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闇文庫

主に寝取られ物を集めた、個人文庫です。

水遣り 第50回

『妻の顔を見れば自然と言葉が出るだろう』

そう言う思いで玄関に入ります。もう4時です。家を出てから7時間
経ちます。テーブルを見ますと、白く小さい物が置いております。
その脇にメモがあります。

”貴方御免なさい。部長から渡された携帯です”

とだけ書かれています。携帯はハンマーのような硬いもので打ち壊
されています。佐伯との決別の印のように見えるのです。

妻が居ません。玄関を入る時、鍵が掛かっていたのかどうか覚えて
いません。一階のバス、トイレを見ますが居ません。出て行ったの
でしょうか。居てくれと言う思いで二階に上がります。寝室のドア
を開けます。ベッドに妻が寝ています。洋子と声を掛けても返事が
ありません。軽く頬を叩きます。妻は起きません。布団の上掛けを
剥がします。下着、私が投げつけた下着だけの姿で横たわっていま
す。何度が揺すり、頬を叩くと妻は目を覚まします。

「あっ、貴方、御免なさい」

白い唇、白い頬、空ろな目、妻の表情が尋常で無い事に気がつきま
す。あり合わせのの服を着せ病院へ連れて行きます。車の中でも妻
は眠ったままです。病院に着き、妻が大量に睡眠誘導剤を飲んでい
る事を知らされます。入院加療が必要との事、手続きを済ませ家に
帰ります。

何の話もしないまま、妻は入院してしまいました。まさか入院中の
妻と話をする訳には行きません。入院した妻が哀れと思うより、い
らいら感が募ります。明日は金曜日、2日も休み会社の仕事も溜ま
っています。妻と佐伯の事は休みにじっくり考える事にします。

金曜日、3日ぶりの出社です。松下さんがお握りと味噌汁を出して
くれます。

「社長、お帰りなさい」
「只今、只今と言うのも可笑しいな」
「お帰りなさいも可笑しいですね」

『お帰りなさいか?』

松下さんにそう言われると何かほっとします。ここが我が家のよう
な気がします。妻からその言葉を暫く聞いていない気がします。妻
は多分言っていたのでしょう、私の耳に入らなかっただけなのでし
ょう。

私の留守中の案件を整理しくれてあります。処理は午前中で片付き
ます。

「昼飯に行こうか」

松下さんをUホテルに連れて行きます。ここから始まったのです。
私と松下さんの昼食から。

「社長、顔色が悪いですね。女の勘で言ってもいいですか」
「あ、いいよ」
「奥さんと何かあったのですね」

私を優しく見つめます。女を感じさせる瞳です。松下さんには隠せ
ません、妻の浮気の事を話してしまいます。松下さんの気を引く魂
胆もあったのです。
  1. 2014/08/13(水) 13:30:42|
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水遣り 第51回

「所長の所に寄ってくる」

報告の必要は無いのでしょうが、不思議です、全てを話したくなっ
てきます。携帯を妻が差し出した事、佐伯と昨日会った事、妻が入
院した事を話します。

「そうか、佐伯と会ったか。それで佐伯の事はどうするんだね」
「慰謝料で済ませる積もりはありません。社会的立場をなくしてや
りたい」
「君が手を下すまでも無く、佐伯の立場はなくなる」
「どう言う事ですか?」
「君には全て話そうと思っていた。もうその時期だな。前にも言っ
た通り佐伯の身辺調査をしている。その結果は火曜日に依頼人に渡
す。その後君にもな」

調査の依頼人は未だ明かせないと言う前提がありますが、調査の内
容を大筋で話してくれます。

「君も知っての通り、佐伯は社長の甥だ。専務の妹、出戻りだが
ね、その妹と佐伯の結婚話が持ち上がっていた。専務は次期社長。
筋から言ってその次は佐伯になる。将来の社長の身辺がきな臭いも
のであればしょうがない」

所長は淡々と語ります。

「佐伯は大阪センターの建設担当役員も兼任している。佐伯と大阪
の建設業者の間で前々からきな臭い噂があった。女の方も相当ある」
「・・・・・」
「業者からの金銭授受も多少のものなら目を瞑れる。女の方は金で
整理がつくかも知れない」

出来るだけ詳細な報告をと依頼されたのです。ここまで聞けば依頼
主が誰なのか私にも大凡の見当はつきます。 

「その程度の物であれば、佐伯には訓告で済ませたと思う」
「その程度では無かった?」
「その通りだ。女はともかく金が程度を超えていた」
「そうですか」
「言うまでも無いが、この事は奥さんにも佐伯にも時期がくるまで
話さないでほしい」
「勿論です。私は私の材料で戦います。でもその時期とは?」
「来週一杯と言っておこう」

佐伯の人間性が解ります、妻をこいつだけには何があっても渡せま
せん。

「妻が昨日入院しました」
「どうしてそれを早く話さない。早く病院に行ってあげるんだ」
「今は会えません。妻の顔を見れば出てくる言葉は一つです」
「そうか。どうして入院したんだね」
「大量の睡眠薬を飲んだと」

私の携帯に着信があります。 病院からです。

「奥さんの担当医です。ご主人、今日病院に寄ってもらえますか」
「直ぐ伺います」

松下さんに直帰する旨伝え、病院に向かいます。
  1. 2014/08/13(水) 13:31:35|
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水遣り 第52回

担当医と話します。

「ご主人、奥さんは相当弱られています。断り無く血液検査をしま
した。ご主人、少しは控えて頂かないと」
「は?どう言う事ですか」

私には言われている意味が解りません。

「つまりですね、薬を使うのを程々にして欲しいと。求めるのは解
りますが」

血液検査の結果、ピルの常用、経口催淫剤の大量常用が残留成分と
して検出されたのです。特に経口催淫剤の量は限界を遥かに超えた
量だそうです。その影響は長く持続する可能性があるそうです。し
かたありません、事実を話すしかありません。第三者に話したくは
なかったのですが妻の不倫の事を話します。勿論相手の名前は伏せ
たままです。 

「そうですか、失礼な事を言いました」

もう一つ気になる事があります、妻の女陰の事です。

「先生、実は妻のあの部分に媚薬を塗られていた可能性があります」
「その部分を見て欲しいと」
「お願いします」
「解りました。今直ぐには手配出来ません、明日朝見る事にします」

「ご主人、お名前は圭一さんですね」
「そうですが、それが何か」
「奥さんが何度も何度も ”圭一さん、御免なさい”とうわ言で繰
り返しています」
「・・・・・」
「話掛けてあげればと思いまして」
「いや、余計なお世話だ」

結果は明日聞きに来る旨言って病院を辞します。

『圭一さん御免なさいか』

余計な事だ。妻がうわ言で何を言おうが、夢で何を見ようが関係あ
りません。してしまった事は戻らないのです。許す気持ちはありま
せん。

家に戻ります。憂鬱な夜が始まります。酒を煽ります。妻の事、佐
伯の事、松下さんの事が頭でぐるぐる回ります。酔う程に松下さん
の比重が大きくなってきます。携帯を手に取っています。松下さん
をコールします。

「松下さん、今から行っていいかな?」
「散らかってますけど、いらして下さい」

松下さんのアパートに始めて訪れます。8階建ての立派なマンショ
ンです。2階に彼女の部屋があります。

「こんな時間にお邪魔して申し訳ない」
「いいえ、お上がり下さい」
「君には全て知られている。今日病院へ行ってきた。夜一人じゃ居
られない」
「病院では何と」
「今は言えない」

松下さんがウィスキーを用意してくれます。ちびりちびりと飲んで
いますが、話す事がありません。私はリビングをあちこち眺めてい
るだけです。
  1. 2014/08/13(水) 13:32:44|
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水遣り 第53回

「身分不相応な所に住んでいると思っているんでしょう?」
「いや、そんな事は無い」
「私、両親を早く亡くしたの」

ご両親が早く亡くなり、結構な財産を一人娘の松下さんに遺したの
です。松下さんが成人するまで親戚の方が預かり、成人するの待っ
て、その一部でマンションを買ったのです。

