えたのでしょうか。以前は清楚な印象の女でしたが、久しぶりに見たその姿はどこか生々しい濃艶さを漂わせていました。
 わたしが近寄ってくるのを見て取って、妻はうつむきがちに頭を下げました。
 注文を取りに来たウエイターが去った後も、ふたりの間には気まずい沈黙が続きました。
 もともと、夫婦ともに無口な性質です。しかし、以前は会話がなくても通い合う何かがあったのです。
 ですが、いまは―――。
「――がお前に会いたがっている」
 わたしは娘の名前を口にしました。
 妻はまたうつむいて、瞳を逸らしました。
「もう会えません・・・」
「何故だ。たとえお前が・・・おれよりあいつを選んだとしても、お前が――の母親だということは変わらないだろ」
 妻は眉をたわめて、わたしの言葉を苦しげな表情で聞いていました。そして弱々しい声で言うのです。
「もう、あなたにも娘にも顔向けできないような女になってしまいました・・・わたしのことは忘れてください・・・別れてください・・・」
「勝手なことを言うな!」
 わたしはおもわず、大きな声をあげていました。
「なあ・・・話してくれ・・・あの日、おれが――を連れて去った後に、どうして勇次のところへ行ったんだ・・・おれたちがいなくなってこれ幸いということだったのか?」
「ちがいます・・・あの日は・・・」
 瞳を潤ませて、妻は語り始めました。
  1. 2014/08/20(水) 14:59:21|
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喪失 第22回

「奥さんがあんたと別れたいと言ってる」
 勇次は単刀直入にそう切り出しました。
 わたしは沈黙しました。しばらくして、
「寛子は」
 かすれた声で言いました。その声は他人のもののように、そのときのわたしには聞こえました。
「やはりお前といるのか・・・」
「いるよ。ずっと一緒に暮らしてる」
 勇次は店の中の、高い棚の上にある品物を取る台の上に、どっかりと腰掛けました。
「奥さんがいきなり駆け込んできたときはびびったよ。ベロベロに酔っ払ってて、もう泣くわ泣くわ。ひとしきり泣くと、今度はしがみついてきてさ。それからはもうぐちゃぐちゃ。あんまり激しいんで、おれもつられてそ~と~燃えたけどね・・・しばらくしたら、酔いが回りすぎたらしくて、トイレで一回吐いてきて、でもそれからまた、もう蒼い顔になってるってのに、おれを放さないんだよ。次の日の昼もずっとやってたね。あんなに凄いセックスはしたことないよ」
 へらへらと勇次はわらいました。
「凄いよ。凄い女だね、あんたの奥さん」
「寛子に会わせろ・・・会わせてくれ」
 わたしは勇次の顔を暗い目で見つめました。
「離婚するかどうかは、寛子と会ってから決める。とにかく一度会わせろ・・・それから二度とそんな調子でくだらないことをほざくな・・・」
 わたしの狂気がかったような表情と声に、勇次は少しの間、ぎょっとしたようにわたしを見つめていましたが、やがて言いました。
「いいよ。一度会って話しな。でも奥さんがあんたのとこに戻ることは絶対にないぜ」
  1. 2014/08/20(水) 14:57:57|
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喪失 第21回

 妻が消えた後の生活は、それは悲惨なものでした。
 娘は母親を恋しがって泣きます。虚脱感に襲われ、すべてに疲れてしまったわたしは、それをぼんやり聞いているだけで、慰めてやることもできません。それにどう慰めればいいというのでしょうか。
「そのうちにお母さんは必ず帰ってくるから・・・」
 そんな言葉を口にするには、わたしはあまりに打ちひしがれていました。
 夜になり、かつては隣に妻のいた寝室、ときには夫婦で幸せに睦みあった寝室で、ひとりわたしが寝ているとき、様々な妄想がわたしを苦しませました。
 勇次に貫かれ、喜悦の声をあげて、のたうちまわる妻。勇次の友人とかいう男たちと、次々に絡み合い、淫らな奉仕をする妻。
 そんな妄想が夜毎にわたしを灼きました。

 妻が消え去って半年たった頃のことです。
 意外な人物が店に現れました。
 勇次でした。
  1. 2014/08/20(水) 14:56:46|
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喪失 第20回

 娘を岐阜の両親のもとへ預けたあと、わたしは金沢へ向かいました。行き先はどこでもよかったのです。ただ、どこかへ向かわないではいられませんでした。
 金沢に着いても、兼六園など観光名所を見てまわる気にもなれず、旅館の中で日を過ごし、たまに気が向いたときに、近くを散歩するだけでした。
 妻のことを考えていました。
 わたしは若いうちから悲観的で鬱々としたところがありましたが、妻もまた、どこかに独特の暗さをもった女でした。ふたりが夫婦となったのも、お互いの抱えた陰の部分が響きあったからのような気がします。
 しかし、妻が勇次との情事へのめりこんでいったのも、後に(わたしに言わせれば、ですが)破滅的な生活へと歩みを進めていったのもまた、妻のそうした性向が関係していたのではないか。わたしにはそうおもえてなりません。
 金沢で無目的に怠惰な日々を過ごしながら、わたしがおもいだすのは、勇次との爛れた関係に堕ちていった女ではなく、いついかなるときもわたしを手助けし、公私共によきパートナーになってくれていた女との思い出ばかりでした。
 わたしが帰ろうと決意したのは、十日あまりも過ぎてからのことでした。結論など出ていませんでした。これから先のことを考えることすら、忌避していました。しかし、ただ延々と過去を回顧し、現在から逃げ回ってばかりの自分に嫌気がさしたのです。
 両親から娘を受け取り、車で家へ戻る最中、わたしは不安に苛まれながら、家族の行き先を憂えていました。しかし、隣に座っている娘(両親の話では、母から引き離された十日間あまりの生活で泣いてばかりいたそうです)の顔を見ると、そんな弱気なおもいではいられない、という気になります。たとえ、どんな事態になっても、この子の幸せだけは守ってやる。わたしはそう決意し、その決意によって不安な自分を奮い立たせていました。
 わたしのおもいなど、露知らず、娘は久々に母親に会えるうれしさで、無邪気にはしゃぎまわっていました。
 
 しかし―――。
 家に着いたわたしたちの前に、妻は姿を見せませんでした。いくら待てども、帰ってきません。
 妻は消えていました。
 泣きわめく娘を残して、わたしは勇次の部屋へ走りました。
 勇次の部屋は空でした。管理人のお爺さんの話では、少し前に出て行ったそうです。勇次の履歴書にのっていた学校へ電話しましたが、勇次は学校も辞めていました。
 妻と勇次はこうしてわたしたちの前から姿を消しました。
  1. 2014/08/20(水) 14:55:47|
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喪失 第19回

 藤田と村上はそれから三十分近くも、大騒ぎしながら、裸の妻の胸をもみしだいたり、膣に指を入れて弄んだりして、好き放題に妻を嬲ったそうです。
 そうしているうちに、いよいよ興奮してきたふたりは、勇次に「入れてもいいか?」と尋ねました。
 やめて――、そう悲鳴をあげる妻の身体を押さえつけながら、勇次は、
「それなら、寛子を気持ちよくしてやって、自分から入れてって言わせるようにしろよ。そしたらやってもいいからさ」
 そんなようなことを言ったのだといいます。
 それからは三人がかりで寛子は、全身を愛撫されました。
 小一時間も続いたそれに、すっかり情欲をかきたてられ、泣き悶える妻の反応をわらいながら、勇次は
「ほら、そこに寛子のお気に入りのバイブがある。それを使えば、もうすぐに寛子はお前らがほしいって泣き出すとおもうぜ」
 そう言いました。そしてそれはそのとおりになったようです。
 その日、妻は結局、その場にいた全員に抱かれました。それも自分から求めさせられて・・・。

 ・・・妻の告白を聞き終えたわたしは黙って立ち上がりました。車のキーを取り、外へ出ようとするわたしに妻は、
「待って・・・行かないで」
 半狂乱になって、すがりついてきました。
 わたしは妻を突き飛ばしました。妻に暴力を振るったのはそれが最初で最後でした。
 畳の上に叩きつけられ、激しいショックを涙の浮いた瞳に浮かべた妻の顔を見据えながら、わたしは絞り出すように言いました。
「マージャンの借金のかたに抱かされただと・・・・それもふたりの男に・・・・寛子、お前よくもそれで平気な顔であいつと付き合っていられたな・・・・・そんな屈辱的なことをされてもあいつが欲しかったのか・・・・さっきもあいつに嫌いになったかと聞かれて、お前は嫌いじゃないと答えていたな・・・おれは聞いていたんだ・・・・お前は・・・お前という女は・・・・」
 あとは声になりませんでした。
 妻を玩具のように扱った若者たちに怒りを感じました。
 そのことを妻が隠していたことに憤りを感じました。
 しかし、それよりも何よりも、そんなことをされてもなお、勇次を嫌いになれない妻が、わたしは憎くて憎くてたまりませんでした。
 呆然と畳に横たわっている妻を残して、わたしは部屋を出ました。二階で昼寝の最中だった娘を抱いて、わたしは玄関へ向かいました。途中でちらりと居間を見ると、妻が魂の抜けたような表情で、先ほどと同じ姿勢のまま、横たわっているのが見えました。
 わたしと娘は家を出て、車に乗り込みました。そのときが運命の分かれ目だったとは知りもしないで。
  1. 2014/08/20(水) 14:54:46|
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喪失 第18回

 さて・・・勇次が去ってからも、しばらくは時がとまったようでした。
 ふと見ると、通りすがりのひとが数人、店の中を覗き込んでいました。先ほどのわたしの大声が聞こえたようです。
 わたしは黙って、店の戸を閉めました。
 それから妻を促して、家の中へ入りました。
 居間に入ると、それまで悄然とうなだれていた妻が、いきなりその場へ土下座しました。声も出ないようで、肩がわずかに震えているのが見えました。
「この前、おれは勇次との間にあったことはすべて話してほしいといった・・・」
 妻の身体がぴくりと動きました。
「寛子はすべておれに打ち明けてくれた・・・そうおもっていた・・・」
「あなた! わたしは・・・わたしは」
「まだ話していないことがあったんだな・・・」
 抑えがたい怒気のこもったわたしの声に、妻は怯えた顔でわたしを見つめました。妻は両手を胸の前で合わせ、まるで神仏に祈るときのような格好で頭をさげました。
「ごめんなさい・・・本当にごめんなさい・・・・でも悪気はなかったんです・・・ただ言えなくて・・・それだけなんです」
「言えないとはなんだ。後からこんな形で、お前に問いたださなければならないおれのほうが、よほど惨めだろ・・・」
 妻は顔をくしゃくしゃに歪めて、いっそう強く祈るようにわたしへ頭をさげました。
「許して・・・許して・・・・」
「なら、いますぐはなせ! 藤田と村上というのは誰だ!」
 妻が涙で頬を濡らしながら、嗚咽混じりに話した内容はわたしをさらに深い奈落に突き落とすものでした。
 妻と勇次がまだ付き合っていた頃のことです。ある日、妻は買い物へ行くとわたしに偽って、勇次の家へ向かいました。
 しかし、その日は先客がいたのです。それが藤田と村上でした。
 勇次はいやがる妻を引っ張ってきて、「これが自分と付き合っている人妻の寛子だ」とふたりへ紹介したそうです。
 藤田と村上は興味津々といった様子で、妻を見つめました。妻は不倫を犯している自分を、ひとの目にさらされるのが厭で、顔をうつむけていました。
「ほんとだ、このひと、結婚指輪してるわ。おいおい、人妻と付き合ってるって本当だったのかよ」
「だから言っただろ」
 そのとき、勇次は得意げに言ったそうです。
 しばらくして、か弱げな妻の様子にふたりは図に乗って、様々な質問を投げかけてきました。
 いわく、勇次とはどうしてこうなったのか、勇次を愛しているのか、旦那のことはどうおもっているのか―――。
 さらにふたりの質問はエスカレートし、卑猥なことまで聞いてくるようになっていきました。
 勇次とのセックスはどうか、若い男に抱かれるのはやっぱりいいのか、どんな体位が好きなのか―――。
 屈辱的な質問に、妻はもちろん答えるのをいやがったのですが、勇次がそれを許さなかったといいます。
 羞恥にまみれながら、妻は卑猥な内容の質問に答えていきました。その様子を見ていた藤田と村上はしばらくして、
「もう我慢できんわ・・・須田、約束は守るんだろうな」
 妙なことを言い出したのです。
「ああ、もちろん」
「約束って何? ねえ、勇次くん」
 不吉な予感に慌てた妻に、勇次は拝むようにして、
「ごめん、寛子! おれ、昨日マージャンですっちゃって、こいつらにすげえ借金してんだよね。それで、こいつらが寛子に興味あるっていうからさ・・・寛子の身体を見せてくれたら、借金を帳消しにしてくれるって言うんだよ」
 それまで、自分にやさしくしてくれていた勇次と、何がしか理由をつけながらも恋人気分を味わっていた妻は、勇次の鬼畜な言葉に呆然としてしまったそうです。
 妻は激しく抵抗したのだそうですが、結局は男の力に叶わず、衣服をすべて剥ぎ取られたうえ、後ろ手に縛られてしまいました。そして、そのままの格好で、あぐらをかいた勇次の上に座らされ、両膝の下に入れられた手で股間を大きく開かされ、剥きだしの秘部を藤田と村上の面前にさらされてしまったのです・・・。
  1. 2014/08/20(水) 14:53:24|
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喪失 第17回

 突然、家の中から現れたわたしを見て、妻は喉の奥からかすれるような悲鳴をあげました。その怯えた表情が、わたしを無性に苛立たせました。
 勇次もさすがにぎょっとしたようでしたが、すぐに落ち着きを取り戻したようで、じろりとわたしを睨みました。
「またあんたか・・・・」
「何が『またあんたか』だ。ここはわたしの店だぞ・・・さっさと出て行け。いつまで未練がましく、妻につきまとってるんだ」
「未練がましく?」
 わたしの言葉を、勇次はふんと鼻で笑いました。
「未練が残っているのは、あんたの奥さんのほうもだよ」
「うるさい!」
「おれはあんたよりも寛子のことが分かってるよ。だいたい、あんたとの生活に満足してたら、おれと浮気なんかしなかっただろ? 寛子はあんたじゃ物足りなかったんだよ」
 わたしは勇次を睨みつけながら、ちらりと妻の顔を見ました。消えいりたげな様子で身体を縮こませていた妻は、顔を歪めながら必死に首を横に振りました。
「・・・ちがう・・・」
「何がちがうんだ、寛子。おれとやってたときの悦びよう、忘れたわけじゃないよな。おれはたぶん旦那よりも多く、寛子の可愛いイキ顔を見てるぜ。寛子はセックスが大好きだし、イクときはもう激しくて激しくて、イってから失神することもよくあったよな~。いつかなんか気持ちよすぎてションベンまで」
「言わないで・・・」
「あのときはおれが恥ずかしがって泣く寛子のあそこをきれいにしてやったよな。そうしているうちにまた興奮してきちゃって、おれにしがみついてせがんできたのは誰だったけな?」
 続けざまに吐かれる勇次の下衆な言葉に、妻はしくしく泣き出してしまいました。
「いいかげんにしろ!」
 わたしは怒鳴りました。
 怒りがありました。
 しかし、それよりもおおきくわたしの心を支配していたのは、救いようのない脱力感でした。
「・・・いますぐに出て行かなければ、警察を呼ぶ・・・ここはわたしの店なんだ・・・お前を営業妨害で」
「わかった、わかった」
 勇次は小馬鹿にしたような態度で、わたしに背を向け、店の出入り口へ歩き出しました。
 途中で振り向きました。そして、なんとも形容しがたい厭な笑みを浮かべて、こう言ったのです。
「ああ、そうそう。藤田と村上がまたお前に会いたいってさ、寛子」
 そのとき妻があげた身も凍りつくような悲鳴は、いまでも忘れられません。
 勇次はわらいながら、店を出て行きました。 
  1. 2014/08/20(水) 14:51:53|
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喪失 第16回