「そうなのか。苦労したんだ。それでそんなに強いんだ」
「強くありません。強いなんて言わないで下さい。それを聞いて女
は喜びません」
「ご免、そんな積もりで言ったんじゃない」
「こんな歳まで女一人で不思議だと思っているんでしょう」
「うーん、まあ君のような綺麗な人がとは思う」
「私も色々ありました。結婚を考えた人も居ました。でも一人暮ら
しが長いとついつい慎重になっちゃって。この部屋に入った男の人
は社長が始めて。もう結婚は考えない事にしました」
「君がその気になりさえすれば、相応しい相手はいくらでもいるさ」

取り止めの無い世間話をしています 妻の話題は松下さんも避けて
いるのが解ります。話題があって来たのではありません、話が途切
れます。松下さんは酒の世話をやいてくれます。摘みを取りに、チ
ェイサーを取替えにキッチンに何度もリビングと行き交います。私
の目は自然と尻を追っています。歩を進めるたびにそれは上に、下
に、右に、左に揺れ動くのです。スカートの上からショーツの線が
見えています。チェイサーを取替える時、私の肩越しに腕が伸びま
す。薄いセーターのV-ネックから胸の谷間が覗けます。うなじが
目の前に現れ、女の匂いが鼻腔を擽ります。4ヶ月以上も妻を抱い
ていないのです、

『松下さんを抱きたい』

衝動が突き抜けます。と同時に別の思いが掠めます。佐伯、妻との
決着はついていません。しかも妻は入院中です。ここで松下さんを
抱くわけにはいきません。松下さんをも汚してしまう事になります。

「松下さん、急に思い出した事がある。病院に妻のものを届けなけ
ればいけない。ご免、これで帰る」

勝手な男です。突然来て、突然帰ります。松下さんがその気になっ
ていたのかは解りませんが、傷をつけてしまった事は確かです。

松下さんは私の嘘を見抜いていたのでしょう。

「奥さんをお大事に」

これで考えなければならない事が3つに増えました。妻の事、佐伯
の事そして松下さんの事。しかし私の生き方は ”すべて水のよう
に”です。酒を煽って酔いつぶれて寝る事にします。酒を飲みだす
と松下さんの姿態が目に浮かびます。打ち消すように酒を煽ります。

酔いつぶれて寝て翌朝起きたのが11時です。シャワーを浴びてがん
がんする頭を押さえて病院へ急ぎます。 

「事後ですが、ご主人この書類にサインを頂けますか?」

担当医が書類を出します。今朝、私と連絡が取れなかったので、事
後になって申し訳ないと一言添えます。私が酔いつぶれて家の電話
にも、携帯の着信にも気がつかなかったのです。妻に麻酔を施した
と、その了解が欲しいと書かれています。

「奥さんに了解を求めてもそれは無理でしょう。私の判断で麻酔を
する事にしました」
「結構です。問題ありません」

サインを済ませ、担当医の説明を聞きます。
  1. 2014/08/13(水) 13:34:02|
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水遣り 第54回

その報告は衝撃的な物です。

「失礼だとは思いましたが、奥さんの陰部、肛門とそれから乳房を
検査しました」

女陰には、クリトリス、陰唇、膣口と膣のの中に至るまで、そして
乳首に大量で強力な媚薬を塗布された形跡があると言うのです。皮
膚から相当量の残留成分が検出されたのです。しかも皮膚から血液
の中に溶け出しているだろうと。普通の性交では皮膚まで破ける筈
はありません。肛門からは何も検出されません。

「聞きたく無い事を言わなければいけません。皮膚にこれだけの成
分を残すには、相当長期間に渡り、大量に常用する事が必要です。
皮膚の糜爛、傷もしかりです。奥さんの皮膚は普通の成人女性に比
べ相当薄いようです。玩具を使っていないとすれば、相手の男根は
普通では無いと考えられます」
「普通では無い?」
「そうです。真珠を埋め込んでいるとか、シリコンで成形している
とかです」

中条さんの言葉を思い出します。 ”大人のオモチャのようにゴツ
ゴツしたグロテスクな物だった。こんな恐ろしい物、おぞましい
物”

「相手の男は増大手術をしています」
「やはりそうですか」

「奥さんは精神的にも相当弱られています。ご主人のご了解を頂け
れば心療内科の方でケアをしたいと思っています」
「心療内科?それで妻は今?」
「麻酔でまだ眠られています。あと3時間位は目が覚めないと思い
ます」
「心療内科の件は考えておきます。先生一つ教えて下さい。薬の影
響が無くなるにはどれ位の期間が必要ですか?」
「これ程の例は見た事がありません。正直なところ解りません。一
週間なのか、一ヶ月なのか。目が覚めればお話になってあげませんか?」
「いや、今私から出る言葉は矢のような事しかありません。会うつ
もりはありません」
「そうですか。その方がいいかも知れませんね」

本当は妻には言いたい事、聞きたい事、一杯あります。妻がこんな
状態では言う事が出来ません。ジレンマに陥ります。

それにしても憎いのは佐伯です。私の手で社会的に葬ってやりた
い。しかし所長の話では私が手を下さずとも、もう一人の依頼の結
果で社会的立場が無くなってしまうのです。それが悔しいのです。
私は私の材料で佐伯を潰したいのです。私の足は自然と所長の所に
向かいます。

「病院に行って来ました」
「奥さんの様子は?」
「眠っています」

病院での検査結果を話します。

「酷いもんだ。それでは未だ奥さんと話していないんだね?」
「ええ、未だです。暫くは話せません」
「そうだな」
「佐伯を潰す方法が見つからない。私でなくとも、もう一つの方で
勝手に潰れてしまう。自分の手で潰したかった」
「あんな男は誰が潰してもいい。君のその気持ちを佐伯にぶつけれ
ばいい。奴のダメージは倍増する」
  1. 2014/08/13(水) 13:37:36|
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水遣り 第55回

自分の思いを聞いてもらうとある程度気持ちが治まります。まだ3
時、決心がつかぬまま佐伯のマンションへと向かいます。途中電話
をします。

「宮下だ。居るようだな。今から行く」

豪華なマンションです。この近郊一番と言って良いでしょう。金回
りの良いのが解ります。玄関を開けた時から佐伯の態度は卑屈です。

「大会社の常務ともなると、さすがいい所に住んでるんだな」
「ご主人、本当に申し訳ない。ほんの出来心で、洋子と、いや奥さ
んと気が合ってしまって」
「何が出来心だ、何が気が合っただ。人の女房を名前で呼ぶな」
「すまん。しかしあれが初めてだったんだ。月曜日が初めてだったんだ」

佐伯は足掻きます。

「違うな。妻から聞いた。初めて大阪に出張した時から続いていたんだな」
「いや、違う」
「いい加減に認めたらどうなんだ」
「・・・・・」
「どうする。民事告訴してもいいぞ。弁護士を立てるか」
「慰謝料を払ってもいい」
「払ってもいいとはどう言う事なんだ。俺は慰謝料で済ませる積も
りは無い」

この時、佐伯は身辺調査の事は知りません。専務の妹との婚姻がそ
のまま進むものだと思っているのです。出来るだけ穏便に済ませた
い、慰謝料で済ませたいと思っているのです。

「妻は今入院している。お前のお陰でな。酷い体にしてくれたな。
頭も体もぼろぼろだ。今は眠りっぱなしだ。告訴する時は医者の診
断書も添える。覚悟しておくんだな」

こんな事で民事告訴出切るかどうかは知りません。出来たとしても
妻の診断書まで世間に晒す訳にはいきません、妻をそこまでは引き
ずり出せません。

私が強く出ると佐伯の態度が変わります。

「洋子は食事に誘っただけで、俺の唾を飲んだぞ。よほど飢えるて
いたんだな」
「うるさい。かたをつけてやる」

『佐伯には言いたい事と言った。何れ片がつくだろう。問題は妻だ』

妻の入院中には話せません。退院してからにしようと思います。妻
ももう目が覚めた頃でしょう。妻に会ってみる事にします。
  1. 2014/08/13(水) 13:38:32|
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水遣り 第56回

担当医に呼び止められます。

「宮下さん、心療内科はどうされますか?」
「入院の必要があるのですか?」
「今の状態を含めて後3日必要です。その後は通院になります」
「水曜日の退院と言う事ですね?」
「そうです」
「お願いします」
「奥さんは起きられています。会われますか?」
「会っていきます。何号室ですか」
「案内します」

随分妻を見ていない気がしますが、入院してからまだ2日しか経っ
ていません。顔が青白く、若干頬もこけたようです。上掛けに覆わ
れた体も細くなったようです。

「あ、貴方。御免なさい、許して下さい」

只、泣くばかりです。後は言葉になりません。

言いたい事、聞きたい事が山ほどあります。死ぬほど妻を言葉で責
めてやりたいのです。それが出来ないのです。じっと妻を見つめます。

「飯は食べられるのか?」
「はい、食べています」

相手が病人だと思うとこんな言葉しか出てきません。

『早く元気になれ。俺に何か反論しろ、言い訳しろ。佐伯の方が良
かったと言え』

心の中で毒づいています。妻が反論すれば私は言い返せるのです。
言いたい事が言えるのです。妻を眺めているだけではしょうがあり
ません。

「これで帰る。来れれば又来る」

背中に妻の痛いほどの視線を感じながら帰ります。

日曜日は何ほどの事もなく過ぎます。

月曜日、出社しますと松下さんが既にお茶の用意をしています。

「社長、お早う御座います。はい朝御飯」

私の目を真っ直ぐにみて言うのです。私の方が目を逸らしてしまい
ます。味噌汁とお握りを頂きます。

「ここに今日の予定があります。書類は纏めておきました」

小さな会社です。予定を作るほどの事もありません。書類も自分で
纏められます。

「僕の仕事を取らないで欲しい。する事がなくなる」
「社長は人と会うと言う大事な仕事があります。そっちにエネルギ
ーを使って下さい」

その通りです。特別な技術も無く会社を切り回すには人と人との繋
がりしかないのです。信頼関係を構築するには膨大な時間が必要で
す。しかし壊れるのは一瞬です。小さな隙間からあっと言う間に崩
れてしまいます。夫婦のそれもしかりです。
  1. 2014/08/13(水) 13:39:25|
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水遣り 第57回

火曜日の夕刻、所長から電話があります。

「今日午前中に報告書を依頼人に渡した。控えを君にも渡そう」

5時になり所長の所に伺います。

「取引関係の方はここで見るだけにして欲しい。君に了解を貰わな
いで悪かったが、奥さんの事も報告書に入っている。これだけを外
す訳にはいかなった」
「解っています。問題ありません」
「佐伯を会社としてどうするか正式処分がでるまで、まだ時間が掛
かるだろう。特に取引関係は会社としての裏付け調査も必要な事だ
しな。それまでは佐伯を今まで通り出社させるようだ」

私にも2冊の控えをくれます。身辺調査には興味はありません。も
う一冊の取引関係の報告書を見ます。表紙に何々殿と依頼人の名前
が書かれています。やはりそうです、佐伯の会社です。社長である
叔父が依頼したのです。佐伯は長く関西地区の購買総責任者を勤め
ています。業者から長年に渡り金銭の供与があったのです、それも
大阪センターの建設が決まってからその金額は飛躍的に伸びています。

「多少の金額なら会社も目を瞑ったのだろう。この金額は目を瞑れ
る金額では無い。あの社長は温情派だ。刑事告訴はしまい。またそ
れは影響が大きすぎる。最大で佐伯の馘首。しかしそれも無いだろ
う。どこか佐伯の息の掛かっていない関連会社に職を見つける事に
なるだろう。勿論、専務の妹との結婚話はなくなるな」
「しかし、そんな調査が民間で良く出来たものだ」
「私は検察上がりだ。悪事を叩く時にはコネが使える。彼らも自分
達の組織だけでは拾いきれない情報もある。民間に協力者を欲しが
っている。私がその一人と言うわけだ。彼らが刑事事件になると思
えば彼らがやるだろうし、そうでなければ情報だけくれる。今回は
情報だけくれたと言う訳だ。その後、刑事告訴するかどうかは会社
の判断だ」
「そうですか、それにしても会社内での佐伯の処遇をどうして山岡
さんはそんなに詳しく?」
「あそこの社長は大学の後輩だ。今も酒飲み友達だ」
「そうだったのですか」

これでは私の出る幕はありません。私だけの材料では精々慰謝料が
関の山でしょう 悔しいですが、反面胸のつかえも降りるのです。

「今度は君の番だ。奥さんとはどうするんだね?」
「妻は今入院中です。今は何も話せません」
「何も話していないのかね?」
「入院する前に報告書を見せただけです。入院してからは何も」
「優しいんだな君は」
「いや、そうじゃない。自分の気持ちがまだ決まっていない」
「退院したら早く話し合った方がいい。遅くなればそれだけ怒りが
増幅してしまう」

家に帰った私は女性関係を含めた身上調査を読みます。複数の女性
と関係を持っていたようです。専務の妹と結婚話が出てからは清算
され関係はありません。佐伯が警戒しての事でしょう。妻との事も
書かれています。妻との関係だけが続いています。妻に余程執着が
あったのか、それとも妻は佐伯にとって便利のいい女だったのか。

水曜日、妻を迎えに病院に行きます。担当医と話します。

「ご主人、奥さんの心の中は後悔とご主人への懺悔の気持ちで一杯
です。それと・・・」

担当医は言いにくそうにしています。

「それと何ですか。言って下さい」
「相手の事がほんの少しですが、心の中に残っています。多分与え
られた快感のせいだと思います」
「余計な事は言わなくてもいい」

自分が聞いてその答えに怒っています。

「それともう一つ。奥さんは関連する言葉、態度一つで性衝動が起
きます。薬と行為の激しさの残影響だと思います。相当以前からこ
う言う状態だった筈です」

医者は事務的に言っているだけです。言葉を選んではいるのでしょ
うが、佐伯との行為の激しさが目に浮かび、私を叩きます。

「時間が解決してくれる筈です。それから当分の間は控えてください」
「何を?」
「つまり、あれです。性交です」
「そんなもの、するわけがない」

担当医にまで馬鹿にされているようです。怒りが湧いてきます。こ
の分なら妻に言いたい事も言えるかもしれません。
  1. 2014/08/13(水) 13:40:23|
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水遣り 第58回

病室に行きますと妻は退院の支度を済ませ椅子に腰を掛け窓から外
を眺めています。顔色はこの前見た時より少し赤味がさし、表情も
戻ってきているようです。

「迎えに来た」
「貴方、御免なさい」

妻は ”ご免なさい”以外の言葉を忘れてしまったように只一つこ
の言葉だけを何度も繰り返します。

『まあいい。話は家に落ち着いてからだ』

家に着きます。妻の入院中の荷物の整理も大したものではありませ
ん。ものの20分もあれば片付きます。妻がお茶を入れようとします。

「俺は要らない。ペットボトルが冷蔵庫にある。お前が飲みたきゃ
自分の分だけ入れろ」

妻の前ではどんどん嫌味な人間になってしまいます。

「聞きたい事が山ほどある。一つ一つ聞くから全て正直に答えてくれ」
「・・・・・」
「どうした。返事がないな。聞いているのか」
「聞いています」
「よし。佐伯とはいつからだ?初めて抱かれたのはいつだ?奴との
きっかけは何だ?」
「・・・・・」

暫く返事を待っていても妻は黙ったままです。答えられないのは解
っています。解っていても責めるのです。

「答えられないのか。お前の大好きな佐伯が初めて抱いてくれた日
を忘れたのか。大阪に初めて出張した日だろうが」
「・・・・・」
「違うのか。言ってみろ」

妻は黙っています。

「お前はこの4カ月で出張は30回以上してるな。その出張殆どに佐
伯が絡んでいる事は解っている。出張の他にもあるよな。お前たち
は新婚夫婦もびっくりする位愛し合ってるんだな」
「・・・・・」
「俺の事はすっかり忘れたか?佐伯にそんなに夢中か?」

「お前たちはどんな事をしていたんだ。俺には出来ない事もしてい
たんだろう。俺にはさせない事もさせていたんだろう」

答えられようも無い事ばかり聞いています。返事が無い事に腹を立
てています。返事があれば、あったで又腹が立つのでしょう。妻を
甚振る為だけに聞いているのです。黙って泣いているばかりの妻に
手を上げてします。頭を思いきり叩きます。妻はよろけて倒れま
す。倒れてうつ伏せになって泣き崩れています。一つの甚振りの
言葉か次の甚振りを呼びます。一度叩けばそれは二度、三度になっ
てしまいます。人は自分の言葉、行動に尚更激してしまうのです。