 あれから妻は夜になると積極的になり、わたしを求めてくるようになりました。以前は自分から求めるなどということは一度もなかったのですが・・・。
 わたしは年齢的なこともあり、正直に言って連夜にわたる情交はきついものでした。妻が見せる淫蕩ともおもえる振るまいに、一時的には我を忘れて妻を抱くのですが、終わると言いようのない虚しさと疲れがおそってくるのです。
 しかし、わたしはそれを妻に悟られまい、としていました。妻の求めを拒んだり、疲弊した自分を見せることは、妻に勇次をおもいださせ、若い勇次に比べ、老いたわたしの男としての物足りなさを妻に感じさせることになるとおもいました。わたしにとって、それはこのうえない恐怖でした。
 そんな無理のある夫婦生活は、遅かれ早かれ、破滅に至るものだったのでしょう。しかし、それはあまりに早くやってきました。
 夏のある日のことでした。
 いつもの外回りがその日はかなり早くに済み、わたしは妻がひとりでいる店へ戻りかけました。
 そのときでした。勇次がふらりとわたしたちの店の中へ入っていくのが見えたのです。
 わたしは心臓の高鳴りを感じながら、車を店から少し離れた場所へ置くと、店の出入り口とは反対側にある家の勝手口から家の中へそっと入りました。
 店のほうから勇次の声がしました。
 わたしはゆっくりその方へ近づきます。
 勇次が妻へ話しかけています。妻はわたしに背を向けていて、その表情は見えません。
「もう帰ってください・・・主人が」
 妻が動揺した声でそう言っています。
「いいじゃないか。旦那はまだ帰ってくる時刻じゃないだろ。それよりどうなの? きょうはパンティ履いてる?」
「・・・・・」
「おれが店に入っているときは、寛子にはいつもノーパン、ノーブラの格好で仕事をやらせてたよな」
「もうやめて・・・終わったことです」
「寛子は見た目と違ってスケベだからな~。おれが耳たぶとか胸とかちょっと触ってるだけで、顔を真っ赤にして興奮してたよな・・・一度なんか、娘さんを幼稚園へ迎えに行く時刻だってのに、おれにしがみついてきて『抱いてぇ~、抱いてぇ~』なんて大変だったじゃないか」
 勇次はにやつきながら、妻の近くへ寄りました。わたしはその場へ飛び出そうとしました。
 そのとき、勇次がこんなことを妻に聞いたのです。
「あのときはあんなに燃えて、おれに好きだとか愛してるとか言ってたじゃないか。あれは嘘だったのか? 寛子はただ気持ちよくなりたいだけで、おれと付き合っていたのか? おれのことはもう嫌いになったのか?」
 妻はじっとうつむいて、何か考えているようでした。それから、おもむろに口を開き、信じがたいことを言いました。
「嫌いになったりは・・・してません」

 ・・・わたしは頭をがつんと殴られたようなショックを受けました。いまでも嫌いじゃない? わたしたち夫婦をあれほどまでに苦しめた勇次を?
 わたしがそこで聞いていることも知らず、妻は言葉を続けました。
「・・・ですが、いまは主人と子供が何よりも大切です・・・あなたとは・・・もう」
「嫌いじゃないなら、寛子はおれにまだ未練があるんだな。おれだってそうさ。お前のことが忘れられないんだ。お前が好きなんだよ。なあ、いいだろ、寛子。自分の気持ちに正直になって、もう一度おれとさ」
 谷底に蹴り落とされたような気分のわたしの目に、勇次の手がすっと寛子の顔へ向かうのが見えました。
 その瞬間、わたしはふたりのもとへ飛び出していきました。
  1. 2014/08/20(水) 14:49:07|
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喪失 第15回

 ・・・妻の告白の後、しばらくは一応、平穏な日々が続きました。
 妻は一生懸命に、わたしの妻として、また仕事のパートナーとして、娘を持つ母としての務めをまっとうしようとしていました。
 そんなある夜、わたしは久々に妻を抱く決意をしました。
 わたしが誘うと、妻は、
「うれしい・・・」
 そう言って微笑み、パジャマを脱ぎ出しました。
 わたしはゆっくりと裸の妻を愛撫しました。妻の秘所はすぐに潤い始めます。
「もう・・・来てください・・・」
 妻は切なそうに眉根を寄せ、わたしを求めます。
 しかし・・・肝心のわたしのペニスはなかなか勃起しません。妻の膣に挿入しようとするたび、ペニスは勢いをなくしました。やっきになって何度試してみても、縮こまったそれは妻の膣からこぼれてしまうのです。
 あのときに見た、勇次のペニスが頭に浮かんでいました。隆々とそびえ立ち、妻をおもうがままに啼かせ、悦ばせていたペニス・・・。
 そんなイメージが広がるたび、わたしはますます萎縮していくのでした。
 情けないおもいでいっぱいのわたしに、妻は必死な顔で、
「おくちでさせてください」
 と言いました。そしてわたしを立たせておいて、妻はその前にひざまずき、ペニスを口に含みました。そのまま、口を窄めて、前後に顔を動かします。唇でしごきながら、口中では舌でわたしの亀頭を嘗め回しています。以前の妻はこのようなフェラチオをしたことがありません。もっとたどたどしく、口に含んでいるだけで精一杯という感じの、いかにも未熟なものでした。
 フェラチオの最中、妻はわたしを上目遣いに見つめています。昔は恥ずかしがってかたく瞳を閉じていたものなのに。
ときどき、尻を左右にゆすっていたのは、わたしを少しでも興奮させようとしていたのでしょうか。
 妻の様々な行為、それはわたしを悦ばせようとする、懸命な行為だったのでしょう。しかし、同時にそれは妻に刻印された勇次の指紋のようにわたしは感じてしまうのです。明らかに勇次に仕込まされたと分かる、妻の淫婦めいた行為は、わたしを興奮させ、また別のわたしを萎えさせるのです。
 さらに妻は、自分の両方の乳房を下から両手で持ち上げました。妻は顔に似合わず、豊かな乳房をしています。いよいよ熱誠こめてフェラチオをしながら、妻はその豊満な乳房を持ち上げ、乳首の突起したそれをわたしの腿に擦りつけるのです。
 ことここに至って、わたしのペニスもようやく力を取り戻しました。妻を布団へ押し倒し、挿入します。
 不器用に腰を動かすと、それでも妻は悦んでしがみついてきました。
「あんっ、いい、気持ちいいです・・・あっ、そこ・・そこがいいです、ああん」
 以前は喘ぎ声を出すのも恥ずかしがって、顔を真っ赤にしながら声を押し殺していた妻が、いまでは手放しによがり、喘いでいます。これも勇次に仕込まれたことなのでしょうか・・・。
 わたしの中のある者は、そんなどこか冷めた目で妻の姿を眺めていました。
 しばらくして、子供が目を覚ますのではないかと心配になるほど妻は一声高く啼いて、いきました。
 はあはあ、というお互いの息遣いが聞こえます。
 妻はわたしの胸元にくるまるように身を寄せています。その表情はここしばらく見たことがないほど、幸福そうでした。わたしがじっと見つめていると、妻は薄目を開けて、照れたようにわらい、甘えるようにわたしの乳首をやさしく噛みました。
「気持ちよかったか?」
「すごくよかった・・・」
「そうか・・・」
「あの・・・」
「なんだ」
「・・・明日もしてほしいです」
 わたしは腕をまわして、妻の頭を胸に引き寄せました。
 そのとき、薄闇の中でわたしの顔は、どうにもならない空虚感と哀切感で、惨めに歪んでいたことでしょう。
 無邪気に幸福に浸る妻を抱きしめながら、わたしは妻とわたしの間に引かれてしまった、越えられそうにない溝の存在を強く強く感じていました。
  1. 2014/08/20(水) 14:47:38|
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喪失 第14回