どんどん激していくのが解ります。話し合いの事はもう忘れていま
す。妻を責める、甚振る事が只一つの目的になってしまいます。
  1. 2014/08/13(水) 13:41:10|
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水遣り 第59回

「お前の会社には電話しておいた。お前が体調を崩して10日ほど休
むってな」
「どうしてそんな事を」
「お前は会社にまだ行くつもりなのか?どんな顔して行くんだ?こ
の事は一部の人しか知らないだろうが、社長以下トップの人は知っ
ている筈だ」
「何故そこまで」
「俺が言ったわけじゃない。佐伯は別件でも調べられていた。相当
数の女と関係していたようだし、取引関係とも色々あったそうだ。
あいつがどう処分されるのかは知らないがな」

女関係、取引関係の事をかいつまんで話してやります。妻は驚いて
います。落ちぶれるであろう佐伯の元に妻は二度とは行く事もない
だろうと、私の言葉はどんどん激してきます。

「お前の愛しい人を慰めに言ってやったらどうだ」
「愛しい人だなんて、そんな風には思っていません」
「よく言うな、お前は。愛しくなくて50回も60回もよく出きるな。
お前はただの淫乱女か」
「・・・・・」

「自分のオマンコを見た事があるのか」

私は手鏡を妻にぶつけるように放り投げます。

「それで眺めてみたらどうなんだ」

勿論、妻は見れる訳はありません。

「私、私知っていました。醜くなっているのを知っていました」
「知っていた?それでも止めなかったのか?そんなにあいつが良か
ったのか?」
「違います。好きではなかった。でも私の体が・・・」
「お前の体が求めたのか?同じ事だ」
「違います。でも寂しかった」
「何が寂しいだ。馬鹿かお前は。俺には出来なくっても、あいつに
は出来たんだろうが」
「貴方は私を抱いてくれない。いつも途中で止めてしまう」
「お前が許さなかったんじゃないか。触ってもだめ、舐めさせるの
は嫌、俺のを咥えるのはもっと嫌。全てお前が嫌がったんだ」
「私、貴方にそんな女だと思われるのが怖かったの。淫乱な女だと
思われるのが、怖かったの。もっと強引にして欲しかった」
「お前も勝手な事をよく言うな。好きな佐伯には出来たんだろうが」
「違います、好きではなかった」
「もういい。堂々巡りだ」

「結婚してからずっと思っていました。貴方はずっと遅かった。貴
方には外に女がいるって。それで私には冷たいんだって」
「外に女が居る?俺が冷たい?仕事で遅かったんだろうが。何処を
どう探せばそんな言葉が出てくるんだ。そりゃあ俺だって男だ。そ
れむきの女を抱いた事はある、台湾、中国で紹介された女を抱いた
事もある。それだけの事だ。お前みたいに不倫なんかした事はな
い。そう思ったんなら、どうして俺に聞かなかった」

”どうして俺に聞かなかった”

そう言った時、私自身も妻に聞けなかった事を思い出します。妻が
佐伯にA亭で食事を奢られ帰宅してバスルームで自慰をして、その
残り香を私が嗅いだ時。初めての大阪出張から帰った時。その後も
妻の異変に気づいてはいたのです。聞く機会はいくらでもあったの
です。私と妻は同じ種類の人間だったのです。

「佐伯から貴方と松下さんの写真を見せられた時、やっぱりと思っ
てしまったんです」
「それはお前の言い訳だ。佐伯に抱かれたいからそう思っただけだ」
「違います。以前から何度も何度も誘われました。ずっと断っていました」
「嘘をつけ。あいつは一度目からオッパイを触らせた、唾を飲ませ
たと言っていた」
「でも、でも最後までは」
「同じ事だ」
「御免なさい・・・、こんな私の体、壊してください」

妻は泣きじゃくりながら、走って体を壁にぶつけます。自分の拳
で、自分の顔を、乳房を、腰を打つのです。思わず妻を抱きとめます。

妻の言っている事が本当なのか言い訳なのか解りません。本当だと
すれば妻は20年間以上もそんな思いを抱いていたのです。

「こっちへ来い」

妻をバスルームに連れて行きます。
  1. 2014/08/13(水) 13:42:01|
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水遣り 第60回

「服を全部脱げ」
「出来ません」

出来ないのは解っていた事です。無理やり脱がせます。初めは手を
足をばたつかせていましたが、その内に抵抗は止みます。妻の全身
が晒されます。

「洗ってやる」

頭からシャワーを浴びせます。私は手に石鹸を付け妻の全身を洗い
ます。首から肩、肩から胸、特に胸は念入りに洗います。胸を揉む
ように洗います。乳首を摘んで擦ります。もう洗っているのでは
ありません。もうそれは愛撫です。妻の乳首が反応します。

「あぁ貴方、ご免なさい」
「俺は洗っているだけだ。あいつの汚れを落としているんだ。何を
感じているんだ」

妻の背中に回ります。正中線が窪んだ綺麗な背中です。背中をそこ
そこに今度は尻です。盛り上がった双丘を撫ぜ回します。尻の割れ
目に手を滑り込ませ擦り洗います。前に回りこみ足を割ります。石
鹸を一杯に付けた手でめっちゃやたらと擦ります。クリトリスにも
陰唇にも膣口も擦り下げ、擦り上げます。

妻はもう立っていられません。窓の枠を手で掴み、足をがくがく震
わせています。必死に堪えてはいますが、妻の口からは善がり声が
漏れてきます。石鹸の泡をシャワーで落とします。妻の女陰からは
シャワーの水とは別のものが止めども無く流れ出ています。私の物
も妻の膣を求めて猛り狂っています。

「あぁ貴方」

私も、もう妻を責めているのは忘れています。自分のトランクスを
引き下げます。自分の物を妻の膣にあてがいます。あてがう直前、
佐伯の事を思い出します。

『ここにあいつの物が入っていた。妻はそれで善がった。こんなに
爛れてしまった』

私の物に異変が起こります。萎えてしまうのです。みるみる小さく
萎んでしまうのです。欲情は怒りに変わってしまいます。

「何があぁ貴方だ。洗っているだけでこんなに濡らしやがって。相
手が佐伯だと思っているんだろう。何て言う女だ、お前は。こんな
汚れたオマンコに出来るか」

私はバスタオルを妻に投げつけ出て行きます。バスルームに一人取
り残された妻はただ泣いているだけです。

担当医の言葉が浮かびます ”薬の影響は長期間残ります”。薬の
影響が残っているのか、妻が変わってしまったのか。多分その両方
なのでしょう。

暫く泣いていた妻がリビングに入ってきます。その表情は落ち着い
ているようです。
  1. 2014/08/13(水) 13:54:17|
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水遣り 第61回

「此処へ座れ」

私は向かいのソファーを指差します。知りたい事は色々あります。
その中でも佐伯の事をどう思っているのか、これからどうするの
か、その事を一番知りたいのです。

「なあ洋子、お前はさっき、佐伯の事を好きじゃないと言ったよ
な。じゃあどんな気持ちで抱かれたんだ」
「・・・会う前はもう止めようと思っていました。これでもう止めようと」
「会う前って、お前は毎日あいつと顔を会わせるじゃないか」
「いえ、そう言う意味じゃありません。声を掛けられる前はもう止めようと」
「声を聞くと欲しくなるのか、お前は」
「・・・・・」
「パブロフの犬か、お前は」

妻も最初はおずおずしていたのでしょう。その内、薬で快楽を覚え
る内に体が条件反射してしまうようになったのでしょうか。

「あいつを好きか嫌いか聞いているんだ」
「好きではありません」
「じゃっ、嫌いなんだな」
「・・・・・」
「何で返事しない。俺が悪かった。好きではなくて愛しているんだ」
「愛してなんかいません」

又、堂々巡りです。妻も嫌いとは言えないのでしょう。嫌いと言え
ば私に ”なんで嫌いな奴に抱かれたんだ、お前はそんなに淫乱な
のか”と責められるのが妻にも解っているのでしょう。

妻はぼつぼつと話し始めます。きっかけは正社員になって暫く後、
A亭で食事を奢られ帰りの車の中で抱擁された事、初めて抱かれた
のは最初の大阪出張であった事。私にしていない、させていない
行為を佐伯として感じてしまった事。事細かく話します。

「もういい。何を自慢しているんだ。俺を馬鹿にしているのか」

私は何をしているんだと思います。自分で聞いて、妻が答えればそ
れに腹をたて、情けない思いをするのです。別れを切り出せない自
分が情けないのです。しかしもう堂々巡りはご免です。

「洋子、俺たちはもうやっていけないだろう。そう思わないか」
「いやです。別れたくありません」
「さっき解っただろ。俺は立たなかった、お前の汚れたオマンコではな」
「私努力します」
「努力します?どう言う事だ。俺とは努力しなければ出来ないのか」
「間違いました。私、私・・・」

妻も言うべき言葉を見つけられないのです。

「もういい。出て行ってくれ。明子には俺が言っておく」

娘の明子の名前を聞いて、妻はわっと泣き伏します。

「お願いです。出て行けって言わないで下さい」

結婚した当初からもっと強引に妻を抱いていればこんな事にはなら
なくてもすんだかも知れない。私の優柔不断な性格も災いしている
のです。
  1. 2014/08/14(木) 00:34:06|
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水遣り 第62回

「佐伯がテレビ電話の内容を保存してあるって」
「どうしてそれを早く言わない」
「会わない時は、それを見て楽しんでるって。私怖かったの、誰か
に見せるんじゃないかと、怖かったの」
「それでずるずる続けていたと言うんだな。本当だな。脅迫されて
いたのか?」
「いいえ、初めの頃は脅迫はされていません。でもそれがあると思
うと私は・・・」
「初めの頃は?じゃ今は」
「言われました。もう出来ないと言ったら、貴方に見せるって、会
社のメールにばらまくって」

妻の言う事は本当なのか、考え付いた言い訳を言っているのか判断
は出来ません。しかし、私の気持ちは少しですが、救われます。初
めは妻の意思で佐伯に走ったのでしょう。それ以後は妻の意思だけ
ではなく、強制されたものがあったのかも知れません。しかし録画
の存在が気にかかります。私が知っている限りテレビ電話の内容を
保存できる携帯は無いはずです。

佐伯の携帯に電話します。

「宮下だ。今から行く」
「いや、会社は困る」
「困るだと。困るような事をしたのはお前だろう」
「すまん。私のマンションでどうですか」

今は4時半。

「お前も5時までには出れないだろう。5時半に行く」
「5時半ではちょっと早すぎる、会議がある。6時半にならないか」
「ぐだぐだ言うな、俺は会社に行ってもいいんだぞ」
「解った。5時半に待ってる」

本来は佐伯を呼びつけるべきでしょう。しかしこの家に上げたくあ
りません。妻と会わせたくないのです。

佐伯にとって何が一番辛い事なのか考えてみます。社会的立場、会
社での地位は放っておいても無くなってしまいます。無くなって困
るもの、それは金に違いありません。最悪の場合、職を失ってしま
うのです。妻の体と引き換えの汚れた金は欲しくはありませんが、
金で攻めるのが一番良いのです。

「佐伯、俺は弁護士を立ててお前と戦う事にした」

私はかまをかけます。

「それは勘弁してくれ。何とか慰謝料で済ませてくれないか」
「慰謝料?一応聞いておこう。いくら払えるんだ?」
「200万なら払える」
「なら払える?女房は後10年は働ける。年間400万として4000万、
これは遺失利益だ。それに慰謝料1000万プラスで5000万だ」
「無茶だ。それに正社員にしたのは俺だ」
「関係ない。びた一文譲らん」
「では500万だそう」
「話にならん。弁護士に任す。お前も用意しておけ」
「頼む、何とか500万で」
「それがお前のお願いの仕方か」
「申し訳ありません。500万で今回の事は許して下さい」
「そうか、500万の慰謝料は了解する。只、許しはしない。許すの
は今後のお前をみてからだ」

条件として、書類を二通用意する事。1通には今回の非を詫び、今
後妻には一切連絡も会わないと誓う事、500万は私の任意の指定日
に満額を一括で支払う事。この書類には実印を押印し、印鑑証明を
付ける事。そしてもう1通は不倫の事は記載しませんが、佐伯が私
に500万の債務があり、それを私に指定通り支払う旨の公正証書を
作る事を約束させます。書類を用意させることにより重圧を与えた
いのです。

「一つ聞いておこう。テレビ電話の録画で妻を脅していたそうだな」
「今はどうか知らないが、俺の携帯にはそんな録画機能はついていない。
見て楽しんでいると言ったのはその場の成り行きだ」
「しかしお前はそれで妻を脅した」

念の為、妻専用の携帯を処分させます。

「お前に言っておくことが一つある。先日、佳子さんに会わせても
らった。お前は酷い男だな、あんないい奥さんがありながら馬鹿な
事をしたもんだ」
「・・・・・」

「書類は金曜日までに用意しておけ。取りに来る」

佐伯と妻の携帯は同じものです。携帯の取説を読みますと確かにテ
レビ電話の録画機能はついていません。出力端子も付いていませ
ん。携帯ショップでも確認します。テレビ電話の内容を保存出きる
携帯は存在していない事を知ります。

妻の不安材料が一つなくなります。
  1. 2014/08/14(木) 00:35:15|
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水遣り 第63回

家に戻り妻に事の顛末を話します。

「良かったな。お前を500万で買ってくれるそうだ」

最後にはこんな言葉しか出てこないのです。

「500万入ったら、全てお前にくれてやるから、出て行ってくれ」
「いやっ、出て行きたくない。そんなお金なんか欲しくない」
「お前の体で稼いだ金だ。一回あたり10万だ。高級売春婦でも稼げないぞ」
「・・・・・」
「それから、携帯の事で言っておこう。お前たちの携帯にはテレビ
電話の録画保存の機能はついていない。お前は取説を見なかったのか」
「見ました。でも他に方法があるかも知れないと思うと」
「抱かれる言い訳を自分で作ったわけだ」
「違います」

「何故、携帯を壊した」
「私の携帯にも残っているかも知れないと思いました」
「兎に角そう言うものはなかった。残念だな。お前が善がるところ
を俺も見たかったよ」

妻を甚振る言葉しか出てこないのです。妻が出て行く事はない、そ
う思っています。私は卑怯な男です。妻と今後どうするのか、考え
ていてもそんな話は出来そうにありません。妻の顔を見れば甚振り
手を上げてしまう。このままでは二人共壊れてしまう。私は決心を
します。短期滞在型のアパートを借りる事にします。市役所からは
離婚届けの用紙を貰ってきます。

「洋子、俺はアパートを借りた。暫くそこで暮らす」
「いや、行かないで下さい。一緒に居て下さい」
「それから、これは離婚届けの用紙だ。俺の名前はまだ書いていな
いが、お前が書いたら俺も書く」

本当に卑怯な男です。こんな大事な事まで、弱い妻に預けてしまう
のです、自分で結論を出せないのです。 ”許してください、出て
行きたくない。貴方を愛している”と何度も何度も言わせたいのです。

泣いている妻の声を背中にして、その日の内に身の回りのものを纏
めアパート暮らしが始まります。一人になった妻が何をしているの
か、気にならないわけがありません。気にしていても家を覗く事も出来ません。

同日、山岡さんと会います。

「宮下さん、その後どうだね?」

先ず、佐伯との事を話します。2通の書類を見せます。

「君らしいな。それで金はいつ用意させるんだね?」
「妻と決着をつけてからです」
「うーん、そうか。佐伯の金はなくなるぞ」

会社として佐伯の処遇が決定したのです。

「奥さんとはどうするんだね?」

アパートを借り、私がそこで仮暮らしをしている事を伝えます。

「良くないな。今が一番大事な時じゃないかね。別れるつもりな
ら、それでもいいんだろうが」
「それを決める為に別居したのです。一緒に居たのでは自分の気持
ちが見えてきません」
「それで決まったのかね」
「いいえ」
「一緒に居て、罵ってでも解る事もあるのではないかね」

自分の行動を他人に決めてもらおうとは思っていません。しかし、
所長の言う事はいちいち理にかなっています。

その後、所長から聞いた佐伯の処遇は私の想像を遥かに超えたものです。
  1. 2014/08/14(木) 00:36:25|
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水遣り 第64回