 その夜のことです。
 わたしは妻を夫婦の寝室へ呼びました。触れないほうがいい、とおもいながらも、わたしは勇次の言葉が気になってたまらず、妻にことの真偽を確かめたかったのです。
「きょう、勇次の家へ行ってきた」
 妻は瞳をおおきく見開きました。
「あいつに自分のしたことをおもいしらせてやりたかったんだ・・・情けないことに、結局、わたしが一方的にやっつけられただけだったんだが」
「その傷・・・転んで出来たって・・・」
「違うんだ」
 わたしはぐっと腹に力を入れました。これからの話は妻を傷つけることになるとわかっていました。しかし、わたしにはそれは乗り越えなければならない壁のようにおもえていたのです。
「勇次は好き放題に言っていたぞ・・・お前がおれとのセックスは不満だといつもこぼしていたと・・・」
「そんな!」
「いつも失神するまで求めてきて大変だったとか・・・縛られてされるのが好きだとか・・・」
「・・・・・」
「そうなのか?」
 妻は強いショックを受けたようで、しばらく呆然となっていました。しかし、いつも泣き虫な妻がそのときは泣きませんでした。昼間の決意をおもいだして、必死に耐えていたのでしょうか。
 うなだれていた妻がすっと顔をあげて、わたしを見つめました。
「あなたとの・・・セックスに不満なんかありません・・・もちろん、勇次くんにそう言ったこともありません・・・勇次くんにわたしから求めたとか・・・縛られたりとかは・・・」
 妻はさすがにくちごもりました。わたしが黙って次の言葉を待っていると、妻はまた少しうつむいて言葉を続けました。
「そういうことも・・・ありました・・・ごめんなさい」
「そうか・・・奴とのセックスでは・・・そうか」
「ごめんなさい・・・」
「謝らなくてもいいから、あったことをすべて話してほしい。そうでないと、おれは二度とお前を抱けそうにない」
「・・・勇次くんは・・・道具とか使うのも好きで・・・バイブレーターとか・・・そういうものを使われて・・・胸とか・・・あそことかを・・・ずっとされていると・・・・おかしくなるんです・・・自分が自分でなくなるみたい・・・もっときもちよくなれるなら、なんでもしたい・・そんなふうにおもえてきて・・・自分から彼に求めてしまうことも・・・ありました・・・・彼はわたしに恥ずかしい言葉を言わせるのが好きで・・・・わたしが淫らな・・・恥ずかしい言葉でおねだりすればするほど・・・激しく・・・いかせてくれました・・・」
 細く、途切れがちの言葉で、妻はそう告白しました。自分の不倫の情交をわたしに語るのは辛いことでしょうが、それはわたしにとっても胸を焼き焦がすような地獄の言葉です。
「縛られるのも・・・最初は怖くて・・・痛くて・・・厭でした・・・でもそのうちに・・・縛られて抵抗できない状態で・・・身体を好き勝手に弄ばれることが・・・快感になってきて・・・・恥ずかしいほど乱れてしまうようになりました・・・・彼は『寛子はマゾ女だな』とよく言っていました・・本当にそうなのかもしれません・・・恥ずかしい・・・・わたしはおかしいんです・・・淫乱なんです」
「そんなことはない」
 わたしはそう言って妻を慰めましたが、その言葉の空虚さは自分が一番よく分かっていました。
 こらえきれず、また顔を両手でおさえてすすり泣きだした妻を、わたしはそっと抱きしめました。
「よく話してくれた・・・もう寝よう・・・・明日からはまた夫婦でがんばっていこう」
 その夜。もちろんわたしは一睡も出来ませんでした。
  1. 2014/08/20(水) 14:46:35|
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喪失 第13回

 さて、勇次に部屋から蹴りだされたわたしは、その後しばらくの間、ほとんど思考停止状態になってしまい、近くの公園のベンチで呆然と過ごしていました。
 二時間あまりもそうしていたでしょうか。
 気を取り直して、わたしは近くの公衆電話へ向かいました。その日は、妻の待つ家へと帰る気にもなれず、どこかのホテルでひとりで過ごしたいとおもい、妻へ電話でそれだけ伝えておこうとおもったのです。
「おれだよ」
「あなた・・・いまどこに?」
「ちょっとな・・・いや、実は」
「あなた、聞いてください」
 妻はわたしの話をさえぎりました。こんなことは滅多にないことです。
「わたし、決心したんです・・これからはあなたの前で辛い顔をしたりしません・・・あなたに心配させるようなこともしません・・・わたしがしてしまったことは、取り返しがつくようなことではありませんが、せめてあなたと娘に償いができるように、明るく生きていきたいとおもいます・・・だから、戻ってきてください・・・」
 わたしはしばし返事をすることができませんでした。
(寛子のそんな必死さが、おれにはまた辛いんだ)
 そんな言葉が頭に浮かびました。しかし、電話口の妻の、震えるような声音の健気さが、わたしにそんな言葉を吐かせませんでした。
 妻の寛子はもともと強い人間ではありません。いつもおとなしく、ひとの意見に従いがちな女です。ですが、そのときは妻が並々ならぬ決意でいることが伝わってきました。
「・・・わかった、これから家へ戻るよ」
「ありがとうございます・・・。わたしは娘を迎えに行ってきます」
 電話が切れた後も、わたしはしばらくそこを立ち去ることが出来ませんでした。

 家へ戻ると、ちょうど妻が娘を連れて帰ってきたところでした。妻はわたしを見ると、にこっと微笑みました。そのいかにも無理しているような微笑が、そのときはわたしの心を強く打ちました。
「さあさあ、いつまでも泥んこのついた服を着てないでお着替えしましょ」
「いやー、いまから外へ遊びにいくー」
「ダメ!」
 妻は娘を叱りながら、優しい母の目つきで娘を見ています。そんな妻の姿を見ながら、わたしはまた勇次の言葉を思い出してしまいます。
<奥さん、おれとやるときは、いつも失神するまで気をやるんだぜ。何度イっても、すぐにまたシテシテって
せがんでくるのさ。ち*ぽを入れてやると、涙まで流して悦んじゃって、大変なんだぜ>
<縛ってからバイブで焦らしてやれば、すぐにもうなんでもこっちの言うことを聞く女になるよ。フェラもパイズリも中出しもおもいのままさ>
 いま目の前の妻を見ていると、勇次の言葉は悪意に満ちた偽りにおもえます。しかし、わたしは、
(本当にそうだろうか・・・)
 そんなふうにも、おもってしまうのです。
  1. 2014/08/20(水) 14:45:29|
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喪失 第12回

 部屋に入ると、勇次はわたしに座るように言い、コーヒーを作りにいきました。
 わたしは部屋を眺めていました。この前、妻と勇次が情交を行っていた部屋です。そのときの光景がありありと蘇ってきて、わたしは苦いおもいをかみ締めました。
 勇次が戻ってきて、コーヒーをわたしの前に置きました。わたしはそれに手をつけずに、黙っています。勇次のコーヒーをすする音だけが響いていました。
 わたしはおもむろに口を開きました。
「お前のせいでうちは滅茶苦茶になってしまった・・わたしはお前を殺してやりたいよ」
 勇次はコーヒーをテーブルに戻しました。そして、またあの癇にさわる薄笑いを浮かべて、
「へぇ」
 と言いました。
「奥さんはどうしてるの?」
「お前に関係ない」
「関係なくはないでしょ、っていうか関係したし」
 わたしは思わずカッとなって、手を出しそうになりましたが、なんとか自分を抑えました。
「お前はわたしの妻をたぶらかして、わたしの家庭を壊した。この責任は取ってもらうからな」
「裁判にでもかける気? でも浮気は奥さんと合意の上だよ。誘いをかけたのはおれかもしれないけど、無理強いしたわけじゃない。ここへ訪ねてきて、おれとセックスしたのは奥さんの意思でしょ」
 怒りでわたしはまた言葉を失ってしまいます。言ってやりたいことは山ほどあるのに、うまく言葉にできないのがもどかしくてたまりません。
「だいたいアンタ、奥さんのこと、ちゃんと分かってるの?
奥さんはずっと欲求不満だったんだよ。本当はおれとのときみたいに、激しいセックスがしたいのに、あんたとじゃベッドでごそごそやるだけで物足りないっていつも言ってたぜ」
「・・・嘘をつくな」
「本当だよ。奥さん、おれとやるときは、いつも失神するまで気をやるんだぜ。何度イっても、すぐにまたシテシテって
せがんでくるのさ。ち*ぽを入れてやると、涙まで流して悦んじゃって、大変なんだぜ」
「・・・・」
「最近じゃ縛られたまま、やるのも好きみたいだな。あんたもやってみたら。奥さん、Mっ気があるから、いじめられると悦ぶぜ。縛ってからバイブで焦らしてやれば、すぐにもうなんでもこっちの言うことを聞く女になるよ。フェラもパイズリも中出しもおもいのままさ」
 わたしがなんとか理性を保っていられたのもそこまででした。へらず口をたたく勇次の口へ向けて、わたしはパンチを繰り出しました。が、勇次はそれをかわすと、わたしの顎めがけて強烈な一撃を見舞ったのです。
 わたしは仰向けに倒れました。そこへ勇次の蹴りが飛んできます。わたしは身をかがめて防御するだけしか出来ませんでした。
 勇次は好き放題にわたしを痛めつけたあと、わたしを部屋の外へ蹴りだしました。
「奥さん取られたからって、逆恨みして殴ってくるんじゃねえよ、糞爺」
 扉が閉まる前に、勇次のそんな捨て台詞がはっきりと聞こえました。
 わたしは口惜しさと無力感にうち震えながら、しばらくそこにうずくまっていました。
  1. 2014/08/20(水) 14:43:40|
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喪失 第11回