社長は出来るだけ穏便にすませようと思っていたらしいのです。と
ころが回りが反対します。血が繋がっているからそれだけ穏便にす
ませるのかと。回りから出た意見は取引先から供与された金は全額
返還、即時解雇、勿論専務の妹との結婚はなくなります。

穏便な処置に一番反対したのは専務です。自分の妹と将来の会社を
佐伯に託そうとしたのです。それだけ怒りが大きいのでしょう。

結局、落ち着いた処置は佐伯の住んでいるマンションを処分し会社
に入金する。佐伯の預金は掴みようがありません。預金は手をつけ
ない事になります。即時解雇したのでは今後佐伯の生きていく術が
なくなるだろうと、大阪の関連会社に職を与えます。肩書きの無い
平社員です。それが嫌なら勝手にしろと言う事です。

マンションが売れ次第、この処置が実行されるようです。それまで
に大阪に行くのかどうか決めろと言う事です。

この処置が私と妻にどう言う影響を与えるのかアパートに帰り考え
ています。

『奴は金がなくなる。一番の打撃は今、金を払わせる事だ』
『金が無くなれば、妻にもう連絡を取る事もないだろう』
『専務の妹とは結婚出来なくなってしまった。その上に金もなくなる』
『奴は自棄になるかも知れない』

自棄になった佐伯は妻にまた手を出してくるかも知れない、そんな
思いが頭をかすめます。まさか妻が受ける事はないだろう、妻が拒
否すればすむ事だ。結論を出します。

「佐伯、明日金を取りに行く。用意しておけ、5時半に行くからな」
「解った」

佐伯はすんなり答えます。佐伯は会社から自分の処置を聞いている
筈です。不思議な気持ちでその答えを聞いたのです。

明くる日、佐伯のマンションに行きますと、銀行の紙袋がテーブル
の上に置かれています。

「あんたも俺の処置を聞いただろう。200万しか用意できない、残
りの300万はこのマンションが売れてからだ」
「預金は手をつけられなかった筈だ。それにマンションの代金は全
額会社に取られるだろう」
「会社も慰謝料の件は了承してくれた。マンションの代金から払っ
ていいと、会社も経理も了解してくれた」

冗談ではありません。これでは佐伯と会社がいい子になってしまい
ます。この時間ならまだ会社に人が残っていると思い、電話をします。

受付が出て、経理に繋いでもらいます。

「宮下と申しますが、経理部長をお願いします」
「どう言うご用件でしょうか?部長はもう帰宅させて頂きました」
「慰謝料の300万、佐伯のマンションの代金から払って頂く必要は
ありません」
「何の事を言われているのか、解りかねますが」

電話に出た職員の方にはあずかり知らぬ事でしょう。

「とにかく経理部長にでも、役員の方にでも、そうお伝え下さい」
「ちょっとお待ち下さい」

その職員の返事を待たず電話を置きます。
  1. 2014/08/14(木) 00:37:34|
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水遣り 第65回

佐伯は私の行動に唖然としています。

「佐伯、そう言う事だ。お前の会社からのお情けは要らない」
「しかし、俺には払える金がない。あんたも知っている通り大阪の
平社員か、さもなくば職なしだ」
「俺の知った事ではない。お前から払ってもらう」

私は公正証書のコピーに200万本日受領した旨を書き、押印して佐
伯に投げつけます。

「お前が何処で働こうとも追いかけて行く。給料から天引きにしてでもな」
「解ったよ。好きなようにするんだな。俺にはもう失うものは何もない」

佐伯は開き直ったようです。

「俺と洋子の事を聞きたくないか」
「洋子と言うなと言っただろ。それにそんな物は聞きたくない」
「じゃあ、俺が勝手に喋ろう。あんたは実にへただったんだな」
「うるさい」
「洋子のオマンコは新品みたいだったよ、あんたが20年も使ってもな」
「・・・・・」

「前から俺の事を好きだったんじゃないか。最初の飯でもう釣れた」

「クリトリスなんか凄い感じ方だ、ちょっと擦っただけで直ぐいっ
てしまう。チンポも最初は舐め方さえ知らなかったが、ちょっと仕
込むと涎を垂らして咥えてきたぞ。ザーメンも美味そうに飲んだしな」
「うるさい、黙れ。薬まで使いやがって」

もう聞いてはいられません。思わず佐伯の腹に拳を打ち込みます。
拳を打ち込まれた佐伯の腹よりも私の胸の方が痛いのです。

「お前とはもう終わった事だ」
「離婚するのか?」
「お前には関係ない」

200万をポケットに仕舞い、踵を返して帰ります。

アパートに帰り考えます。自棄になるかも知れない佐伯と、そして
医者の言葉が浮かびます。”妻は少しのきっかけで性衝動が起こ
る”、それと自棄になった佐伯を組み合わせれば。私は賭けに出る
事にしました。暫く家には戻らない。佐伯の誘いに妻がのるような
ら、それまでです。潔く離婚しよう。拒否すれば、長い時間がかか
るかも知れませんが、妻を受け入れてみようと。

妻の居る家に向かいます。

妻はキッチンに居ました。夕食の用意をしているようです。

「あっ、貴方お帰りなさい」

見ると二人分の量です。

「毎日作っているのか?」
「はい」
「俺の分は作らなくていい。ここでは食べないと言ってあるだろ」

妻の心情を解らなければいけないのでしょう。それが私には出来ません。

「佐伯の200万だ。俺は要らない。お前が稼いだ金だ、お前が使え」

駄目です。話合おうと思って来ても、妻の顔を見ると出てくる言葉
は別のものです。金はテーブルの上に放り投げられたままです。

「会社はどうした?」
「もう行けません。退職願を郵送しておきました」
「そうだな、佐伯も居なくなるし、言ってもしょうがないからな」
「違います。私の居場所はもうありません」
「お前がした事だ」

「俺は暫く戻らない。このままアパートで暮らす。朝と夜は一度此
処に寄る。昼も家の電話で確認する。買い物に行く時は携帯に電話
する。見張る必要があるからな」
「酷い。見張るだなんて」

行かないで下さいと泣く妻を背にアパートに戻ります。賭けに出
る、きれいな事を言っておきながら、妻を前にするとこのざまです。醜い男です。
  1. 2014/08/14(木) 00:46:20|
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水遣り 第66回

それから毎日、朝、夜家にに寄り妻が居る事を確認します。昼の電
話にも妻が出ます。電話の向こうから妻が何か言いたそうにしてい
る雰囲気が伝わりますが、私は無視しています。夜家に寄れば、妻
の顔は私に何かを訴えています。私は妻に声を掛けません、一瞥す
るだけで直ぐ家を後にします。妻が居る事を確認するだけなのです。

7日目の時の事です。夜9時に家に寄りますと灯りはついています
が、妻が居ません。しかし妻の車は車庫にあります。歩いて行ける
ところへ言ったのか。佐伯のマンションまで女の足で歩けば40分ほ
どかかります。夜遅くに歩いて行くのも考えられない。暫く待って
も帰ってこないのです。

『何か用事か、それとも佐伯のところか?』

妻の携帯に電話します。電源が切られています。

『間違い無い。佐伯のところだ』

佐伯のマンションの売却は決まりましたが、引渡しが済んでいない
為佐伯はまだマンションに居住しています。電話しようと思えば出
来ます、行こうと思えばいけます。只、このマンションはセキュリ
ティーの厳しいのです。私が佐伯の部屋まで辿り付けるとは思えま
せん。佐伯に電話をしても本当の事を言うとは思えません。やはり
待つしかないのです。12時まで待つ事にします。12時を過ぎれば私
はアパートに引き返す事にします。そのまま離婚しようと考えます。

では12時前に帰ってきたら、どうするのか?妻が何時に家を出たの
か解りませんが、佐伯のところへ言ったのだとすれば、今はもう11
時です。タクシーを利用していれば、抱かれる為の時間は充分あり
ます。その時はどうすればいいのか、やはり離婚か?