 アパートに着きましたが、勇次は留守でした。わたしは子供が出来てからやめていた煙草を買ってきて、喫煙しながら、勇次の部屋の前で勇次が帰宅するのを待っていました。
 そうしてわたしが煙草をふかしつつ立っていると、大家らしい老人がアパートの廊下を掃きにやってきました。わたしを見て、
「あんた、そこの部屋のひとを待っているのかい?」
 と聞きました。そうだと言うと、
「それなら須田君の知り合いなんだな。まったく彼はどうなっているんだい。若くて真面目そうな顔をしているくせに、しょっちゅう、昼間から女を連れ込んでいるよ」
 わたしは無理に表情を殺して、老人に、
「へえ、そんなふうには見えなかったな。わたしも彼はよく知らないんだよ。相手の女性はどんな感じだい?」
 老人はにやにや下卑た笑みを浮かべると、わたしの近くに寄ってきて、小声で、
「それがねえ・・わたしも一、二度見ただけなんだが、これが品のいい奥様風の女でね・・年は四十より少し前かな・・・もしかしたら人妻かもしれんよ」
「へえ」
 無関心を装った相槌を、半ば無意識に打ちながら、わたしの心臓は激しく高鳴っていました。
「人妻だとしたら、やはり不倫なんてのは女の方も燃えるものなのかね。凄いんだよ・・・女の声が。昼間だってのに、隣近所に聞こえるほど、あのときの声がするんだ」
 わたしは手に持っていた煙草を口に含みました。自分の顔が真っ青になっているのが分かっていました。
「いきます、いきますー、ってね・・本当に激しいんだよ。須田君もなかなかやり手なんだね。枯れきっちまったわたしなんかからすると、うらやましいかぎりだよ」
 老人はなおもしばらく話した後、自分の仕事に戻っていきました。

「あれ?」
 物思いにふけっていたわたしは聞き覚えのある声に振り向きました。
 勇次が立っていました。
「話がある」
 わたしは勇次を睨みつけながら、それだけ言いました。勇次はちょっと戸惑っていたようでしたが、無言で部屋の鍵を開け、わたしに入るように言いました。
  1. 2014/08/20(水) 14:42:32|
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喪失 第10回

 それからしばらくは緊張の日々が続きました。
 妻とは気軽に話すことはなくなりました。娘がいるときは、以前のように仲の良い両親を演じるのですが、娘がいないと火が消えたように寒々とした感じになります。
 わたしは仕事の関係で外回りをやめることは出来ません。妻をひとりにしておくのは不安でした。勇次はいまも店の近くに住んでいるのです。しかし、新たにバイトを雇う気にもなれません。わたしはいつもぴりぴりしていました。強がって見せても、心はいつも不安でいっぱいでした。
 妻はいっそう無口になり、暗い表情をするようになりました。いつもわたしの機嫌を窺って、びくびくしています。以前からどこか淋しげな感じの女でしたが、最近では夜遅くにわたしがふと目覚めると、隣で妻がすすり泣いているときがあります。
 夜の営みは絶えてなくなりました。浮気した妻を嫌悪して、というより、わたしの問題です。妻と勇次の情交の激しさにショックを受けて、わたしは自分自身のセックスにまったく自信をなくしてしまったのです。
 そんなある日のことでした。わたしは妻と店番をしていました。わたしたちは夫婦で店を経営しているので、夫婦仲の思わしくないときも一緒にいる時間が長く、そのときはそれが辛くてたまりませんでした。妻の哀しい顔を見ているのが辛いのです。浮気をしたのは向こうだ、おれはわるくないとおもってみても、妻の辛そうな様子を見ていると罪悪感がわいて仕方ありません。かといって、優しい言葉をかけることも当時のわたしには出来なかったのです。
 その日もそんな状態で、もうたまらなくなったわたしは、
「なあ・・・おれたちもう駄目かもしれない・・」
 妻にそう言ってしまいました。
 妻は瞳を見開いてわたしを見つめました。すぐにその瞳から涙がすっと流れ落ちました。
「おれは辛くてたまらない・・・お前に裏切られたことも哀しかったが、その後のお前の辛そうな顔を見ているのはもっと辛いんだ・・・おれたちはもう、別れたほうがいいんじゃないかな」
 離婚を切り出したのは、そのときがはじめてでした。
「そのほうがお互いにとっていいのかもしれない」
「いやです!」
 予想以上に激しく、妻は拒絶しました。
「あなたと別れたくありません・・・わたしにこんなことを言う資格がないのは分かってます・・・でも、あなたと別れたくないんです・・これからは死んでもあなたを裏切ったりしません・・・あなたのいうことならなんでもします・・・ですから・・」
「だから言ってるだろ! ちょうどいまのお前のように、お前が必死な顔をしていたり、哀しそうにしているのが耐えられないんだよ!」
 わたしはきつい口調でそう言いました。妻はもうどうしようもなくなって、顔を両手で抑えて号泣し始めました。
 罪悪感と自己嫌悪でいっぱいになったわたしは、妻から逃げるように店を出て行きました。
 そうして店を出たわたしが向かったのは、勇次の家でした。
 わたしたち夫婦を地獄に堕とした勇次になんとか復讐をしてやりたい。その一念でした。
  1. 2014/08/20(水) 14:41:27|
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喪失 第9回

 妻は語ります。
「そんなふうに日を過ごしているうちに、わたしの心は次第に勇次くんの誘惑にはまっていきました。あなたを、娘を裏切るまいとおもっているのに、店で勇次くんと一緒に過ごし、彼に愛の言葉を告げられているうちに、わたしは段々と、まるで自分が勇次くんと恋をしているような・・そんな錯覚に陥ってしまったのです」
「それは錯覚なのか? 寛子はそのとき、本当に勇次の奴が好きになっていたんじゃないのか?」
「そんなこと・・・」
 妻は切なそうな表情でわたしを見つめ、首を振りました。
「まあいい・・・それで?」
「その週の金曜の勤務が終わって勇次くんは帰りがけに、<明日の昼、うちに来て>と囁いたのです。わたしは拒絶しましたが、勇次くんは<絶対に来てよ>と重ねて言って、そのまま帰っていきました。わたしはその夜、また悶々と考えて・・・悩んで・・・」
「勇次の家に行ったんだな」
「・・・そうです・・・本当にごめんなさい・・・」
 妻の瞳は涙できらきらとひかっていました。
「・・・それで?」
「あなたに嘘をついて、勇次くんの家に行って・・・その日のうちに彼に抱かれました・・・それからは・・ずるずると関係を続けることになってしまって・・・・ごめんなさい」
「いちいち謝るんじゃない。謝るくらいならこんなこと、はじめからするな」
「・・すみません・・・謝るしかできなくて・・すみません・・」
「それはもういいと言ってるだろ!」
 嫉妬でおかしくなろそうなわたしは、自棄になって妻に乱暴な口をきいてしまいます。
「それで奴とのセックスはどうだった? おれとよりも気持ちよかったのか?」
「そんなこと・・・」
 妻は必死な顔で否定しますが、それはわたしの気分を少しも和らげませんでした。
「おれはお前と勇次のセックスを見ていたんだ・・驚いたよ。おれは自分しか知らないからな、世の中にあんなに激しいセックスがあるのかとおもった。これじゃあ妻を寝取られても仕方ないとな。そうおもわせるほど、あのときのお前の乱れ具合は凄かった」
「ちがいます・・・」
「何がちがうと言うんだ?」
 わたしはどんどんサディスティックな気持ちになっていきました。
 しばらくお互いに沈黙したあと、うっすらと涙の筋を頬につけた妻がぽつり、ぽつりと語り始めました。
「・・・彼に抱かれたときは・・わたしも驚いたんです・・・わたしがそれまで経験したことのないようなセックスで・・・荒々しくて・・・獣がするような感じで・・・。彼のは・・・大きくて、わたしにはきついんです・・・きついのに激しくされて・・そうしているとわたしもいつの間にかおかしくなって・・・声を出してしまうんです・・・」
 普段の妻なら絶対に言わないような話でした。妻もここまできたなら、何もかも吐き出して楽になりたい、ということなのでしょうか。
「でも・・終わったあとは・・・いつも後ろめたくて・・・あなたや娘のことばかり考えて・・・本当に自分がいやになります・・・でもあなたとのときは、心の底から満たされる感じなんです、本当です」
 それならなんで勇次に抱かれ続けた、とわたしは叫びたくなるのをこらえました。
  1. 2014/08/20(水) 14:39:46|
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喪失 第8回

 妻の浮気現場に乗り込んでいった日の夜のことです。
 わたしもようやく心の整理がつき、妻も少し落ち着いてきたようだったので、わたしは夫婦の寝室に妻を呼び、浮気の経緯を聞いてみることにしました。
 パジャマ姿の妻は、きちんと床に正座して、首をうなだれさせています。まるでお白州に引き出された罪人のような風情でした。
 わたしは聞きました。
「はじまりはいつだったんだ?」
「・・・勇次くんを雇って一ヶ月くらい経った頃です・・」
「どんなことがあったんだ?」
「金曜に勤務を終えて勇次くんが帰ったあとに、彼が財布を忘れていったことに気がついたんです・・・勇次くんは土、日はうちに来ませんし、電話がないから呼び出すこともできません。わたしはその日のうちに財布を彼のうちまで届けてあげようとおもったのです・・・」
 若い男の住む家に女ひとりで行く無防備な妻を咎めようにも、わたし自身、勇次の人柄を信用しきっていたので、あまり文句も言えません。
「もちろん、財布を届けてすぐ帰るつもりでした・・・でも、そのとき・・・」
 妻はうつむき、くちごもりました。わたしは黙って話が再開されるのを待ちました。
 やがて妻は決心したのか、わたしの顔をまっすぐ見つめて話しだしました。
「玄関に出てきた勇次くんは財布を受け取ってから、わたしに部屋にあがって休んでいったらどうか、と言いました。娘も家でひとりで待っていることですし、わたしは断って帰ろうとしました。そのとき、勇次くんがわたしの腕を掴んで・・・」
<奥さんのことが好きなんだ>
 そう言ったらしい。
 妻は突然の告白に驚いたが、勇次はかまわず、妻をこんこんとかき口説いたという。財布を忘れたのも、妻が届けに来るのを見越してわざとしたのだ、とまで言ったようだ。
 最初は呆気にとられた妻も、勇次があまり熱心に、額に汗まで浮かべて熱弁するのに、次第に心を動かされていった。
もともと好感を持っていた若者に、三十八歳の自分が女性として見られているということも、普段は妻として、母として扱われている妻にとっては刺激的なことだったのだ。
「正直に言います。わたしはそのとき、困ったことになったとおもいました。でも心の中では・・・疼くようなよろこびも感じていたんです・・・久しぶりに女として自分を認めてもらったというおもいがあったのだとおもいます」
 そう語る妻は真剣な表情をしていた。
「それでその日は・・・?」
「何もありませんでした。わたしは彼を振りきって、家に帰ったのです。でも気持ちまでは・・。わたしはその日、一睡もせずに彼に言われたことや、そのとき自分が感じたことを思いかえしていました・・・隣で寝ているあなたを見るたびに、こんな罪深い物思いはやめようとおもうのですが、気がつくと、また考えているのです」
 わたしはそのとき、おもわず拳をぎゅっと握り締めていました。
「次の月曜に彼が店へやってきたとき、わたしはもうちゃんと彼の目を見ることもできませんでした・・・どぎまぎしてしまって・・・でも彼はまるで悠然としていて、勤務中もことあるごとにわたしに意味ありげな視線や言葉を投げてきました・・・」
「・・・勇次はこうおもっていたんじゃないか。この人妻は脈がある、もう少しでおとせる、とな」
 怒気のこもった声で、わたしはそんな皮肉を言いました。正直なところ、まるで恋した十代の女の子のように語る妻に、燃えるような嫉妬心をかきたてられていました。
「そうですね・・・そうだとおもいます・・・わたしが馬鹿だったんです・・・ごめんなさい」
「謝らなくてもいいから、先を続けてくれ」
 わたしは冷淡な口調でそう言いました。
  1. 2014/08/20(水) 14:38:22|
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喪失 第7回

「ひいぃー!」
 そのとき、妻のあげた悲鳴はいまでも忘れられません。妻は水揚げされた鯉のように跳ね回り、勇次から逃れると、床に突っ伏して、自分の衣服で顔を覆っています。
 勇次もわたしにきづいた瞬間は驚愕し、しばし呆然としたようでした。しかし、何を言っていいものやら分からず、口中でもがもが言いながら、睨みつけるだけのわたしを見て、勇次は落ち着きを取り戻したようでした。
 そればかりか、勇次はにやにや笑いさえいました。すでに平素の好青年ぶりはどこかへ行ってしまったようです。
「どうして分かったの?」
 そんなことを聞いてきました。わたしは答えず、さらに勇次の顔を睨み続けました。
「まあいいや。見たんだろ、いまのおれたちのセックス。なら分かるはずだ。おれたちの熱々ぶりがね」
「寛子はわたしの妻だ!」
 わたしがやっと言えたのは、その一言だけでした。それまですすり泣いていた寛子は、それを聞いて号泣し始めました。
「ごめんなさい・・あなた・・・ごめんなさい」
 わたしは泣き伏して謝る妻の姿を見つめていました。不意に涙がぽろぽろと頬を伝っていくのを感じました。
 勇次はそんなわたしたちを冷めた目で見ていましたが、
「とりあえず帰ってくれないか。あんたがおれと寛子のセックスを覗き見してたことは、まあ許すからさ」
 わたしはその言葉を聞いて、愕然としました。
「・・許すだと・・・! よくもぬけぬけとそんなことが言えるものだ・・・おまえはわたしの妻を」
「寛子はおれを愛してるんだ。あんたとはもう終わりだよ」
 勇次はまったく動揺することもなく、そう言い放ちました。その呆気に取られるほど傲慢な態度は、わたしには理解すら出来ません。若さとは、若いということは、かくも尊大でエゴイスティックになりうるものなのでしょうか。
「・・どうなんだ、寛子」
 わたしは押し殺した声で、妻にそう問いました。
 全裸の妻は衣服を顔に押し当てたまま、ぶんぶんと首を左右に振りました。
「帰ります・・・あなたと」
 その言葉を聞いて、わたしはちらりと勇次を見ましたが、彼はなおも動揺した様子は見せず、薄笑いを浮かべていました。
 わたしは思わずカッとなって、勇次を殴りつけました。勇次は素早く身をかわし、わたしの拳はほんの少し、かするくらいにしか当たりませんでした。
 わたしがなおも殴りかかろうとするのを、いつの間にか這い寄ってきた妻がわたしの足にすがりついて、
「もうやめて・・・帰りますから」
「ならさっさと着替えろ!」
 思わずわたしがそう怒鳴ると、妻はひどくおびえたように服を着始めました。

 ふたりは家までの帰り道を無言で歩きました。
 妻はすすり泣きをやめません。
 わたしは最愛の妻に裏切られたというおもいを、また新たにしていました。先ほど帰りがけに勇次がまた見せた陰湿な薄笑いが脳裏から離れません。胃の腑から這い上がってくるような憤怒が、胸を灼いています。
<バイトはもちろんクビだ。それから・・・わたしはおまえのことを絶対に許さないからな>
 帰り際にそう吐き捨てたわたしに、
<勝手にしなよ>
 そう言って、勇次は笑ったのです。