『やはり駄目か。妻はそう言う女だったんだ』

キッチンを眺めます。炊飯器が目に留まります。炊き上がってから
の経過時間が2時間を示しています。タイマーを使っていなけれ
ば、炊き上がるまで50分かかるとして、3時間前には家を出たこと
になります。歩いていっても抱かれる時間はある事になります。

なにか痕跡はないかと、リビングを眺め回します。サイドボードの
上に200万が入った銀行の封筒が置かれています。いつもなら妻は
こんな大金をこんな場所に置いておく事はありません。手に取りま
すと、その中には金と共に小さな封筒が入っていました。

その封筒の中には離婚届けが入っています。妻の署名と捺印がして
あります。離婚届の他にメモがあります。
  1. 2014/08/14(木) 00:47:33|
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水遣り 第67回

(佐伯が今日来ました。もし帰らない時は、この離婚届けを・・・・)

離婚届けを、のその後は書かれていません。文字は涙に滲んでいました。

『妻に何があったのだ。佐伯の部屋に何があっても行かなくてはならない』

私が玄関を飛び出したその時です。家の前に車が停まります。タク
シーです。妻が帰ってきたのです。顔は蒼白、髪が乱れ、ブラウス
のボタンが2つありません。しかし、その表情には曇りがありません。

「こんな時間まで、何をしていた」
「佐伯のマンションに行きました」
「どうして携帯の電源を切っていた。また部長様に言われたのか」
「いいえ、決めたのです。終わるまでは電話を受けないと」
「終わるまで?佐伯に抱いてもらうのが終わるまでか」
「・・・・・」
「見てやる、こっちへ来い」

スカートとショーツを一気に脱がせます。足を割り女陰を見ます。
若干濡れてはいますが、男根を受け入れた形跡は無いようです。太
腿には大きな絆創膏が貼られています。

「してはいないようだな。しかしこの傷はどうしたんだ」

妻はこれには答えません。

「貴方が出て行ってから、佐伯から毎日、何回も電話がありました」

佐伯は私の会社帰りの後をつけ、私がアパート暮らしをしている事
を知ったようです。携帯にも何度も何度も電話があったのです。勿
論妻は出ません。家の電話にも佐伯はかけてきます。

「貴方からの電話かも知れないと思うと、出ないわけにはいきませんでした」

抱いてやるから来い、一人暮らしで体が疼いているだろう、慰めて
やるから来い、大阪へ一緒に行こう。佐伯は執拗に誘っていたのです。

「断り続けました」

妻が断り続けていた為、車を乗りつけ家に来るようになったので
す。俺を家の中に入れろと繰返し言っていたのです。聞き入れられ
ないとクラクションを何度も何度も鳴らすのです。

「私、怖かった」

妻は夜になるのが怖かったのです。佐伯に何をされるか解らない、
近所にも知れてしまう。そんな事を私は考えていました。それもあ
るのでしょうが、妻の言った怖いの意味は別のところにあったのです。
  1. 2014/08/14(木) 00:48:38|
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水遣り 第68回

佐伯の訪問は何度か繰り返されます。その内妻は耐えられなくなっ
てしまいます。

「今度来たら、マンションへ行こうと決めました」

家に上げる事は絶対に出来ない。そう思ったのです。

「一人になって考えるのは貴方の事ばかりです。貴方を愛してい
た、今でも愛している。それなのに」

妻は独り言のように喋ります。

「正社員のお祝いで食事を頂いた時、帰りにリムジンで送られた
時、私は夢見心地でした。こんなにまでして頂いてと」
「そこで、お前はもう許してしまった」
「抱かれはしてません。でも同じ事ですね」

「期待があったのかも知れません」
「薬を使われた」
「薬のせいだけではありません。私にも原因があったのだと思います」

私の性技だけでは満足していなかったのです。色々なメディアで知
った性の喜び、自分の体で知りたかったのです。自分の性欲の強さ
に気づき驚いたのです。

「貴方に試して欲しいと何度も言おうと思った、でも言えなかった」

妻は私と同じだったのです。同じ思いを抱いていたのです。

「佐伯はきっかけでした。佐伯でなくても同じだったかも知れません」

「佐伯に何度誘われても、最後までは許せませんでした」

「貴方の事を思うのです。最後までは出来ないと」
「同じ事だろう。最後まで行こうが行くまいが」
「違います。女にとっては大きな違いです。それを許すと心まで
預ける事になってしまいます」
「お前は心まで預けてしまったと言うのだな」
「解りません。でも違うと思います」
「今、お前が言ったじゃないか、体を許す事は心を預ける事だと」
「そうですね。佐伯が特別な存在だと思ったのかも知れません」
「お前の言う事は全て矛盾している。さっき佐伯でなくともと言っただろう」
「解りません、私の体が・・・」

本当のところは妻自身にも解らないのでしょう。後から言う事は全
て理屈です、言い訳です。起きてしまった事に気がついた時に考え
る言い訳なのです。
  1. 2014/08/14(木) 00:49:43|
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水遣り 第69回

「写真で私の中の鍵が外れてしまったのです」
「嘘の写真でな。どうして俺に聞かなかった」
「聞くべきだったと思います。でもあの時は聞こうとは思いませんでした」
「いい言い訳が出来たわけだ」
「違います。でもそうかも知れません」
「はっきり言ったらどうなんだ、これで佐伯に抱いてもらえると」
「多分・・・・」
「多分、何なんだ」
「自分を許すものが欲しかったのです」
「結局、お前は抱かれたかったと言うことだ」

性に積極的ではなかった私、自分の性欲に気づいた妻。妻は自分の
欲求をぶつける相手を私ではなく佐伯を選んでしまったのです。そ
れから4ヶ月余りも続いてしまったのです。

「4ヶ月間、たっぷり楽しんだと言うわけだ」
「苦しんでもいました。夜眠れませんでした」

眠れなくなった妻は睡眠誘導剤を処方してもらったのです。

「白々しい事を言うな。ばれなければ、もっと続けるつもりだった
んだろこの写真を見ろ。これが苦しんでいる顔か。心を預けた顔だ」

報告書の写真をぶつけます。

「心を預けていた?私、そんな顔をしていたのですね。長い間、不
倫をしていても、貴方は何も言ってくれなかった。気がついている
のに、何も言ってくれないのだと、もう私には関心がないのだと、
そう思っていました」
「勝手な事を言うな。俺は気がついていなかった。証拠もないのに
聞けるわけがないだろ」
「あの時、貴方が大阪に来てくれた時、ほっとしました、これで終
われると。嬉しかった、まだ貴方に気にかけて頂いていると」

これで終われるとほっとした妻も、後で録画の事を思い出します。
もし佐伯にそれをばら撒かれても、その時は私と別れて、何処か別
の土地で暮らそうと思ったのです。

「それで、もう会社には居場所が無いと言ったのか」
「そうかも知れません」
「会社は辞めても、この家からは出て行かなかった」
「初めは別れて頂こうと思いました。でもやっぱり貴方の傍に居た
かった。メールされても、貴方が許して下さるなら、貴方と暮らしたかった」
「自分の都合ばかり言ってるな、お前は。俺の事など何も考えてない」

此処まで話しても妻は涙を見せません。妻の決心が本当なら、妻も
それ相応に覚悟を決めた事になります。しかし、妻の言っている事
は自分に都合のいい事ばかりです。不倫している妻に気がついて責
めて欲しかった。後になって言える事です。録画の件も、それは存
在しないと解ったから言える事です。私にはそんな風に思えるのです。

「綺麗事言っているが、今日また佐伯に抱かれたわけだ、お前の体
が疼いてな」
「違います。抱かれてなんかいません」

抱かれていない事は妻の体を見て解っています。それでも私は言わ
ずにはいられないのです。

「どうして行ったんだ」
「一度は会わなくては、決別の為に一度はと思っていました」

あれだけの快楽を与えてくれた佐伯です。会えばまた抱いて欲しく
なるに決まっている、私はそう思っていました。妻の思いは逆だっ
たのです。佐伯と会っても自分の気持ちは変わらない、その確信が
欲しかったのです。

佐伯が来る前に離婚届に名を書き印を押します。メモを書きます
が、離婚届をの後には文字が続きません。

「どうして離婚届けを書いた」
「もし佐伯に抱かれたら私はそれまでの女です。もう貴方の元には帰れません」
  1. 2014/08/14(木) 00:50:46|
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水遣り 第70回