 ・・・その日、わたしが感じた様々な敗北感は、けっして埋められない喪失として、わたしの胸にぽっかりと穴をうがちました。

 しかし、わたしはそれが始まりに過ぎなかったこと、そしてその後、自分が本当に妻を<喪失>することになるとは、まだ夢にもおもっていなかったのです。
  1. 2014/08/20(水) 14:36:57|
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喪失 第6回

その瞬間のわたしの気持ちを後になって考えてみると、それは深い哀しみでした。もちろん、最愛の妻を奪われた哀しみもそうなのですが、それ以上に自分の老いが哀しかった。
 いま、眼前で繰り広げられている妻と勇次の痴態。それは強烈に<若さ>を放射していました。勇次とわたしは親子ほど年が違います。妻だって、わたしより一回りも若い。
 どうもうまく言えませんが、妻と勇次のセックスを覗き見て、わたしが受けた哀しみは、老いた自分の手の届かない世界に妻が行ってしまったことへの哀しみだったように、いまになって感じるのです。
「そんなに大声出したら、近所に聞こえちゃうよ」
 妻を責めながら、勇次がそんなことを言いました。その口調は当然のことながら、雇用主の妻に対するものではありません。
「あっ、あっ、こ、こえ、でちゃいます・・」
「仕方ないな」
 勇次は妻の秘所から自分のものを引き抜くと、軽々と妻を抱き上げました。いわゆる駅弁スタイルというのでしょうか、子供が抱っこされるような格好でしがみついた妻に、勇次は立ったまま再び挿入します。
 股間を大きく割り開かされ、M字になった足を勇次の背中へ絡みつかせた妻。勇次はわたしに背を向けて立っていましたが、妻はそれとは逆向きです。
 見つかるのをおそれて、わたしは半開きの戸からそっと顔を放しました。
 いったい自分は何をしているんだろう。そうおもいました。浮気の現場を押さえ、あまつさえ、妻たちは性交の最中なのです。夫なら、当然怒鳴りこんでいく場面です。
 しかしわたしは、怒りよりもむしろ、とめどない喪失感に打ちのめされてしまっていたのです。
「んんっ」
 妻がくぐもったような声で、また啼きました。わたしはまたふたりをそっと覗き見ます。
 勇次が妻の口に舌を差し入れ、ディープ・キスをしていました。妻は眉根を寄せ、苦しそうな表情で必死にそれにこたえています。
 勇次が妻の身体を小刻みに上下動させています。その上下動がしだいに早く、激しくなり、それにつれて妻の表情にも苦悶とそれに悦びの入り混じった、わたしがそれまで見たことのない表情になっていきます。
 妻が首を振って、勇次の舌を逃れました。そのとき、妻の口からよだれがとろりと垂れたことを覚えています。
「あ、も、もうだめ・・・わたし、いきます・・いってしまいます」
 息も絶え絶えに妻がそう告げます。
 その瞬間でした。わたしは弾かれたように、ふたりのいる部屋へ飛び込んでいきました。
  1. 2014/08/20(水) 14:35:45|
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喪失 第5回

 しばらく、わたしは呆然とそのアパートの前で立ち尽くしていました。が、こうしてばかりもいられないとおもい、震える手で前夜つけたメモから勇次の部屋番号を確認した後、わたしは中へ入りました。
 胸中は不安と絶望、そして怒りでパニック状態でした。これからもしも浮気の現場を押さえたとして、わたしはどう行動すべきだろうか。勇次を殴り、妻を罵倒し・・・その先は? これで妻との生活も終わってしまうのだろうか。家族はどうなってしまうのだろうか。わたしの胸はそんなもやもやした考えではちきれそうだした。
 興奮と緊張で壊れそうになりながら勇次の部屋の前まできたわたしは、次の瞬間に凍りつきました。
 妻の声が聞こえたのです。それも寝室でしか聞いたことのない、喘ぎ声です。
 高く、細く、そしてしだいに興奮を強めながら、妻は啼いていました。
 わたしは思わず、勇次の部屋のドアに手をかけました。鍵はかかっていませんでした。わたしはそろそろと部屋へ忍び込みました。
 狭いアパートの一室です。居間兼寝室は戸が開き放しでした。
 妻がいました。
 素裸で、四つん這いの格好で、ひっそりと中を窺うわたしに尻を向けています。その尻に、これもまた全裸の勇次がとりつき、腰を激しく妻の尻に打ちつけています。
 わたしはそれまでAVなどほとんど見たことがなく、したがって他人の性交を見た経験がありませんでした。初めて見た妻と勇次のそれは、衝撃的でした。
 勇次の腰が驚くほどの勢いで、妻の尻にぶつかるたび、ばこん、ばこん、と大きな音がします。妻の、年増らしく、むっちりと肉ののった腹から尻にかけてが跳ねるように震え、
「あっ・・ああっ・・・」
 と、妻が啼きます。勇次の若い身体はよく締まっていて、スタミナがありそうでした。
 室内は暑く、ふたりとも肌にびっしょりと汗をかきながら、わたしが入ってきたのにも気づかないほど、セックスに夢中になっていました。
  1. 2014/08/20(水) 14:31:40|
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喪失 第4回

 わたしが幼稚園へ娘を迎えに行き、先生の話から、妻への疑惑を深めたその夜のことです。
 ちくちくと刺すような不安と、爆発しそうな憤りを抱えながらも、わたしは妻を問い詰めることは出来ませんでした。何も喋る気になれず、鬱々とした顔で風呂に入り、食事をとりました。妻はもともと口数の少ない女ですが、その日はわたしの不機嫌に気づいていたためか、ことさら無口でした。
 ところが、寝る前になって、妻が突然、
「明日は昼からちょっと外へ出てもいいでしょうか」
 と言いました。明日は水曜なので、店番はわたしと妻で務める日です。
「どうして? どこかへ行くのか?」
「古いお友達と会おうかと・・・」
 なんとなく歯切れの悪い妻の口調です。妻を見つめるわたしの顔は筋肉が強張ったようでした。
(あいつに会いに行くんじゃないのか・・・!)
 わたしは思わずそう叫びだしてしまうところでした。
 しかし、そんな胸中のおもいを押し殺して、
「いいよ。店番はおれがするから、ゆっくりしておいで」
 そう言いました。
 そのとき、わたしはひとつの決意をしていました。

「幼稚園のお迎えの時刻までには帰ってきます」
 そう行って妻が店を出たのは昼の一時をまわった時刻のことでした。わたしは普段と変わらない様子で妻を見送り、妻の姿が見えなくなると、すぐに店を閉めました。
 そしてわたしは妻のあとを、見られないように慎重につけていきました。
 妻はわたしに行くと言っていた駅前とはまるで違う方向へ歩いていきます。
 十五分ほど歩いた後、妻はある古ぼけたアパートに入っていきました。
 前夜、わたしは勇次の履歴書を取り出して彼の現住所をメモして置いたのですが、確認するまでもなく、そこは勇次の住むアパートでした。
  1. 2014/08/20(水) 14:30:33|
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喪失 第3回