佐伯が来て、妻は佐伯の車に乗ります。バッグにはある物をしのば
せています。

「ご亭主には抱かれているのか」
「・・・・・」
「そうか、ご亭主とは別居だな。自分で慰めていたのか?淫乱な洋
子は我慢出来ないからな」
「そんなそんな事していません」

車の中での佐伯の言葉はそれ一点に集中しています。信号で停まる
と妻の乳房、太腿を撫ぜようとしますが、妻はその手を払います。

「そうか、洋子も久しぶりで恥ずかしいのか」
「・・・・・」
「マンションに着いたらたっぷり可愛がってやるからな」

マンションに着き、部屋に入ると佐伯はいきなり妻を押し倒しま
す。ブラウスを強引に脱がせます。ボタンが2つ外れます。ブラを
取り乳房を引き出します。

「やめて下さい。私はこんな事しに来たのではありません」

佐伯は聞いていません。スカートを脱がせにかかります。男の力に
は適いません。ショーツ一枚になり、妻の裸身が晒されます。佐伯
もトランクス一枚です。

「ほう、今日はオバサンパンツか。俺に抱かれたくないのか」
「抱かれたくなんかありません」
「今にたまらなくさせてやる」

佐伯は口づけしようとします。妻は顔を背け、口を硬く結びます。
佐伯は舌でこじ開けようとしても、妻の口の中には届きません。そ
れでも佐伯の手は執拗に妻の乳房を、女陰を捉えようとしていま
す。妻は手で足でそれを払いのけるのです。

「もうやめて」

もみあいが暫く続きます。力が尽きた妻の抵抗も力がなくなってし
まいます。佐伯はショーツごしに女陰を揉みしだきます。足を羽交
い絞めにして女陰の匂いを嗅いでいます。

「洋子のここはいつもいい匂いだな」

暫く、唇での責めが続きます。妻の足を自分の足で押さえ、また手
で甚振ります。

妻は私が佐伯の股間を蹴り上げた事を思い出します。足は佐伯の
足で押さえられ自由になりません。手で思い切り男根を掴みます。

「えっ」

妻は驚くのです。佐伯の男根には力がありません。

佐伯は勘違いするのです。妻の手が許したしるしだと。

「洋子も我慢が出来なくなったか。ほらパンツを脱がしてやるからな」

数十分にも及ぶ佐伯の責めで妻も感じ始めていました。

「こんなに濡れてるぞ。なにが、もうやめてだ」

佐伯はショーツを脱がそうと、その時です。妻は頭の横にあるバッ
グの中からある物を取り出し、自分の太腿に突き立てるのです。あ
る物は鋏だったのです。鋏は妻の太腿の皮を破り肉に突き刺さり、
血が流れ出てきます。

佐伯もさすがに驚き、行為を諦めるのです。部屋にある塗り薬と絆
創膏を妻に渡します。妻はそれで傷の手当をします。佐伯は茫然と
眺めています。

「悪かった、もうしない」
「・・・・・」
「俺は来週から大阪の平社員だ。洋子ともう一度だけでもと思った」

脱がされた服を身につけながら、妻はそれを聞いています。

「さっき解っただろう。俺はご主人に蹴られてから駄目になった」
「・・・・・」
「洋子となら出来ると思った。しかし・・・」

「俺と居た時は楽しかったと言ってくれ、良かったと言ってくれ」
「言えません」

打ちひしがれた佐伯を後に妻は帰って来たのです。
  1. 2014/08/14(木) 00:51:56|
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水遣り 最終回

自分の気持ちを確かめる為とは言え、妻は大芝居を打ったのです。
私への贖罪とこれからの貞節の印を刻んだのです。思えば睡眠誘導
剤を飲んだ時からその芝居が始まっていたのかも知れません。

私は妻の膝元に歩み寄ります。

「傷を見せなさい」

絆創膏を剥がしますと、固まった血糊の薄皮も剥がれます。そこか
らまた血が流れ出るのです。それは妻の血の思いの涙なのです。私
は思わず妻の血を舐めます、流れ出る血を吸い取るのです。私の首
筋に熱いものが落ちてきます。見上げますと妻は泣いています。

「有難う、貴方」

許したわけではありません。妻の心情を思うと、せめて血を舐めて
あげたかったのです。しかし、抱きしめる事は出来ません。

「今日はこれで戻る。明日朝また来る」

このまま家に居た方がいいのかも知れません。しかし、過去の事、
今日の事、もう一度アパートで考える事にします。

許そうと思っても、浮かんでくるのは10月17日の妻の痴態、変わっ
てしまった妻の女陰、着けていた下着。そこから連想できる佐伯と
の絡み。打ち消しても打ち消しても出てきます。佐伯のものが機能
を果たしていても、妻は受け入れなかっただろうか?佐伯はもう来
週には大阪へ発ちます。しかし佐伯が居なくなっても、あれだけ変
わってしまった妻は他に男を求めないだろうか?きっかけがあれば
又、他の男に走ってしまうのでは?

ふと自分の気持ちに気がつきます。妻との別れを考えていないので
す。妻と暮らした場合の心配事ばかり考えています。娘の明子の事
もあります。明子は私たち夫婦の出来事は知りません。このまま知
らせずに済ませたい。夫婦の過去20余年の暮らしがあります。共に
笑いもし、泣きもしました。破産しても愚痴一つ言わず一緒に頑張
ってくれました。

明くる朝、6時に目が覚めました。そのまま妻の居る家に向かいま
す。6時半、家に着きます。

『洋子はまだ寝ているかも知れないな』

家には入らず、庭の花を眺めています。何やらクリスマスローズも
元気がありません。妻も暫く忘れていたのでしょうか。軒先にある
水撒きで水をやります。

妻が自転車で帰ってきます。籠にはパン屋のレジ袋が入っていま
す。近所に朝早くから開いているパン屋さんがあるのです。出来立
てのパンの香りが漂っています。私の腹の虫もグゥと鳴いています。

「貴方、水遣りして頂いているのですか」
「ああ、何にでも水遣りは必要だ」

これから妻を許せる日が来るのか、妻の痴態はいつ消えるのか?今
の私には解りません。解らないまま別れるより、解らなくとも一緒
に暮らす事を選びました。正しい選択であったどうかは、妻が答え
てくれると思っています。アパートを解約し、家での妻との暮らし
が再開されました。

読んで頂いた皆様へ

長い間、有難う御座いました。皆様のご感想で、どれ程励まされた
事か。私の勇気になりました。妻と別れずにすんだのも、皆様のご
感想が一助になっていると思います。

管理人様へ

長い間、紙面をお借りしました。有難う御座いました。
  1. 2014/08/14(木) 00:53:58|
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水遣り(後書き)

この後、間をおかず松下さんが田舎での結婚を理由に会社をお辞め
になりました。喜ばしい事ですが、少し胸に痛いものが残ります。
小さな会社です、引継ぎが必要なものは殆どありませんが、松下さ
んはきちんと引継ぎノートを作ってくれました。松下さんがお辞め
になった後、妻は私の会社を手伝っています。朝から晩まで一緒で
す。私の心配が一つ減りました。

松下さんは私たち夫婦の為に道を開けてくれたのだと思います。ご
結婚式には夫婦揃ってお祝いさせて下さい。どうぞ幸せなご結婚
を。只、松下さんからの結婚式の招待状はまだ届いていません。

私はまだしらふで妻を抱くことは出来ません、酒の力を借りていま
す。酒で佐伯の幻影を消しているのです。酒は最高の媚薬と申しま
す。しらふで抱けるようになるまで酒の力を借りる事にしました。

先日、佐伯の会社の社長が、何がしかの金銭を持って我が家を訪れ
ました。甥が大変な不祥事を起こし申し訳ないと、ついてはこの事
は口外しないで頂きたいと。私たち夫婦の恥を何を好き好んで口外
するでしょうか。

ジャングルジム様が仰っていました。こんな酷い話にこんな優しい
タイトル”水遣り”をと。妻がよく、”水遣りを一生懸命するか
ら、きれいなお花を咲かせてね”と言っていました。

妻と別れる事になれば、妻に水遣りをしなかった私のせいに、別れ
なければ、これからは妻にも水遣りをしてあげようと、書き始めに
決めていました。

長い間有難う御座いました。
  1. 2014/08/14(木) 00:55:17|
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