 そんなある日のことです。妻は体調がすぐれなそうだったので、滅多にないことでしたが、わたしが娘を幼稚園に迎えに行きました。
 そのとき、幼稚園の先生から妙なことを言われたのです。
「昨日は奥様はどうなされたのですか?」
「え? 何かあったのですか?」
「えっ・・・ああ、はい。昨日は普段のお迎えの時刻になっても奥様が来られなかったのです。一時間遅れでお見えになりましたが、娘さんは待ちつかれておねむになってました」
「・・・そうですか・・・あの、つかぬことをお伺いしますが、この前の木曜に娘が具合が悪くなって、妻が迎えに来たということはありましたか?」
「・・わたしの記憶にはありませんが・・奥様がそう仰ったんですか?」
「いえ、違います。なんでもありません。すみません」
 わたしはうやむやに打ち消して、娘を連れ、家路につきました。
 ぼんやりとした疑いが、はっきりと形をとってくるのを感じ、わたしは鳥肌が立つ思いでした。
 妻は間違いなく、嘘をついている!
 そのことがわたしを苦しめました。
 これまで夫婦で苦しいときもつらいときもふたりで切り抜けてきました。店がいまの形でやっていけているのも、妻の内助のおかげだと思っていました。
 その妻が・・・。
 嘘までついて妻は何をしているのか。
 わたしはそれを考えまいとしました。しかし、考えまいとしても、脳裏には妻と・・・そして勇次の姿がいかがわしく歪んだ姿で浮かんでくるのです。
「店長!」
 いきなり声をかけられて驚きました。勇次です。わたしと娘の姿を偶然見て、駆けてきた、と彼はわらいました。
「いま、学校へ行く途中なんです」
 勇次はそう言うと、娘のほうを見て、微笑みました。娘も勇次になついています。
 娘と戯れる勇次。しかしふたりを見るわたしの表情は暗かったことでしょう。
 ただ、いまの勇次の姿を見ても、彼が妻と浮気をしているなどという想像はおよそ非現実的におもえました。むしろそのような不穏な想像をしている自分が恥ずかしくおもえてくるほど、勇次ははつらつとして、陰りのない様子でした。
「どうしたんです? 店長。具合でもわるいんですか」
「いや、何でもないよ・・・ちょっと疲れただけさ」
「早く帰ってゆっくり休んでくださいよ・可愛い奥さんが待ってるじゃないですか」
「何を言ってるんだい、まったく」
 わたしはそのとき、勇次とともにわらいましたが、背中にはびっしりと汗をかいていました。
  1. 2014/08/20(水) 14:29:15|
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喪失 第2回

 勇次を雇って二ヶ月ほど経った頃のことです。
 その日、妻は外出していて、わたしが店番をしていました。わたしがいるときは、勇次は非番です。
 近所で電気店を経営している金田さんが、店に入ってきました。しばらく雑談をしていると、彼が急に妙なことを言い出したのです。
「この前の木曜だが、どうしてこの店閉まってたんだい?」
「木曜・・・何時ごろのことです?」
「さあ・・何時だったか・・昼の二時くらいだったと思うがなあ。ちょっとうちを出て、この店の前を通りがかったときに、店の戸が閉まっているのが見えたんだよ。中を覗いてみたけど、誰もいなかったような・・・」
(おかしいな・・)
 わたしは思いました。昼の二時といえば、まだ娘を幼稚園に迎えにいく時刻でもなく、店には妻の寛子と勇次のふたりがいたはずです。どちらかが何かの用事が出来たにしても、残るひとりは店番をしているはずです。
 妻からは何も聞いていません。
 金田さんは何事もなかったかのように話題を変え、しばらく雑談しましたが、わたしの頭は先ほど引っかかったことを考え続けていました。
 その夜、わたしは居間でテレビを見ながら、台所で忙しく食事の用意をしている妻に、何気なさを装って尋ねました。
「この前の木曜の昼に、店の前を通りがかった金田さんが、店が閉まっているようだったと言ってたんだが・・・何かあったのかい?」
「ああ・・・はい、娘の具合がわるいと幼稚園から連絡があったので、勇次くんに車を出してもらって、ふたりで迎えに行ったんです」
「聞いてないな」
「たいしたことはなく、結局、病院にも行かずじまいだったので、あなたには・・」
 妻は振り向くこともせず、そう説明しました。
 わたしはきびきびと家事をしている妻の後ろ姿を眺めながら、ぼんやりと不安が胸に広がっていくのを感じていました。心の中では、妻の言うことは本当だ、と主張する大声が
響いていたのですが、その一方で、本当だろうか、とぼそぼそ異議を申し立てる声もあったのです。 
 結婚してからはじめて妻に疑いをもった瞬間でした。
 もし寛子が嘘をついているとして、それではそのとき寛子は何をしていたのか。一緒にいた勇次は? まさか・・いや、そんなはずはない。妻と勇次では年が違いすぎる。
 心の中では嵐が吹き荒れていましたが、顔だけは平然とした表情でわたしは妻を見ます。
 妻の寛子は、そのおとなしい性格と同様に、おとなしい、やさしい顔をした女です。どこかにまだ幼げな雰囲気を残していましたが、スタイルはよく、特に胸は豊満でした。
 年甲斐もないと思いながら、当時のわたしは週に三日は妻を抱いていました。
 とはいえ、妻の魅力は野の花のようなもので、誰にでも強くうったえかけるものではない。わたしが惹かれるように、若い勇次が妻の女性に惹かれるようなことはない。
 わたしは自分にそう言い聞かせました。
  1. 2014/08/20(水) 14:28:06|
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喪失 第1回

わたしが昔、体験したことを書き込みます。当時のことはまだ誰にも話したことはありません。気軽に話せることでもありませんし・・・。
かなり暗い話になると思いますが、ご笑読ください。
当時、わたしはちょうど五十歳でした。妻の寛子は一回り若く、三十八歳。晩婚だったため、子供はひとりで幼く、幼稚園に通う娘がいました。
わたしたち夫婦はエヌ市で個人商店を開いていました。
わたしは商品の仕入れ先や、お得意様を回るのに忙しく、店のほうは妻の寛子にまかせっきりになることも多かったのですが、なにしろ、まだ幼児の娘を抱える身なので大変です。
幸い、当時は経営状態もわるくはなかったので、わたしたちは相談して、手伝いのアルバイトを募集することにしました。
その募集を見て、ひとりの青年がやってきました。
須田勇次(仮名)という名の、いまでいうフリーターで、二十歳をすこし過ぎたくらいの若者です。
いまはフリーターとはいえ、勇次は見た目も清潔で感じもよく、はきはきと喋る快活な男でした。もとは名門と呼ばれるH大学へ通っていたけれども、イラストレーターになるという夢のために中退し、いまはアルバイトをしながら、夜間の専門学校に通っている。後になって、彼はわたしたちにそう言いました。
わたしたちはすぐに彼を気に入り、雇うことにしました。
勇次は、わたしが外に出る月、木、金曜日に店に来て、店番やらそのほか色々な雑務をすることになりました。
最初は何もかもが順調にいくように思えました。
勇次を雇って二週間ほど経った頃、彼について寛子に聞いてみると、
「店の仕事は熱心にするし・・・愛想もいいから商売に向いているみたいです」
「そうか。名門を中退してでも夢を追いかけて、夜間学校へ通っているくらいだからな。今どきの大学生みたいなボンボンとはちがって、ちゃんと仕事への気構えが出来ているんだろう」
「そうですね・・・ああ、そうそう、この前なんか彼、仕事が終わって下宿先へ帰る前に、<奥さん、なんか家の仕事でおれにできることがあったら遠慮なく言ってください>なんて言うんです。ちょうど雨戸のたてつけが悪くて困ってたものですから、勇次君にお願いして直してもらいました」
「ほう。寛子もなかなか人使いが荒いな」
「いや・・・そんなこと」
「冗談だよ」
 そんな会話をして、夫婦で笑ったものです。
 そのときはやがて訪れる破滅のときを知りもしないで、遅くにできた愛する娘を抱え、わたしたち家族は幸せでした。
  1. 2014/08/20(水) 14:26:54|
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妻に射精をコントロールされて 第3回

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妻に射精をコントロールされて 第2回

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妻に射精をコントロールされて 第1回

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押しに弱くて断れない性格の妻と巨根のAV男優・不詳 (8)
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売れない芸人と妻の結婚性活・ニチロー (25)
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夫婦の絆・北斗七星 (6)
心の闇・北斗七星 (11)
1話完結■不倫・不貞・浮気 (18)
■寝取らせ (263)
揺れる胸・晦冥 (29)
妻がこうなるとは・妻の尻男 (7)
28歳巨乳妻×45歳他人棒・ ヒロ (11)
妻からのメール・あきら (6)
一夜で変貌した妻・田舎の狸 (39)
元カノ・らいと (21)
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嫁を会社の後輩に抱かせた・京子の夫 (5)
妻への夜這い依頼・則子の夫 (22)
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● 宵 待 妻・小野まさお (11)
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初めて・・・・体験。・GIG (24)
優しい妻 ・妄僧 (3)
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淫乱妻サチ子・博 (12)
1話完結■寝取らせ (8)
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